租税法律主義と税法そ及効

 

 

過誤納金還付請求事件

 

 

【事件番号】 福岡高等裁判所那覇支部判決/昭和44年(行コ)第28号

 

【判決日付】 昭和48年10月31日

 

【判示事項】

 

1 復帰前の沖縄における物品税法(1958年10月27日高等弁務官布令17号)1条3類13号の別表掲示品目は、例示的列挙と解すべきか(消極)

      

2 米国民政府から琉球政府にあてた書簡は、琉球政府に対する行政指導として発せられたものにすぎず、布令ないし立法としての効力を有しないとされた事例

      

3 租税法律主義と税法そ及効との関係

      

4 申告納税方式を採用しながら、申告に基づく誤納を是正する方途が法律に設けられておらず、物品税を納付しない限り保税地域からの引き取りができない取扱いとなつているような場合には、その納付が納税者の誤信に基づいていたと否とにかかわらず、その納付に係る税金相当額の返還を受けることができるとされた事例

      

5 誤納した物品税の還付請求権

 

【参照条文】 物品税法(1958年10月27日高等弁務官布令17号)1

       行政実体法通則2の2

       物品税法(1964年5月12日高等弁務官布令17号改正3号)1-2

       大統領行政命令10713号12節

       租税徴収法(1952年立法59号)54

 

【掲載誌】  訟務月報19巻13号220頁

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

1 原判決をつぎのとおり変更する。

2 被控訴人は、

(一) 控訴人名護製氷株式会社に対し、金一二九九万四九五五円および別表(一)の(3)(省略)記載の各加算金基準額に対する還付加算金起算日から昭和四七年五月一四日まで一日につき○、○四パーセントの割合による金員、同月一五日から前記金員の還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで年七・三パーセソトの割合による金員を、

(二) 控訴人儀間真義に対し、金四一九万九一三五円および別表(二)の(3)(省略)記載の各加算金基準額に対する還付加算金起算日から昭和四七年五月一四日まで一日につき○、○四パーセントの割合による金員、同月一五日から前記金員の還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで年七・三パーセントの割合による金員を、

(三) 控訴人我那覇生吉に対し、金三五一万九四三九円および別表(三)の(3)(省略)記載の各加算金基準額に対する還付加算金起算日から昭和四七年五月一四日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員、同月一五日から前記金員の還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで年七・三パーセントの割合による金員をそれぞれ支払え。

3 控訴人らのその余の請求を棄却する。

4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 

       

 

事   実

 

第一 当事者の申立

一 控訴人ら

1 控訴人各護製氷

 原判決を取り消す。

 被控訴人は、控訴人名護製氷に対し、金四一八万七四九四円四五銭および別表(一)の(3)(省略)記載の各還付加算金基準額に対する還付加算金起算日から前記金員還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員を支払え。

 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2 控訴人儀間

 原判決を取り消す。

  被控訴人は、控訴人儀間に対し、金四一九万九一三六円三〇銭および別表(二)の(3)(省略)記載の各還付加算金基準額に対する還付加算金起算日から前記金員還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 3 控訴人我那覇

  原判決を取り消す。

 被控訴人我那覇に対し、金三五一万九四四三円八〇銭および別表(三)の(3)(省略)記載の各還付加算金基準額に対する還付加算金起算日から前記金員還付のための支払決定がなされる日の前月末日まで一日につき○・○四パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 二 被控訴人

  本件控訴を棄却する。

  控訴費用は控訴人らの負担とする。担保を条件とする仮執行宣言の免脱宣言。

第二 当事者の主張および証拠関係

 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用、認否は、つぎのとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

 一 誤記の訂正(省略)

 二 控訴人らの主張

 1 控訴人らが本件各物品を輸入し、保税地域から引取りをした当時、琉球政府は、旧物品税法(一九五二年立法第四三号、一九五八年一〇月二七日高等弁務官布令第一七号による改正後のもの)に定められない生鮮魚介類についても、物品税を納付しないかぎり物品の引取りを許可せず、同法一条第三類一三号所定の二○パーセントの物品税を課していたため、控訴人らは、本件各物品についても物品税納付の義務があるものと誤信して納税の申告をし、物品税を納付したのである。

2 被控訴人主張のとおり、控訴人らが一九五八年一二月以降本訴提起にいたるまで六年間にわたり、物品税法の別表に明定されない生鮮魚介類の輸入に際しても物品税を納付してきたことは認める。

