減価償却資産の判定単位(2)

 

 

 

各法人税更正処分等取消請求控訴事件・同附帯控訴事件

 

 

 

【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成17年(行コ)第160号、平成17年(行コ)第225号

 

【判決日付】 平成18年4月20日

 

【判示事項】

      

(7) 少額減価償却資産の判断基準(原審判決引用)

      

(8) PHSの基地局と電話回線網とを接続するエントランス回線利用権は、P社又は原告会社の事業活動において、一般的・客観的には、1回線で、基地局とPHS接続装置との間の相互接続を行うという機能を発揮することができるものであるから、その取得価格は、エントランス回線1回線の単価である7万2800円であると認めるのが相当であり、また、エントランス回線の利用権は、法人税法施行令13条8号ソ(減価償却資産の範囲)に規定する「電気通信施設利用権」として、減価償却資産に該当するから、同施行令133条(少額の減価償却資産の取得価額の損金算入)所定の少額減価償却資産に該当するとされた事例(原審判決引用)

 

 

 

【掲載誌】  税務訴訟資料256号順号10372

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 

 

 1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は附帯控訴人の、各負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

 

第1 控訴の趣旨

 (控訴人の控訴の趣旨)

  1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

  2 上記敗訴部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

 (被控訴人の附帯控訴の趣旨)

  1 原判決中、主文第1項を取り消す。

  2 控訴人が被控訴人に対して平成13年3月27日付けでした、被控訴人の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「以下「平成12年3月期」という。)の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)を取り消す。

  3 原判決第5項を次のとおり変更する。

    控訴人が被控訴人の平成12年3月期の法人税について、平成13年9月27日付けでした更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち納付すべき法人税額729億1171万8900円を超える部分を取り消す。

第2 事案の概要等

  1 本件は、被控訴人が、控訴人が被控訴人に対して、(1)平成12年3月28日付けでした、被控訴人の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度(以下「平成11年3月期」という。)の法人税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定(いずれも、平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの。以下、裁決で一部取り消された処分は、取り消される前のものを「取消前」、取り消された後のものを「取消後」ともいう。)のうち、更正については納付すべき法人税額339億0032万0500円を超える部分、過少申告加算税の賦課決定については過少申告加算税3049万円を超える部分の取消し、(2)平成13年9月27日付けでした、被控訴人の平成12年3月期の法人税についてした更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(取消後)のうち、納付すべき法人税額729億1171万8900円を超える部分の取消し、(3)平成13年3月27日付けでした、被控訴人の平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(取消後)の取消し、(4)主位的に、平成14年10月11日付けでした、被控訴人の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度(以下「平成13年3月期」という。)の法人税についての更正の請求には更正をすべきがない旨の通知処分の取消し、予備的に、平成15年5月30日付けでした、被控訴人の平成13年3月期の法人税についての再更正(取消後)のうち、納付すべき法人税額806億9706万3200円を超える部分の取消し、(5)平成15年5月30日付けでした、被控訴人の平成13年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(取消後)のうち、過少申告加算税1661万9000円を超える部分の取消し、を各求めた事案である。

    原審は、①被控訴人の平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(取消後)の取消しを求める訴え、②被控訴人の平成13年3月期の法人税について控訴人がした過少申告加算税の賦課決定(取消後)の一部取消しを求める訴え、③被控訴人の平成13年3月期の法人税について控訴人がした再更正(取消後)の一部取消しを求める訴え、をいずれも却下し、④平成11年3月期について控訴人のした更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消後)については、納付すべき法人税額339億0032万0500円、過少申告加算税額3049万円を超える部分を取消し、⑤平成12年3月期について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知処分については、法人税額730億8680万7000円を超える部分を取消してその余を棄却し、⑥平成13年3月期について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知処分については、被控訴人の請求を棄却した。

    控訴人は、上記控訴人敗訴部分を不服として控訴し、被控訴人は、上記被控訴人敗訴部分のうち、控訴人の平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(取消後)の取消し及び平成12年3月期について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知処分(取消後)について法人税額729億1171万8900円を超える部分の取消しを求めて附帯控訴した。

    したがって、当審における審理の対象は、①平成11年3月期について控訴人のした更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消後)、②平成12年3月期について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知処分(取消後)のうち法人税額729億1171万8900円を超える部分、③平成12年3月期の法人税について控訴人がした更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消後)である。

  2 本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」中の「第三 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、被控訴人の平成13年3月期に関する部分を除く。)が、大要、次のとおりである。

    (1) 被控訴人(当時の名称は「A株式会社」)は、携帯・自動車電話事業等を営む株式会社であり、平成10年12月1日午前零時に、B株式会社(B)から簡易型携帯電話(PHS)事業の営業譲渡を受けるとともに、BがC株式会社(平成11年7月1日以降はD会社。以下、「C」という。)との間で締結していた電気通信設備の相互接続に関する協定(本件接続協定)におけるBの地位(本件接続協定上の地位)を引き継いだ。

