分掌変更役員退職金(2)

 

 

法人税更正処分等取消請求事件

 

 

【事件番号】 長崎地方裁判所判決

 

【判決日付】 平成21年3月10日

 

【掲載誌】  税務訴訟資料259号順号11153

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

 

1 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額4549万4572円、納付すべき税額1300万5900円を超える部分及び過少申告加算税7万5000円を超える部分の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 

2 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成16年6月分の源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 

3 原告のその余の請求を棄却する。

 

4 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

 

       

 

事実及び理由

 

 

第1 請求

 1 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成14年7月1日から平成15年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額6337万5772円、納付すべき税額1990万3800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 2 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額4298万7872円、納付すべき税額1225万3800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 3 長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした、平成16年7月1日から平成17年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額7188万5812円、納付すべき税額2003万4200円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

 4 主文2項同旨

 5 訴訟費用は、被告の負担とする。

 

 

第2 事案の概要

  本件は、原告が、長崎税務署長が①原告代表者の長男に対する従業員給与及び賞与並びに役員報酬、②原告代表者の妻に対する退職慰労金の各支給についていずれも損金算入を認めずにした法人税の更正処分、過少申告加算税の賦課決定処分、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分がいずれも違法であると主張して、これらの処分の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)

 

  (1) 原告は、長崎県内に本店を有し、紙器製造販売等を目的として設立された株式会社であり、一事業年度は7月1日から6月30日までである(争いのない事実)。

    平成15年、平成16年及び平成17年の各6月30日における原告の株主、原告代表者との続柄、持株数及び持株割合は、別表1「株主の状況」の「氏名」、「続柄」並びに「平成15年6月期」、「平成16年6月期」及び「平成17年6月期」の各「持株数」及び「割合」のとおりであり、平成18年法律第10号による改正前の法人税法2条10号に定める同族会社である(乙1ないし3の各2枚目、乙4の別表2、弁論の全趣旨)。

 

  (2) 原告代表者の長男である乙(以下「乙」という。)は、

 

平成13年5月26日、原告従業員として入社し(甲6)、

 

平成16年6月25日、原告の取締役に就任した(甲6、乙5の1)。

 

    原告は、乙に対し、

 

平成14年7月1日から平成15年6月30日までの事業年度(以下「平成15年6月期」という。)において従業員給与及び賞与として合計255万9500円を、

 

平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度(以下「平成16年6月期」という。)において従業員給与及び賞与として合計275万2400円を、

 

平成16年7月1日から平成17年6月30日までの事業年度(以下「平成17年6月期」という。)において役員報酬として合計240万円を支給した

 

 

(乙に対する平成15年6月期の従業員給与及び賞与、平成16年6月期の従業員給与及び賞与並びに平成17年6月期の役員報酬を併せて「乙に対する本件給与等」といい、平成15年6月期、平成16年6月期及び平成17年6月期を併せて「本件各事業年度」という。)。

 

  (3) 原告代表者の妻である丙(以下「丙」という。)は、

 

昭和56年5月17日、原告が組織変更する前のA有限会社(以下、A有限会社も原告と表記する。)の取締役に就任し(乙30)、

 

平成4年の組織変更を経て、

 

平成16年6月25日、原告の取締役を退任し、監査役に就任した(甲5、乙5の1、乙19の2)。

 

同日の原告の株主総会において丙に対し退職金として1800万円を支払う旨決議され(乙5の2)、

 

原告は、丙に対し、上記1800万円を退職給与として源泉徴収税額39万円及び特別徴収税額23万4000円(市町村民税16万9200円、都府県民税6万4800円)を控除した1737万6000円を支払った(乙11)。

 

    原告は、平成16年7月5日、長崎税務署長に対し、丙の退職金に係る源泉徴収税39万円を納付した(乙6。丙に対する1800万円の退職給与を、以下「丙に対する本件退職金」という。)。

 

  (4) 原告は、前記(2)の乙に対する本件給与等及び前記(3)の丙に対する本件退職金の各支給を、税額の算定において損金の額に算入した上で、法定申告期限内に、次のとおり、法人税の確定申告をした(争いのない事実)。

 

   ア 平成15年6月期

     所得金額    6337万5772円

     納付すべき税額 1990万3800円

   イ 平成16年6月期

     所得金額    4298万7872円

     納付すべき税額 1225万3800円

   ウ 平成17年6月期

     所得金額    7188万5812円

     納付すべき税額 2003万4200円

 

 

  (5) 長崎税務署長は、平成18年6月27日、原告に対し、前記(2)の乙に対する本件給与等及び前記(3)の丙に対する本件退職金の各支給を損金の額に算入しないものとして、次のとおり、アからウの法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をし、エの源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした(争いのない事実、甲1ないし3)。

 

 

 

   ア 平成15年6月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

     所得金額    6593万5272円

     納付すべき税額 2049万8600円

     過少申告加算税    5万9000円

 

     更正理由 

 

① 乙に対し、合計255万9500円を従業員給与及び賞与として支給し、当該事業年度の損金の額に算入しているが、乙は、平成13年以降、米国ニューヨーク州の学校で就学中であることから、使用者の指揮命令に服して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供できる常況にあるとは認められない。

 

 

乙に対して従業員給与及び賞与として合計255万9500円を支給することは、乙の留学費用の一部を従業員給与という名目で支出し、原告が負担したものとみることができ、非同族会社においては容易になし得ない行為であると認められるから、純経済人の行為としては、不合理、かつ不自然な行為又は計算であり、乙に対する従業員給与及び賞与を損金の額に算入することは、原告の法人税を不当に減少させることになるため、法人税法132条1項の規定により255万9500円を従業員給与の損金不算入額として、平成15年6月期の所得金額に加算した。

          

 

② 上記更正により留保金額及び留保控除金額が移動したことに伴い、同族会社の留保金額に対する税額を再計算した結果、課税留保金額に係る税額が17万3185円減少したので、これを法人税額から減算した。

 

   イ 平成16年6月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

     所得金額    6349万4572円

     納付すべき税額 1840万5900円

     過少申告加算税   61万5000円

 

 

     更正理由 

 

① 乙に対し、合計275万2400円を従業員給与及び賞与として支給し、当該事業年度の損金の額に算入しているが、乙は、平成13年以降、米国ニューヨーク州の学校で就学中であることから、使用者の指揮命令に服して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供できる常況にあるとは認められない。

 

 

乙に対して従業員給与及び賞与として合計275万2400円を支給することは純経済人の行為としては、乙の留学費用の一部を従業員給与という名目で支出し、原告が負担したものとみることができ、非同族会社においては容易になし得ない行為であると認められるから、不合理、かつ不自然な行為又は計算であり、乙に対する従業員給与及び賞与を損金の額に算入することは、原告の法人税を不当に減少させることになるため、法人税法132条1項の規定により275万2400円を従業員給与の損金不算入額として、平成16年6月期の所得金額に加算した。

          

② 丙が取締役から監査役へ分掌変更したことを理由に、同人に対して退職金として支給した1800万円を当該事業年度の損金の額に算入しているが、

 

