共済組合法の「配偶者」の概念(2)

 

         

 

遺族年金却下取消請求控訴事件

 

【事件番号】 東京高等裁判所判決/昭和52年(行コ)第72号

 

【判決日付】 昭和54年4月25日

 

【判示事項】 農林漁業団体職員共済組合の組合員との間において、別居生活を認容しその子が一八歳に至るまでの間の養育費等の支払を受ける旨の協約書を作成し、その後も共同生活を拒絶している戸籍上の配偶者が、農林漁業団体職員共済組合法(昭和四六年法律第八五号による改正前)二四条一項にいう「配偶者」又は「組合員であった者の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していたもの」に当たらないとされた事例

 

【掲載誌】  最高裁判所民事判例集37巻3号318頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

事   実

 

 控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四五年一一月三〇日付でなした控訴人の農林漁業団体職員共済組合法に基づく組合員内藤三郎にかかる遺族給付請求を却下する決定を取り消す。被控訴人は控訴人に対し組合員内藤三郎にかかる農林漁業団体職員共済組合法に基づく遺族給付を全額支給せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

 当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加する外は、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(但し、原判決四枚目裏二行目の「反論理的」とあるのを「反倫理的」と、同一〇枚目表八行目、一四枚目裏九行目、二二枚目表七行目及び同九行目に「全て」とあるのを「すべて」と各訂正する)。

(控訴人の主張)

 仮に中嶋とみ子に遺族給付受給資格があるとしても、控訴人と三郎との婚姻関係はその実体が失われて形骸化し、その状態が固定化しているとは明確に言いがたいから、右は農林漁業団体職員共済組合法第二七条にいう給付を受けるべき同順位の遺族が二人いる場合に該当するものとして、同規定を適用し、遺族給付を控訴人と中嶋とみ子に等分し、その半額を控訴人に給付すべきである。(証拠関係)(省略)

 

       

 

 

理   由

 

一 当裁判所は、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断するものであり、その理由は次のとおり訂正・付加する外は、原判決の理由と同一であるから、その説示を引用する。

 

(一) 原判決三〇枚目表一行目の「原告」から同二行目の「除く。)」までを「原審(第一ないし第三回)及び当審における控訴人本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)」と、同三二枚目裏二行目に「原告」とあるのを「三郎」と各訂正する。

 

(二) 原判決三五枚目表四行目の「原告」の前に「控訴人は昭和一五年三郎から性病を感染されてから再三発病していたところ、昭和二六年頃再発した際、医師から今後発病したらもはや治療の方法がないと言われ、三郎との別居をすすめられて以来、三郎の申出を拒否し、」を加える。

 

(三) 原判決三五枚目表六行目の「鈴木豊」の次に「、当審証人内藤春江」を加え、同行目の「原告本人尋問の結果は措信しがたく」とあるのを「原審及び当審における控訴人本人尋問の結果は措信しがたく、また甲第八号証の末尾の加入部分は、当審における控訴人本人尋問の結果によると控訴人が記載したことが認められるところ、右本人尋問の結果だけでは三郎が右記載を了承したかどうか明らかでないから、甲第八号証に右記載があるからといつて、右認定を左右できず、」と訂正する。

 

(四) 原判決三八枚目表六行目「ばかりか、」の次に 「昭和二六年頃発病の際、医師から今後発病したら治療の方法がないと言われ、三郎との別居をすすめられたことからすると、控訴人は三郎との同居を望まず、従つて」を、同末行の「原告本人は」の次に「原審及び当審において」を各加える。

 

(五) 原判決三八枚目裏四行目の「いうべきである。」の次に 

 

「もつとも前記のとおり、三郎は昭和三一年一一月二八日『離婚に関する調停の御願い』と題する書面を作成して控訴人との離婚の調停を申立てることを考え、

 

また同四〇年七月五日に至つては離婚届を偽造提出し、

 

一方原審証人岡野百合子の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)によると、

 

控訴人は昭和四一年七月離婚届が提出されていることを知つて、直ちに三郎に抗議すると同時に、東京地方裁判所八王子支部に離婚無効調停の申立をしたことが認められるが、

 

しかしこれは昭和二八年七月一三日の協定において、戸籍上の地位はそのままにしておくことが約されていたため、

 

三郎としては控訴人との間に事実上の離婚の合意が成立しているとして、

 

控訴人に離婚届の提出を求めたとしても、控訴人は右協定のあることを理由にその要求を拒否するであろうことを考え、

 

右の行為に及んだものであり、

 

他方控訴人としては、

 

右協定があるにかかわらず正式に離婚したとなると、

 

それまで警視庁から支給されていた恩給の支給に支障を来たしたり、

 

子女の結婚等に悪影響を及ぼしかねないことをおそれ、

 

それを防止する目的で右の措置をとつたものと考えられるので、

 

三郎及び控訴人に右のような各行為があつたからといつて、

 

このことから直ちに第二回目の別居の際には、三郎と控訴人間に事実上の離婚の合意がなかつたものとすることはできない。

 

さらに前記本人尋問の結果によれば、三郎は昭和三九年四月以降も年二回のボーナス時にはボーナスの一部を控訴人に渡しているが、

 

それは第二回目の別居の際に約束された事実上の離婚給付の性格を有していたものとみられるところの警視庁から支給される恩給が少額であつたため、

 

これを補う趣旨であつたことが認められるので、

 

右事実も右別居の際に事実上の離婚の合意がなかつたことの証左となるものではない。」を加える。

 

 

 

(六) 原判決三九枚目表四行目と五行目の間に

 

「控訴人は仮に中嶋とみ子に遺族給付受給資格があるとしても、

 

控訴人と三郎との婚姻関係はその実体が失われて形骸化し、その状態が固定化しているとは明確に言いがたいから、

 

右は農林漁業団体職員共済組合法第二七条にいう給付を受けるべき同順位の遺族が二人いる場合に該当するものとして右規定を適用し、

 

控訴人に遺族給付の半額を支給すべきであると主張する。

 

しかしながら控訴人と三郎の婚姻関係は昭和三一年一二月以降事実上離婚状態にあつて、三郎が死亡した頃にはその婚姻関係は実体が失われて形骸化し、

 

その状態が固定化していたことは、前記のとおりであるから、

 

右と異なる事実を前提とする控訴人の右主張はその前提において既に失当であつて、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。」を加える。

 

二 よつて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 

(裁判官 園田 治 田畑常彦 丹野益男)