管理組合に対する管理費は課税仕入れか

 

 

消費税更正処分取消等請求事件

 

 

【事件番号】 大阪地方裁判所判決

 

【判決日付】 平成24年9月26日

 

【掲載誌】  税務訴訟資料262号順号12048

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

事実及び理由

 

 

 

第1 請求

 1 北税務署長が平成20年5月28日付けでした原告の平成16年4月1日から平成17年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)のうち、消費税額9557万7000円及び地方消費税額2389万4200円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

 2 北税務署長が平成20年5月28日付けでした原告の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)のうち、消費税額9483万6600円及び地方消費税額2370万9100円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

 3 北税務署長が平成20年5月28日付けでした原告の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)のうち、消費税額9641万3200円及び地方消費税額2410万3300円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

第2 事案の概要

 1 事案の骨子

   本件は、区分所有建物の賃貸事業を行っていた原告が、平成16年から平成18年にわたる各課税期間(これらの課税期間を総称して「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、北税務署長から、平成20年5月28日付けでそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、併せて「更正処分等」という。)を受けたことから、区分所有権を有するビルの管理組合への管理費の支払は課税控除の対象となる仕入れに当たること等を理由として、北税務署長の異議決定、国税不服審判所長の裁決を経て一部取り消された後の上記各更正処分等の各取消しを求めている事案である。

 2 関係法令等の定め

  略

 3 前提となる事実(当事者間に争いのない事実には認定根拠を付さない。また、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)

  (1) 当事者

    原告は、ビルの管理運営、駐車場の経営及び区分所有建物の賃貸事業等を行う株式会社である。

  (2) 本件各ビルについて

   ア 原告は、Bビル(以下「Bビル」という。)の専有部分のうち地下駐車場、8階事務室及び5階16号室を、Cビル(以下「Cビル」という。)の専有部分のうち2階事務室及び地下駐車場を、D(以下「D」といい、Bビル及びCビルと併せて「本件各ビル」という。)の専有部分のうち事務室を、それぞれ区分所有している。

   イ 本件各ビルは区分所有建物であり、本件各ビルの区分所有者は、建物の区分所有に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条に基づき、本件各ビルの建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うため、それぞれ、区分所有者全員で団体(以下「本件各管理組合」という。)を構成している。本件各管理組合は、いずれも集会を開き、規約を定め、管理者を置いており、人格のない社団に該当する。

   ウ 本件各ビルには、それぞれ管理規約(以下、それぞれ「Bビル管理規約」、「Cビル管理規約」、「D管理規約」といい、併せて「本件各管理規約」という。)が定められている。

   エ 原告は、本件各ビルの専有部分のうちBビルの5階16号室及びCビルの2階事務室を構成する2階19-1-1から3までの各部屋(以下、併せて「Cビルの2階19号室」といい、Bビルの5階16号室と併せて「本件各賃貸物件」という。)を、以下の(ア)から(エ)までのとおり、各賃借人(以下「本件各賃借人」という。)に貸し付けている。

    (ア) 原告は、平成13年10月31日付けで、株式会社Eとの間で賃貸借契約を締結し、本件各課税期間を通して、Bビルの5階16号室を同社に貸し付けている。同社は、同賃貸借契約において、賃料のほか、同室に係る管理費、電気料金などの諸経費を負担することとされている。

    (イ) 原告は、平成16年6月1日付けで、株式会社Fとの間で賃貸借契約を締結し、平成16年6月1日から同年8月31日までの間、Cビルの2階19-1-1を同社に貸し付けた。同社は、同賃貸借契約において、賃料のほか、同室に係る管理費、電気料金などの諸経費を負担することとされていた。

      また、原告は、平成16年9月1日付けで、乙(平成17年3月22日付け変更契約書によりGに変更)との間で賃貸借契約を締結し、平成16年9月から平成19年3月までの間、同人に同室を貸し付けている。同人は、同賃貸借契約において、賃料のほか、同室に係る管理費、電気料金などの諸経費を負担することとされている。

    (ウ) 原告は、平成16年12月1日付けで、有限会社Hとの間で賃貸借契約を締結し、平成17年1月10日から平成18年4月30日までの間、Cビルの2階19-1-2を同社に貸し付けた。同社は、同賃貸借契約において、賃料のほか、同室に係る管理費、電気料金などの諸経費を負担することとされていた。

      また、原告は、平成18年3月31日付けで、株式会社Iとの間で賃貸借契約を締結し、平成18年5月1日から平成19年3月末日までの間、同室を同社に貸し付けている。同社は、同賃貸借契約において、賃料のほか、同室に係る管理費、電気料金などの諸経費を負担することとされている。

    (エ) 原告は、平成15年6月1日付けで、株式会社Jとの間で賃貸借契約を締結し、本件各課税期間を通して、Cビルの2階19-1-3を同社に貸し付けている。同社は、同賃貸借契約において、賃料のほか、同室に係る管理費、電気料金などの諸経費を負担することとされている。

   オ(ア) 原告は、本件各課税期間に、本件各管理組合に対し、別表1記載のとおり、本件各ビルについての管理費を支払った(以下「本件各管理費」という。)。

    (イ) 本件各課税期間における本件各賃貸物件の管理費(以下「本件各賃貸物件管理費」という。)は、別表2「管理費の金額(①及び④)」記載のとおりであり、そのうち原告が支払ったのは「原告の支払金額(②及び⑤)」記載のとおりであり、その余は本件各賃借人が支払った(乙17、18)。

  (3) 本件訴訟に至るまでの経過

   ア 原告の確定申告

     原告は、本件各課税期間の消費税等について、各確定申告書に別表4の各「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ、平成17年5月16日、平成18年5月30日及び平成19年5月30日に、北税務署長に提出した。その際、原告は、本件各管理費の額を控除対象仕入税額に計上し、他方、本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額を原告の課税売上額に計上しなかった。

   イ 北税務署長の更正処分

     北税務署長は、平成20年5月28日、原告の上記の確定申告に基づき、本件各課税期間について、別表4の各「更正処分等」欄のとおりの各更正処分等をした(甲4から6まで)。

