旧法役員賞与(3)

 

 

法人税等の更正、加算税の賦課処分等取消請求事件

 

 

【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和56年(行ツ)第152号

 

【判決日付】 昭和57年7月8日

 

【判示事項】 会社の役員に支給した給与のうち、七月及び一二月に、他の月に支給した定額を超えて支給した部分は、法人税法三五条四項にいう臨時的な給与であつて同条一項所定の賞与に当たるとされた事例

 

 

【参照条文】 法人税法34

       法人税法35-1

       法人税法35-4

 

【掲載誌】  訟務月報29巻1号164頁

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       

 

 

理   由

 

 

 上告代理人真野稔、同湯浅嘗二の上告理由について

 

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、【判示事項】上告会社が本件係争各事業年度において代表取締役米沢義槌ほか二名の取締役に支給した給与のうち、七月及び一二月に、他の月に支給した定額を超えて支給した部分は、法人税法三五条四項にいう臨時的な給与であつて同条一項所定の賞与にあたるから、法人税法の課税標準となる所得の計算上これを損金の額に算入することはできないとした原審の判断は、正当である。所論引用の判例は、本件に適用される法令と内容を異にする法令に関するものであつて本件に適切ではなく、また、原判決に所論の判断遺脱があるともいえない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解せず又は原判決の結論に影響を及ぼさない点につき独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 

(裁判官 藤崎萬里 団藤重光 本山 亨 中村治朗 谷口正孝)

 

 

 

 

 

 

 上告理由

 

 

第一点 原判決は、判断遺脱の法令違背があり破毀せらるべきである。

 

一、原審判決は、第一審判決の一部字句の訂正乃至補足をしたのみで、一審判決理由を全部引用しているので、一審判決の判示を原判決の判示として論旨を進める。

 

 

二、原判決は、上告人が係争事業年度の役員報酬を定めた取締役会の決議につき「もつとも、右取締役会の決議は、取締役の報酬を年額三、〇〇〇万円以内とし、具体的な支給額及び支給方法は、取締役会に一任する旨の株主総会の決議に基き、各取締役の報酬を年額で定めたうえ、その報酬の支給方法として各月ごとの支給額を定めるという形式をとつているので、あたかも年俸制の報酬を月割支給するかのごとき観を呈している。」と判示した。

 

 そのうえで、上告人が係争事業年度の前の、二事業年度において、七月、一二月の増額支給した役員給与について、その増額分を利益処理していたものを、係争事業年度においてはこれを「報酬に取込んで損金処分をしようとしたためであつたと認められる。」と認定した。

 

 

三 上告人は、控訴審において、上告人の取締役の報酬の定め方は「あたかも年俸制の観を呈している」のではなく、年俸制そのものであり、その年俸額につき、各月毎の支給額を定め、支給したものであると主張した。

 

 

 即ち、係争事業年度のうち、昭和五〇年六月一日より、同五一年五月末日までの取締役の報酬について、昭和五〇年六月五日の取締役会において、「常勤取締役報酬支給方法の件」なる議案につき、代表取締役米沢義槌についていえば、

 

「年間報酬を一一、〇〇〇、〇〇〇円とし、

 

その支給方法は、

 

昭和五〇年六月、金八五〇、〇〇〇円、

 

同年七月一、二五〇、〇〇〇円、

 

同年八月から一一月まで毎月八五〇、〇〇〇円、

 

同年一二月、金一、二五〇、〇〇〇円、

 

同五一年一月より五月まで毎月金八五〇、〇〇〇円」を支給する旨決議した。

 

他の取締役福井潤、同米沢英樹についても金額の差はあるが、同様である。

 

 

 昭和五一年六月から同五二年五月までの係争事業年度においても同様で、上告人会社の常勤役員の報酬の定め方は年俸制であつて、これを各月毎に支給しているのである。

 

 さらに役員報酬をどのように定めるかは、定款、商法、その他の法令に違反しないかぎり、本来企業が自由に定め得るものであるところ、役員報酬を年額で定め、その報酬年額が一二ケ月で割切れ、均分支給ができる場合はよいとして均分支給できない場合には、どのように取扱われるのか、・・・・・・上告会社の場合はまさにそのようなケースである。

 

上告人は、原審において役員報酬年年額を定めるにあたつては、一二ケ月で割切れるように定めて均分支給するなら報酬として認め、若し均分支給できない報酬年額である場合、どうしてもある月増額しなければならなくなる。その場合その増額分は報酬として認めないということになれば、不合理である趣旨の主張をした。

 

 

 四 しかるに原審判決は、この主張に対し何らの判断を示していない。

 

 

 前掲判示によれば、年俸制ならば報酬として認められるかの如くも解されるが、役員報酬の年俸制は法人税法上は認められるのか、年俸制は認められるとして、その支給方法、支給形態が年一回ならばよいのか、或は一事業年度を上期と下期の二期に分けて支給する場合、または四半期に分けて支給する場合には、どのように取扱うのか、これらの場合各期の支給額が均一ならば報酬として認めるのか、若し各期毎の支給額が異る場合には、何れの期の給与を「定期の給与」である報酬とし、それを超過する他の期の給与を「臨時の給与」即ち賞与と認定するのであろうか。特に近時外資系の合弁会社等においては、このような役員報酬の支給方法を採つている会社が少なからず存在するのである。

 

