来料加工

 

 

所得税更正処分取消等請求事件、法人税更正処分取消等請求事件

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決

 

【判決日付】 平成24年7月20日

 

【掲載誌】  税務訴訟資料262号順号12009

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

       

 

事実及び理由

 

第1 請求

 1 第1事件

   緑税務署長が第1事件原告(以下「原告甲」という。)に対し平成20年6月30日付けでした原告甲の平成18年分所得税の更正処分のうち総所得金額4839万3500円、還付金の額に相当する税額4万2232円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 2 第2事件

   緑税務署長が第2事件原告(以下「原告乙」という。)に対し平成20年6月30日付けでした原告乙の平成18年分所得税の更正処分のうち総所得金額725万5348円、納付すべき税額18万8700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 3 第3事件

   神奈川税務署長が第3事件原告(以下「原告A」という。)に対し平成20年7月8日付けでした原告の平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額11億3741万3164円、納付すべき税額3億3124万9600円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 

 

 

 

第2 事案の概要等

 

 1 事案の概要

 

  (1) 第1事件及び第2事件の概要

 

    本件は、緑税務署長が、原告Aがその発行済株式の98%を保有し、原告甲及び原告乙がそれぞれ1%を保有するB(以下「B」という。)は、原告甲及び原告乙に関していわゆるタックスヘイブン対策税制である租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下「措置法」という。)40条の4第1項にいう特定外国子会社等に該当し、

 

他方で、その「主たる事業」である製造業を「主として」本店所在地国である香港において行っているとは認められず、

 

措置法40条の4第4項2号のタックスヘイブン対策税制の適用除外要件(いわゆる「所在地国基準」)を満たさないから、

 

原告甲及び原告乙の平成18年分の雑所得の金額の計算上、Bに係る措置法40条の4第1項所定の課税対象留保金額に相当する金額が総収入金額に算入されるとして、

 

平成18年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定を行ったのに対して、

 

原告甲及び原告乙が、Bは措置法40条の4第4項2号の適用除外要件を満たしており、措置法40条の4第1項の適用はない旨主張し、上記所得税の更正処分等は違法であるとして、それらの取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

  (2) 第3事件の概要

 

    本件は、神奈川税務署長が、

 

Bは、原告Aに関していわゆるタックスヘイブン対策税制である措置法66条の6第1項の特定外国子会社等に該当し、

 

他方で、その「主たる事業」である製造業を「主として」本店所在地国である香港において行っているとは認められず、

 

措置法66条の6第4項2号の適用除外要件(いわゆる「所在地国基準」)を満たさないから、

 

原告Aの平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成18年12月期」という。)の所得金額の計算上、Bに係る措置法66条の6第1項所定の課税対象留保金額に相当する金額が益金の額に算入されるとして、

 

平成18年12月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定を行ったのに対して、

 

原告Aが、Bは措置法66条の6第4項の適用除外要件を満たしており、措置法66条の6第1項の適用はない旨主張し、上記法人税の更正処分等は違法であるとして、それらの取消しを求めた事案である。

 

 

 

 2 関連法令等の定め

  (1) いわゆるタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)

   ア 措置法40条の4第1項

     居住者の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例について定めている措置法40条の4第1項は、同項各号に掲げる居住者に係る外国関係会社(その50%を超える発行済株式等をわが国の居住者や内国法人等が直接又は間接に保有している外国法人)のうち、その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(本店所在地国)におけるその所得に対して課される税の負担が我が国における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(特定外国子会社等)が、各事業年度において、その未処分所得の金額から留保したものとして、政令で定めるところにより、当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうち、その者の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接に保有する株式等に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する額は、その者の雑所得に係る収入金額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2か月を経過する日の属する年分のその者の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する旨規定している。

     そして、租税特別措置法施行令(平成18年政令第135号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)25条の19第1項は、本店所在地国におけるその所得に対して課される税の負担が我が国における法人の所得に対して課される税負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社とは、①法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社、②その各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社をいう旨規定している。

   イ 措置法66条の6第1項

     内国法人の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例について定めている措置法66条の6第1項は、同項各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等が、各事業年度において、適用対象留保金額を有する場合には、その適用対象留保金額のうち課税対象留保金額に相当する金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定している。

     そして、措置法施行令39条の14第1項は、特定外国子会社等について、措置法66条の6第1項に規定する政令で定める外国関係会社とは、措置法施行令25条の19第1項と同様に、①法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社、②その各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の100分の25以下である外国関係会社をいう旨規定している。

  (2) 適用除外

   ア 措置法40条の4及び66条の6(以下、これらの規定を併せて「本件各規定」という。)の各4項は、特定外国子会社等が次の①ないし④に掲げる要件のすべてを満たすときは、当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保金額については、本件各規定の各1項の規定を適用しない旨を定めている。

    ① その事業が、株式若しくは債券の保有、工業所有権等若しくは著作権等の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たるものとしていないこと(以下「事業基準」という。)

    ② 本店所在地国において、その主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有すること(以下「実体基準」という。)

    ③ 本店所在地国において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること(以下「管理支配基準」という。)。

    ④ その行う主たる事業の種類に応じて以下のa又はbに該当すること

     a 当該特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業又は航空運送業(以下「卸売業等」という。)に該当する場合には、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る関連者以外の者との間で行っていること(本件各規定の各4項1号。以下「非関連者基準」という。)

     b 当該特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業等以外の事業である場合、その事業を主として本店所在地国において行っている場合として政令で定める場合に該当すること(本件各規定の各4項2号。以下「所在地国基準」という。)

