ペットの葬祭と収益事業(3)

 

 

 

 

法人税額決定処分等取消請求事件

 

 

 

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/平成18年(行ヒ)第177号

 

【判決日付】 平成20年9月12日

 

【判示事項】 宗教法人が死亡したペットの飼い主から依頼を受けて葬儀等を行う事業が法人税法2条13号所定の収益事業に当たるとされた事例

 

 

【掲載誌】  訟務月報55巻7号2681頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       

 

 

理   由

 

 

 

 上告代理人草野勝彦ほかの上告受理申立て理由について

 

 1 本件は,宗教法人である上告人が,死亡したペット(愛がん動物)の飼い主から依頼を受けて葬儀,供養等を行う事業に関して金員を受け取ったことについて,被上告人から,上告人の行う上記事業(以下「本件ペット葬祭業」という。)が法人税法施行令(別表記載のものをいう。以下同じ。)5条1項1号,9号及び10号に規定する事業に該当し,法人税法2条13号の収益事業に当たるとして,平成8年4月1日から同13年3月31日までの5事業年度に係る法人税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を受けたため,その取消しを求めている事案である。

 

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

  (1) 上告人は,昭和58年ころから本件ペット葬祭業を行っており,現在は,「慈妙院 動物霊園」の名称で,境内にペット用の火葬場,墓地,納骨堂等を設置し,引取りのための自動車を数台保有して,死亡したペットの引取り,葬儀,火葬,埋蔵,納骨,法要等を行っているほか,本件ペット葬祭業のあらましを写真入りで説明したパンフレットを発行し,ホームページを開設するなどして,その周知に努めている。

  (2) 上告人によるペットの葬儀及び火葬は,ペット専用の葬式場において,人間用祭壇を用いて僧りょが読経した後,死体を火葬に付するというものであるところ,前記パンフレット及びホームページには,その料金につき,第1審判決別表2記載のとおり,動物の重さ等と火葬方法との組合せにより8000円から5万円の範囲で金額を定めた表が「料金表」等の表題の下に掲載されている。この表は,上告人の代表役員が,同様の事業を行う有限会社の料金表を参考にして作成したものである。また,上記ホームページには,「上記は一式全てを含む費用です(引取・お迎え費用等は別)」との記載がある。なお,上告人によるペットの葬祭を希望する者が上告人の自動車でペットの死体を引き取ってもらうときには,3000円の支払を求められる。

 上告人の保管している帳簿に記載されたペットの供養による収入金額は,いずれも「料金表」記載の金額又はこれに引取りの際の支払金額を加えた金額に合致している。

  (3) ペットの死体を境内のペット専用の墓地に埋蔵するに当たり,合同墓地を利用する場合には,上告人にペットの葬儀等を依頼した者であれば無料であるが,個別墓地を利用する場合には,年間2000円の管理費のほか,3年の使用期限を3回更新した時に1万円の継続利用料の支払を求められる。また,納骨堂を利用する場合には,納骨箱の大きさに応じて3万5000円又は5万円の永代使用料,年間2000円の管理費等の支払を求められる。前記ホームページには,「合同のお墓は上記費用にて無料でお使いいただけます。また,納骨堂・石墓地(個別墓)などのご利用の場合でもお手頃にご用意できます。」などと記載され,合同墓地,納骨堂,石墓地の説明と費用が示されている。さらに,上告人は,遺骨を納めた飼い主からの依頼に基づいて初七日法要や七七日法要を行う際に,あらかじめ定められた額の金員を受け取っている。このほか,上告人は,ペットの葬祭に関連して,塔婆,位はい,墓石等を希望者に交付し,あらかじめ定められた額の金員を受領している。

  (4) ペットの供養や葬祭を行うことは,我が国では昭和50年代くらいから広まり始めたとされている。このような事業を行う事業者の数は,平成16年現在,全国で6000ないし8000に及ぶとされ,仏教寺院によるものだけでなく,倉庫業,運送業,不動産会社,石材店,動物病院等によるものも見られる。

 

 

 

 3 上記事実関係によれば,本件ペット葬祭業は,外形的に見ると,請負業,倉庫業及び物品販売業並びにその性質上これらの事業に付随して行われる行為の形態を有するものと認められる。

 

法人税法が,公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得について,同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り,課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としていることにかんがみれば,

