不相当に高額な部分(4)

 

 

法人税更正処分等取消請求事件

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成27年(行ウ)第730号

 

【判決日付】 平成29年10月13日

 

【判示事項】 原告が,原告の元代表者の退職慰労金(本件役員退職給与)の支給額を損金額に算入して本件事業年度の法人税確定申告をしたところ,

 

所轄税務署長が,本件役員退職給与のうち不相当に高額な部分は損金に算入されないとして,法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各処分)をしたことから,同各処分の取消しを求めた事案。

 

 

裁判所は,本件役員退職給与のうち「不相当に高額な部分の金額」の算定方法として被告が採用する

 

「平均功績倍率法」は合理的であり,その算定要素である最終月額報酬額・勤続年数及び平均功績倍率(その半数を加え)を乗じて算出した退職給与は相当であるとし,本件更正処分のうち,前記相当退職給与等を基に算出した原告の所得金額・納付税額及び過少申告加算税の額を超える部分を取り消し,その余の請求を棄却した事例た事例

 

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

 1 三条税務署長が平成26年7月4日付けで原告に対してした平成20年8月21日から平成21年8月20日までの事業年度分の法人税の更正処分のうち所得金額1億6704万1941円及び納付すべき税額4820万6600円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち過少申告加算税の額372万9000円を超える部分をいずれも取り消す。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

第1 請求

   三条税務署長が平成26年7月4日付けで原告に対してした平成20年8月21日から平成21年8月20日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人税の更正処分のうち所得金額6391万3941円及び納付すべき税額1726万8200円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第2 事案の概要

   本件は,原告が,原告を死亡退職した元代表取締役A(以下「亡A」という。)への退職慰労金(以下「本件役員退職給与」という。)の支給額を損金の額に算入して本件事業年度分の法人税の確定申告をしたところ,三条税務署長が,本件役員退職給与の額のうち不相当に高額な部分の金額については損金の額に算入されないとして,原告に対し,本件事業年度分の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)をしたことから,原告が,本件各処分(本件更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。

 1 関係法令

   法人税法34条2項は,内国法人がその役員に対して支給する退職給与等の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない旨を規定する。

   これを受けて法人税法施行令70条柱書は,法人税法34条2項に規定する政令で定める金額は,同令70条各号に掲げる金額の合計額とする旨を規定し,退職給与に関する同条2号は,「内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が,当該役員のその内国法人の業務に従事した期間,その退職の事情,その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし,その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」と規定する。

 2 前提事実(証拠等により認定した事実はその証拠等を掲記する。証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)

  (1) 当事者等

    原告は,昭和27年9月29日に設立された,本店を新潟県三条市に置き,資本金の額を4950万円とし,目的をミシン部品の製造及び販売,家庭金物,建材金物の製造及び販売等とする株式会社である(乙1)。

  (2) 本件役員退職給与の支給の経緯

   ア 亡Aは,昭和42年3月10日に原告に事務職として入社した後,昭和46年3月に当時の原告の代表取締役社長であったBと結婚し(甲8),昭和56年10月20日に原告の取締役に就任し,平成15年10月20日に原告の代表取締役に就任したが(乙4),平成20年10月4日に死亡により原告の代表取締役及び取締役を退任した。

   イ 亡Aの死亡当時,原告の役員退職慰労金規定には,退職慰労金は株主総会の決議に基づき支給すること(2条),退任時に報酬月額がある場合の退職慰労金の額は「退任時報酬月額×役員在任期間×退職時役位係数」の範囲内とすること(4条(1)),代表取締役の退任時役位係数は5.0倍とすること(5条),在任期間は1年を単位とし,1年に満たない端数は1年とすること(6条),在任中特別に功労があったと認められるときは4条の規定による退職慰労金のほかに,その30%を超えない範囲において功労加算を行うこと(7条)が定められていた(甲6の1)。

   ウ 原告は,平成21年7月1日,臨時株主総会を開催し,同株主総会において,亡Aの退職慰労金(本件役員退職給与)として4億2000万円を支給する旨の決議がされた。

     上記株主総会の議事録には,本件役員退職給与に関し,次の計算式を記載した文書が添付されている(甲6の2)。

     (計算式)

     240万円(最終月額給料)×27年(勤続年数)×5倍(役員倍数)×1.3(功労加算)=4億2120万円

   エ 原告は,本件事業年度中(平成20年8月21日から平成21年8月20日まで)に本件役員退職給与として4億2000万円を支給した。

  (3) 本件各処分等の経緯

   ア 原告は,本件事業年度分の法人税について,法定申告期限までに,所得金額6391万3941円,納付すべき税額1726万8200円とする確定申告(青色申告)を行った(乙2)。

