減価償却資産の判定単位(1)

 

 

法人税更正処分等取消請求事件

 

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成15年(行ウ)第312号、平成16年(行ウ)第147号

 

【判決日付】 平成17年5月13日

 

 

【判示事項】

 

 PHS回線とNTTの電話を相互接続するエントランス回線に関するものとして原告がNTTパーソナルから取得した譲渡財産及び上記相互接続のためにエントランス回線1回線につき支払われる設置負担金が法人税法施行例133条に規定する少額減価償却資産に該当するとされた事例

 

 

 

【掲載誌】  判例タイムズ1204号143頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 一 本件訴えのうち,被告が原告に対して平成13年3月27日付けでした,原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)の取消しを求める部分を却下する。

 二 本件訴えのうち,被告が原告に対して平成15年5月30日付けでした,原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち,過少申告加算税1661万9000円を超える部分の取消しを求める部分を却下する。

 三 本件訴えのうち,被告が原告に対して平成15年5月30日付けでした,原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての再更正(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち,納付すべき法人税額806億9706万3200円を超える部分の取消しを求める部分を却下する。

 四 被告が原告に対して平成12年3月28日付けでした,原告の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち,更正については納付すべき法人税額339億0032万0500円を超える部分,賦課決定については過少申告加算税3049万円を超える部分をいずれも取り消す。

 五 被告が原告に対して平成13年9月27日付けでした,原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち,納付すべき法人税額730億8680万7000円を超える部分を取り消す。

 六 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

 七 訴訟費用は,これを20分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第一 請求

 一 第一事件の請求

 1 主文第四項と同旨。

 2 被告が原告に対して平成13年9月27日付けでした,原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち,納付すべき法人税額729億1171万8900円を超える部分を取り消す。

 3 被告が原告に対して平成13年3月27日付けでした,原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)を取り消す。

 二 第二事件の請求

 1 主位的請求

(一)被告が原告に対して平成14年10月11日付けでした,原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

(二)被告が原告に対して平成15年5月30日付けでした,原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての過少申告加算税賦課決定(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち,過少申告加算税1661万9000円を超える部分を取り消す。

 2 上記1(一)の予備的請求

 被告が原告に対して平成15年5月30日付けでした,原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税についての再更正(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)のうち,納付すべき法人税額806億9706万3200円を超える部分を取り消す。

第二 答弁

 一 本案前の答弁

 主文第一項から第三項までと同旨。

 二 本案の答弁

 原告の請求のうち,本案前の答弁に係る部分を除くその余の部分をいずれも棄却する。

 

 

 

 

 

第三 事案の概要

 一 事案の骨子

 本件は,原告が,被告が原告に対して行った下記①記載の更正及び過少申告加算税賦課決定(以下,過少申告加算税賦課決定一般を単に「賦課決定」という。),下記②記載の更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下,更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分一般を単に「通知処分」という。),下記③記載の賦課決定,下記④記載の通知処分,下記⑤記載の賦課決定並びに下記⑥記載の再更正は,原告がエヌ・ティ・ティ中央パーソナル通信網株式会社(以下「NTTパーソナル」という。)及び日本電信電話株式会社(なお,平成11年7月1日に東日本電信電話株式会社に事業を承継した。以下「NTT」という。)から取得した権利の取得価額を,法人税法施行令133条に規定する「内国法人がその事業の用に供した減価償却資産で取得価額が10万円未満であるもの」(以下「少額減価償却資産」という。)の取得価額として,全額を損金の額に算入することを認めない点で違法である旨主張して,下記①記載の更正,下記②,④記載の通知処分及び下記⑥記載の再更正のうち,上記取得価額を損金の額に算入して算出した納付すべき法人税額を超える部分の各取消し(下記④記載の通知処分については全部取消請求となる。),並びに下記①,③,⑤記載の賦課決定のうち,上記納付すべき法人税額を基礎として算定した過少申告加算税の税額を超える部分の各取消し(下記③記載の賦課決定については全部取消請求となる。)を求める事案である。なお,下記⑥記載の再更正について上記のとおりその一部の取消しを求める請求(前記第一の二2)は,下記④記載の通知処分について上記のとおりその取消しを求める請求(前記第一の二1(一))の予備的請求とされている。

         

 

 

 

 ① 被告が原告に対して平成12年3月28日付けでした,原告の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度(以下「平成11年3月期」という。)の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定(いずれも平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)

 ② 被告が原告に対して平成13年9月27日付けでした,原告の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度(以下「平成12年3月期」という。)の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)

 ③ 被告が原告に対して平成13年3月27日付けでした,原告の平成12年3月期の法人税についての過少申告加算税賦課決定(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消された後のもの)

 ④ 被告が原告に対して平成14年10月11日付けでした,原告の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度(以下「平成13年3月期」という。)の法人税についての更正の請求には更正をすべき理由がない旨の通知処分

 ⑤ 被告が原告に対して平成15年5月30日付けでした,原告の平成13年3月期の法人税についての過少申告加算税賦課決定(同年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)

 ⑥ 被告が原告に対して平成15年5月30日付けでした,原告の平成13年3月期の法人税についての再更正(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消された後のもの)

 

 二 関係法令の定め

 1 法人税法

(一)2条

 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。

 1号から22号まで(省略)

 23号 減価償却資産 建物,構築物,機械及び装置,船舶,車両及び運搬具,工具,器具及び備品,鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。

 (以下省略)

(二)31条1項

 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第22条第3項(各事業年度の損金の額に算入する金額)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は,その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(…(略)…)のうち,その内国法人が当該資産について選定した償却の方法(…(略)…)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(…(略)…)に達するまでの金額とする。

(三)31条6項

 第1項の選定をすることができる償却の方法の種類,その選定の手続その他減価償却資産の償却に関し必要な事項は,政令で定める。

 2 平成16年政令第101号による改正前の法人税法施行令(以下,単に「法人税法施行令」という。)

(一)13条(この項における「法」とは,法人税法を指す。)

 法第2条第23号(減価償却資産の意義)に規定する政令で定める資産は,棚卸資産,有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。

 1号から7号まで(省略)

 8号 次に掲げる無形固定資産

 イからレまで省略

 ソ 電気通信施設利用権(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第12条第1項(事業の開始の義務)に規定する第一種電気通信事業者に対して同法第41条第1項(電気通信設備の維持)に規定する事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し,その設備を利用して同法第2条第3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利(電話加入権及びこれに準ずる権利を除く。)をいう。)

 (以下省略)

(二)132条

 内国法人が,修理,改良その他いずれの名義をもってするかを問わず,その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には,いずれか多い金額)は,その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない。

 1号 当該支出する金額のうち,その支出により,当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額

 2号 当該支出する金額のうち,その支出により,当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額

(三)133条

 内国法人がその事業の用に供した減価償却資産(…(略)…)で,前条第1号に規定する使用可能期間が1年未満であるもの又は取得価額(第54条第1項各号(減価償却資産の取得価額)の規定により計算した価額をいう。…(中略)…)が10万円未満であるものを有する場合において,その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは,その損金経理をした金額は,当該事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入する。

(四)54条(減価償却資産の取得価額)

 減価償却資産の第48条から第50条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は,次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

 1号 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額

 イ 当該資産の購入の代価(引取運賃,荷役費,運送保険料,購入手数料,関税(…(略)…)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には,その費用の額を加算した金額)

 ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額

 (以下省略)

 3 平成11年法律第160号による改正前の電気通信事業法(以下,単に「電気通信事業法」というときは,平成11年法律第160号による改正前の電気通信事業法を指す。)

(一)2条

 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。

 1号 電気通信    有線,無線その他の電磁的方式により,符号,音響又は影像を送り,伝え,又は受けることをいう。

 2号 電気通信設備  電気通信を行うための機械,器具,線路その他の電気的設備をいう。

 3号 電気通信役務  電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。

 4号 電気通信事業  電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業(…(略)…)をいう。

 5号 電気通信事業者 電気通信事業を営むことについて,第9条第1項の許可を受けた者,第22条第1項の規定による届出をした者及び第24条第1項の登録を受けた者をいう。

 6号 電気通信業務  電気通信事業者の行う電気通信役務の提供の業務をいう。

(二)6条1項

 電気通信事業の種類は,第一種電気通信事業及び第二種電気通信事業とする。

(三)6条2項

 第一種電気通信事業は,電気通信回線設備(送信の場所と受信の場所との間を接続する伝送路設備及びこれと一体として設置される交換設備並びにこれらの附属設備をいう。以下同じ。)を設置して電気通信役務を提供する事業とする。

(四)9条1項

 第一種電気通信事業を営もうとする者は,郵政大臣の許可を受けなければならない。

(五)12条1項

 第9条第1項の許可を受けた者(以下「第一種電気通信事業者」という。)は,郵政大臣が指定する期間内に,その事業を開始しなければならない。

(六)34条

 第一種電気通信事業者は,正当な理由がなければ,その業務区域における電気通信役務の提供を拒んではならない。

(七)38条

 第一種電気通信事業者は,他の電気通信事業者から当該他の電気通信事業者の電気通信設備をその電気通信回線設備に接続すべき旨の請求を受けたときは,次に掲げる場合を除き,これに応じなければならない。

 1号 電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがあるとき。

 2号 当該接続が当該第一種電気通信事業者の利益を不当に害するおそれがあるとき。

 3号 前2号に掲げる場合のほか,郵政省令で定める正当な理由があるとき。

(八)38条の2第1項

 郵政大臣は,郵政省令で定めるところにより,全国の区域を分けて電気通信役務の利用状況及び都道府県の区域を勘案して郵政省令で定める区域ごとに,その一端が利用者の電気通信設備と接続される伝送路設備のうち同一の第一種電気通信事業者が設置するものであって,その伝送路設備の電気通信回線の数の,当該区域内に設置されるすべての同種の伝送路設備の電気通信回線の数のうちに占める割合が郵政省令で定める割合を超えるもの及び当該区域において当該第一種電気通信事業者がこれと一体として設置する電気通信設備であって郵政省令で定めるものの総体を,他の電気通信事業者の電気通信設備との接続が利用者の利便の向上及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない電気通信設備として指定することができる。

(九)38条の2第2項

 前項の規定により指定された電気通信設備(以下「指定電気通信設備」という。)を設置する第一種電気通信事業者は,当該指定電気通信設備と他の電気通信事業者の電気通信設備との接続に関し,当該第一種電気通信事業者が取得すべき金額(以下この条において「接続料」という。)及び接続の条件(…(略)…)について接続約款を定め,郵政大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも,同様とする。

(一〇)38条の2第5項

 指定電気通信設備を設置する第一種電気通信事業者は,第2項の規定により認可を受け又は前項の規定により届け出た接続約款(…(略)…)によらなければ,他の電気通信事業者との間において,指定電気通信設備との接続に関する協定を締結し,又は変更してはならない。

(一一)41条1項

 第一種電気通信事業者及び特別第二種電気通信事業者は,その電気通信事業の用に供する電気通信設備(以下「事業用電気通信設備」という。)を郵政省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。

 4 国税通則法(以下「通則法」という。)

(一)104条2項(なお,「更正決定等」とは,通則法58条1項1号イに規定する「更正若しくは第25条(決定)の規定による決定又は賦課決定」のことを意味する。以下同じ。)

 更正決定等について不服申立てがされている場合において,当該更正決定等に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正決定等があるときは,国税不服審判所長等は,前項の規定によるもののほか,当該他の更正決定等についてあわせて審理することができる。ただし,当該他の更正決定等について不服申立ての決定又は裁決がされているときは,この限りでない。

(二)104条3項

 前項の規定の適用がある場合には,国税不服審判所長等は,当該不服申立てについての決定又は裁決において当該他の更正決定等の全部又は一部を取り消すことができる。

(三)104条4項

 前2項の規定は,更正の請求に対する処分について不服申立てがされている場合において,当該更正の請求に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正又は決定があるときについて準用する。

(四)115条1項

 国税に関する法律に基づく処分(…(略)…)で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは,異議申立てをすることができる処分(…(略)…)にあっては異議申立てについての決定を,審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ,提起することができない。ただし,次の各号の一に該当するときは,この限りでない。

 1号及び2号省略

 3号 異議申立てについての決定又は審査請求についての裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき,その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。

 三 前提事実

 本件の前提となる事実は,次のとおりである。なお,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実並びに当裁判所に顕著な事実は認定根拠を付記しており,その余の事実は当事者間に争いがない。

 1 当事者について

 原告は,携帯・自動車電話事業等を営む株式会社であり,平成10年12月1日に,NTTパーソナルから簡易型携帯電話(以下「PHS」という。)事業の営業譲渡を受け,PHS事業も営んでいる(乙2,12,弁論の全趣旨)。

 2 エントランス回線について

 エントランス回線とは,NTTの設置するPHS接続装置又は加入者交換機と,PHS事業者が設置する無線接続装置(以下「基地局」という。)との間に設置される端末回線であり,基地局回線とも呼ばれる。

 PHSのシステム構成には,大別して「NTT網依存型」と「NTT網接続型」があり,前者はNTT電話網の機能を活用してPHS事業を提供する方式であり,後者はPHS交換機から回線設備まですべてを備えたPHSのシステムをNTT電話網との間で網間接続する方式である。なお,NTT網依存型PHS事業者は,活用型PHS事業者とも呼ばれる。

 原告の行っているPHS事業は,NTT網依存型のシステムを採用している。このようなNTT網依存型のシステムにおいては,PHS加入者がPHS端末を利用して固定電話加入者との間で通話を行うためには,音声等の情報は,PHS端末から,無線電信,原告の設置する基地局を経由して,NTTの設置するエントランス回線,PHS接続装置を経て,NTT電話網に伝達され,最終的には固定電話等に到達する必要がある。

 このように,エントランス回線は,PHS事業者が設置する基地局をNTTのPHS接続装置を経由してNTT電話網に接続するための「入口」となる回線であるという意味で,エントランス回線と呼称されている。

 3 NTTパーソナルから原告への営業譲渡の経緯について

 原告は,平成10年12月1日午前零時(以下「譲渡日」という。)をもって,NTTパーソナルから,NTTパーソナルが行っていたPHS事業に関するすべての営業を譲り受けるとともに,NTTパーソナルがNTTとの間で締結していた電気通信設備の相互接続に関する協定(以下「本件接続協定」という。)におけるNTTパーソナルの地位(以下「本件接続協定上の地位」という。)を引き継ぎ,第一種電気通信事業者としてPHS事業を行っている。その経緯は以下のとおりである。(乙2から4まで,弁論の全趣旨)

