法人税更正処分取消請求事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和56年(行ツ)第36号
【判決日付】 昭和60年4月23日
【判示事項】 法人税青色申告に係る更正に理由附記不備の違法がないとされた事例
【判決要旨】 法人税青色申告に係る更正通知書に、更正の理由として、
「減価償却費の償却超過額36万8036円。48年6月取得の冷暖房設備について機械として特別償却していますが、内容を検討した結果、建物附属設備と認められ、特別償却の適用はありませんので、次の計算による償却超過額は損金の額に算入されません。
(種類)冷暖房設備(償却限度額)17万3319円
(貴社計算の償却費額)54万1355円
(差引償却超過額)36万8036円」
と附記されているときは、その記載は、右設備が法人税法2条24号、同法施行令13条1号所定の「建物附属設備」である「冷房設備」に当たり、租税特別措置法(昭和49年法律第17号による改正前のもの)45条の2第1項所定の「機械」に当たらず、その減価償却費は法人税31条1項所定の普通償却の限度において算定されるべきであるとする趣旨のものということができ、当該更正に法人税法130条2項所定の理由附記の不備の違法があるとはいえない。
【参照条文】 法人税法130-2
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集39巻3号850頁
について検討します。
主 文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人柳川俊一、同藤浦照生、同上田勇夫、同篠原靖宏、同小林孝雄、同松村利教、同片岡安夫、同河本正、同城尾宏、同木下昭夫、同杉山幸雄の上告理由について
一 原審の適法に確定したところによれば、被上告会社は、青色申告の承認を受けた法人であり、昭和四八年二月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度分法人税について確定申告したところ、上告人はこれを更正したが、その更正通知書には、更正の理由として、
「一、減価償却費の償却超過額……三六万八、〇三六円。四八年六月取得の冷暖房設備について機械として特別償却していますが、内容を検討した結果、建物附属設備と認められ、特別償却の適用はありませんので、次の計算による償却超過額は損金の額に算入されません。
(種類)冷暖房設備(償却限度額)一七万三、三一九円
(貴社計算の償却費額)五四万一、三五五円
(差引償却超過額)三六万八、〇三六円」と記載されていた、というのである。
右の記載によれば、本件更正は、被上告会社が確定申告において、昭和四八年六月取得した本件冷房機が租税特別措置法(昭和四九年法律第一七号による改正前のもの、以下同じ。)四五条の二第一項所定の「機械」にあたり、したがつてその減価償却費の計算については右の特別償却規定が適用されるとの見解の下に、その減価償却費を五四万一三五五円と算定してこれを損金に計上したのに対し、本件冷房機は法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の建物附属設備にすぎず、その減価償却費の計算につき右特別償却規定が適用される「機械」にはあたらないとして、被上告会社が損金に計上した右五四万一三五五円から法人税法三一条一項所定の普通償却の計算方法に基づき算定した減価償却費一七万三三一九円を差し引いた三六万八〇三六円について、その損金算入を否認したものであるということができる。
二 原判決は、前記更正理由の記載は、本件冷房機が普通償却の対象となる建物附属設備にすぎず、租税特別措置法四五条の二第一項所定の「機械」にあたらない旨を説明するにとどまり、右の記載のみでは、なにゆえ本件冷房機が右の「機械」と認められないのかについてその具体的根拠を知ることができず、したがつて、前記更正理由の記載は法の要求する更正理由の附記としては不備であるといわざるをえないから、本件更正及び過少由告加算税賦課決定は違法であるとして、これらの取消しを求める被上告会社の本件請求を認容した。
三 ところで、法人税法一三〇条二項が青色申告にかかる法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告にかかる所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、
したがつて、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正にかかる勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するが
(最高裁昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁、同昭和五〇年(行ツ)第八四号同五四年四月一九日第一小法廷判決・民集三三巻三号三七九頁等)、
帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、右の更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を前記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはないと解するのが相当である。
四 本件についてこれをみると、本件更正通知書記載の更正の理由には本件更正をした根拠についての資料の摘示がないことは否定できないところであるけれども、本件更正は、前記のような内容のものであつて、本件冷房機の存在、
その取得時期及び取得価額についての帳簿記載を覆すことなくそのまま肯定したうえで、
被上告会社の確定申告における本件冷房機の属性に関する評価を修正するものにすぎないから、右更正をもつて帳簿書類の記載自体を否認するものではないというべきであり、
したがつて、本件更正通知書記載の更正の理由が右のような更正をした根拠についての資料を摘示するものでないとしても、前記の理由附記制度の趣旨目的を充足するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはないというべきである。
そして、本件更正は、前記のとおり、被上告会社が確定申告において、本件冷房機が租税特別措置法四五条の二第一項所定の「機械」にあたり、したがつてその減価償却の計算については右の特別償却規定が適用されるとの見解の下にその減価償却費を五四万一三五五円と算定してこれを損金に計上したのに対し、右五四万一三五五円から法人税法三一条一項所定の普通償却の計算方法に基づき算定した減価償却費一七万三三一九円を差し引いた三六万八〇三六円の損金算入を否認したものであり、その理由として、本件更正理由の記載は、本件冷房機が法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の「建物附属設備」である「冷房設備」にあたり、
したがつて、これが特別償却規定の適用のある「機械」にあたるとは認められないから、本件冷房機の減価償却費は前記普通償却の限度において算定されるべきであるとする趣旨を記載したものということができ、
これによれば、右更正理由の記載は、上告人がなにゆえ右三六万八〇三六円を償却超過額としてその損金算入を否認したかについて、その法律上及び事実上の根拠を具体的に示しているものということができる。
右更正理由の記載は、本件冷房機がなにゆえ特別償却の対象とされる「機械」にあたらないとするのかについて、これが法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の「建物附属設備」にあたるとするにとどまり、上告人の判断の基礎となつた具体的事実関係を明示してはいないが、
冷房機は、もともと建物内部を冷房して空気温度を調整するという機能を果たす目的で製作されるものであるから、その機能が特殊の用途に用いられているため特別償却の対象とされる「機械」にあたることを肯定しうる例外的な場合でない限り、普通償却の対象とされる法人税法二条二四号、同法施行令一三条一号所定の「建物附属設備」としての「冷房設備」又は同条七号所定の「器具及び備品」にあたるというべきであり、
右の理由の記載もこのことを前提としたうえで、本件冷房機が、その構造、機能及び設置使用状況からみて、右の「冷房設備」にあたることを認めた趣旨を記載したものと解することができる。
そうであるとすれば、右更正理由の記載は、本件更正における上告人の判断過程を省略することなしに記載したものということができ、
上告人としては、前記のような内容の理由を記載することによつて、本件更正における自己の判断過程を逐一検証することができるのであるから、
その判断の慎重、合理性を確保するという点について欠けるところはなく、右の程度の記載でも処分庁の恣意抑制という理由附記制度の趣旨目的を損うことはないというべきである。
また、本件更正理由の記載を右のような趣旨のものと解することが可能であるならば、本件更正の理由は、理由附記制度のもうひとつの目的である
「不服申立ての便宜」という面からの要請に対しても、必要な材料を提供するものということができるのであつて、
前記の内容を有する本件更正理由の記載は法人税法一三〇条二項の要求する更正理由の附記として欠けるところはないものというべきである。
してみれば、右の理由を記載した本件更正通知書は、法人税法一三〇条二項の定める理由附記の要件を欠くものであるとして、右違法があることを理由に、被上告会社の本件更正及び過少申告加算税賦課決定の取消請求を認容した原判決には、法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわざるをえず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は右の趣旨をいう点において理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、前記更正及び過少申告加算税賦課決定の当否につきさらに審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 伊藤正己
裁判官 木戸口久治
裁判官 安岡滿彦
裁判官 長島 敦