相続した土地の時価(1)

 

 

 

更正処分等取消請求事件

 

 

【事件番号】 名古屋地方裁判所/平成15年(行ウ)第10号

 

【判決日付】 平成16年8月30日

 

【判示事項】

 

 相続財産である土地の評価について,被告の異議決定の際に用いられた鑑定の結果よりも裁判所による鑑定の結果の方が合理的であるから,被告の更正処分等(異議決定による一部取消後のもの)の一部が違法であると判断された事例

 

 

 

【掲載誌】  判例タイムズ1196号60頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

 

1 被告が,平成10年6月3日に開始したAを被相続人とする相続に係る相続税について,平成13年7月6日付けで原告に対してした更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし,異議決定による一部取消し後のもの)のうち,納付すべき本税額2912万3400円及び過少申告加算税額8万8000円を超える部分をいずれも取り消す。

 

2 訴訟費用は,鑑定費用の3分の2を原告の負担とし,その余のすべてを被告の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

第1 原告の請求

主文第1項同旨

 

第2 事案の概要

本件は,原告の父について相続が開始したので,原告ら相続人が相続税の申告をしたところ,被告が,その相続財産中一部の不動産の評価額に誤りがあることを理由に,更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたため,これを不服とする原告が,その一部の取消しを求めた抗告訴訟である。

 

1 争いのない事実及び証拠により明らかな事実等

(1) 本件相続の発生

原告の父Aは,平成10年6月3日に死亡し,その妻であるB並びにその子であるC及び原告(以下,まとめて「原告ら」という。)が同人を相続した(以下「本件相続」という。)ところ,本件相続に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)には,別紙物件目録1,2記載の土地2筆が含まれていた(以下,同目録1記載の土地を「本件1土地」と,同目録2記載の土地を「本件2土地」という。なお,本件相続開始時において,本件2土地は更地であったが,本件1土地上には建物が存在していたため,以下において,本件1土地の価格を記すときは,断りのない限り建付減価後のそれを指す。)。

(2) 本件相続税の申告と本件更正等

原告らは,平成11年4月5日,被告に対し,本件1土地を4281万2000円,本件2土地を1449万5800円と評価するなどして,本件相続に係る相続税の申告をした(申告に係る原告の相続税額は2823万5200円。以下「本件申告」という。甲2)。

これに対し,被告は,相続税財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達にして,平成10年6月12日付課評2-5ほかによる改正前のもの。以下「本件評価通達」という。)に基づき,本件1土地を5776万0807円,本件2土地を4067万4721円と評価するなどして本件相続税額を算出して,原告らに対し,平成13年7月6日付けで更正(原告の納付すべき相続税額は2984万8600円。以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(原告の納付すべき税額は16万1000円。以下「本件賦課決定」といい,本件更正と併せて「本件更正等」という。)を行い,そのころこれを原告らに通知した(甲24)。

(3) 原告による不服申立て

原告は,本件更正等を不服として,本件申告に係る額を超える部分の取消しを求めるべく,被告に対し,平成13年8月8日付けで異議申立てをしたところ,被告は,本件相続財産中,本件評価通達に基づく評価額(以下「通達評価額」という。)が本件申告に係る評価額を超える本件1土地及び本件2土地を含む7群9筆の土地について,財団法人日本不動産研究所(不動産鑑定士D,同Eほか1名)に鑑定評価を依頼し(以下「被告鑑定」といい,これによる評価額を「被告鑑定評価額」という。),被告鑑定評価額が通達評価額を下回った本件2土地について2950万円と評価し直して本件相続税額を再算出した上,同年10月31日付けで,本件更正のうち納付すべき税額2949万7700円を超える部分及び本件賦課決定のうち12万6000円を超える部分を取り消す旨の異議決定(以下「本件異議決定」という。)を行い,同年11月5日,これを原告に通知した(甲24,25,乙1の1ないし7)。

原告は,本件異議決定をなお不服として,同年12月4日付けで,国税不服審判所長に対し,本件申告に係る相続税額を超える部分の取消しを求める内容の審査請求をしたが,同所長は,平成14年11月27日付けで,これを棄却する旨裁決し,そのころこれを原告に通知した(甲1)。

(4) 訴えの提起と請求の減縮

原告は,平成15年2月26日,本件更正等(本件異議決定による一部取消し後のもの)の取消しを求めて本訴を提起したが,同年12月19日の第3回弁論準備手続期日において,同月8日付け「請求の趣旨の変更」と題する書面を陳述し,本件1土地及び本件2土地の評価額を当審における鑑定(鑑定人F。以下「当審鑑定」という。)の結果どおりに主張し,その余の相続財産の評価額については被告の主張を認めて,主文1項のとおりに請求を減縮した。

 

 

 

 

2 本件における争点

(1) 本件1土地の時価(本件1土地に係る通達評価額が,本件相続開始時における時価を超えているか否か)

(2) 本件2土地の時価(本件2土地に係る当審鑑定の結果と被告鑑定評価額との合理性の優劣)

3 争点に関する当事者の主張

(1) 本件1土地の時価(本件1土地に係る通達評価額が,本件相続開始時における時価を超えているか否か)について

 

 

 

(被告の主張)

ア 本件評価通達の趣旨等

相続税の税額計算の基礎となるのは相続財産の価額であるところ,これをいかに評価するかについて,相続税法(平成10年法律第83号による改正前のもの。以下「法」ともいう。)22条は,「当該財産の取得の時(すなわち,被相続人の死亡の日)における時価」による旨を定め,いわゆる時価主義を採用している。ここにいう時価とは,客観的な交換価値のことであり,不特定多数の独立当事者間における自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味するが,財産の時価を客観的に評価することは必ずしも容易なことではなく,また,納税者の間で財産の評価が区々になることは,公平の観点からみて好ましくない。そこで,法は,地上権及び永小作権などの特に評価が困難なものについて,その価額の算定について一義的な規定を設けているが,その他の財産については,国税庁により,相続税,贈与税及び地価税に共通の財産評価に関する基本通達として本件評価通達が定められ,現実の評価事務はこれに従って行われている。

 

もちろん,通達は法令ではなく,個別の財産の評価は,その価額に影響を与えるあらゆる事情を考慮して行われるべきであるから,ある財産の評価が本件評価通達と異なる基準で行われたとしても,それが直ちに違法となるわけではないが,同通達の内容は,不特定多数の納税者に対して反復かつ継続的に適用されている以上,そこに定められた評価の方法が合理的なものである限り,これをすべての納税者に適用することにより,租税負担の実質的な公平を実現できる(かつ,大量の課税事務を処理すべき課税庁に過大な負担と費用を強いることを避けられる。)のであって,特定の納税者又は特定の相続財産についてのみ,同通達に定める方法以外の方法によって評価を行うことは,納税者間の実質的負担の公平を欠くものとして,原則として許されるべきではない。逆にいえば,本件評価通達によらないことが正当として是認され得るような特別の事情がある場合を除き,本件評価通達による課税は相当というべきである。

 

ところで,不動産鑑定士の行う土地の鑑定評価は,通常,現在又は過去の一時点における土地の正常価格の算定を目的に行われ,土地の取引や価格に精通し,かつ,専門的な知識を有する不動産鑑定士が,その知識経験に基づいて,鑑定を依頼した者が指定する時点の前後における鑑定対象地近傍の売買価格や公示価格などの価格を基にして行われるものであるから,その結果として求められ,合理性を有する鑑定評価額である正常価格は,相続税法22条にいう時価と解することができ,このような鑑定評価額が存在する場合には,本件評価通達によらないことが正当として是認され得るような特別の事情があると認められる。

 

もちろん,宅地の客観的交換価値は,その土地の面積,形状,地域的要因等の各個別の事情,需給と供給のバランスなど様々な要素により変動するものであるから,理論的にみれば一義的に観念できるとしても,実際問題としてこれを一義的に把握することは困難であり,不動産鑑定士による鑑定評価額も,それが公正妥当な不動産鑑定理論に従うとしても,なお,当該不動産鑑定士の主観的な判断及び資料の選択過程が介在することを免れないのであって,鑑定人が異なれば,同一の宅地についても異なる評価額が出てくることは避けられないから,宅地の客観的交換価値にはある程度の幅があるとみなければならない。

 

そうすると,後記のとおり,本件評価通達によって宅地の基本評価方式とされている路線価方式によって算出された評価額が客観的交換価値を超えているといえるためには,路線価方式により算定した宅地の評価額を下回る不動産鑑定評価が存在し,その鑑定が一応公正妥当な鑑定理論に従っているというのみでは足りず,同一の宅地についての他の不動産鑑定評価があればそれとの比較において,また,周辺における公示価格や基準地の標準価格の状況,近隣における取引事例等の諸事情に照らして,路線価方式により評価した評価額が客観的な交換価値を上回ることが明らかであることを要するものというべきである。

 

イ 本件評価通達による宅地の評価方法

本件評価通達によると,土地は,宅地,農地,山林,原野等の地目別にその年の1月1日を基準日として評価することとされている(同通達7)。

このうち宅地は,市街化地域にあるものとそれ以外のものとに区別され,前者は,ほぼ同価額と認められる一連の宅地が面している路線の中央部の標準的な宅地の1単位当たりの価額(毎年,売買実例価額,精通者意見価格及び公示価格の仲値の範囲内で各国税局長が評定する。以下「路線価」という。)を基準とし,これに各宅地の特殊事情を加味してその価額を算出するいわゆる路線価方式により(同通達13,14),後者は,固定資産評価額に各国税局長が一定の地域ごとに売買実例価額,公示価格及び精通者意見価格等を基にしてその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額で評価するいわゆる倍率方式により(同通達21,21-2),それぞれ評価することとされている(同通達11)。