 

宗教法人の行う上記のような形態を有する事業が法人税法施行令5条1項10号の請負業等に該当するか否かについては,

 

事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払として行われる性質のものか,それとも役務等の対価でなく喜捨等の性格を有するものか,また,当該事業が宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で,当該事業の目的,内容,態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。

 

 前記事実関係によれば,

 

本件ペット葬祭業においては,上告人の提供する役務等に対して料金表等により一定の金額が定められ,依頼者がその金額を支払っているものとみられる。

 

したがって,これらに伴う金員の移転は,上告人の提供する役務等の対価の支払として行われる性質のものとみるのが相当であり,

 

依頼者において宗教法人が行う葬儀等について宗教行為としての意味を感じて金員の支払をしていたとしても,

 

いわゆる喜捨等の性格を有するものということはできない。

 

また,本件ペット葬祭業は,その目的,内容,料金の定め方,周知方法等の諸点において,宗教法人以外の法人が一般的に行う同種の事業と基本的に異なるものではなく,

 

これらの事業と競合するものといわざるを得ない。

 

前記のとおり,本件ペット葬祭業が請負業等の形態を有するものと認められることに加えて,

 

上記のような事情を踏まえれば,宗教法人である上告人が,依頼者の要望に応じてペットの供養をするために,宗教上の儀式の形式により葬祭を執り行っていることを考慮しても,

 

本件ペット葬祭業は,法人税法施行令5条1項1号,9号及び10号に規定する事業に該当し,法人税法2条13号の収益事業に当たると解するのが相当である。

 

 これと同旨の原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官・津野 修,裁判官・今井 功,裁判官・中川了滋,裁判官・古田佑紀)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

上告受理申立理由書

 

 

第1 上告受理申立理由

 1 本件は,宗教法人である申立人が死亡したペットの飼い主からの依頼により,人の場合と同様の葬儀や供養等を行うことについて,相手方がこれらは法人税法2条13号及び同法施行令5条1項各号の収益事業に該当するものであるとして,申立人がペット供養の際に依頼者から受けた金員に対して法人税(及び無申告加算税)を課したことに対し,申立人が行うペット供養は宗教法人が行う宗教行為であり収益事業には該当しないものであるから,申立人がペット供養の依頼主から金員を受けてもそれは課税処分の対象にはならないとして相手方の法人税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分の取消を求めるものである。

 2 ところで,法人税法第4条「内国法人は,この法律により,法人税を納める義務がある。ただし,内国法人である公益法人等又は人格のない社団等については,収益事業を営む場合又は第84条第1項に規定する退職年金業務等を行う場合に限る」と明記している。したがって,法人税法第7条により申立人も含まれる公益法人等は「収益事業」がある場合に限定して納税義務を負うことが明記されているのである。

 3 そして,同法はこの「収益事業」の範囲を「製造業,販売業その他の政令で定める事業」のうち,「継続して事業所を設けて営まれるもの」に限定している。さらに,この規定を受けた施行令5条は「法第2条第13号(収益事業の意義)に規定する政令で定める事業は,次に掲げる事業(その性質上その事業に附随して行なわれる行為を含む。)とする」として,33業種を列挙している。

 4 而して,原判決は,この収益事業該当性の判断基準につき,「当該事業の展開の手法,収受される財貨の額が定まるに至る経緯,その額と給付行為の内容との対応関係,例外の許容性などの具体的諸事情を総合的に考慮し,一般事業者が行う類似の事業と比較しつつ,社会通念に従って,果たしてその財貨移転が任意になされる性質のものかを判断して決せられるべきものである」とする。

 5 しかし,以下に述べるとおり,原判決の示す判断基準は,法人税法の基本的な考え方(立法趣旨)に明らかに反するものであるし,租税法律主義の観点からも明らかに不当な解釈である。

