分掌変更役員退職金(5)

 

 

 

法人税更正処分取消等請求事件(第1事件)、所得税更正処分取消等請求事件(第2事件)

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成18年(行ウ)第466号、平成19年(行ウ)第270号

 

【判決日付】 平成20年6月27日

 

【判示事項】 同族会社である株式会社の代表取締役が監査役になったことについて,役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあると認められた事例

 

 

【参照条文】 法人税法(平18法10号改正前)36

       所得税法30-1

 

【掲載誌】  判例タイムズ1292号161頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

     

1 徳島税務署長が第1事件原告に対して平成17年4月27日付けでした同16年7月から同年12月までの期間分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分のうち納付すべき税額43万8290円を超える部分及び不納付加算税賦課決定処分のうち納付すべき税額4万3000円を超える部分をいずれも取り消す。

     

2 徳島税務署長が第2事件原告に対して平成18年4月28日付けでした平成16年分の所得税の更正処分のうち納付すべき税額36万2700円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

     

3 第1事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

     

4 訴訟費用は,第1事件原告に生じた費用の5分の3及び被告に生じた費用の10分の3を第1事件原告の負担とし,第1事件原告に生じた費用の5分の2,第2事件原告に生じた費用の全部及び被告に生じた費用の10分の7を被告の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

 

 

第1 請求

 

 1 第1事件

  (1) 徳島税務署長が第1事件原告に対して平成17年4月27日付けでした同15年8月1日から同16年7月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち納付すべき税額999万7300円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

  (2) 徳島税務署長が第1事件原告に対して平成17年4月27日付けでした同16年7月から同年12月までの期間分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

 

 2 第2事件

   主文第2項と同旨。

 

 

 

第2 事案の概要

 

 1 第1事件は,第1事件原告(以下「原告会社」という。)が,第2事件原告(以下「原告X1」といい,原告会社と併せて「原告ら」という。)に対し,原告会社を実質的に退職したとして退職給与を支払い,また,原告X1が所有する土地の使用承諾料等として雑費を支払ったとして,上記退職給与及び上記雑費の合計額を損金に算入して法人税の申告をしたところ,徳島税務署長が,原告X1は原告会社を実質的に退職したということはできず,また,上記雑費の支払に合理的な理由は認められないため,上記退職給与及び上記雑費はいずれも役員賞与に当たり,損金に算入することはできないとして,法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分をしたことから,原告会社がこれらの処分の取消しを求める事案である。

 

   第2事件は,原告X1が上記退職給与について退職所得として,また,上記雑費について雑所得として所得税の申告をしたところ,徳島税務署長が,上記と同様の理由により,上記退職給与及び上記雑費はいずれも給与所得であるとして,所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから,原告X1がこれらの処分の取消しを求める事案である。

 

 

 2 前提事実

   本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠(枝番のあるものは特記しない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実等はその旨付記しており,それ以外の事実は当事者間に争いがない。

  (1) 当事者等について

   ア 原告会社は,洋品雑貨の販売,呉服等の繊維製品の販売等を営む株式会社である。(甲11,乙5,弁論の全趣旨)

   イ 原告X1は,原告会社の代表取締役であった者である。(乙5,弁論の全趣旨)

   ウ 原告会社の株式会社登記簿には,平成16年8月2日付けで,原告X1が同年7月31日に代表取締役を退任し,かつ,取締役を辞任して,監査役に就任した旨の登記がされた。(乙5)

 

  (2) 本件訴えに至る経緯等について

   ア 原告会社について

    (ア) 原告会社は,徳島税務署長に対し,平成16年9月30日付けで,同15年8月1日から同16年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について,原告X1に対する退職給与4500万円(以下「本件退職給与」という。)及び雑費500万円(以下「本件雑費」という。)の合計5000万円の未払金が存在するとして,同額を損金に算入する旨の確定申告書(以下「本件申告書1」という。)を提出した。(甲2)

    (イ) 徳島税務署長は,原告会社に対し,平成17年4月27日,原告X1が原告会社を実質的に退職したということはできず,また,本件雑費の支払に合理的な理由は認められないため,本件退職給与及び本件雑費はいずれも役員賞与に当たり,その合計額である5000万円を損金に算入することはできないとして,本件事業年度の法人税について,別紙1の「法人税の課税の経緯」の「更正処分」欄記載のとおり,更正処分(以下「本件更正処分1」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分1」といい,本件更正処分1と併せて「本件更正処分1等」という。)をするとともに,同16年7月から同年12月までの源泉所得税について,別紙1の「源泉所得税の課税の経緯」の「納税告知処分」欄記載のとおり,納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税賦課決定処分(以下「本件不納付加算税賦課決定処分」といい,本件納税告知処分と併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。(甲3,弁論の全趣旨)

    (ウ) 原告会社は,徳島税務署長に対し,平成17年5月26日,本件更正処分1等及び本件納税告知処分等の取消しを求める異議申立てをしたが,徳島税務署長は,同年7月7日,これらをいずれも棄却する旨の決定をした。(甲4)

    (エ) 原告会社は,国税不服審判所長に対し,平成17年8月8日,本件更正処分1等及び本件納税告知処分等の取消しを求める審査請求をしたが,国税不服審判所長は,同18年3月9日,これらをいずれも棄却する旨の裁決をした。(甲1)

    (オ) 原告会社は,平成18年9月7日,本件更正処分1等及び本件納税告知処分等の取消しを求める第1事件に係る訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)

   イ 原告X1について

    (ア) 原告X1は,徳島税務署長に対し,平成17年3月15日付けで,同16年分の所得税について,本件退職給与4500万円を退職所得とし,また,本件雑費500万円を雑所得とする旨の確定申告書(以下「本件申告書2」という。)を提出した。(甲36,乙14)

    (イ) 徳島税務署長は,原告X1に対し,平成18年4月28日,原告X1が原告会社を実質的に退職したということはできず,また,本件雑費の支払に合理的な理由は認められないため,本件退職給与及び本件雑費はいずれも役員賞与として給与所得に該当するとして,別紙2の「所得税の課税の経緯」の「更正処分等」欄記載のとおり,同年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分2」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分2」といい,本件更正処分2と併せて「本件更正処分2等」といい,本件更正処分1等及び本件納税告知処分等と併せて「本件各処分」という。)をした。(弁論の全趣旨)

    (ウ) 原告X1は,徳島税務署長に対し,平成18年6月29日,本件更正処分2等の取消しを求める異議申立てをしたが,徳島税務署長は,同年9月14日,これらをいずれも棄却する旨の決定をした。(甲42)

    (エ) 原告X1は,国税不服審判所長に対し,平成18年10月15日,本件更正処分2等の取消しを求める審査請求をした。(甲43)

    (オ) 原告X1は,平成19年4月27日,第2事件に係る訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)

    (カ) 国税不服審判所長は,平成19年5月15日,原告X1の前記(エ)の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。(甲43)

 

 

 

 3 争点

  

(1) 原告会社は本件事業年度において本件退職給与4500万円を損金に算入できないということができるか。

  

(2) 原告X1の本件退職給与に係る所得は,給与所得に当たるということができるか。

  

(3) 原告会社は本件事業年度において本件雑費500万円を損金に算入できないということができるか。

  

(4) 原告X1の本件雑費に係る所得は,給与所得に当たるということができるか。

 

 

 

 

 4 当事者の主張の要旨

  (1) 争点(1)(本件退職給与の損金算入の可否)について

  (被告の主張)

