オウブンシャホールディング事件(3)

 

 

 

法人税更正処分等取消請求事件

 

 

 

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成16年(行ヒ)第128号

 

【判決日付】 平成18年1月24日

 

【判示事項】 親会社が子会社に新株の有利発行をさせて親会社の保有する子会社株式に表章された資産価値を上記発行を受けた関連会社に移転させたことが親会社の益金の額の計算において法人税法22条2項にいう取引に当たるとされた事例

 

 

【掲載誌】  訟務月報53巻10号2946頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

       

 

 

理   由

 

 

第1 事案の概要

 1 本件は,上告人がオランダにおいて設立した100%出資の子会社であるA社が,その発行済株式総数の15倍の新株を上告人の関連会社であるB社に著しく有利な価額で発行したことに関して,被上告人が,上告人の有するA社株式の資産価値のうち上記新株発行によってB社に移転したものを,上告人のB社に対する寄附金と認定して,上告人の平成6年10月1日から同7年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の増額更正及びこれに係る過少申告加算税賦課決定をしたことから,上告人が,上記更正のうち申告額を超える部分及び上記賦課決定(以下「本件各処分」という。)の取消しを求める事案である。

 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1)上告人は,平成3年9月,その保有するC放送株式会社(以下「テレビC」という。)株式3559株,株式会社D放送(以下「D放送」という。)株式15万株及び現金を出資して,オランダにおいて100%出資の子会社であるA社を設立し,同社の株式200株の発行を受けた。同社は,持株会社としての活動,融資,投資等を目的としていたが,事業所や従業員を有しないいわゆるペーパーカンパニーである。

 (2)財団法人Eは,平成7年2月当時,上告人の発行済株式の49.6%を保有する筆頭株主であったが,同月13日,オランダにおいて100%出資の子会社であるB社を設立した。当時,Fは,上告人の取締役相談役,財団法人Eの理事長,A社の代表取締役及びB社の取締役であり,Gは,上告人の代表取締役,財団法人Eの評議員,A社の代表取締役及びB社の取締役であった。

 (3)A社は,平成7年2月13日,株主総会において,300万ギルダー増資し,発行する3000株(1株の額面金額1000ギルダー)全部を303万0303ギルダー(1ギルダー58.17円換算で1億7627万2725円相当)でB社に割り当てる旨の決議をし,その払込みを受けて同社に上記3000株を発行した。これにより,同社は,A社の発行済株式の93.75%を保有するに至り,一方,上告人のA社に対する持株割合は,100%から6.25%に減少した。この持株割合の変化は,上記各法人,その役員等が意思を相通じた結果であり,上告人は,B社との合意に基づき,A社の資産につき株主として保有する持分93.75%を失い,B社がこれを取得した。これにより,A社の増資前の資産価値の100%と増資後の資産価値の6.25%との差額が,上告人からB社に移転したが,その移転について,上告人がB社から対価を得ることはなかった。

 (4)平成7年2月当時,D放送は,株式会社Hテレビジョン(以下「Hテレビ」という。)株式1万0020株及びオランダ法人であるI社の株式200株を保有し,I社は,Hテレビ株式4500株を保有していた。また,当時,A社,テレビC,D放送,I社及びHテレビの各株式は,非上場株式であり,気配相場や独立当事者間の適当な売買実例がなく,その公開の途上になく,各社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人はなかった。

 (5)国税庁長官の発出した昭和44年5月1日付け直審(法)25「法人税基本通達」(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)は,「売買実例のあるもの」,「公開途上にある株式で,当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出しが行われるもの」及び「売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類,規模,収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの」に該当しない非上場株式で気配相場のないものにつき,法人税法(平成17年法律第21号による改正前のもの)33条2項の規定を適用する場合の事業年度終了の時における当該株式の価額は,「当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によるものとしている。そして,同通達9―1―15は,法人が非上場株式で気配相場のないもの(「売買実例のあるもの」及び「公開途上にある株式で,当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出しが行われるもの」を除く。)について同項の規定を適用する場合において,事業年度終了の時における当該株式の価額につき,国税庁長官の発出した昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17「財産評価基本通達」の178から189―6までの例によって算定した価額によっているときは,課税上弊害がない限り,所定の条件を付してこれを認めるものとし,この条件の一つとして,財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)185本文に定める1株当たりの純資産価額の計算に当たり,当該株式の発行会社が有する土地を相続税路線価ではなく時価により評価するものとしている。

