塾講師への支払金(1)

 

 

 

源泉所得納税告知処分取消等請求事件

 

 

【事件番号】 東京地方裁判所判決/平成22年(行ウ)第308号

 

【判決日付】 平成25年4月26日

 

【判示事項】 塾講師等を派遣する事業を営む原告Xが,同講師への支払金の源泉徴収をせず,また,同講師

       等から本件金員を対価とする役務の提供を受けたことが課税仕入れになるとした上で消費税等の

       申告をしたところ,税務署長Yから,源泉徴収に係る所得税納税告知処分や消費税の更正処分等

       を受け,その取消しを求めた事案。裁判所は,上記支払金は,講師等が雇用契約に類する原因に

       基づいて提供された非独立的な労務の対価として給付されたもので,給与所得に当たると判断

       し,また,通則法65条4項及び67条1項の「正当な理由」があるとは認められず,本件各処

       分はいずれも適法であるとして,請求を棄却した事例

 

【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

 

 

について検討します。

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

 

1 渋谷税務署長が原告に対し平成20年6月30日付けでした,①平成15年10月分から平成19年10月分までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉徴収所得税」という。)の各納税告知処分及び②これらに係る不納付加算税の各賦課決定処分(ただし,上記①及び②のいずれについても,平成20年11月27日付け異議決定及び平成21年12月15日付け裁決により一部取り消された後のもの。以下,この一部取消しの前後を問わず,上記①の各納税告知処分を総称して「本件各納税告知処分」といい,上記②の各賦課決定処分を総称して「本件不納付加算税各賦課決定処分」という。)をいずれも取り消す。

 

2 渋谷税務署長が原告に対して平成20年6月30日付けでした,①原告の平成16年9月1日から平成17年8月31日までの課税期間(以下「17年8月課税期間」という。)に係る消費税の更正処分のうち消費税額679万7200円を超える部分及び②上記課税期間に係る地方消費税の更正処分のうち納付すべき地方消費税額171万5600円を超える部分並びに③上記①及び②の各更正処分(これらを総称して,以下「17年8月課税期間更正処分」という。なお,消費税と地方消費税を総称して,以下「消費税等」という。)に係る過少申告加算税賦課決定処分(以下「17年8月課税期間賦課決定処分」という。)をいずれも取り消す。

 

3 渋谷税務署長が原告に対して平成20年6月30日付けでした,①原告の平成17年9月1日から平成18年8月31日までの課税期間(以下「18年8月課税期間」という。)に係る消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額598万1200円を超える部分及び②上記課税期間に係る地方消費税の更正処分のうち納付すべき地方消費税額149万5300円を超える部分並びに③上記①及び②の各更正処分(これらを総称して,以下「18年8月課税期間更正処分」という。)に係る過少申告加算税賦課決定処分(以下「18年8月課税期間賦課決定処分」という。)をいずれも取り消す。

 

4 渋谷税務署長が原告に対して平成20年6月30日付けでした,①平成18年9月1日から平成19年8月31日までの課税期間(以下「19年8月課税期間」という。)に係る消費税の更正処分のうち納付すべき消費税額632万9100円を超える部分及び②上記課税期間に係る地方消費税の更正処分のうち納付すべき地方消費税額158万2200円を超える部分並びに③上記①及び②の各更正処分に係る過少申告加算税賦課決定処分(ただし,上記①~③のいずれについても,平成21年12月15日付け裁決により一部取り消された後のもの。以下,この取消しの前後を問わず,上記①及び②の各更正処分を総称して「19年8月課税期間更正処分」といい,上記③の各過少申告加算税賦課決定処分を「19年8月課税期間賦課決定処分」という。)をいずれも取り消す。

 

 

 

 

 

 

第2 事案の概要等

 

 

1 事案の要旨

  

(1) 原告は,①民間教育機関及び公的教育機関(以下「教育機関等」という。)から講師による講義等の業務を,いわゆる一般家庭から家庭教師による個人指導の業務を,それぞれ受託する一方,②原告の上記①の各業務に係る講師又は家庭教師として原告と契約を締結し,上記①の教育機関等における講義等又は一般家庭における個人指導の業務を行った者に対し,当該契約所定の金員(ただし,交通費を除く。以下「本件各金員」という。)を支払っていた(原告との間の契約に基づき教育機関等における講師として講義等の業務を行う者を以下「本件塾講師」といい,一般家庭における家庭教師として個人指導の業務を行う者を以下「本件家庭教師」といい,両者を併せて以下「本件講師等」という。また,原告に対して講師による講義等の業務を委託した教育機関等を以下「本件教育機関等」といい,原告に対して家庭教師による個別指導の業務を委託した一般家庭を以下「本件会員」といい,両者を併せて以下「本件各顧客」という。)。

  

(2) 本件は,①原告が,本件講師等に対して支払った本件各金員が所得税法28条1項に規定する給与等に該当しないことを前提として,平成15年10月分から平成19年10月分までの各月分(以下「本件各月分」という。)に係る本件各金員につき源泉所得税の源泉徴収をせず,また,本件講師等から本件各金員を対価とする役務の提供を受けたことが課税仕入れ(消費税法2条1項12号)に当たるものとして,同法30条1項(平成24年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に従い,これに係る消費税額を同法45条1項2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から控除した上で,17年8月課税期間,18年8月課税期間及び19年8月課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税等の申告をしたところ,②渋谷税務署長が,本件各金員は上記の給与等に該当し,本件各金員を対価とする役務の提供を受けたことは課税仕入れに該当しないとして,前記第1の1~4掲記の各処分(これらを総称して以下「本件各処分」という。また,17年8月課税期間更正処分,18年8月課税期間更正処分及び19年8月課税期間更正処分を総称して以下「本件各更正処分」といい,17年8月課税期間賦課決定処分,18年8月課税期間賦課決定処分及び19年8月課税期間賦課決定処分を総称して以下「本件各賦課決定処分」という。)をしたため,③原告が,本件各金員は上記の給与等に該当しない旨主張して,本件各処分(ただし,本件各更正処分については,原告の申告額又は本件各更正処分前にされた減額更正処分に係る納付すべき税額を超える部分)の取消しを求める事案である。

 

 

 

2 関係法令の定め

   別紙1「関係法令の定め」に記載したとおりである(同別紙において定めた略称は,以下においても用いることとする。)。

 

3 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者において争うことを明らかにしない事実である。以下「前提事実」という。)

  

(1) 原告について

    原告は,教育機関等の講座等の請負業務,受験生に対する訪問指導等を目的とする株式会社である。

  

(2) 本件塾講師について

   

ア 原告は,教育機関等から本件塾講師による講義等の業務を受託するなどの事業ないしこれを行う部署を「A」と称している(なお,原告〔A〕のホームページやパンフレットによれば,「A」とは,Bの略であり,教育機関への総合人材コンサルティングを行う原告のセクションをいうものとされている。以上,乙2~4の2,33)。

   

