課・徴税平等の原則

 

 

関税賦課徴収処分無効確認等請求控訴事件

 

 

【事件番号】 大阪高等裁判所判決/昭和42年(行コ)第4号

 

【判決日付】 昭和44年9月30日

 

【判示事項】 課・徴税処分の違法性が無効事由とまではいえないとされた事例

 

【判決要旨】 判示のような事情ある場合における法定の課・徴税処分は租税法律主義ないし課・徴税平等の原則に反し違法ではあるが、その瑕疵は客観的に明白とはいえない。

 

【参照条文】

 

関税法3

      

関税定率法3

      

昭和36年第26号関税定率法の一部を改正する法律(昭和36年3月31日公布、同年6月1日施行)中の関税率表の適用に関する通則3

      

関税定率法の別表(昭和36年法律第26号により改正された分)第7部第39類

      

関税定率法の別表(昭和36年法律第26号により改正された分)第13部第70類

 

【掲載誌】  高等裁判所民事判例集22巻5号682頁

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

事   実

 

 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二三一万〇、四一〇円およびこれに対する昭和三六年九月二六日から支払済みに至るまで日歩三銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

 被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、つぎのとおり追加するほか、原判決事実欄の記載と同一であるので、みぎ記載を引用する。

一、控訴代理人

 (一)本件物品に重要な特性を与える物品はガラス小球である。

   すなわち、本件物品は、その主たる用途から言つて「信号用品」に当るから、「本件物品に重要な特性を与える物品」は、本件物品の特性である再帰反射作用(光源に向つて集中反射する作用)を発生させるにつきいかなる物質が主要な役割を果しているかを基準として判断すべきものであるところ、みぎ基準に従つて判断すれば、再帰反射作用と言う光学的作用はガラス小球の収斂作用を不可欠の要素としたものであって、本件物品が再帰反射作用を発生するにつきガラス小球は他の物品をもつて代替することのできない主要な役割を果す物品であると言うことができる。これに反して、合成樹脂はガラス小球の固着、および反射層との間隙を一定に保つことを主たる役割としているものであつて、組成上量的にはガラス小球より多量を占めているとしても、再帰反射作用を発生させるについて主要な役割を果している物品ではないから、「本件物品に重要な特性を与える物品」と言うことはできない。

(二)関税法の解釈、適用は全国的に統一されたものであることを要し、特定納税者ないし特定地域の納税者のみに限り他の一般納税者より著しく不利益な税率で徴税をする課税処分は、違法な処分または明白且つ重大な瑕疵のある処分として当然無効である。

  およそ、課税処分は国家が国民に対して強制的に一定の経済上の負担を命ずる行政処分であるから、全国民に公平な課税をすることが肝要であつて、憲法八四条の趣旨は行政庁の恣意的な徴税を禁圧すると共に、全国一率の税率による公平且つ平等な徴税を保障するにあるから、人的、地域的に差別的な税率による課税処分をした場合には、それ自体明白且つ重大な瑕疵がある処分として当然に無効である。関税法は政策的見地から課税対象や税率がしばしば変更され、その全国的に統一された解釈、適用を保持するために行政通牒が発せられるのであるが、このような通牒がないときには、課税処分官庁は処分の時点に近接した時期における先例慣行に従つて関税法の運用をなすべきものであつて、このような一般的な徴税よりも納税者に不利益な徴税をしてはならない。

 本件の場合について見ると、本件物品に対する課税処分と同一時期におけるこれと同一品種の物品に対する関税として横浜および大阪の各税関が二〇%の徴税をしたのに対し、神戸税関の課税が三〇%であつたことは既に述べた(原判決事実欄記載)とおりであるから、みぎ神戸税関の課税処分は、他の税関の課税率を超過する一〇%に相当する部分について無効である。

 なお、日本全国の税関は昭和三七年三月以降約一年半の間本件物品をガラス製信号用品に該当するものとして、全国的に関税定率法別表第七〇一四号を適用していた(税率二〇%)のであるから、本件物品に対する課税当時においても、本件物品をガラス製品として取扱うが相当であつたことをうかがうことができるのであつて、本訴提起後の提議に基づく第二二回関税協力理事会の決議(乙第二号証)およびみぎ決議に基づく全国税関の取扱いは本件物品に対する課税当時における法律の解釈適用の参考にはならない。

(三)本件物品に対して三〇%の関税を課したのは憲法八四条、一四条に反する。特定の納税者または特定地域内の納税者に対し差別的に他の一般納税者より高率の課税をする処分は、たとえみぎ課税処分がそれ自体としては法律の文理解釈上許されるものであつても、前記憲法の規定に違反するものとして無効である。

(四)仮に、原判決で判示しているように、法律の文理解釈上適法なものと認められる課税処分は、たとえ人的、地域的に差別的なものであつても、処分官庁が差別的であることを知らず且つ知らなかつたことについて善意無過失であれば、当然無効にならないとしても、本件の場合には、つぎに述べるように、神戸税関の鑑査官が故意または過失によつて課税物品の構造および他の税関の取扱いを誤認または看過し、その結果本件の場合に限り他の一般の場合より差別的に高率な課税をするに至つたのであるから、みぎ課税処分は明白かつ重大な瑕疵がある処分として、当然に無効である。

 (1)神戸税関が本件物品に対して関税を課した当時、同税関の鑑査官は本件物品がガラス小球を主要構成物品とするものであることを知つていたものである。かりに知らなかつたとすれば重大な過失によつて知らなかつたものである。