 (6)取引相場のない株式の価額について,財産評価基本通達(平成10年課評2―10,課資2―264による改正前のもの)178本文,179は,評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を大会社,中会社及び小会社に区分し,類似業種比準価額による評価(以下「類似業種比準方式」という。),1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)による評価等を定めているが,同通達178ただし書,財産評価基本通達(平成15年課評2―15,課資2―5,課審5―9による改正前のもの)188,財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)188―2は,「同族株主以外の株主等が取得した株式」については,配当還元価額による評価(以下「配当還元方式」という。)によるものとしている。

 (7)財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)185は,上記の1株当たりの純資産価額を,課税時期における各資産を同通達に定めるところにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び財産評価基本通達(平成10年課評2―5,課資2―240による改正前のもの)186―2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額(以下「法人税額等相当額」という。)を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とすると定めている。そして,同通達186―2は,法人税額等相当額を,「課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額の合計額(中略)から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額」から「各資産の帳簿価額の合計額(中略)から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額」を控除した残額に51%を乗じて計算した金額とすると定めている。

 なお,財産評価基本通達(平成11年課評2―12,課資2―271による改正前のもの)186―3は,評価会社について上記の1株当たりの純資産価額を算定するに当たって,評価会社が取引相場のない株式を保有する場合には,同株式の1株当たりの純資産価額の算定において法人税額等相当額を控除しないことを定めている。

 (8)財産評価基本通達(平成15年課評2―15,課資2―5,課審5―9による改正前のもの)188(1)は,配当還元方式により評価すべき「同族株主以外の株主等が取得した株式」の一つとして,「同族株主のいる会社の株主のうち,同族株主以外の株主の取得した株式」を挙げ,この同族株主とは,評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令(平成15年政令第131号による改正前のもの)4条に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の30%(評価会社の株主のうち,株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が,その会社の発行済株式数の50%以上である会社にあっては,50%)以上である場合におけるその株主及びその同族関係者をいうものとしている。

 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり本件各処分に違法はないと判断して,上告人の請求を棄却した。

 (1)法人税法22条2項にいう取引とは,関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念と解される。上告人は,B社との合意に基づき,A社の資産につき株主として有する持分93.75%を喪失し,B社がこれを取得したから,上告人とB社との合意により,上告人の保有するA社株式200株が表章していた資産価値の相当部分(同社の増資前の資産価値の100%と増資後の資産価値の6.25%との差額)がB社に移転したものということができる。これは,同項に定める無償による資産の譲渡又はその他の取引に当たり,上記のとおり移転した資産価値は,上告人の本件事業年度の益金の額に算入される。

 (2)A社株式は,非上場株式であり,気配相場や独立当事者間の適当な売買実例がなく,その公開の途上になく,同社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人はなかった。そして,同社は,含み益を有する土地を所有するテレビC及びD放送の各株式を保有しているから,A社株式の価額を財産評価基本通達に定める評価方法の例によって算定することには,課税上弊害がある。したがって,同株式については,法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)により,時価純資産価額方式(資産及び負債を時価により評価して純資産価額を算出し,1株当たりの価額を算出する方法)により評価すべきである(なお,法人税額等相当額は控除しない。)。

 (3)A社が保有するテレビC株式及びD放送株式,D放送が保有するI社株式並びにD放送及びI社がそれぞれ保有するHテレビ株式は,非上場株式であり,気配相場や独立当事者間の適当な売買実例がなく,その公開の途上になく,各社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人はなかった。その評価は,A社株式と同様,法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)に基づき,時価純資産価額方式によるべきである。なお,本件においては,企業の継続を前提とした客観的交換価値を求めるのであるから,日本法人であるテレビC,D放送及びHテレビの各株式の1株当たりの純資産価額の算定においても,法人税額等相当額を控除しないのが相当である。

 (4)上記(2)及び(3)の評価方法により評価したA社の純資産価額を基に,上告人からB社に移転したA社の資産価値を算定すると,255億7926万6285円となるから,上告人は,本件事業年度において,同額の収益を得るとともに,B社に対する同額の寄附金を支出したものというべきである。

 

 

 

 

 