 

 

ウ 本件1土地について

(ア) 本件1土地の通達評価額

本件1土地については,正面路線価が1平方メートル当たり23万6000円で,側方路線価が同9万7000円であるところ,後者に奥行価格補正率0.99と側方路線影響加算率0.08とを乗じた額を前者の額に加え,その合計額に不整形地補正率0.99を乗じると1平方メートル当たり24万1245円と算出される。

これに地積281.68平方メートルを乗じた6795万3891円が更地の通達評価額であり,これから,借地権割合0.5と借家権割合0.3を乗じて算出される0.15の建付減価をすると,本件1土地の通達評価額は5776万0807円となる。

 

(イ) 本件1土地の通達評価額の合理性

本件1土地についての被告鑑定評価額は,6840万円であって,上記の更地の通達評価額をわずかながら上回っている。したがって,通達評価額は法22条の「時価」を超えるものではないから,同土地の評価は,通達評価額によるべきである。

 

なお,本件1土地についての当審鑑定評価額は,6422万3000円であり,更地の通達評価額を下回っているが,その差はわずかなものであること,下記(ウ)のとおり当審鑑定に比して被告鑑定の方がより合理性を有すると考えられることからすれば,通達評価額は十分に時価を反映していると認められ,本件評価通達によらないことが正当として是認され得るような特別な事情は存在しない。

したがって,本件1土地については,通達評価額を時価とみなして算定することが正当である。

 

(ウ) 被告鑑定と当審鑑定の合理性

本件1土地について,被告鑑定には下記a,bのとおり不合理な点はなく,逆に当審鑑定には下記aないしeのとおり合理性を欠く点があるから,被告鑑定の方が当審鑑定よりも合理性がある。

 

a 鉄道高架の影響の有無について

本件1土地は,鉄道高架に隣接しているところ,当審鑑定は,商業地といえども鉄道高架に隣接することによる環境条件での影響があるとして,3パーセントの減価をしているのに対し,被告鑑定は鉄道高架に隣接していることを理由とする減価は行っていない。

 

このような判断の分かれ目は,被告鑑定が本件1土地の最有効使用を「中層店舗・事務所地」と判定しているのに対し,当審鑑定が「店舗併用住宅ビル敷地」と判定していることにある。本件1土地は,同市の商業の中心地である近鉄四日市駅に近く,近隣地域の標準的利用から見ても,被告鑑定の判定が正当である。

 

そして,不動産鑑定評価基準においては,不動産の価格を形成する地域要因として,住宅地においては,騒音等の程度が例示されているが,商業地においては,この要因は挙げられていない。そもそも,商業地は,住宅地と異なり,ある程度の交通量及び騒音の存在が前提となっており,騒音の要因は,通常の範囲内であれば,商業地としての価格に織り込み済みであるのが通例である。そして,本件1土地と鉄道高架との間には幅員4.5メートルの市道が介在しており,商業地としての利用障害となる特段の騒音はないのであるから,本件1土地の環境条件に格差を設けなかった被告鑑定は正当であり,逆に当審鑑定は合理性を欠く。

 

b 指定容積率について

被告鑑定は,本件1土地の指定容積率を当初300パーセントとして算定していたところ,本訴係属中に誤りの指摘を受け,200パーセントに訂正した。しかし,この訂正によっても価格の差はわずかであり,標準価格を変更する必要はないから,その正当性が失われることはない。

なお,当審鑑定は,容積率100パーセントに対して1.5パーセント以上3パーセント未満の格差率が妥当である旨指摘するが,この格差率は,地域によって異なるものであり,土地価格比準表との格差率のみをもって当否を判断することはできない。

 

c 取引事例比較法における年間変動率について

当審鑑定は,取引事例比較法において,取引事例として採用した4事例のいずれについても年間変動率マイナス17.4パーセントを一律に適用しているところ,各事例の存する地域の年間変動率は異なるのが通例であるから,当審鑑定は精緻性に欠けるおそれがある。

これに対し,被告鑑定は,取引事例として採用した4事例のいずれについても,それぞれの異なる時点変動修正率を用いて時点修正を行っており,精緻性に優れている。

 

d 地域要因比較について

当審鑑定は,地域要因の比較の際に,交通・接近条件のうち官公署の接近性として市役所への距離を挙げているが,最有効使用を店舗併用住宅ビル敷地と判定するのであれば,幼稚園,小学校,公園,病院及び日常生活の需要を満たすに足りる最寄り商店街への近接性等も考慮されなければならないところ,それがなされていない。

また,当審鑑定は,地価公示地の属する地域と本件1土地の属する地域の地域要因比較において,経済施設の配置と繁華性の程度にそれぞれマイナス4パーセント,マイナス7パーセントと大きな格差を設けているが,格差の要因が明らかでない。

 

さらに,当審鑑定は,取引事例比較法で採用した事例2の属する地域と本件1土地の属する地域の地域要因比較において,街路条件・幅員が4メートル市道と12メートル市道との格差をマイナス2パーセントとするが,道路幅員が大きく異なるのであるから,上記格差率は小さすぎる。

 

そのほか,当審鑑定は,地価公示地の属する地域と本件1土地の属する地域の地域要因比較において,交通・接近条件である最寄り駅との近接性,すなわち,近鉄四日市駅までの距離700メートルと500メートルとの格差を0パーセントと評価しているが,他方,取引事例比較法で採用する事例4の属する地域と本件1土地の属する地域の同様の比較において,900メートルと500メートルとの格差をプラス3パーセントと評価しており,最寄り駅までの距離の比較において合理性に欠ける点がある。

 

e 事情補正について

当審鑑定は,取引事例比較法で採用した事例2について,買い進みを原因とする事情補正プラス20パーセントを行っている。しかし,同土地(四日市市G町○番地○の宅地と推定される。)は,被告の調査によれば,特に買い進みをうかがわせる事情は見当たらなかった。

 

 

(原告の主張)

当審鑑定と被告鑑定を比較すると,当審鑑定の方が合理性を有している。

被告は,本件1土地と鉄道高架との間には幅員4.5メートルの市道が介在しており,利用障害となる特段の騒音はないと主張する。しかし,幅員4.5メートルの市道が介在することで騒音が減衰される旨の科学的証明はされていない。鉄道高架に隣接することは,屋上に広告塔を立てるなどのプラス面もあるが,上記のように,騒音や景観の面からマイナス面が大きく,市場競争力は弱くなる。

 

また,被告は,本件1土地が商業地であると主張するが,現実に周囲にはマンション,住宅など居住用建物が数多く存在しており,近隣商業地域である。

 

 

 

(2) 本件2土地の時価(本件2土地に係る当審鑑定の結果と被告鑑定評価額との合理性の優劣)について

(被告の主張)

ア 本件2土地について通達評価額によるべきでない特別な事情

 本件評価通達は,同通達の方法によることが不合理な場合には,他の合理的な方法によって評価を行うことができると定めている(同通達第1章6)ところ,本件2土地については,通達評価額として算出された4067万4721円が被告鑑定評価額である2950万円を著しく上回っており,本件評価通達に定める方式以外の方法によってその評価を行うことを正当とする特別な事情があるということができるから,上記の被告鑑定評価額をもって時価とするのが相当である。

イ 被告鑑定評価額の合理性の優越

本件2土地について,被告鑑定には下記(ア)のとおり不合理な点はなく,逆に当審鑑定には下記(イ)のとおり合理性を欠く点があるから,被告鑑定の方が当審鑑定よりも合理性がある。

 

(ア) 被告鑑定の合理性

a 宅地化の判断について

不動産鑑定評価基準は,宅地見込地とは,農地地域,林地地域等から宅地地域へと転換しつつある地域のうちにある土地と定義しているところ,宅地見込地の鑑定評価は,原則として転換後の種別に基づく地域要因及び個別的要因を重視し,その熟成度が低い場合には,例外的に転換前の種別に基づく地域要因及び個別的要因を重視する旨規定している。そして,不動産鑑定評価基準は,宅地見込地の鑑定評価において勘案すべき事項として,①特に都市の外延的発展を促進する要因の近隣地域に及ぼす影響度及び②総合的に勘案すべき事項として,イ 当該宅地見込地の宅地化を助長し,又は阻害している行政上の措置又は規制,ロ 付近における公共施設及び公益施設の整備の動向,ハ 付近における住宅店舗,工場等の建設の動向,ニ 造成の難易及びその必要の程度,ホ 造成後における宅地としての有効利用度を挙げている。

 

本件2土地については,その近隣地域付近の県道及び県道周辺施設の整備並びに土地区画整理事業の進展等により地域要因の発展傾向が顕著となったこと,並びにその周辺地区に所在する団地の熟成とあいまって,宅地化の影響がその近隣地域にも及んでいること(①,②ロ),相続開始日においてセットバック等を行うことにより建築物の建築許可を得られる可能性が高いほか,開発許可を要しない敷地規模のため開発の蓋然性が高いこと,及び建築基準法43条1項ただし書を適用して建築が許可された住宅1戸が認められたこと(②イ),可児市の人口及び世帯数が,平成7年から現在まで堅調に増加を続けているほか,同市の専用住宅の建築確認件数については平成9年以降平成11年まで増加傾向にあり,他の周辺市に比べて底堅い需要が認められること(②ハ),その地勢,地盤等の自然的状態及び接面状況等から造成が比較的容易であること(②ニ),その近隣地域では値ごろ感から潜在的な需要が喚起されており,可児市の中心地区からも近く,分譲価格を廉価に設定した場合には,十分に戸建住宅地の有効需要が存在すると判断したこと,西可児駅から道路距離で約1.6キロメートル(徒歩約20分)に位置し,宅地としての利用に適していること(②ホ)などを総合的に勘案した結果,被告鑑定は,本件2土地の宅地化の蓋然性は高いと判断し,種別を「熟成度の高い宅地見込地」と評価したものであり,その評価手法は極めて正当である。