     上記確定申告において,原告は,本件役員退職給与の全額である4億2000万円を損金の額に算入していた。

   イ 三条税務署長は,平成26年7月4日付けで,原告に対し,原告の本件事業年度分の法人税について,原告が損金の額に算入した本件役員退職給与の額の一部が法人税法34条2項に規定する不相当に高額な部分の金額に当たり,損金の額に算入されないことを理由として,所得金額2億6683万3941円,納付すべき税額7814万4200円とする更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税822万円の賦課決定処分(本件賦課決定処分)をした。

   ウ 原告は,平成26年法律第69号による改正前の国税通則法75条4項1号の規定により,平成26年9月1日付けで本件各処分につき審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成27年6月23日付けで審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

   エ 原告は,平成27年12月21日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 

 

 

 

 

 

 3 本件更正処分の根拠に関する被告の主張

   被告が本件訴訟において主張する原告の本件事業年度分の所得金額及び納付すべき法人税額並びにこれらの金額の算出根拠は,別表1のとおりであり,同表記載の所得金額2億7266万5941円及び納付すべき法人税額7989万3800円は,いずれも本件更正処分の金額を上回る。

 4 争点及び当事者の主張

  (1) 本件役員退職給与の額のうち「不相当に高額な部分の金額」(争点1)

   (被告の主張)

   ア 役員退職給与の相当額の算定方法としては,①退職役員に退職給与を支給した当該法人と同種の事業を営み,かつ,その事業規模が類似する法人(以下「同業類似法人」という。)の役員退職給与の支給事例における功績倍率(同業類似法人の役員退職給与の額を,その退職役員の最終月額報酬額に勤続年数を乗じた額で除して得た倍率をいう。)の平均値(以下「平均功績倍率」という。)に,当該退職役員の最終月額報酬額及び勤続年数を乗じて算定する「平均功績倍率法」,②同業類似法人の役員退職給与の支給事例における役員退職給与の額を,その退職役員の勤続年数で除して得た額の平均額に,当該退職役員の勤続年数を乗じて算定する「1年当たり平均額法」,③同業類似法人の役員退職給与の支給事例における功績倍率の最高値に,当該退職役員の最終月額報酬額及び勤続年数を乗じて算定する「最高功績倍率法」が考えられる。

     このうち「平均功績倍率法」は,①当該退職役員の在職期間中における報酬の最高額であり当該法人に対する功績の程度を最もよく反映する最終月額報酬額,②法人税法施行令70条2号所定の「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間」に相当する勤続年数及び③これら以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数である功績倍率を同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性を捨象して平準化した数値である平均功績倍率を用いて役員退職給与の相当額を算定する方法であり,法人税法34条2項及び法人税法施行令70条2号の趣旨に最も合致する合理的な算定方法であるというべきであり,本件役員退職給与の相当額の算定に当たっても,平均功績倍率法を用いることが相当である。なお,同業類似法人の役員退職給与の支給状況については,納税者においても公刊物からある程度推測することが可能である。

   イ そして,被告は,本件における同業類似法人として,①原告の所在地と経済事情が類似する地域である新潟県内に所在し,②原告と同種の事業である日本標準産業分類の大分類「E-製造業」の中分類「24-金属製品製造業」を基幹の事業とし,③事業規模の類似性を判断する要素である売上金額が原告の本件事業年度の売上金額の2分の1から2倍の範囲内(いわゆる倍半基準)である事業年度(平成18年2月1日から平成25年10月31日までの間に終了するもの)があり,④当該事業年度において原告と同じく死亡退職した代表取締役に対して退職給与の支給があり,⑤当該事業年度について不服申立て又は訴訟が係属中でないという抽出基準の全てを満たす法人を機械的に抽出した。この抽出基準及び抽出方法は合理的なものである。

     こうして抽出された原告の同業類似法人は別表2のとおりの5法人であり,平均功績倍率は3.26である。

     上記平均功績倍率に亡Aの最終月額報酬額240万円及び勤続年数27年を乗じると,2億1124万8000円となるから,同額が本件役員退職給与として相当であると認められる金額となる。したがって,本件役員退職給与の額(4億2000万円)のうち,これを超える2億0875万2000円は,「不相当に高額な部分の金額」(法人税法34条2項)に該当し,損金の額に算入されない(別表1の「役員退職給与の損金不算入額」欄参照)。

   (原告の主張)

   ア そもそも,役員退職給与は,法人と退職役員との間で交わされた委任契約に基づく職務執行の対価であり,その金額は職務執行の対価としての合理性がある限り相当であり,職務対価としての合理性があるか否かについては私的自治が妥当し当該法人のみが判断することができるのであって,租税法により役員退職給与の費用性を否定することはできないというべきである。そして,本件のように,あらかじめ就業規則等により定められた規定により支給された退職給与については,役員退職給与の支払に乗じて利益処分を行うものでないことは明らかであるから,役員退職給与の額の相当性が推定されるというべきである。就業規則等の規定に基づく役員退職給与の支給であるか否かは,法人税法施行令70条2号には規定されていないものの,上記の解釈と異なり,このような場合に役員退職給与の損金算入が否定されるというのであれば,法人税法34条2項は,「不相当に高額な部分の金額」を政令に白紙委任するものとして,租税法律主義(憲法84条)に反するといわざるを得ない。