三 被控訴人の主張

1 控訴人儀間真義に間する別表(二)の(1)(省略)通し番号1につき同控訴人の主張のとおり、一八〇ドルを納付した事実は認める。

2 控訴人らの1の主張は、誤信して納付したとの点を除いて認める。控訴人らは、一九五八年一二月以降本訴提起までの間本件物品のように物品税法にとくに明定されない生鮮魚介類についても、物品税を納付してきたものであり、錯誤に基づいて申告したものとはいえない。

3 本件物品に対する課税当時の輸入申告書は(証拠省略)の書式のとおりであり、物品税の確定申告書を兼ねていたものであ、る。

4 布令第一七号の改正三号の規定が確認的に疑嚢を明らかにしたものであるにすぎないことは、従来主張のとおりである。

 かりに、遡及立法にあたるとしても、輸入業者、販売業者、消費者等は、一九五八年以来、輸入されるサンマ等には二〇パーセントの物品税が課せられるとの認識のもとに輸入し、購入し、消費してきたもので、税務行政も確立され、貿易、流通の面においても、右課税を前提としてその機構、体制が確立されていて、なんら納税者の既得権ないし利益ぱ侵害されていないこと、一般にもサンマ等に対する課税が予測され、法的安定性を害するものではないこと、布令第一七号による改正後も、「ます」を課税の対象としながら、類似の「さけ」に課税せず、また、「たこ、なまこ、しじみ」などいわゆる大衆魚に課税しながら、同じく大衆魚である「さんま」等が列挙されていないなど、課税の不公平、不均衡を是正する必要がある等合理的理由がある場合には遡及立法もまた許されると事すべきである。

5 復帰前の沖縄における物品税は、沖縄の沿岸漁業者を保護するために立法されたものであつて、その実質は関税の性格を有していたものである。しかして、関税については、その特殊性から租税法律主義の例外が認められるものであるから、旧物品税法一条第三類一三号の解釈に関して発せられた一九五八年一二月四日付および一九六三年一月三〇日付の米国民政府の各書簡(証拠省略)は、政令またはそ九以上の効力を有するものと解すべきであり、その後の改正三号は、右書簡を事後において確認したものと解することも可能である。

四 証拠関係(省略)

 

       

 

理   由

 

 

一 控訴人ら主張の請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二 よつて、本件輸入物品(アジ、サンマ、サバ、イカ、カマス、キビナゴ、ニシン、カレイ)が、右輸入当時の物品税法による課税物品に該当するものであつたか否かについて検討する。なお、本件輸入物品中、控訴人名護製氷に関する別表(一)の(1)(省略)中通し番号78ないし84は、布令第一七号改正三号施行後の輸入にかかるものであるから、これを別個に検討することとし、右78ないし84を除く控訴人らの輸入物品を以下「本件物品」という。

 

1 控訴人らが本件物品を輸入した当時の旧物品税法第一条は、「次に掲げる物品(以下『物品』という。)で別表に定めるものにはこの立法により物品税を課する。」として、その第三類(二〇パーセント)一三号には、 「生鮮魚介類。ただし、第七十三号に掲げるものを除く。」と定め、別表である課税物品表の第三類一三号には、「生鮮魚介類。ただし、第七十三号に掲げるもの及び琉球内生産品、繁殖用及び漁業用餌を除く。うなぎ、ます、かき、はまぐり、あなご、このしろ、しろ貝、小えび、伊勢えび、しじみ、つのがい、あわび、かいばしら、とりがい、あかがい、たこ、なまこ、こい、もろこ」と定められて、右所定の物品の中には本件物品はいずれも含まれていなかつたことが明らかである。

 

 しかるところ、被控訴人は、右一三号に挙示された品目は、例示的列挙であつて、本件物品も同号に定める生鮮魚介類として課税の対象となつたものであると主張する。

 

 そこで、右物品税法制定当時の規定およびその後の改正経過をみると、

 

一九五二年九月三〇日に公布施行された当初の規定においては、生鮮魚介類は課税品目となつていなかつたこと、

 

一九五三年立法第六二号によつて、一類一〇号に「生鮮魚介類及び鰹節」が挙げられ、その別表で「生鮮魚介類(うなぎ、あゆ、かき、はまぐり)及び鰹節」が新たに課税品目として定められたが、