 

b 建築確認の可能性

原告は,本件2土地については袋地状態にあるため,建築確認を得ることは困難である旨主張するが,岐阜県中濃建築事務所所部職員や可児市役所建築指導課所部職員は,建築確認を得ることは特別困難ではない旨表明している上,①同土地の前面道路は市道認定されており,公共の道路とみなされると考えられたこと,②同土地は,都市化抑制規制の働かない,都市計画区域の未線引地域に存することなどを勘案して,建築許可の可能性を慎重に検討した結果,被告鑑定は,同土地は,相続開始時点において,建築許可を得られる見込みの高い土地であり,建物建築に当たって障害となる法的な規制は存在しないと判断したものであり,合理性を有する。

 

c 接道条件に係る減価係数について

被告鑑定は,標準画地と本件2土地とを比準するに当たり,当審鑑定のように接道条件に係る減価係数を乗じることはしていない。しかし,この点は最終的な鑑定評価額の算出方法全体にかかわることであり,この点だけを取り上げて論ずべきものではない。すなわち,被告鑑定では,前面道路以外にも幅員2.6メートル程度の道路が連続しており,評価対象地の前面道路以外にも4メートルの道路が良好に連続する場合に比べて市場性が劣ることは確かであるから,地域要因中の街路条件において,「近隣地域の標準的な街路」を「幅員4mの系統・連続性がやや不良な道路」と設定しているとおり,近隣地域の標準画地の標準価格は,やや不良な道路の系統・連続性を織り込んで査定されており,取引事例比較においても,同程度の街路条件を持つ土地の価格を求めるように査定している。

このように,被告鑑定は,近隣地域の標準画地の標準価格の算定及び個別要因において,街路条件を十分に考慮しているのであるから,街路条件に係る減価係数を乗じていないことをもって,その正当性が損なわれるものではない。

 

(イ) 当審鑑定の不合理性

a 近隣地域の範囲及びその標準的使用等

当審鑑定は,本件2土地の近隣地域を「対象不動産を中心に,接面市道沿い東方Hため池迄,西方約100mの狭い範囲」と設定した上で,近隣地域は農業振興地域の指定を受けた農地が大半であることなどから,「用途的にやや未成熟な宅地見込地地域」と判定し,本件2土地の最有効使用についても「弱いながらも住宅敷地等へ用途転換する可能性を内包した宅地見込地」と判定している。

 

しかし,宅地見込地の評価においては,その周辺地域の状況に影響を受けるため,近隣地域の範囲をより広く面状に設定すべきであって,線状に近隣地域を設定すべき合理的理由は特にない。

 

したがって,正当に面状に近隣地域を設定すれば,農用地以外の土地の方が多くなるのであって,同鑑定は,この点で妥当性を欠くといわざるを得ない。

 

b 開発の可能性

当審鑑定は,本件2土地が建築基準法42条2項,43条1項ただし書により建築確認を受けられるか否かは行政側の判断にゆだねられているから,鑑定評価は価格時点当時確認し得た要因に基づいて行うべきであるところ,このような状況下において,対象不動産を建築基準法42条の道路に接面する土地と同等に扱うことはできず,したがって,地域的に街路条件をはじめ環境条件,宅地造成条件等,宅地見込地としての熟成度について価格水準を修正ないし補正すべきであると判断している。

 

しかし,不動産鑑定評価基準運用上の留意事項においても,公的機関の担当部局に対する確認が要求されているにもかかわらず,同鑑定においては,道路に関する事項を確認したにとどまり,建築確認許可の容易さの調査を十分に行っていないのであって,同鑑定はこの点で妥当性を欠く。

 

c 取引事例の採用について

取引事例比較法の適用に当たっては,対象となる不動産と同種別の取引事例を採用すべきである。しかし,当審鑑定は,本件2土地を宅地見込地として熟成度が低いと判定しながら,取引事例として採用した4事例のうち,熟成度の高い宅地見込地の取引事例を2事例も含んでおり,鑑定手法に誤りがある。

また,取引事例の選択に当たっては,評価対象地と類似する地域の取引事例の中でもできるだけ地域要因格差が小さい事例を採用すべきである。しかし,当審鑑定は,本件2土地との地域要因格差が累計でそれぞれ150パーセント,144パーセント,51パーセントとなる3事例を採用しており,比較の対象として適切な選定がなされていない。

 

d 地域要因格差の査定に関する項目

当審鑑定は,本件2土地の近隣地域を熟成度の低い宅地見込地と判定しているのであるから,地域要因格差の査定に当たっては,市街化進行の程度等宅地化への期間及び蓋然性についての項目を重点的に査定すべきであるところ,当審鑑定が地域要因格差の査定に当たって採用した査定項目は,駅・商店街等の接近性や周辺地域の状態・供給処理施設等,造成の難易等,本来は熟成度の高い宅地見込地の比準の場合に用いるべき査定項目が主となっており,矛盾した査定が行われている。

 

(原告の主張)

ア 本件2土地の建築確認及び売却の経緯

本件2土地の接面道路は,幅員が3.5メートル前後であって4メートル以下であり,同土地の約30メートル先で行き止まりとなっているから,同土地は,原則として建築確認が下りない,その意味で「袋地状態」の土地である(建築確認を取得できた事例は,岐阜県建築主事に数か月間執拗に食い下がって,通常では極めて困難な,県内で年に1件あるかないかの建築基準法43条1項ただし書の特例を受けたものである。)上,前面に他人の土地が存在するため極めて不整形である。また,宅地として利用するには,南側に急斜面の山林が隣接してほとんど日照がないため,同山林を取得して立木を伐採しなければならない上,上水道も約120メートル西方にしか通っていないため,水道工事費として約260万円を要し,さらに,同土地は田を簡単に埋め立てただけの状態であるため,多額の造成費が必要である。

 現に,平成12年12月における本件2土地の売却価額は1480万円であり,それも,20か月の期間と約30万円もの広告費を費やして辛うじて売却することができたものである。

 

イ 被告の主張に対する反論

被告は,本件2土地につき,相続開始時において建築許可が下りる見込みが高く,建物建築に当たって法的な障害はないと主張するが,建築基準法42条2項,43条1項ただし書によって行政が建築確認を下ろすか否かは個別の条件によるものであって,一般的に建築確認が下りると断言することはできない。

また,被告は,当審鑑定における近隣地域の設定を批判するが,宅地化のための第一条件が接面する道路状況にあることは常識であり,その視点から当審鑑定が本件2土地の接面道路に沿った地域を近隣地域として設定していることは相当である。

 

さらに,被告は,当審鑑定において採用された取引事例が適切ではない旨主張するが,土地価格比準表の宅地見込地地域の地域要因比準表を適用して算出した格差率によって補正しているから,被告の批判は当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

1 本件1土地の時価(本件1土地に係る通達評価額が,本件相続開始時における時価を超えているか否か)について

 

(1) 被告は,本件1土地について,本件評価通達に基づいて算出した通達評価額をもって法22条の「時価」と主張しているところ,本件評価通達は,国税庁長官によって発出された通達であって,法形式上は行政内部の機関や職員に対する関係で拘束力を有する行政規則(国家行政組織法14条2項)にすぎず,国民に対して効力を有する法令としての性質を有するものではない(最高裁判所昭和38年12月24日第三小法廷判決・集民70号513頁参照)。

 

もっとも,大量・反復して発生する課税事務を迅速かつ適正に処理するためには,あらかじめ法令の解釈や事務処理上の指針を明らかにし,納税者に対して申告内容を確定する便宜を与えるとともに,各課税庁における事務処理を統一することが望ましいと考えられるから,通達に基づく課税行政が積極的な意義を有することは否定し難く,したがって,通達の内容が法令の趣旨に沿った合理的なものである限り,これに従った課税庁の処分は,一応適法なものであるとの推定を受けるであろうし,逆に,課税庁が,特段の事情がないにもかかわらず,通達に基づくことなく納税者に対して不利益な課税処分を行った場合には,当該処分は,租税法の基本原理の一つである公平負担の原則に反するものとして違法となり得るというべきである。

 

しかしながら,通達の意義は以上に尽きるものであり,納税者が反対証拠を提出して通達に基づく課税処分の適法性を争うことは何ら妨げられないというべきであり,その場合には,通達の内容の合理性と当該証拠のそれとを比較考量して,どちらがより法令の趣旨に沿ったものであるかを判断して決すべきものである。

 

 

そして,本件で問題となっている法22条の「時価」は,不特定多数の者の間において通常成立すべき客観的な交換価値を意味するから,通達評価額が,この意味における「時価」を上回らない場合には,適法であることはいうまでもないが,他の証拠によって上記「時価」を上回ると判断された場合には,これを採用した課税処分は違法となるというべきである(固定資産税について定めた地方税法341条5号の「適正な時価」に関する最高裁判所平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。

 

 