 原判決には,以下のとおり,法人税法及び同法施行令の解釈に関する重要な事項を含むものであるため,上告に及ぶ。

第2 公益法人等課税についての基本的な考え方

 1 公益法人等に対する課税制度の立法趣旨に関する原判決の考え方

 原判決は,「法人税法等が公益法人等に対して種々の優遇措置を講じているのは,必ずしも,それら全部が本来は国家が行うほどに公共性,公益性の高い活動を担っており,国家としてもかかる団体を積極的に支援・育成すべきものと考えられたからではなく,少なくとも人間社会において潤滑油にたとえるべき一定の有用性を持った非営利活動を行うとされていることに着目し,国家としてもその限りにおいて税制上の便宜を提供しようとするものと解するのが相当である」とし,「一般事業者が利益の獲得を目的として行っている収益事業と同じ類型の(収益)事業に対しては,これらに税制上の便宜を提供すべき根拠がなく,また,課税の公平性の確保の観点から,低率ではあるものの課税対象としていると解される」と結論付け,さらに括弧書きにおいて「この意味で,一般事業者との競争条件の平等化を意味するイコール・フィッティング論が現行課税制度の根拠の一つになっていることは否めない」としている。

 2 立法趣旨についての考え方の誤り

  (1) 公益法人に対する非課税

 公益法人は昭和25年までは法人税が非課税であったが,その中心的理由は,①「公益法人は専ら公益を目的として設立され,営利を目的としないというその公益性」と,②「たとえ収益事業を行ったとしても,それから生じる利益は特定の個人に帰属する性格のものでない」という点にあった。すなわち,①は公益法人の活動によって,国や自治体が十分にまかなえない公益サービスが提供されることにより本来国等がなすべき財政支出が相当軽減されている以上,そのような団体を課税せずに,むしろ公益的活動の増進を図り,歳出の軽減を図ることにより積極的な意義があったからであり,②は公益法人は利益を得ても,社員には配分することはなく,社員は公益法人活動から個人所得としての配当を受けることがなく,個人所得税の前取りとしての法人税の対象にする必要が本来ないのである。

 したがって,公益法人はその本来の公益的任務を果たしている限りにおいては課税されるべきものではない。

  (2) 法人税法の改正

 ところが,公益法人に対する非課税措置が濫用されていたことから,昭和25年の法人税法の改正で,公益法人の課税関係はかつての宗教法人令が宗教法人を非課税としていたのと異なり,課税法人とはされた(一律非課税の取扱にはならず,課税されうる法人とされた)ものの,原則は非課税であり,その課税対象行為は「収益事業」に限定されている(法人税法第7条,第2条)。そして,「収益事業」の範囲については,「販売業,製造業その他政令で定める事業で,継続して事業場を設けて営まれるもの」とされ(同法第2条第13号),この「政令」においては,限定列挙された33の事業についてのみ収益事業として課税されるのである。なお,租税法律主義の趣旨からして,たとえ収益事業であっても33の事業に該当しない限り課税されないと考えるのが相当であり(金子宏,「租税法〔第九版増補版〕」弘文堂263頁),また,33の各事業についても,租税法律主義の趣旨から安易な拡大解釈は許されず,その解釈・運用は厳格になされなければならないのである。

  (3) 本件における立法趣旨からの解釈

 前記のとおり,大乗仏教においては,全ての存在には仏性があり,ペットなどの動物は因果などによって畜生道にいるが,同時に,今は畜生道にいても,死後は読経等の供養による功徳によって畜生道を離れて本来の仏性に基づいて,天上界・人間界へ転生することができるものと考えている。そして,これを希う行為である読経等の供養がまさに大乗仏教における宗教行為なのである。それゆえにこそ,ペットに対する読経等も宗教行為なのである。その意味において①公益を目的とし,②僧侶個人に利益が帰属するものではないのであるから,公益法人非課税を原則非課税とする法人税法の趣旨からして,非課税とされるべきものである。

 3 法人税法の基本的な考え方―法人税基本通達

  (1) 法人税基本通達の内容

 申立人が原審で指摘したとおり,法人税法基本通達には以下のようなものがある。

 (神前結婚等の場合の収益事業の判定)

 15-1-71 宗教法人が神前結婚,仏前結婚等の挙式を行う行為で本来の宗教活動の一部と認められるものは収益事業に該当しないが,挙式後の披露宴における飲食物の提供,挙式のための衣装その他の物品の貸付け,記念写真の撮影及びこれらの行為のあっせん並びにこれらの用に供するための不動産貸付け及び席貸しの事業は収益事業に該当することに留意する。

