みなし贈与(1)

 

 

所得税更正処分取消等請求事件

 

 

 

【事件番号】 大阪地方裁判所判決/平成24年(行ウ)第280号

 

【判決日付】 平成25年12月12日

 

【判示事項】

 

1 父親の死亡に伴い父親が会員であった社団法人の共済制度に基づき受給した死亡共済金は,相続税法9条のいわゆるみなし贈与財産に該当しないとされた事例

      

2 父親の死亡に伴い父親が会員であった社団法人の共済制度に基づき受給した死亡共済金を一時所得として所得税の課税対象とするに際し,納付済みの共済負担金を控除しなかったことに違法がないとされた事例

 

 

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

第1 請求

   泉大津税務署長が原告に対して平成23年6月3日付けでした原告の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額3850万3358円及び納付すべき税額580万9400円をそれぞれ超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

 

第2 事案の概要

   本件は,平成20年分の所得税に係る更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と合わせて「本件更正処分等」という。)を受けた原告が,被告に対し,本件更正処分は,社団法人A(以下「A」という。)の会員であった原告の父死亡に伴いAの事業の1つである共済制度に基づき原告が受給した同死亡に係る死亡共済金を,いわゆるみなし贈与財産とせず,原告の一時所得として所得税の課税対象とした違法があり,また,仮に同共済金が一時所得に該当するとしても,一時所得の金額の算定に当たって同共済金を得るために要した負担金の合計額を控除しなかった違法があると主張して,本件更正処分の一部取消しを求めるとともに,違法な本件更正処分を前提として過少申告加算税を課した本件賦課決定処分もまた違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

 

 1 法令等の定め

  (1) 所得税法等の定め

   ア 所得税法9条1項(平成22年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)は,所得税を課さない所得として,「相続,遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和25年法律第73号)の規定により,相続,遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」と規定している(所得税法9条1項15号。なお,死亡共済金がこれに該当するか否かが本件の争点の1つである。)。

   イ 所得税法34条1項は,「一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」と規定し,同条2項は,「一時所得の金額は,その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し,その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。」と規定している。

     なお,上記特別控除額は同法34条3項によって50万円とされ,これらを控除した額の2分の1に相当する金額が,一時所得の金額となる旨規定されている(同法22条2項2号)。

   ウ 所得税法施行令183条2項(平成23年政令第358号による改正前のもの。以下同じ。)は,生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算上,当該生命保険契約等に係る保険料等の総額は,支出した金額に算入する旨規定している。

  (2) 相続税法の定め

   ア 相続税法5条1項は,生命保険契約や損害保険契約について死亡を伴う保険事故が発生した場合において,これらの契約に係る保険料の全部又は一部が保険金受取人以外の者によって負担されたものであるときは,これらの保険事故が発生した時において,保険金受取人が,その取得した保険金(当該損害保険契約の保険金については,政令で定めるものに限る。)のうち当該保険金受取人以外の者が負担した保険料の金額のこれらの契約に係る保険料でこれらの保険事故が発生した時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分を当該保険料を負担した者から贈与により取得したものとみなす旨を規定している。

   イ 贈与又は遺贈によって取得したとみなされる財産については,相続税法5条ないし8条及び9条の2ないし6において個別的に規定されているところ,同法9条は,これらに規定する場合を除くほか,「対価を支払わないで,又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては,当該利益を受けた時において,当該利益を受けた者が,当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には,その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には,遺贈)により取得したものとみなす。」と規定している。

  (3) 過少申告加算税に関する法令の定め

    国税通則法65条1項は,期限内申告書(同法17条2項)が提出された場合において,修正申告書(同法19条3項)の提出又は更正があったときは,当該納税者に対し,その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定する。

 2 前提事実(当事者間に争いがないか,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)

  (1) 当事者等

    原告は,歯科医師であり,Aの会員であるところ,昭和59年,歯科医師でありAの会員である父B(以下「B」という。)から歯科医業を承継した。

  (2) 本件共済制度(個別に掲げる証拠のほか,甲1)