ところで,弁論の全趣旨によれば,本件評価通達は,宅地(市街化地域内)価額の評価が路線価方式によって行われるべきことを定めている(同通達11,12)ところ,その概要は以下のとおりであると認められる。すなわち,ほぼ同価額と認められる一連の宅地が面している路線の中央部の標準的な宅地を選定し,その1単位当たりの毎年1月1日を基準日とする価額を,売買実例価額,精通者意見価格及び公示価格を基にして,各国税局長がその仲値の範囲内で評定して定め,これに対象土地の単位数(面積)を乗じ,更に各宅地の特殊事情を加味すべく,あらかじめ定められた奥行価格補正率,側方路線影響加算率,二方路線影響加算率,間口狭小補正率,奥行長大補正率,不整形地補正率などを適用して,その価額を算出するものである(同通達14ないし18,20)。この路線価方式は,上記の概要から容易に看取できるとおり,標準的な宅地の1単位当たりの価額を不動産鑑定的手法を用いて評定し,これを当該路線に面する他の宅地にも適用するとともに,通常その価格形成に影響すると考えられる定型的な要因についてあらかじめ定められた補正(加算)率によって修正するものであり,いわば,簡易な不動産鑑定と定型的補正とを組み合せた方式と評価することができる。

 

他方,正式な不動産鑑定は,不動産鑑定評価基準(乙2)にのっとって行われるが,同基準は,不動産の鑑定評価に関する法律(昭和38年法第152号)の附則18項が評価の基準制定について検討を行うことを求めたことなどを受けて,昭和39年3月25日,建設大臣(当時)からの諮問に対する答申として宅地制度審議会が提出したものであり,その後,昭和44年の改正を経て,平成2年10月26日,現行の不動産鑑定評価基準が答申され,国土事務次官から業界団体である社団法人日本不動産鑑定協会に対して通知されている。その内容は,不動産価格の形成に関する理論を科学的に検討し,不動産評価に関する実務の最新の研究成果をも取り入れたものであって,「進歩の集積に応じて今後さらにその充実と改善を期すべきもの」ではあるが,現状においては,

 

「不動産鑑定士等が不動産の鑑定評価を行うに当たって,その拠り所となる実質的で統一的な行為規範」として機能するものである。このような不動産鑑定評価基準の性格や精度に照らすと,これに準拠して行われた不動産鑑定は,一般的には客観的な根拠を有するものとして扱われるべきであり,その結果が上記の通達評価額を下回るときは,前者が「時価」に当たると判断すべきことは当然である(被告も,結論としてはこれを肯定している。)。

 

もっとも,不動産鑑定評価基準に従った客観的な交換価値の評価といっても,自然科学における解答のような一義的なものではあり得ず,現実には鑑定人の想定価格としての性格を免れるものではないので,どのような要素をどの程度しんしゃくするかによって,同一の土地についても異なる評価額が算出され得ることは避けられない。

 

したがって,ある土地について複数の異なる評価額の不動産鑑定が存在する場合は,まずそれらの合理性を比較検討した上で,より合理性が高いと判断できる鑑定の評価額をもって時価と評価すべきであり(仮に合理性について優劣の判断が全くなし得ない場合には,その平均値をもって時価と評価すべきである。),その上で通達評価額とを比較して,当該課税処分の適法性を判断すべきである。

 

 

 以下においては,この観点から,当審鑑定及び被告鑑定の合理性の優劣を検討する。

 

 

 

(2) 前記争いのない事実及び証拠により明らかな事実等に証拠(甲1,乙1の7,4,当審鑑定)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実が認められる。

ア 本件1土地の状況

本件1土地は,近鉄名古屋線「近鉄四日市」駅の南方約450メートルに位置し,北東方向にある市役所からも約700メートル離れている。

同土地は,その北東側間口約17.5メートルが幅員約12メートルの市道(通称G通り。約1メートル歩道付き)に,その西側間口約23メートルが幅員約4.5メートルの市道に,それぞれ等高に接面する,地積281.68平方メートルの台形地である。

西側の上記市道を挟んで,近鉄名古屋線の高架線路(複線)が存在し,朝夕の時間帯には上下線合わせて1時間当たり20本以上の電車が通過する。

 同土地は,市街化区域内にあって近隣商業地域及び準防火地域に指定され,その容積率は200パーセント,建ぺい率は80パーセントである。

イ 本件1土地に係る通達評価額

本件1土地については,正面路線価(通称G通り)が1平方メートル当たり23万6000円で,側方路線価(幅員約4.5メートルの市道)が同9万7000円であるところ,後者に奥行価格補正率0.99と側方路線影響加算率0.08とを乗じた額を前者の額に加え,その合計額に不整形地補正率0.99を乗じると1平方メートル当たり24万1245円と算出される。

これに地積281.68平方メートルを乗じた金額6795万3891円が本件1土地の更地の通達評価額であり,これから,借地権割合0.5と借家権割合0.3を乗じて算出される0.15の減価をすると,建付減価済みの通達評価額は5776万0807円と算出される。

 

ウ 被告鑑定

(ア) 近隣地域及びその標準画地の設定

被告鑑定は,通称G通り沿いで,本件1土地から南東方向へ約80メートルの地域を近隣地域とし,この近隣地域の標準画地を,同地域の地域要因を備え,公法上の幅員12メートルの片側歩道付舗装市道沿いで,間口15メートル,奥行20メートル,規模300平方メートル程度の長方形地に設定し,その標準的使用を中層店舗,事務所地とした。

なお,被告鑑定においては,近隣地域(道路南側)の行政的条件中の指定容積率及び評価対象となる本件1土地のそれをいずれも「200%」とすべきところ,誤って「300%」としている。

(イ) 公示価格を規準とした標準画地の価格

 被告鑑定は,四日市市I町所在の公示地(四日市5-13)の平成10年1月1日を基準日とする公示価格1平方メートル当たり29万9000円に,時点修正率100分の93,標準化補正率103分の100,地域要因格差率109分の100(交通・接近条件格差率99分の100に環境条件格差率110分の100を乗じたもの)を順次乗じて,公示価格を規準とした標準画地の価額を1平方メートル当たり24万8000円と算出した(もっとも,標準画地の指定容積率を誤った結果,指定容積率300パーセントの公示地との行政的条件格差率を100分の100としている。)。

(ウ) 取引事例比較法によって求めた標準画地の価格

 被告鑑定は,四日市市J町(事例1),同市K(同2),同市L○丁目(同3)及び同市M○丁目(同4)の取引事例4例を選定し,その取引価格に事情補正率,時点修正率,標準化補正率及び地域要因格差率を順次掛け合わせた上で,標準画地の価額を25万7000円,25万8000円,27万7000円及び24万8000円と試算した(もっとも,標準画地の容積率を誤った結果,指定容積率300パーセントの事例1との行政的条件格差率を100分の100とし,同400パーセントの事例2及び事例3とのそれを102分の100,同600パーセントの事例4とのそれを107分の100としている。)。

(エ) 収益還元法によって求めた標準画地の価格

 被告鑑定は,同一需給圏内の類似地域に所在する賃貸事例等を参考にして,標準画地(300平方メートル)において賃貸用の鉄筋コンクリート造り5階建て(鑑定書には「4階建」と誤表記している。)店舗付き事務所(延べ床面積600平方メートル)の建築を想定し,これから求めた未収入期間を考慮した価格時点の土地に帰属する純収益を還元する(還元利回り年4.5パーセント)ことによって,標準画地の収益価格を1平方メートル当たり16万1000円と査定した。

(オ) 標準画地の価格の査定

被告鑑定は,(イ)ないし(エ)の結果を受け,収益還元法によって求めた価格を参考にし,取引事例比較法によって求めた4価格を比較検討の上,公示価格を規準とした価格との均衡を考慮して,標準画地の価額を1平方メートル当たり25万円と査定した。

(カ) 本件1土地の鑑定評価額の決定

 被告鑑定は,本件1土地はいわゆる角地であって利用効率において優ることから標準画地より3パーセントを上乗せし(格差率1.03),他方,不整形地(台形地)であることから標準画地より6パーセントを減ずる(格差率0.94)こととし,両者を乗じた0.97をもって標準画地との格差率とした。

 そして,標準画地の価額1平方メートル当たり25万円に上記格差率を乗じた24万3000円をもって本件1土地の1平方メートル当たりの価額と査定し,これに,地積281.68平方メートルを乗じた6840万円を被告鑑定評価額と決定した。

 なお,被告鑑定評価額から15パーセントの建付減価を行うと,5814万円となる。

 

 

 

ウ 当審鑑定

(ア) 近隣地域及びその標準画地の設定

 当審鑑定は,通称G通り沿いで,評価対象地からほぼ東方へ約150メートルの帯状の地域を近隣地域に設定し,その最有効使用を店舗併用住宅ビル敷地と判定した。その標準画地を,同地域のほぼ中央付近にあって(近隣商業地域及び準防火地域の指定を受け,建ぺい率80パーセント,容積率200パーセント),通称G通り(幅員12メートルの片側幅員1メートルの歩道付き舗装市道)に接面し,一画地の規模が200平方メートル(間口10メートル,奥行20メートル)の長方形地として設定した。

(イ) 公示価格を規準とした標準画地の価格

 当審鑑定は,公示地番号四日市5-13の土地の平成10年1月1日時点の公示価格1平方メートル当たり29万9000円に,時点修正率100分の92.8,標準化補正率(公示地が二方路に接面していることによるもの)103分の100,地域要因格差率114分の100(街路条件の格差率101.5分の100,交通・接近条件の格差率100分の100,環境条件の格差率111分の100及び行政的条件率101.5分の100(標準画地の容積率が200パーセントであって,公示地の容積率300パーセントより劣っていることによるもの)を累乗したもの)を順次乗じて,標準画地の額を1平方メートル当たり23万6000円と算出した。

(ウ) 取引事例比較法によって求めた標準画地の価格

 当審鑑定は,四日市N○丁目(事例1),同市G町(同2),同市N○○丁目(同3)及び同市K(同4)地内の取引事例4例を選定し,その取引価格に事情補正率,時点修正率,標準化補正率,地域格差率を順次掛け合わせた上で,標準画地の比準価額を23万6827円,25万1591円,24万5234円及び20万9118円と試算した。