 この通達の解説として,次の記述がある。「本通達は,宗教法人が神前結婚等の挙式等を行う行為に関する収益事業の判定について定めている。すなわち,宗教法人が神前結婚等の挙式を行う行為で神事等本来の宗教活動の一部と認められる行為は収益事業に該当しないが,宗教活動と関係のない,挙式後の披露宴における飲食物の提供は「飲食店業」に,…該当することになるのである。本通達はこのことを念のために定めたものである。」(「法人税基本通達逐条解説」1257頁。)

  (2) 法人税基本通達の位置づけ

 ところで,税務通達は,上級の税務行政庁が,その指揮監督権に基づき,その所掌事務について下級の税務行政庁に対して行う命令又は示達であって,その法的性質・機能は,税務行政庁内部を規律する行政規範である(最高裁昭和43年12月24日判決・民集22-13-3147)。そして,税務通達の発遣の目的は,租税法律主義を具現化し,これをもって解釈運用の実際上の統一を図り,課税の公平を期することにある(東京高裁昭和41年4月28日判決・租税訴訟資料44-477)。

 したがって,法解釈において通達を重視するのは当然のことであるところ,この基本通達からして,法人税法は「本来の宗教活動の一部」か否かを基準とするものであり,「非営利か否か」あるいは「所轄庁の監督に服しているか」は基準となっていない,いわんや民間企業が同種の事業を行っているか否かも基準とはしていないのである。

 4 まとめ

 したがって,原判決は法人税法の解釈を誤っており,これを前提とする原判決の結論が誤りであることは当然である。

 法人税法の体系及び法人税法の精神を具現化した基本通達の趣旨からすれば,法人税法が宗教法人に対して原則的に課税しないという税制上の優遇措置は宗教法人が非営利法人であることを求められ,しかも,そのことを担保するために所轄庁による監督に服している点が重視されているとする原判決は誤りであり,法人税法は当該行為が本来の宗教活動であるか否かを基準としており,当該宗教法人及びその包括団体が本来の宗教行為であると認定した以上は,裁判所もこれを尊重して判断すべきものである。

第3 収益事業該当性の判断基準についての原判決の判断に対する疑問

 1 収益事業性の判断基準について

 原判決は,収益事業該当性について,「当該事業展開の手法,収受される財貨の額が定まるに至る経緯,その額と給付行為の内容との対応関係,例外の許容性などの具体的諸事情を総合的に考慮し,一般事業者が行う類似事業と比較しつつ,社会通念に従って,果たしてその財貨移転が任意になされる性質のものか,それとも一定の給付行為の内容に応じた債務の履行としてなされるものかを判断して決せられるべきものである」とする。

 2 原判決の申立人への適用

 原判決は,申立人のペット供養について,

 ①「料金表」「供養料」の表題の下に,3種類の葬儀内容と動物の重さの組み合わせに応じた確定金額からなる表を定め,ホームページにも同様の表を明示的に掲載していること

 ②ペット葬祭依頼者のほとんどが同表の存在を認識し,実際にも同表に記載された金員を支払っていたこと

 ③ペット葬祭を実施する民間業者が多数存在しており,その料金システムは申立人のものと極めて類似していることから,依頼者は申立人がその支払う金員に対応する葬祭行為をするものと期待し,申立人もその提供する葬祭行為に対応する金員が支払われるものと期待しているものというべきであるから,依頼者の支払う金員が任意のものとは到底理解されず,両者の間に対価関係を肯認するのが相当であるとしている。

 3 任意性を判断基準とすることの問題点

  (1) 争点でないものを基準としたこと

 原判決は「財貨移転が任意になされるか否か」を収益事業性の判断基準とする。しかし,原審においては,申立人(原告)は「本来の宗教活動か否か」が判断基準であるとし,他方,被告は「「収益事業」に該当するか否かは①民間事業との類似性の有無・程度,②非課税事業との関係,③提供されるサービス・物品の性質・態様等の諸般の事情を,国民の社会・文化的意識を基礎とする社会通念に照らして総合的に判断する。」と主張していたのであり,原判決は,当事者が争点としていない部分において判断を下しており,しかも原審においては一度も「財貨移転が任意になされるか否かが収益事業性の判断基準である。」旨の指摘もなかった。

