オウブンシャホールディング事件(2)

 

 

法人税更正処分取消請求控訴事件

 

 

 

【事件番号】 東京高等裁判所判決/平成14年(行コ)第1号

 

【判決日付】 平成16年1月28日

 

【判示事項】 外国法人である完全子会社の株主総会において新たに発行する新株全部を外国法人である第三者に著しく有利な価額で割り当てる決議を行い、親会社が保有していた当該子会社株式の資産価値を何らの対価も得ずに第三者に移転したことが、法人税22条2項の無償取引による収益に対する課税の対象になるとされた事例

 

 

【掲載誌】  訟務月報50巻8号2512頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 

第1 控訴の趣旨

 主文同旨

第2 事案の概要等

 1 概要

 本件は,オランダにおいて設立された被控訴人の100%出資の外国子会社であるOBUNSHA ATLANTIC B.V.(アトランティック社)において,増資がされ,発行された株式の全部が被控訴人のオランダにおける関連会社であるASUKA FUND B.V.(アスカファンド社)に著しく有利な価額で割り当てられたことにつき,被控訴人が保有するアトランティック社株式の資産価値をアスカファンド社に移転させたもので,移転した資産価値相当額がアスカファンド社に対する寄附金に当たるとして,被控訴人の平成7年9月期の法人税についてされた更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税賦課決定処分(本件賦課決定処分)の取消しが求められた事案である。

 原審は,被控訴人の保有する資産価値がアスカファンド社に移転したとしても,アトランティック社とアスカファンド社間の行為であり,被控訴人はアスカファンド社に対して何らの行為もしておらず,法人税法(以下「法」という。)22条2項(無償による資産の譲渡又はその他の取引)及び132条1項1号(同族会社の行為計算否認)のいずれにも該当しないとして,被控訴人の求める範囲において,上記両処分を取り消した。

 当裁判所は,原判決と異なり,増資により法22条2項に規定する事実が生じたと認め,被控訴人の請求をいずれも棄却すべきものと判断した。

 2 前提事実(争いのない事実については,証拠を掲げない。)

 (1)関係する法人と役員等

 ア 被控訴人(旧商号株式会社旺文社。平成10年変更)は,図書及び雑誌の出版並びに販売等を目的とし,財団法人センチュリー文化財団(言語及び言語に係わる文化の理解と普及を目的として昭和54年11月設立。平成7年2月15日当時,被控訴人の発行済株式の内25万0880株(49.6%)を保有する筆頭株主),財団法人日本英語協会等を主要株主とする法2条10号所定の同族会社である。

 イ アトランティック社は,平成3年9月4日,被控訴人の100%出資により,アスカファンド社は,同7年2月13日,センチュリー文化財団の100%出資により,いずれも,オランダにおいて設立された株式会社である。

 ウ 平成7年2月当時の上記各法人の役員の概要は,下表のとおりである。

 (2)アトランティック社の設立と出資金

 アトランティック社は,設立時,被控訴人から,下記の現物(簿価)及び現金1億0600万円,計16億5000万円相当(計2200万ギルダー。当時1ギルダ-75円換算による。)全額の出資を受け,資本金を20万ギルダー(同1500万円相当)とし,株式200株(1株1000ギルダー。額面総額20万ギルダー)を発行し,資本金の額を超える2180万ギルダー(同16億3500万円相当)を資本準備金とした。(〈証拠略〉)

 (3)設立に伴う現物出資の課税の繰り延べ

 被控訴人は,平成10年法律第24号による改正(平成10年改正)前の法51条1項に基づき,同項に規定する特定出資に当たる上記現物出資について,出資時の帳簿価額と時価との差額邦貨換算約81億3400万円を圧縮記帳し,課税の繰り延べを受けた。(〈証拠略〉)

 (4)本件増資(下記により行われた増資をいう。)

 アトランティック社は,平成7年2月13日,株主総会において,300万ギルダー増資し,発行する3000株(本件増資新株。1株の額面金額1000ギルダー)全部を303万0303ギルダー(1株当たり1010.1ギルダー)でアスカファンド社に割り当てる旨の決議(本件増資決議)をし,払込みを受けて同社に株式を発行し,3万0303ギルダーを資本準備金に組み入れ,同年4月20日,300万ギルダーについての本件増資の登記手続をした。(〈証拠略〉)

 (5)本件両処分(下記両処分をいう。内容は,別紙2表〈略〉のとおり)

 控訴人は,被控訴人の平成7年9月期法人税につき,同10年12月18日,納付すべき法人税額96億2239万3800円とする本件更正処分及び納付すべき過少申告加算税額13億8863万2500円とする本件賦課決定処分をした。

 

 

 

 

 3 争点

 (1)争点1(本件増資と法22条2項に規定する無償による資産の譲渡等)

 (2)争点2(本件増資による資産の移転額,課税額)

 (3)争点3(本件増資と法132条1項1号に基づく課税)

 (4)争点4(訴訟手続,課税手続上の問題,課税の憲法違反)

 

 

 

 

 ア 法22条2項の適用に関する控訴人の主張と時機に後れた攻撃防御方法

 イ 本件更正処分の理由附記についての不備

 ウ 本件更正処分の理由の差替えの法130条2項違反,憲法14条等違反

 4 争点1(本件増資と法22条2項の資産の譲渡等)に関する当事者の主張

 (1)控訴人

 ア 本件増資と法22条2項に規定する無償による資産の譲渡等

 (ア)アスカファンド社は,本件増資決議により,アトランティック社の資産の帳簿価額(当時約2515万ギルダー)の約12%,時価相当額(約2億7296万ギルダー)の約1%に相当する303万0303ギルダーの増資払込みにより,発行済株式総数3200株の93%を超える3000株を取得した。

 (イ)被控訴人は,アトランティック社の100%株主として,本件増資決議により,自らの意思に基づき,被控訴人の保有するアトランティック社株式の資産価値の大半をアスカファンド社に取得させた。