イ 原告(A)のホームページ及びパンフレットには,本件塾講師となることを希望する者が本件塾講師として業務に当たるまでの流れについて,おおむね次のような内容の記載がされている(甲16,乙2~4の2,33)。

    

(ア) 本件塾講師となることを希望する者は,電話・インターネットを通して講師仮登録をした後,原則として原告の事務所に赴いて,教科テスト,講師適正テスト(「C」と呼ばれる性格判断テスト)及び面接を受けた上で,正式にA講師として登録(本登録)がされる(なお,乙2,3,4の2及び33では,講師仮登録の後に行われる本登録に至るまでの一連の手続を指して「登録会」ないし「導入登録会」と称しているが,乙4の1では,本件塾講師となることを希望する者は,上記の面接終了後,Aの指導マニュアルに沿って講義ができるように研修を受けるものとされており,この研修のことを「登録会」と称している。)。

    

(イ) 原告においては,前記(ア)のとおり本登録をした者の中から,本件教育機関等が示した条件に基づいて,本件塾講師となる者の候補者を選定し,当該候補者は,業務内容の詳細及び就業意思の最終確認の手続のために原告の事務所に赴いて「紹介研修」を受講し(「紹介研修」については,この研修を通じて,仕事先の特徴や講師としての心構え,仕事先で受ける面談や模擬授業のコツなどについて具体的なレクチャーを受けることにより,講師としての精度を上げて臨むことができるなどと説明されている。),その後,本件教育機関等における面接に合格すると,本件塾講師として本件教育機関等における講義等の業務に当たる。

   

ウ 原告(A)のホームページ(乙2及び4の1は平成20年4月当時のものであり,乙4の2は平成22年9月当時のものであり,乙33は平成24年11月当時のものである。)及びパンフレットには,原告の本件塾講師に対する助言・指導の体制等について,次のような内容の記載がされている(甲16,乙2~4の2,33)。

    

(ア) 原告においては,講師の研修にも力を注いでおり,指導上の技術のみならず,社会人のマナー,心得まで専門の研修担当教員が講師の教育に当たり,講師の質の向上と保持を可能にしている(乙2,3)。

    

(イ) 原告においては,スムーズに本件塾講師の仕事に入ることができるよう,着実に教える力が身に付く研修やサポート体制を整えており,講師経験のない初心者でも安心して登録をすることができる(甲16)。

    

(ウ) 原告においては,本件塾講師が本件教育機関等において指導を開始した後も,模擬授業によって本件塾講師の実力を確認したり,担当のコーディネーターが,本件教育機関及び本件塾講師と随時連絡を取り,本件塾講師のスケジュール管理,指導上のアドバイス(きめ細かいフォロー)を行ったりしている(甲16,乙2,4の1・2)。

    

(エ) 原告は,教育機関等に対し,研修・面接により選抜された講師を紹介している。原告においては,登録講師に対して,教授力のスキルアップや授業内容のクオリティアップ,生徒を指導する立場として必要なマナーチェックなどを兼ねた研修を必要に応じて行っており,本件塾講師は,主に登録時の「登録会」と実際に講師業務を始める前に行う「紹介研修」ないし「紹介打合せ」を必ず経て,指導に当たっている。(乙33)

    

(オ) 原告においては,指導を始めるに当たり必ず研修を行っており,初めて生徒を担当する者には,特に丁寧に研修を行う(乙33)。

    

(カ) 本件塾講師への指示・命令系統は,基本的には「A事業部」にあり,本件塾講師がいわゆる代講の依頼をする場合には,本件教育機関等に対してではなく,原告(A事業部)に対し,1か月前までに申告をすることを要する(乙4の1)。

   

エ 原告と本件教育機関等との間の契約に係る「基本登録規約」(甲3。以下「本件登録規約」という。)においては,次のような内容の定めがされている。

    

(ア) 業務委託

      本件教育機関等は,原告に対し,本件教育機関等の学習指導業務及び講師選定業務の委託を申し込むことができ,原告は,その申込みに応じ,これを承諾するものとする(1条)。

    

(イ) 個別業務委託契約及びその手続

      本件教育機関等の申込みは,原告により指定された業務委託申込書に従って行われることを要し,個別業務委託契約は,原告による受注確認書の発送により成立する(2条1項)。

    

(ウ) 委託料金

     ①委託料金は,別段の合意がある場合を除き,原告の定める申込時において有効な料金表(甲24参照)を基準に決せられ(3条1項),②原告は,本件教育機関等の認印を受けた指導時間確認表に基づき委託料金を計算し,その額に消費税及び一定区間以外の区間についての交通費を加えた額を本件教育機関等に請求し,本件教育機関等は当該委託料金を支払う(同条2項)。

    

(エ) 業務の適正な遂行義務

      原告は,本件登録規約の目的を達成するために,適当な業務従事者(本件塾講師を指す。以下,エの項において同じ。)を選定し,受託業務に当たらなければならない(4条)。

    

(オ) 環境整備義務

      本件教育機関等は,①業務従事者が安全に受託業務を遂行できる環境を整えなければならず(5条1項),②業務従事者が委託業務遂行及び原告に対する報告をするに当たり通常必要と認められる物(通信機器を含む。)を貸与しなければならない(同条2項)。

    

(カ) 禁止事項

     

a 前記(ア)の業務委託につき,本件教育機関等は,原告との間において特段の合意のある場合を除き,個別業務委託契約期間中に本件塾講師を本件教育機関等又はその関連する事業所にて雇用してはならない(6条1項)。

     

b 本件教育機関等は,本件塾講師との間で,本件教育機関等の業務に関し,現金及びそれに類するものの授受をしてはならない(6条2項)。

    

(キ) 損害賠償等

      本件教育機関等が前記(カ)aに反して本件塾講師を直接雇用した場合は,本件教育機関等は原告に対し損害賠償金のほか違約金を支払う(11条3項)。

   

オ 原告と本件塾講師との間の契約に係る「業務委託基本契約書」(甲2。以下「本件塾講師基本契約書」という。)においては,次のような内容の定めがされている。

    

(ア) 委託業務内容

      学習指導及びそれに付随する業務(1条)。

    

(イ) 個別業務委託契約及びその手続

      原告から個別業務委託の依頼があり本件塾講師がこれを受託した場合,原告は,本件塾講師に,個別業務委託内容確認書(当該「個別業務委託契約」に係る「業務受託者」〔当該「個別業務委託契約」に係る業務を担当する本件塾講師〕,「業務従事期間と条件」及び「業務従事先会社」が記載されている。甲5。以下「本件塾講師確認書」という。)を発行し,原告と本件塾講師との同確認書の受渡しの完了により個別業務委託契約が成立したものとする(2条1項)。

    

(ウ) 業務委託代金の支払

      委託代金及び業務に関わる交通費のうち最短経路分の支払は月末締切り翌々月10日払(ただし,10日が土日祝日の場合は銀行翌営業日とする。)とし,原告が指定する銀行の本件塾講師名義の口座に振り込むこととする(3条1及び2項)。

    

