所得税更正処分取消請求事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和47年(行ツ)第4号
【判決日付】 昭和50年5月27日
【判示事項】 財産分与としての不動産の譲渡と譲渡所得課税
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集29巻5号641頁
について検討します。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人竹下重人の上告理由について。
譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しない
(最高裁昭和四一年(行ツ)第一〇二号同四七年一二月二六日第三小法廷判決・民集二六巻一〇号二〇八三頁参照)。
したがつて、所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させるいつさいの行為をいうものと解すべきである。
そして、同法五九条一項(昭和四八年法律第八号による改正前のもの)が譲渡所得の総収入金額の計算に関する特例規定であつて、所得のないところに課税譲渡所得の存在を擬制したものでないことは、その規定の位置及び文言に照らし、明らかである。
ところで、夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる(民法七六八条、七七一条)。
この財産分与の権利義務の内容は、当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は地方裁判所の判決をまつて具体的に確定されるが、右権利義務そのものは、離婚の成立によつて発生し、実体的権利義務として存在するに至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。
そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、
この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。
したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。
してみると、本件不動産の譲渡のうち財産分与に係るものが上告人に譲渡所得を生ずるものとして課税の対象となるとした原審の判断は、その結論において正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 高辻正己
裁判官 関根小郷
裁判官 天野武一
裁判官 坂本吉勝
裁判官 江里口清雄