   ア 目的等

     Aは,会員の福祉に関する事業として,会員の相互扶助の理念に則し,会員の福祉共済を図ることを目的とした福祉共済制度(以下「本件共済制度」といい,実施に必要な規則を定めた「社団法人A福祉共済規則」を,以下「本件共済規則」という。)を行うこととし,同目的を達成するため,会員の死亡,火災,災害又は障害に関して必要な給付を行い,又は会費負担金の立替払い及び死亡共済金の前払いを行うなどしている(乙1)。

   イ 負担金

     Aの会員は,入会を承認された日の属する月から退会の日の属する月まで毎月8500円の福祉共済負担金(以下「負担金」という。)を納付しなければならないが,本件共済制度に30年以上在籍し,かつ,満80歳以上の会員については,その誕生月の属する年度末まで納付するものとされている(本件共済規則8条,9条)。なお,一旦納付された負担金は,理事会の議を経て,会長が特別の事情があると認めたときを除くほか,返還されることはない(同規則13条)。

   ウ 給付

     本件共済制度による給付は,死亡共済金,火災共済金,災害共済金及び障害共済金の4種類であり(本件共済規則14条),会員は,負担金の12か月分に相当する額の納付を怠った場合は受給資格を失うものの,Aへの入会を承認された日から給付を受ける権利を取得することとされている(同規則15条,16条)。

     死亡共済金の額は,原則として800万円であるが,45歳未満で死亡した会員の死亡共済金の額は1000万円である(同規則25条)。火災共済金,災害共済金及び障害共済金の額はいずれも800万円である(同規則26条,29条,32条)。

     死亡共済金は,会員が指定した受給権者に支給するものとし,その受給順位は指定の順位とされ,その指定がない場合は,会員の配偶者,子,孫,直系尊属(親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。),兄弟姉妹,兄弟姉妹の子を受給権者とし,その受給順位は,この順位とする(同規則24条)。

     死亡共済金の給付を受けようとする死亡共済金の受給権者は,死亡共済金請求書兼受領証及び死亡診断書等を所属する都道府県Aを経てAに提出しなければならない(乙3)。

   エ 前払い

     疾病その他特別の理由により会費及び負担金を納付することが極めて困難な場合は,当該会員の申請により立替払いを行うことができるところ(本件共済規則33条),立替払いの適用を承認された会員又は会費及び負担金の納付義務を終了し,立替払いの適用が相当であると認定された会員は,本人の申請により,年額30万円以下の死亡共済金の前払いを受けることができる(同規則35条1項)。

     また,満80歳以上の年齢に達した会員は,当該会員の申請により,一時金として100万円の死亡共済金の一部前払いを受けることができる(同規則35条2項)。

   オ 福祉共済基金

     本件共済制度の負担金,その果実,手数料及びその他の原資は,「福祉共済基金」と称し,社団法人A財産の管理及び会計規則に基づき,別途会計とされ(本件共済規則37条),同基金は,各種共済金,立替払金及び死亡共済金前払金の支出に当てられ,他に流用,転貸又は担保にすることができない(同規則38条)。

  (3) 負担金の納付

     Bは,本件共済制度に加入していたところ,加入からBが満80歳に達した月の属する年度末に納付義務が免除されるまでの同人の負担金(合計270万2400円。以下「本件負担金」という。)はいずれも納付された(弁論の全趣旨。なお,原告は,そのうち昭和59年4月分から上記免除までの負担金総額173万4000円については,原告の預金口座から振替納付されており(以下「本件振替納付負担金」という。),原告が実質的に負担したと主張している。)。

  (4) Bの死亡

    Bは,平成20年5月8日,死亡した。

  (5) 本件共済金の受給

    原告は,Bによって死亡共済金の受給権者に指定されていたことから,平成20年5月23日付けでAに対して死亡共済金の請求を行い,同年6月12日,B死亡に係る死亡共済金として800万円を受領した(以下「本件共済金」という。)。

  (6) 確定申告

    原告は,平成21年3月13日,泉大津税務署長に対し,平成20年分の所得税について,別表「確定申告」欄記載のとおり,本件共済金を平成20年分の所得金額に含めず,確定申告書を提出した。

