不相当に高額な部分(3)

 

 

法人税更正処分取消等請求控訴事件

 

 

【事件番号】 東京高等裁判所判決

 

【判決日付】 平成23年2月24日

 

【掲載誌】  税務訴訟資料261号順号11623

 

 

について検討します。

 

 

主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴人

  (1) 原判決を取り消す。

  (2) 加治木税務署長が控訴人に対して平成19年9月26日付けでした控訴人の平成16年2月1日から同年5月31日までの事業年度(以下「平成16年5月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額1273万0633円、納付すべき税額360万5600円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  (3) 加治木税務署長が控訴人に対し平成19年9月26日付けでした控訴人の平成16年6月1日から同17年5月31日までの事業年度(以下「平成17年5月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額1690万6465円、納付すべき税額438万2900円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

  (4) 加治木税務署長が控訴人に対し平成19年9月26日付けでした控訴人の平成17年6月1日から同18年5月31日までの事業年度(以下「平成18年5月期」という。)の法人税の更正処分のうち所得金額4763万8912円、納付すべき税額1359万2600円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

 2 被控訴人

   主文同旨

 

 

第2 事案の概要

 1 事案の要旨

   しょうちゅうの製造及び販売等を目的とする同族会社である控訴人は、平成16年5月期、平成17年5月期及び平成18年5月期(本件各事業年度)の控訴人の法人税につき、控訴人代表者の妻(乙)の取締役報酬をそれぞれ800万円、2400万円及び2400万円とし、これらの全額を損金の額に算入して所得の金額を計算して確定申告をしたところ、加治木税務署長が上記各報酬の額には法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)34条1項に定める「不相当に高額な部分の金額」があり、上記各報酬の額のうち当該部分の金額を損金の額に算入することはできないとして、本件各事業年度について更正処分(本件各更正処分)及び過少申告加算税賦課決定処分(本件各賦課決定処分)をした。

   本件は、控訴人が被控訴人(国)に対し、上記各報酬の額は、いずれも相当であり、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(本件各処分)は、いずれも違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。

   原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。

 2 関係法令の定め、前提事実、本件各処分の根拠及び適法性についての被控訴人の主張、争点及び争点に対する当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1ないし5(原判決3頁13行目から26頁19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も、本件各処分は、いずれも適法であり、その取消しを求める控訴人の請求は、いずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は、後記2のとおり、控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし7(原判決26頁21行目から47頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

 

 

 2 控訴人の当審における主張について

  (1) 控訴人は、法人税法34条1項、法人税法施行令69条1項の規定の文言を読んでも、適正報酬額がいかなる金額であり、どの程度の報酬を支払うと税務当局に「不相当に高額」と認定されてしまうかが全く分からないのであって、これらの条項は、その文言の不明確性ゆえに納税者の規範とはなり得ないものであり、課税要件明確主義に反するとし、本件各処分は控訴人にとって不意打ちかつ不透明なものであり、違法である旨主張する。

 

    しかし、法人税法34条1項は、役員報酬は役務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきものであるところ、

 

法人によっては実際は賞与に当たるものを報酬の名目で役員に給付する傾向があるため、そのような隠れた利益処分に対処し、課税の公正を確保しようとするものである。

 

 

また、これを受けて、法人税法施行令69条1項は、特定の法人の役員に支給された報酬の額が課税上その職務に対する対価として不相当に高額かどうかについては、

 

当該役員の職務の内容を前提にして、当該会社の収益や使用人に対する給料の支払状況と対比するほか、

 

収益率等が類似すると考えられる同種の事業を営み類似の規模を有する法人を選定した上、

 

これら類似法人において当該役員と職務内容が類似する役員に支給される報酬額に比準して判断すべきものとし、

 

特定の法人の役員に支給された報酬の額が課税上その職務に対する対価として不相当に高額かどうかについての判断基準を示したものである。

 

法人税法34条1項及び同法施行令69条1項の規定の趣旨及び内容は、その文言に照らして明確であるというべきであって、これらの規定が課税要件明確主義に反するということはできない。

 

したがって、これらの規定に基づきなされた本件各処分が不意打ちかつ不透明なものであるということはできず、控訴人の上記主張は採用できない。

 

 

 