(イ)控訴人は昭和三五年一一月頃から昭和三六年五月末頃までの間に神戸税関を通じて既に八回に亘つて本件物品と同一品種の物品を輸入しているから、本件物品の輸入当時同税関鑑査官は、当然に、ガラス小球が本件物品の主要構成物品であることを知つていたか、然らずとするも当然これを知つておるべきである。

(ロ)昭和三六年五月頃全国各税関の鑑査官会議において、紙で裏打ちされたシートの上にガラス球が塗布してある物品の税表分類について模擬的に協議の結果七〇一四号適用の決議がなされている。みぎ物品が本件物品および検甲第二号証の物品を含むことは神戸税関の鑑査官においても当然に了知していたはずである。

(ハ)本件物品は昭和二一年に米駐留軍によつてわが国に持ち込まれ、警視庁によつて都電の安全地帯や電車の後尾に貼付されたりしていたが、昭和二五年以後は正式に輸入販売され急速に一般に普及した物品であるから、輸入通関手続の専門機関である税関にとつては本件物品の組成構造等は公知の事実であつて精密な検査をまつまでもないことであつた。

(ニ)検甲第二号証の物品を肉眼で見ただけでその中にガラス小球が入つていることを識別することができる者は、みぎ物品について予備知識を持つている者に限られるところ、このような予備知識を持つている者は、当然に、本件物品にも主要構成物品としてガラス小球が存在していることを知ることができるはずである。したがつて、ガラス小球の存在を認識するについては、本件物品と検甲第二号証の物品との間に差異があるはずはない。

 (ホ)本件物品中にガラス小球が存在していることは、精密な化学的分析等をするまでもなく簡単な顕微鏡検査によつて容易に認識することができる。

 (ヘ)検甲第二号証の物品と本件物品とは、ともに、スコツチライトに属し、基本的には同一の組成構造をもつものであるから、両者を異なる物品として分類するのは誤りであることは、専門家である鑑査官において容易に知ることができることであつた。

(2)神戸税関の係官が本件物品と同一品種の物品についての他の税関の取扱い慣行を調査せず、そのために他の税関と異なる税率の関税を徴収したのは、故意または重大な過失による過誤と言うことができる。

  すなわち、前述したように、本件物品類似の物品に対する関税に関しては、昭和三六年五月頃の全国各税関の鑑査官会議で模擬討議の議題となつたこともあるから、その後本件物品に関税を課するに当っては神戸税関の係官は当然に本件物品をガラス製品として取り扱うべきか合成樹脂製品として取り扱うべきものであるかに疑念を懐き、大蔵省関税局に連絡して同一品種の物品に対する関税徴収の前例があるかどうか、あるとすれば取扱如何を問い合せ、これを参考にして本件物品の関税率を決定すべきであつたのに、神戸税関係官がみぎ程度の労を惜しみ、不平等取扱いの過誤を犯したのは、故意または重大な過失に基づく違法な課税処分と言うことができる。

(3)本件の超過課税は控訴人の過失によつて生じたのではない。控訴人は税関の鑑査官は本件物品中にガラス小球のあることを当然知つているものと思い、みぎガラス小球に関することを神戸税関に告知しなかつたのであるから、本件超過課税がみぎ告知をしなかつた控訴人の過失から生じたと言うことはできない。

  (4)、以上のように、本件物品に対する合成樹脂製品としての税率による課税処分は明白且つ重大な瑕疵ある処分であるから、控訴人からみぎ処分に対して適法な不服の申立てがなくても、当然に無効である。

二、被控訴代理人

(一)本件物品の再帰反射作用と言う特性はガラス小球のみによつて生み出されるものではない。

   すなわち、本件物品の再帰反射作用においては、ガラス球、アルミニユーム反射層および合成樹脂の透明間隙層の三つがそれぞれ重要な作用を営んでおり、みぎ三者の総合作用が本件物品の高度の再帰反射作用を可能にしているのであつて、アルミニユーム反射層または合成樹脂の透明間隙層がなければ再帰反射はおろか単純反射さえ行なわれないのであるから、アルミニユーム反射層および合成樹脂の透明層もまた本件物品にとつて代替可能性がなく、再帰反射を生み出す基本的な物質であると言わざるを得ない。

(二)「関税率表の適用に関する通則」三、(二)、中の「特性」は再帰反射作用と言う科学的特性のみを指すと解するのは正当でない。

  すなわち、関税率表適用の前提として、或る物品の特性を決定するに当つては、物品の種類によつて変化はあるが、一般的には、その材料または成分の性質(量、価格等)およびその物品を使用する際の構成要素の役割等の諸要素を総合的に判断して決定すべきであり、科学的特性のみで判断すべきではない。そして、本件物品は極く薄いシート状のものでロール巻きにして取引きされており、ハサミ、ナイフ等で簡単に加工することができ、耐水性、耐腐蝕性が極めて強いというような特性が再帰反射性能と結びついた物品であり、それ故に商品としての特性、実用性を具有しているものであるから、本件物品の特性を判断するに当つては、それらの諸事情を総合勘案すべきである。みぎ総合勘案によると本件物品に重要な特性を与える物品は合成樹脂であると言うべきである。

