売上除外金は代表者に対する臨時的給与、賞与であると推認

 

 

法人税決定処分等取消請求事件

 

 

【事件番号】 静岡地方裁判所判決/昭和62年(行ウ)第11号

 

【判決日付】 平成3年6月28日

 

【判示事項】 一 法人税更正処分が、禁反言・信義誠実の原則に違反するものではないとされた事例

       二 法人の使途不明金が、法人の代表者の賞与と推認された事例

 

 

 

【参照条文】 国税通則法24

       所得税法1

       民法2-2

       法人税法35

 

【掲載誌】  判例タイムズ775号121頁

 

 

 

について検討します。

 

主   文

 

 一 原告の請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

事   実

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 請求の趣旨

  1 浜松税務署長が、原告の別表1事業年度欄記載の各事業年度の法人税について、昭和六○年一二月二五日付でした更正処分のうち、同表確定申告欄記載の所得金額、納付すべき税額を超える部分並びに同表賦課決定欄記載の重加算税の賦課決定処分を取消す。

  2 浜松税務署長が、原告の昭和五六年四月から同六○年三月までの各月分の源泉徴収に係る所得税について、昭和六○年一二月二五日付でなした納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を取消す。

  3 訴訟費用は被告の負担とする。

 二 請求の趣旨に対する認否

 主文と同旨

 

 

 

第二 当事者の主張

 一 請求原因

  1 本件処分

   (一) 浜松税務署長は、原告に対し、昭和六○年一二月二五日付で別表1事業年度欄記載の各事業年度の法人税につき、同表更正処分欄記載の所得金額、納付すべき税額のとおりの更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び同表賦課決定欄記載の重加算税の賦課決定処分(以下「本件各重加算税賦課決定処分」という。)をした。

   (二) 浜松税務署長は、原告に対し、昭和六○年一二月二五日付で別表2記載のとおり、昭和五六年四月より同六○年三月までの各月分の源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分(以下「本件各告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件各不納付加算税賦課決定処分」という。)をした。

  2 異議申立と審査請求

 原告は、右各処分を不服として、昭和六一年二月二一日、浜松税務署長に対し異議を申立てたが、浜松税務署長は、同年五月二一日、いずれも異議申立を棄却した。そこで、原告は、同年六月一七日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和六二年五月三○日、これをいずれも棄却する旨の裁決を行ない、同裁決書謄本は、同年六月四日原告に送達された。

  3 本件各更正処分及び本件各重加算税賦課決定処分の違法

   (一) 原告の本件係争各期の所得は、被告の主張額から別表5の各期の利息合計額欄記載の額を控除した額であるから、本件各更正処分及び本件各重加算税賦課決定処分は、所得を過大に認定した違法がある。

   (二) 浜松税務署の統括国税調査官鈴木晴夫(以下「統括官」ともいう。)は、昭和六○年一○月、原告の税務調査にあたり、売上除外額を確定するために、原告にその額を自認するならば、その見返りとして原告の代表取締役安藤法雄(以下「安藤」という。)の原告に対する貸付金の利息を損金として算入することも認めるとの意向を示したので、原告は、貸付金の利息が、損金として認められるものと信頼し、統括官の作成した文案に基づき、売上除外金を認める趣旨の請願書を作成し、浜松税務署に提出した。

 そうであるのに、浜松税務署は、原告の右信頼に反し、売上除外金は所得とする一方、右.利息を損金として算入することを認めない内容の本件各更正処分を行った。

 いわゆる禁反言の法理・信義誠実の原則は、私法関係のみならず、公法関係をも含む法律一般の原則であるから、本件のような租税法律関係においても適用があると解すべきであるから、統括官の右言動を善意で信頼して行動した原告の利益は保護されるべきである。