   ア 原告X1が原告会社を実質的に退職したとはいえないこと

    (ア) 平19課法2-3による改正前の法人税基本通達9-2-23(以下「本件法人税通達」という。)は,法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については,その支給が,例えば,①常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有するもの及び代表権を有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと,②取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で平成18年政令第125号による改正前の法人税法施行令71条1項4号(使用人兼務役員とされない役員)に掲げる要件のすべてを満たしている者を除く。)になったこと,③分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したことなどの事実があったことによるものであるなど,その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には,これを退職給与として取り扱うことができると定めている。

      しかし,本件法人税通達の上記例示①及び②では,実質的経営者やオーナー株主など,法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者については適用しないとされているところ,これは,同族会社等において肩書の組替えやし意的な分掌変更を行うなどの悪用が考えられることからである。そうすると,仮に本件法人税通達の上記例示③のように報酬額がおおむね50%以上の減少となっていても,法人の経営上主要な地位を占めていると認められるなど,そもそも実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められない場合には,本件法人税通達は適用されず,その者に対して支払われた給与は,本件法人税通達によって退職給与として取り扱うことはできないというべきである。なお,上記改正後の法人税基本通達9-2-32は,このことを明確にしている。

    (イ) 原告X1は,平成16年7月31日に原告会社の代表取締役を退任した後も,引き続き監査役として原告会社の役員であり,現実に原告会社を退職した事実はない。また,原告会社は親族4人が発行済株式のすべてを所有する同族会社であり,原告X1はそのうち35%を所有する筆頭株主であって,代表取締役退任後もその株式の所有割合に変化はない。このように,原告X1は監査役として法人税法上の役員であるとともに,実質的な経営者又はオーナーといい得る株主であり,重要な経営判断に影響を与え得る立場にある。

      原告会社のような同族会社においては,大株主の権限は実質的に経営者と変わることがない。原告X1は,平成元年から約15年間にわたり原告会社の代表取締役であったのであり,また,現在の代表取締役であるA(以下「A」という。)の父であるのであるから,仮に,現在,原告会社の経営に影響する行為を行っていないとしても,原告会社において重要な経営判断が迫られたときには,他の役員から前代表取締役としての経験を基に判断を仰がれたり,経営方針の説明を受けたりし,長年の経験を活かして,所有する株式を通じて原告会社の経営に参画することができる状態にある。

      そうすると,原告X1は,引き続き実質的に原告会社の経営上主要な地位を占めていると認められ,他に役員としての影響力を否定するような事情があるということもできないから,代表取締役から監査役への分掌変更により,その職務の内容又は地位が激変したとは認められない。

      したがって,原告X1が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められず,本件退職給与は原告X1の退職に基因して支払われたものとは認められない。

    (ウ)a 原告X1の分掌変更に係る臨時株主総会の議事録は2通作成されているところ,それぞれに記載されている退職給与の額が異なっており,その信ぴょう性は低い。

     b 平成16年7月31日付け及び同年8月1日付けの各取締役会議事録には原告X1の監査役報酬を無報酬とするなどの役員報酬の変更の決議がされた旨の記載があるが,そもそもそのような決議が実際にあったかどうか疑わしい上,変更後の原告会社の役員報酬額の合計は,役員改選前に比べ,全体としては増加している。原告会社の役員である4人は同居しており,生活基盤は同一であることから,原告X1の報酬額の変更は,原告X1の職務内容が激変したとの状況を作り出すためにされたものである。

     c 平成16年7月分及び同年8月分の役員報酬について,原告会社の銀行口座から支払資金として出金された金額及び原告会社の銀行口座に源泉所得税額として入金された金額は,いずれも役員改選前の役員報酬の合計額に係る金額と同額である。

       また,原告X1の源泉徴収簿の平成16年8月分及び同年9月分の総支給金額欄並びに原告会社及びAの源泉徴収簿の同年7月分の総支給金額欄には,役員報酬変更前の報酬金額がいったん記載され,後にそれが訂正されている。

       そうすると,原告X1及びAの役員報酬の変更は,平成16年9月に行われたものというべきである。

     d 原告X1は本件事業年度の末日に代表取締役を退任しているところ,原告X1は平成16年5月に入院するなど体調を崩してはいたものの,同年7月31日まで代表取締役として執務することができないまでの事情は認められず,臨時株主総会を開催してまで代表取締役を変更する緊急性は乏しかった。

     e 原告会社は,原告X1に対して本件事業年度の末日に実際に本件退職給与を支給したのではなく,容易に利益調整をすることが可能な未払金として損金に計上したにすぎない。

     f 原告会社は,本件事業年度において,その所有する建物に係る多額の補償金を取得していたところ,本件退職給与及び本件雑費を損金に算入しない場合の税額は,損金に算入した場合の税額に比べて約2.3倍となる。

       原告会社の保有していた資産によると,本件退職給与の原資は上記補償金であることが明白であり,補償金による収入がなければ本件退職給与を支給することもなかったと認められるのであるから,本件退職給与の支給は,多額の補償金を得たことにより発生する高額の納税義務を回避するために行われたものというべきである。

    (エ) そして,原告X1は原告会社の監査役であるところ,一般に法人からその役員に対して支給される金銭又は経済的利益は,原則としてその職務執行の対価の性質を有するものと解される。

    (オ) そうすると,本件退職給与は,原告X1に対する臨時的な給与となることから役員賞与に該当し,本件事業年度の所得金額の計算上,損金に算入することはできない。

   イ 本件退職給与の金額は本件事業年度の末日には確定していなかったこと

    (ア) 司法書士立川福夫(以下「立川司法書士」という。)作成の臨時株主総会議事録(乙2)には,原告X1に支給する退職給与の金額は3500万円と記載されている。同議事録の退職給与の金額を立川司法書士が誤って記載したとは考え難く,また,同議事録は平成16年8月2日には法務局に提出されているところ,各役員は,それ以前に,同議事録の内容を確認して押印したものと認められる。そうすると,3500万円という金額は,その時点における暫定的な金額であったと推認される。

      また,原告会社の顧問税理士である野田義郎(以下「野田税理士」という。)作成の臨時株主総会議事録(乙1)には,原告X1に支給する退職給与の金額は4500万円と記載されており,その作成日付は平成16年7月31日である旨記載されているが,同議事録は原告会社の保管用に作成されたものであり,同日に作成されたものであると直ちに認めることはできない。

      そして,本件退職給与の金額の算定資料として作成された「16年7月31日退職金計算書」(乙11。以下「退職金計算書」という。)の作成日付が平成16年9月16日であること,本件事業年度の最終日である同年7月31日までには多額の補償金が原告会社の銀行口座に振り込まれており,本件退職給与の支給が遅れる合理的な理由は見当たらないにもかかわらず,本件退職給与は同年9月24日まで支払われていないことなどからすると,本件退職給与の金額は同月16日ころに定められたというべきである。

    (イ) そうすると,本件退職給与の金額は,本件事業年度終了後に定められたものであり,本件事業年度の決算時に確定していたとは認められないから,本件事業年度において損金に算入することはできない。

   ウ 本件退職給与は未払金に計上されたにすぎないこと

    (ア) 本件法人税通達は,役員が分掌変更により実質的に退職したと同様の事情にある場合には,多くの企業で退職給与を支給する慣行があることに配慮し,例外的に,そのような場合において現実に支給した給与を税務上も退職給与として損金処理を認めたものである。

