相続税法二二条にいう「時価」(1)

 

 

 

 贈与税更正処分等取消請求事件、東京地方裁判所/平成10年(行ウ)第39号、判決 平成11年9月29日、税務訴訟資料244号950頁について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

 原告らは,贈与税の申告に係る課税価格の計算において,株式の価額が過少に評価されることを理由に,被告が原告らに対して行った更正処分及び過少申告加算税賦課決定に対し,申告額を超える部分に係る各処分の取消しを求めた。

 

 判決は,

 

(1)本件株式は,株主が売却を申し出たときには,当該買取りが保証されている価格が取引価格となることが明らかであるから,評価基本通達が定める株式保有特定会社の株式の評価方法による評価額を時価とみるべきとする主張は失当であり,

 

(2)評価基本通達の定めは、行政組織内部における機関相互の指示、監督に関して定めた規定であり,本件株式の時価を時価純資産価額方式によって評価した価額とすることは評価基本通達に違反しない,等として,請求を棄却した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 一 原告らの請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

       

 

 

 

 

事実及び理由

 

第一 請求

一 被告が、原告Aの平成六年分贈与税につき平成八年一月二五日付けでした更正処分のうち、課税価格三八六万七七六〇円、納付すべき税額五一万六七〇〇円を越える部分及び過少申告加算税の賦課決定(但し、平成八年六月三日付け異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

二 被告が、原告Bの平成六年分贈与税につき平成八年一月二五日付けでした更正処分のうち、課税価格三八六万七五五二円、納付すべき税額五一万六七〇〇円を越える部分及び過少申告加算税の賦課決定(但し、平成八年六月三日付け異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 

 

第二 事案の概要

 本件は、原告らが、平成六年分の贈与税の申告をしたところ、右申告に係る課税価格の計算において、フォーエスキャピタル株式会社(以下「フォーエスキャピタル」という。)の株式(以下「本件株式」という。)の価額が過少に評価されていることを理由として、被告が原告らに対して、いずれも平成八年一月二五日付けで更正処分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件各処分」という。)を行ったのに対し、原告らが申告額を超える部分に係る本件各処分(但し、各過少申告加算税の賦課決定については、異議決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求めた事案である。

 

 

 

一 関係法令等の定め

1 相続税法(以下「法」という。)二二条によれば、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている。

2 右の価額の評価に関しては、財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七(平成六年二月一五日付け課評二―二ほかによる改正前のもの)。以下「評価基本通達」という。)が定められている。

 評価基本通達において、「時価」とは、相続により財産を取得した日等の課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価基本通達の定めによって評価した価額によるとされているが(評価基本通達一の(2))、評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価するとされている(評価基本通達六)。

 また、評価基本通達において、株式の価額は、銘柄の異なるごとに一株単位で評価することとされ(評価基本通達一六八)、取引相場のない株式(上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式をいう。以下同じ。)の価額は、原則として、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を事業規模に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(評価基本通達一七八)、それぞれの区分に応じて、評価するものとされている(評価基本通達一七九)。

 もっとも、同族株主のいる会社の株主のうち、同族株主以外の株主の取得した株式については、「配当還元方式」(株価構成要素のうち配当金だけに着目して、配当金を収益還元することによりその元本である株式の価額を算出する方法)により評価することとされている(評価基本通達一八八、一八八―二)。右の場合における同族株主とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の一人及びその同族関係者(法人税法施行令四条に規定する特殊の関係のある個人又は法人)の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の三〇パーセント(その評価会社の株主のうち、株主の一人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の五〇パーセント以上である会社にあっては、五〇パーセント)以上である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう(評価基本通達一八八(1))。

 

 

 

 

 

 

二 前提となる事実(証拠等を掲げた以外の事実は当事者間に争いがない。)

 

 

1 フォーエスキャピタルの事業活動等

 

 フォーエスキャピタル(平成九年一一月四日の商号変更後の商号は明星キャピタル株式会社)は、株式、債券等有価証券等に対する投資業務、企業経営に関するコンサルティング業務等を目的とする法人である。同社は、平成三年八月二六日以降、税理士である訴外Cが代表取締役に就任していた。