(一)NTTパーソナルは,PHS接続装置,PHS制御局等のNTTの設備及びその機能を活用する活用型PHS事業者(NTT網依存型PHS事業者)であった。

(二)NTTは,平成10年3月24日,「電気通信事業法第38条の2第2項及び第4項に基づく指定電気通信設備との接続に関する契約約款」(以下,この約款を「本件接続約款」といい,現行の約款を「現行接続約款」という。)を実施した。

(三)原告(当時の商号はエヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社)は,平成10年7月1日,NTTパーソナルとの間で,譲渡日をもって譲渡日前にNTTパーソナルが行っていたPHS事業に関するすべての営業を譲り受ける旨の契約(以下「本件営業譲渡契約」という。)を締結した。

(四)本件営業譲渡契約においては,①NTTパーソナルから原告に譲渡すべき財産(以下「譲渡財産」という。)は,譲渡日現在のPHS事業に関するすべての営業に属する固定資産及び流動資産とし,その細目は両者協議の上決定すること,②譲渡財産の譲渡価額は譲渡日現在における時価とし,両者協議の上確定すること,③対価の支払方法,支払時期等については,両者協議の上決定することが定められていた。

(五)NTTパーソナル及び原告は,本件営業譲渡契約に基づき,本件営業譲渡契約の細目を定めた平成10年11月18日付け「営業譲渡細目協定書」(以下「本件細目協定書」という。)を作成した。

 本件細目協定書には,①譲渡財産の細目及び譲渡価額の見込額,②譲渡日現在における譲渡財産の明細及びその譲渡価額について,譲渡日後可及的速やかに確認書を締結すること,③原告は,譲渡価額及び譲渡財産に関する消費税等を当該確認書の締結後遅滞なく支払うこと,④この支払は,譲渡日におけるNTTパーソナルの負債を原告が引き受ける方法によること,⑤NTTパーソナルは,原告に対し,譲渡日をもって,PHS事業に関するすべての営業についてNTTパーソナルが有する施設利用権等を譲渡することが記載されているほか,⑥譲渡財産の平成10年11月末見込額として,施設利用権等について,簿価100億7100万円,時価(譲渡価額)112億8800万円と記載されていた。

(六)NTTパーソナル及び原告は,郵政大臣に対し,本件営業譲渡契約による事業譲渡譲受の認可を申請し,郵政大臣は,平成10年11月30日付けでこれを認可した。

(七)NTTは,本件営業譲渡契約に伴い,本件接続協定上の地位がNTTパーソナルから原告へ移転することを承諾した。

(八)NTTパーソナル及び原告は,本件細目協定書に基づき,譲渡財産の明細を定めた平成11年1月13日付け「譲渡財産の明細等に関する確認書」(以下「本件明細確認書」という。)を作成した。

 本件明細確認書には,①譲渡財産の譲渡日現在の譲渡価額の合計が838億9472万4389円,消費税等の合計が34億0178万8133円,引受負債の合計が156億1406万2400円であること,②譲渡価額及び消費税等の合計額の支払方法については,原告が,負債156億1406万2400円を引き受け,原告が譲渡日現在NTTパーソナルに対して有する金銭債権のうち690億円を相殺し,残金26億8245万0122円を平成11年2月3日に銀行口座振込により支払うこと,③施設利用権等については,合計の数量15万4534,帳簿価額100億2913万1598円,譲渡価額112億5790万8200円であり,その内訳として,基地局回線の数量15万3178,帳簿価額99億3385万5798円,譲渡価額111億5135万8400円,電話加入権の数量1250,帳簿価額9527万5800円,譲渡価額9527万5800円,専用線の数量56,帳簿価額0円,譲渡価額656万4000円,パケット回線の数量50,帳簿価額0円,譲渡価額471万円と記載されていた。

(九)原告とNTTパーソナルは,本件明細確認書のとおりの決済を行い,原告は,上記八の③の施設利用権等のうち基地局回線(エントランス回線)に関するもの,数量15万3178,譲渡価額合計111億5135万8400円の譲渡財産(以下「本件資産」という。)を「無形固定資産(施設利用権)」として経理したが,平成11年3月期の決算において,その全額を「施設保全費」として損金経理した。

(一〇)NTTパーソナルから本件接続協定上の地位を引き継いだ原告は,譲渡日以降,本件接続協定に基づき,原告による基地局回線(エントランス回線)設置申込みについてNTTが承諾するたびに,基地局回線(エントランス回線)の設置工事及び手続に関する費用の額として,本件接続約款に定められた1回線当たり合計7万2800円の金員(以下「本件設置負担金」という。)をNTTに支払っている。原告は,本件設置負担金を支出するたびに,その支出額を「設備投資勘定」に計上していたが,平成11年3月期,平成12年3月期及び平成13年3月期の決算において,その全額を「施設保全費」としてそれぞれ損金経理した。

 4 更正の経緯等

(一)平成11年3月期の法人税について

 (1)原告は,平成11年6月30日,原告の平成11年3月期の法人税について,別表1の「確定申告」欄記載のとおり,青色の申告書(以下「平成11年3月期確定申告書」という。)により確定申告(以下「平成11年3月期確定申告」という。)をした。

 (2)被告は,原告に対し,平成12年3月28日付けで,原告の平成11年3月期の法人税について,別表1の「更正・決定」欄記載のとおり,更正(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成11年3月期更正(取消前)」という。)及び過少申告加算税賦課決定(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成11年3月期賦課決定(取消前)」という。)をした。

 (3)原告は,平成11年3月期更正(取消前)及び平成11年3月期賦課決定(取消前)を不服として,国税不服審判所長に対し,平成12年5月8日,別表1の「審査請求」欄記載のとおり,審査請求(以下「平成11年3月期審査請求」という。)をした。

 (4)国税不服審判所長は,原告に対し,平成15年3月18日付けで,平成11年3月期審査請求について,別表1の「審査裁決」欄記載のとおり,平成11年3月期更正(取消前)及び平成11年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消す旨の裁決をした(以下,この裁決を「平成11年3月期裁決」といい,平成11年3月期裁決によって一部取り消された後の上記更正及び賦課決定を,それぞれ「平成11年3月期更正」及び「平成11年3月期賦課決定」という。)。

 (5)原告は,平成15年5月21日,平成11年3月期更正及び平成11年3月期賦課決定の取消しを求めて,第一事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

(二)平成12年3月期の法人税について

 (1)原告は,平成12年6月30日,原告の平成12年3月期の法人税について,別表2の「確定申告」欄記載のとおり,青色の申告書により確定申告(以下「平成12年3月期確定申告」という。)をした。

 (2)被告は,原告に対し,平成13年3月27日付けで,原告の平成12年3月期の法人税について,別表2の「更正・決定」欄記載のとおり,更正(以下「平成12年3月期更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成12年3月期賦課決定(取消前)」という。)をした。

 (3)原告は,被告に対し,平成13年6月27日,原告の平成12年3月期の法人税について,別表2の「更正の請求」欄記載のとおり,更正の請求(以下「平成12年3月期更正の請求」という。)をした。

 (4)被告は,原告に対し,平成13年9月27日付けで,平成12年3月期更正の請求に対し,別表2の「更正をすべき理由がない旨の通知」欄記載のとおり,更正をすべき理由がない旨の通知処分(平成15年3月18日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成12年3月期通知処分(取消前)」という。)をした。

 (5)原告は,平成12年3月期通知処分(取消前)を不服として,国税不服審判所長に対し,平成13年11月26日,別表2の「審査請求」欄記載のとおり,審査請求(以下「平成12年3月期審査請求」という。)をした。

 (6)国税不服審判所長は,平成12年3月期審査請求について,平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定(取消前)を通則法104条に基づいてあわせ審理し,原告に対し,平成15年3月18日付けで,別表2の「審査裁決」欄記載のとおり,平成12年3月期通知処分(取消前)及び平成12年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消す旨の裁決をし(以下,この裁決を「平成12年3月期裁決」といい,平成12年3月期裁決によって一部取り消された後の上記通知処分及び賦課決定を,それぞれ「平成12年3月期通知処分」及び「平成12年3月期賦課決定」という。),平成12年3月期更正については裁決をしなかった。

 (7)原告は,平成15年5月21日,平成12年3月期通知処分及び平成12年3月期賦課決定の取消しを求めて,第一事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

(三)平成13年3月期の法人税について

 (1)原告は,平成13年6月27日,原告の平成13年3月期の法人税について,別表3の「確定申告」欄記載のとおり,青色の申告書により確定申告(以下「平成13年3月期確定申告」という。)をした。

 (2)被告は,原告に対し,平成14年4月30日付けで,原告の平成13年3月期の法人税について,別表3の「更正・決定」欄記載のとおり,更正並びに過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定をした。

 (3)原告は,被告に対し,平成14年6月28日,原告の平成13年3月期の法人税について,別表3の「更正の請求」欄記載のとおり,更正の請求(以下「平成13年3月期更正の請求」という。)をした。

 (4)被告は,原告に対し,平成14年10月11日付けで,平成13年3月期更正の請求に対し,別表3の「更正をすべき理由がない旨の通知」欄記載のとおり,更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「平成13年3月期通知処分」という。)をした。

 (5)原告は,平成13年3月期通知処分を不服として,国税不服審判所長に対し,平成14年11月29日,別表3の「審査請求」欄記載のとおり,審査請求(以下「平成13年3月期審査請求」という。)をした。

 (6)被告は,原告に対し,平成15年5月30日付けで,原告の平成13年3月期の法人税について,別表3の「更正・決定」欄記載のとおり,再更正(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成13年3月期再更正(取消前)」という。)及び過少申告加算税賦課決定(平成15年11月17日付け裁決で一部取り消される前のもの。以下「平成13年3月期賦課決定(取消前)」という。)をした。

 (7)国税不服審判所長は,平成13年3月期審査請求について,平成13年3月期再更正(取消前)及び平成13年3月期賦課決定(取消前)を通則法104条に基づいてあわせ審理し,原告に対し,平成15年11月17日付けで,別表3の「審査裁決」欄記載のとおり,平成13年3月期再更正(取消前)及び平成13年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消し,平成13年3月期通知処分に対する審査請求を棄却する旨の裁決をした(以下,この裁決を「平成13年3月期裁決」といい,平成13年3月期裁決によって一部取り消された後の上記再更正及び賦課決定を,それぞれ「平成13年3月期再更正」及び「平成13年3月期賦課決定」という。)。

 (8)原告は,平成16年2月16日,主位的に平成13年3月期通知処分及び平成13年3月期賦課決定の取消しを求め,予備的に平成13年3月期再更正の取消しを求めて,第二事件の訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 

 

 

 

 四 争点

 

 1 本案前の争点

(一)平成12年3月期賦課決定,平成13年3月期賦課決定及び平成13年3月期再更正の各取消しを求める訴えについて,「審査請求についての裁決」を経たということができるか。

(二)平成12年3月期賦課決定,平成13年3月期賦課決定及び平成13年3月期再更正の各取消しを求める訴えについて,「審査請求についての裁決」を経ていないとしても,そのことに「正当な理由」があるか。

(三)平成12年3月期賦課決定,平成13年3月期賦課決定及び平成13年3月期再更正の各取消しを求める訴えについて,出訴期間を徒過しているか。

 

 

 

 2 本案の争点

(一)原告がNTTパーソナルから取得した本件資産の性質は,本件接続協定に基づきNTTから電気通信役務の提供を受ける権利(地位)であるか,あるいは,エントランス回線を利用する権利であるか。

(二)本件資産は,法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産に該当し,その取得価額全額を一度に損金の額に算入することができるか否か。具体的には,本件資産の取得価額は,本件接続協定を1単位として判断すべきか,あるいは,エントランス回線1回線を1単位として判断すべきか。

(三)原告がNTTに支払った本件設置負担金は,法人税法施行令132条2号に規定する資本的支出に該当し,損金の額に算入することができないか,あるいは,少額減価償却資産の取得価額に該当し,その全額を一度に損金の額に算入することができるか。

 

 

 

 五 本案前の争点に関する当事者の主張の要旨

 本案前の争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙1記載のとおりである。

 六 本案の争点に関する当事者の主張の要旨

 本案の争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙2記載のとおりである。

 

 

 

 

 

第四 当裁判所の判断

 一 本案前の争点について

 1 認定事実

 前記前提事実に加え,証拠(甲1から4まで,15,17から22まで,乙1)及び弁論の全趣旨を総合すると,平成12年3月期賦課決定,平成13年3月期賦課決定及び平成13年3月期再更正の経緯について,以下の事実を認めることができる。

(一)平成12年3月期賦課決定の経緯について

 (1)原告は,本件資産の取得価額及び平成11年3月期にNTTに支払った本件設置負担金について,平成11年3月期の決算において,その全額を施設保全費として損金経理し,平成11年6月30日に,平成11年3月期確定申告をした。

 (2)被告は,原告に対し,平成12年3月28日付けで,本件資産の取得価額及び本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当せず,損金の額に算入することはできないとの理由を付して,平成11年3月期更正(取消前)及び平成11年3月期賦課決定(取消前)をした。

 (3)原告は,平成12年3月期の法人税について,平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため,①平成12年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計額について,損金の額に算入した後に申告加算し,②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額及び平成11年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計額について,その取得価額を申告減算するとともに,耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を超える金額を申告加算して,平成12年6月30日に,平成12年3月期確定申告をした。

 (4)被告は,原告に対し,平成13年3月27日付けで,原告の平成12年3月期の法人税について,本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否とは無関係の理由により,平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定(取消前)をした。

 原告は,平成13年3月27日ころに平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定(取消前)を知ったが,平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定(取消前)に対して,法定の期間内に不服申立てをしなかった。

 (5)原告は,被告に対し,平成13年6月27日,原告の平成12年3月期の法人税について,平成12年3月期にNTTに支払った本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し,その全額を損金の額に算入することができる旨主張して,平成12年3月期更正の請求をした。なお,原告は,平成12年3月期更正の請求においては,平成12年3月期賦課決定(取消前)及びその税額の基礎となった平成12年3月期更正について不服を有する旨主張しなかった。

 (6)被告は,原告に対し,平成13年9月27日付けで,平成12年3月期更正の請求に対し,本件資産の取得価額及び本件設置負担金に関する平成12年3月期確定申告における処理には誤りがないとの理由を付して,平成12年3月期通知処分(取消前)をした。

