不当利得返還請求権と収益計上時期(1)

 

      

 

更正処分等取消請求事件

 

 

 

【事件番号】 新潟地方裁判所判決/昭和63年(行ウ)第2号

 

【判決日付】 平成2年7月5日

 

【判示事項】

 

(1) 法人税法二二条四項(各事業年度の所得の金額の計算)の公正処理基準による収益計上時期

      

(2) 電気料金等の過払いについて電力会社から返還を受けた場合に、その電気料金等を収益として計上すべき事業年度は、当該電気料金等の返還請求権が確定した日の属する事業年度であるとされた事例

      

(3) 電気料金等の過払いについて、その返還請求権が確定した日は、電力会社と原告会社との間で合意があった日、すなわち、具体的金額が明らかにされて原告会社がこれに同意し、電力会社は本店の決裁を受けるなどして、最終的に精算を終了する旨の合意がなされた時であるとされた事例

      

(4) 電気料金等の過払いについて電力会社から返還を受けることとなった場合に、税法上、過年度の損金額の修正によって処理することの適否

      

(5) 青色申告書に係る法人税の更正通知書に理由付記を要することとした趣旨

 

【掲載誌】  税務訴訟資料180号1頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 

 

 原告の請求をいずれも棄却する。

 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

 

 

事   実

 

 

 

 

第一 当事者の求めた裁判

 一 請求の趣旨

  1 被告が昭和六一年六月二五日付けでした原告の昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

  2 訴訟費用は被告の負担とする。

 二 請求の趣旨に対する答弁

   主文と同旨

第二 当事者の主張

 一 請求の原因

  1 確定申告及び修正申告

    原告は、被告に対し、昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税について、左記のとおり青色申告書をもって法定申告期限までに確定申告をした。

         記

      課税所得金額  一億六〇二三万九四九九円

      法人税額  六一二六万四三〇〇円

    次いで、原告は、右確定申告書に記載した課税標準の計算に誤りがあり、納付すべき税額が過少であったので、昭和六一年五月二〇日、左記のとおり修正申告をした。

         記

      課税所得金額  一億六三八七万七三一二円

      法人税額  六三七三万九四〇〇円

  2 更正処分及び賦課決定処分

    被告は、昭和六一年六月二五日、右修正申告に係る過少申告加算税の額を七万八五〇〇円とする賦課決定処分をするとともに、左記のとおり法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び右更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした(以下、右各処分を併せて「本件各処分」という。)

         記

      課税所得金額  三億一五八三万八六九一円

      法人税額  一億二九五三万八六〇〇円

      過少申告加算税額  三二八万九五〇〇円

  3 本件各処分の違法

    しかしながら、本件各処分は違法である。

   (一) 本件更正処分において、被告は昭和六〇年三月二九日に東北電力株式会社(以下「東北電力」という。)が原告に返還した一億五三一一万一八一九円を原告の本件事業年度の益金であるとして所得金額を三億一五八三万八六九一円としたが、右返還金は、東北電力が昭和四七年四月から昭和五九年一〇月までの間に過大に徴収していた電気料金等を不当利得として返還したものであるから、本件事業年度の益金ではない。したがって、本件各処分は違法である。

   (二) また、本件各処分の通知においては、法人税法一三〇条二項が定める青色申告書に係る更正の理由附記について記載不備の違法がある。

  4 審査請求

    原告は、本件各処分の取消しを求めて、昭和六一年七月三一日、国税不服審判所長に対し、審査請求の申立てをしたところ、同所長は昭和六二年一二月一六日、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をなし、右裁決書謄本は同月二三日原告に到達した。