 法律判断は裁判所の専権事項であるとはいえ,基本的な部分において当事者の論争がなされていない部分で判断することは妥当とは言い難い。

  (2) 理念と現実の使い分け

 原判決は,財貨移転が任意になされるか否かを収益事業性の判断基準とする。なるほど理念上は法施と財施とが対応関係に立たないのであり,これがゆえに宗教行為に対しては課税されないと解され,宗教と国家(税)とのあるべき形態を示しているが,これは現実の社会一般の意識が対価関係にないことを根拠としていない。

 しかしながら,理念上,法施と財施とが対応関係に立たないことから本来の宗教活動には課税されないからといって,現実における課税非課税の規準とすることは疑問である。「法施と財施とが対応関係に立たない」すなわち,対価関係にないことは宗教における理念の問題であり,現実の問題,あるいは社会一般の認識としては,原判決も認めるとおり,人の葬儀においてもある程度の幅を持つとはいえ「相場」が存在し,通常はこの相場の金額を「出さざるを得ない」と考え,僧侶に手渡しているし,僧侶もまたこの「相場」の金額が支払われるものと期待しているのが現実である。葬儀を依頼する者はこの「相場」の金額が出せない場合には,そもそもそれに見合った読経・葬儀を要求しない。原判決の事実認識はあまりにも現実からかけ離れたものである。

 他方,申立人におけるペット供養の現実においては,(特に施主からの依頼がなくとも)現実に火葬場から出るペットの遺骨を無償で供養することや,また,持ち込まれたペットの遺体を無償で火葬し,供養し,納骨することもあるのであり,特に読経に関して言えば,金額によって読経の内容などが変わるわけではなく明確な対価関係があるわけではない。

 結局,原判決は人の葬儀に関しては理念形を持ち出し,ペットの葬儀に関しては現実の社会一般の認識を持ち出してこれらを対比するものであり,その方法自体問題がある。理念形から言えば,人の供養もペットの供養も共に宗教行為として布施は対価ではないが,現実問題としては人の供養もペットの供養も対価関係が意識されているのであり,異なるものを対比することは不相当である。

  (3) 任意性を判断基準とすることの問題点―おみくじ・お札・御守等との比較

 なお,対価の支払における任意性を課税するか否かの基準として使用することが誤りであることは,例えば,神社において販売されているおみくじ・お札・御守等の場合には金額が確定しており,これを取得しようと思えば,購入する以外の方法はなく,その金額についても減額されることなどは全く想定されていないが,それでも宗教行為として課税の対象とはされていないのであり,明らかに矛盾している。

 4 まとめ

 いずれにせよ,原判決の任意性を基準とする収益事業該当性の基準は誤りであり,収益事業か否かは,後述のとおり,現行法人税法の下では,「本来の宗教活動か否か」によって決定されるべきものである。

第4 料金表の存在を任意性の規準とすることについて

 前述のとおり,原判決は料金表の存在をきわめて重要な判断要素とする。原判決は他に「依頼者のほとんどが同表の存在を認識し,実際にも同表に記載された金員を支払っていたこと」を基準とし,「依頼者は申立人がその支払う金員に対応する葬祭行為をするものと期待し,申立人もその提供する葬祭行為に対応する金員が支払われるものと期待しているものというべきである」とするが,「料金表」を公表する以上,これらの事実は当然のことである。

 ところで,供養の実態から見る限り,ペット供養のみがこれらの表を掲示しているのではなく,

 ①人形供養の場合には重さ・大きさに応じて金額が定められ,これがホームページにも掲載されている(甲第25号証の1~4),しかも,民間企業のする人形供養も同様である。

 ②水子供養はほとんど人の供養と同等であるが,一霊○○円という形で定額が定められ,これがホームページにも掲載されている(甲第26号証の1~9)。

 ③人の供養においても定額化が進みつつあり,現にホームページで金額が掲載されている(甲第27号証の1~9)。

 しかし,これらの供養はいずれもそれ故に課税されているわけではない。

 これらの事実からすれば,「料金表」の存在は「任意性」の判断基準とはならないか,そもそも「任意性」を収益事業性の判断基準とすること自体が誤りということになる。

第5 収益事業性認定において求められる基準

 1 法人税法において,公益法人等に対する課税における「収益事業性」の宗教法人における判断基準としては,次の点を満たす必要がある。

 2 租税法律主義に適合すること

  (1) 国民に義務を課し,その権利を制限することは国民の代表者によって構成される国会の定める法律によってのみ行われるべきであり,法律によらないで租税を課すことはできない(憲法第84条 租税法律主義)。これは国家の財力の負担者である国民が自らその内容を決定するという民主主義から当然の要請である。したがって,その一内容として,租税が賦課される対象は原則として法律によって明記される必要があり,その範囲を政令等いわんや解釈・運用によって安易に拡張することは厳に慎まなければならないのである。

