固定資産の一般的評価の平等

 

 

 

訴願裁決取消請求事件

 

 

【事件番号】 宇都宮地方裁判所判決/昭和27年(行)第6号

 

【判決日付】 昭和30年11月24日

 

【判示事項】

 

1、固定資産の実地調査義務を規定する地方税法第408条は効力規定か訓示規定か。

      

2、同種の固定資産の一般的評価に比し著しく高く評価することの適否

      

3、地方税法第433条第2項による口頭審理を経ないでなされた審査決定が違法ではないとされる場合

 

 

【掲載誌】  行政事件裁判例集6巻12号2805頁

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

  原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

  訴訟費用は原告等の負担とする。

 

       

 

事   実

 

 

 原告訴訟代理人は、被告が昭和二十七年四月十二日なした、南犬飼村(現在壬生町の一部)固定資産評価審査委員会の別紙第一目録記載の物件についての昭和二十六年度固定資産税の評価に関する審査の決定に対する原告渡辺勇の訴願を棄却する旨の裁決、同委員会の別紙第二目録記載の物件についての同年度固定資産税の評価に関する審査の決定に対する原告大栗雪の訴願を棄却する旨の裁決、同委員会の別紙第三目録記載の物件についての同年度固定資産税の評価に関する審査の決定に対する原告野口菊太の訴願を棄却する旨の裁決、同委員の別紙第四目録記載の物件についての同年度固定資産税の評価に関する審査の決定に対する原告浜野清の訴願を棄却する旨の裁決は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原告として次のとおり陳述した。

 原告渡辺勇の請求の原因。

(一) 別紙第一目録記載の物件は原告渡辺勇の所有であるところ、南犬飼村(その後壬生町に合併)村長は右不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定し、これを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したが同原告は右評価に不服があつたので南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をした。而して同原告は口頭審理の手続によるべきことを申請したのである。ところが同委員会は口頭審理の手続を経ないで昭和二十六年十二月十七日審査の決定をした。

(二) 同原告は右審査の決定に不服があつたので昭和二十七年一月十二日被告に訴願したところが被告は同年四月十二日原告の訴願を棄却する旨の裁決をした。しかし、右訴願の裁決は次の三点において違法であるその違法というのは、(イ)地方税法第四百八条によれば、市町村長が固定資産の価格を決定するには固定資産評価員又は固定資産評価補助員に固定資産の状況を実地に調査させなければならないことになつていてその規定は効力規定であるのに、南犬飼村村長は前記固定資産の価格を決定するに当り、農地については単に農業調整委員会の定めた地力調査表をもととしこれを機械的に適用して評価したに過ぎないのであつて実地調査をなさしめていない。(ロ)家屋の評価の均衡がとれていない。特に上級の家屋の評価に比し下級の家屋の評価が過大である。(ハ)南犬飼村固定資産評価審査委員会に対して原告が口頭審理の申請をしたのに同委員会は口頭審理の手続によらなかつたものである。以上三つの理由を挙げ審査の決定に対して訴願したのに被告は原告渡辺の主張を容れず、棄却の裁決をしたものである。右裁決は違法な決定を認容し原告渡辺の主張を容れないもので決定と同一の違法がある。そこでその取消を求める。

 原告大栗雪の請求の原因。

(一) 別紙第二目録記載の物件は原告大栗雪の所有であるところ、南犬飼村村長は不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定しこれを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したが同原告は右評価に不服があつたので南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をした。而して同原告は口頭審理の手続によるべきことを申請したのである。ところが同委員会は口頭審理の手続を経ないで昭和二十六年十二月十七日審査の決定をした。

(二) 同原告は右審査の決定に不服があつたので昭和二十七年一月十二日被告に訴願したが被告は同年四月十二日原告の訴願を棄却する旨の裁決をした。しかし右訴願の裁決は前記渡辺勇の訴願の裁決と同一の点において違法があるのでその取消を求める。

 原告野口菊太の請求の原因。

(一) 別紙第三目録記載の物件は原告野口菊太の所有であるところ、南犬飼村村長は右不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定し、これを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したが同原告は右評価に不服があつたので南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をした。而して同原告は口頭審理の手続によるべきことを申請したのである。ところが同委員会は口頭審理の手続を経ないで昭和二十六年十二月十七日審査の決定をした。

