登録免許税震災特例事件

 

 

処分取消請求事件

 

 

【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/平成13年(行ヒ)第25号

 

【判決日付】 平成17年4月14日

 

【判示事項】

 

1 過大に登録免許税を納付して登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項所定の請求の手続によらないで過誤納金の還付を請求することの可否

      

2 登記等を受けた者が登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの)31条2項に基づいてした請求に対する登記機関の拒否通知と抗告訴訟の対象

 

 

 

【参照条文】 登録免許税法31-1

       登録免許税法(平成14法152号改正前)31-2

       国税通則法56-1

       国税通則法(平11法10号改正前)15-2

       国税通則法(平11法10号改正前)15-3

       行政事件訴訟法3-1

       行政事件訴訟法3-2

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集59巻3号491頁

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       

 

 

理   由

 

 

 上告代理人山崎潮ほかの上告受理申立て理由について

 

 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 

 (1) 被上告人は,所有していた兵庫県西宮市日野町所在の建物が平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により損壊したため,上記建物を取り壊した。

 

 (2) 被上告人は,第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築した。本件建物について平成9年12月2日付けで表示登記がされた。

 

 (3) 被上告人は,平成9年12月4日,本件建物について自分を登記名義人とする保存登記を申請し,登録免許税として本件建物の課税価格の1000分の6に相当する72万3000円を納付した。上告人は,同日,第1審判決別紙登記目録記載の保存登記をした。

 

 (4) 被上告人は,上告人に対し,平成10年3月4日到達の書面で,登録免許税法(平成14年法律第152号による改正前のもの。以下同じ。)31条2項に基づき,阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)37条1項所定の登録免許税の免税措置が適用されることを理由に,所轄税務署長に対して登録免許税法31条1項の通知をすべき旨の請求をした。

 

 (5) 上告人は,被上告人に対し,平成10年3月14日到達の書面で,登録免許税の過誤納がなく,所轄税務署長に対して登録免許税法31条1項の通知をすることはできない旨の通知(以下「本件拒否通知」という。)をした。

 

 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件拒否通知の取消しを請求する事案である。

 

 3 原審は,本件拒否通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとして,本件訴えを却下すべきものとした。

 

 

 

 4 しかしながら,本件拒否通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとした原審の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 

 

 

 

 (1) 登録免許税については,納税義務は登記の時に成立し,納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定する

 

(国税通則法(平成11年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)15条2項14号,3項6号)。

 

 

そこで,登録免許税の納税義務者は,過大に登録免許税を納付して登記等を受けた場合には,そのことによって当然に還付請求権を取得し,

 

同法56条,74条により5年間は過誤納金の還付を受けることができるのであり(登録免許税法31条6項4号参照),

 

その還付がされないときは,還付金請求訴訟を提起することができる。

 

 

 

 この点につき登録免許税法31条1項は,同項各号のいずれかに該当する事実があるときは,登記機関が職権で遅滞なく所轄税務署長に過誤納金の還付に関する通知をしなければならないことを規定している。

 

これは,登録免許税については,登記等をするときに登記機関がその課税標準及び税額の認定をして登録免許税の額の納付の事実の確認を行うこととしていることに対応する規定であり,

 

登記機関が職権で所轄税務署長に対して過誤納金の存在及びその額を通知することとし,

 

これにより登録免許税の過誤納金の還付が円滑かつ簡便に行われるようにすることを目的とする。

 

そして,同条2項は,登記等を受けた者が登記機関に申し出て上記の通知をすべき旨の請求をすることができることとし,登記等を受けた者が職権で行われる上記の通知の手続を利用して簡易迅速に過誤納金の還付を受けることができるようにしている。

 

 

 同条1項及び2項の趣旨は,上記のとおり,過誤納金の還付が円滑に行われるようにするために簡便な手続を設けることにある。

 

同項が上記の請求につき1年の期間制限を定めているのも,登記等を受けた者が上記の簡便な手続を利用するについてその期間を画する趣旨であるにすぎないのであって,当該期間経過後は還付請求権が存在していても一切その行使をすることができず,登録免許税の還付を請求するには専ら同項所定の手続によらなければならないこととする手続の排他性を定めるものであるということはできない。

 

 

 このように解さないと,税務署長が登記等を受けた者から納付していない登録免許税の納付不足額を徴収する場合には,

 

国税通則法72条所定の国税の徴収権の消滅時効期間である5年間はこれを行うことが可能であるにもかかわらず,

 

登録免許税の還付については,同法74条所定の還付金の消滅時効期間である5年間が経過する前に,

 

1年の期間の経過によりその還付を受けることができなくなることとなり,納付不足額の徴収と権衡を失するものといわざるを得ない。

 

 

 なお,申告納税方式の国税については,納税義務者が,自己の管理,支配下において生じた課税の根拠等となる事実に基づき,自己の責任で行う確定申告により納付すべき税額が確定するという原則が採られているため,

 

納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときなどには,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り,税務署長に対し,更正をすべき旨の請求をすることができるのであって,上記期間を超えて上記の請求をすることができるのはやむを得ない理由がある場合に限られることとされている(国税通則法23条1項及び2項)。

