脱税工作費用の損金性(1)

 

 

法人税法違反被告事件

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/昭和61年(特わ)第2421号

 

【判決日付】 昭和62年12月15日

 

【判示事項】 1、いわゆる脱税経費が法人税法における損金に算入されないとした事例

       3、脱税事件における実刑事例

 

 

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集48巻6号174頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 

一 被告人甲を懲役一年八月に処する。

  

二 被告人株式会社Aを罰金六五○○万円に、被告人B販売株式会社を罰金七八○○万円に、被告人株式会社Cを罰金九○○万円に、それぞれ処する。

 

       

 

 

理   由

 

 

 

 (罪となるべき事実)

 

 被告人株式会社A(以下被告会社Aという。)は、もと株式会社Dという商号で資本金一○〇万円の会社であったが、昭和五三年夏ころ、被告人甲が、乙から譲り受け、商号をAに変更するとともに不動産売買等を目的とし、本店を東京都新宿区新宿《番地略》の甲野ビル内に置き、資本金を四○○万円に増額してその代表取締役となり、その後資本金を逐次増額して同五七年二月一三日以後は三○○○万円、同五八年五月一三日以後は五○○○万円(なお、同六二年八月一三日、分離前の相被告人株式会社Eを吸収合併して資本金を五五○○万円とした)とし、同六〇年五月一〇日、本店を同都新宿区新宿《番地略》に移転し、同六一年二月一日被告人甲に代わって丙が代表取締役に就任して現在に至っているもの、被告人B販売株式会社(以下、被告会社B販売という。)は、同五八年一月一〇日、被告人甲が不動産売買等を目的とし、商号を株式会社F、資本金一○○○万円、本店を同都新宿区新宿《番地略》として設立し、その代表取締役に就任した会社であり、その後、同五八年七月一日、商号を株式会社G、本店を同都渋谷区道玄坂《番地略》と変更し、同月二二日資本金を三○○○万円に増額し、さらに同五九年五月二日、商号をB販売株式会社に、本店を同都渋谷区道玄坂《番地略》に変更し、同六〇年五月一日被告人甲に代わって丙が代表取締役に就任して現在に至っているもの、

 

 被告人株式会社C(以下被告会社Cという。)は、同五四年六月二〇日、被告人甲が、不動産売買等を目的とし、資本金三○○○万円、本店を同都豊島区東池袋《番地略》として設立し、その代表取締役に就任し、その後同五八年五月一三日資本金を五○○○万円に増額し、同五九年一〇月三一日本店を同区東池袋《番地略》に移転し、同六〇年五月一日被告人甲に代わって丙が代表取締役に就任して現在に至っているもの。

 

 被告人甲は、前記被告会社三社及び分離前の相被告人株式会社E(被告人甲が同五五年三月七日、不動産管理・遊技場・ホテルの経営等を目的とし、商号を株式会社H、資本金を五○○万円、本店を同都新宿区新宿《番地略》として設立し、同被告人が代表取締役に就任した会社であり、その後同五八年九月六日商号を株式会社Eと変更し、同六〇年三月六日本店を同都豊島区巣鴨《番地略》に移転し、同六〇年五月一日戊が代表取締役に就任し、同六一年二月一日被告人甲が代表取締役を辞任し、同年一〇月一日丙が代表取締役に就任したが、同六二年八月一三日被告会社Aに吸収合併されて解散した。以下たんに株式会社Eという。)の代表取締役としてこれら会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人甲は、

 

 第一 被告会社Aの業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を繰り延べ、あるいは架空造成費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

 

 一 昭和五七年一〇月一日から同五八年九月三〇日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が三億○四五二万八四九二円で、課税土地譲渡利益金額が三億○三七五万六○○○円あった(別紙1の(1)修正損益計算書及び別紙5の(1)ほ脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五八年一一月三〇日、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七六八二万九四三四円で、課税土地譲渡利益金額が一三五六万七○○○円であり、これに対する法人税額が三○三四万○三○〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億八三九九万六一○〇円と右申告税額との差額一億五三六五万五八○〇円(別紙5の(1)ほ脱税額計算書参照)を免れ

 