  (2) 控訴人は、乙は控訴人の役員として従業員や社長の精神的サポート、接待業務等に従事しているところ、それらの業務は、単なる妻ではなく、日常的に社長と生活を共にしつつ、経営上のサポートを行う者の業務として評価されるべきものであり、

 

仮にこれに類似する業務を行う者を雇用するとすれば、その費用は、莫大なものとなるから、

 

原判決が、同族会社における社長の妻の役割を軽視して、乙を非常勤の役員にすぎないとして、同女の報酬を「不当に高額」と判断したのは不当である旨主張する。

 

 

 

    しかし、この点に関する原審の認定は、その挙示の証拠関係に照らして正当として是認できるところ、この認定に基づいてみるに、

 

控訴人主張の乙の接待業務等については、乙がこれに従事した時間が極めて少なく、その具体的内容が必ずしも明らかでないことからすれば、

 

これによる営業上の効果が大きいとしても、控訴人の常勤の役員としての業務に該当するとはいえない。

 

 

次に、乙の社宅建築に関する業務については、乙が社宅建築にどのようにかかわったのかは明らかではなく、控訴人主張の各社宅が社長家族及び会長の居住用に建築されたものであることからすれば、

 

乙は主としてそこの居住する家族の一員としてこれにかかわったものと認めるのが相当であるから、

 

 

乙が社宅建築に関して、控訴人の常勤の役員としてその業務に従事していたと評価することは困難である。

 

 

 

さらに、従業員や社長の精神的サポートをいう部分については、乙が行っていたという精神的サポート等の具体的内容、そのために行った具体的業務に要した時間や日数、その業務が会社の業務執行に与えた影響の程度等は何ら明らかでなく

 

 

控訴人は、当審においても、乙のサポート業務の具体的内容等を明らかにしていないから、

 

 

仮に何らかのアドバイスのようなものを乙が行っていたとしても、それをもって乙が常勤の役員としての業務に従事していたと認めることはできない

 

(なお、控訴人は、乙の有していた、他の会社の代表者の妻とのネットワークも会社経営上、非常に重要なものであり、かかるネットワークを構築できるのは、乙しかいないとも主張するが、上記ネットワークの具体的内容等は明らかにしていない。)。

 

 

    控訴人は、乙が、取引先との家族ぐるみの付き合いや他の会社の代表者の妻とのネットワークの構築に尽力するなど、控訴人の社長の妻として控訴人のため重要な役割を果たしているともいうが、こうした役割分担は、妻が夫である代表者の社会的活動に協力しているというに止まるものというほかなく、これらのことをもって乙が会社の常勤の役員としてその業務に従事しているものと評価することはできない。

 

    控訴人の上記主張は採用することができない。

 

 

  (3) 控訴人は、しょうちゅうのように、ブランド力によって価格設定等が大きく異なる業界においては、製造される製品が類似することのみによって収益率等が類似するとはいえないから、熊本国税局管内のしょうちゅうメーカーのみを比較対象とする被控訴人の主張を採用した原判決は不当である旨主張する。

 

 

    しかし、上記(1)で説示したとおり、法人税法施行令69条1号の規定は、特定の法人の役員に支給された報酬の額が課税上その職務に対する対価として不相当に高額かどうかについては、当該役員の職務の内容を前提にして、当該会社の収益や使用人に対する給料の支払状況と対比するほか、

 

 

同種の事業を営み類似の規模を有する法人を選定した上、これら類似法人において当該役員と職務内容が類似する役員に支給される報酬額に比準して判断すべきものと定めているものであり、

 

 

このようにして適正な報酬額を超えるか否かを判断するのが合理的であるとの見地に基づいているものと解される。

 

 

そして、類似法人における類似役員に支給される報酬額の平均値に比準して適正報酬額を求める場合には、当該法人と類似法人間に通常存在する程度の営業条件等の差異は平均値の中に捨象されるものと考えられるから、その差異が平均値に比準するのを相当としない程度に顕著であるといえない限り、これを無視して差し支えないものというべきである。

 

 

    前記引用に係る原判決の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、熊本国税局管内における乙類焼酎の製成数量が全国における製成数量の8割以上を占めていること、

 

控訴人の製品と同額以上で取引されているいわゆるブランドしょうちゅうも同国税局管内で製造されていること、

 

