非居住者に対する源泉徴収(2)

 

 

 

 所得税納税告知処分取消請求控訴事件、東京高等裁判所判決/平成28年(行コ)第219号、判決 平成28年12月1日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

1 日本国内にある不動産を譲渡した者が所得税法(平成26年法律第10号による改正前のもの)2条1項5号の非居住者に該当するか否かについて判断した事例

      

 

2 日本国内に住所があると説明して住民票を提出するなどしていた売主に対する不動産の売買代金の支払につき,買主である不動産会社が所得税法(平成26年法律第10号による改正前のもの)212条1項に基づく源泉徴収義務を負うか否かについて判断した事例

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 処分行政庁が控訴人に対して平成24年6月27日付けでした控訴人の平成20年3月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分を取り消す。

 

 

第2 事案の概要

 1 本件は,株式会社である控訴人が,Aとの間において,平成19年12月8日,原判決別紙2物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録記載2の建物(以下「本件建物」といい,本件土地と併せて「本件不動産」という。)に係る売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,平成20年3月14日(以下「本件支払日」という。),本件不動産の売買代金7億6000万円(以下「本件代金」という。)並びに固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)相当額の精算金215万9273円(以下「本件精算金」という。)の合計額である7億6215万9273円(以下「本件譲渡対価」という。)をAに対し支払ったところ,処分行政庁から,Aが所得税法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)2条1項5号にいう「非居住者」に該当し,控訴人は同法212条1項(以下「本件条項」という。)に基づく源泉徴収義務を負うとして源泉徴収税の納税告知処分(以下「本件告知処分」という。)を受けたことに対し,①Aは所得税法上の「非居住者」に該当しない,②仮に該当するとしても,控訴人は,通常行うべき注意義務を尽くした上でAが非居住者ではないと確認した,③本件告知処分は租税公平主義及び信義則(禁反言の原則)に違反するから,控訴人は源泉徴収義務を負わないと主張して,本件告知処分の取消しを求めた事案である。

 2 原審は,Aが,本件支払日において,米国に生活の本拠を有しており,日本国内に住所を有しておらず,かつ,本件支払日まで引き続いて1年以上日本国内に居所を有していなかったので,所得税法上の非居住者であったと認定した上で,控訴人においてAが「非居住者」であるか否かを確認すべき注意義務を尽くしたということはできず,控訴人の本件譲渡対価に係る源泉徴収義務を否定すべき理由はないと判断し,また,本件告知処分が租税公平主義及び信義則(禁反言の原則)に違反するものでもないとして,控訴人の請求を棄却した。

   控訴人は,原判決の上記判断を不服として控訴し,原判決の取消しと本件告知処分の取消しを求めた。

 

 

 

第3 関係法令等の定め

   原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 関係法令等の定め」及び原判決別紙3(原判決2頁15行目から16行目まで及び52頁から56頁まで)に記載のとおりである(ただし,原判決2頁15行目の「別紙3」を「原判決別紙3」と,53頁23行目の「第4章」を「第四章」と,56頁16行目から17行目にかけての「第3号及び第4号」を「第三号及び第四号」とそれぞれ改める。)から,これを引用する。

 

 

第4 前提事実(争いのない事実(証拠等を記載していないもの)及び掲記の証拠により容易に認められる事実)

   原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 前提事実」の(1)ないし(5)(原判決2頁18行目から9頁21行目まで)に記載のとおりである(ただし,原判決3頁2行目の「別表1」を「原判決別表1」と,4頁4行目から5行目にかけての「(以下「本件支払日」という。)」を「(本件支払日)」と,6頁3行目から4行目にかけての「都市計画税」を「都民税」と,7頁4行目の「売買代金」を「売買代金受領」と,8頁9行目の「別表」を「原判決別表」と,9頁19行目の「別表3」を「原判決別表3」とそれぞれ改める。)から,これを引用する。

 

 

第5 争点及び争点に関する当事者の主張の要旨

 1 Aは,本件支払日において,日本国内に住所を有していなかったのか否か。

  (争点1)

   原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張の要旨」の1(1)及び(2)(原判決10頁10行目から18頁20行目まで)に記載のとおりである(なお,原判決10頁11行目の「(同法2条1項5号)」を「(同法2条1項3号)」と,11頁1行目の「別表1」を「原判決別表1」と,同頁17行目,同頁18行目,同頁22行目及び12頁11行目の各「原告」をいずれも「A」と,14頁24行目の「親戚付き合い」を「親戚と付き合い」とそれぞれ改める。)から,これを引用する。

