企業会計に従った公正処理基準(1)

 

 

更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成24年(行ウ)第26号

 

【判決日付】 平成25年2月25日

 

【判示事項】 原告(株式会社)は,資金調達等の目的で,所有する土地及び建物等を信託財産とする信託契約を締結し,それに基づく受益権を第三者に譲渡し,これについて,信託財産の譲渡と取り扱った内容の会計処理をし,法人税の各確定申告をしていたが,これを金融取引として取り扱う会計処理をすべきである旨の証券取引等監視委員会の指導を受け,過年度の会計処理の訂正をし,このため,同年度の法人税の確定申告に基づく納付すべき税額が過大となったとして,国税通則法に基づく更正請求をしたのが,豊島税務署長から更正をすべき理由がない旨の通知を受けたため,その取消しを求めた.裁判所は,法人税の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算について,法人税法22条4項は,益金の額の算定の基礎である収益の額並びに損金の額の算定の基礎である原価,費用及び損失の額は,「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものと定め,本件更正請求する理由とされたところは,通則法23条1項1号所定の更正事由に該当せず,本件通知処分は適法であるとして,請求を棄却した。

 

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

   豊島税務署長が原告に対し平成22年2月3日付けでした,原告の平成19年9月1日から平成20年8月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税に係る更正の請求については更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を取り消す。

第2 事案の概要等

 1 事案の要旨

  (1) 原告は,家庭用電気製品の売買等を目的とする株式会社であり,本件事業年度中の平成20年6月以降その発行する株式を東京証券取引所市場第一部に上場しているところ,これに先立つ平成14年に,資金の調達等の目的で,その所有する土地及び建物等を信託財産とする信託契約(以下「本件信託契約」といい,これに係る信託財産を,以下「本件信託財産」という。)を締結した上で,それに基づく受益権(以下「本件信託受益権」という。)を総額290億円で第三者に譲渡すること等を内容とするいわゆる不動産の流動化をし,これについて,法人税の課税標準である所得の金額の計算上本件信託受益権の譲渡をもって本件信託財産の譲渡と取り扱った内容の会計処理をして,以降,本件信託契約及びこれに関係する契約を終了させた本件事業年度までの間,この会計処理を前提とした内容の法人税の各確定申告をしていたが,その後,上記の不動産の流動化について本件信託財産の譲渡を金融取引として取り扱う会計処理をすべきである旨の証券取引等監視委員会の指導を受け,過年度の会計処理の訂正をした。

  (2) 本件は,本件事業年度の法人税について,原告が,前記(1)のとおり,その前提とした会計処理を訂正したことにより,同年度の法人税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)に係る確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)の提出により納付すべき税額が過大となったとして,国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「通則法」という。)23条1項1号に基づき,更正をすべき旨の請求(以下「本件更正請求」という。)をしたところ,豊島税務署長から更正をすべき理由がない旨の通知(本件通知処分)を受けたため,その取消しを求めた事案である。

 

 

 

 2 関係法令等の定め

   別紙「関係法令等の定め」に記載したとおりである(なお,同別紙で定める略称等は,以下においても用いることとする。)。

 3 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者において争うことを明らかにしない事実である。以下「前提事実」という。)

  (1) 原告

    原告は,家庭用電気製品の売買等を目的とする株式会社であり,平成20年6月以降,その発行する株式を東京証券取引所市場第一部に上場している。

  (2) 本件不動産流動化

    原告は,平成14年8月23日,以下の各契約を締結し,その所有する不動産についてのいわゆる不動産の流動化に係る各取引(以下の各契約による一連の取引を総称して,以下「本件不動産流動化取引」という。)をした。

   ア 本件信託契約

     原告とA信託銀行株式会社(現在のB信託銀行株式会社。以下「A信託銀行」という。)は,原告を委託者とし,A信託銀行を受託者として,要旨以下の記載のある契約書(乙5。以下「本件信託契約書」という。)をもって,本件信託契約を締結した。

    (ア) 信託の目的

      原告は,本件信託契約書の別紙1「不動産目録(C物件)」及び同2「不動産目録(D物件)」に各記載の原告が所有する土地及びそれらに付随する一切の権利並びに建物及びそれらに付随する一切の権利(本件信託財産。なお,本件信託財産のうち建物及びそれらに付随する一切の権利について,以下,上記「不動産目録(C物件)」に係るものを「C建物」といい,上記「不動産目録(D物件)」に係るものを「D建物」といい,C建物及びD建物を併せて「本件各建物」という。)を受益者のために管理・運用・処分することを目的として,A信託銀行に信託し,同行はこれを引き受けた(1条)。

    (イ) 信託期間

      本件信託契約の期間は,契約の締結日から平成34年8月22日までとする。ただし,本件信託契約書36条の定め(受益者とA信託銀行との間で本件信託契約の解約について別途合意をした場合〔同条1項(5)〕等)により当該期間が満了する前に終了する場合を除く。(以上につき4条)

    (ウ) 当初の受益者

      本件信託受益権の当初の受益者は原告とする(20条)。

   イ 本件各建物についての賃貸借契約

    (ア) C建物

      原告とA信託銀行は,本件信託契約に基づいて同行が所有するC建物を原告に賃貸することにつき,要旨以下の記載のある契約書(乙6)をもって,定期建物賃貸借契約を締結した。

     a 使用目的

       原告は,C建物を自ら家電製品等の販売店として通常認められる目的及びそれに関連した目的でのみ使用できるものとする(2条)。

     b 賃料

       賃料は1月当たり2億0850万円(消費税及び地方消費税を除く。)とする(4条1項)。

     c 敷金

       敷金は25億0200万円とする(6条1項)。

     d 賃貸借期間

       本契約は,契約の締結日から法的な効力が生ずるものとし,平成34年8月22日まで有効とする(3条)。

    (イ) D建物

      原告とA信託銀行は,本件信託契約に基づいて同行が所有するD建物を原告に賃貸することにつき,要旨以下の記載のある契約書(乙7)をもって,定期建物賃貸借契約(この契約と前記(ア)の定期建物賃貸借契約を併せて「本件各建物賃貸借契約」という。)を締結した。

     a 使用目的

       原告は,D建物を自ら本社事務所として通常認められる目的及びそれに関連した目的でのみ使用できるものとする(2条)。

     b 賃料

       賃料は1月当たり1400万円(消費税及び地方消費税を除く。)とする(4条1項)。

     c 敷金

       敷金は1億6800万円とする(6条1項)。

     d 賃貸借期間

       本契約は,契約の締結日から法的な効力が生ずるものとし,平成34年8月22日まで有効とする(3条)。

   ウ 本件信託財産についての管理委託契約

     原告とA信託銀行は,同行を委託者とし,原告を受託者として,本件信託財産の管理運営業務を委託する不動産管理委託契約(以下「本件管理委託契約」という。)を締結した(乙8)。

     なお,当該業務の対価は,平成34年8月22日までの管理委託期間(2条)中の各信託計算期間(原則として毎年の2月1日から7月31日まで及び8月1日から翌年の1月31日までをいう。本件信託契約書〔乙5〕26条1項参照)ごとに合計で1200万円(消費税及び地方消費税を除く。)とされた(7条及び同契約の契約書の別紙1)。

   エ 本件信託受益権の譲渡契約

    (ア) 原告と有限会社E(本件不動産流動化取引のために設立された。以下「E」という。)は,要旨以下の記載のある契約書(乙9)をもって,本件信託受益権をEに譲渡する契約(以下「本件信託受益権譲渡契約」という。)を締結した。

      なお,A信託銀行は,以下のbに関し,本件信託契約において,本件信託受益権を譲渡することについての承諾をした(本件信託契約書22条2項1号)。

     a 目的

       原告は,本件信託受益権をEに譲渡し,Eはこれを譲り受ける(2条)。

     b 譲渡の効力の発生時期

       本件信託受益権の譲渡は,これについてのA信託銀行の承諾が取得されたことを条件として,契約の締結日において,その全体について効力を生じる(5条)。

     c 買取代金

       本件信託受益権の対価は,総額で290億円とし,Eは,契約の締結日に使用可能な資金によって支払う(6条)。

    (イ) Eは,以下のとおり,本件信託受益権譲渡契約に係る代金の調達をした(乙10)。

     a 株式会社F(本件不動産流動化取引のために設立された。)からいわゆる優先ローンとして180億円

     b 銀行からいわゆる劣後ローンとして30億円

     c 株式会社G(以下「G」という。)からいわゆる優先匿名組合出資金として75億5000万円

     d 原告との間でEを営業者とし原告を匿名組合員とする匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」といい,本件信託契約,本件各建物賃貸借契約,本件管理委託契約及び本件信託受益権譲渡契約と併せて「本件各契約」という。)を締結したこと(乙11)による原告からのいわゆる劣後匿名組合出資金として14億5000万円

  (3) 本件信託受益権の買戻し及び本件各契約の終了

    原告は,次のとおり,Eから本件信託受益権の買戻しをする等し,本件各契約はいずれも終了した。

   ア 本件信託受益権についての停止条件付売買契約の締結(乙12,13)

     原告とEは,平成19年9月20日,本件信託受益権について,Eを売主とし,原告を買主として,代金を311億円(消費税及び地方消費税を除く。)とする,Eが前記(2)エ(イ)a及びbの借入れを完済すること等を条件とした停止条件付売買契約(以下「本件買戻契約」という。)を締結した。