       これを受けた措置法施行令25条の22第5項3号及び39条の17第5項3号は、上記「政令で定める場合」とは、当該特定外国子会社等の主たる事業が卸売業等並びに不動産業及び物品賃貸業以外の事業に該当するときは、当該特定外国子会社等が各事業年度において行う主たる事業を主として本店所在地国において行っている場合である旨規定している。

   イ 特定外国子会社等の営む事業が措置法66条の6第4項1号又は措置法施行令39条の17第5項1号若しくは2号に掲げる事業のいずれに該当するかは、国税庁長官が発出した昭和50年2月14日付け直法2-2「租税特別措置法関係通達(法人税編)」(平成19年課法2-3による改正前のもの。以下「措置法通達」という。)66の6-17が「原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定する」と規定している。

 

 

 3 争いのない事実

  (1) 原告ら

   ア 原告Aは、横浜市●●区を本店所在地とし、Gの製造、真空蒸着、プラスチック成形、精密プレス板金等を業とする株式会社である。

   イ 原告甲及び原告乙は、平成17年中において、いずれも同社の役員を務めていた。

  (2) B

   ア Bは、平成●年●月に原告Aにより設立された、香港を本店所在地とする外国法人である。

   イ Bの平成17年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成17年12月期」という。)の終了時において、原告AはBの発行済株式総数の98%の株式を保有し、原告甲及び原告乙は、それぞれ同社の発行済株式総数の1%の株式を保有していた。

   ウ Bの平成17年12月期の所得に対して課される香港における租税の負担割合は25%以下であり、Bは、原告らに係る特定外国子会社等に該当する。

   エ Bは、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件のうち、事業基準、実体基準及び管理支配基準をいずれも満たしている。

  (3) C(以下「C」という。)

   ア Cは、平成●年●月に設立された、中華人民共和国(以下「中国」という。)広東省●●市を所在地とし、Gの組立等を業とする法人である。

   イ 原告A、B及びCの関係については、別紙1「当事者及び関係法人の関係図」記載のとおりである(なお、Bの「④完成品販売」先は、日本の原告Aのみならず、香港及び中国の顧客並びに日本、香港、中国以外の海外の顧客も存在する。)。来料加工とは、外国企業が中国の企業に加工を委託し、設備・原材料を無償提供した上で、でき上がった製品を原則として全量無償で引き取り、外国企業から中国企業に対しては、加工賃のみが支払われるという形態の委託取引をいう。

  (4) 原告らに対する更正処分等の経緯

   ア 緑税務署長が原告甲に対して平成20年6月30日付けでした平成18年分の所得税の更正処分(ただし、平成22年7月20日付け裁決により一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、上記裁決により一部取り消された後のもの)の経緯は、別表1-1「原告甲更正処分等の経緯」のとおりである。

   イ 緑税務署長が原告乙に対して平成20年6月30日付けでした平成18年分の所得税の更正処分(ただし、平成22年7月20日付け裁決により一部取り消された後のもの)及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、上記裁決により一部取り消された後のもの)の経緯は、別表2-1「原告乙更正処分等の経緯」のとおりである。

   ウ 神奈川税務署長が原告Aに対して平成20年7月8日付けでした原告Aの平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成18年12月期」という。)の法人税の更正処分(ただし、平成22年7月20日付け裁決により一部取り消された後のもの)の経緯は、別表3-1「原告A更正処分等の経緯」各記載のとおりである。

  (5) 被告が主張する税額算出過程

    被告が本件訴訟において主張する原告らの総所得金額、所得金額、納付すべき税額及び過小申告加算税の金額並びにその算出過程は、別紙2「本件各更正処分の根拠」のとおりであり、本件の争点に関する部分を除き、計算の基礎となる金額及び計算方法に争いはない。

 4 争点

   本件の争点は、タックスヘイブン対策税制の適用に関する以下の3点である。

  (1) Bは、その「主たる事業」を「主として」本店所在地国である香港で行っており、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件として本件各規定の各4項2号が定める「所在地国基準」(前記第2の2(2)ア④b参照)を満たしているといえるか。

  (2) Bの設立や事業遂行等に経済合理性があることにより、タックスヘイブン対策税制は適用されないと解すべきか否か。

  (3) 原告らに過少申告加算税が課されない「正当な理由」があるか。

 5 争点に関する当事者の主張

  (1) 争点(1)(Bは、その「主たる事業」を「主として」本店所在地国である香港で行っており、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件として本件各規定の各4項2号が定める「所在地国基準」を満たしているといえるか。)

   (原告らの主張)

   ア Bの「主たる事業」

     特定外国子会社等が営む「主たる事業」は、本件各規定の各4項の条文に則して、「卸売業等」か、「卸売業等以外の事業」かを判別することができれば十分であり、さらに進んで「製造業」か否かを判別することは求められていないから、所在地国基準該当性の判断において、Bの営む事業は「卸売業等以外の事業」であるとして行うべきである。そうすると、Bの「主たる事業」は、「卸売業等以外の事業」としてBが行っている事業であるから、それを前提としてBが「主として」業務を行う場所を検討すべきである。

     被告は、措置法通達66の6-17に従って、原則として日本標準産業分類を判定基準として特定外国子会社等が営む「主たる事業」が何かを判断すべきであり、Bの主たる事業は製造業であると主張するが、措置法通達66の6-17も、特定外国子会社等の営む事業が、措置法66条の6第4項1号又は措置法施行令9条の17第5項1号若しくは2号に掲げる事業のいずれかに該当するかどうかについて日本標準産業分類を基準として判定すべきであると規定しているだけであって、かかる分類の結果、措置法66条の6第4項2号に掲げられた「卸売業等以外の事業」に該当すると判定された事業について、さらに日本標準産業分類に従って具体的な業種判定をすることは、措置法通達66の6-17が定めるところと乖離している。