  5 よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

 二 請求の原因に対する認否

   請求の原因1項、2項及び4項の事実は認める。同3項の主張は争う。

 三 被告の主張

   本件各処分の根拠及び適法性は次のとおりである。

  1 本件事業年度の所得金額について

    原告の本件事業年度の所得金額は以下のとおり三億一五八三万八六九一円である((二)+(三)-(四)-(五))。

   (一) 確定申告書に係る所得金額  一億六〇二三万九四九九円

     本件事業年度の法人税確定申告書に記載されている所得金額である。

   (二) 修正申告書に係る所得金額  一億六三八七万七三一二円

     本件事業年度の法人税修正申告書に記載されている所得金額である。

   (三) 電気料金等精算金の益金算入額  一億五三一一万一八一九円

     後記のとおりの経緯で、東北電力に対する電気料金等の過払いが判明し、原告と東北電力との間で、昭和六〇年三月二九日、右過払額を一億五三一一万一八一九円(電気料金一億四八七三万六六二九円、契約超過違約金三七六万三三九一円、電気税六一万一七九九円の合計額。以下「本件過収電気料金等」という。)とする合意がなされ、原告は、同日、東北電力から同額を受領した。

     原告は右金額を本件事業年度の収入として計上していないから、当該金額を所得金額に加算した。

   (四) 貸倒引当金の繰入限度超過額の減算額  一万三七一一円

     調査により、原告の売掛金が増加したことに伴い、貸倒引当金繰入限度額超過額が一万三七一一円過大になるので、本件事業年度の所得金額から減算した。

   (五) 交際費の損金不算入額の減算額  一一三万六七二九円

     原告が、確定申告書において交際費の損金不算入とした金額は六〇三万八七二八円であるが、正当額は四九〇万一九九九円であり、差し引き一一三万六七二九円過大となるので、本件事業年度の所得金額から減算した。

  2 本件過収電気料金等返戻に係る経緯等について

   (一) 原告は、東北電力と電力需給契約を締結し、電力の供給を受けていたが、東北電力において、昭和五九年一二月三日、同年一一月分の定期検針の際、原告の使用電力量が例月に比べて大幅に少ないことから、過去の実績を含め調査したところ、計量装置の計器用変成器の設定誤りが原因で、昭和四七年四月から昭和五九年一〇月までの一二年七か月にわたり、原告から過大に電気料金等を徴収していたことが判明した。

   (二) そこで、東北電力において変成器の設定誤りの原因について調査した結果によると、原告は、昭和四六年一二月一日に高圧電力甲四七四キロワットから高圧電力乙五〇〇キロワット契約へ種別変更を行い、それを受けて東北電力が昭和四七年四月一日に計量装置の交換を行ったが、その際、計器用変成器は一〇〇アンペアのタップを設定すべきところ、誤って五〇アンペアのタップを設定し、したがって、計測値を一〇倍して電力量を算出すべきところ、一〇〇アンペアのタップと思い込み誤って計測値を二〇倍して使用電力量を算出したため、電気料金も過大に請求していたことが判明した。

     そして、一旦二〇倍の乗率を設定すると、その乗率については検針の対象にならないこと、変成器を変更した当時は経済の高度成長期にあり、原告もフル操業していたことなどから、原告、東北電力双方とも使用電力量の多いことに気付かず、その結果、長期間にわたり右設定の誤りが発見できなかった。

   (三) そこで、東北電力では、原告所在地を管轄する三条営業所(以下、単に「三条営業所」という。)の所長外二名を昭和五九年一二月一四日原告方に赴かせ、昭和四七年四月から電気料金を過大に徴収してきたことを陳謝し、その原因を説明させるとともに、過収電気料金の精算については誠心誠意をもって当たりたい旨を伝えた。

   (四) 昭和五九年一二月二一日、三条営業所の右三名が、原告を再度訪問して原告代表者及び経理担当者に面談し、過収電気料金等の概算精算額が約一億五二〇〇万円、年六パーセントの単利で計算した右金額に係る利息が約四〇〇〇万円程度になる旨を告げるとともに、精算金の具体的な金額確定や返戻までには古い年分の資料が保存されていないことなどから、相当長期間を要することの了解を求め、併せて、昭和五九年三月分以前の電気税については、納付先である三条市から還付してもらうことになると市議会の承認が必要となるなど還付請求の手続も煩瑣となるため原告において権利放棄して欲しい旨申し出て、いずれもその承諾を得た。

   (五) 昭和六〇年一月八日、三条営業所の営業課長及び料金係長が、原告代表者及び経理担当者に対し、過収電気料金の利息につき年六パーセントの単利計算で算出することの同意を求め、その了解を得、本件過収電気料金等の返戻及び利息の支払いに当たっては書面を取り交わすこと、その文案は東北電力が作成することを合意した。