法人税法及び法人税基本通達9-2-23によれば、分掌変更によりその役員に対して退職給与として支給する給与については、分掌変更により役員としての地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したと認められる場合を除き、その役員に対する賞与に該当することになるところ、

 

 

丙は、平成16年6月25日に取締役を退任し、監査役に就任した後も法人税法2条15号に定める「役員」に該当し、かつ、大株主として原告の意思決定に参加する立場にあることから、法人税法及び法人税法基本通達9-2-23に定める「分掌変更により役員としての地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある」とは認められない。

 

 

丙に対する本件退職金の支給は、同人に対する臨時的給与のうち他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものに該当するため、本件退職金を役員賞与の損金不算入額として、平成16年6月期の所得金額に加算した。

          

 

③ 原告が平成15年6月期の更正に伴い納付することとなる平成15年6月期分の事業税24万7500円が平成16年6月期の損金の額に算入されるため、これを所得金額から減算した。

 

 

 

 

 

   ウ 平成17年6月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

     所得金額    7231万7112円

     納付すべき税額 2016万3800円

     過少申告加算税    1万2000円

 

     更正理由 

 

① 乙に対し、合計240万0000円を役員報酬として支給し、当該事業年度の損金の額に算入しているが、乙は、平成13年以降、米国ニューヨーク州の学校で就学中であることから、勉学の傍ら海外において原告の常況を把握し、業務決定の意思決定に参加できる常況にあるとは認められない。

 

 

乙に対して役員報酬として合計240万0000円を支給することは、乙の留学費用の一部を従業員給与という名目で支出し、原告が負担したものとみることができ、非同族会社においては容易になし得ない行為であると認められるから、純経済人の行為としては、不合理、かつ不自然な行為又は計算であり、乙に対する役員報酬を損金の額に算入することは、原告の法人税を不当に減少させることになるため、法人税法132条1項の規定により240万0000円を役員報酬の損金不算入額として、平成17年6月期の所得金額に加算した。

          

 

② 原告が平成16年6月期の更正に伴い納付することとなる平成16年6月期分の事業税196万8700円が平成17年6月期の損金の額に算入されるため、これを所得金額から減算した。

 

 

   エ 平成16年6月分源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分

     本税額      317万8967円

     不納付加算税    31万7000円

 

     処分の理由 丙に対する退職金として支給した1800万円は、役員賞与に該当するから、所得税の源泉徴収義務を負うところ、これを行っていない。

 

 

  (6) 原告は、前記(5)の各処分を不服として、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、平成19年5月30日、同審査請求は棄却された(争いのない事実)。

  (7) 原告は、平成19年9月25日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 

 

 2 法令及び関連通達

 

  

 

 

 

 3 争点

  (1) 乙に対する本件給与等の支給金額を原告の所得の計算上損金の額に算入することが原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となり、損金の額に算入することができないか

  (2) 丙に対する本件退職金の支給金額を原告の所得の計算上損金の額に算入することができないか

 

 

 

 

 4 争点に対する当事者の主張

  (1) 争点(1)について

   【被告の主張】

    法人税法132条1項の趣旨は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合に、それを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものである。そして、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算とは、非同族会社では通常なしえないような行為、計算、すなわち同族会社であるが故に容易になし得るような行為、計算又は純経済人の行為として不合理、不自然な行為、計算である。

    乙は、平成12年3月に高校を卒業した後、カナダ等における語学留学を経て、原告に入社直後の平成13年7月から、再び米国ニューヨーク州の語学学校に入学し、平成18年1月に同州内のC大学を卒業するまでの間、終始米国を拠点に生活していた。乙は、平成13年1月から平成18年2月までの間、年に1回程度、合計5回にわたって帰国したにすぎず、帰国時の日本国内の滞在期間は、いずれも1、2週間程度であるから、客観的に、乙が原告の業務遂行に関与できるような状況とは認め難い。

    また、乙は、原告の取締役に就任した平成16年6月25日以降平成18年2月13日までの間、平成17年1月21日開催の取締役会を除いてその余の取締役会に出席していない。出席していない取締役会においては回答票を送付しているものの、同回答票は、議題事項について賛成又は反対に丸印を付すのみで、意見欄に意見を付記していない簡易なものである。

    そして、乙は、平成13年7月から平成16年10月までの間、原告に対し、毎月1回程度、合計36通のレポートを提出しているが、そのレポートはA4用紙1、2枚程度の分量で、その内容も自身の今後の進路や留学先での生活状況を報告するもの、留学先で学んだ知識に対する感想、一定の見解を紹介したもののほか、企業における人材育成や社員間のコミュニケーションの重要性、原告の海外進出の展望等については一般的抽象的事実の摘示や感想にとどまり、原告の業務に直接の影響をもたらすほどの個別、具体的内容ではない。

    さらに、乙は、米国の大学への進学や米国企業への就職等の希望を報告し、現に、平成18年2月には米国ニューヨーク州所在の会計法人に就職している。

    このような乙の活動状況をみても、乙が原告の従業員として業務を行い、又は、原告の役員としてその主要な業務の意思決定に参画していたとは認められない。本件給与等の実質は、乙の父である原告代表者が留学中の子の生活費等に充てるための仕送りとして自ら負担すべきものを、乙を原告の社員ないし役員とすることで原告を通じて費用を支出し肩代わりをさせた上、給与ないし役員報酬の名目で原告の損金としたものとみるのが最も自然かつ合理的である。したがって、乙に対して、給与又は役員報酬としての支給を容認することは原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるから、長崎税務署長が、法人税法132条1項に基づき、乙に対する本件給与等の損金の額への算入を否認したことは適法である。

   【原告の主張】

    原告においては、海外の会社との輸出入が欠くことのできない業務となっている以上、社員に対する英語教育が必要である。乙が海外に居住していたとしても、通信手段の発達した現在、指揮命令を伝えることも容易である。仮に、法人税法132条1項の適用があるとしても、同条項は、同族会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われた場合に、これを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めた規定であるから、否認できるのは、乙が従事した業務に対する給与等や報酬を超える部分にすぎない。正常な行為や計算に引き直すことなく、直ちにその全部を否認したことは違法である。

  (2) 争点(2)について

   【被告の主張】

    退職慰労金は、役員の退任を基因として支給されるものであり、必ずしも会社から最終的に退かなくとも、現在の特定の地位から退くことを理由に退職慰労金を支給することは可能である。したがって、取締役を退任し、監査役に就任した場合などに退職慰労金の支給は可能になる。

    しかし、税法上、退職給与とは、退職に基因して一時に支払われることになった一切の給与をいい、退職しなかったならば支払われなかったものであるから、原則として、役員又は使用人が現実に退職した場合に限って、法人の損金の額に算入することが認められる。そして、この「退職した」とは、会社との委任関係がすべて終了したこと、すなわち、実質的に会社から離脱したことをいう。

    役員に対する退職給与は、一般に役員の在職期間中の職務執行に対する対価であり、報酬の後払いとしての性格を有するから、原則として損金の額に算入されるところ、いまだ退職していない者に対して支給する金額は、たとえ退職給与の名目をもってするものであっても、原則として退職給与として取り扱うことはできず、役員報酬及び退職給与以外のものに該当し、法人税法35条1項により、原則として損金の額に算入されない。ただし、役員のままであっても、分掌変更等があった場合において実質的に退職と同様の事情があるときには、その支給した金額を退職給与として取り扱うことが相当であり、本件通達が退職給与として取り扱うことが相当か否かの基準を定めている。

