賃料増額請求と所得の計算(2)

 

 

所得税更正決定処分等取消請求控訴事件

 

 

 

【事件番号】 仙台高等裁判所判決/昭和45年(行コ)第14号

 

【判決日付】 昭和50年9月29日

 

【判示事項】 仮執行宣言は判決にもとづいて債務者が給付した金員は、全く任意弁済であるに認めるに足る特別の事情のない限り、旧所得税法10条の「収入すべき金額」に該当しない。

 

【参照条文】 旧所得税法9

       旧所得税法10

       民事訴訟法198-2

 

【掲載誌】  行政事件裁判例集26巻9号1129

 

について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

 

 原判決を取り消す。

 仙台北税務署長が控訴人に対して昭和四一年三月一二日付でなした、昭和三七年度分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課処分中、納付すべき税額三〇三、八四〇円、過少申告加算税五、九五〇円を超える部分、昭和三九年度分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課処分中、納付すべき税額九三〇、三八〇円、過少申告加算税三四、五五〇円を超える部分をいずれも取り消す。

 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

 

       

 

 

 

事   実

 

 

 

第一、当事者双方の申立

 一、控訴人

  主文同旨

 二、被控訴人

  1、本件控訴を棄却する。

  2、控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者双方の主張

 一、控訴人の請求原因

  1、控訴人は仙台北税務署長に対し、昭和三七年度分の所得税につき別表(一)の①欄記載のとおりに、昭和三九年度分の所得税につき別表(二)の①欄記載のとおりにそれぞれ確定申告をした。

  2、しかるに、仙台北税務署長は昭和四一年三月一二日付で昭和三七年度分の確定申告を別表(一)の②欄記載のとおりに更正し、過少申告加算税一五六、一五〇日を賦課する処分(以下右更正処分及び過少申告加算税賦課処分を本件(一)の処分という。)を、昭和三九年度分の確定申告を別表(二)の②記載のとおりに更正し、過少申告加算税一四一、四五〇円を賦課する処分(以下右更正処分及び過少申告加算税賦課処分を本件(二)の処分という。)をした。

    そこで、控訴人は、本件(一)(二)の各処分につき、昭和四一年四月八日仙台北税務署長に対し異議の申立をしたところ、同年七月四日異議が棄却されたので、さらに同年八月二日仙台国税局長に対し審査請求をしたが、昭和四二年六月三〇日右審査請求を棄却する旨の裁決がなされた。

  3、しかしながら、控訴人の昭和三七年度分の所得は別表(一)の③欄記載のとおりであり、昭和三九年度の所得は別表(二)の③欄記載のとおりであるので、本件(一)(二)の各処分には所得金額の認定を誤つた違法がある。

  4、昭和五〇年七月一〇日大蔵省令五五号をもつて大蔵省組織規程の一部が改正され、被控訴人が仙台北税務署長から本件に関する事務を承継した。

  5、よつて、控訴人は、本件(一)の処分中納付すべき税額三〇三、八四〇円、過少申告加算税五、九五〇円を超える部分の、本件(二)の処分中納付すべき税額九三〇、三八〇円、過少申告加算税三四、五五〇円を超える部分の各取消を求める。

 二、被控訴人の答弁

  1、請求原因1、2、4の各事実はいずれも認める。

    なお控訴人は、確定申告書において保険代理店業による一九、七九〇円を雑所得として計上しているが、当該所得は旧所得税法九条一項四号および旧所得税法施行規則七条の三第四号により事業所得に該当するので、更正決定においては、雑所得からその他事業所得に振替計算してある。

  2、同3の事実は争う。

    本件(一)(二)の各処分は後記三のとおり適法になされた。

 三、被控訴人の主張

  1、控訴人が昭和三七年分及び昭和三九年分の不動産所得を計算するにあたり、不動産収入とした金額の内訳は確定申告書によつては明らかでないが、仙台北税務署長の調査の過程で知り得たところで区分し、その調査額と対比してみると、

   (一) 昭和三七年分

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   |     |       貸付先       |          |          |          |

   | 区分  |―――――――――――――――――|  申告収入金額  |  調査収入金額  |    差額    |

   |     |   住所    |  氏名   |         円|         円|         円|

   |―――――+―――――――――+―――――――+――――――――――+――――――――――+――――――――――|

   | 地代  |仙台市名掛丁九一 |第一ビル(株)| 一、四一〇、七九五| 一、四一〇、七九五|         -|

   |―――――+―――――――――+―――――――+――――――――――+――――――――――+――――――――――|

   |     |         |       |   四二〇、〇〇〇| 八、六五九、八八二| 八、二三九、八八二|

   |  〃  | 〃 裏五番丁一三|福島 栄吉  |――――――――――+――――――――――+――――――――――|

   |(雑所得)|         |       |         -|   九三六、三一八|   九三六、三一八|

   |―――――+―――――――――+―――――――+――――――――――+――――――――――+――――――――――|

   |  計  |        -|      -| 一、八三〇、七九五|一一、〇〇六、九九五| 九、一七六、二〇〇|

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   (二) 昭和三九年分

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   |     |       貸付先       |          |          |          |

   | 区分  |―――――――――――――――――|  申告収入金額  |  調査収入金額  |    差額    |

   |     |   住所    |  氏名   |         円|         円|         円|

   |―――――+―――――――――+―――――――+――――――――――+――――――――――+――――――――――|

   | 地代  |仙台市名掛丁九一 |第一ビル(株)| 一、七六一、〇六〇| 一、七六一、〇六〇|         -|

   |―――――+―――――――――+―――――――+――――――――――+――――――――――+――――――――――|

   |  〃  | 〃 裏五番丁一三|福島 栄吉  |   四二〇、〇〇〇| 七、一〇五、九六一| 六、六八五、九六一|

   |―――――+―――――――――+―――――――+――――――――――+――――――――――+――――――――――|

   |  計  |        -|      -| 二、一八一、〇六〇| 八、八六七、〇二一| 六、六八五、九六一|

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   となり、つまるところ、福島栄吉に対する賃貸料収入の加算の当否に帰するところである。