 

 株式会社セムヤーゼ(以下「セムヤーゼ」という。)は、有価証券の保有、運用、投資等を目的とする法人である。同社は、フォーエスキャピタルの発行済株式数の半数以上を保有し、フォーエスキャピタルに出資した株主がその株式を売却する際にしばしば同株式の買取りを行っていた。Cは、セムヤーゼの筆頭株主であり、フォーエスキャピタル及びセムヤーゼは、いずれも、平成六年一一月から、東京都α二二番一号を本店所在地としていた。

 

 

(二)フォーエスキャピタルは、Cが代表取締役を務める日本スリーエス株式会社(以下「日本スリーエス」という。)を中心とする日本スリーエスグループに属していたところ、フォーエスキャピタルは、ベンチャービジネスに投資することを目的として資産家に投資を呼びかける一方、パンフレットを作成して、

 

「キャピタル株の過半数はスリーエスグルーブが所有している為、資産家の皆様は少数株主になりますので、評価額は低くなります。」と宣伝し、

 

 

本件株式を取得した場合、相続、贈与等による本件株式の承継があったとしても、相続税又は贈与税に係る課税価格の計算において、本件株式は評価基本通達により配当還元方式で評価されることになる結果、その証価が低くなることを念頭に置いた説明をしていた。

 

 

 また、同社の株式の売却についても、同社は、右パンフレットに、「株主の皆様が株式の売却を希望された時に購入希望者がいない場合にもこの財産の処分でご希望に応じる事ができるものと考えております。」と記載し、株主になった者が同社の株式の売却を希望した場合には、購入希望者がいなくても一定の価額で売却できる旨を表明していた。

 

 

(三)フォーエスキャピタルへの出資申出があった場合、

 

日本スリーエスが窓口になり、出資希望者の資産状況等からいくら出資できるかを検討して出資金額を決定し、

 

出資全額を出資時の前月末現在の本件株式の一株当たりの時価によって計算した純資産価額(以下「時価純資産価額」という。)で除して出資可能株数を算出し、フォーエスキャピタルがその株数に相当する増資を行い出資希望者に割り当てていた。

 

なお、右の増資を行うことにより、セムヤーゼの本件株式の保有割合がフォーエスキャピタルの発行済株式総数の五〇パーセント未満になる場合には、

 

フォーエスキャピタルが劣後株式を発行し、そのすべてをセムヤーゼが引き受けることにより、セムヤーゼの本件株式の保有割合が五〇パーセント以上になる状態を維持し、セムヤーゼ及びその同族関係者以外の株主は、常に同族株主以外の株主に該当する状態を確保していた(乙七)。

 

 

 本件課税時期(平成六年三月三〇日)におけるフォーエスキャピタルの発行済株式数は、二八二万〇五九二株で、そのうちセムヤーゼが保有する株式数は二五六万六六二六株(発行済株式数の五五・五四パーセント)であった(弁論の全趣旨)から、フォーエスキャピタルは、同族株主のいる会社に該当し、セムヤーゼ及びその同族関係者以外の株主は、評価基本通達の定める同族株主以外の株主に該当していた。

 

 

(四)日本スリーエスは、本件株式の売買価額及び増資時の払込価額の決定(算定)のために、株価計算書を作成し、毎月末現在の一株あたりの時価純資産価額を算定しており、その時価純資産価額は、

 

①まず、時価算定時の劣後株式の発行済株式数に額面金額五〇円(乙八)を乗じて算出した金額(劣後株式の分配金相当額)を全体の純資産価額から控除し、普通株式に対応する純資産価額を算出し、

 

②次に、右普通株式に対応する純資産価額を時価算定時の普通株式の発行済株式数で除する方法(以下「時価純資産価額方式」という。)により算出されていた(乙七)。

 

 

 本件課税時期の翌日である平成六年三月三一日には、第三者らを引受人として本件株式の引き受け(以下「別件発行」という。)が行われているところ、その一株当たりの引受価格は、本件株式の平成六年二月末において純資産価額方式に基づいて計算した金額である一万七一三四円であった。

 

 