(二) 同原告は右審査の決定に不服があつたので昭和二十七年一月十二日被告に訴願したが被告は同年四月十二日原告の訴願を棄却する旨の裁決をした。しかし右訴願の裁決は前記渡辺勇の訴願の裁決と同一の点において違法があるのでその取消を求める。

 原告浜野清の請求の原因。

(一) 別紙第四目録記載の物件は原告浜野清の所有であるところ、南犬飼村村長は右不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定し、これを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したが同原告は右評価に不服があつたので南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をした。而して同原告は口頭審理の手続によるべきことを申請したのである、ところが同委員会は口頭審理の手続を経ないで昭和二十六年十二月十七日審査の決定をした。

(二) 同原告は右審査の決定に不服があつたので昭和二十七年一月十二日被告に訴願したが被告は同年四月十二日原告の訴願を棄却する旨の裁決をした。しかし右訴願の裁決は前記渡辺勇の訴願の裁決中(二)の(ロ)、(ハ)に掲げた事項と同一の違法があるのでその取消を求める。

 (証拠省略)

 被告指定代理人等は主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

 原告渡辺勇の請求の原因に対する答弁。

 原告渡辺勇の主張事実中、(一)の事実は認める。(二)の事実中、審査の請求、決定、訴願及びこれに対する裁決の経緯は認める。尤も原告渡辺勇が審査の請求に際し口頭審理の手続によるべきことを申請したとの点は否認する。その余の点は争う。なお、原告渡辺勇の審査の請求決定及び訴願の内容等は別紙記載のとおりである。而して、同原告が被告のなした訴願の裁決を違法ならしめるものとして主張する事実中、(イ)の地方税法第四百八条の固定資産の実地調査に関する規定は評価を適正に行うための訓示規定と解すべきである。およそ固定資産の価格の決定はそれによつて固定資産税の課税標準を得ることを窮極の目的とするものである。従つて仮に実地調査を行つたとしてもそれによつて評価決定された価格が適正を欠くものであるならばその価格決定は違法であり実地調査をしなかつたとしても決定した価格が適正であるならばその価格決定が無効であるとか取消し得べきものとなるということはない。南犬飼村における農地の評価方法は実地調査にかえて同村の農業調整委員会が作成した地力調査表を使用したものであるが、地力調査表は農業調整委員会において実地調査をし種々の資料に基いて慎重審議した結果作成されたものであつて農地の収益力等地力決定に必要な要素を充分検討して作つたものであるから固定資産税に関する評価をなすについては最適の資料である。蓋し地方財政委員会が地方税法第三百八十八条第二項第二号に基き指示した「土地及び家屋に係る評価基準」によれば農地の評価の方法は収益還元の方法をとるべきこととしているが、それは農地の価格は土地の収益力如何によつて左右されるものとみているからである。従つて地力調査表に基く評価は合理的であるといわなければならない。もとより法律の解釈上は地力調査表を以て実地調査にかえ得るものとすることはできないとしても実質上はこれを評価の資料とすることは不当でない。しかも結果からみればこれによつて適正な評価がなされているのである。従つて実地調査をした事実がないからといつて価格決定の効力に影響を及ぼすものということはできない。(ロ)の点については原告渡辺勇から訴願の提起がなされていず従つてそれについて被告は裁決をしていない。なお他の家屋の評価については前掲「土地及び家屋に係る評価基準」に則り被告が南犬飼村において設定された標準家屋(家屋の種類別及び坪当再建築価格の級別によつて設定したもの)を対象として調査したところ、南犬飼村固定資産評価審査委員会の決定した価格は相当であるので訴願を棄却したのである。又標準家屋以外の家屋に比して均衡を失している点は認められない。(ハ)の固定資産評価審査委員会が審査を口頭審理の手続によつてしなかつたという点は原告渡辺勇は口頭審理の手続によるべきことの申請をしていないのであるから同委員会の審査の手続には何等の違法もない。