     そして,法人税法施行令70条2号は,納税者が情報を入手することが困難な同業類似法人の支給の状況を考慮することとしている点や,「等」としてどのような事情も考慮し得る規定となっている点で,法律の趣旨や委任の範囲を超えるのみならず,課税要件の基準として不明確であり,納税者にとって予測可能性を欠くから,同号を本件に適用して本件役員退職給与の相当額を算定することは適用違憲である可能性がある。

     加えて,法人税法34条2項によれば,「不相当に高額な部分の金額」は法人所得の金額の計算上損金の額に算入されず,法人税が課されるが,役員退職給与として支給した以上,所得税の源泉徴収の対象にもなるから,二重課税となり,財産権を侵害する。

   イ 仮に役員退職給与として相当であると認められる金額を同業類似法人と比準して算定すべきであるとしても,その算定方法として,法令に算定方法に関する具体的な定めがない以上,最高功績倍率法等の納税者により有利な算定方法を採用すべきである。

     そして,同業類似法人の抽出の際には,同業類似法人における役員退職給与の支払があらかじめ定められた就業規則等の規定に基づくものである場合には役員退職給与の額の相当性が推定されることは前記のとおりであるから,そのことを抽出基準とするか,比較の際に考慮しなければならないところ,被告は,そのような抽出基準を設けておらず,比較の際に考慮もしていない。また,被告が主張する抽出基準のうち,新潟県内に限定している点については,同業類似法人の抽出に当たって地域を限定することは法令に規定がないところ,原告は東京都所在の企業とも取引をしているし,木工事用器材,仮設資材,安全金具の製造販売及び仮設資材のリース等,幅広く事業を行い,規模も相応であるから,同業類似法人を原告の本店所在地である新潟県内に限ることは相当でない。原告の売上金額にはリース業やメンテナンス業による売上金額も相応の割合を占めているから,業種を金属製品製造業に限定することは合理的でなく,また,役員退職給与は対価としての正当性の問題であるから,売上金額を考慮することは不相当であるし,法令に規定のない売上金額の倍半基準を用いることも不当である。また,亡Aは,原告の代表取締役であるBの妻であるところ,昭和56年から原告の取締役に就任し,平成15年からはBと亡Aの三男であるCが代表取締役に就任するまでの橋渡しとして代表取締役に就任し,その間,原告の経理及び労務管理を任され,債務の弁済計画等を立て,売上増加及び借金の完済に貢献したものであり,同業類似法人の選定に当たり,亡Aと同程度の功績のある役員が退職した法人を抽出すべきであったところ,被告はそのような法人であることを抽出基準に挙げていない。

     また,被告が主張する抽出基準により抽出された原告の同業類似法人は5法人のみである上,売上金額や事業年度の差が大きいことからすれば,この点からも,本件において平均功績倍率法により算定することが不合理であることは明らかである。

     さらに,別表2の5法人の法人名が明らかにされていないため,原告において各法人との差異を立証することが困難となっているから,このような被告の立証方法の証明力は弱いというべきである。

     そして,被告は,亡Aの最終月額報酬額を240万円として平均功績倍率法により計算をしているが,亡Aの前記の功績からすれば,最終月額報酬額のみではその功績を十分に反映したものとはいえず,賞与(年額720万円)も加えた月額300万円の支給を受けていたものとして本件役員退職給与の相当額を算定すべきである。

  (2) 国税通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無(争点2)

   (原告の主張)

    原告は,平成9年に当時の専務が死亡したため,原告の役員退職慰労金規定にしたがって算出した退職慰労金を支給し,法人税の確定申告をしたが,更正処分等はされなかったところ,本件役員退職給与も同様に原告の役員退職慰労金規定にしたがって算出したのであるから,原告の責めに帰することができない客観的事情があり,原告に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になるというべきである。したがって,原告には,本件役員退職給与の全額を損金の額に算入して本件事業年度分の法人税の確定申告をしたことにつき,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるというべきであるから,本件賦課決定処分は違法である。

   (被告の主張)

    原告が平成9年に死亡した役員に対し役員退職給与を支払ったとしても,本件役員退職給与とは支給された役員の職務,功績倍率及びその支給時期が異なっており,最終月額報酬額,勤続年数及び原告の同業類似法人も異なっていたと考えられるから,そのような過去の役員退職給与の支給事例をもって,原告の役員退職慰労金規定によって算出した金額が退職給与として相当であると認められる金額となると誤解したとしても,真に納税者の責めに帰することのできない客観的事情があるということはできない。したがって,原告に国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとはいえない。

