同族会社不動産転貸(2)

 

 

 

所得税更正処分取消請求控訴事件

 

 

 

【事件番号】 福岡高等裁判所判決/平成4年(行コ)第18号

 

【判決日付】 平成5年2月10日

 

 

【判決要旨】

 

(1) 所得税法一五七条(同族会社等の行為又は計算の否認)は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、その株主ないし社員又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことにかんがみ、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合にそれを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものである。したがって、あくまで租税負担の公平を図るのが目的であって、租税負担を回避しようとした者に通常以上の税を負担させるといったような制裁的な目的はない。

      

(2)~(14) 省略

 

【掲載誌】  税務訴訟資料194号314頁

 

 

について検討します。

 

右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

 

       

 

主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

 一 控訴人は、「1原判決を取り消す。 2被控訴人が昭和六二年七月九日付けでした控訴人の昭和五九年分、昭和六〇年分及び昭和六一年分の所得税の各更正並びに被控訴人が同日付けでした控訴人に対する右各年分の過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。3訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

 

 二 当事者間に争いのない事実と争点は、争点について当事者双方の主張を次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載(ただし、原判決三枚目表五行目の「申告、」を「所得税について、控訴人のした確定申告、これに対して被控訴人のした」と、同七行目の「金額等」を「金額、国税不服審判所長がした審査裁決の経緯」と、同八枚目表五行目の「五・七九」を「五・一九」とそれぞれ改める。)のとおりであるから、これを引用する。

 

 

 

 

 

  (控訴人)

  1 争点1について

    控訴人の不動産所得は、単に不動産を所有するだけで生ずるものではない。第三者に賃貸することによって産みだされるもので、その果実を継続的に確実に得るためには、当然に当該不動産の維持、管理のための役務の提供を必要とする。

    一方、控訴人が奥村ビルから支給される役員報酬は、会計処理上は、代表取締役としての役務の提供の対価とみなされたとしても、控訴人が現実に提供する役務の大部分は、奥村ビルの業務目的のための当該不動産の維持、管理のための役務であり、労働である。

    したがって、形式的には、給与所得として会社から支給されるもので、不動産所得としての果実の所得とは異なったとしても、控訴人の場合においては実質的にその根源は同じであると言ってよい。奥村ビルのように、その構成や実態が控訴人個人と差異がなく、また提供する役務にも差異がない場合、給与所得と不動産所得とは「所得の発生根拠を異にする別個のもの」として一蹴すべきではなく、実態を重視すべきである。

    所得税法一五七条が、「税の公平負担」を目的としたものならば、その公平さは、実態に即して判断してしかるべきであるが、原判決はそれを看過したものである。

  2 争点2について

    現行租税法においては、「租税額」は選択した企業形態なり申告方法によって決定される法制度であったとしても、所得税法一五七条は、公平な所得税負担を念頭に、納税者の租税額を調整することを目的とした規定であり、選択(申告)の方法により租税額を決定するものではない。したがって、同法一五七条の適用にあたっては、租税額をどのように調整すれば、納税者にとって最も公平になるか、という基準で行うべきである。

    納税者にとっての公平な税負担の判断基準は、課税主体の実態を把握して初めて公平な課税が可能であり、租税法上の原則である「実質所得者課税」の原則にも合致するものである。

    控訴人は、有限会社奥村ビルという企業形態を採用したが、奥村ビルの実態は、控訴人個人と大差なく、その計算関係も最終的には控訴人個人の帰属するものである。換言すれば、奥村ビルは、当時、本件転貸料が唯一の事業収益であり、その損益の清算も、最終的に代表者である控訴人本人の責任と計算においてなされていたものである。したがって、奥村ビルの不動産収入は、会社設立前の控訴人個人としての不動産所得とかわりはないのである。

    右の点を考慮すれば、本件において、控訴人が選択しなかった「みなし法人課税」もしくは個人としての「青色申告」の場合と対比し、その租税額が不当に減少しているかを判断したとしても、「公平な税負担」の理念に反するものではなく、むしろより合致したものである。

  3 争点3について

    原判決は、乙第二ないし第六号証の各一ないし四をそのまま採用し、その結果得られた「適正管理料割合は信頼性、正確性に欠けることはない」ものと認めている。

    しかし、原処分は、博多税務署長の昭和六二年七月九日に出された更正決定であるが、右の乙号各証は、平成二年二月一九日付の福岡国税局長の通達に基づくものであって、原処分がなされた時点においては、右の通達に基づく調査はされていない。しかるに原判決は、後日なされた調査結果をもって「その選択過程及び被告(被控訴人)の適正管理料確定の経緯には合理性を疑わしめる事情もない」と断定しているが、極めて致命的なミスをおかしている。