    丙は、平成16年6月25日の臨時株主総会において取締役を辞任して監査役に就任しているが、監査役も取締役も法人税法上の「役員」(同法2条15号)であり、現実に役員を退職したものではない。また、丙は、同族会社である原告の100%の株式を保有する第1順位の株主グループに属する者であって、平成16年6月期における丙自身の持株割合も12%に達しているから、法人税法施行令71条1項4号の要件をすべて充足し、本件通達イの括弧内で適用が除外されている使用人兼務役員とされない役員に該当する。したがって、このような同族会社の大株主は、その会社の経営の中枢にあって、経営上主要な地位を占めており、取締役から監査役になったとしても、独立した機関としての監査役の本来の機能は期待できず、その地位又は職務の内容が激変したとは認め難いから、実質的に退職したと同様の事情にあるとはいえない。現に、丙は、監査役就任後も取締役からの報告及び税理士事務所からの報告を随時受け、会計監査を行い、決算時には取締役会に対して監査報告を行うなど、引き続き重要な職務に従事しており、監査役就任直前の非常勤取締役当時と同額の報酬を得ている。したがって、丙に対する本件退職金の支給を退職給与として取り扱うことはできない。そして、役員が現実にその会社を退職した事実がない場合、その支給した退職給与金名義の支出額は賞与と認めて取り扱うのが相当であるから、丙に対する本件退職金の支給額を役員賞与と認め、損金の額への算入を否認したことは適法である。

   【原告の主張】

   ア 会社と取締役間の法律関係は一般に委任契約と解されているから、取締役が退任したかどうかは、委任契約の終了事由の有無で判断されるべきである。丙は平成16年6月25日に取締役を退任した以上、委任契約は終了している。丙は監査役に就任しているが、取締役と監査役とでは職務の内容が異なる上、原告は平成17年法律第87号による廃止前の株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という。)1条の2第2項に定める小会社であったから、丙の監査役としての職務は会計監査に限られ(同法25条)、原告と取締役との間の委任契約と、原告と監査役との間の委任契約には同一性があるとはいえない。長崎税務署長は、丙に対する1800万円の給付を役員賞与と認定しているが、従前の毎月の報酬額が20万円であった非常勤取締役に対して1800万円の役員賞与を支給することこそ不合理である。

   イ 丙の退任の経緯等

     平成16年に原告の幹部社員2名が原告の取締役に就任し、原告の取締役人員が充実したため、丙が取締役として留任し続ける必要性が低下した。

     他方、原告の監査役であった原告代表者の母である丁が健康上の理由で監査役を辞任したため、原告の監査役が不在となっていた。また、丙は、平成17年からインド料理店を経営するため別法人を設立することを計画していたから、原告の取締役としての職務を行う時間的肉体的余裕はなかった。

第3 争点に対する判断

 1 争点(1)について

  (1) 被告は、乙に対する本件給与等の支給金額を原告の所得の計算上損金の額に算入することが原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となると主張するので、この点について検討する。

  (2) 括弧内記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

   ア 原告は、原告代表者の父が創業した個人商店から昭和51年9月18日に有限会社として設立され、平成4年6月25日、株式会社に組織変更された。平成8年に資本金5000万円に増額され、平成15年6月期から平成17年6月期の売上高は約7億9000万円から約8億8000万円であり、パートを含めた従業員は約100名である。(甲6、乙1ないし3、乙10、乙19(枝番号を含む。))

   イ 乙(昭和55年8月22日生まれ)は、平成12年3月に高校を卒業後、カナダ等で語学留学をした後、平成13年5月ころ、留学準備のために米国ニューヨーク州に移転した。乙は、同州に在住のまま平成13年5月26日に原告に入社し、原告は英会話力を身に付けることやニューヨーク、カナダ及びヨーロッパにおける人材交流を目的として乙の米国留学を認めた。原告代表者及び丙は乙が原告の代表者となることを希望しており、乙もこれを了承しているが、まだ帰国していない。(甲5、甲6、乙20(枝番号を含む)、証人丙、原告代表者)

     乙の米国における学業及び職歴は次のとおりである。(甲6、乙20、原告代表者)

    平成13年7月   米国ニューヨーク州所在のB短期大学語学学校に入学

    平成14年3月   B短期大学経済学部に入学

    平成16年1月   同学部を卒業

    同月        米国ニューヨーク州所在のC大学経済学部に入学

    平成18年1月   同学部を卒業

    同年2月      米国ニューヨーク州所在の会計法人に入社

    平成19年2月ころ D銀行ニューヨーク支店に勤務

   ウ 乙は、平成13年7月以降、次のとおり、原告又は原告代表者に対し、報告書を提出した(乙24)。

    (ア) 平成13年7月ころ

      原告に対して、「I here by report the overview of my accommodation in New York」と題する書面を提出した(乙24の1枚目)。

    (イ) 同年8月ころ

      原告に対し、「I here by report the opinion on Mr.Ugaeri Ryugaku」と題する書面を提出した(乙24の2枚目)。

    (ウ) 同年9月ころ

      原告に対し、「I here by report the opinion on Mr.Ugaeri RyugakuⅡ」と題する書面を提出した(乙24の3枚目)。

    (エ) 同年10月ころ

      原告に対して、「報告書-学校での進展」と題し、要旨、大学の入学時期が平成14年の3月に延期となったこと等を報告し、平成14年中の大学入学とその後の進学の見通し等の予定を報告した(乙24の4枚目)。

    (オ) 同年11月ころ

      原告に対して、「報告書-Thanks Giving to Christmas Holiday」と題し、要旨、サンクスギビングホリデーではギフトを渡す習慣はないものの、夕食に招待されるケースが多く、お菓子などの売上げが大きいことを報告し、原告の商品を、米国メーカーなどと共同して米国に売り込むことを提案するような所感を報告した(乙24の5枚目)。

    (カ) 平成14年1月ころ

      原告に対して、「笑顔」と題し、要旨、笑顔で商売をすると売上げが上がること、その理由等を述べ、経営陣が見本として笑顔でいれば社内外の関係が一層深まるのではないかとの感想を報告した(乙24の6枚目)。

    (キ) 同年2月ころ

      原告に対して、「Competitive Advantage」と題し、要旨、企業のアドバンテージとして5つが考えられるところ、原告には評判及び人材にアドバンテージがあり、社長の仕事はこれらのアドバンテージを利用して原告の成長に貢献するかということである旨報告した(乙24の7枚目)。

    (ク) 同年3月ころ

      原告に対して、「B Community College」と題し、要旨、同大学における授業等の感想を報告した(乙24の8枚目)。

    (ケ) 同年5月ころ

      原告に対して、「インドネシア」と題し、要旨、インドネシアにおける今後の商品需要の見通しやインドネシアに工場を有する企業との今後の原告との関係についての所感を報告した(乙24の9枚目)。

