宣伝広告費の負担を寄付金として認定

 

 

各法人税更正処分取消等請求控訴事件

 

 

【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成24年(行コ)第68号

 

【判決日付】 平成24年11月29日

 

【判示事項】 眼科診療所を経営する控訴人(医療法人)が,眼鏡等の販売をする関連法人Aの広告宣伝費を負担し,全額を損金額に算入する確定申告をし,処分行政庁から,法人税の更正及び重加算税賦課決定を受け,その取消訴訟で,原審が請求を棄却したのに対し,控訴した事案。控訴審は,本件広告宣伝は,専らA社が,同社が販売,提供する商品,サービスの優越性を訴えるために行った広告宣伝と認められ,控訴人主張の共同広告の対価として負担したものとは認められず,宣伝広告費の負担は,グループ法人間の利益調整を目的として,控訴人からA社に対し対価なくして譲渡又は供与されたものと認められるとし,控訴を棄却した事例

 

【掲載誌】  税務訴訟資料262号順号12101

 

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 処分行政庁が控訴人の平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度の法人税について平成19年10月30日付けでした更正及び重加算税賦課決定(ただし,平成21年4月3日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額4223万9338円,納付すべき税額1203万0600円,過少申告加算税の額に相当する4万7000円を超える部分を取り消す。

 3 処分行政庁が控訴人の平成16年4月1日から平成17年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税について平成19年10月30日付けでした更正及び重加算税賦課決定(ただし,平成21年4月3日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,消費税の納付すべき税額299万3100円,地方消費税の納付すべき譲渡割額74万8200円,過少申告加算税の額に相当する1万7000円を超える部分を取り消す。

 4 処分行政庁が控訴人の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税について平成19年10月30日付けでした更正(ただし,平成23年2月25日付け更正により一部取り消された後のもの)及び重加算税賦課決定(ただし,平成21年4月3日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,消費税の納付すべき税額128万2900円,地方消費税の納付すべき譲渡割額32万0700円,過小申告加算税の額に相当する1万6000円を超える部分を取り消す。

 5 処分行政庁が控訴人の平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度の法人税について平成21年10月27日付けでした更正及び過小申告加算税賦課決定のうち,所得金額4735万2462円,納付すべき税額1354万7900円,過小申告加算税10万2000円を超える部分を取り消す。

 6 処分行政庁が控訴人の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の法人税について平成21年10月27日付けでした更正及び過小申告加算税賦課決定(ただし,いずれも平成22年12月17日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,所得金額4791万3282円,納付すべき税額1372万9800円,過小申告加算税18万1000円を超える部分を取り消す。

 7 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

 

 

第2 事案の概要等

 1 事案の概要,法令の定め,前提事実,争点及び当事者の主張の要旨は,次項において当審における控訴人の補充主張を付加し,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「第2 事案の概要」(3頁7行目から34頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,引用文中「別紙」とあるのは「原判決別紙」と読み替えるものとする(以下,同じ。)。

  (1) 4頁5行目の次に改行のうえ,次のとおり加える。

   「原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。

    控訴人は,これを不服として本件控訴をした。」

  (2) 8頁8行目及び10行目の「○○」を「○○」に,25行目の「乙13」を「乙12,13」にそれぞれ改める。

  (3) 10頁16行目の「法人税法施行令」の次に「(平成22年政令第51号による改正前のもの)」を加える。

  (4) 11頁6行目の「6206」を「6205」に改める。

  (5) 25頁10行目の「○○」を「○○」に改める。

  (6) 32頁18行目の「(この点は,本来」から25行目の「整理するものである。)」を削る。

 

 

 2 当審における控訴人の補充主張及び被控訴人の反論

  (1) 控訴人の補充主張

   ア 本件広告宣伝費は,対価性のある費用としての支出である。A社でコンタクトを購入する者の約90%以上,眼鏡を購入する者の約80%以上が控訴人の眼科診療所で検査を受けているのであるから,A社の利用者が増加すると控訴人の収益が増加するというのは客観的事実であって,控訴人が,本件広告宣伝費用を負担することは,控訴人自身の売上増加に直結する支出であるから,営業経費に該当する。

   イ 原判決が本件広告宣伝を控訴人の広告宣伝ということができないと判断したのは,医療広告の特性(診療科目と場所が特定されておれば,医院の名前がなくてもよいこと,地元の人向けを対象としたものであること)や,コンタクトレンズ等購入者の行動への認識(コンタクトレンズ購入の際の配慮事項は,処方箋の取得である。)を誤ったものである。