 (ウ)本件増資は,被控訴人,アトランティック社及びアスカファンド社の合意に基づき,アトランティック社株式の資産価値を分割し,対価を得ることなく,その資産価値の一部を被控訴人からアスカファンド社に移転させたもので,法22条2項の無償による資産の譲渡又はその他の取引及び法37条2項の寄附金に該当する。

 イ 被控訴人の指摘に対する反論等

 (ア)資産の譲渡等

 a 法22条2項が,法人の有償又は無償による資産の譲渡等に係る収益を益金に算入する旨定める趣旨は,法人が管理支配権を行使して資産価値を他に移転し,資産が法人の支配を離脱し,他に移転する際,これを契機として顕在化した資産の経済的価値の担税力に着目して清算課税しようとするもので,上記規定は,いわゆるキャピタル・ゲインに対する課税を定める。

 b 資産の譲渡又はその他の取引とは,法人が資産に対する管理支配権を行使してその資産価値の全部又は一部を他に移転すること,すなわち所得を構成する資産の増加を認識すべき一切の場合を意味し,法律行為的な取引に限定されない。

 c 法22条2項,3項及び5項は,資本等取引を課税所得から除外し,会社の共同所有者たる株主が拠出した資本を会社が利用したことによる資産の増減のみを所得計算に用い,会社と株主との間の出資や利益配当に基づく会社の純資産の増減に対しては課税しないことを明らかにしている。

 (イ)法施行令119条の11

 平成12年の法人税法改正により期末に計上される有価証券の評価に関する規定が設けられ,これに伴い,標記規定が設けられ,資産の譲渡がされないものの,保有目的のみが変わった場合のみなし譲渡についての課税の規定が設けられたが,資産を社外に流出させた本件に関わりを有しない。

 (ウ)新株の有利発行

 a 資金調達のための新株の有利発行は,これにより,旧株主の有する会社資産に対する割合的持分の移転が生じても,迅速な資金調達のためであり,経済的合理性を欠くとはいえず,これについては,無償取引に係る収益として移転した資産価値が益金に計上される一方で,上記の割合的持分の移転に伴う損金算入が否認されず,課税所得が生じない。これに対し,本件増資は,旧株主と新株主の持株割合を1対15,出資割合を99対1とし,無償で企業譲渡を行うもので,経済的合理性を欠き,移転に伴う損金算入は認められず,寄附金に該当する。

 b 資金調達のための新株の有利発行の場合,現行商法においては,定款に別段の定めがない限り,発案権が取締役会にあり,株主は発案を受けて初めて割合的持分権を管理支配する機会を与えられ,承認するかどうかの二者択一的方法のみ有し,決議の成立は他の株主の議決権行使の結果次第である。これに対し,被控訴人は,割合的持分権を管理支配する機会を常に保有し,内容を自由に決定でき,割当を履行代行者的に利用することができた。両者の課税が異なることは,不合理ではない。

 (エ)法51条の改正経緯について

 本件と法51条改正とは直接関係がない。すなわち,アトランティック社の資産が増加すれば,同社株式に係る含み益は増加し,法51条の圧縮記帳がなければ含み益が生じないということはないし,含み益が生じていれば法51条の改正後に本件増資が行われても,本件と同じ問題が生ずる。

 (オ)二重課税の主張について

 被控訴人に対する課税はキャピタルゲインによるものであるのに対し,アスカファンド社の益金は受贈益であり,このような事態は,資産の無償譲渡の場合に常に生じ,憲法四条に違反するものではない。

 (カ)いわゆるB株

 本件増資が額面金額の価値しか有しないB株の増資であり,過去に遡って定款変更したことを承認したというオランダの税務当局によるタックスルーリングを根拠として資産の譲渡に当たらないとする被控訴人の主張は,タックスルーリングが,税法の具体的取扱についての承認であって,背景となった具体的事実の法律的効果を承認するものでなく,また,定款変更についての記述は瑕疵に気付いて将来に向かって変更するというのにとどまり,理由がない。

 (2)被控訴人

 ア 本件増資により,資産価値は移転しない。

 (ア)キャピタルゲインへの課税は,株主が会社に対する管理支配権を行使したかどうかではなく,当該キャピタルゲインが株主に帰属したか否かによる。本件増資においては,被控訴人の保有する旧株式200株についてのキャピタルゲインの全部又は一部が,抽象的所有権に止まったまま(利得が実現されることなく),失われたのであり,未だ実現していない利得は,課税されるべきではない。

 (イ)法22条2項は,すべての無償による資産の譲渡又はその他の無償取引から必ず益金が発生する旨を規定しているのではなく,同条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って益金を計算するに際し,「無償による資産の譲渡」又は「その他の無償取引」から益金が発生する場合があり得ることを規定しているにすぎない。

 (ウ)会計学上,利益の実現があったといえるためには「資産」の移転がなければならないとされ,「資産価値」の移転だけでは,利益の実現が生じない。

 (エ)法22条2項の「取引」について税法上格別の規定がない以上,その意味は一般私法におけるのと同じと解すべきである。

 (オ)法人税法は法人単位で課税し,アトランティック社が出資資産を管理処分する行為は,株主である被控訴人自身の割合的持分の管理処分とは評価されない。

 イ 法施行令119条の11

 被控訴人の保有するアトランティック社株式200株は,本件増資により譲渡されてはいない。増資等による持株比率の変化は,法22条2項の資産の譲渡その他の取引に当たらず,平成12年法施行令119条の11の創設により,初めて,それに当たるとみなされることになった。同条創設前にされた本件増資による持株比率の変化についての課税は,租税法律主義に反する。また,同条創設後においても,本件増資により,被控訴人の株式保有割合は,20%未満(100%から6.25%)となり,「満期保有目的等有価証券」から「その他の有価証券」に区分変更されるものの,課税対象とはならない。

 ウ 新株の有利発行

 (ア)新株の有利発行により旧株式の含み益が減少しても,減少した含み益が実現されたものとして旧株式の帳簿価格を評価換えし,評価益を計上することはない。

 (イ)控訴人の主張する会計処理方法を法22条4項の会計処理の基準と解することは,広く一般社会において確立した会計慣行を排除するもので,憲法84条,30条に反し,また,被控訴人だけに課税するもので,憲法14条1項に違反する。