     なお,当該条件は,同年10月22日に成就した。

   イ 本件信託契約の終了

     原告とA信託銀行は,平成19年10月22日,本件信託契約を終了させることを合意した(乙14)。

   ウ 本件各建物賃貸借契約の終了

     原告とA信託銀行は,平成19年10月22日,本件各建物賃貸借契約及び本件管理委託契約を終了させることを合意した(乙15ないし17)。

   エ 本件匿名組合契約の終了

     本件匿名組合契約は,同契約の定めに従い,本件信託財産等の全部の売却等の処分が行われたことにより,平成19年10月22日の後30日が経過した時に終了した。

  (4) 本件通知処分等の経緯

   ア 本件確定申告等

     原告は,平成14年8月期(平成13年9月1日から平成14年8月31日までの事業年度をいう。以下同じ。)において,①本件信託受益権の譲渡を本件信託財産の譲渡と取り扱って(後記する売却取引処理),その譲渡の対価の額である290億円から原価の額(帳簿上の取得価額)である263億9000万円を控除した26億1000万円を収益の額に,②本件各建物賃貸借契約に基づく賃借料の額を費用の額に,③本件匿名組合契約に係る配当金の額を収益の額に,それぞれ計上する会計処理をして,上記の事業年度の法人税について,この会計処理を前提とした内容の確定申告をした。

     原告は,その後の各事業年度の法人税について,上記の会計処理を前提とした内容の各確定申告をし,本件事業年度においては,上記のほか,前記(3)アの本件買戻契約に基づいて本件信託受益権を取得したことに伴い,これを財務諸表上資産の部に計上する会計処理をするとともに,本件匿名組合契約の終了に係る配当金の額である34億7099万6464円を収益の額に計上する会計処理をして,別表の「確定申告」欄記載のとおり,これらの会計処理も前提とした内容の本件確定申告をした。

   イ 証券取引等監視委員会の調査等

     証券取引等監視委員会は,平成20年12月,調査の結果,本件不動産流動化取引の会計処理について,本件信託受益権のEへの譲渡を本件信託財産の譲渡として取り扱い,本件信託財産である不動産を貸借対照表上の資産の部に計上しないものとすること(このような取扱いを,以下「売却取引処理」という。)は不適切であり,本件信託受益権の上記の譲渡を本件信託財産である不動産の譲渡とは認識せずに金融取引として処理し,本件信託財産である不動産を貸借対照表上の資産の部に計上すること(このような取扱いを,以下「金融取引処理」という。)が適切であるとの判断をし,原告に対して,その旨の行政指導(以下「本件行政指導」という。)をした。

     原告は,本件行政指導を踏まえ,Gについては財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則(以下「財務諸表等規則」という。)8条に基づき子会社に認定すべきであったもので,これを前提とすると,不動産流動化実務指針による原告と合わせてのリスク負担割合が5%を超過することとなる等として,同指針に従い,平成14年8月期に遡って本件不動産流動化取引に係る会計処理を金融取引処理に改めるなどし,平成21年2月20日,関東財務局長に対し,上記の事業年度から本件事業年度までの有価証券報告書の訂正届出書等を提出する等した(乙18,19)。

     なお,原告は,同年7月30日,金融庁長官から,有価証券報告書等に虚偽の記載があったとして,納付すべき課徴金の額を2億5353万円とする課徴金の納付命令の決定(以下「本件課徴金納付命令」という。)を受けた。

   ウ 本件更正請求等

     原告は,平成21年6月12日,本件事業年度の法人税について,前記イの会計処理の訂正に伴い,本件確定申告書の提出により納付すべき税額が過大となったとして,通則法23条1項1号に基づき,別表の「更正の請求」欄記載のとおり,本件更正請求をし,これに対し,豊島税務署長は,同別表の「通知処分」欄記載のとおり,本件通知処分をした。

     その後の本件通知処分についての異議申立て,異議決定,審査請求及び審査裁決の経緯は,同別表の「異議申立」欄,「異議決定」欄,「審査請求」欄及び「審査裁決」欄に,それぞれ記載されているとおりである。

  (5) 本件訴えの提起

    原告は,平成24年1月19日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4 争点及びこれに関する当事者の主張

   本件の争点は,本件通知処分の適法性であり,具体的には,原告の本件事業年度の法人税の所得の金額を計算するに当たり,平成14年8月期にされた本件信託受益権の譲渡について,本件確定申告後に,不動産流動化実務指針に従って金融取引処理に訂正した原告の会計処理が,法人税法上相当なものといえるか否かが争われているところ,これに関する当事者の主張の要点は,以下のとおりである。

  (原告の主張の要点)

   (1) 本件通知処分の違法性

   ア 法人税法22条2項及び4項

      法人税法22条2項及び4項は,同法固有の考慮から「別段の定め」が設けられている場合を除き,収益(益金)及び費用・損失(損金)の額は,「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算」する旨を定めているところ,ここにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)32条2項の「公正なる会計慣行」(以下「公正会計慣行」という。)と一致するから,上記「別段の定め」が存在しない限り,株式会社がする税務処理は,公正会計慣行に従って当該会社がする会計処理と一致することとなる(なお,原告の主張は,企業会計原則等の明文の会計基準や確立した会計慣行であっても,これらが直ちに税会計処理基準に該当するというものではなく,その時々の企業会計の考え方に照らして公正妥当であると認められなければ,税会計処理基準には該当しない旨をいうものである。)。

   イ 本件通知処分に取り消されるべき違法があること

     原告は,自社の所有する不動産の流動化をし,当該流動化に伴う本件信託受益権の譲渡を不動産の売却取引とする会計処理をし,これを前提に税務申告をしていたが,証券取引等監視委員会から本件行政指導を受け,その指導の下,過年度の決算の訂正をした。

     本件不動産流動化取引について,法人税法22条2項にいう「別段の定め」はないから,その税務処理は会計処理と一致することとなり,本件行政指導及び本件課徴金納付命令における見解によれば,本件不動産流動化取引については,税務処理においても,金融取引処理を前提とすべきこととなる。

     本件更正請求は,このような観点から,売却取引処理を前提とした本件確定申告を金融取引処理を前提とするものに訂正するべくされたものであり,本件行政指導及び本件課徴金納付命令における見解を前提とする限り,通則法23条1項1号の要件を満たす適法なものである。

     国の機関である金融庁の判断において,本件不動産流動化取引について金融取引処理によるべきであるとの判断が確定した以上,同じく国の機関である豊島税務署長及び国税庁がこれと異なる見解を前提とするというのは,行政執行の一貫性を欠いた行政判断のいわゆるダブルスタンダードというべきものであり,法的安定性,公平性及び予測可能性の見地から著しく不当というべきである。

     以上のとおり,本件更正請求は,通則法23条1項1号の要件を満たす適法なものであり,これに従った更正をしないでした本件通知処分には,取り消されるべき違法がある。

  (2) 被告の主張について

   ア 被告の主張

     被告は,①法人税法が企図する公平な税収の確保という観点から弊害がある会計処理の方式は,税会計処理基準に該当しない,②不動産流動化実務指針は税会計処理基準に該当しない旨を,それぞれ主張するが,以下に述べるとおり,いずれも理由がないものである。

   イ 前記ア①の点について

    (ア) 法律の解釈において最も尊重されるべきものが条文の文理であることは,いうまでもないところ,法人税法22条4項をその文言に従って素直に解釈すれば,同項の税会計処理基準(「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」)は,企業会計における公正会計慣行(「公正なる会計慣行」)と一致し,純然たる企業会計固有の立場から公正妥当といえる会計処理の基準を指すものと解するほかない。税会計処理基準の内容を検討するに当たって,法人税法固有の観点のみをもって,その基準を公正会計慣行と異なるものと解釈する余地はない。

      このような解釈をした場合,租税に係る政策上の観点から不都合が生ずることはあり得るが,その点について,同条2項は,同法固有の考慮からの「別段の定め」を置くことを許容しているのであって,被告の主張するように同法固有の立場から公正会計慣行の一部が税会計処理基準に該当しないと解することは,同項があえて「別段の定め」を設けた趣旨を没却するものであり,文理解釈上も,租税法律主義の観点からも,極めて不当というべきであって,これと同趣旨を指摘する文献(甲7)も存在する。

      「別段の定め」が設けられていない場合に被告の主張する「課税の公平」が貫徹されない事態が生じたとしても,それは立法においてそもそも予定されたものというべきであり,そのような事態を理由に,法律の解釈を課税庁側に有利に変更し,立法の不備による不利益を納税者側に課すことは許されない。

    (イ)a被告は,その主張の根拠として,ア判例や学説の存在,イ企業会計と税法の関係の変容を指摘する。

     b しかし,前記aアについて,被告が挙げる判例(最高裁平成4年(行ツ)第45号同5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁。以下,「最高裁平成5年判決」という。)は,被告の主張するところと異なる理解をすることも可能なものであるし,そもそも,同判例は,企業会計と法人税法が対立する場面ではなく,同法22条4項の税会計処理基準の解釈について,税会計処理基準が企業会計原則そのものないしはこれに適合する会計処理の基準のみを指すか否かが争点とされた事案についてのものであって,本件とは事案を異にするから,本件には適切ではない。

