遺贈による法人の土地の取得

 

 

法人税更正処分等取消請求控訴事件

 

 

【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成2年(行コ)第30号

 

【判決日付】 平成3年2月5日

 

【判示事項】

 

1、遺贈による法人の土地の取得は、法人税法22条2項所定の「無償による資産の譲受け」に当たるものとして当該事業年度の収益となるところ、遺贈の効果の発生と遺留分減殺の具体的効果の発生との間に時間の経過が常に存するから、課税処分の効力の安定と客観的に明確な基準によるべき課税事務の円滑な遂行のためには、価額弁償に要した額は、その支払が確定した時点の事業年度の損金に算入するのが相当であるとした事例

      

2、遺贈による法人の土地の取得価額の算定は、法人税法22条4項に従い一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に照らし、減価償却資産の取得価額の評価に関する法人税法施行令(昭和40年政令第97号)54条1項7号イを類推適用して、「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」によるべきであり、右の「通常要する価額」を通常の取引がされた場合に成立すると認められる客観的価額と解して、当該土地の公示価格を基準に算出された取得価額を相当とした事例

 

 

【参照条文】 法人税法22-2

       民法964

       民法1031

       民法1041-1

       法人税法22-4

       法人税法施行令54-1

 

 

【掲載誌】  行政事件裁判例集42巻2号199頁

       判例時報1397号6頁

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

事   実

 

 

 (申立)

 控訴代理人らは「原判決を取り消す。被控訴人が昭和六〇年二月二七日付でした控訴人の昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を取り消す。被控訴人が同日付でした控訴人の本件事業年度の法人税についての更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)を取り消す、訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは主文第一項と同旨の判決を求めた。

 

 

 

(主張及び証拠関係)

 次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

 1 原判決二枚目裏二行目の「被告」から四行目の「決定」までを「本件通知処分、本件更正及び本件賦課決定」と、同三枚目表六行目の「あて」を「ずつ」とそれぞれ改め、同二枚目裏六行目の「通知処分」の前に「本件」を加え、同四枚目表三行目の「同表」から五行目の「という。)」までを「本件通知処分」と、同裏六行目を「3 本件更正及び本件賦課決定について」と、七行目冒頭から「という。)」までを「本件更正」と、九行目の「同表」から一〇行目の末尾までを「本件賦課決定」とそれぞれ改める。

 2 同五枚目表五行目の「通知処分」の前に「本件」を加え、同裏八行目の括弧書を「本件更正及び本件賦課決定について」と、同七枚目表四行目の「当額」を「当該」と、同八枚目表八行目の「平屋」を「平家」と、同裏八行目及び同九枚目表二行目の各「なくして」を「なしに」と、同一一枚目表六行目から七行目にかけての「と分筆されて」を「とは分筆の結果別筆となって」と、同裏二行目の「乙土地」を「乙土地部分」と、六行目から七行目にかけての「(三)の本訴での被告主張額」を「(三)で被控訴人の主張した控訴人の本件事業年度の所得金額」とそれぞれ改め、同表九行目の「同様」の前に「一体としてそれと」を加える。

 3 同一五枚目裏九行目を「5 本件土地の評価において考慮すべきその他の要素」と、一〇行目の「原告は、本件申告において」を「本件土地の評価については」と、同一六枚目表八行目の「算出した」を「算出すべきである」と、同一九枚目裏三行目の括弧書を「本件土地の評価において考慮すべきその他の要素」とそれぞれ改め、同一七枚目裏八行目の「存在」の次の[、」を削り、同一八枚目裏八行目の「所有で」の次に「、」を、同一九枚目裏一〇行目の「北側」の前に「右」をそれぞれ加え、同三八枚目中の各「一号」を「一」と、「八号」を「八」とそれぞれ改める。

 

       

 

理   由

 

 

 

一 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり附加、訂正するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

 

 1 原判決二一枚目裏九行目の「ところ」から同二三枚目表一行目の末尾までを「。

 

 

そして遺留分減殺請求があれば、遺留分を侵害する限度において遺贈はその効力を失うが、

 

受遺者は、現物の返還をするか価額弁償をするかの選択権があり、

 

相当価額の弁償をすることにより、現物返還義務を免れることができる。

 

 

しかも遺留分減殺請求権を行使するかどうかも遺留分権者の任意である上、

 

行使の時期も時効によって消滅するまで確定的ではない。

 

のみならず、受遺者が価額弁償を選択した場合、弁償を条件として目的物の所有権が確保できる半面、

 