     また、仮に、特定外国子会社等の「主たる事業」を日本標準産業分類に基づいて判定するとしても、措置法通達66の6-17は、「原則として」日本標準産業分類に基づくというだけで、例外として同分類によっては業種判定ができない場合が存在する。特に、製造業に関しては、現代の新しく登場する業態に日本標準産業分類の対応が追い付いていないのであるから、被告が原告の「主たる事業」を同分類に拘泥して「製造業」であると判断したことは、現代の産業の実態を顧みない時代遅れで不適切なものである。

   イ 事業を「主として」香港で行っているか。

     そもそもタックスヘイブン税制の適用除外要件として「所在地国基準」が設けられている趣旨は、その地に資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っているか否かによって経済合理性の有無を判断し、経済合理性のある特定外国子会社等についてタックスヘイブン対策税制の対象から除外することにあり、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っているか否かは、事業によって生み出した付加価値の多寡を測定することで定量的に測定することができるから、より多くの付加価値を生み出している場所において「主として」事業を行っていると判定すべきであり、この考え方は国際標準となっている。Bは、「卸売業等以外の事業」に分類される「主たる事業」によって付加価値を生み出しているところ、より多くの付加価値を生み出しているのは、中国ではなく香港においてである。そして、Bは、部品調達、供給、販売経路、人材確保、決済、資金調達などの点で、香港の経済環境を最大限に活用して、高品質、短納期の維持、生産コストの削減という目的を達成すべく、香港の経済と密接に関連して事業活動を行っているのであって、Bは、定量的にみても定性的にみても、「主として」本店所在地国である香港において事業を行っているということができる。

     被告は、「所在地国基準」の適用について、特定外国子会社等の「主たる事業」の本質的な行為が本店所在地国でなされていると認められる場合に初めて「主として」本店所在地国において「主たる事業」を行っていると判断すべきである旨主張する。しかしながら、そのような判断基準は、①なぜ本質的な行為を基準として判断するのかについて合理的な理由が全く示されておらず、②「卸売業等以外の事業」のすべての事業について本質的な行為を適切に抽出することは不可能であって判断基準として有用性も汎用性も全く認められず、③現代の製造業においては、機械設備と工員の労働力を用いた生産活動により生み出される付加価値がその業態として生み出される全付加価値に占める割合は相対的に低下しており、製造業の本質的な行為は製造行為であるという評価そのものが製造業の現代的特性に適合していないことから、不適切な基準であるというほかない。

   (被告の主張)

   ア Bの「主たる事業」

     措置法通達66の6-17の規定は、特定外国子会社等の営む「主たる事業」が何かを判断するに当たり、原則として日本標準産業分類を税務執行用の判定基準とするとしているところ、日本標準産業分類の内容は、一般の社会通念を反映して多岐にわたる経済活動を分類したものとして客観性、合理性を有するから、同分類によって事業の判定をすることとした取扱いには合理性が認められる。そして、上記分類によれば、Bの平成17年12月期における「主たる事業」は、「製造業」であると認められる。

   イ 事業を「主として」香港で行っているか。

     タックスヘイブン対策税制の適用除外要件として「所在地国基準」が設けられている趣旨は、それぞれの業種、業態に即して、当該所在地国等において事業活動を行うことに経済合理性があるか否かを類型的に決することにあるから、特定外国子会社がその「主たる事業」を「主として」その本店所在地国で行っているかを判断するに当たっては、その本店所在地国において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っていると評価できることを要するというべきである。

     Bは、本店所在地国である香港においては、営業、経理、部品等の資材の発注並びに中国に所在する工場の管理及び技術指導等を行っていたにすぎず、製造業務についてはCが所在する中国に集約し、中国において製造行為を行っていたものである。Bは、Cの工場建物や機械設備を整備し、Cに製造業務を行う人員を確保するなどして資本投下を行っており、Bの固定資産総額のうちCに設置された固定資産の額が占める割合は約93%、Bの人件費総額のうちCの従業員に係る人件費の額が占める割合は約70%といずれも高い割合を占めていることからすれば、Bは、Cが所在する中国において製造行為を行い、そのための資本を同地に投下し、同地の経済と密接に関連して事業活動を行っているものと評価でき、Bがその「主たる事業」である製造業を「主として」行っている場所は、その本店所在地国である香港ではなく、中国であると認められる。

  (2) 争点(2)(Bの設立や事業遂行等に経済合理性があることにより、タックスヘイブン対策税制は適用されないと解すべきか否か。)について

   (原告らの主張)

   ア タックスヘイブン対策税制は、税負担の不当な軽減や租税回避行為の防止を目的とする政策目的税制であるところ、原告AがBを香港に設立し、香港において事業活動を行うことは十分な経済合理性を有しており、租税回避も行っていないのであるから、Bについては本件各規定の各1項の「適用対象留保金額(中略)を有する場合」との文言を限定解釈することにより、本件各規定の射程範囲外であると解すべきである。

   イ タックスヘイブン対策税制は、外国法人による外国での事業活動から生じた所得にわが国の課税権が及ばないという、法人税法の一般原則に対する例外的な制度であり、その課税方法も極めて異例なものであるから、その適用に当たっては、同税制の趣旨目的を勘案し、税負担の不当な軽減や租税回避行為を防止するという同税制の政策目的に適合する場合に限定すべきである。

   (被告の主張)

   ア 原告は、本件各規定の各1項の「適用対象留保金額(中略)を有する場合」との文言を限定解釈すべきであると主張するが、租税法規である本件各規定の各1項は、文言のとおり解釈すべきものであり、その適用の有無は、条文に規定された適用要件を充足するか否かにより判断すべきものであるから、租税回避を行った事実の有無という条文には規定されていない要件を勘案した上でその適否を判断すべきものではなく、また、本件各規定の各1項を限定解釈すべき理由もない。