  (7) 本件更正処分

    泉大津税務署長は,平成23年6月3日付けで,別表「更正処分等」欄記載のとおり,本件共済金は原告の平成20年分の一時所得に該当するとし,かつ,本件負担金を控除しないで本件更正処分等を行った。

  (8) 異議申立て等

    原告は,平成23年7月29日,本件更正処分等を不服として,泉大津税務署長に対して異議申立てをしたが,同年9月28日付けで棄却されたため,さらに,同年10月26日,国税不服審判所長に対して審査請求をしたが,平成24年7月18日付けで,これが棄却された(甲2,乙2)。

  (9) 本件訴訟の提起

    原告は,平成24年12月18日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

 3 争点及びこれに関する当事者の主張

   本件の主たる争点は,(1) 本件共済金の受給に対する相続税法9条の適用の有無,(2) 本件共済金が一時所得に当たる場合,その金額の計算上,本件負担金を控除すべきか否かであり,争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

  (1) 本件共済金の受給に対する相続税法9条の適用の有無

  (被告の主張)

   ア 相続税法9条は,贈与の意思の有無によって税負担の公平が失われることがないようにするため,財産を取得した事実によって実質的に民法上の贈与と同視できるような経済的効果が生ずる場合に,その取得した財産を贈与又は遺贈により取得したものとみなして,贈与税又は相続税を課税することとしたものである。したがって,同条が適用されるためには,利益を受けさせた者が,利益を受けた者に対し,実質的に民法上の贈与(自己の財産の実体を減少させることにより相手に財産的利益を与えること)と同視し得るような財産上の利益を受けさせたことが必要である。

   イ 本件共済制度の負担金は一旦納付されると会員がAを退会しても原則として返還されず,その果実,手数料及びその他の原資とともに福祉共済基金に組み入れられて各種共済金の原資となる上,各共済金の額は会員である期間の長短や納付された負担金の多寡にかかわらず定額である。そうすると,負担金の額は死亡共済金を含む全給付を総合して決定されていると想定される。

     そのような負担金の性質に加えて,会員はAへの入会を承認された日から本件共済規則による給付を受ける権利を取得するとされているところ,死亡共済金については,会員ではなく会員の指定した受給権者に支給されること,また,受給権者の請求に基づいて共済金が給付されること等に照らすと,死亡共済金については,前払いの場合を除き,会員の死亡によって,会員ではなく,受給権者がその給付を受ける権利を固有の権利として原始的に取得し,その権利を行使したことにより受領したことになるものと解されるのであり,会員の財産に減少はない。

     さらに,死亡共済金は,会員の福祉を図る本件共済制度の一環として支給されるものであり,受給権者の指定は,財産上の権利の移転を目的とする法律行為ともいえない。

   ウ そうすると,本件共済金の受給について相続税法9条の適用はない。

  (原告の主張)

   ア 相続税法9条は,供与者の法律行為の有無にかかわらず,受益者の受けた利益に着目して,贈与とみなす旨を規定しているのであり,供与者が財産上の利益を受けさせたとの要件(贈与との同質性)は不要である。同法5条に規定される保険金に係る保険料のみなし贈与についても,供与者において受益者が得た利益に見合う自己の財産の実体の減少はない(保険料と保険金とは必ずしも一致しない)が,それでも保険金の受領についてはみなし贈与財産に該当する旨を規定しているのであるから,一連のみなし規定である同法5条と9条とで,利益に見合う財産減少が供与者に必要か否かが異なるというのは解釈として失当である。

   イ 死亡共済金は,受益者が原始的に受給権を取得するようにも見えるが,これは負担金の拠出者による第三者のためにする契約に基づき,受給権者が会員による受給権者の指定等によって受給権を取得するとも解し得るのである。そうすると,このような実質的な法律関係からすれば,本件共済金が贈与(遺贈)とみなされることは,むしろ当然のことである。Cの遺族年金の受給権も,共済加入者の死亡によって遺族に共済金が支給されるという点で本質に差異がないところ,こちらは相続税の課税対象として取り扱われており,本件共済金がこれと異なる扱いを受ける合理的な理由はない。