  2、控訴人は、福島栄吉(以下単に「福島」という。)に対し昭和二一年九月一五日以来控訴人所有の土地を賃貸してきたが、数回の改訂の後基本的な賃貸料として昭和二七年中に月三五、〇〇〇円と協定のうえ、毎月二五日を支払期限としてきたもので、事実控訴人はこの額を昭和三七年分及び昭和三九年分の不動産収入(月三五、〇〇〇円の一二カ月分四二〇、〇〇〇円)として確定申告後に計上してきたことは右1により明らかである。

    ところで、控訴人は、右地代が周辺地代の値上り、地価の高騰及び租税の増額等により不相当と認め、昭和三〇年八月、福島に対して同年九月以降の地代を坪当り二、〇〇〇円とする増額請求をなし、昭和三二年一月八日に仙台地方裁判所に地代増額確認の訴を提起し、また、昭和三〇年一〇月六日に同年三月から同年八月までの地代不払を理由に福島に対し賃貸借契約の解除の意思表示をなすとともに、昭和三二年一〇月七日に同年三月以降同年九月までの地代不払を理由に仙台地方裁判所に建物収去、土地明渡しの訴を提起し、以来第一審(仙台地裁昭和三二年(ワ)第四号地代等請求、同年(ワ)第五七一号建物収去土地明渡請求事件)、第二審(仙台高裁昭和三五年(ネ)第五五八号建物収去土地明渡請求控訴事件)、上告審(最高裁昭和三七年(オ)第一〇四〇号)と争訟中のところ、昭和四〇年二月一九日上告棄却判決により、原告の勝訴が確定した。

  3、ところで第二審判決言渡(昭和三七年五月二八日判決言渡)後、福島は控訴人に対し次のとおりの金円を支払い(最終支払いは昭和四〇年まで)控訴人はこれを受領した。

      年月日       金額(円)     摘要

   昭三七、七、一八   四、三五一、二〇〇 差押転付命令

    三七、一〇、二九  五、〇〇〇、〇〇〇 内金として

                二四五、〇〇〇 三七、一月~七月分供託分

   昭和三七年分計    九、五九六、二〇〇

   昭三八、一〇、三     二〇五、九六一 三八、九月分損害金

    三八、一一、一     二〇五、九六一 三八、一〇月分損害金

    三八、一一、一五  二、〇〇〇、〇〇〇 内金として

   昭和三八年分計    二、四一一、九二二

   昭三九、七、三      二〇三、九六一 三九、七月分損害金

    三九、七、三一   二、〇〇〇、〇〇〇 内金として

    三九、九、三    二、〇〇〇、〇〇〇 内金として

    三九、一〇、二一  一、〇〇〇、〇〇〇 内金として

    三九、一一、四   一、〇〇〇、〇〇〇 内金として

    三九、一一、三〇    九〇〇、〇〇〇 内金として

   昭和三九年分計    七、一〇五、九六一

  4、不動産所得計算上の収入金額は、その収入すべき金額の確定した金額と解すべく、その確定の基準としては

   (一) 契約その他の慣習により支払期の定めある場合はその支払期

   (二) 支払期の定めないもので請求されたときに支払義務が確定する場合はその請求の時

   (三) その他の場合はその支払いを受けた時

   を標準として算定されると解されている(佐賀地方昭三九、一二、一七判決、同庁昭和三八年(行)第四号)ところであるが、福島は上告審がなお係属中において第二審判決の範囲内で地代金相当額の支払いをなすことを認め、これを随時履行してきたものであつて、これは右(二)に該当し、その支払いを受けた年分の不動産収入とすべきものである。

  5、仙台北税務署長は3の事実が当事者(控訴人ならびに福島)を調査の結果判明したので、控訴人の福島に対する不動産所得計算上の収入金額は控訴人計算の月三五、〇〇〇円の一二カ月分四二〇、〇〇〇円にかかわらず、昭和三七年分については九、五九六、二〇〇円((注)雑所得計算上の収入金額九三六、三一八円を含む。)、昭和三九年分については七、一〇五、九六一円である(昭和三八年分については係争外につき除く。)と認め、別表(一)(二)の各②欄記載のとおり計算をしたうえで本件(一)(二)の各処分をなしたものである。

    なお、昭和三七年分について原処分は雑所得の金額を九三六、三一八円と計算したが、これは延滞地代に対する年利五分の割合による支払いずみまでの遅延損害金であり、本来不動産所得計算上の収入金額とすべきところであつたが、雑所得金額計算上の収入金額としたものである。

   (注) 不動産所得と雑所得とは、所得金額の計算上特に異なるところがなく、所得の種類を変更することによる実益もないので、審査の裁決にあたつてもしいて変更しなかつたものである。

  6、雑所得とした九三六、三一八円の計算内訳は次のとおりである。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   |番号|遅延損害金計算の基礎となる|年利 |     計算の期間      |  遅延損害金額  |  備考  |

   |  |延滞地代又は地代相当金額 |   |                |(雑所得とした金額)|      |

   |――+―――――――――――――+―――+――――――――――――――――+――――――――――+――――――|

   | 1|二、六五七、〇二三円九一銭|年五分|三四、一一、四~三七、七、一八 |   三五九、八〇六|甲二号証判決|

   |  |             |   |           (注一) |          |主文三参照 |

   |――+―――――――――――――+―――+――――――――――――――――+――――――――――+――――――|

   | 2|四、〇一四、六九七円九八銭|年五分|三四、一一、四~三七、七、一八 |   五四三、六四一|甲二号証判決|

   |  |         (注二)|   |           (注一) |          |主文四参照 |

   |――+―――――――――――――+―――+――――――――――――――――+――――――――――+――――――|

   | 3|二、三二〇、五二一円八九銭|年五分|三七、七、一八~三七、一〇、二九|    三二、八七一|      |

   |  |         (注三)|   |            (注四)|          |      |

   |――+―――――――――――――+―――+――――――――――――――――+――――――――――+――――――|

   | 4|     合計      | - |               -|   九三六、三一八|      |

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   (注一) 控訴人は差押転付命令により昭和三七年七月一八日に四、三五一、二〇〇円を受領しているので延滞地代に対する同日までの遅延損害金をまず計算した。