  (2) 社会通念に合致すること

 法令は社会通念に基づいて制定されている以上,法令の解釈は社会通念によって解釈されるべきことは当然であるが,租税法律主義の支配する課税の場面では尚更であり,それであればこそ国民は課税についての予測可能性を持つことができるのである。

 したがって,本件の問題を含めて,課税に関する法令の解釈は,社会的事情ないし一般市民感覚にも合致する自然かつ合理的な税法解釈にならなければならないのである。このことは具体的には次のことを意味する。すなわち,一方では,通常使用される意味内容で法令の条文の文言を解釈する必要があることであり,同時に,現在の社会風潮その他の国民意識に基づいた解釈をする必要があることである。

  (3) 人の供養,針・人形供養,僧侶が民間企業に赴いて読経する場合との区別の基準足りうること

 当該基準が適用された結果,ペット供養に対して課税することになるとした場合,これと類似する人の供養,針供養・人形供養あるいは民間業者に宗教法人の僧侶が赴いて読経等の供養した場合には非課税であることが合理的な説明が可能でなければ,課税の公平の原則に反し,同時に課税の予測可能性がなくなるのであり,不当であることは明らかである。

第6 租税法律主義による解釈方針

 1 租税法律主義と公益法人課税についての法人税法の規定の解釈

 法人税法は第4条において「内国法人は,この法律により,法人税を納める義務がある。ただし,内国法人である公益法人等又は人格のない社団等については,収益事業を営む場合又は第84条第1項に規定する退職年金業務等を行う場合に限る」と明記している。したがって,法人税法第7条により申立人も含まれるとされる公益法人等は「収益事業」がある場合に限定して納税義務を負うことが明記されているのである。

 そして,同法はこの「収益事業」の範囲を「製造業,販売業その他の政令で定める事業」のうち,「継続して事業所を設けて営まれるもの」に限定している。さらに,この規定を受けた施行令5条は「法第2条第13号(収益事業の意義)に規定する政令で定める事業は,次に掲げる事業(その性質上その事業に附随して行なわれる行為を含む。)とする」として,33業種を列挙しているだけで,例えば「その他これらに類する事業」等の概括的規定は設けられていない。つまり,法人税法の基本的スタンスは,公益法人等の場合は例外的に限定列挙された「収益事業」を行った場合にのみ課税し,この収益事業の範囲は納税者の予測可能性にも考慮して限定列挙しているのである。

 2 イコールフィッティング論と租税法律主義

 したがって,仮に原判決が判断するように「民間企業との競合」が立法意図にあり,仮にそれが「33事業」を選定するときの1つの基準であったとしても,条文上に「その他民間企業と競合する事業」等の一般条項が規定されなかったことから明らかなとおり,法は収益事業の範囲を限定列挙したことからすれば,あくまで33事業に限定する趣旨であると解されるのであるから,これを拡張解釈することは租税法律主義に照らして許されないといわねばならない。

 したがって,「収益事業」に該当するかどうかは,あくまでも限定列挙された事業に該当するか否かで判断されるべきものであり,民間と競合しているからといって自動的に収益事業になるわけでもないし,前記のように,令第5条が制定された当時限定33業種に含まれていなかった各種公益的事業が,その後民間が参入することによって「収益事業」と解されることになるわけではないのである。仮にそれが社会的妥当性を有しないとしても(本件の場合には社会的妥当性もあるが),犯罪とされていない行為を罰することができない罪刑法定主義と同様,租税法律主義の下では租税を課すことはできないのである。

 そして,法人税法第4条が規定された当時,「ペット供養」という事業は存在しなかったのであるから,(その当否は別としても)新たな法律の規定を設けた上で課税対象とすることは格別,かかる立法的手当を行わないままに課税することは租税法律主義に反することになるのである。