 

 

これは,申告納税方式の下では,自己の責任において確定申告をするために,その誤りを是正するについて法的安定の要請に基づき短期の期間制限を設けられても,納税義務者としてはやむを得ないことであるということができるからである。

 

 

これに対し,登録免許税は,納税義務は登記の時に成立し,納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するのであるから,登録免許税法31条2項所定の請求は,申告納税方式の国税について定める国税通則法23条所定の更正の請求とはその前提が異なるといわざるを得ず,これらを同列に論ずることはできない。

 

 

 ちなみに,同法70条は,申告納税方式の国税について行うことがある更正,決定等について所定の場合に応じた期間制限を定めているのであり,更正については,偽りその他不正の行為により税額を免れたような場合を除くと,その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては,更正をすることができないこととしている(同条1項)。

 

 

 以上のとおり,登録免許税法31条2項は,登録免許税の還付を請求するには専ら上記の請求の手続によるべきであるとする手続の排他性を規定するものということはできない。

 

 

したがって,登記等を受けた者は,過大に登録免許税を納付した場合には,同項所定の請求に対する拒否通知の取消しを受けなくても,国税通則法56条に基づき,登録免許税の過誤納金の還付を請求することができるものというべきである。

 

 

 そうすると,同項が登録免許税の過誤納金の還付につき排他的な手続を定めていることを理由に,同項に基づく還付通知をすべき旨の請求に対してされた拒否通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解することはできないといわざるを得ない。

 

 

 (2) しかしながら,上述したところにかんがみると,登録免許税法31条2項は,登記等を受けた者に対し,簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができる地位を保障しているものと解するのが相当である。

 

そして,同項に基づく還付通知をすべき旨の請求に対してされた拒否通知は,登記機関が還付通知を行わず,還付手続を執らないことを明らかにするものであって,これにより,登記等を受けた者は,簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができなくなる。

 

そうすると,上記の拒否通知は,登記等を受けた者に対して上記の手続上の地位を否定する法的効果を有するものとして,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。

 

 

 5 以上述べたところと異なる見解に立って本件訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるものといわざるを得ない。

 

しかしながら,被上告人は,国を相手方とし,前記のとおり納付した登録免許税の還付請求に係る訴えを本件訴えに併合して提起したところ,

 

原審は,上記のとおり本件訴えを却下すべきものとするとともに,被上告人の国に対する還付請求についてはこれを棄却する旨の判決を言い渡し,同判決のうち上記の請求を棄却する部分が確定したことは記録上明らかであるから,

 

被上告人が前記のとおり納付した登録免許税の還付を受けることができる地位にないことは既判力をもって確定されている。

 

したがって,被上告人は,本件訴えにおいて本件拒否通知を取り消す旨の判決を得たとしても,これによって上記の還付を受けることができる地位を回復する余地はないから,本件訴えにつき訴えの利益を有するものとすることはできない。

 

そうすると,本件訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,結局,採用することができない。

 

 よって,裁判官泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

 

 

 

 

 

 

 裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。

 

 私は,登録免許税の過誤納金の還付は,登録免許税法31条2項の規定による請求及び当該請求が拒否された場合の拒否通知処分取消請求訴訟の手続によってのみ請求することができ,この手続によることなく不当利得として過誤納金の返還を請求することはできないと考える。その理由は,次のとおりである。

 

 1 登録免許税については,納税義務は登記等の時に成立し,納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するが,当該税額についての認識が関係者間で分かれる事態が生ずることは避けられない。

 

そこで,登録免許税法は,特に,第3章で,登録免許税の「納付及び還付」の手続を定めている。その26条1項本文は,上記のような事態に備え,「登記機関は,登記等の申請書に記載された当該登記等に係る登録免許税の課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき,その他当該課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額がその調査したところと異なるときは,その調査したところにより認定した課税標準の金額若しくは数量又は登録免許税の額を当該登記等を受ける者に通知するものとする。」と規定している。

 

すなわち,登録免許税法は,登記機関に対し,登録免許税の納付手続において課税標準及び税額を認定する権限を付与している。この認定権は,納付の手続のためのものであって,税額等を公定力をもって確定するものでないことはいうまでもないが,認定された税額を納付しない限り,例えば不動産登記手続においては登記申請が却下されることになるのである(旧不動産登記法(平成16年法律第123号による改正前のもの)49条9号)。

 

 

そこで,登記等を受けようとする者は,却下を免れるためには,認定された税額を納付せざるを得ないが,登記機関の上記認定については,国税通則法75条1項5号の規定により国税不服審判所長に対し審査請求を行うことができることとされており(登録免許税法31条1項3号参照),

 

登記機関の上記認定が行政処分であることは明らかである。

 

そして,上記認定の取消しを求める訴えは,上記の審査請求に対する国税不服審判所長の裁決を経た後でなければ提起することができないのである(国税通則法115条1項)。

 

 

 

 登録免許税の還付の手続は,上記納付の手続と表裏の関係をなすものであり,還付の手続を定める登録免許税法31条は,登録免許税の過誤納金の有無及びその額についても,登記機関に認定権を付与した規定であると解される。