 二 昭和五八年一〇月一日から同五九年九月三〇日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が四億六八二○万五九九五円で、課税土地譲渡利益金額が三○五二万七○○○円あった(別紙1の(2)修正損益計算書及び別紙5の(2)ほ脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五九年一一月三〇日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億五四八八万九七○六円で、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額が一億五○一一万四○○○円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法廷の納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二億○三一四万六一○○円と右申告税額との差額五三○三万二一○○円(別紙5の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れ

 

 第二 被告会社B販売の業務に関し、法人税を免れようと企て、仕入を水増し、あるいは架空支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

 

 一 昭和五八年一月一〇日から同年一一月三〇日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が一億一三一六万三五七一円で、課税三地譲渡利益金額が九六六四万二○○○円あった(別紙2の(1)修正損益計算書及び別紙6の(1)ほ脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五九年一月三一日、同都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二二九四万四九五二円で、課税土地譲渡利益金額が二六一六万円であり、これに対する法人税額が一三九八万三九○○円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六五九七万二三○○円と右申告税額との差額五一九八万八四○○円(別紙6の(1)ほ脱税額計算書参照)を免れ

 

 二 昭和五八年一二月一日から同五九年一一月三〇日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が四億七九一四万四四一六円で、課税土地譲渡利益金額が四億○七一七万三○○○円あった(別紙2の(2)修正損益計算書及び別紙6の(2)ほ脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六〇年一月三一日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億○八一二万七五九四円で、課税土地譲渡利益金額が八四九八万九○○○円であり、これに対する法人税額が六二五三万五二○○円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二億八七六一万五六○○円と右申告税額との差額二億二五○八万○四○○円(別紙6の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れ

 

 第三 被告会社Cの業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の販売促進費・支払手数料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が一億一四八七万○九七六円で、課税土地譲渡利益金額が一億○九三六万五○○○円あった(別紙3修正損益計算書及び別紙7ほ脱税額計算書参照)のにかかわらず、同五八年五月三一日、同都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五六五九万八二七七円で、課税土地譲渡利益金額が六○九五万八○○○円であり、これに対する法人税額が三四七一万九七○○円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六八八六万六七○○円と右申告税額との差額三四一四万七○○○円(別紙7ほ脱税額計算書参照)を免れ

 

 第四 株式会社Eの業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注費・給料手当を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五七年一〇月一日から同五八年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が八五九八万七一一四円あった(別紙4修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年一一月三〇日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七五八万七一一四円でこれに対する法人税額が一○五五万六一○○円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三五○八万○一○○円と右申告税額との差額二四五二万四○○○円(別紙8ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

 

 

 

 (証拠の標目)《略》

 

 

 

 

 

 

(争点に対する判断)

 

 

弁護人らは、判示第一の一及び二の事実につき、被告会社Aは、架空造成費の計上に伴い、丁に対し、昭和五八年九月期において二○○万円、同五九年九月期において一七○○万円を手数料として支払っているが、これらは同会社の右各事業年度における損金であるからいずれも所得から控除されるべきであると主張し、検察官は、これらはいずれも法人税法二二条三項所定の損金にあたらないと主張する。

 

 

 そこで検討すると、関係証拠によれば、被告人甲は、昭和五八年春以降被告会社Aの業務に関し、簿外資金等に充てるため、架空の造成費を計上して土地の仕入価格を水増ししようと企て、知人の丁に依頼して、I興産またはJ興産等の名義で造成工事に関する架空の見積書、請求書を提出させ、これに基づき被告会社の寅経理部長に指示して架空造成費を計上させたうえ、支払依頼書を作成させ、いったんI興産等に対し小切手で支払ったうえ、丁から架空の領収書を徴すると共に、協力手数料(一回一○○万円)を差引いた残額を現金で返戻させ、株式の購入資金等に充てていたこと、このようにして被告会社Aは、右丁の関係で、昭和五八年九月期において四一七二万八○○○円、同五九年九月期において二億四二九一万四二○○円の架空造成費を計上し、その謝礼ないし手数料として同人に対し、同五八年九月期において合計二○○万円、同五九年九月期において合計一七○○万円を支払つたことがそれぞれ明らかである。

 

 

 法人税法二二条三項は、「損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。」として、

 