 (7)原告は,平成12年3月期通知処分(取消前)を不服として,国税不服審判所長に対し,平成13年11月26日,平成12年3月期審査請求をした。

 (8)国税不服審判所長は,平成12年3月期審査請求について,平成12年3月期更正及び平成12年3月期賦課決定(取消前)を通則法104条に基づいてあわせ審理して,本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否について判断し,平成15年3月18日付けで,平成12年3月期通知処分(取消前)の一部を取り消すとともに,平成12年3月期通知処分(取消前)の一部取消しに伴って平成12年3月期賦課決定(取消前)の基礎となる税額が減少することを理由として,平成12年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消す旨の平成12年3月期裁決をした。

 (9)原告は,平成15年5月21日,本件資産の取得価額及び本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し,その全額を損金の額に算入することができる旨主張して,平成12年3月期通知処分及び平成12年3月期賦課決定の取消しを求めて,第一事件の訴えを提起した。

(二)平成13年3月期賦課決定及び平成13年3月期再更正の経緯について

 (1)原告は,平成13年3月期の法人税について,平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため,①平成13年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計額について,損金の額に算入後に申告加算し,②本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期に支出した本件設置負担金合計額について,耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を申告減算して,平成13年6月27日に,平成13年3月期確定申告をした。

 (2)被告は,原告に対し,平成14年4月30日付けで,原告の平成13年3月期の法人税について,本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否とは無関係の理由により,更正及び賦課決定をした。

 (3)原告は,被告に対し,平成14年6月28日,原告の平成13年3月期の法人税について,本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し,損金の額に算入することができる旨主張して,平成13年3月期更正の請求をした。

 (4)被告は,原告に対し,平成14年10月11日付けで,平成13年3月期更正の請求に対し,本件設置負担金に関する平成13年3月期確定申告における処理には誤りがないとの理由を付して,平成13年3月期通知処分をした。

 (5)原告は,平成13年3月期通知処分を不服として,国税不服審判所長に対し,平成14年11月29日,平成13年3月期審査請求をした。

 (6)被告は,原告に対し,平成15年5月30日付けで,原告の平成13年3月期の法人税について,本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否とは無関係の理由により,平成13年3月期再更正(取消前)及び平成13年3月期賦課決定(取消前)をした。

 原告は,平成15年5月30日ころに平成13年3月期再更正(取消前)及び平成13年3月期賦課決定(取消前)を知ったが,平成13年3月期再更正(取消前)及び平成13年3月期賦課決定(取消前)に対して,法定の期間内に不服申立てをせず,平成13年3月期審査請求の手続においても,平成13年3月期賦課決定(取消前)及びその税額の基礎となった平成13年3月期再更正(取消前)に対して不服を有する旨主張しなかった。

 (7)国税不服審判所長は,平成13年3月期審査請求について,平成13年3月期再更正(取消前)及び平成13年3月期賦課決定(取消前)を通則法104条に基づいてあわせ審理して,本件資産の取得価額及び本件設置負担金の損金算入の可否について判断し,平成15年11月17日付けで,平成13年3月期再更正(取消前)を一部取り消すとともに,平成13年3月期再更正(取消前)の一部取消しに伴い,平成13年3月期賦課決定(取消前)の基礎となる税額が減少することを理由として,平成13年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消し,平成13年3月期通知処分に対する審査請求は棄却する旨の平成13年3月期裁決をした。

 (8)原告は,平成16年2月16日,本件資産の取得価額及び本件設置負担金は少額減価償却資産の取得価額に該当し,損金の額に算入することができる旨主張して,主位的に平成13年3月期通知処分及び平成13年3月期賦課決定の取消しを求め,平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えについては,訴えの利益が存在しないと判断される場合に備えて,予備的に平成13年3月期再更正の取消しを求めて,第二事件の訴えを提起した。

 2 平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えの適法性について

(一)不服申立前置について

 (1)通則法115条1項柱書本文は,国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは,異議申立てをすることができる処分にあっては異議申立てについての決定を,審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ,提起することができないと規定している。

 そこで,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えが,通則法115条1項柱書本文に規定する不服申立前置の要請を満たし,適法な訴えということができるかどうかについて,以下検討する。

 (2)通則法115条1項柱書本文が国税に関する処分について不服申立てを経由することを要求しているのは,国税に関する処分については,課税標準の認定が複雑かつ専門的であるため,司法審査を行う前に,専門的な知識と経験を有する行政庁に再検討の機会を与え,その自主的解決を期待することにあると解される。また同時に,不服申立前置を要求することは,大量かつ反復的に行われる国税に関する処分について,訴訟が大量に提起されることを回避するとともに,税務行政の統一的,安定的運用を図ることを可能とすることをも目的とするものであると解される。

 そうすると,通則法115条1項柱書本文が,不服申立前置を要求した趣旨は,審査庁に国税に関する処分の当否について再検討させることに加えて,所定の期間内に不服申立てがされない限り,当該処分の効果を前提として,その後の徴収事務等を行うことを可能とし,税務行政の安定を図ることにもあるということができる。

 このような通則法115条1項柱書本文の趣旨からすると,国税に関する処分については,その取消しを求める訴訟が提起される前に,当該処分について納税者による不服申立てがされ,その不服申立てについての決定又は裁決がされることが予定されているというべきである。また,このように解することは,通則法115条1項柱書本文に規定する「異議申立てについての決定」又は「審査請求についての裁決」という文言にも合致するというべきである。

 したがって,通則法115条1項柱書本文の規定する不服申立前置を満たすというためには,国税に関する個々の処分について,納税者による不服申立てがされ,それについての裁決が経由されていることが必要というべきである。

 (3)本件について見ると,賦課決定は,通知処分とは別個の処分であるから,平成12年3月期賦課決定について「審査請求についての裁決」を経由したというためには,平成12年3月期通知処分についての不服申立てとは別個に,平成12年3月期賦課決定について不服申立てが経由されていることが必要である。

 しかしながら,前記認定事実のとおり,原告は,平成12年3月期通知処分(取消前)については不服申立てをしたものの,平成12年3月期賦課決定(取消前)について法定の期間内に不服申立てをせず,平成12年3月期審査請求において,平成12年3月期賦課決定(取消前)について不服を有する旨主張もしなかったのであるから,平成12年3月期賦課決定については,不服申立てが経由されていないといわざるを得ない。

 そうすると,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,不服申立前置を欠くものというべきである。

 (4)これに対し,原告は,平成12年3月期賦課決定(取消前)については,国税不服審判所長により平成12年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理され,平成12年3月期裁決において,その一部が取り消されているから,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは「審査請求についての裁決」を経由したというべきである旨主張する。

 確かに,前記認定事実によると,国税不服審判所長は,原告が不服申立てをしていない平成12年3月期賦課決定(取消前)について,平成12年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理し,平成12年3月期通知処分(取消前)の一部取消しに伴って平成12年3月期賦課決定(取消前)の基礎となる税額が減少することを理由として,平成12年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消す旨の平成12年3月期裁決をしたものである。

 しかしながら,前示のとおり,平成12年3月期賦課決定(取消前)について不服申立てがされていない以上,あわせ審理の結果,平成12年3月期裁決により平成12年3月期賦課決定(取消前)が一部取り消されたとしても,平成12年3月期賦課決定について,「審査請求についての裁決」が経由されたということはできないというべきである。

 あわせ審理により平成12年3月期賦課決定(取消前)が一部取り消されたということは,「審査請求についての裁決」を経由していないことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があるか否かの判断に当たって検討されるべき事情にすぎないというべきである。

 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

(二)通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

 (1)前示のとおり,平成12年3月期賦課決定については,不服申立てを経由していないというべきであるから,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについては,通則法115条1項各号に規定する例外要件に該当しない限り,不服申立前置を欠く不適法な訴えということになる。

 平成12年3月期賦課決定については,通則法115条1項1号及び2号に該当しないことは明らかであるから,本件においては,同項3号に規定する「裁決を経ないことにつき正当な理由」があるか否かが問題となる。

 (2)前記認定事実によると,原告は,平成12年3月期賦課決定については不服申立てを経由していないが,国税不服審判所長は,原告が不服申立てをしていない平成12年3月期賦課決定(取消前)について,平成12年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理し,平成12年3月期通知処分(取消前)の一部取消しに伴って平成12年3月期賦課決定(取消前)の基礎となる税額が減少することを理由として,平成12年3月期賦課決定(取消前)の一部を取り消す旨の平成12年3月期裁決をしたものである。

 (3)そこで検討するに,通知処分は,納税者からの更正の請求に対する課税庁による減額更正をしない旨の応答であり,納税者の更正の請求に対し課税庁が減額更正を拒否し,申告税額等について税額を全体的に見直して減額をすることはしないことを確認する効果を有する処分である。したがって,通知処分は,本税に関する処分であるが,その税額を確定する処分ではない。これに対し,賦課決定は,修正申告や増額更正のように本税について申告税額等よりも増額する方向で税額を確定する処分に附帯して,過少申告の事実に対する行政上の制裁として課されるものである。

 そうすると,通知処分及び賦課決定は,それぞれ目的及び効果を大きく異にする別個の処分であるというべきであり,また,増額更正と賦課決定の場合とは異なり,通知処分に附帯して賦課決定がされるという関係にあるということもできない。

 したがって,通知処分と賦課決定は,全く別個の処分であるといわざるを得ず,密接な関係を有するものということもできないのであるから,通知処分について不服申立てを経由したことをもって,賦課決定に対する関係でも不服申立前置の要件を実質的に満たしたという余地はないというべきである。

 以上によると,平成12年3月期賦課決定について不服申立てを経ないことに通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があるということはできない。

 (4)これに対し,原告は,裁決により通知処分が一部でも取り消されれば,賦課決定は必然的に全部又は一部が取り消されるという関係にあるから,通知処分が裁決をすべき行政庁により審理されているのであれば,賦課決定についてもその見直しをすべき事由について審理されているということができ,通則法115条1項の趣旨は満たされているというべきである旨主張する。

 確かに,通知処分に前後して,増額更正及びこれに附帯する賦課決定がされていた場合,国税不服審判所長の裁決により,更正の請求に対して減額更正を拒否する処分である通知処分が一部でも取り消されれば,この取消しに伴って賦課決定の基礎となる税額も減少することになり,賦課決定についても見直されるべきものである。

 しかしながら,前示のとおり,通知処分と賦課決定は,目的及び効果を異にする別個の処分であって,通知処分は税額を確定する処分ではないのであり,また,増額更正と賦課決定の場合と異なり,通知処分に附帯して賦課決定がされるという関係にあるということもできない(本件においても,平成12年3月期賦課決定(取消前)は平成12年3月期更正に伴ってされたものであり,平成13年3月期賦課決定(取消前)は平成13年3月再更正(取消前)に伴ってされたものである。)。通知処分について裁決がされ,通知処分が一部取り消されたとしても,直ちに賦課決定に影響を及ぼすものではなく,賦課決定について不服申立てを経由することが無意味であるということもできないのである。

 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

 (5)また,原告は,平成12年3月期賦課決定(取消前)について審査請求が別途行われていたとしても,結局は通則法104条1項に基づき通知処分についての審査請求と併合審理され,同条2項に基づくあわせ審理を経た場合と全く同一内容の裁決がされていたであろうことは明らかであるから,平成12年3月期賦課決定自体についての審査請求の有無を問うのは無意味である旨主張する。

 しかしながら,通則法115条1項柱書本文の趣旨からすると,国税に関する処分については,その取消しを求める訴訟が提起される前に,納税者による不服申立てがされ,当該不服申立てについての決定又は裁決がされることが予定されており,それがされないときは処分を前提とした徴収事務等が進められることは,前示のとおりである。したがって,平成12年3月期賦課決定(取消前)に対して審査請求を行うことが無意味であったということはできない。

 よって,原告の上記主張は,採用することができない。

 (6)さらに,原告は,平成12年3月期賦課決定(取消前)についての不服申立てにおいて,本訴において主張している平成12年3月期通知処分(取消前)の違法事由を主張すべきであるとすれば,更正の請求期間が法定の期間よりも事実上短縮されることになってしまい,不当である旨主張する。

 しかしながら,賦課決定と通知処分とは別個の処分であって,それぞれについて違法事由を主張することができるところ,たまたま通知処分の違法事由として主張すべき事柄を賦課決定の違法事由として主張すべきであったとしても,そのことから直ちに,更正の請求期間が法定の期間よりも事実上短縮されるということはできない。したがって,そのことが不当であるとする余地はない。

 よって,原告の上記主張は,採用することができない。

 (7)以上のとおり,平成12年3月期賦課決定については,不服申立てが経由されておらず,そのことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があると認めることはできないから,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,不服申立前置を欠く不適法な訴えというべきである。

(三)出訴期間について

 (1)平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法(以下,単に「行政事件訴訟法」という。)14条1項は,取消訴訟について,処分があったことを知った日から3か月以内に提起しなければならないとしている。

 前記認定事実によると,原告は,平成13年3月27日ころに平成12年3月期賦課決定(取消前)を知ったが,平成15年5月21日になって平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えを提起したものである。

 そうすると,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,出訴期間を徒過して提起されたものというべきである。

 (2)これに対し,原告は,平成12年3月期賦課決定(取消前)は,平成12年3月期通知処分(取消前)とあわせ審理され,平成12年3月期裁決で一部取り消されていること,また,平成12年3月期賦課決定(取消前)は,平成12年3月期通知処分に関する判決が確定するまで不確定であり,平成12年3月期通知処分と別個に出訴期間を論じる利益はないことからすれば,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えの出訴期間の起算日は,行政事件訴訟法14条4項により,平成12年3月期裁決の日と解すべきである旨主張する。

 しかしながら,行政事件訴訟法14条4項は,処分について審査請求をすることができる場合について,その審査請求に対する裁決があったことを知った日又は裁決の日を出訴期間の起算日とするものである。

 本件においては,前示のとおり,平成12年3月期賦課決定(取消前)については,不服申立てがされておらず,審査請求に対する裁決がされたということはできない。そうすると,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えについて,行政事件訴訟法14条4項を適用することはできないといわざるを得ない。

 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

 (3)以上のとおり,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,出訴期間を徒過した不適法な訴えというべきである。

(四)以上によると,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,不服申立前置を欠くとともに,出訴期間を徒過して提起されたものであるから,不適法な訴えというべきである。

 3 平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えの適法性について

(一)不服申立前置について

 前記認定事実のとおり,原告は,平成13年3月期通知処分については不服申立てをしたものの,平成13年3月期賦課決定(取消前)については法定の期間内に不服申立てしなかったのであるから,平成13年3月期賦課決定(取消前)については,不服申立てが経由されていないといわざるを得ない。

 そうすると,平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により,不服申立前置を欠くものというべきである。

