みなし贈与(7)

 

 

相続税更正処分取消請求事件(第1事件),贈与税決定処分取消等請求事件(第2事件)

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成22年(行ウ)第133号

 

【判決日付】 平成23年6月3日

 

【判示事項】 Fが死亡したことに伴いG医療法人の社員たる資格を喪失し,これによりFの相続人であるG法人の社員らは,社員らは出資(持分)価格が増加し,対価を支払わないで利益を受けたとして,長野税務署長が,相続税法のいわゆるみなし贈与の規定を適用し,相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことを適法と認めた事例

 

【掲載誌】  税務訴訟資料261号順号11697

 

 

について検討します。

 

 

主   文

 

 

 

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

       

事実及び理由

 

 

第1 請求

 1 第1事件

  (1) 長野税務署長が平成20年6月30日付けで原告Aに対してした平成▲年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正処分のうち納付すべき税額814万3200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(長野資1書第○号)のうち加算税の額1万3000円を超える部分を取り消す。

  (2) 長野税務署長が平成20年6月30日付けで原告Bに対してした平成▲年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正処分のうち納付すべき税額814万3200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(長野資1書第○号)のうち加算税の額1万3000円を超える部分を取り消す。

  (3) 長野税務署長が平成20年6月30日付けで原告Cに対してした平成▲年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正処分のうち納付すべき税額1億2424万7000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(長野資1書第○号)のうち加算税の額14万6000円を超える部分を取り消す。

  (4) 長野税務署長が平成20年6月30日付けで原告Dに対してした平成▲年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正処分のうち納付すべき税額687万4100円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(長野資1書第○号)のうち加算税の額1万円を超える部分を取り消す。

 2 第2事件

   長野税務署長が平成20年6月30日付けで原告Eに対してした平成18年分の贈与税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を取り消す。

 

 

第2 事案の概要

  第1事件は,亡F(以下「F」という。)が平成▲年▲月▲日に死亡したことに伴い医療法人G(以下「G」という。)の社員たる資格を喪失したところ,長野税務署長が,これによりGの社員である原告C,原告E及びH(以下「H」といい,この3名を併せて「本件社員ら」という。)の出資(持分)の価額が増加し,同人らは対価を支払わないで上記に係る利益を受けたものであり,相続税法9条(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)のいわゆるみなし贈与の規定の適用があるとして,Fの相続人である第1事件原告らに対し,それぞれ,Fの死亡によって開始した相続(以下「本件相続」という。)による相続税の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各過少申告加算税賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件第1事件各処分」という。)をしたことに関し,第1事件原告らが,①Gは,持分の定めのある社団である医療法人ではなかった,②Gが持分の定めのある社団である医療法人であったとしても,本件社員らの出資(持分)の価額の増加については相続税法9条の適用はない,③本件第1事件各処分は権利の濫用等に当たるなどと主張して,本件第1事件各処分のうち自己を名宛人とするもの(ただし,修正申告に係る金額を超える部分。なお,後記2(4)イ及び(5)イの事実経過や第1事件原告らが国税通則法65条4項所定の正当な理由の存在につき何ら主張していないことに照らせば,第1事件原告らは,第1事件に係る訴えにおいて,本件各過少申告加算税賦課決定処分についても,修正申告に係る金額を超える部分のみの取消しを求めているものと解される。)の取消しを求めた事案である。

  第2事件は,長野税務署長が,原告Eにつき上記のように相続税法9条の規定の適用があるとして,原告Eに対し,平成18年分の贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税賦課決定処分(以下「本件無申告加算税賦課決定処分」といい,本件決定処分と併せて「本件第2事件各処分」という。また,本件第1事件各処分と本件第2事件各処分とを併せて,以下「本件各処分」という。)をしたことに関し,原告Eが,本件第2事件各処分につき,第1事件原告らと同様の主張をして,それらの取消しを求めた事案である。

 

 

 

 1 関係法令及び通達の定め

  (1) 相続税法の定め

   ア 相続税法9条本文は,同法4条から8条までに規定する場合を除くほか,対価を支払わないで,又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては,当該利益を受けた時において,当該利益を受けた者が,当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には,その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨を定めている。

   イ 相続税法19条1項は,相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては,その者については,当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし,同法15条から18条までの規定を適用して算出した金額をもって,その納付すべき相続税額とする旨を定めている。

   ウ 相続税法21条の2第4項は,相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始の年において当該相続に係る被相続人から受けた贈与により取得した財産の価額で同法19条の規定により相続税の課税価格に加算されるものは,同法21条の2第1項ないし第3項の規定にかかわらず,贈与税の課税価格に算入しない旨を定めている。

   エ 相続税法22条は,同法第3章(財産の評価)で特別の定めのあるものを除くほか,相続,遺贈又は贈与により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価により,当該財産の価額から控除すべき債務の金額は,その時の現況による旨を定めている。

  (2) 医療法の定め(便宜上,特に断らない限り,現行の規定を掲げた。以下本判決において同じ。)

   ア 医療法44条2項は,医療法人を設立しようとする者は,定款又は寄附行為をもって,少なくとも次に掲げる事項を定めなければならない旨を定めている。

     1号ないし6号  (省略)

     7号       社団たる医療社団法人にあっては,社員総会及び社員たる資格の得喪に関する規定

     8号       (省略)

     9号       解散に関する規定

     10号及び11号 (省略)

   イ 医療法44条5項は,同条2項9号に掲げる事項中に,残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には,その者は,国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない旨を定めている。

     上記の同条5項の規定は,平成18年法律第84号(以下「平成18年改正法」という。)等により改正された後のものであり,平成18年改正法による新設に係るものである。

   ウ 医療法50条1項は,定款又は寄附行為の変更は,都道府県知事の認可を受けなければ,その効力を生じない旨を定めている。

   エ 医療法50条4項は,同法44条5項の規定は,定款又は寄附行為の変更により,残余財産の帰属すべき者に関する規定を設け,又は変更する場合について準用する旨を定めている。

     上記の同法50条4項の規定は,平成18年改正法等により改正された後のものであり,平成18年改正法による新設に係るものである。

   オ 医療法54条は,医療法人は,剰余金の配当をしてはならない旨を定めている。

   カ 医療法56条1項は,解散した医療法人の残余財産は,合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか,定款又は寄附行為の定めるところにより,その帰属すべき者に帰属する旨を定めている。

   キ 平成18年改正法附則10条1項は,平成18年改正法により新設された医療法44条4項(現5項)の規定は,平成18年改正法の施行の日以後に申請された同条1項の認可について適用し,上記の日前に申請された同項の認可については,なお従前の例による旨を定め,同じく附則10条2項は,上記の日前に設立された医療法人であって,上記の日において,その定款又は寄附行為に残余財産の帰属すべき者に関する規定を設けていないもの又は残余財産の帰属すべき者として医療法44条4項(現5項)に規定する者以外の者を規定しているものについては,当分の間(当該医療法人が,上記の日以後に,残余財産の帰属すべき者として,同項に規定する者を定めることを内容とする定款又は寄附行為の変更をした場合には,当該定款又は寄附行為の変更につき同法50条1項の認可を受けるまでの間),同条4項の規定は適用せず,平成18年改正法による改正前の医療法56条の規定は,なおその効力を有する旨を定めている。