      本件法人税通達は,文言上「役員に対し退職給与として支給した給与」と定めているのであり,また,上記のような企業実態に配慮するという趣旨に照らしても,現実に支払われていない退職給与に本件法人税通達を適用することはできない。

    (イ) そして,本件退職給与が支払われたのは平成16年9月24日であるところ,本件事業年度の最終日である同年7月31日までには多額の補償金が原告会社の銀行口座に振り込まれており,本件退職給与の支給が遅れる合理的な理由は見当たらないにもかかわらず,同日の時点において本件退職給与は未払となっているのであるから,本件事業年度において本件退職給与を原告会社の損金に算入することはできない。

  (原告らの主張)

   ア 原告X1は原告会社を実質的に退職したこと

    (ア) 本件法人税通達が例示する事情が生じた場合でも,その者が会社に対して影響力を有しているときには,その者に対する給与は退職給与として扱うことができないとしても,それは「役員」として影響力を有している場合に限られるべきであり,「株主」として影響力を有しているにすぎない場合には,本件法人税通達により退職給与として扱うことができるというべきである。

    (イ) 原告X1は,近年体力が低下し,また,病気も抱えるなどしており,平成15年ころから,事実上,原告会社の経営に関与しなくなった。原告会社の経営の実権は,同年ころからAが握っている。原告X1は,同16年6月28日に胆のう摘出の手術を行い,その後は,日常生活も思うように送ることができず,まして,原告会社の仕事をすることは困難となった。

      原告X1が代表取締役を退任した後に,監査役に就任したのは,家族以外の者が役員になると,事務が煩雑になるからである。原告X1は,監査役に就任後も,監査役としての職務はおろか,従業員としての業務も全く行っておらず,また,Aに対して経営に関する助言をすることもなかった。

      したがって,原告X1は,分掌変更によって原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあるというべきである。

    (ウ) 原告会社の銀行口座の出入金額が役員改選後の報酬額と対応していないのは,同口座の出入金が役員の報酬変更前にされたこと及びAが報酬額の変更を失念していたことによる。

      また,源泉徴収簿の記載に訂正があるのは,報酬額の変更前に既にまとめて記載していたものを,報酬額の変更後に訂正したからである。

   イ 本件退職給与の金額は本件事業年度の末日に確定していたこと

    (ア) 本件退職給与の金額は,平成16年7月31日の時点で既に確定していた。

    (イ) 退職金計算書は,原告X1の源泉所得税の金額をAらに対して説明するために,後日作成した書面であって,本件退職給与の金額の確定には何ら関係がないものである。

      また,原告会社の役員変更登記時に添付された立川司法書士作成の臨時株主総会議事録(乙2)に本件退職給与の金額が3500万円と記載されているのは,立川司法書士が金額を誤って打ち込んだからにすぎない。

   ウ 本件退職給与が未払金とされたことには合理的な理由があること

     本件退職給与が平成16年7月31日に支払われなかったのは,同日が銀行の営業日でなかったためである。本件退職給与を未払金としたのはあくまで暫定的な処理にすぎない。

     また,本件退職給与の支払が平成16年9月24日となったのは,原告会社が多忙であったこと及び原告会社が新店舗の建設費用を確保する必要があったからである。

     このように,本件退職給与は本件事業年度の末日において暫定的に未払金とされたにすぎないのであるから,「退職給与として支給した給与」に当たるというべきである。

  (2) 争点(2)(本件退職給与は給与所得か)について

  (被告の主張)

    所得税法基本通達30-2(以下「本件所得税通達」という。)は,常勤役員が非常勤役員(代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められるものを除く。)になったこと,分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上減少)したこと等,役員の地位を失っていないが,役員の分掌変更等によりその職務の内容又はその地位が激変した者に対し,当該分掌変更等の前における役員であった勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与は,退職手当等として扱う旨規定している。

    しかし,本件所得税通達が例示する事情が生じても,そもそも実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められない場合には,その者に対して支払われた給与は,本件所得税通達によって退職所得として取り扱うことはできない。

    そして,前述のとおり,原告X1は,原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められない。

    そうすると,本件退職給与は,原告X1に対する臨時的な給与であると認められるので,退職所得ではなく,給与所得に該当する。

  (原告らの主張)

    前述のとおり,本件退職給与は原告X1が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあることから支給されたものであり,退職所得に該当する。

  (3) 争点(3)(本件雑費の損金算入の可否)について

  (原告らの主張)

   ア 本件雑費の支払には合理的な理由があること

    (ア) 本件雑費は,原告らが共有する建物に係る補償金の取得額を修正するための分配金360万円,及び原告会社が,新たに原告X1が所有する土地に建物を建築することについての土地使用承諾料140万円の合計額である。

      原告らは,上記共有建物に係る補償金として合計で1億6855万0852円を得て,同額をその登記簿上の持分割合に応じて取得した。しかし,原告X1は,同建物について,以前に改装費用215万円を支出していたことから,その持分割合は実質的に登記簿上のものより増加していたとみることができた。そこで,原告会社は,上記共有建物に係る補償金の一部である360万円を,その持分割合の実質的な増加分に見合うよう,原告X1に対して分配することにしたのである。

      このように,本件雑費の支払には合理的な理由があるから,本件雑費は損金として算入されるべきである。

    (イ) 退職金計算書の「土地代賃借未払負担金」との記載は,野田税理士が,Aに対してその内容を説明する際に便宜的に記載したものにすぎない。事実,野田税理士の税務手帳の平成16年7月27日付け欄(甲40の1)には,「補償金 承諾料」と正確に記載されている。

      また,本件退職給与及び本件雑費の領収証(甲34,乙16)の金額は,Aが金額を間違えて記載したため,後日訂正したものである。

   イ 本件事業年度の末日には本件雑費に係る債務は確定していたこと

     前記共有建物の共有持分の実質的な変更は,平成16年6月11日に同建物に係る補償金が原告らに対して支払われたときに顕在化した。したがって,原告会社の補償金の修正分配金に係る360万円の不当利得返還債務は,同日ころに確定し,履行期が到来した。

     また,原告らの間で土地使用貸借契約が締結されたのは平成16年9月1日であるものの,原告会社が同土地を使用する旨の合意は,遅くとも同年7月31日までには成立していた。土地使用承諾料は上記合意に基づく使用に係るもので,通常の取引相場に基づくものであるから,土地使用承諾料に係る140万円の債務は同日までには確定していた。

     したがって,本件雑費は平成16年7月31日には確定していた。

  (被告の主張)

  ア 本件雑費の支払には合理的な理由がないこと

   (ア) 修正分配金の算定根拠とされる「受取補償金の建物取得価額による按分計算書」(甲32。以下「あん分計算書」という。)は,本件各処分に先立つ調査時においては提示されていなかったところ,調査時に提示することができなかった事情はうかがわれないから,あん分計算書は当時から存在していたかどうか疑わしい。また,前記共有建物について,原告X1の投下資本による持分割合の増加を考慮するのであれば,より多額である原告会社の投下資本による持分割合の増加を考慮しないのは不自然である。

     また,本件退職給与及び本件雑費の領収証(甲34,乙16)に,平成17年6月に本件雑費の金額の内訳を訂正した旨の記載がされていることなどに照らすと,同領収証を作成した同16年9月24日には,本件雑費の内訳は確定していなかったと認められる。