(エ) 原告の負う義務

     

a 原告は,本件塾講師の指導及びそれに付随する行為について,本件塾講師の相談を受けなければならない(4条1項)。

     

b 原告は,本件塾講師の指導及びそれに付随する行為について,本件塾講師に最大限の協力をしなければならない(4条2項)。

    

(オ) 本件塾講師の負う義務

     

a 本件塾講師は,委託された個別業務に対し最善の努力をしなければならない(5条1項)。

     

b 本件塾講師は,後記(カ)に定めるとおり,原告に対し委託業務の遂行状況を報告しなければならない(5条2項)。

    

(カ) 業務連絡票の正確な使用

      本件塾講師は,業務連絡表(乙7)について,各月の最後の指導が終了した後,月間合計時間数及び月間交通費を記入し,本件教育機関等の担当者の確認署名及び認印を得て,これを所定の期限までに原告に送付しなければならない(6条1項,2項)。

    

(キ) 禁止事項

     

a 本件塾講師は,委託条件,研修内容等守秘義務に当たる事項を第三者へ漏洩してはならない(8条2項)。

     

b 本件塾講師は,個別契約内容確認書に明記された期間中及び当該個別契約終了後3年以内に,本件教育機関等又は業務上知るに至った生徒又はその家族と直接契約して学習指導等をしてはならない(8条3項)。

     

c 本件塾講師は,原告の承諾なしに一方的に契約期間満了前に辞任してはならない(8条4項)。

     

d 本件塾講師については,原告から委託された本件教育機関等の場所において携帯電話の使用を禁止する(8条6項)。

    

(ク) 契約の解除

      原告と業務従事先会社の契約に基づき,原告が業務従事先会社から本件塾講師の交代の申出を受けた場合,原告は当該個別契約を解除できる(9条1項)。

    

(ケ) 返還義務

      本件塾講師は,契約終了時又は解除時には,交付又は貸与された物品(教材等)及びその他業務委託先に帰属する物を速やかに返還しなければならない(10条1項)。

    

(コ) 罰則規定

      前記(キ)bの規定に反して本件塾講師が本件教育機関等と直接契約した場合,本件塾講師は原告に対し損害賠償金を支払う(11条2項)。

    

(サ) 有効期間

      契約の有効期間は,契約締結の日から1年間とするが,特段の意思表示のない限り,契約は,期間満了と同時に自動的に更新されるものとする(13条)。

    

(シ) 契約外事項

      原告と本件塾講師の間の契約に定めのないものについては,両者協議の上決定するものとするが,協議の整わない場合は原告の指示に従うものとする(14条)。

   

カ 原告の作成に係る「授業マニュアル~よりよい講師としてよい授業をするために~」と題する冊子(乙9。以下「本件授業マニュアル」という。)には,授業の流れ,授業の組立てのバランス,板書・説明・演習の方法や注意点等が記載されている。

  

(3) 本件家庭教師について

   

ア 原告は,いわゆる一般家庭における本件家庭教師による個人指導の事業ないしこれを行う部署を「D」と称している(乙10~12の2,34)。

   

イ 原告(D)のホームページ,パンフレット類及び原告の作成に係る「講師研修資料」と題する冊子(乙13。以下「本件講師研修資料」という。)には,本件家庭教師となることを希望する者が本件家庭教師として業務に当たるまでの流れについて,おおむね次のような内容の記載がされている(乙10~13,16,34)。

    

(ア) 本件家庭教師となることを希望する者は,インターネット,電話等を通して講師仮登録をした後,原告の事務所に赴いて,教科テスト(実力テスト),性格適正検査(C),個別面接,講師登録書(乙5)作成及び家庭教師としての基本姿勢についての研修を経た上で,正式にDの講師として登録(本登録)がされる(なお,乙12及び13では,講師仮登録の後に行われる本登録に至るまでの一連の手続を指して「登録会」と称している。)。

    

(イ) 原告においては,前記(ア)のとおり本登録をした者の中から,本件会員が示した条件に適した者を本件家庭教師者の候補者として選考し,当該候補者は,業務内容の詳細及び就業意思の最終確認の手続のために原告の事務所に赴いて「紹介研修」を受け(「紹介研修」では,①本件会員及び生徒の状況や指導要点の説明,②「業務委託契約書」の作成,③講師証〔乙15〕の発行,④指導料振込みのための講座開設,⑤必要書類,テキストの引渡し及び⑥本件会員との顔合わせ日時の設定をするものとされる。),その後,本件会員方に赴いて本件会員及び生徒と顔合わせ(面談)をし,本件家庭教師として採用されると,本件会員方において,個人指導の業務に当たる。

      なお,本件講師研修資料には,本件会員との顔合わせにおいて指導経験を問われた場合には,「指導経験はありませんが,センターできちんと研修を受けましたので,ご安心ください。」「センターと相談しながら進めていきます。」とはっきり答えるようにとの記載がされている。

   

ウ 原告(D)のホームページ(乙10は平成22年9月当時のものであり,乙12の1は平成20年4月当時のものであり,乙12の2は平成22年11月当時のものであり,乙34は平成24年11月当時のものである。),パンフレット類及び本件講師研修資料には,原告の本件家庭教師に対する助言・指導の体制等について,次のような内容の記載がされている(乙10~13,16,34)。

    

(ア) 原告においては,講師選抜テストに合格した人間性・経験ともに優秀な者の中から,更に研修・管理を行い,本件家庭教師を教育のプロに育てている(乙10,34)。

    

(イ) 原告においては,鍛え抜かれた家庭教師を育成するために自らの努力研さんを怠らず,派遣後の状況把握に絶えず心を配っている(乙34)。

    

(ウ) 原告においては,指導を始めるに当たり必ず研修を行っており,初めて生徒を担当する者には,特に丁寧に研修を行う(乙12の1・2,34)。

    

(エ) 原告においては,毎月の学習状況・指導状況を把握するために,指導報告書の提出を本件家庭教師に義務付けており,これに基づいてその後のスケジュールやカリキュラムの調整をするとともに,随時本件会員からの学習相談も受け付けている(乙10,11,34)。

    

(エ)(ママ) 原告においては,本件家庭教師から提出を受けた指導スケジュール表に基づいて,指導回数・日時など,指導スケジュールに従った指導が行われているかをチェックしている(乙12の2,13)

    

(オ)(ママ) 本件家庭教師において,「契約内容の変更を伴うスケジュール変更」をする場合や,やむを得ず交代等が必要となった場合には,原告(センター)に連絡をすることを要する(乙13)。

   

エ 原告と本件会員との間の契約に係る「個人指導等に関する契約書」(甲4。以下「本件個人指導契約書」という。)においては,原告が本件会員に提供する個人指導の時間ないし回数(1条1項)及び契約金額(6条)に関する定めのほか,次のような内容の定めがされている。

    

(ア) 契約指導期間

      原告が提供する役務の期間は,別途スケジュール表で定めた期間又は契約時間数分の役務の提供の終了までとする(1条2項)。

    

(イ) 指導時間の管理

      原告は,本件会員に対し,契約締結後,指導時間確認のため契約指導時間分の指導碓認票を発行する(2条1項)。

    