  (3) 医療法施行規則(平成18年改正法の施行に伴う平成19年厚生労働省令第39号による改正前のもの。以下「旧施行規則」という。)の定め

   ア 旧施行規則30条の36第1項は,社団である医療法人で持分の定めのあるものは,定款を変更して,社団である医療法人で持分の定めのないものに移行することができる旨を定めている。

   イ 旧施行規則30条の36第2項は,同条1項の規定により社団である医療法人で持分の定めのないものに移行する場合にあっては,当該医療法人は,その資本金の全部を資本剰余金として経理するものとする旨を定めている。

   ウ 旧施行規則30条の36第3項は,社団である医療法人で持分の定めのないものは,社団である医療法人で持分の定めのあるものへ移行できないものとする旨を定めている。

  (4) 現行の医療法施行規則(以下「施行規則」という。)の定め

   ア 施行規則30条の37第1項は,社団である医療法人(持分の定めのあるもの,医療法42条の2第1項に規定する社会医療法人及び租税特別措置法67条の2第1項に規定する特定の医療法人を除く。社団である医療法人の設立前にあっては,設立時社員。以下アにおいて「社団医療法人」という。)は,基金(社団医療法人に拠出された金銭その他の財産であって,当該社団医療法人が拠出者に対して施行規則30条の37及び30条の38並びに当該医療法人と当該拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務(金銭以外の財産については,拠出時の当該財産の価額に相当する金銭の返還義務)を負うものをいう。以下アからエまでにおいて同じ。)を引き受ける者の募集をすることができる旨を定款で定めることができ,この場合においては,次に掲げる事項を定款で定めなければならない旨を定めている。

     1号 基金の拠出者の権利に関する規定

     2号 基金の返還の手続

   イ 施行規則30条の37第2項は,同条1項の基金の返還に係る債権には,利息を付することができない旨を定めている。

   ウ 施行規則30条の38第1項は,基金の返還は,定時社員総会の決議によって行わなければならない旨を定めている。

   エ 施行規則30条の38第3項は,基金の返還をする場合には,返還をする基金に相当する金額を代替基金として計上しなければならない旨を定めている。

   オ 施行規則31条の2は,医療法44条5項に規定する厚生労働省令で定めるものは、次のとおりとする旨を定めている。

     1号 医療法31条に定める公的医療機関の開設者又はこれに準ずる者として厚生労働大臣が認めるもの

     2号 財団である医療法人又は社団である医療法人であって持分の定めのないもの

  (5) 相続税法基本通達(昭和34年1月28日付け直資10国税庁長官通達。乙19。以下「基本通達」という。)の定め

    基本通達19-2は,相続税法19条に規定する「当該相続の開始前3年以内」とは,当該相続の開始の日からさかのぼって3年目の応当日から当該相続の開始の日までの間をいうのであるから留意する旨を定めている。

  (6) 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17国税庁長官通達(平成18年課評2-27,課資2-8,課審6-10による改正前のもの)乙10,弁論の全趣旨。以下「評価通達」という。)の定め

   ア 評価通達178は,取引相場のない株式の価額は,評価しようとするその株式の発行会社(以下(6)において「評価会社」という。)が大会社,中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて評価する旨を定め,大会社について,従業員数が100人以上の会社等と定めている。

   イ 評価通達179は,大会社の株式の価額は,原則として類似業種比準価額によって評価する旨を定めている(以下,この評価方法を「類似業種比準方式」という。)。

   ウ 評価通達180は,イの類似業種比準価額は,類似業種の株価並びに1株当たりの配当金額,年利益金額及び純資産価額を基とし,所定の算式によって計算した金額とし,この場合において,評価会社の直前期末における資本金額を直前期末における発行済株式数で除した金額が50円以外の金額であるときは,その計算した金額に,1株当たりの資本金の額の50円に対する倍数を乗じて計算した金額とする旨を定めている。

   エ 評価通達182は,ウの類似業種比準価額の類似業種の株価は,課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いものとするが,納税義務者の選択により,類似業種の前年平均株価によることができる旨を定めている。

   オ 評価通達183の(2)は,評価会社の1株当たりの利益金額は,直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額に,その所得の計算上益金に算入されなかった利益の配当等の金額及び損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額を,直前期末における発行済株式数(1株当たりの資本金の額が50円以外の金額である場合には,直前期末における資本金額を50円で除して計算した数によるものとする。以下オ及びカにおいて同じ。)で除して計算した金額とするが,納税義務者の選択により,直前期末以前2年間の各事業年度について,それぞれ法人税の課税所得金額を基とし上記に準じて計算した金額の合計額の2分の1に相当する金額を直前期末における発行済株式数で除して計算した金額とすることができる旨を定めている。

   カ 評価通達183の(3)は,評価会社の1株当たりの純資産価額は,直前期末における資本金額及び法人税法2条17号(平成18年法律第10号による改正前のもの)に規定する資本積立金額及び同条18号(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する利益積立金額に相当する金額の合計額を直前期末における発行済株式数で除して計算した金額とする旨を定めている。

   キ 評価通達194-2は,医療法人に対する出資の価額は,178(取引相場のない株式の評価上の区分)の本文,179(取引相場のない株式の評価の原則)から181(類似業種)本文まで,182(類似業種の株価)から183-2(類似業種の1株当たりの配当金額等の計算)まで等の定めに準じて計算した価額によって評価し,この場合において,181(類似業種)の「評価会社の事業が該当する業種目」は同項の定めにより別に定める業種目のうちの「その他の産業」とし,180(類似業種比準価額)に定める算式は,別表1記載の算式による旨を定めている。

 

 

 

 

 2 前提事実(争いのない事実,各項末尾に掲記の証拠等により容易に認められる事実及び当裁判所に顕著な事実)

  (1) 原告ら等

   ア 原告AはFとその妻であるHの長女,原告BはFとHの二女,原告CはFとHの長男,原告DはFとHの三女である。

   イ 原告Eは,原告Cの妻である。

   ウ Fは,平成▲年▲月▲日,死亡した。Fの相続人は,第1事件原告ら及びHの5名である。

  (2) G

   ア Gは,病院を経営し,科学的でかつ適正な医療を普及することを目的として,昭和43年10月11日に設立された社団である医療法人であり,長野県長野市α×番地において医療法人I病院を開設している(甲5,乙2,乙5)。

   イ Gの平成▲年▲月▲日時点での「拠出金」の総口数は,2万5000口(1口当たり1000円)であり,Fが死亡する直前において,そのうちFが2万2030口,Hが800口,原告Cが1860口,原告Eが310口を有し,これらの者は,いずれもGの社員であった(甲16,甲17,乙9)。

  (3) 定款変更等

   ア Gは,その定款において,社員は死亡によりその資格を失う旨定めているところ(6条2号),平成18年7月25日開催の臨時総会において,定款の(ア)記載の定め(以下「旧定款」という。)につき(イ)記載のように変更する旨の議決をし(これによる定款の変更を,以下「本件定款変更」といい,この際の変更に係る(イ)記載の条項を,以下「新定款」という。),同日,長野市保健所長に対し,本件定款変更の認可を申請したところ,同年8月9日付けでその認可を受けた(甲2の1,2,甲5,乙3ないし乙5,弁論の全趣旨)。