 3 まとめ

 原判決の判断は安易に拡大解釈し,公益団体が行ってきた本来的活動で33業種に本来含まれない活動であっても,民間が参入することによって,その本来的活動が「収益事業」に変質しうるかのように解釈している。

 4 個別の行為の「特掲事業」へのあてはめ

  (1) 「収益事業」について

 「収益事業」とは,社会・経済的に見て内国法人がすると同様な経済活動であるところ,社会通念上「宗教活動」は「経済活動」とは考えられないから,「宗教活動」に該当する限りにおいては「収益事業」とはならないと解すべきである。

  (2) 「所得」について

 「『収益事業』から生じた『所得』」というためには,「収益事業」と「所得」との間に因果関係がなければならないところ,読経その他の宗教行為に際して受領する布施収入が課税されない理由を考えると,当該行為はそれに対する喜捨・布施・お礼が外形的には読経等の行為に対する対価のように見受けられるとしても,もともと魂の救済を目的とし,利益の追究を目的とするものではないから,読経等と喜捨・布施・お礼との間には対価性が認められないからである。そして,既に述べているとおり,供養において人であるとペットであるとは本質的な相違ではない。したがって,ペット供養による「お布施」(=財施)もまた対価性のないものとして課税されるべきものではないのである。

  (3) 「読経」「火葬」と「請負業」

 伴侶動物と捉えられているペットの「読経」「火葬」「火葬後の法要」という供養の本質的且つ中心的な宗教活動を「請負業」とすることは,人の葬儀における「読経」「火葬」「火葬後の法要」を「請負業」とすることと同様,「国民の社会・文化的意識」に反する。

 仮に原判決の判断するように,読経等による供養を「請負」概念に含まれると解することになれば,全ての無形の行為(被申立人の用語に従えば「サービス」)が「請負」に該当することになってしまう。しかしながら,このような無限定な概念の拡張は租税法律主義に反し,また,施行令5条が33の特掲事業についてのみ課税するとしていることとも矛盾することになる。

  (4) ペットの遺骨を供養のため保管する行為と「倉庫業」

 前記と同様,伴侶動物と捕らえられているペットの遺骨を供養のため保管する行為を「倉庫業」と捉えること自体,「国民の社会・文化的意識」に反する。

 また,ペットの遺骨の保管は,保管すること自体が目的ではなく,保管した上で読経等の供養をすることが主たる目的であるから,やはり保管すること自体を主たる内容とする倉庫業の概念からは外れざるを得ない。ちなみに,本願寺においては本山に故人の遺骨を預けるが,原判決はこれも「倉庫業」と観念するのであろうか。

  (5) 塔婆・プレート・骨壷・位牌・石版及び墓石の販売と「物品販売業」

 塔婆・プレート・骨壷・位牌・石版及び墓石を「物品販売業」とすること,についても同様であり,塔婆等の原価等の費用を考慮すれば,通常の物品の販売と同等に評価することはできず,社会通念にも反する。

 すなわち,墓石や位牌はそのままでは加工した石・木などの物質に過ぎないのであり,これが仏壇や墓地に設置され,且つ「お精入れ」という宗教的儀式が加えられてはじめて鎮魂とお参りの対象となる「位牌」「墓」となるのである。したがって,仏壇業者が位牌を販売したり,石材業者が墓石を販売する場合と同列に扱うことはできない。塔婆もまたもともとは仏舎利を収める「塔」だったものを擬したものであり,極めて宗教的な意義の強いものである。塔婆もまた僧侶等が仏文字を記入することがなければただの木片にすぎず,原価的にも極めて安価なものに過ぎない。

 したがって,塔婆・プレート・骨壷・位牌・石版及び墓石の販売と「物品販売業」ということはできない。

  (6) ペットの死体の引取及び墓地管理を「請負業」とすることについて

 ペットの死体の引取及び墓地管理を「請負業」とすることが社会通念に反することはこれまでの論述と同様である。

 ペットの死体の引き取りはペット供養に付随する行為ないしは前提となる行為であり,それ自体が目的というより,死体を引き取り,供養をし,火葬をした上で更に供養をするという一連の宗教行為の中でペットの飼主の喪失感等の癒し・ペットの霊の鎮魂のための行為であり,主たる行為は「供養」であって,これについては(1)で記載したとおりである。これらの行為を廃棄物の処理と同様に考えることはできない。