(ウ) 指導確認票の使用

      本件会員は,原告より提供を受けた個人指導に対し,原告の発行による契約指導時間分の指導確認票を,1回につき時間相当分枚数を捺印の上,指導終了時に本件家庭教師に直接手渡す(2条2項)。

    

(エ) 本件家庭教師の交通費に関する特約

      本件家庭教師の交通費は,原則として本件会員の負担とする(2条3項)。

    

(オ) 指導日時の変更に関する特約

      本件会員が,指導日時の変更を希望するときは,指導日前日までに本件家庭教師又は原告に連絡する(4条1項)。

   

オ 原告と本件家庭教師との間の契約に係る「家庭教師業務委託契約書(学生)」及び「家庭教師業務委託契約書(社会人)」(本件各処分に係るいわゆる税務調査の際に原告側が調査担当者に示したもの。乙1の1・2,弁論の全趣旨。これらの契約書を総称して,以下「本件各家庭教師契約書」という。)においては,「業務委託内容」(本件会員名及び生徒名,指導期間,指導回数,指導スケジュールなど)についての定め(1条)のほか,次のような内容の定めがされている(なお,乙26〔平成18年6月20日付けの原告と本件家庭教師との間の契約に係る「家庭教師業務委託契約書(社会人)」〕の内容は,乙1の2と同様のものである。)。

    

(ア) 業務委託条件

      支払われる指導料金は,指導時間の単位で定めるものとし,その支払は,月末締切りとし翌月の20日に原告指定銀行の口座に振り込む(第2条)。

    

(イ) 原告の負う義務

     

a 原告は,本件家庭教師の指導及びそれに付随する行為についての相談を受けなければならない(3条1項)。

     

b 原告は,本件家庭教師の指導及びそれに付随する行為について最大限の協力をしなければならない(3条2項)。

    

(ウ) 本件家庭教師の負う義務(善管注意義務・報告義務)

     

a 本件家庭教師は,原告の指示に基づき家庭教師として本件会員の指導要望を満たすため,最善の努力をしなければならない(4条1項)。

     

b 本件家庭教師は,業務委託契約に基づき定められた期間内に家庭教師として指導を完了しなければならない(4条2項)。

     

c 本件家庭教師は,業務委託契約に基づき定められた指導回数を家庭教師として完全に遂行しなければならず,本件会員からの指導回数の変更依頼があった場合,原告に報告をし,許可を得なければならない(4条3項)。

     

d 本件家庭教師は,1条の業務委託内容に基づく契約締結後,やむを得ない事由(付則(1))以外期間内において辞任できない(4条4項)。

     

e 本件家庭教師は,原則として翌月3日までに,当月までの指導報告書・指導確認票・指導日報を持参(一定の者については郵送も可)し研修を受けなければならない(4条5項)。

     

f 本件家庭教師は,講師研修マニュアル及び紹介研修時のマニュアルに沿って指導を遂行しなければならない(4条6項。なお,本件において原告が本件家庭教師との間の契約に係る契約書の用紙として提出した甲7及び8には,この定めは置かれていない。)。

    

(エ) 禁止事項

     

a 原告の業務内容に関して本件会員に対し不平不満を漏らしたり,不当な中傷をする等,原告の名誉を毀損し,信用を著しく失墜させる行為(5条1項)

     

b 契約条件(講師指導料等),研修ノウハウ等守秘義務に当たる事項の本件会員及び第三者への漏洩行為(5条2項)

     

c 契約期間中及び指導終了後3年間に発生する継続追加又は兄弟間の新規発注等に関して本件会員と直接契約する行為(5条3項)

     

d 本件家庭教師が報告なしで本件会員の指導を中止したり,業務内容を変更する行為(5条4項)

     

e 本件家庭教師が原告と相談なく一方的に中途で辞任する行為(5条6項)

     

f 指導報告書提出,指導確認票提出,指導日報の記載等の義務違反(5条7項)

    

(オ) 付則

     

a 4条4項に関して,本件家庭教師の義務を履行できない事態が生じた場合,以下の書類で証明しなければならない(付則(1))

      

(a) 病気・怪我等で指導が不可能になった場合 医師の診断書

      

(b) 住居移転の場合 転居先の住民票又は不動産契約書

     

b 本件会員より契約期間内に解約要請のあった場合又は本件会員から講師の交代の申出があった場合,その時点で本件家庭教師の指導は打切りとする(付則(2))。

     

c 契約に当たり第1回目契約時のみ講師証を発行し,講師証代金は1000円とし,初回指導料から差し引くものとする(付則(3))。

     

d 本件会員から契約継続の要請があった場合,原告と本件家庭教師が契約終了以前に合意の上,当該本件家庭教師が引き続き指導を行うものとし,その場合,契約は継続分終了まで有効とする(付則(4))。

     

c 講師指導料の振込手数料は本件家庭教師の負担とし,また,指導報告書の提出を2か月遅滞した場合には,遅滞月の指導料を10%差し引くものとする(付則(5))。

  

(4) 本件各課税期間の消費税等についての確定申告等

    本件各課税期間の消費税等についての確定申告,17年8月課税期間の消費税等の確定申告についての更正の請求及びこれに係る更正処分(以下「17年8月課税期間当初更正処分」という。)並びに18年8月課税期間の消費税等の確定申告についての更正の請求及びこれに係る更正処分(以下「18年8月課税期間当初更正処分」という。)の経緯は,それぞれ,別表A・第1表~第3表の各「確定申告」欄,第1表及び第2表の各「更正の請求」欄並びに第1表及び第2表の各「当初行政処分」欄に記載されているとおりである。

  

(5) 課税処分の経緯

   ア 本件各更正処分等,本件各更正処分等についての原告の異議申立て及びこれらに対する渋谷税務署長の決定,これらの決定を経た後の本件各更正処分等についての原告の審査請求及びこれに対する国税不服審判所長の裁決の経緯は,それぞれ,別表A・第1表~第3表の各「更正処分」欄,各「異議申立て」欄,各「異議決定」欄,各「審査請求」欄及び各「同上裁決」欄に記載されているとおりである。

   イ 本件各納税告知処分等,本件各納税告知処分等についての原告の異議申立て及びこれらに対する渋谷税務署長の決定,これらの決定を経た後の本件各納税告知処分等についての原告の審査請求及びこれに対する国税不服審判所長の裁決の経緯は,別表B及び別表Cに記載されているとおりである。

  (6) 本件訴えの提起

    原告は,平成22年6月15日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

 

 

 

 

 

 

 

 

4 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張

   本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,後記6に被告の主張の要点として掲げたもののほか,別紙2「本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張」に記載したとおりである(なお,同別紙で定める略称等は,以下においても用いることとする。)。

 

 

 

5 争点

  

(1) 本件各金員に係る所得が所得税法28条1項に規定する給与等に係る所得に該当するか否か(争点1)

  