   イ 原告らの主張は、本件各規定が設けられた趣旨目的から条文にない要件を付加して租税法規の適用範囲を限定しようとするものにほかならず、このような解釈は、本件各規定の公平な解釈適用を確保することを困難にし、法的安定性を損なうものであるから、上記各規定の解釈上認められない。

  (3) 争点(3)(原告らに過少申告加算税が課されない「正当な理由」があるか。)について

   (原告らの主張)

    Bは、香港に所在することにつき経済合理性を有する実体のある企業であり、租税回避の目的を全く有していなかったことから、租税回避の防止を目的とするタックスヘイブン対策税制が適用されることを原告らは事前に予測することができなかった。仮にその点をおくとしても、Bは、その「主たる事業」の付加価値の大部分を本店所在地国である香港で生み出しており、中国において生み出す付加価値は香港と比較して僅少である上、Bが香港において果たす機能は、決して他の地域では果たすことができないものであり、かかる状況下で、Bが主として事業を行っている地が中国であると認定されることなど想像だにできなかったのであるから、原告らがタックスヘイブン対策税制の適用がないものとして申告したことについては、国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」がある。

   (被告の主張)

    原告らの主張は、単なる法の誤解や法解釈の相違をいうに過ぎないから、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」がある場合には該当しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

 1 争点(1)(Bは、その「主たる事業」を「主として」本店所在地国である香港で行っており、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件として本件各規定の各4項2号が定める「所在地国基準」を満たしているといえるか。)について

 

  (1) Bの「主たる事業」

 

   ア いわゆるタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)について定めている本件各規定の各4項は、特定外国子会社等が行う「主たる事業」が何かによって異なる適用除外要件を定めている。

 

すなわち、当該特定外国子会社等の営む「主たる事業」が本件各規定の各4項1号に定める卸売業等、すなわち銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業又は航空運送業に該当する場合には、「非関連者基準」(前記第2の2(2)アa参照)により、

 

また、特定外国子会社等の行う「主たる事業」が卸売業等以外の事業である場合には、「所在地国基準」(同b参照)により、

 

それぞれタックスヘイブン対策税制の適用が除外されるか否かの判断をすることにしている。

 

そして、「所在地国基準」について、本件各規定の各4項2号は、当該外国子会社等が、その「主たる事業」を「主として」本店所在地国において行っているか否かにつき政令で定める場合に該当するか否かを基準とすることとし、

 

これを受けて措置法施行令25条の22第5項及び39条の17第5項は、当該特定外国子会社等の「主たる事業」が、不動産業である場合(各同項1号)、物品賃貸業である場合(各同項2号)、卸売業等並びに不動産業及び物品賃貸業のいずれでもない事業である場合(各同項3号)の3つの事業に区分して適用除外に係る定めを置いている。

 

 

   イ そこで、Bが、本件各規定の各4項の適用除外要件を満たすか否かを判断するに当たっては、まず「主たる事業」が何かを判断する基準が問題となるところ、本件各規定の各4項1号に列挙された卸売業等の各事業や、措置法施行令25条の22及び39条の17の各5項に列挙された不動産業、物品賃貸業等について、措置法、所得税法及び法人税法などの法令上に定義規定は存在しないものの、措置法通達66の6-17が、特定外国子会社等の営む事業が措置法66条の6第4項1号又は措置法施行令39条の17第5項1号若しくは2号に掲げる事業のいずれに該当するかは、措置法通達66の6-17が「原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定する」と定めている。

 

     そして、日本標準産業分類(総務省)(乙全26)は、統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、多岐にわたる経済活動を分類し、産業構造の変化に応じて繰り返し改定がなされ、一般の社会通念を反映したものとして我が国において広く用いられているものであるから、これを1つの基準として本件各規定各4項の「主たる事業」を判断することには十分な客観性、合理性があるというべきである。

 

     日本標準産業分類は、製造業とは、新たな製品の製造加工を行い、かつ、自ら製造した新たな製品を主として卸売りする業務を行う事業をいうとしている一方、自らは製造を行わないで、自己の所有に属する原材料を下請工場などに支給して製品を作らせ、これを自己の名称で販売する製造問屋は、製造業ではなく卸売業又は小売業に分類している。そうすると、特定外国子会社等が、その主たる事業として、自ら新たな製品の製造加工を行い、それを販売して利益を得る事業を行っている場合には、その主たる事業は製造業であるとして、「所在地国基準」が適用されると解するのが相当である。

 

   ウ そこで、Bについてみるに、

 

Bは、原告から調達した部品と香港で調達した部品を用いてGを組立加工して販売する会社であり、その製品の組立加工は専らCにおいて行われていたところ、

 

Cは、外形的にはBとは別法人であるものの、Bが同社の製品であるG等の製品の組立加工を中国で行うことを目的として、同社の資金拠出と主体的な関与の下に設立した法人であること、

 

BとCとの間で締結された来料加工契約において、BがCの工場設備を提供し、Bが部品業者等から調達した材料部品等を無償でCに供給し、Cの工場の生産管理や従業員に対する技術指導を行った上、Cで組立加工された完成品をすべて受領するものとされていたこと、

 

Bは、Cと来料加工契約を締結して中国本土における製造行為に関与していることを前提に香港の事業所税に係る減免措置を受けており、

 

Bが香港内国歳入庁に提出した香港における事業所得税の申告書(乙全2)には、同社の「主たる事業」は「Gの製造・販売」であると記載されていることはいずれも当事者間に争いがない。

 

 