(二)通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

 平成13年3月期賦課決定については,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により,不服申立てが経由されておらず,そのことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があると認めることはできないから,平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,不服申立前置を欠く不適法な訴えというべきである。

(三)出訴期間について

 前記認定事実によると,原告は,平成15年5月30日ころに平成13年3月期賦課決定(取消前)を知ったが,平成16年2月16日になって平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えを提起したものである。

 そうすると,平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により,出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えというべきである。

(四)以上によると,平成13年3月期賦課決定の取消しを求める訴えは,不服申立前置を欠くとともに,出訴期間を徒過して提起されたものであるから,不適法な訴えというべきである。

 4 平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの適法性について

(一)本件においては,平成13年3月期通知処分(取消前)がされた後,平成13年3月期再更正(取消前)がされているところ,このような場合についても,平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益があるか否かが問題となり得る。

 この点,被告も,平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益が存在する旨認めているところであるが,当裁判所も,以下のとおり,この訴えの利益が存在するものと考える。

(二)通知処分は,納税者の減額更正の請求に対して,課税庁が減額更正をすることを拒否し,申告税額等について税額を全体的に見直して減額をすることはしないことを確認する効果を有する処分であって,本税の税額を確定する目的又は効果を有する処分ではない。これに対し,増額更正は,課税庁が課税要件事実を全体的に見直し,申告税額も含めて全体としての税額を総額的に確定する目的及び効果を有する処分である。

 もっとも,本件におけるような通知処分と増額更正は,同一の本税に関する納税義務に関するものであり,また,増額更正は納付すべき税額全体にかかわり,税額の総額を確定するものであるから,増額更正の内容は通知処分の内容を包摂し,納税者は増額更正に対して取消訴訟をもって争えば足り,これとは別個に通知処分を争う利益はないとする考え方もあるかもしれない。

 しかしながら,上述したところからすると,通知処分と増額更正は,目的,性質,効果ともに全く異なる別個の処分であり,判断内容も必ずしも同一ではない。さらに,通知処分を取り消す旨の判決が確定すれば,税務署長は,後の増額更正の有無にかかわらず,判決に従って総額的に正しい税額の確定行為としての減額更正を行うこととなり(行政事件訴訟法33条2項),これによって納税者の利益の回復は実現されるのであるから,この点からしても,通知処分の取消しを求める利益があるというべきである。

 しかも,本件では,これに加え,後に判示するとおり,平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えについては,不服申立前置を欠き,不適法な訴えというべきであって,原告が平成13年3月期再更正について争うことはできないのである。

 これらに照らすと,少なくとも本件においては,平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定する余地はないというべきである。

(三)以上によると,本件において,平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益はあるというべきである。

 5 平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えの適法性について

(一)原告は,平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益が存在しないと判断される場合に備えて,予備的に平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えを提起している。

 前示のとおり,平成13年3月期通知処分の取消しを求める訴えの利益を認めることができる以上,原則として,予備的請求である平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えについて判断する必要はないというべきである。

 しかしながら,後に判示するとおり,平成13年3月期通知処分の取消請求は棄却されるべきものであるので,予備的請求である平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えの適法性についても判断することとする。

(二)不服申立前置について

 前記認定事実のとおり,原告は,平成13年3月期通知処分に対しては不服申立てをしたものの,平成13年3月期再更正(取消前)について法定の期間内に不服申立てをしなかったのであるから,平成13年3月期再更正(取消前)については,不服申立てが経由されていないといわざるを得ない。

 そうすると,平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えは,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により,不服申立前置を欠くものというべきである。

(三)通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」について

 平成13年3月期再更正については,再更正も賦課決定と同様に通知処分とは目的及び効果を異にする別個の処分であるから,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により,不服申立てが経由されておらず,そのことについて通則法115条1項3号に規定する「正当な理由」があると認めることはできない。

 したがって,平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えは,不服申立前置を欠く不適法な訴えというべきである。

(四)出訴期間について

 前記認定事実によると,原告は,平成15年5月30日ころに平成13年3月期再更正(取消前)を知ったが,平成16年2月16日になって平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えを提起したものである。

 そうすると,平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えは,平成12年3月期賦課決定の取消しを求める訴えと同様の理由により,出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えというべきである。

(五)以上によると,平成13年3月期再更正の取消しを求める訴えは,不服申立前置を欠くとともに,出訴期間を徒過して提起されたものであるから,不適法な訴えというべきである。

 

 

 

 

 

 

 二 本案の争点について

 

 

 1 認定事実

 前記前提事実に加え,証拠(各事実の後に付記する。)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。

(一)PHSについて(甲5,6,弁論の全趣旨)

 (1)PHSは,もともとは家庭用のコードレス電話の子機の機能を向上させて,その子機端末を家庭でのみならず,屋外においても使用することができるように使用エリアを拡大させたものである。

 PHS端末と基地局との間は無線による通信がされるため,PHSは,携帯電話と同様,移動しながらの通話が可能であることが最大の特色である。

 (2)PHSのシステム構成には,NTT電話網の機能及びデータベースを活用してPHS事業を提供する方式である「NTT網依存型」とPHSの交換機から回線設備まですべてを備えたPHSのシステムをNTT電話網との間で網間接続する方式である「NTT網接続型」の2形態がある。

 (3)原告が行っているPHS事業は,NTT網依存型のシステムを採用しており,原告はNTT網依存型PHS事業者(活用型PHS事業者)である。

 NTT網依存型のシステムでは,PHSの加入者がPHS端末を利用して,固定電話と通話する場合の通信経路は,①PHS端末,②PHS事業者の設置する基地局,③NTTの設置するエントランス回線,④NTTの設置するPHS接続装置,⑤共同線通信網,NTT電話網等,⑥固定電話の順となる。

 PHS加入者同士が,PHS端末を利用して通話する場合の通信経路は,①PHS端末,②PHS事業者の設置する基地局,③NTTの設置するエントランス回線,④NTTの設置するPHS接続装置,⑤共同線通信網,NTT電話網等,⑥NTTの設置するPHS接続装置,⑦NTTの設置するエントランス回線,⑧PHS事業者の設置する基地局,⑨PHS端末の順となる。

 (4)PHSは,携帯電話と比較して,一つの基地局がカバーするエリアの半径が数百メートル程度と狭く,同一の範囲をカバーするためには,携帯電話よりも数多くの基地局を設置する必要がある。しかし,通信中に基地局の電波が受信することができなくなった場合に,自動的に他の基地局の電波に切り替えて通信を継続する機能であるハンドオーバー機能を用いることにより,PHS利用者は,一つの基地局がカバーするエリアから他の基地局がカバーするエリアへと移動しながら通話を行うことが可能である。もっとも,PHSは,一つの基地局がカバーするエリアの半径が狭いため,移動中に頻繁にハンドオーバーが発生し,機能が追随することができない可能性もあり,携帯電話に比較して,高速移動中の通話が困難である。

 (5)PHSにおいては,固定電話と異なり,PHS端末が移動するため,どの基地局から着信先のPHS端末を呼び出せばよいのかという情報を,そのPHS端末への実際の呼出しを行う前に把握しておく必要がある。

 そこで,PHS端末が位置登録に関する単位エリアを越えて移動した場合,新たな単位エリアの位置情報が,自動的に当該PHS端末から送出され,基地局,エントランス回線及びPHS接続装置を順に経由して,PHS制御局に伝送され,当該PHS端末の位置登録情報が更新される。

 NTTの設置するPHS制御局には,個々のPHS端末の位置登録情報が集積され,あるPHS端末の番号に電話がかけられた場合,当該PHS端末の位置として登録されている単位エリアに存在する基地局に呼出信号を流し,それらの基地局に呼出信号を発信させ,PHS端末による通話を開始させるという仕組みになっている。

 (6)PHSは,一つの基地局でカバーすることができる通信エリアが狭く,接続可能な回線数も少ないことから,各PHS事業者は,多数の基地局を広範囲に,かつ重畳的に配置することにより,PHSサービスの利便性を高めるよう努力している。

(二)PHS事業者とNTTの相互接続について(甲8から12まで,27,38,乙9,弁論の全趣旨)

 (1)本件接続約款の実施について

 本件資産の譲渡日当時,NTTの設置する電気通信設備は,電気通信事業法38条の2第1項に基づき,郵政大臣により,「他の電気通信事業者の電気通信設備との接続が利用者の利便の向上及び電気通信の総合的かつ合理的な発達に欠くことのできない電気通信設備」(指定電気通信設備)として指定されていた。なお,本件資産の譲渡日当時,NTTの電気通信設備以外に,指定電気通信設備として指定された電気通信設備はなかった。

 NTTは,電気通信事業法38条の2第2項に基づき,NTTが設置する指定電気通信設備と他の電気通信事業者(以下「他事業者」という。)の電気通信設備との接続に関し,NTTが取得すべき金額(以下「接続料」という。)及び接続の条件について,本件接続約款を定め,郵政大臣の認可を受けて,平成10年3月24日,本件接続約款を実施した。

 (2)本件接続約款の規定について

 本件接続約款には,以下のような規定がある(この項において,括弧内の条項等は本件接続約款の条項等を指す。)。

 ア 約款の適用

 NTTは,電気通信事業法38条の2第2項及び4項の規定に基づき,NTTの指定電気通信設備と他事業者の電気通信設備との相互接続に関し,接続料及び接続の条件について本件接続約款(料金表及び技術的条件集を含む。)を定め,これにより他事業者との間で,NTTの指定電気通信設備との接続に関する協定(以下「相互接続協定」といい,NTTと相互接続協定を締結した電気通信事業者を「協定事業者」という。)を締結し,NTTの指定電気通信設備との相互接続を行う(1条1項)。

 イ 定義

(ア)「電気通信サービス」とは,電気通信設備を使用して他人の通信を媒介すること,その他電気通信設備を他人の通信の用に供することを指す(3条の3欄)。

(イ)「相互接続点」とは,NTTと他事業者との間の相互接続協定に基づく接続に係る電気通信設備の接続点を指す(3条の4欄)。

(ウ)「相互接続通信」とは,相互接続点とNTTの利用者の端末設備間の通信,相互接続点相互間の通信であって,NTTの指定電気通信設備を経由するものを指し(3条の5欄),「他社相互接続通信」とは,相互接続点と協定事業者の利用者の端末設備間の通信又は相互接続点相互間の通信であって,協定事業者の電気通信設備を経由するものを指す(3条の6欄)。

(エ)「契約者」とは,NTT又は他事業者とNTT又は他事業者の契約約款に基づき契約を締結している者を指し(3条の33欄),「利用者」とは,NTT又は他事業者が提供する電気通信サービスを利用する者を指す(3条の34欄)。

(オ)「利用者料金」とは,利用者に提供される電気通信サービスに対して利用者が支払うべき料金を指す(3条の35欄)。

(カ)「役務区間合算料金」とは,相互接続通信及び他社相互接続通信において,役務提供区間にかかわらず,NTT又は協定事業者のうち特定の1の事業者が異なる電気通信事業者の役務提供区間を合わせて設定する利用者料金を指し(3条の36欄),「役務区間単位料金」とは相互接続通信及び他社相互接続通信において,NTT又は協定事業者が自己の役務提供区間ごとにそれぞれ設定する利用者料金を指す(3条の37欄)。

(キ)「加入者交換機」とは,電話サービス又は総合ディジタル通信サービスにおいて契約者回線又は端末回線を収容するNTTが指定する交換設備を指す(3条の45欄)。

(ク)「基地局回線」とは,NTTの通信用建物に設置するPHS接続装置又はNTTが指定する加入者交換機と活用型PHS事業者の設置する無線接続装置との間に設置される端末回線を指す(3条の57欄)。

(ケ)「PHS接続装置」とは,位置登録,一斉呼出等PHSシステム特有の接続制御手順を実現するためのNTTの設備であって,NTTの加入者交換機と基地局回線との間に設置されるものを指す(3条の58欄)。

 ウ 相互接続点の設置

 NTT及び接続申込者は,NTT又は接続申込者の契約者に対する電気通信役務の提供責任並びにNTTと接続申込者との固定資産及び保守の分界点とするために相互接続点を設置する(6条)。

 エ 接続により提供する機能

 NTTは,接続により,本件接続約款別表1(接続により提供する機能)の1―1に掲げる接続機能(端末回線伝送機能,端末系交換機能及び市内伝送機能等)を提供する(10条1項)。

 オ 接続の申込みと承諾

 接続申込者は,書面により,NTTに対して接続の申込みの意思表示を行い(19条1項),NTTは,①電気通信役務の円滑な提供に支障が生ずるおそれがあるとき,②その接続によりNTTの利益を不当に害するおそれがあるとき,③接続申込者が,接続に関し負担すべき金額の支払を怠り又は怠るおそれがあるとき,④接続に応ずるための電気通信回線設備の設置又は改修が技術的又は経済的に著しく困難であるときを除き,接続申込みを受け付けた順番に従って承諾する(20条1項)。

 カ 接続用設備の設置の申込みと承諾

 活用型PHS事業者である接続申込者は,NTTに対し,接続申込者の電気通信設備との接続に必要となるPHS接続装置又はPHS制御局の設置の申込みを行うことができる(21条1項)。接続申込者は,接続用設備の設置のために,PHS接続装置が設置されたNTTの通信用建物ごとの基地局回線の回線数等を記入した設備建設申込書を提出することを要する(22条2号)。NTTは,接続用設備の設置の申込みがあったときは,接続申込者が,接続に関し負担すべき金額の支払を怠り又は怠るおそれがあるとき,又は接続に応ずるための電気通信回線設備の設置又は改修が技術的又は経済的に著しく困難であるときを除き,その申込みを承諾する(23条1項)。NTTは,接続申込者と,接続対象地域,費用の概算額等の個別事項を含む個別建設契約を締結する(24条)。

 キ 基地局回線の申込み

 NTTは,活用型PHS事業者から基地局回線の申込みがあった場合には,PHS接続装置が設置されたNTTの通信用建物ごとにあらかじめ申し込まれた基地局回線の回線数を超えるときを除き,その申込みを承諾する(35条2項)。

 ク 相互接続協定の単位及び地位の移転

 NTTは,1の他事業者と1の相互接続協定を締結し(38条),協定事業者が電気通信事業の全部を譲渡することにより,相互接続協定上の地位を移転しようとする場合,NTTの承諾がなければ,その効力を生じない(39条1項)。

 ケ 接続料

 NTTが設定する接続料は,料金及び工事又は手続に関する費用とする(59条1項)。料金は,料金表第1表(接続料金)に規定する接続料金とし,これを網使用料及び網改造料に分類する(59条2項)。工事又は手続に関する費用は,料金表第2表(工事費及び手続費)に規定する工事費又は手続費とする(59条3項)。