     また,その支出に費用性が認められる広告宣伝といえるためには,①広告主の主観的意図,②広告の内容,③広告を見た受け手の認識の3点を総合的かつ客観的に判断するべきであるのに,原判決は,②の広告の内容に関する事実のみしか取り上げて判断していない。本件について,具体的に当てはめを行うと次のとおりである。

    ① 控訴人の主観的意図

      控訴人は,コンタクトレンズ等の利用者の目を守るために「眼科専門医の属する眼科診療所を擁する医療法人が,自ら主導する形で,同眼科診療所の隣に,医療法人グループのコンタクトレンズ販売店を設置する。」という共同事業の経営モデルを導入した。そして,同経営モデルを実効あらしめるために,控訴人の眼科診療所とA社の店舗の双方が利用されるよう広告の文言中に「日本眼科医会の認定資格に合格した…眼科専門医が勤務し,指導している検査・治療体制の整った眼科医院に隣接」等の文言を本件広告宣伝に含めたのである。

      通常,広告宣伝費率(=売上高に対する広告宣伝費の比率)は,小売業で1~3%といわれている(甲89,90)。コンタクトレンズ小売りの超大手で広告宣伝費率が高い株式会社B(年商約170億円)でさえも,その広告宣伝費率は8%程度である(甲91)。

      これに対し,本件広告宣伝に関する費用をA社(年商10~20億円程度)が一社で負担すると,その広告宣伝費率は,平成16年3月期で約8%,平成17年3月期で約5%,平成18年3月期で約6%となる。すなわち,控訴人とA社は,両者で本件広告宣伝の費用を分担することにより,A社が単独で行うよりも,分量の多い広告宣伝の実施を実現したのである。

    ② 本件広告宣伝の内容

      医療機関は,通常は,地域密着型の経営を行っているものであり,広告の頒布も医院の所在する地元で行われるものであるから,これらの地域の者が見たときに,あの場所にあの診療科目の医院があったと知らしめることができれば足り,医院の名称,住所又は電話番号まで提示する必要はなく,また,A社の店舗及び控訴人医院は,いずれも地元の駅から徒歩で3分ないし4分の地元の者ならば誰もが土地勘を有している圏内に所在しており,本件広告宣伝は,これらの者を対象に行われるものである。そして,本件広告宣伝は,A社の店舗の地図,当該店舗の名称及び店舗の住所とともに,「隣接する眼科医院」「眼科クリニック同一フロア」などと記載しており,本件広告宣伝を受け取った者は,これらの記載から,控訴人医院の存在する場所とその医院の診療科目が眼科であることを知ることができる。また,「眼科専門医が勤務し,指導している検査・治療体制の整った眼科医院に隣接」「眼科での診察で,眼の健康チェックと病気(糖尿病・高血圧・動脈硬化・網膜剥離・ドライアイ・花粉症・緑内障・白内障・アレルギー・疲れ目等)の早期発見ができ,眼に関する悩みの相談もできます」(甲18号証の5,甲19号証の4,甲18号証の6)の記載からは,処方箋発行をしてくれる控訴人医院の存在とその医院の良質性を覚知することができる。

      したがって,本件広告宣伝は,控訴人自身の医療広告としての機能を備えている。

    ③ 広告を見た受け手の認識

      控訴人は,各広告媒体の広告効果を調べるため,新規の来院患者に対し,来院時にアンケートの記入を求めてきた。アンケートに対する回答として「新聞の折込チラシ」に丸を付した者が存在すること(甲55)は,本件広告宣伝を見て控訴人に来院した者がいることを示すものであり,本件広告宣伝は,広告の受け手にとっても,控訴人の広告と認識されているものである。

   ウ 原判決が,利益調整目的という主観的要素を認定し,この目的が存在することを理由に本件広告宣伝に係る支出の対価性を否定し,これを寄附金と認定したことは,寄附金の解釈を誤るものである。法人税法37条8項が低価取引の場合に対価性の有無を検討することを要求している趣旨に照らすと,利益調整目的という主観的要素により,対価性という客観的要素の有無を決することを法人税法は予定していないというべきである。裁判例においても,例えば,浦和地裁平成8年(行ウ)第30号平成11年5月31日判決(甲81)は,支払った利息が利益調整目的があることを認定したうえ,その支払った利息全体のうち,適正利率を上回る分のみを寄附金と認定している。