 2 Aは,本件支払日まで引き続いて1年以上日本に居所を有していなかったのか否か。(争点2)

   原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張の要旨」の2(1)及び(2)(原判決18頁23行目から21頁7行目まで)に記載のとおりである(ただし,原判決の19頁9行目の「多少」を削る。)から,これを引用する。

 3 本件条項の解釈・適用の在り方(争点3)

   原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張の要旨」の3(1)及び(2)(原判決21頁9行目から24頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

 4 控訴人は,本件譲渡対価について,本件条項に基づく源泉徴収義務を負っていたのか否か。(争点4)

   原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張の要旨」の4(1)及び(2)(原判決24頁16行目から30頁18行目まで)に記載のとおりである(ただし,原判決24頁22行目の「原告が」を「控訴人に対して」と改め,26頁26行目から27頁1頁にかけての「米国住所であった」の後に「ことを認識していた」を加え,同行の「③」を「④」と改める。)から,これを引用する。

 5 本件告知処分が租税公平主義及び信義則(禁反言の原則)に違反したものであるか否か。(争点5)

   原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に関する当事者の主張の要旨」の5(1)及び(2)(原判決30頁21行目から32頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

 6 当審における当事者の主張

  (1) 控訴人の主張

   ア(ア) 争点3(本件条項の解釈,適用の在り方)についての判断を前提としないで,控訴人が,本件譲渡対価について,本件条項に基づく源泉徴収義務を負うかどうか,負う場合にその内容,範囲,程度及び限界についての判断はできない。

    (イ) 米国における本件土地譲渡対価源泉徴収制度と同様の制度においては,売主が偽証罪に問われることを承知の上で,売主の米国での納税者番号と売主が「非居住者」でないことを宣誓供述書に記載して買主に提出した場合,買主の源泉徴収義務が免除される制度があることを踏まえると,本件条項に基づく源泉徴収が買主に過重な負担とならないように一定の限界設定がされる必要がある。

    (ウ) 源泉徴収制度において本来の納税者でない者に源泉徴収義務を課すのは,同義務を負う者において,取引の相手方との間に密接な関係があって,かつ,徴税上の特別の便宜を有し,能率を挙げ得ることが前提となっているところ,後記イ(ア)のとおり,控訴人については,本件売買契約においてAを国内居住者と考えることが至極自然といえる立場にあったから,上記の前提を欠く。したがって,本件譲渡代金に関して控訴人を源泉徴収義務者とする本件告知処分は,源泉徴収制度の趣旨に反するものである。

   イ(ア) 本件売買契約においては,Aから提出された本件登記書類や本件固定資産評価書類等の公的な書類は売主であるAが国内居住者であると確認できる内容のものであり,かつ,A本人が我が国に住所を有していることを明確に告げていたという本件の事実関係の下では,Aの住所が本件建物所在地に存し,Aが国内居住者であると考えることが至極自然と認められるものであった。したがって,控訴人の担当者は,取引通念上,Aが「非居住者」である(米国に生活の本拠を有している)可能性をも踏まえて,Aに対し,その具体的な生活状況等(例えば,Aの出入国の有無・頻度,米国における滞在期間,米国における家族関係や資産状況等)に関する質問をして,確認すべき状況にはなかった。

    (イ) 本件では,Aに関して,①Bが,平成19年8月当時,本件建物に電話をかけても繋がらず,本件建物を3,4回訪問してもAは不在であったこと,②本件不動産の売却交渉が開始した後も,Aが約1か月にわたり渡米し,Bはこれを認識していたこと,③Aが,Bに対し,以前米国で生活していた旨を説明していたこと,④Aが,本件代金を26口に分割して本件米国口座に振込送金することを依頼していたこと,⑤Aが本件米国口座を手書きで記載したメモには,本件米国口座の名義人の名前が「A Proctor」である旨が記載されていたという事情があったが,これらの事情は,控訴人の担当者がAに対し,本件支払日当時において,上記のAの具体的な生活状況等に関する質問をするなどして,Aが非居住者であるか否かを確認すべき注意義務を負うべき根拠になるものではない。