 

右改正立法は、同年布令第一一九号により拒否され、公布の日に遡つて無効とされて効力を失つたこと、

 

一九五四年立法第四七号による改正によつて、第二類(三〇パーセント)二四号に「生鮮魚介類」が課税品目に挙げられ、その別表には、「うなぎ、あゆ、かき、はまぐり」が本件課税当時の規定と同じ体裁で定められたこと、ついで、

 

一九五五年立法第五四号を同年布令第一五〇号により修正のうえ制定公布された同年立法第八六号による改正では、

 

従前の第二類二四号が第二類(二〇パーセント)三六号となつたほか、

 

新たに第四類(一〇パーセント)六六号として「魚介類」が課税品目に指定され、その別表の第四類六六号の項には、

 

(イ)として、「鮮魚又は冷凍魚、たい、かつお、まぐろ、にしん、さば、いわし、ぶり、あじその他の魚」が挙げられたこと、その後、

 

一九五八年一〇月二七日の同年布令第一七号により、一条の第二類一二六号は前示の第三類(二〇パーセント)一三号になつて、

 

冒頭説示のとおり定められ、第四類六六号に相当するものは、第五類(五パーセント)七三号となつて、

 

その別表には、

 

「一三 魚介類及びその調整品。ただし、別号に掲げるもの、ざこ(無名魚)、いりこ及び琉球内生産品を除く。

 

イ 塩づけ魚、乾燥魚又はいぶし魚、ます、たら、さば及びその他の魚類 

 

ロ 貝類、甲殼類、軟体動物及び棘皮類の冷凍、塩づけ、乾燥又はいぶしたもの 

 

ハ 魚介類(魚のはらご及び臓物を含む。)の調整品」と定められたこと(なお、右第四類七七号の別表について、

 

一九五八年一〇月三一日付公報号外八〇号所収の邦訳には、

 

前記イ、ロ、ハにつづいて、「ニ 鮮魚及び冷凍魚」との記載があるが、

 

正文である同公報所収の英文にはこれに該当する項目が存在しないので、右邦訳部分はなんらかの誤りであつて、かかる改正はなされなかつたものと認めざるをえない。

 

 

また同公報には、別表第三類一三号列挙の魚介類一九種のうち、英文で、“trout”とあるのを「あゆ」と邦訳してあるが、被控訴人主張のとおり「ます」が正当であろう。)

 

 

さらにその後、右布令第一七号の改正三号(一九六四年五月一二日実施)により、第三類(二〇パーセント)一一二号は「一三 生鮮及び冷凍魚介類。ただし、第一二八号の(1)に掲げる特殊魚介類を除く。」と改められ、

 

その別表は「魚介類の生きているもの、冷蔵されているもの、冷凍されているもの又はその他生鮮のもの。

 

ただし、甲殼類の動物、軟体動物及びなまこ類の動物並びにその一部を含み、

 

第三八号の(1)に掲げる魚類を除く。」と定められ、

 

また一第四類ハ一〇パーセント)三八号の(1)として「特殊魚類」が追加されて、

 

その別表には「さば(さんま、あじ、いわし、にしん、このしろ、アンチヨビー及びいかの生きているもの、冷蔵されているもの、冷凍されているもの又はその他生鮮のもの並びにその一部分」と定められ、

 

同七三号の別表は、「魚介類で塩づけしたもの、乾燥したもの、燻製したもの、つけものにしたもの又はその他調製したもの。

 

ただし、甲殼類の動物、軟体動物、棘皮動物等を含み、ダシザコを除く。」と改められたこと、

 

なおまた、右改正三号には、別に「かつお、まぐろ、かじき、さば、さんま、あじ、さめ、ひらめ、かれい類の平たい魚、とびうお、いか等の鮮魚及びその他一九五八年一〇月二七日付高等弁務官布令の別表『課税物品表』の『第三類-二〇パーセント』の第一三号に特に掲げられていない鮮魚に対し、

 

一九五二年琉球政府之法第四三号により、又は同立法によるものとしてこれまで賦課され、納付され、かつ、徴収された物品税及び同税の徴収並びに同税の賦課及び徴収を遂行するためになされたすべての行為は、

 

あたかも上記の鮮魚及びその他の鮮魚が別表『課税物品表』の『第一二類-二〇パーセント』の第一三号に特に掲げられていた場合と事実上全く同じように、ここに裁可し、かつ確認する。