 

 

2 法人の設立等

 

(一)D(原告Aの母。)は、平成二年一二月二八日付けで、東京都β内の三筆の土地及び同所所在の建物を代金六一億五二五九万八八七五円で株式会社サンコーに譲渡する旨の売買契約を締結した。

 

 

(二)平成三年四月四日、有限会社ハルカワエステート(以下「第一エステート」という。)が設立された。

 

同社の設立時における資本金は三二〇万円、総出資口数は六四口、一口当たりの資本金は五万円であった。

 

Dは、右総出資口数六四口を引き受け、前記(一)記載の不動産の譲渡代金を原資として、右出資に係る払込金八億円を同社に払い込んだ。

 

右払込総額八億円のうち、三二〇万円が資本金に、その余の七億九六八〇万円が資本準備金にそれぞれ組み入れられた。

 

 

(三)平成三年四月二三日、有限会社ハルキヨ(以下「ハルキヨ」という。)が設立された。同社の資本金は四〇〇万円、総出資口数は八〇口、一口当たりの資本金は五万円であった。

 

Dは、第一エステートの出資持分(以下「出資」という。)六四口のすべてを現物出資してハルキヨの出資一六口を取得したが、右現物出資に係るハルキヨの受入金額は八〇万円であった。

 

また、Dは、現金三二〇万円を払い込んでハルキヨの出資六四口を取得し、結局、ハルキヨの総出資口数八〇口を所有することとなった。

 

(四)第一エステートは、日本スリーエスとの間で、平成四年七月三一日付けで、第一エステートの行う事業及び関連する財産の運用に関するアドバイス及び実行を委託する内容の業務委託契約を締結し、平成四年八月二〇日、同契約に基づく報酬として八〇〇万円を日本スリーエスに支払った。

 

(五)第一エステートは、平成五年八月二五日、資本金を三二〇万円から四〇〇万円(増資口数一六口、一口当たりの資本金五万円、一口に対する払込金額二〇万円)に増資した。

 

その結果、第一エステートの総出資口数は八〇口、資本金は四〇〇万円、資本準備金は七億九九二〇万円となった。

 

 ハルキヨは、右増資口数のすべて一六口を引き受け、右出資に係る払込金三二〇万円を第一エステートに払い込んだ。

 

 

(六)ハルキヨと第一エステートは、

 

 

平成五年九月三日、

 

①合併期日を、平成五年一一月一日とすること、

 

②第一エステートが存続会社となり、ハルキヨは解散すること、

 

③ハルキヨの出資一口に対して第一エスアートの出資一口を割当交付すること、

 

④第一エステートは、合併によりハルキヨから取得する第一エステートの出資八〇口を合併と同時に消却し、第一エステートの総出資口数を八〇口とすることを条件として合併契約を締結し、平成五年一一月一日に右合併の登記をした。

 

 

 

 

3 本件株式の取引

 

 

(一)Dは、セムヤーゼから、平成四年八月二〇日、フォーエスキャピタルの本件株式二九四五株を現金五〇〇〇万〇二一〇円(一株当たり一万六九七八円)で取得した。

 

 

(二)Dは、平成四年一二月二一日、ハルキヨの出資八〇口をフォーエスキャピタルに現物出資し、

 

本件株式三万四二四四株を取得した。

 

 

なお、その際のハルキヨの出資の一口当たりの時価純資産価額は七二九万三二三〇円であったが、本件株式の一株当たりの時価純資産価額は一万七〇三八円であった。

 

 

(三)Dは、平成六年三月三〇日(以下「本件課税時期」という。)、本件株式を、原告Aに対して一万八五九五株、原告Bに対して一万八五九四株、それぞれ贈与した。

 

 

(四)原告Aは、日本スリーエスに対して、平成八年八月九日、本件株式一万六五九五株を二億八三五九万一九五五円(一株当たり一万七〇八九円)で譲渡した。

 

また、原告Bは、日本スリーエスに対して、右同日、本件株式一万六五九四株を二億八三五七万四八六六円(一株当たり一万七〇八九円)で譲渡した。

 