    (コ) 同年6月ころ

      原告に対して、「戊」と題し、要旨、Q大学の戊教授が指摘する社長像について報告した(乙24の10枚目)。

    (サ) 同年7月ころ

      原告に対して、「時代の流れ」と題し、要旨、時代の流れが速く、これに伴う行動や決断が重要であるところ、時代の流れを読むためには会社の人材が重要であり、日本のみならず世界の流れを把握するのが理想である旨報告した(乙24の11枚目)。

    (シ) 同年8月ころ

      原告に対し、「E」と題し、要旨、ドイツのE社と取引をしているFとの打合せの内容等を報告し、原告のターゲットが何処なのか、ヨーロッパがターゲットであるのであれば中国ではなく西ヨーロッパで生産しても良いのではないかと報告した(乙24の12枚目)。

    (ス) 同月ころ

      原告に対し、「研修生」と題し、要旨、4年生大学への編入を希望するとともに、同年秋に予定されているインターンシップの内容等を報告した(乙24の13枚目、14枚目)。

    (セ) 同年9月ころ

      原告に対し、「911から1年」と題し、要旨、米国同時テロから1年を経て企業がバックアップデータを保存する傾向にあり、原告においても重要なものは相応のバックアップが必要である旨報告した(乙24の15枚目)。

    (ソ) 同年10月ころ

      原告に対し、「人材」と題し、要旨、原告の海外進出の実現のために多くの国際的視野を有する人材の採用又は教育が必要であり、これを検討するよう報告した(乙24の16枚目)。

    (タ) 同年11月ころ

      原告に対し、「ザ.G」と題し、要旨、同業者であるG株式会社がHより米国市場では基盤があり、原告がGと紙部門で協力すれば一定の利益を上げることができるのではないかとの感想を報告した(乙24の17枚目)。

    (チ) 同年12月ころ

      原告代表者に対し、「クリスマス」と題し、要旨、クリスマスに様々なギフトが贈られていることに関連して、上手にやればパッケージの大量注文が不可能な中小企業等を顧客として取り込むことが可能であること、原告の米国進出に先立ち輸出や小さな顧客によって反応を知るのも一つの手段であること、米国における顧客の好みを把握することが大切であるとの所感を報告した(乙24の18枚目)。

    (ツ) 平成15年1月ころ

      原告に対し、「ヴィジョン」と題し、要旨、ある雑誌がIのヴィジョンの鋭さを指摘していたことを挙げ、原告も常に新しい商品を提供している点で類似しており、今後も新しいアイディアをニューヨークから報告するつもりである旨報告した(乙24の19枚目)。

    (テ) 同年2月ころ

      原告に対し、「出費」と題し、1月から12月までの出費を項目ごとに報告した(乙24の20枚目)。

    (ト) 同年3月ころ

      原告に対し、「英文報告書参考用紙」と題し、乙が大学で使用した英文報告書を、英文報告書のフォーマットの参考とするため送付した(乙24の21枚目)。

    (ナ) 同年4月ころ

      同月18日から同月27日までに帰国した後(乙21)、原告に対し、「帰国後の感想」と題し、要旨、社員の英語力が上達し、海外研修の意欲がある者もいるが、原告の進出方法が定まらない時点で海外研修を受けさせることについて疑問があり、社員の動向が予測できないとの報告をした(乙24の31枚目)。

    (ニ) 同年5月ころ

      原告に対し、「投資」と題し、要旨、海外事業の進出方法として、現地の企業の買収と自ら立ち上げることを挙げ、双方の長所と短所を指摘した上で、原告の香港進出の方法として現在の代理店によるシェアを獲得していく方法が失敗の際のリスクの観点から妥当である旨の感想を報告した(乙24の32枚目)。

    (ヌ) 同年6月ころ

      原告に対し、「R」と題し、要旨、心理学者の人の満足感に関する階層性理論を紹介して、原告が社員のこれらの満足感を満たすことができれば、より原告に貢献してもらえるのではないかと報告した(乙24の33枚目)。

    (ネ) 同年7月ころ

      原告に対し、「貿易と投資の本家イギリス」と題し、要旨、大英帝国時代から貿易によって収益をあげてきたイギリスは、現在もその傾向が強く、個人で輸入業を営む人も多数いるとの話を聞き、一般消費者に貿易に対する知識と教養があることから、イギリスもマーケットとなりうる旨の感想を報告した(乙24の35枚目)。

    (ノ) 同年8月ころ

      原告に対し、「ヨーロッパマーケット」と題し、要旨、スイス、フランス、ドイツを訪問した際、各国で個人経営の小さなブティックで買い物をするのが多数派であること、パリでは原告の商品がJ等から高評価を得ていること、ドイツでは労働者を保護する制度が多く、低効率となる結果、中国の生産に頼ることになること、スイスでは日系企業であるというだけでプラスのイメージを得られること、以上から、原告の商品戦略はヨーロッパで通用するのではないか、代理店経由の輸出又は展示会への出展によって反応を見るのもよいのではないかとの感想を報告した(乙24の24枚目)。

    (ハ) 同年9月ころ

      原告に対し、「経済環境と企業構造」と題し、要旨、原告の経済環境は電化製品メーカーほど急速に変化していないが、経済環境の変化に対応できるような構造にしておくことも大切である旨の感想を報告した(乙24の38枚目)。

    (ヒ) 同年10月ころ

      原告に対し、「K」と題し、要旨、心理学者であるKの考えと、原告代表者の意見が類似しており、給料、行事、評価及び休暇等によって社員を大切にすることが原告の成長に欠かせない要素であるとの感想を報告した(乙24の39枚目)。

    (フ) 同年11月ころ

      原告に対し、「S」と題し、要旨、20世紀前半に米国のある電力会社がライトの強さによる仕事への影響について実験したところ、実験対象となっていることを知ったため被験者の仕事の効率が上がったとの結果だったことを引き合いに、原告においても経営者が適当に注目しなければならないのではないかとの感想を報告した(乙24の40枚目)。

    (ヘ) 同年12月ころ

      原告代表者の香港出張に同行し、取引先のEとの間の通訳をした(乙31、原告代表者)。その後、原告に対し、「香港」と題し、要旨、香港において同業他社の従業員と出会い、Eの日本の進出に注目すること、また、同社の工場の位置づけ等を報告した(乙24の42枚目)。

    (ホ) 平成16年1月ころ

      原告代表者に対し、「新年」と題し、要旨、新年の挨拶とともに、平成18年1月までに4年制大学を卒業し、その後2、3年程度米国で輸入又はパッケージ関連の企業に就職し、さらに米国の大学で法学を勉強したいとの考え、米国で法律を学ぶことのメリットを伝えた(乙24の43枚目)。

    (マ) 同年3月ころ

      原告代表者に対し、「社員の留学」と題し、要旨、原告の現状では海外と直接交渉することは社員の語学力の観点から困難であるとの認識の下、可能性のある社員を1か月程度海外に留学させることを提案する旨報告した(乙24の44枚目)。