  (2) 本件共済金が一時所得に当たる場合,その金額の計算上,本件負担金を控除すべきか否か。

  (被告の主張)

   ア 所得税は,所得の性質に応じて担税力を測定して課税するものであるとるところ,偶発的な所得であり,原則として個々の独立した行為又は原因に基づいて発生する一時所得の金額の算定においては,収入と支出との個別対応計算が求められている(所得税法34条2項)。そして,これを法文上明確化した昭和40年の改正経緯に照らすと,当該個別対応計算の程度は厳格なものと解すべきである。また,一時所得に係る支出には多かれ少なかれ一種の消費支出としての側面があり,その支出は,それが収入を生んだ場合に限って控除を認めるべきであるとの建前をとっているものと考えられることからすると,やはり当該個別対応計算は厳格でなければならない。

   イ 所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには,それが当該収入を得た個人において自ら負担したものといえる場合でなければならないと解される(最高裁平成21年(行ヒ)第404号同24年1月13日第二小法廷判決・民集66巻1号1頁参照)。

   ウ 本件共済規則によれば,一旦納付された負担金は,会員がAを退会した場合であっても原則返還されず,その果実,手数料及びその他の原資とともに福祉共済基金に組み入れられ,会計規則に基づき別途会計として管理されており,上記基金から本件共済制度による死亡共済金,火災共済金,災害共済金及び障害共済金の各共済金を支出するものとされ,各共済金は,会員である期間の長短や納付された負担金の総額の多寡にかかわらず,いずれも定額である。さらに,会員が納付する負担金の額は,死亡共済金を含む全給付を総合して決定され,当該負担金,その果実,手数料及びその他を原資として福祉共済基金に組み入れた上で共済の運営を一本化し,各共済金の給付が行われている。このような本件負担金の性質に鑑みると,本件負担金のうち,本件共済金の原資として積み立てられた部分を明確に区分することはできず,本件共済金と本件負担金との間に個別的対応関係を肯定することはできない。また,原告がBから事業を承継したという事由をもって,原告が自ら本件負担金を支出したと同視することはできないから,これを控除することはできない。さらに,事業を継承した後であっても,負担金を納付すべき者はあくまでも会員であるから,事実上,原告がBに代わって負担金を納付していた部分(本件振替納付負担金)についても,主体の同一性が認められないから,控除することはできない。

  (原告の主張)

   ア 一時所得の算定に当たって収入と支出の個別対応が求められる趣旨は,収入との結びつきが乏しい消費的な支出を除く点にあるにすぎないから,保険料や共済掛金の類については,保険金や共済金との間に「ひも付き」の個別対応がないとしても,一定の対応関係があれば個別対応の範囲に含まれると解すべきである(所得税法施行令183条2項参照)。また,担税力を増加させる利得でない部分について控除が認められるべきことからしても同様に解される。

   イ 本件共済金は,生命保険契約に基づく一時金と同様に,払い込まれた負担金を原資として支給される収入であることから,収入と負担金との間には一定の結びつきがある。また,利得のうち共済金に対応する部分は担税力を増加させてもいないし,本件負担金の支払は共済金給付に向けてされているのであるから消費支出でもない。むしろ,本件負担金を控除しなければ,担税力を増加させない利得に課税することになる。このことはCの遺族年金の受給権について,本件負担金に相当する掛金部分が一時所得から控除されると解されていることからも明らかである。

   ウ 以上を前提とすると,原告は,実質的には本件共済制度に基づく共済金に関するBの地位を承継したと考えられるから,本件負担金の全額について一時所得の金額の計算上控除が認められるべきであるし,少なくとも原告が事業承継後に自ら実質的に負担した本件振替納付負担金については控除が認められるべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

 1 争点(1)(本件共済金の受給に対する相続税法9条の適用の有無)について

 

