仮換地にかかる小規模宅地の特例計算(3)

 

 

相続税更正処分等取消請求事件

 

 

 

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成17年(行ヒ)第91号

 

【判決日付】 平成19年1月23日

 

【判示事項】 被相続人の居住の用に供されていたが土地区画整理事業における仮換地の指定に伴い相続開始の直前には更地となっていた土地につき租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のもの)69条の3所定の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用があるとされた事例

 

 

【掲載誌】  訟務月報54巻8号1628頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原判決中,別紙処分目録1及び2記載の各処分に係る請求に関する部分を破棄する。

 2 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

 3 上告人らのその余の上告を棄却する。

 4 前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。

 

       

 

理   由

 

 上告代理人丸山隆寛の上告受理申立て理由第1について

 

 1 本件は,上告人らが,相続財産中の土地について租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のもの。以下「措置法」という。)69条の3所定の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用があるものとして相続税の申告をしたところ,被上告人から,同特例の適用は認められないとして相続税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたので,その取消しを求める事案である。

 

 2 措置法69条の3第1項は,個人が相続により取得した財産のうちに,当該相続の開始の直前において,当該相続に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下同じ。)で大蔵省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもの(以下「居住用宅地等」という。)がある場合には,当該相続により財産を取得した者に係るすべてのこれらの宅地等の200平方メートルまでの部分のうち,当該個人が取得をした宅地等で政令で定めるもの(以下「小規模宅地等」という。)については,相続税法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は,当該小規模宅地等の価額に一定の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している(以下,これによる相続税の課税価格の計算の特例を「本件特例」という。)。

 

 そして,措置法69条の3第1項によれば,上記一定の割合は,当該居住用宅地等が「特定居住用宅地等」に該当する場合には100分の20であり(同項1号),これに該当しない場合には100分の50であるところ(同項2号),「特定居住用宅地等」とは,被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で,当該相続により当該宅地等を取得した個人のうちに,当該被相続人の配偶者又は一定の要件を満たす当該被相続人の親族がいる場合の当該宅地等をいうものと規定されている(同条2項2号)。

 

 3 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1)当事者及び土地の所有関係等

 ア 上告人らは,昭和51年7月12日,A,B夫婦と養子縁組をした夫婦であり,Bの共同相続人である。

 イ 昭和63年2月6日,Aが死亡し,Bは,相続により,第1審判決別紙物件目録1及び2記載の各土地(以下,順に「甲土地」,「乙土地」といい,併せて「本件土地」という。)並びに甲土地上の建物である上記目録3記載の建物(以下「甲建物」という。)を取得した。

 上告人X1(以下「上告人X1」という。)は,昭和57年4月14日,乙土地上に上記目録4記載の建物(以下「乙建物」という。)を新築した。

 ウ 平成9年3月ころ,Bは,Aの弟の妻で上告人X1の実母であるCと共に甲建物に居住し,上告人らは,乙建物に居住していた。

 (2)本件仮換地の指定等

 ア 本件土地は,福岡都市計画事業筥崎土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行地区内にあるところ,その施行者である福岡市は,Bに対し,土地区画整理法に基づき,平成9年3月18日付けで,① 本件土地の仮換地を福岡市a区bc丁目d街区の土地523平方メートル(以下「本件仮換地」という。)に指定すること,② 仮換地指定の効力発生の日である同月19日から本件土地を使用収益することができないこと,③ 別に定めて通知する日まで本件仮換地を使用収益することができないことなどを通知した。

 イ B及び上告人X1は,平成9年6月4日付けで,福岡市との間で,同年12月30日までに本件土地に存する物件のすべてを本件事業の支障にならないように移転又は除去することなどを内容とする物件移転等補償契約を締結した。

 ウ Bは,上記アの仮換地指定通知に伴い,平成9年11月7日付けで福岡市に対し仮設住宅等使用願を提出し,同月18日ころ,甲建物から仮設住宅にCと共に転居し,上告人らも同じころ乙建物から仮設住宅(Bの転居先の隣室)に転居した。

 エ 甲建物及び乙建物は,平成9年12月18日ころ,取り壊され,本件土地は更地となった。

 オ Bは,平成10年10月18日死亡し,本件土地は,上告人X1が相続した。

 カ 福岡市は,上告人X1に対し,土地区画整理法に基づき,平成12年3月27日付けで,本件仮換地について使用収益を開始することができる日を同年4月1日と定める旨通知した。