 コ 網使用料

(ア)定額制の網使用料

 協定事業者は,NTTの指定電気通信設備の機能の利用を開始した期日を含む月から起算して,NTTの指定電気通信設備との接続を終了した期日を含む月の前月までの期間について,料金表第1表第1(網使用料)に規定する網使用料のうち月額で定める料金(以下「定額制の網使用料」という。)を支払うことを要する(61条1項)。

 本件接続約款第1表第1(網使用料)の2(料金額)の2―1(端末回線伝送機能)の区分「PHS基地局回線機能基地局回線により接続する機能」には,単位「1回線ごとに月額」,料金額「1741円」,備考「活用型PHS事業者に限り適用します」と規定されている。

(イ)従量制の網使用料

 NTTの指定電気通信設備との接続において,網使用料のうち定額制の網使用料以外のもの(以下「従量制の網使用料」という。)の支払を要する電気通信事業者は,接続形態ごとに,別表2第4表(従量制網使用料支払事業者)に規定するところによる(62条1項)。

 本件接続約款第1表第1(網使用料)の1(適用)の(2)には,NTTが利用者料金設定事業者となる接続形態に係る網使用料については,協定事業者はその支払を要しないと規定されている。

 サ 網改造料

 協定事業者は,PHS接続装置を利用して活用型PHS事業者に係る通信を行うことができるようにする機能(以下「PHS接続機能」という。)やPHS制御局を利用して活用型PHS事業者のPHS端末の位置登録等を行う機能(以下「PHS網制御機能」という。)等に係る電気通信設備が撤去されるまでの期間について,料金表第1表第2(網改造料)に規定する網改造料の支払を要する(63条1項)。

 シ 工事費

(ア)協定事業者は,本件接続約款35条に規定する工事の申込みの承諾を受けたときは,料金表第2表第1(工事費)に規定する工事費の支払を要する(64条1項)。協定事業者は,本件接続約款35条2項に規定する基地局回線の申込みの承諾を受けたときは,料金表第2表第2(手続費)に規定する手続費の支払を要する(65条2号)。

(イ)本件接続約款第2表第1(工事費)の2(工事費の額)の2―1(工事費)の区分「(11)PHS基地局回線設置工事費 活用型PHS事業者が基地局回線を設置する工事に要する費用」には,単位又は工事費の額「1基地局回線ごとに当社の電話サービス契約約款に規定する施設設置負担金に相当する額」,備考「活用型PHS事業者に限り適用します」と規定されている。

 NTTの電話サービス契約約款(以下「電話サービス約款」という。)料金表第2表(工事に関する費用)の第1(施設設置負担金)の2(施設設置負担金の額)の区分「加入電話」には,1契約者回線ごとの施設設置負担金の額について7万2000円と規定されている。

(ウ)本件接続約款第2表第2(手続費)の2―1(手続費)の区分「(1)PHS基地局回線設置手続費活用型PHS事業者が,基地局回線を設置する場合の手続きに要する費用」には,単位「1回線ごとに」,手続費の額「当社の電話サービス契約約款に規定する契約料に相当する額」,備考「活用型PHS事業者に限り適用します」と規定されている。

 そして,電話サービス約款料金表第1表第3(手続きに関する料金)の2(料金額)の料金種別「契約料」には,単位「1契約ごとに」,料金額「800円」と規定されている。

 ス 利用者料金の設定

 相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金には,役務区間合算料金又は役務区間単位料金がある(84条1項)。

 セ 利用者料金の請求

 相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金について,その料金債権を利用者に請求し,回収する電気通信事業者は,利用者料金が役務区間単位料金であるときは相互接続通信に係る利用者料金について,利用者料金が役務区間合算料金であるときは相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金について,その課金を行う(85条,87条1項)。

 ソ 利用者からの苦情に対する対応

 利用者料金を設定する電気通信事業者は,利用者からの通信料金若しくはサービス内容に関する問い合わせ又はその他の苦情の受付及び対応を行うことを要する(88条1項)。

 (3)エントランス回線について

 ア エントランス回線(基地局回線)は,活用型PHS事業者の設置する基地局とNTTの設置するPHS接続装置の間を接続する有線伝送路設備である。

 エントランス回線によってNTTと活用型PHS事業者のそれぞれの電気通信設備が相互接続されることにより,NTT又は活用型PHS事業者と契約し電気通信役務の提供を受けている一般利用者(以下「エンドユーザー」という。)は,エンドエンドのサービス(文字・画像・音声・データの情報のほか,位置登録情報,認証情報等の様々な制御情報を伝達するサービス)の提供を受けることができる。

 イ 活用型PHS事業者は,基地局とエントランス回線との相互接続点までの回線を所有しており,NTTは,相互接続点から先の回線及び相互接続点相互間の回線を所有している。

 ウ NTTは,エントランス回線を設置,所有しており,1回線ごとに基地局番号及び回線番号を付して保守,管理をしている。また,活用型PHS事業者は,エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをし,必要に応じて,エントランス回線1回線ごとに,移転工事を申し込んでいる。

(三)原告とPHS契約者の関係について(甲34,弁論の全趣旨)

 (1)PHSサービス契約約款(以下「PHSサービス約款」という。)の規定について

 原告のPHSサービス約款には,以下のような規定がある(この項において,括弧内の条項等はPHSサービス約款の条項等を指す。)。なお,本件営業譲渡契約以前のNTTパーソナルのPHSサービス約款もほぼ同様のものであった。

 ア 約款の適用

 原告は,電気通信事業法31条及び31条の4の規定に基づき,PHSサービス約款を定め,これによりPHSサービスを提供する(1条1項)。

 イ 定義

(ア)「PHSサービス」とは,PHSの基地局を開設して提供する電話網を使用した電気通信サービスを指す(3条の5欄,6欄)。

(イ)「契約者回線」とは,PHSサービスに係る契約に基づいて無線基地局設備と契約の申込者が指定する移動無線装置との間に設定される電気通信回線を指す(3条の25欄)。

(ウ)「相互接続点」とは,原告と原告以外の電気通信事業者との間の相互接続協定に基づく接続に係る電気通信設備の接続点を指す(3条の32欄)。

 ウ 原告が提供する通話

 原告の提供するPHSサービスに係る通話は,すべて契約者回線と相互接続点との間の相互接続通話である(41条)。

 エ 通話料

 原告の契約者回線から行った通話に関する料金は,その通話に係る他社相互接続通話(協定事業者の電気通信設備に係る通話をいう。)と合わせて定める(51条1項,43条)。相互接続通話に関する料金については,その通話を行った契約者回線の契約者が通話時間と料金表の規定に基づいて算定した額の支払を要する(51条1項1号)。

 オ 責任の制限

 原告又は協定事業者の責めに帰すべき理由により,PHSサービスの提供をしなかった場合には,原告がPHS契約者の損害を賠償する(70条1項)。

 (2)PHSの通話料について

 PHSの通話料は,①PHSの回線使用料としての「基本使用料」,②留守番電話サービス等の使用料としての「付加機能使用料」,③個々の通話料の合計金額としての「ダイヤル通話料」の合計であり,①及び②は毎月一定額となるが,③は利用状況により変化する。

 原告は,原告が提供するPHSサービスの契約者に対し,当該契約者による通話に用いられたNTTの電気通信設備に係る通話料を含んだ通話料を請求し,回収している。

(四)NTTが提供するサービスについて(甲33,乙7,8,弁論の全趣旨)

 NTTの電話サービス約款,専用サービス契約約款(以下「専用サービス約款」という。)及び平成11年7月1日にNTTから長距離電話事業等を承継したエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「NTTコミュニケーションズ」という。)が実施しているパケット交換サービス契約約款(以下「パケット交換サービス約款」という。)には,以下のような規定がある。

 (1)電話サービス約款

 ア 定義

(ア)「相互接続点」とは,NTTとNTT以外の第一種電気通信事業者又は第二種電気通信事業者との間の相互接続協定に基づく接続に係る電気通信設備の接続点を指す(電話サービス約款3条の19欄)。

(イ)「相互接続通話」とは,相互接続点との間の通話,相互接続点相互間の通話及びリルーティング通話等(協定事業者からのリルーティング指示信号等の指示信号に基づき,NTTの電話網内で接続する通話)を指す(電話サービス約款3条の27欄,28欄)。

 イ 契約の単位

 NTTは,契約者回線1回線ごとに1の加入電話契約を締結し,この場合,加入電話契約者は,1の加入電話契約につき一人に限る(電話サービス約款8条)。

 ウ 相互接続点との間の通話等

 相互接続通話は,相互接続協定に基づきNTTが別に定めた通話に限り行うことができる(電話サービス約款61条1項)。

 エ 相互接続通話の料金

 契約者,公衆電話の利用者又は相互接続通話の利用者は,相互接続協定に基づきNTT又は協定事業者の契約約款及び料金表に定めるところにより,相互接続通話に関する料金の支払を要する(電話サービス約款81条1項)。相互接続通話に係る料金の設定又はその請求については,NTT又は協定事業者が行うものとし,接続形態別の具体的な取扱いについては,相互接続協定に基づきNTTが別に定めるところによる(電話サービス約款81条2項)。

 (2)専用サービス約款

 ア 定義

 「専用サービス」とは,契約の申込み等により指定された区間においてNTTが設置する電気通信回線を使用して,符号,音響又は影像の電送を行う電気通信サービスを指す(専用サービス約款3条の3欄)。

 イ 契約の単位

 NTTは,専用回線1回線ごとに1の専用契約を締結する(専用サービス約款8条)。

 (3)パケット交換サービス約款

 ア 定義

 「パケット交換サービス」とは,主としてデータ通信の用に供することを目的としてパケット交換方式により符号の伝送交換を行うための電気通信回線設備(パケット交換網)を使用して行う電気通信サービスを指す(パケット交換サービス約款3条の3欄,4欄)。

 イ 契約の単位

 NTTコミュニケーションズは,他社接続契約者回線1回線ごとに1の第一種パケット交換契約を締結し,この場合,第一種パケット交換契約者は,1の第一種パケット交換契約につき一人に限る(パケット交換サービス約款9条)。

 

 

 

 

 

 

 

(五)原告又はNTTパーソナルと,NTT及びPHS契約者の関係について(甲8,34,36,弁論の全趣旨)

 (1)NTTパーソナルからPHS事業を譲り受けた原告は,本件接続約款及び本件接続協定に基づき,各エントランス回線の設置をNTTに申し込み,NTTが申込みを承諾して,一つのエントランス回線を設置するごとに,NTTに対して,工事費(施設設置負担金)7万2000円及び手続費(契約料)800円の合計7万2800円の本件設置負担金を支払う義務を負っている。

 本件設置負担金は,7万2800円の定額とされ,実際にかかった工事費用の額とは必ずしも連動していない。また,原告が,基地局が設置されている通信用建物と同一の通信用建物内における当該基地局の移設を申し込む場合,実費による工事費用の負担があるものの,新たに本件設置負担金を支払うことなくエントランス回線の設置をしてもらうことができる。

 

 (2)原告は,本件接続約款及び本件接続協定に基づき,エントランス回線1回線ごとに,定額制の網使用料1741円及び従量制の網使用料を毎月支払う義務を負うとともに,PHS接続機能やPHS制御機能等に関して,網改造料を毎月支払う義務を負っている。

 

 (3)原告とNTTとの間では,PHS発固定電話着の通話及び固定電話発PHS着の通話の両者ともに,原告が利用者料金設定を行うことになっているため,原告は,本件接続約款に基づき,NTTに対して従量制の網使用料の支払義務を負っている。ただし,例えばPHS端末から「0120」で始まるフリーダイヤルへの通話のように,NTTが利用者料金設定を行う通話については,NTTが原告に対して従量制の網使用料の支払義務を負っている。

 

 (4)原告は,NTTとの間において,PHS発の通話について,本件接続約款に基づき,PHSの契約者に対して,相互接続通信及び他社相互接続通信に係る利用者料金の請求及び回収を行っている。

 

 (5)原告は,NTTとの間において,利用者料金を設定する電気通信事業者であるため,本件接続約款に基づき,利用者からの通信料金若しくはサービス内容に関する問い合わせ又はその他の苦情の受付及び対応を行っている。

 

 また,原告は,原告のPHSサービス約款に基づき,原告又はNTTの責めに帰すべき理由により,PHSサービスの提供をしなかった場合には,原告がPHS契約者の損害を賠償する義務を負っている。

 

 (6)本件資産の譲渡日以前のNTTパーソナル,NTTとPHS契約者の関係は,上記の原告,NTT及びPHS契約者の関係と同様であった。

 

(六)原告による本件資産の取得及び本件設置負担金の支出並びに確定申告における処理について(甲1から4まで,17から22まで,乙1から4まで,弁論の全趣旨)

 

 

 

 (1)平成11年3月期

 ア NTTパーソナルは,本件資産の譲渡日までに,NTTに対し,15万3178回線のエントランス回線の設置を申し込んで,本件設置負担金を合計111億5135万8400円支払い,本件資産を有していた。

 原告は,本件営業譲渡契約により,NTTパーソナルから本件資産を代金額111億5135万8400円で取得した。

 イ 原告は,NTTに対し,平成11年3月期中に7159回線のエントランス回線の設置を申し込み,本件設置負担金合計5億2117万5200円を支払った。

 ウ 原告は,平成11年3月期の決算において,本件資産の取得価額111億5135万8400円及び本件設置負担金合計5億2117万5200円を合計した116億7253万3600円について,「施設保全費」として損金経理し,平成11年6月30日に,平成11年3月期確定申告をした。

 (2)平成12年3月期

 ア 原告は,NTTに対し,平成12年3月期中に1万8839回線のエントランス回線の設置を申し込み,本件設置負担金合計13億7147万9200円を支払った。

 イ 原告は,平成12年3月期の決算において,本件設置負担金合計13億7147万9200円について,「施設保全費」として損金経理した。

 ウ 原告は,平成12年3月期の法人税の確定申告について,平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため,①平成12年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計13億7147万9200円を申告加算し,②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額及び平成11年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計額について,「電気通信施設利用権(更正分)」として116億7724万3600円(そのうちエントランス回線に関する部分は116億7253万3600円)を申告減算するとともに,耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を超える金額に3610万5160円を申告加算して,平成12年6月30日に,平成12年3月期確定申告をした。

 

 