    (2) 電気事業法に規定する第一種電気通信事業者であるCは、他の電気通信事業者から当該他事業者の電気通信設備をCの電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは、原則として、これに応じなければならないが、この場合、CとCの指定電気通信設備との接続に関する協定(相互接続協定)を締結した事業者(協定事業者)は、Cの定めた相互接続約款(本件接続約款。平成10年3月24日実施の「電気通信事業法第38条の2第2項及び第4項に基づく指定電気通信設備との接続に関する契約約款」。)に定める接続料(網使用料及び網改造料)を支払わなければならない。被控訴人は、Bから、本件接続協定上の地位を譲り受けるに際して、Cの通信用建物に設置するPHS接続装置又はCが指定する加入者交換機と活用型PHS事業者の設置する無線接続装置(基地局)との間に設置される端末回線(「基地局回線」又は「エントランス回線」)に関する施設利用権を15万3178回線、譲渡価格合計111億5135万8400円と定めた(1回線あたり7万2800円。本件接続約款においても、基地局の設置工事及び手続に関する費用の額として1回線あたり7万2800円と定められている。以下、一括する場合には「本件資産」といい、1回線あたりの費用については「本件設置負担金」ともいう。)。

    (3) 被控訴人は、本件接続協定上の地位を引き継いだ後、被控訴人の平成11年3月期、平成12年3月期に、本件接続協定に基づき、被控訴人によるエントランス回線の設置申込みをCが承諾するたびに、エントランス回線の設置工事及び手続に関する費用の額として、本件接続約款に定められた1回線当たり7万2800円の金員をCに支払った。

    (4) 被控訴人は、平成11年3月期の決算において、本件資産の取得価額及び同年度中にCに支払った本件設置負担金の全額を「施設保全費」として損金経理し、損金の額に算入して法人税の確定申告をし、平成12年3月期の決算においても、各年度中にCに支払った本件設置負担金の全額を「施設保全費」として経理して、損金の額に算入して確定申告をした。

    (5) 控訴人は、被控訴人の平成11年3月期、平成12年3月期の各法人税について、それぞれ更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消前)をし、被控訴人が平成12年3月期についてした更正の請求に対し、更正すべき理由がない旨の通知(取消前)をした。

      被控訴人は、被控訴人の平成11年3月期の法人税についてされた更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消前)について国税不服審判所長に対する審査請求、裁決を経た上、平成11年3月期の法人税についてされた更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消後)について、その一部取消しを求めて本件訴えを提起した。

      また、被控訴人は、被控訴人の平成12年3月期の法人税について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知(取消前)について国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、被控訴人の平成12年3月期の法人税について控訴人がした再更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消後)に対しては審査請求をしなかった。

      国税不服審判所長は、国税通則法104条に基づいて、上記各審査請求に被控訴人の平成12年3月期の法人税についての再更正及び過少申告加算税の賦課決定をあわせ審理し、いずれも一部を取り消す旨の裁決をした。被控訴人は、被控訴人の平成12年3月期について、控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知(取消後)について、その一部取消しを求め、平成12年3月期の法人税について控訴人がした過少申告加算税の賦課決定(取消後)の一部取消しを求めて本件訴えを提起した。

    (6) 上記のとおり、被控訴人は、平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(取消後)については、審査請求をすることなく本訴を提起したが、上記は、被控訴人が上記各処分のあったことを知った日から3か月以内に提起されたものではなかった。

      本件の本案前の争点は、① 被控訴人の平成12年3月期の法人税について控訴人がした過少申告加算税の賦課決定(取消後)の取消しを求める訴えについては、国税不服審判所長が審査請求に係る被控訴人の平成12年3月期法人税について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知(取消前)とあわせ審理することにより、上記更正及び過少申告加算税の賦課決定(各取消前)を裁決により一部取消したことによって、国税通則法115条1項柱書本文に規定する「審査請求についての裁決を経」たということができるか、② 上記訴えは、上記国税不服審判所長が裁決したことによって、同条1項3号後段の「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由がある」ということができるか、③ 上記訴えについて、国税不服審判所長が裁決をした日が行政事件訴訟法(平成16年法律第84号による改正前のもの。以下、同じ。)14条1項の規定する出訴期間の起算日であるか、である。

      本件の本案の争点は、①本件資産は、平成16年政令第101号による改正前の法人税法施行令(以下、特に記載しない場合は同じ。)13条8号ソの「電気通信施設利用権」に該当する減価償却資産ではあるが、その全体が1単位の減価償却資産と判断すべきものであって、同令54条1項1号イによって、その購入価額の全額が取得価額となり、その取得価額は10万円を超えるから、被控訴人の所得の計算上、法人税法施行令133条を根拠として、その全額を損金の額に算入することはできず、また、本件設置負担金の支出は、本件資産の価値を高めるから、法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当し、当該支出した事業年度の損金の額に算入されない(控訴人の主張)か、②被控訴人が本件設置負担金の支払により取得した権利は、相互接続のためのエントランス回線を利用する権利(以下「本件権利」という。)であって、法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信利用権」に該当し、かつ、1回線を1単位とする資産であり、被控訴人は、Bから、本件権利15万3178回線分をまとめて本件資産を譲り受けたもので、本件権利の取得価額(1回線当たり)は、10万円未満であるから、法人税法施行令133条の少額減価償却資産に該当し、事業の用に供した事業年度の損金の額に算入することができる(被控訴人の主張)か、である。