 その上で,当審鑑定は,価格のほぼ近似して求められた事例1ないし事例3の価額のほぼ中庸値である1平方メートル当たり24万5000円をもって標準画地の比準価格と算定した。

(エ) 収益還元法によって求めた標準画地の価格

 当審鑑定は,同一需給圏内の類似地域に所在する賃貸事例等を参考にして,標準画地において賃貸用の鉄筋コンクリート造り3階建ての建物(店舗・共同住宅)の建築を想定し,これから求めた土地に帰属する純収益を還元する(還元利回り年4.5パーセント)ことによって,標準画地の額を1平方メートル当たり17万7000円と査定した。

(オ) 標準画地の価格の査定

当審鑑定は,(イ),(ウ)及び(エ)の結果を受け,取引事例比較法による比準価格は市場性を反映した実証的価格であるのに対し,収益還元法によって求めた収益価格は元本価値に見合う果実を得ることができない賃貸市場での現実を反映したものとの判断から,前者を基本とし,これに地価公示を規準とした価格との均衡や最近の不動産市場における物件流通の遅延化傾向等を考慮し,取引事例比較法による比準価格を下方修正して求めた1平方メートル当たり24万円をもって標準画地の価格と査定した。

(カ) 本件1土地の鑑定評価額の決定

 当審鑑定は,本件1土地はいわゆる角地であって利用効率に優ることから標準画地の価額より3パーセントを上乗せし(格差率1.03),他方,不整形地(台形地)であることから標準画地より5パーセントを減ずる(格差率0.95)こととし,さらに,本件1土地が,鉄道高架に隣接していて環境条件に劣ることから3パーセントを減ずる(格差率0.97)こととし,これらを累乗した0.95をもって標準画地との格差率とした。

 そして,標準画地の価額1平方メートル当たり24万円に上記格差率を乗じた22万8000円をもって本件1土地の1平方メートル当たりの価額と査定し,これに,地積281.68平方メートルを乗じた6422万3000円を当審鑑定評価額と決定した。

 なお,当審鑑定評価額から15パーセントの建付減価を行うと,5458万9550円となる。

 

 

(3) 当審鑑定及び被告鑑定の合理性について

ア 当審鑑定及び被告鑑定において見解が相違する点について

(ア) 最有効使用について

近隣地域の最有効使用を,当審鑑定は店舗併用住宅ビル敷地としたのに対して,被告鑑定は中層店舗・事務所地としているところ,証拠(乙1の7,当審鑑定)によれば,同地域は四日市市の中心部付近にあって,建物がほぼ建ち並んでいるものの,他方で,近鉄名古屋線「近鉄四日市」駅から鉄道高架沿いに南方へ約450メートル離れて位置し,商業施設の密集度も高くない上に,通称G通りの北側は容積率が400パーセントで駐車場整備地区でもあるのに対して,標準画地の属する南側は容積率が200パーセントであることが認められ(前記のとおり,被告鑑定は誤って300パーセントとしている。),これらを総合すれば,店舗併用住宅ビル敷地を最有効使用とする当審鑑定がより合理性を有すると判断するのが相当である。

もっとも,不動産鑑定士による最有効使用の判断は,対象不動産の近隣地域及び個別的要因を基礎資料として,その専門家としての経験や知見に基づいてなされるものであることを考慮すると,被告鑑定による上記判定が合理性を欠くとまではいえない。

 

(イ) 鉄道高架の隣接による減価について

当審鑑定は,本件1土地が幅員約4.5メートルの市道を挟んで近鉄名古屋線の鉄道高架に隣接していることを理由に標準画地の価格から3パーセントの減価を行っているのに対して,被告鑑定ではかかる減価を行っていない。

そこで,検討するに,前記のとおり,本件1土地に隣接する近鉄名古屋線は,名古屋と大阪,伊勢志摩等を結ぶ本線に位置づけられ,ここを通過する電車の本数は朝夕の通勤時間帯には上下線合わせて1時間当たり20本を超えている上,本件1土地は近鉄四日市駅から約450メートル離れていることに照らすと,電車の速度は相当の程度に達しているものと推測される。そうすると,本件1土地における電車の騒音が何デシベルであるかを客観的に確定する証拠は存在しないものの,生活する上で何らかの苦痛,支障をもたらすであろうことは,経験則上,容易に肯認できるというべきである。

 

したがって,当審鑑定のように近隣地域の最有効使用を店舗併用住宅ビル敷地と判定すれば,鉄道高架に隣接することを原因として3パーセントの減価を行うことは十分合理的であるし(むしろ減価を行わないのは合理性を欠くというべきである。),被告鑑定のように,その最有効利用を中層店舗・事務所地と判定しても,騒音によって商業活動や事務所における事務に悪影響を及ぼすおそれも否定できない(被告は,鉄道高架との間に幅員4.5メートルの市道が介在していることを理由に,商業地としての利用に障害となる騒音はない旨主張するが,この程度の距離で騒音が大幅に減衰するものでないことは経験則に照らして明らかである。)から,鉄道高架に隣接することによる減価を一切行わない被告鑑定は,その合理性に疑問があるというべきである。

 

イ 被告鑑定の合理性に関する事情(容積率の誤記)

前記のとおり,被告鑑定には,本件1土地及びその近隣地域の指定容積率が実際は200パーセントであるにもかかわらず,300パーセントとした誤りがある。対象土地の指定容積率は,行政的条件の中でも中心的なものの一つであり,公示価格を規準とした価格,取引事例比較法によって求めた価格及び収益還元法によって求めた価格のいずれにも影響を与える可能性があり,かかる基本的事項について誤記があるという点のみでも,被告鑑定の正確性,合理性に疑問を抱かざるを得ないというべきである。

 

もっとも,被告鑑定を行った鑑定人は,本訴審理中に上記誤記の指摘を受けて,公示価格を規準とした標準価格を1平方メートル当たり24万5000円,取引事例比較法を採用して求めた価格のうち事例1との比較による標準価格を1平方メートル当たり25万4000円に訂正した上で,これらの差がわずかであるほか,他の事例との比較による標準価格及び収益還元法を採用して求めた標準価格は変動がないとして,本件1土地の近隣地域の標準価格1平方メートル25万円の査定は変更する必要がないと弁解した書面を提出している(乙4)。

 

しかし,他の事例2ないし4においても指定容積率の差が拡大していることは明らかであるから,これらについても行政的条件による格差率を拡大してしかるべきであるのにもかかわらず,何らの修正を加えていない。また,被告鑑定は,当初,事例2及び3においては指定容積率に100パーセントの差があることから行政的条件にプラス2パーセントの修正を施しているにもかかわらず,乙4においては公示価格を規準とした標準価格及び事例1との比較による標準価格の算定において,指定容積率に100パーセントの差があるにもかかわらず,行政的条件にプラス1パーセントの修正しか施していない。そうすると,上記の弁解は,およそ整合性を欠き,被告鑑定の上記誤りを救うものとなっていないことが明らかである。

 

ちなみに,公示価格を規準とした価格の算定において,行政的条件にプラス2パーセントの修正を加えると,地域要因格差は111分の100となり,規準とした価格は1平方メートル当たり24万3000円(1000円未満四捨五入)となるから,公示価格を規準とした被告鑑定評価額同24万8000円よりも5000円程度減少する。この減少分に格差修正率0.97及び本件1土地の地積281.68平方メートルを順次乗じると137万円(1万円未満四捨五入)となり,通達評価額と被告鑑定評価額との差を優に超えるから,被告鑑定が指定容積率を誤まったことにより結論に無視し得ない影響を及ぼすことが明らかである。

 

ウ 当審鑑定の合理性に関する事情

(ア) 取引事例比較法における年間変動率について

不動産鑑定評価基準(乙2)によれば,取引事例比較法における時点修正は,取引事例に係る取引の時点が評価基準時と異なることにより,その間に価格水準の変動があると認められるときは,当該事例の価格を評価基準時の価格に修正するために行うものであり,その方法は,当該事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における不動産の価格の変動率を求めることにより行うべきものとされている。

 

この点について,被告は,当審鑑定における取引事例比較法は,4事例のいずれについても同一の年間変動率(平成10年の1年間当たり17.4パーセントの下落)を適用しているから精緻性に欠けるおそれがある旨主張する。

 

しかしながら,当審鑑定の採用した取引事例は,前記のとおり,四日市市N○丁目地内,同市G町地内,同市N○○丁目地内及び同市K地内の各土地であって,いずれも四日市市の市街地に存在していることを考慮すると,各取引事例に係る土地が,同一の用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域に位置すると判断することに支障はないから,当審鑑定が4事例のいずれについても同一の年間変動率を適用したことは何ら合理性を欠くものではない。

 

なお,被告鑑定は取引事例ごとに変動率を変えており,一見すると精緻性に優るかのごとき印象を受けるが,各取引事例の所在地域ごとに変動率が異なることを実証する資料は何ら添付されておらず,その正確性を検証することはできない。

 

(イ) 地域要因比較について

a 街路条件(幅員等)

被告は,当審鑑定は,取引事例比較法で採用する事例2の属する地域と本件1土地の属する地域の地域要因比較において,街路条件・幅員が4メートル市道と12メートル市道との格差をマイナス2パーセントとするが,道路幅員が大きく異なるのであるから,当審鑑定の格差は小さすぎる旨主張する。

しかし,当審鑑定は,事例3(8メートル市道)との比較においてマイナス1パーセント,事例4(7メートル市道)との比較においてマイナス1パーセントとしており,全体的に考察して,事例2との格差率がバランスを失しているとは認められない。