     そして,本件雑費の支払は原告会社に土地の賃料の未払があったことなどについての代償である旨の協定書があること,退職金計算書に「土地代賃借未払負担金」との記載があることなどからすると,本件雑費が補償金の修正分配金360万円及び土地使用承諾料140万円の合計であるとは認められない。

   (イ) さらに,前記協定書は存在するものの,原告会社と原告X1の間に賃貸借契約の存在は認められず,したがって,未払賃料も存在しないから,原告会社が原告X1に対して賃料未払等についての代償を支払う理由は存在しない。

   (ウ) 以上によると,原告会社が原告X1に対して本件雑費を支払う合理的な理由は存在しない。そうすると,本件雑費は原告X1に対する臨時的な給与となることから役員賞与に該当し,本件事業年度の所得金額の計算上,損金に算入することはできない。

  イ 本件事業年度の末日には本件雑費に係る債務が確定していなかったこと

   (ア) 平成16年7月31日付け協定書には,本件雑費は未払地代及び迷惑料の支払である旨の記載があり,また,同年9月16日付けの退職金計算書にもそれと同様の記載があることからすると,上記協定書及び退職金計算書の記載に反する内容であるあん分計算書及び領収証(甲34,乙16)は同日以降に作成されたものということができるから,同年7月31日にはその算定根拠及び金額が確定していたとは認められない。

     また,土地使用承諾料については,その前提となる土地利用契約が締結されたのが平成16年9月1日であるから,同年7月31日にその給付をすべき原因となる事実が発生していたということはできない。

   (イ) したがって,本件雑費が原告らの主張どおりの趣旨であったとしても,本件事業年度の最終日においてその債務が確定していたとはいえないから,本件事業年度において損金として算入することはできない。

  (4) 争点(4)(本件雑費は給与所得か)について

  (原告らの主張)

    前述のとおり,本件雑費は補償金の修正分配金及び土地使用承諾料の合計額であるから,給与所得ではなく雑所得に該当する。

  (被告の主張)

    前述のとおり,原告会社が原告X1に対して本件雑費を支払う合理的な理由は存在しない。そうすると,本件雑費は原告X1に対する臨時的な給与であると認められるので,雑所得ではなく,給与所得に該当する。

 

 

 

 

 

 

 

第3 争点に対する判断

 

 

 

 1 証拠(該当箇所に付記したもの)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

 

  (1)ア 原告会社の創業は,大正時代に原告X1の祖父であるB(以下「B」という。)が個人商店として呉服商を開業したことにあり,Bの跡を継いだ原告X1の父であるC(以下「C」という。)が,昭和25年に,洋品雑貨の販売,呉服等の繊維製品の販売等を営む株式会社として,資本金50万円で原告会社を設立したものである。原告会社の現在の資本金の額は1000万円で,発行済株式の総数は20万株である。原告会社の発行済株式については,原告X1が7万株(35%),原告X1の妻であるD(以下「D」という。)及び原告X1の子であるAが各5万株(各25%),Aの妻であるE(以下「E」という。)が3万株(15%)を所有しており,原告会社はいわゆる同族会社である。上記の株式の所有割合は,原告会社が資本金を50万円から1000万円に増資した際の出資金額の割合によるものである。(甲2,8,11,乙5,原告代表者)

 

   イ 原告X1は,昭和14年○○月○○日に生まれ,高校を卒業後,同33年から,父であるCが経営していた原告会社の業務を手伝うようになり,その後,原告会社の専務取締役に就任した。原告X1は,展示会の開催,店舗販売及び訪問販売等の業務を精力的に行い,商品の仕入れ等についても,1人で京都や大阪の仕入先を回ってしていた。原告X1は,Cが平成元年に死亡したのに伴い,原告会社の代表取締役に就任し,経営の実権を握るようになった。(甲8,乙11,原告代表者)

 

   ウ Aは,昭和39年○月○日に,原告X1及びDの間に長男として生まれ,商業高校を卒業後,家業を継ぐための修行として大阪府の呉服店において4年間勤務した後,平成元年から原告会社において従業員として勤務するようになった。当時,原告会社においては,原告X1が専ら仕入れ等の営業を担当し,Cが主に経理を担当していたところ,Aは,商業高校における経験を買われ,Cが担当していた経理の業務を単独で引き継いで行うようになった。Aは,同6年ころ,原告X1の兄弟が取締役の地位を離れるに際し,原告会社の取締役に就任した。また,同じころ,Dが取締役に,Eが監査役にそれぞれ就任した。(甲8,原告代表者)

 

   エ 原告X1は,以前から体力や視力が低下しており,胆石症の持病を抱えていたところ,平成10年ころから胆石症による激痛が生じるようになった。同16年5月ころからは,激痛に加え,黄だんの症状も発生したことから,徳島赤十字病院において,入院治療及び外来診療を頻繁に受けるようになり,同年6月29日には,同病院において,胆のうの摘出手術を受けた。原告X1は,その後,同病院に定期的に通院していたところ,検査の結果,C型慢性肝炎及び腹部大動脈瘤にり患していることも判明し,現在も定期的な通院及び検査が必要な状態にある。(甲8,12から15まで,19から25まで,48,原告代表者)

 

   オ 原告会社における商品の仕入れにおいては,京都や大阪の複数の仕入先を回って季節ごとにそのイメージに合う品物を選び,低価格で仕入れられるように価格交渉をすることが必要となるところ,これらの業務は,平成15年の前半ころ以降,A及びEが担当している。原告X1は,同時期ころ以降,原告会社の仕入先に仕入れのために顔を出すことはなくなり,また,原告会社においても,仕入先の担当者等と顔を合わせることがほとんどなくなり,一部の集金及び支払だけを担当するようになった。(甲8,41,原告代表者)

 

   カ 原告会社の株式会社登記簿に,平成16年8月2日付けで,原告X1が同年7月31日に代表取締役を退任し,かつ,取締役を辞任して,監査役に就任した旨,Eが同日に監査役を辞任して取締役に就任した旨,及びAが同日に代表取締役に就任した旨の登記がそれぞれされた。(乙5)

 

   キ Aは,原告会社の代表取締役に就任後,以前から担当していた経理の業務に加え,展示会及びセールの企画及び開催,店舗販売及び訪問販売,独自の顧客サービスの企画立案等の業務を主導的に行っている。また,原告会社では,平成16年7月ころから旧店舗の取壊しに伴う新店舗の建築計画が進められていたが,新店舗の設計,設備内容及び資材等に関する建築業者との打合せ,見積もり等についても,Aが中心となって行った。

     また,原告会社において,Dは接客,販売,加工,採寸等の業務を,また,Eは仕入れ,接客,販売,着付け等の業務を,以前からそれぞれ行っていたところ,原告会社の役員構成の変更によっても,その担当業務に変更はなかった。(甲8,44,49,原告代表者)

 

 

  (2)ア 原告会社の平成16年6月までの役員報酬の月額は,Aにつき20万7000円,原告X1につき31万2000円,E及びDにつきそれぞれ8万3000円であり,総額は68万5000円であった。また,上記各報酬に係る源泉所得税の額は,Aにつき2740円,原告X1につき1万1330円であり,総額は1万4070円であった。(乙9)

 

   イ 原告会社の平成16年7月31日付け取締役会議事録には,同月以降のAの役員報酬の月額を60万円とする旨の決議がされた旨記載されている。

 

     また,平成16年8月1日付け取締役会議事録には,同日以降の原告X1の監査役としての報酬を無報酬とする旨の決議がされた旨記載されている。(甲18,46,乙10)