    (ウ) 控訴人が,Aと本件売買契約を締結する際に,Aの具体的な生活状況等を確認することは,売主であるAのプライバシーにわたる事情を事細かに聞くことになり,また,Aの説明を疑うことになるから,控訴人においてAに上記の事柄を質問すべきであるとすることは,不動産売買取引における取引通念を超えた高度な調査義務を課すものである。また,本件建物所在地に居住している旨既に回答しているAから客観的事実に沿った正しい回答を得られるか不明であるし,控訴人の担当者において,回答が事実であるか否かについて確認のしようがない。

      控訴人の担当者は,本件売買契約において提出された公的な書類及びAの説明を受けてAを国内居住者であると認識したのであり,取引通念上,「非居住者」の確認について尽くすべき注意義務を尽くしている。

   ウ Aが平成17年分ないし平成19年分の所得税の確定申告をする際に介護保険料の所得控除を受けていたこと,BMW東京がAに対して駐車場賃料を支払うに際して源泉所得税の徴収・納付を全く行っていなかったこと等の事実によると,税務当局でさえ,Aを「居住者」として取り扱っていたことが明らかである。それにもかかわらず,税務当局よりも十分な調査権限を有していない一私人である控訴人に対して,税務当局より厳格な調査義務を課すことは不当である。

   エ 本件告知処分に係る源泉徴収税に関して延滞税の免除を受けていること及び不納付加算税が課されていないことの意味

    (ア) 税金が定められた期限までに納付されない場合には,原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて,利息に相当する延滞税が自動的に課される。しかしながら,国税通則法63条6項3号及び国税通則法施行令26条の2第2号によれば,「火薬類の爆発,交通事故その他の人為による異常な災害又は事故により,納付すべき税額の全部若しくは一部につき申告をすることができず,又は国税を納付することができない場合(その災害又は事故が生じたことにつき納税者の責めに帰すべき事由がある場合を除く。)」には,「その災害又は事故が生じた日からこれらが消滅した日以後七日を経過した日までの期間」,延滞税が免除されることとなる。

      控訴人は,本件告知処分に係る源泉徴収税について,国税通則法施行令26条の2第2号に基づき,平成20年4月11日から平成24年7月5日までの延滞税の免除を受けているところ,このことは,処分行政庁が,控訴人において,Aが「非居住者」か否かについて通常要求される必要な調査を尽くしたにもかかわらず,本件支払日においてAが「非居住者」であると判断できなかったことを認めて,上記の納付すべき税額の全部又は一部につき申告をすることができず,又は国税を納付することができない場合に該当すると判断したものと解される。

    (イ) 源泉徴収税額の法定納期限後に納付・納税の告知があった場合には,不納付加算税が課されることになる(国税通則法67条1項本文)のであるが,「当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合」には,不納付加算税を課さないことが認められている(同項ただし書)。

      控訴人は,本件告知処分に係る源泉徴収税について不納付加算税を課されていないところ,このことは,処分行政庁が,控訴人において,Aが「非居住者」か否かについて通常要求される必要な調査を尽くしたにもかかわらず,本件支払日においてAが「非居住者」であると判断できなかったことが上記の「正当な理由」に当たるものと認め,不納付加算税の賦課決定処分を行わなかったものと解される。

  (2) 被控訴人の主張

   ア 控訴人の主張アないしウについて

     控訴人の同各主張は,いずれも原審における主張の繰り返しか,あるいは,独自の見解に基づくものであり,理由がない。また,控訴人の主張ア(イ)については,法体系や法制度の異なる外国において同様の制度があるとしても,当該外国制度と同様の解釈及び運用を行うべき理由はない。

   イ 控訴人の主張エについて

     延滞税又は不納付加算税といった附帯税に係る状況と本件における争点との間には,関連性がない。

 

 

 

 

 

 

 

第6 当裁判所の判断

 

1 当裁判所も,本件請求は理由がないものと判断する。その理由は,原判決を以下のとおり補正し,次項において当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の1ないし5(原判決32頁5行目から49頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

  

(1) 原判決32頁19行目の「前記前提事実」を「前記第4で引用する原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 前提事実」(ただし,補正後のもの。以下「前提事実」という。)」と改める。

  