(三)特定物品の関税率表上の分類は関税定率法自体の正当な解釈に基づいてされるべきで、みぎ物品に対する税関の事実上の取扱実例によつて左右されるべきではない。本件物品と同一品種の物品についての関税率については、税関により区区の分類取扱いになつていたので、昭和三七年三月一六日大蔵省関税局の通達により七〇一四号に分類する旨取扱いを全国的に統一したが、本件物品は米国製で多くの国が米国からこれを輸入しているが、これらの国のうち日本と同様にブラツセル関税品目表を採用している諸国の間でも、みぎ物品の関税率表の分類が区区であつたので、第二二回関税協力理事会の席上、被控訴人は本件物品についての関税率の国際的統一を提議したのであつて、本件訴訟に対処するためにみぎ提議をしたのではない。

  みぎ関税率表上の分類を同種物品についての具体的な分類の実例にならつて定めた場合には、分類が浮動的で定着性のないものになり極めて好ましくない状態を生み出す原因になるから、法の安定上関税定率法自体の文理解釈に基づいて分類をする方が好ましい。

(四)本件物品に対する神戸税関による三〇%の課税は、みぎ税関が恣意的にしたものではない。すなわち、

(1)控訴人が昭和三五年一一月から昭和三六年五月までの間に神戸税関を通じて八回に亘り「スコツチライト」を輸入したことは事実である。但し、みぎスコツチライトが本件物品と同一品種のものであつたか、検甲第二号証の物品であつたかは不知。

  したがつて、本件物品の輸入当時スコツチライトは神戸税関にとつて全く未知の物品であつたと言えないものであつた。しかしながら、控訴人主張のみぎ八回に亘る輸入がなされたのは、改正前の関税率表が施行されていた頃であるが(現行の関税率表は昭和三六年六月一日施行された。)、当時は、スコツチライトは旧税率表の一七四九号二・乙に該当するものとされていた。その理由は、スコツチライトは裏打のための厚紙または布はく、反射膜、透明な色層、ガラス球等から構成されたものであつて、他の税番のいずれにも該当しない物品であつたからである。したがつて当時にあつてはスコツチライトを分析してその組成構造を知る必要はなかつた。

(2)昭和三六年六月一日現行の関税率表が施行されたが、この関税率表は旧関税率表を全面的に改正したもので、輸入物品にこの関税率表を適用するに当つては、物品の所属は関税定率法別表中の「関税率表の適用に関する通則」に基づいて決定されることになつた。したがつて、スコツチライトについても、全く新たな観点から、適用すべき税番を決定することが必要になつた。

 みぎ関税率表の改正に際し、これに対処するために、神戸税関における鑑査官の配置も全く変更され、本件物品の輸入に際しては、従来「スコツチライト」の輸入を担当したことのない鑑査官が担当することになつた。担当鑑査官は、本件物品と同時に輸入された検甲第二号証の物品については、大粒のガラス球が表面に多数露出しているために、七〇一四号に該当するものと判断したが、本件物品については肉眼でガラス球を認めることができないので、本件物品の組成構造を最もよく知つているはずの控訴人に対して、代理人である通関業者を通じて説明を求めたところ、金属の膜を用いた合成樹脂のシートであるとの説明があり、本件物品を分析しようとすると、引取りを急いで分析を嫌う態度を示すので、通関業者の申立てを信用して、本件物品は三九〇一号に該当するものと決定したのである。以上の経過であるので、本件物品の輸入に際し、担当官のとつた措置には何らの手落もない。

(3)昭和三六年五月頃全国各税関の鑑査官会議では、新関税率表実施に際し、同表の構成分類方針についての説明が主として行なわれ、あわせて、旧関税率表時代の輸入物品が、新関税率表ではいずれに該当すると考えるのが妥当かを短時間に全般的に討論したものである。したがつて、みぎ討論の論点について決議がされたわけではなく、通達が出されたわけでもなく、実際に税番を決定するに当つての参考程度のものが示されたに過ぎなかつた。

 (4)控訴人から神戸税関に対してカタログを提出して本件物品中にガラス小球が存在していることを申し立てたのは昭和三六年九月のことで、同年五月のことではない。けだし、同年五月は旧税率表の施行当時であつたから本件物品の組成が問題になる筈がなく、また控訴人は同年九月神戸税関を来訪したことがあるからである。

(5)本件課税処分は憲法八四条一四条に違反しない。本件課税処分は、前述したように、関税定率表の正当な解釈に基づいてされたものであつて、恣意的になされた処分ではない。したがつて、たまたま他の税関で神戸税関におけるより低い税率の処分がなされたとしても、それがために本件課税処分が違法な処分となるものではないことは言うまでもないことである。

三、証拠関係(省略)

 

       

 

 

理   由

 

一、(一)控訴人の営業、(二)控訴人輸入の本件物品に対する関税の賦課徴収の各事実関係、ならびに、(三)関税定率法別表の関税率表(以下別表と略称する)およびみぎ別表中の「関税率の適用に関する通則(以下通則と略称する」)の文理解釈上、本件物品が別表何号所定の物品に該当するか(別表七〇一四号所定の物品に該当せず、同三九〇一号四所定の物品に該当するものと認める)の点に関する当裁判所の判断は、つぎのとおり追加、変更および削除をするほか、原判決理由欄の記載の冒頭から同一四枚目表一行目末尾までと同一であるので、みぎ記載を引用する。