そして、原告らは、Cが実質的にBの自社工場としての役割を果たしていることについて自認しているのであって、これらによると、Bの「主たる事業」は、Cとの来料加工契約により、CをいわばBの自社工場ないし自社の一部門として、Bの責任と負担においてG等の製造を行い、これを販売して利益を得ることにあるというべきであって、Bの「主たる事業」は製造業であると認められる。

 

 

   エ これに対し、原告らは、特定外国子会社等が営む「主たる事業」は、本件各規定の各4項の文言や措置法通達66の6-17に則して、「卸売業等」か、「卸売業等以外の事業」かを判別すれば十分であり、さらに進んで製造業か否かを判別することは求められていないから、「所在地国基準」該当性の判断は、Bの営む事業は「卸売業等以外の事業」であるとして行えば足りると主張する。

 

 

     しかしながら、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件について、措置法40条の4第4項1号及び2号並びに同法66条の6第4項1号及び2号は、まず、当該特定外国子会社等の行う「主たる事業」が何かを判断し、次にその「主たる事業」を「主として」行っている相手方(非関連者基準)や場所(所在地国基準)について判断するという枠組みを採用しているのであって、

 

そうすると、特定外国子会社等が営む「主たる事業」が何かについて、単に卸売業等かそれ以外かを判断するにとどまらず、具体的にいかなる業務であるかを判断することは、その具体的な「主たる事業」を「主として」行っている相手方や場所について判断するために必要不可欠であって、法がそれを要請していると解されるから、

 

これを論難することは相当ではない。また、本件各規定の各4項2号が卸売業等以外の事業、すなわち「前号に掲げる事業以外の事業」と規定しているのは、同項1号に列挙した業種以外の現実に存在する数多くの種類の業種をすべて列挙することは事実上不可能であることから、立法技術上そのように規定したものにすぎないと考えられ、これらの規定やこれを受けた措置法通達の定めを根拠に、「主たる事業」を具体的に判断する必要がないと解することは相当ではない。

 

     更に、原告らは、日本標準産業分類によっては業種判定ができない事業があり、特に製造業については新しく登場する業態に日本標準産業分類の対応が追い付いていないことから、日本標準産業分類に基づいて端的に業種判定することは不適切である旨主張する。

 

     しかしながら、日本標準産業分類については経済構造の変化に応じた改定が繰り返されており、本件に適用される平成14年3月改定の日本標準産業分類の「大分類F-製造業」の記載内容は、その後2回の改定を経た現在においても改定されておらず(甲全22、23、乙全26)、その内容は明確であり、分類基準としての合理性を欠くとは認めがたいから、上記分類に基づく製造業の判定が不適切であるということはできない。

     以上のとおり、この点についての原告らの主張を採用することはできない。

 

 

  (2) Bが製造業を「主として」香港で行っているかについて

 

   ア 本件各規定の各1項が定めるタックスヘイブン対策税制は、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域(いわゆるタックスヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保し、我が国での税負担を不当に軽減することを規制することを目的とする制度である。

 

     一方、本件各規定の各4項が定めるタックスヘイブン対策税制の適用除外規定は、特定外国子会社等の所在地国における事業活動が正常なものとして経済的合理性を有する場合にまでタックスヘイブン対策税制の対象とすることは、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害することになり妥当ではないことから、たとえタックスヘイブンとされる国や地域に所在する特定外国子会社等であっても、当該企業が独立企業としての実体を備え、かつ、その地で主たる事業を行うことに十分な経済的合理性があると認められる場合には、例外的にタックスヘイブン対策税制の適用を排除しようとする趣旨で定められたものである。

 

 

   イ そして、本件各規定の各4項においては、タックスヘイブン対策税制適用除外要件として、

 

①事業基準、

 

②実体基準及び

 

③管理支配基準のほかに、

 

卸売業等の業種については④-a「非関連者基準」を、

 

卸売業等以外の業種については④-b「所在地国基準」を満たすべきことが規定されている。

 

このうち、「所在地国基準」は、本店所在地国において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることにつき十分な経済的合理性が推認し得るという考え方に基づき、ある特定の事業にとってその中核となる行為、すなわち製造業であれば製造という当該事業の本質的な行為が「主として」本店所在地国で行われていれば、当該特定外国子会社等はその地に存在することに経済的合理性が認められると解するものである。

 

   ウ そして、製造業における本質的な行為である製品の製造行為を事業として遂行するためには、

 

工場建物や機械設備を確保して管理すると共に、

 

原材料や労働力を継続的に確保し、

 

人事・労務管理や品質管理に加え、製造コストの低減などの財務管理をなすことが不可欠である。

 

そうすると、特定外国子会社等が製造業を「主として」本店所在地国で行っているか否かを判断するに当たっては、

 

当該会社の工場建物や機械設備の確保・管理、原材料や労働力等の確保、人事・労務管理、品質管理や財務管理などの状況を総合的に勘案して、社会通念に照らし実質的に判断するのが相当である。

 

   エ これに対し、原告らは、当該事業の本質的な行為を基準とすることにはそもそも合理的な理由がなく、卸売業等以外のすべての事業について本質的な行為を適切に抽出することは不可能である上、製造業の本質的な行為は製造行為であるという評価そのものが製造業の現代的特性に適合していないことから、「主として」本店所在地国で事業を行っているか否かの判断基準としては有用性も汎用性もなく、基準として不適切である旨主張する。

 

     しかしながら、法は、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件である「所在地国基準」を判断するに当たり、

 

特定外国子会社等の「主たる事業」を「主として」本店所在地国で行っている場合に、

 

所在地国における事業活動が正常なものとして経済的合理性を有すると判断するという手法を採用しているのであるから、

 

特定外国子会社等の「主たる事業」について、当該事業が類型的に有する本質的な行為を「主として」本店所在地国で行っているか否かを判断することで、

 