  (3) 本件各処分における権利の濫用,信義則違反等(争点3)

   (原告の主張)

    本件各処分は,本件役員退職給与の支給に係る事情が既に本件事業年度末の平成21年8月には判明していたにもかかわらず平成26年7月に至ってされたものであり,時効が完成した後にされたものであるか,権利の濫用に当たり又は信義則に違反するから違法である。

   (被告の主張)

    三条税務署長は,原告の本件事業年度分の法人税の法定申告期限である平成21年10月20日から5年以内の日である平成26年7月4日付けで本件各処分を行ったのであるから,原告の上記法人税に係る課税権の時効が成立していないことは明らかである(国税通則法70条1項1号)。三条税務署長が本件各処分をしたことが権利の濫用又は信義則違反に当たる旨の原告の主張については争う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

 1 争点1(本件役員退職給与の額のうち「不相当に高額な部分の金額」)について

  (1)ア 法人税法34条2項の趣旨は,法人の役員に対する退職給与等が法人の利益処分たる性質を有する場合があることから,法人所得の金額の計算上,一般に相当と認められる金額に限り必要経費として損金算入を認め,それを超える部分の金額については損金算入を認めないことによって,実態に即した適正な課税を行うことにあると解される。

     そして,法人税法34条2項の委任を受けた法人税法施行令70条2号は,法人税法34条2項所定の「不相当に高額な部分の金額」を役員退職給与について算定するに当たり考慮すべき事項を類型化して具体的に定めたものということができる。

   イ この点,原告は,あらかじめ就業規則等に定められた規定により算定された役員退職給与は,法人税法34条2項所定の「不相当に高額な部分の金額」を含まない旨を主張する。しかしながら,上述のとおりの同項の趣旨からすると,就業規則等の規定により役員退職給与が算定されたとしても,当該規定の内容自体やその適用の過程で考慮された事情が一般に相当と認められるとは限らず,一般に相当と認められる金額を超える部分の金額については法人所得の金額の計算上損金算入を認めないこととし,実態に即した適正な課税を行うことが相当であるから,原告の上記主張は採用できない。

     また,原告は,法人税法34条2項が政令に白紙委任するものとして租税法律主義(憲法84条)に違反する旨,法人税法施行令70条2号が法人税法34条2項の委任の範囲を超えるのみならず,課税要件の基準として不明確であり,納税者の予測可能性を欠き,適用違憲の可能性がある旨を主張する。しかしながら,法人税法34条2項の趣旨・目的が,上述のとおり,法人の役員に対する退職給与等の額のうち,一般に相当と認められる金額に限り,法人所得の金額の計算上必要経費として損金算入を認めることによって,実態に即した適正な課税を行うことにあることは,同項の規定内容自体から容易にうかがい知ることができることであり,また,法人税法施行令70条2号は,法人税法34条2項所定の「不相当に高額な部分の金額」の考慮要素を役員退職給与について具体的に定めたものであって,その規定内容は,当該役員の在任期間,退職の事情,同業類似法人における退職給与の支給の状況等を考慮要素とするというものであり,同項の上記の趣旨・目的に沿うものであるということができるから,同項の規定が政令に白紙委任したものであるとか,法人税法施行令70条2号がその委任の範囲を逸脱したものであるということはできない。

 

 

 

なお,法人税法34条2項があらかじめ就業規則等に定められた規定により算定された役員退職給与であっても同項の適用対象とする趣旨であると解すべきことは,前述したとおりである。

 

 

また,法人税法施行令70条2号の規定内容は,上記のとおり,「不相当に高額な部分の金額」を役員退職給与について算定するに当たり考慮すべき事項を具体的に例示したものであり,「等」としてその他の事項を考慮する余地を残しているとしても,特段不明確ということはできず,同号が同業類似法人における役員に対する退職給与の支給の状況等を考慮すべき旨を規定している点についても,証拠(乙13ないし16)によれば,

 

 

役員退職給与の支給実績を調査したデータが掲載されている文献が複数公刊されているほか,

 

TKC全国会(税理士及び公認会計士からなる任意団体)発行の同種の資料が同会の会員に頒布されており,

 

これらの文献・資料には,業種等ごとに,法人の売上金額,役員の役職名,退職事由,在任年数,最終月額報酬額,役員退職給与の支給額,功績倍率等の実例情報が掲載されていることが認められ,納税者はこれらの公刊物により又はTKC全国会の会員である税理士等を通じて同業類似法人における役員に対する退職給与の支給の状況を相当程度認識し得るということができるから,同号の規定が納税者に予測不可能な考慮要素を定めたものとまでいうことはできない。

 

 

