所得税法にいう「配偶者」の意義(3)

 

 

 

所得税更正処分取消等請求上告事件

 

 

 

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成8年(行ツ)第64号

【判決日付】 平成9年9月9日

【判示事項】 所得税法八三条及び八三条の二にいう「配偶者」の意義

 

【掲載誌】  訟務月報44巻6号1009頁

 

 

について検討します。

 

 

 

 

主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       

 

 

理   由

 

 上告人の上告理由について

 

 【判示事項】所得税法八三条及び八三条の二にいう「配偶者」は、納税義務者と法律上の婚姻関係にある者に限られると解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、右と異なる見解に立って原審の右判断における法令解釈の誤りを論難するものにすぎず、採用することができない。

 

 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 

(裁判官 千種秀夫 園部逸夫 大野正男 尾崎行信山口繁)

 

 

 

     

 

 

上告理由

 

 

 一 憲法第八一条は裁判所に、「一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する」違憲審査権を与えており、上告人は一貫して本人の受けた「処分」自体における違法性(平等権侵害)の審査をもとめてきた。すなわち、事実上の配偶者について配偶者及び配偶者特別控除を認めないとした被上告人による所得税更正の「処分」の違法性を主張してきた。ここで問題となるのは、右所得控除の制度における「配偶者」から事実上の配偶者を、条文上の明文規定がないにもかかわらず排除した国家行為が、配偶者及び配偶者特別控除の制度目的に対してはたして必要であり合理的関連性を有するかということであるが、配偶者及び配偶者特別控除の制度趣旨から勘案するに事実上の配偶者についても右制度の適用を認めるのが社会的に妥当であり制度目的の達成にも実効をもたらすものである。また、上告人は自己の人格的存立にかかわる強い信条から、事実婚主義を採っていたが、これは、婚姻届を提出しないという不作為によってのみ表現可能であったものであるが、この精神的自由を必然的に侵害するというかたちでの財産権の侵害についても、憲法上の解釈は緻密に行わなければならない。

 

 二 第二審裁判所は合理性の基準をあまりに広く認定し、憲法の解釈に誤りを生じているほか、上告人の右主張に審理を尽くしておらず、理由不備と考える。第二審裁判所は、第四 当裁判所の判断として、「民法が婚姻の方式として届出を要するとすることは、・・・・・・十分に合理性を有するものであって、所得税法がこれを前提として、・・・・・・事実上の配偶者やその者との間の子を有する者に右所得控除を認めないとしても、・・・・・・婚姻の方式に届出を要する制度をとった以上やむを得ない」と述べているが、

 

ちなみに最高裁判所判決によれば、農林漁業団体職員共済組合法二四条一項の「配偶者」は「社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者」と解すべきである(最判昭五八・四・一四民集三七巻三号二七〇頁)としており、第二審裁判所が本件に関して示した「婚姻の方式に届出を要する制度をとった以上やむを得ない」との判断は裁判所の理由として採りえない。

 

また、上告人は毎年の確定申告を通じ、妻及び第一子、第二子の扶養の事実を被上告人に知らしめてきたものであり、被上告人に対する公示の機能は全うできていたにもかかわらず、被上告人は不平等な取扱いである戸籍調査を行ってまで上告人を差別したものである。憲法第一四条に抵触するこのような手続き上の平等権侵害に関しても、原審は審理及び判断をしておらず、理由不備が認められる。以上