みなし贈与(2)

 

 

所得税更正処分取消等請求控訴事件

 

 

 

【事件番号】 大阪高等裁判所判決/平成26年(行コ)第6号

 

【判決日付】 平成26年6月18日

 

【判示事項】

 

1 父親の死亡に伴い父親が会員であった社団法人の共済制度に基づき受給した死亡共済金は,相続税法9条のいわゆるみなし贈与財産に該当しないとされた事例

      

 

2 父親の死亡に伴い父親が会員であった社団法人の共済制度に基づき受給した死亡共済金を一時所得として所得税の課税対象とするに際し,納付済みの共済負担金を控除しなかったことに違法がないとされた事例

 

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

 

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 泉大津税務署長が控訴人に対して平成23年6月3日付けでした控訴人の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額3850万3358円及び納付すべき税額580万9400円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

 1 本件は,平成20年分の所得税に係る更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と合わせて「本件更正処分等」という。)を受けた控訴人が,被控訴人に対し,本件更正処分は,社団法人A(以下「A」という。)の会員であった控訴人の父死亡に伴いAの事業の1つである共済制度に基づき控訴人が受給した同死亡に係る死亡共済金を,いわゆるみなし贈与財産とせず,控訴人の一時所得として所得税の課税対象とした違法があり,また,仮に同共済金が一時所得に該当するとしても,一時所得の金額の算定に当たって同共済金を得るために要した負担金の合計額を控除しなかった違法があると主張して,本件更正処分の一部取消しを求めるとともに,違法な本件更正処分を前提として過少申告加算税を課した本件賦課決定処分もまた違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

   原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人がこれを不服として控訴した。

 2 法令等の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」1ないし3(原判決2頁16行目から11頁末行まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

  (1) 原判決7頁19行目の「(甲2,乙2)」を削除する。

  (2) 同7頁23ないし24行目及び8頁1行目の「本件共済金の受給に対する相続税法9条の適用の有無」をいずれも「本件共済金の受給が,相続税法9条に規定するいわゆるみなし贈与に該当し,所得税法9条1項15号により非課税所得となるか否か」に改める。

  (3) 同8頁2行目の末尾で改行し,次のとおり加える。

   「 本件共済金の受領は,控訴人が,Bの死亡に伴い初めて発生した死亡共済金の給付を受けるための請求権を原始的に取得し,自らその権利を行使したことによるものであって,Bの財産の実体が減少することによって財産上の利益を与えられたわけではないので,民法上の贈与と同視することはできず,相続税法9条のみなし贈与に該当しないから,所得税法9条に規定する非課税所得に該当しないことが明らかである。」

  (4) 同9頁3行目の末尾で改行し,次のとおり加える。

   「 本件共済金の受領は,控訴人がBの死亡という何らの経済的負担を伴わない原因に基づいてAに対する請求権を取得したことで得た利益であり,Bが本件共済金の受給権者を控訴人に指定したことによって控訴人に利益を受けさせたものであるから,Bの死亡時において控訴人がBから贈与により取得したものとみなされるので,所得税法9条に規定する非課税所得に該当する。」

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。

   その理由は,2のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1ないし4(原判決12頁2行目から15頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

 2 原判決の補正

  (1) 原判決12頁2行目の「本件共済金の受給に対する相続税法9条の適用の有無」を「本件共済金の受給が,相続税法9条に規定するいわゆるみなし贈与に該当し,所得税法9条1項15号により非課税所得となるか否か」に,7行目の「受けたさせた」を「受けさせた」に,8ないし9行目の「法律的には」を「私法上は」に,10行目の「法律関係」を「私人間の法律関係」に改める。

  (2) 同12頁16ないし17行目の「財産の減少によって,間接的に」を「財産が減少し」に,20行目の「当該経済的利益を」から22行目の「必要がある」までを「贈与と同様の経済的利益の移転があったこと,すなわち,一方当事者が経済的利益を失うことによって,他方当事者が何らの対価を支払わないで当該経済的利益を享受したことを要する」に改める。

  (3) 同13頁7行目の冒頭から8行目の末尾までを「Bが負担金に相当する経済的利益を失うことによって,死亡共済金の受給権者に指定された控訴人が何らの対価の支払なくして上記経済的利益を享受したものということはできず,Bと控訴人との間に贈与と同様の経済的利益の移転があったとは認められない。」に改めた上で改行し,次のとおり加える。

   「 なお,控訴人は,負担金が本件共済金以外の共済金の原資にもなり得るとしても,これが負担金の納付と本件共済金の受給との間における贈与と同様の経済的利益の移転を否定する理由にはならず,

