みなし贈与(3)

 

 

贈与税決定処分等取消請求事件

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/昭和62年(行ウ)第23号

 

【判決日付】 平成元年10月26日

 

【掲載誌】  税務訴訟資料174号178頁

 

 

について検討します。

 

 

 

主   文

 

 

 一 原告の請求を棄却する。

 二 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

 

事   実

 

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 請求の趣旨

  1 被告が昭和六〇年二月二七日付けでした原告の昭和五四年分贈与税の決定及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

  2 訴訟費用は被告の負担とする。

 二 請求の趣旨に対する答弁

   主文と同旨

第二 当事者の主張

 一 請求原因

  1 (処分等の経緯)

   (一) 原告が昭和五四年分贈与税の申告をしなかったところ、被告は、昭和六〇年二月二七日付けで原告の昭和五四年分贈与税の課税価格を四四四六万一二九七円、贈与税の額を二六〇〇万七七〇〇円とする決定(以下「本件決定」という。)及び無申告加算税の額を二六〇万円とする賦課決定(以下「本件無申告加算税賦課決定」という。)をした。

   (二) 原告は、被告に対し、昭和六〇年五月四日付けで、本件決定及び本件無申告加算税賦課決定につき、異議申立てをしたが、被告は、同年八月三〇日付けで、原告の右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

   (三) 原告は、国税不服審判所長に対し、同年九月三〇日付けで、本件決定及び本件無申告加算税賦課決定につき、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和六一年一一月二〇日付けで、原告の右審査請求を棄却する旨の裁決をした。右裁決書謄本は、同月二七日以降の日に原告に送達された。

  2 (違法事由)

    しかしながら、本件決定は、原告が昭和五四年において贈与により財産を取得したとの事実誤認に基づくものであるから違法であり、したがって、本件決定を前提とする本件無申告加算税賦課決定も違法である。

  3 よって、原告は、被告に対し、本件決定及び本件無申告加算税賦課決定の取消しを求める。

 二 請求原因に対する認否

  1 請求原因1は認める。

  2 同2は争う。

 三 被告の主張

  1 本件決定の適法性について

   (一) 贈与財産の価額 四四四六万一二九七円

    (1) 原告は、昭和五四年六月二〇日、三菱銀行成城支店において亡窪川雪夫(昭和五六年八月二八日死亡。以下「雪夫」という。)名義の定期預金の満期による払戻金二八四四万六五四四円を原告名義の定期預金とした。

    (2) 原告は、昭和五四年六月二一日、協和銀行原宿支店において、雪夫名義の定期預金の満期による払戻金一六〇一万四七五三円を原告名義の定期預金とした。

    (3) 原告が、右(1)及び(2)のとおり、雪夫から利益を受けたことにつき、雪夫に対しその対価を支払った事実が認められなかったので、相続税法九条の規定に基づき、原告が雪夫から当該利益の価額に相当する金額四四四六万一二九七円を贈与により取得したものとみなした。

   (二) 贈与税の額 二六〇〇万七七〇〇円

     右金額は、相続税法(昭和五五年法律第五一号による改正前のものをいう。)二一条の五の規定により右贈与財産の価額四四四六万一二九七円から基礎控除額六〇万円を控除した後の課税価格四三八六万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数金額は、国税通則法一一八条一項の規定により切り捨てた。)につき、相続税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)二一条の七の規定により、別表記載のとおり計算した金額であり、したがって、本件決定は適法である。

  2 本件無申告加算税賦課決定の適法性について

    原告は、納税申告書を提出する義務があるが、これを提出しなかったため本件決定をしたのであり、同決定に基づき、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)六六条一項の規定に基づき、納付すべき税額につき、同法一一八条三項(昭和五九年法律第五号による改正後のもの)の規定により右金額の一万円未満の金額を切り捨てた金額二六〇〇万円に一〇〇分の一〇を乗じて算出した無申告加算税は、二六〇万円となるから、本件無申告加算税賦課決定は適法である。