弁償額は観念的には遺留分相当額であっても、現実に弁償すべき額は当事者双方の合意ないしは訴訟等により定まるのであるから、

 

遺贈の効果の発生と遺留分減殺の具体的効果の発生との間に時間の経過が常に存するところ、

 

後者の効果の発生が、相続を原因としてされた課税処分に相続開始時に遡及して影響するものとすると、

 

課税処分の効力を不安定なものとし、

 

客観的に明確な基準に従って迅速に処理することが要請されている課税事務の円滑な遂行を著しく阻害することになる。

 

 

これに対して、受贈益をいしたん相続開始の事業年度における収益として処理するとともに、

 

遺留分減殺請求がされ、これに伴う具体的な受贈益の変動、すなわち具体的に価額弁償の額が決定され、受贈益の減少があった場合に、

 

その時点の事業年度、において損金として処理することとしても、

 

受贈者の利益を甚しく害するものではない。

 

 

 

したがって、右のような処理は、法律的効果の変動とも符合し、具体的な利益の実現状況にも即応するものであって、相当というべきである。」

 

 

と、三行目から四行目にかけての「いなかったと解される」を「いなかったのである」と、七行目の「とは認められず」を「ということはできず」とそれぞれ改める。

 

 2 同二四枚目表三行目の「乗じて」を「乗じ、」と、七行目の「取得」から九行目の「同条」までを「取得価額の算定は法人税法二二条」とそれぞれ改め、同二五枚目表七行目の「一応の」を削り、八行目の「価額は」の次に「、」を加え、同裏八行目の「原告は」から同二六枚目表一行目の「前提として」までを「本件は、法人が贈与を受けた場合であって、たまたま贈与者の相続人が遺留分減殺請求をしたからといって、贈与が相続に変わる理はないから、本件土地の評価について」と、九行目の「とき」を「時」とそれぞれ改め、同行の「相続税」の前に「法人について相続税法が適用される根拠はないのみならず、」を加え、同裏五行目から六行目にかけての「用いるのは適当ではない」を「類推適用すべき理由も見当たらない」と、一〇行目の「検討するに、」を「検討する。」と、同二七枚目表末行の「授受なくして」を「授受なしに」と、同裏九行目の「甲土地」を「甲土地部分」と、同二八枚目表七行目の「見る」を「みる」と、同裏二行目の「授受なくして」を「授受なしに」と、四行目の「相当額につき認定課税」を「相当額の利益を得たものとしてその利益につき課税」と、同三〇枚目表一行目の冒頭から二行目の「土地」までを「収益力において自用地と異なるところがないとされた賃貸土地」とそれぞれ改め、同二九枚目裏九行目の「相当な地代」の前に「前記の意味での」を、同三〇枚目裏八行目の「しかし、」の次に「相続税における課税対象の評価については前記のような特殊性が存するのみならず、」をそれぞれ加え、同三〇枚目表三行目を、同三一枚目裏六行目の「また、」から同三二枚目表二行目の「ではない。」までをそれぞれ削る。

 

 3 同三二枚目裏一行目の末尾に「なお、右のように借地権による減額をする以上、更に貸家建付地としての減額をする必要はない。」を加え、九行目から同三三枚目表六行目までを削り、同裏四行目の「本件土地」から七行目のの「すぎない」までを「本件土地上の建物の居住者及び丙土地部分の西側隣地上の控訴人所有の貸家の居住者等であり、本件土地の最有効利用のためには丙土地部分を通路とすることが適切である」と改める。

 

 4 同三三枚目裏末行の「本件申告において」を削り、同三四枚目表一行目の「評価した」を「評価すべき」と、一〇行目の「自用地」を「更地」と、同裏三行目及び一〇行目の各「した」を「すべき」と、八行目の「評価」を「評価方法」とそれぞれ改め、同表六行目の「であるから、」の次に「対象地全体を均質なものと把握して評価した公示価格を基準としている」を加え、同裏二行目及び九行目の各「本件申告において、」を削る。

 

 5 同三五枚目表七行目の「失効して」を「失効し、」と、八行目の「取得し」を「取得するから」と、九行目の「だけになったもので」を「だけとなり」とそれぞれ改め、七行目の「遺贈」の前に[その限度で」を、末行の「受贈益は」の次に「、」をそれぞれ加え、同裏七行目の「自用地としての」を[更地」と改める。

 

 二 以上の次第により、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 丹野 達 裁判官 加茂紀久男 新城雅夫)