 一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額

 二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(中略)の額

 三 当該事業 度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

と規定し、同条四項は、「(前略)前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定している。

 

 右法人税法二二条四項は、昭和四二年五月の法人税法の改正により新設されたものであるが、その趣旨は、課税所得の計算については、一般に行われている企業会計の原則や慣行について、税法独自の見地からこれに修正を加えるべきものは別段の定めを設けることによって対応しうるものと考え、

 

 

別段の定めがないものについては、一般に客観的・常識的にみて規範性をもつと認められる会計処理の基準というものが存在する限り、それに従って計算するという従来からの税法の基本的態度を明らかにしたものであって、同項の新設によって、税法が独自の所得計算を放棄したものでもなく、また、一般に行われている会計処理基準をすべてそのまま法人税法が容認するというものではなく、ましてや大蔵省所管の企業会計審議会が公表している「企業会計原則」が、そのまますべて法人税法において課税所得計算の基礎として規範化されたと考えるのは正当ではない。

 

 

本件において、被告会社Aが丁に支払った手数料なるものは、同会社の会計処理上土地造成費として販売用土地の仕入原価を構成するものとされているが、右部分が法人税法二二条三項一号所定の原価に含まれないことは多言を要しないし、また同項二号の費用とは、事業活動との直接的関連性を有し、事業遂行上必要なものに限られるべきであるから、本件の手数料のように事業遂行上必要とはいえないものは、右の費用に含まれないものといわなければならない。

 

 

これをより実質的にいえば、法人の役員が法人の事業活動によって生ずる利益を税務当局に秘匿するため、協力者に金員を支払うことは、取締役の忠実義務に違反し、法人の正当な業務とはいえないから、これを支出する場合には、役員個人の負担において支出するのが当然であり、したがって、法人の経理上その支払が法人の費用とされている場合でも、役員の負担分を立替支出したものと考えざるを得ないものである。

 

かりに、本件の如き脱税協力者への支払も広義において事業との関連性を有するもので、事業遂行上必要な費用であるとの会計慣行が存するとすれば、それは法人税法が課税所得の計算に関し容認する公正妥当な会計処理の基準とはとうていなり得ないものといわなければならない。

 

そもそも法人税法は、わが国法人税に関する基本法であって、法人税に関するすべての納税義務者が、同法の定めるところに従って誠実に納税義務を履行するよう期待し、不正行為によって法人税を免れる行為を刑罰をもって禁喝しているのであるから、法人税法は、右不正行為を行うこと及びこれにからむ費用を支出すること自体を禁止しているものと解すべく、

 

 

したがって、法人が右のような費用を支出しても、法人の費用としては容認しない態度を明らかにしているものと解すべきである。

 

 

そして、かかる不正行為への協力者は概ね法人役員等の脱税の共犯となるものであり、したがって、法人役員が法人の業務に関し、脱税協力者に手数料等の名目で報酬を支払ったとしても、

 

それは実質的にみれば、共犯者間の利益の分配にほかならないのであるから、

 

脱税のための不正行為を行う役員の負担において支出するならともかく、明文の禁止規定がないからといって、これを法人の費用として損金に計上することを認容することは法解釈の矛盾といわなければならない。

 

 

 

次に、右の支出が法人税法二二条三項所定の損失に該当するか否かを検討するに、損失とは企業会計上は一般に企業活動において、通常の活動とは無関係に発生する臨時的ないしは予測困難な原因に基づき発生する純資産の減少をいうものと解され、固定資産除去損、火災損失、風水害損失、盗難損失の如きものを指称するとされているが、本件における右手数料の如く実質上脱税協力報酬として法人外に流出した金員の如きは、右の通常の意味における損失には含まれないものと解される。

 

 

かりに、企業会計上の損失概念を右よりも広義に解し、すべての臨時的な純資産の減少を含ましめる会計慣行が存在するとすれば、それは公正妥当な会計処理の基準として法人税法の容認するところではないものというべきである。

 

 