 したがって、本件各更正処分は、禁反言法理・信義誠実原則に反し、違法なものというべきである。

  4 本件各告知処分及び本件各不納付加算税賦課決定処分の違法性

 原告は、安藤に対して賞与を支給していないので、本件各告知処分及び本件各不納付加算税賦課決定処分は、事実の認定を誤った違法がある。

  5 よって、原告は、被告(浜松税務署長事務承継者)に対し、本件各更正処分及び本件各重加算税の賦課決定処分のうち、別表1確定申告所得欄記載の所得金額を超える部分及び本件各告知処分及び本件各不納付加算税賦課決定処分の取消を求める。

 二 請求原因に対する認否

  1 請求原因1は認める。

  2 同2は認める。

  3(一) 同3は争う。

   (二) 同3(二)のうち、原告が浜松税務署長に対し、原告の主張する請願書を提出したことは認め、その余は否認し、禁反言の法理・信義誠実の原則の適用は争う。

  4 同4は争う。

  5 同5は争う。

 三 被告の主張

  1 本件各更正処分及び本件各重加算税賦課決定処分の適法性

   (一) 被告が本訴において主張する原告の所得金額は、以下のとおりである。

(1) 昭和五五年四月一日から翌五六年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五六年三月期」という。)

(2) 昭和五六年四月一日から翌五七年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五七年三月期」という。)

(3) 昭和五七年四月一日から翌五八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年三月期」という。)

(4)昭和五八年四月一日から翌五九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年三月期」という。)

(5) 昭和五九年四月一日から翌六○年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六○年三月期」という。)

   (二) なお、原告は、安藤から別表5借入額欄記載のとおり金員を借入していたものであるが、原告が原処分時に計上していなかった、安藤からの借入金の利息は、損金としては算入することができない。

 そして、本件係争各期とも、国税通則法一一八条一項の規定による端数処理後の課税標準額及び税額は、本件各更正処分と同額となるから本件各更正処分は適法である。

   (三) 本件係争各期における売上計上もれ額は、安藤が原告の従業員にオゾン器等及び化粧品等を販売させ、かつ、自ら当該従業員から逐一販売額の報告を受ける一方、回収された売上代金についても当該従業員から直接受領しているにもかかわらず、オゾン器等の売上についてはその金額を、また、化粧品等の売上についてはその一部を総勘定元帳の売上に計上しなかったものであり、この帳簿処理に基づいて確定申告書を提出したものである。

 これは、国税通則法六八条一項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は、納税者の計算の基礎となるベき事実の全部又は一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出し」た場合にほかならず、したがって、同条項の規定により本件係争各期の更正処分により増加した原告の納付すべき法人税額、すなわち、昭和五六年三月期四七万円、昭和五七年三月期六二万円、昭和五八年三月期一五八万円、昭和五九年三月期四一万円、昭和六○年三月期七九万円(同法一一八条三項の規定によりいずれも一万円未満の端数切捨て)に一○○分の三○の割合を乗じてそれぞれ賦課決定した本件各重加算税賦課決定処分は適法である。

  2 本件各告知処分及び不納付加算税賦課決定処分の適法性

   (一) 原告の各月の給与所得金額及び確定した源泉所得額は、別表2のとおりであって、これといずれも金額を同じくする源泉所得税の本件各告知処分は適法である。

 なお、被告は、原告の売上除外金を安藤に対する賞与と認定することによって、各月の給与所得金額を確定したものであるが、その根拠は以下のとおりである。

 (1) 原告の右売上除外金は、原告の現金出納帳には記載されていなかった。

 (2) その金員については、安藤が個人として預金する等して管理していた。

 (3) 簿外所得に見合う原告の預金その他の資産が存在しなかった。

 (4) 安藤が、簿外所得の処分について合理的な説明をしていない。

 (5) 原告は、安藤とその妻安藤とも子がその発行済株式のうちその七五パーセントを所有する典型的な同族会社である。

 (6) 安藤の役員報酬に基づく所得及び扶養親族は、別表3記載のとおりであり、他方、安藤の原告への貸し金は、別表4記載のとおりであるから、売上除外金以外に安藤に別個の収入ないし資産があったとは認められない。