その事業活動が正常なものとして経済的合理性を有するか否かを判断することは法の考え方に沿った合理的なものということができる。

 

そして、各事業が類型的に有する本質的な行為は、その業種において行われる事業活動の特性から自ずと導かれるものと考えられ、

 

少なくとも製造業についてその本質的な行為が製造行為にあると解することは、その字義や事業活動の特性から導かれる自然な解釈であるというべきであるから、この点についての原告らの主張は採用できない。

 

 

 

   オ そこで、上記ウの検討要素に基づいて、Bが、製造業を「主として」行っていた国又は地域について検討するに、証拠(乙全1、15、18、20、29、31、32の1及び2、33)によれば、

 

Bは、香港には製造工場を有しておらず、

 

中国国内に年額52万1948香港ドルでCの工場建物を賃借し、

 

その工場内に各種機械設備を設置して年間800万台ないし1200万台のGの生産活動を行っていたこと、

 

平成17年当時、Bの香港における経理や資材調達等の業務に従事していた従業員数は8名である一方、

 

Cの従業員数は約400名であり、Cには総経理の下に、工場を管理監督する工場長が置かれ、製造部の組立課で部品の組立てが、実装課で基盤実装が、射出成形課で部品の成形が、塗装課で部品の塗装行為がそれぞれ行われ、

 

中国のCにおいて、多くの労働力を組織的に用いて製造行為が行われていたこと、

 

Bがその平成17年12月期の財務諸表に計上した固定資産総額1699万0268.07香港ドルのうち、

 

Cに設置された機械設備等の固定資産額は1586万3598.13香港ドルであり、

 

全体の約93%を占めていたこと、

 

Bがその平成17年12月期の財務諸表に計上したBの香港における業務に従事していた従業員に係る人件費総額1012万8965香港ドルのうち、

 

Cの従業員に係る人件費の額は711万4134香港ドルであり全体の約70%を占めていたことがそれぞれ認められる。

 

 

     これらの事実によれば、Bは、自社工場の役割を果たしているCが所在する中国において、製造業の本質的部分である製造行為を行い、

 

Bの資本の多くを同地に投下し、中国の経済と密接に関連して事業活動を行っていたと認められるのであって、

 

Bがその「主たる事業」である製造業を「主として」行っていた場所は、本店所在地国である香港ではなく、Cが所在する中国であるというべきである。

 

 

 

   カ これに対し、原告らは、企業の行った事業活動の成果は付加価値となって現れるから、「主として」事業活動を行っている場所は、付加価値を多く生み出している場所をいうと解すべきであるところ、

 

Bは、香港において中国よりも多くの付加価値を生み出しており、また、Bは、部品調達、供給、販売経路、人材確保、決済、資金調達などの点で、香港の経済環境を最大限に活用して、香港の経済と密接に関連して事業活動を行っているのであって、Bは、定量的にみても定性的にみても、「主として」香港において事業を行っているということができると主張する。

 

 

     確かに、現在の経済社会において、企業の行った事業活動を評価する上での付加価値の重要性は増していると考えられ(甲全22ないし28)、

 

Bは、国際的な競争に対応し、香港の経済環境を活用して、高品質、短納期の維持、生産コスト削減という目的を達成するために、平成4年に原告Aによって香港に設立されたこと(甲全2ないし6、16、17、乙全3)が認められ、

 

B及びCの財務諸表を分析した場合にBの全付加価値のうち50%以上が香港において生み出されているとの計算結果も存在する(甲全19ないし21)。

 

 

     しかしながら、前記エで述べたとおり、

 

法は、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件である「所在地国基準」を検討する際の手法として、

 

特定外国子会社等の「主たる事業」を「主として」本店所在地国で行っている場合に、

 

本店所在地国における事業活動が正常なものとして経済的合理性を有すると判断するという手法を採用しているのであるから、

 

「主たる事業」の内容に応じて、その本質的な行為を「主として」行っている場所を判断することは、

 

法の文言やその趣旨に沿った合理的な手法であり、租税要件の解釈の明確性や法的安定性の見地からも肯認されるべきであって、

 

原告らの主張するように、事業活動全般をみて付加価値をより多く生み出している場所がどこであるかを判断するという手法は、立法論としてはともかく、現行の措置法が予定するものではないと言わざるを得ない。

 

 

     したがって、この点についての原告らの主張を採用することはできない。

 

 

 

 

 2 争点(2)(Bの設立や事業遂行等に経済合理性があることにより、タックスヘイブン対策税制は適用されないと解すべきか否か。)について

 

  (1) 原告らは、タックスヘイブン対策税制は、税負担の不当な軽減や租税回避行為の防止を目的とする政策目的税制であるところ、原告AがBを香港に設立し、香港において事業活動を行うことは十分な経済合理性を有しており、租税回避を行った事実のないBについては、本件各規定の各1項の「適用対象留保金額(中略)を有する場合」との文言を限定解釈すべきであり、原告らに対し上記各規定を適用して行われた本件各更正処分等は違法である旨主張する。

 

  (2) しかしながら、タックスヘイブン対策税制の適用除外規定は、単に海外において経済的合理性のある企業活動を行う企業について適用除外を認めているのではなく、特定外国子会社等の「主たる事業」を「主として」本店所在地国で行っている場合に、所在地国における事業活動が正常なものとして経済的合理性を有すると判断するという手法を採用しているのであるから、このようなタックスヘイブン対策税制の適用除外要件を充足していないにもかかわらず、適用除外を認めることは、租税法律主義に反し法的安定性や課税の公平性に反することになりかねないのであって、採用することができない。

 