    被控訴人が提出した右乙号各証は、その対象物件の内容、管理の実態等について、全く不明であり、本件物件及び奥村ビルの管理内容と対比するにも対比できないものである。原判決は、比準同業者の平均値を安易に採用しているが、本件物件の特殊性及び管理の実態という個別的条件の相違から、本件は、この推計を用いる事例ではない。しかも、本件推計値が極めて少数の同業者(しかもその内容が全くと言っていいほど不明確)をもってはじき出されており、凡そ「適正」に程遠いものである。

 

 

 

 

 

  (被控訴人)

   控訴人の右主張はいずれも争う。

 三 証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

 四 当裁判所の争点に対する判断は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

  1 原判決一〇枚目裏六行目の「当該会社」を「その株主ないし社員」と改める。

  2 同一二枚目表一、二行目の「(可処分所得)」を削る。

  3 同一三枚目表七行目の「場合、より租税額」を「場合より租税額」と、同九行目の「企業選択」を「選択された企業形態」とそれぞれ改める。

  4 同一三枚目裏一二、一三行目の「困難であり、」から同一四枚目表初行末尾までを「困難である。」と改める。

  5 同二一枚目裏三行目の「一五九条」を「一五七条」と改める。

  6 控訴人は、争点1について、奥村ビルのように、その構成や実態が控訴人個人と差異がなく、また提供する役務にも差異がない場合、給与所得と不動産所得とは「所得の発生根拠を異にする別個のもの」として一蹴すべきではなく、実態を重視すべきである旨主張するが、控訴人が、不動産賃貸業を営むにあたり、実質的には個人の事業でありながら、法人を設立してその法人に不動産を賃貸する(実質的には不動産の維持、管理を委託する)法形式を採用し、その法形式に従って納税する方法を選択したのであるから、控訴人の個人の所得は不動産所得となり、法人からの役員報酬は給与所得となるのは当然であって、それぞれ「所得の発生根拠を異にする別個のもの」といわなければならない。

  7 控訴人は、争点2について、所得税法一五七条を適用するにあたって、控訴人がみなし法人税及び一般青色申告を選択した場合の租税負担と比較・検討すべきであるとしてるる主張するが、右の点についての当裁判所の判断は、前記引用のとおりであって、控訴人の右主張は独自の見解と言うべく、当裁判所は採用しない。

  8 控訴人は、争点3について、

   (一) 原判決が、乙第二ないし第六号証の各一ないし四を採用した点を批難するが、右乙号各証の記載内容中の調査年月日は控訴人主張のとおりであるが、調査対象は当該年度分であるから、調査時が後日であることをもって、直ちに、その内容の信頼性、正確性に欠けるとは言い難い。

   (二) 乙第二ないし第六号証の各一ないし四は、その対象物件の内容、管理の実態等について、全く不明であり、本件物件及び奥村ビルの管理内容と対比するにも対比できないものであるのに、原判決は、比準同業者の平均値を安易に採用しているが、本件物件の特殊性及び管理の実態という個別的条件の相違から、本件は、この推計を用いる事例ではないし、しかも、本件推計値が極めて少数の同業者をもってはじき出されており、凡そ「適正」に程遠いものである旨主張する。

     しかし、営利を目的として不動産賃貸業を営む者が、当該事業の遂行上、賃貸不動産の維持、管理を不動産管理会社に委託する場合においては、その委託の対価である管理料は、通常の取引価格を中心として決定される筈のものであって、その意味で、原判決が採用した比準同業者の管理料割合の平均値による方法には、なんら不合理な点はない。なお、本件の特殊性及び管理の実態等の個別的事情が、右平均値の適用を明らかに不合理とすべき特殊事情として認めるに足りないことは、前記引用のとおりである。

     比準同業者数が極めて少数であるとする点も、前記引用のとおり、その抽出のための選定基準が合理的であると認められる上、その選定過程に恣意が介在したとの合理的な疑いがなく、かつ、得られた適正管理料割合が信頼できる、正確なものと認められるので、各四ないし五名の比準同業者の数をもって、少な過ぎるとまで言うことはできない。

   以上のとおり、控訴人の争点3に関する右各主張も採用できない。

 五 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 

    福岡高等裁判所第三民事部

        裁判長裁判官  緒賀恒雄

           裁判官  近藤敬夫

           裁判官  木下順太郎