      なお、本件資産の取得価額及び本件設置負担金の支出を損金の額に一括算入できないとした場合の法人税の額及び過少申告所得税の額の計算が控訴人主張のとおりであり、これを損金の額に一括算入されるとした場合の法人税額が、平成11年3月期について、納付すべき法人税額339億0032万0500円、過少申告加算税の額が3049万円となること、平成12年3月期について、納付すべき法人税額730億8680万7000円となることは当事者間に争いがない。被控訴人は、平成12年3月期について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知処分(取消後)のうち、納付すべき法人税額729億1171万8900円を超える部分の取消しを求めているが、これは、被控訴人が、平成12年3月期の確定申告において、本件資産及び本件設置負担金が法人税法施行令133条の少額減価償却資産に該当しないとされる場合に備えて、平成12年3月期の経理処理においては、本件資産及び本件設置負担金を一旦全額資産として計上した上で、直ちにその全額を減価償却費として経理処理し、所得金額の計算上、本件資産及び本件設置負担金は益金とはならないところから、これを申告減算して、減価償却更正分として、法人税法31条1項に規定する償却限度額を超える部分を申告加算したためである。本件資産及び本件設置負担金が法人税法施行令133条の少額減価償却資産に該当したとされる場合、上記は、本件資産及び平成11年3月期において直接Cに支払った本件設置負担金を平成12年3月期における減価償却資産として計上しているため、その額だけ所得金額が少なくなっているところ、これは、更正の請求において納税者の側から是正を求めるべき事由ではないとして、これを是正しないと平成12年3月期に被控訴人が納付すべき法人税額は、729億1171万8900円となる。そして、これを是正すると平成12年3月期において、被控訴人が納付すべき法人税額は、730億8680万7000円である(当事者間に争いがない。)。

    (7) 原審は、本案前の争点については、国税通則法115条1項柱書本文の規定する不服申立前置を満たすというためには、国税に関する個々の処分について、納税者による不服申立てがされ、それについての裁決が経由されていることが必要であり、国税不服審判所長が国税通則法104条に基づいて、あわせ審理し、被控訴人が不服申立てをしていない、被控訴人の平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定について裁決したからといって、審査請求についての裁決が経由されたことにはならないし、国税通則法115条1項3号後段に規定する「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由がある」場合に該当するということもできない。この場合、行政事件訴訟法14条4項の適用はなく、同条1項の出訴期間の起算点は、被控訴人が平成12年3月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定があったことを知ったときからであるとして、被控訴人の平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(取消後)の取消しを求める訴えを却下した。

      原審は、本案の争点については、①被控訴人がBから取得した本件資産は、本件接続約款及び本件接続協定を前提とするものではあるが、本件接続協定上の地位などといった抽象的ないし包括的なものではなく、B又は被控訴人がCに対して有する、PHSサービス契約を締結した自社の契約者に、個別の当該エントランス回線を利用して、CのPHS接続装置、共同線通信網と相互接続し、Cのネットワークを利用して電気通信役務を提供させる権利である、②エントランス回線は、一定の範囲をカバーする1基地局のみを対象としてその機能を発揮するものであり、1個のエントランス回線があれば、当該基地局のエリア内においてPHS利用者がPHS端末から固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末との間で通話することに支障がなく、本件エントランス回線利用権は、B又は被控訴人の事業活動において、1回線で、基地局とPHS接続装置との間の相互接続を行うという機能を発揮することができるから、その取得価額は、エントランス回線1回線の単価である7万2800円である、として、本件権利は、法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信施設利用権」として減価償却資産に該当し、かつ、取得価額が10万円未満であるから、法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に該当し、本件資産及び平成11年3月期中に直接Cに支払った本件設置負担金は、平成11年3月期において、損金の額に算入することができ、平成12年3月期に直接Cに支払った本件設置負担金は、当該年度の損金の額に算入することができるとした上で、平成11年3月期について控訴人のした更正及び過少申告加算税の賦課決定については、納付すべき法人税額339億0032万0500円、過少申告加算税額3049万円を超える部分を取消し、平成12年3月期について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知処分については、本件資産及び本件設置負担金の支出がすべて法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に該当するとして算定した法人税額730億8680万7000円を超える部分を取消した。

  3 当審における控訴人の主張

    (1) 法人税法31条1項の規定による減価償却資産の償却が認められるためには、費用収益対応の原則に照らし、当該資産が、事業の用に供され得る状態、すなわち、当該企業の事業活動において収益を生み出し得る状態にあるという意味において、その資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価できることが必要である。そして、法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産の取得価額の損金算入の制度も、上記のような減価償却制度の特則であるから、同条の適用による少額減価償却資産の取得価額の損金算入においても、当該資産が当該企業の事業活動において収益を生み出し得る状態にあるという意味において、その資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価できることが必要であり、ある減価償却資産の取得価額が10万円未満であるか否かを判断するに当たっても、当該資産が当該企業の事業活動において収益を生み出し得る資産として機能を発揮することができる単位、より具体的にいえば、当該事業活動における資産の利用目的に照らして、社会通念上機能を発揮していると認められる単位が基準とされるべきである。そして、PHSの最大の特色は、移動しながらの通話が可能であることであり、PHS加入者(エンドユーザー)は、当然、移動しながらの通話をするためにPHS契約を締結するのであって、被控訴人もその加入者に対して移動しながらの通話を提供するために本件資産を取得しているのである。そうすると、被控訴人の事業活動に不可欠な電気通信機能を発揮し得ると社会通念上認められる単位を基準とする限り、少額減価償却資産の該当性を判断する単位は、相互接続協定に基づきCから電気通信役務の提供を受ける総体としての権利(地位)とみるべきものである。