   ウ 異議申立て

     原告は、上記各更正処分等について、平成20年7月24日、異議の申立てをしたところ、北税務署長は、平成21年6月29日付けで別表4の各「異議決定」欄のとおり、北税務署長の本件各課税期間における各更正処分等について、それぞれその一部を取り消し、その余を棄却する旨の異議決定をした。

   エ 審査請求

     原告は、本件各課税期間についての異議決定を経た後の各更正処分等について、平成21年7月24日に国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成22年6月24日付けをもって、別表4の各「裁決」欄のとおり、北税務署長の各更正処分等(上記異議決定において一部取り消された後のもの)の一部をそれぞれ取り消し、その余を棄却する旨の裁決をした(甲7)。

     なお、本件訴訟において被告が主張する原告の本件各課税期間の消費税等に係る課税標準額及び納付すべき税額等は別紙「消費税等各更正処分等の根拠及び適法性について」のとおりである。

   オ 本件訴訟の提起(顕著な事実)

     原告は、平成22年12月24日、本件訴訟を提起した。

 

 

 

 

第3 争点

  本件の争点は、本件各管理費が課税仕入れに係る支払の対価に当たるか否か(争点1)、本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額が、原告の事業として対価を得て行われる資産の貸付けの対価に該当するか否か(争点2)の2点である。

 

第4 争点に関する当事者の主張

 1 争点1(本件各管理費が課税仕入れに係る支払の対価に当たるか否か)について

  (被告の主張)

  (1)ア 我が国の消費税は、消費者が物品やサービスの提供を受けるまでの間に行われる複数の各取引段階で課税する多段階課税制度を採用していることから、税負担の累積が生じないよう、各取引段階において移転、付与される付加価値を課税標準とし、前段階の取引に係る消費税額を控除する仕入税額控除を採用している。

     したがって、仕入税額控除が認められるには、そもそも課税対象となる「取引」、すなわち、経済的に独立性を有する複数の主体の間で行われる取引であることを要する。

   イ 管理組合の行為は、その目的や性質上、個々の区分所有者の区分所有権の行使そのものであるといえ、管理費や修繕積立金の支払に関して、管理組合が個々の区分所有者と経済的利益が対立する関係にはなく、区分所有者に対して役務の提供を行い、これに対して対価を収受するといった取引関係をそもそも観念することはできない。その意味において、管理組合とその構成員である区分所有者は、区分所有法上、経済的に同一の立場にあるといえる。

     したがって、区分所有者が管理組合に対して管理費を支払うことは、経済的に同一である区分所有者と管理組合との間の内部的な金銭の移動にすぎないといえる。

   ウ また、管理組合が区分所有建物の維持管理業務を第三者(管理運営会社)に委託する管理形態(いわゆる一括委託形式)を念頭に置くと、管理組合と管理受託会社との間においては、委託費用の支払と維持管理等の役務の提供の間に対価関係が生ずるけれども、管理組合は区分所有者全員のためにその役務の提供を受け、その費用を支払う関係にあるのであって、そもそも管理組合から各区分所有者に対して具体的な役務が提供されたという関係を観念することができず、各区分所有者は、管理組合との間で「他の者」から役務の提供を受けたと認められる関係にないのである。

   エ また、権利能力なき社団である本件各管理組合の財産及び債権債務は、原告ら区分所有者全員に総有的に帰属し、原告ら区分所有者が本件各管理組合に支払った管理費は、原告を含む区分所有者全員に総有的に帰属しているというべきであり、本件各管理費の支払は、これを法的にみれば経済的に同一である区分所有者と管理組合との間の内部的な金銭の移動(内部関係)にすぎないといえるから、原告が本件各管理組合に対して本件各管理費を支払うことは、かかる観点からも経済的に独立性を有する複数の主体の間で行われる取引には該当しない。

   オ したがって、区分所有者から管理組合に対する管理費の支払は、経済的に独立性を有する複数の主体の間で行われる取引に係る対価の支払とはいえず、消費税法30条1項にいう「課税仕入れに係る支払対価」に該当しない。

  (2)ア 消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる」の意義について、同法基本通達5-1-2は、「資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して反対給付を受けることをいう」としており、学説においても同様の解釈がとられている。そして、資産の譲渡等に対する反対給付であるか否かは、個別具体的な資産の譲渡等と特定の給付との間に対応関係が認められるか否かにより判断すべきであり、更に各取引段階において移転、付与される付加価値を課税標準とし、前段階の取引に係る消費税額を控除する仕入税額控除を採用しているから、ある金銭の支払に個別具体的な資産の譲渡等との間に対応関係が認められ(対価性が肯定され)、当該金銭が消費税等の課税対象ないし仕入税額控除の対象となるか否かは、当該支払自体の性質から判断されるべきであって、支払後の使途を考慮し、遡って当該支払の対価性の有無を決するのは誤りである。

   イ 仮に、本件各管理費について、原告と本件各管理組合との間に取引関係が観念できるとして、本件各管理費と第三者による個別具体的な役務の提供との対価関係を検討したとしても、特定可能な対価関係は認められない。

   ウ 一般に、区分所有者が支払う管理費には、純粋な管理業務に要する費用のほか、団体としての通常の業務運営に必要な各種費用を徴収する負担金を含むものと考えられる。

     本件各管理規約においても、管理費は、共用部分の管理作業費のほか、損害保険料や管理組合の運営費として徴収されるものであることが明記され(Bビル管理規約14条1項、22条、Cビル管理規約11条1項等)、徴収された金員は、本件各管理組合事務所の維持、集会の開催、収支管理、負担金の徴収、公租公課の支払、訴訟関係事務など、種々の運営費用に充てられることになっている(Cビル管理規約11条1項、D管理規約29条等)。

   エ そうすると、本件各管理費は、本件各管理組合が個別の業務について費用を徴求するものではなく、その団体としての業務全体に要する雑多な費用をあらかじめ構成員から徴収するものであり、特定の役務の提供と引換えに支払われる性質のものではない。

     以上のとおり、本件各管理費は、原告が、区分所有者としての地位に基づき、本件各管理組合を存立、維持するための事務に関する費用等を負担する趣旨で拠出したものであり、区分所有者の管理組合に対する本件各管理費の支払と、第三者が行う個別具体的な役務の提供等との間に対価関係を見出すことはできない。