  (1) 相続税法9条本文は,同法5条から8条まで及び9条の2から9条の6までの規定によって贈与又は遺贈により取得したものとみなされる場合を除くほか,対価を支払わないで又は著しく低い価額の対価で利益を受けた者がいる場合に,当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を,当該利益を受けたさせた者から贈与又は遺贈により取得したものとみなして,贈与税又は相続税を課税することとした規定であるところ,

 

その趣旨は,法律的には贈与又は遺贈によって財産を取得したものとはいえないが,そのような法律関係の形式とは別に,実質的にみて,贈与又は遺贈を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に,租税回避行為を防止するため,税負担の公平の見地から,贈与契約又は遺言の有無にかかわらず,その取得した経済的利益を,当該利益を受けさせた者からの贈与又は遺贈によって取得したものとみなして,贈与税又は相続税を課税することとしたものと解される。

 

 

    上記のような同法9条の趣旨に鑑みれば,一方当事者の何らかの財産の減少によって,間接的に,他方当事者について財産の増加や債務の減少があったというだけでは,およそ贈与と同じような経済的実質があるとは言い難いことは明らかであって

 

同条にいう「対価を支払わないで,・・・利益を受けた場合」というためには,当該経済的利益を受けさせた者の財産の減少と,当該経済的利益との間に,贈与と同視するに足る法的な因果関係が存在する必要があると解するのが相当である。

 

 

  (2) これを本件についてみると,原告は,Bが共済福祉制度の負担金を支払い,死亡共済金の受給権者を原告と指定したことにより,Bの死亡時に原告が受給権を取得したことが,いわば第三者のためにする契約の結果とも解し得る等と主張して,本件に相続税法9条の適用があると主張する。

 

 

    しかしながら,前記前提事実(2)からも明らかであるとおり,本件共済制度に基づく死亡共済金は会員の相互扶助を目的とする各種共済金の1つであって,会員がAに納付する負担金も死亡共済金に関して個別に支払うのではなく,その金額は全ての共済金の受給資格に関するものとして一定とされ,共済金の額も会員が支払った負担金の額とは全く連動しない一定の額とされているのであり,退会の際は原則として返還されないというのであるから,負担金の納付と死亡共済金の受給との間に贈与と同視するに足る程度の法的な因果関係があるものとは認められない。

 

 

    これに対し,原告は,Cの遺族年金の受給権については,贈与財産として課税されていることから,同種の受給権である本件共済制度に基づく死亡共済金についても同様と解すべきであるとも主張するが,

 

証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,Cが会員に提供している医師年金は,会員が積み立てた保険料等をその積み立てた額に応じて当該会員が自ら受け取る積立型の私的年金であり,

 

会員が65歳に到達した場合に当該会員に対して支給される養老年金も基本的にはそれまでに払い込んだ保険料が支給されることとされ,

 

遺族年金の額も,会員が養老年金受給前であれば基本的には会員による払込済保険料と利息相当額が支給され,

 

養老年金受給開始後であれば養老年金の保証期間の残余給付期間に係る年金と同額が支給されることとなっていると認められるのであるから,

 

本件共済制度に基づく死亡共済金とは,負担金(保険料)と共済金(年金)の間に認められる因果関係において質的な違いがあるというべきであり,同様に論ずることはできない。

 

  (3) そうすると,本件共済金の受給について相続税法9条を適用する余地はない。

 

 

 2 本件共済金の一時所得該当性

 

   前記前提事実(2)イ,ウ及びオ並びに同(3)ないし(5)記載の各事実によれば,

 

本件共済金は,Bの死亡という偶発的な事由によって,受給権者と指定されていた原告に受給権が生じ,原告がこれを行使したことに基づき給付されたものであり,かつ,労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないと認められるから,原告の一時所得に該当するものと解される。

 

 

 3 争点(2)(本件共済金が一時所得に当たる場合,その金額の計算上,本件負担金を控除すべきか否か)について

 

 

  (1) 所得税法34条2項は,一時所得の金額について,その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し,その残額から一時所得の特別控除額を控除したものとする旨を規定しているところ,ここで,「収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」に限って控除することとした

 