 キ 上告人らは,平成12年5月21日,建築請負業者との間で,本件仮換地上に第1審判決別紙物件目録5記載の建物(以下「本件ビル」という。)を新築するための工事請負契約を締結した。

 ク 本件ビルの新築工事は,平成12年6月5日に着工され,上告人らは,同13年3月20日,本件ビルの引渡しを受け,同月27日,本件ビルに入居した。

 (3)課税の経過等

 ア 上告人らは,法定申告期限内である平成11年8月11日,本件土地につき特定居住用宅地等に関する本件特例(措置法69条の3第1項1号)の適用があるものとして,上告人X1につき,課税価格を5984万7000円,納付すべき税額を338万9900円,上告人X2(以下「上告人X2」という。)につき,課税価格を5455万円,納付すべき税額を308万9200円と計算した相続税の申告書を被上告人に提出した。

 イ 被上告人は,上告人らに対し,本件土地ないし本件仮換地につき本件特例の適用は認められないとして,平成12年6月30日付けで,上告人X1につき,課税価格を8309万9000円,納付すべき税額を694万9700円,上告人X2につき,課税価格を5455万円,納付すべき税額を456万2200円とする相続税の各更正(以下「本件各更正処分」という。)をするとともに,上告人X1につき過少申告加算税額を36万3000円,上告人X2につき過少申告加算税額を14万7000円とする過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

 

 

 4 原審は,上記事実関係の下において,本件土地につき本件特例の適用は認められず,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分はいずれも適法であると判断した。その理由の要旨は,次のとおりである。

 

 本件特例の適用に当たっては,相続開始の直前において当該土地を被相続人等が現に居住の用に供していたか,あるいは,少なくとも相続開始時に当該土地において現実に居住用建物の建築工事が着工され,当該土地が居住用建物の敷地として使用されることが外形的,客観的に明らかになっている状態にあることが必要と解すべきである。

 

 これを本件についてみると,相続開始の直前において本件土地及び本件仮換地が更地の状態であったことは明らかであって,いずれの土地についても居住用建物の敷地としての使用が外形的に認められないから,これを居住用宅地等として扱うことはできず,本件特例の適用は認められない。

 

 

 

 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである(なお,本件においては,甲土地の面積だけで200平方メートルを超えているので,本件特例の適用の有無は,甲土地について検討すれば足りる。)。

 

 前記事実関係によれば,確かに,甲土地及び本件仮換地は,相続開始時において,いずれも更地であり,居住用建物の敷地として現実に使用されている状況にはなかったものといわざるを得ない。

 

 しかしながら,前記事実関係によれば,Bは,従前,甲土地を現実に居住の用に供していたのであるが,福岡市の施行する本件事業のため,甲土地を含む本件土地につき仮換地の指定がされ,本件土地及び本件仮換地の使用収益が共に禁止されたことにより(土地区画整理法99条参照),仮設住宅への転居及び甲建物の取壊しを余儀なくされ,

 

その後,本件仮換地についての使用収益開始日が定められないため本件仮換地に建物を建築することも不可能な状況のまま,同人が死亡し,相続が開始したというのである。

 

 以上のとおり,相続開始の直前においては本件土地は更地となり,本件仮換地もいまだ居住の用に供されてはいなかったものであるが,

 

それは公共事業である本件事業における仮換地指定により両土地の使用収益が共に禁止された結果,

 

やむを得ずそのような状況に立たされたためであるから,

 

相続開始ないし相続税申告の時点において,B又は上告人らが本件仮換地を居住の用に供する予定がなかったと認めるに足りる特段の事情のない限り,

 

甲土地は,措置法69条の3にいう「相続の開始の直前において……居住の用に供されていた宅地」に当たると解するのが相当である。

 

 

そして,本件においては,B及び上告人らは,仮換地指定通知に伴って仮設住宅に転居しており,また,上告人らは,相続開始後とはいえ,本件仮換地の使用収益が可能となると,本件仮換地上に本件ビルを建築してこれに入居したものであって,上記の特段の事情は認めることができない。したがって,甲土地について本件特例が適用されるものというべきである。

 

 

 6 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち別紙処分目録1及び2記載の各処分に係る請求に関する部分は破棄を免れない。そして,同請求に関し,甲土地が措置法69条の3第1項1号の「特定居住用宅地等」に該当するか否か,上告人らの納付すべき税額等について審理判断させるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。

 

 なお,本件各更正処分のうち上告人らの各申告額を超えない部分に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官・上田豊三,裁判官・藤田宙靖,裁判官・堀籠幸男,裁判官・那須弘平,裁判官・田原睦夫)