   (注二) 第二審判決主文の四では明渡遅滞に伴う地代相当の損害金四、六六四、六九七円九八銭としているが、福島は昭和三三年三月以降昭和三四年八月まで従前の賃貸料三五、〇〇〇円を供託しているので、その一八ケ月分六三〇、〇〇〇円を差し引いた残額を遅延損害金計算の基礎とした。

   (注三) 注一の四、三五一、二〇〇円は番号1の二、六五七、〇二三円に充当し残額一、六九四、一七七円を番号2の四、〇一四、六九七円に充当すると残債務の金額は二、三二〇、五二〇円となり、これを計算の基礎とした。

   (注四) 福島は、昭和三七年一〇月二九日五、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、控訴人はこれを受領しているので、計算期間は表のとおりとなる(なお、この支払には、残債務二、三二〇、五二一円及び番号1の三五九、八〇六円、番号2の五四三、六四一円、番号3の三二、八七一円の各遅延損害金との合計額三、二五六、八三九円に充当され、残額一、七四三、一六一円が昭和三四年九月一日以降の地代相当の損害金に充当されることになつたのである。)。

 四、控訴人の前記三の被控訴人の主張に対する答弁

  1、前記三の1の事実中福島に関する調査収入金額は争う、その余は認める。

  2、同三の2、3の各事実は認める。

  3、同三の4、ないし6の各主張事実は争う。

 五、控訴人の主張

  1、被控訴人は「不動産所得計算上の収入金額は、その収入すべき金額の確定した金額と解すべく、その確定の基準としては、

   (一) 契約その他の慣習により、支払期の定めある場合は、その支払期

   (二) 支払期の定めないもので、請求されたときに支払義務が確定する場合はその請求の時

   (三) その他の場合はその支払をうけた時

   を標準として算定されると解される」

    旨主張し、「福島は、上告審がなお係属中において、第二審判決の範囲内で、地代金相当額の支払いをなすことを認め、これを随時履行して来たものであつて、その支払を受けた年分の不動産収入とすべきものである」と主張する。

    しかし、右被控訴人の主張は失当である。

  2、不動産所得の発生時点が何時であるかの問題は、その発生した慣習の履行期は、何時到来するかという問題とは区別されなければならない。

    被控訴人の主張は、右債権の発生時期と、その履行期とを混同して履行期即発生期であるかの如く誤解しているもので失当である。

    所得税法に於ける所得算定の基準については、所謂発生主義を原則とするのであつて、当該年度に発生したものは、その履行期に関係なく当該年度の所得として、計上すべきものである。

    所得税法第二六条二項にとれば、「不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から、必要経費を控除した額とする」とあり、右収入金額とは、同法第三六条第一項によれば、「その年分の各種所得の金額の計算上、収入金額とすべき金額または総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」とあるとおりであつて、被控訴人が主張するようなその年において履行期または支払期の到来すべき金額ではない。

    したがつて、支払期を以て当該年度の不動産所得発生の帰属年度と解したり、現実の支払をうけた時を以て、当該年度の収入とすべきであると解することは、右税法の発生主義の原則を明定した法文上許されない。

  3、本件の福島に関する控訴人の所得の発生年度についてみると、被控訴人主張のように、現実に「福島が、第二審判決の範囲内で地代金の支払いをなすことを認め、これを随時履行してきた」その支払年度に於いて、控訴人の不動産所得が発生したものと解することは誤りである。

    すなわち、第二審判決によつてみるとおり、本件不動産収入の基礎である控訴人所有土地の賃料については、被控訴人も自白するとおり昭和二一年九月一五日、福島に対し地代支払期日毎月二五日として賃貸してきたが、昭和二七年中に、右地代は一ケ月三五、〇〇〇円に合意改定されたものである。

    右によつて明かな通り、地代の支払期及び発生期は、毎月その月の二五日であると解さなければならない。このことは、被控訴人が主張するように、「契約その他の慣習により、支払期の定める場合はその支払期」を以て不動産所得確定発生の時期と解するとしても、同様な結論になる。ところが、右地代については、昭和三〇年八月に、控訴人より福島に対し、地代を一ケ月坪当り二、〇〇〇円に増額する意思表示をなしたものである。

    その結果、右土地の地代は、右増額請求がなされると同時に、その時期における客観的に正当な地代額にまで、当然に増額されたものといわなければならない。しかして、右客観的に正当な地代額まで、当然に増額された地代は、その時点から発生したものであるから、当然にその発生後はその年度分は、その年度において収入すべき金額として、所得計算上計上されなければならないものとなること前記の所得税法上の規定から明かである。仮りに、しからずとして、被控訴人のように支払期の約定あるものは、その時を基準にすると解しても、発生した増額地代の支払時期は、当然前述のとおり約定によれば、各月二五日限り支払期が到来すると解すべきで、その年度内の各支払期の到来した分は、当該年度の不動産収入(所得)として計上すべきものとなるのである。