 四 被告の主張に対する認否

  1 被告の主張1について、(一)のうち、(1)及び(2)は認めるが、(3)は否認する。(二)は争う。

  2 同2は争う。

 五 原告の反論

  1 原告は、雪夫と昭和三九年ころから同居を始め、昭和四三年二月三日に婚姻したが、同居を始めた時以来、雪夫の支払うべき生活費、交際費、医療費等を同人に代わって立て替えて支出してきたところ、昭和五四年六月の段階において、右立替金(以下「本件立替金」という。)の合計額は膨大な額に達していた。そこで、原告は、本件立替金の返済及び以後の立替金の先払いの趣旨で、前記のとおり、昭和五四年六月二〇日及び同月二一日、雪夫名義の定期預金の満期による払戻金を原告名義の定期預金としたのであって、対価を支払わなかったわけではないから、右利益の享受は贈与ではない。以下、2において、本件立替金の内容について、3において、本件立替金の支払に充てた原告の収入の内容について述べる。

  2 本件立替金の総額は、約一億一三五六万円であるが、その内訳は、次のとおりである。

   (一) 生活費 約三二一〇万円

    (1) 内訳は次のとおりであるが、費用分担については、一応、原告と雪夫の割合を一対一として算出した。

     ① 昭和四〇年から昭和四二年まで

       月額約一五万円×三六か月×二分の一=約二七〇万円

     ② 昭和四三年から昭和四五年まで

       月額約二〇万円×三六か月×二分の一=約三六〇万円

     ③ 昭和四六年から昭和四九年まで

       月額約四〇万円×四八か月×二分の一=約九六〇万円

     ④ 昭和五〇年から昭和五四年六月まで

       月額約六〇万円×五四か月×二分の一=約一六二〇万円

    (2) 雪夫は、昭和三九年三月、朝日新聞社札幌支社長として転勤をしたが、そこで眼底出血で倒れ、入院生活を経た後、同年暮れころ再び東京に戻り、原告は、雪夫の療養看護のため、東京都世田谷区成城の家で同居することになった。当時、雪夫の月給は、手取りで約二四万円であったが、右給料は、先妻との間の三人の子の養育費でほとんどが消え、そのため雪夫は原告に生活費をほとんど渡すことができず、原告が立て替えて支出することになった。原告は、昭和四〇年から昭和四二年までは、平均すると毎月約一五万円の生活費を貯金から引き出して賄っていた。

    (3) 原告と雪夫は、昭和四三年二月三日入籍したが、原告は雪夫から、このころから昭和五三年までは、毎月約七万円、年二回のボーナス時に各約五万円の生活費をもらい、また、昭和五三年には、毎月約三〇万円、年二回のボーナス時に各約五〇万円、さらに昭和五四年には、毎月約五〇万円の生活費をもらっていたが、諸物価の高騰に伴い、右生活費のみでは賄いきれなかったため、前記内訳記載のとおり、生活費を立て替えて支出した。

    (4) これらの生活費は、主として食費、衣類、交通費等に充てられた。雪夫は、背広は英国屋や銀座テーラーで一着四〇万円ないし四五万円位のものを年三、四回あつらえ、肌着は銀座和光や伊勢丹本店、果物は千疋屋というように一流品・ブランド志向が強かったうえに、外出の際は常にハイヤーを利用するなど(平均すると月約三〇万円)、生活は極めて贅沢であり、そのため生活費も通常の生活レベルをはるかに超える金額を要した。

   (二) 歯科治療費 約一〇〇〇万円

     雪夫は、昭和四九年八月ころから昭和五四年五月ころにかけて、銀座の金田歯科ほか二か所の有名歯科医院で合計一七個の入歯を作ったが、これに要した約一〇〇〇万円の費用は、雪夫の要請により、全て原告が立て替えて支出した。

   (三) 入院療養中の交際費飲食費等 約二四〇〇万円

     雪夫は、昭和五〇年九月から昭和五四年七月までの間、鹿教湯病院にて入院療養していたが(ただし、途中で何回かは退院していた。)、この間夜になると毎日のように近辺のホテルで、見舞客や付添婦らと一緒に、あるいは他の入院患者と一緒に飲食しており、その費用は、少なくとも月一二〇万円を下らない金額に達していた。よって、右期間中の交際費、飲食費等は、次のとおりであるが、原告は、雪夫の要請により、雪夫を見舞いに病院を訪れた際、立て替えて支払っていた。