 原告大栗雪の請求の原因に対する答弁。

 原告大栗雪の主張事実中(一)の事実は認める。(二)の事実中審査の請求、決定、訴願及びこれに対する裁決の経緯は認めるがその余の点は争う。なお原告大栗雪の審査の請求、決定及び訴願の内容等は別紙記載のとおりである。而して同原告が被告のなした訴願の裁決を違法ならしめるものとして主張する事実中、(イ)の点及び(ロ)の点については原告渡辺勇に対する答弁として主張したとおりであり(尤も原告大栗雪は家屋についても訴願している)(ハ)の点は、原告大栗雪の口頭審理の手続によるべきことの申請は南犬飼村固定資産評価審査委員会において時期に遅れてなされたものとして受理しなかつたため同委員会は口頭審理の手続によらなかつたのである。南犬飼村においては地方税法第四百三十一条に基く固定資産評価審査委員会条例第四条により制定された南犬飼村固定資産評価審査委員会規則第四条第二項を以て口頭審理の手続によるべきことの申請は審査の請求と同時になすべきことと定めているのに、同原告の口頭審理の手続によるべきことの申請は審査の請求の日より遙かに遅れ、審査決定をする直前の頃になされたものである。そのため南犬飼村固定資産評価審査委員会は、それを受理して口頭審理の手続を開くときは地方税法第四百三十三条第一項所定の三十日の期間内に審査の決定をすることが不能であると考え、右申請を受理しなかつたのである。従つてそのため同委員会の審査の決定が違法になると解することは無理である。仮りに同委員会のなした右規則の解釈に誤があつたとしても、固定資産の評価は適当になされていて、これを同委員会に差戻して改めて口頭審理による手続を行つた後に更に決定せしめる実質上の必要も認められなかつたので被告は同原告の訴願を棄却したのである。

 原告野口菊太の請求の原告に対する答弁。

 原告野口菊太の主張事実中、(一)の事実は認める。(二)の事実中審査の請求、決定、訴願及びこれに対する裁決の経緯の点は認めるがその余の点は争う。なお原告野口菊太の審査の請求、決定及び訴願の内容等は別紙記載のとおりである。而して同原告が被告のなした訴願の裁決を違法ならしめるものとして主張する事実中、(イ)の点及び(ロ)の点については原告渡辺勇に対する答弁として主張したとおりである。(尤も原告野口菊太は家屋についても訴願している。)(ハ)の点については南犬飼村固定資産評価審査委員会は口頭審理の手続による審査をしている。従つて原告野口の訴願を棄却した被告の裁決には違法はない。

 原告浜野清の請求の原因に対する答弁。

 原告浜野清の主張事実中(一)の事実は認める。(二)の事実中審査の請求、決定、訴願及びこれに対する裁決の経緯は認めるがその余の点は争う。なお原告浜野清の審査の請求、決定、及び訴願の内容等は別紙記載のとおりである。而して同原告が被告の訴願の裁決を違法ならしめるものとして主張する事由中、家屋の評価の均衡がとれていないという点については原告渡辺勇の(二)の(ロ)の点に対する答弁として主張した事実と同一である。又口頭審理の手続によらなかつたという点はこれを争う、実際に口頭審理の手続をとつたものである。従つて原告浜野の訴願を棄却した被告の裁決には違法はない。

 (証拠省略)

 

       

 

 

理   由

 

 原告渡辺勇の請求について判断する。

一、別紙第一目録記載の不動産が原告渡辺の所有に属すること、南犬飼村(その後壬生町に合併)村長が右不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定しこれを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したところ、同原告は右評価に不服があるとして南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をしたこと、同委員会が口頭審理の手続を経ないで昭和二十六年十二月十七田審査の決定をしたこと及び同原告が右審査の決定を不服として昭和二十七年一月十二日被告に訴願したところ被告が同年四月十二日右訴願を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争がない。(尤も別紙第一目録記載の家屋に対する訴願があつたこと及びこれに対する棄却の裁決がなされた事実は被告の争うところである)而してその審査の請求、決定及び訴願の内容等が別紙記載のとおりであるとの被告の主張事実は原告渡辺において明かに争わないので自白したものとみなすべきである。