なお,被告鑑定は,当審鑑定よりも,全体的に道路の幅員の差に基づく格差率を大きく評価している(プラス5パーセントからマイナス5パーセント)が,反面,街路条件の内容としては道路幅員の差のみを掲げ,当審鑑定のように歩道の有無・幅員,系統・連続性,舗装の有無・勾配等についても検討した形跡がうかがわれない(当審鑑定は,これらについても検討した結果,街路条件の格差率は,最終的にプラス6パーセントからマイナス4パーセントまでの範囲に分布している。)ので,むしろ,街路条件全体の検討としては,精緻性に欠ける可能性を否定できない。

b 交通・接近条件全般

被告は,当審鑑定は,取引事例比較法において,交通・接近条件のうち官公署の接近性として市役所への距離を挙げているが,近隣地域の最有効使用を店舗併用住宅ビル敷地とするのであれば,幼稚園,小学校,公園,病院及び最寄り商店街への近接性等を考慮すべきであるのにこれをしていない旨主張する。

しかしながら,本件1土地は近隣商業地域に位置しているから,取引事例比較法において,官公署への接近性に加えて,最寄駅(近鉄四日市駅)の接近性,最寄駅の乗降客数,駐車場の整備・交通規制の状態について検討しつつ,幼稚園,小学校,公園,病院及び最寄り商店街への近接性等を考慮していないからといって必ずしも不合理とまではいえない。

かえって,被告鑑定においては,交通・接近条件の内容としては,「駅への接近性」のみが掲げられ,当審鑑定が掲げた他の諸要素についても検討した形跡がうかがわれないが,いかに近隣地域の最有効使用を中層店舗・事務所地と判定した結果であるとしても,精緻性に欠けるとの批判を免れない。

c 交通・接近条件(最寄り駅の接近性)

被告は,当審鑑定は,公示価格を規準とする比準価格の算出において,近鉄四日市市駅までの距離が700メートルと500メートルとの格差率を0パーセントとしているのに対し,取引事例比較法において,500メートルと900メートルとの格差率をマイナス3パーセントとしており,合理性を欠く旨主張する。

しかしながら,接近条件の差がもたらす価格形成への影響は,必ずしも距離に比例して大きくなるものとは考えられず,最有効使用の判定や当該施設の性格等によっても変わり得るものであるから,200メートルの差を0パーセントとし,400メートルの差を3パーセントと評価したことが直ちに不合理であるとはいえない(なお,前記のとおり,当審鑑定は,被告鑑定と異なり,最寄駅の接近性を交通・接近条件の一要素に位置づけているから,少々のアンバランスがあっても,全体としてはその影響は薄められる関係にある。)。

ちなみに,被告鑑定においては,近隣地域(近鉄四日市駅から約400メートル)と事例1(同駅から約900メートル)との格差率を2パーセントとしているのに対し,事例2(同駅から750メートル)との格差率を1パーセントとしているが,事例1と同2の距離の差150メートルが格差率1パーセントに相当するのであれば,事例1ないし3(同駅から約1キロメートル)の格差率はもっと大きくなるはずであり,このことからも,距離の差が直ちに価格形成に対して比例的に影響するものでないことが裏付けられる。

d 環境条件(経済施設の配置と繁華性の程度)

被告は,当審鑑定は,地価公示地の属する地域と本件1土地の属する地域の地域要因比較において,経済施設の配置と繁華性の程度にそれぞれマイナス4パーセント,マイナス7パーセントと大きな格差を設けているが,格差の要因が明らかでない旨主張する。

しかしながら,経済施設の配置や繁華性の程度といった環境条件の要因をどの程度に評価するかは,不動産鑑定士としての専門的知見や経験に基づいて判断すべきものであり,その判断が著しく相当性を欠くことをうかがわせる事情が存しない限り,直ちに合理性を欠くとはいえないところ,被告はこの点について何ら具体的に指摘していない。かえって,被告鑑定においては,地価公示地や取引事例との比較において,当審鑑定をはるかに上回る格差率(マイナス15パーセントからプラス10パーセント)を付しながら,その要因として単に「繁華性」と記載するのみであるから,仮に当審鑑定が合理性を欠くものであれば,被告鑑定はそれ以上の合理性を欠くことが明らかである。

(ウ) 事情補正について

被告は,当審鑑定の取引事例比較法で採用した事例2について,買い進みをうかがわせる事情は見当たらなかった旨主張するが,これを裏付けるに足る証拠はなく,この主張のみで当審鑑定の買い進みの認定が不合理であるとはいえない。ちなみに,被告鑑定においても,事例4について買い進みを理由とする事情補正をしているが,かかる事情の存在を明らかにする資料は添付されていない。

 

 

エ 合理性に関する総合判断

上記アないしウを総合すれば,被告鑑定には,鉄道高架の隣接による減価要因の無視や容積率の認定誤りという価額評価に重大な影響を及ぼす問題点を内包しており,その合理性に強い疑いを抱かざるを得ないのに対し,当審鑑定には,かかる問題点は見当たらない上,その余の鑑定内容,経緯についても,被告鑑定を上回る合理性を有すると判断するのが相当である。

そうすると,本件1土地の建付減価前の時価は,当審鑑定に従い6422万3000円であり,建付減価後の時価は5458万9550円と認められる。

 

2 本件2土地の時価(本件2土地に係る当審鑑定評価額と被告鑑定評価額との合理性の優劣)について

 

(1) 本件2土地については,被告は,本件異議決定において,通達評価額によることを改め,被告鑑定評価額を採用しているところ,これが時価といえるか否かは,当審鑑定及び被告鑑定の評価内容及びその過程を検証した上,その合理性の優劣によって決すべきことは前記(当裁判所の判断1(1))のとおりである。

 

(2) 前記争いのない事実及び証拠により明らかな事実等に証拠(当審鑑定,乙1の1,乙3,乙5)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実が認められる。

 

ア 本件2土地の状況

本件2土地は,名鉄広見線西可児駅の南方約1.6キロメートルに位置し,南方約600メートルにはP小学校が,北北東約2.2キロメートルにはQ中学校が,北方約1.6キロメートルには日常の買物に利用可能な名鉄パレQ店がそれぞれ存在している。同土地の周辺(半径二,三百メートルの範囲)は,建物が点在し,ため池,農地,原野等も残存する未開発な地域であるが,西方約250メートル,東北東約350メートル,南南東約400メートルには,それぞれ整然と区画された宅地上に住宅が密集して建ち並んでいる大規模住宅団地(R,S,T)が存在している。また,同地域は,北側と南側の双方を山林によって挟まれており,日照や通風等の自然環境において,恵まれた状態にはない。

 

同土地は,南側をおおむね東西方向に走る幅員約2.6メートルの道路(以下「本件接面道路」ともいう。)に接面する,地積1093平方メートルのやや不整形な土地(接道距離が奥行きの2倍以上に達する。)であり,都市計画区域上何らの地域地区の指定を受けていない。

なお,本件接面道路は,本件相続開始時において,建築基準法42条2項所定のみなし道路の指定を受けていなかった。

 

イ 被告鑑定

(ア) 近隣地域及び標準画地の設定

被告鑑定は,本件2土地の近隣地域の範囲を「Uのうち県道善師野・多治見線東方背後の見込地地域」とした上で,「農地を中心として,一部農家住宅等の散在する地域である。地域の周辺には,大規模分譲団地であるR,S,Tの各団地が所在し宅地化の蓋然性は高いものの若干の傾斜地のため宅地開発が阻害されている。近隣地域及びその周辺地域は,全般的には宅地開発の影響を受け発展傾向にあり,地域の西方を東西に走る県道善師野・多治見線の整備等も相俟って今後は徐々に宅地地域へと転換してゆくもの」と予測して,近隣地域の標準的使用を「住宅地向き宅地見込地」と判断している。その上で,被告鑑定は,この近隣地域の標準画地を,同地域の地域要因を備え,南西側が幅員4メートルの舗装市道に接面する,間口50メートル,奥行き20メートル,規模1000平方メートル程度の長方形地に設定し,その標準的使用を住宅地向き宅地見込地と判定した。

(イ) 取引事例比較法によって求めた比準価格

被告鑑定は,本件2土地の近隣地域の街路条件を南西側幅員4メートルの舗装市道が標準で,系統・連続性はやや不良であるとするなどして,近隣地域の標準画地の比準価格を,可児市V字W(事例1及び3)並びに同市X字Y(同2)の3つの取引事例と比較の上,1平方メートル当たり2万9600円,3万2700円,3万1400円と試算し,これらを比較検討の上,同3万1000円と査定した。

その上で,被告鑑定は,本件2土地は標準画地と比較すると,道路等の潰地約140平方メートル(全体の面積の約13パーセント)を生ずることを理由に,画地条件において13パーセントの減価要因が存在すると判断し,本件2土地の単価を標準画地の上記価格に0.87を乗じた1平方メートル当たり2万7000円と査定し,地積1093平方メートルを乗じて,本件2土地の比準価格を2950万円と算定した。

(ウ) 開発法によって求めた価格

被告鑑定は,本件2土地に土工事,道路敷設工事及び供給処理施設工事等を施工した上で,5区画(1区画当たり190平方メートル)にして分譲することを想定し,その予測分譲収入額(ただし相続開始時の現在価値に引き直したもの)4012万7409円から同支出額(造成工事費840万4733円,販売費及び一般管理費484万9521円。前同)1325万4254円を控除した2690万円をもって開発法による土地価格と算定した(万円未満四捨五入)。