(2) 本件において通則法65条4項にいう「正当な理由」及び同法67条1項ただし書にいう「正当な理由」が認められるか否か(争点2)

 

 

 

 

 

6 争点に関する当事者の主張の要点

   別紙3「争点に関する当事者の主張の要点」に記載したとおりである(なお,同別紙で定める略称等は,以下においても用いることとする。)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

1 本件各金員に係る所得が所得税法28条1項に規定する給与等に係る所得に該当するか否か(争点1)について

  

(1) 所得税法28条1項に規定する給与等に係る所得の意義について

   

ア 最高裁昭和56年判決は,業務の遂行ないし労務の提供(これらを併せて以下「労務の提供等」ともいう。)から生ずる所得が所得税法上の事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するに当たっては,租税負担の公平を図るため,所得を事業所得,給与所得等に分類し,その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨,目的に照らし,当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならないなどとした上で,その「判断の一応の基準」として,

 

 

「事業所得とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい,これに対し,給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお,給与所得については,とりわけ,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示している。

 

 

すなわち,同判決は,労務の提供等から生ずる所得の給与所得該当性について,

 

 

①そのような所得のうち「自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」を給与所得の範ちゅうから外した上で(これにより,労務の提供等が自己の計算と危険によらないものであること〔労務の提供等の非独立性〕が,給与所得該当性の判断要素として位置付けられることになる。),

 

②労務の提供等から生ずる所得が「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に当てはまるか否かを,当該労務の提供等の具体的態様に応じ,とりわけ「給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうか」を重視して判断するという枠組みを提示したものであるが,同判決も明示しているとおり,そこに示されているのは,飽くまでも「判断の一応の基準」にとどまるものであって,業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が給与所得に該当するための必要要件を示したものではない。

   

イ ところで,所得税法28条1項は,「給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与…に係る所得をいう。」と規定しているところ,このような同項の規定の内容や,同法に他に給与所得の概念を定義付ける規定が置かれていないことからすれば,同法の解釈において,給与所得の概念は,元来,同項に例示されている「俸給」,「給料」,「賃金」,「歳費」及び「賞与」といったものの性質から帰納的に把握するほかないものというべきであって,

 

このことは,最高裁昭和56年判決も当然の前提としているものと解される。そして,同項は,上記のとおり,国会議員が国から受ける給与を意味する「歳費」(憲法49条)が給与所得に含まれることを明らかにしており,また,例えば,法人の役員が当該法人から受ける報酬及び賞与が給与所得に含まれることは特に異論がないところ,これらの者の労務の提供等は,自己の危険と計算によらない非独立的なものとはいい得ても,使用者の指揮命令に服してされたものであるとはいい難いものであって,労務の提供等が使用者の指揮命令を受けこれに服してされるものであること(労務の提供等の従属性)は,当該労務の提供等の対価が給与所得に該当するための必要要件とはいえないものというべきである。

 

 

最高裁平成17年判決が,米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社である米国会社から付与されたいわゆるストックオプションを行使して得た利益を給与所得に当たると判断するに当たって,「雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして,所得税法28条1項所定の給与所得に当たる」との判示をしているのも,以上に述べたような考え方を前提としたものであると解される。

   

 

ウ 所得税法28条1項に規定する給与等に係る所得の意義に関する原告の主張のうち以上と異なる部分は,上記のとおり所得税法28条1項が給与所得として列挙するものの中に使用者の指揮命令を受けこれに服してされるものとはいい難い労務の提供等から生ずる所得が含まれていることと整合しない上

 

(なお,甲40には,「企業のトップや議員といえども,企業や国という組織から支払いを受け,その受給額は自己の都合に応じて労働量を増減し収入金額を左右することはできず,企業の規定や法律に基づき定められた金額を受領する,という特性を有して」おり,「その限りにおいて『従属性』があ」るなどとする記述があるが〔甲40・1頁〕,

 

 

その内容は,「労務の提供等が使用者の指揮命令を受けこれに服してされるものであること」という意味における「労務の提供等の従属性」

 

 

〔原告においても,そのような意味において「従属性」の語を用いていることが明らかである。〕

 

とは全く異質な内容を述べるものというほかないものであって,

 

原告の主張に対する上記のような評価を左右するものではない。),

 

 

労務の提供等から生ずる所得の給与所得該当性についての判断の一応の基準を示したものにとどまる最高裁昭和56年判決について,あたかも給与所得の必要要件を判示したものであるかのような前提に立って論を進めているものといわざるを得ないものであって,採用することができない

 

 

(殊に,原告は,

 

①給与所得該当性の判断に当たっては,「雇用契約ないしこれに類する原因」があるといえるか否か,「労務の対価」といえるか否かといった要件の判断に際して「従属性」があるか否かを判定しなければならない,

 

②給与所得と雑所得との区別という点から「従属性」要件が必要とされるなどと主張するのであるが,

 

上記①の主張は,「給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう」との最高裁昭和56年判決の判示が給与所得該当性の判断の「一応の基準」にとどまるものであることを見過ごすとともに,

 

所得税法28条1項の規定の内容を軽視するものといわざるを得ず,採用し難い。

 

 

また,上記②の主張についても,そもそも,雑所得は,同法が規定する他の9つの所得の類型に該当しない所得を補充的に1つの所得の類型としたものであり,このような雑所得の概念自体に照らし,これと給与所得とを区別するために給与所得該当性について当然に原告の主張するような内容の要件を観念すべきことになるという筋合いのものではない上,

 

上記のような最高裁昭和56年判決の位置付け及び同法28条1項の規定の内容に照らせば,労務の提供等の従属性が認め難い場合であっても,当該給与の受給者がその支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受けているか等の諸要素を総合的に考慮した結果として,所得の原因となった法律関係が「雇用契約…に類する原因」に当たるものと評価されることがあり得るものと考えられることからすれば,やはり採用し難いところである。)。

  

 

(2) 本件各金員に係る所得の給与所得該当性について

   

ア 本件塾講師は,本件塾講師基本契約書の約定に従い,

 

原告が発行した本件塾講師確認書で「業務従事先会社」とされた本件教育機関等において,

 

同確認書に記載された「業務従事期間と条件」の下で講義等の業務に従事することにより,

 

また,本件家庭教師は,本件各家庭教師契約書に定められた指導期間,指導回数,指導時間及び指導スケジュール等に従い,

 

本件会員の子弟(生徒)の個人指導の業務に従事することにより,

 

それぞれ,原告のために労務の提供等をするものである

 

(前提事実(2)オ及び(3)オ,甲2,5,乙1の1・2)。

 

そして,本件講師等は,原告から,上記の各契約において定められた講義等ないし個人指導のいわゆる「単価」

 

(本件塾講師確認書の「業務従事期間と条件」欄中の「業務委託代金」欄,本件各家庭教師契約書の2条参照。以下「講義等の単価」という。)

 

を基礎として,上記の各業務に従事した時間数に応じた額の金員(本件各金員)の支払を受ける

 

(前提事実(2)オ(イ)及び(カ)並びに(3)オ(ア),甲5,乙1の1・2,8)。

 