   オ したがって、仮に、本件各管理費の支払について、原告と本件各管理組合との間に取引関係が観念できるとしても、本件各管理費の支払と第三者の個別具体的な役務の提供との間には対価性が認められず、本件各管理費の支払は、課税仕入れに係る支払対価に該当しない。

  (3) 原告は、権利能力なき社団型の管理組合と任意組合型の管理組合とで、支払われた管理費の取扱いが異なることや、ビル一棟の所有者が第三者に対して支払う建物の維持管理のために支払う費用については仕入税額控除を認めていながら、本件各管理費についてこれを認めないのは租税平等主義に反すると主張するが、自ら選択した法形式によって異なった取扱いがなされても不合理とはいえず、単独所有者が自ら管理の主体となって第三者に管理を委託できる場合と比べ消費税の取扱いについて一定の差異が生ずるからといって、直ちに不合理な差異となるものではないから、租税平等主義に反しない。

  (4) 明白な対価関係があるかどうかの判定が困難な負担金の取扱いについて定めた消費税法基本通達5-5-6は、一般の通常業務以外の特別の事業を実施することに伴って収受する負担金等について定めたものであり、管理組合の本来の業務である管理に係る本件各管理費の支払について、上記通達が適用される余地はない。また、そもそも、消費税法基本通達5-5-6は、「明確な対価関係があるかどうかの判定が困難な場合」を前提としたものであって、本件において、同通達が適用される余地はない。

  (原告の主張)

  (1)ア 本件各管理組合は、消費税法上、人格のない社団(消費税法2条1項7号)に該当し、法人とみなされ(消費税法3条)、事業者に該当する一方、原告も事業者に該当する。そうであれば、原告から本件各管理組合に対する本件各管理費の支払は、独立した事業者間の行為であるため、取引として認識すべきことは自明である。

   イ 消費税法上、「人格のない社団」とは、多数の者が一定の目的を達成するために結合した団体で、単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有して統一された意志の下にその構成員の個性を超越して活動を行うもので、代表者又は管理人の定めがあるものをいう(消費税法2条1項7号、消費税法基本通達1-2-1)とされているところ、本件各管理組合は、消費税法上、「人格のない社団」にあたることに争いはない。

     そして、本件各管理組合が「人格のない社団」として扱われているということは、本件各管理組合が区分所有者から独立した団体として活動を行っていると認められていることにほかならない。

     そうである以上、本件各管理組合と、区分所有者との関係が、内部関係であるはずがなく、被告の主張は失当である。

   ウ また、本件各管理組合が、消費税法上、「人格のない社団」に該当するものとして法人とみなされた以上、本件各管理組合は、消費税法を適用する上では独立した法人として取り扱われなければならない。そうであるにもかかわらず、被告は「本件各管理組合は、権利能力なき社団であって法人格を有しない団体である」ことを理由として、すなわち権利能力なき社団に対する解釈理論によって、原告の本件各管理組合に対する本件各管理費の支払は仕入税額控除の対象とならないとの結論を導いており、これは消費税法が本件各管理組合を法人とみなしたことと矛盾しているといわざるを得ない。

   エ 実質的にみても、本件各管理費の支払は、本件各管理組合と区分所有者との間において、債権債務関係として存在しており、本件各管理組合は、区分所有者に対し、本件各管理費の支払を求めて訴訟を提起することも可能であって、そのような本件各管理費の支払が内部関係に留まっているとはいえないことは明らかである。

  (2)ア 原告が本件各管理組合に対して本件各管理費を支払う行為は、独立した事業者間の取引において生じた支払債務の履行であり、当該取引の対象である管理業務に対応して支払う金員である。すなわち、原告ら区分所有者は、本件各ビルの共用部分の管理業務を本件各管理組合に委託しており、管理費はこれら委託の対価であることから、本件各管理費は、資産の譲渡等の対価に該当する。

     区分所有法の規定に照らしても、管理組合とは、区分所有者全員から、建物並びにその敷地及び附属施設の管理業務を委託された「管理を行うための団体」として規定されており(区分所有法3条)、その管理組合に対し、区分所有者は共用部分(原告ら区分所有者に帰属する事業用資産)の管理のための費用である管理費(区分所有法19条)の支払を行っているのであるから、管理費が、管理業務の対価であることは明白である。

   イ 区分所有者は、管理組合による、共用部分の管理・保全等に係る役務の提供を受けており、それによって、共用部分が適切に管理・保全され、区分所有者は各専有部分にて使用収益を実現することが可能となる。

     区分所有者が自身にて当該区分所有建物を使用していない場合であっても、自身の資産である区分所有建物の価値が保全され、いつでも各専有部分及び共用部分を使用できる状況におかれていることで、管理組合の行う管理業務によって利益を享受しているのである。

     また、実質的にみても、本件各管理費は、本件各管理組合が第三者に対して支払う管理のための費用に充てられており、本件各管理組合が管理業務を遂行するために使用されているのであるから、本件各管理費が、管理業務の対価であることは明白である。

     そして、各区分所有者が支払うべき管理費の決定方法にも、本件各管理費が、管理業務の対価であることが端的に表れている。すなわち、本件各ビルにおいては、専有部分の業種階、共用部分の利用度、設備容量、設備の運転時間等が考慮された上で、集会の決議によって、区分所有者ごとに異なる管理費単価が定められており、これに専有部分の床面積を乗じて管理費が算出されている(Bビル管理規約第14条、Cビル管理規約第11条)。このように、本件各管理費は、専有部分の業種階や共用部分の利用度等を考慮して、管理業務によって享受する利益の大きさ、共用部分の使用頻度に照らし、金額が決定されているのである。

     以上によれば、本件各管理費が、管理業務の対価であることは明白である。

   ウ 本件各管理費は、原告が本件各管理組合に対して支払う金員であるため、仕入税額控除の判断における対価性の有無は、あくまで本件各管理組合と原告との間の取引の性質によって判断されるべきものであって、本件各管理費の支払と第三者による個別具体的な役務の提供との間に特定可能な対応関係などそもそも不要である。