 

   ウ(ア) 原告会社では,毎月の役員報酬を支給する際,役員報酬の総額を原告会社の口座から一時的に出金し,当該役員報酬の総額に係る源泉所得税額の総額を同口座に入金する処理を行っている。(甲8,乙6,24,26,原告代表者)

 

    (イ) 平成16年7月26日及び同年8月25日,株式会社F銀行小松島支店(以下「F銀行小松島支店」という。)の原告会社の普通預金口座から68万5000円がそれぞれ出金され,各同日,同口座に1万4070円がそれぞれ入金された。

 

      また,平成16年9月27日,F銀行小松島支店の原告会社の普通預金口座から47万4000円が出金された。また,同月28日,同口座に3万530円及び1万9200円がそれぞれ入金された。(乙6,26)

 

   エ 原告X1の所得税源泉徴収簿の平成16年8月分及び同年9月分の各「総支給金額」欄には,いずれも「312000」といったん記載された後,同記載が消され,いずれも「0」と記載された。また,Aの所得税源泉徴収簿の同年7月分から同年9月分までの各「総支給金額」欄には,いずれも「207000」といったん記載された後,同記載が消され,いずれも「600000」と記載された。さらに,原告会社の所得税源泉徴収簿の同年7月分の「総支給金額」欄には,「685000」といったん記載された後,同記載が消され,「1078000」と記載され,また,同年8月分の「総支給金額」欄には,「685000」といったん記載された後,同記載が消され,「766000」と記載された。(乙9の1から9の3まで)

 

 

  (3)ア 原告会社の売上げは,最盛期には年間5000万円を超えることもあったが,近年は減少傾向にあって,本件事業年度における売上高は1968万6904円であり,売上総利益は1355万9515円であった。(甲2,8,原告代表者)

 

   イ(ア) 原告らは,徳島県との間で,平成16年6月11日,原告らが共有していた徳島県小松島市(以下略)所在の建物(登記簿上,原告会社の持分は100分の84であり,原告X1の持分は100分の16であった。)の補償に係る契約を締結した。

 

上記契約に係る建物移転料,工作物移転料,仮住居補償金及び移転雑費補償金の合計額は1億6855万0852円であったところ,原告らは,同額を上記建物の登記簿上の共有割合に応じて取得した。また,これに加え,原告会社は,上記契約により,動産移転料及び営業補償金の合計額である795万9088円を取得した。(甲2,27)

 

    (イ) 上記各移転料及び各補償金のうち原告会社の取得分合計1億4954万1804円は,平成16年6月23日,同年7月9日,同月23日及び同月27日の4回に分けて,F銀行小松島支店の原告会社の普通預金口座に振り込まれた。(乙6,26)

 

   ウ F銀行小松島支店の原告会社の普通預金口座の預金残高は,平成16年8月2日の時点で6725万4238円であり,同年9月22日の時点で5186万6211円であった。

 

上記期間中,最も残高が少なくなったのは同月17日の時点であり,5146万6211円だった。

 

また,同口座においては,同年7月31日から同年9月22日までの間に,合計6日間,現金による取引があった。(乙6,26)

 

 

   エ 野田税理士作成の平成16年7月31日付け臨時株主総会議事録(乙1)には,原告X1が取締役を辞任して監査役に就任し,また,Eが監査役を辞任して取締役に就任する旨及び原告X1に支給する退職給与の金額を4500万円とする旨等が記載されている。

 

同議事録は,作成後,原告会社に保管されていた。(乙1)

 

 

     また,立川司法書士作成の平成16年7月31日付け臨時株主総会議事録(乙2)には,

 

原告X1が取締役を辞任して監査役に就任し,また,

 

Eが監査役を辞任して取締役に就任する旨及び

 

原告X1に支給する退職給与の金額を3500万円とする旨等が記載されている。

 

同議事録は,同年8月2日,徳島地方法務局に提出された。

 

同議事録中の退職給与の金額は,当初,空欄のまま印刷して作成されたが,後に打ち込み式の機械を用いて,「3,500万」と印字されたものである。(乙2)

 

 

   オ 野田税理士作成の平成16年9月16日付けの退職金計算書には,

 

原告X1に支給する本件退職給与の額の計算の根拠及びその過程並びに源泉所得税額が記載されているほか,

 

「X1 土地代賃借未払負担金 5,000,000」との記載がある。(乙11)

 

 

  (4)ア 原告X1は,平成16年9月24日,原告会社から本件退職給与及び本件雑費の合計額である5000万円から本件退職給与に係る源泉所得税226万4850円を除いた4773万5150円の支払を受けた。

 

なお,同支払に係る領収証には,本件雑費の内訳について,当初,補償金分配金340万円及び承諾料160万円である旨記載されていたが,

 

同17年6月3日付けで,補償金分配金360万円及び承諾料140万円と訂正した旨記載されている。(甲34,44,乙16)

 

 

   イ 原告会社が原告X1に対して本件雑費を支払うことを約した平成16年7月31日付け協定書の文面は,

 

野田税理士が作成したものである。

 

同協定書には,原告らはその間で原告X1が所有する土地の賃貸借契約を結んでいるが,長期間にわたりその賃料が支払われていない旨,

 

及び徳島県による建物等の買取りがあるため上記賃貸借契約を解約することとなった旨が記載されている外

 

 

「5.甲は賃貸借契約の解約にあたり,長期間の地代を未払にしていたこと,及び未払期間中多大の迷惑を乙にかけたことの代償として総額500萬円の支払を乙にすることを約束し,乙はこれを了解した。」,

 

「6.甲は今回甲の建物を取壊すことになるが,取壊し後乙の所有する土地に甲の企画する新店舗を建設しなければならない。」,

 

「7.乙は甲が企画する前項新店舗を乙が所有する宅地(都市計画街路敷設後の残土地)に建設することを認める。但し新賃貸契約書については甲乙が協議のうえ別途締結することとする。」との記載がある

 

(なお,上記「甲」とは原告会社のことであり,上記「乙」とは原告X1のことである。)。(甲31,乙7,原告代表者)

 

 

   ウ 原告らは,平成16年9月1日,原告X1が所有する土地を原告会社が店舗敷地として借り受ける旨の使用貸借契約を締結した。

 

同契約においては,原告会社が原告X1に対して同月から上記土地の固定資産税相当額を支払う旨の約定がされた外,何ら約定は定められていない。(甲35)

 

 

 

 

 2 争点(1)(本件退職給与の損金算入の可否)について

 

 

  (1)ア 法人税法上,役員に対する退職給与は損金の額に算入することとされているところ(平成18年法律第10号による改正前の法人税法36条),ここにいう「退職給与」とは,本来退職しなかったならば支払われなかったもので,退職に基因して支払われる給与をいうと解するのが相当である。

 

     また,役員が実際に退職した場合でなくても,

 

役員の分掌変更又は改選による再任等がされた場合において,

 

例えば,常勤取締役が経営上主要な地位を占めない非常勤取締役になったり,

 

取締役が経営上主要な地位を占めない監査役になるなど,役員としての地位又は職務の内容が激変し,

 

実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは,

 

上記分掌変更又は再任の時に支給される給与も,

 

「退職給与」として損金に算入することとされるのが相当である。

 

 

本件法人税通達は,これと同様の趣旨を,一般的に,実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合を例示した上で,規定したものであると解することができる。

 

     そして,本件法人税通達が具体的に規定している事情は飽くまで例示にすぎないのであるから,

 