なお、最高裁判所大法廷昭和四三年一一月一三日判決(民事判例集二二巻一二号二四四九頁)は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)九条一項所定の損金の解釈として、「法人の純資産減少の原因となる事実のすべてが、当然に、法人所得金額の計算上損金に算入されるべきものとはいえない」とし、「仮りに経済的・実質的には事業経費であるとしても、そのような事業経費の支出自体が法律上禁止されているような場合には、少くとも法人税法上の取扱いのうえでは、損金に算入することは許されない」と判示しているところ、

 

法人税法はその後改正されて課税所得金額の計算に関し、二二条一項ないし四項が設けられ、さらに昭和四二年の改正において同条四項(公正妥当な会計処理基準の採用)が追加されて現在に至っているものであるが、

 

右改正及び二二条四項の新設によって、法人税法上の課税所得の計算に関する姿勢に変更があったとはとうてい解することができないのであり、

 

右最高裁判決がアメリカ税法におけるいわゆる公序の理論をわが国法人税法の解釈として一般的に採用したか否かはともかくとして、

 

右最高裁判決に示された法理は、少くとも本件の如く法人税法自体がその支出を禁止しているものについては、一層強く妥当するものといわなければならない。

 

 

 以上のとおりであるから、本件において、被告会社Aが丁に支払った前記一九〇○万円は、右被告会社の課税所得の計算上法人税法二二条三項二号所定の費用としても同項三号所定の損失としても損金に算入することはできないものであり、このように解しても憲法八四条に違反するものではない。

 

 

 

 

  (法令の適用)

 法律に照らすと、被告会社Aの判示第一の各所為、被告会社B販売の判示第二の各所為、被告会社Cの判示第三の所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、いずれも情状により同法一五九条二項を適用し、被告会社A及び被告会社B販売につき、以上はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下において処断し、被告人甲の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一○条により犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断し、後記量刑の事情記載のとおり、被告人甲を懲役一年八月に、被告会社Aを罰金六五○○万円に、被告会社B販売を罰金七八○○万円に、被告会社Cを罰金九○○万円に処することとする。

 

 

  (量刑の事情)

 本件は、判示被告会社Aを中核とし、被告会社B販売、被告会社C、株式会社Eのほか、K株式会社、株式会社L企画、株式会社M、株式会社NなどいわゆるAグループ各社を支配統括する被告人甲が、判示のとおり被告会社らの業務に関し、計画的に敢行した大規模な法人税脱税事犯である。その内容を概括すると、被告会社Aにおいては、昭和五八年九月期と同五九年九月期の二事業年度で、合計三億四一○○万円余の所得を秘匿し(うち課税土地譲渡利益金額は三億二○七○万円余)、合計二億○六六八万円余の法人税を免れ、被告会社B販売においては、同五八年一一月期と同五九年一一月期の二事業年度で、合計四億六一二三万円余の所得を秘匿し(うち課税土地譲渡利益金額は三億九二六○万円余)、合計二億七七○六万円余の法人税を免れ、被告会社Cにおいては、同五八年三月期で五八二七万円余の所得を秘匿し(うち課税土地譲渡利益金額は四八四○万円余)、三四一四万円余の法人税を免れ、株式会社Eにおいては、同五八年八月期で五八四○万円余の所得を秘匿し、二四五二万円余の法人税を免れたものであって、その総ほ脱税額は、五億四二四二万円余に達する巨額なものであり、その税ほ脱率は、通算で六四パーセント強に達している。本件に至る経緯をみると、被告人甲は、昭和四〇年ころから不動産関係の会社に勤務したのち、0株式会社を設立し、宅地の分譲販売を業としたが、同社は、同五一年二月ころ購入土地の造成工事代金を支払えなかった等が原因となって約三億円の負債を抱えて倒産した。その後同被告人は、休眠会社であったK株式会社の実質経営者として不動産売買の仲介等を行い、同五三年夏ころ、乙から休眠会社であった株式会社Dを譲り受け、被告会社Aと商号を変更し、主として千葉県内の宅地分譲を行い、業績が順調に推移したことから、次々と新会社を設立したり休眠会社を譲り受ける等して事業を拡大したが、被告人甲は、かつてO株式会社が資金不足により倒産したことにかんがみ、旧債務の返済資金や現事業における余裕資金を確保するため、被告会社Aの昭和五四年九月期の決算ころから、売上除外、仕入の過大計上等の方法により脱税を行ない、税務調査により同五五年六月約二○○○万円の増差所得につき修正申告したのを初めとして、その後も毎年少額の過少申告を行なって税務署の指摘を受けていたが、同被告人は、被告会社らの業績が大幅に伸長するに伴ない引き続き余裕資金の蓄積等を目的とし、さらに事業を急速に多角化して不況に備えようとし、ホテル事業等への投資資金等に充てる等の目的もあって、さらに多額の脱税を企図して本件脱税を敢行したものである。本件犯行の態様をみると、被告会社Aにおいては、各期中において、多額の架空造成費(五八年九月期約九○○○万円、五九年九月期約二億六六○○万円)を計上して、除外した利益を株式取引の資金等に充て、従業員に対する架空の給料手当(五八年九月期約一八九○万円)を計上して簿外役員報酬等に充て、同様の目的で、多額の仮払金を計上(五八年九月期三七○○万円、五九年九月期二四○○万円、いずれも期末に架空支払手数料に振替)し、さらに期末において寅経理部長に公表利益の削減を指示し、売上繰延べ、仕入繰延べ、期末商品棚卸高除外、架空販売促進費の計上等の不正経理をさせ、被告会社B販売においては、期中において従業員に対する架空の給料手当(五八年一一月期約三五九○万円、五九年一一月期約一二六○万円)や架空販売促進費(五八年一一月期約七○○万円)を計上したほか、決算時期において、期中に遡って多額の架空仕入(五九年一一月期約三億六九九○万円)を計上し、架空支払手数料(五八年一一月期約五四三○万円)、架空雑費等(五九年一一月期約三二○万円)を計上して前同様の使途ないし増資資金等に充て、被告会社Cにおいては、期中において架空給料(約二七○万円)を計上すると共に期末において架空販売促進費及び架空支払手数料(合計約五七九○万円)を計上し、株式会社Eにおいては、期末において、関与税理士等に指示して架空外注費、架空役員報酬、架空給料手当等(合計約五八○○万円)を計上したものであって、その態様は概ね計画的かつ大胆で、手段・方法もかなり悪質である。