   (六) 三条営業所においては、以下の方法で過収電気料金を算出した。すなわち、昭和四七年四月から昭和四八年九月までの期間(以下「甲期」ということがある。)については、資料が保存されていないため、原告の昭和四八年一〇月から昭和四九年九月までの間の一か月当たりの平均使用電力量を、昭和四八年一〇月から昭和五四年一二月までの期間(以下「乙期」ということがある。)については、保存されていた大口電力カードに記録された使用電力量(一〇〇〇キロワット時未満は四捨五入)を、昭和五五年一月から昭和五九年一〇月までの期間(以下「丙期」ということがある。)については、検針カードに記載された使用電力量をそれぞれ基にして、それに単価を乗じて原告の支払電気料を算出し、これに基づいて過収電気料金を算出した。また、契約超過違約金については、資料のある乙期と丙期のみが算出された。

     以上の算定方法に基づいて本件過収電気料金等が算出され、昭和六〇年一月二九日に三条営業所長の決裁を受けて部内的に金額が確定した。ただし、利息の総額については、返戻期日が未定のため暫定的なものであった。

   (七) 昭和六〇年三月二八日、三条営業所の営業所長及び営業課長が原告方を訪れ、原告代表者と経理担当者に対し、精算内容について具体的な金額を提示し、原告と東北電力との間で事実上合意が成立した。

   (八) そして、同月二九日、東北電力は最終的に本店の決裁を経て、原告と東北電力間の合意に基づき、同日付けの確認書(以下「本件確認書」という。)を作成するとともに、東北電力は原告の指定口座に右確定金額(本件過収電気料金等と右利息を合わせたもの。以下「本件精算金額」ということがある。)を振り込み、精算業務を終了した。

  3 本件精算金額の益金算入について

   (一) 右2の経緯に照らすと、本件精算金額は客観的に存在した過収電気料金及び利息の額ではなく、東北電力と原告との間で真実の金額にかかわりなく、合意によって確定した金額ということができる。

     そして、本件精算金額が東北電力と原告間において確定的な額として認識されたのは、原告と東北電力で本件確認書を取り交わした昭和六〇年三月二九日である。

   (二) 法人税法(以下「法」という。)は、法人の各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額と定めている(法二二条一項)が、右事業年度の益金である収益の額及び損金である費用、損失の額についてはその処理基準を何ら明らかにすることなく、企業会計の実際を踏まえ一般に公正妥当な会計処理の基準にしたがって計算すべきものとしている(法二二条四項)。

     一般に公正妥当な会計処理の基準は、公正な会計慣行を要約し成文化した企業会計原則、証券取引委員会によって制定された財務諸表等規則によって定められ、これは会計慣行として一般に定着している。そして、右企業会計原則等は法人の収益及び費用、損失について発生主義(いわゆる権利確定主義)を建前としているということができる。

     そして、法人の場合には企業会計上も継続事業の原則に従い当期において生じた収益から当期において生じた費用、損失を控除して損益計算をしている。したがって、既往の事業年度において計上された費用について当期においてそれが過払いであったことが判明し、返戻の事実が発生した場合には、その過払いを生じた法律効果が民事法上は既往に遡って法律関係に影響を及ぼすものであっても企業会計上は遡及して所得金額に返戻額相当分の修正を加えるのではなく、返戻を受けた金額はその事業年度の収益に加える取扱いがなされるべきである。

   (三) これを本件についてみるに、前記のとおり、本件精算金額は昭和六〇年三月二九日に東北電力と原告間の合意によって発生し、双方に確定的な額として認識され、権利としての確定があったものというべきであり、仮に右金額について民事法上は昭和四七年からの一三事業年度にわたり各月ごとに損金の額を誤って増大させていたことによる不当利益と解する余地があるとしても、両者が後日そのことを認識し、合意により金額を確定したのであるから、会計処理上の観点からは右事実をもって新たに発生した会計事実というべきである。