 (3)平成13年3月期

 ア 原告は,NTTに対し,平成13年3月期中に661回線のエントランス回線の設置を申し込み,本件設置負担金合計4812万0800円を支払った。

 イ 原告は,平成12年3月期の決算において,本件設置負担金合計4812万0800円について,「施設保全費」として損金経理した。

 ウ 原告は,平成13年3月期確定申告において,平成13年3月期の法人税について,平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため,①平成13年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計4818万5600円(4812万0800円とすべきところを誤って4818万5600円としたもの)を申告加算し,②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計額について,耐用年数20年の定額法により減価償却額を算定し,「減価償却超過(エントランス回線)」として6億5565万8640円を申告減算して,平成13年6月27日に,平成13年3月期確定申告をした。

 

 

 

(七)少額減価償却資産に関する規定の改正経緯について(甲29,31,弁論の全趣旨)

 (1)少額減価償却資産の取得価額の損金算入については,昭和22年に,法人税法施行細則において,「取得価額若しくは製作価額千円未満の固定資産を取得した場合において当該固定資産を固定資産として財産目録に記載しなかったとき」は,償却限度額に関する規定を適用しない旨の規定が新設された。

 (2)昭和26年改正において,上記規定の取得価額の上限が千円未満から1万円未満に引き上げられるとともに,「事業の開始又は拡張のために取得した固定資産」については,少額減価償却資産の取得価額の損金算入の規定は適用がないとされた。

 (3)昭和36年改正において,少額減価償却資産の取得価額の損金算入の規定が適用される固定資産について,「当該法人の業務の性質上基本的に重要な固定資産及び当該業務の固有の必要性に基づき大量に保有される固定資産」を除くと規定された。なお,「事業の開始又は拡張のために取得した固定資産」に関する上記規定は改正されなかった。

 そのため,①パチンコ屋のパチンコ台や貸衣装屋の貸衣装等のように業務の性質上基本的に重要なものや,②旅館の浴衣や運送業者のパレット等のように業務の固有の必要性に基づき大量に保有されるもの,③事業の開始又は拡張のために取得したもの等については,取得価額1万円未満の固定資産であっても,少額減価償却資産としての損金算入をすることはできないこととなっていた。

 (4)昭和39年改正によって,取得価額の上限が1万円未満から3万円未満に引き上げられた。

 (5)昭和42年改正において,「業務の固有の必要性に基づき大量に保有される固定資産」及び「事業の開始又は拡張のために取得した固定資産」についても,少額減価償却資産として,その取得価額を損金算入することができるようになった。しかし,前記の「業務の性質上基本的に重要な固定資産」については,取得価額3万円未満であってもその取得価額を損金算入することができないままとされた。

 (6)昭和45年改正において,取得価額の上限が3万円未満から5万円未満に引き上げられた。

 (7)昭和49年改正において,取得価額の上限が5万円未満から10万円未満に引き上げられるとともに,前記の「業務の性質上基本的に重要な固定資産」についても,取得価額が10万円未満であれば,少額減価償却資産として,その取得価額を損金算入することができるようになった。

 (8)現行の法人税法施行令133条について,法人税基本通達7―1―11(少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額)は,「令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》又は令第133条の2《一括償却資産の損金算入》の規定を適用する場合において,取得価額が10万円未満又は20万円未満であるかどうかは,通常1単位として取引されるその単位,例えば機械及び装置については1台又は1基ごとに,工具,器具及び備品については1個,1組又は1そろいごとに判定し,構築物のうち例えば枕木,電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する。」としている(以下,この通達を「本件通達」という。なお,本件通達中の「令」は法人税法施行令を指す。)。

 

 

 

 

 2 少額減価償却資産の取得価額の判定方法について

(一)法人税法31条に規定する減価償却の方法による減価償却資産の費用配分は,当該減価償却資産の取得価額を企業の事業活動の用に供した各事業年度に適正に配分することにより,毎期の損益計算を正確にするとともに,投下資本の回収を図ることを目的とするものである。

 そうすると,減価償却資産としての費用配分を行うためには,当該資産の事業への供用ができる状態,すなわち,当該企業の事業活動において,当該資産がその用役を提供し得る状態,更に正確に言えば,その資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価できることが必要である。

 

(二)法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産の損金算入の制度も,上記のような減価償却の費用配分の方法の特則である。したがって,少額減価償却資産の損金算入についても,当該減価償却資産が,当該企業の事業活動において,資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価できることが必要であると解すべきである。

 

 そうすると,少額減価償却資産に該当するか否かについても,一般的・客観的に,資産としての機能を発揮することができる単位を基準にその取得価額を判断するのが最も自然な考え方であるというべきである。

 

 

そして,事業活動において資産としての機能を発揮することができる状態にあると評価し得る物は,通常,その物単体で譲渡,取得等の取引が行われることがあるであろうから,このような機能の発揮を基準として資産の単位を判断することは,取引実態にもそぐいやすい上,恣意的な取扱いを排して,一般的・客観的な会計処理をすることを行いやすくするという意味でも,合理的である。

 

 

 

 さらに,前記認定事実のとおり,少額減価償却資産に関する規定の改正経緯を見ると,業務の性質上基本的に重要な固定資産や,業務の固有の必要性に基づき大量に保有される固定資産,事業の開始や拡張のために取得した固定資産については,少額減価償却資産に当たらないとされていた時期もあったが,現在では,そのような除外規定は存在していない。

 

 

そして,実質的に考えてみても,事業活動において,大量に取得したり,あるいは,多数のものを合わせて活用することが多いものであったとしても,事業上の資産としての機能を発揮し得る単位としての一個一個の単価が低廉なものは,通常は,時の経過による陳腐化や,買い換え,一部更新等の早いものが多いであろうから,減価償却資産の適正な費用配分を考える上で,いたずらにこのようなものを一まとめにして高額なものと評価して取り扱う必要はないというべきである。

 

 

 以上によると,少額減価償却資産に該当するか否かを判断するに当たっては,当該企業の事業活動において,一般的・客観的に,資産としての機能を発揮することができる単位を基準にその取得価額を判断すべきであって,業務の性質上基本的に重要であったり,事業の開始や拡張のために取得したものであったり,多数まとめて取得したものであるなどといったことは,上記のようにして取得価額を判断する上で考慮されるべき点ではないというべきである。

 

 

(三)本件通達は,法人税法施行令133条に規定する取得価額が10万円未満であるかどうかは,「通常1単位として取引されるその単位,例えば機械及び装置については1台又は1基ごとに,工具,器具及び備品については1個,1組又は1そろいごとに判定し,構築物のうち例えば枕木,電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する」としている。

 

 本件通達に規定されている資産について見てみると,機械及び装置は1台又は1基ごとに,工具,器具及び備品については一個,一組又は一そろいごとに,資産としての機能を果たすことから,通常それらを1単位として取引されるものである。

 

 また,枕木や電柱等については,枕木が設置されるべき場所から1本が抜かれれば,他の枕木がそのままであっても,その枕木上のレールを電車が安全に通過することができず,電線を支える電柱の1本が倒れれば,他の電柱がそのままであっても,その電線を用いた安全な送電をすることができないというように,1本単位では資産としての機能を果たすことができず,通常は1本単位で取引されることもないものである。そのため,通常,資産としての機能を果たすことができる単位であると考えられる一件の工事等を単位として取得価額を判定されるべきものである。

 

 そうすると,本件通達は,前示のとおり,一般的・客観的に,事業用資産としての機能を発揮することができるかどうかを基準として,減価償却資産の取得価額を判断すべきであるという判断方法につき,例を挙げて,これを具体的に示したものとして,その内容は正当であるというべきである。

 

 なお,本件通達に規定されていない資産のうち,例えば,レンタルビデオ事業におけるレンタルビデオテープについて考えてみると,レンタルビデオ事業を営むためには,レンタルビデオテープの種類を多数そろえるとともに,人気のある種類については複数そろえておくことが必要である。しかし,レンタルビデオテープは,1本単位でレンタルされ,視聴されるものであるから,1本のレンタルビデオテープのみで資産として一般的・客観的に独立して機能しているということができ,1本を単位として,その取得価額が判定されるべきものである。

 

 

このように,事業のために多数そろえておくことが通常必要な資産であっても,一つ一つが独立して機能しているものについては,その一つ一つを単位として法人税法施行令133条の取得価額を判定するのが相当である。

 

 

 

 3 本件資産の機能,性質について

(一)本件においては,本件資産,すなわち,施設利用権等のうちエントランス回線に関するもの,数量15万3178,譲渡価額111億5135万8400円が,一個の取得価額が10万円未満のものとして,法人税法施行令133条に規定する少額減価償却資産に該当するか否かが争われている。

 

 この点につき,被告は,本件資産は,本件接続協定に基づきNTTのネットワークを利用してNTTから電気通信役務の提供を受けることができるという一個の権利,すなわち本件接続協定上の地位であり,NTTパーソナルが,このような地位の取得費用である権利金的な性格を有する本件設置負担金を支払い,原告が本件設置負担金相当額の対価を支払ってNTTパーソナルから上記の一個の地位の譲渡を受けたことにより,NTTから上記電気通信役務の提供を受けることができるようになったものであるから,本件資産の取得価額,すなわち上記一個の地位の取得価額は,これを基地局回線(エントランス回線)の数によって算定した111億5135万8400円である旨主張する。

 

 これに対し,原告は,NTTパーソナルが本件設置負担金の支払により取得した権利は,相互接続のためのエントランス回線を利用する権利であって,原告はNTTパーソナルからこの権利15万3178回線分である本件資産を譲り受けたものであるから,その取得価額はエントランス回線1回線ごとに見るべきであり,その額は7万2800円である旨主張する。

 

 そこで,本件資産の取得価額を判断するために,まず,本件資産,ひいてはエントランス回線利用権なるものがどのような権利であるかについて検討することとする。

 

 

 

 

(二)NTTとNTTパーソナル及び原告との関係

 まず,電気通信事業における全国ネットワークを有するNTTと活用型PHS事業者であるNTTパーソナル及び原告との関係について検討することとする。

 (1)電気通信事業法2条3号は,「電気通信役務」の意義を「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること」と定義している。そして,電気通信役務の代表的な例が電話である。従来の固定電話の場合,電気通信事業者Bと契約する発信者Aの端末から,Bの所有する回線を経て,同じくBと契約する受信者Cの端末へと電気通信が媒介されるというのが最も単純な図式である。この場合に,Bの所有する回線が「電気通信設備」に当たり,BがエンドユーザーであるA及びCに提供する役務が「電気通信役務」に当たることは,上記規定の文言上,明らかである。

 (2)しかし,現在の電気通信事業が,このような単純な方式にとどまらず,複数の電気通信事業者の介在する種々の通信媒介方式が生まれてきていることは,公知の事実である。

 本件のような活用型PHS事業者が媒介するPHSサービスの場合には,前記前提となる事実及び前記認定事実に照らすと,発信者Aの端末と受信者Cの端末との間に,無線中継,基地局,エントランス回線,PHS接続装置,共同線通信網等の多数の装置等が設けられ,電気通信がこれらを経由しており,エンドユーザーである発信者Aの契約している電気通信事業者と,上記共同線通信網等を所有する電気通信事業者が異なる場合も多いことが予想される。

 そのため電気通信事業法は,エンドユーザーに対して電気通信役務の提供を行っている複数の電気通信事業者による相互接続について定めている(同法38条)。

 そして,本件においても,前記認定事実のとおり,NTTは,本件接続約款を設けた上,他の電気通信事業者との間で,NTTの指定電気通信設備との相互接続に関する協定を締結して,NTTの指定電気通信設備との相互接続を行い,相互接続により,端末回線伝送機能,端末系交換機能及び市内伝送機能等を提供することと規定されている(本件接続約款1条,10条)。そして,NTTとNTTパーソナル及び原告は,本件接続約款に従い,本件接続協定を締結して,NTTがそのネットワークをNTTパーソナル又は原告にも利用させることにより,PHS事業を展開していたわけである。

 (3)このように見てくると,現在の複数の電気通信事業者が介在し得る電気通信においては,電気通信役務の提供に関する契約関係は,エンドユーザーと一つの電気通信事業者との間において成立しているのみならず,複数の電気通信事業者間においても,接続協定等により,一定の役務を行う権利義務関係や対価の支払を含む契約関係が発生していると解すべきである。

 (4)本件の場合も,前記認定事実に照らすと,活用型PHS事業者であるNTTパーソナル及び原告と,これらと相互接続して,自社のネットワークを提供しているNTTのシステム全体を見れば,NTTパーソナル又は原告は,相互接続協定の締結及びエントランス回線の申込みとNTTの承諾に基づき,NTTパーソナル又は原告の設置した基地局とNTTの設置したPHS接続装置及び共同線通信網とをつなぐNTT所有のエントランス回線(基地局回線)の設置費用を含む一定の対価,すなわち工事費(施設設置負担金)7万2000円及び手続費(手数料)800円の合計額7万2800円を負担することにより,電気通信設備である当該エントランス回線を利用して,NTTパーソナル又は原告と契約する発信者AのPHS端末からの通信をNTTのネットワークに乗せ,NTTから所定の機能の提供を受けることにより,Aからの通信を受信者Cに伝達するというPHS事業を展開しているということができる。

 そうすると,NTTパーソナル及び同社から本件資産を譲り受けて譲渡の承諾も得た原告は,自己の契約者Aの発信した通信を,無線中継と自己の設置した基地局を経由した上,電気通信設備であるNTT所有のエントランス回線を利用して,NTT所有のPHS接続装置,共同線通信網等へと媒介し,もって,NTTをして,NTTパーソナル又は原告の契約したエンドユーザーであるAに電気通信役務を提供させる権利を取得し,NTTにその対価を支払う義務を負担しているものと解すべきである。

 

(三)原告がNTTパーソナルから取得した権利の機能,性質

 以上によれば,原告がNTTパーソナルから取得した上記権利は,本件接続約款及び本件接続協定を前提とするものではあるが,本件接続協定上の地位などといった抽象的ないし包括的なものではなく,NTTパーソナル又は原告がNTTに対して有する,PHSサービス契約を締結した自社の契約者に,個別の当該エントランス回線を利用して,NTTのPHS接続装置,共同線通信網等と相互接続し,NTTのネットワークを利用して電気通信役務を提供させる権利(以下「本件エントランス回線利用権」という。)であり,この権利を得るための対価として,NTTパーソナル及び原告は,エントランス回線1回線につき,7万2800円の工事費(施設設置負担金)及び手数料(契約料)を支払っているものというべきである。

 

 