       また,被告が挙げる下級審裁判例も,本件の先例としての価値は低いものといわざるを得ない。

       被告が挙げる学説(甲8,17,乙32)についても,一般論が述べられているのみであり,被告の主張を基礎付けるものとはいえず,その主張は我田引水の主張といわざるを得ない(甲8,17)。

     c 前記aイについては,「企業会計と税法はそれぞれの固有の目的を重視した立場を踏まえた関係に変容してきている」との被告の主張が,具体的にいかなる意味であるか判然としない。

       また,被告は,企業会計の分野では,国際会計基準との調和を図るために新たな企業会計基準が相次いで設定されているであるとか,中小企業の会計に関する指針(乙23)が制定されるようになった旨をいうが,このような新基準は,税会計処理基準の内容となり得る(学説もその旨を指摘している。甲9)のであるから,企業会計と法人税法との関係のかい離を基礎付けるものではない。

       さらに,被告は,同法においては,経済のグローバル化に対応した独自路線を歩んでいるとするが,独自の路線を歩んでいるとされるのは「別段の定め」についてであって,この「別段の定め」の存在が税会計処理基準の解釈に何らの影響も与えないことは,前記(ア)に述べたところからも明らかである。

    (ウ) 被告は,法人税法22条4項の立法趣旨等からすれば,税会計処理基準は同法固有の概念として定められたものであり,企業会計における公正処理基準と完全に一致するものではない旨を主張する。

      しかし,被告が挙げる文献において,税会計処理基準が同法固有の概念である旨等の記載は見当たらず,むしろ,昭和41年9月の政府税制調査会の中間報告(乙28)や,これを受けた昭和42年発行の国税庁の文献(甲11)に記載された同項の立法の経緯や趣旨からすれば,同項は,税法以前の概念や原理を前提とするもので,その計算は適切に運用されている会計慣行に委ねることの方がより適当と思われる部分が相当多いとの観点から定められた,納税者である企業が継続して適用する健全な会計慣行によって計算する旨の基本規定であって,同項にいう「一般に公正妥当と認められる」か否かの判断については,企業において適切に運用されている会計慣行であるか否か,ないしは企業が継続して適用する健全な会計慣行であるか否かという企業会計の観点からの判断が要求されていることは明らかである。

      被告の主張によれば,税法独自の規制がされるべき分野について,「別段の定め」による規制がされた上に,更に同法固有の観点から税会計処理基準に該当するか否かが判断されることになるのであって,適切に運用されている企業の会計慣行に委ねた同項の趣旨と明らかに矛盾するというほかない(なお,原告の主張する解釈は,学説における多数説でもある。)。

    (エ) 被告は,株式会社の会計の原則について定める会社法431条の解釈としても,ある会計慣行が「一般に公正妥当と認められる」ものかどうかは,一般的には,同法の計算規定の目的に照らして判断されると解釈されている旨を主張する。

      しかし,法人税法においては,独自の規制をするため「別段の定め」を設けることが予定されているのに対し,会社法では,このような規定が置かれていないため,同法独自の規制があることを読み込まざるを得ないにすぎない。

      なお,同法及び法人税法と同様の文言を用いている金融商品取引法(以下「金商法」という。)上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」(財務諸表等規則1条1項等)においては,「企業会計審議会により公表された企業会計の基準」等は,直ちに「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に該当するとされている(同規則1条2項,3項等)。

    (オ) 被告は,企業会計が投資者保護の目的を有するのに対し,法人税法は公平な所得の計算という企図を有していること等からすれば,税会計処理基準の解釈・適用に当たって,企業会計上の公正妥当な会計処理の基準(以下「公正会計基準」という。)の全てを取り込むことはできず,税法独自の観点からこれらの会計基準のスクリーニングをする必要性が増している旨を主張する。

      しかし,そもそも,原告は国際会計基準等が直ちに税会計処理基準に該当すると主張するものではないから,被告の上記の主張は,反論となっておらず,スクリーニングをする必要性をいう点も,「別段の定め」を設けるべきこととなるにすぎない(なお,国際会計基準等の新たな会計処理については,ほぼ全ての会計基準について「別段の定め」が手当てされている。)。

    (カ) 被告は,その主張するところが租税法律主義に反するものではない旨を主張するが,その根拠とする判例(最高裁平成21年(行ヒ)第404号同24年1月13日第二小法廷判決・民集66巻1号1頁。以下「最高裁平成24年判決」という。)の須藤正彦裁判官の補足意見の理解を誤っている。被告の主張によれば,税会計処理基準が不確定な概念となることは明らかであり,企業会計の観点から会計処理の基準を確定することができない法人税法22条4項についての法的安定性等も失われることとなる。被告の主張は,租税法律主義(課税要件明確主義)に反するものというべきであり,このような結論は下級審裁判例からも裏付けられる。

      また,法人税はいわゆる申告納付制度に基づき納付されるところ,この申告納付制度は,租税法の専門家ではない納税者が自ら税法を解釈・適用して所得の金額を計算することができることを前提としている。被告の主張によれば,「別段の定め」を超えて,同法の企図する公平な所得の金額の計算という要請に反しないか,あるいは,適正公平な税収の確保という観点から弊害がないかという極めて不明瞭な基準によって企業利益の修正をすることが納税者に求められることとなり,一般の納税者に不可能を強いることとなるのであって,その主張する解釈は,申告納付制度の下では成り立ち得ないというべきである。

    (キ) 以上のとおり,税会計処理基準は,純然たる企業会計固有の立場から公正妥当といえる会計処理の基準を指すのであって,租税の公平という法人税法固有の観点のみをもって同基準を公正会計慣行と異なるものと解釈する余地はなく,その結果,企業会計の観点からみて一般に公正妥当な会計処理の基準に該当する不動産流動化実務指針は,同法上も適用され,本件の事実関係の下では,本件不動産流動化取引について金融取引処理を前提とした所得の金額の計算がされるべきである。

      これについて,被告が主張するような弊害があると解されるのであれば,「別段の定め」を設けるべきなのであって,これを設けない以上は,同指針によって所得の金額を計算することが,同法22条4項の予定するところというべきである。同指針が公表されてから既に相当の長期間が経過しており,仮に,同指針による取扱いをすることが租税の公平に反するというのであれば,それは,長年にわたって「別段の定め」を設けることを怠った被告の落ち度というほかない。

   ウ 前記ア②の点について

    (ア) 被告は,法人税法においては,譲渡に係る収益の認識については,実現主義ないし権利確定主義が妥当するところ,不動産流動化実務指針による税務処理を認めると,これに反する処理を認めることとなり,課税の公平に反する旨を主張する。

      しかし,権利確定主義についての被告の主張(後記〔被告の主張の要点〕(1)ア(ウ)b参照)については,例外を許容するようにもみえるが,いかなる場合が例外に当たるのか明らかでなく,不動産流動化実務指針が当該例外に当たるのかも検討していない。また,実現主義ないし権利確定主義に沿う会計処理基準がただ一つしか存在しないと解すべき理由はなく,この点,最高裁平成5年判決は,実現主義ないし権利確定主義の立場からも,税会計処理基準に沿うものが複数存在し得ることを認めている。

      翻って,同指針は,いわゆる不動産の流動化に係る取引の複雑さに由来して,実現主義に基づく会計処理をする場合に収益をいつ認識すべきかを判断することが容易でないとの問題意識から,実現主義からの収益の認識時期についての帰結を明示することを目的として設けられたものである。同指針は,法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準とは異なるものの,不動産の流動化に係る取引の経済的な実態からみて,実現主義ないし権利確定主義の観点から合理的といえる「リスク・経済価値アプローチ」による収益計上の基準を採用したものであり,実現主義ないし権利確定主義に沿う会計処理基準ということができる。

    (イ) 被告は,法人税法が法人単位での課税を原則としていることからすると,子会社を考慮する会計処理である不動産流動化実務指針を前提として所得の金額の計算をすることは,同法の予定しないものというべきである旨を主張する。

      しかし,子会社を考慮する会計処理を前提とした税務処理を同法が想定していないことと,そのような会計処理の方式が税会計処理基準に該当しないとすることとの関係は全く不明であり,むしろ,前記(ア)に述べたところからすれば,必要な範囲で子会社を考慮することを妨げる理由はないというべきである。被告の主張は,詰まるところ,同指針に対応する「別段の定め」を同法が定めていない旨をいうものにすぎないが,これは,被告の落ち度というべきものである。

      また,被告は,同指針はあくまで「譲渡人の会計処理」に関するもので,譲受人については定めていないため,譲渡人と譲受人とで不自然な処理が生ずることになりかねない旨も主張するが,取引の当事者間で会計処理が異なるということは,法人ごとにその独自の判断で採用する会計基準を決定し,会計処理をするという同法の仕組み上,しばしば生じ得る事態であり(法人税基本通達12の5-2-3〔甲10〕参照),この点を理由に,不動産流動化実務指針を税会計処理基準として採用することが不合理であるということもできない。

  (被告の主張の要点)

  (1) 本件通知処分の根拠及び適法性

   ア 法令等の解釈

    (ア) 旧法人税法12条1項本文

      信託は,基本的には受託者が受益者のために資産の管理及び処分その他の行為をする仕組みであり,実質的な利益を受益者に享受せしめようとするものであることから,旧法人税法12条1項本文は,信託財産に帰せられる収入及び支出の帰属者を,信託財産に係る法律上の帰属に関わらず,その経済的実質に即して判断するため,受益者が特定している場合には,受益者がその信託財産を有するものとみなして同法の規定を適用する旨を定めていた。