 

 

ただし、この項のいかなる規定も、この布令の施行期日以前の課税の無効又は払い戻しの最終判決を受けた納税者の権利又は免除に対し影響を与えるものと解し、又は当該影響を与えるべく適用してはならない。」との規定が設けられたこと、以上のことが明らかである。

 

 

 そして、【判示事項ここのような立法の改正経過、

 

ことに、立法第八六号には、第二類三六号のほかに第四類六六号として、前者に含まれない魚介類を課税の対象とする一般規定が設けられていたこと、

 

二〇パーセント課税品目である前者については、従来四種類のみが挙げられていたのに、布令第一七号によつて一九種に品目が増加していること、

 

その後布令第一七号の改正三号には、被控訴人主張の遡及適用の規定が設けられたことに徴すれば本件で問題になつている第三類一三号の別表に掲げられた一九種の品目は、

 

例示的列挙ではなく、限定的に課税品目を列挙したものと解するのが相当である。

 

 

 

 なお、【判示事項二】被控訴人は、第三類一三号の生鮮魚介類には、別表に掲げられた一九種以外のすべての生鮮魚介類が含まれるとするのが立法の趣旨であつたとして、(証拠省略)(米国民政府財政部係官から琉球政府内政局主税課長あて一九五八年一二月四日付書簡)および(証拠省略)(同民政府総務部長から琉球政府行政主席あて一九六三年一月三〇日付書簡)を提出するところ、右各号証には被控訴人の主張にそう内容が記載されているが、右は、琉球政府に対する行政指導として発せられたものにすぎないものと解すべきであり、布令ないし立法として公布されたものではないから、かかる文書の存在によつては、前記解釈が左右されるためではない。

 

 

2 つぎに、被控訴人は、課税の当時第三類一三号の物品に該当しなかつたとしても、布令第一七号改正三号によつてその課税行為は、当該物品が課税の当時別表に同類同号該当のものとして掲げられていたと同じように裁可確認されたから、適法に課税されたことになつたものと主張する。

 

改正三号には、所論のように、本件のような課税行為を適法なものとして確認する規定が設けられたことは、さきに説示したとおりである。

 

しかしながら、本件物品は、課税の当時物品税法一条三類一三号の物品に該当していなかつたこともまたさきに説示したとおりであるから、右放正三号の規定がたんなる確認規定であると解することはできないだけでなく、

 

 

【判示事項三】租税法律主義の見地からみれば、特定の物品を過去に遡つて課税の対象とすることは、法律の改正がすでに予定されていて、納税者側に・もそのことが予測され、法的安定性を著しく害しないような場合にかぎつて許されるものと解すべきところ、

 

本件改正規定のように、のちに至つて数年以上も前に遡つて課税品目となつていない物品に対する課税行為をすべて適法化するような立法は、その許容の範囲を逸脱するものであり、

 

 

ことに右改正三号によれば、さば、さんま、あじ、いわし、いかなど遡及的に過去の課税行為を適法化された品目について、右布令による改正後もそのすべてが二〇パーセントの課税品目として定められたものではなく、

 

本件物品の大部分は、第四類三八号の(1)として一〇パーセントの課税の対象とされることになつたにとどまるのであつて、

 

右立法は、ひつきよう、課税の根拠がないにかかわらず過去に課税し徴収した税金の還付を不要ならしめるべく、もつぱら行政庁側の救済措置として便宜的に設けられた規定であり、

 

実質的にも不当であつて、当時の米国大統領行政命令第一〇、七一三号第一二節の規定の趣旨に反していたものといわなければならず、

 

したがつて、その効力を認めることはできないものと解するのが相当である。

 

 

してみれば、控訴人らは、本件物品については、その引取時においては、これに見合う租税債務が存在しなかつたのに、存在するものとして物品税の申告をなし、納付をした結果、誤納を生じたもの上いうべきである。

 

 

 

三 そこで、右訴納にかかる金員の返還請求の当否について検当する。

 

 本件課税当時の物品税法が賦課課税方式によつていたものか、申告納税方式によつていたものかは、その規定の体裁からは必ずしも明らかではない。

 