  原判決一三枚目(三三九丁)表三行目冒頭から同枚目裏九行目末尾までをつぎのとおり変更する。

 

 

 「関税率は国内産業の保護、国際収支の調整を目的とする不急・不要物品の輸入の抑制、特定の物品に対する国内の税負担に均衡する関税の徴収、国際条約または協定、国際相互主義、特恵関係その他の国際政治・外交・経済に亘る政策上の配慮等多面に亘る考慮から定められているから、特定の物品にどの関税率を適用するのが相当であるかを判断する際には、法規の文理解釈だけからその物品が関税率表の何号に該当するか明瞭な場合は別として、そうでない場合には、特定の物品に対し特定の関税率を定めた趣旨に副うように法令等を解釈適用しなければならないのであつて、別表の二以上の号に該当する物品についてそのうちのいずれの号によつて関税を課すのが相当であるかを通則三、(二)を適用して判断する場合にも、いわゆる「その物品に重要な特性を与える物品」の意味を、みぎ各号所定の関税率を定めた趣旨を汲んで解釈しなければならない。

 

 

 前認定の事実関係から明らかなように、本件物品は交通標識の材料であつて、交通信号用品と認むべき物品であるところ、それがガラス製品であるか合成樹脂製品であるかによつて関税率を異にしているのは、一面において関税に関する国際協定や関税の国際相互主義に由来する点も多少あるようであるが(当審の調査嘱託に対する大蔵省関税局長の昭和四三年四月八日および同年六月五日の回答書参照)、

 

主として、国内のガラス産業は比較的に、国際競争力が強く高率の関税をもつて保護育成する必要も少いのに対して、国内の合成樹脂産業は、比較的に、国際競争力が弱く高率の関税をもつて保護育成する必要が多かつたことに由来するものと解するのが相当である。

 

 

このように、両製品についての関税率の差異は産業保護の必要程度についての両産業の差異に由来しているから、本件物品が別表の何号に該当するかを判断する際には、国内の合成樹脂産業ないしガラス産業のいずれに保護を与えるかを基準として判断しなければならない。

 

したがつて本件物品の再帰反射作用と言う科学的特性を発揮させるについて最も高度の貢献をした物品がガラス製品部分であるか合成樹脂製品部分であるかは、本件物品が別表の何号に該当するかを判断する一資料にはなるが、必ずしも決定的に重要な資料と言うことはできない。

 

 そこで本件物件に通則三、(二)、(三)を適用して前記別表の何号に該当するかを判断すると、通則三、(二)による判断としては、(1)本件物品を構成している物品のうち、ガラス小球の部分と合成樹脂の部分のいずれが材料として高価額であるかを判断する資料は皆無で、この点を明確にするのは困難であり(当審の調査嘱託に対する住友スリーエム株式会社の回答書参照)、(2)本件物品の輸入によつて損失を受けるのがガラス製造、加工業者であるか合成樹脂製造、加工業者であるかも判別できないし(前認定のように本件物品は国際特許品であるので国内には競走産業がない。また、前認定の本件物品の構造によると、本件物品の価格の構成は、特許実施料、技術料を含む加工賃が大部分を占め、原材料代金はガラス製品部分も、合成樹脂製品部分も比較的に僅少であることが認められる。)、(3)本件物品の再帰反射作用を生み出すのがガラス製品部分と合成樹脂部分の双方と認められるのであるから、以上の理由によつて、本件の場合は、通則三、(二)によつても本件物品がガラス製品または合成樹脂製品のいずれとみなされるべきものであるか判明しない場合に当ると言わねばならない。したがつて、本件物品に対しては通則三、(三)が適用されることになり、本件物品はガラス製品の税率と合成樹脂製品の税率のうちより高い税率である合成樹脂製品の税率をもつて課税されるべきものである。

 

 

二、本件物品に対する課税処分の経過および三〇%の税率による課税処分がされるに至つた事情、ならびに、みぎ課税処分のあつた期間ないしその前後における本件物品と同一品種の物品に対する課税処分の状況についての当裁判所の判断は、つぎのとおりの追加、変更および削除をするほか、原判決一四枚目表二行目冒頭から同一五枚目裏八行目末尾までの記載と同一であるので、みぎ記載を引用する。

 

 (一)原判決一四枚目表二行目に「ところで、」とある次に、「当審における調査嘱託に対する横浜税関長の回答書ならびに大蔵省関税局長の昭和四三年四月八日付および同年六月五日付各回答書、」と追加挿入し、同三行目から四行目にかけての「右期間内において」との記載と次の句点との間に「(昭和三六年三月三一日改正関税定率法別表施行後、同三七年三月一六日の税関調査部長会議の決定までの間)」と追加挿入し、(二)同枚目表八行目冒頭から同最終行目末尾までの記載を削除し、(三)同枚目裏一行目に「乙第一、二号証」とある次に、句点を置き、その次に「前記調査嘱託に対する三通の回答書」と追加挿入し、同一五枚目表二行目に「物品の所属について」とあるのを「物品が別表何号に該当するかについて」と、同三行目に「右申立以降は」とあるのを「みぎ口頭の不服申立のあつた後に輸入された本件物品と同種の物品については」と、同五行目に「七〇一四」とあるのを「七〇一四号」と、それぞれ改め、(四)同一五枚目裏八行目末尾の次に、行を変えて、つぎのとおり追加する。

 