   エ そもそも,本件広告宣伝に係る支出は,利益調整目的で行われたものではない。このことは,控訴人が本件広告宣伝を控訴人自身の広告と考えて,アンケート等により広告媒体の広告効果を測定していたこと,控訴人が本件広告宣伝に係る支出を毎月計上していた(平成18年3月期につき乙26)こと,平成17年3月期においても,期末以外でも本件広告宣伝に係る支出の計上を行っていたこと(控訴人の支出目的が利益調整目的であるのならば,このような計上はせず,年度末に一括計上すれば足りたはずである。)からも明らかである。

     控訴人代表者の質問応答書(乙12)及びC課長代理の聴取書(乙15)は,税務署の職員が鉛筆で作成したものに読み聞かせを行い,供述者に内容の了解をとった後,コピーをとり,署名押印を求めることにより作成されたものであるが,鉛筆書は消しゴムで容易に修正することができ,また,聴取場所とは別の場所にあるコピー機でコピーする段階でも改ざんされるおそれがある。このような方法で作成された書面には,形式的証拠力を認めるべきではない。また,D調査官の陳述書(乙39,乙42)中には,C課長代理が「A社の広告宣伝費が多額になっており,そのままA社の経費として計上すると,A社が赤字になってしまうので,控訴人も広告宣伝費を負担して均等に利益が出るようにしています」等と供述した旨の陳述部分があるが,同陳述部分は,課税の根拠となる極めて重要な内容であるのに,調査段階で作成された乙15の聴取書には一切記載されておらず,本件訴訟が提起されてから作成された乙39及び乙42の各陳述書の信用性は極めて疑わしいというべきである。

  (2) 被控訴人の反論

   ア 本件広告宣伝費は,Eグループ内の利益調整によるものと認められるから,対価性はなく,寄附金に該当することは明らかである。仮に,控訴人が主張するとおり,A社でコンタクト等を購入する者が増加すると,確実に控訴人の眼科診療所の収益が増加するという関係が存するとしても,それは,本件広告宣伝による直接的な効果ではなく,控訴人の眼科診療所がA社の店舗の近くにあったことによる結果にすぎず,そのような間接的な効果を内容とする本件広告宣伝費には,控訴人の広告宣伝としての役務の提供に対する対価としての対価性があるとは認められない。

   イ 控訴人が主張するように,控訴人自身の売上増加をもたらすのが,A社の店舗においてコンタクトレンズ等を購入する者の数が増加することであれば,本件広告宣伝費は,結局,A社の店舗でコンタクトレンズ等を購入する者を増加させるための支出であるというほかはなく,このような本件広告宣伝費は,客観的にみて,控訴人の事業活動の存在又は控訴人が提供する医療サービスの優位性を訴える宣伝的効果を意図して行われる広告宣伝の役務の提供の対価であるとは認められない。

   ウ 本件広告宣伝費が,当初より,控訴人についての広告宣伝に係る役務の提供に対する対価というのであれば,控訴人とA社とは別法人であるから,その広告宣伝費について合理的な基準を定めた契約書を作成するなど事前の取決めが存在してしかるべきであるが,そのような取決めがされていたことを根拠付ける合理的な立証はされておらず,控訴人が本件広告宣伝費を負担することについて,経済取引として是認することができる合理的理由を欠くものである。

   エ 本件広告宣伝の記載を全体的にみると,A社が販売するメガネとコンタクトレンズの宣伝が大部分を占め,その辺縁部にA社の名称,ホームページのURLやA社の優越性を訴える各種情報が記載されているものの,控訴人の名称等の記載はなく,客観的にみて,本件広告宣伝は,A社の名称等を特定した上で,A社の商品,サービスの内容及び利便性等を広告したものであり,A社の広告宣伝としか認められない。控訴人が本件広告宣伝において自らの広告宣伝であるとする記載は,本件広告宣伝のごく一部の記載にとどまり,控訴人自身や眼科診療所の名称が一切明示されていないから,その記載は,あくまで眼科診療所に隣接しているというA社の店舗の優位性を宣伝するものであるとしか認められず,控訴人の広告宣伝としてされたものとは認められない。仮に,控訴人が主張するとおり,「あの場所にあの診療科目を診てくれる医院がある」という情報が医療機関の広告として最優先されるのであれば,当該情報を最も的確に伝える最善の方法は名称,住所及び診療科目を目立つように記載することであって,本件広告宣伝のように名称,住所の記載がなく,A社の店舗に隣接する旨の記載をごく一部の場所に記載するのみでその情報を的確に伝えた広告宣伝と評価することはできない。本件広告宣伝は,情報誌,車内広告,新聞の折込チラシによって行われているところ,情報誌,車内広告については控訴人がいう地元民に限らず不特定多数の者を対象に行われており,新聞の折込チラシについても,折込エリア表(甲64の2枚目)によると,到底「地元」とはいえない広範囲に配布されているから,控訴人の主張はその前提を欠くものである。