    控訴人の右主張の正当性は、地代増額の意思表示は、形成権であることからくる必然の理論であり、地代増額の意思表示をなし到達した時から、客観的に妥当とされる範囲で(本件ではそれは坪当り一ケ月金一、〇五〇円、合計一ケ月地代一三一、〇六六円二五銭と認定されている。)、地代増額の法律上の効果が発生し、控訴人の所得は約定どおりその月は毎月二五日に、その支払期が到来することになるのである。

    しかして、そのためにこそ右増額地代に対する支払については、履行遅滞として第二審判決に於ても明かなとおり、遅延損害金として民法所定の年五分を付して支払を命じているのであつて、右事実からしても、増額地代の発生及び支払時期、したがつて、その所得の帰属年度に関する被控訴人の主張は失当と言わねばならない。それ故に、増額地代は右のとおり昭和三〇年九月分以降、右土地賃貸借契約が解約されるまで、すなわち昭和三二年一〇月六日に解約になるまで、毎年度毎の不動産所得として計上されるべきものである。

  4、ところで、右のとおり、昭和三二年一〇月六日に、右土地賃貸借契約が解約されたことは、第二審判決により明かであるから、右解約後は地代ではなく、右土地の不法占有による地代相当の損害金となるが、右地代相当の損害金の発生時期は、判例学説の認める通り不法行為の都度即時発生、即時履行期が到来するものである(大審判例明治四三・一〇・二〇、民録七二二P、同大正三・六・二四、民録四九五P等多数、学説我妻外多数、参照)。

    したがつて、この時から当然遅延損害金を付されることになる。

    右のとおりであるから、昭和三〇年一〇月七日以降の福島の不法占有による地代相当の損害金の発生は、福島の履行の時期如何にかかわりなく発生し、かつ、支払期も到達しているものと解さなければならない。

    しからば、本件において、本件土地からの昭和三七年度の地代相当の損害金として、不動産所得として計上されるべき金額は、一ケ月二〇五、九六一円二五銭の一二ケ月分(計二、四七一、五三五円)であり、また昭和三九年度分のそれは、同様にして同額となるものである。

  5、被控訴人が主張する、昭和三七年分合計九、五九六、二〇〇円について検討するに、昭和三七年中に現実に控訴人が仮受領した右金額の発生原因または支払時期等については、被控訴人は、全くこれを無視して、単に課税上、その年度に動いた金額は、その理由の如何を問わず全てその年度の不動産所得であるとして、課税すると言う暴挙に出ているのである。

    昭和三七年中に控訴人が仮受領した金員について、同年度中の不動産収入として「その年において収入すべき金額)(所得税法三六条第一項)か否かを検討し、その年度中に収入すべき金額以外のものは、その年度の収入として計算すべきものではないこと前述のとおりである。

    また、仮に昭和三七年度中に、控訴人が福島より仮受領していない、所謂未収の分があるとしても、それが、同年中に収入すべきものである限り、同年度の収入として計上されなければならないことも前述のとおりである。

    もし、被控訴人の主張のような理論によれば、ある年度の控訴人の不動産所得は、単にその支払人側(福島)の現実の支払の実行に左右されて増減するか、または、控訴人が、その支払を猶予した場合には、それに左右されるということにもなりかねないものであり、租税法定主義の理論上も極めて不当なものとなる。

    しかも、第二審判決の確定したのは、実に昭和四〇年二月であるから、それ以前の昭和三七年度(昭和三九年度分も同じ)における、福島より控訴人に対する支払は、あくまで確定的支払ではなく、条件付のものと解さなければならないのであつてその意味で理解するならば、昭和三七年度(昭和三九年も同じ)中の支払金は、全て一時的預託金にすぎず、確定的な不動産収入として、所得を構成するものではないと解さねばならない筈である。いずれにせよ。被控訴人の主張の失当なること明白である。

  6、よつて、昭和三七年度中の本件福島関係の不動産所得の正当なる計算は、同年度中に発生した不法行為による損害金として次のとおりとなる。

      205,961円25銭×12ケ月=2,471,535円

     (1ケ月の賃料相当の損害金)

    しかし、既に35,000円×12ケ月=420,000円は、申告済であるから、それを控除した分二、〇五一、五三五円が、昭和三七年度の福島の関係不動産所得として、追加計算されなければならない申告洩となるにすぎない。

    右同様昭和三九年についても(205,961円25銭×12ケ月)-(35,000円×12ケ月)=2,051,535円

   となり、この分が申告洩れ分となるだけである。

  7、しかし、百歩譲つて、被控訴人主張のとおり、地代増額請求の意思表示だけでは権利が発生していないとしても、遅くとも仮執行宣言付第一審判決の言渡期日には権利が行使し得る状態に発生したと解すべきである。

    すなわち、仮執行宣言付判決が言渡された以上、控訴人は福島に対し即時に執行しうることゝなるのであつて、被控訴人の表現を藉りれば、「所得とすべき経済的利益を享受行使しうる」のである。そして勿論、仮執行宣言に基づく執行力は、福島の上訴によつて停止されないのだから、上訴審係属中であつても、権利は発生していると解すべきである。

    仮執行宣言は第一審判決を変更する上訴審判決の言渡により、変更の限度において効力を失うが、その場合はそれに応じて更正すべきなのである。

    被控訴人は第二審判決言渡期日後も、いまだ権利は発生していないと主張するが、既に執行しうる状態にある権利がいまだ発生していない。すなわち、課税の対象とならないと解するのは明らかに誤りである。

    また、被控訴人主張の如く、上告審係属中であつても、福島から控訴人に対する仮払があつた以上、権利が発生したと解するならば、それとの均衡上、仮執行宣言によつて執行しうる状態となつた権利は既に発生しているものというべきであろう。