    (1) 昭和五〇年九月から同年一〇月まで

      一二〇万円×二か月=二四〇万円

    (2) 昭和五一年二月から同年五月まで

      一二〇万円×四か月=四八〇万円

    (3) 昭和五二年七月から同年一〇月まで

      一二〇万円×四か月=四八〇万円

    (4) 昭和五三年六月から同年一二月まで

      一二〇万円×七か月=八四〇万円

    (5) 昭和五四年一月から同年四月一七日まで

      一二〇万円×約三か月=約三六〇万円

   (四) 入院療養費、付添費等 約三四六三万円

    (1) 部屋代差額分 約七九一万円

     ① 鹿教湯病院

       一日五〇〇〇円×約二〇か月=約三〇〇万円

     ② 熱川温泉病院

       一日六三〇〇円×約二六か月=約四九一万円

    (2) 車イス使用料

      一日一五〇円×約四六か月=約二〇万円

    (3) 医療費

      一か月約一六万五〇〇〇円×約四六か月=約七五九万円

    (4) 付添寝具食事代 約二三七万円

     ① 鹿教湯病院

       一日二〇〇〇円×約二〇か月=約一二〇万円

     ② 熱川温泉病院

       一日一五〇〇円×約二六か月=約一一七万円

    (5) 付添婦賃金

      一日一万円×約四六か月=約一三八〇万円

    (6) 付添婦、医師等への心付け

      一回二万円×月三回×約四六か月=約二七六万円

   (五) ホテル大東館宿泊料等 約二三〇万円

     一回約一〇万円(宿泊料約九万円、部屋係への心付け一万円)×二三回分(昭和五四年・五回、昭和五五年・一二回、昭和五六年・六回)

   (六) 雪夫の散髪代 約一〇五三万円

     雪夫は、一日も欠かさず毎日散髪に行っており、昭和四〇年から昭和五四年七月一五日まで、一回約二〇〇〇円×約五二六五日=約一〇五三万円。

 

 

  3 原告の昭和二四年八月(原告の上京時)から昭和五六年八月(雪夫の死亡時)までの収入は、総額約一億八七三〇万円であるが、その内容は、以下のとおりである。

   (一) 銀座クラブ(クラブシロー、クラブセリナ、ワンダーバー、クラブ詩織等)ホステスの収入 約一億一一三〇万円

    (1) 昭和二五年から昭和三六年まで

      月収(交際費、衣装代等を除いた実収入)約五〇万円×約一二年間(約一四四か月分) 約七二〇〇万円

    (2) 昭和三七年から昭和四〇年まで

      月収(交際費、衣装代等を除いた実収入)約七〇万円×約四年間(約四八か月分) 約三三六〇万円

    (3) 右クラブ移動の際の支度金 約五七〇万円

      当時、銀座のクラブでは支度金制度があり、移動の際には支度金として一年契約で一店約七〇万円ないし一〇〇万円が支給された。

   (二) クラブ「扇」経営時代の収入 約二七〇〇万円

    (1) 昭和四〇年九月から昭和四二年までのクラブ「扇」からの収入 約二〇〇〇万円

    (2) クラブ「扇」閉店に伴う出資金返却分 七〇〇万円

   (三) 昭和二四年八月上京の際の持参金 約七〇〇万円

   (四) 大野伴睦氏からの送金分 約四二〇〇万円

     昭和二四年九月から昭和三一年までの約七年間にわたり毎月約五〇万円の送金を受けていた。

     毎月五〇万円×約七年間(約八四か月)

   (五) その他

     株式投資利益金、伯母太田フジからの送金分等

   (六) 原告は、以上の収入を定期預金として預け入れ、その財産を維持、増加していた。その後、原告は、右定期預金等の金員を三菱銀行成城支店の原告名義の普通預金口座に預金し、右口座から払戻しを受けて本件立替金に供していた。

 

 六 被告の再主張

   本件立替金に関する原告の主張は、以下に述べるとおり、整合性・合理性に欠けるうえ、この点に関する原告本人尋問の結果も曖昧であって、これを裏付ける証拠もない。

 