    (2) 減価償却資産の範囲について定める法人税法施行令13条は、8号ソにおいて、電気通信施設利用権について「電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第12条第1項(事業の開始の義務)に規定する第一種電気通信事業者に対して同法第41条第1項(電気通信設備の維持)に規定する事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し、その設備を利用して同法第2条第3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利(電話加入権及びこれに準ずる権利を除く。)をいう」と規定し、電気通信事業法2条3号(定義)は、電気通信役務の意義について、「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう」と規定している。そして、本件の減価償却資産である「電気通信施設利用権」は、第一種電気通信事業者であるCに対して、エントランス回線を利用して、Cから「(Cの)電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気地位審設備を他人の通信の用に供する」という役務の提供を受ける権利であり、このCの役務は、相互接続協定によって提供されるのであるから、法人税法施行令13条8号ソにおいて減価償却資産とされる「電気通信設備利用権」は設置費用を負担した事業用電気通信設備(エントランス回線)を利用して、相互協定に基づく「電気通信役務の提供を受ける権利」であって、設置費用を負担した個別の事業用電気通信設備(エントランス回線)を利用する権利を意味するものではない。

      また、本件接続約款においては、Cは、一の他事業者と一の接続協定を締結し、協定事業者が電気通信事業の全部を譲渡することにより、接続協定上の地位を移転しようとする場合、Cの承諾がなければ、その効力を生じないとされている。そして、Bも被控訴人も、Cと一の接続協定を締結し、これによって、すべてのエントランス回線を利用して接続する電気通信に対してCのネットワークを利用した電気通信役務の提供を受けているのであり、本件利用権(本件資産)は、本件接続協定によって取得された1つの権利である。

    (3) 本件接続協定においては、複数のエントランス回線等のCの電気通信設備による複合的な電気通信役務を受ける権利が発生している。すなわち、本件接続協定に基づき、①被控訴人はCから、Cの電気通信設備による複合的な電気通信役務の提供を受けることができること、②そのうち、定額制の網使用料について、エントランス回線による「PHS基地局回線機能」に対する対価こそ1回線ごとに定められているものの、「共同線信号網利用機能」(位置登録等の機能)」は、エントランス回線とは無関係に「1信号ごとに」定められていること、③営業譲渡の際には、1本のエントランス回線により相互接続を行うことができる地位を独立して他事業者に移転するのではなく、本件接続協定上の地位(複合的な電気通信役務を受ける権利)を一体として移転することが予定されていること、④電話サービス契約約款等は、それぞれ「1回線」ごとに「1の契約」を締結する旨規定しているのに対し、本件接続約款は、「1の他事業者と1の協定を締結する」旨規定していること、⑤そもそもC網依存型PHS事業においては、Cから複合的な電気通信役務の提供を受けてこれを一体的に利用して初めて、移動体通信というPHS事業における1つの基本的サービスをエンドユーザーに提供することが可能であるのであって、本件接続協定も、PHS事業を行っていくに当たり、Cから複合的な電気通信役務を一体として提供される権利を取得することを目的として締結されたものであること、以上に照らすと、被控訴人は、本件接続協定に基づき、共同線網利用機能等、1個のエントランス回線のみでは本来の機能を発揮し得ないCのネットワークによる複合的な電気通信役務の提供を受ける権利を取得しているところ、1個のエントランス回線による相互接続の機能は、その複合的な機能の1つにすぎず、当該複合的役務提供の対価は、必ずしも1回線ごとに設定されていない。そして、1個のエントランス回線を利用する権利を個別に他事業者に移転するという取引実態もない。これに加え、本件資産がPHS事業において一体となって機能を果たしていることをも勘案すれば、本件接続協定に基づき被控訴人が取得する権利は、「1回線」ごとの相互接続という機能の提供を受ける権利ではなく、複数のエントランス回線等のCの電気通信設備による複合的な電気通信役務を受ける権利であって、エントランス回線の利用権は本件接続協定(及びこれと不可分一体の接続の申込み及び承諾行為)に包摂される関係にあるとみるのが自然である。

    (4) 原審は、「一個のエントランス回線があれば、当該基地局のエリア内においてPHS利用者がPHS端末から固定電話又は携帯電話に通話することに支障はない」ことなどを根拠として、「1回線で、基地局とPHS接続装置との間の相互接続を行うという機能を発揮することができる」などと判示しているが、そもそもPHS事業は、もともとは家庭用のコードレス電話の子機の機能を向上させて、その子機端末を家庭でのみならず、屋外でも使用することができるように使用エリアを拡大させたもので、PHS端末と基地局との間は無線による通信がされるため、PHSは、携帯電話と同様、移動しながらの通話が可能であることが最大の特色であり、PHS事業は、エンドユーザーに対して、PHSにより、家庭用固定電話の子機が電波を把握し得る範囲を超えて移動しながら通信するという機能を提供することを本旨とするものである。