    したがつて、増額地代の発生及び支払期は、第一審判決言渡期日である昭和三五年一一月一八日であり、右増額地代は昭和三五年度の不動産所得として計算されるべきである。

    福島の不法占有による損害金についても、昭和三五年度までの分は、右と同じく昭和三五年の不動産所得となるべきものである。

    よつて、控訴人の昭和三七年度及び三九年度の不動産所得として計上されるべき金額は、それぞれ、一ケ月の賃料相当の損害金二〇五、九六一円の一二ケ月分(計二、四七一、五三五円)であるから、既に申告済の四二〇、〇〇〇円を差引いた二、〇五一、五三五円が追加すべき収入となるにすぎないのである。

    よつて、本件(一)(二)の各処分は失当である。

  8、控訴人の従前の主張が全部理由ないとしても、控訴人は予備的に次のとおり主張する。

   (一) 昭和三八年八月末日以前において、またはその些か前頃に、控訴人と福島との間で一応判決未確定であるが、福島は控訴人に対し第一審または第二審判決に基く計算によつて、昭和三八年一一月以降は毎月末日限り、その月分を仮払いしていく旨協定した。

   (二) もちろん、右仮払は判決未確定であるから、あくまで仮払であつて、一時的預託の性格によるものである(すなわち、福島の責任財産からみて、判決確定を待つて一時払をうけるのは回収不能のおそれがあるので、逐次判決未確定でも入金を得て控訴人において預り、判決確定時に於てその結果により確定的に清算される性格のものとしての意味での仮払である。)。

     よつて、未確定中の右協定に基く入金は所得ではないが、百歩譲つて所得となるとしても、その帰属年度については被控訴人の主張は失当である。すなわち、昭和三八年一〇月以降は毎月その月分を月末に支払うとの協定が成立していた以上、その債権の発生と権利確定は毎月末日の到来を以て当然に発生すると解すべきである。

     したがつて、右のように解するとしても、昭和三九年一月一日より同年一二月三一日までの間、すなわち昭和三九年度分として福島関係の不動産収入として発生した金額は、一ケ月二〇五、九六一円の一二ケ月分合計二、四七一、五三五円にすぎない。控訴人は単純に、昭和三九年中に福島から原告に交付された金額の合計が、金七、一〇五、九六一円であるから、これを以て昭和三九年中の収入であるとなしているがそれは現実の履行の時期を以て、債権の発生または確定と解する独自の増微(ママ)収をはかるための見解で違法である。

     すなわち、昭和三九年度中の本件の不動産収入の確定発生は、控訴人の従前の主張が全部容認出来ないとしても、少くなくても前記の通り毎月末日限り二〇五、九六一円宛合計二、四七一、五三五円にすぎず、その中既申告分四二〇、〇〇〇円を差引き、二、〇五一、五三五円が追加すべき収入となるにすぎないのである。

     しかるに、協定または約定による支払期日に支払を遅延し、たまたま、福島が控訴人に対し昭和三八年度中に支払預託すべき分を遅れて、昭和三九年になつてから入金しても、そのために既に昭和三八年八月以前に於て協定がなされて発生確定したものが、未確定、未発生となる理由はなく、昭和三八年中の発生収入が昭和三九年中の発生収入と化するということはない。

    以上の次第で本件(二)の処分は失当である。

 六、被控訴人の前記五の控訴人の主張に対する反論

  1、控訴人は地代増額請求権は形成権であるから意思表示の到達のときに客観的に妥当な範囲で値上げの効果が発生し、その権利の履行を求め得るように確定し、また、賃料相当の損害賠償請求権については、損害発生の日に請求権が発生し直ちに履行期が到来することを前提として、権利が確定すると主張する。

    なるほど、私法上の債権の効力発生時期についてはその主張のとおりであろうが、問題は所得税法の解釈である。いうまでもなく、税法においては経済的観察方法ないし実質主義が採られているのであつて、税法上の所得の実質は経済的利益であるから、その要件として経済的成果の実現または確実な可能性が存在し、しかも測定可能なものであることが必要である。したがつて法律上の権利であつても、経済的成果が伴なわないもの、あるいは経済的成果の発生に障害があるもの、測定不可能なものは所得としての要件を欠くものであるから、所得税法上の課税所得とならないというべきである。

    したがつて、たとえ本件地代増額請求権が形成権で、意思表示の到達によつて妥当な範囲で値上げの効果が発生するとしても、当事者間において賃料について合意に達せず、その範囲について訴訟で争われている以上は、未だ、具体的金額が確定していないのであるから、経済的成果が発生したものとはならないのである。したがつてこのように経済的成果が生じていないのに税務官庁が所得があるとしてこれを認定することは許されないのであつて、右主張は失当であるといわなければならない。

  2、控訴人は、仮執行宣言付第一審判決の言渡しにより確定する旨主張する、しかし、仮執行宣言付給付判決があつたからといつて直ちに収入する権利が確定したといえないことは当然であり、さらに、控訴人主張のとおり仮執行によつて経済的利益の実現が可能となつたとしても、それは仮執行によつて実現した経済的利益の範囲内に限られるのであつて、月額の賃料相当額が継続してそのまま確定するものではない。したがつて、右主張も失当といわなければならない。

  3、控訴人は、上告審係属中に受領した賃料相当額は、あくまでも訴訟未確定時における仮の支払で預り金であるにすぎず、第二審判決が訴訟未確定の間は権利の範囲、存否に争いがあるので、当該権利は未確定であると主張する。しかし、所得税法上上(ママ)、所得の概念はもつぱら経済的には握すべきであり、所得税法は一定期間内に生じた経済的利得を課税対象とし、担税力に応じた公平な税負担の分配を実現しなければならないので、所得の発生原因たる債権の成否とは無関係に、いやしくも納税者が経済的にみて、その利得を現実に支配管理し自己のためこれを享受しうる可能性の存する限り課税の対象たる所得を構成するものと解するのが相当であり、控訴人は第二審判決に基づいて福島に支払いを求め、福島をして支払いに応じさせていたのであるから、右金員については控訴人が経済的にみて、その利得を現実に支配管理し自己のためこれを享受したとみるのが相当であり、また担税力においても欠けるところはないから、右主張も失当といわなければならない。