また、その後、原告らは、日本スリーエスに対して、平成九年五月三一日、それぞれ、本件株式二〇〇〇株を三四一七万八〇〇〇円(一株当たり一万七〇八九円)で譲渡した。

 

 

 

4 本件訴訟に至る経緯等(別表1及び2参照)

 

 

(一)原告らは、平成七年三月一四日、前記3(三)のDからの本件株式の贈与について、本件株式を配当還元方式により一株当たり二〇八円と評価して、それぞれ、平成六年分贈与税の申告をした。

 

 

(二)被告は、東京国税局長所属の職員の調査に基づき、本件株式の価格を、Dの取得価額(一株当たり約一万七〇三三円)で評価し、平成八年一月二五日付けで、原告らの平成六年分贈与税の更正処分(以下、「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分とあわせて「本件各処分」という。)をした。

 

 

(三)原告らは、本件各処分を不服として、平成八年三月七日付けで、東京国税局長に異議申立てをしたところ、東京国税局長は、同年六月三日付けで、本件各更正処分については棄却の決定をし、本件各賦課決定処分については一部取消しの決定をした。

 

 原告らは、右決定を経た後の本件各処分に不服があるとして、同年七月二日付けで、国税不服審判所長に審査請求をしたが、国税不服審判所長は平成九年一二月二日付けで、棄却の裁決をし、同裁決書謄本は同年一二月五日、原告らに送達された。

 

 

 

 

三 本件各処分の適法性に関する被告の主張

 

 

 

1 本件各更正処分の根拠

 

(一)原告Aの平成六年分贈与税の課税価格及び納付すべき贈与税額は、次のとおりである。

 

(1)課税価格        三億一八六〇万六七三〇円

 原告Aが、本件課税時期に、Dから贈与により取得した本件株式一万八五九五株の価額である。

 

(2)納付すべき贈与税額   二億一一七〇万四二〇〇円

 右金額は、右(1)の課税価格から、相続税法二一条の五に規定する贈与税の基礎控除額六〇万円を控除した金額三億一八〇〇万六〇〇〇円(但し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に、同法二一条の七に規定する税率を適用して算出した金額である。

 

 

(二)被告が本訴で主張する原告Bの平成六年分贈与税の課税価格及び納付すべき贈与税額は、次のとおりである。

 

(1)課税価格        三億一八五八万九五九六円

 原告Bが、本件課税時期に、Dから

贈与により取得した本件株式一万八五九四株の価額である。

 

(2)納付すべき贈与税額   二億一一六九万二三〇〇円

 右金額は、右(1)の課税価格から、相続税法二一条の五に規定する贈与税の基礎控除額六〇万円を控除した金額三億一七九八万九〇〇〇円(但し、通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に、同法二一条の七に規定する税率を適用して算出した金額である。

 

 

2 本件各更正処分の適法性

 原告らの納付すべき贈与税額は、前記1で述べたとおり、原告Aが二億一一七〇万四二〇〇円、原告Bが二億一一六九万二三〇〇円であるところ、本件各更正処分に係る原告らが納付すべき贈与税額は、原告Aが二億一〇三九万三一〇〇円、原告Bが二億一〇三八万一二〇〇円であり、いずれも右金額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法である。

 

 

3 本件各賦課決定処分の根拠及び適法性

 原告らは、平成六年分贈与税の課税価格及び納付すべき贈与税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由は存しない。したがって、次のとおり算出した金額を過少申告加算税として賦課決定した本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

 

(一)原告Aに対する過少申告加算税  三一四五万四五〇〇円

 原告Aに対して課されるべき過少申告加算税の額は、通則法六五条一項の規定により、原告Aが本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった贈与税額(但し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切捨て)である二億〇九八七万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額二〇九八万七〇〇〇円及び通則法六五条二項の規定により、原告Aが本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった贈与税額のうち申告税額(五一万六七〇〇円)を超える部分に相当する金額(但し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切捨て)である二億〇九三五万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一〇四六万七五〇〇円の合計金額である。

 