 (ウ)第三者有利発行の場合,法施行令38条1項2号に基づき,新株主が,払込価額と時価との差額を受贈益として課税され,本件においても,新株主にのみ課税され,法22条2項により旧株主には課税されないと解釈すべきである。

 エ 所得税法施行令84条

 所得税法施行令84条は,新株主が有利な発行価額により新株等を引き受ける権利は,旧株主からではなく,新株の発行会社から与えられると規定している。第三者有利発行の際,所得税法上,新株主が新株の時価と払込価額の差額につき受贈益として課税される。法人税法上もこれと異別に解すべき理由はなく,新株等は,旧株主(被控訴人)からではなく,新株発行会社(アトランティック社)から新株引受人(アスカファンド社)に与えられる。本件増資により被控訴人が資産価値(アトランティック社発行の旧株200株の含み益)をアスカファンド社に贈与したとする控訴人の主張は,本件増資に係る新株発行につき,(1)アトランティック社からアスカファンド社への贈与と(2)被控訴人からアスカファンド社への贈与という両立不可能な2つの法的評価に基づく主張をしているのであって,論理が破綻している。

 本件増資については,憲法84条の租税法律主義の要請を満たすべきで,旧株主たる被控訴人に対して法22条2項により課税することはできない。

 オ 法51条の改正経緯

 従前,特定現物出資により設立された海外子会社が第三者有利発行を行った場合,親会社は,当該出資資産の含み益に対して課税されず,平成10年改正により課税されるようになった。上記改正前にされた本件増資につき,改正後と同じ結果となる課税を認めることは,改正経過を無視し,法22条2項及び4項の解釈を誤るもので,憲法14条に違反(適用違憲)する。

 カ 譲受人(新株主)との二重課税

 控訴人の解釈によれば,法人間の資産の無償譲渡につき,譲渡法人には時価から取得原価及び寄附金の損金算入限度額を控除した金額に課税され,譲受法人には譲渡財産の時価相当額が益金として課税され,両者に対する課税総額は,その担税力の総額である譲渡益相当額を超え,私有財産権を保障した憲法29条に違反する。

 キ いわゆるB株

 本件増資新株は,額面金額の価値しか有しないB株(種類株)で,残余財産分配請求権が額面金額(払込金額)に限られ,控訴人の有していたアトランティック社株式の資産価値(含み益)は,本件増資によりアスカファンド社に移転しない。すなわち,被控訴人,アトランティック社及びアスカファンド社の三社は,本件増資時から,アスカファンド社の保有するアトランティック社株式を額面金額の価値しか有しないB株(種類株)とするとの共通の認識を有していた。アトランティック社は,本件増資に際し,定款を変更してB株を創設すべきところ,事務手続上の過誤により,定款変更をせず,平成8年春,代表取締役のCがこれに気付き,上記三社は,同9年7月28日,増資時から想定していたとおりの定款変更を確認する合意をし,同10年3月10日,定款変更がされた。増資新株は,オランダ税務当局によるタックス・ルーリングによっても,B株と認められている。

 5 争点2(本件増資による資産の移転額,課税額)に関する当事者の主張

 (1)控訴人

 ア アトランティック社の純資産価額の算出

 (ア)気配相場のない非上場株式の価額評価の方法について,法人税基本通達9-1-14(平成12年6月28日付け課法2-7による改正前のもの。以下,同じ。)及びその特例として同9-1-15(上記平成12年改正前のもの)が定められており,アトランティック社の株式は,独立当事者間の適当な売買実例がないこと,株式公開途上にはなく,公募等の価格がないこと,同社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人がないことから,上記通達9-1-14(4)に基づき,時価純資産価額方式(資産負債を時価評価して純資産価額を算出し,1株当たりの価額を算出する方法)により評価した。

 (イ)アトランティック社の資産の大部分をしめる全国朝日放送株式及び文化放送株式も,本件増資当時,いずれも非上場であり,同様に評価することとし,被控訴人の依頼により株式会社元マネージメントサービスが平成7年3月1日現在で時価純資産価額方式により評価した全国朝日放送株式に係る株式評価書(〈証拠略〉),被控訴人の提出に係る文化放送株式の1株当たりの純資産価額の計算明細書(2),全国朝日放送及び文化放送2社につき,平成5年4月1日から平成6年3月31日までの事業年度の決算書,所有土地を平成7年度の路線価の0.8で割り戻した価額(地価公示価額と同水準の価額とするため),保有する投資有価証券の,平成7年2月15日の終値(上場株式),又は同年1月16日から同年2月15日までに取引のあった日の終値と気配相場の平均価額との合計額をその合計日数で除した平均価額(店頭登録株式)を基礎に評価した。

 (ウ)上記により評価すると,アトランティック社の純資産価額は,別紙の1表〈略〉のとおり,全国朝日放送188億5914万1000円,文化放送82億5000万円となり,その他の資産,負債を加減すると,同表〈略〉の5及び6のとおりである。

 (エ)上記に基づき,本件両処分の基礎となる被控訴人の所得金額,税額等を算定すると,別紙の2表〈略〉のとおりである。

 イ 被控訴人の主張について

 (ア)法人税基本通達9-1-14

 標記通達又はその特例としての同9-1-15のいずれかを納税者が自由に選択できる(被控訴人の主張)ことはなく,後者は,財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17)に定める評価方式の例によって算定しているときは,課税上の弊害がない場合に限り,これを是認するというもので,課税上弊害がある場合には,前者が適用される。

 全国朝日放送及び文化放送は,含み益を有する土地を所有しており,上記通達9-1-15を適用し,市場価格ではなく路線価で評価することは株式の評価に関する課税上の弊害が生じるため,同9-1-14が適用される。