    (ア) 旧定款(乙5)

      7条  退社した社員は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる。

      35条 本社団が解散した場合の残余財産は,払込出資額に応じて分配するものとする。

    (イ) 新定款(甲5)

      7条  社員資格を喪失した者は,本社団設立時等に拠出された資金がある場合,その返還を請求することができる。返還は金銭でなしても差支えない。なお,返還金に剰余金が含まれてはならない。また利子を付して返還してはならない。

      35条 本社団が解散した場合,剰余金を含むすべての残余財産は国又は地方公共団体に帰属する。ただし,法人設立時等に拠出された資金が残存する場合には,その資金を拠出した者に利子を付することなく返還することは差支えない。

   イ 本件定款変更後の定款には,定款の定めの変更をすることはできない旨の定めは置かれていない(甲5)。

  (4) 確定申告等

   ア 第1事件原告ら及びHは,平成19年5月30日,本件相続による相続税について,いわゆる純資産価額に加算される暦年課税分の贈与により取得した財産の価額を原告Cについては1204万0330円,Hについては0円として,別表2「第1事件原告らに対する相続税の各課税処分等の経緯」の「当初申告」欄記載のとおり確定申告をした(乙20)。

   イ 第1事件原告ら及びHは,平成20年6月4日,上記相続税について,純資産価額に加算される暦年課税分の贈与により取得した財産の価額を原告Cについては2188万0660円,Hについては0円として,別表2「第1事件原告らに対する相続税の各課税処分等の経緯」の「修正申告」欄記載のとおり修正申告(以下「本件修正申告」といい,本件修正申告に係る修正申告書を,以下「本件修正申告書」という。)をした(乙13)。

  (5) 本件各処分の経緯等

   ア(ア) 長野税務署長は,平成20年6月30日,第1事件原告らに対し,本件相続による相続税について,別表2「第1事件原告らに対する相続税の各課税処分等の経緯」の「更正処分等」欄記載のとおり本件第1事件各処分をした。

    (イ) 長野税務署長は,同日,原告Eに対し,平成18年分の贈与税について,別表3「原告Eに対する贈与税の課税処分等の経緯」の「決定処分等」欄記載のとおり本件第2事件各処分をした。

   イ 本件各処分についての原告らの異議申立てに対する関東信越国税局長の異議決定及び審査請求に対する国税不服審判所長の裁決の経緯は,別表2「第1事件原告らに対する相続税の各課税処分等の経緯」及び別表3「原告Eに対する贈与税の課税処分等の経緯」の各「異議申立て」欄,「異議決定」欄,「審査請求」欄及び「審査裁決」欄記載のとおりである。

   ウ(ア) 第1事件原告らは,平成22年3月25日,第1事件に係る訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

    (イ) 原告Eは,平成22年3月25日,第2事件に係る訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

    (ウ) 当裁判所は,平成22年4月2日,第1事件の口頭弁論に第2事件の口頭弁論を併合した(当裁判所に顕著な事実)。

 

 3 本件各処分の根拠及び適法性についての被告の主張

   本件各処分の根拠及び適法性についての被告の主張は,後記4に掲げるほか,別紙「本件各処分の根拠及び適法性」記載のとおりである。

 

 4 争点及びこれについての当事者の主張

  (1) Gの持分の定めのある社団である医療法人該当性

    (被告の主張)

    Gの新定款は,7条において「社員資格を喪失した者は,本社団設立時等に拠出された資金がある場合,その返還を請求することができる。返還は金銭でなしても差支えない。なお,返還金に剰余金が含まれてはならない。また利子を付して返還してはならない。」と規定し,35条において「本社団が解散した場合,剰余金を含むすべての残余財産は国又は地方公共団体に帰属する。ただし,法人設立時等に拠出された資金が残存する場合には,その資産を拠出した者に利子を付することなく返還することは差支えない。」と規定している。これらの規定の内容からすれば,新定款は,旧定款と同様,社員が,退社時における出資持分払戻請求権及び解散時における残余財産分配請求権を有していることを前提に,社員の上記各請求権の法人財産に及ぶ範囲を同人の払込出資額を限度とするものにすぎない。一方,厚生労働省が策定したいわゆる出資額限度法人のモデル定款(平成16年8月13日付け医政発第0813001号各都道府県知事宛て厚生労働省医政局長通知「いわゆる「出資額限度法人」について」に添付された「出資額限度法人モデル定款」。以下「本件モデル定款」という。)は,9条において「社員資格を喪失した者は,その出資額を限度として払戻しを請求することができる。」とし,34条において「本社団が解散した場合の残余財産は,払込済出資額を限度として分配するものとし,当該払込済出資額を控除してなお残余があるときは,社員総会の議決により,○○県知事(厚生労働大臣)の認可を得て,国若しくは地方公共団体又は租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第67条の2に定める特定医療法人若しくは医療法(昭和23年法律第205号)第42条第2項に定める特別医療法人に当該残余の額を帰属させるものとする。」としているところ,新定款7条及び35条の規定は,本件モデル定款9条及び34条の条項と比較して,それぞれの文言の記載内容が若干異なるものの,それぞれの意図することは同じであるといえる。

    そうすると,Gは,本件定款変更により,持分の定めのある社団である医療法人から,同じく持分の定めのある社団である医療法人の一類型である出資額限度法人となったというべきである。

    したがって,Gは,本件相続の開始時において,出資額限度法人であった。

    (原告らの主張)

   ア 医療法は,昭和25年の改正により医療法人制度を導入した当時から,同法の下における医療法人について,営利性を有しないいわゆる中間法人に当たるものとしており,設立時等に拠出された資産については,拠出者に帰属するものであって,その者の有する当該資産の返還の請求権を医療法人に対する債権であるとする一方で,剰余金については,拠出者に帰属しないものとして,配当を禁ずる(同法54条)とともに,医療法人の解散時における残余財産としての分配も想定していなかった。ところが,その後の運用においては,上記のような医療法人制度の根幹が無視されて,持分(すなわち,拠出金及び剰余金から成る医療法人の財産についての出資額に比例した支配の権利)の定めのある社団である医療法人が認められ,国税当局もその違法な実態に課税するようになり,社員の死亡による退社時の持分の払戻しが多額となったり相続税の負担が過重となったりして,立法の目的の一つであった病院ないし医療の永続性の保持にも困難を来すようになった。