     したがって,本件広告宣伝は,客観的にみて,その受け手である不特定多数の者に対し控訴人の眼科診療所の事業活動の存在や控訴人の眼科診療所の提供する医療サービスの優越性を訴える宣伝的効果を意図して行われたものではなく,あくまでA社が販売し又は提供する商品又はサービスの優位性を訴える宣伝的効果を有するものであり,控訴人の広告宣伝であるとは認められない。

   オ 本件広告宣伝費は,Eグループ内の利益調整である。控訴人は,毎月,広告宣伝費として計上していたと述べるが,平成17年3月期については平成16年9月30日に(乙21),平成18年3月期については平成18年1月31日に(乙26)に,それぞれ取消しの仕訳を行い,本件広告宣伝費を年度末に一括して計上し,平成19年3月期については,A社から控訴人に対して業務サポート料を負担させる経理処理を行っていた(乙13,乙14)のであるから,控訴人の主張は失当である。同族グループ法人間においては,経済人としての合理性や必要性を無視し,事後的に利益調整目的で恣意的な処理を行うことも可能であることから,その防止のため,同族グループ法人以外の第三者との取引の場合と同様に合理的な経済行為であるか否かが厳密に問われなければならないところ,本件において,控訴人が本件広告宣伝費を負担すること,控訴人がA社から業務サポート料の提供を受けることについて,事前の取決めがされていたことを証する書類が存在しないことをも勘案すれば,利益調整というほかはない。

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

 

 1 事実認定,争点1及び2についての判断は,以下のとおり付加訂正し,次項において当審における控訴人の補充主張に対する判断を加えるほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」の1から3まで(34頁5行目から58頁25行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

 

  (1) 37頁12行目の「被告は,」から20行目の「できない」までを「弁論の全趣旨によれば,平成17年5月以前においては,A社のF本店の付近には控訴人の眼科診療所は存在せず,A社と提携関係にあったG眼科があったにすぎないことが認められ,A社のF本店に顧客が来店することにより,控訴人の眼科診療所の売上が増加するという関係は認められない」に改める。

 

  (2) 44頁20・21行目の「別紙5」の次に「(ただし,平成18年3月期の広告宣伝費36,304,687円は,広告協力費を含む。)」を加える。

 

  (3) 56頁9・10行目の「本件口頭弁論期日」を「原審の第9回口頭弁論期日」に改める。

 

 

 

 

 2 当審における控訴人の補充主張に対する判断

 

  (1)ア 控訴人は,本件広告宣伝は,控訴人とA社との共同事業について行われた共同広告であって,A社のみならず,控訴人自身の広告でもあり,本件広告宣伝費の負担は,A社との取決めに基づいて行ったものであるから,対価性を有する支出であると重ねて主張する。

 

   イ(ア) 本件広告宣伝の具体的内容は,前記引用に係る原判決の「第3 当裁判所の判断」1(1)に認定したとおりである。

 

      これによれば,

 

本件宣伝広告は,記載の大部分が,A社の商品とその価格等の紹介に充てられているものであって,

 

不特定多数の者に対して当該広告主自身の事業活動の存在や事業活動の場所を知らしめようとする目的を有しているのであれば,

 

一般に記載され,目的達成のためにも効果的であると考えられる控訴人医院の名称や所在場所又は電話番号などの記載はない。

 

 

      また,本件広告宣伝において,「眼科」又は「眼科医院」という一般的な表現を用いた記載として,甲18のチラシには,

 

①「(2)日本眼科学会の認定資格に合格した,医療水準の高い眼科専門医が勤務し,指導している検査・治療体制の整った眼科医院に隣接しているので,便利でどこよりも安心です(3)コンタクトレンズ等医療用具は,眼科専門医の指導による診察と処方に基づき販売しております」,