   (二) 本件各不納付加算税賦課決定処分は、国税通則法六七条一項の規定に基づき、本件係争各月分の納税告知処分により納付すべき源泉所得税額(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨て)に一○○分の一○を乗じてそれぞれ賦課決定したものであるから、本件各不納付加算税賦課決定処分は適法である。

 四 被告の主張に対する認否・反論

  1(一) 被告の主張1(一)(1)ないし(5)は否認する。

 原告は、被告の主張するとおり、別表1のとおり安藤から金員を借入しており、その利息を支払う旨約していたものであるから、別表5のとおり、各期に利息を支払う義務を有していたものであって、これは、原告の損金にあたり、被告の主張する所得額から同表記載の各期の利息合計額を控除したものが原告の所得となる。

   (二) 同1(二)は争う。

   (三) 同1(三)の前段は認め、後段は争う。

  2(一) 同2(一)の柱書は否認ないし争う。

 (1) 同2(一)(1)は認める。

 (2) 同2(一)(2)のうち、被告の主張する前記売上除外金を安藤が管理していたことは認めるが、それは原告の代表者として管理していたものであって、管理の方法としては、原告の金庫に保管していた。

 (3) 同2(一)(3)は認める。

 (4) 同2(一)(4)は否認する。

 原告は、右金員を原告の交際費として随時支出していた。

 (5) 同2(一)(5)は認める。

 (6) 同2(一)(6)のうち、安藤の役員報酬にかかる所得、扶養家族の数及び原告への貸し金は認め、その余は否認する。

   (二) 同2(二)は争う。

第三 証拠関係〈省略〉

 

       

 

 

 

理   由

 

 

 

 一 請求原因1、2は、当事者間に争いがない。

 そこで、本件各処分の適法性について判断する。

 

 

 二 本件各更正処分について

  1 信義誠実の原則の違反等について

   (一) 「誓」の訂正、「原稿分保存要す」、日付の「19」の部分を除く部分(以下「該当部分」という。)については〈証拠〉によると、以下の事実が認められ、〈証拠〉のうち右認定に反する部分は、前記各証拠に照らし、たやすく信用し難く、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

 

 

 (1) 浜松税務署の法人税調査担当員野中亙(以下「野中」という。)らが、原告の法人税調査をしていたところ、原告が美顔器等の売上金をその収入から除外していたことが判明し、安藤もそれを事実上認めていたため、当時野中の上司であった統括官は、昭和六○年一○月一四日、原告の営業所を訪れ、安藤に、右売上除外金を所得に加えた額で修正申告するよう勧奨した。

 

 

 (2) その際、安藤は、統括官に対し、右売上除外金を所得に加える代わりに、それに相応する額について、安藤が原告に貸し付けていた金員について、未計上の利息があるので、これを遡って損金に計上することによって、修正申告せずにすむよう要求したところ、統括官は、安藤に対し、既に確定した決算で計上していない借入金の利息を損金として認めることはできないとして右要求を拒否したが、安藤が執拗に要求するので、一応上司に、安藤の要求を伝え、署内で、その許否について後日検討するので、安藤の要求を書面にして提出するよう申し付けるとともに、安藤の要請によって、その草稿として、その場で〈証拠〉の該当部分を走り書きして起案し、安藤に手渡した。

 

 

 (3) 安藤は、昭和六○年一○月一九日ころ、野中を通じて、浜松税務署に対し、請願書(〈証拠〉)を提出し、その中で、右売上除外金を所得として認めるかわりに、株主総会の議事録記載のとおり、昭和五六年三月期から同五八年三月期にかけての安藤から原告への貸し金について年利八パーセントの計算で、翌五九年三月期及び翌六○年三月期の貸し金について年利七パーセントの計算で、利息を損金として認めていただきたい旨お願いする趣旨の請願書を提出した。

 

 