  1 原告は、本件審査請求時には、雪夫に対する立替金の合計額を四四四六万一二九七円と主張し、かつ、遂(ママ)次当該立替金の返済を受け、雪夫名義で定期預金に預け入れていたが、その後、昭和五四年六月に当該定期預金の満期日が到来したのを機に本来の預金者である原告名義による定期預金とした旨を主張していた。

 

ところが、本訴において、原告は、右主張と異なり、立替金の額を六六一〇万円と主張し、

 

更に入院費、宿泊費等として合計四七四六万円を追加する旨を主張し、

 

その主張額が変遷しているほか、

 

昭和五四年六月の定期預金の名義変更についても、それまでの立替金の返済及び以後の立替支出金の先払いの趣旨でしたものであると従前の主張を変更した。

 

このように、原告の主張には一貫性がない。

 

これは、本件立替金が真実存在しないにもかかわらずあたかも存在したがごとく場当たり的に主張していることによるものといわざるを得ない。

 

  2 さらに、本訴における原告の主張には、以下のとおり全く合理性がない。

 

   (一) 原告が主張する立替金というのは、原告が雪夫に対して昭和四〇年から昭和五四年までの間に支払った総額一億一三五六万円をいうのであるが、当該立替金は、主張自体から明らかなとおり概算によるもので、その支払先、支払年月日及び支払金額の明細を明らかにしない。したがって、具体的事実関係は不分明であり、その要件事実を欠くものとして失当な主張というべきである。

 

   (二) そして、雪夫の昭和四八年分ないし昭和五四年分の所得税の確定申告における所得金額の累計は一億九五三四万余円であり、他に海外新聞普及株式会社から退職金二一六〇万円を受給しているので、その合計額は二億一六九四万余円となる。

 

他方、原告の昭和四八年分ないし昭和五四年分の所得税の確定申告における所得金額の累計は六六四万九〇〇〇円であって、右両名の所得状況からみると、雪夫が原告に対し立替金の支払を求める特段の事情はなく、その必要性は全く認められない。

 

 

   (三) しかも、原告は、本件立替金に充てた資金源については、昭和二四年上京の際持参した約七〇〇万円を始めとして、同年から昭和四二年までの間の収入をもって資金源とした旨を主張するが、右主張を裏付ける証拠がないばかりか、主張する収入金額も概算によるもので、到底信用することができない。

 

 七 被告の再主張に対する認否

 

  1 被告の再主張1のうち、昭和五四年六月の雪夫から原告への定期預金の名義変更の趣旨に関する原告の主張が、審査請求時と異なることは認め、その余は否認する。

 

右審査請求時の主張は、当時原告の代理人であった税理士により、本件の書証の収集・整理が極めて不充分な時点において独自の見解のもとになされたものにすぎない。

 

したがって、本訴における主張が、本件立替金が真実ないにもかかわらず、あたかも存在したかのごとく場当たり的になされたものとの批判は失当である。

 

  2 同2のうち、雪夫の昭和四八年分ないし昭和五四年分の所得税の確定申告における所得金額の累計が一億九五三四万余円であり、原告の昭和四八年分ないし昭和五四年分の所得税の確定申告における所得金額の累計が六六四万九〇〇〇円であることは認めるが、その余は否認又は争う。

 

第三 証拠

   証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

 

       

 

 

理   由

 

 

 

 一 請求原因1(処分等の経緯)の事実は、当事者間に争いがない。

 二 そこで、本件決定及び本件無申告加算税賦課決定の適法性について検討する。

  1 原告が、昭和五四年六月二〇日、三菱銀行成城支店において、雪夫名義の定期預金の満期による払戻金二八四四万六五四四円を原告名義の定期預金とし、さらに、昭和五四年六月二一日、協和銀行原宿支店において、雪夫名義の定期預金の満期による払戻金一六〇一万四七五三円を原告名義の定期預金としたことは、当事者間に争いがない。

  2 被告は、原告が右のとおり雪夫から利益を受けたことにつき、雪夫に対しその対価を支払った事実が認められないから、相続税法九条の規定に基づき、右利益の享受は贈与とみなすべきであると主張する。