     このような誤った医療法人制度の在り方は,平成19年4月1日に施行された平成18年改正法による医療法の改正により是正されたが,Gにおいては,同改正に先立って,平成17年2月7日付け医政指発第○号社団法人J会長宛て厚生労働省医政局指導課長回答「医療法人制度に関する疑義について(回答)」(以下「平成17年厚労省回答」という。)において示された医療法人の剰余金は出資者に帰属しない旨の見解に従い,旧定款の定めの下においては持分の定めのある社団である医療法人であったのを改めるべく本件定款変更をしたものであり,新定款7条及び35条は,「出資額」,「出資持分」,「出資額に応じて分配」等の持分の定めがあることを前提とした文言がないことからも明らかなとおり,持分の概念をそもそも採用しておらず,社員の退社や医療法人の解散の際,資金の拠出者につき拠出金を一般負債に劣後するものとして無利息で返還することを請求する権利(債権)のみを認め,剰余金や残余財産(一般負債の弁済及び上記の拠出金の返還のされた後のもの)の社員への帰属を許容していない。このように,新定款7条及び35条は,そもそも持分の概念のないもので,現行の医療法44条5項及び50条4項並びに施行規則30条の37の規定にも合致し,これらの規定の下において認められている基金拠出型定款(平成19年3月30日付け医政発第0330051号各都道府県知事及び各地方厚生局長宛て厚生労働省医政局長通知「医療法人の基金について」(以下「平成19年厚労省通知」という。)参照)と同趣旨のものであって,被告の主張する出資額限度法人の定款とは全く異なる。

   イ 医療法は,剰余金が社員に帰属することを禁止し,もって医療法人の非営利性を定めているところ,この医療法の規定は,病院ないし医療の永続性を保持することを目的とするものであって,公の秩序に関する事項を定めた強行法規であるから,新定款を,上記規定及びその趣旨・目的に反し,かつ,新定款に「出資」とは区別して明示されている「拠出された資金」との文言に反して,私的自治を根拠に,Gが出資額限度法人であることを定めたものであるなどと解することは,許されない。

  (2) 相続税法9条の規定の適用の有無

    (被告の主張)

   ア 本件社員らの出資を評価通達194-2の定める評価方法によって評価することの合理性

     Gは,本件相続の開始時において,出資額限度法人であったところ,Fが死亡しGを退社したことに伴って,Fの有していた出資口数に応じたGの財産のうち,払込出資額までの部分については,出資持分払戻請求権としてFの相続人である第1事件原告ら及びHにその相続分に応じて承継されるが,払込出資額を超える部分については,Gに残存することになる。

     ところで,評価通達194-2は,持分の定めのある社団である医療法人の出資の評価方法を定めており,その評価方法については,医療法人は収益事業を行っている点において,特段,一般の私企業などとその性格を異にするものではなく,また,医療法人の出資に関し,上場株式のような取引相場は見当たらないことから,当該出資の評価方法は,評価通達の定める取引相場のない株式の評価方法に準じて評価することとしているところ,評価通達194-2の定める評価方法により,持分の定めのある社団医療法人の出資を評価することは,最高裁20年(行ヒ)第241号同22年7月16日第二小法廷判決・裁判集民事234号263頁(以下「最高裁平成22年7月判決」という。)が,評価通達194-2の定める方法によっては持分の定めのある社団である医療法人の出資を適切に評価することができない特別の事情の存しない限り,これによってその出資を評価することには合理性がある旨を判示していることからも明らかなように,合理性があるというべきである。

     もっとも,新定款は,7条及び35条において,社員の退社時における出資持分払戻請求権及び解散時における残余財産分配請求権について,払込出資額を限度とする旨を定めている。しかしながら,平成18年改正法による改正前の医療法には,定款の変更により出資額限度法人が通常の持分の定めのある社団医療法人に移行することを禁止する規定や医療法人の運営に関する特別利益供与を禁止する規定はなく,また,出資額限度法人の社員は,通常の持分の定めのある医療法人との合併により,当該医療法人の社員となることが可能であることから,持分の定めのある社団である医療法人が出資額限度法人に移行しても,出資を評価通達194-2の定める評価方法によって評価することの合理性は失われないというべきである。

   イ 本件社員らの出資の価額の増加

     Gは,課税時期の直前期末以前1年間の従業員数が256人であることから,評価通達194-2が準用する同178にいう大会社に該当するところ,評価通達194-2が準用する同179は,大会社の株式の価額は,類似業種比準価額によって評価する旨を定めているから,本件社員らの出資の価額の評価は,類似業種比準価額によって評価することになる。

     そこで,類似業種比準価額により,Fが死亡したことによる本件社員らの出資の価額の増加額を算出すると,次のとおりとなる。

    (ア) Fの死亡により増加した出資1口当たりの金額 53万6618円

      上記金額は,下記のbの金額からaの金額を控除した金額である。

     a Fの死亡前の出資1口当たりの価額        7万2534円

       上記金額は,別表4「F死亡前の出資1口当たりの評価額の計算明細」により算出された金額である。

     b Fの死亡後の出資1口当たりの価額       60万9152円

       上記金額は,別表5「F死亡後の出資1口当たりの評価額の計算明細」により算出された金額である。

    (イ) 本件社員らの保有する各出資口数

      下記の各出資口数は,Fの死亡後における本件社員らの有する各出資口数である。

     a 原告C                       1860口

     b 原告E                        310口

     c H                          800口

    (ウ) 本件社員らの出資の価額の増加額

      下記の各金額は,上記(ア)のFの死亡により増加した出資1口当たりの金額に上記(イ)aないしcの各保有口数を乗じて算出したものである。

     a 原告C                9億9810万9480円

     b 原告E                1億6635万1580円

     c H                  4億2929万4400円

   ウ いわゆるみなし贈与該当性

     上記ア及びイで述べたところによれば,本件社員らは,それぞれ,Fの死亡により,対価を支払わずに,イ(ウ)に記載した金額に相当する利益を受けたのであって,このような利益の享受は,相続税法9条所定のみなし贈与に該当する。

     (原告らの主張)

     Gが出資額限度法人であるとしても,(1)で述べたように,医療法人は,営利を目的としておらず,一般の私企業と同様の性格を有するものではないのであって,医療法人が,定款で社員の退社時の払戻しや医療法人の解散時の残余財産分配の対象となる財産を当該医療法人の財産全体とする旨を定めることは,医療法に反するものであって許されないことにかんがみると,Gが,新定款を変更して,旧定款のように,社員の退社時の払戻し等の対象となる財産をGの財産全体とする旨を定めることはあり得ない。

     また,新定款は,(1)で述べたように,基金拠出型定款と同様のものであり,現行の医療法の規定の適用ないし類推適用によって,上記のような定款の変更が認められないであろうことは,容易に推察可能である。

     したがって,将来定款が上記内容に変更される抽象的な可能性があるからといって,Gの財産全体を基礎として出資を評価することは許されない。

  (3) 権利の濫用等

    (原告らの主張)

    厚生労働省医政局長は,平成19年厚労省通知をもって,各都道府県知事及び各地方厚生局長に対し,①基金とは,医療法人に拠出された金銭その他の財産であって,当該医療法人が拠出者に対し,定款の定めるところに従い,返還義務を負うものである,②基金は,剰余金の分配を目的としないという医療法人の基本的性格を維持するものであると通知し,また,同局指導課長は,平成17年厚労省回答をもって,社団法人J会長に対し,医療法人の剰余金は出資者に帰属しない旨を回答したところ,Gは,医療法の趣旨,解釈が,上記通知及び回答のとおりであると信じて,本件定款変更をした。しかしながら,長野税務署長は,厚生労働省の行政解釈を恣意的に変更して本件各処分を行い,原告らに対し,多大な財産的損失を与えた。

    そうすると,本件各処分は,いずれも憲法29条に反するものであり,権利の濫用に当たるものであるから,無効である。

    (被告の主張)