  4、控訴人の前記五の8の主張は争う。

  5、本件不動産所得の帰属年分は福島が控訴人との訴訟の係属中第二審判決の範囲内で地代増額分等の支払をなすことを認め、これを随時履行した年であるとする被控訴人主張について左のとおり補足する。

    本件所得は、通常の取引のように取引当事者間において金額が明確なものと異なり、増額請求にかかる地代の増額分であつて、増額請求の相手方がこれを認めないときは、増額請求の時にその請求をなす要件が存したか否か、またその増額が妥当な金額かどうかの争いを訴訟手続によつて解決するほかなく、訴訟が終了した時点においてはじめて増額請求者の実効性ある権利の存否が判明することとなるものである。したがつて訴訟の対象となつている地代の増額分は、一般的には、当該訴訟が終了するまでは不動産所得として確定しないものというべきである。しかし、特段の事情があれば、例えば訴訟当事者が訴訟とは別に双方の合意で訴訟の目的たる実体上の権利関係を処分したような場合には、訴訟終了前でも所得が確定する。

    これを本件についてみると、福島は控訴人との訴訟の第一審で敗訴したが地代増額分等について支払をなさず、第二審で敗訴してもなお上告したのであるが、その後福島は控訴人から度々第二審判決主文掲記の金員の支払を催告され、かつ、昭和三七年七月一八日に控訴人から仮執行宣言付第二審判決により供託金を差押転付されたためか、前述のとおり金員を支払い、昭和四〇年一〇月に至つて地上建物を収去した。かように福島の支払は上告中に開始されたこと、この支払は控訴人の請求により福島が任意にしたこと、右請求及び支払について何等の留保条項が付されていないこと、福島は地代等として右のように支払い昭和四〇年一〇月まで土地明渡しを延期したこと等の諸事情を考察すると、その随時支払の都度当該金員について控訴人、福島間に地代増額分等について支払いの合意があり、これが即時履行されたものとするのが当事者の意思に合致する合理的解釈である。

    また、不動産所得計算上の収入金額の確定の基準として前述のとおり、

   (一) 契約その他の慣習により支払期の定めある場合はその支払期

   (二) 支払期の定めのないもので請求されたときには支払義務が確定する場合はその請求の時

   (三) その他の場合はその支払を受けた時

   であるが、福島は地代増額分等について強制履行されたのではなく控訴人、福島間の訴訟が上告審において係属中任意にかつ無条件で支払つたのであるからこれが所得としての確定は右(一)(二)の基準による確定は考えられず、結局(三)の基準によつて支払の時期とせざるを得ないのである。

    よつて以上の見解に基づいてなした仙台北税務署長の本件(一)(二)の各処分いずれも適法である。

第三、証拠関係(省略)

 

       

 

 

 

 

 

理   由

 

 

 

一、請求原因1、2、4の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

 

二、そこで、本件(一)(二)の各処分の適否につき以下に判断する。

 

 1、控訴人が福島から被控訴人の前記事実摘示第二の三の3記載の各金員(以下被控訴人主張の金員という。)の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

   被控訴人は、その主張の金員中、昭和三七年度に支払を受けた合計九、五九六、二〇〇円は控訴人の昭和三七年度分の、昭和三九年度に支払を受けた合計七、一〇五、九六一円は控訴人の昭和三九年度分の各収入金額になる旨主張する。

 

 

   ところで、一定の収入金額が生じた時期を決定する基準について、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下旧所得税法という。)第一〇条は、

 

「収入すべき金額」による旨規定し、「収入した金額」とは規定しておらず、その収入の原因となる権利が確定的に発生した時点で所得の実現があつたとする建前(権利確定主義)を採用しているものと解される

 

(最高裁昭和四〇年九月八日第二小法廷決定刑集一九巻六号六三〇頁、同昭和四九年三月八日第二小法廷判決判例時報七三八号六二頁)から、

 

被控訴人主張の金員の支払時期をもつて直ちに収入金額の帰属年度を決定することはできず、控訴人主張の金員の支払の原因である権利の確定時期について考察し、これにしたがつて収入金額の帰属年度を決定しなければならない。

 

 

 2、右見解に立脚して本件を考察することとする。

 

   控訴人が福島に対し、昭和二一年九月一五日から控訴人所有の土地(成立に争いのない甲第二、第三号証によると、この土地は仙台市裏五番丁一三番の三宅地七二・六七坪、同一二番の三宅地二三・七八坪、同一一番の一宅地八三・九七坪、以上三筆合計一八〇・四三坪((昭和二四年九月一〇日特別都市計画に基づく土地区画整理法に基づく土地区画整理に基づく土地区画整理による換地予定地として、仙台市裏五番丁一一番の二、同一三番の三、同一一番の一、同一〇番宅地の一部第二五ブロツク三一号一二四・九四坪(賃借部分実測一二四・八二五坪)が指定。以下本件土地という。))であることが認められる。)を賃貸していたこと、

 

 

昭和二七年以降本件土地の賃料は一ケ月三五、〇〇〇円であつたところ、控訴人は昭和三〇年八月福島に対し同年九月以降の賃料を坪当り一ケ月二、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をし、

 

これに基づき、昭和三二年一月八日仙台地方裁判所に地代等請求の訴を提起し、

 

次いで、同年一〇月六日地代不払を理由に本件土地の賃貸借契約解除の意思表示をし、

 

同月七日右解除を原因とする建物収去・土地明渡及び賃料相当の損害金の支払を求める訴を同裁判所に提起したこと、

 

 

 

右の各訴は被控訴人主張のように控訴人の勝訴となつたこと、

 