    (ミ) 同年4月ころ

      原告代表者に対し、「紙箱の使用」と題し、要旨、ニューヨークの宝石店、チョコレート屋の包装の形態を報告し、米国との関係が深いカナダやメキシコのケース屋との関係を築いた上で米国に進出するのも一つの手段であるのではないかとの所感を報告した(乙24の45枚目)。

    (ム) 同年6月ころ

      原告代表者に対し、「プレゼントヴァリュウ」と題し、要旨、金融における債券の現在価値の考え方を紹介し、原告の従業員が10年後、20年後に退職する際の退職金の備えとして債券投資をしておけば後々のオペレーションも根強いのではないかとの感想を報告した(乙24の50枚目)。

    (メ) 同年7月27日ころ

      原告に対し、「Pでの研修レポート」と題し、要旨、同団体における研修内容や、長所と短所を報告した(乙24の51枚目)。

    (モ) 同年8月28日ころ

      原告に対し、「T」と題し、要旨、仕事が主にインドや中国に流出しているように、国際化の中で国、法人団体、個人が様々な努力をしている旨報告した(乙24の52枚目)。

    (ヤ) 同年10月3日ころ

      原告に対し、「Market at gloval level」と題し、要旨、国際的に事業展開する方法として、輸出、ライセンス、インターネットによる事業展開を挙げ、中国での工場建設について、その目的が海外の事業展開にあるとしてもホームページ、会社構造の国際化、海外顧客の受入対策が先決であり、国内事業の展開が目的であるとしても海外事業展開が優先されるのではないか等の感想を報告した(乙24の53枚目)。

    (ユ) 同月31日ころ

      原告に対し、「Niche Marketing」と題し、要旨、平均以上に高い評価を得る市場の開拓を選択するのも一つの戦略である旨報告した(乙24の55枚目)。

    (ヨ) 平成17年12月ころ

      原告代表者に対し、「当たり前」と題し、要旨、当たり前のことをしている人は多いが、工夫を凝らしている人は少なく、経営者がいろいろな工夫を職場や顧客に提供していけば仕事がもっと面白くなるのではないかとの感想を報告した(乙24の56枚目)。

   エ 乙は、平成17年1月13日帰国し(乙21)、同月21日開催の原告の取締役会に出席し、乙が同年夏にインドネシアの取引先を再訪問して商品開発を進めること、近い将来、香港に事務所を開設してメーカーの発掘と指導、資本参加等を検討することともに、乙が同事務所の駐在員を補佐することが可決された(乙23の7枚目及び8枚目)。

     また、次のとおり、平成16年8月以降平成18年2月までの原告の取締役会の持ち回り決議に関し、乙名義の各付議事項に対する回答票が存在する。いずれの回答票においても各付議事項について「賛成します」との記載に丸の記載があり、意見欄には何ら記載がない。各回答票の氏名欄には「乙」との記名があり、同一の印影がある。同印影は、平成16年8月23日開催の取締役会の議事録の出席取締役欄の乙の印影と類似しているが、平成17年1月21日開催の取締役会の議事録の出席取締役欄の乙の印影とは明らかに異なる。(乙22、乙23)

    (ア) 平成16年8月5日付け回答票(同月10日開催の原告の定時取締役会における決算報告書の承認、取締役の任期満了による改選、定款一部変更の各付議事項に係るもの)(乙22の1枚目)

    (イ) 同月8日付け回答票(同月12日開催の原告の臨時取締役会(持ち回り決議)における役員と会社との取引の承認の付議事項に係るもの)(乙22の2枚目、乙23の4枚及び5枚目)

    (ウ) 同年11月5日付け回答票(同月11日開催の原告の臨時取締役会(持ち回り決議)における役員と会社との取引の承認の付議事項に係るもの)(乙22の3枚目、乙23の6枚目)

    (エ) 平成17年8月4日付け回答票(同月9日開催の原告の定時取締役会(持ち回り決議)における決算報告書承認の付議事項に係るもの)(乙22の4枚目)

    (オ) 同年12月9日付け回答票(同日開催の原告の臨時取締役会(持ち回り決議)における借入返済の承認の付議事項に係るもの)(乙22の5枚目、乙23の9枚目)

    (カ) 同年12月22日付け回答票(同日開催の原告の臨時取締役会(持ち回り決議)における借入返済の承認の付議事項に係るもの)(乙22の6枚目、乙23の10枚目)

    (キ) 平成18年1月11日付け回答票(同日開催の原告の臨時取締役会(持ち回り決議)における借入返済の承認の付議事項に係るもの)(乙22の7枚目、乙23の11枚目)

    (ク) 同年2月10日付け回答票(同月13日開催の原告の臨時取締役会(持ち回り決議)における30期半期の業績の報告と1月から6月までの予想、社員の退職金改正の各付議事項に係るもの)(乙22の8枚目、乙23の12枚目)

   オ 平成15年1月1日から平成18年2月5日までの乙の帰国状況は次のとおりである(乙21)。

    (ア) 平成15年4月18日に帰国、同月27日に出国(滞在期間10日)

    (イ) 同年12月18日に帰国、平成16年1月1日に出国(滞在期間15日)

    (ウ) 同年5月18日に帰国、同月31日に出国(滞在期間14日)

    (エ) 平成17年1月13日に帰国、同月24日に出国(滞在期間12日)

    (オ) 平成18年1月22日に帰国、同月28日に出国(滞在期間7日)

   カ 原告におけるその他の従業員の留学状況

     原告は、乙のほかに2名の従業員の語学留学を認めたことがあり、いずれも原告入社後2、3年にわたって業務に従事した後、約1か月間留学した。原告は、それぞれの留学費用のうち40万円程度を負担した(原告代表者38項から57項)。

   キ 丙は、乙が原告に入社する以前から、海外に在住する乙に対して送金する際、生活費として送金し、乙が原告の従業員となった平成13年5月以降も同様であった(乙25)。

   ク 原告は、乙に対し、別表2「乙給与等明細表」の「計上年月日」欄記載の各年月に、「①給与等の額」および「②賞与の額」の各欄記載の各金額を、従業員給与、賞与又は役員報酬として支給した(争いのない事実)。本件各事業年度における原告の乙に対する本件給与等の合計額は、それぞれ、255万9500円、275万2400円、240万円である(争いのない事実)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (3) 判断

 

   ア 法人税法132条1項は、内国法人である同族会社は、少数の株主又は社員によって支配され、当該会社の法人税負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持すべく、そのような行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して更正等を行う権限を税務署長に認めるものである。そして、同族会社のある行為又は計算が法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるかどうかは、それが純経済人の行為として不自然、かつ不合理な行為又は計算であって、それによって法人税の負担が減少したかどうかによって決すべきである。

 

   イ まず、原告は内国法人である同族会社に該当する(前記第2、1(1))。そして、乙が本件各事業年度を通じて米国所在の短期大学又は大学に就学し、本件各事業年度のうち、本邦に帰国していたのは通算で51日に過ぎない(前記(2)オ)。

 

     当初、乙の留学の主な目的は語学能力の習得にあったところ、乙は原告入社前に既に数か月にわたって語学留学をしていたのであるから、比較的短期間のうちにその目的を達することが可能であったと考えられる上、乙の留学期間は既に平成13年5月から本件各事業年度を経て平成20年11月まで約7年6か月にも及んでいる(前記(2)イ)。