      そして,土地信託に関する通達は,法人税に関する規定の適用に当たり,信託の設定による委託者から受託者への信託財産の移転等は資産の譲渡等に該当しない(同通達3-1)とした上で,信託受益権が譲渡された場合にその目的となった信託財産が譲渡されたものとして取り扱う旨(同通達3-2)を定めていた。

    (イ) 企業会計と税法の関係

      法人税法における所得の金額の計算と企業会計における利益の計算との関係について,かつては,同法,商法及び企業会計原則の三者間の調整のための改正が幾度もされており,これら三者間の関係は,一般にトライアングル体制と称せられ,相互の調和が重視されていた。

      しかし,最近では,三者の会計処理は独自性が強調される傾向にあり,具体的には,企業会計の分野では,国際会計基準との調和を図るために新たな企業会計基準が相次いで設定され,商法においては,会社法制定の前後において会社の計算規則と企業会計基準との新たな調和関係が構築されるようになる一方で,中小企業の会計に関する指針(乙23)が制定されるようになり,法人税法においては,経済のグローバル化に対応した「税率の引下げと課税ベースの拡大」という独自路線を歩んでいるところである。

      そして,企業会計と同法の関係について,最高裁平成5年判決は,「法人税法22条4項は,現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り,課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から,収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解される」との解釈を示しており,その他の下級審裁判例や学説(なお,原告は,各種の下級審裁判例や学説に関する被告の理解が誤っている旨をいうが,いずれも理由がないものである。)に照らせば,同項の税会計処理基準は,客観的な規範性をもつ公正妥当な会計処理の基準であると認められる方式に基づいて所得の金額の計算がされている限り,これを認めようとするものと解されるが,同法の企図する公平な所得の金額の計算という要請に反するもの,あるいは適正公平な税収の確保という観点から弊害がある会計処理の方式は,税会計処理基準に該当しないとしたものと解するのが相当である。

      また,企業会計と税法がそれぞれの固有の目的を重視した立場を踏まえた関係に変容してきていることからすれば,企業会計における会計処理の方式が公正妥当であるといえるかどうかは,慎重に判断されるべきである。

    (ウ) 資産を譲渡した場合の収益の計上の時期

     a 前記(イ)のとおり,法人税法22条4項は,収益の額等は税会計処理基準に従って計算されるものとする旨を定めているから,法人の収益の額をどの事業年度において計上すべきかについても,税会計処理基準に従うべきこととなる。

       そして,企業会計上,土地の売却取引に関しては,我が国には包括的な会計基準がなく,一般的な実現主義(企業会計原則第二,損益計算書原則三B)が適用ないし準用されると解されている(乙21)ところ,ここにいう実現の意義については,「販売によって獲得した対価が当期の実現した収益である。販売基準に従えば,一会計期間の収益は,財貨又は役務の移転に対する現金又は現金等価物(手形,売掛債権等)その他の資産の取得による対価の成立によって立証されたときにのみ実現する」との考え方が示されており(乙22),実務的には,物件の移転がされた日,特に土地の場合には,契約による所有権の移転の日(法的な権利の移転の日)をもって売却の会計処理がされることが多い。

     b 他方,法人税の所得の金額の発生の時点については,所得の実現の時点を基準とすべきで,原則として,財貨の移転や役務の提供等によって債権が確定したときに収益が発生すると解されており,その意味では,法人税法においては,権利確定主義が妥当するところ,ここにいう権利の確定の意義について,不動産の譲渡に係る収益にあっては,原則として,不動産譲渡契約に基づき不動産を引き渡すことによって譲渡に係る対価を受領する権利(債権)が確定したときに,その金額を同法22条2項に規定する収益の額として益金の額に算入するのが相当である。

       そして,このような取扱いは,前記aで述べたような企業会計原則や会計慣行とも整合するものであり(なお,法人税基本通達2-1-2及び2-1-14〔乙36〕参照),最高裁平成5年判決も,「ある収益をどの事業年度に計上すべきかは,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり,これによれば,収益は,その実現があった時,すなわち,その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべき」旨を判示しているところである。

    (エ) 不動産流動化実務指針の位置付け

      事業活動や取引形態が多様化・複雑化していく中で,特定の取引については,個別の会計基準が設けられるに至っており,不動産流動化実務指針はその一つであるところ,同指針は,「財貨の移転」等と「対価の成立」の2つの要件によって具体化される企業会計における一般的な実現主義の考え方とは異なり,リスク,経済価値といった異なる用語で説明される考え方であって,法人税法の考え方と必ずしも整合するとは限らないものである。

      すなわち,同指針は,企業会計基準を実務に適用する際の指針として日本公認会計士協会が公表したもので,主に,金商法に基づいて公開される財務諸表を作成するに当たっての実務上の指針といえるところ,同法1条の規定からも明らかなとおり,企業会計基準も投資者の保護を主要な目的としており,課税の公平を重視する法人税法とは異なる次元から基準や指針の内容が検討される場面があり得るのである。そして,不動産の売却取引の会計処理の在り方について,一般的な実現主義に基づく会計処理の方法によっては,投資者保護の観点からは必ずしも適切ではないとの問題意識を同協会が有していること(乙24)等からすれば,同指針は,不動産の売却取引に係る統一的,包括的な会計基準が存在しない中で,特に具体的な判断基準を明示する必要がある特定の分野についての実務上の指針として公表されたものであることがうかがわれる。

      しかし,投資者保護のために特に必要な分野に限って一般的な実現主義とは異なる基準で収益の認識に係る基準を適用するという考え方が,課税の公平を重視して一般的な実現主義の考え方を基礎とした権利確定主義を広く採用してきた法人税法の税会計処理基準と必ずしも合致するとは限らないのであって,実務的にも,同指針は,同法における収益計上の基準とは必ずしも整合性が取られているものではないことに留意しなければならないとされているところである(乙25)。

   イ 本件不動産流動化取引に係る税務上の取扱い

    (ア) 前記アに述べたところを本件についてみると,前提事実(4)アのとおり,原告は,①平成14年8月期の確定した決算において,本件信託受益権を譲渡したことから,本件信託財産である不動産を譲渡したものとして,その譲渡に係る対価の額を譲渡に係る収益の額として計上するとともに,当該不動産の取得価額を譲渡に係る原価の額として計上し,②当該譲渡を前提として,本件事業年度までの間,確定した決算において,本件各建物賃貸借契約に基づき支払った賃借料を費用として計上する一方,本件管理委託契約に基づき収受した管理料の収入及び本件匿名組合契約に基づき収受した出資配当を収益に計上し,③本件事業年度の確定した決算において,本件買戻契約に基づき,本件信託受益権を取得したことに伴い,本件信託財産である不動産を財務諸表等の資産の部に計上し,④これらの会計処理を前提として,各事業年度の法人税の所得の金額を計算して確定申告をしたものであり,これらの税務処理は,いずれも,旧法人税法12条1項本文,土地信託に関する通達及び法人税法22条2項ないし4項の規定に従った適正な所得の金額の計算であると認められる。

      加えて,不動産流動化実務指針が税会計処理基準に該当しないことは,前記アで述べたとおりであり,また,現行の同法には,原告が主張するような処理を認めるべき「別段の定め」は設けられていない。

      したがって,税務処理上は,本件信託受益権の譲渡を金融取引として取り扱う会計処理によるのではなく,本件信託財産である不動産を譲渡したものとする売却取引処理を前提として,原告の各事業年度の所得の金額を計算するのが適正な所得の金額の計算であると考えられる。

    (イ) 不動産流動化実務指針では,不動産の売却を認識する基準をリスク負担割合がおおむね5%の範囲内かどうかにより判断する旨を定めているところ,当該基準は,不適切な会計処理を防止することにより,財務情報に基づき投資等をする株主や投資者の保護のためのものと認められる。

      しかし,適正公平な税収の確保という観点からすれば,譲渡契約により資産の移転が生じ,したがって,収入すべき権利が確定しているにもかかわらず,不動産の流動化取引に限って,かつ,当該取引において一定割合を超える経済的リスクが譲渡人に残されている場合に限って,譲渡に係る収益を計上しないものと取り扱うことは,これ以外の場合と比して所得の金額の計算にアンバランスが生ずる結果となり,ひいては課税の公平を害する等の弊害が生ずることになりかねない。

      また,同指針がリスク負担割合の判定に財務諸表等規則に基づく子会社を考慮する点は,企業会計が企業グループ全体の経営成績や財政状態に関する情報を開示することを基本的な目的としていることによるものと認められるところ,法人税法が連結納税制度の適用される場合を除けば法人単位での課税を原則としていることからすれば,子会社を考慮する会計処理を前提として所得の金額の計算をすることは,同法の予定しないところといわざるを得ない。

      このように,同指針は,投資者保護の目的という観点から,会計処理上,不動産の流動化取引を売却と認定する上での特別な基準を設けたにとどまるものと解すべきであって,同法の適用場面としての信託財産の譲渡の認定の場面においては,このような目的は妥当せず,かつ,当該特別な基準を機械的に適用するのでは,上記の弊害等が生じかねないというのであるから,こうした場面においてまで当該特別な基準が適用されるという趣旨のものではないと解するのが相当である。

      更にいえば,同指針は,あくまで「譲渡人の会計処理」に関する会計基準を定めるもので,譲受人の会計処理については定めていないため,仮に,同指針の下で譲受人の経理処理には何ら影響が及ばないとした場合には,譲渡人については当該不動産を譲渡人が保有することとされる一方,譲受人については当該不動産を譲り受けたものとした処理がされることとなり,本件信託財産である不動産を譲渡人と譲受人の双方が保有していることとなるのであって,例えば,保有資産の減価償却費を双方で損金に算入することになる等の不自然な処理が生ずることになりかねない。