     また、本件各管理費の使途の一部に、本件各管理組合を存立・維持するための事務に関する費用や損害保険に要する費用等が含まれていたとしても、それによって本件各管理費と管理業務との間の対価性が否定されるものではない。

     すなわち、管理費とは、一般に管理に要する費用の全部を総称する費用科目として認識されるものであり、あくまで「管理費」そのものが、原告と本件各管理組合との関係においてどのような性質を有するかによって対価性が判断されることになる。

     そして、原告は、本件各管理組合に対し、本件各管理組合が行う管理業務全体の対価として本件各管理費を支払っているのであり、管理組合又は一棟のビルの所有者等が第三者に対して包括的に管理業務を委託する場合の対価と何ら異ならないのであるから、本件各管理費と本件各管理組合による管理業務という役務の提供との間に対価性が認められることは明らかである。

  (3)ア 区分所有建物においては、その性質上、第三者と建物所有者たる区分所有者との間には管理組合が介在しており、そのため、管理業務という役務の提供に係る取引が、第三者と管理組合との取引、管理組合と区分所有者との取引というように、複数の段階を経て行われているにすぎず、原告が本件各管理組合に対して支払う本件各管理費は、ビル一棟の所有者が第三者に対して支払う費用や、本件各管理組合が第三者に対して支払う費用と、その性質において、実質的には何ら異なるところがない。

     このように実質的には同じ性質の金員の支払であるにもかかわらず、ビル一棟の所有者が第三者に対して支払う建物の維持管理のために支払う費用については仕入税額控除を認め、原告が本件各管理組合に対して支払う本件各管理費について仕入税額控除を認めないことは、租税平等主義に反するといわざるをえない。

   イ また、被告は、同じ区分所有者間においても、民法上の組合である管理組合の場合には、その構成員たる区分所有者が支払う管理費について仕入税額控除を認め、一方、権利能力なき社団である管理組合又は管理組合法人の場合には、区分所有者が支払う管理費について仕入税額控除を認めないとしている。

     しかし、区分所有者は、管理組合の類型にかかわらず、いずれも区分所有法19条に基づいて建物の維持管理に必要な費用、すなわち管理費を支払っているのであって、いずれの場合も管理費自体の性質は同一である。また、管理組合が管理業務を遂行するにあたって第三者に対して支払う消費税は、原告ら区分所有者が負担する管理費収入によって賄われていることから、実質的には税の転嫁がなされた場合と同様の結果が生じており、区分所有者の負担となっているのである。

     このため、仕入税額控除を認められない区分所有者は、仕入税額控除が認められる区分所有者と比較して、重い負担が課されていることになり、これは租税平等主義に反するものである。

  (4) 仮に、課税取引と不課税取引が混在することによって個々の費用との対応関係が明確でないことを理由に不課税と主張するのであれば、消費税法基本通達5-5-6に規定する「明白な対価関係があるかどうかの判定が困難な負担金」の取扱いが適用されるべきである。

    すなわち、消費税法基本通達5-5-6は、同業者団体等の行う当該事業との対価性の判定が困難な負担金について、資産の譲渡等の対価にあたるか否かを判断する際には、団体が資産の譲渡等に該当しないものとし、かつ、その負担金を支払う事業者がその支払を課税仕入れに該当しないこととしている場合には、対価関係のない不課税取引として取り扱うとしているところ、本件においては、原告が、本件各管理費の支払を課税仕入れとして処理したことにより双方の処理が不整合となったものであるから、当該通達によって不課税取引として取り扱うことが否定されるにとどまり、原告の課税仕入れとした処理が否定される理由はない。なお、上記通達は、同業者団体等が特定の事業を実施する場合の取扱いを定めたものであり、「特別の事業」を実施する場合の取扱いを定めたものでないため、本件各管理費の対価性の判断において、同通達が適用されることは明らかである。

    よって、消費税基本通達5-5-6からも、本件各管理費が課税仕入れの対価に該当する。

 2 争点2(本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額が、原告の事業として対価を得て行われる資産の貸付けの対価に該当するか否か)について

  (被告の主張)

  (1) 区分所有建物における管理費は、区分所有法上、区分所有者が負担することとされ、区分所有者が区分所有者たる地位に基づき当然に負担すべき費用である。これを受けて、本件各管理規約においても、本件各管理費については、区分所有者が負担すべき旨定められている。

    そうすると、本件各賃借人が原告と連帯して本件各賃貸物件管理費を負担する旨約したとしても、本件各賃貸物件管理費は、区分所有者である原告が負担すべきものであることに変わりはない。

  (2) 本件各賃貸借契約に基づき、原告は、本件各賃借人に対し、本件各賃貸物件(資産)を貸し付ける義務を負い、他方、本件各賃借人は、本件各賃貸物件の貸付けに対する反対給付として、賃料及び費用を支払う義務を負う。本件各賃借人が、本件各賃貸物件を賃借するためには、本件各賃貸借契約に定める賃料に加えて、本件各賃貸物件管理費を支払わなければならないのであり、本件各賃貸物件の貸付けに対する反対給付には、本件各賃貸物件管理費の支払も含まれている。

  (3) そうすると、本件各賃貸物件管理費は、賃貸人が賃料を算定するに当たって、加味するであろう固定資産税、管理費、償却費、利息、人件費、利益等の一部分である管理費相当額部分を、本来の賃料から分割して請求しているにすぎず、本件各賃貸契約に基づく賃料の一部を構成するものとして評価されるべきものである。つまり、本件各賃貸物件管理費は、本件各賃借人に対し、事実上、賃料の支払先を分割して契約しているにすぎないものである。

  (4) したがって、本件各賃貸物件管理費のうち、本件各賃借人が支払った管理費相当額は、原告の収入(賃料)であり、原告の支出(管理費)として認識(会計処理)すべきものであるから、本件各賃貸物件管理費のうち、本件各賃借人が支払った管理費相当額は、原告の課税資産の譲渡等の対価に該当する。

  (原告の主張)