(二)原告Bに対する過少申告加算税  三一四五万三〇〇〇円

 原告Bに対して課されるべき過少申告加算税の額は、通則法六五条一項の規定により、原告Bが本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった贈与税額(但し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切捨て)である二億〇九八六万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額二〇九八万六〇〇〇円及び通則法六五条二項の規定により、原告Bが本件各更正処分によって新たに納付すべきこととなった贈与税額のうち申告税額(五一万六七〇〇円)を超える部分に相当する金額(但し、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切捨て)である二億〇九三四万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一〇四六万七〇〇〇円の合計金額である。

 

 

 

四 争点

 本件における争点は、本件各更正処分における課税価格が適正かどうかであり、具体的には、①本件株式の価額を評価基本通達一八八―二に定める配当還元方式によらないで時価純資産価額方式によって評価することの適否(争点1)、②本件株式を時価純資産価額方式によって評価するに際して評価基本通達に六に定める手続を経なかったことが本件各処分の違法事由になるか否か(争点2)が問題となる。これらに関する当事者の主張は以下のとおりである。

 

 

1 本件株式の価額を配当還元方式によらないで時価純資産価額方式によって評価することの適否

 

 

(被告の主張)

 

(一)法二二条の「時価」の意義

 法二二条にいう時価とは、贈与の時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されているが、客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務においては、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から見て、評価基本通達及び評価基準に定められている評価方法により画一的に相続財産を評価することとしている。したがって、右評価方法によらないことが正当として是認され得るような特別な事情がある場合は別として、取引相場のない株式についても、原則として評価基本通達及び評価基準に基づき評価することが相当である。

 

 しかしながら、評価基本通達に定められた評価方法によるべきとする趣旨が右のようなものであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方式を形式的に適用するとかえって実質的な租税負担の公平を著しく害するなど、右評価方式によらないことが正当と是認されるような特別の事情がある場合には、相続税法二二条の定める「時価」が何であるかに立ち戻って、合理的な方式により評価することが許されるというべきであり、この事理は、評価基本通達六も認めるところである。

 

 そして、評価基本通達の適用が、かえって租税負担の実質的な平等を害するかどうかについては、租税回避目的という主観的な事情も含め、相続開始ないし贈与前後の事情を総合的に判定すべきである。

 

 

(二)取引相場のない株式の評価につき評価基本通達が配当還元方式を採用した趣旨

 

 取引相場のない株式は、市場にある株式の圧倒的多数を占めており、その発行会社の事業規模は、上場会社に匹敵する大規模のものから、個人企業と変わらない小規模のものまで千差万別であって、会社の株主の構成をみても、いわゆるオーナー株主といわれる株主のほか、従業員株王などの零細株主も存在している。また、これら株式は、証券取引所又は証券会社の店頭において成立する取引価格(市場価格)を有しておらず、仮に、取引事例がみられる場合でも、それは特定の当事者間もしくは、特別の事情で取引されるのが通常であり、その取引価格を直ちに当該株式の客観的交換価値とみることには問題がある。

 

 そこで、評価基本通達は、これらの実態を踏まえ、取引相場のない株式の価額を合理的かつその実態に即した評価をするために、評価会社をその資本金、総資産価額、取引金額に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(評価基本通達一七八)、それぞれの会社に適用すべき原則的評価方式を定めている(評価基本通達一七九)。

 

 ところで、評価会社の株主の中には、前述のとおり、従業員株主などの零細株主が存在する場合があるが、評価基本通達は、これらの零細株主に代表される「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、一般的に、持株割合が僅少で会社の事業経営に対する影響力が少ない零細株主であり、右株主はただ単に配当を期待するにとどまるといった実情から、右株主等が取得した株式については、原則的評価方式(類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式)に代えて、特例的評価方式である「配当還元方式」(評価基本通達一八八―二参照)により評価することとしている(評価基本通達一七八但し書き)。

 

 これは、従業員株主などの零細株主は、一般的に、持株割合が僅少で会社の事業経営に対する影響力が少なく、ただ単に配当を期待するにとどまるといった実質のほか、株式の価額を原則的評価方法により算定することは多大の労力を要することから、評価手続の簡便性をも考慮したことによるものと解される。

 