     したがって、公正妥当な会計処理の基準に従うならば、右金額は原告の本件事業年度の損益計算書の特別利益として計上すべきものといわなければならない。

     そして、法は益金である収益の処理基準を公正妥当な会計処理の基準に委ねているのであるから、本件精算金額は、所得として本件事業年度に帰属すべきものである。

  4 理由附記について

    原告は、法一三〇条二項で定める青色申告書に係る更正の理由附記について、記載不備の違法がある旨主張するが、法一三〇条二項が青色申告書に係る法人税の更正通知書に理由を附記しなければならないとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨であるところ、本件各処分の通知書(以下「本件通知書」という。)には、更正の理由として「昭和六〇年三月二九日に東北電力から支払いを受けた本件過収電気料金等の返戻額は、本件確認書で合意がなされた昭和六〇年三月二九日を含む事業年度の益金と認められます」旨附記してあり、右記載は処分の理由として十分明確であって、前記理由附記制度の趣旨に照らしても、その記載には何ら不備はない。

  5 本件更正処分の適法性

    以上のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は、三億一五八三万八六九一円であり、本件更正処分に係る所得金額は右と同額であるので、本件更正処分は適法である。

  6 本件賦課決定処分の適法性

    被告は、本件更正処分を行ったことに伴い、国税通則法六五条一項の規定に基づき、本件更正処分により新たに納付すべき法人税額六五七九万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額三二八万九五〇〇円を過少申告加算税の額として賦課決定をしたものであるから、本件賦課決定処分は適法である。

 四 被告の主張に対する原告の認否及び反論

  1 被告の主張1項のうち、原告の所得金額及び電気料金等精算金の益金算入額については否認し、その余は認める。

  2 同2項(一)、(二)の事実はいずれも認める。同(三)のうち、三条営業所長外二名が昭和五九年一二月一四日に原告方に赴き、過大徴収の陳謝と原因説明をしたことは認め、その余の事実は否認する。同(四)のうち、昭和五九年一二月二一日に三条営業所の三名が原告を訪問し、原告代表者らに面談して、過収電気料金の概算精算額が昭和四七年四月から昭和五九年一〇月までの間で約一億五二〇〇万円、利息が約四〇〇〇万円程度になる旨を告げたことは認め、その余の事実は否認する。同(五)のうち、昭和六〇年一月八日、三条営業所の二名と原告代表者らが会ったこと、過収電気料金の利息につき年六パーセントの単利計算で算出することになったことは認め、その余の事実は否認する。同(六)の事実は不知。同(七)のうち、昭和六〇年三月二八日、三条営業所の二名が原告方を訪れ、原告代表者らに対し、精算内容につき具体的な金額を提示したことは認め、その余の事実は否認する。同(八)のうち、昭和六〇年三月二五日に東北電力が原告指定口座に本件精算金額全額を振り込んだことは認め、同日の東北電力本店の決済については不知、その余の事実は否認する。

    被告は本件確認書によって原告と東北電力間に新たな合意がなされた旨主張するが、本件確認書は東北電力内部の事務処理上の必要から、過去の客観的に存在する金額を確認したものに過ぎず、新たな合意がなされたものではない。

  3 同3項の事実は否認し、主張は争う。

    本件においては遅くとも昭和五九年一二月二一日に東北電力から精算額が通知された時点で原告の権利が確定したものというべきである。

    また、税法は担税力を適正に評価して公正な課税を実現することを目的としており、企業利益の測定を目的とする企業会計とは、本質的差異があるところ、法人税法においては、各事業年度の損益計算に誤りがある場合には、適正公平課税の要請から、その損益の本来属する事業年度まで遡って経理処理をしなければならないのであり、本件過収電気料金等返戻額は過年度の損金の修正として処理されるべきものである。

  4 同4項のうち、本件通知書の記載内容は認め、記載に不備がないとの主張は争う。

  5 同5項の主張は争う。

  6 同6項の主張は争う。

第三 証拠関係

   本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

 

       

 

理   由

 

 

 

 一 請求の原因1項の確定申告及び修正申告に関する事実、同2項の本件各処分に関する事実及び同4項の審査請求に関する事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