(2) 原判決33頁20行目の「C」を「その兄のC」と,同頁21行目から同頁22行目にかけての「甲18」を「甲12の2,18」とそれぞれ改める。

  

(3) 原判決34頁8行目の「Aは,」の後に「2008年(平成20年)の」を加え,同頁13行目の「上記認定事実」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の1(2)の認定事実(ただし,補正後のもの。以下「原審認定事実1(2)」という。)と,同頁14行目及び同頁20行目の各「前記(2)」をいずれも「原審認定事実1(2)」と,同頁15行目の「Aは,」から同頁17行目の「〔別表1〕)。」までを「Aは,平成14年を除き平成10年から平成20年までの各年に日本に入国している(平成19年は最多の4回)ものの,その滞在期間は,最も短かったのは平成20年の55日間(1年のうち15.1パーセント),最も長かったのは平成15年の177日間(同48.5パーセント)であり,その余は1年間のうち2割台及び3割台の期間の滞在にとどまっている(前提事実(1)イ(イ),〔原判決別表1〕)。」とそれぞれ改める。

  

(4) 原判決35頁1行目の「推認」を「認定」と,同行,同頁13行目,36頁1行目,同頁3行目及び同頁8行目の各「前記(2)」をいずれも「原審認定事実1(2)」と,同頁9行目の「別表1」を「原判決別表1」とそれぞれ改める。

  

(5) 原判決37頁15行目から16行目にかけて及び38頁2行目の各「別表1」をいずれも「原判決別表1」と,37頁23行目の「前記検討のとおり(前記1(3))」を「前記争点1についての検討のとおり」と,同頁25行目の「前記1(2)」を「原審認定事実1(2)」とそれぞれ改める。

  

(6) 原判決38頁14行目の「争点4」の前に「争点3(本件条項の解釈・適用の在り方)及び」を加え,同頁16行目から同頁23行目までを以下のとおり改め,同頁24行目の「前記」を削る。

 

   「(1) 本件条項の解釈・適用の在り方(争点3)について,当事者間に争いがあるところ,所得税法161条1号の3,212条1項(本件条項)は,「非居住者」に対して日本国内の不動産の譲渡による対価(国内源泉所得)を支払う者は,その支払の際,当該国内源泉所得に係る源泉徴収義務を負う旨規定しているのであり,これらの規定は,上記支払者に支払の相手が「非居住者」であるか否かを確認すべき義務を負わせているものと解するのが相当であり,本件に関して,控訴人が本件譲渡対価を支払う際にAが「非居住者」であるか否かを確認すべき義務(本件注意義務)を負っていたことについては,両当事者とも自認しているところである。

 

 

そして,同争点における控訴人の主張は,控訴人が本件注意義務を尽くしても,Aが「非居住者」であることを確認できない場合,あるいはAが「非居住者」であるかそうでないかを判別することが不可能又は困難な場合には,控訴人は本件条項に基づく源泉徴収義務を負わないと解する限定解釈ないし本件条項の限定的適用をすべきであるというものであるところ,

 

控訴人の主張によっても,控訴人の主張する本件条項の限定解釈ないし限定的適用の前提問題として,控訴人において本件注意義務を尽くしてもAが「非居住者」であると確認ないし判別することができないかどうかが問題となる。そこで,この点についてまず検討する。」

  

(7) 原判決43頁16行目の「前記認定事実」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の3(2)の認定事実(以下「原審認定事実3(2)」という。)」と,同頁20行目及び同頁22行目の各「前記(2)」をいずれも「原審認定事実3(2)」とそれぞれ改める。

  

(8) 原判決44頁2行目の「[前記]1(3)イ(ウ)」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の1(3)イ(ウ)」と改め,同頁3行目の「しかしながら,」の後に「控訴人の担当者(B及びD)は,本件売買契約の締結に至る過程において上記のとおりの記載がされていた各種書類を入手していたにもかかわらず,更に控訴人の企画本部経理部の本件経理担当者からAが「非居住者」であるか否かの確認を指示されたのであり(原審認定事実3(2)カ(ウ)),また,」を加え,同頁5行目,同頁7行目,同頁8行目,同頁12行目,同頁14行目及び同頁15行目の各「前記(2)」をいずれも「原審認定事実3(2)」とそれぞれ改め,同頁21行目の「(実際,」から同頁23行目の「[前記(2)カ(ウ)]。)」までを削る。