     さらに,原告は,法人税法34条2項によれば,役員退職給与に法人税と源泉所得税とが二重に課税され,財産権が侵害される旨を主張する。しかしながら,法人を納税主体としてその所得に対して課税される法人税と,当該法人の役員を納税主体としてその給与所得に対して課税される所得税とでは,給与所得が源泉徴収の対象とされているとしても,納税主体及び課税物件が異なることは明らかであるから,財産権を侵害する違法な二重課税に当たるということはできない。

 

 

  (2)ア 被告は,本件役員退職給与のうち相当であると認められる金額の算定方法として,平均功績倍率法を用いている。しかるところ,平均功績倍率法で用いる算定要素のうち,まず,最終月額報酬額は,通常,当該退職役員の在任期間中における報酬の最高額を示すものであるとともに,当該退職役員の在任期間中における法人に対する功績の程度を最もよく反映しているものということができる。

 

 

また,勤続年数は,法人税法施行令70条2号が規定する「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間」に相当する。

 

 

さらに,功績倍率は,これらの要素以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数であり,同業類似法人における功績倍率の平均値(平均功績倍率)を算定することにより,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され,より平準化された数値が得られるものということができる。

 

 

このような各算定要素を用いて役員退職給与の相当額を算定しようとする平均功績倍率法は,その同業類似法人の抽出が合理的に行われ,かつ,その平均功績倍率を当該法人に適用することが相当と認められる限り,法人税法34条2項及び法人税法施行令70条2号の趣旨に合致する合理的な方法というべきである。

 

 

   イ この点,原告は,最高功績倍率法等の納税者により有利な算定方法を採用すべきである旨を主張する。しかしながら,功績倍率の平均値(平均功績倍率)を算定することにより,同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され,より平準化された数値が得られることは前記のとおりである一方,功績倍率の最高値は最高値に係る法人の特殊性等に影響されるものであって,指標としての客観性が劣るといわざるを得ない。

 

 

また,後記のとおり本件において合理的と認められる抽出基準により同業類似法人を抽出した結果,5法人という相当数の法人が抽出されている上,これらの法人の功績倍率には極端なばらつきがなく,その偏差も平均功績倍率の30%程度の範囲内に収まっているのであって,本件において役員退職給与の相当額を算定するための指標として平均功績倍率を採用することが相当でないとか,最高功績倍率法がより適切であるとみるべき事情は見当たらない。したがって,原告の上記主張も採用できない。

 

 

  (3) そこで次に,被告が原告の同業類似法人を抽出するために用いた抽出基準が合理的であると認められるか否かについて検討する。

   ア 証拠(乙7ないし9)によれば,被告が原告の同業類似法人を抽出するために用いた抽出基準は,次のとおりであり,被告は,平成28年3月22日付けの関東信越国税局長名による新潟県内の税務署長宛ての指示文書により,次の抽出基準(ただし,同指示文書においては,次の③について,平成20年2月1日から平成25年10月31日までの間に終了する事業年度に限定している。)に該当する法人の調査を求め(通達回答方式),これに加え,三条税務署長が本件各処分に先立ち平成26年1月から6月までの間に原告の法人税調査を実施した際に調査担当者等が電子データの処理等により抽出した同業類似法人の中から,被告が次の抽出基準に該当するものを調査したところ,次の抽出基準に該当する原告の同業類似法人は別表2のとおりの5法人となったことが認められる。

    ① 新潟県内に納税地を有する法人であること

    ② 日本標準産業分類における,大分類「E-製造業」の中分類「24-金属製品製造業」を基幹の事業としていること

    ③ 平成18年2月1日から平成25年10月31日までの間に終了する事業年度において,売上金額が6億7746万9243円(原告の本件事業年度の売上金額(乙2)の半額)以上27億0987万6970円(原告の本件事業年度の売上金額の倍額)以下である事業年度があること

    ④ 死亡を理由とする代表取締役の退職があり,かつ,上記③に該当する事業年度において,当該退職した代表取締役に対して退職給与の支払があること

    ⑤ 上記③に該当する事業年度について,国税通則法又は行政事件訴訟法所定の不服申立て又は訴訟が係属中でないこと

   イ 上記抽出基準のうち①の合理性について,原告は,調査対象地域を新潟県内に限定したことが不合理である旨を主張するが,被告が原告の本店所在地である新潟県三条市(前記前提事実(1))と経済事情が類似すると認められる新潟県内に納税地(本店又は主たる事務所の所在地。法人税法16条)を有する法人を対象として原告の同業類似法人の調査をしたことは合理的ということができる。