以上からすれば,本件各金員は,本件講師等が原告のために労務の提供等をしたことの対価としての性質を有するものであることが明らかというべきである。

   

 

 

 

イ(ア) 前記アのとおり,本件各金員は,講義等ないし個人指導の業務に従事した時間数に応じて支払われるものとされているところ,

 

原告と本件講師等との間の契約に係る契約書等を見ても,本件講師等が個別の本件各顧客の下において上記の業務に従事している期間中において,

 

講義等ないし個別指導の内容の優劣,

 

具体的な成果の程度,

 

あるいは,原告が本件各顧客との間の契約に基づいて受領する金員(委託報酬)の額やその支払の有無により,

 

本件各金員の額やその算定の基礎となる講義等の単価の額が増減するような定めは置かれていない

 

(前提事実(2)オ及び(3)オ,甲2,5,乙1の1・2,26)。

 

 

すなわち,本件講師等は,

 

その行った講義等ないし個別指導の内容の優劣,

 

具体的な成果の程度,

 

本件各顧客が原告に対して支払う委託報酬の額やその履行状況のいかんにかかわらず,

 

原告から,講義等ないし個人指導の業務に従事した時間数に応じて本件各金員の支払を受けることができるものとされている。

    

 

(イ) ①本件塾講師は,本件教育機関等から業務の遂行及び原告に対する報告をするに当たり通常必要と認められる物を貸与されるとともに

 

(前提事実(2)エ(オ)②及びオ(ケ)),

 

原告から交通費の支払を受けるものとされており

 

(ただし,原告は,本件教育機関等から,前記の委託報酬に加えて,本件塾講師の交通費相当額の支払を受けている。前提事実(2)エ(ウ)②及びオ(ウ),甲19,20,27,35,乙8),

 

 

②また,本件家庭教師については,本件会員がその交通費を負担することとされ

 

(前提事実(3)エ(エ),甲35),

 

業務遂行に必要なテキストの引渡しも受けることとされている

 

(前提事実(3)イ(イ),乙13)。

 

③一方,原告と本件講師等との間の契約を見ても,本件講師等において,

 

本件各金員の振込手数料及び事務手数料ないし本件講師証の代金1000円

 

(原告と本件講師等が初めて契約を締結する場合のみ。)を負担すべきものとされているものの,

 

本件講師等に対して当該契約に基づく義務を履行するための費用の負担を義務付ける趣旨の定めは見当たらない

 

(前提事実(2)オ及び(3)オ,甲2,5,乙1の1・2,26)。これらの点からすれば,本件講師等は,基本的には,その労務の提供等に当たって必要な費用を負担する義務を負っていないものというべきである。

    

 

 

(ウ) 以上に鑑みれば,本件講師等による労務の提供等は,自己の計算と危険によるものとはいい難いものであって,非独立的なものと評価するのが相当である。

   

 

ウ(ア)a 前提事実(2)ウ及び(3)ウのとおり,原告のホームページ,パンフレット類等には,原告が,本件講師等ないしその希望者に対し,研修や指導を行っている旨の記載がされているところ,

 

原告は,この点について,上記ホームページ等は,顧客へのいわゆるPR用となることも意図して作成したものであって,

 

実態と異なる部分が多く,実際に原告が行っている内容を記載したものではないなどとした上で,本件講師等に対して,実際には何も研修,指導は行っていない旨主張し,

 

E,F及びGの陳述書(甲32~34)及びこれらの者の証言にもこれに沿うような部分がある。

     

 

b しかし,原告は,本件訴えにおいて前記aのとおりの主張を続け,また,被告から,虚偽の事実をホームページ上に掲載することが種々の法令に違反する旨の指摘を受けている

 

(被告準備書面(2)第2の2(2)・7頁以下参照)にもかかわらず,

 

本件訴えの提起から約2年5か月が経過した平成24年11月の時点においてさえもなお,本件講師等ないしその希望者に対して研修,指導を行っている旨を原告のホームページ上に掲載し続けており

 

(前提事実(2)ウ(エ)及び(オ)並びに(3)ウ(ア)~(ウ),乙33,34),

 

原告においては,本件訴えの内と外とでその立場を使い分けているものと評するほかないものであって

 

(上記のような訴え提起からの時間の経過のみならず,

 

原告においては,既に,本件各更正処分等についての異議申立ての際の調査の過程において本件家庭教師に対する研修は行っていない旨の主張をしており,

 

平成20年11月27日付けでされた同異議申立てに対する渋谷税務署長の決定中においても,前記aに指摘したようなホームページの記載が指摘されていたこと〔甲12〕や,

 

平成24年11月の時点において原告のホームページに上記のような内容が掲載され続けていたことについて原告側から何ら合理的な説明がされていないことにも照らすと,

 

上記のような事態が生じている原因が事務処理の遅れなどの単なる過誤にあるとは考え難いものというほかない。),

 

上記のような原告の主張は,それ自体にわかに信用し難いものというほかない。

       

 

また,E,F及びGの陳述書(甲32~34)及びこれらの者の証言についても,これらの者の置かれている立場や,E及びFにおいては,確定申告書を確認しないまま,その陳述書には,本件各金員に係る所得を事業所得として所得税の確定申告をしているなどと実際の申告内容とは異なる内容の原告の主張に沿う記載をし(甲32,33,乙30の1・2,31の1・2,証人E,証人F),また,Gにおいても,原告のホームページには,上記のとおり実際には本件講師等ないしその希望者に対し研修や指導を行っている旨掲載されていたにもかかわらず,そのような記載は修正済みであるなどと証言していたことなどに鑑みれば,その陳述書及び証言の信用性を手放しに肯定することはできないものというべきである。

     

c ①前提事実(2)ウ及び(3)ウに掲げたような原告のホームページ,パンフレット類等の記載や

 

②前記bにおいて検討したところに加えて,

 

③原告が本件各顧客の要求に応えるためには,一定水準以上の本件講師等を数多く確保することが必要不可欠であると考えられるところ,

 

 

原告のホームページ,パンフレット類等の記載(甲16,乙4の1・2,9,12の1・2,13,33,34)に照らせば,本件講師等ないしその希望者には,塾講師や家庭教師の経験がなかった者や,その経験が必ずしも十分でない者も含まれていることが前提とされていることが明らかであって,

 

原告においては,そのような者に対して,相応の研修ないし指導を行う必要性は高いものというべきこと,

 

 

④原告と本件講師等との間の契約において,本件講師等は,原告に対し,その指定する様式及び方法により業務の遂行状況を報告することを義務付けられるとともに,研修内容(研修ノウハウ)を漏洩することが禁じられており,また,原告と本件家庭教師との間の契約には,上記の報告に係る書面を持参して研修を受けることを本件家庭教師の義務とする趣旨の定めも置かれていること(前提事実(2)オ(オ)b,(カ)及び(キ)a並びに(3)オ(ウ)f及び(エ)b),

 