 

語学能力の習得が留学の目的であったにもかかわらず、その後、原告は、乙の希望を尊重して大学卒業後もニューヨーク州所在の会計法人や銀行に勤務することを認めており(前記(2)イ)、

 

乙の米国滞在の現在の主な目的は当初の留学目的とは明らかに異なっている。

 

 

そもそも、乙の留学期間の終期が明確でないまま、原告は乙の留学を認め、かつ、原告において乙の語学能力の習得の程度を客観的に測ることを検討していたことも窺われないまま、現に、乙の希望を尊重して留学期間が延長されているとの事実に照らせば、乙は、乙の希望により留学し、原告がこれを追認しているかのような状態であったと評価することができる。

 

 

     また、乙は、本件各事業年度を含む平成13年5月から平成17年10月ころまでの間、原告又は原告代表者に対して合計38通の報告書を提出しているが(前記(2)ウ)、その内容は、米国等におけるギフトシーズンの状況、ニューヨーク、トロント、スイス、フランス、ドイツにおけるギフトの在り方等を販売店を訪問して知り得た情報を報告するというもの、

 

乙の留学先における授業の内容を報告するもの、今後の原告の従業員教育や原告の海外進出の方法に関する所感等であって、直ちに原告の業務に結びつくようなものではない。

 

これらの報告書の提出は、乙の従業員としての職務というよりは、将来、乙が原告代表者の後継者として原告の経営に参画することを前提に、乙の経営に対する自覚や考え方を深めるものにすぎず、上記報告書の提出をもって原告の業務に対する労働や取締役としての職務執行とは認められない。

 

 

     さらに、原告取締役会に関する乙名義の回答票が存在するが(前記(2)エ)、いずれも「賛成します」との記載に丸印が記載されているにすぎないし、各回答票の氏名欄の印影は、同人が欠席していたにもかかわらず誤って同人が出席していたかのように作成された取締役会議事録の出席取締役の氏名欄の印影と類似しており(前記(2)エ)、上記各回答票を乙が実際に作成したかどうかも疑わしい。

 

 

仮に、上記の各回答票が乙の意思に基づいて作成されたものであるとしても、上記のような各回答票の記載内容に鑑みれば、乙が原告の取締役会に参加する実質的意味は極めて小さかったことが窺われる。なお、前記のとおり、原告又は原告代表者に対する報告書の内容も直ちに原告の業務に結びつくものではないから、これらによっても乙が実質的に原告の業務執行の決定に参画していたとはいい難い。

 

 

     以上のほか、乙は、原告の取引先との交渉において通訳として交渉したことがあるが(前記(2)ウ(ヘ))、本件各事業年度において極めて僅かであるし、その理由も乙が米国所在の短期大学又は大学に就学していたためであると考えられる。また、原告は、乙の給与等を同人の海外口座ではなく、国内口座に振り込んでおり、原告代表者や丙がこれらを生活費名目で送金しており(乙25、原告代表者)、結局、乙の給与等は、原告代表者らがその子に対する生活費として支払われたものであることが窺われる。

 

 

     原告は、原告の海外との取引に対応するため、乙のほかに2名の従業員を、原告の労働者としての立場のまま海外留学を許可したものの、これらの者は、乙と異なり、約2、3年間にわたって原告に勤務した後に留学している上、その留学期間はわずかに1か月程度に過ぎない(前記(2)カ)のであるから、乙は他の従業員と比較して極めて優遇されており、その主な理由は原告代表者の子であること以外に窺われない。

 

     結局、乙に対する本件給与等の支給は、その全額が、原告が同族会社であり、乙が原告代表者の子であることから可能であったということができ、これを原告の所得の計算上損金として認めることは、純経済人の行為として不自然、かつ不合理な行為又は計算であって、それによって原告の法人税の負担が減少するといわざるをえない。

 

   ウ これに対して、原告は従業員等の英語教育の必要性を主張するが、従業員等の英語教育の必要性があるとしても、乙に対する本件給与等は、労働又は職務執行の対価として支給することが純経済人の行為として不自然かつ不合理な行為又は計算であることは前記のとおりであるから、乙に対する本件給与等を損金に算入することはできない。

 

   エ したがって、乙に対する本件給与等の支給金額を原告の所得の計算上損金の額に算入することが原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となり、損金の額に算入することはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2 争点(2)について

 

  (1) 被告は、丙に対する本件退職金の支給を退職給与として取り扱うことはできないと主張するので、この点について検討する。

 

  (2) 法人税法上、役員の「退職給与」は、役員の退職により支払われる臨時的な給与をいうと解されるから、役員の退職に基因する給与という実質を持つものに限られると解すべきである。したがって、役員に対する退職給与は、役員が現実にその法人から離脱した場合、又は役員の地位又は職務の内容が激変した事実があり、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合に支給される給与に限って、退職給与として法人税法22条により損金の額に算入するのが相当である。

 

    これと異なり、役員の分掌変更又は改選による再任等の場合に、上記のような実質的な退職の事実がないのに、役員に対して退職給与名目の金員を支給したときは、これは損金となる上記の「退職給与」ではなく、臨時的な給与にすぎないということになる。

 

 

したがって、このような場合は、上記金員は、法人税法35条4項所定の役員に対する「賞与」に該当するから、同条1項により、法人の所得の計算上損金の額に算入することができないというべきである。

 

    以上を前提に検討すると、丙は平成16年6月25日に原告の取締役を退任し、監査役に就任したことが認められる(前記第2、1(3))から、丙が実質的に原告の役員を退職したと同様の事情にあるかどうかについて検討する。

 

  (3) 括弧内記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

   ア 丙は、代表者に就任する前の原告代表者との婚姻を機に、昭和53年ころから、組織変更前の原告に勤務し、昭和56年5月17日、組織変更前の原告の常勤取締役に就任した。そして、平成8年7月、常勤取締役から非常勤取締役となった丙は、平成16年6月25日、取締役を退任して監査役に就任した。原告は、丙が常勤取締役から非常勤取締役になった際、同人に対して退職金を支給していない。(甲5、甲6、乙10、乙30、証人丙)

 

 

   イ 丙の昭和63年10月以降の毎月の報酬額は次のとおりである(乙30、証人丙)。

     昭和63年10月から平成2年11月まで 20万円

     平成2年12月から平成3年6月まで 50万円

     平成3年7月から平成4年1月まで 60万円

     平成4年2月から平成5年2月まで 80万円

     平成5年3月から平成6年7月まで 100万円

     平成6年8月から平成8年6月まで 50万円

     平成8年7月から平成16年6月まで 20万円

     平成16年7月以降 20万円

 

 

 

 

   ウ 丙の業務内容

 

    (ア) 昭和53年6月から平成8年7月まで

 

      丙は、当初、パートとともに紙器を製造し、パートの給与計算、商品の発送、取引業者ごとのデータの作成等も担当していた(証人丙)。

      原告は、当初、べっ甲の外箱を製作していたが、徐々に東京方面の取引先からジュエリーパッケージの受注を受けるようになった。これに伴い、原告が製作するパッケージが複雑となり、丙は、内職者の勧誘、製品の製作指導、割振り及び外注管理を担当するようになった。(甲5、甲6、乙30、証人丙、原告代表者)