 二 被告の主張1項の本件事業年度の所得金額に関する事実のうち、電気料金等精算金の益金算入額及び本件事業年度の所得金額総額を除いた事実に関してはいずれも当事者間に争いがない。

 三1 原告の本件事業年度の所得金額に関してはもっぱら電気料金等精算金の益金算入の是非が争点となるので、以下、この点について判断する。

  2 以下の事実はいずれも当事者間に争いがない。

    被告の主張2項(一)(二)記載の経緯のとおり、東北電力が計量装置の計器用変成器の設定ミスにより原告から過大に電気料金等を徴収していたことが判明したこと、昭和五九年一二月一四日、東北電力三条営業所長らが原告方を訪れ、過大徴収の陳謝と原因説明をしたこと、同月二一日、右三条営業所職員らが、原告方を訪れ、原告代表者らに面談して過収電気料金の概算精算額が昭和四七年四月から昭和五九年一〇月までの間で約一億五二〇〇万円、利息が約四〇〇〇万円程度になる旨を説明したこと、昭和六〇年一月一八日、右三条営業所職員らが原告代表者らと会ったこと、過収電気料金の利息については年六パーセントの単利計算で算出することになったこと、昭和六〇年三月二八日、右三条営業所職員らが原告方を訪れ、原告代表者らに対し、精算内容につき具体的な金額を提示したこと、同月二九日に東北電力が原告指定口座に本件精算金額全額を振り込んだこと。

  3 右争いのない事実に加え、いずれも成立に争いのない甲第一、第八、第九号証、乙第二、第三号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一〇号証、乙第四号証、証人笠原一博の証言、原告代表者尋問の結果(いずれも後記採用できない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

   (一) 原告は自動車部品の製造等を業としているところ、前記認定したとおり、東北電力は原告から電気料金等を過大に徴収していたことが判明したので、原告所在地を管轄する三条営業所では東北電力の上位機関に指導を求めるとともに、昭和五九年一二月一四日、同営業所長外二名の従業員を原告方に赴かせ、昭和四七年四月から電気料金を過大徴収してきたことを陳謝し、その原因の説明をしたうえ、精算については誠心誠意をもって当たる旨を告げた。

   (二) そこで、三条営業所従業員らは、前記認定のとおり、昭和五九年一二月二一日、原告代表者らと面談し、昭和四七年四月から昭和五九年一〇月までの過収電気料金の概算精算額が約一億五二〇〇万円程度、年六パーセントの単利計算による右金額に係る利息が約四〇〇〇万円程度になること、そして、精算金の返戻時期については、相当期間を要することを口頭で伝え、原告代表者らは特に異議を述べることなくこれを了解した。更に、電気税については、昭和五九年度以前のものについては、特別徴収義務者たる東北電力が行う更正請求の期間の問題もあり、還付請求の手続が市議会の承認を要するなど煩瑣にわたるため、東北電力から原告に対し昭和五九年度分の税額にあたる額のみを返金することを原告が了解し、その余の部分はこれを放棄することとした。

   (三) 昭和六〇年一月八日、三条営業所従業員らが、原告代表者らと面談し、利息については年六パーセントの単利計算によることを再確認し、本件過収電気料金等の返戻及び利息の支払いにあたっては、その額が多額にわたり、東北電力内で稟議を経る必要等もあるため、書面を取り交わすこと、そして、その文案は東北電力が作成することを合意した。

   (四) 東北電力においては、昭和四六年一二月以降の電力需給契約書、昭和四八年一〇月から昭和五九年一〇月分までの大口電力カード及び昭和五五年一月から昭和五九年一〇月分までの検針カードの残存資料を基に、以下のとおり、本件過収電気料金等の算定をした。

    (1) 基本料金

      基本料金は契約電力によって定まるところ、契約電力変更の指標となる最大需要電力は乗率の設定誤りがなければ、甲期、乙期、丙期全期間につき、当初契約電力五〇〇キロワットを越えていなかったので、全期間を乙五〇〇キロワット契約の基本料金として既収基本料金との差額を返戻額として算出した。