 (イ)清算所得に対する法人税額等の控除

 清算所得に対する法人税額等の控除(51%)は,時価純資産価額方式により評価する場合,企業の継続を前提とした客観的突換価値を求めるため,しない。なお,財産評価基本通達は,時価純資産価額方式により評価する場合に上記控除をする旨定めるが,個人が資産を直接保有する場合と間接保有する場合との違いにより価値が異ならないように評価の均衡を図る必要があるためである。

 (ウ)類似業種比準方式

 被控訴人は,全国朝日放送及び文化放送2社の株式の評価につき,上記通達9-1-14が適用されるとしても,その(3)の類似業種比準方式によるべきで,上場している類似企業であるTBS及び日本テレビに比準して評価すべきである旨主張する。しかし,対象会社とTBS及び日本テレビとは類似法人には当たらない。

 (2)被控訴人

 ア 法人税基本通達9-1-15による株式の評価その1

 法人税基本通達9-1-14と同9-1-15とは,いずれをも適用でき,本件においては被控訴人に有利な後者を適用し,全国朝日放送株式及びフジテレビ株式(文化放送保有)の価額は配当還元方式,文化放送株式及びJGI株式(文化放送が保有する外国株式)は時価純資産価額方式を基礎として,アトランティック社の資産価額を算定すべきで,これによれば,被控訴人の有価証券に係る利益の計上もれは24億4048万0973円,法人税額は,7億8886万9800円となる

 イ 同その2

 全国朝日放送株式の評価を類似業種比準方式,フジテレビ株式を配当還元価額方式,JGI株式及び文化放送株式を時価純資産価額方式により,各評価し,アトランティック社の資産価額を算定すると,被控訴人の有価証券に係る利益の計上もれは69億0079万7722円,法人税額は,24億4058万1000円となる。

 ウ 同通達9-1-14(3)による株式の評価

 全国朝日放送株式及びフジテレビ株式は,標記通達に基づき,類似業種比準方式により評価すべきで,これによりJGI株式及び文化放送株式を評価し,アトランティック社の資産価額を算定すると,被控訴人の有価証券に係る利益の計上もれは85億4259万4598円,法人税額は,30億4855万9100円となる。

 エ 清算所特に対する法人税額等の控除

 アトランティック社の保有する株式をすべて時価純資産価額方式により評価する場合,日本法人ではないJGIを除き,清算所得に対する法人税額等(本件増資当時51%。財産評価基本通達185,186-2)を控除すべきで,これによると,被控訴人の有価証券に係る利益の計上もれは177億8465万6680円,法人税額は,64億7101万0100円となる。

 6 争点3(本件増資と法132条1項1号に基づく課税)に関する当事者の主張

 (1)控訴人

 ア 法132条1項1号の「行為」は,必ずしも法22条2項の資産の譲渡等の取引に当たる必要はなく,不当な法人税の減少をもたらす一切の行為がこれに当たる。本件増資決議における議決権の行使は,法132条1項1号の行為に当たる。

 イ 本件において,被控訴人は,新株引受権を取得し,これをアスカファンド社に額面額で譲渡したのと同様の経済的効果を生じさせた。通常の経済人として採るべき合理的行為はアスカファンド社から相当対価を受領することであり,対価を受領しなかった被控訴人における法人税の負担は,通常の経済人であれば採ったであろう行為に比較して減少している。

 なお,時価発行は,株主の議決権割合は減少する(共益権は移転する)が,自益権は移転せず,本件増資と比較されるべき合理的行為とはいえない。

 (2)被控訴人

 ア 違法な租税回避行為を行い得るのは,同族会社に限られず,非同族会社の同種行為の方が,容易にはなし得ない行為,計算を敢えて行うという点で,より悪質であり,行為,計算の否認の対象を,同族会社等のそれに限定する法132条1項1号は,憲法14条に違反する。

 イ 法132条1項1号は,税務署長が法人税の負担を不当に減少させると判断した場合,裁量で課税できると定め,客観的,合理的基準により課税される保障がなく,租税法律主義,課税要件明確主義を定めた憲法84条,30条に違反する。

 ウ (1)株式の第三者有利発行の際,旧株主には課税されず,(2)平成10年の法51条改正前には,圧縮記帳された現物出資に係る資産の含み益に対し,結果的に日本国の課税権が及ばなかったことなどの事情から見ると,本来課税できない被控訴人の行為,計算にのみ法132条1項1号を適用してした本件更正処分は,平等主義を定めた憲法14条に違反する。

 エ 控訴人は,被控訴人の法人税負担が最も重くなる行為,計算を恣意的に設定して課税しており,本件更正処分は,課税要件明確主義をその内容の一つとする租税法律主義を定めた憲法84条,30条に違反する。

 オ アスカファンド社は,増資の対価を支払うなら,被控訴人にではなく,保有株の価値を高めるためにアトランティック社に払い込むのであり,被控訴人への支払を合理的な行為という控訴人の主張は,法132条1項1号の前提を欠く。

 7 争点4(訴訟手続,課税手続上の問題,憲法違反)に関する当事者の主張

 (1)法22条2項の適用に関する控訴人の主張と時機に後れた攻撃防御方法

 ア 被控訴人

 控訴人は,本件更正処分(平成10年12月18日)の法的根拠として法132条1項1号を主張し,平成13年7月30日(原審第6回口頭弁論期日),第6準備書面(平成13年7月13日付)に基づく陳述により,初めて,法22条2項を主位的に,法132条1項1号を予備的に主張する旨を明らかにした。これは,故意又は重過失により時機に後れて提出した主張であり,これを認めることにより本件訴訟の完結が遅延することは明白である。民訴法157条1項の適用は原審における訴訟手続の経過をも通観して判断すべきで,原審における口頭弁論の終結直前になって更正処分の法的根拠の主張を変更することは,訴訟上の信義則に反する。

 イ 控訴人

 控訴人は,被控訴人によるアトランティック社株式の価値の一部をアスカファンド社に移転する行為に対する課税の法的根拠につき,当初,法132条1項1号を主張し,後,法22条2項を追加主張した。法22条2項の課税要件事実は法132条1項1号の課税要件事実に包含され,これに関する主張は,時機に後れた攻撃防御方法には当たらない。