      また、原告は、昭和63年ころ、丙が担当していた内職部門を、原告代表者の自宅内に移し、内職者に、原告代表者の自宅に材料を取りに来てもらい、それぞれの自宅で作業をしてもらう形態とし、丙は、注文数や納期に応じて内職者に担当を振り分けていた。その後、原告代表者の自宅でこれらの業務を行うことが困難となったため、平成4年3月ころから、丙は、原告において購入した長崎県所在の中古住宅において、これらの業務に従事した。(甲5、乙30、証人丙)

      丙が最も繁忙であった平成5年ころ、丙は、午前8時ころから午後10時ころまで原告の業務に従事し、外注先として80名以上を管理していた。原告代表者は、平成4年2月23日に代表者に就任した後、重要な経営方針を決定するに際し、妻である丙に相談していた。(乙30、証人丙)

      原告の売上げは昭和60年ころに1億円を超え、昭和63年に約2億円、平成2年に約4億1000万円となった(証人丙)。

      原告は、平成6、7年ころから、徐々に、内職者に材料を取りに来てもらい、それぞれの自宅で作業をしてもらうという形態から、原告の本社内で作業をしてもらうこととし、丙が、作業を指導、管理しなければならない内職者が減少した(証人丙)。

 

 

 

    (イ) 平成8年7月ころから平成16年6月ころまで

 

      平成8年7月に原告の本社内に内職者の作業場が設置され、従来の内職者に対する直接指導が不要となったことに伴い、丙の出勤頻度がますます減り、丙は常勤取締役から非常勤取締役となった(乙31、原告代表者)。

      丙は、非常勤取締役となった後も取締役会に出席しており、また、原告内では比較的英会話に長けていたことから、平成8年7月以降原告の監査役に就任する平成16年6月ころまで、原告代表者が海外出張する際、これに同行していた(乙30、乙31、証人丙、原告代表者)。

      平成16年初めころ、原告の従業員として永年勤務してきた部長2名が原告の取締役に就任し、丙が取締役の地位にいる必要はなくなった(甲5、乙30、証人丙)。

      他方、原告の監査役であった原告代表者の母が体調不良のため監査役を継続することができず、また、乙が留学を終えて原告の業務の内容を把握するまでの間、丙も原告の業務の内容を把握していた方がよいと考え、原告の監査役に就任することとした(甲5、甲6、乙30、証人丙、原告代表者)。

      なお、原告の経理関係は、原告代表者の兄弟であるLやMが行っており(乙19の1、2)、丙はほとんど関与してなかった(証人丙)。

 

 

 

 

    (ウ) 平成16年6月25日の監査役就任以後

 

      丙は、非常勤のため、原告に出社していないが、毎月、税理士事務所から報告を受け、決算期に財務諸表を点検し、株主総会に監査報告書を提出している(甲5、乙30、証人丙)。

      平成16年終わりころから、監査役としての任務のほか原告の業務にほとんど関与しなくなった(証人丙)。

      丙は、丙と原告代表者との間の三男が障害を持っており、同人が自立できるようにするため、飲食業を営むことを計画し、監査役に就任後、そのための会社設立の準備を行い、平成17年3月、有限会社を設立してその代表取締役に就任した。そして、同年7月13日には同会社がインド料理店を開店させ、丙は、同店に毎日出勤して、その経理や14名の従業員の管理に当たっている(甲5、甲6、乙30、証人丙、原告代表者)。

 

 

 

   エ 他の取締役の退職給与額

     原告は、原告代表者の父に対し、平成5年の代表取締役の退任により退職金5000万円を、平成6年6月の会長職退任により退職金150万円をそれぞれ支給したほか、弔慰金400万円を支給した。

     原告は、原告代表者の母に対し、平成3年6月の取締役退任及び監査役就任時に退職金1875万円を支給した。

     原告代表者の父母に対する退職給与等はいずれも税法上退職給与として認められた。(甲6、乙30、証人丙)

 

 

 

  (4) 以上を前提に判断する。

 

 

 

   ア 丙は、平成16年6月25日、原告の取締役を退任し、原告の監査役に就任している(前記第2、1(3))。

 

 

     取締役及び監査役と株式会社との関係はいずれも委任関係にあるものの

 

(平成17年法律第87号による改正前の商法254条3項、280条1項)、

 

委任の内容は、取締役が業務執行の意思決定及び業務の執行であるのに対し、

 

監査役が取締役の職務執行の監査である

 

(なお、原告は商法特例法2条2号所定の小会社に該当するから、原告の監査役としての権限は会計監査のみである(同法25条、22条)。)。

 

 

そうすると、取締役を退任し、監査役に就任することは、株式会社との委任内容等が異なるので、原則として、地位又は職務の内容が激変したということができる

 

(本件通達自体も、原則として、取締役が監査役になったことを分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合の例示としてあげているところである。)。

 

   イ また、前記で認定したところによれば、取締役を退任し、監査役に就任した前後の丙の職務内容の具体的変化等は、次のとおりである。

 

    (ア) 丙は、平成16年6月25日以前は、取締役会へ出席し、原告代表者の海外出張の際の通訳をしていたものの、通訳については他の従業員も可能となり、永年、原告の従業員として勤務してきた部長2名が原告の取締役に就任し、丙が取締役の地位にいる必要がなくなったために取締役を退任している(前記(3))。

 

    (イ) そして、監査役就任後、丙は、税理士事務所から報告を受け、決算期に財務諸表を点検し、株主総会に監査報告書を提出する等、監査役としての業務を行っており、遅くとも平成16年終わりころから、監査役としての任務のほか原告の業務にほとんど関与しなくなった。

 

    (ウ) また、他方で、丙は、飲食業を営むための会社設立の準備を行い、平成17年3月には、別の有限会社を設立して、その代表取締役に就任し、同会社が経営するインド料理店の開店後は同店に毎日出勤してその経理や従業員の管理に携わっている。

 

    (エ) さらに、丙の監査役就任前の監査役であった原告代表者の母は、退任直前から体調を崩してその任務の遂行が困難になり、丙の就任後に死亡していることに照らせば、監査役就任後の丙が監査役としての職務を行っていたことは明らかであるが、その就任前には、丙は原告の会計上の処理にほとんど携わっていなかった。

      以上によれば、丙の職務内容は具体的にも激変したというべきである。

 

 

   ウ ところで、丙は、平成16年6月期を含む本件各事業年度を通じて原告の発行済株式総数のうち12%の株式を有しており、法人税法施行令71条1項4号の要件のすべてを満たし(前記第2、1(1)、2(2)イ)、使用人兼務役員とされない役員に該当する。そして、本件通達によれば、そのような者が取締役から監査役になったときは、取締役の退任に伴い支給された給与を退職給与として取り扱うことができる場合から除外されている。

 

 

     しかしながら、本件通達が退職給与として支給した給与を、法人税法上の退職給与として取り扱うことができる場合として掲げている事実は、その文言からも明らかなとおり、例示であって、結局は、前記アで判示したように、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、その際に支給された給与を退職給与として損金に算入することが認められるべきである。

