競争用自動車と物品税法にいう小型普通乗用四輪自動車

 

 

物品税賦課決定処分取消請求事件

 

 

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成6年(行ツ)第151号

 

【判決日付】 平成9年11月11日

 

【判示事項】 FJ一六〇〇と呼ばれるいわゆるフォーミュラータイプに属する競争用自動車と物品税法にいう小型普通乗用四輪自動車

 

【判決要旨】 専ら自動車競走場における自動車競走のためにのみ使用されるFJ一六〇〇と呼ばれるいわゆるフォーミュラータイプに属する競争用自動車は、物品税法一条、別表第二種七号2が課税物品として規定する小型普通乗用四輪自動車に該当する。

 

【参照条文】 物品税法1

 

【掲載誌】  訟務月報45巻2号421頁

 

 

について検討します。

 

 

主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       

 

理   由

 

 上告代理人岩佐英夫、同井関佳法の上告理由について

 

 物品税法(昭和六三年法律第一〇八号により廃止)別表課税物品表第二種の物品七号2には課税物品として小型普通乗用四輪自動車が掲げられているところ、右にいう普通乗用自動車とは、特殊の用途に供するものではない乗用自動車をいい、ある自動車が普通乗用自動車に該当するか否かは、当該自動車の性状、機能、使用目的等を総合して判定すべきものと解するのが相当である。

 

 

原審の適法に確定した事実関係によれば、本件各自動車は、FJ一六〇〇と呼ばれるいわゆるフォーミュラータイプに属する競争用自動車であって、

 

道路運送車両法所定の保安基準に適合しないため、道路を走行することができず、

 

専ら自動車競走場における自動車競走のためにのみ使用されるものであるというのである。

 

 

しかし、本件各自動車も、人の移動という乗用目的のために使用されるものであることに変わりはなく、

 

自動車競走は、この乗用技術を競うものにすぎない。

 

また、本件各自動車の構造、装置が道路を走行することができないものとなっているのも、右のような自動車競走の目的に適合させるべく設計、製造されたことの結果にすぎないのであって、

 

本件各自動車は、乗用とは質的に異なる目的のために使用するための特殊の構造、装置を有するものではない。

 

したがって、本件各自動車は、その性状、機能、使用目的等を総合すれば、乗用以外の特殊の用途に供するものではないというべきであり、普通乗用自動車に該当するものと解すべきである。

 

 

 以上によれば、本件各自動車が物品税法別表課税物品表第二種の物品七号2の小型普通乗用四輪自動車に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 

 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官尾崎行信、同元原利文の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 

 

 

 

 

 

 裁判官尾崎行信の反対意見は、次のとおりである。

 

 私は、本件各自動車が物品税法別表課税物品表第二種の物品七号2の小型普通乗用四輪自動車に該当するという多数意見には、賛成することができない。その理由は、次のとおりである。

 

 一 およそ社会における自動車の目的は、人や物品の運搬、すなわち、ある場所から他の場所に運ぶことによる社会的、経済的効用を達成するところにある。

 

一般に、自動車は、人が運転するのであるから、必ず人が乗用して移動する側面を有しており、本件各自動車も、この意味で人の乗用を伴うものであるが、このこと自体で乗用自動車であるか貨物自動車であるか、さらに、普通自動車か特殊自動車かの指標とすることはできず、したがって、物品税法上課税対象となる普通乗用自動車の定義とすることはできない。

 

 

そして、自動車は、その性状、機能、使用目的等からみて、達成しようとする効用の差異により、乗用自動車、貨物自動車、特殊自動車などの区別がされるのである。

 

 

一般人の理解によれば、普通乗用自動車とは、人間を運搬することから得られる効用を主目的とするものであって、現行関係法規をみても同様の立場がとられている。現に物品税法基本通達(昭和四一年一一月二四日間消四-六八、徴官二-一〇三、徴徴一-八〇国税局長税関長あて国税庁長官通達)は、

 

「課税物品表に掲げる物品に該当するかどうかは、他の法令による名称及び取引上の呼称等にかかわらず、当該物品の性状、機能及び用途等を総合して判定する」といい(第一条)、

 

自動車の区分を定めるに当たっては、「七 自動車類及びその関連製品」(自動車類関係)の六において、

 

「電波測定車、無線警ら自動車、……等特殊な構造等を有するもので、陸運事務所の登録基準により特種自動車として登録されるものは、普通乗用自動車等又は乗用兼用貨物自動車等としては取り扱わない」として、

 

 