  「別表は、昭和三六年ブラツセル関税品目表に準拠して採用施行され、全面的に従来の品目表の課税物品の類、品目の組変えを行つたのであるが、みぎ別表の施行に先立つて大蔵省において全国関税鑑査官に対する説明研究会が開催され、その席上、本件物品はブラツセル品目表(関税協力理事会が作成した関税品目分類表である。関税率は各国区区に定めている。)の七〇一四号に付記された『本号の品目はガラス小球を塗布した板であつて、道路標識またはパネルに取りつけるためのものを含む。』との註釈書きに記載された物品に該当するのではないかとの意見が発表されたが、決議として成立するには至らなかつたところ、その後本件物品と同種の物品が通関された際に、横浜税関長(前記期間内に転任により交替した三人とも)および大阪税関伊丹出張所長は前記の意見に従つて二〇%の関税を賦課したのであるが、その後、税関鑑査部長会議も本件物品に対し二〇%の税率で課税する旨を議決したので、その後は全国的に本件物品の関税率は二〇%と統一されていたのであつたが、前記第一〇回関税協力委員会において、七〇一四号の註釈書きに記載された物品は、照明器具、信号用品、装飾用品等に使用されるガラス小球塗布のシートであつて、取付け用に特定の大きさ、形状に裁断されたものを言い、本件物品のように未だ裁断を受けない素材的なガラス小球塗布のシートはみぎ註釈書き記載の物品には該当しない。そのほか本件物品の構造等諸般の事情を参酌して本件物品は別表三九〇一号ないし三九〇六号(いずれも合成樹脂製品)に該当する旨の決議が採用されたのである。(みぎ関税協力委員会の見解は理由に関する限り必ずしも正当でなく、みぎ註釈書き記載の物品はガラス製品とみなされるべきものであるが、本件物品はガラスと合成樹脂の混合品であることを理由とするのが相当である。)」

 

 

三、控訴人は、神戸税関が本件物品を合成樹脂製品であるとしてみぎ物品に対して三〇%の関税を賦課・徴収したのに対して、横浜税関および大阪税関伊丹出張所は本件の課・徴税処分のあつた期間と同一期間中に本件物品と同一品種の物品に対しガラス製品であるとして二〇%の関税を賦課・徴収していたから、憲法八四条、一四条により、本件物品についての神戸税関の課・徴税処分のうち他の税関の税率額を超える部分の課・徴税処分は違法であると主張するので、以下みぎ主張の当否について判断する。

 

 

 憲法八四条は租税法律主義を規定し、租税法律主義の当然の帰結である課・徴税平等の原則は、憲法一四条の課・徴税の面における発現であると言うことができる。

 

みぎ租税法律主義ないし課・徴税平等の原則に鑑みると、特定時期における特定種類の課税物件に対する税率は日本全国を通して均一であるべきであつて、同一の時期に同一種類の課税物件に対して賦課・徴収された租税の税率が処分庁によつて異なるときには、少くともみぎ課・徴税処分のいづれか一方は誤つた税率による課・徴税をした違法な処分であると言うことができる。

 

 

けだし、収税官庁は厳格に法規を執行する義務を負つていて、法律に別段の規定がある場合を除いて、法律の規定する課・徴税の要件が存在する場合には必ず法律の規定する課・徴税をすべき義務がある反面、法律の規定する課・徴税要件が存在しない場合には、その課・徴税処分をしてはならないのであるから・

 

同一時期における同一種類の課税物件に対する二個以上の課・徴税処分の税率が互に異なるときは、みぎ二個以上の課・徴税処分が共に正当であることはあり得ないことであるからである。

 

 

そしてみぎ課税物件に対する課・徴税処分に関与する全国の税務官庁の大多数が法律の誤解その他の理由によつて、事実上、特定の期間特定の課税物件について、法定の課税標準ないし税率より軽減された課税標準ないし税率で課・徴税処分をして、

 

しかも、その後、法定の税率による税金とみぎのように軽減された税率による税金の差額を、実際に追徴したことがなく且つ追徴する見込みもない状況にあるときには、

 

租税法律主義ないし課・徴税平等の原則により、みぎ状態の継続した期間中は、法律の規定に反して多数の税務官庁が採用した軽減された課税標準ないし税率の方が、実定法上正当なものとされ、却つて法定の課税標準、税率に従つた課・徴税処分は、実定法に反する処分として、みぎ軽減された課税標準ないし税率を超過する部分については違法処分と解するのが相当である。

 

 

したがつて、このような場合について、課税平等の原則は、みぎ法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分を、でき得る限り、軽減された全国通用の課税標準および税率による課・徴税処分に一致するように訂正し、これによつて両者間の平等をもたらすように処置することを要請しているものと解しなければならない。

 

 