 (2)本件更正処分の理由附記の不備

 ア 被控訴人

 本件更正処分は,下記の点で,法130条2項に定める理由附記に不備がある。

 (ア)本件増資により,被控訴人が保有するアトランティック社株式200株の含み益をアスカファンド社に移転させたと認定した根拠を,帳簿書類以上の信憑性のある資料を摘示して説明していない。

 (イ)被控訴人がアスカファンド社から旧株の滅失価値相当額を受領したと認定したことにつき,資料の摘示を欠く。

 (ウ)被控訴人が,アスカファンド社から旧株の滅失価値相当額を受領したと認定しながら,他方で,対価を得ずにアスカファンド社に対して本件利益を贈与したと認定し,理由齟齬がある。

 (エ)法132条1項1号により否認の対象とされた行為として,「資産価値の減少を防止する行為を行わなかったこと」,「何らかの対価を得なかったこと」,「アスカファンド社のために本件増資決議を行ったこと」及び「本件利益を流出させた行為」の4行為(計算)が挙げられているが,否認の対象がその全部であるか,一部であるのか,株主としての議決権行使又はアトランティック社の株主総会の行為が被控訴人の行為,計算として否認の対象となるかが,一義的に明らかでない。

 イ 控訴人

 本件更正処分は,書類に記載された事実自体を否認するいわゆる帳簿否認ではなく,帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示する必要はない。

 (3)更正理由の差替え不許

 ア 被控訴人

 (ア)法130条2項違反

 法22条2項と法132条1項1号とは,適用される社会生活事実が同一でも,適用条文,構成要件,攻撃防御方法を異にする別個の処分であり,後者を理由とする本件更正処分の理由は,前者に基づく課税の不服申立てに何ら便宜を与えない。

 本件増資決議は平成7年2月13日にされ,平成13年7月13日(原審第6回口頭弁論期日)に至り,本件更正処分の根拠として法22条2項を追加主張することは,期間経過後に新たな処分をするのと異ならず,更正期間経過の利益を奪い,被控訴人に不利益を与え,法130条2項の趣旨に反し,許されない。

 (イ)憲法14条1項違反

 更正処分の理由の差替えを許容すると,税務署長は,取消請求をした納税者に対しては,期間経過後,新たに更正処分と同じ行為を行うことができ,それ以外の納税者に対してはそれができず,著しく不合理な差別で,憲法14条1項に反する。

 (ウ)総額主義の問題点

 更正処分に期間制限が設けられ,国税通則法26条が数次の更正処分がされることを予定していることからも明らかなように,課税の公平及び紛争の一回的解決をもって,更正処分の理由の差替え及びその基礎にあるいわゆる総額主義の考え方を正当化することはできない。また,納税者には抗告訴訟を要求して不当利得返還訴訟の途を封じながら,税務要長には税額が客観的な租税債務の金額を超えるか否かが訴訟の対象であるとして理由の差替えを許すことは,不公平である。個別の取引事実に基づくことなく,税額を確定する総額主義の見解は,憲法30条,84条に違反する。理由の差替えは,憲法31条の適法手続保障の見地に照らし,認められるべきではない。

 イ 控訴人

 本件増資により,被控訴人の保有するアトランティック社株式の価値の一部がアスカファンド社に贈与されたのであり,これについては,法22条2項による課税が可能であるとともに,被控訴人が同族会社であることなどの事実を付加すると,法132条1項1号に基づく課税も可能となる。控訴人は,法132条1項1号の適用を主張し,法22条2項に基づく課税についての法的主張を追加したにすぎず,理由の差替えには当たらないし,該当するとしても,許される場合である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 1 争点1(本件増資と法22条2項に規定する無償による資産の譲渡等)

 (1)本件増資と法人税法22条2項に規定する無償による資産の譲渡等

 ア 株主は,株式を通じ,株式会社の資産を所有し,支配するのであり,清算を待つまでもなく,株式の移転を通じ,株式に表彰された株式会社の資産価値を取得することができ,株式の価額は,額面金額ではなく,市場において定まる価額(上場株式)又は株式会社の資産の実態に基づいて評価される価額(非上場株式)により定まると解せられる。

 イ 本件において,被控訴人,アトランティック社,アスカファンド社及びセンチュリー文化財団につき,A及びBが代表取締役,理事長,取締役等に就任し,同財団が被控訴人の株式の約50%,被控訴人がアトランディック社の株式の100%をそれぞれ保有し,同財団の100%出資により,本件増資決議の日(平成7年2月13日),アスカファンド社が設立され(前提事実),アトランティック社は,持株会社としての活動,融資,投資等を目的とし,設立(平成3年)後本件増資時(同7年)まで,事業所を有せず,従業員のいないいわゆるペーパーカンパニーで(〈証拠略〉),被控訴人は,アトランティック社の全株式200株を保有していたが,本件増資により,持株割合により示せば,被控訴人のそれが16/16から1/16(200/3200)に減少し,アスカファンド社のそれが15/16(3000/3200)となった(前提事実)。

 ウ 【判示事項】上記認定事実の下においては,アトランティック社における上記持株割合の変化は,上記各法人及び役員等が意思を相通じた結果にほかならず,被控訴人は,アスカファンド社との合意に基づき,同社からなんらの対価を得ることもなく,アトランティック社の資産につき,株主として保有する持分16分の15及び株主としての支配権を失い,アスカファンド社がこれらを取得したと認定評価することができる。そして,被控訴人が上記資産に係る株主として有する持分をアスカファンド社からなんらの対価を得ることもなく喪失し,同社がこれを取得した事実は,それが両社の合意に基づくと認められる以上,両社間において無償による上記持分の譲渡がされたと認定することができる。

 

 

 

 

 エ 両社間における無償による上記持分の譲渡は,法22条2項に規定する「無償による資産の譲渡」に当たると認定判断することができる。

 

 

 

尤も,上記「持分の譲渡」は,同項に規定する「資産の譲渡」に当たるとすることに疑義を生じ得ないではないが,

 