 

②「眼科での診察で,眼の健康チェックと病気(糖尿病・高血圧・動脈硬化・網膜剥離・ドライアイ・花粉症・緑内障・白内障・アレルギー・疲れ目等)の早期発見ができ,眼に関する悩みの相談もできます」,

 

③「メガネコンタクトレンズは医療用具です。当店では眼科専門医の処方箋に基づき販売しております。コンタクトは装用時間・取扱い方法を守り正しくお使いください。指示された定期検査は必ずお受けください。少しでも異常を感じたら直ちに眼科専門医の検査を受けてください」,

 

④「日本眼科医会会員ではない,眼科医師としての研修を受けていない「非眼科医師」も増えていますのでご注意ください」,

 

⑤「眼科を受診される際には「健康保険証」をお持ちください」の各記載が存在し,

 

 

甲19のチラシには,上記③ないし⑤と同様の記載のほか,

 

⑥「多くの方の眼の健康と視力を守るため,眼科専門医の処方にもとづき,超一流有名・人気ブランドメガネと一流メーカーコンタクトレンズを全品毎日いつも一流のサービスと最高にお買得なA価格でお届けいたします」,

 

⑦「コンタクトレンズは,心臓ペースメーカーと同等の「高度管理医療機器」です。眼科専門医の指導による診察と処方に基づき販売しております」,

 

⑧「眼科クリニック同一フロア」の各記載が存在することが,それぞれ認められる。

 

 

 

    (イ) しかし,これらのうち,

 

①は「Aはここがちがいます!」との見出しの下に,

 

②は「Aで安心.1 眼の健康管理」の見出しの下に,

 

⑥は「AH店・I アーリーサマーセール」の見出しの下にそれぞれ存在するものであり,

 

⑧はA社の店舗の場所を示す記載の中において眼科クリニックとフロアが同じであることを示すものであって,これらは,いずれも,A社の店舗が自らのサービスや立地の優越性を訴える記載の中において現れているものである。

 

 

また,③及び⑦は,メガネとコンタクトレンズの販売店として,これらに関する一般的注意に係る記載にすぎず,

 

④及び⑤も,控訴人の眼科診療所を特定する記載のない本件広告宣伝においては,一般的注意を述べたものとしか受け取られない記載というべきである。

 

 

      以上のとおり,本件宣伝広告には,客観的にみて,控訴人の事業活動の存在や控訴人が提供する医療サービスの優越性を訴える宣伝的効果を意図したと認めることができる部分はなく,控訴人の主張の①ないし⑧の各記載も,専らA社の広告の一部にすぎないと認めるのが相当である。

 

 

    (ウ) これに対し,控訴人は,医療広告は,あの場所にあの診療科目の医院があったと提示できれば足りるものであり,地元の人を対象とした本件宣伝広告には,医院の名称や住所又は電話番号の記載がなくても,その目的は達することができると主張し,現に,控訴人の眼科診療所の来院者に対するアンケートの結果によれば,同診療所の来院者の中には「広告」を見て来たとする者が相当数存在すると主張する。

 

 

      しかし,本件宣伝広告には,客観的にみて,控訴人がその事業活動である眼科医院の存在やその場所を知らしめたり又は控訴人の眼科診療所の提供する医療サービスの優越性を訴えることを目的とした記載が存在すると認められないことは(イ)に述べたとおりであるから,たとえ,前記のチラシを読んだ者が,A社の店舗に隣接して眼科の診療所が存在することなどを認識し,控訴人の診療所へ来院することがあったとしても,A社の店舗が自らのサービスの優越性等を述べた広告宣伝の中で,隣接する場所に眼科の診療所があることを取り上げた結果にすぎないというべきであって,控訴人自身の広告の効果と評価することはできない。

 

 

   ウ(ア) ところで,控訴人は,本件広告宣伝はA社の店舗の顧客が増えれば,控訴人医院の利用者も増えるという関係にあることから,控訴人とA社が共同して行ったものであって,控訴人とA社との間には,各事業年度の1月末日までの粗利を基準に,控訴人の負担額にできるだけ近付くようにA社の広告宣伝取引の中から取引を抽出し,その抽出した取引の広告宣伝費の合計額をA社に振り替えるという方法で広告宣伝費を分担する旨の取決めがあり,控訴人は,その取決めに従って本件広告宣伝費を分担してきたと主張する。