    原告らの主張は争う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 争点に対する判断

 

 1 Gの持分の定めのある社団である医療法人該当性について

 

  (1) 本件相続は,医療法44条等の規定の改正に係る平成18年改正法が平成19年4月1日に施行される前に開始したものであり,平成18年7月25日にされた本件定款変更も,上記の改正前の同法の規定の下においてされたものである。

 

ところで,平成18年当時の同法の規定においては,医療法人は,その業務を行うに必要な資産を有しなければならないとされ(41条1項),

 

社団である医療法人を設立しようとする者は,定款をもって,資産及び会計に関する規定,社員たる資格の得喪に関する規定,解散に関する規定等を定めなければならないとされていた(44条2項)ものの,

 

所要の財産を当該医療法人にいかに所属させるか,これを社員から取得して所属させた場合において当該社員がその資格を喪失したときの当該取得に係る財産その他の当該医療法人のその時点での財産の取扱いや,当該医療法人が解散した場合に残余財産を帰属させるべき者に係る定款の定めの在り方(56条1項参照)等については,格別の規定が置かれておらず,

 

これらの事項については,剰余金の配当を禁ずる同法54条の規定に反しない限り,基本的に当該医療法人が定款をもって自律的に定めるところに委ねられていたものと解される

 

(最高裁平成20年(受)第1809号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号609頁(以下「最高裁平成22年4月判決」という。)参照)。

 

 

その上で,平成18年当時の医療法人に係る法律においては,例えば,租税特別措置法67条の2第1項(同年法律第10号による改正前のもの)において

 

「社団たる医療法人で持分の定めがないもの」と規定されていたものであって,

 

このような各種の法律の規定を踏まえ,

 

旧施行規則30条の36等においては,社団である医療法人につき「持分の定めのあるもの」と「持分の定めのないもの」に区分しての規定が設けられていたところであり,

 

上記のような文言に照らし,これらのいずれにも属さないものの存在は想定されていなかったものと解される。

 

 

このように,当時の医療法人に関する法制においては,社団である医療法人について,定款により持分の定めをすることができることを前提に,

 

これを上記のように区分するものとされていたところ,

 

ここにいう持分の意義については,法令上に特に定める規定は見当たらないものの,

 

社団又は財団における持分の一般的な意味に照らし,

 

その財産を医療法人に所属させた者がそのことに基づき当該医療法人の財産について有することとなる地位ないし権利をいうものと解され,

 

その具体的な内容については,既に述べたところを踏まえると,

 

社団である医療法人にあってはその定款をもって定められたところによるものと解するのが相当である。

 

 

 

  (2) ところで,本件定款変更により変更される前のGの旧定款においては,前提事実(第2の2(3)ア(ア))に認定したとおり定められており,本件において,原告らは,旧定款の定めの下においてGが持分の定めのある社団である医療法人に当たっていたことを認めている。

 

 

    一方,

 

新定款は,7条において

 

「社員資格を喪失した者は,本社団設立時等に拠出された資金がある場合,その返還を請求することができる。返還は金銭でなしても差支えない。なお,返還金に剰余金が含まれてはならない。また利子を付して返還してはならない。」と定めるとともに,

 

 

35条において

 

「本社団が解散した場合,剰余金を含むすべての残余財産は国又は地方公共団体に帰属する。ただし,法人設立時等に拠出された資金が残存する場合には,その資産を拠出した者に利子を付することなく返還することは差支えない。」と定めている。

 

 

これらの定めにおいては,

 

Gに「資金を拠出した者」が持分を有することを明確に表現する文言は用いられていないものの,証拠(甲16,甲17,乙9)によれば,

 

Gにおいて,持分についてのものである旧定款の定めの下における本件相続が開始する直前の平成18年3月31日までの事業年度において,

 

資本金を「口」を単位としそれに対応する金額をGに所属させたとされる地位にある者を明らかにして管理していたところ,

 

このことは,本件定款変更後においても「拠出」の語を用いつつも同様であったと認められることも踏まえると,

 

新定款の定めについては,その財産をGに所属させた者

 

(新定款においては「資金を拠出した者」と呼ばれている。)が,

 

そのことに基づき,Gの財産について,一定の事情が生じた場合に係る一定の地位ないし権利を有する旨を定めたものである点において,

 

旧定款の定めと異なるところはないというべきであって,

 

本件定款変更により,上記の者がGの財産について有する地位ないし権利の基本的な性質は何ら変更されていないものというべきである。

 

 

そうすると,平成18年当時の医療法人に関する既に述べた法制の下においては,新定款の定めの下におけるGは,引き続き,社団である医療法人であって持分の定めのあるものに当たると解するのが相当である。

 

 

 

  (3) 原告らは,

 

①平成18年当時の医療法人に関する法制の下においては,医療法人の設立時等に拠出された資産は拠出者に帰属するものとされていたという考え方を前提に,

 

②新定款においては,上記のような拠出された資産の返還に係る債権を特に区別して定めている点において,

 

旧定款の定めるところとは異なり,拠出金及び剰余金から成る医療法人の財産を対象とする持分の概念をそもそも採用していない等と主張する。

 

 

    しかしながら,平成18年当時の社団である医療法人に関する法制の下において,

 

原告が主張するように,その財産を当該医療法人に所属させた者が当該財産の返還に係る権利ないし債権を当然に有するとされていた等と解すべき根拠は見当たらない

 

(なお,医療法人制度が創設された当時の国会における質疑に係る証拠(甲7,甲19)を参照しても,政府委員において病院等の土地等を医療法人のために出資をした者につき

 

「その土地,建物が本人に帰るということを規定いたしますことは自由でございます。」と答弁したことがあったと認められるにとどまる。)。

 

 

また,新定款の定めの下において「資金を拠出した者」が有するとされる地位ないし権利は,

 

その者に対する支払の限度額等について旧定款の定めの下におけるものと異なる点があるものの,

 

(2)に述べたように,その財産を医療法人に所属させた者がそのことに基づきGの財産について有することとなるものであることは,

 

旧定款の定めの下におけるものと異なるところはないのであって,

 

このような内容のものである新定款の定めの下におけるGは,平成18年当時の医療法人に関する既に述べた法制の下においては,やはり,社団である医療法人であって持分の定めのあるものに当たると解するのが相当である。

 

    また,原告らは,医療法人における基金の制度について定める現行の施行規則30条の37の規定を挙げ,新定款の定めは同規定の下で認められる基金拠出型定款と同趣旨のものであるとも主張するが,

 

新定款は,上記の規定が新設される前にされた本件定款変更により定められたものであり,かつ,上記の施行規則の規定による基金の制度は,持分の定めのあるもの等を除いた社団である医療法人につき同規則の定めるところに従って特に認められるものであることに照らし,採用することができない。

 

    そして,原告らが他に主張するところも,既に述べたところに照らし,採用することができないというべきである。

 

 

 2 相続税法9条の規定の適用の有無について

 

  (1) 本件社員らの持分の価額を評価通達194-2の定める評価方法によって評価することの合理性について

 

   ア 相続税法22条は,贈与等により取得した財産の価額の評価について,当該財産の取得の時における時価によるとするが,ここにいう時価とは,当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。

 