      以上からすれば,法人税法上,本件信託受益権の譲渡については,売却取引処理を前提とした所得の金額の計算をすることが相当であり,同指針に定めるリスク負担割合を満たさない(同割合が5%を超える)ことを理由に,金融取引処理を前提とした所得の金額の計算をすることは相当ではないというべきである。

  (2) 原告の主張について

   ア 原告は,法人税法22条2項及び4項は,同法固有の考慮からの「別段の定め」が設けられている場合を除き,所得の金額は税会計処理基準に従って計算する旨を定めており,ここにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は,旧商法32条2項の公正会計慣行と一致するから,「別段の定め」がない限り,株式会社がする税務処理は,公正会計慣行に従って当該会社がする会計処理と一致することとなる旨を主張する。

     しかし,前記(1)に述べたとおり,企業会計における会計処理の方式が法人税法上公正妥当であるといえるかどうかは,慎重に判断されるべきであるところ,不動産流動化実務指針は,投資者保護の目的という観点から,企業会計上,特別目的会社を活用した不動産の流動化取引における譲渡人の会計処理に限り,これを売却と認定する上での特別な基準を設けたにとどまるものと解すべきであり,また,同法の適用場面としての信託財産の譲渡の認定の場面においては,このような目的は妥当せず,かつ,当該特別の場合に限って,一般的な実現主義とは異なる基準により収益の認識を判断することは,公平な課税を阻むことになりかねないのであるから,原告の主張は理由がない。

   イ 原告は,本件不動産流動化取引に係る会計処理についての本件行政指導及び本件課徴金納付命令における証券取引等監視委員会及び金融庁の見解を前提とすれば,税務処理においてもこれと同じく金融取引処理を前提とした処理をすべきであり,豊島税務署長等が売却取引処理を前提とした税務処理をすべきとすることは,行政判断のダブルスタンダードというべきものであって,法的安定性,公平性及び予測可能性の見地から著しく不当である旨を主張する。

     しかし,前記(1)に述べたとおり,法人税法22条4項は,税制の簡素化のための規定であり(なお,後記ウ(イ)も参照),同法の企図する公平な所得の金額の計算という要請に反するものでない限り企業会計の基準を是認しているにすぎないのであるから,金商法に基づき投資者の保護を目的として企業内容の開示基準を定める企業会計と判断基準が異なるとしても,それは合理的な理由に基づくものといえる。また,不動産流動化実務指針の下,特別目的会社を利用した不動産の流動化取引だけを特別扱いすることが,課税の公平性を失することになりかねないことも,前記(1)に述べたとおりである。

     さらに,法人税法の収益の計上の時期については,実現主義に基づいた権利確定主義という原則を一貫して法令及び通達において明確に定めているところであり,現に,原告も,被告が主張する売却取引処理を前提とする所得の金額の計算の方法により法人税の確定申告をしていたのであるから,法的安定性及び予測可能性の見地からみて不当であるとする原告の主張は失当である。

   ウ(ア) 原告は,税会計処理基準の解釈に係る被告の主張について,法律の解釈において最も尊重されるべき文理解釈に従えば,法人税法22条4項の税会計処理基準は,企業会計における公正会計慣行と一致し,純然たる企業会計固有の立場から公正妥当といえる会計処理の基準を指すものと解するほかなく,同法固有の観点のみをもって,税会計処理基準が公正会計慣行と異なるものと解釈する余地はない旨を主張する。

      しかし,被告は,以下に述べるとおり,同項にいう税会計処理基準の判断に当たっては,租税法の目的である租税の公平負担の原則に沿うように,その基準ないし慣行が全ての納税者において画一的かつ統一的な規範となり得るものかどうかを考慮しなければならないと主張するものである(なお,同項の税会計処理基準と旧商法32条2項の公正会計慣行が一致する旨をいう原告の主張は,企業会計上の公正妥当な会計処理の基準〔公正会計基準〕は税会計処理基準に該当する旨をいうものと解される。)。

    (イ) 法人税法22条4項の立法経緯について,同法上の課税所得と企業の利益との調整の問題は,古くから議論されており,経済安定本部企業会計基準審議会(現在の企業会計審議会の前身)は,昭和27年6月16日付けの中間報告(乙22)において,企業会計原則を重視する見地からの税法との調整を要望し,これについて,税務当局は,同年7月,「税法においては課税所得に対する固有の理論があるのであるから,企業会計原則と税法の課税原則との間に本質的に一致に至らない部面のあることはやむをえない」とする通達(乙26)を発出して,同意見書の内容については,更に十分な検討が必要であるとの見地に立っていた。

      その後,多くの議論を経て,企業会計審議会は,昭和41年10月17日付けの中間報告(乙27)において,「企業の採用する会計方法が不適正なものでない限り,企業利益を課税所得の基礎とすることが適当である」として,その趣旨を踏まえた同法の所得の金額の計算の総則的な規定を設けることを提言し,こうした提言等に呼応して,政府税制調査会は,同年9月の中間報告(乙28)において,「税法においては,企業会計に関する計算原理規定は除外して,必要最小限度の税法独自の計算原理を規定することが適当である」とした上で,同年12月,その旨の「税制簡素化についての第一次答申」を発表した。

      法人税法22条4項の税会計処理基準は,上記の経緯を経て昭和42年に創設された規定であり,税制の簡素化にその狙いがあったということができる。

    (ウ) 法人税法22条4項の規定が創設されたことにより,企業会計と税法との調整が図られたが,同項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」との規定は,同法固有の概念として定められたものであり,企業会計における公正処理基準と完全に一致するものではなく,このことは,その立法趣旨に照らしても明らかである。

      すなわち,同項の規定が創設された趣旨については,「企業が会計処理において用いている基準ないし慣行のうち,一般に公正妥当と認められないもののみを税法で認めないこととし,原則としては企業の会計処理を認めるという基本方針を示したもの」(国税庁「昭和42年改正税法のすべて」。乙30)とされているところであり,また,税会計処理基準は,租税法規や通達,商法の計算規定,企業会計原則等の諸規定や裁判例を通じて集積された健全な会計慣行から帰納的に醸成されるものとの指摘(乙29)もされている。

      さらに,税法が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」と定義したことについては,実質的な会計処理を重視する立場から「企業会計の基準」としなかったものである等の指摘(乙31)がされているし,公正会計基準が必ずしも税会計処理基準と一致するものではないことは,学説(乙32)上も認められている。

      加えて,法人税法,商法及び企業会計原則の三者の会計処理について,最近においては,それら個々の独自性が強調される傾向にあるところ,これら三者の会計が,それらの目的の違いから,必ずしも一致するものではないことは,租税法の分野のみならず,商法(会社法)の分野においても認められており,株式会社の会計の原則について定める会社法431条に規定する「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と公正会計基準との関係は,税会計処理基準と公正会計基準との関係と異なるものではなく,ある会計慣行が上記の規定に定めるものに当たるかどうかは,一般的には,会社法の計算規定の目的,すなわち会社の財産及び損益の状況を明らかにするという目的に照らして判断されることとなるとされている(乙34)。

      これらのことからすれば,税会計処理基準が公正処理基準に該当するか否かは,租税の公平負担の原則に沿うという租税法の目的に照らして判断されると解することは,何ら不自然なことではない。

    (エ) 公正会計基準は,証券市場における投資者の保護のため,有価証券の公募をする会社や上場会社等の情報を開示することを目的として準拠すべき基準として設けられているものであり,企業会計における国際会計基準の導入もその例外ではなく,最近の企業会計基準の改正は,そのほとんどが国際会計基準との調和を図るものである。

      この国際会計基準の導入については,会計基準の国際化が法人税の所得の金額の計算に与える影響を踏まえた検討がされているが,例えば,日本公認会計士協会が平成22年5月18日に公表した報告書(乙35)では,企業会計において国際会計基準を導入した場合,法人税法が当該基準に歩み寄らなければかい離が進むと考えられるとされているのであって,当該基準が直ちに同法にいう税会計処理基準と一致するものではないことは当然の前提とされている。

      また,中小企業の会計については,金商法の要請によって改正されてきた「各種の企業会計基準とは別に,実務上の簡便性に配慮した会計処理指針が要請され,それが制度としても確立されつつある」(甲9)とされているところ,中小企業であっても大企業であっても公平な所得の金額の計算を求めなければならない税務執行において,これらの会計基準がそれぞれ税会計処理基準となり得るか否かを慎重に判断する必要があることは当然である。

      このように,法人税法22条4項は,その創設時点においてさえ,公正会計基準の全てを受け入れていたわけではない。そして,今日においては,企業会計がその固有の目的を重視する傾向にあるため,各種の公正会計基準について,税法独自の観点からのスクリーニングをする必要性は増していると考えられる。

    (オ) これまでに述べたとおり,税会計処理基準は法人税法固有の基準である。

      したがって,税会計処理基準は,租税法の目的である租税の公平負担の原則に沿うために,全ての納税者に画一的かつ統一的な規範である必要があるのであって,税会計処理基準に該当するか否かは,その目的に照らして判断されるべきである(なお,最高裁平成5年判決の原審においても,その旨の判示がされている。)。