ことに、同法第三章の表題が「賦課及び徴収」となつており、第八条の見出も「課税標準の申告及び決定」となつていること、後記のように、申告に誤りがある場合における納税義務者側からの是正の途が設けられていないこと、当時の琉球政府立法院における提案者によれば、当時本土で施行されており、賦課課税方式によつていたことに異論のない旧物品税法(昭和一五年法律第四〇号)にならつて立法された旨の説明がなされていること(琉球政府公報号外一九五三年五月二五日号一一頁参照)などに徴すれば、

 

同法は賦課課税方式をとつていたものではないかとの疑いを生ずる。

 

 

しかしながら、同法八条が、納税義務者は、製造場から移出しまたは保税地域から引き取る指定物品につき、その数量、価額のほか税額をも記載した申告書を政府に提出するものとし、これに基づいて同時にその税金を納付すべき旨を定めており、賦課課税方式に必要な告知の規定を有しないこと、

 

一九六四年八月三日立法第四八号をもつて物品税法の全部改正が行なわれた際における立法院内政委員会での行政府参考人の改正案に対する立法趣旨の説明によれぱ、右改正前の物品税法は申告納税制度をとつていたところ、これを賦課課税方式に改めることが改正の眼目の7ひとつになつていたこと(第二五回定例議会、立法院内政委員会議録五五号一三頁)、

 

 

(証拠省略)によれば、実際の取扱いもまた申告納税方式によつて行なわれていたものと認められること等の諸点に徴すれば、右改正前の物品税法は租税債権が納税義務者の申告によつて確定する申告納税方式を採用していたものと解するのが相当である(結論同旨の琉球上訴裁判所一九六四年五月一二日判決、上訴裁判例集民事一二巻二七頁参照)。

 

 

 しかるところ、【判示事項四】右のような申告納税方式を採用する場合において、納税者がその申告に基づく納付が誤納であることを知つたとき、みずからこれを是正する方途、たとえば、修正申告、更正の請求の制度が法律に設けられている場合には、申告書の記載内容の是正については、その記載が錯誤に基づくものであつたとしても、それが客観的に明白かつ重大であつて、右の救済方法による以外の是正を許さないとするならば、納税義務者の利益を著しく害する特段の事情がある場合でないかぎり、法定の方法によらない救済を求めることは許されないものと解するのを相当とするが、

 

 

本件当時の法制をみると、前述のように、申告納税方式を採用しながら、その税額については、前記修正申告ないし更正の請求の制限は設けられていなかつたことが明らかであつて、法定の形式による是正の方途を閉ざされていただけでなく、

 

本件物品の輸入の当時は、琉球政府側の方針によつて、本件物品のように一条第三号該当の物品でないものについても物品税を納付しないかぎり保税地域からの引取をすることはできない取扱いになつていたことは、当事者間に争いがないのであるから、かような場合においては、控訴人らの本件物品税の納付が控訴人らの誤信に基づいていたと否とにかかわらず、

 

また、控訴人らが一九五八年一二月以降本訴提起に至るまで六か年にわたつて非該当物品について物品税の納付を続けてきた事実があつたとしても、

 

琉球政府においてこれを収納しうべき理由はなかつたものである以上、控訴人らはなお、その納付にかかる税金相当額の返還を受けることができるものと解さなければならない。

 

 

 なお、この点に関し、被控訴人は、本件物品税は間接税であつて担税者は一般消費者大衆であるところ、消費者の負担は軽微であるから、これを返瀾しなくても、苛酷となるものではなく、したがつて、返還義務はないと主張する。

 

 

 【判示事項五】物品税が間接税であつて、その実質上の負担者が消費者であることは所論のとおりであるけれども、しかし、そうであるからといつて間接税については常に誤納による返還請求権を認めえないということにはならないのであり、租税の負担が消費者に転嫁されているとはいつても、納税義務者である輸入者が、実際上、当該物品を消費者にいかなる価格で販売するかは市場における自由競争の中で決定される価格にゆだねられているのであり、それは、ひつきよう、納税義務者と消費者との関係にすぎないのであるから、担税者が消費者であるというだけでは、納税義務者に対する誤納金の返還債務を否定する理由にはなりえないのである。

 

 

四 以上のとおりであつて、控訴人名護製氷に関する別表日の(1)(省略)中通し番号1ないし77、同儀間真義に関する別表(二)の(1)(省略)の(1)全部、同我那覇生吉に関する別表(三)の(1)(省略)の全部は、いずれも物品税の課税の対象とならない物品であるにかかわらず、第三類一三号所定の物品に該当するものとして申告され、各表税額欄の金額が納付されたものであるから、右金員は、当時の租税徴収法(一九五二年立法五九号)五四条に基づいて各控訴人においてその返還を求めうるものといわなければならない。