     ところで,医療法人は,業務を行うことにより相当の収益を上げ得る点においては,一般の私企業とその性格を異にするものではなく,その収益は医療法人の財産として内部に蓄積され得るものである。

 

そして,既に説示したとおり,持分を有する者に対する社団である医療法人の財産の取扱いについては,本件定款変更がされ,また,本件相続が開始した当時の医療法の規定の下においては,

 

同法54条に反しない限り,基本的に当該医療法人が定款で定め得るものとされていたのであって,

 

例えば,社員がその出資した金額に応じて退社時の払戻しや当該医療法人の解散時の残余財産の分配を受けられる旨の定款の定めがあった場合,

 

これに基づく払戻し等の請求が権利の濫用になるなどといった特段の事情のない限り,

 

当該社員は,総出資額中において当該社員の出資額が占める割合に応じて当該医療法人の財産から払戻し等を受けられることとなる(最高裁平成22年4月判決参照)。

 

 

そして,持分に係る地位ないし権利の内容は,自治的に定められる定款によって様々なものとなり得る余地があるものの,

 

その変更もまた可能であって,仮にある時点における定款の定めにより払戻し等を受け得る金額が自らの払込出資額を限度とされるなどしていたとしても,

 

客観的にみた場合,持分を有する者は,法令で許容される範囲内において定款が変更されることにより,当該医療法人の財産全体につき自らの出資額の割合に応じて払戻し等を求め得る潜在的可能性を有するものである。

 

 

また,定款の定めのいかんによって,当該医療法人の有する財産全体の評価に変動が生じないのはいうまでもない。

 

そうすると,持分の定めのある社団である医療法人における持分は,定款の定めのいかんにかかわらず,基本的に上記のような可能性に相当する価値を有するということができる。

 

 

     評価通達194-2は,以上のような持分の定めのある社団である医療法人及びその持分の取得に係る事情を踏まえつつ,

 

持分の客観的な交換価値の評価を,取引相場のない株式の評価に準じて行うこととしたものと解される。

 

 

そうすると,その方法によっては当該持分の価額を適切に評価することができない特別の事情の存しない限り,これによってその評価をすることには合理性があるというべきである(最高裁平成22年7月判決参照)。

 

 

   イ これを本件についてみると,Gは,旧定款の定めの下において,社員の退社時の払戻しやGの解散時の残余財産の分配の対象となる財産をGの財産全体としていたところ,これを変更し,支払を受け得る額を自らの支出した額を限度とするなどとしたことは,上記1(2)で説示したとおりである。

 

     原告らは,Gが,新定款を更に変更して,旧定款のように,社員の退社時等の取扱いの対象となる財産をGの財産全体とする旨を定めることはあり得ないと主張する。

 

     しかしながら,本件定款変更後のGの定款にその定めの変更を禁ずる旨の定めはなく,

 

この点をひとまずおくとしても,

 

 

社団法人の性格にかんがみると,平成18年改正法附則10条の規定に照らし,法令においてGの定款の再度の変更を禁止する定めがあるとはいえない中では,

 

法的に新定款の変更が不可能になるということはできない。

 

そうすると,本件においては,本件相続の開始時における新定款の定めに基づく持分に係る地位ないし権利の内容がその後変動しないと客観的に認めるだけの事情はないといわざるを得ず,

 

他に評価通達194-2の定める方法で新定款の定めの下におけるGの持分の価額を適切に評価することができない特別の事情があることもうかがわれない。

 

 

     したがって,本件において,新定款の定めの下でのGの持分の価額につき,Gの財産全体を基礎として評価通達194-2の定める方法によって評価することには,合理性があるというべきである。

 

 

 

  (2) 本件社員らの持分の価額の増加額について

 

    証拠(乙12)によれば,Gの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度(以下「平成18年3月期」という。)末におけるGの従業員数は256人であったと認められ,この事実によれば,Gは,評価通達194-2において準用する同178にいう「大会社」に該当するというべきである。

 

    そうすると,これまで述べてきたところからすれば,本件社員らの持分の価額の増加額は,Fの死亡前の持分1口当たりの価額及びFの死亡後の持分1口当たりの価額を評価通達194-2の定める類似業種比準方式により評価した上で,その差額に本件社員らそれぞれが保有する口数を乗じることにより算出されることになる。

 

   ア Fの死亡前の持分1口当たりの価額

 

    (ア) Gの持分1口(50円)当たりの利益金額

      証拠(乙8の1,乙21,乙22)によれば,①Gの平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度の法人税の課税所得金額が1億3728万9027円であったこと,②Gの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の法人税の課税所得金額が1億4002万0701円であったこと,③Gの平成18年3月期末の資本金額が2500万円であったことが認められる。

      そこで,Gの持分1口(50円)当たりの利益金額を評価通達183の(2)の定めに準じて計算すると,別表4「F死亡前の出資1口当たりの評価額の計算明細」記載1cのとおり,278円(小数点以下切捨て)となる(なお,この計算は,直前期末以前2年間の各事業年度の法人税の課税所得金額を基にされたものであり,評価通達183の(2)によれば,この計算方法は納税義務者の選択によるものとされているが,この計算方法によった方が,Gの持分1口(50円)当たりの利益金額が小さくなるため,Fの死亡により増加した持分1口当たりの価額が小さくなる。したがって,原告らに有利である。)。

    (イ) Gの持分1口(50円)当たりの純資産価額

      証拠(乙8の1,乙23)によれば,①Gの平成18年3月期末の資本金額に相当する金額が2500万円であったこと,②Gの同期末の法人税法2条18号に規定する利益積立金額に相当する金額が24億1964万9000円(1000円未満切捨て)であったことが認められる。

      そこで,Gの持分1口(50円)当たりの純資産価額を評価通達183の(3)の定めに準じて計算すると,別表4「F死亡後の出資1口当たりの評価額の計算明細」記載1dのとおり,4889円(小数点以下切捨て)となる。

    (ウ) 類似業種の出資1口(50円)当たりの平均株価,利益金額,純資産価額

      証拠(乙24)によれば,①類似業種の平成18年6月ないし9月の各株価及び平成17年の平均株価のうち,一番価格が低いものは,平成17年度の平均株価(471円)であったこと(なお,平成17年の平均株価は,前年平均株価であり,評価通達182によれば,この株価によるか否かは納税義務者の選択によるものとされているが,この株価によった方が,F死亡により増加した持分1口当たりの評価額が小さくなる。したがって,原告らに有利である。),②類似業種の平成18年分の出資1口当たりの利益金額が31円であったこと,③類似業種の平成18年分の出資1口当たりの純資産価額が285円であったことが認められる。

    (エ) 算出

      上記(ア)ないし(ウ)を基に,Fの死亡前の持分1口当たりの価額を評価通達194-2の定める類似業種比準方式によって計算すると,その金額は,別表4「F死亡前の出資1口当たりの評価額の計算明細」記載3のとおり,7万2534円(少数点以下切捨て)となる。

   イ Fの死亡後の持分1口当たりの価額

    (ア) Gの持分1口(50円)当たりの利益金額

      ①Gの平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度の法人税の課税所得金額が1億3728万9027円であったこと,②Gの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の法人税の課税所得金額が1億4002万0701円であったことは,上記ア(ア)で認定したとおりであり,また,前提事実(第2の2(2)イ)及び上記ア(ア)で認定した事実によれば,③Gの平成18年3月期末の資本金額は,Fの持分に係る分を除くと,297万円であったことが認められる。