    (カ) 原告は,公正会計基準として定められている処理について,法人税法上,別段の定めがないにもかかわらず,課税の公平の観点から,同法22条4項の税会計処理基準に該当しないと解することは極めて不当であるとして,不確定な概念の解釈により,企業会計において定められている会計処理が課税標準等の計算に採用できないとして否定されることは,租税法律主義の観点から許されないとする趣旨と解される主張をする。

      しかし,複雑な社会経済関係から,あるいは税負担の公平を図る等の趣旨から,不確定な概念を課税要件の一部とせざるを得ない場合でも,租税法の趣旨・目的に照らす等して厳格に解釈し,そのことによって当該条項の意義が確定的に明らかにされるのであれば,その条項に従って課税要件の当てはめをすることは,租税法律主義に何ら反するものではない(最高裁平成24年判決における須藤正彦裁判官の補足意見参照)。

      同法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」との文言については,既に述べたところに照らして解釈すれば,それが,企業が会計処理において用いる基準ないし慣行であって,かつ,公平な所得の金額の計算等の同法独自の観点からみても,全ての納税者において画一的かつ統一的な規範となり得るものを意味することは明白である。

      加えて,本件では,被告が主張する取扱いは,法令及び通達において明らかにされており,原告もこれを前提とした納税申告をしていたのであるから,何ら予見可能性を害さず,その意味でも租税法律主義には反しない。

   エ(ア) 原告は,不動産の譲渡による収益の計上の時期について,原則として引渡し基準によるべきであるとの被告の主張に対し,いかなる場合が例外に当たるのか明らかでなく,不動産流動化実務指針が当該例外に当たるのかも検討していない旨を主張する。

      しかし,法人税の所得の金額の計算における不動産の譲渡に係る収益の計上の時期については,原則として引渡し基準によることとされるが,現行の取扱いとしては,その固定資産が土地,建物その他これらに類する資産である場合においては,当該固定資産の譲渡に関する契約の効力の発生の日の属する事業年度の益金の額に算入することも認められている(法人税基本通達2-1-14〔乙36〕)。

      これは,「引渡し」といっても,これが外形上明らかでないことが多いため,客観的にみて規範性,合理性のある実現主義ないし権利確定主義の基準として,譲渡契約の効力の発生の日に収益に計上するという,いわゆる「契約基準」によることを認めるというものであり,一般的な会計慣行としても確立しており,課税上の弊害も見いだせないところである。

      これに対し,同指針の取扱いについては,後記(イ)でも述べるとおり,一定の取引に限って,一般的な実現主義(権利確定主義)とは異なるリスク・経済価値アプローチによる収益の認識をするというものであり,実現主義(権利確定主義)の範囲から外れた基準というべきであって,このような実現主義(権利確定主義)の例外というべき同指針の取扱いを,「別段の定め」もなく,認めることは,租税の公平負担の見地から認められるものではない。

    (イ) 原告は,①最高裁平成5年判決が税会計処理基準に該当するものが複数存在し得ることを認めているとした上で,②不動産流動化実務指針は,実現主義ないし権利確定主義の観点から合理的といえる「リスク・経済価値アプローチ」による収益計上の基準を採用したものであるから,実現主義ないし権利確定主義に沿う会計処理基準といえるもので,課税の公平に反することにはならない旨を主張する。

      しかし,①最高裁平成5年判決が収益の計上の時期に係る複数の合理的な基準が存在し得ることを認めているとしても,そもそも,このような複数の基準は,実現主義の範囲内で認められるものである。本件における不動産流動化実務指針による取扱いは,現に信託財産である不動産の譲渡がされ,権利関係が移転し,その代金も授受しているにもかかわらず,これを金融取引として取り扱うというものであり,単に収益の計上の時期を問題とするものではなく,会計処理の前提として,法人税法上の所得の認識の前提となる納税者の締結した契約等の私法上の法律関係までも変更するものであり,実現主義(権利確定主義)の範囲から外れるものであるから,収益の計上の時期に係る複数の基準が存在するとしても,そのことは,同指針の取扱いが税会計処理基準として認められることの根拠となるものではない。

      また,②同指針が採用するリスク・経済価値アプローチは,税務上の収益の認識の基準とされてきた「財貨の移転」等と「対価の成立」の2つの要件による基準とは異なる。一般的な実現主義の考え方を基礎とした権利確定主義の基準からすれば,財貨の移転がされ,対価としての代金が既に受領されている本件においては,収入すべき権利が確定し,収益が実現したものとして,その代金の額を収益に計上すべきこととなる。

      不動産売買取引に係る企業会計にあっては,投資者保護のために特に必要な分野に限って一般的な実現主義とは異なる基準で収益の計上がされているが,これは,同様の経済的状況にあれば同様の課税をするという意味での公平な所得の金額の計算を重視する税会計処理基準とは合致しないものであり,同指針の適用対象となる取引についてのみ,一般的な実現主義と異なる収益の計上の基準を用いることは,税会計処理基準に適合しないというべきである。

    (ウ) 原告は,子会社を考慮するという基準による会計処理を前提とした所得の金額の計算を法人税法が想定していないことと,同法の企図する公平な所得の金額の計算という要請に反する等の弊害がある会計処理の方式は税会計処理基準に該当しないとすることとの関係が不明である旨を主張する。

      しかし,同法は,連結納税やグループ法人税制については,「別段の定め」を設けている(同法81条の10等)ものの,それ以外の法人間の売買取引については,子会社との取引であっても,譲渡損益を繰り延べる旨の規定はなく,グループ会社を一体と見る規定も設けていない。

      「別段の定め」のない資本関係のあるグループ会社間の売買取引については,第三者間の売買取引の場合と同様に取り扱うのが同法の原則であり,それが税会計処理基準の内容を成すものであるから,本件において,本件信託受益権の譲受人の出資者に譲渡人の子会社が含まれていたからといって,真正に成立した譲渡契約において,あえて譲渡に係る収益を認識しないとすることは,税会計処理基準に反するものである。

    (エ) 原告は,取引の当事者間において会計処理が異なることは,しばしば生じ得る事態であるとして,法人税基本通達12の5-2-3(甲10)を挙げる。

      しかし,同通達の取扱いは,法人税法64条の2第2項の規定の適用を受けるいわゆるリースバック取引について定めたものである。

      すなわち,リースバック取引においては,資産の売買はなかったものとし,かつ,譲受人から譲渡人に金銭の貸付けがあったものとして所得の金額の計算をすることとされており,その結果,リース料として一体として支払われる金額について,これを貸付金の返済の部分と利息に相当する部分とに区分した会計処理をする必要があるところ,その計算が複雑であるため,本来の厳密な処理(いわゆる利息法)とは別に簡便な処理(いわゆる定額法)をも合理的な方法として認めたものである。このように,リースバック取引についての取扱いは,譲渡人も譲受人も当該取引を金融取引と取り扱うことを前提に,同項の規定する計算方法の範囲内で,細目的な部分につき,企業会計基準における取扱いと合わせる形で認められているものであり,不動産流動化実務指針が税会計処理基準として許容されるか否かとは次元の異なる問題というべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 1 本件信託受益権の譲渡を含む本件不動産流動化取引に係る法人税法上の会計処理の在り方について

  (1) 法人税法は,資産又は事業から生ずる収益に係る法律関係を基礎に,それが実質的には他の法人等がその収益として享受するものであると認められる場合を除き,当該収益が法律上帰属する主体に着目して,法人税の課税に係る同法の規定の適用の在り方を決するものとするところ(同法11条),旧法人税法12条1項本文は,別紙「関係法令等の定め」2(1)記載のとおり,信託財産に帰せられる収入及び支出について,受益者が特定している場合は,その受益者が当該信託財産を有するものとみなして,法人税法の規定を適用する旨を定めているが(なお,平成19年法律第6号附則34条の規定により,本件信託契約に係る信託については,上記の規定が適用される。),これは,信託が,財産の所有及びその管理等とその利益とを分離して,信託の利益を受益者に享受させるものである(平成18年法律第109号による改正前の公益信託に関する法律〔いわゆる旧信託法〕1条,4条,7条,信託法2条1項,5項ないし7項参照)ことから,このような実質に即し,法人税法上,信託財産に帰せられる収入及び支出は受益者に帰属するものとして取り扱うこととしたものと解される(なお,土地信託に関する通達3-1及び3-2参照)。

    そして,本件不動産流動化取引の経緯は,前提事実(2)及び(3)のとおりであり,平成14年8月期から本件事業年度までの間の原告の各事業年度において,原告については,本件信託受益権譲渡契約及び本件買戻契約に基づく本件信託受益権の各譲渡を含む本件不動産流動化取引及びその終了に係る取引により,それらの取引に関してされた合意により形成された法律関係に従って,本件信託受益権の譲渡の対価その他の各種の収入があったが,それらが実質的には他の法人等がその収益として享受するものであったことや,上記の各合意の内容と取引の実態との間にそごがあったこと等をうかがわせる証拠ないし事情は見当たらない。その上で,原告は,前提事実(4)アに述べたように,上記のように既に収益として実現済みであるその収入したところを,旧法人税法12条1項本文,法人税法22条2項等の規定に従い,それらを収入する原因となった法律関係に従って,有償による本件信託受益権の譲渡等の取引に係る各事業年度の収益の額に当たるものとして,各金額を当該事業年度の益金の額に算入するなどし,各事業年度の所得の金額を計算して,法人税の確定申告をしたものである。