     また,抽出基準②の合理性について,原告は,業種を金属製品製造業に限定したことが不合理である旨を主張するが,原告は,ミシン部品の製造及び販売,家庭金物,建材金物の製造及び販売等を目的とする株式会社であり(前記前提事実(1)),本件事業年度分の法人税の確定申告書には事業種目を「足場金具製造」と記載し(乙2),原告の本件事業年度の直前の3事業年度の商品別売上金額の中でも金属製品の売上金額が占める割合が大きく,リース業及びメンテナンス業の売上金額は計14%に満たない(甲2の1ないし甲2の3)ことからすれば,原告の同業類似法人の抽出に当たり,日本標準産業分類における,大分類「E-製造業」の中分類「24-金属製品製造業」を基幹の事業としていることを基準としたことは合理的ということができる。

     さらに,抽出基準③の合理性について,原告は,売上金額を基準としたことや倍半基準を用いたことが不合理である旨を主張するが,法人税法施行令70条2号が,役員退職給与の相当額の算定に当たり考慮すべき要素として,その法人と同種の事業を営む法人でその「事業規模が類似するもの」の役員に対する退職給与の支給の状況を挙げていることからすれば,原告と事業規模が類似する法人を抽出するに当たり,事業の規模を示す指標である各法人の売上金額を抽出基準の一つとすることは合理的であり,また,具体的な基準として売上金額が原告の売上金額の半額から倍額までの金額の範囲内にあることを抽出基準としたことも原告と事業規模が類似する法人を抽出する基準として合理的であるということができる。そして,調査対象年度を平成18年2月1日から平成25年10月31日までの7年9か月の間に終了する事業年度としたことも,同期間に本件事業年度(平成20年8月21日から平成21年8月20日まで)が含まれることや,本件事業年度をはさんでその前後4年程度の期間に限定していること,一定数の同業類似法人を抽出するには一定の期間を調査対象年度とする必要があると考えられることからすれば,合理的ということができる。

     そして,抽出基準④及び⑤も,原告の場合と同じ役職名の役員の同じ退任理由による退職給与の損金算入額が争いなく確定している法人を抽出する基準であり,支給事例としての適格性を担保するための基準として合理性があるということができる。

     原告は,原告の同業類似法人の抽出に当たり,役員退職給与の支払があらかじめ定められた就業規則等の規定に基づくものであることを基準とすべきであり,抽出基準としないとしても,抽出された同業類似法人を比較する際に考慮すべきである旨を主張するが,前記(1)イにおいて法人税法34条2項及びその委任を受けた法人税法施行令70条2号の趣旨に関して述べたことに照らし,採用できない。

     さらに,原告は,同業類似法人の抽出に当たり,亡Aと同程度の功績のある役員が退職した法人であることを基準とすべきであった旨の主張をするが,亡Aの具体的な功績の内容及び程度は,同業類似法人間の平均功績倍率を原告に適用することの相当性の判断において考慮される事情であり,法人間の差異を捨象して平準化した平均功績倍率を算定するための抽出基準の合理性自体を左右するものではないから,この点に係る原告の主張も採用できない。

   ウ したがって,被告が採用した原告の同業類似法人の抽出基準はいずれも合理的であるということができる。

  (4) そして,証拠(乙8の1,3,5,乙9)によれば,上記抽出基準に該当する原告の同業類似法人5法人の支給した役員退職給与に係る功績倍率等は別表2のとおりであり,その平均功績倍率(以下「本件平均功績倍率」という。)は3.26であることが認められる。

    なお,被告は,上記5法人の法人名を明らかにしていないが,これら5法人は,前記(3)アのとおりの方法により,各税務署において上記抽出基準に該当する法人を漏れなく機械的に抽出した結果抽出されたものと認められ,恣意的な作為が介在する余地は小さいと解されるから,本件平均功績倍率に係る関係証拠が証明力を欠くということはできない。

  (5) そこで次に,本件平均功績倍率を原告に適用し,これに亡Aの最終月額報酬額及び勤続年数を乗じて得た額をもって,亡Aに対する退職給与として相当な金額と認めることが相当といえるか否かについて検討する。

   ア 前記前提事実(2)ア及び証拠(甲4の4,甲8)によれば,亡Aの最終月額報酬額は240万円,役員(取締役,代表取締役)としての勤続年数は27年(別表2参照)であり,本件役員退職給与に係る功績倍率は6.49(別表2参照)であること,亡Aは,昭和56年に取締役に就任した後,原告の経理及び労務管理を任され,債務の弁済計画等を立て,不動産等を売却することなく,平成9年頃に8億円以上あった借金を平成20年頃までに完済することに貢献したこと,平成15年には三男のCが代表取締役社長に就任するまでの橋渡しとして代表取締役に就任したこと,原告の売上金額は昭和56年頃には約6億8000万円であったのが,平成15年頃には15億円前後にまで増加したことが認められる。

 