      したがって、1本のエントランス回線を設置しただけでは、1人のエンドユーザーに対してさえ、上記機能を提供することができないのであり、1人のエンドユーザーに対してどこからでもまた移動しながらでも通信できるというサービスを提供することは、エリア内の全てのエントランス回線を利用する権利が一体となって、初めて可能となるというべきである。

      また、PHSにおいては、PHS端末が移動するため、どの基地局から着信先のPHS端末を呼び出せばよいのかという情報を、そのPHS端末への実際の呼び出しを行う前に把握しておく必要があり、PHS端末が位置登録に関する単位エリアを越えて移動した場合、新たな単位エリアの位置情報が、自動的に当該PHS端末から送出され、基地局、エントランス回線及びPHS接続装置を順に経由して、PHS制御局に伝送され、当該PHS端末の位置登録情報が更新され、Cの設置するPHS制御局には、個々のPHS端末の位置登録情報が集積され、あるPHS端末の番号に電話がかけられた場合、当該PHSの端末として登録されている単位エリアに存在する基地局に呼出信号を発信させ、PHS端末による通話を開始させるという仕組になっている。そして、被控訴人の行っているPHS事業は、C電話網の機能を活用してPHS事業を提供する方式(C網依存型システム)であるが、このようなシステムにおいては、PHS加入者がPHS端末を利用して固定電話加入者との間で通話を行うためには、音声等の情報は、PHS端末から、無線電信、被控訴人の設置する基地局を経由して、Cの設置するエントランス回線、PHS接続装置を経て、C電話網に伝達され、最終的には固定電話等に到達する必要があるうえ、PHS加入者同士が、PHS端末を利用して通話する場合の通信経路は、①PHS端末、②PHS事業者の設置する基地局、③Cの設置するエントランス回線、④Cの設置するPHS接続装置、⑤共同線通信網、C電話網等、⑥Cの設置するPHS接続装置、⑦Cの設置するエントランス回線、⑧PHS事業者の設置する基地局、⑨PHS端末の順となり、C電話網の機能を活用できなければ、PHS事業者はエンドユーザーに対し、電気通信事業法に規定する「相互接続点を分界点とする」自己の役務提供すらできない。したがって、Cの提供する電気通信役務の内容からみても、1本のエントランス回線の単位で独立して資産としての機能を発揮しているのではなく、複数のエントランス回線を利用することによって、その機能を発揮しているというべきである。

    (5) 原審は、減価償却資産の取得価額の判断方法について、レンタルビデオ事業におけるレンタルビデオテープを例にあげ、事業のために多数そろえていることが通常必要な資産であっても、一つ一つが独立して機能しているものについては、その一つ一つを単位として法人税法施行令133条の取得価額を判定するのが相当であると判示している。

      確かに、レンタルビデオ事業は、ビデオテープを1本単位で顧客にレンタルする事業であり、レンタルビデオテープは、1本単位でレンタルされ、視聴され、かつ、1本ごとの個別の使用状況によって物理的に消耗し、また、その内容によって陳腐化する状況も1本ごとに異なるものであるから、原則として、ビデオテープ1本が減価償却資産の取得価額の単位になると考えられるが、PHS事業は、PHS事業者がPHS加入者(エンドユーザー)に対して、エントランス回線1回線単位で「基地局とPHS接続装置との間の相互接続を行うという機能」を提供する事業ではなく、まして、PHS事業者とPHS加入者(エンドユーザー)との間で、PHS事業者がPHS加入者(エンドユーザー)に対して有体物としての「エントランス回線」を1本単位で使用させる事業を行っているわけでもないから、レンタルビデオ事業とはその性格を異にすることはできず、PHS事業をレンタルビデオ事業と単純に同一視することはできない。

    (6) 原審は、エントランス回線の使用により、Cの所有するPHS接続装置と相互接続し、Cのネットワークを利用して、Cをして、自己のPHS契約者に電気通信役務を提供させることのできる権利は、法人税法施行令13条8号ソ後段の「事業用電気通信役務の提供を受ける権利」に含まれるとしているが、法人税法施行令13条8号ソは「電気通信施設利用権」の意義について、第一種電気通信事業者に対して事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し、その設備を利用して電気通信事業法2条3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利(電話加入権及びこれに準ずる権利を除く。)と定めており、その文言上、減価償却資産とされる電気通信施設利用権は、当該資産を取得した者において、電気通信役務の提供を受けることを本質とするものであることは明らかであるから、直接に電気通信役務の提供を受ける者が自己ではなく、Cをして、自己のPHS契約者に電気通信役務を提供させることのできる権利はこれに含まれない。