構造上の違いに基づく陸運事務所の登録を基準として普通乗用自動車と特殊乗用自動車を区別し、前者のみを物品税法上の課税対象としているのである。

 

 

したがって、本件各自動車が課税対象たる「小型普通乗用四輪自動車」に該当するか否かは、人の乗用を伴うか否かのみによって判断されるべきではなく、自動車としての性状、機能、使用目的等の諸要素及び陸運事務所の登録の可否、種別を総合勘案して判断すべきである。

 

 

 二 本件各自動車についてこれをみるのに、その主たる使用目的は、高速走行に適合した構造や機能の開発、試験に資し、自動車その他の機械の改良、進歩、機械工業の合理化などを図るものとしての自動車競走にあり(小型自動車競走法参照)、

 

そこには、普通乗用自動車本来の、人を運搬して社会的、経済的効用を達成することは含まれていない。

 

 

それゆえ、本件各自動車は、自動車競走の目的に適合させるべく、通常の安全装置が省略され、発電機やエアクリーナーの装備もなく、乗車に際してはいったんハンドルを外して上部から乗り込み運転席に着席してからハンドルを取り付ける仕組みとなっているなど、

 

専ら自動車競走場という限定された場所における高速走行を目的とした特殊な構造、装置を備えたものであって、

 

そもそも道路を走行することが全く予定されておらず、

 

そのために必要な構造、装置の重要な一部を欠くものである。

 

 

このように、本件各自動車は、人を地点間で移動させて社会的、経済的効用を達成する目的を有しておらず、これを主たる目的とする「普通」の乗用自動車とは著しく異なる特異の性状、機能を有しており、そのため、道路運送車両法上特種用途自動車としても登録できないものである。したがって、これらの性状、機能、使用目的等を総合すれば、本件各自動車は、自動車競走場における自動車競走という特殊の用途に供するものとして、「普通」乗用自動車には該当しないと解すべきである。

 

 

 

 三 ちなみに、昭和四八年法律第二二号による物品税法の一部改正により同法別表課税物品表第二種七号2に小型普通乗用四輪自動車に加えて小型キャンピングカーが課税物品として新たに掲げられたところ、同法が小型キャンピングカーを小型普通乗用四輪自動車とは別個の課税物品として掲げたのは、その性状、機能、使用目的等が普通乗用自動車の範ちゅうから外れていると認めたことに他ならない。そうだとすると、人の移動という乗用目的が本件各自動車と比べてはるかに明りょうな小型キャンピングカーが普通乗用自動車に当たらない以上、本件各自動車がこれに該当しないことは、むしろ当然というべきであろう。

 

 また、前記物品税法基本通達では、陸運事務所の登録基準により特種自動車として登録されるものは普通乗用自動車等として取り扱わず課税対象としていないのに、およそ登録基準に合致せず登録不能な本件各自動車を普通乗用自動車として課税の対象とすることは、均衡を失するものとして許されるべきではない。

 

 さらに、税務当局は、行政解釈により遊園地専用の乗用自動車及びゴーカートを「普通乗用」自動車に該当しないとして取り扱っているのであって、本件各自動車をこれに当たるとするのは、あまりにも恣意的にすぎるというべきである。

 

 

 四 そもそも、物品税法は、別表課税物品表に掲げられた物品に限って課税物件とする仕組みを採用しているところ、

 

物品税の課税対象とされる乗用自動車の範囲については、同法は、これを単に普通乗用自動車という文言で規定しているにすぎず、

 

本件各自動車のように専ら自動車競走場における自動車競走の目的にのみ使用され、そのための構造、装置を有している自動車が特殊の用途に供するものではない普通乗用自動車に該当するとの解釈が、

 

社会通念に照らして、

 

少なくとも明確であるとは認められない。

 

そうであるとすれば、課税要件明確主義の観点からも、本件各自動車が普通乗用自動車に該当するものと解することは許されないものというべきである。

 

本件各自動車のような競走用自動車に対する課税の必要性が高いのであれば、小型キャンピングカーのように同法の別表課税物品表中にその旨掲げれば足りるのであり、そのような立法手続が格別の困難を伴うものであるとも思われない。

 

 

 五 右と異なり、本件各自動車が物品税法別表課税物品表第二種の物品七号2の小型普通乗用四輪自動車に該当するとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上によれば、上告人の請求は理由があり、これを認容した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

 裁判官元原利文は、裁判官尾崎行信の反対意見に同調する。

 

 (裁判長裁判官山口 繁 裁判官園部逸夫 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信 裁判官元原利文)