控訴人並びに比較対象似法人とされたA、B、D、E、I及びLの6社の収益力(収益率)の指標となる改定営業利益及び総売上金額は、原判決別表3のとおりであり、

 

これによれば、控訴人の改定営業利益及びこれが総売上金額に占める割合(利益率)が、比較対象法人である上記6社と比較して、特に高いとはいえないことが認められる。

 

 

したがって、所轄税務署長が、比較対象法人を熊本国税局管内の単式蒸留しょうちゅうの製造業者で、類似の規模を有する法人に限定し、これらの比較対象法人において類似役員に支給される報酬額の平均値に比準して乙に係る適正報酬額を求めたことは、法人税法施行令69条1号の規定の趣旨に沿うものであり、これを不合理であるということはできない。

 

 

また、弁論の全趣旨によれば、控訴人製造のしょうちゅう「D」は相当のブランド力を有するものと認められるが、比較対象法人とされた類似法人と控訴人との間のブランド力を含む営業条件等の差異が、これらの類似法人において類似役員に支給される報酬額の平均値に比準するのを相当としない程度に顕著であると認めるに足りる事情は何らうかがわれない。

 

 

  (4) 控訴人は、比較対象法人を抽出する当たって控訴人と同種の事業を営む法人との事業規模等を比較する場合には、控訴人とその関連会社とは一体のものとして扱うべきであると主張する。

 

 

    しかし、法人税法施行令69条1項は、特定の法人の役員に支給された報酬の額が課税上その職務に対する対価として不相当に高額かどうかについては、

 

「当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合」であるか否かによって判断すべきものとしているところ、

 

この規定にいう「内国法人」が、単体の法人を意味することは明らかであり、そのように解しても不合理とはいえない。控訴人の上記主張は採用することができない。

 

 

 

  (5) 控訴人は、乙の役員報酬としての適正な報酬を月額10万円程度とした原判決は、社会的実態からかけ離れた結論を押しつけるものである旨主張する。

 

    しかし、原判決の説示するとおり、乙は、日常的に控訴人の役員として業務執行に従事していたのではなく、

 

いわゆる非常勤の役員としていくつかの職務に従事していたものと認めるのが相当であり、

 

乙の役員としての職務の内容として固有のものがあったとは認められない。

 

そして、適正報酬額とされた月額10万円は、控訴人と同種の事業を営み類似の規模を有する類似法人として適正に抽出された比較対象法人において乙と職務内容が類似する役員に支払われる報酬額の平均値に比準して算出されたものであり、これが社会的な実態とかけ離れたものということはできない。

 

 

    かえって、乙を被質問者とする質問てん末書(乙6)によると、

 

乙の役員報酬は平成7年11月1日の取締役就任時から平成15年3月までは月額50万円、

 

平成15年4月から平成16年2月までは100万円であったところ、

 

平成16年3月以降、月額200万円に増額されたが、

 

乙の担当業務に格別の変化はなかったことが認められ、

 

 

また、丙(会長)を被質問者とする質問てん末書(乙9)によれば、上記増額がされたのは、

 

平成15年ころから、控訴人の製造するしょうちゅう「D」の知名度が向上し、控訴人の業績が急に良くなったためであることが認められる。

 

 

さらに、乙を被質問者とする質問てん末書(乙5、6)によれば、

 

乙の役員報酬のうち、毎月20万円程度は銀行振込がされていたが、残りは、夫である社長が現金で受け取っており、乙は給与明細書も受け取っていないというのであり、

 

 

甲(社長)を被質問者とする質問てん末書(乙7)によれば、

 

社長は、乙の役員報酬が月額200万円に増額されたころから、銀行振込以外の残りを生活費のほか、株式、投資信託、金及びプラチナ等に投資していたというのである。

 

 

    これらの事実に照らすと、乙の役員報酬のうち、適正報酬を超える(不相当に高額)な部分は、同女の業務の対価というより、実質的には控訴人の利益処分、すなわち、法人税34条により、損金算入することができない役員賞与として支払われた面が大きいと評価するのが相当である。

 

    控訴人の上記主張は採用することができない。

 

 3 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

 

    東京高等裁判所第19民事部

        裁判長裁判官  青柳 馨

           裁判官  小林敬子

           裁判官  大野和明