  而して別紙第一目録記載の家屋についての南犬飼村固定資産評価審査委員会の決定に対して原告渡辺が訴願した事実及びこれに対して被告が棄却の裁決をした事実は被告の争うところであるのに少くとも被告が棄却の裁決をした事実を肯認せしめる証拠がない。従つてこの裁決の取消を求める原告の請求部分は失当である。

 

 

二、よつて被告のなした前記訴願の裁決が違法であるとの原告渡辺の主張について判断する。

 (一) 始めに同原告主張の(二)の(イ)の点について考えてみるに、南犬飼村村長が別紙第一目録記載の農地についての価格を決定するに当り地方税法第四百八条に違反して右土地につき固定資産評価委員又は固定資産評価補助員に固定資産の状況を実地に調査させなかつたことは当事者間に争のない事実である。

 

そこで右地方税法第四百八条の実地調査に関する規定が原告等の主張するように効力規定であるか或は被告の主張するように訓示規定であるかについて考えるに、同法条は一月一日現在における時価を定めるためにはその固定資産の状況を毎年一回実地について調査するのが適当であるとの技術的見地から設けられたものであつて、それ以外の事柄を考慮して設けられたものとは考えられないから訓示規定であると解する。

 

 

尤も租税は国民にとつては犠牲と負担とを伴うものであるから税額の基となるべき固定資産の評価決定の任に当る市町村長は、その評価の適正と均衡とに留意し、それが効力規定であると訓示規定であるとを問わず、これについて定められた法律に従うべきであることはいうまでもないから、南犬飼村村長が価格の決定に際して評価員又は評価補助員に実地について土地の調査をさせなかつたということは、そのとるべき措置をとらなかつたことの非難は免れない。

 

 

けれども実地調査にかわる措置としてとつた調査方法が不当であつてそのためそれに基いてなした価格の決定が適正でないとすれば格別、そうでない限り実地調査をしなかつたという理由だけではその決定の効力を否定すべきではない然るところ、成立に争のない甲第一号証同第二号証の一、二同第三号証、同第四号証の一乃至三、同第五号証の一乃至四同第六号証、乙第一号証の一乃至六、同第二、三号証の各一、二同第五号証の一乃至四、証人北条栄、山野一雄、鈴木正一、中川芳雄及び谷清作の各証言を綜合すれば、南犬飼村村長は、昭和二十六年度の村内所在の固定資産中農地の評価については昭和二十四年に同村農業調整委員会が米麦の供出割当の資料にするため一筆調査の上面積を確定(面積は台帳面積を基礎にして、縄のび、作付不能区域、通路、水路等は等級決定に勘案した)し、又作物の種類、平年作、収穫量その他の事情を勘案し、各耕作者に異議があれば充分これを斟酌した上で地力の等級を格付した地力調査表を資料にし、地方税法第三百八十八条第二項第二号に基いて自治庁長官が作成指示した土地及び家屋の固定資産評価基準の趣旨に従つて評価したものであること及び原告渡辺が南犬飼村村長のなした価格の決定を不服として南犬飼村固定資産評価委員会に審査の請求をしたので同委員会はこれについて審理した結果別紙のとおり決定したものであることが認められる。

 

そうだとすれば南犬飼村村長のとつた調査の方法は、同村固定費産評価審査委員会のなした価格の決定に影響を及ぼす程の不当な措置であるとすることはできない。

 

 (二) 次に原告渡辺主張の(二)の(ハ)の点について按ずるに、同原告が南犬飼村固定資産評価審査委員会に対して口頭審理の手続によるべきことの申請をしたという事実は被告の争うところであるのにこれを肯認せしめる証拠がないからこの点の主張も採用できない。

 

三、以上の理由により原告渡辺勇の本訴請求は全部棄却を免れない。

 

 

 

 

 原告大栗雪の請求について判断する。

 

一、別紙第二目録記載の不動産が原告大栗雪の所有に属すること、南犬飼村長は右不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定し、これを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したところ、同原告は右評価に不服があるとして南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をしたこと、同委員会が口頭審理の手続を経ないで昭和二十六年十二月十七日審査の決定をしたこと及び同原告が右審査の決定を不服として昭和二十七年一月十二日被告に訴願したところ被告が同年四月十二日右訴願を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争がない。而してその審査の請求、決定及び訴願の内容等が別紙記載のとおりであるとの被告の主張事実は原告大栗において明かに争わないので自白したものとみなすべきである。