第2 上告代理人山田二郎の上告受理申立て理由第1について

 論旨は,原審の上記第1の3(1)の判断に法人税法22条2項の解釈適用の誤りがある旨をいう。

 前記事実関係等によれば,上告人は,A社の唯一の株主であったというのであるから,第三者割当により同社の新株の発行を行うかどうか,だれに対してどのような条件で新株発行を行うかを自由に決定することができる立場にあり,著しく有利な価額による第三者割当増資を同社に行わせることによって,その保有する同社株式に表章された同社の資産価値を,同株式から切り離して,対価を得ることなく第三者に移転させることができたものということができる。そして,上告人が,A社の唯一の株主の立場において,同社に発行済株式総数の15倍の新株を著しく有利な価額で発行させたのは,上告人のA社に対する持株割合を100%から6.25%に減少させ,B社の持株割合を93.75%とすることによって,A社株式200株に表章されていた同社の資産価値の相当部分を対価を得ることなくB社に移転させることを意図したものということができる。また,前記事実関係等によれば,上記の新株発行は,上告人,A社,B社及び財団法人Eの各役員が意思を相通じて行ったというのであるから,B社においても,上記の事情を十分に了解した上で,上記の資産価値の移転を受けたものということができる。

 

 以上によれば,上告人の保有するA社株式に表章された同社の資産価値については,上告人が支配し,処分することができる利益として明確に認めることができるところ,上告人は,このような利益を,B社との合意に基づいて同社に移転したというべきである。

 

したがって,この資産価値の移転は,上告人の支配の及ばない外的要因によって生じたものではなく,上告人において意図し,かつ,B社において了解したところが実現したものということができるから,法人税法22条2項にいう取引に当たるというべきである。

 そうすると,上記のとおり移転した資産価値を上告人の本件事業年度の益金の額に算入すべきものとした原審の判断は,是認することができる。論旨は,採用することができない。

 

 

 

 

第3 上告代理人山田二郎の上告受理申立て理由第2について

 

 1 論旨は,原審の上記第1の3(3)の判断のうちD放送,Hテレビ及びテレビCの各株式の評価方法に関する部分並びに同(4)の判断に法人税法22条2項の解釈適用の誤りがある旨をいい,① D放送株式については時価純資産価額方式(法人税額等相当額は控除する。)により評価すべきであること,② Hテレビ株式については,配当還元方式により評価すべきであり,時価純資産価額方式により評価するとしても,法人税額等相当額を控除すべきであること,③ テレビC株式については,配当還元方式又は類似業種比準方式により評価すべきであり,時価純資産価額方式により評価するとしても,法人税額等相当額を控除すべきであること,以上を主張する。

 

 2 A社の保有するD放送株式の評価方法について

 法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)は,法人税法(平成17年法律第21号による改正前のもの)33条2項の規定を適用して非上場株式で気配相場のないものについて評価損を計上する場合に,当該株式に売買実例がなく,その公開の途上になく,その発行法人と事業の種類,規模,収益の状況等が類似する法人がないときは,事業年度終了の時における当該株式の価額は,当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額による旨を定めている。もっとも,このような一般的,抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難であり,他方,財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法は,相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し,課税実務上も定着しているものであるから,これと著しく異なる評価方法を法人税の課税において導入すると,混乱を招くこととなる。このような観点から,法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―15は,財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法を,原則として法人税課税においても是認することを明らかにするとともに,この評価方法を無条件で法人税課税において採用することには弊害があることから,1株当たりの純資産価額の計算に当たって株式の発行会社の有する土地を相続税路線価ではなく時価で評価するなどの条件を付して採用することとしている。したがって,財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式を法人税課税においてそのまま採用すると,相続税や贈与税との性質の違いにより課税上の弊害が生ずる場合には,これを解消するために修正を加えるべきであるが,このような修正をした上で同通達所定の1株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は,一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。そして,このように解される同通達9―1―14(4),9―1―15の定めは,法人の収益の額を算定する前提として株式の価額を評価する場合においても合理性を有するものとして妥当するというべきである。

 

 ところで,財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)185が,1株当たりの純資産価額の算定に当たり法人税額等相当額を控除するものとしているのは,個人が財産を直接所有し,支配している場合と,個人が当該財産を会社を通じて間接的に所有し,支配している場合との評価の均衡を図るためであり,評価の対象となる会社が現実に解散されることを前提としていることによるものではない。したがって,営業活動を順調に行って存続している会社の株式の相続及び贈与に係る相続税及び贈与税の課税においても,法人税額等相当額を控除して当該会社の1株当たりの純資産価額を算定することは,一般的に合理性があるものとして,課税実務の取扱いとして定着していたものである。