  

(9) 原判決45頁5行目,同頁7行目,同頁13行目及び同頁24行目の各「前記(2)」をいずれも「原審認定事実3(2)」と,同頁17行目から18行目にかけての「前記1」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の1」と,同頁26行目の「別表2」を「原判決別表2」とそれぞれ改める。

  

(10) 原判決46頁16行目の「必要であったというべきである。」を「必要であったというべきであり,その確認ができない又は困難であったことを窺わせる事情を認めるに足りる証拠はない。」と,同頁18行目の「前記(2)」を「原審認定事実3(2)」と,同頁24行目の「うかがわせる事情」を「示す事情」とそれぞれ改める。

  

(11) 原判決47頁14行目末尾の後に改行して以下のとおり加える。

   

「(4) 以上によれば,本件の事実関係の下においては,控訴人において本件注意義務を尽くしてもAが「非居住者」であると確認ないし判別することができないという場合には当たらないから,争点3に係る本件条項の解釈及び適用について控訴人が主張する見解に立った場合でも,その前提を満たさないものであり,同見解の当否を含め,同見解に基づく検討をする必要はない。」

  

(12) 原判決47頁15行目冒頭の「(4)」を「(5)」と,同行の「以上の検討を踏まえて,」を「そこで,進んで」と,同頁17行目の「前記1,2参照」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の1及び2参照」と,同頁20行目から同頁24行目までを以下のとおりそれぞれ改める。

   

「 そして,前記(2)ないし(4)で説示したとおり,原審認定事実3(2)の事実関係の下において,控訴人(その担当者であるB及びD)は,Aが「非居住者」であることについて確認すべき本件注意義務を尽くしたということはできず,同事実関係に照らすと,その確認のためにAに対してその生活状況等を質問することが不動産の売買取引をする当事者間において取引通念上不可能又は困難であったということも,当該質問等をしても確認できない結果に終わったということもできないというべきであるから,控訴人の本件譲渡対価に係る源泉徴収義務を否定すべき理由はない。同義務を否定すべきである旨の控訴人の主張は,異なる前提事実に基づく主張であり,採用することができない。」

  

(13) 原判決48頁12行目の「前記3(4)」を「引用に係る原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の3(ただし,補正後のもの。以下「原審判断3」という。)の(3)ないし(5)」と,49頁2行目の「前記3(4)」を「原審判断3(3)ないし(5)」と,同頁7行目の「別表3」を「原判決別表3」とそれぞれ改める。

 

 

2 当審における控訴人の主張について

  

(1) 前記第5の6(1)アの主張について

    上記主張は,控訴人の原審における争点3に関する主張と実質的に同じものであり,同主張を繰り返すにすぎないものであるところ,同主張が採用できないものであることは,原審判断3(1)ないし(4)において説示したとおりである。

  

(2) 前記第5の6(1)イの主張について

    上記主張も,控訴人の原審における争点4に関する主張と実質的に同じものであり,同主張を繰り返すにすぎないものであるところ,同主張が採用できないものであることは,原審判断3(5)で説示したとおりである。

  

(3) 前記第5の6(1)ウの主張について

    上記主張も,控訴人の原審における争点5に関する主張を繰り返すにすぎないものであり,同主張が採用できないものであることは,原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」の4(ただし,補正後のもの)において説示したとおりである。

  

(4) 前記第5の6(1)エの主張について

    証拠(甲48)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件告知処分に係る源泉徴収税について国税通則法施行令26条の2第2号に基づき平成20年4月11日から平成24年7月5日までの延滞税の免除を受けていること,同源泉徴収税に係る不納付加算税の賦課決定を受けていないことが認められるが,その理由が,控訴人がAの非居住者性について通常要求される必要な調査を尽くしたものであると評価した結果であることを認め得る証拠はない。そして,控訴人が本件譲渡対価の支払に当たりAが非居住者であるか否かについて確認すべき注意義務を尽くしたということができないことは,原審判断3において説示したとおりであり,この認定判断は,本件告知処分に係る源泉所得税の延滞税の免除及び不納付加算税の賦課決定の不存在の事実により左右されるものではない。

   したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

 

3 以上によれば,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

 

 

    東京高等裁判所第16民事部

        裁判長裁判官  青野洋士

           裁判官  貝原信之

           裁判官  小田正二