 

 

二、よつて被告のなした右訴願の裁決が違法であるとの原告大栗の主張について判断する。

 

 (一) 始めに原告大栗の、南犬飼村村長が別紙第二目録記載の農地に対する固定資産税の課税基準たる評価の決定をするについて実地調査をしなかつた違法があるとの主張について考えてみるに、この点についての原告大栗の主張及びこれに対する被告の主張は原告渡辺のこの点に関する主張と全く同一であるところ、当裁判所のこれに対する事実の認定及び法律上の判断も前記渡辺の主張についてなした二の(一)における説明と全く同一である。従つて農地について実地調査がなされていないことを根拠とする原告大栗の主張は排斥を免れない。

 

 

 (二) 次に原告大栗の別紙第二目録記載の家屋に対する評価の均衡がとれていない違法があるとの主張について考えてみるに、

 

固定資産の評価が均衡を保たねばならないことはその適正でなければならぬことと同様に重要なことであつて若し或者の固定資産が同種の固定資産の一般的な評価に比して著しく高く評価されているとすれば、

 

その評価は、それが時価を下廻るものであつたとしても違法となると解すべきである。

 

 

 

しかしこれを本件についてみるに、原告四名の本人尋問の結果によれば、別紙第二乃至第四目録記載の各家屋についての南犬飼村村長の評価及び同村固定資産評価審査委員会の価格の決定が、

 

他の一部上級の家屋に比してその等級の差を考慮に入れてもなお高価に見積られていることが窺われなくはないけれども、

 

その差の程度が必ずしも明かでないのみならずその評価が一般の標準に比してもなお高価に決定されていることが証拠上認められないから

 

本件訴訟に現れた証拠の上からは右評価が均衡を破る違法なものであると断定することはできない。この点の主張も排斥を免れない。

 

 

 (三) 最後に原告大栗の南犬飼村固定資産評価審査委員会が口頭審理の手続によらなかつたとの主張について考えるに原告大栗が口頭審理の手続による審査の申請をしたにもかかわらず同委員会が口頭審理の手続によらなかつたことは当事者間に争がない。

 

 

而して成立に争のない甲第一号証及び第三号証証人中川芳雄の証言を綜合すれば、南犬飼村においては地方税法第四百三十一条第一項の規定に基き、南犬飼村固定資産評価審査委員会設置条例の定めにより南犬飼村固定資産評価審査委員会規則を制定したがその第四条において同委員会に対する審査を請求するに当り口頭審理の手続を申請するには申請書にその旨を記入すべきことと定められているのに原告大栗は、審査の請求を昭和二十六年十一月二十日にしたにも拘らず、口頭審理の手続によるべきことの申請をしたのはその後相当の日子を経過した後であつたので、既に書面による審理とし、実地調査をもすませた後であつたため、同委員会は右申請を容れてあらためて口頭審理の手続によるとすれば地方税法第四百三十三条第一項所定の期間内に審査の決定をすることができないものと判断して口頭審理の手続によらずして審査を続けて決定したものであることが認められる。

 

 

以上の認定を覆えすに足る証拠はない。ところで地方税法第四百三十三条第二項によれば審査の請求をした者は口頭審理の手続によるべきことを申請し得る旨定めているのみで、口頭審理の手続の請求は審査の請求と同時になすべきことを要件としていないのに、条例に基く規則の解釈として口頭審理の手続によるべきことの申請は必ず審査の請求と同時でなければならないとすることには疑を挿む余地がないでもないが、しかし地方税法第四百三十三条によれば審査の決定は審査の請求を受理した日から三十日以内になすべく右期限までに決定をしないときは審査の請求を却下する旨の決定があつたものとみなすことができることになつている点に鑑み、前記認定の如き事実関係の下に南犬飼村固定資産評価審査委員会が口頭審理をしないで審査の決定をしたとしてもこれを以て地方税法第四百三十三条第二項に違反した手続であるとすることはできない。さればこの点の主張も結局採用することができない。