 

 

五 つぎに、控訴人名護製氷に関する別表(一)の(1)(省略)中、通し番号78ないし84の輸入物品についてみるに、これらの物品は、前記布命第一七号改正三号の施行後に物品税が納付されたものであるから、その引取もまた同布令により物品税法が改正された後になされたもので改正後の規定を適用すべきものと解されるところ、前説示のとおり、改正後の規定によれば、78ないし83の物品であるイカ、アジ、サバ、サソマは一条第四類一二八号の(1)の「特殊魚類」として 一〇パーセントの課税の対象となつており、本件において納付された税額もまた課税標準額の一〇パーセントであることは前記のとおり当事者間に争いがないのであるから、控訴人名護製氷には全く誤納のないことが明らかである。また、84のキビナゴは、第三類一一二号の課税品目として二〇パーセントの課税の対象となるのであるが、納付額が課税標準額の一〇パーセントであることは前記のとおり当事者間に争いがないから、これまた、誤納のないことが明らかである。

 

 六 してみれば、控訴人らの本訴請求中、その主張の誤納金の還付を求める部分は、控訴人名護製氷については、原判決別表(一)の(1)(省略)の通し番号1ないし77につき、その税額欄の金額を一ドルにつき一二〇五円の割合で換算した合計金額三九九万四九五五円(うち15、39、56、66については、沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令六条三項、国税通則法一二〇条一項を適用)の限度では理由があるから認容すべきであるが、これをこえる金額および前記別表中78ないし84に関する部分は理由がないからこれを慄却すべく、控訴人儀間については、原判決別表(二)の(1)(省略)の通し番号1ないし74の全部につきその税額欄の金額を右同様の割合で換算した合計金額四一九万九一一二五円(うち23、27、68については前記各法令の条項を適用)の限度、同我那覇については、原判決別表(三)の(1)(省略)の通し番号1ないし92の全部につきその税額欄の金額を右同様の割合で換算した合計金額三五一万九四一二九円(うち13、16、38、40、49、5458、63、77、78、83については前記各法令の条項を適用)の限度でそれぞれ理由があるからこれを認容するが、これをこえる金額については理由がないからいずれもこれを棄却すべきである。

 

 つぎに、還付加算金の請求については、沖縄の本土復帰前における還付加算金は、その日数に応じて還付されるべき金額につき一日○・○四パーセントの割合を乗じて計算した金額によるべきものであつたところ(一九五二年立法第五九号租税徴収法五四条の二、一九六七年立法第一〇二号租税徴収法一六四条)、本土復帰後は国税通則法の適用を受け(沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律七二条二項および沖繩の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令六条一項一号参照)、昭和四七年五月一五日以降は、同法五八条に従い、右の割合は年七・三パーセントとなつたものと解すべきである。なお、控訴人らはいずれも、還付加算金の支払の終期についてその主張の還付加算金基準額の金銭の支払のすむ前月末日とするが、その趣旨は、復帰前の前記各租税徴収法の規定、国税通則法の規定が、還付加算金は還付のための支払決定がなされる日を終期としてこれを支払うべきものとして いることに徴すれば、その内金として、還付加算金基準額に対する前記割合を乗じた金額につき右支払決定がなされる日の前月末日までの金額の支払を求めるにあるものと解するのを相当とする。

 

 以上説示するところによれば、控訴人らの還付加算金の請求は、控訴人名護製氷については本判決別表(一)の(3)(省略)、同儀間については同表(二)の(3)(省略)、同我那覇については同表(三)の(3)(省略)の各加算金基準額に対する還付加算金起算の日から昭和四七年五月一四日までは一日につき○・○四パーセント、同月一五日以降各控訴人に対する本件還付金の還付のための支払決定のなされる日の前月末日までは年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払を求める限度で理由があるからいずれもこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

 

七 よつて、これと異なり、控訴人らの各請求を全部棄却した原判決は正当でないから、右の趣旨に従つて原判決を変更すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

 

(判事 吉井直昭 屋宜正一 宮城安理)

 

別表(一)の(3)、(二)の(3)、(三)の(3)(省略)