分掌変更又は再任の時に支給される給与を「退職給与」として損金に算入することができるか否かについては,

 

当該分掌変更又は再任に係る役員が法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを,具体的な事情に基づいて判断する必要があるというべきである。

 

     そこで,まず,原告X1が代表取締役を退任し,かつ,取締役を辞任して,監査役に就任したことで,原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かについて検討する。

 

 

 

   イ(ア) 前記認定事実によると,

 

①原告X1は,昭和33年から原告会社の業務を手伝うようになり,その後,原告会社の取締役,更には代表取締役に就任し,展示会の開催,店舗販売及び訪問販売等の業務を精力的に行い,原告会社の業務の中でも特に重要となる商品の仕入れについても,1人で京都や大阪の仕入先を回って行うなど,以前は原告会社の経営において中心的な役割を担っていたこと,

 

②しかし,原告X1は,平成10年ころから持病の胆石症により激痛を伴う症状が発生するなど,体力の著しい低下がみられ,上記のような業務を行うのに支障を来すようになったこと,

 

そのため,同15年の前半ころ以降からは,原告会社の仕入れに係る業務はA及びEが行うようになり,原告X1が仕入先を訪問することはなくなり,また,原告会社の店舗において仕入先の担当者等と顔を合わせることもほとんどなくなったこと,

 

④原告会社においては,Dは接客,販売,加工,採寸等の業務を,また,Eは仕入れに加えて接客,販売,着付け等の業務を以前から継続して行っているものの(なお,Aについては後記(イ)のとおりである。),原告X1は,同年の前半ころ以降は仕入れ以外の業務についても,上記のような業務を行うことはなく,一部の集金及び支払の業務だけを担当するようになるなど,以前に自己が行っていた業務と比べてはもちろんのこと,他の役員に比べても,その行う業務の分量及び重要性が著しく低下したこと,

 

⑤原告X1は,同16年5月ころから胆石症の症状が急激に悪化し,同年6月29日には胆のうの摘出手術を受け,その後の定期的な通院及び検査の結果,C型慢性肝炎及び腹部大動脈瘤にり患していることが判明し,現在も定期的な通院及び検査が必要な状態にあること,

 

⑥原告X1は,同年7月31日に代表取締役を退任し,かつ,取締役を辞任して,監査役に就任した後は,原告会社の店舗に顔を出すこともなくなり,それまで行うことのあった一部の集金及び支払の業務を含め,原告会社の業務を一切行わなくなり,その経営に関与しなくなったことが認められる。

 

    (イ) 一方で,前記認定事実のとおり,Aは商業高校を卒業後,家業である原告会社を継ぐための修行として大阪府の呉服店において4年間経験を積んだ後,平成元年から原告会社において従業員として勤務するようになったこと,Aは当時専らCが行っていた経理の業務を引き継いで担当し,同6年ころからは原告会社の取締役に就任したこと,Aは以前から行っていた経理の業務に加え,同15年ころからEと共に仕入れの業務を原告X1に代わって行うようになったことが認められるのであって,これらの事実によれば,Aは,同16年7月31日に原告会社の代表取締役に就任した当時,既に原告会社に入社してから約15年間以上,取締役に就任してからに限っても10年間以上,原告会社における業務を経験し,その中でも重要な業務の1つであると考えられる経理の業務を担当してきた上,同15年ころからは,原告会社において最も重要な業務である仕入れも行うようになるなど,原告会社の経営に必要な知識及び経験を十分に有していたということができる。

 

      そして,前記認定事実のとおり,Aは,平成16年7月31日に原告会社の代表取締役に就任した後は,以前から行っていた経理や仕入れの業務を行うとともに,展示会及びセールの企画及び開催,店舗販売及び訪問販売,顧客サービスの企画立案,新店舗の設計に関する打合せ等を行うなど,実際に原告会社における重要な業務のほとんどを中心となって行っているのであるから,原告会社の経営上,最も重要な地位を占めるようになったということができる。

 

   ウ 被告は,原告X1が,取締役を退任後も原告会社の監査役であるとともに筆頭株主であること,約15年間にわたり原告会社の代表取締役を務めていたこと,原告会社の現在の代表取締役であるAの父であることなどから,長年の経験を活かし,また,その所有する株式を通じて,原告会社の経営に影響を与え得るとして,原告X1は引き続き原告会社の経営上主要な地位を占めており,原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められない旨主張する。

 

     しかしながら,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によると,原告X1を監査役に就任させたのは,家族以外の者を役員とした際における事務処理の煩雑を避けるためのものであることが認められるところ,原告会社のように役員全員が同居する家族のみで構成される小規模な同族会社においては,監査役の業務が実際上重要視されておらず,原告X1のように,現実には仕事をすることが困難な状況にある者について上記のような扱いをすることは間々あることということができるし,原告X1の外に新たに役員に就任するに足りるほど,原告会社の業務に関与している者の存在はうかがわれないのであるから,原告X1が監査役に就任したことをもって,原告X1に原告会社の経営上重要な地位又は権限が残っていることの現れとみることはできない。

 

     また,確かに,前記認定事実のとおり,原告X1は役員の分掌変更の前後を通じて原告会社の発行済株式の35%を所有する筆頭株主ではあるものの,前記認定事実のとおり,原告会社の発行済株式は,その全部を同居する家族がその出資割合に応じた比率のまま所有していることなどに照らすと,原告会社において,役員が経営上の方針等について,その株式の所有割合に応じた影響力又は発言力を有しているとは認め難い。

 

 

また,前述のとおり,原告X1は原告会社において,役員としてはおろか,従業員としても一切の業務を行っていない状態になったのであって,仮に,原告X1が筆頭株主として原告会社に対して何らかの影響を与え得るとしても,それは,飽くまで株主の立場からその議決権等を通じて間接的に与え得るにすぎず,役員の立場に基づくものではないから,株式会社における株主と役員の責任,地位及び権限等の違いに照らすと,上記のような株式保有割合の状況は,原告X1が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあると認めることの妨げとはならないというべきである。

 

 

     さらに,原告X1が約15年間にわたり原告会社の代表取締役を務めており,原告会社の現在の代表取締役であるAの父であるとしても,そのような事情は原告X1が原告会社の経営に影響を与え得る可能性を抽象的に示すものにすぎず,実際に原告X1が上記のような立場に基づいて原告会社の経営に関与していることは何らうかがわれないのであるから,上記事情をもって原告X1が経営上主要な地位を占めていることを示すものと評価することはできない。

 

   エ 以上によると,原告X1は,かつては原告会社の経営において中心的な役割を担っていたものの,その病状が悪化するに連れて,従前と同様の業務を行うことに支障を来すようになり,平成15年の前半ころから徐々に原告会社において行う業務が減少し,以前に自己が行っていた業務と比べてはもちろんのこと,他の役員と比べても,その行う業務の分量及び重要性が著しく低下していたところ,同16年6月に受けた胆のう摘出手術などをきっかけとして,同年7月31日付けで原告会社の代表取締役を退任し,かつ,取締役を辞任して,監査役に就任することで,以後,原告会社の業務を行わなくなったのであり,代わりに,原告会社における主要な業務は,いずれもAが中心となって行うようになったということができる。

 

     そうすると,原告X1については,上記分掌変更によって役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあると認められるというべきである。

 

   オ なお,被告は,本件退職給与の支給は本件事業年度における多額の補償金等の取得により発生する高額の納税義務を回避するために行われたものである旨主張する。

 