    この点について、原告は、昭和三九年ころ以来、雪夫の支払うべき生活費、交際費、医療費等を同人に代わって立て替えて支出してきたところ、右立替金の返済及び以後の立替金の先払いの趣旨で、雪夫名義の定期預金の満期による払戻金を原告名義の定期預金としたものであって、対価を支払わなかったのではないから、原告の右利益享受は贈与ではないと反論し、本件立替金の内容につき、その総額が約一億一三五六万円で、その内訳は、(一)生活費が約三二一〇万円、(二)歯科治療費が約一〇〇〇万円、(三)入院療養中の交際費、飲食費等が約二四〇〇万円、(四)入院療養費、付添費等が約三四六三万円(五)ホテル大東館宿泊料等が約二三〇万円、(六)雪夫の散髪代が約一〇五三万円であると主張するので、これらの項目毎に検討する。

 

   (一) 生活費について、原告は、原告が雪夫と同居を始めた昭和四〇年から昭和五四年六月まで、一五年以上にわたって毎月約一五万円ないし六〇万円の生活費を立て替えて支出したところ、その合計額が約三二一〇万円であると主張し、原告本人尋問の結果(以下「原告の供述」という。)及びこれにより成立の認められる甲第一九号証(原告の陳述書(一)。以下「原告の陳述書」という。)には右主張に沿う部分がある。

 

しかしながら、原告の主張では、原告と雪夫の毎月の生活費が具体的にどのように支出され、その総額がいくらだったのか、原告と雪夫は各月の生活費をどういう割合で負担する約束だったのか、原告がその負担割合を超える金員を生活費として支出したのか、その支出はいつ、どこで、どのようにしてなされたのか、雪夫が原告の負担割合を超える金員を立替金として返済する旨をいつ、どこで、どのように約したのかなどの内容が全く明らかではない。

 

また、原告の供述や陳述書も同様に具体性に乏しく、到底原告の主張を補うものということができないものであり、そのほか、原告の主張の裏付けとなる確かな証拠は全く存在しないのみならず、

 

雪夫が昭和四〇年以前から朝日新聞社等に勤務し、毎月相当額の給与の支払を受け(雪夫の昭和四八年分ないし昭和五四年分の所得税の確定申告における所得金額の累計が、一億九五三四万余円であることは、当事者間に争いがない。)、

 

原告に対し、昭和四三年から昭和五四年までの間、毎月、最初は必ずしも多額ではなかったが、後にはかなりの程度の金額の生活費を渡していたことは、原告が自ら主張するところであり、

 

原告の供述及び陳述書によれば、原告は、昭和四三年、雪夫との婚姻を機にクラブ経営を止め、以後は僅かな収入があったにすぎないことが認められる

 

(原告の昭和四八年分ないし昭和五四年分の所得税の確定申告における所得金額の累計は六六四万九〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。)のであるから、

 

原告が、前記のとおり約三二一〇万円もの膨大な額の生活費を立て替えて支出したと認めることはできないものといわざるを得ない。

 

 

   (二) 歯科治療費について、原告は、雪夫の入歯の費用約一〇〇〇万円を総て原告が立て替えて支出したと主張し、原告の供述は、当初はこれに沿っていたものの、最終的には、歯科医に支払ったかどうかわからない旨を供述するに至ったのであって、原告の主張に沿う証拠は全くないというべきである。

 

むしろ、成立に争いのない乙第六号証の一及び二並びに第七号証によれば、雪夫が、同人名義の銀行預金から払戻しを受けた金員で、その歯科治療費を支払ったことが認められる。そうすると、原告が雪夫の歯科治療費約一〇〇〇万円を立て替えたことは認められないというほかない。

 

   (三) 入院療養中の交際費・飲食費等について、原告は、雪夫は鹿教湯病院に入院療養中、毎夜のように見舞客らとホテルで飲食し、その費用は少なくとも月一二〇万円で、総額約二四〇〇万円になるところ、原告がこれを立て替えて支払った旨を主張し、原告の供述及びこれにより成立の認められる甲第二八号証の一ないし四にはこれに沿う部分がある。