⑤原告においては,本件授業マニュアル(乙9)及び本件講師研修資料(乙13)を作成しているところ,その内容を見ると,授業や個人指導の方法やその注意点などが具体的かつ詳細に記載されていること,

 

⑥本件アンケートを見ても,本件講師等の中には,原告において研修を受けたという趣旨の回答をした者もおり,当該研修の中には,原告のスタッフによって行われたものも含まれていること(甲46の1~4,証人G)などに鑑みれば,

 

 

原告においては,本件講師等ないしその希望者に対し,研修や指導を受けることを義務付け,必要に応じてこれを行っているものと認めるのが相当である

 

 

(なお,原告による本件アンケートによれば,ア 登録会とは別に原告の営業所内で研修を受けたことがあるかとの質問については,「ある」と回答した者が17名,「ない」と回答した者が131名,無回答が7名であり,イ 本件塾講師の経験者に向けた「授業マニュアル」と題する資料を受け取ったことがあるかとの質問については,「ある」と回答した者が34名,「ない」と回答した者が92名,無回答が29名であり,ウ 本件家庭教師の経験者に向けた「講師研修資料」と題する資料を受け取ったことがあるかとの質問については,「ある」と回答した者が28名,「ない」と回答した者が51名,無回答が75名,その他の回答が1名であるとされる〔甲46の3〕。しかし,Ⅰ本件アンケートの実施方式や回答者が本件講師等として活動していた時期と本件アンケートが実施された時期との間の時間的経過などに照らすと,本件アンケートについては,回答内容の正確性が必ずしも十分に担保されているとはいい難いこと,Ⅱ有効回答率が26%〔平成15年以降に原告に登録し,原告のいう「業務委託契約」により本件講師等となったことのある593名のうち155名が回答〕にとどまる上,Ⅲ質問に対して「無回答」という対応がされている部分も多く見られること〔甲46の1~4〕に照らすと,前記ア~ウのような各回答の数の分布は,原告と本件講師等の間の法律関係を確定するに当たって有用な情報とはいい難いものというべきである。)。

    

 

(イ) 原告は,本件塾講師に対し,前記(ア)c③のとおり,原告の指定する様式及び方法により業務に従事した時間等の業務の遂行状況を報告することを義務付けるとともに,本件塾講師への指示・命令系統を有し(いわゆる代講の依頼についても,原告に対して事前に申告すべきものとされる。),講義の変更・中止などの連絡を行い,緊急の場合等の本件塾講師の「窓口」となるものとされている(前提事実(2)ウ(カ)及びオ(カ),甲16,乙4の1・2)。また,原告は,本件塾講師に対し,雇用条件の漏洩,契約期間中又は契約終了後3年以内の本件教育機関等との直接契約,契約期間満了前の辞任を禁ずる一方で,本件教育機関等から申出を受けた場合は,本件塾講師との契約を解除することができるものとされている(前提事実(2)オ(キ),(ク)及び(コ),甲2,6,乙1の1・2)。さらに,原告と本件塾講師との間の契約においては,契約に定めのない事項につき両者の協議が整わない場合,本件塾講師は,原告の指示に従うべきものとされている(前提事実(2)オ(シ))。

    

 

(ウ) 原告は,本件家庭教師に対し,業務遂行期間中において,原告の講師であることを示す講師登録証の携帯及び訪問先における提示を求めている(乙13,15)。また,原告は,本件家庭教師に対し,前記(ア)c④のとおり,原告の指定する方法により業務遂行の状況を報告することや,その報告に係る書面を持参して研修を受けることを義務付けるほか,本件各処分に係る税務調査の際に原告側が調査担当者に対して本件家庭教師との間の契約に係る契約書として示した本件各家庭教師契約書(乙1の1・2)においては,本件家庭教師に対し,原告のマニュアルに沿って指導を遂行することを義務付ける定めが置かれている(前提事実(3)オ(ウ)f)。さらに,原告は,本件家庭教師に対し,委託条件等の漏洩,契約期間中又は契約終了後3年以内の本件会員との直接契約,原告に無断での業務内容の変更や辞任を禁じ,本件家庭教師においてやむをえず指導の交代等が必要となった場合には,原告に対して連絡をすることを要するものとされている(前提事実(3)ウ(オ),オ(エ)b~e)。

    

(エ) 以上に述べたところからすれば,本件講師等は,直接的又は少なくとも間接的に原告の監督下に置かれているものというべきである(なお,本件講師等による労務の提供等の性質に鑑みれば,その指導等の内容については一定の裁量が認められるものと解されるが,一般の雇用関係においても,提供される労務の専門性等の観点から労働者に一定の裁量が認められることはあり得るものというべきであって,この点は,上記の判断を左右するものではないというべきである。)。

   

エ 原告と本件各顧客との間の契約及び原告と本件講師等の間の契約の各内容(前提事実(2)エ及びオ並びに(3)エ及びオ)に照らせば,少なくとも,本件教育機関等における講義や本件会員の子弟と対面して行う個人指導の際には,基本的には,原告が本件各顧客との間の契約において定めた業務場所や業務時間数に従ってその労務の提供等をすべき義務を負うものというべきであり,また,このことを踏まえ,既に述べたとおり,本件講師等は,上記のような立場にある原告の指定する方法により原告に対して業務遂行の状況を報告すべき義務を負っているものであって,本件講師等は,以上のような意味において,原告から空間的,時間的な拘束を受けているものということができる。

   

オ これまで述べた事情を総合すれば,本件各金員は,雇用契約に類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして,それに係る所得は,所得税法28条1項所定の給与所得に当たるものというべきである。

  

(3) 原告の主張について

   

ア 原告は,最高裁平成13年判決は,りんご生産組合の組合員に支払われた金員が給与所得に該当するか否かの判断に際しては,支払の原因となった法律関係についての当事者の意思ないし認識を考慮すべき旨判示しているところ,原告と本件講師等の間の契約に係る契約書には「業務委託」との語が用いられていること,原告においては雇用契約を締結している従業員と本件講師等とで就業規則の適用等の点で明確に異なった取扱いをしていること,原告に対する過去の税務調査の内容及びこれに対する原告の対応などからすれば,原告及び本件講師等において,両者の間の契約関係が「雇用契約及びこれに類する原因」であるとの意思ないし認識であったとは考えられないなどと主張する。

     

しかし,上記のような当事者の意思ないし認識が給与所得該当性を判断するための諸要素の1つとして位置付けられるにとどまることは,最高裁平成13年判決の判示から明らかというべきところ,これまで述べたところに照らせば,仮に原告及び本件講師等の主観的な意思ないし認識が原告主張のようなものであったとしても,その他の事情を総合すると,本件各金員に係る所得が所得税法28条1項所定の給与所得に当たるとの判断が左右されるとは解されないから,原告の上記主張は,採用することができない。

   