 

 

    (イ) しかし,全く事業の形態及び内容を異にする控訴人とA社の間において,各事業年度の粗利の相対比を基準に広告宣伝費の分担額を決定し,その金額にできるだけ近づくようにA社の広告宣伝取引の中から取引を抽出し,抽出した取引の合計額を振り替えるという方法という控訴人主張の負担方法が,経済的に合理的な方法であるとはにわかに認め難いうえ,

 

控訴人とA社との間において,このような取決めの存在を裏付ける書類等は,当審においても,証拠として提出されていないこと,

 

本件広告宣伝には,客観的にみて,控訴人の事業活動の存在や控訴人が提供する医療サービスの優越性を訴える宣伝的効果を意図したと認めることができる部分が存在しないこと,

 

控訴人の平成15年3月期から平成19年3月期まで広告宣伝費全体に占める実際の負担額は,大きく変動しており,控訴人の上記主張に一致しないことに照らせば,

 

控訴人がA社との共同事業の取決めに従って本件広告宣伝費を分担したものであるとの控訴人の主張を認めることはできない。

 

 

    (ウ) むしろ,上記(イ)に述べた各事実に加えて,

 

平成16年3月期から平成18年3月期までの間,A社が広告宣伝を行う都度発生するはずの本件広告宣伝費に関する記帳を期末ないし事業年度の終了後に恣意的な金額調整等を行った上で一括して行うなど,不自然な会計処理をしていたこと,

 

平成17年3月期及び平成18年3月期における控訴人における広告宣伝費(平成18年3月期については広告宣伝費及び広告協力費)の記帳について,いったんは広告宣伝費として計上しておきながら,これを全部取り消す仕訳を行い,その後,各事業年度末に一括して計上するなど不自然な記帳がされていること(乙21,26),

 

 

平成17年3月期中に,控訴人は,控訴人の眼科診療所が付近に存在しないA社の店舗の広告費についても控訴人が負担することを前提とする請求書に応じて広告宣伝費を計上していること(乙21,22),

 

平成19年7月から同年10月までの間,処分行政庁が控訴人及びA社らに対する税務調査を行った際,

 

控訴人の代表者及び経理担当者ら自身が,処分行政庁の職員に対し,グループ全体の利益調整を行っていたことを認める発言をしていること(乙12,15,39及び42号証。これらの証拠の信用性が認められることは,上記引用した原判決の判示するとおりである。)に照らせば,

 

 

本件広告宣伝費の負担は,A社との共同事業について行われた取決めに基づく共同広告の費用の分担としてされたものではなく,各事業年度の末において,Eグループに属する法人である控訴人及びA社の間の利益調整を目的として,控訴人からA社に対し対価なくして譲渡又は供与されたものであると認めることができる。

 

 

   エ したがって,本件広告宣伝は,専らA社が,同社自身が販売し又は提供する商品又はサービスの優越性を訴えるために行った広告宣伝と認めるのが相当であって,控訴人の主張するように,本件広告宣伝が控訴人自身の広告でもあり,このような共同広告をA社と行った対価として同社との取決めに基づいて負担したものであるとは認められない。

 

 

  (2) また,控訴人は,A社でコンタクトレンズを購入した者の約95パーセント,眼鏡を購入する者の80パーセント以上の者が,控訴人医院で検査を受けており,A社でコンタクト等を購入する者の数が増加すると控訴人のコンタクト診療部門の収益が増加するという相関関係が存在し,A社の利用者が増加することが控訴人医院の利用者を増加させ,その収益を増加させることになるのであるから,A社の行う広告宣伝に要する費用の一部を控訴人が負担することは,販売促進費としての支出に当たり,A社に対する寄附金には当たらないとも主張する。

 

 

    しかし,本件広告宣伝費の支出は,控訴人がA社との共同事業の取決めに基づいて支出したものではなく,各事業年度の末において,Eグループに属する法人である控訴人及びA社の間の利益調整を目的として行ったものと認められることは,前記のとおりであるから,控訴人において,A社の販売店の顧客が増えれば,控訴人医院の利用者も増えるという関係に着目して,販売促進費として支出されたものであるとも認められない。

 

 

 3 以上によれば,控訴人の請求はいずれも棄却されるべきであるから,これと同旨の原判決は相当である。

   よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第7民事部

 

        裁判長裁判官  市村陽典

           裁判官  齊木利夫

           裁判官  清水 響