 本件の場合、既に判示したように、本件物品は、別表および通則の解釈上、本来ならば通則三、(三)により合成樹脂製品の別表三九〇一号四に該当するものとして三〇%の関税を課するのが正当であるけれども、前示二で判示したように、(1)別表施行直前の関税鑑査官の研究説明会の席上で本件物品はガラス製品として七〇一四号に該当する物品であると解すべきであるとの意見が発表され、(2)神戸税関が本件物品に三〇%の課・徴税処分をした期間中に、横浜税関および大阪税関伊丹出張所では本件物品と同種の物品に対し二〇%の課・徴税処分をしていたし、(3)控訴人から神戸税関に対し本件物品に対する課・徴税処分について口頭の不服申立があつて後も、横浜税関および大阪税関伊丹出張所で二〇%の課・徴税処分を受けた本件物品と同種物品の輸入業者に対し、一〇%の税金の追加課・徴税処分があつた形跡は認められず、且つみぎ追加課・徴税処分のある見込みがない事情にあり、(4)本件物品に対する課税処分があつた後間もない頃、税関鑑査部長会議の決議により、全国統一的に本件物品と同種の物品に対しては二〇%の税率による関税を課することとなり、みぎ状態が可なりの期間継続していたのであるから、これらの諸事情に徴し、当時は、大蔵省関税局、全国の各税関および本件物品と同種の物品の輸入業者の多数の傾向としては、みぎ物品に対する関税の税率は別表七〇一四号により二〇%であると観念され、且つその取扱いをしていたのであつて、ひとり本件物品に対する神戸税関の課・徴税処分のみが、三〇%の税率によつたものと認められるのである。

 

 みぎ事実関係の下では、別表および通則の施行された昭和三六年六月一日から、大蔵省関税局長から各税関長宛に本件物品と同種物品の税率を三〇%とする旨の通達があつた昭和三八年一〇月一四日までの間は、

 

租税法律主義ないし課・徴税平等の原則の適用によつて、本件物品と同種の物品の関税の税率は、実定法上全国統一的に二〇%であつて、

 

その期間中に本件物品に対して三〇%の関税を賦課徴収した神戸税関の課・徴税処分は、結局において、

 

超過した一〇%の限度において法律に基づかない違法な課・徴税処分に当ると言うことができる。

 

 

したがつて、本件の場合、別表および通則の解釈上、違法な課・徴税処分として是正を要するのは、横浜税関および大阪税関伊丹出張所における二〇%の税率による課・徴税処分であつて、本件物品に対する神戸税関の三〇%の税率による課・徴税処分ではない旨の被控訴人の主張は採用できない。

 

 四、控訴人は、本訴をもつて、みぎ各課・徴税処分のうち税率一〇%に相当する課・徴税処分の部分は無効であつて、みぎの無効な課・徴税処分に基づいて被控訴人が控訴人から関税名義で徴収した金員、すなわち税率一〇%に相当する金二三一万〇、四一〇円は、被控訴人が控訴人の損失において法律上の原因なくして利得した不当利得金に当ることを請求原因として、被控訴人に対しみぎ金員の支払いを請求していることは、本件記録に徴し明らかである。よつて、みぎ不当利得金返還請求の当否を判断する前提問題として、本件課・徴税処分のうち税率一〇%に相当する部分が、果して無効であるかどうかを判断する。

 

  行政行為は、内在する瑕疵が重大な法規違反であつて、しかも瑕疵の存在が客観的に明白な場合においてのみ、無効となるものと解することができるところ、

 

本件の場合のように、当時大多数の関係税務官庁が当該種類の課税物件に対し法定の基準より軽い課税標準ないし税率による課・徴税処分を事実上していたために、その期間中、本来ならば適法なものであるはずの法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分が、

 

もつぱら課・徴税平等の原則の適用上、違法な処分とされるに至つたものであるときには、

 

みぎ違法によつて生じた当該課・徴税処分の瑕疵は、「客観的に明白なもの」と言うことはできないと解するのが相当である。

 

 

けだし、本件の場合には、さきに判示したように、

 

本件各課・徴税処分は課・徴税平等の原則上違法視しなければならなくなつただけのことで、本来は違法な処分ではなかつたのであり、

 

また、本件物品に対する神戸税関の税率三〇%の関税の各課・徴税処分は、いずれも、同税関の鑑査官が本件物品中にはその構成物品としてガラス製品が含まれていないとの誤認に基づいて税関長が課・徴税処分をしたもので、

 

結果としてはみぎ課・徴税処分は違法なものとなつたけれども、このような違法があるからと言つてみぎ処分に客観的に明白な瑕疵があると言うことはできないからである。

 

 

 したがつて、本件課・徴税処分のうち違法処分とみなされる税率一〇%相当の部分は、法律の解釈適用を誤つた処分として取る消し得るにすぎず、権限のある行政庁の取消しもないのに当然に無効となるものではない。

 

 控訴人は憲法八四条一四条に違反する課・徴税処分は重大且つ明白な瑕疵があるものとして当然に無効であると主張するが、

 

憲法違反の処分は原則として重大な瑕疵ある処分と言うことができるが、

 

重大な瑕疵は必ずしも明白な瑕疵に当ると言うことはできないのであつて、

 

憲法違反の行政処分であつても、その処分に客観的に明白な瑕疵があるかどうかは各場合の具体的事情に基づいて判断するほかない。

 

本件の場合には、さきに判断したように、課・徴税処分の瑕疵は客観的に明白なものと言うことはできないから、控訴人のみぎ主張を採用することはできない。

 

 

五、以上の判断から明らかなように、本件の課・徴税処分は権限ある官庁によつて取り消されるまでは有効なものであるから、被控訴人が控訴人から徴収した金員は、適法且有効に徴収されたものと言うことができるのであつて、これを法律上の原因なく不当に利得したものと言うことはできない。したがつて、控訴人の本訴請求はこの点で失当として棄却すべきものである。

 

  みぎの当裁判所の判断と結論において同旨の原判決は相当で、本件控訴は失当として棄却を免れないから、民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 三上 修 裁判官 長瀬清澄 裁判官 古嵜慶長)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    本判決理由中で引用する原判決理由欄の記載