  (1) 本件各賃借人が支払う本件各賃貸物件管理費は、本件各管理組合が提供する管理業務の対価であって、本件各賃貸物件の貸付けの対価ではない。

    原告と賃借人との本件各賃貸物件に係る賃貸借契約においては、賃借人は「賃料のほか、次に定める諸費用を負担するものとする」と定められ、負担する諸費用として、管理費、電気料金が掲げられているのであって、賃料が貸付けの対価であり、管理費はその他の費用、すなわち管理業務に対する費用であることが明白である。

    また、一般に多くの賃貸借契約においても、賃料と管理費とを明確に区別して規定しており、これは、賃料が建物の貸付けの対価、管理費が管理業務の対価であると認識されていることの証左である。

    よって、本件各賃借人が本件各管理組合に対して支払った管理費は、本件各賃貸物件の貸付けの対価には当たらない。

  (2) 本件においては、本件各賃借人が本件各賃貸物件管理費をビル管理者に対して直接支払う旨の内容にて合意書が締結されており、本件各管理組合との関係において、第一次的な本件各賃貸物件管理費の支払義務は本件各賃借人が負っている。

    そして、管理費の支払債務は区分所有者となった時点で直ちに発生するものではなく、支払うべき管理費が決定され、管理組合より請求を受けた時点においてはじめて確定した債務となるのであり、確定した債務となる以前においては、区分所有者が負っている管理費の支払義務は、単に区分所有者として果たすべき義務(責任)にすぎない。

    本件では、本件各賃借人に対し、直接管理費の請求がなされているのであり、いったん原告に本件各賃貸物件管理費の支払債務が発生し、これを本件各賃借人が支払うことによって原告の債務が免除されるというような関係にはなく、本件各管理組合と本件各賃借人の間における当該管理費に係る決済に関する三者間の合意に反して本件各賃借人が当該管理費の支払を怠らない限り、原告には、資産として管理すべき債務が発生しない。

    よって、本件各賃借人が本件各賃貸物件管理費を支払ったことにより、原告において資産として管理すべき債務が免除され、又は消滅するというものではないから、原告が経済的利益を享受していないことは明らかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5 当裁判所の判断

 

 1 認定事実

   後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

  (1) Bビル及びCビルでは管理者(Bビル管理規約23条1項(2)、Cビル管理規約18条1項(2))が、Dでは理事長(D管理規約40条1項、2項)が、それぞれ集会等の決議を実行している(甲1から3まで)。

  (2)ア Bビル管理規約14条1項は、「区分所有者は、第3条に定める物件の管理運営に要する次に掲げる費用(以下「管理費用」という。)を負担しなければならない。」とし、同条3項は、区分所有者は、管理費用を毎月20日までに管理者に支払う義務を負う旨定めている(甲1)。

   イ Cビル管理規約11条1項は、「区分所有者は、第17条により委託する敷地及び共用部分の管理に要する一切の費用(損害保険料を含む。)及び管理組合の運営に要する費用(以下「管理費用」という。)を負担する。」とし、同条3項は、区分所有者は、毎月20日までに管理費用を管理組合に支払う義務を負う旨定めている(甲2)。

   ウ D管理規約27条1項は、「区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理並びに管理組合及び部会の運営に要する経費に充てるため、専有部分の使用の有無にかかわらず次の費用を負担し、管理組合に納入しなければならない。」とし、同規約71条1項は、管理組合は、区分所有者である組合員が各自開設する預金口座から自動振替の方法により前月の末日までに一括して徴収する旨定めている(甲3)

  (3)ア Bビルの管理費用は、①管理者の業務(Bビル管理規約22条1項)に関する費用、②共用部分において使用される電気、ガス、水道、下水道等使用料金(専有部分に係る空調・換気に関する費用を含む)及び③建物、付属設備の損害保険料(ビル竣工時の建物価格に応じた保険料)(同規約14条1項(1)から(3)まで)であるところ、各区分所有者の負担する管理費用は、管理費単価(各区分所有者の専有部分の業種階、共用部分の利用度、設備容量、設備の運転時間等を考慮して集会の決議により決定される(同条2項)。)に、専有部分の床面積を乗じて算出した金額である旨定められている(同条3項)。

   イ Cビルの管理費用は、①管理者の業務(Cビル管理規約17条2項)に関する費用及び②管理組合の運営に要する費用(同規約11条1項)であるところ、各区分所有者の負担する管理費用は、専有部分の業種階、用途、共用部分の利用度、営業時間、設備容量、登記床面積を考慮して、集会の決議により決定される旨定められている(同条2項)。

   ウ Dの管理費用は、①管理要員人件費、②共用設備及び附属施設の保守点検費及び運転管理費、③経常的な補修費、④光熱水費及び燃料費、⑤清掃、消毒及び塵芥処理費、⑥管理事務費、⑦火災保険料その他損害保険料、⑧管理組合の運営費、⑨委託業務費並びに⑩その他管理組合が通常の管理に要する一切の費用に充当するところ(D管理規約29条)、各区分所有者の負担する管理費用は、管理費単価に専有部分の床面積を乗じた金額である旨定められている(同規約27条2項)。管理費単価は、各区分所有者の専有部分の用途別に、全体総会の決議により決定される(同条3項)。

  (4) 原告と本件各賃借人は、Bビル及びCビルの管理者に対し、本件各賃貸借契約において、本件各賃借人が賃料のほかに負担する本件各賃貸物件管理費、電気料金などの諸経費について、本件各賃借人が、原告と連帯してこれを負担し、Bビル及びCビルの管理者に対する支払は、本件各賃借人が行い、仮に、本件各賃借人が、支払を怠った場合は、原告が支払う旨約定し、その旨の約定書をBビル及びCビルの管理者である原告に提出した(甲9、10)。

 

 

 2 争点1(本件各管理費が課税仕入れに係る支払の対価に当たるか否か)について

 

  (1)ア 本件各管理費が課税仕入れに係る対価であるというためには、本件各管理費が、本件各管理組合からの役務の提供に対する反対給付として支払われたものであることが必要である。

 

   イ そこで検討するに、本件各管理費は、本件各管理組合が行う本件各ビルの共用部分の管理等に要する費用であるところ、

 

原告の負担額は、本件各ビルの共用部分の使用収益の態様や管理業務による利益の享受の程度と直接関係なく、団体内部において定めた分担割合に従い定まるのである。

 