    また、原告らの限定解釈に係る主張は、本件各規定の各1項に「租税回避を行った」等の書かれざる要件を付加して解釈することを主張しているものであり、それは本件各規定の各4項に定める適用除外要件に新たな要件を付加すべきであるという主張にほかならないのであって、立法論としてはともかく、租税法規の解釈論として採用することはできない。

 

    したがって、この点についての原告らの主張を採用することはできない。

 

 

 

 

 3 争点(3)(原告らに過小申告加算税が課されない「正当な理由」があるか。)について

  (1) 原告らは、Bは香港に所在することにつき経済合理性を有する実体のある企業であり、租税回避の目的を全く有していなかったため、租税回避の防止を目的とするタックスヘイブン対策税制が適用されることを原告らが事前に予測することは不可能であり、Bは、その付加価値の大部分を本店所在地国である香港で生み出しており、中国において生み出す付加価値は香港と比較して僅少である上、Bが香港において果たす機能は、決して他の地域では果たすことができない状況下で、Bが主として事業を行っている地が中国であると認定されることなど想像だにできなかったのであるから、原告らがタックスヘイブン対策税制の適用がないものとして申告したことについては、国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」がある旨主張する。

  (2) しかしながら、過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であり、国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を付加することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁判所平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。

    そして、原告らがBに係る課税対象留保金額を原告らの税額の計算の基礎に含めて申告しなかった理由とする事情は、原告らが本件各規定の各1項の解釈を誤り、租税回避の事実が認められない場合にはタックスヘイブン対策税制が適用されないと誤認した上、各4項2号について独自の解釈を行って「所在地国基準」該当性を判断したことに起因するものであるから、国税通則法65条4項の「正当な理由」があるとは認められない。

 4 本件各更正処分等の適法性

  (1) 以上によれば、本件には、本件各規定の各1項が適用されることとなり、原告らに係る特定外国子会社等であるBの平成17年12月期における各課税対象留保金額に、Bの発行済み株式のうちに占める原告甲及び原告乙の株式保有割合を乗じて算出した原告らの各所得金額及び各納付すべき税額は、別紙2「本件各更正処分の根拠」記載のとおりであると認められ(なお、本件争点に関する部分を除き、計算の基礎となる金額及び計算方法については、当事者間に争いがない。)、これらの各金額及び各税額は本件各更正処分における原告甲及び原告乙の平成18年分の所得金額及び所得並びに原告Aの所得金額及び納付すべき税額(別表1-1「原告甲更正処分等の経緯」、同2-1「原告乙更正処分等の経緯」及び同3-1「原告A更正処分等の経緯」の区分「更正処分等」の項目「総所得金額」、「所得金額」欄及び「納付すべき税額」、「納付すべき法人税額」欄記載の各金額)と同一であるから、原告らそれぞれに対する各更正処分はいずれも適法である。

  (2) また、上記各更正処分は適法であるところ、本件各賦課決定処分において過少申告加算税の対象とした各税額の計算の基礎となった各事実が本件各更正処分前における各税額の計算の基礎とされなかったことについて国税通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原告甲及び原告乙の平成18年分の所得税並びに原告Aの平成17年12月期の法人税に係る各過少申告加算税の額は、原告甲につき4万5000円、原告乙につき2万2000円、原告Aにつき360万3000円であると認められ、いずれも本件各賦課決定における各過少申告加算税の額(別表1-1「原告甲更正処分等の経緯」、同2-1「原告乙更正処分等の経緯」及び同3-1「原告A更正処分等の経緯」の区分「審査裁決」の項目「過少申告加算税の額」欄の金額)と同一であるから、本件各賦課決定処分もいずれも適法である。

 5 結論

   よって、原告らの請求にはいずれも理由がないから棄却することととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第38部

        裁判長裁判官  定塚 誠

           裁判官  中辻雄一朗

           裁判官  渡邉 哲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (別紙2)

       本件各更正処分の根拠

 1 原告甲更正処分の根拠

  (1) 総所得金額 4961万9187円

    上記金額は、次のア及びイの各金額の合計額である。

   ア 給与所得の金額 4839万3500円

     上記金額は、原告甲が平成19年3月15日に緑税務署長に提出した平成18年分の所得税の確定申告書(以下「原告甲の平成18年分確定申告書」という。)に記載された給与所得の金額と同額である。

   イ 雑所得の金額 122万5687円

     上記金額は、措置法40条の4第1項に規定する特定外国子会社等に該当するBの平成17年12月期の適用対象留保金額にBの発行済株式のうちに占める原告甲の株式保有割合を乗じて算出した金額であり、原告甲の雑所得に係る収入金額とみなして平成18年分の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべき同条1項に規定する課税対象留保金額に相当する金額である(別表1-2の順号⑩「雑所得の総収入金額に算入すべき金額」欄参照)。

  (2) 所得控除の額の合計額 164万4749円

    上記金額は、原告甲の平成18年分確定申告書に記載された所得控除の額(社会保険料控除の額121万1749円、生命保険料控除の額5万円、損害保険料控除の額3000円及び基礎控除の額38万円)の合計額と同額である。

  (3) 課税総所得金額 4797万4000円

    上記金額は、前記(1)の総所得金額4961万9187円から上記(2)の所得控除の額の合計額164万4749円を控除した後の金額(ただし、国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下「通則法」という。)118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

  (4) 納付すべき税額 41万1300円

    上記金額は、次のアの金額からイ及びウの各金額を差し引いた後の金額(ただし、通則法119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

   ア 課税総所得金額に対する税額 1526万0380円

     上記金額は、上記(3)の課税総所得金額4797万4000円に所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)89条1項の税率(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年法律第8号。平成18年法律第10号による改正(廃止)前のもの。以下「負担軽減措置法」という。)4条の特例を適用したもの。)を乗じて算出した金額である。