「無償による・・その他の取引」には当たると認定判断することができるというべきである。

 

 

すなわち,上記規定にいう「取引」は,その文言及び規定における位置づけから,関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念として用いられていると解せられ,

 

上記のとおり,被控訴人とアスカファンド社の合意に基づいて実現された上記持分の譲渡をも包含すると認められる。

 

 

そして,本件において,法22条2項に規定する無償による「資産の譲渡」又は「その他の取引」は,遅くも,アスカファンド社により引き受けた増資の払込みがされた時に発生したと認められる。

 

 

 オ 付言するに,被控訴人とアスカファンド社間の上記持分の譲渡は,

 

両社の合意に基づくものであり,

 

被控訴人の(株主としての)行為が子会社であるアトランティック社の行為とみなされることによるものではないし,

 

その実現につき,アトランティック社の株主総会における本件増資決議を介在させていることの故に,

 

両社の合意に基づくものであることが否定されるものでもない。

 

また,本件増資を介して生じた上記持分の譲渡が上記両社の合意に基づくと認定できるものであるかぎり,課税を免れず,本件増資の目的により課税が左右されることもない。

 

 

 カ 本件増資は,いわゆる節税を意図して企画されたことは明らかで,

 

納税者として,いわゆる節税を図ることは,もとより,なんら正義に反することではない。

 

本件訴訟につき,

 

アトランティック社とアスカファンド社間の行為で,被控訴人とアスカファンド社間に何らの行為もないことを理由に法22条2項の適用を否定するのは,裁判所としての事実認定の責務を果たしておらず,

 

判決の理由としても,不備がある。

 

 

被控訴人(センチュリー文化財団が約50%の株式を保有する。)が100%株主として可決した本件増資決議に基づき,アスカファンド社(前記財団が100%株主)が増資株式を取得し,アトランティック社の持株割合に変動を生じた事実及びBが2社の代表取締役・2社の役員である事実は,本件においては,原審以来,ほぼ争いがない。

 

当事者双方は,持株割合の変動が,上記関係法人及び役員の合意に基づくことを前提として,これにつき,控訴人が,アトランティック社の資産の譲渡等法22条2項に当たると主張し,被控訴人が,これに当たらない等として争って来た。

 

持株割合の変動が資産の譲渡等に当たるかどうか,資産の評価額等がいくらとなるかこそが,本件における重要な論点で,

 

当事者も,真摯に論争してきた。

 

原審は,関係当事者の意思及びその結果生じた事実を全体として見ず,一部を恣意的に切り取って結論を導いた誹りを免れず

 

 

争点について判断し,紛争を解決に導くべき裁判所の責任を疎かにするものと評せざるを得ない。

 

 

 

 

 (2)被控訴人の主張について

 ア 資産の譲渡等

 前記認定の,本件における関係法人相互の持株の状況,役員構成の下で,関係者の合意に基づき,アトランティック社における本件増資を介して同社の株式をアスカファンド社に取得させたことにより生じた被控訴人の持株割合の変動は,これにより,被控訴人とアスカファンド社の合意に基づき,被控訴人の保有するアトランティック社の株式が表彰する資産価値がアスカファンド社に移転したと認めることができる。たしかに,同社が増資株式を取待した時点においては,資産価値の移転が生じたと認めうるものの,直ちには,アスカファンド社が資産を取得し,被控訴人がこれを喪失したことを実感しうる事態が生じてはいない。しかしながら,アスカファンド社は,上記時点以降いつでも,取得した増資株式を処分し,これにより,その表彰するアトランティック社の資産価値を実現しうる権利を取得し,反対に,被控訴人がこれを喪失するのであり,このような法的効果に着目すれば,本件増資により,被控訴人はアスカファンド社に対して法22条1項(編注・「1項」は「2項」の誤りか)に定める無償による資産の譲渡又はその他の取引をしたと認めることができる。

 イ 法施行令119条の11の新設

 増資等による持株割合の変化が法22条2項に規定する資産の譲渡に当たるとして課税されることは,標記法令の規定の新設により明文上も明らかとなったというべきで,これにより,初めて可能となったと解すべき理由もなく,租税法律主義に違反するとする被控訴人の主張は,前提を欠く。

 ウ 新株の有利発行との異同

 当裁判所は,前記認定事実の下において,アトランティック社における新株の有利発行を手段として,被控訴人がアスカファンド社に対して法22条1項(編注・「1項」は「2項」の誤りか)に定める無償による資産の譲渡又はその他の取引をした場合に当たると判断した。この判断の下においては,被控訴人に対する課税が新株の有利発行に対する課税と異なるのは当然で,新株の有利発行に対する課税との異同の故に上記判断は,左右されない。

 エ 所得税法施行令84条との関係

 新株を引き受ける権利が,他の株主からではなく,新株を発行する会社から与えられることは,標記法令の規定を待つまでもなく,会社法の理解から導かれる。本件においては,前記認定のとおり,100%株主である被控訴人の意思により可決成立した株式発行会社の株主総会決議から同会社により割り当てられた新株の引受に至る経緯,換言すれば,被控訴人が,その意思に基づき,アトランティック社の新株割当てを介在させる方法により,同社についての持株割合に変化を生じさせた経緯をとらえ,法22条2項に定める無償による資産の譲渡等が行われたと認定しうると判断したのであり,この判断は,標記法令の定めに左右されるところはない。

 オ 法51条の改正経緯との関係について

 平成10年の改正前は,現物出資により設立した海外子会社の株式を取得する親会社が圧縮記帳により課税を繰り延べることができ,改正後,上記繰り延べが許容されなくなった。本件においては,前記改正前においても,前記事実経過の下で,親会社である被控訴人が子会社の増資により持株割合に変化を生じさせたことが資産の譲渡等に当たり,法22条2項により,課税要件を満たすと認めたのである。

 

換言すれば,前記改正前,繰り延べられた課税について課税の要件を満たすべき事実が生じたと認められた結果にほかならず,標記法の規定の改正前に改正後の結果を先取りするものではなく,このような理解を前提とする憲法14条違反の主張も前提を欠く。