     確かに,前記認定事実のとおり,

 

①本件退職給与の金額の記載が異なる2つの臨時株主総会議事録が存在すること,

 

②平成16年7月31日の役員改選後はいずれも同居する家族である原告会社の4人の役員の報酬総額が増加していること,

 

③原告会社,原告X1及びAの各所得税源泉徴収簿には役員報酬額が変更されたとする時期以後も従前と同額の報酬が支給されたことをうかがわせる記載の訂正があること,

 

④原告会社の口座からは,役員報酬額が変更されたとする時期以降も従前どおりの報酬額が出金され,また,従前どおりの源泉所得税額が入金されており,それによって生ずる差額分は,いずれも同年9月になってから出金又は入金されていること,

 

⑤原告X1が代表取締役を退任等したのは本件事業年度の最終日に開催された臨時株主総会においてであること,

 

⑥原告会社は本件事業年度に平年における年間売上高の8倍を超える多額の補償金を取得しており,

 

高額の納税義務が発生する見込みであったことなどに照らすと,

 

原告会社は補償金に係る所得によって本件事業年度に高額の納税義務が発生することを回避することを1つの動機として本件退職給与を支給することとしたものであることが強くうかがわれるものの,

 

前述のとおり,原告X1は代表取締役を退任するなどして監査役に就任したのを機に原告会社の業務を行うことがなくなったということができるのであるから,

 

仮に,本件退職給与の支給に上記のような動機があったとしても,原告X1が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるという上記判断を左右しないというべきである。

 

 

  (2)ア もっとも,前記(1)のとおり,原告X1が実質的に退職したと同様の事情にあると認められるとしても,法人税に係る所得の計算上,損金に算入される費用は,当該事業年度の最終日までに債務が確定しているものでなければならない(法人税法22条3項2号)。

 

したがって,本件退職給与を本件事業年度の損金に算入することができるというためには,本件退職給与の金額が本件事業年度において具体的に確定していなければならないというべきである(なお,法人税法基本通達9-2-18参照)。

 

   イ(ア) 前記認定事実のとおり,平成16年9月16日付けの野田税理士作成の退職金計算書には,本件退職給与の金額の計算の根拠及びその過程並びに源泉所得税額等が記載されているところ,

 

このような記載からは,退職金計算書は野田税理士がAらに対して本件退職給与の金額の計算の根拠及びその過程並びに源泉所得税額等を説明するために作成された書類であると考えるのが自然である。

 

そうすると,仮に,本件退職給与の金額が同年7月31日に既に決まっていたものであるとすると,上記のような性質の書類がその後に作成されるというのは不自然である。

 

    (イ) また,前記認定事実のとおり,原告X1に支給する退職給与の金額の記載が異なる2通の平成16年7月31日付け臨時株主総会議事録が存在する。

 

 

     a 原告らは,立川司法書士作成の臨時株主総会議事録(乙2)に退職給与の金額が3500万円と記載されているのは,立川司法書士はAから退職給与の金額が4500万円である旨聞いたものの,上記議事録に金額を打ち込む際に間違えたためである旨主張し,これに沿う立川司法書士の陳述書(甲9)がある。

 

 

       しかし,上記陳述書によれば,立川司法書士は,Aから聞いた退職給与の金額を覚えておらず,Aが4500万円だったと言っており,野田税理士が作成した議事録にも「四千五百万円」と記載されていることからすると,自分は4500万円と聞いたのであろうと推測し,それを前提に自分が退職給与の金額を打ち間違えたと供述しているにすぎないのであるから,その供述からは,立川司法書士がAから退職給与の金額は4500万円であると聞いたということも,退職給与の金額を打ち間違えたということも,直ちに認めることはできない。

 

     b また,前記認定事実のとおり,立川司法書士作成の上記議事録は,当初,退職給与の金額のみを空欄にした状態で印刷して作成されたものであるところ,同議事録には原告X1に対して退職給与を支給する旨及びその支給額を定めた旨の記載があるのであるから,上記株主総会において原告X1に対する退職給与の支給額が定められたのであれば,同議事録を印刷する前にその支給額の記載をすることが可能であり,また,通常であればそのようにすると考えられるにもかかわらず,上記のように支給額が空欄のまま印刷されたことからすると,同議事録を印刷した時点では,支給額が決められていなかったということが強くうかがわれる。

 

 

     c そして,その後,上記議事録には退職給与の金額が3500万円である旨記載された上,平成16年8月2日に法務局に提出されたところ,上記のとおり,立川司法書士が退職給与の金額を打ち間違えたとは直ちに認めることができないことも考慮すると,同議事録に退職給与の金額が3500万円である旨記載された時点においては,原告X1に対する退職給与の金額は4500万円と定められていなかったことが強くうかがわれる。

 

    (ウ)a また,前記認定事実のとおり,原告X1に支給する本件退職給与の額が決まったとされる平成16年7月31日の直後である同年8月2日の時点で,原告会社の普通預金口座には本件退職給与の金額を大きく上回る6725万4238円の残高があり,

 

その後,本件退職給与が支払われるまでの間,同口座には常に5146万6211円以上の残高があったのであるから,

 

原告会社は同年7月31日以降,原告X1に対する本件退職給与を実際に支給しようとすればいつでも支給することができる状態にあったにもかかわらず,

 

同年9月24日まで支給していないことも不合理というべきである

 

 

     b 原告らは,原告会社の新店舗の建て替え等によって多忙であったため本件退職給与の支給が遅れたのであり,そこには合理的な理由が存在する旨主張する。

 

 

       しかし,前記認定事実のとおり,本件退職給与の額が決まったとされる平成16年7月31日以降,本件退職給与が実際に支給された同年9月24日までに,上記口座においては合計6日間,現金による取引が行われており,その際に併せて本件退職給与の金額である4500万円を引き出すことができなかった事情はうかがわれないのであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。

 

       かえって,Aが,新店舗の建築資金等の支払のための預金を置いておかなければいけないという考えがあって,本件退職給与の支給を後に回した旨供述していること(原告代表者)からすると,上記新店舗の建築資金等の支払金額が確定しなければ,本件退職給与の金額も確定することができなかったということもうかがわれる。

 

   ウ 以上の事実を考慮すると,本件退職給与の金額が本件事業年度の末日である平成16年7月31日までに確定したと認めるのは困難であり,その金額は同年9月16日ころに確定したものと認めざるを得ない。

 

     そうすると,本件退職給与の金額が確定したのは本件事業年度においてではなく,また,その支払がされたのも本件事業年度においてではないことになるから,結局,原告会社は本件事業年度において本件退職給与に係る金額を損金に算入することはできないというべきである。

 

 

 

 

 3 争点(2)(本件退職給与は給与所得か)について

 

  (1) 退職所得とは,退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいうところ(所得税法30条1項),法人の役員が実際に退職した場合でなくても,役員の分掌変更又は改選による再任等により,役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には,上記分掌変更又は再任の時に支給される給与も「退職により一時に受ける給与」に該当するものとして,同給与に係る所得も退職所得として扱うのが相当である(本件所得税通達参照)。

 

 

  (2) 前述のとおり,原告X1は,平成16年7月31日付けで原告会社の代表取締役を退任し,かつ,取締役を辞任して,監査役に就任することで,役員としての地位又は職務の内容が激変し,実質的に退職したと同様の事情にあると認められる。

 