イ また,原告は,①原告から業務の委託の打診を受けた本件講師等は,自由にその諾否を決定することができ,個別業務委託締結に際し,契約条件について交渉することもできること,②本件講師等は,業務の内容について原告から指示等を受けていないこと,③その業務遂行につき裁量が大きいこと,④本件講師等においては,本件各顧客と相談の上,業務に当たる時間及び場所を変更することが可能であることなどからすれば,本件講師等は原告との関係で空間的,時間的な拘束を受けてはいないというべきこと,⑤本件講師等が原告以外の者から業務を受託すること等に制約がないことから,原告と本件講師等の間に指揮命令関係は一切ないなどと主張する。

     

しかし,労務の提供等について基本となる契約とは別に個別の契約の締結をするものとされている場合においては,基本となる契約に特別の定めがあるときを除き,個別の契約の締結に際して契約の諾否を決定したり,契約条件につき交渉をしたりすることができることは,雇用契約における労働者においても同様であるから,上記①の点は,本件各金員に係る所得の給与所得該当性を否定する事情とはいい難いものというべきである。また,上記②の主張を採用することができないこと及び上記③の点が本件各金員に係る所得の給与所得該当性を否定するものではないことは,前記(2)ウにおいて述べたところに照らし明らかであり,上記④の点についても,原告の主張する事情をもって,前記(2)エにおいて述べた意味における空間的,時間的な拘束の存在を一切否定すべき事情とは評価し難いものというべきである。さらに,上記⑤の主張についても,本件講師等が原告との間の契約に基づいて行う労務の提供等における原告の本件講師等に対する監督関係を否定すべき事情を述べたものとは評価し難いものである。以上のとおりであって,原告の上記主張は,採用することができない。

   

ウ さらに,原告は,①本件講師等は,その業務を遂行するための費用全部を負担していること,②本件講師等の授業等の単価は,個人の実績や経験を前提としたランク別に,個別の契約ごとに決定され,本件各金員は,誰がどの本件各顧客の業務をするかによってその額に大きな差異が生ずること,③本件各金員の額は,原告が受託元の本件各顧客から受領する委託報酬と連動していることからすれば,本件講師等は受託業務に関し独立性を有しているなどと主張する。

     

しかし,前記(2)イ(イ)のとおり,本件講師等は,交通費の支払を受けるとともに,その業務の遂行に必要な物の貸与ないしテキストの引渡しを受けるものとされている一方,業務の遂行に必要な費用の負担を契約上義務付けられているわけではない上,一般に,雇用契約における労働者が,その労務の提供に必要な一定の費用を支出することも少なからず見られるのであって,上記①の原告主張のとおり仮に本件講師等が事実上何らかの費用を支出していたとしても,本件の結論を左右するものとはいい難いというべきである。また,上記②の点についても,原告が本件講師等との間において新たに契約を締結するに際して講義等の単価を提示する際に考慮する要素を述べたものにすぎず,労務の提供等の非独立性についての判断を左右するものとはいえない。さらに,原告と本件講師等との間の契約において,原告が本件各顧客との間の契約に基づいて受領する金員(委託報酬)の額により,本件各金員の額やその算定の基礎となる講義等の単価の額が増減するような定めが置かれていないことは,前記(2)イ(ア)のとおりであって,上記③の主張は,その前提を欠くものというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。

   

エ 原告は,ある所得が給与所得に該当するといい得るためには,当該所得が,源泉徴収制度が予定している所得に該当するものでなればならないというべきところ,本件各金員は,給与所得に該当するか否かの判断に当たって高度の事実認定を要するものであり,しかも,その判断は,認定された事実を評価する者によって異なるものであることからすれば,源泉徴収制度が予定している所得に該当しないことは明らかであるなどと主張する。

     

しかし,所得税法28条1項及び183条1項の規定によれば,ある者が支払を受けた金銭等に係る所得が同法28条1項に規定する給与所得に該当するものとされるのであれば,その支払をする者は,その支払の際,当該所得に係る所得税につき,当然に源泉徴収義務を負うこととなることが明らかであって,ある所得が給与所得に当たるか否かを判断するに際し源泉徴収手続が予定されているか否かを問題とすべしとする原告の上記主張は,いわば本末転倒な議論というほかなく,採用することができない。

 

 

2 本件において通則法65条4項にいう「正当な理由」及び同法67条1項ただし書にいう「正当な理由」が認められるか否か(争点2)について

  

(1) 通則法65条4項及び67条1項にいう「正当な理由」とは,不納付又は過少申告が真に納税者の責めに帰すことのできない客観的事情がある場合をいい,納税者側の主観的な事情及び法の不知や誤解は含まれないものと解するのが相当である。

  

(2) この点,原告は,本件各処分に係る税務調査よりも前に行われた税務調査において,渋谷税務署の職員から,本件講師等に支払った本件各金員が事業所得に該当することを前提として本件講師等に確定申告を促すような施策をとるよう指導を受けた,すなわち,「業務委託契約」を締結している本件講師等については源泉徴収をする必要はない(本件各金員は給与所得には該当しない)との指導を受けたため,原告はこれを信頼し,源泉徴収を行っていなかったのであるから,通則法65条4項及び67条1項にいう「正当な理由」があるなどと主張する。

    

しかし,証拠(甲34,証人G)において述べられているところを前提としても,本件各処分に係る税務調査よりも前に行われた税務調査において,渋谷税務署の職員が,原告に対し,「業務委託契約」を締結している本件講師等については源泉徴収をする必要はない(本件各金員に係る所得は給与所得には該当しない)との指導をしたものとは認め難く,上記の証拠において述べられているのは,当該職員から,本件講師等に対して支払う本件各金員について源泉徴収をしないというそれまでの原告における取扱いについては特段の指導がなく,原告において本件講師等に対して確定申告をすることを促す施策をとるようにとの指導を受けたという事実経過にすぎないのであって,そのような事実経過をもって,当該職員が,原告と本件講師等との間の契約の内容等を具体的に検討した上で,本件各金員に係る所得が事業所得に該当するとの判断を積極的に示したものとは到底評価することができず,上記指導が「本件各金員が事業所得に該当することを前提として」されたものであるとか,本件各金員に係る所得が給与所得には該当しないとの指導を受けたなどというのは,単なる原告の主観的な判断にすぎないものであることが明らかである。上記のような原告の主張は,その前提を欠くものというべきであって,採用することができない。そうすると,本件において通則法65条4項にいう「正当な理由」及び同法67条1項ただし書にいう「正当な理由」があるものと認めるべき事情については,立証がないものというべきである。

 

3 本件各処分の適法性について

   これまで述べたところ及び弁論の全趣旨によれば,①原告の本件各月分における納付すべき源泉所得税の額及びこれらに係る不納付加算税の額,②原告の本件各課税期間に係る納付すべき消費税額及び地方消費税の譲渡割額並びにこれらに係る過少申告加算税の額は,別紙3「本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張」のとおりであって,本件各処分におけるそれと同額又はその額を上回るものと認められる。したがって,本件各処分は,いずれも適法であるというべきである。

 

4 結論

   以上の次第であって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第3部

        裁判長裁判官  八木一洋

           裁判官  田中一彦

  裁判官塚原洋一は,転補のため,署名押印をすることができない。

        裁判長裁判官  八木一洋