 

 

 

 カ 二重課税について

 被控訴人は,本件事実経過の下で生じたと認められる資産の譲渡等につき,キャピタルゲインに課税され,アスカファンド社は,新株引受に係る受贈益に課税されるのであり,税法の予定するところで,憲法29条違反の主張も,前提を欠く。

 

 キ いわゆるB株(種類株)

 (ア)アトランティック社は,定款上,株式に種類を定めてはおらず(〈証拠略〉),本件増資に際し,資本金の増額について定款変更したものの,種類株を設けることについては,定款変更していない(〈証拠略〉)においても,本件増資に当たり,理由はともかく,種類株を設けることについての定款変更がされなかったことが前提とされている。)。

 (イ)被控訴人の主張(被控訴人,アトランティック社及びアスカファンド社の三社は,本件増資時から,アスカファンド社が取得する株式はB株とするとの共通の認識(合意)があり,平成9年7月28日,本件増資時から想定していた定款変更案を確認する合意をし,平成10年3月10日,定款変更がされた。)によっても,定款変更が増資後にされたというのであり,アスカファンド社が取得した株式が増資当時定めのなかった上記B株であると認めることはできない(増資後にされた種類株を設ける定款変更により,既に発行された株式の表彰する権利内容に変更を生じると解することはできず,オランダの法令がこれを許容するとも認め難い。)。アスカファンド社及びアトランティック社によるオランダの税務検査官に対する照会及びこれに対する確認の結果をも踏まえても,同じである。

 

 ク 租税法律主義違反,憲法違反等について

 前記認定判断の下においては,被控訴人がるる主張する,その他の租税法律主義違反及び憲法違反の主張も前提を欠くか,又は理由がない。

 

 

 

 2 争点2(本件増資による資産の移転額,課税額)

 (1)アトランティック社の資産額

 ア アトランティック社株式は,気配相場のない非上場株式で(〈証拠略〉)評価の方法に関し,法人税基本通達9-1-14及びその特例である同9-1-15が定められ(〈証拠略〉),後者は,法人が財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17)に定める評価方式の例によって株式の価額を算定しているときは,課税上の弊害がない場合に限り,原則としてこれを是認するもので,会社の有する非上場株式の発行会社が極めて含み益の多い土地を有する等の場合,財産評価基本通達の適用により,上記発行会社の土地が路線価で評価され,株式が市場価格を反映せず,課税上弊害があるとして,適用されないのが課税実務の取扱いであると認められる。上記理由に基づく通達の適用の区分は合理的な理由があると認められ,本件についても,アトランティック社は,含み益を有する土地を所有する(〈証拠略〉)全国朝日放送株式及び文化放送株式を保有しており,その株式の評価については同9-1-14が適用される。

 イ アトランティック社は,その株式につき,独立当事者間の適当な売買実例及び公募等がなく,株式公開途上にもなく,同社と事業の種類や収益の状況等において類似する法人もない(〈証拠略〉)。このため,その評価は,前記通達9-1-14(4)に基づき,時価純資産価額方式(資産負債を時価評価して純資産価額を算出し,1株当たりの価額を算出する方法)に従ってすべきである。

 ウ アトランティック社の保有する全国朝日放送及び文化放送の各株式も,本件増資当時非上場で,その評価は,アトランティック社株式と同様,同9-1-14(4)に基づき,時価純資産価額方式に従ってすべきである。

 エ 上記により,また,平成7年3月1日現在で純資産価額方式により評価した全国朝日放送株式に係る株式評価書(〈証拠略〉)及び文化放送株式の「1株当たりの純資産価額の計算明細書(2)」(〈証拠略〉),両社につき,同5年4月1日から平成6年3月31日までの事業年度の決算書,所有土地については同7年度の路線価に0.8で割り戻した地価公示価額と同水準の価額,保有する投資有価証券について同7年2月15日の終値(上場株式)を基礎とすると,全国朝日放送及び文化放送の資産額は,別紙の1表〈略〉のとおりと認められ,上記以外の資産及び負債も同表のとおりで(〈証拠略〉),アトランティック社の純資産価額は,同表のとおり,272億9630万2200円と認められる(1ギルダ-58.17円換算)。(〈証拠略〉)

 (2)課税額の根拠となる所得額等

 ア 被控訴人は,従前,アトランティック社の全株式(200株)の表彰する上記資産額を保有していたが,本件増資により,持株割合が200/3200株となり,3000/3200の資産を喪失し,他方,アスカファンド社は,303万0303ギルダー(1億7627万2725円相当)を払い込み,アトランティック社の資産の3000/3200を取得した。

 イ 上記に従えば,アトランティック社の総資産につき,本件増資により,下記のとおり,被控訴人が喪失した額((1))及びアスカファンド社が取得した額((2))が算出され,被控訴人は,同額の所得を得,これをアスカファンド社に寄附したものとして,別紙の2表〈略〉のとおり,所得額及び税額等が算出される。

 (1)272億9630万2200円-(272億9630万2200円+1億7627万2725円)×200/3200=255億7926万6266円

 (2)(272億9630万2200円+1億7627万2725円)×3000/3200-1億7627万2725円=255億7926万6267円

 (3)被控訴人の主張について

 ア 法人税基本通達9-1-15の適用

 被控訴人につき,標記通達を適用すべきものでないことは,上記のとおりである。

 イ 類似法人比準方式

 日本テレビ及びTBSは,フジテレビと類似法人といえず(〈証拠略〉),全国朝日放送株式とフジテレビ株式(文化放送が保有する株式)の評価につき,類似するマスメディアを見出して比準させるのを相当とする事実は認め難く,これによらなかったことに不相当な点はない。

 ウ 清算所得に対する法人税額等の控除

 本件においては,企業の継続を前提とした客観的交換価値を求めるのであり,清算所得に対する法人税額等を控除しないのが相当である。

 

 3 争点3(法132条1項1号に基づく課税)について

 上記によれば,本件においては,争点3に対する判断を要しない。

 