    (7) 原審は、法人税法施行令133条の少額減価償却資産に関する規定の改正経緯によれば、業務の性質上基本的に重要な固定資産や、業務の固有の必要性に基づき大量に保有される固定資産、事業の開始や拡張のために取得した固定資産については、少額減価償却資産に当たらないとされた時期もあったが、現在では、そのような除外規定は存在していないとして、少額減価償却資産に該当するか否かを判断するに当たっては、業務の性質上基本的に重要であったり、事業の開始や拡張のため取得したものであったり、多数まとめて取得したものであるなどといったことは、当該取得資産の取得価額を判断する上で考慮されるべきでないとしている。

      法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産の取得価額の損金算入の制度の本来の趣旨は、企業会計上のいわゆる重要性の原則に基づく処理をすることにある。昭和42年改正前の法人税法施行令133条によれば、資産の取得価額が少額であっても、①その法人の業務の性質上基本的に重要なもの、②業務の固有の必要性に基づき大量に保有されるもの及び事業の開始又は拡張のために取得したものについては、少額減価償却資産から除く旨定められていたところ、昭和42年改正、昭和49年改正において、上記①、②は廃止されたが、その理由は、少額減価償却資産該当性について紛争が生じるのを回避し、明確かつ簡便な処理を図るという趣旨に基づいて、上記①及び②の除外事由の存否を個々に判断するのをやめて、専ら画一的にその使用期間又は取得価額によって少額資産該当性を判定するとしたのであり、このような簡便な処理が許されるのは、少額減価償却資産の処理をいたずらに厳格なものにすることは、かえって企業会計上の重要性の原則に反することになるからである。現行の法人税法施行令133条は、取得価額が通常その事業の用に供される単位でみて10万円未満である減価償却資産について少額減価償却資産として簡便な処理を行うことを認めているが、これは、このような減価償却資産は、通常は重要性が乏しい資産とみることができるからである。そうすると、企業会計上無視し得ない程度の価額で取得され、本来であれば厳密な会計処理によるべき重要な資産について、いたずらにその取得価額の判定単位を細分化し、これを少額減価償却資産として簡便な処理(一時の損金算入)を行うことが許容されるとすれば、そのような事態は現行の法人税法施行令133条の上記趣旨に反する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

  1 被控訴人の平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定(取消後)の取消しを求める訴えの適否について

    当裁判所も、被控訴人の平成12年3月期の法人税について控訴人がした過少申告加算税の賦課決定の取消しの訴えについては、①審査請求に係る被控訴人の平成12年3月期の法人税について控訴人がした更正すべき理由がない旨の通知(取消前)を国税不服審判所長があわせ審理し、過少申告加算税の賦課決定を裁決により一部取消したことによって、国税通則法115条1項柱書本文に規定する「審査請求についての裁決を経」たということはできない、②上記訴えは、上記国税不服審判所長が裁決したことによって、同条1項3号後段の「その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由がある」ということはできない、③上記訴えについて、国税不服審判所長が裁決をした日が行政事件訴訟法14条1項の規定する出訴期間の起算日であると解することはできないから、上記訴えは不服申立前置を欠き、かつ、出訴期間を徒過して提起されたものであると判断する。その理由は、原判決の「第四 当裁判所の判断」の「一 本案前の争点について」の「1、2」に記載のとおり(原判決27頁17行目から42頁14行目末尾まで)と同じである(ただし、控訴人がした被控訴人の平成13年3月期の法人税についての過少申告加算税の賦課決定及び再更正の関係を除く。)から、これを引用する。

  2 本案の争点について

    当裁判所も、被控訴人が、Bから、本件接続協定上の地位を譲り受けるに際して、Cの通信用建物に設置するPHS接続装置又はCが指定する加入者交換機と活用型PHS事業者の設置する無線接続装置(基地局)との間に設置される端末回線(エントランス回線)に関する施設利用権及びその後に被控訴人が本件設置負担金を支払うことにより取得した端末回線(エントランス回線)に関する施設利用権は、法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信施設利用権」として減価償却資産に該当し、かつ、その取得価額は、1回線当たりの7万2800円と解すべきであり、所得の計算上全額が損金の額に算入されるものと判断する。その理由は、原判決の「第四 当裁判所の判断」欄の「二 本案の争点について」に記載のとおりである(原判決47頁11行目から100頁6行目末尾まで)から、これを引用する。

    以下、ふえんする。

 

 