    (2) 電力量料金

      甲期(昭和四七年四月~昭和四八年九月)については、残存資料がなかったため、昭和四八年一〇月から昭和四九年九月までの一年間の一か月平均使用電力量を求め、契約電力と使用電力量が比例するとの前提で、これを契約電力で除して契約電力一キロワット当たりの値を算出し、甲期中の各月の契約電力を乗じて使用電力量を求めて、この二分の一の使用電力量から電力量料金を求め、差額を返戻額とした。なお、契約電力は最大需要電力の増減により変更されるものではあるが、必ずしも使用電力量と比例するものではなく、また、昭和四七年四月から昭和四八年九月までの使用電力量と昭和四八年一〇月から昭和四九年九月までの使用電力量との間の第一次オイルショック等の影響による差異については特に考慮はされなかった。

      乙期(昭和四八年一〇月~昭和五四年一二月)については、同期間の大口電力カードに記載されている使用電力量(一〇〇〇キロワット時未満四捨五入)とその二分の一の使用電力量から電力量料金を求め、差額を返戻額とした。

      丙期(昭和五五年一月~昭和五九年一〇月)については、検針カードを基礎として、正しい乗率の使用電力量を求めて電力量料金を算出し、誤った乗率での使用電力量で算出した電力量料金との差額を返戻額とした。

    (3) 契約超過違約金

      乙期、丙期について、大口電力カード、検針カードの最大需要電力が契約電力を上回っている場合に契約超過違約金を算出し、その金額から、大口電力カード、検針カードの最大需要電力の二分の一の値が適正な契約電力である五〇〇キロワットを上回っている場合の契約超過違約金を差し引いて、返戻額とした。

      なお、甲期の契約電力は昭和四六年一二月一日の五〇〇キロワットから昭和四七年九月四日の五五〇キロワットに、昭和四八年五月一日の六五〇キロワットにそれぞれ変更されており、甲期中に最大需要電力が契約電力を超えたことがあることは明らかであり、契約超過違約金が徴収されたことが窺えるが、甲期については、残存資料がないこともあって、契約超過違約金については何ら考慮しなかった。

    (4) 電気税

      前記(二)の合意に基づき、昭和五九年度分の電気税額に相当する額を返金することとし、検針カードにより、前記のとおりの方法を用いて、誤った乗率による電気料金(基本料金と電力量料金)に対する電気税(電気料金の五パーセント)と正しい乗率による電気料金に対する電気税を算出し、その差額を返戻額とした。

      なお、東北電力の電気供給規程には、使用電力量の協定として、計量器の故障等によって使用電力量を正しく計量で出来なかった場合には、その検針期間の使用電力量は、特別の事情がない限り、次のいずれかを基準として、需要家と東北電力との協議によって定める旨の規定があり、その基準としては、過去の実績による場合、設備と使用時間による場合等の基準が列記されており、過去の実績による場合には、(イ)前回又は前年同月の検針日の検針の結果、(ロ)前三回の検針の結果の一月平均値をそれぞれ基準とする旨が定められている。

   (五) 右のとおり、本件過収電気料金等の算出に相当期間を要し、また、金額が多額に上り、東北電力の上部機関の稟議、決裁を要するために、返戻時期が相当遅延することとなり、東北電力では数回にわたって右遅延を原告に陳謝し、返戻時期が昭和六〇年三月になることの了解を求めた。

   (六) 昭和六〇年三月二八日、三条営業所長らが原告方を訪れ、原告代表者らに対し、明日返戻ができる見通しであることを伝え、精算内容について具体的金額を提示し、また、東北電力で作成した案どおりの確認書を取り交わすことを依頼したが、原告代表者らは特に異議を述べず、これを了解した。

   (七) 同月二九日、最終的に東北電力本店の決裁通知を受け、社内的にも精算額が確定したので、三条営業所の営業課長らが原告方を訪れ、原告と本件確認書を取り交わすとともに、東北電力は原告の指定口座に本件精算金額を振り込み、精算業務を終了した。なお、本件確認書には、支払いを完了した時点で本件に関する精算は終了したものとし、以後双方とも一切異議申立ては行わないものとする旨の精算終了条項があり、精算終了の確認がなされている。