 

 法人税基本通達については,平成12年課法2―7による改正により,法人税課税における1株当たりの純資産価額の評価に当たり法人税額等相当額を控除しないことが規定されるに至ったのであって,この改正前の平成7年2月ころに,財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式のうち法人税額等相当額を控除する部分が,法人税課税における評価に当てはまらないということを関係通達から読み取ることは,一般の納税義務者にとっては不可能である。取引相場のない株式の取引は,法人税額等相当額を控除した純資産価額を上回る価額でされることもあり得るが,一般にその取引の当事者は上記関係通達の定める評価方法に関心を有するものであり,その評価方法が取引の実情に影響を与え得るものであったことは否定し難く,これとかけ離れたところに取引通念があったということはできない。

 

 したがって,企業の継続を前提とした株式の評価を行う場合であっても,法人税額等相当額を控除して算定された1株当たりの純資産価額は,平成7年2月当時において,一般には通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。このように解釈される上記「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によって株式の価額を評価し,これを前提に法人の収益の額を算定することは,法人税法の解釈として合理性を有するということができる。

 

 そうであるとすると,平成7年2月当時におけるD放送の1株当たりの純資産価額の評価において,企業の継続を前提とした価額を求める場合であることのみを根拠として,法人税額等相当額を控除することが不合理であって通常の取引における当事者の合理的意思に合致しないものであるということはできず,他に上記控除が上記の評価において著しく不合理な結果を生じさせるなど課税上の弊害をもたらす事情がうかがわれない本件においては,これを控除して1株当たりの純資産価額を評価すべきである。

 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。D放送株式の評価方法の違法をいう論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。

 

 3 D放送及びI社が保有するHテレビ株式の評価方法について

 

 (1)法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―15は,前記のとおり課税上弊害がない限りなどと留保を付した上で,財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法を法人税課税においても採用している。

 前記事実関係等によれば,平成7年2月当時,Hテレビ株式は,非上場株式であり,気配相場や独立当事者間の適当な売買実例がなく,その公開の途上になく,同社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人がなかったというのである。そして,原審における上告人の主張によれば,そのころのHテレビの株主の持株比率は,その筆頭株主が51.1%ないし45.6%であり,D放送及びその同族関係者に当たるI社が合計28.4%であり,したがって,Hテレビに対する関係において,上記筆頭株主は財産評価基本通達(平成15年課評2―15,課資2―5,課審5―9による改正前のもの)188(1)にいう同族株主に当たるが,D放送及びI社は同族株主に当たらないというのである。そうであるとすれば,D放送及びI社が保有するHテレビ株式は,同通達188(1)にいう「同族株主のいる会社の株主のうち,同族株主以外の株主の取得した株式」に該当し,同通達188,財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)188―2においては配当還元方式により評価すべきこととなる。同通達が,上記株式の評価を配当還元方式によることとしているのは,少数株主が取得した株式については,株主は単に配当を期待するにとどまるという実質を考慮したものである。

 もっとも,上告人の主張するD放送及びI社の合計持株比率は,同族株主に該当するかどうかの基準である30%を下回り,筆頭株主の持株比率に劣るものの,その割合は低いものではないから,事業経営への影響力の実情によっては,D放送及びI社が単に配当を期待してHテレビ株式を保有していたと評価するのが適当でないこともあると考えられ,そうであるとすれば,本件において同株式を配当還元方式により評価することが著しく不合理な結果を生じさせるなど課税上の弊害をもたらす場合もあると考えられる。

 ところが,原審は,上記の持株比率や課税上の弊害について何ら審理判断することなく,Hテレビ株式を法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)に基づき時価純資産価額方式により評価すべきであるという結論を導いている。

 したがって,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。Hテレビ株式の評価方法の違法をいう論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。

 

 (2)仮にD放送及びI社が保有するHテレビ株式を配当還元方式により評価することに前記の課税上の弊害があるとすれば,法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)に基づき時価純資産価額方式により評価すべきことになる。この場合には,財産評価基本通達(平成11年課評2―12,課資2―271による改正前のもの)186―3の趣旨が妥当するところ,前記のとおり,D放送の純資産価額の算定において法人税額等相当額を控除するのであるから,Hテレビの純資産価額については,重ねて法人税額等相当額を控除することなく算定すべきである。

 