そして、原告は、本件各管理組合に対して共用部分の管理を現実に委託したか否かに関係なく、また本件各管理組合が行った具体的な管理行為の内容如何にかかわらず、本件各管理費の支払義務を負うものであり、本件各管理組合の管理行為と引換えに本件各管理費を支払っているものでもない。

 

     そうすると、原告は、本件各管理組合に対して本件各ビルの管理業務を委託したことを根拠に本件各管理費を支払っているのではなく、本件各管理組合の構成員の義務として、本件各管理費を支払っているものというべきである。

 

   ウ したがって、本件各管理費は、管理組合が行う管理業務と対応関係にある金員であるとはいえず、役務の提供に対する対価であるとは認められない。

 

 

  (2)ア これに対し、原告は、本件各管理組合は人格のない社団であり、管理費の支払は単なる内部関係に留まるものではなく、独立した事業者間において管理業務を委託した対価として支払われるものである旨主張する。しかしながら、本件各管理組合が人格のない社団であるからといって、これに対する管理費の支払が課税の対象となるものではなく、また、管理費単価が専有部分の業種階等を考慮して決められていることから、管理費が管理業務の対価と認められるものでもない。上記のとおり、管理費の支払は管理組合と構成員間の内部的な費用分担取引であって、管理業務委託の対価ということはできない。

 

   イ また、原告は、区分所有建物においては、その性質上、第三者と建物所有者たる区分所有者との間には管理組合が介在しており、そのため、管理業務という役務の提供に係る取引が、第三者と管理組合との取引、管理組合と区分所有者との取引というように、複数の段階を経て行われているにすぎず、原告が本件各管理組合に対して支払う本件各管理費は、ビル一棟の所有者が第三者に対して支払う費用や、本件各管理組合が第三者に対して支払う費用と、その性質において、実質的には何ら異なるところがないと主張する。

 

     しかしながら、資産の譲渡等に対する反対給付であるか否かは、個別具体的な資産の譲渡等と特定の給付との間に対応関係が認められるか否かを、当該支払自体の性質から判断すべきである。

 

     本件において、第三者と区分所有者との間に独立した納税義務の主体である管理組合が介在している以上、管理組合の第三者への支払を考慮して、ビル一棟の所有者が第三者に対して支払う費用と実質的に同一であると評価することはできない。

 

   ウ さらに、原告は、区分所有建物の管理組合が民法上の組合であった場合と比較して区分所有者の負担が重いことを理由に、租税平等主義に違反すると主張する。

 

     しかし、各区分所有者が管理組合に対して支払う管理費自体は、管理組合が民法上の組合であっても仕入税額控除の対象とならないのであり、その取扱いに差異はない。

 

もっとも、管理組合が民法上の組合である場合、当該組合が第三者から役務の提供を受け、これに対する対価を支払った時点で、個別の区分所有者が利益の分配割合等に対応する部分について課税仕入れに係る対価を支払ったものと扱われることとなるが、これは民法上の組合が独立して納税義務の主体となることができないためである。

 

他方、管理組合が人格のない社団である場合、当該組合が第三者から役務の提供を受け、これに対する対価を支払った時点で、当該組合自身について課税仕入れに係る対価を支払ったものと扱われることとなるが、かかる差異は、独立して納税義務の主体となり得るか否かに基づくものであって、何ら不合理な区別ではない。

 

   エ 原告は、本件に消費税法基本通達5-5-6が適用されるべきであり、本件においては、原告が、本件各管理費の支払を課税仕入れとして処理したことにより双方の処理が不整合となったものであるから、当該通達によって不課税取引として取り扱うことが否定されるにとどまり、原告の課税仕入れとした処理が否定される理由はないとも主張する。

 

     しかし、同通達は、「特定の事業を実施する者が当該事業への参加者又は当該事業に係る受益者から受ける負担金、賦課金等については、当該事業の実施に伴う役務の提供との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定するのであるが、

 

例えば、その判定が困難な(中略)負担金について(以下略)」とあり、対価関係の判断が困難な場合について定めたものであって、

 

上記のとおり、本件においては、管理費の支払について明白な対価関係があるとは認められないのであるから、そもそも同通達が適用される場面ではないというべきである。

 

 

  (3) 以上によれば、争点1に関する原告の主張は、採用することができず、本件各管理費は課税仕入れに係る支払の対価には当たらない。

 

 

 

 3 争点2(本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額が、原告の事業として対価を得て行われる資産の貸付けの対価に該当するか否か)について

 

 

  (1) 上記認定事実のとおり、本件各賃貸物件管理費は、本件各管理規約上、いずれも区分所有者が負担すべきものとされている。

 

    この点、原告及び本件各賃借人は、管理者に対し、本件各賃借人が直接管理費を支払う旨の合意書を管理者に差し入れているけれども、

 

本件各管理規約上は原告が管理費の支払義務を負い、本件各賃貸物件の賃貸借契約上の合意に基づき本件各賃借人が管理費の支払義務を負うことに変わりはないから、

 

本件各賃借人が直接管理費を支払う旨の合意は、管理費部分について、本件各賃借人から原告への支払及び原告から本件各管理組合への支払を省略して本件各賃借人から本件各管理組合に直接支払うものにすぎないというべきである。

 

    そうすると、上記合意に基づき本件各賃借人が管理組合に対して管理費を支払っていることは、

 

原告が負担すべき管理費を、賃貸借契約に基づき賃料に上乗せして本件各賃借人の負担としていることと何ら変わりはないから、

 

本件各賃借人が管理費を直接支払うことにより、原告は、管理費の支払義務を免れるという利益を得ているのであって、本件各賃貸物件管理費は、貸付けの対価に該当するものというべきである。

 

 

  (2)ア これに対し、原告は、管理費は管理業務に対する費用であり、貸付けの対価ではないと主張するけれども、上記のとおり、原告が管理組合に対して支払うべき費用を本件各賃借人の負担としているものであって、本件各賃借人が管理組合から受ける役務の対価を支払っているものではないから、貸付けの対価に当たるものというべきである。

 