   イ 同業類似法人間における平均功績倍率は,同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り,役員退職給与として相当であると認められる金額を算定するための合理的な指標となるものであるが,あくまでも同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性を捨象して平準化した平均的な値であるにすぎず,本来役員退職給与が当該退職役員の具体的な功績等に応じて支給されるべきものであることに鑑みると,平均功績倍率を少しでも超える功績倍率により算定された役員退職給与の額が直ちに不相当に高額な金額になると解することはあまりにも硬直的な考え方であって,実態に即した適正な課税を行うとする法人税法34条2項の趣旨に反することにもなりかねず,相当であるとはいえない。

 

しかも,平均功績倍率を少しでも超える功績倍率により算定された役員退職給与の額が直ちに不相当に高額な金額になるとすると,例えば本件においても,別表2の順号1及び5の支給事例は不相当に高額な金額の退職給与の支給をしていたということになりかねず,当該支給事例が,役員退職給与の損金算入額が争いなく確定し,支給事例としての一定の適格性が担保されている同業類似法人である(前記(3))という本件平均功績倍率の算出の前提と矛盾することになるから,この点でも不合理というべきである。

 

 

さらに,法人税法34条2項及び法人税法施行令70条各号の規定は,課税庁が課税処分を行う際の準則であるのみならず,法人税の納税者が法人税の申告をする際に従うべき準則でもあるところ,前述したとおり,法人税の納税者は,同令70条2号所定の考慮要素である「その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況」を考慮するに当たり,公刊物等を参酌することで上記の支給の状況を相当程度まで認識することが可能であるとは解されるものの,

 

被告が行う通達回答方式のような厳密な調査は期待し得べくもないから,このような納税者側の一般的な認識可能性の程度にも十分に配慮する必要があり,役員退職給与として相当であると認められる金額は,事後的な課税庁側の調査による平均功績倍率を適用した金額からの相当程度の乖離を許容するものとして観念されるべきものと解される。

 

 

このように考えると,少なくとも課税庁側の調査による平均功績倍率の数にその半数を加えた数を超えない数の功績倍率により算定された役員退職給与の額は,当該法人における当該役員の具体的な功績等に照らしその額が明らかに過大であると解すべき特段の事情がある場合でない限り,同号にいう「その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額」を超えるものではないと解するのが相当であるというべきである。

 

 

 

     これを本件についてみると,上記の事実関係によれば,本件役員退職給与に係る功績倍率は6.49であり,本件平均功績倍率3.26にその半数を加えた4.89を超えるものであるところ,

 

亡Aが原告の取締役及び代表取締役として,借金の完済や売上金額の増加,経営者の世代交代の橋渡し等に相応の功績を有していたことがうかがわれることからすると,

 

亡Aの功績倍率を上記の4.89として算定される役員退職給与の額について上記特段の事情があるとは認められないから,本件役員退職給与の額4億2000万円のうち,

 

上記の功績倍率4.89に亡Aの最終月額報酬額240万円及び勤続年数27年を乗じて計算される金額に相当する3億1687万2000円までの部分は,亡Aに対する退職給与として相当であると認められる金額を超えるものではないというべきである。

 

     しかしながら,本件の全証拠によっても,亡Aに上記の3億1687万2000円(功績倍率4.89)を超える退職給与を支給されるに値するほどの特別な功績があったとまでは認められないから,本件役員退職給与の額のうち上記の金額を超える1億0312万8000円は「不相当に高額な部分の金額」に当たるというべきである。

 

 

   ウ なお,原告は,亡Aの功績からすれば,亡Aは,最終月額報酬額(240万円)に賞与(年額720万円)の月額相当額(60万円)を加えた300万円の最終月額報酬の支給を受けていたものとして,本件役員退職給与の相当額を算定すべきである旨を主張する。

 

しかしながら,前記(2)アで述べたとおり,最終月額報酬額は通常当該役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を反映していると考えられることに加え,

 

亡Aの最終月額報酬額は240万円と高額であること,

 

原告自身が当該金額を基礎としてこれに勤続年数と役員退職慰労金規定所定の通常の役員係数に功労加算の係数を乗じた倍率(功績倍率)を乗じて本件役員退職給与の額を算定していたと認められること

 

(前記前提事実(2)ウ)に照らすと,前記事実関係からうかがわれる亡Aの功績を考慮しても,亡Aの最終月額報酬額は240万円として,本件役員退職給与の相当額を算定するのが相当であり,原告の上記主張は採用できない。

 

 

  (6) 以上のとおり,本件役員退職給与の額のうち「不相当に高額な部分の金額」は1億0312万8000円となるところ,これを前提として計算すると,以下のとおり,原告の本件事業年度分の所得金額は1億6704万1941円,納付すべき法人税額は4820万6600円と計算されることが認められ(別表3参照),原告の確定申告に係る金額はいずれもこれらを下回るが,本件更正処分における金額はいずれもこれらを上回るものである。

 