  (7) まとめ

 いずれにせよ,原判決の判断は社会通念に反した解釈と言わざるを得ず,特に,本来の宗教活動の中核である「読経」等による供養を請負と観念することはこじつけ以外の何ものでもなく,正当な解釈として許されるものではない。

第7 他の類似する非課税事業との区別について合理的な説明ができること

 1 ペット供養に対して課税することは,人の供養,針供養・人形供養あるいは民間業者に宗教法人の僧侶が赴いて読経等の供養した場合には非課税であることとの対比からすれば,課税の公平の原則に反し不当であることは明らかである。

 2 人の供養との対比

 人の供養は非課税であることは争いがない。原判決はこれにつき,「この場合に収受されるお布施には,ある程度の幅を持った世間相場というものが存在することは否定できないが,同じ読経を行う場合でも,被葬者の身分,経済力等によって金額が異なりうることは当然視されているし,仮にお布施の金額が世間相場より低額であったとしても,これが債務不履行として責任が追及されるとは考え難いなど,法的な拘束力を有していると認識されていない」とする。しかしながら,人の供養においても,例えば社会一般の通念からすれば,永代供養をすることは債務と観念され,したがって,僧侶がこれを履行しない場合には債務不履行が観念されているのであり,現にこれを正面から認めて,宗教法人と委託者との契約約款としている宗教法人も存在するのである(甲第28号証)。

 いずれにせよ,原判決の定立する任意性の基準は,人の供養に対する布施が非課税であることの合理的な説明になっていないことになり,いわんや,これに対してペット供養に対する布施が課税されることについて合理的な説明をなしていないことになる。

 3 人形供養・針供養との対比

 原審は,第1回口頭弁論期日において,申立人が被申立人に釈明を求めた「ペット供養が課税されるのに,人の供養,人形・針供養が課税されない理由」を申立人に明らかにするよう求めた(被申立人はそれに対して「収益事業」に該当するか否かは①民間事業との類似性の有無・程度,②非課税事業との関係,③提供されるサービス・物品の性質・態様等の諸般の事情を,国民の社会・文化的意識を基礎とする社会通念に照らして総合的に判断する。」と回答した)。

 ところが,原判決は,自ら釈明を求めた「ペット供養が課税されるのに,人の供養,人形・針供養が課税されない理由」を任意性の基準によって明らかにしていないし,現に,原判決の基準によれば,料金を明示している人形供養・針供養は任意性がなく,課税されるべきものになってしまうのである。

 4 民間業者の施設に赴いて読経して供養する場合との対比

 申立人が確認する限りでは,宗教法人ないし僧侶がペット葬祭業者のもとへ赴き読経して供養する場合のお布施には課税されていないのである(被告は特に争っていない)。

 この事態は,任意性の基準では到底説明ができないのであり,しかも課税の公平性に反することになる。

 5 他の供養との対比における結論

 結局,任意性の基準は他の非課税とされる供養との対比からしてもペット供養が課税されることに合理的な基準とは考えられない。

 やはり,人の供養,人形供養・針供養などが課税されないのは,それらが本来の宗教活動としてなされているからであるとしか考えられない。

 6 その他―他の非課税事業(お札・おみくじ)との対比

 既に述べた原判決の基準の不当性をさておいても,神社・仏閣による「お札・おみくじ」が課税されない理由は,原判決の基準では説明がつかない。「お札・おみくじ」は「護符ないし占い(神仏のお告げ)」と理解されているところ,特に占いに関しては様々な占いが行われており,民間業者も幅広くこれを行っており,必ずしも神社仏閣が行うから尊く価値があると理解されているわけではないし,金額が確定しており,その意味での任意性はないが,にもかかわらず,これらに対して課税がなされないのは,宗教法人が宗教行為の一環(本尊たる神仏のお告げとして位置づけられる)としてなしているからであり,それ以外の理由は見当たらない。

第8 結語

 原判決の判断は,公益法人等に対する課税制度について基本的な認識の誤りがあり,現行法人税法の考え方にも反した不当なものであって,その結果,社会通念や租税法律主義,課税の合理性・公平性にも反したものであり,特に,本来的宗教活動の中核である読経を中心とした供養にまで課税することは過去の課税実例にも反する不当なものであり,明らかに破棄されなければならないものである。