 

 

以上の各事実はいずれも当事者間に争いがなく、そして、各成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第五ないし第一〇号証、各成立及び原本の存在につき争いのない乙第八ないし第一〇号証、当審証人鍋島正幸の証言により成立が認められる乙第一二号証、原審証人鈴木譲、当審証人勅使河原安夫、鍋島正幸の各証言、原審及び当審(第一、二回)における控訴人本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

 

 

  (一) 仙台地方裁判所は、前示地代等請求及び建物収去土地明渡等請求事件(同庁昭和三二年(ワ)第四号、同年(ワ)第五七一号)につき、昭和三五年一一月一八日、福島に対し、本件土地上の建物を収去して本件土地を控訴人に明渡し、かつ、八、三一三、三九七円及びこれに対する昭和三四年一一月四日から支払済まで年五分の割合による金員、同年九月一日以降本件土地明渡済まで一ケ月二〇六、一五一円の割合による金員を控訴人に支払うよう命じ、

 

かつ、

 

控訴人が一、九八〇、〇〇〇円の担保を供することを条件とする仮執行宣言付判決を言い渡した。

 

 

福島は右判決に対し仙台高等裁判所に控訴するとともに、その執行停止決定の申請をし(同庁昭和三五年(ウ)第一七四号)、

 

 

その頃同停止決定を得た。仙台高等裁判所は、右控訴事件(同庁昭和三五年(ネ)第五五八号)につき、昭和三七年五月二八日、本件土地の賃料が昭和三〇年九月分以降一ケ月一三一、〇六六円二五銭(坪当り一、〇五〇円)に増額されたこと、

 

本件土地の賃貸借契約は賃料不払により昭和三二年一〇月六日限り解除されたこと、

 

解除後の賃料相当の損害金は、同月七日以降同年一二月末日まで一ケ月一八七、二三七円五〇銭(坪当り一、五〇〇円)、昭和三三年一月一日以降本件土地明渡まで一ケ月二〇五、九六一円二五銭(坪当り、一、六五〇円)であること、

 

 

以上の各事実を認定したうえ、

 

第一審判決を変更し、福島に対し、本件土地上の建物を収去し、本件土地を控訴人に明渡すべきことを命ずるとともに、

 

(イ)滞納賃料二、六五七、〇二三円九一銭(内増額分は二、四二〇、二四九円七一銭)及びこれに対する昭和三四年一一月四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金、

 

(ロ)賃料相当の損害金四、六四四、六九七円九八銭及びこれに対する右同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金、ならびに、

 

(ハ)同年九月一日以降本件土地明渡済まで毎月二〇五、九六一円二五銭の割合による賃料相当の損害金の各支払を命じ、

 

かつ、控訴人が一、九八〇、〇〇〇円の担保を供することを条件とする仮執行宣言付判決を言い渡した。

 

 

福島は右判決に対し上告するとともに、仙台高等裁判所に対し右仮執行宣言付第二審判決に基づく強制執行の停止決定の申請をしたが

 

(同庁昭和三七年(ウ)第九七号)、

 

同年六月一一日右申請の却下決定がなされた。

 

最高裁判所は、右上告事件(同庁昭和三七年(オ)第一〇四〇号)について、

 

昭和四〇年二月一九日上告棄却の判決を言い渡し、

 

右第二審判決は確定した

 

(但し、昭和四〇年二月一九日上告棄却の判決が言い渡されたことは当事者間に争いがない。)。

 

福島は同年八月三一日本件土地上の建物を収去して本件土地を控訴人に明け渡した。

 

 

 

 

 

  (二) 控訴人は、右上告事件係属中である昭和三七年七月一八日、仮執行宣言付第二審判決に基づき、福島らが仙台法務局に供託した保証金

 

(仙台高等裁判所昭和三五年(ウ)第一七四号強制執行停止決定申請事件で福島らが供託したもの)

 

とこれに対する利息金合計四、三五一、二〇〇円の取戻請求権の差押・転付命令

 

(仙台地方裁判所昭和三七年(ル)第一八二号)を得、

 

その頃その支払を受け、そして、同年一〇月一〇日頃夜間執行の許可を得て福島外一名の有体動産を差押えたところ、

 

福島は同月二九日控訴人に対し、

 

五、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、残額も支払計画を樹てて支払うから執行をまつてもらいたい旨申し出、

 

控訴人はこれを了承し、執行を解除し、

 

そして、福島から被控訴人主張のその余の各金員(但し、福島が昭和三七年一月から同年七月まで一ケ月三五、〇〇〇円の割合で供託した計二四五、〇〇〇円を除く。)の支払を受けた(但し、以上の各金員の支払を受けた点は当事者間に争いがない。)。

 

 

 

 

 3、被控訴人は、第二審判決確定前であつても、福島が被控訴人主張の金員を支払つた都度、その限度で権利が確定した旨主張するのに対し、控訴人は右金員は確定的支払でなく、条件付のものであつて、一時的預託金にすぎない旨主張して抗争する。

 

   ところで、仮執行宣言付判決に対する上訴提起後に支払われた金員は、それが全くの任意弁済であると認めるに足る特別の事情のない限り

 

民訴法一九八条二項にいう「仮執行宣言ニ基キ被告カ給付シタルモノ」にあたると解すべきであるから

 

(最高裁昭和四七年六月一五日第一小法廷判決民集二六巻五号一〇〇〇頁)、

 

福島が控訴人に支払つた前記各金員は、仮執行宣言付の前記控訴判決に基づいて支払われたものと推定されるところ、

 

原審証人鈴木譲の証言中には、福島が控訴人との合意により確定的に被控訴人の各金員を支払つた旨の供述部分が存するが、これは、原本の存在及び成立に争いのない乙第一〇号証の記載、当審証人勅使河原安夫の証言、原審及び当審(第一、二回)における控訴人本人尋問の結果に照らして採用できず、他に右推定を揺がすに足る証拠はない。