   ア 所得金額(別表3・順号③) 1億6704万1941円

     上記金額は,次の(ア)の金額に同(イ)の金額を加算した金額である。

    (ア) 申告所得金額(別表1及び3・順号①) 6391万3941円

      上記金額は,原告の確定申告に係る所得金額と同額である。

    (イ) 本件役員退職給与の額のうち損金の額に算入されない金額(別表3・順号②) 1億0312万8000円

      上記金額は,本件役員退職給与の額4億2000万円のうち,「不相当に高額な部分の金額」である。

   イ 所得金額に対する法人税額(別表3・順号④) 4915万2300円

     上記金額は,前記アの所得金額1億6704万1000円(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)につき,法人税法66条1項,2項及び租税特別措置法42条の3の2第1項(いずれも平成22年法律第6号による改正前のもの)の規定により800万円以下の金額については100分の18の税率を,800万円を超える金額1億5904万1000円については100分の30の税率をそれぞれ乗じて計算した各金額の合計額である。

   ウ 法人税額から控除される所得税額等(別表1及び3・順号⑤) 94万5693円

     上記金額は,法人税法68条(平成23年法律第114号による改正前のもの)に規定する法人税額から控除される所得税の額であり,原告の確定申告に係る金額と同額である(乙2)。

   エ 納付すべき法人税額(別表3・順号⑥) 4820万6600円

     上記金額は,前記イの金額から前記ウの金額を差し引いた金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

 

 

 

 2 争点2(国税通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無)について

   当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し適正な申告納税の実現を図るという過少申告加算税の趣旨に照らせば,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項の定める「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成27年6月12日第二小法廷判決・民集69巻4号1121頁等参照)。

 

 

 

 

   原告は,平成9年に当時の専務が死亡したため,原告の役員退職慰労金規定にしたがって算出した退職慰労金を支給し,法人税の確定申告をしたが,更正処分等はされなかったことから,本件役員退職給与も同様に原告の役員退職慰労金規定にしたがって算出したとして,上記の場合に当たる旨を主張する。

 

 

しかしながら,原告の主張する事情は,法人税法施行令70条2号に規定する役員退職給与として相当であると認められる金額を算定するに当たり考慮すべき事情のいずれにも当たらず,原告は,同号所定の考慮事情を考慮したものということはできない。

 

 

そうすると,本件において,原告が本件役員退職給与の全額を損金の額に算入して本件事業年度分の法人税の確定申告をしたことにつき,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるということはできず,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。

 

 

   そして,前記1(6)で計算した金額を前提とすると,原告の本件事業年度分の法人税に係る過少申告加算税の額は,国税通則法65条1項の規定に基づき,新たに納付すべき法人税額3093万円(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10を乗じて算出した金額309万3000円と,同法65条2項の規定に基づき,新たに納付すべき法人税額3093万8400円のうち期限内申告税額1821万3893円(乙2。原告の確定申告に係る納付すべき法人税額1726万8200円に法人税額から控除される所得税の額94万5693円を加算した金額)を超える部分の金額1272万円(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5を乗じて算出した金額63万6000円を合計した372万9000円となることが認められ,本件賦課決定処分における金額はこれを上回るものである。

 

 

 

 

 3 争点3(本件各処分における権利の濫用,信義則違反等)について

   原告の本件各処分は時効が完成した後にされた処分である旨の主張は,本件各処分が国税通則法70条1項所定の期間制限に違反する旨を主張するものと解されるが,そうであるとしても,同項は,国税に係る更正についてはその更正に係る国税の法定申告期限から(1号),課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税(過少申告加算税はこれに含まれる。)に係る賦課決定についてはその納税義務の成立の日(過少申告加算税については法定申告期限が経過した日。同法15条2項13号)から(同法70条1項3号),それぞれ5年を経過した日以後においてはすることができない旨を定めているところ,原告の本件事業年度分の法人税の法定申告期限は本件事業年度終了の日である平成21年8月20日の翌日から2か月後の同年10月20日であるから(法人税法74条1項),平成26年7月4日付けでされた本件各処分は上記の期間制限に違反するものではない。

   また,本件各処分が上記の期間制限に違反するものでない以上,その行われた時期に関して権利を濫用したものであり,又は信義則に違反したものとして,違法な処分であるということはできず,他に本件各処分が権利の濫用又は信義則違反により違法と評価すべき事情はうかがわれないから,この点に関する原告の主張も理由がない。

 

 4 結論

   以上によれば,本件更正処分のうち所得金額1億6704万1941円及び納付すべき税額4820万6600円を超える部分並びに本件賦課決定処分のうち過少申告加算税の額372万9000円を超える部分は,いずれも違法な処分として取消しを免れないが,その余の部分はいずれも適法なものというべきである。

   よって,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

 

    東京地方裁判所民事第3部

        裁判長裁判官  古田孝夫

           裁判官  貝阿彌亮

           裁判官  志村由貴