     原告代表者尋問の結果中には、本件過収電気料金等の精算については、東北電力と特に話し合ったこともなく、了解ということもなかった旨の供述部分があるが、右は、証人笠原一博の証言に照らしてにわかには信用することができない。更に、同尋問の結果中には、電気税につき昭和五九年度以前の分の返還を請求しなかったのは、東北電力から権利放棄の要請があったからではなく、原告が市に寄付したものと割り切ったためである旨、また、東北電力から電気税還付の手続は原告がやってくれるよう話がされた旨の供述部分がある。しかしながら、電気税等の過誤納金の還付の相手方は納入者であり、本件の場合は特別徴収義務者たる東北電力が納入者であるから、その還付は東北電力になされるのであり、電気使用者が過大徴収された電気税を回収するためには、特別徴収義務者が事実上還付を受けることができるか否かにかかわらず、特別徴収義務者に対してその相当額の返還を求める方法によることになると解される。したがって、電気税相当額の返還は東北電力と原告との間の問題であるところ、原告の市への寄付ということは結局、原告の東北電力に対する返還請求を放棄する趣旨であったというべきであり、また、証人笠原一博の証言、同人の大蔵事務官の任意聴取に対する陳述(乙第二号証)、同人作成の陳述書の記載(甲第八号証)に照らせば、還付手続は原告においてなすよう東北電力から話があった旨の供述部分は採用できない。

     なお、証人笠原一博の証言中には、本件確認書は東北電力の内部的な必要性から作成されたものである旨の供述部分及び本件確認書の精算終了条項は決まり文句に過ぎない旨の供述部分があるが、同証人の証言中には、右確認書は返戻額を出し、それを通知して、原告の了解を頂いたということである旨の供述部分もあり、精算のやり直しの可能性については曖昧な供述に終始していること、大蔵事務官の任意聴取に対しては、右精算終了条項は後日の紛争を防止する趣旨で記載されたものである旨陳述していること等に照らせば、本件確認書が単なる東北電力の内部文書に過ぎず、精算終了条項も決まり文句に過ぎない旨の右供述部分は採用できない。

     他に右認定事実を左右するに足りる証拠はない。

 

 

 

  4(一) ところで、法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から同年度の損金の額を控除した金額であるとされ(法二二条一項)、右益金の額には別段の定めがあるものを除き当該事業年度の資本等取引以外の取引(いわゆる損益取引)による収益の額を算入することとし(同条二項)、この収益の額については、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(いわゆる公正処理基準)に従って計算されるものとしている(法二二条四項)。

 

    そして、右公正処理基準は企業会計原則、財務諸表等規則によっても表されており、収益、費用の期間帰属については、原則として、発生主義を採用している。

 

右発生主義とはいわゆる現金主義に対するものであるが、税法においては、課税の公平、基準の明確等の要請を勘案し、原則として収入すべき債権の確定をもって基準とする、いわゆる権利確定主義として理解されるべきものである。

 

 

   (二) 右権利確定主義によれば、法人の収益の帰属年度は右収益たる債権が確定した事業年度であるから、本件過収電気料金等を収益として計上すべき事業年度は、本件過収電気料金等の返還請求権が確定した日の属する事業年度であることになる。

 

     そして、前記認定事実に照らせば、本件過収電気料金等の返還請求権が確定したのは、昭和六〇年三月二九日(早くとも同月二八日)であると認められる。

 

すなわち、原告の右債権が確定したというためには、本件過収電気料金等の返戻額が当事者間において客観的に確定し得るものであることを要するところ、

 

電気料金の過大徴収の事実が当事者双方に認識されたのは、東北電力からその旨の説明があった昭和五九年一二月一四日であるが、

 

右時点においては、東北電力から原告に返還されるべき額が客観的に確定していたとはいえず、

 

また、同月二一日には、過収電気料金の概算精算額が約一億五二〇〇万円程度になる旨が原告に伝えられているが、右は概算額に過ぎず、

 

未だ、原告の東北電力に対する請求金額が確定したものとはいえない。

 

 

そして、本件過収電気料金等の返戻額が過大徴収額の実額とはいえないことは前記認定のとおりであり、本件過収電気料金等の返戻額は過大徴収の事実が判明した時点で当然に算出することのできた客観的な価額とはいえないのであり