 

  (2)ア ところで,本件においては,本件不動産流動化取引に係る会計処理について,前提事実(4)イのとおり,金融取引処理を前提とした会計処理をすべきである旨の判断の下に本件行政指導及び本件課徴金納付命令がされており,原告も,財務諸表等規則に基づく子会社の認定に誤りがあった等として,不動産流動化実務指針に従った内容の金融取引処理を前提とした過年度の会計処理の訂正等をしたものであるところ,法人税の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算について,法人税法22条4項は,別紙「関係法令等の定め」2(2)ウ記載のとおり,益金の額の算定の基礎である収益の額並びに損金の額の算定の基礎である原価,費用及び損失の額は,「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(税会計処理基準)に従って計算されるものとする旨を定めている。

 

   イ ①法人税法22条4項の定めは,税法といわゆる企業会計原則との調整に関する議論を経て,政府税制調査会が,昭和41年9月,「税制簡素化についての中間報告」において,課税所得は,本来,税法・通達という一連の別個の体系のみによって構成されるものではなく,税法以前の概念や原理を前提とするものであるが,絶えず流動する社会経済の事象を反映する課税所得については,税法において完結的にこれを規制するよりも,適切に運用されている会計慣行に委ねることの方がより適当と思われる部分が相当多く,このような観点を明らかにするため,税法において,課税所得は納税者たる企業が継続して適用する健全な会計慣行によって計算する旨の基本規定を設けるとともに,税法においては,企業会計に関する計算原理規定は除外して,必要最小限度の税法独自の計算原理を規定することが適当である旨の「税制簡素化についての中間報告」を発表し,次いで,同年12月,これと同旨の「税制簡素化についての第一次答申」を発表したことを受け,昭和42年度の税制改正において新設されたものであり(乙20,22,26,27ないし29),②同項の税会計処理基準とは,客観的な規範性を有する公正妥当と認められる会計処理の基準を意味し,企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から一般に公正妥当と認められたところを要約したものとされるいわゆる企業会計原則をいうものではなく,同項は,企業が会計処理において用いている基準ないし慣行のうち,一般に公正妥当と認められないもののみを税法で認めないこととし,原則としては企業の会計処理を認めるという基本方針を示したものである(甲11,乙29,30)。

 

     このような同項の立法の経緯及び趣旨のほか,同項が,「企業会計の基準」等の文言を用いず,「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」と規定していることにも照らせば,同項は,同法における所得の金額の計算に係る規定及び制度を簡素なものとすることを旨として設けられた規定であり,現に法人のした収益等の額の計算が,適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的(同法1条参照)とする同法の公平な所得計算という要請に反するものでない限り,法人税の課税標準である所得の金額の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から定められたものと解され(最高裁平成5年判決参照),法人が収益等の額の計算に当たって採った会計処理の基準がそこにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(税会計処理基準)に該当するといえるか否かについては,上記に述べたところを目的とする同法の独自の観点から判断されるものであって,企業会計上の公正妥当な会計処理の基準(公正会計基準)とされるものと常に一致することを前提とするものではないと解するのが相当である(なお,同法,商法及び企業会計原則の三者の会計処理において,近年,それらの間の差異を縮小する調整よりも,それらの各会計処理それぞれの独自性が強調され,三者間のかい離が進んでいる旨の指摘〔乙20〕や,企業会計にいわゆる国際会計基準を導入した場合,企業会計の指向と法人税の理念とが相反することが予想される旨の日本公認会計士協会の研究報告〔乙35〕があり,同項の税会計処理基準が公正会計基準と常に一致するものではないことは,一般に当然の前提として理解されているものということができる。)。

 

   ウ そして,不動産流動化実務指針が税会計処理基準に該当するか否かについては,同指針は,別紙「関係法令等の定め」3記載のとおり,

 

①特別目的会社を活用した不動産の流動化(不動産を特別目的会社に譲渡する〔不動産の信託に係る受益権を譲渡した場合を含む。同指針19項〕ことにより,当該不動産を資金化することをいう。同指針2項)に係る譲渡人の会計処理についての取扱いを統一するために取りまとめられたものであり(同指針1項),

 

②当該不動産を売却したものとする取扱いをするか否かについては,当該不動産が法的に譲渡されていること及び資金が譲渡人に流入していることを前提に,「リスク・経済価値アプローチ」によって判断するものとし(同指針3項),

 

③具体的には,当該不動産が特別目的会社に適正な価額で譲渡されており,かつ,当該不動産のリスク(経済環境の変化等の要因によって当該不動産の価値が下落することをいう。同指針4項)及びその経済価値(当該不動産を保有,使用又は処分することによって生ずる経済的利益を得る権利に基づく価値をいう。同項)のほとんど全てが譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められる場合には,譲渡人は当該不動産の譲渡を売却取引として会計処理するが,そのように認められない場合には,譲渡人は当該不動産の譲渡を金融取引として会計処理するものとした上で(同指針5項),

 

④このリスク及び経済価値の移転の判断については,譲渡人に残るリスク負担割合がおおむね5%の範囲内であれば,不動産のリスク及びその経済価値のほとんど全てが他の者に移転しているものとして取り扱い(同指針13項),

 

⑤その際,譲渡人の子会社等が特別目的会社に出資をしていること等により,当該子会社等が当該不動産に関する何らかのリスクを負っている場合には,当該子会社等が負担するリスクを譲渡人が負担するリスクに加えてリスク負担割合を判定するものとする(同指針16項)旨を定めている。

 

 

     このように,同指針は,その対象を同指針にいう特別目的会社を活用した不動産の流動化がされた場合に限って,当該不動産又はその信託に係る受益権の譲渡人の会計処理についての取扱いを定めたものであり,当該不動産又はその信託に係る受益権の譲渡を当該不動産の売却として取り扱うべきか否かについて,当該不動産等が法的に譲渡され,かつ,その対価を譲渡人が収入しているときであっても,なお,子会社等を含む譲渡人に残された同指針のいう意味での不動産のリスクの程度を考慮して,これを金融取引として取り扱うことがあるとしたものである。

 

     他方,法人税法は,既に述べたとおり,適正な課税及び納税義務の履行を確保することを目的とし,資産又は事業から生ずる収益に係る法律関係を基礎に,それが実質的には他の法人等がその収益として享受するものであると認められる場合を除き,基本的に収入の原因となった法律関係に従って,各事業年度の収益として実現した金額を当該事業年度の益金の額に算入するなどし,当該事業年度の所得の金額を計算すべきものとしていると解されるところ,

 

当該事業年度の収益等の額の計算に当たり,

 

本件におけるように,信託に係る受益権が契約により法的に譲渡され,当該契約に定められた対価を現に収入した場合

 

(この場合に同法上収益の実現があったと解すべきことは明らかである。)

 

において,

 

それが実質的には他の法人等がその収益として享受するものであると認められる場合ではなくても,

 

また,同法において他の法人との関係を考慮することができると定められたときにも当たらないにもかかわらず,

 

なお,他の法人との関係をも考慮し,当該収入の原因となった法律関係を離れて,

 

当該譲渡を有償による信託に係る受益権の譲渡とは認識せず,

 

専ら譲渡人について,当該譲渡に係る収益の実現があったとしないものとする取扱いを定めた同指針については,

 

既に述べたところを目的とする同法の公平な所得計算という要請とは別の観点に立って定められたものとして,税会計処理基準に該当するものとは解し難いといわざるを得ないものである。

 

 

 

  (3)ア 原告は,税会計処理基準と公正会計基準が一致する旨をいうものと解される主張をし,その根拠として,①法人税法22条4項を,その文理に従って素直に解釈すれば,税会計処理基準とは公正会計基準をいうものと解されるし,そのように解した場合に生ずる不都合については,同条2項の「別段の定め」で対処すべきであり,同法固有の立場から公正会計基準の一部が税会計処理基準に該当しないとすることは,「別段の定め」を置くことが認められた趣旨を没却するものである,②新たな企業会計の基準等が設けられるにせよ,それらは,少なくとも,一定の範囲で,一定の条件の下に,税会計処理基準の内容となり得るのであるから,このことは,企業会計と同法上の税務処理とのかい離を基礎付けるものとはいえない,③同条4項の立法の経緯や趣旨は,むしろ,税会計処理基準が公正会計基準と一致すべきものであることを基礎付けるものといえる,④被告の主張によれば,税会計処理基準が不確定な概念となることは明らかであり,申告納税方式の下においては,実質的にも,税会計処理基準の解釈及び適用について納税者に不可能を強いることとなるものであって,租税法律主義(課税要件明確主義)に反する旨を,それぞれ主張する。

 

     しかし,原告の上記①及び③の各主張に関する当裁判所の判断は,既に前記(2)に述べたとおりであって,原告のこれらの主張は,いずれも採用することができず,また,その余の主張についても,既に述べたところを前提に検討すれば,次に述べるとおり,いずれも採用することができないものというべきである。

 

     すなわち,上記②の点については,新たに設けられた会計処理の基準が公正会計基準に適合するものであったとしても,それが税会計処理基準に該当するか否かは,前記(2)に述べたような法人税法としての観点からの検討を要するものであるし,税会計処理基準に該当しない会計処理の基準が生じ得ることは,上記②の原告の主張に照らし,原告も自認するところであるから,その主張は,前提を欠くものというべきである。

 

 