 4 本件資産の取得価額について

(一)以上を前提として検討するに,原告は,NTTパーソナルから,NTTのPHS接続装置等と相互接続し,NTTのネットワークを利用して,自己のPHS契約者に対して電気通信役務を提供させる権利である本件エントランス回線利用権15万3178回線分を本件資産として譲り受けたということができる。

(二)そして,前記認定事実に照らすと,本件エントランス回線利用権は,活用型PHS事業者である原告にとって,PHS事業を行う上で,必要不可欠の重要な資産である。

 また,PHSは,携帯電話と比較して,一つの基地局がカバーするエリアの半径が数百メートル程度と狭いため,活用型PHS事業者は,同一の範囲をカバーするためには,携帯電話よりも数多くの基地局を設置する必要があり,PHS利用者の通話の利便性のためには,PHS事業の営業地域内において,相当数の基地局を設置して,エントランス回線を設置することが必要である。さらに,PHSは,一つの基地局でカバーすることができる通信エリアが狭く,接続可能な回線数も少ないことから,各PHS事業者は,多数の基地局を広範囲に,かつ,重畳的に配置することにより,PHSサービスの利便性を高めるよう努力しているのである。

 しかしながら,前記認定事実によると,エントランス回線は,一定の範囲内をカバーする1基地局のみを対象としてその機能を発揮するものであり,一個のエントランス回線があれば,当該基地局のエリア内においてPHS利用者がPHS端末から固定電話又は携帯電話に通話することに支障はないし,また,固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末との間で通話することにも支障はないと認めることができる。このように,前記工事費及び手続費からなる本件設置負担金をNTTに支払って取得した本件エントランス回線利用権の機能は,単体のエントランス回線の利用によって発揮することができる。

(三)そうすると,本件エントランス回線利用権は,NTTパーソナル又は原告の事業活動において,一般的・客観的には,1回線で,基地局とPHS接続装置との間の相互接続を行うという機能を発揮することができるものであるから,その取得価額は,NTTパーソナルの場合も,また,これをまとめて同社から譲り受けた原告の場合も,エントランス回線1回線の単価である7万2800円であると認めるのが相当である。

 

 

 

 

 

 

 5 被告の主張について

(一)以上に対し,被告は,本件資産は,本件接続協定に基づきNTTから電気通信役務の提供を受けることができるという一個の本件接続協定上の地位であるなどとして,その取得価額を111億5135万8400円と主張するので,以下検討する。

(二)本件接続協定上の一個の地位について

 (1)被告は,NTTパーソナルがNTTに支払った本件設置負担金は,エントランス回線設置のための工事費等の実費を負担するものではなく,NTTのネットワークを利用することができるという本件接続協定上の地位を取得し,NTTのネットワークへの出入口となる相互接続点を設けるごとに工事費等の名目で7万2800円をNTTに対し負担したものであって,本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するというべきである旨主張するので,まず,この点について検討する。

 (2)前記前提事実及び前記認定事実に加え,弁論の全趣旨を総合すると,①活用型PHS事業者であるNTTパーソナルは,PHS事業を行うために,NTTの設置するPHS接続装置,PHS制御局等の設備及びその機能を活用することが必要不可欠であったこと,②活用型PHS事業者がNTTと相互接続をするためには,本件接続約款に基づき,NTTの指定電気通信設備との間で相互接続協定を締結する必要があること(本件接続約款1条1項),③本件接続約款は,一つの電気通信事業者と一つの相互接続協定を締結することとしており,相互接続協定上の地位の移転にはNTTの承諾が必要であること(本件接続約款38条,39条1項),④NTTとNTTパーソナルの相互接続においては,NTTとNTTパーソナルが,それぞれ利用者に対し,相互接続点を責任分界点として,自己の電気通信設備に関する電気通信役務を提供する関係であったこと,⑤NTTパーソナルがNTTと相互接続するためには,NTTが設置するPHS接続装置とNTTパーソナルが設置する基地局との間に,有線伝送路設備であるエントランス回線を設置する必要があること,⑥このようなエントランス回線をNTTに設置してもらうためには,まずNTTとの間で相互接続協定を締結しなければならないこと,⑦本件接続約款に基づく相互接続協定を締結する際,NTTパーソナルからNTTに対して何の対価の支払もされていないこと,⑧電気通信事業法及び本件接続約款において,NTTは相互接続及びエントランス回線の設置の申込みに対し,原則として承諾する義務を負っていること(電気通信事業法38条,本件接続約款20条1項),⑨NTTパーソナルは,基地局とエントランス回線との相互接続点までの回線を所有し,NTTは,相互接続点から先の回線及び相互接続点相互間の回線を所有していること,⑩NTTは,エントランス回線を設置,所有しており,1回線ごとに基地局番号及び回線番号を付して保守,管理をしており,NTTパーソナルは,エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをし,必要に応じて,エントランス回線1回線ごとに,移転工事を申し込んでいたこと,⑪NTTパーソナルは,本件接続約款及び本件接続協定に基づき,エントランス回線の設置をNTTに申し込み,NTTが申込みを承諾して,エントランス回線を設置するごとに,NTTに対して,工事費(施設設置負担金)7万2000円及び手続費(契約料)800円の合計7万2800円の本件設置負担金の支払義務を負っていたこと,⑫本件設置負担金は,7万2800円の定額とされ,エントランス回線の設置の際に実際に支出した工事費用等の額とは連動しておらず,基地局が設置されている通信用建物と同一の通信用建物内における当該基地局の移設を申し込む場合には,新たに本件設置負担金を支払うことなくエントランス回線の設置を受けることができたこと,⑬NTTパーソナルは,本件接続約款及び本件接続協定に基づき,エントランス回線1回線ごとに,定額制の網使用料1741円及び従量制の網使用料を毎月支払う義務を負うとともに,PHS接続機能やPHS制御機能等に関して,網改造料を毎月支払う義務を負っていたことを認めることができる。

 (3)以上のとおりの活用型PHS事業におけるエントランス回線の重要性,エントランス回線の機能と性質及び所有・管理の状況,本件接続約款及び本件接続協定の内容,相互接続及びエントランス回線の申込みと承諾,相互接続に関する接続料等の有無と内容等に照らすと,①NTTパーソナルが活用型PHS事業を行うためには,NTTと相互接続することが必要不可欠であり,②NTTパーソナルが,NTTと相互接続するためには,一つの相互接続協定を締結し,相互接続協定に基づいてエントランス回線を設置してもらう必要があり,相互接続協定の締結がエントランス回線設置の前提となっており,③しかし,相互接続協定が締結されたとしても,エントランス回線が設置されなければ,NTTパーソナルの基地局等とNTTのネットワークとの間を相互接続することは不可能であって,相互接続協定を締結するのみでは意味がないのであり,④エントランス回線は1回線ごとに管理されており,エントランス回線を設置してもらうには,エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをするとともに,7万2800円の本件設置負担金を支払う必要があり,⑤本件設置負担金を支出してエントランス回線を設置してもらうことにより,初めて当該エントランス回線を利用した相互接続が可能となり,財産的価値が生ずるということができ,⑥NTTパーソナルは,エントランス回線の設置の際に本件設置負担金を支払うとともに,その後当該エントランス回線を利用して通信を行うために,定額制の網使用料及び従量制の網使用料の支払を行ってきたということができる。

 他方,NTTパーソナルは,NTTと相互接続協定を締結したのみでは,エントランス回線により物理的に相互接続がされていないことから,活用型PHS事業を行うことは不可能であり,相互接続をするためには,個々のエントランス回線を設置することが不可欠である。そして,相互接続協定の締結には何らの対価も必要なく,また,原則としてNTTは相互接続を承諾する義務を負っていることからすると,相互接続協定の締結のみでは,いまだ具体的な財産的価値はなく,本件設置負担金を支払って個々のエントランス回線が設置されることによって,当該エントランス回線を利用した相互接続が可能となり,初めて具体的な財産的価値も生ずると見るべきである。

 また,個々のエントランス回線の設置について見ると,NTTパーソナルは,エントランス回線1回線ごとに設置の申込みをし,本件設置負担金を支払うとともに,その後も,エントランス回線を利用するために,当該エントランス回線についての網使用料を支払う必要があったものである。

 (4)このように見てくると,NTTパーソナルが活用型PHS事業を行うためには,NTTとの間で相互接続協定を締結した上で,本件設置負担金を支払ってエントランス回線を設置してもらい,当該エントランス回線を利用してNTTの指定電気通信設備と相互接続することが必要不可欠であり,相互接続協定の締結自体は,エントランス回線の設置の前提にすぎないというべきである。

 そうすると,本件設置負担金は,NTTパーソナル又は原告が,個々のエントランス回線を利用して相互接続を可能とし,NTTをして,NTTパーソナル又は原告のPHS契約者に電気通信役務を提供させる権利を取得するために支払われるものであるというべきである。

 したがって,前述したとおり,NTTパーソナル又は原告は,本件設置負担金を支払うことによって,財産上の具体的な権利である,個々のエントランス回線を用いてNTTのネットワークと相互接続し,NTTをして,エンドユーザーに電気通信役務を提供させる権利,すなわち本件エントランス回線利用権を取得したものというべきである。

 (5)これと異なり,被告は,本件設置負担金が7万2800円の定額とされ,実際の工事費用の額とは連動していない上,基地局が設置されている通信用建物と同一の通信用建物内における当該基地局の移設を申し込む場合には,新たに本件設置負担金を支払うことなくエントランス回線の設置を受けることができることからすれば,NTTパーソナルが支払った本件設置負担金は,本件接続協定上の地位の取得費用すなわち権利金的な性格を有するものである旨主張する。

 しかしながら,前示のとおり,相互接続協定の締結のみでは具体的な財産的価値はなく,本件接続協定上の地位を有していても,個々のエントランス回線の設置がされなければ,相互接続は不可能であることからすると,本件設置負担金は個々のエントランス回線の設置と利用のために支払われたものであって,単に本件接続協定上の地位を取得するための費用の支払であると考えることはできないというべきである。

 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

(三)相互接続協定ごとの権利の成立について

 (1)被告は,電話サービス約款,専用サービス約款及びパケット交換サービス約款(以下,これらを合わせて「電話サービス約款等」という。)の規定と本件接続約款の規定の違いによれば,相互接続における他事業者の接続する権利は,相互接続協定ごとに成立する旨主張する。

 確かに,前記認定事実のとおり,電話サービス約款等においては,それぞれの契約が1回線ごとに成立する旨明示的に規定されており,本件接続約款は,これらとは規定ぶりが異なる。

 しかしながら,電気通信事業者の間でのみ締結される相互接続協定と,エンドユーザーと締結されることもある電話サービス契約,専用サービス契約及びパケット交換サービス契約(以下,これらを合わせて「電話サービス契約等」という。)を同様に考えることはできない。

 また,NTTパーソナルは,本件営業譲渡契約を締結した時点で,電話加入権は1250回線,専用線は56回線,パケット回線は50回線しか有していなかったのに対し,エントランス回線は15万3178回線有していたものである。エントランス回線は,活用型PHS事業者がNTTと相互接続をするために設置されるものであり,PHSサービスの利便性を高めるために多数設置されるものである。これに対して,電話サービス契約等においては,エントランス回線のような特殊性は存在しない。

 したがって,電話サービス契約等と相互接続協定を同列に考えることはできず,電話サービス約款等の規定との対比により,本件エントランス回線利用権の取得価額を判定する単位に影響を及ぼすことはできないというべきである。

 

 

 

 

 6 本件資産の少額減価償却資産該当性

(一)以上検討してきたところによると,本件資産は,本件エントランス回線利用権15万3178回線分であり,その取得価額は,個々の本件エントランス回線利用権の取得価額である7万2800円であるというべきである。

 したがって,本件資産の取得価額は,10万円未満であるから,本件資産の取得価額は,少額減価償却資産の取得価額として,事業の用に供した事業年度である平成11年3月期において,その金額を損金の額に算入することができるというべきである。

(二)(1)ところで,少額減価償却資産に該当するというためには,そもそも,法人税法2条23号,法人税法施行令13条にいう減価償却資産に該当する必要があるので,念のためこの点についても判断することとする。

 (2)原告は,本件エントランス回線利用権が法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信施設利用権」に該当する旨主張する。

 そこで検討するに,法人税法施行令13条8号ソは,前記のとおり,電気通信施設利用権について,「電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第12条第1項(事業の開始の義務)に規定する第一種電気通信事業者に対して同法第41条第1項(電気通信設備の維持)に規定する事業用電気通信設備の設置に要する費用を負担し,その設備を利用して同法第2条第3号(定義)に規定する電気通信役務の提供を受ける権利(電話加入権及びこれに準ずる権利を除く。)」と定義している。

 そうすると,NTTから電気通信役務の提供を直接受けているのは,NTTパーソナル又は原告等と契約したエンドユーザーであるから,NTTパーソナル又は原告は,NTTから電気通信役務の提供を受けておらず,そもそも,本件エントランス回線利用権は,法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信役務の提供を受ける権利」に該当しないのではないかという見方もあり得ないではない。

 (3)しかし,既に述べたとおり,現在の電気通信事業は,電気通信事業者Bと契約する発信者Aの端末から,Bの所有する回線を経て,同じくBと契約する受信者Cの端末へ電気通信が媒介されるという単純な方式だけでなく,エンドユーザーであるAの端末とCの端末との間に,無線中継や複数の電気通信事業者の所有する電気通信設備が介在して,通信が媒介され,その複数の通信事業者間で,電気通信役務の提供に関する契約関係が成立し,対価の支払も行われていることも多いのである。

 そうすると,エントランス回線の使用により,電気通信事業者であるNTTの所有するPHS接続装置等と相互接続し,NTTのネットワークを利用して,NTTをして,自己のPHS契約者に電気通信役務を提供させることのできる権利である本件エントランス回線利用権も,既に判示したネットワークの実態,契約関係,対価の支払等に照らせば,「費用を負担し,その設備を利用して…(中略)…電気通信役務の提供を受ける権利」に含まれると解すべきである。直接に電気通信役務の提供を受ける者が自社ではなく,自社の契約するエンドユーザーであることは,上記解釈を妨げるものではないと解すべきである。

 (4)また,法人税法施行令13条8号ソの趣旨に照らして,より実質的に考察してみても,「電気通信施設利用権」は,権利であって,時の経過や使用によって価値が減少するものではないかのように見えるにもかかわらず,法人税法施行令13条8号ソが「電気通信施設利用権」を減価償却資産とした趣旨は,当該権利について市場が形成されているわけではなく,また,一般にその利用形態が専用的なものであって,営業譲渡等の場合でなければ譲渡によって投下資本を回収することも事実上困難であるため,償却を認めることによって投下資本を費用配分することが合理的と考えられたことにあると解される。