(三)本件株式について、評価基本通達を適用して、配当還元方式による評価をすべきでない理由

 

(1)本件株式による租税回避方法

 

 フォーエスキャピタルは、本件株式を取得した者が常に少数株主となるようにし、配当還元方式が適用される形式を整えて相続税等を大幅に軽減させることができるという租税回避の意図の下に本件株式を発行していた。

 

(2)原告らの租税回避方法の利用

 

 Dは、ハルキヨの出資を現物出資して、本件株式を取得したが、同人による本件株式の取得は、相続等の事由が発生した場合、右の租税回避の方法を利用し、同株式を配当還元方式で評価することによって相続税等を軽減することを意図したものであった。

 

 このことは、

 

 

①ハルキヨの設立において、第一エステートの出資を著しく低い帳簿価額で受け入れているが、右は、評価基本通達が、評価差額(相続税評価額による資産の合計額から帳簿価額による資産の合計額を控除した金額)があるときは評価差額に対する法人税額等に相当する金額(評価差額に五一パーセントを乗じて計算した金額)を控除できると定めていること(評価基本通達一八五、一八六―二)に着目し、評価差額を人為的に発生させ、ハルキヨの出資の価額を低くせしめ、相続税等の負担の軽減を図ることを目的としてなされたものであること、

 

②ハルキヨの出資をフォーエスキャピタルに現物出資したのは、ハルキヨの出資を保有するという右①の方法以上に、本件株式を保有する方がより相続税等の負担の軽減を図れる(ハルキヨの出資を現物出資して得た本件株式の取得価額が約一・ニパーセントに圧縮される。)という事情によるものであること、等の事情から優に認められる。

 

(3)本件株式を配当還元方式により評価することが、相続税法二二条にいう「時価」を反映しない結果となること

 

 Dが、平成四年八月二〇日にセムヤーゼから本件株式を取得した際の一株当たりの価額、平成四年一二月二一日にハルキヨの出資八〇口をフォーエスキャピタルに現物出資した際にその対価として取得した本件株式の一株当たりの価額、原告らが、平成八年八月九日に本件株式を日本スリーエスに譲渡した際の一株当たりの価額は、いずれもフォーエスキャピタルが、各取引日の前月末における同社の資産、負債に基づく時価純資産価額方式により計算した金額(概ね一万七〇〇〇円程度)であった。

 

 そして、その評価方法は、公開されていない株式の評価方法として合理性を有するものであり、また、当時、D以外の者にも、フォーエスキャピタルの株式の引受けが行われており、それらの一株当たりの引受価格も、原則としてそれらの引受けが行われる日の前月末現在の同社の一株当たりの時価純資産価額とされていたこと等をも勘案すれば、右金額は、本件株式引受当時における客観的交換価値を反映したものであるということができる。

 

(四)以上のとおり、Dは、贈与等による資産の承継があった場合、その資産が本件株式であれば、贈与税等の計算に際して、評価基本通達が定める配当還元方式の適用があり、これにより贈与税等の大幅な軽減が図られるということから、本件株式を取得したものであると認められる。また、本件株式には、時価純資産価額相当の経済的実益があり、本件株式を配当還元方式で評価することは、評価基本通達が配当還元方式を採用している趣旨に反することとなる。

 

 したがって、右の方式で評価した本件株式の価格は、相続税法二二条にいう「時価」を反映するものでなく、また、本件のような場合についても、評価基本通達を形式的かつ画一的に適用して本件株式の評価をすることは、他の善良な納税者との間の租税負担の公平を著しく害し、また、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的及び特例的に配当還元方式による株式評価を認めた評価基本通達の趣旨に反し、著しく不当な結論をもたらす。

 

 よって、本件においては、評価基本通達が定める評価方式を形式的に適用しないことが正当と是認されるような特別の事情が存在し、かつ、本件株式を本件課税時期の前月末の時価純資産価額により評価したことは、合理的であるということができる。

 