 4 A社が保有するテレビC株式の評価方法について

 (1)前記事実関係等によれば,平成7年2月当時,テレビC株式は,非上場株式であり,気配相場や独立当事者間の適当な売買実例がなく,その公開の途上になく,同社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人がなかったというのである。そして,原審における上告人の主張によれば,そのころのテレビCの株主の持株比率は,その筆頭株主のグループが38.3%であり,A社及びその同族関係者が合計21.4%であり,したがって,テレビCに対する関係において,上記グループの株主は財産評価基本通達(平成15年課評2―15,課資2―5,課審5―9による改正前のもの)188(1)にいう同族株主に当たるが,A社は同族株主に当たらないというのである。そうであるとすれば,同社が保有するテレビC株式は,同通達188(1)にいう「同族株主のいる会社の株主のうち,同族株主以外の株主の取得した株式」に該当し,同通達188,財産評価基本通達(平成12年課評2―4,課資2―249による改正前のもの)188―2においては配当還元方式により評価すべきこととなる。

 もっとも,記録によれば,① 上告人は,平成7年3月1日,100%出資の子会社である株式会社Jを設立したこと,② 上告人は,同月13日,株式会社Jに対し,テレビC株式1242株を1株当たり540万円で譲渡したこと,③ 同価額は,上告人が株式会社Kに依頼して評価させた同月1日時点の同株式の時価純資産価額方式による評価額を基に算定されたこと,④ 上告人の主要株主である財団法人Lは,同月24日,株式会社Jに対し,テレビC株式335株を1株当たり540万円で譲渡したこと,以上の事実は当事者間に争いがなく,また,上記評価額は,法人税額等相当額を控除することなく算定されたことがうかがわれる。そうであるとすれば,上記のテレビC株式の各売買において譲渡価額が1株当たり540万円とされたのが,同株式を時価よりも高額で売買するという特別の目的によるものでない限り,上記各売買の当事者は,同株式を配当還元方式により評価するよりも時価純資産価額方式(法人税額等相当額を控除しない。)による方が適切であること,すなわち,同株式の価額を単に配当を期待して株式を保有する株主に妥当する配当還元方式によっては適正に評価することができないことを認識していたものというべきである。そうすると,上記各売買に近接した時期における上告人の100%出資の子会社であるA社の認識も同様であった可能性があり,同社の認識がそのようなものであるとすれば,本件において同社の保有するテレビC株式を配当還元方式により評価することが著しく不合理な結果を生じさせるなど課税上の弊害をもたらす場合もあると考えられる。

 ところが,原審は,上記の持株比率や課税上の弊害について何ら審理判断することなく,テレビC株式を法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)に基づき時価純資産価額方式により評価すべきであるという結論を導いている。なお,原審は,テレビCが含み益を有する土地を所有することを摘示しているが,このことは,相続税基本通達にのっとり,同土地の相続税路線価を基に算定した1株当たりの純資産価額によってテレビC株式を評価することを不合理とする理由とはなるが,配当還元方式による評価を直ちに不合理とするものではない。

 したがって,原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。テレビC株式の評価方法の違法をいう論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。

 

 (2)仮にA社が保有するテレビC株式を配当還元方式により評価することに前記の課税上の弊害があるとすれば,前記のとおり,テレビCと事業の種類や収益の状況等において類似する法人がなかったというのであるから,同株式を類似業種比準方式により評価するのは相当でなく,法人税基本通達(平成12年課法2―7による改正前のもの)9―1―14(4)に基づき時価純資産価額方式により評価すべきことになる。この場合には,法人税額等相当額を控除することが通常の取引における当事者の合理的意思に合致しないものであるかどうか,ひいては,前記の課税上の弊害があるかどうかを判断するために,前記の上告人又はその主要株主と上告人の子会社との間におけるテレビC株式の各売買からうかがわれる関係者の同株式の価額についての認識等を審理すべきである。

 

第4 結論

 以上によれば,原判決は破棄を免れない。そして,Hテレビ株式及びテレビC株式の評価方法に関して上記各点を審理するとともに,D放送株式を時価純資産価額方式(法人税額等相当額は控除する。)により評価し,これらに基づいてA社の純資産価額,同社の資産価値のうちB社に移転した額及びこれを前提とした上告人の納付すべき税額を算定させるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官・藤田宙靖,裁判官・濱田邦夫,裁判官・上田豊三,裁判官・堀籠幸男)