 原判決理由欄の記載中、本判決理由で引用する部分はつぎのとおりである。

一、原判決理由欄の・記載の冒頭から同一四枚目表一行目末尾まで(但し、同一三枚目表三行目冒頭から同枚目裏九行目までは本判決で変更したので除外する。)

「一、請求原因第一項(原告がスコツチライトの輸入販売を業として行うものであること)及び第二項(昭和三六年六月以降同年九月末日までの間、神戸税関長が原告に対し、原告輸入の本件物件について、関税定率法別表第三九類三九〇一号四-(二)に該当するものとして輸入品価格の三〇%の税率による関税の賦課徴収処分をし、原告がみぎ賦課額をその頃納人したこと)の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、本件物品が関税定率法別表の関税率表(以下関税率表という)に定める物品のいずれに該当するかについて検討する。

 (一)成立に争いない甲第八号証、鑑定人岩田稔の鑑定結果および証人岩田稔、同谷潔、同新山勇の各証言によれば、本件物品の構造は、別紙第二図面のとおりであること、すなわち上面より(1)が着色されたポリエステル系合成樹脂層、厚さ0.1mm、(2)は透明被膜層で同じくポリエステル系の合成樹脂でできたもの、厚さ0.02mm(3)はガラス微粒子およびこれを結合するアクリル酸エステル系の合成樹脂層で、厚さ約0.15mm、(4)はポリビニールプラチラール系の合成樹脂でできた透明間隙層で厚さ0.1~0.15mm、(5)はアルミニユーム反射層で、厚さ推定約104分の5、以上がアクリル酸系合成樹脂の接着剤によつて(6)の基板紙に接着されているものであることが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

(二)ところで、関税率表は「関税率表の適用に関する通則」を定め、その三としてつぎのように規定している(ただし、昭和三六年三月三一日改正、同年六月一日施行され昭和四一年三月三一日まで適用されていたもの)。

  すなわち、

『三、物品がこの表の二以上の号に該当する場合には、別段の定めがあるものを除き、次に定めるところによりその所属を決定する。

  (一)当該物品の種類、性状、用途その他についての限定が最も狭義にされている号に掲げる物品とする。

  (二)二以上の物品を混合し、又は二以上の部品で構成した物品で(一)により所属を決定することのできないものはその物品に重要な特性を与える物品のみから成るものとみなす。

  (三)(一)及び(二)により所属を決定することができない物品はその該当する物品のうち最も高い税率が定められているものとする。この場合において最も高い税率が定められている物品が二以上あるときは、これらのうち価格の合計額が最も高い物品とする。』

 本件物品については、前記認定の構造ならびに組成および当事者間に争いのない本件物品の用途(道路標識、船舶浮標等夜間の標識材料として利用される)からして、その所属は関税率表第三九類「人造プラスチツクおよびその製品)のうちの三九〇一号四-(二)「ポリエステル樹脂のもの」もしくは同号四-(四)「その他のもの」か、或は第七〇類「ガラス及びその製品」のうち七〇一四号「ガラス製の照明器具、信号用品及び光学用品」かのいずれかに決すべきものであることは明らかであるが、同表の各号および部または類の註の規定によつてただちにその所属を決定することは困難なものであるから、右引用の通則三に従つてそれを決すべきものと解されるところ、本件物品については右通則三-(一)によつては決定することはできず、同(二)ないし(三)によつて決定されるものと解する。

  なんとなれば、右(一)によつて所属を決定することができる場合とは、同規定の意味が或る物品の所属が同表上例えば広義ではa号に狭義ではb号に該当するという場合にはb号によつて所属を決定するということであるから、a号とb号との間には広義と狭義という関係(換言すればb号の物品はa号の物品に含まれるという関係)にある場合でなければならず、本件物品について問題となつている三九〇一号四-(二)又は(四)と七〇一四号との間には右のような広義もしくは狭義という関係はないからである。

(三)そこで、右通則三-(二)もしくは(三)によることとして本件物品の所属を以下に検討する。

  前掲各証拠ならびに成立に争いのない甲第七号証によれば、本件物品についてつぎのような事実が認められる。

 まず本件物品は反射光紙(reflective sheeting)といわれるように光の反射をその作用と干るものであるが、その反射のしかたはいわゆる再帰反射であつて、光が投射された方向の比較的狭い或角度範囲内にその大部分の光を投射光の跡を逆行せしめて光源に再帰させる反射作用を有するものであること。

 右再帰反射がどのように行われるかを前記認定の別紙第二図面にもとづいていうと、投射された光はいつたん(1)(2)の合成樹脂層において屈折され、さらには(2)とは屈折率のことなるガラス小球(3)のレンズ作用により(5)のアルミニユーム反射層上に収斂され(光集束)、右反射層によつて反射されてほぼ平行光線として投射光の跡を逆行して投射方向に再帰する(集中反射)ものであること、またその際の合成樹脂の透明間隙層(4)が、ガラス小球の屈折率を考えて光が反射層上にちようど収斂するようにその厚さが定められていること。