趣旨は,一時所得となる収入の発生に関連してされた支出には,一般に,程度の差はあれ,所得の処分ないし一種の消費支出としての側面があると解されることから,一時所得を得るために要した支出についてはそれによって収入を生じた場合に限って控除をすることが合理的であるため,これを明確にする点にあると解するのが相当である。

 

 

  (2) これを本件についてみると,前記1(2)記載のとおり,本件共済制度に基づく死亡共済金は会員の相互扶助を目的とする共済金の1つであって,

 

会員がAに納付する負担金も,死亡共済金に関して個別に支払われるものではなく,

 

会員が支払った負担金の額と死亡共済金の額とは全く連動していないのであって,

 

さらに,退会すれば返還も受けられないというのであるから,かかる負担金の納付をもって本件共済金の取得に直接要した費用に当たるということはできない。

 

 

    以上に対し,原告は,本件共済制度に基づく死亡共済金は,生命保険契約に基づく一時金と同様に,払い込まれた負担金を原資として支給される収入であることから,収入と負担金との間には一定の結びつきがある等と主張するが,

 

上記説示のとおり,実際に支払われる死亡共済金の額は会員が支払った負担金の額とは連動していないのであるから,

 

前記前提事実(2)オ記載のとおり,死亡共済金が,負担金の組入れ先である福祉共済基金から支給されていたとしても,

 

当該負担金の納付をもって本件共済金の取得に直接要した費用と認めることはできない。

 

 

 

    また,原告は,少なくとも原告が振替納付した本件振替納付負担金については原告自身が負担しているからその部分は一時所得から控除されるべきとも主張するが,

 

負担金の納付をもって死亡共済金の取得に直接要した費用とはいえないことは上述のとおりであって,

 

この点は,仮に会員以外の者が会員の負担金を振り替えて納入する場合であっても,何ら変わるところはないから,原告の主張は採用し得ない。

 

  (3) そうすると,一時所得の金額の算定にあたって,本件負担金を控除することはできない。

 

 4 本件更正処分等の適法性

   以上を踏まえて,原告の平成20年分の所得税に関し,原告が納付すべき税額を算定すると,証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,その額は別紙のとおりとなると認められる。

   そうすると,差引納付すべき税額を150万円とする本件更正処分は適法であり,また,同150万円に100分の10を乗じた15万円の過少申告加算税を賦課した本件賦課決定処分も適法と認められる。

 

 

 5 結論

   以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

    大阪地方裁判所第7民事部

        裁判長裁判官  田中健治

           裁判官  三宅知三郎

           裁判官  木村朱子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(別紙)

       税額の算定根拠

(1) 課税総所得金額

 ア 事業所得の金額                3850万3358円

   原告に係る平成20年分の所得税の確定申告書(以下「確定申告書」という。)に事業所得の金額として記載された金額

 イ 給与所得の金額                        0円

   確定申告書に給与所得の金額として記載された金額

 ウ 一時所得の金額                     375万円

   本件共済金の金額800万円から特別控除額50万円を控除した金額の2分の1に相当する金額

 エ 総所得金額                  4225万3358円

   ア及びウの合計額

 オ 所得控除の合計額                211万3280円

   確定申告書の「所得から差し引かれる金額」の「合計」欄に記載された金額

 カ 課税総所得金額                    4014万円

   上記エの金額から上記オの金額を控除した後の金額から国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てたもの

(2) 差引納付すべき税額

 ア 課税総所得金額に対する税額              1326万円

   上記(1)カの課税総所得金額に所得税法89条の規定を適用して算出した金額

 イ 源泉徴収税額                  296万1735円

   確定申告書に源泉徴収税額として記載された金額

 ウ 申告納税額                  1029万8200円

   上記アの金額から上記イの金額を控除した後の金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満を切り捨てたもの)

 エ 予定納税額                   298万8800円

   確定申告書に予定納税額として記載された金額

 オ 納付すべき税額                 730万9400円

   上記ウの金額から上記エの金額を控除した後の金額

 カ 差引納付すべき税額                   150万円

   上記オの金額から,確定申告書の「納める税額」欄に記載され,既に納付の確定している税額580万9400円を控除した金額