 

三、以上の理由により原告大栗雪の本訴請求は全部棄却を免れない。

 

 

 

 

 

 原告野口菊太の請求について判断する。

 

一、別紙第三目録記載の不動産が原告野口菊太の所有に属すること、南犬飼村村長が右不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定し、これを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したところ、同原告は右評価に不服があるとして南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をしたこと、同委員会が昭和二十六年十二月十七日審査の決定をしたこと及び同原告が右審査の決定を不服として昭和二十七年一月十二日被告に訴願したところ被告が同年四月十二日右訴願を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争がない。而してその審査の請求、決定及び訴願の内容等が別紙記載のとおりであるとの被告の主張事実は原告野口において明かに争わないので自白したものとみなすべきである。

 

 

二、よつて被告のなした右訴願の裁決が違法であるという原告野口菊太の主張について判断する。

 (一) 始めに原告野口の、南犬飼村村長が別紙第三目録記載の農地に対する固定資産税の課税基準たる評価の決定をするについて実地調査をしなかつた違法があるとの主張について考えてみるにこの点についての原告野口の主張及びこれに対する被告の主張は原告渡辺のこの点に関する主張と全く同一であり、当裁判所のこれに対する事実の認定及び法律上の判断も前記渡辺の主張についてなした二の(一)における説明と全く同一である。従つて農地について実地調査がなされていないことを根拠とする原告野口の主張は排斥を免れない。

 

 

 (二) 次に原告野口の別紙第三目録記載の家屋に対する評価の均衡がとれていない違法があるとの主張について考えてみるに、この点についての当裁判所の事実の認定及び法律上の判断は、原告大栗のこの点に関する主張に対してなした二の(二)における説明と全く同一である。従つてこの点の主張も採用できないことになる。

 

 

 (三) 最後に原告野口の南犬飼村固定資産評価審査委員会が口頭審理の手続によらなかつたとの主張について考えるに、成立に争のない甲第二号証の一及び証人中川芳雄の証言を綜合すれば、同委員会は、原告野口の審査の請求に対しては口頭審理の手続によつたことが認められるからこの点の主張も排斥を免れない。

 

 

 

三、以上の理由により原告野口菊太の本訴請求はいずれも棄却を免れない。

 

 

 

 

 原告浜野清の請求について判断する。

 

一、別紙第四目録記載の不動産が原告浜野清の所有に属すること、南犬飼村村長が右不動産に対する昭和二十六年度の固定資産税賦課のためその価格を決定しこれを固定資産課税台帳に登録して縦覧に供したところ、同原告は右評価に不服があるとして南犬飼村固定資産評価審査委員会に審査の請求をしたこと、同委員会が昭和二十六年十二月十七日審査の決定をしたこと及び同原告が右審査の決定を不服として昭和二十七年一月十二日被告に訴願したところ、被告が同年四月十二日右訴願を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争がない。而してその請求、決定及び訴願の内容等が別紙記載のとおりであるとの被告の主張事実は原告浜野において明かに争わないので自白したものとみなすべきである。

 

二、よつて被告のなした右訴願の裁決が違法であるとの原告浜野の主張について判断する。

 

 (一) 始めに原告浜野の別紙第四目録記載の家屋に対する評価の均衡がとれていない違法があるとの主張について考えてみるにこの点についての当裁判所の事実の認定及び法律上の判断は原告大栗のこの点に関する主張に対してなした二の(二)における説明と全く同一である。従つてこの点の主張は採用できない。

 

 (二) 次に原告浜野の南犬飼村固定資産評価審査委員会が口頭審理の手続によらなかつたとの主張について考えるに、成立に争のない甲第二号証の二及び証人中川芳雄の証言を綜合すれば同委員会は原告浜野の審査の請求に対しては口頭審理の手続によつたことが認められるからこの点の主張も排斥を免れない。

 

三、以上の理由により原告浜野清の本訴請求は棄却を免れない。

 

 以上説明したように原告等の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して主文のとおり判決する。

 

 (裁判官 石田 実)

 (別紙省略)