 本件上告人の場合役員報酬の年俸制は認められるか否か、認められるとして、その支給形態により、報酬として認められないのか、この点につき何らの判断をしていない原判決は、判断遺脱の法令違背があるというべく、破毀せらるべきである。

 

 

第二点 原判決は、理由不備の違法があり、破毀せらるべきである。

 

一、上告人は、原審において、役員報酬について、要約次のとおり主張した。

 

(一) 現行法人税法は、

 

第三四条において、役員報酬について、報酬とは、役員給与のうち賞与および退職金以外のもの、と規定し、

 

賞与について同法第三五条第四項において、役員に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていないものに対し、継続して毎年所定の時期に、定額を支給する旨の定めに基いて支給されるもの、及び退職給与以外のものをいう、と規定している。

 

端的にいえは、役員賞与は、役員給与のうち定期の給与を受けている者に支給される臨時的な給与であり、このような臨時的給与を除く給与(退職金は別)が役員報酬であるとしている。

 

(二) そこで臨時的給与につき、臨時的とは、定つた時でないこと、不時、一時的であることをいうのであるから、その反対解釈として、役員報酬とは、定期的な給与ということになる。

 

 「定期の給与」というのは、予めその支給時期が定められている給与であり、「臨時的な給与」というのは、予めその支給時期が定められていない不時、一時的な給与と解すべきである。

 

ところが「定期の給与」というのは、予め定めた支給時期のほかに、支給金額が日給、週給、月給というように、月以下の単位による定額、即ち定期かつ定額の給与であらねばならないとする考え方は、法文の解釈上論理的に出て来ない。

 

それは定期的という時間的概念に、定額という量的概念をまでも取入れたものであるからであつて、文理的にも定期の給与が定期かつ定額の給与になるのか、全く首肯できない。

 

 

(三) このような論理的矛盾を解決するためにも、役員報酬と、役員賞与とを区別するにあたつて、その本来的な性質、即ち実質的規準も併せて考えることが、報酬と賞与の概念をより正確にし、法解釈上も、最も合理的である。

 

 

二、右のような上告会社の主張に対し、原判決は、何ら合理的判断をしていない。

 

 原判決は、賞与と報酬を区別する規準は、臨時的給与か否かのもつぱら形式的規準をもつてすれば足り、実質的規準までも取入れる要はないとした。

 

 しかしながら、賞与が役員給与のうち臨時的給与であり、これを除く給与が役員報酬であるとすれば、役員報酬は定期の給与ということになる。

 

 上告人は、定期の給与とは、予め定められた給与の支払方法、即ち支給時期、支給額が定められ、右に基いて支給される給与であると主張しているのに対し、原判決は、定期の給与につき月以下の単位による定額の給与という考え方をとつている。しかしながら役員の報酬の支給額が、何故に毎月同額の定額でなければならないのか、定期かつ定額の給与でなければ役員報酬として認められないのか、この点につき、原判決は何ら合理的な理由を判示していない

 

 このような役員報酬につき、その理由づけを欠く原判決は、理由不備の違法があるというべく、破棄せらるべきである。

 

 

第三点 原判決は、判例違背の違法があり、破棄せらるべきである。

 

 

一、昭和三六年七月二〇日判決の最高裁判決は、役員賞与であるか否かの認定規準につき「会社役員に対する特定の給与が役員賞与に該当するかどうかを判断するにあたつては、必ずしもその支出形式にとらわれることなく、会社の業務執行上必要な対価として、相当と認められないかどうかという実質にしたがつて決すべきである」としている。

 

 

二、右裁判例は、昭和四〇年の法人税法改正以前の旧法時代の判例であるが、改正法人税法第三四条、第三五条は、役員報酬と役員賞与を区別する規準として、その支出形式が、定期的か、臨時的かという形式的規準のみをもつてし、報酬が役員の業務執行の対価性を有し、賞与が利益配分性を有するという実質的規準の導入を、しかく完全に排斥していると言えるのであろうか。

 

 

 上告人は、現行法第三四条第一項において、役員報酬が定期、定額の給与であつても、会社の規模、営業状態等から過大であると認められるときは、これを利益処分としてとらえ、損金に算入しない旨の規定、

 

 

また第三五条第四項においては、定期定額の規与であつても利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることになつているものは、利益処分としてとらえ、報酬とならないと定めていること等を挙げて、

 

 

改正法においても、報酬と賞与の実質概念は残されているとし、当該役員給与が、報酬であるか、賞与であるかを区別するにあたつては、支給形態が、定期的か、臨時的かという形式的規準のほかに、報酬の業務執行の対価性、賞与の利益配分性という実質的規準も加えて判断すべきであると主張した。

 

 

三、原審判決は、「法は・・・・・・専ら臨時的な給与であるか、否かという給与の支給形態ないし外形を規準として、報酬と、賞与とを区別することとしているのである。したがつて、原告主張のように、支給形態が臨時的と認められる給与について、更にその職務執行対価性の有無を論じて、これを役員報酬と認める余地はないものというべきである」と判示した。

 

 右判示は、前掲最高裁判所判例と異なるものであることは明らかである。上告人としては、現行法人税法の解釈として、役員報酬と、役員賞与とを区別する規準は、原判決判示の如く、もつぱら外形的規準のみによるものであるか否か、前掲判例と対比し、最高裁判所の判断を得たいのである。

 

                         以上