 

 以上のような本件各犯行の罪質、動機、経緯、態様、犯行の結果等にかんがみると、被告人甲の刑事責任は軽視することができないのであり、本件の動機等に関し、弁護人主張の企業の体質強化、旧債務の返済、旺盛な資金需要があったこと、法人に対する土地重課税は、被告会社ら不動産会社の内部留保を困難にすること、また具体的な不正行為の一部に関与税理士の示唆が認められること、被告人甲は、本件の税務調査が着手されるや、直ちに非を認め、その後の査察調査及び検察官の取調べ、さらには起訴後の当裁判所の審理を通じ一貫して犯行を自白し改悛の情を示していること、ほ脱の結果については、修正申告のうえ本税及び附帯税の全額を納付していること、被告会社らはその後経理体制を改善し、関与税理士ともども公正な納税義務の履行に努めるよう確約していること、被告人には、昭和五二年二月豊島簡易裁判所において、労働基準法違反罪(賃金不払)により罰金五万円に処せられた以外には前科・前歴がないこと、贖罪のため上智社会事業団に一○○○万円を寄付したこと等被告人甲のため斟酌すべき諸事情を斟酌しても同被告人を主文掲記の刑に処することは止むを得ない。

 

 なお、関係証拠によると、分離前の被告人株式会社Eは、前記のとおり、審理中の昭和六二年八月一三日被告会社Aに合併されて解散しており、被告人たる法人が存続しなくなったため、当裁判所は同会社につき昭和六二年一二月一〇日刑濤法三三九条一項四号により公訴棄却決定をしたが、同会社の権利義務を承継した被告会社Aに対し、右会社に対し科すべき罰金相当額を科することとする。

 

 (求刑 被告会社Aにつき罰金八○○○万円、被告会社B販売につき罰金九○○○万円、被告会社Cにつき罰金一○○○万円、被告人甲につき懲役二年六月)

 

 よって、主文のとおり判決する。

 

 検察官 井上經敏

 弁護人 榊原卓郎(主任)、佐藤義行、武山信良、小松哲各出席

         (裁料官 小泉祐康)