 (4) 野中、統括官及びそれらの上司が、右請願書について検討したところ、まず、本件係争各期の株主総会議事録を確認した後に結論を出そうということとなったので、統括官は、昭和六○年一一月八日、原告の営業所を訪れ、安藤に右議事録の提示を求めたところ、安藤が提示した総会議事録については、五年間に亘る議事録がすべて同質の和紙で作成されているうえ、タイプ、内容及び出席者がいずれも同じであり、古い年度のものについても出席者の名下の印影は、顕出された直後のように湿っている状態であった。

 

 

 (5) そこで、統括官は、右議事録の記載内容の真実性及び成立の真正に疑問をもったため、株主総会の出席者とされている作成当時の役員である鈴木啓子及び藤島義春に対し、株主総会の開催と出席の有無を尋ねたところ、両名とも、そのような株主総会に出席したこともないし、総会議事録の出席者名下の両名の印影も、両名の印章により顕出されたものではないと述べた。

 

 

 (6) 他方、統括官は、昭和六○年一一月、原告の担当税理士である小田税理士に、電話で原告の法人税の修正申告をするよう勧奨したが、結局安藤に拒否されたが、野中、統括官及びその上司は、以上の事実関係から、原告の借入金利息の損金算入は安藤の捏造であって、その主張は到底認められないとの結論に達したので、統括官は、昭和六○年一二月二○日、原告の営業所を訪れ、原告の要求が認められないことを伝えたうえ、再度修正申告をするよう勧奨した。

 

 

 (7) これに対し、安藤は、統括官が一○月一四日時点においては、安藤の借入金利息の損金算入の主張を認めていたと統括官に抗議し、安藤と統括官の間では激しく口論がなされたが、安藤が借入金利息の損金算入を認めてくれない限り修正申告をしないと断言したので、統括官は、それでは更正決定するほかない旨伝えて辞去した。

 

 

   (二) 以上認定の事実からすると、統括官が昭和六○年一○月一四日、安藤の要請によって〈証拠〉の該当部分を走り書きして起案し、安藤に手渡したことは、安藤に対して、〈証拠〉のような内容の請願書を提出すれば、売上除外金に該当する金額の借入金利息の損金算入が認められ、原告としては、改めて法人税の修正申告をする不利益を免れることになるとの期待を抱かせるに至るおそれのある言動であるというべく、納税者に対して税務調査を担当する税務署の職員としてはいささか軽率であり、納税者に対して無用な誤解を与えかねないものと評価されてもやむをえない面もないではないが、

 

安藤が事実上、それ以前から、原告の美顔器等の売上を収人から除外していたことを認めており、売上除外金を認める代わりに借人金利息の損金算人を認めるというような確約をしたとはいえないなど前記認定の事実の経過からすると、仮に、安藤が有のような期待をもったとしても、その期待は法的に保護するに値しないものというべく、本件各更正処分が禁反言・信義誠実の原則に反するものと認めることはできないといわざるを得ない。

 

 

 

 

  2 所得額について

 

   (一) 原告が提出した確定申告書に記載した各期の所得の金額について、安藤からの借入金として原告の主張する額を控除した金額が原告の各期の所得であること及び被告の主張する売上除外金が右所得の金額に加算されるべきことは、いずれも当事者間に争いがない。

 

   (二) そこで、原告の主張する借入金に対する利息を損金として算人することができるか否かについて判断する。安藤が原告に対し、原告の主張する額の金員を貸し付けたことについては当事者間に争いがなく、右事実に、〈証拠〉によると、以下の事実を認めることができ、右認定に反する原告代表者尋問の供述は、利息の約定、利率、税務処理、帳簿上の処理などの点について極めて曖昧であり、かつ、弁解のため種々変遷もしており、にわかに措信し難いというほかない。

 

 (1) 安藤は、原告に金員を貸し付けるにあたって、借用証書、金銭消費貸借契約書等の書類を作成せず、利息についても、特に明確な合意をしたことはなかった。

 また、安藤の原告に対する貸付は、原告の資金需要等に応じて随時行われており、返済期についても明確な定めはなかった。

 