      そこで,Gの持分1口(50円)当たりの利益金額を評価通達183の(2)の定めに準じて計算すると,別表5「F死亡後の出資1口当たりの評価額の計算明細」記載1cのとおり,2340円(小数点以下切捨て)となる。

    (イ) Gの持分1口(50円)当たりの純資産価額

      ①Gの平成18年3月期末の資本金額は,Fの出資を除くと,297万円であったことは,上記(ア)で認定したとおりであり,また,②Gの同期末の法人税法2条18号に規定する利益積立金額に相当する金額が24億1964万9000円(1000円未満切捨て)であったことは,上記ア(イ)で認定したとおりである。

      そこで,Gの持分1口(50円)当たりの純資産価額を評価通達183の(3)の定めに準じて計算すると,別表5「F死亡後の出資1口当たりの評価額の計算明細」記載1dのとおり,4万0784円(小数点以下切捨て)となる。

    (ウ) 算出

      上記ア(ウ)及び(エ)並びにイ(ア)及び(イ)を基に,Fの死亡後の持分1口当たりの価額を評価通達194-2の定める類似業種比準方式によって計算すると,その金額は,別表5「F死亡後の出資1口当たりの評価額の計算明細」記載3のとおり,60万9152円(小数点以下切捨て)となる。

   ウ F死亡により増加した持分1口当たりの価額

     上記ア及びイで説示したところによれば,次のとおり,53万6618円となる。

     60万9152(円)-7万2534(円)=53万6618(円)

   エ 本件社員らの持分の価額の増加額

     本件相続の開始直前において,Gの持分を,Fが2万2030口,原告Cが1860口,原告Eが310口,Hが800口それぞれ有していたことは,前提事実(第2の2(2)イ)のとおりであり,この事実と上記アないしウで説示したところによれば,本件社員らの持分の価額の増加額は,次のとおりとなる。

    (ア) 原告C               9億9810万9480円

      53万6618(円)×1860=9億9810万9480(円)

    (イ) 原告E               1億6635万1580円

      53万6618(円)×310=1億6635万1580(円)

    (ウ) H                 4億2929万4400円

      53万6618(円)×800=4億2929万4400(円)

  (3) 相続税法9条の規定の適用について

    上記(1)及び(2)で説示したところによれば,本件社員らは,それぞれ,Fの死亡により,対価を支払わずに,(2)エに記載した金額に相当する利益を受けたのであって,当該金額については,相続税法9条のみなし贈与の規定により,本件社員らが贈与により取得したものとみなすのが相当である。

 

 

 

 3 権利の濫用等の成否について

 

   原告らは,Gは,医療法の趣旨,解釈が,平成17年厚労省回答及び平成19年厚労省通知のとおりであると信じて,本件定款変更をしたにもかかわらず,長野税務署長が厚生労働省の行政解釈を恣意的に変更して本件各処分を行ったことをもって,本件各処分が権利の濫用等に当たると主張する。

 

   しかしながら,平成19年厚生労働省通知については,本件定款変更後に発出されたものであるから,原告らが本件定款変更に当たり医療法の趣旨,解釈が上記の通知の内容のとおりであると信じたとの主張については,その前提を欠くものというべきである。

 

   また,証拠(甲9)によれば,

 

平成17年厚労省回答には,医療法人の剰余金については,医療法54条の規定のとおり,配当が禁止されており,出資者に帰属しない旨の記載があることが認められるものの,

 

同時に,「課税関係については,所管外なので厚生労働省としては回答できない。」との記載もあることが認められ,

 

上記回答の他の箇所をみても,課税関係について原告らの主張するところに沿うような趣旨の記載は見当たらない。

 

   これらの諸点に照らすと,上記の原告らの主張は,採用することができない。

 

 

 

 

 4 本件各処分の適法性について

   これまで述べたところ及び弁論の全趣旨によれば,①第1事件原告らの本件相続に係る相続税の納付すべき税額は,別紙「本件各処分の根拠及び適法性」記載第1の3(4)のとおりであって,本件各更正処分におけるそれと同額であり,②第1事件原告らに課されるべき上記①の相続税に係る過少申告加算税の額は,同別紙記載第2の1ないし3のとおりであって,本件各過少申告加算税賦課決定処分におけるそれと同額であり,③原告Eの平成18年分の贈与税の納付すべき税額は,同別紙記載第3の2のとおりであって,本件決定処分におけるそれと同額であり,④原告Eに課されるべき上記③の贈与税に係る無申告加算税の額は,同別紙記載第4のとおりであって,本件無申告加算税賦課決定処分におけるそれと同額であると認められる。

   したがって,本件各処分は,いずれも適法であるというべきである。

 

 

第4 結論

  以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第3部

        裁判長裁判官  八木一洋

           裁判官  田中一彦

           裁判官  齊藤 敦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(別表1)

       類似業種比準価格の計算式

 □

 

(別紙)

       本件各処分の根拠及び適法性

第1 本件各更正処分の根拠及び適法性

  被告が本件訴えにおいて主張する第1事件原告らの本件相続による相続税の課税価格及び納付すべき相続税額は,次のとおりであり,これらは本件各更正処分の金額と同額であるから,本件各更正処分はいずれも適法である。

 1 相続税の課税価格の合計額              21億5556万円

   上記金額は,下記(1)の各人の金額から,同(2)の各人の金額を控除した金額に,同(3)の各人の金額を加算した同(4)の金額(ただし,国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定及び基本通達16-2の取扱いにより,課税価格の1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)の合計額である。

  (1) 本件相続により取得した財産の価額

   ア 原告A                    3268万3183円

   イ 原告B                    3268万3183円

   ウ 原告C                  5億2762万6347円

   エ 原告D                    2765万2782円

   オ H                      9090万8781円

    上記各金額は,本件修正申告書に記載された各人の本件相続により取得した財産の価額と同額である。

  (2) 債務及び葬式費用の金額

   ア 原告A                      19万1700円

   イ 原告B                      19万1700円

   ウ 原告C                     713万5032円

   エ 原告D                      19万1700円

   オ H                        76万7000円

    上記各金額は,本件修正申告書に記載された各人の債務及び葬式費用の金額と同額である。

  (3) いわゆる純資産価額に加算される暦年課税分の贈与により取得した財産の価額(相続税法19条1項)