 

共済制度の性質上,全体として払い込まれる負担金(その運用による利益等を含む。)の額と支給される共済金の額は均衡しているのであるから,

 

負担金の納付と本件共済金の受給との間には贈与と同様の経済的利益の移転が認められる旨主張する。

 

しかし,Bが本件共済制度に加入して本件負担金を納付しなければ,控訴人が本件共済金を受領できなかったということはできるが,

 

前提事実のとおり,本件共済制度の負担金,その果実,手数料及びその他の原資は,福祉共済基金に組み入れられた上で,

 

同基金が死亡共済金等の各種共済金等の支出に充てられていること,

 

死亡共済金等の各種共済金の額は,会員である期間の長短や納付された負担金の総額の多寡にかかわらず,

 

45歳未満で死亡した会員の死亡共済金の額が増額される場合を除き,

 

いずれも定額であることなどに鑑みると,

 

Bが納付した本件負担金に相当する経済的利益が控訴人に移転したという関係にはないから,

 

 

本件負担金の納付と本件共済金の受給との間に,贈与と同様の経済的利益の移転があったということはできない。

 

 

  (4) 同13頁20行目の「,負担金」から21行目の「質的な違いがある」までを「異なり,Cの遺族年金の受給は,会員の払い込んだ保険料に相当する経済的利益が遺族年金として遺族に移転したものであり,贈与と同様の経済的利益の移転があったと認められる」に改める。

 

  (5) 同13頁23行目の「い。」を「く,所得税法9条に規定する非課税所得には該当しない。」に改める。

 

  (6) 同14頁10行目の「ここで,」から16行目の末尾までを

 

「その趣旨は,一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応じた課税を図るため,一時所得に係る収入のうち,その収入を得た個人の担税力を減殺させる支出に当たる部分を一時所得の金額の計算上控除することにあるから,

 

「収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」とは,

 

その収入に直接対応する支出に限られ,その収入との個別的対応関係が不明な支出は含まれないと解すべきである。」に改める。

 

 

  (7) 同14頁22行目の冒頭から23行目の末尾までを「負担金の納付は,死亡共済金との個別的対応関係が明らかでなく,死亡共済金の受給に直接対応する支出ではないといわざるを得ず,一時所得の金額の計算上,本件負担金を控除することはできない。」に改めた上で改行し,次のとおり加える。

 

   「 これに対し,控訴人は,所得税法34条2項にいう「直接要した金額」に当たるというためには,収入を得るために必要不可欠な支出であったといえれば十分であり,本件共済金は,BがAの共済制度に加入しなければ支給を受けられなかったものであり,共済制度に加入することは負担金の納付義務を負うということであるから(甲1,A共済規則8,9条),

 

本件共済金を受給するためには本件負担金の納付が不可欠であったといえるので,本件負担金は,上記「直接要した金額」に当たり,一時所得の金額から控除されるべきである旨主張する。

 

 

しかし,所得税法34条2項については上記のとおり解すべきであって,これと異なる控訴人の上記見解は採用できず,

 

本件共済金を受給するために本件負担金の納付が不可欠であったとしても,本件負担金の納付は,本件共済金の受給との個別的対応関係が明らかでないから,上記「収入を得るために支出した金額」には含まれないといわざるを得ない。」

 

 

  (8) 同14頁24行目の「以上に対し,」を「次に,」に改め,15頁5行目の末尾の次に「この点につき,控訴人は,一般的な生命保険契約の保険料については,

 

①死亡保険金に限らず満期保険金や保険会社の運営に係る諸経費の原資になるものなどが理論上考えられ,

 

②貯蓄性の高い保険(積立型)とそうではない保険(掛捨型)のいずれにおいても払い込まれた保険料の額と死亡時に支給される保険金の額が必ずしも連動するものではないが,

 

上記「直接要した金額」に当たるものとして,一時所得の金額から控除することが認められている旨主張する。

 

しかし,所得税法施行令183条2項2号は,生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額に計算について,

 

当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は,その年分の一時所得の金額の計算上,支出した金額に算入すると定めているが,

 

生命保険契約等に基づく一時金にかかる一時所得は,他の一時的な所得と比べて所得発生の態様が著しく異なることを考慮して

 

所得計算上の総収入金額,支出した金額について特別の規定を設けたのである(乙9)から,これによって所得税法34条2項の解釈が左右されるものではない。」を加える。

 

第4 結論

  以上の次第で,控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。

  よって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

    大阪高等裁判所第12民事部

        裁判長裁判官  森 宏司

           裁判官  河田充規

           裁判官  秋本昌彦