 (2) 原告は、昭和五三年三月期、同五四年三月期の決算書において安藤からの借入金に対する利息を費用に計上しているが、それが、どのような計算によって計上されたかは明らかではなく、昭和五五年三月期から同六○年三月期の決算書においても、安藤からの借入金を費用として計上していない。

 

 

 (3) 安藤は、昭和五六年から同六○年までの五年間の確定申告において、原告に対する貸し金についての利息収入を個人の所得としては申告していない

 

 

 (4) 安藤は、原告の法人税の調査によって、売上除外金の指摘がされた後、初めて、原告の安藤からの借入金の利息を損金として計上することを認めるよう統括官に申し入れたものである。

 

 (5) 安藤は、統括官から、原告の安藤からの借入金の利息を損金として計上することができるような証拠の提出を求められたのに対し、原告が安藤から利息付きの借入をすることを容認した株主総会議事録を提出したが、右総会議事録は、前判示のように、その記載内容の真実性及び真正に疑念があって、到底信用することができないものであった。

 

 以上の事実及び弁論の全趣旨からすると、原告と安藤の間では、安藤が原告に対し金員を貸し付けるにあたって、安藤が原告から、利息を収受する意思があったとか利息の支払を受ける旨の明確な合意があったとまで認めることはできず、原告の本件係争各期の所得額は、右金員を損金として算人せずに所得金額を算出した被告主張の金額であると認めるのが相当である。

 

 

  3 よって、本件各更正処分には原告の主張するような違法はなく、適法なものというべきである。

 

 

 

 三 本件各重加算税賦課決定処分について

 

  1 〈証拠〉によると、安藤は、原告の前記美顔器等の売上金を所得として確定申告しなかったことについては、顧客からの売上金の回収が悪かったので、会社の所得に計上したくないと考え、従業員個々人の営業成績を把握するための売上帳には記載したものの、所得の計算に用いる表帳簿である金銭出納帳には意図的に記載せず、これを所得に加算して確定申告しなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

 

  2 右事実によれば、原告は、課税標準又は税額等の計算の基礎となるベき事実を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したものというべきであるから、浜松税務署長がした本件各重加算税賦課決定処分には、原告の主張するような違法はなく、適法である。

 

 

 四 本件各告知処分について

 

  1(一) 被告の主張2(一)(2)のうち、安藤が前記売上除外金を管理していたこと、同(6)のうち、安藤の役員報酬にかかる所得、扶養家族の数及び原告への貸金額、同(1)、同(3)の事実については、いずれも当事者間に争いがない。

 

   (二) そして、右争いのない事実に、〈証拠〉によると、以下の事実が認定できる。

 

 

 (1) 安藤とその妻安藤とも子は、原告の発行済株式の七五パーセントを有しており、残り二五パーセントを藤島義治(以下「藤島」という。)が有していたところ、藤島は、係争年度前に原告を退職して、係争年度当時原告の運営にはまったく関与しておらず、取締役についても、昭和五五年一一月以降、名義上取締役であったのは安藤と鈴木啓子のみであるが、鈴木啓子が昭和五五年一一月以降原告とは音信不通の状態であって、原告の運営にはまったく関与していなかったから、遅くともそれ以降は、原告の経理、営業、監査等の一切にわたって、代表者である安藤一人が実権を握り、取締役会を開催するなどということもなかった。

 

 

 (2) 原告の美顔器等の販売にかかる代金の大半は、美顔器等を販売した原告の従業員によって現金により回収され、安藤は、右回収代金と領収書の控えを従業員から受領し、管理していたが、回収代金については、従業員個々の販売実績、売上金回収等についての勤務評定を行うため売上一覧表には記載したものの、現金出納帳には全く記載せず、その使途についても明確にしていなかった。

 

 