    (1) 被控訴人は、本件資産は、法人税法施行令13条8号ソの「電気通信施設利用権」に該当する減価償却資産ではあるが、一単位の減価償却資産と判断すべきものであって、法人税法施行令54条1項1号イによって、その購入価額の全額が取得価額となり、その取得価額は10万円を超えるから、被控訴人の所得の計算上、法人税法施行令133条により、その全額を損金の額に算入することはできず、また、本件設置負担金の支出は、本件資産の価値を高めるから、法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当し、当該支出した事業年度の損金の額に算入されない旨主張するが、その根拠は、ア PHSの最大の特色は、移動しながらの通話が可能であることであり、被控訴人もその加入者に移動しながらの通話を提供するため本件資産を取得しているのであるから、被控訴人の事業活動に不可欠な電気通信機能を発揮し得ると社会通念上認められる単位を基準とする限り、少額減価償却資産の該当性を判断する単位は、相互接続協定に基づきCから電気通信役務の提供を受ける総体としての権利(地位)とみるべきものである(当審における控訴人の主張(1))、イ 本件の減価償却資産である「電気通信施設利用権」は、第一種電気通信事業者であるCに対して、エントランス回線を利用して、Cから「(Cの)電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供する」という役務の提供を受ける権利であり、このCの役務は、相互接続協定によって提供されるのであるから、法人税法施行令13条8号ソにおいて減価償却資産とされる「電気通信設備利用権」は、設置費用を負担した事業用電気通信設備(エントランス回線)を利用して、相互協定に基づく「電気通信役務の提供を受ける権利」である(当審における控訴人の主張(2))、ウ 本件接続協定においては、複数のエントランス回線等のCの電気通信設備による複合的な電気通信役務を受ける権利が発生していて、本件接続協定に基づき被控訴人が取得する権利は、「1回線」ごとの相互接続という機能の提供を受ける権利ではなく、複数のエントランス回線等のCの電気通信設備による複合的な電気通信役務を受ける権利である(当審における控訴人の主張(3))、エ エントランス回線を増設するとCのネットワークへの相互接続点が増加し、利用可能区域の拡大又は高密度化をもたらし、Cから電気通信役務の提供を受ける本件資産の価値を高めるから、本件設置負担金の支出は法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当する(原審における控訴人の主張、原判決別紙2、第一、一4)。

 

    (2) しかしながら、被控訴人はBから本件接続協定上の地位という一つの資産を譲り受けたもので、Cに支払った本件設置負担金は権利金的なものであると解する控訴人の主張は採用できない。

 

     ア 控訴人の主張は、結局のところ、PHSの仕組みから、エントランス回線1回線では機能を果たすことができず、1人のエンドユーザーに対してどこからでもまた移動しながらでも通信できるというサービスを提供することは、エリア内の全てのエントランス回線を利用する権利が一体となって初めて可能となること、Cが提供する役務は、本件接続協定を締結することにより生じたものであることを主要な根拠とするものである。

     イ 被控訴人は、C電話網の機能及びデータベースを活用してPHS事業を提供しているC網依存型PHS事業者(活用型PHS事業者)であり、PHSの加入者がPHS端末を利用して固定電話と通話する場合の通信経路は、①PHS端末、②PHS事業者の設置する基地局、③Cの設置するエントランス回線、④Cの設置するPHS接続装置、⑤共同線通信網、C電話網等、⑥固定電話の順であり、PHS加入者同士が、PHS端末を利用して通話する場合の通信経路は、①PHS端末、②PHS事業者の設置する基地局、③Cの設置するエントランス回線、④Cの設置するPHS接続装置、⑤共同線通信網、C電話網等、⑥Cの設置するPHS接続装置、⑦Cの設置するエントランス回線、⑧PHS事業者の設置する基地局、⑨PHS端末の順となること、PHSは携帯電話と同様、移動しながら通話が可能であることが最大の特色であり、利用者は、通信中に基地局の電波が受信できなくなったときは自動的に他の基地局の電波に切り替えて通信を継続する機能(ハンドオーバー機能)を有しており、PHS端末が移動することに備えてPHS端末が位置登録に関する単位エリアを越えて移動した場合、新たな単位エリアの位置情報が、自動的に当該PHS端末から送出され、基地局、エントランス回線及びPHS接続装置を順に経由して、PHS制御局に伝送され、当該PHS端末の位置登録情報が更新される。そして、Cの設置するPHS制御局には、個々のPHS端末の位置登録情報が集積され、あるPHS端末の番号に電話がかけられた場合、当該PHS端末の位置として登録されている単位エリアに存在する基地局に呼出信号を流し、それらの基地局に呼出信号を発信させ、PHS端末による通話を開始させるという仕組みになっていることは、原判決のとおりである。このようにC電話網の機能及びデータベースを活用してPHS事業を提供する活用型PHS事業において、1人のエンドユーザーに対しサービスエリア内のどこからでもまた移動しながらでも通信できるというサービスを提供するためには、基地局とCの設置するPHS接続装置を経由してC電話網に接続するための「入口」となる回線であるエントランス回線が複数存在することが前提となること(少なくとも多数の基地局及び多数のエントランス回線があればあるほど利用価値が高まること)、活用型PHS事業を営むためには、Cとの間で相互接続協定を締結することがその前提となることは、控訴人指摘のとおりである。

 

     ウ しかしながら、そうであるからといって、当然に、本件接続協定上の地位を一つの権利であるとみるべきことにはならない。

       本件接続協定の締結自体には何らの対価も必要ではなく、原則としてCは相互接続を承諾する義務を負っていることからすると、相互接続協定の接続のみでは、いまだ具体的な財産的価値があるということはできない。