(エ) 本件2土地の鑑定評価額の決定

その上で,被告鑑定は,(イ)の取引事例比較法によって求めた比準価格は,同一需給圏内に存する類似の見込地の取引事例から求めたもので,地域格差・個別格差の判定も適切であり,評価対象地の宅地化の影響を考慮した現実的な価格と考えられ,このように市場の実態を如実に反映したものとして相対的な規範性を有するのに対し,(ウ)の開発法によって求めた価格は想定要素を多く含むことから,前者を採用して(後者を考量して),本件2土地の鑑定評価額を2950万円と決定した。

 

 

ウ 当審鑑定

(ア) 近隣地域及び標準画地の設定

当審鑑定は,本件2土地の近隣地域の範囲を,西可児駅の南方約1.4キロメートル(直線距離)に位置する同土地を中心に,これと接面する市道沿いに東方はHため池まで,西方は約100メートルの狭い地域に設定した。そして,当審鑑定は,近隣地域が北側と南側周辺山林に囲まれた中に残されたほぼ平たん地で,日照・通風等気象の状態等自然的環境は劣り,現在,田地が多い中,原野等が残存する利用状況にあり,用途的にやや未成熟な宅地見込地域として位置づけられる環境にあることなどから,その標準的使用を「地積1000平方メートル前後の宅地転換の可能性を内包する原野等未利用地」と判定し,将来の動向を「周辺にはS,T等大型住宅団地があり,十分な住宅地供給がなされている状況にあり,又,昨今の経済情勢を反映して大・中規模の宅地開発は減少傾向にあること,又,当該地域は農用地指定を受けた田地が多いことより宅地化進行は遅行的であり,利用状況等は当分の間,現況を維持し推移していくもの」と予測している。

そして,標準画地を,近隣地域の地域要因を備え,幅員約2.6メートルの市道に接面する地積約1000平方メートル(縦横の比率は1対2)のほぼ整形地として設定した。

(イ) 個別的要因及び最有効利用

本件2土地は,南側で幅員約2.6メートルの市道に接面しているところ,当審鑑定の鑑定人は,当該市道は建築基準法42条の道路には該当しない旨を市役所建築指導課職員から聴取した。そして,同土地が,地積1093平方メートル,間口約54メートル,奥行き約25メートルの不整形地であって,都市計画区域としては未線引区域にあるなどの近隣地域及び個別的要因の分析の結果,当審鑑定は,最有効使用を「弱いながらも住宅敷地等へ用途転換する可能性を内包した宅地見込地」と判定した。

(ウ) 取引事例比較法によって求めた比準価格

当審鑑定は,4つの取引事例(地目が山林のもの3事例,雑種地のもの1事例)を選定して,近隣地域の標準画地の比準価格を1平方メートル当たり1万8392円,1万7657円,1万9195円,2万2411円と試算した上で,標準画地の比準価格をこれら4つの値のほぼ中庸値である同1万9400円と決定した。

そして,当審鑑定は,標準画地の価格に本件2土地と標準画地との格差率1.00(格差がないことを意味する。)及び本件2土地の地積1093平方メートルを順次乗じて,本件2土地の鑑定評価額を2120万4000円と評価した。

 

(エ) 他の方式の不採用

当審鑑定は,現在の経済情勢下,当該地域の立地条件を勘案すると大・中規模の宅地開発は困難であり,また,単独での小規模開発は許可が下りるか否か難しい状況にあるとして,造成後の更地価格から造成費用相当額等を控除する方式(開発法)は適用せず,また,種別を同じくする地価公示地が可児市内に設けられていないため,地価公示価格を規準とすることができなかったとして,取引事例比較法のみを適用した。

 

(3) 被告鑑定及び当審鑑定の合理性の検討について

ア 取引事例比較法における近隣地域の設定及び熟成度に関する判定について

(ア) 当審鑑定は,本件2土地の近隣地域の範囲を,本件2土地を中心とする接面市道に沿って東方はHため池まで西方は約100メートルの狭い地域に設定したのに対し,被告鑑定は,「Uのうち県道善師野・多治見線東方背後の見込地地域」としている。そして,この近隣地域の範囲の設定に対応して,当審鑑定は,近隣地域の標準的使用を「用途的にやや未成熟な宅地見込地地域」とし,本件2土地の最有効使用を「弱いながらも住宅敷地等へ用途転換する可能性を内包した宅地見込地」と判定したのに対し,被告鑑定は近隣地域の標準的使用及び本件2土地の最有効使用をいずれも「住宅地向き宅地見込地」と判定した。

(イ) この点について,被告は,宅地見込地の評価においては,その周辺地域の状況に影響を受けるため,近隣地域の範囲をより広く面状に設定すべきであり,当審鑑定のように,線状に近隣地域を設定するのは合理的でない旨主張する

しかしながら,不動産鑑定における近隣地域とは,評価対象不動産の属する用途的地域であって,より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって,居住,商業活動,工業生産活動等,人の生活と活動とに関して,ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域をいい,対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つものである。そして,近隣地域は,その地域の特性を形成する地域要因の推移,動向のいかんによって変化していくものである(乙2)。

近隣地域の上記のような性質にかんがみると,その設定は,対象不動産及びその周辺地域の自然的要因,社会的要因,地域要因及び行政的要因の現状の把握及び将来の予測という不動産鑑定士の専門的な判断にゆだねられているというべきであるから,それが専門家としての知見,経験に基づいたものであり,これに引き続く個別的要因による格差率の査定がその設定と矛盾しないものであるならば,不動産鑑定士によってその判断が分かれることがあっても,各々その合理性を否定すべきものではない(例えば,近隣地域を広い範囲で設定した結果,標準画地の地域要因を宅地化の進んだものと判定した場合,取引事例と比較して算出した標準価格は高めに査定されるが,他方,評価対象地の価格を算出する際には,減価要因が大きくなる。逆に,近隣地域を狭い範囲で設定した結果,標準画地の地域性を宅地化の遅れたものと判定した場合,取引事例と比較して算出した標準価格は低めに査定されるものの,評価対象地の価格を算出する際には,増加要因が大きくなり,結局,その比較の際に用いられる格差率の査定が適切ならば,どちらの設定であっても結論において大きな相違は生じないと考えられる。)。

しかるところ,当審鑑定は,本件2土地を中心とし,その接面する市道に沿って東方はHため池まで,西方は約100メートルの狭い地域を近隣地域に設定しているが,この判断は,前記のとおり,当該地域が北側と南側の双方を山林に挟まれた地形にあって,田地・原野等が残存しているなど,それ以外とは地域的特性において無視し得ない差異があると認められることに照らせば,十分にその合理性を肯認できるというべきであるから,宅地見込地であることを理由に広範な地域を近隣地域として設定すべきであるとの被告の主張は採用できない。

(ウ) また,当審鑑定は,近隣地域の標準的使用について「用途的にやや未成熟な宅地見込地地域」と判断し,宅地見込地としての熟成度について慎重な見解を示しているが,前記のように近隣地域の範囲を設定すれば,当然かつ合理的な判定であることは明らかである。

むしろ,この点について,被告鑑定は,「若干の傾斜地のため宅地開発が阻害されている」との認識を示しつつも,「地域の周辺には,大規模分譲団地……が所在し宅地化の蓋然性は高」く,「全般的には宅地開発の影響を受け発展傾向にあり,……今後は徐々に宅地地域へと転換してゆくものと予測」しているが,前記のような本件2土地の周辺の地域的特性に照らせば,この地域を宅地化するためには既設の団地よりも相対的に割高な費用を要することが見込まれ,さらに,後記の公法上の規制の存在を考慮すると,「不動産取引の急速な回復は見込まれ」ず,「当面は商業地……の他の用途地域では沈静気味に推移するものと予測される」との認識(乙1の1の7頁)を示しつつ,上記のように熟成度を高く見積もった予測が果たして合理性を有するかについて疑問を抱かざるを得ない。

(エ) 以上のとおり,近隣地域の設定及び熟成度の判定に関する当審鑑定の判断は合理的であって,その程度は被告鑑定よりも優ることはあっても劣ることはないと認めるのが相当である。

 

イ 本件2土地の接道条件の評価について

(ア) 当審鑑定の合理性について

被告は,当審鑑定を行った鑑定人は接面道路に関する事項を確認したにとどまり,建築許可の容易さの調査を十分に行っていないが,岐阜県中濃建築事務所や可児市役所建築指導課の職員らの見解などを総合すると,本件2土地は建築許可を得られる見込の高い土地であるから,これを反映していない当審鑑定は妥当性を欠く旨主張する。

しかしながら,まず,建築基準法42条2項による指定については,特定行政庁が,幅員4メートル未満の道(前記のとおり,本件接面道路は幅員約2.6メートル)について「この章の規定が適用されるに至った際現に建築物が建ち並んでいる」との要件の充足を認定した上で,個別的,裁量的にその可否を判断するものであって,かつ,かかる判断を行う際には,明文化されてはいないものの,「一般の交通の用に供されていること」や「公益上の必要性があること」の要件を加えて運用していること(乙5の添付資料参照)にかんがみると,当審鑑定の鑑定人が,特定行政庁に対し,具体的な申請行為を前提とすることなく一般論として上記指定の可能性を確認したところで,責任を伴う回答を得られる見込みはほとんど考え難く,仮に得られたとしても実際の申請時における特定行政庁の判断と同一である保証は全くない(被告鑑定の鑑定人も,乙5において,「本件でも,建築主事の判断によっては2項道路と指定されない余地もあり,微妙なところはあると感じた」旨自認している。)。また,同法43条1項ただし書の許可についても,特定行政庁が「その敷地の周囲に広い空地を有する」との要件充足を認定した上で,「交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がない」か否かについて個別的,裁量的に判断した上で,その可否を決するものであるから,許可の可能性については,上記と同様というべきである。