   ア 原告A                         110万円

   イ 原告B                         110万円

   ウ 原告C                 10億1999万0140円

   エ 原告D                         100万円

   オ H                    4億2929万4400円

    上記各金額は,下記(ア)の各人の金額に同(イ)の各人の金額を加算した金額である。

    (ア) 修正申告額

     a 原告A                       110万円

     b 原告B                       110万円

     c 原告C                  2188万0660円

     d 原告D                       100万円

      上記各金額は,本件修正申告書に記載された各人の該当する事項に係る金額と同額である。

    (イ) 相続税法9条の規定に基づき贈与があったものとみなされる利益の金額

     a 原告C                9億9810万9480円

     b H                  4億2929万4400円

      上記金額は,本判決の本文第2の4(2)イ(ウ)で算出した,Fから原告C及びHに対する贈与により取得したものとみなされる利益の金額である。

  (4) 各相続人に係る相続税の課税価格

   ア 原告A                    3359万1000円

   イ 原告B                    3359万1000円

   ウ 原告C                 15億4048万1000円

   エ 原告D                    2846万1000円

   オ H                    5億1943万6000円

 2 相続税の総額                 8億1000万2000円

   上記金額は,相続税法15条及び16条の規定により,次のとおり算出したものである。

  (1) 相続税の課税価格の合計額           21億5556万円

    上記金額は,上記1(4)記載の金額の合計額である。

  (2) 遺産に係る基礎控除額                   1億円

    上記金額は,相続税の課税価格の合計額から基礎控除額として控除すべき金額であり,相続税法15条1項の規定により,5000万円と1000万円にFの相続人(第1事件原告ら及びH)の数である5を乗じて算出した5000万円との合計額である。

  (3) 課税遺産総額                 20億5556万円

    上記金額は,上記(1)の金額から上記(2)の金額を控除した金額である。

  (4) 法定相続分に応じた各取得金額

   ア 原告A(法定相続分8分の1)       2億5694万5000円

   イ 原告B(法定相続分8分の1)       2億5694万5000円

   ウ 原告C(法定相続分8分の1)       2億5694万5000円

   エ 原告D(法定相続分8分の1)       2億5694万5000円

   オ H(法定相続分2分の1)            10億2778万円

    上記アないしオの各金額は,相続税法16条の規定により,第1事件原告ら及びHが上記(3)の金額を法定相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額であり,上記(3)の金額に,第1事件原告ら及びHの法定相続分をそれぞれ乗じて算出した金額である。

  (5) 相続税の総額の算出の基礎となる税額

   ア 原告A(法定相続分8分の1)         8577万8000円

   イ 原告B(法定相続分8分の1)         8577万8000円

   ウ 原告C(法定相続分8分の1)         8577万8000円

   エ 原告D(法定相続分8分の1)         8577万8000円

   オ H(法定相続分2分の1)             4億6689万円

    上記アないしオの各金額は,上記(4)のアないしオの各金額に,相続税法16条に規定する税率を適用して,それぞれ計算した金額である。

  (6) 相続税の総額              8億1000万2000円

    上記金額は,上記(5)のアないしオの各金額の合計額である。

 3 各相続人の納付すべき相続税額

  (1) 各相続人の相続税額

   ア 原告A                    1262万2602円

   イ 原告B                    1262万2602円

   ウ 原告C                  5億7887万1704円

   エ 原告D                    1069万4885円

   オ H                    1億9519万0205円

    上記各金額は,相続税法17条の規定により,上記2(6)の相続税の総額に,上記1(4)の各相続人に係る相続税の課税価格が上記2(1)の相続税の課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額である。

  (2) いわゆる暦年課税分の贈与税額控除額          705万円

    上記金額は,相続税法19条の規定により,上記(1)ウの原告Cの相続税額から控除するいわゆる暦年課税分の贈与税の金額であり,本件修正申告書に記載された該当する事項に係る金額と同額である。

  (3) 配偶者の相続税額の軽減額        1億9519万0205円

    上記金額は,相続税法19条の2の規定により計算した上記(1)オのHの相続税額から控除する配偶者の軽減額である。

  (4) 各相続人の納付すべき相続税額

   ア 原告A                    1262万2600円

   イ 原告B                    1262万2600円

   ウ 原告C                  5億7182万1700円

   エ 原告D                    1069万4800円

   オ H                              0円

    上記金額は,上記(1)の額から上記(2)及び(3)の金額を控除した各相続人の納付すべき相続税額(ただし,通則法119条1項の規定により,100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

第2 本件各過少申告加算税賦課決定処分の根拠及び適法性

  上記第1のとおり,本件各更正処分は適法であるところ,第1事件原告らは本件相続に係る納付すべき相続税額を過少に申告していたものであり,また,納付すべき相続税額を過少に申告していたことについて,通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められない。

  そこで,本件各更正処分に伴い第1事件原告らに課される過少申告加算税の金額を計算すると,次のとおりとなり,これらは,本件各過少申告加算税賦課決定処分の金額と同額であるから,当該処分は適法である。

 1 原告A及び原告B                  各44万7000円

   上記各金額は,通則法65条1項の規定に基づき,原告A及び原告Bが本件各更正処分(ただし,自己を名宛人とするもの)により新たに納付すべきこととなった税額447万円(ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10を乗じて算出した金額である。

 2 原告C                          6107万円

   上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,原告Cが本件各更正処分(ただし,自己を名宛人とするもの)により新たに納付すべきこととなった税額4億4757万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10を乗じて算出した金額4475万7000円と,同法65条2項の規定に基づき,同人が本件各更正処分(ただし,自己を名宛人とするもの)により新たに納付すべきこととなった税額4億4757万4700円に本件修正申告により納付すべき税額146万8200円を加算した金額(4億4904万2900円)のうち,期限内申告額1億2277万8800円と50万円のいずれか多い金額(1億2277万8800円)を超える部分の税額3億2626万円(ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5を乗じて算出した金額1631万3000円との合計額である。

 3 原告D                        38万2000円

   上記金額は,通則法65条1項の規定に基づき,原告Dが本件各更正処分(ただし,自己を名宛人とするもの)により新たに納付すべきこととなった税額382万円(ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10を乗じて算出した金額である。

第3 本件決定処分の根拠及び適法性

  被告が本件訴えにおいて主張する原告Eの平成18年分の贈与税の課税価格及び納付すべき贈与税額は,次のとおりであり,これは,本件決定処分の金額と同額であるから,当該処分は適法である。

 1 贈与税の課税価格               1億6635万1580円

   上記金額は,本判決の本文第2の4(2)イ(ウ)で算出した,相続税法9条の規定に基づきFから原告Eに対する贈与により取得したものとみなされる利益の金額である。

 2 納付すべき贈与税額                8037万5500円

   上記金額は,上記1の課税価格から,相続税法21条の5及び租税特別措置法70条の2(平成21年法律第61号による改正前のもの)に規定する贈与税の基礎控除額110万円を控除した後の金額1億6525万1000円(ただし,通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に,相続税法21条の7に規定する贈与税の税率を適用して算出した金額である。

第4 本件無申告加算税賦課決定処分の根拠及び適法性

  上記第3のとおり,本件決定処分は適法であるところ,原告Eは亡Fからの贈与により取得したものとみなされる利益に係る贈与税について,相続税法28条1項所定の期限までに申告書を提出せず,また,このように期限内申告書を提出しなかったことについて,通則法66条1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。

  したがって,原告Eに課される無申告加算税の金額は,通則法66条1項の規定に基づき,本件決定処分により納付すべき贈与税額8037万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の15の割合を乗じて算出した金額1205万5500円と,同法66条2項の規定に基づき,本件決定処分により納付すべき贈与税額8037万5500円のうち50万円を超える部分の税額7987万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の5を乗じて算出した金額399万3500円との合計額である1604万9000円となり,これは,本件無申告加算税賦課決定処分の金額と同額であるから,当該処分は適法である。