   イ 定率減税額 12万5000円

     上記金額は、負担軽減措置法6条2項により算出した金額であり、原告甲の平成18年分確定申告書に記載された定率減税額と同額である。

   ウ 源泉徴収税額 1472万3992円

     上記金額は、原告甲の平成18年分確定申告書に記載された源泉徴収税額と同額である。

 2 原告乙更正処分の根拠

  (1) 総所得金額 848万1035円

    上記金額は、次のア及びイの各金額の合計額である。

   ア 給与所得の金額 528万9000円

     上記金額は、原告乙が平成19年3月15日に緑税務署長に提出した平成18年分の所得税の確定申告書(以下「原告乙の平成18年分確定申告書」という。)に記載された給与所得の金額と同額である。

   イ 雑所得の金額 319万2035円

     上記金額は、次の(ア)ないし(ウ)の各金額の合計額である。

    (ア) 公的年金等に係る雑所得の金額 190万8664円

      上記金額は、原告乙が平成18年中に社会保険庁から支給を受けた公的年金の収入金額310万8664円から、所得税法35条4項及び措置法41条の15の2第1項に基づく公的年金等控除額120万円を控除した後の金額であり、原告乙が同人の平成18年分確定申告書において申告した公的年金に係る雑所得の金額と同額である。

    (イ) 公的年金等以外の年金にかかる雑所得の金額 5万7684円

      上記金額は、原告乙が平成18年中にF郵便局長から支払を受けた年金の額33万9340円から当該年金の支払金額に対応する保険料額28万1656円を差し引いた残額であり、原告乙が同人の平成18年分確定申告書において申告した公的年金等以外の雑所得の金額と同額である。

    (ウ) 特定外国子会社等に係る課税対象留保金額 122万5687円

      上記金額は、措置法40条の4第1項に規定する特定外国子会社等に該当するBの平成17年12月期の適用対象留保金額にBの発行済株式のうちに占める原告乙の株式保有割合を乗じて算出した金額であり、原告乙の雑所得に係る収入金額とみなして平成18年分の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべき同条1項に規定する課税対象留保金額に相当する金額である(別表2-2の順号⑩「雑所得の総収入金額に算入すべき金額」欄参照)。

  (2) 所得控除の額の合計額 101万6479円

    上記金額は、原告乙の平成18年分確定申告書に記載された所得控除の額(医療費控除の額26万6749円、社会保険料控除の額36万6730円、損害保険料控除の額3000円及び基礎控除の額38万円)の合計額と同額である。

  (3) 課税総所得金額 746万4000円

    上記金額は、前記(1)の総所得金額848万1035円から上記(2)の所得控除の額の合計額101万6479円を控除した後の金額(ただし、通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

  (4) 納付すべき税額 40万9400円

    上記金額は、次のアの金額からイ及びウの各金額を差し引いた後の金額(ただし、通則法119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

   ア 課税総所得金額に対する税額 116万2800円

     上記金額は、上記(3)の課税総所得金額746万4000円に所得税法89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの。)を乗じて算出した金額である。

   イ 定率減税額 11万6280円

     上記金額は、負担軽減措置法6条2項により算出した金額である。

   ウ 源泉徴収税額 63万7052円

     上記金額は、原告乙の平成18年分確定申告書に記載された源泉徴収税額と同額である。

 3 原告A更正処分の根拠

  (1) 所得金額 12億5753万0551円

    上記金額は、次のア及びイの各金額の合計額である。

   ア 確定申告における所得金額 11億3741万3164円

     上記金額は、原告Aが平成19年3月29日に神奈川税務署長に提出した平成18年12月期の法人税の確定申告書(以下「原告Aの平成18年12月期確定申告書」という。)に記載した所得金額である。

   イ 特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額 1億2011万7387円

     上記金額は、措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に該当するBの平成17年12月期の適用対象留保金額にBの発行済株式のうちに占める原告Aの株式保有割合を乗じて算出した金額であり、原告Aの収益の額とみなして平成18年12月期の所得の金額の計算上、益金の額に算入すべき同条1項に規定する課税対象留保金額に相当する金額である(別表3-2の順号⑩「益金の額に算入すべき金額」欄参照)。

  (2) 法人税額 3億7661万9000円

    上記金額は、法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)66条1項及び2項並びに負担軽減措置法16条1項の規定により、上記(1)の所得金額12億5753万円(ただし、通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)のうち、800万円以下の金額については100分の22の税率を乗じて計算し、800万円を超える金額については100分の30の税率を乗じて計算した金額の合計額である。

    なお、800万円以下の所得金額に係る法人税額は176万円、800万円を超える所得金額に係る法人税額は3億7485万9000円である。

  (3) 法人税額の特別控除額 889万2200円

    上記金額は、原告Aの平成18年12月期確定申告書に記載された試験研究費の総額等に係る法人税額の特別控除額と同額である。

  (4) 控除所得税額 44万2056円

    上記金額は、原告Aの平成18年12月期確定申告書に記載された控除所得税額と同額である。

  (5) 納付すべき法人税額 3億6728万4700円

    上記金額は、前記(2)の法人税額3億7661万9000円から、前記(3)の法人税額の特別控除額889万2200円及び上記エの控除所得税額44万2056円の各金額を差し引いた後の金額(ただし、通則法119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

  (6) 既に納付の確定した本税額 3億3124万9600円

    上記金額は、原告Aの平成18年12月期確定申告書に記載された納付すべき法人税額である。

  (7) 差引納付すべき法人税額 3603万5100円

    上記金額は、前記(5)の納付すべき法人税額3億6728万4700円から上記(6)の既に納付の確定した本税額3億3124万9600円を控除した金額であり、原告が新たに納付すべき法人税額である。