 (3) 原告の美顔器等の売上にかかる代金は、当然原告の資産の販売による益金となるべきものであるが、原告には、右益金に見合った資産の増加はなかった。

 

 

 (4) 安藤は、本件係争各期において、原告に対し多額の貸付を行っているが、安藤の原告からの所得から算出した可処分所得から安藤の原告に対する貸付金を控除した金額は、昭和五七年三月期は一七一万○九○五円、昭和五八年三月期は二三○万九三四○円、昭和五九年三月期は四○○万八二六五円、昭和六○年三月期は二九二万四九三六円にすぎず、右程度の収入は、安藤の扶養親族(三人ないし五人)の生計費として費消されるとみられるのに、安藤には原告からの役員報酬以外の所得や現金収入を得るような資産はなく、原告に対する多額の貸付の原資は不明であった。

 

 

 (5) 安藤は、昭和五八年二月九日、遠州信用金庫本店の原告名義の普通預金口座から五○○万円を引き出し、それを帳簿上は、原告の藤島義治に対する未払い金一六八万九四七七円、鈴木啓子に対する未払い金三五万円、鈴木鶴次に対する返済金一九○万円、安藤に対する未払い金九万三八一九円の支払いにあてた旨不正処理したうえ、現実には、安藤個人が費消し、あるいは他に流用した。

 

 

   (三) なお、原告代表者は、その本人尋問において、前記売上除外金は、別封筒に入れたうえ原告の金庫の中に保管し、随時原告の交際費等として支出していたもので、安藤のみならず、当時原告の経理担当者であった内山美智子も入金及び出金を管理していたと供述するが、その供述は、交際費に関する領収書の取扱等の重要な部分で変遷しており、交際費の内容についての説明も曖昧で具体性のないものであるうえ、〈証拠〉によれば、浜松税務署の国税調査官鈴木賛平が、昭和六○年七月三日に原告の現金監査を行った際、原告の金庫内には、封筒に人った現金や売上除外金に対応ずる現金がなかったことが認められることに照らし、にわかに信用できないといわざるを得ない

 

 また、原告代表者は、その本人尋問において本件係争年度の安藤から原告への貸付金の原資について遺産の売却代金あるいは株式売買取引によって得た利益であると供述するが、右供述は、その内容が極めて曖昧であること及び右供述を裏付けるに足りる資料がないこと等に照らすと、たやすく信用することができないというほかない。

 

 

  2 以上認定の事実からすると、原告は、実質上その代表者としての安藤が経理、営業等経営の一切を支配しているいわゆる同族会社であって、原告の美顔器等の売上金の大半については、安藤が売上除外金として管理し、それを自山に費消ないし流用しうる立場にあり、原告には右売上除外金に対応する預金その他の資産の増大はなく、他に原告のため交際費等の経費として支出されたと認めるべき根拠はないというほかなく、

 

 

逆に、安藤の原告に対する多額の貸・金についての原資は不明であるうえ安藤は、帳簿上不正処理をして原告の預金を自己のため費消ないし流用するなど原告の資金と安藤個人の資金を混同していたものというべきであるから、原告の前記売上除外金は、その代表者である安藤に対して支出された臨時的給与、すなわち賞与であると推認するのが相当であり、他に、この推認を妨げるに足りる事情は存在しない。

 

 

  3 したがって、浜松税務署長が、原告の前記売上除外金を役員たる安藤に対する賞与であることを前提としてした本件各告知処分は、適法である。

 

 

 五 本件各不納付加算税賦課決定処分について

 

 本件各不納付加算税賦課決定処分は、国税通則法六七条一項の規定に基づき、本件係争各月分の納税告知処分により納付すべき源泉所得税額(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨て)に一○○分の一○を乗じた額をそれぞれ超えない額で賦課決定されたものであるから、適法である。

 

 六 以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がないのでこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 

 8裁判長裁判官塩崎 勤 裁判官小林登美子 裁判官水野有子)

 別紙〈省略〉