   イ また、原告は、管理費の支払債務は区分所有者となった時点で直ちに発生するものではなく、支払うべき管理費が決定され、管理組合より請求を受けた時点においてはじめて確定した債務となるところ、本件では、本件各賃貸借人に対し、直接管理費の請求がなされているのであり、いったん原告に本件各管理費の支払債務が発生し、これを本件各賃借人が支払うことによって原告の債務が免除されるというような関係にはないとも主張する。

 

     しかし、管理費は、管理組合から原告に対する請求があって初めて発生するものではなく、支払うべき管理費の額が決定された時点で、原告の具体的な債務として発生するものと認めるのが相当である。また、原告と本件各賃借人との間の合意内容を見ても、原告と本件各賃借人とが管理費を連帯して負担するものとされているのであって、本件各賃借人が支払を怠るまで原告に債務が発生しないものとは到底解されない。

 

  (3) したがって、争点2に関する原告の主張は、採用することができず、本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額は、原告の事業として対価を得て行われる資産の貸付けの対価に該当する。

 

 4 本件各課税期間に係る更正処分等の適法性について

 

   以上によれば、本件各管理費は、原告の課税仕入れに係る支払対価には該当しないから、原告の仕入税額控除の対象にはならない。また、本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額は、原告による課税資産の譲渡等の対価であり、原告の消費税等の課税標準額に含められるべきものである。

 

   そして、上記によれば、本件各課税期間に係る原告の納付すべき消費税等の額は、別紙記載のとおりであり、これは本件各課税期間に係る更正処分等(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)における原告の納付すべき消費税等の額と同額であるから、上記各更正処分等(平成21年6月29日付け異議決定及び平成22年6月24日付け国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)はいずれも適法である。

 

第6 結論

  よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

    大阪地方裁判所第2民事部

        裁判長裁判官  山田 明

           裁判官  吉野内謙志

           裁判官  栢分宏和

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (別紙)

       消費税等各更正処分等の根拠及び適法性について

 1 消費税等の額の計算根拠

   本件訴訟において、被告が主張する本件各課税期間に係る消費税等の金額は、別表3のとおりであり、その計算根拠は以下のとおりである。

  (1) 消費税

   ア 課税標準額(別表3の③「課税標準額(①+②)(千円未満切捨て)」欄)

     平成17年3月課税期間 40億3228万9000円

     平成18年3月課税期間 39億4603万5000円

     平成19年3月課税期間 38億4204万7000円

     上記金額は、原告が平成17年5月16日付けで北税務署長に提出した平成17年3月課税期間に係る消費税等の確定申告書(以下「平成17年3月課税期間消費税等確定申告書」という。)、原告が平成18年5月30日付けで同税務署長に提出した平成18年3月課税期間に係る消費税等の確定申告書(以下「平成18年3月課税期間消費税等確定申告書」という。)及び原告が平成19年5月30日付けで同税務署長に提出した平成19年3月課税期間に係る消費税等の確定申告書(以下「平成19年3月課税期間消費税等確定申告書」といい、平成17年3月課税期間消費税等確定申告書及び平成18年3月課税期間消費税等確定申告書と併せて、「本件各課税期間消費税等確定申告書」という。)の各「課税資産の譲渡等の対価の額」欄(税抜き)に記載された金額(別表3の①「課税資産の譲渡等の対価の額(確定申告時・税抜き)」欄)に、別表2「本件各賃貸物件管理費(税込み)」の各課税期間の「計」欄記載の金額に105分の100を乗じた額(別表3の②「経済的利益の額(税抜き)」欄)をそれぞれ加算し、国税通則法118条1項により1000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。

   イ 課税標準に対する消費税額(別表3の④「課税標準に対する消費税額(③×4/100)」欄)

     平成17年3月課税期間 1億6129万1560円

     平成18年3月課税期間 1億5784万1400円

     平成19年3月課税期間 1億5368万1880円

     当該金額は、前記アの課税標準額に消費税法29条に規定する税率100分の4を乗じて算出した金額である。

   ウ 控除対象仕入税額(別表3の⑧「控除対象仕入税額(⑩×4/105)」欄)

     平成17年3月課税期間 5720万1103円

     平成18年3月課税期間 5486万8075円

     平成19年3月課税期間 4931万3434円

     当該金額は、本件各課税期間消費税等確定申告書の各「課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)」欄に記載された金額(別表3の⑤「課税仕入れに係る支払対価の額(確定申告時・税込み)」欄)から、別表1「本件各管理費(税込み)」の各課税期間の「計」欄に記載の金額(別表3の⑥「本件各管理費」欄)を差し引いて算出した金額(別表3の⑦「差引課税仕入れに係る支払対価の額(⑤-⑥)」欄)に105分の4を乗じて算出した金額である。

   エ 納付すべき消費税額(別表3の⑨「納付すべき消費税額(④-⑧)(100円未満切捨て)欄)

     平成17年3月課税期間 1億0409万0400円

     平成18年3月課税期間 1億0297万3300円

     平成19年3月課税期間 1億0436万8400円

     当該金額は、上記イの課税標準に対する消費税額から上記ウの控除対象仕入税額を差し引き、国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた金額である。

  (2) 地方消費税

   ア 地方消費税の課税標準となる消費税額(別表3の⑨「納付すべき消費税額(④-⑧)(100円未満切捨て)」欄)

     平成17年3月課税期間 1億0409万0400円

     平成18年3月課税期間 1億0297万3300円

     平成19年3月課税期間 1億0436万8400円

     上記金額は、地方税法72条の82の規定に基づき、前記(1)エの金額と同額である。

   イ 納付すべき譲渡割額(別表3の⑩「納付すべき譲渡割額(地方消費税額)(⑨×0.25)(100円未満切捨て)」欄)

     平成17年3月課税期間 2602万2600円

     平成18年3月課税期間 2574万3300円

     平成19年3月課税期間 2609万2100円

     上記金額は、前記アの地方消費税の課税標準となる消費税額に、地方税法72条の83に規定する税率100分の25を乗じ、同法20条の4の2第3項の規定により100円未満の端数を切り捨てた金額である。

  (3) 消費税等の合計税額(別表3の⑪「消費税等の合計税額(⑨+⑩)」欄)