 4 争点4(訴訟法上の問題,憲法違反等)について

 (1)法22条2項の適用の主張と時機に後れた攻撃防御方法等

 ア 控訴人は,平成10年12月18日,アトランティック社における本件増資により被控訴人とアスカファンド社の持株割合に変化を生じた事実(本項において,「対象事実」という。)が課税要件を満たすとして,本件両処分をし,課税の根拠につき,審査請求及び本件訴訟(平成12年3月提起)において,同族会社における行為計算の否認(法132条1項1号)を主張し,同13年7月30日(原審第6回口頭弁論期日),第6準備書面に基づく陳述により,無償による資産の譲渡等(法22条2項)を主張するに至った。(前提事実及び当裁判所に顕著な事実)

 

 イ 上記両規定を理由とする課税の要件は,対象事実は共通であるものの,それが,資産の譲渡等に該当するものであるか(法22条2項),又は資産の譲渡等に当たるかどうかはともかく,行為計算として否認されるべきものであるか(法132条1項1号)の点において,課税要件を異にしており,専ら法的な主張の相違(控訴人の主張)ということはできない。

 

 ウ 両規定は,対象事実により,被控訴人が資産又は資産価値を失い,同等のものをアスカファンド社が取得するに至ったと評価しうることを前提とする点では要件を共通にし,資産等の喪失及び取得が,両社の合意に基づく(法22条2項)か,又は合意を問うまでもなく,被控訴人の意思に基づく(法132条1項1号)か,のいずれか,及び後者については被控訴人が同族会社であることにより,課税が決せられる点において異なると解せられる。これに従えば,本件においては,本件両処分以来,対象事実は当事者双方に明確であり,審理に現れ,証拠上認めうる関係者の意思,行為をも含め,対象事実をどのように評価するかが論争の中心であったと認められる。換言すれば,本件においては,対象事実により,被控訴人が資産等を喪失したと認められるかどうかが課税の当否を決するといっても過言ではない。

 

 エ 本件増資は,

 

現行課税法規の下において,いわゆる節税を意図して企画されたもので

 

(前記のとおり,これ自体は,なんら責められるべきことではない。),

 

同じ経済的目的を達するための方法如何により,一方は課税を招き,他方は課税を免れることは,取引の世界における現象が先行し,

 

これを規律する法律の制定が後れることが避け難い民主主義社会の下においてはあり得ることで,

 

これも,異とするには足りない。

 

本件増資により生じた事態に対する課税の当否も,このような現象の一例で,法的仕組みを駆使し,事実を隠すこともなく,意図された経済的目的を達成しようとしたものにほかならず,

 

課税当局の対応が後れたと非難することはできないというべきで,

 

本件両処分の前提となるべき重要な位置を占める対象事実が当初から明らかとなっている本件の審理経過に鑑みると,

 

控訴人による法22条2項に基づく課税の主張は,本件訴訟の完結を遅延させるものではなく,時機に後れた攻撃防御方法には当たらない。

 

また,上記一方の規定に基づく課税を主張することが,他方の規定に基づいて課税できないことの自白になることもない。

 

 (2)本件更正処分の理由附記の不備

 

 ア 控訴人は,本件更正処分の理由として,要旨,被控訴人の備付けの帳簿書類に基づき,有価証券に係る利益の計上もれを指摘し,被控訴人が,保有するアトランティック社株式に生じていた経済的利益(本件利益)を何らの対価を得ることなくアスカファンド社に移転させて社外に流出させたことは営利を目的とする法人が選択する行為としては不自然,不合理な行為であり,被控訴人が同族会社で,アスカファンド社も被控訴人と人的,資本的に密接な関係にある法人であることから成し得た行為で,営利を目的とする法人として合理的に行動すれば,本件増資決議に際し,既存株主として,著しく有利な発行価額により増資割当てを受けることにより利益を得るアスカファンド社から少なくとも喪失利益相当額に見合う対価を受領すると認められるとし,本件利益の社外流出は未計上であったアトランティック社株式の資産価値を実現させることに当たり,流出したアトランティック社株式に係る未計上の資産価値,すなわち本件利益(255億7926万6285円)は被控訴人の利益として計上すべきであるとして,法人税法132条1項1号(同族会社の行為又は計算の否認)の規定により課税する旨明らかにしている。(〈証拠略〉)

 

 イ 法130条2項が青色申告にかかる法人税について更正をする場合に理由を附記すべきものとしているのは,法が,青色申告制度を採用し,青色申告にかかる所得の計算については,それが法定の帳簿書類による正当な記載に基づくものである以上,帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ,処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理由を知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たもので,帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合,帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することを要しないし,前記理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り,法の要求する更正理由の附記として欠けるところはない。

 

 ウ 本件についてこれを見ると,本件更正処分は,帳簿の記載事実を否認することなく,これを前提とし,被控訴人が何らの対価を得ることなく保有する資産価値をアスカファンド社に移転させたとして,法132条1項1号を根拠としたことを示す趣旨が明らかで,帳簿の記載以上の資料を摘示することを要しないし,処分理由の記載としても,不備はない。被控訴人のこの点についての主張は,理由がない。

 

 (3)更正理由の差替え等

 

 ア 前記(1)に説示した,法22条2項及び法132条1項1号の規定の課税要件の関係及び本件事実関係にかんがみると,本件においては,本件更正処分における課税の根拠につき,訴訟に至って前者を追加的に変更し,更正の理由を変更することも許容されると解すべきである。

 

 イ 被控訴人は,更正処分の理由の差替えにつき,るる主張するが,上記によれば,いずれも排斥を免れず,憲法14条1項,30条,31条及び84条違反の主張も,前提を欠くか,又は理由がない。

 

 5 まとめ

 以上のとおり,本件両処分に違法はない。

 

第4 結論

 よって,本件両処分中被控訴人の求める部分を取り消すべきものとした原判決は相当でないから,これを取り消すこととして,主文のとおり,判決する。

 

(裁判官 江見弘武 岡光民雄 白石研二)