課税売上高の算定(3)

 

 

消費税決定処分等取消請求事件

 

 

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成12年(行ヒ)第126号

 

【判決日付】 平成17年2月1日

 

【判示事項】 事業者が消費税の課税期間に係る基準期間中の課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務を免除された場合における当該基準期間中の消費税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)9条1項所定の課税売上高の算定

 

 

【参照条文】 消費税法(平15法8号改正前)9-1

       消費税法(平6法109号改正前)9-2

       消費税法(平6法109号改正前)28-1

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集59巻2号245頁

 

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       

 

理   由

 

 

 

 上告代理人椛嶋裕之,同芳賀淳の上告受理申立て理由について

 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。以下「法」という。)により消費税を納める義務があるとされる法2条1項4号に規定する事業者である。

 (2) 上告人は,平成5年10月1日から同6年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について,本件課税期間に係る基準期間(同3年10月1日から同4年9月30日までの課税期間。以下「本件基準期間」という。)における課税売上高が3000万円以下であるとし,本件課税期間において法9条1項の規定により消費税を納める義務を免除される事業者(以下「免税事業者」という。)に該当するとして,申告をしなかった。

 (3) 本件基準期間における上告人の売上総額は実際には3052万9410円であったが,上告人は,本件基準期間において免税事業者に該当しており,課税売上高の算定上,納税義務を免除される消費税に相当する額が上記売上総額から控除されるべきであるとの見解を採っていた。この見解によれば,本件基準期間における上告人の課税売上高は計算上3000万円以下となるため,上告人は,本件課税期間においても免税事業者に該当すると判断し,本件課税期間の消費税について申告をしなかったものである。

 (4) 被上告人は,平成7年11月28日付けで,上告人が本件課税期間において免税事業者に該当しないとして,本件課税期間の上告人の消費税について納付すべき税額を41万円とする決定及び税額を6万1500円とする無申告加算税の賦課決定をした。その後,被上告人は,同8年3月29日付けで,納付すべき消費税額を39万9400円とする更正及び無申告加算税額を5万8500円とする変更決定をした(以下,上記のとおり一部取り消された後の本件課税期間の消費税の決定及び無申告加算税の賦課決定を「本件各決定」という。)。

 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各決定が違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

 

 3(1) 法9条1項は,課税期間に係る基準期間(事業者が法人の場合は,法2条1項14号により,その事業年度の前々事業年度をいう。)における課税売上高が3000万円以下である事業者について,その課税期間中の課税資産の譲渡等につき消費税を納める義務を免除するものと規定する。

 

 法9条1項に規定する「基準期間における課税売上高」とは,事業者が小規模事業者として消費税の納税義務を免除されるべきものに当たるかどうかを決定する基準であり,事業者の取引の規模を測定し,把握するためのものにほかならない。ところで,資産の譲渡等を課税の対象とする消費税の課税標準は,事業者が行う課税資産の譲渡等の対価の額であり(法28条1項),売上高と同様の概念であって,事業者が行う取引の規模を直接示すものである。そこで,法9条2項1号は,上記の課税売上高の意義について,消費税の課税標準を定める法28条1項の規定するところに基づいてこれを定義している。

 

 すなわち,法9条2項1号は,上記の課税売上高とは,基準期間が1年である法人の場合,基準期間中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額(法28条1項に規定する対価の額をいう。)の合計額から所定の金額を控除した残額をいうものと規定する。そして,同項は,「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は,課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まないものとする。)とする。」と規定する。

 

 法28条1項の趣旨は,課税資産の譲渡等の対価として収受された金銭等の額の中には,当該資産の譲渡等の相手方に転嫁された消費税に相当するものが含まれることから,課税標準を定めるに当たって上記のとおりこれを控除することが相当であるというものである。

 

したがって,消費税の納税義務を負わず,課税資産の譲渡等の相手方に対して自らに課される消費税に相当する額を転嫁すべき立場にない免税事業者については,消費税相当額を上記のとおり控除することは,法の予定しないところというべきである。

 

 以上の法9条及び28条の趣旨,目的に照らせば,

 

法9条2項に規定する「基準期間における課税売上高」を算定するに当たり,

 

課税資産の譲渡等の対価の額に含まないものとされる「課されるべき消費税に相当する額」とは,

 

基準期間に当たる課税期間について事業者に現実に課されることとなる消費税の額をいい,

 

事業者が同条1項に該当するとして納税義務を免除される消費税の額を含まないと解するのが相当である。

 

 (2) 前記事実関係によれば,上告人は,本件基準期間において,売上総額が3000万円を超えており,かつ,免税事業者に該当していたというのである。そうすると,上告人は,本件課税期間において,免税事業者に該当しないこととなるから,本件各決定が違法であるとはいえない。

 

 4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)