 

しかし、入院患者が病院外で、このように多額の飲食等をすること自体異例のことであって、それぞれの支出日時、支出先、支出額等が全く明らかにされず、雪夫が立替金を返還する旨を約した経緯等も不明であって、ただ漠然とした原告の供述や前記証拠を直ちに信用することはできない。そのほか、原告の主張を裏付ける証拠は全くないのであって、これら飲食費等の合計約二四〇〇万円を原告が雪夫に代わって立替払いしたものと認めることは到底できない。

 

   (四) 入院療養費・付添費等について、原告は、これらの費用の総額約三四六三万円を立て替えて支払ったと主張する。しかし、原告の供述において、原告は、雪夫の入院費等は、雪夫の給与を支払に充て、足りない分は原告が補っていた旨を漠然と述べるだけであって、原告が支払った分について、その支払先、支払額、支払日等の内容は明らかではないし、そもそも原告が立て替えて支払い、雪夫がその返還を約したのかどうかも不明であり、原告が入院療養費約三四六三万円を立て替えて支払ったと認めることはできないものといわざるを得ない。

 

   (五) ホテル宿泊料等について、原告は、約二三〇万円を立て替えて支払ったと主張するが、原告の供述によれば、この宿泊費には、雪夫らの食事代のほか、原告自身の宿泊代が含まれていることが認められるのであって、雪夫の支払うべき宿泊費等約二三〇万円を原告が立て替えて支払ったことを窺うことのできる証拠は何もない。

 

   (六) 雪夫の散髪代について、原告は、雪夫は昭和四〇年から昭和五四年七月一五日までの間、毎日散髪に行き、その約五二六五日分の散髪代合計約一〇五三万円を原告が立て替えて支払ったと主張し、原告の供述には、雪夫は毎日、原告から散髪代を受け取って散髪に行き、これを支払っていた旨を述べる部分がある。

 

しかし、このようなことは、それ自体としても不自然で直ちに信用することができないものであるうえ、

 

この供述には裏付けとなる証拠が何もない。

 

さらに、原告がハワイに一か月単位で数回出かけていたことは原告の供述で明らかであり、また、雪夫がかなりの期間、病院で入院生活を送っていたことは原告が主張するとおりであって、

 

雪夫が昭和四〇年から昭和五四年七月一五日までの間、毎日原告から散髪代を受け取って散髪に行くことはあり得ないという事情もある。

 

そうすると、原告が雪夫の散髪代約一〇五三万円を立て替えて支払ったことは認められないというべきである。

 

     以上のとおり、原告が主張する立替払いの項目は、いずれも認められないものといわざるを得ない。

 

 

 

  3 そうすると、原告は、対価を支払わないで、雪夫から定期預金の払戻金合計四四四六万一二九七円の利益を受けたものというべきであるから、相続税法九条の規定に基づき、原告が雪夫から当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額四四四六万一二九七円を贈与により取得したことになるというべきである。

 

  4 相続税法二一条の五の規定により、右原告が贈与により取得した財産の価額四四四六万一二九七円から六〇万円を控除し、右控除後の課税価格四三八六万一〇〇〇円(国税通則法一一八条一項に従い、一〇〇〇円未満の金額は切捨て)について、相続税法(ただし、昭和六三年一二月法律第一〇九号による改正前のもの)二一条の七の規定により別表記載のとおり計算した合計金額である贈与税の額は、二六〇〇万七七〇〇円となる。そうすると、これと同額の贈与税の額を決定した本件決定は適法であるというべきである。

 

  5 本件決定は適法であるから、国税通則法(ただし、昭和五九年三月法律第五号による改正前のもの)六六条一項の規定により、二六〇〇万円(同法(ただし、昭和五九年三月法律第五号による改正後のもの)一一八条三項に従い、一万円未満の金額は切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額である二六〇万円に相当する無申告加算税を課した本件無申告加算税賦課決定も適法である。

 

 三 よって、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 

    東京地方裁判所民事第二部

        裁判長裁判官  宍戸達徳

           裁判官  北澤 晶

           裁判官  小林昭彦