    そうすると,本件退職給与は「退職により一時に受ける給与」に該当し,原告X1の本件退職給与に係る所得は退職所得に当たるというべきであって,被告主張のようにこれを給与所得ということはできない。

 

 

 4 争点(3)(本件雑費の損金算入の可否)及び争点(4)(本件雑費は給与所得か)について

 

  (1)ア 原告らは,本件雑費500万円は補償金の修正分配金360万円及び土地使用承諾料140万円の合計である旨主張する。

 

     しかしながら,

 

①前記認定事実のとおり,原告会社が原告X1に対して本件雑費を支払うことを約した協定書(甲31,乙7)には,500万円の支払は,原告会社が原告X1に対して長期間にわたり土地の賃料を未払にしていたこと及び未払期間中に多大な迷惑をかけたことの代償である旨記載されていること,

 

②本件雑費が補償金の修正分配金及び土地使用承諾料の合計額であれば,原告らは上記協定書にその旨記載することができ,かつ,その旨記載するはずであるにもかかわらず,上記協定書には本件雑費が補償金の修正分配金及び土地使用承諾料の合計額であることをうかがわせるような記載が一切されておらず,また,本件雑費が土地賃料の未払等に対する代償である旨の上記記載からは,その具体的内容が補償金の修正分配金及び土地使用承諾料であると読み取ることができないこと,

 

③前記認定事実のとおり,上記協定書には,原告会社が原告X1の所有する土地に新店舗を建設する件については,原告らが別途協議した上で賃貸借契約を締結する旨記載されているところ,これは,本件雑費のうち140万円は土地使用承諾料であるとの原告らの主張と矛盾するものであるということができること,

 

④補償金の修正分配金の算定根拠を記したとされるあん分計算書は,本件各処分の前に行われた税務署職員等による調査の際には提示されていなかったこと(弁論の全趣旨),

 

⑤前記認定事実のとおり,野田税理士が作成した平成16年9月16日付けの退職金計算書には,本件雑費が「土地代賃借未払負担金」と記載されているところ,この記載からも,その具体的内容が補償金の修正分配金及び土地使用承諾料であると読み取ることができないこと,

 

⑥前記認定事実のとおり,原告らの間で交わされた同月1日付け土地使用貸借契約書には,原告会社が原告X1の所有する土地を使用するにつき,原告会社が原告X1に対して同月以降,同土地の固定資産税相当額を支払うこととすると記載されている外には,土地使用承諾料の発生をうかがわせる記載が何らないことなどに照らすと,本件雑費が補償金の修正分配金360万円及び土地使用承諾料140万円の合計であると認めることはできず,原告らの上記主張を採用することはできない。

 

 

   イ また,本件雑費は土地賃料の未払等に対する代償でないことは原告らが自認するとおりであるから,上記協定書の記載によっても,本件雑費は土地賃料の未払等に対する代償であると認めることはできない

 

(なお,野田税理士の税務手帳の平成16年7月27日付け欄(甲40の1)に「補償金 承諾料」と,同月31日付けの協定書(甲31,乙7)には「長期間の地代を未払にしていたこと,及び未払期間中多大の迷惑を乙にかけたことの代償」と,同年9月16日付けの退職金計算書(乙11)には「土地代賃借未払負担金」と,同月24日付けの領収証(甲34,乙16)には「補償金分配金」,「承諾料」とそれぞれ記載されていることからすると,そもそも,本件雑費が支払われた時点までに,本件雑費の名目が確定していたかさえ疑わしいといわざるを得ない。)。

 

 

  (2) 以上によると,原告会社が原告X1に対して本件雑費を支払う合理的な理由が存在していたということはできない。

 

    そして,法人がその役員に対して支給する金銭は,当該支給が役員の立場とは無関係の立場に基づいてされたものということができない場合,原則として,当該役員としての職務執行の対価としての性質を有すると解すべきであるところ,原告X1は本件雑費が支払われた平成16年9月24日の時点において,原告会社の監査役であったのであるから,本件雑費は原告X1に対する職務執行の対価としての臨時的な給与であったと認めるのが相当である。

 

  (3) したがって,原告会社は本件雑費に係る金額を本件事業年度において損金に算入することはできず,また,原告X1の本件雑費に係る所得は,雑所得ではなく給与所得に該当するというべきである。

 

 

 

 5 本件各処分の適法性について

  (1) 本件更正処分1等について

   ア 既に判示したところによると,原告会社は,本件退職給与に係る金額及び本件雑費に係る金額のいずれも,本件事業年度において損金に算入することができない。

   イ そして,弁論の全趣旨によると,原告会社の本件事業年度の法人税に係る所得金額及び納付すべき税額は,別紙3「原告会社の本件事業年度の法人税額及び過少申告加算税額」の「1 法人税額」記載のとおりであり,これは,本件更正処分1における所得金額及び納付すべき税額と同額であるから,本件更正処分1は適法である。

   ウ また,弁論の全趣旨によると,原告会社に賦課されるべき本件事業年度の法人税に係る過少申告加算税の額は,別紙3「原告会社の本件事業年度の法人税額及び過少申告加算税額」の「2 過少申告加算税額」記載のとおりであり,これは,本件過少申告加算税賦課決定処分1における過少申告加算税の額と同額であるから,本件過少申告加算税賦課決定処分1は適法である。

 

  (2) 本件納税告知処分等について

   ア 既に判示したところによると,原告X1の本件退職給与に係る所得は退職所得に該当し,また,本件雑費に係る所得は給与所得に該当する。

   イ そして,弁論の全趣旨によると,原告会社が新たに納付すべき平成16年7月から同年12月分の源泉所得税額は,別紙4「原告会社の源泉所得税額及び不納付加算税額」の「1 源泉所得税額」記載のとおり,43万8290円である。

     したがって,本件納税告知処分のうち43万8290円を超える部分は違法であるから,取り消されるべきである。

   ウ また,弁論の全趣旨によると,原告会社に賦課されるべき平成16年7月から同年12月までの期間分の源泉所得税に係る不納付加算税額は,別紙4「原告会社の源泉所得税額及び不納付加算税額」の「2 不納付加算税額」記載のとおり,4万3000円である。

     したがって,本件不納付加算税賦課決定処分のうち4万3000円を超える部分は違法であるから,取り消されるべきである。

 

  (3) 本件更正処分2等について

 

   ア 既に判示したところによると,原告X1の本件退職給与に係る所得は退職所得に該当し,また,本件雑費に係る所得は給与所得に該当する。

 

   イ そして,弁論の全趣旨によると,原告X1の平成16年分の所得税に係る所得金額及び納付すべき税額は,別紙5「原告X1の平成16年分の所得税額及び過少申告加算税額」の「1 所得税額」記載のとおりであり,原告X1には34万9760円の還付金が生ずることとなる。

     したがって,本件更正処分2は違法であるから,全部取り消されるべきである。

 

   ウ また,弁論の全趣旨によると,別紙5「原告X1の平成16年分の所得税額及び過少申告加算税額」の「2 過少申告加算税額」記載のとおり,原告X1に対して平成16年分の所得税に係る過少申告加算税は賦課されるべきではない。

     したがって,本件過少申告加算税賦課決定処分2は違法であるから,全部取り消されるべきである。

 

 

第4 結論

   よって,原告会社の請求は,主文第1項の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,原告X1の請求は,理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。

 

     東京地方裁判所民事第38部

         裁判長裁判官    杉原則彦

            裁判官    松下貴彦

            裁判官    島田尚人