 

   以上のしだいで、福島の支払つた被控訴人主張の各金員は、前記のごとく仮執行宣言に基づく給付にかかるものである以上、

 

右金員の支払は、仮の弁済であつて、

 

他日本案判決が破棄されないことを解除条件とする暫定的なものにすぎないと解するのが相当である

 

 

(大審院大正一五年四月二一日判決民集五巻二六六頁)から、被控訴人主張の各金員の支払をもつて権利確定とみることはできず、被控訴人の前記主張は採用できない。

 

 

 

 4、そうすると、被控訴人主張の各金員は、その支払の原因である第二審判決の認容した各権利の確定時の収入金額とするのが相当であるところ、前記認定の各事実によると、第二審判決の認容した前示(イ)の延滞賃料請求権の内、従前の賃料額部分は、その各支払期に確定し、増額賃料二、四二〇、二四九円七一銭部分、(ロ)の賃料相当の損害金請求権、(イ)(ロ)に対する各遅延損害金請求権、(ハ)の賃料相当の損害金請求権(福島は昭和四〇年八月三一日本件土地上の建物を収去し、本件土地を控訴人に明け渡したから、昭和三四年九月一日から昭和四〇年八月三一日まで毎月二〇五、九六一円二五銭の割合による損害金となる。)は、いずれも第二審判決の確定した昭和四〇年二月一九日に確定したものというべきである。

 

   なお、控訴人は、賃料増額の意思表示により、その時点で増額賃料請求権が確定し、地代相当の損害金請求権は不法占有の都度発生し確定する旨主張するが、控訴人主張の右の時点においては未だ具体的に権利と金額が確定しているものとはいえないから、控訴人の右主張は採用できない。

 

   また、控訴人は第一審の仮執行宣言付判決の言渡により右の各権利が確定する旨主張するが、前同様の理由で採用できない。

 

   次に、成立に争いのない乙第一一号証、当審証人勅使河原安夫の証言、原審及び当審(第一、二回)における控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人主張の昭和三七年度分金員中、四、三五一、二〇〇円(昭和三七年七月一八日差押転付命令で取得したもの)は、(イ)の延滞賃料二、六五七、〇二三円(円未満は切り捨てた。)と(ロ)の賃料相当の損害金四、六四四、六九七円九八銭から六三〇、〇〇〇円(福島が昭和三三年三月から昭和三四年八月まで一ケ月三五、〇〇〇円の割合により供託した金員)を控除した残四、〇一四、六九七円(円未満は切り捨てた。)の内金に仮に充当され(その結果(ロ)の残額は二、三二〇、五二〇円となる。)、昭和三七年一〇月二九日支払の五、〇〇〇、〇〇〇円は、(ロ)の残り二、三二〇、五二〇円、(イ)に対する昭和三四年一一月四日から昭和三七年七月一八日まで年五分の割合による遅延損害金三五九、八〇六円、(ロ)に対する右同期間の年五分の割合による遅延損害金五四三、六四一円、(ロ)の残金二、三二〇、五二〇円に対する昭和三七年七月一八日から同年一〇月二九日まで年五分の割合による遅延損害金三二、八七一円にそれぞれ仮に充当され、残り一、七四三、一六二円と二四五、〇〇〇円(昭和三七年一月から同年七月までの供託分)はいずれも(ハ)の損害金に仮に充当され、被控訴人主張の昭和三八年、三九年度分の各金員はいずれも(ハ)の損害金に仮に充当され、第二審判決の確定により、右充当関係が確定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

 

   そうすると、前示(イ)の延滞賃料に充当された金員中、従前の賃料額部分はその従前の賃料の支払期の属する年度の収入金額と(この分について既に確定申告済であることは前掲乙第一二号証、当審証人鍋島正幸の証言により明らかである。)、その余の増額部分二、四二〇、二四九円、(ロ)(ハ)の各損害金、(イ)(ロ)に対する各遅延損害金に充当された金額はいずれも第二審判決の確定した昭和四〇年度の収入すべき金額と認めるのが相当である(但し、控訴人が昭和三七年度、昭和三九年度にそれぞれ従前の賃料額一ケ月三五、〇〇〇円の割合による金員を収入金額として確定申告していることは当事者間に争いがないので、この分を控除した範囲で)。

 

三 以上の次第により、被控訴人がその主張の昭和三七年度分の金員計九、五九六、二〇〇円から四二〇、〇〇〇円(控訴人の確定申告分)を控除した九、一七六、二〇〇円を昭和三七年度の収入金額と、昭和三九年度分七、一〇五、九六一円から四二〇、〇〇〇円(前同)を控除した六、六八五、九六一円を昭和三九年度の収入金額とそれぞれ認定し、これを基礎にして控訴人の昭和三七年度、昭和三九年度の各所得税を控訴人主張のように更正し、過少申告加算税を賦課した本件(一)(二)の各処分には、旧所得税法一〇条の適用を誤つた違法が存するといわなければならない。

 

  ところで、控訴人は別表(一)(二)の各③欄記載どおり昭和三七年度、昭和三九年度の各所得がある旨自認しているので、これを基礎にして右各年度の所得税及び過少申告加算税を計算すると、控訴人主張のごとく別表(一)(二)の各③欄記載のとおりになる(必要経費、その他の所得、所得控除額、税額控除額、源泉徴収税額の各金額については、いずれも当事者間に争いがない。)ので、本件(一)(二)の各処分中右認定の限度を超える納付税額及び過少申告加算税額部分の取消しを求める控訴人の請求は正当として認容すべきである。

 

  よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条・八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 

 (裁判官 井口源一郎 伊藤俊光 佐藤貞二)

 別表(省略)