     また,上記④の点についても,本件不動産流動化取引との関係において不動産流動化実務指針が税会計処理基準に該当するものであるか否かに関して,前記(2)に述べたように同法22条4項等の立法の経緯等を踏まえた解釈をすることをもって,課税要件明確主義に反するものとはいえないと解されるし,旧法人税法12条1項本文の規定や土地信託に関する通達3-1及び3-2の定めがあったことに照らせば,前記(2)のように解釈することをもって,申告納税制度の下における納税者に極めて困難な判断を求めるものであるとか,予見可能性を害するものであるなどと評価することも困難というべきである(なお,本件信託受益権の各譲渡について,原告が本件信託財産である不動産を譲渡したものとする各確定申告をしていたことは,前提事実(4)アのとおりである。)。

 

   イ 原告は,不動産流動化実務指針が税会計処理基準に該当するものである旨を主張し,その根拠として,①法人税法が採る実現主義ないし権利確定主義の立場に沿う会計処理基準は複数存在し得るところ,同指針は,実現主義ないし権利確定主義の観点から合理的なものといえる「リスク・経済価値アプローチ」の基準を採用したものであり,実現主義ないし権利確定主義を採る税会計処理基準に該当するといえる,②同指針が,子会社等のリスクを考慮してリスク負担割合を判定するものとしていることは,同指針が税会計処理基準に該当しないものであることを基礎付けるものではなく,仮に,子会社等のリスクを考慮することに問題があるとしても,それは同法22条2項の「別段の定め」で対処すべきであるのにそれがされていないことによる結果である,③同指針の取扱いを前提とした会計処理をした場合に譲渡人と譲受人との間での税務処理が異なることがあるとしても,そのような事態は同法上しばしば生ずることであり,現に,法人税基本通達12の5-2-3(甲10)もそのような税務処理を認めている旨を,それぞれ主張する。

 

     しかし,原告の上記①及び②の各主張に関する当裁判所の判断は,既に前記(2)に述べたとおりであって,原告のこれらの主張は,いずれも採用することができない。

 

     また,原告の上記③の主張についても,既に述べたところを前提に検討すれば,やはり採用し難いものというべきであり,原告が根拠として掲げる同通達の定めについても,金銭の貸借とされるリース取引について定める同法64条の2第2項の規定の適用がある場合に,当該リース取引が金融取引(金銭の貸付け)として取り扱われることに伴い,その譲渡人が譲受人に支払う金額については,本来であれば通常の金融取引における元本と利息の区分計算の方法に準じた処理をすべきところ,これとは異なる一定の簡便な処理を認めたものであり,当該譲渡人及び譲受人が,当該リース取引が金融取引であることを前提に,元本と利息の区分計算の方法についてそれぞれ異なる処理をすることを認めるにとどまるものであるから,その適用の対象となる場合と事案を明らかに異にする本件に直ちに妥当するものではなく,前記(2)に述べた当裁判所の判断を左右するには足りないものというべきである。

 

     なお,原告は,本件不動産流動化取引に係る会計処理について売却取引処理を前提とした税務処理をすべきであるとすることは,本件行政指導及び本件課徴金納付命令における証券取引等監視委員会及び金融庁の見解と異なるものであるから,行政判断のいわゆるダブルスタンダードというべきものというべきであって,著しく不当である旨を主張するが,適用される法律の定めが相違することを考慮することなくされたその主張を採用することができないことは,既に述べたところに照らして明らかというほかない。

 

  (4) 以上に述べたとおり,本件不動産流動化取引との関係において,不動産流動化実務指針は,法人税法22条4項の税会計処理基準には該当せず,また,当該取引について原告の主張するような取扱いをすべき同条2項の別段の定めは見当たらない。

 

 2 本件通知処分の適法性

   前記1に述べたところからすると,本件更正請求において更正の請求をする理由とされたところは,通則法23条1項1号所定の更正の事由に該当しないから,本件更正請求について更正をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は,適法なものというべきである。

 

第4 結論

   以上の次第であって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第3部

        裁判長裁判官  八木一洋

           裁判官  田中一彦

           裁判官  塚原洋一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(別紙)

       関係法令等の定め

 1 通則法

   通則法23条1項は,納税申告書を提出した者は,同項各号のいずれかに該当する場合には,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り,税務署長に対し,その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨を定めている。

  1号 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき。

  2号及び3号 省略

 2 法人税法

  (1) 法人税法12条1項本文(ただし,平成19年法律第6号による改正前のもの。以下「旧法人税法12条1項本文」という。)は,信託財産に帰せられる収入及び支出については,同項各号に掲げる場合の区分に応じ,当該各号に定める者がその信託財産を有するものとみなして,この法律の規定を適用する旨を定めている。

   1号 受益者が特定している場合 その受益者

   2号 省略

  (2)ア 法人税法22条2項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨を定めている。

   イ 法人税法22条3項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,同項各号に掲げる額とする旨を定めている。

    1号 当該事業年度の収益に係る売上原価,完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

    2号 同項1号に掲げるもののほか,当該事業年度の販売費,一般管理費その他の費用の額

    3号 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

   ウ 法人税法22条4項は,同条2項に規定する当該事業年度の収益の額及び同条3項各号に掲げる額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「税会計処理基準」という。)に従って計算されるものとする旨を定めている。

 3 昭和61年7月9日付け直審5-6ほか国税庁長官通達「土地信託に関する所得税,法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(ただし,平成19年6月22日付け課審1-16ほかによる廃止前のもの。乙1。以下「土地信託に関する通達」という。)

  (1) 土地信託に関する通達3-1は,土地信託においては,信託の設定による委託者から受託者への信託財産の移転又は信託の終了に伴う受託者から受益者への信託財産の移転は,法人税に関する法令の規定の適用上,資産の譲渡又は資産の取得には該当しないことに留意する旨を定めている。

  (2) 土地信託に関する通達3-2は,信託受益権の譲渡が行われた場合には,その信託受益権の目的となっている信託財産の構成物の全部(譲渡された信託受益権が割合をもって表示されているものであるときは,当該各構成物のうちその割合に相当する部分)が一括して譲渡されたものとして取り扱う旨を定めている。

 4 平成12年7月31日付け日本公認会計士協会「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」(甲6。以下「不動産流動化実務指針」という。)

  (1) 不動産流動化実務指針1項は,同指針は,特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理について,その取扱いを統一するために必要と認められる事項を実務指針として取りまとめたものである旨を定めている。

  (2) 不動産流動化実務指針2項は,特別目的会社とは,資産の流動化に関する法律2条3項に規定する特定目的会社及び事業内容の変更が制限されているこれと同様の事業を営む事業体をいい,特別目的会社を活用した不動産の流動化とは,特別目的会社に不動産を譲渡することにより,当該不動産を資金化することをいう旨を定めている。

  (3) 不動産流動化実務指針3項は,不動産の売却の認識は,不動産が法的に譲渡されていること及び資金が譲渡人に流入していることを前提に,譲渡不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転した場合に当該譲渡不動産の消滅を認識する方法,すなわち,リスク・経済価値アプローチによって判断することが妥当である旨を定めている。

  (4) 不動産流動化実務指針4項は,不動産のリスクとは,経済環境の変化等の要因によって当該不動産の価値が下落することであり,不動産の経済価値とは,当該不動産を保有,使用又は処分することによって生ずる経済的利益を得る権利に基づく価値をいう旨を定めている。

  (5) 不動産流動化実務指針5項は,不動産が特別目的会社に適正な価額で譲渡されており,かつ,当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんど全てが譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められる場合には,譲渡人は不動産の譲渡取引を売却取引として会計処理し(前段),不動産が特別目的会社に適正な価額で譲渡されているが,当該不動産に係るリスクと経済価値のほとんど全てが譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していると認められない場合には,譲渡人は不動産の譲渡取引を金融取引として会計処理する(後段)旨を定めている。

  (6) 不動産流動化実務指針13項は,流動化された不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転していることを売却の認識の要件としたが,流動化スキームの構成上重要でない一部のリスクが譲渡人に残ることが避けられない場合にまで,売却取引として会計処理することを妨げることは実務上適切ではなく(前段),リスクと経済価値の移転についての判断に当たっては,リスク負担を流動化する不動産がその価値の全てを失った場合に生ずる損失であるとして,リスク負担割合(流動化する不動産の譲渡時の適正な価額〔時価〕に対するリスク負担の金額の割合をいう。以下「リスク負担割合」という。)によって判定し,リスク負担割合がおおむね5%の範囲内であれば,リスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転しているものとして取り扱う(後段)旨を定めている。

  (7) 不動産流動化実務指針16項は,不動産の流動化スキームにおいて譲渡人の子会社又は関連会社が特別目的会社に出資を行っていること等により,当該子会社又は関連会社が当該不動産に関する何らかのリスクを負っている場合には,当該子会社又は関連会社が負担するリスクを譲渡人が負担するリスクに加えてリスク負担割合を算定して判断する旨を定めている。

  (8) 不動産流動化実務指針19項は,不動産信託受益権の譲渡についても,不動産を特別目的会社に譲渡することによる流動化の場合と同様に,リスク・経済価値アプローチに基づいて会計処理をし(前段),不動産信託受益権の譲渡は,通常,信託財産である不動産を譲渡した場合と同一の効果を生ずることから,譲渡人(委託者)が譲渡した信託受益権に含まれている不動産のリスクと経済価値の状況に基づいて,売却取引として会計処理を行うべきか否かを判断することとなる旨を定めている。

                       以上