       これに対して、エントランス回線を設置することにより、現実に、当該エントランス回線を通じての基地局とPHS接続装置との間の相互接続が可能となるのであり、これにより、現実の便益が生じることは明らかである。また、被控訴人の加入者が、移動しながら通話して基地局間で受け渡し(ハンドオーバー)がされる場合、エントランス回線は順次変わっていくとしても、常に利用しているエントランス回線は1つであって、同時に複数のエントランス回線が利用されるわけではないから、機能しているエントランス回線は1つであるということができる。そして、エントランス回線は1回線ごとに管理され、Cに対し、1回線ごとに設置の申込みをするとともに、7万2800円の設置負担金を支払う必要がある上、エントランス回線を利用して通信を行うために、定額制の網使用料及び従量制の網使用料の支払が必要であるなど、本件接続協定を締結しただけでは生じることのない具体的な個々の支払義務を生じるのである。

 

       以上からすると、本件接続協定を締結することによりB又は被控訴人が資産を取得するのでなく、1回線ごとに個々のエントランス回線を用いてCのネットワークと相互接続し、Cをして、エンドユーザーに電気通信役務を提供させる権利(エントランス回線利用権)を取得したとみるのが相当である。

 

       このことは、本件設置負担金の支払によりエントランス回線の追加設置を受けた場合について検討することからも裏付けられる。すなわち、被控訴人は、Bから本件資産の譲渡を受けたが、被控訴人が本件資産のみでPHS事業を行うことができることは明らかである。したがって、被控訴人が本件設置負担金を支払うことにより新たに取得する権利(エントランス回線利用権)は、本件資産とは別個の資産の取得とみるほかはないが、これは、本件接続協定上の地位を一つの資産とみる見解と矛盾するものといわなければならない。控訴人は、エントランス回線の増設により、利用可能区域の拡大又は高密度化をもたらす旨主張するが、そのことにより全体としての資産の価値が高まっても、既存の資産部分(本件資産)は、設置負担金(1回線当たり7万2800円)に回線数を乗じた金額以上にその価値が増加するのでないことはいうまでもないから、本件設置負担金の支出が法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当するということはできない。

 

     エ 控訴人は、少額減価償却の対象であることの明らかなレンタルビデオテープとの場合とは同一視できない旨主張する(当審における控訴人の主張(5))。

       たしかに、レンタルビデオテープは、1本単位でレンタルされ、視聴され、かつ、1本ごとの個別の使用状況によって物理的に消耗し、また、その内容によって陳腐化する状況も1本ごとに異なるのに対し、本件資産は、エントランス回線そのものが貸出し対象となるわけではないし、被控訴人主張の本件権利は有体物ではなく、物理的に劣化するわけでもない。したがって、レンタルビデオ事業におけるレンタルビデオとPHS事業における本件資産とが異なる側面を有することは否定できない。しかし、レンタルビデオテープのように事業のために多数そろえておくことが通常必要な資産であっても、一つ一つが独立して機能しているものについては、その一つ一つを単位として法人税法施行令133条の取得価額を判定するのが相当であると解されるのであり、エントランス回線も1回線ごとに独立して機能し、エンドユーザーは1回線ごとに利用するとの点においてレンタルビデオテープと共通性を有するのであるから、レンタルビデオテープと本件資産を比較することに意味がないとはいえないし、レンタルビデオテープと本件資産に相違点があるからといって、本件資産の取得価額を全体として一つであると解すべきことにはならない。

       また、控訴人は、直接に電気通信役務の提供を受ける者が自己ではなく、Cをして、自己のPHS契約者に電気通信役務を提供させることのできる権利は法人税法施行令13条8号ソの「電気通信施設利用権」に含まれない旨主張する(当審における控訴人の主張(6))が、「第一種電気通信事業者に対して事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し、その設備を利用して電気通信事業法2条3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利(電話加入権及びこれに準ずる権利を除く。)」との規定(同号ソ)を、自らの設備を通じて、自ら直接でなく、自らの契約者(加入者)が第一種電気事業者から電気通信役務の提供を受ける場合を除外する趣旨である解すべきではないから、上記は本件資産が法人税法施行令13条8号ソの「電気通信施設利用権」に該当すると解することの妨げとならない。

       さらに、控訴人は、法人税法施行令133条の少額減価償却資産に関する規定の改正経緯から、少額減価償却資産に該当するか否かを判断するに当たっては、業務の性質上基本的に重要であったり、事業の開始や拡張のため取得したものであったり、多数まとめて取得したものであるなどといったことは、当該取得資産の取得価額を判断する上で考慮されるべきでないとする原審の判断は誤りである旨も主張する(当審における控訴人の主張(7))。

       しかし、昭和42年改正前の法人税法施行令133条によれば、資産の取得価額が少額であっても、①業務の性質上基本的に重要なもの、②業務の固有の必要性に基づき大量に保有されるもの、及び、③事業の開始又は拡張のために取得したもの等については、少額減価償却資産から除く旨定められていたところ、現行の規定においては、上記①ないし③は廃止されているのである。これからすれば、少額減価償却資産に該当するか否かを判断するに当たっては、業務の性質上基本的に重要であったり、事業の開始や拡張のため取得したものであったり、多数まとめて取得したものであるなどといったことを当該取得資産の取得価額を判断する上であえて考慮すべき事項ではないというべきである。

 

  2 以上の次第で、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

 

    東京高等裁判所第2民事部

        裁判長裁判官  太田幸夫

           裁判官  前田順司

           裁判官  綿引 穣