 

(なお、使用電力量を計量できなかった場合の使用電力量算出基準に関する東北電力の電力供給規程も需要家との協議により定める旨の規定となっており、右規程の存在により当然に推計額が算出されうるものでないことも明らかである。)、

 

右返戻額が確定したのは、原告と東北電力との合意によるものというほかない。

 

そして、原告と東北電力間に確定した返戻額について合意があったと認められるのは、その具体的な金額が提示され、原告がこれを了解し(右は昭和六〇年三月二八日である。)、

 

更に、東北電力においても本店の決裁を受けて返戻額を確定し、本件確認書を作成することによって、最終的に精算を終了する旨の合意がなされた昭和六〇年三月二九日であるというべきである。

 

したがって、本件過収電気料金等の返還請求権が確定したのは、同月二九日(早くとも同月二八日)であり、本件過収電気料金等が帰属すべき事業年度は右両日を含む本件事業年度であるというべきである。

 

 

 

   (三) なお、原告は、税法においては、担税力を適正に評価して公正な課税を実現することを目的としており、企業会計とは本質的差異がある旨主張し、過年度の損益計算の誤りの修正の場合と対比して本件過収電気料金等の返戻金の処理も過年度の損金額の修正によってなされるべきものである旨主張する。

 

なるほど、税法においては担税力の適正な評価、公正な課税の要請から、企業会計原則とは異なる規定を置くことはあるが、本件過収電気料金等の精算においては、右税法上の要請から過年度の損金額の修正によって処理されるべきものとはいえない。

 

 

すなわち、担税力の適正な評価の点からはもちろん、公正課税の点からみても、前記認定のとおり、過年度の電気料金等の支払いは会計事実としては既に確定していたというべきものであり、

 

また、本件過収電気料金等の返戻額は客観的に存在する過年度の過大徴収額の実額ではなく、当事者の合意という新たな会計事実によって確定された金額であるから、

 

本件過収電気料金等の精算を過年度の損益が事実をありのままに表現していなかったような単なる損益計算の誤りの修正の場合と同視して、これを過年度の損金額の修正によって処理すべきものでないことは明らかである。

 

  5 以上のとおりであるから、本件過収電気料金等を本件事業年度の特別収益として計上した本件更正処分には原告の主張する違法はない。

 

 

 四 また、原告は、本件通知書には、更正の理由附記について記載不備の違法がある旨主張するので、以下、この点について判断する。

   本件通知書に、更正の理由として、昭和六〇年三月二九日に東北電力から支払いを受けた本件過収電気料金等は、原告と東北電力との間で取り交わされた本件確認書で合意がなされた昭和六〇年三月二九日を含む本件事業年度の益金と認められる旨の記載がなされていることは、当事者間に争いがない。

   ところで、法一三〇条二項が青色申告書に係る法人税の更正通知書に更正の理由の附記を求める趣旨は、処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせることによって、その不服申立に便宜を与える趣旨であるところ、本件更正処分は、本件過収電気料金等の金額自体を覆すことなく、それが原告と東北電力との間で合意がなされたことにより確定したものであるから、右合意がなされた昭和六〇年三月二九日を含む本件事業年度の益金と認められると判断されたことによってなされたものであり、前記記載により、その更正の理由及び根拠がおのずと明らかになっているというべきであり、本件通知書の記載は、処分庁の恣意的判断の抑制、不服申立の便宜といった右理由附記制度の目的を何ら損なうことはないというべきである。

   したがって、右記載は不備であるとの原告の主張は理由がない。

 

 五 以上のとおりであるから、原告の本件事業年度の所得金額は、本件過収電気料金等を含む三億一五八三万八六九一円であり、本件更正処分に係る所得金額もこれと同額であり、また、本件更正処分がその理由附記の点において不備なものともいえないから、本件更正処分は適法である。

 

 六 以上のとおり、本件更正処分は適法であるから、右更正処分に伴い、国税通則法六五条一項に基づいてなされた本件賦課決定処分も適法である。

 

 七 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 

    新潟地方裁判所第二民事部

        裁判長裁判官  林  豊

           裁判官  杉山正己

           裁判官  竹田光広