 

そして、前記ア、イで認定したところによれば、丙が取締役を退任し、監査役に就任したことによって、その役員としての地位及び職務の内容が激変し、退任後も原告の経営上主要な地位を占めているとは認められず、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる。

 

 

     また、被告は、同族会社の大株主が取締役から監査役になったとしても独立した機関であるという監査役の本来の機能は期待できず、その地位又は職務の内容が激変したとは認め難いと主張する。

 

 

     一般的には、同族会社の大株主が監査役に就任したとしても監査の実効性に疑問が生じることは理解できないわけではないが、

 

平成17年法律第87号による改正前の商法や商法特例法は、このような同族会社の大株主であることを監査役の欠格事由としていなかったのであるから、

 

法は、このような大株主による監査についても一定の機能が果たされることを期待し、可能であることを前提としていたというべきである。

 

そうであれば、法人税法施行令71条1項4号の要件のすべてを満たしている者については例外なく監査役の本来の機能が期待できないと解すことはできないから、被告の上記主張は採用することができない。

 

 

     平成16年6月25日の取締役の退任と監査役の就任の前後において丙の報酬額に変化はなく、

 

報酬額の変化は当該地位や職務の内容が激変した場合の一つの徴表ということができるとしても、

 

それぞれの報酬額は月20万円であって、その金額からして、監査役の報酬を更に低額にすることは困難であるし、

 

非常勤取締役としての原告に対する貢献と、非常勤監査役としての原告に対する貢献とが同額の報酬をもって評価されることはあり得るのであるから、

 

丙の報酬額に変化がないことをもって、直ちに、原告における丙の地位又は職務の内容が激変していないということはできない。

 

 

   エ 丙に対する本件退職金は1800万円である。前記(3)のとおり、丙は、昭和56年から平成6年までは常勤取締役として一定の業務も担当し、報酬も段階的に増額されて100万円となり、同年に報酬が50万円となったものの平成8年までは常勤取締役を務め、同年以降平成16年までは非常勤ながら取締役の地位にあった。

 

そして、取締役在任期間は約23年に及び、そのうち15年にわたって常勤として務め、その報酬額も相当高額であったこと、原告代表者の母が原告の取締役を退任し、監査役に就任した際も退職慰労金として1875万円が支払われ、これについて税法上退職給与として認められていることに照らせば、本件退職金の額が不相当に高額であるともいえない。

 

   オ 被告は、取締役が監査役になっただけでは、役員の退職に該当しないとの理解を前提に、そのような場合の使用人兼務役員に対する退職金は退職給与に該当しないと主張する。

 

 

     しかし、退職給与は、役務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきものであるところ、取締役が監査役に就任し、その任務が激変した場合であれば、その就任期間の役務に対して相当な退職金を支給した場合として、役務の対価としての性格を有することから損金算入することに弊害があるとはいえない。

 

 

また、退職給与は、取得した者については、所得税法上退職所得と取り扱われるところ、退職所得といえるためには、

 

①退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること、

 

②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、

 

③一時金として支払われることとの要件を備えることが必要である

 

 

(最高裁昭和58年9月9日第二小法廷判決・民集37巻7号962頁)。

 

 

 

使用人兼務役員とされない役員が、取締役から監査役になり、任務が激変していれば、実質的に勤務関係が終了しており(①)、その他の要件(②及び③)も満たすから、これを退職所得とみることに弊害があるとはいえない。

 

 

 

なお、被告は、会社が解散して取締役が清算人に就任した場合、清算人も役員であるが、その退職金は退職所得に該当するとして取り扱っており(所得税基本通達30-2(6)・乙33)、法人の役員である間は、原則として退職給与(退職所得)とならないとの被告の立場に一貫性があるか疑問がある。

 

 

     以上によれば、使用人兼務役員とされない役員が取締役から監査役になった場合、その任務が激変しているときには退職給与と認めるべきである。これに反する被告の主張は採用できない。

 

 

   カ したがって、丙に対する本件退職金の支給金額を原告の所得の計算上損金の額に算入することができる。また、原告は、丙に対する本件退職金の支給について、これが役員賞与に当たらない以上、源泉徴収義務を負うこともない。

 

 

 

 3 まとめ

   以上によれば、長崎税務署長の処分は、乙の給与等の損金算入を認めなかった点において適法であるが、平成16年6月期の法人税について、丙に対する本件退職金の損金算入を認めず、これを賞与とした範囲で違法である。

 

   そうすると、乙の給与等の損金算入を認めなかった平成15年6月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

 

   次に、平成16年6月期の原告の法人税額は、別表3「平成16年6月期」欄の「所得金額又は欠損金額」欄記載のとおり、前記第2、1(4)イの所得金額4298万7872円に、前記第2、1(2)の同事業年度における乙に対する本件給与等275万2400円を加算し、さらに、平成15年6月期の法人税の更正処分に伴い納付することとなる同事業年度分の事業税24万5700円を損金の額に算入して(甲2)、減算して得られた4549万4572円が所得金額となり、納付すべき税額は、「差引合計税額(⑫-⑭)」欄記載のとおり、1300万5900円、過少申告加算税は、「過少申告加算税」欄記載のとおり7万5000円となり、これを超える部分は違法である。

 

   これに対し、平成17年6月期の原告の法人税額は、同別表「平成17年6月期」欄の「所得金額又は欠損金額」欄記載のとおり、前記第2、1(4)ウの所得金額7188万5812円に、前記第2、1(2)の同事業年度における乙に対する本件給与等240万円を加算し、さらに、平成16年6月期の法人税の更正処分に伴い納付することとなる同事業年度分の事業税26万4200円(平成16年6月期の乙に対する本件給与等275万2400円に地方税法72条の27の4第1項3号の「その他の法人」の「各事業年度の所得のうち年800万円を超える金額」に対する標準税率100分の9.6を乗じた額。ただし、100円未満切り捨て)を損金の額に算入して減算して得られた7402万1612円が所得金額となり、納付すべき税額は、「差引合計額(⑫-⑭)」欄記載のとおり、2067万5000円、過少申告加算税は6万4000円となる。これらはいずれも平成17年6月期の法人税の原告の更正処分額を超えるから、平成17年6月期の法人税の原告の更正処分は適法である。

 

   また、丙に対する退職金支給は、退職給与として支給されたもので、役員賞与ではなく、原告が源泉徴収義務を負うことはないから、これに反する平成16年6月分源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分は違法である。

 

第4 結論

  以上によれば、原告の請求は、請求の趣旨2項について、長崎税務署長が平成18年6月27日付けで原告に対してした平成16年6月期の事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額4549万4572円、納付すべき税額1300万5900円を超える部分及び過少申告加算税7万5000円を超える部分の賦課決定処分を超える部分の賦課決定処分の取消しを求める部分、並びに、請求の趣旨4項について、平成16年6月分源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分の取消しを求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとする。

 

  よって、主文のとおり判決する。

 

    長崎地方裁判所民事部

        裁判長裁判官  須田啓之

           裁判官  小山恵一郎

           裁判官  小沼日加利