    平成17年3月課税期間 1億3011万3000円

    平成18年3月課税期間 1億2871万6600円

    平成19年3月課税期間 1億3046万0500円

    上記金額は、原告の本件各課税期間に係る前記(1)エの納付すべき消費税額と前記(2)イの納付すべき譲渡割額の合計額である。

  (4) 本件各管理費の金額

    別表1「本件各管理費(税込み)」の内容は、以下のとおりである。

   ア Bビル管理費

    (ア) Bビル管理費のうち地下駐車場に係るもの(別表1の①「地下駐車場」欄)

      原告が区分所有するBビルの地下駐車場に係る管理費として、原告が負担すべき金員

      平成17年3月課税期間 4706万4444円

      平成18年3月課税期間 4235万7996円

      平成19年3月課税期間 3918万8340円

    (イ) Bビル管理費のうち8階事務室に係るもの(別表1の②「8階事務室」欄)

      原告が区分所有するBビルの8階事務室に係る管理費として、原告が負担すべき金員

      平成17年3月課税期間 359万3654円

      平成18年3月課税期間 323万3220円

      平成19年3月課税期間 299万0931円

   イ Cビル管理費

    (ア) Cビル管理費のうち2階事務室に係るもの(別表1の③「2階事務室」欄)

      原告が区分所有するCビルの2階事務室に係る管理費として、原告が負担すべき金員

      平成17年3月課税期間 151万5347円

      平成18年3月課税期間 22万9706円

      平成19年3月課税期間 11万4853円

    (イ) Cビル管理費のうち地下駐車場に係るもの(別表1の④「地下駐車場」欄)

      原告が区分所有するCビルの地下駐車場に係る管理費として、原告が負担すべき金員

      平成17年3月課税期間 4459万5924円

      平成18年3月課税期間 4123万1652円

      平成19年3月課税期間 4011万0228円

   ウ D管理費(別表1の⑤「事務室」欄)

     原告が区分所有するDの事務室に係る管理費として、原告が負担すべき金員

     平成17年3月課税期間 1億2161万2848円

     平成18年3月課税期間 1億2069万0948円

     平成19年3月課税期間 1億2069万0948円

  (5) 本件各賃貸物件管理費の金額

    別表2「本件各賃貸物件管理費(税込み)」の内容は、以下のとおりである。

   ア Bビルの5階16号室について

    (ア) 原告が区分所有するBビルの5階16号室に係る管理費として、原告が負担すべき金員(別表2の①「管理費の金額」欄)

      平成17年3月課税期間 156万9806円

      平成18年3月課税期間 141万2364円

      平成19年3月課税期間 130万6524円

    (イ) 原告が区分所有するBビルの5階16号室に係る管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額(別表2の③(①-②)「差引金額(経済的利益の額)」欄)

      平成17年3月課税期間 156万9806円

      平成18年3月課税期間 141万2364円

      平成19年3月課税期間 130万6524円

      上記金額は、原告が賃借人から受けた経済的利益として本件各賃貸物件に係る貸付けの対価(課税資産の譲渡等の対価)に該当する。

   イ Cビルの2階19号室について

    (ア) 原告が区分所有するCビルの2階19号室に係る管理費として、原告が負担すべき金員(別表2の④「管理費の金額」欄)

      平成17年3月課税期間 504万0792円

      平成18年3月課税期間 466万2261円

      平成19年3月課税期間 453万6084円

    (イ) 原告が区分所有するCビルの2階19号室に係る管理費のうち原告が支払った金額(別表2の⑤「原告の支払金額」欄)

      平成17年3月課税期間 151万5347円

      平成18年3月課税期間 22万9706円

      平成19年3月課税期間 11万4853円

    (ウ) 原告が区分所有するCビルの2階19号室に係る管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額(別表2の⑥(④-⑤)「差引金額(経済的利益の額)」欄)

      平成17年3月課税期間 352万5445円

      平成18年3月課税期間 443万2555円

      平成19年3月課税期間 442万1231円

      上記金額は、原告が賃借人から受けた経済的利益として本件各賃貸物件に係る貸付けの対価(課税資産の譲渡等の対価)に該当する。

 2 消費税等各更正処分の適法性

   本件訴訟において、被告が主張する本件各課税期間における消費税等の額は上記1のとおりであり、消費税等各更正処分の額(別表4の「裁決」欄のうち、「消費税及び地方消費税の合計額」の欄)と、いずれも同額であることから、上記消費税等各更正処分はいずれも適法である。

 3 消費税等各賦課決定処分の根拠

   期限内申告書が提出された場合において、更正がされ、当初の申告に係る税額より更正後の税額が上回ることとなったときには、その更正により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課することとされている(国税通則法65条1項)。したがって、原告に課されるべき過少申告加算税の額は、国税通則法65条1項の規定に基づき、以下のとおり計算した金額となる。

  (1) 平成17年3月期

    106万4000円

    上記金額は、国税通則法65条1項の規定に基づき、平成17年3月課税期間消費税等更正処分(異議決定及び裁決により一部取り消された後のもの)により原告が新たに納付すべきこととなった税額1064万円(ただし、国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて計算した金額である。

  (2) 平成18年3月期

    101万7000円

    上記金額は、国税通則法65条1項の規定に基づき、平成18年3月課税期間消費税等更正処分(異議決定及び裁決により一部取り消された後のもの)により原告が新たに納付すべきこととなった税額1017万円(ただし、国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて計算した金額である。

  (3) 平成19年3月期

    99万4000円

    上記金額は、国税通則法65条1項の規定に基づき、平成19年3月課税期間消費税等更正処分(異議決定及び裁決により一部取り消された後のもの)により原告が新たに納付すべきこととなった税額994万円(ただし、国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて計算した金額である。

 4 消費税等各賦課決定処分の適法性

   本件訴訟において、被告が主張する本件各課税期間消費税等に係る過少申告加算税の金額は、上記3のとおりであり、これらの金額は、消費税等各賦課決定処分における過少申告加算税の金額(別表4の「裁決」欄のうち、「過少申告加算税の額」欄)といずれも同額であるから、上記消費税等各賦課決定処分は適法である。

                                 以上