 そうすると,前記認定事実のとおり,本件エントランス回線利用権は,活用型PHS事業者がNTTと相互接続を行うときのみに取得される権利であって,専らPHS事業を行う目的で,活用型PHS事業者のみが利用するものであることや,原則として電気通信事業の譲渡とともにしか譲渡することができないことからすると,本件エントランス回線利用権については,法人税法施行令13条8号ソが「電気通信施設利用権」を減価償却資産とした趣旨に合致するものというべきである。

 また,仮に,本件エントランス回線利用権が「電気通信施設利用権」に該当しないとすると,法人税法施行令13条には,本件エントランス回線利用権が該当すると考えられる規定は他に存在しないから,本件エントランス回線利用権については,減価償却資産に該当しないことになり,減価償却を行うことができなくなってしまう。これは,前記の法人税法施行令13条8号ソの趣旨に照らして,著しく不当な結果を招くものであるというべきである。

 (5)また,本件エントランス回線利用権は,電話加入権及びこれに準ずる権利には,当たらないと解すべきである。以上によると,本件エントランス回線利用権については,法人税法施行令13条8号ソに規定する「電気通信施設利用権」として,減価償却資産に該当するというべきである。

(三)以上によれば,本件資産は,法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に該当する。

 

 

 

 

 

 

 7 原告が直接NTTに支払った本件設置負担金について

(一)被告は,エントランス回線を増設すると,NTTのネットワークへの相互接続点が増加し,利用可能区域の拡大又は高密度化をもたらし,NTTから電気通信役務の提供を受ける権利である本件資産の価値を高めるということできるから,原告のNTTに対する本件設置負担金の支出は,法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当する旨主張する。

(二)しかしながら,被告の主張は,本件資産が本件接続協定上の一個の地位であることを前提とするものであるところ,前示のとおり,本件資産については,個々のエントランス回線ごとにその単位を考えるべきであるから,被告の主張は前提を欠くものというべきである。

 

 また,前示のとおり,本件設置負担金の支払によりNTTパーソナル又は原告は,本件エントランス回線利用権を個別に取得するものであるから,本件エントランス回線利権が追加的に取得されたとしても,既に取得されていた本件エントランス回線利用権に何らかの改良等が加えられ,価値が増大するものではない。

 

 そうすると,本件資産の取得後に,原告が,本件エントランス回線利用権を追加取得するために支払った本件設置負担金は,法人税法施行令132条2号の資本的支出に該当するということはできず,個々の本件エントランス回線利用権の取得価額に当たるというべきである。

 

 そして,その取得価額は7万2800円であって,10万円未満であるから,法人税法施行令133条所定の少額減価償却資産に該当し,事業の用に供された事業年度である平成11年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

 

 

 8 平成11年3月期更正の適法性について

(一)以上のとおり,本件資産の取得価額及び平成11年3月期中に直接NTTに支払った本件設置負担金は,少額減価償却資産の取得価額として,平成11年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

 そうすると,原告の平成11年3月期の所得金額は1052億4355万9696円,納付すべき法人税額は339億0032万0500円となる。この所得金額及び納付すべき法人税額の計算根拠は,以下のとおりである。

 (1)所得金額    1052億4355万9696円

 上記金額は,次のア及びイの各金額を合計し,ウの金額を控除した金額である。

 ア 申告所得金額   1043億5977万5400円

 上記金額は,原告の平成11年3月期確定申告書に記載された所得金額である。

 イ 所得金額に加算すべき金額

               9億1032万2418円

 上記金額は,原告の平成11年3月期の所得金額に加算されるべき金額であって,当事者間に争いがないものである。

 ウ 所得金額から減算すべき金額 2653万8122円

 上記金額は,原告の平成11年3月期の所得金額から減算すべき金額であって,当事者間に争いがないものである。

 (2)所得金額に対する法人税額

          363億0902万7855円

 上記金額は,前記(1)の所得金額(通則法118条1項の規定に基づき千円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)に法人税法66条1項に規定する税率100分の34.5を乗じて計算した金額である。

 (3)法人税額の特別控除額 19億3954万1222円

 上記金額は,原告が平成11年3月期確定申告書に記載した法人税額の特別控除額であって,当事者間に争いがないものである。

 (4)法人税額から控除される所得税額等

            4億6916万6125円

 上記金額は,法人税法68条1項(ただし,平成15年法律第8号による改正前のもの)に規定する法人税額から控除される所得税額であって,当事者間に争いがないものである。

 (5)納付すべき法人税額 339億0032万0500円

 上記金額は,前記(2)の金額から前記(3)及び(4)の金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

 (6)確定申告に係る法人税額

          335億9541万5000円

 上記金額は,原告が平成11年3月期確定申告書に記載した法人税額である。

 (7)差引納付すべき法人税額

            3億0490万5500円

 上記金額は,前記(5)の金額から前記(6)の金額を差し引いた金額である。

(二)以上のとおり,平成11年3月期における原告の納付すべき法人税額は前記(一)(5)記載の339億0032万0500円であり,平成11年3月期更正により認定された法人税額378億6136万5500円を下回る。

 したがって,平成11年3月期更正のうち,納付すべき法人税額339億0032万0500円を超える部分は,違法であって,取り消されるべきである。

 9 平成11年3月期賦課決定の適法性について

 原告の平成11年3月期における法人税に係る過少申告加算税の額は,前記8(一)(7)記載の3億0490万5500円を基礎として,3億0490万円(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に対して,通則法65条1項に規定する100分の10の割合を乗じて算定した3049万円となる。

 そうすると,平成11年3月期賦課決定における過少申告加算税の額4億2659万5000円は,上記の法定の計算による過少申告加算税の額3049万円を上回る。

 したがって,平成11年3月期賦課決定のうち,過少申告加算税3049万円を超える部分は違法であって,取り消されるべきである。

 10 平成12年3月期通知処分の適法性について

(一)前記認定事実によると,原告は,平成12年3月期の法人税について,平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため,①平成12年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計13億7147万9200円について,損金の額に算入した後に申告加算し,②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額及び平成11年にNTTに支払った本件設置負担金合計額について,「電気通信施設利用権(更正分)」として116億7724万3600円(そのうちエントランス回線に関する部分は116億7253万3600円)として申告減算するとともに,耐用年数20年の定額法により算定した減価償却限度額を超える金額について,「減価償却超過額エントランス(更正分)」として110億8890万6920円を申告加算して,平成12年3月期確定申告をしたものである。

(二)前示のとおり,原告が平成12年3月期中に直接NTTに支払った本件設置負担金は,少額減価償却資産の取得価額として,平成12年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。そうすると,平成12年3月期確定申告における処理のうち,前記(一)①の平成12年3月期にNTTに支払った本件設置負担金合計13億7147万9200円を申告加算した処理は是正されるべきものである。

(三)また,前示のとおり,本件資産の取得価額及び平成11年3月期中に直接NTTに支払った本件設置負担金についても,同様に少額減価償却資産の取得価額として,平成11年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

 原告は,平成12年3月期通知処分の取消しの訴えについて,平成12年3月期確定申告における処理のうち前記(一)②の処理の是正を明示的には求めていないが,前示のとおり,平成11年3月期更正が取り消されるべきである以上,平成11年3月期更正(取消前)を前提として原告が行った前記(一)②の処理は,その根拠を失うものであって,是正されるべきものである。

(四)そこで,平成12年3月期確定申告における処理を上記のとおり是正した場合,原告の平成12年3月期の所得金額は2555億2717万4650円,納付すべき法人税額は730億8680万7000円となる。この所得金額及び納付すべき法人税額の計算根拠は,以下のとおりである。

 (1)所得金額   2555億2717万4650円

 上記金額は,次のアの金額から次のイ及びウの金額を差し引いた上で,次のエ及びオの金額を加算した金額である。

 ア 平成12年3月期通知処分における所得金額

           2562億6468万4759円

 上記金額は,国税不服審判所長が平成12年3月期裁決において認定した所得金額であり,平成12年3月期について確定している原告の所得金額である。

 イ 平成12年3月期において支出された本件設置負担金の合計額

             13億7147万9200円

 上記金額は,原告が平成12年3月期確定申告において「減価償却超過額エントランス(11年度分)」として申告加算した金額である。

 ウ 「減価償却超過額エントランス(更正分)」として申告加算された金額

            110億8890万6920円

 上記金額は,原告が平成12年3月期確定申告において申告加算した金額である。

 エ 前記イの金額のうち,平成12年3月期裁決において,平成12年3月期通知処分の一部取消しの基礎に用いられた金額 5034万2411円

 上記金額は,前記イの金額のうち,平成12年3月期裁決において,所得金額に含まれるべきではないと認定され,前記アの金額の計算において既に控除されている金額であり,前記アの金額から前記イの金額を単純に差し引いただけであると,二重に控除されてしまう金額なので,足し戻しているものである。

 オ 「電気通信施設利用権(更正分)」として申告減算された金額のうちエントランス回線に関する部分      116億7253万3600円

 上記金額は,原告が平成12年3月期確定申告において申告減算した金額である。

 (2)所得金額に対する法人税額

          766億5815万2200円

 上記金額は,前記(1)の所得金額(通則法118条1項の規定に基づき千円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)に法人税法66条1項に規定する税率100分の30(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律16条1項による置き換え後のもの)を乗じて計算した金額である。

 (3)法人税額の特別控除額 32億3804万0598円

 上記金額は,法人税額から控除される特別控除額であって,当事者間に争いがないものである。

 (4)法人税額から控除される所得税額等

                3億3330万4559円

 上記金額は,法人税法68条1項に規定する法人税額から控除される所得税額であって,当事者間に争いがないものである。

 (5)納付すべき法人税額 730億8680万7000円

 上記金額は,前記(2)の金額から,前記(3)及び(4)の各金額を差し引いた金額(通則法119条1項の規定に基づき百円未満の端数金額を切り捨てた後のもの)である。

(五)以上のとおり,平成12年3月期における原告の納付すべき法人税額は730億8680万7000円であり,平成12年3月期更正により認定された法人税額733億0806万円を下回るから,平成12年3月期更正のうち,納付すべき法人税額730億8680万7000円を超える部分は,違法であって,取り消されるべきである。

 11 平成13年3月期通知処分の適法性について

(一)前記認定事実によると,原告は,平成13年3月期の法人税について,平成11年3月期更正(取消前)と同様の理由により更正を受けることを避けるため,①平成13年3月期中に直接NTTに支払った本件設置負担金合計4818万5600円(正しくは4812万0800円とすべきところを誤って4818万5600円としたもの)について,損金の額に算入した後に申告加算し,②平成11年3月期に取得した本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期中に直接NTTに支払った本件設置負担金合計額について,平成11年3月期更正(取消前)を前提として減価償却額を算定し,「減価償却超過(エントランス回線)」として6億5565万8640円を申告減算して,平成13年3月期確定申告をしたものである。

(二)前示のとおり,原告が平成13年3月期中に直接NTTに支払った本件設置負担金は,少額減価償却資産の取得価額として,平成13年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。そうすると,平成13年3月期確定申告における処理のうち,前記(一)①の平成13年3月期中直接にNTTに支払った本件設置負担金合計4818万5600円を申告加算した処理は是正されるべきものである。

(三)また,前示のとおり,本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期中に直接NTTに支払った本件設置負担金についても同様に,少額減価償却資産の取得価額として,それぞれ平成11年3月期及び平成12年3月期において損金の額に算入することができるというべきである。

 原告は,平成13年3月期通知処分の取消しの訴えについて,平成13年3月期確定申告における処理のうち前記(一)②の処理の是正を明示的には求めていないが,前示のとおり,平成11年3月期更正が取り消されるべきである以上,平成11年3月期更正(取消前)を前提として原告が行った前記(一)②の処理は,その根拠を失うものであって,是正されるべきものである。

 そこで,平成13年3月期確定申告における処理を上記のとおり是正した場合,原告の平成13年3月期の所得金額は,以下のとおり,2849億0183万1849円となる。

 (1)平成13年3月期再更正における所得金額

            2842億9333万7791円

 上記金額は,国税不服審判所長が平成13年3月期裁決において認定した所得金額であり,原告の平成13年3月期について確定している所得金額である。

 (2)平成12年3月期において支出された本件設置負担金の合計額

                 4818万5600円

 上記金額は,原告が平成13年3月期確定申告において「減価償却超過(エントランス回線)」として申告加算した金額である。

 (3)前記(2)の金額のうち,平成13年3月期裁決において,平成13年3月期再更正の一部取消しの基礎に用いられた金額 102万1018円

 上記金額は,前記(2)の金額のうち,平成13年3月期裁決において所得金額に含まれるべきではないと認定され,前記(1)の金額の計算において既に控除されている金額であり,前記(1)の金額から前記(2)の金額を単純に差し引いただけであると,二重に控除されていることとなってしまう金額なので,足し戻しているものである。

 (4)「減価償却超過(エントランス回線)」として申告減算した金額

               6億5565万8640円

 上記金額は,原告が,平成11年3月期更正(取消前)を前提として,本件資産の取得価額並びに平成11年3月期及び平成12年3月期にNTTに支払った本件設置負担金について,耐用年数20年の定額法により減価償却額を算定し,申告減算したものである。

 (5)所得金額    2849億0183万1849円

 上記金額は,前記(1)の金額に前記(3)及び(4)の各金額を加算し,前記(2)の金額を差し引いた金額である。

(四)以上のとおり,平成13年3月期確定申告における処理を是正した場合の所得金額は2849億0183万1849円であり,平成13年3月期再更正における所得金額2842億9333万7791円を上回る。

 したがって,平成13年3月期通知処分は適法というべきである。

 三 結論

 以上によれば,平成12年3月期賦課決定,平成13年3月期賦課決定及び平成13年3月期再更正の各取消しを求める訴えは,不適法であるから,いずれも却下することとし,平成11年3月期更正のうち納付すべき法人税額339億0032万0500円を超える部分,平成11年3月期賦課決定のうち過少申告加算税3049万円を超える部分,及び平成12年3月期通知処分のうち納付すべき法人税額730億8680万7000円を超える部分は,いずれも違法であるから,これらをその限度で一部取り消すこととし,原告のその余の請求(平成13年3月期通知処分の取消しを求める請求全部を含む。)は,理由がないから,いずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官・菅野博之,裁判官・鈴木正紀 裁判官・馬場俊宏は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官・菅野博之)

 

 別紙 1,2〈省略〉

 別表 1,2,3〈省略〉