 

この認定権も,還付の手続のためのものであって,過誤納金の有無及びその額を公定力をもって確定するものでないことはいうまでもないが,

 

登録免許税法31条2項は,登記等を受けた者が登録免許税に係る過誤納金の還付を受けようとする場合は,当該登記等を受けた日から1年を経過する日までに,その旨を登記機関に申し出て,登記機関の認定を受けるべきことを要求していると解すべきである。

 

そして,この登記機関の過誤納金に係る認定についても,国税通則法75条1項5号の規定により国税不服審判所長に対し審査請求ができると解され,現に実務ではそのような運用がなされているところである。したがって,過誤納金に係る登記機関の認定の取消しを求める訴えは,上記の審査請求に対する国税不服審判所長の裁決を経た後でなければ提起することができないのである(国税通則法115条1項)。

 

 

 以上のように,登録免許税法は,登録免許税に係る過誤納金の還付を受ける場合の手続を定め,登記等の専門的行政機関である登記機関の認定を経ることを要求しており,

 

また,国税通則法は,上記認定の取消しを求める訴えを提起するには,国税に関する専門的審査機関である国税不服審判所長の裁決を経ることを要求しているのであり,このことからすれば,両法の定める手続を経ず,直接に,不当利得として過誤納金の返還を請求することはできないと解すべきである。

 

 

 2 登録免許税法31条2項は,上記のように,過誤納金の還付を受けようとする場合は,当該登記等を受けた日から1年を経過する日までに,登記機関に申し出ることを求めているが,

 

これは,日常大量に反復して納付される登録免許税について,過誤納金の返還を消滅時効が完成するまでの5年間にわたり請求し得るとすることなく,1年以内に限って請求し得るとすることによって,登記等後の登録免許税をめぐる法律関係を早期に確定させようとする趣旨であって,不当利得としての過誤納金の返還を請求し得るとすると,同項が1年という期間制限を設けた意味がなくなるのである。

 

 

 3 国税通則法58条1項3号及び同法施行令24条2項4号は,登録免許税法31条2項の規定により請求をすることができる登録免許税に係る過誤納金の還付については,当該請求があった日の翌日から起算して1月を経過する日の翌日からその還付のための支払決定の日までの期間の日数に応じ,還付金に年7.3%の割合を乗じて計算した金額を加算しなければならないと規定しているが,

 

同法には,不当利得としての返還請求を想定した加算金に関する規定がない。

 

このように,国税通則法も,登録免許税法31条2項の規定による請求を予定しているのである。そして,不当利得として過誤納金の返還を請求し得るとすると,国税通則法が,登録免許税法31条2項の請求による還付について,加算金を付する期間に上記のような1月以上の空白を設けていることの説明が困難である。

 

 

 4 登録免許税に係る納付すべき税額は,納付義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するが,そのことと,登録免許税に係る過誤納金の還付につき特別の手続によるべきことを規定することとは,何ら矛盾することではない。

 

 

 5 また,還付金等に係る国に対する請求権は,その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって,時効により消滅する(国税通則法74条1項)。

 

この5年間においては,たとえ登録免許税法31条2項所定の1年の請求期間が経過しても,登記機関が自ら過誤納金を認定したときは,同条1項の規定に基づき税務署長に通知しなければならない。

 

しかし,これは,あくまでも登記機関の職権に基づく行為であって,登記等を受けた者が上記5年間に不当利得として返還を請求できることを意味しない。

 

登記等を受けた者としては,登録免許税法31条2項が規定する手続を踏むことが要求されるのである。同種のことは,申告納税方式の国税について,納税申告書を提出した者は法定申告期限から1年以内に限り更正の請求をすることができるが(国税通則法23条1項),

 

税務署長等の職権による減額更正は法定申告期限から5年を経過する日まで行うことができる(同法70条2項1号)という制度の中にもみることができるのである。

 

 

 6 もっとも,登録免許税法31条2項所定の1年の請求期間が経過しても,過誤納金の存在及びその額が登記機関の認定を待つまでもなく客観的に明白で,同条が定めた方法以外にその返還を請求することを許さないならば,納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合には,不当利得として返還の請求を認める余地もあるといえよう

 

(最高裁昭和43年(オ)第314号同49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁,最高裁昭和52年(オ)第987号同53年3月16日第一小法廷判決・判例時報884号43頁,最高裁昭和38年(オ)第499号同39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁)。

 

しかし,本件では,このような特段の事情はなく,被上告人は登録免許税法31条2項所定の請求を行って,本件拒否通知の取消しを請求しているのであるから,取消請求に理由があるか否かを判断すれば足りるのである。

 

 

 7 以上のとおり,被上告人の本件拒否通知取消請求の訴えは適法であり,訴えの利益も存するというべきであるが,原審の確定した事実によれば,取消請求は理由がないことが明らかであるので,同訴えに関する部分について,原判決を破棄し,第1審判決を取り消して,被上告人の取消請求を棄却すべきであると考える。

 

 

(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)