もっとも,証拠(甲5)によれば,岐阜県中濃建築事務所長は,平成12年8月4日,可児市UH○番○ほか1筆の土地上に建築予定の建築物について,同法43条1項ただし書に基づく許可処分をした事実が認められ,被告鑑定の鑑定人は,名古屋国税局課税第一部長に対する回答書(乙3,5)中で,るる理由を述べながら本件2土地について上記許可を得られると判断した旨述べている。しかし,前記のとおり,上記許可を与えるか否かは特定行政庁の個別的,裁量的判断に委ねられているから,本件相続開始当時,本件2土地について同許可が得られるものと即断して評価すること自体,その合理性に疑問があるといわざるを得ない(しかも,そのように判断したのであれば,かかる重要事項を鑑定書に記載すべきであるにもかかわらず,被告鑑定書(乙1の1)には,これについて何ら触れた部分が見当たらないことに照らすと,上記回答書の内容は,被告鑑定が当審鑑定よりも合理性に優ることを示すべく,後日考え出されたものとの疑いをぬぐうことはできない。)。

そうすると,当審鑑定の鑑定人が,本件接面道路が建築基準法42条2項による指定を受けていないことを確認しつつ,「対象不動産の近隣地域並びに個別的要因を分析した結果,最有効使用を弱いながらも住宅敷地等へ用途転換する可能性を内包した宅地見込地と判断した」ことは,堅実な評価手法を採るものとして,その合理性を十分に肯認できるというべきである。

(ウ) 被告鑑定の合理性

他方,被告鑑定は,本件2土地の街路条件及び画地条件を検討した箇所で,本件接面道路の幅員を4メートルと表記している。この点について,同鑑定の鑑定人は,前記回答書(乙3)において,2.6メートルの印字ミスにすぎないと弁解し,その理由として,画地条件の検討箇所において,セットバックによる潰地を生ずることが明記されていることを挙げているところ,なるほど,被告鑑定(乙1の1)においては,セットバック部分の面積(13パーセント)の価値をゼロと評価している。

しかし,仮に印字ミスであったとしても,セットバックは,建築基準法に基づいて建築物を建築する際に,当該敷地について必要となるものであって,当該道路に接面する他の土地全部について道路とみなされるわけではないので,セットバック部分を減価したとしても,それは画地条件として当然の操作をしたにすぎず,接道条件において何らの減価を行っていないことを正当化するものではない。

この点についても,被告鑑定の鑑定人は,上記回答書において,同鑑定が接道条件に係る減価をしていないのは,元々近隣地域の標準的な街路を「幅員4mの系統・連続性がやや不良な道路」に設定しているから,上記要因を織り込み済みである旨弁解している。しかし,幅員と系統性・連続性とは異なる概念である上,幅員4メートルの道路に接面する場合と同2.6メートルの場合とが価格形成要因として等しいとの結論は,到底受け入れられるものではない。

結局,上記弁解は,当初の被告鑑定が幅員の相違に基づく接道条件の格差の検討を看過したことを正当化すべく,後になって考え出されたものと推認するほかない。

(4) 当審鑑定の合理性に関する事項

ア 取引事例の選定について

被告は,当審鑑定の採用した取引事例4事例のうち2事例が熟成度の高い宅地見込地のものであるほか,地域要因格差率が累計で150パーセント,144パーセント,51パーセントとなる取引事例3例を採用しており,適切な事例が採用されていない旨主張する。

なるほど,取引事例の選択に当たっては,できる限り格差率が小さいもの,すなわち状況の類似性が高いものを対象とする方が,鑑定評価の精度を確保する上で望ましいと考えられ,現に,証拠(乙2)によれば,不動産鑑定評価基準は,「近隣地域又は同一需給圏内の類似地区」に存する不動産を原則とすべき旨定めていることが認められる。しかしながら,どのような事例を比準の対象となる取引事例に選択すべきかは,当該鑑定人の有する専門的知見,経験によるべきものであり,また実際に保有する資料の量にもかかわることであるから,結果的に地域要因における格差率の高い事例を選択したとしても,格差率の査定自体が適切に行われている限り,直ちに合理性を欠くと解すべきものではない(上記不動産鑑定評価基準でも,必要やむを得ない場合には,近隣地域の周辺の地域に存する不動産の選定を認めている。)ところ,前記のとおり,当審鑑定は,他の地域との間に無視し得ない地域的特性を有する比較的狭い範囲の地域を近隣地域に設定し,かつその宅地化の熟成度について慎重な判定をしている(このこと自体は合理的であることは既述のとおりである。)から,地域要因格差率の差が大きい3事例を取引事例に含んでいるからといって,合理性を欠くと判断するのは相当でない。

イ 地域格差の査定に関する項目

被告は,当審鑑定が,本件2土地の近隣地域を熟成度の低い宅地見込地と判定しているのであれば,市街化進行の程度等宅地化への期間及び蓋然性についての項目を重点的に査定すべきであり,本来は熟成度の高い宅地見込地の比準の場合に用いるべき査定項目(駅・商店街等の接近性や周辺地域の状態・供給処理施設等,造成の難易等)を主とすべきではない旨主張する。

しかしながら,熟成度が低いとはいうものの,基本的に宅地見込地である,すなわち,宅地に転換する可能性が内包されていると判定しているのであるから,駅・商店街等の接近性や周辺地域の状態・供給処理施設等,造成の難易等を査定項目に入れることは当然であり,何ら不合理とはいえない。

(5) 合理性に関する総合判断

上記(3)及び(4)を総合すれば,被告鑑定には,接道条件の誤認ないし無視という価額評価に重大な影響を及ぼす問題点を内包しており,その合理性に強い疑いを抱かざるを得ないのに対し,当審鑑定には,かかる問題点は見当たらない上,その余の鑑定内容,経緯についても,被告鑑定を上回る合理性を有すると判断するのが相当である。

そうすると,本件2土地の時価は,当審鑑定の評価額である2120万4000円と認めるのが相当であるところ,被告が採用した評価額はこれを上回っているから,これを上記評価額に修正した上で,相続税を算定すべきである。

 

3 相続税額の算定

(1) 以上によれば,本件1土地及び本件2土地の時価は,原告の主張するとおり,当審鑑定による評価額である5458万9550円(ただし,建付減価後のもの)及び2120万4000円と認めるのが相当である。

(2) そこで,この評価額を前提に,原告の納付すべき本税額を計算すると,下記のとおり,2912万3400円となる。

ア 相続により取得した財産の価額 6億4655万3479円

下記(ア)ないし(オ)を合計した金額6億4655万3479円が相続により取得した財産の価額となる。このうち,原告が取得した財産の価格は1億0931万4348円(争いがない。),Bが取得した財産の価格は4億1304万1515円,Cが取得した財産の価格は1億2419万7616円である。

(ア) 土地の価格         4億3808万6641円

 原被告間においてその価格に争いのない土地に係る3億6229万3091円に,本件1土地の価格5458万9550円及び本件2土地の価格2120万4000円を加えると土地の価格は4億3808万6641円となる。

(イ) 家屋・構築物の価格    3505万6555円(争いがない。)

(ウ) 現金・預貯金等の価格 1億6008万0556円(争いがない。)

(エ) 家庭用財産の価格       20万4525円(争いがない。)

(オ) その他の財産の価格    1312万5202円(争いがない。)

イ 債務及び葬式費用の金額    6893万4878円(争いがない。)

このうち,原告が負担した債務及び葬式費用の金額は0円,Bが負担した債務及び葬式費用の金額は6496万4878円,Cが負担した債務及び葬式費用の金額は397万円である(争いがない。)。

ウ 課税価格の合計額    5億7761万7000円

上記ア各記載の金額から上記イ各記載の金額を控除したのちの金額から,国税通則法118条1項により1000円未満の端数を切り捨てると,原告の課税価格は1億0931万4000円,Bの課税価格は,3億4807万6000円,Cの課税価格は1億2022万7000円となり,これらの合計は5億7761万7000円となる。

エ 遺産に係る基礎控除額    8000万円

遺産に係る基礎控除額は,相続税法15条の規定により,5000万円と1000万円に法定相続人の人数である3を乗じて算出した3000万円との合計の8000万円となる。

オ 相続税の総額の計算の基礎となる金額 4億9761万7000円

相続税の総額の計算の基礎となる金額は,上記ウの金額から上記エの金額を控除した4億9761万7000円となる。

カ 相続税の総額      1億5832万7200円

相続税の総額は,上記オの金額に原告ら各人の法定相続分を乗じた各取得金額に相続税法16条に規定する税率を適用して算出した金額を合計した1億5832万7200円となる。

キ 算出税額          2996万3417円

算出税額は,上記カの金額に,原告の課税価格1億0931万4000円が課税価額の合計額5億7761万7000円のうちに占める割合を乗じた2996万3417円(円未満切り捨て)となる。

ク 納付すべき税額       2912万3400円

原告が納付すべき税額は,相続税法19条の4の規定により,上記キの金額から障害者控除額84万円を減じ,国税通則法119条により100円未満の端数を切り捨てた2912万3400円となる。

(3) 過少申告加算税については,原告の申告に係る納付すべき税額2823万5200円と(2)クの納付すべき税額2912万3400円の差額から1万円未満の端数を切り捨てた上で,100分の10の割合を乗じて算出すると,8万8000円となる(国税通則法65条1項,118条3項)。

 

4 結論

以上の次第で,原告の本訴請求は理由があるので認容し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,62条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

    名古屋地方裁判所民事第9部

          裁判長裁判官   加藤幸雄

             裁判官   舟橋恭子

             裁判官   尾河吉久

(別紙省略)