 以上のことから考えて、本件物品の再帰反射作用という光学的見地からいつて、ガラス小球が重要な作用を営むものであることは優に認められるところであるが、他方約九〇%の反射率を持つアルミニユーム反射層およびガラス小球の屈折率との関係で光が反射層に収斂するように厚さを定められた合成樹脂の透明間隙層があることによつて非常に反射性能が高められていること、したがつて本件物品の反射作用については、ガラス小球、アルミニユーム反射層および透明間隙層の三つがそれぞれ重要な作用を営んでおり、ガラス小球の光学的作用だけが本質的なものであるということはできず、右三者のいわば総合的作用が本件物品の高度の再帰反射性能を可能ならしめているのであつて、右三者の役割の間に主従の関係をつけることは困難であること(鑑定人岩田稔の鑑定結果ならびに証人岩田稔の証言中右に反する部分は、前記甲第八号証、証人谷潔、同新山勇の各証言にてらし措信できない)。

  しかして、以上のような再帰反射構造そのものは、光学原理をそのまま応用したものであつて特異な構造とはいえないのであるが、前掲各証拠ならびに検一の一(本件物品と同一のもの)によれば、本件物品は表面は着色されたボリエステル系合成樹脂層におおわれ、裏面(基板紙と接する面)も合成樹脂の接着剤が塗布されており、合成樹脂層の中に肉眼では識別することのできないほど徴小なガラス小球がはめこまれている極く薄いシート状のものという外形を示しており、(そのため外観からはポリエステル系合成樹脂の製品であると思われる)、その組成からみれば合成樹脂が大部分を占めており、この合成樹脂のもつ特性によつてガラス小球、アルミニユームの反射層およびこの両者間の透明間隙層を遮光することなく一定の位置)に融合固定させていることとガラス小球が極めて微小であることから極めて弾力性に富み、ロール巻にして取引されており、ハサミ、ナイフ等で簡単に加工することができ、耐水性、耐腐蝕性がきわめて強いこと、とくに表面が合成樹脂層でおおわれなめらかにされているのでガラス球の損傷を防ぎよごれを落しやすい等の特性を有し、これらのことが前記高度の再帰反射性能と結びついて本件物品に商品としての特性と実用性とを与えているものであること、そして右弾力性、耐久性等は主として本件物品を組成している合成樹脂層の性質からでてくるものであること。

  以上の各事実を認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

  (以下、原判決一三枚目表三行目冒頭から同枚目裏九行目までを省略)

(四)そうとすれば、昭和三六年六月頃から同年九月頃までの間神戸税関長が本件物品を関税率表番号三九〇一号四(ただし同号四-(二)にすべきであつたか四-(四)にすべきであつたかは前述したように本件では問題にしない)に所属を決定し、税率三〇%の適用あるものと認めたのは正当であつたことになる。」

二、原判決一四枚目表二行目冒頭から同一五枚目裏八行目末尾までの記載

「三、ところで、原告本人尋問の結果によれば、神戸税関長が本件物品につき原告に対し三〇%の課税処分をしていた右期間内において、横浜税関長および大阪税関伊丹出張所長は他の輸入業者に対し、本件物品と同一物品につきこれを関税率表番号七〇一四号に所属を決定し、税率二〇%の課税処分をしていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

  (原判決一四枚目表八行目冒頭から同最終行目末尾までは本判決で削除したので省略する)

   しかし、他方、成立に争いのない乙第一、二号証、証人岡昇の証言と原告本人尋問の結果によればつぎのような事情が認められる。

  本件物品の輸入に際し、当初原告の側から中にはめこまれているガラス小球の存在について神戸税関に対しなんらかの申立もなかつたため、同税関ではガラス小球がはいつていることに気が付かず、外観から見れば明らかに合成樹脂製品であると思われたことと原告が物品の引き取りを急いだこともあつて物品の分析をしなかつた。

  しかるに昭和三六年九月頃(別表六の九月一九日以後)原告が横浜の同業者から横浜税関長は本件物品と同一の物品に対して税率二〇%の課税をしている旨知らされ、はじめて神戸税関に対して口頭による不服申立をしたこと(それまでに口頭による不服申立をしたとの原告の主張事実を認めるにたる証拠はない。)

 原告の右申立によつて、はじめて事情を知つた神戸税関長は、本件物品の所属について税関鑑査部長会議の決議の結果がでるまで右申立以降は関税法第七三条に基づき『輸入許可前における貨物の引取』扱いを実施し、その後の税関鑑査部長会議の決議が本件物品を七〇一四号該当品として税率二〇%を適用するということになつたので、右仮り渡しの物品については二〇%のとり扱いをし、その後は七〇一四号該当品として全国的に一律に二〇%の税率の適用がなされたこと、検二(製品番号三一番の物品)については昭和三六年八月一九日神戸税関はこれを七〇一四号に所属するとして税率二〇%を適用したことがあるけれども、右は本件物品とは表面部分の組成が異なり比載的大粒のガラス球が表面に多数露出したものであつて肉眼でもはつきり認識することができることからそのように分類したものであること(なおその後昭和三八年五月二一日から二四日にかけて開催された第二二回関税協力理事会において、本件物品ならびに検二(製品番号三一番の物品)の分類上の解釈について、その構成材料に応じて三九類のいずれかに分類すべきであるとする第一〇回関税協力委員会の決議が採決され、右採決を検討した大蔵省関税局は右理事会の採決が正当であるとして、昭和三八年一〇月一五日以降は本件物品および検二の物品は三九類のいずれかに分類するように通牒を発し全国税関では右通牒のように適用を改めている)。」