(五)原告らは、後記(二)の予備的主張において、配当還元方式によらないときは、評価基本通達一八九―二に定める方式(以下「相続評価純資産価額方式等」という。)により評価すべきであるとするが、評価基本通達は、本件株式のような株式の評価につき、純資産額方式等による評価額が配当還元方式による評価額を下回る場合以外は、配当還元方式により評価するのが合理的であるとしているのであって、配当還元方式を取り得ない場合に直ちに純資産額方式等により評価することが合理的であるとはしていないから、右主張は失当である。

 

 

 

 

 

 

(原告らの主張)

 

(一)未公開株式である本件株式については、市場における現実の交換価値(評価基本通達一(1)にいう「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」)が形成されていないので、評価基本通達の形式適用による評価と時価との差異を論じることはできず、したがって、評価基本通達の形式的適用が租税負担の公平の観点から著しく不適当な結論となる「特別な事情」の存在を認める前提が欠けているから、本件において評価基本通達の規定する個別的評価方法を排除できるとする被告の主張は失当であるというべきである。

 

 また、右「特別の事情」の存否の判断に当たって、租税回避目的という主観的事実の存否を考慮に入れるべきではないし、財産取得時前後における諸事情は、市場価格の認定のための間接事実としてのみ考慮し得るにすぎないというべきである。

 

 さらに、平成二年において、NTT株式又は公開途上の株式については、将来において「不特定多数間で自由な取引によって成立した取引価額」が見込まれることから、その直前の一定期間(実質約一か月)に限っては配当還元方式による評価を認めないとする評価基本通達が整備されたという経緯があるところ、本件株式については、およそ前記のような市場価格の成立が見込まれたものではなく、株式公開前一か月をわずかに超える株式についてすら認められる配当還元方式による評価が本件株式については排除されるというのは著しく不合理である。

 

そして、NTT株式又は公開途上の株式について、評価における不都合を是正するために、個別通達が出され、後に通達改正が行われ、かつ通達の基準の客観性が優先されることによって実質的には不都合な部分があえて残されていることに比較するならば、本件株式の評価において、被告が、何ら通達の根拠に基づくことなく、かつおよそ客観性を伴わない「特別の事情」の存在に基づき、配当還元方式による評価を排除し得ると主張することの不当性は明らかであるといわなければならない。

 

(二)予備的主張

 

 仮に、本件株式について、配当還元方式による評価が認められない場合でも、本件会社は、評価基本通達一八九(1)に定める株式保有特定会社に該当するから、評価基本通達一八九―二に定める相続評価純資産価額方式等により株式の価額を計算すべきである。右に従った場合、本件株式の一株当たりの価額は、五二六一円であり、同価額に基づき原告らの課税価格、納付すべき税額を算出すると、別紙「贈与税の計算」のとおりとなる。

 

 

 

 

 

 

2 本件株式を時価純資産価額方式によって評価するに際して評価基本通達六に定める手続を経なかったことが本件各処分違法事由となるか否か

 

(原告らの主張)

 評価基本通達六は、財産を評価基本通達の定めによらないで時価で評価するための要件として、「評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産」という実質的要件と、「国税庁長官の指示を受け」るという手続的要件とを定めている。仮に、本件株式が、評価基本通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められる財産であるとしても、本件各処分は、右手続的要件を満たさずにされた点で、評価基本通達六に反し、通達によって確保しようとした行政作用の統一、国民間の平等、行政作用に関する国民の予測可能性などの法益を害するものであって、右法益侵害は内部規律違背の問題にとどまるものではないというべきである。

 

(被告の主張)

 通達は、一般的に、行政機関内部の規律に過ぎず、法規としての性格を有しないところ、評価基本通達六にいう国税庁長官の指示も、国税庁内部における処理の準則を定めたものにすぎないというべきであり、右の指示の有無が更正処分の効力要件となっているものではない。したがって、原告らの主張は失当である。

 

 

 

 

 

第三 当裁判所の判断

一 争点1(本件株式の価額を配当還元方式によらないで時価純資産価額方式によって評価することの適否)について

 

 

1 贈与により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価される(法二二条)。ここにいう「時価」とは、課税時期における当該財産の客観的交換価値をいい、右交換価値とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額であって、いわゆる市場価格と同義であると解するのが相当である。

 

 

2 もっとも、財産の客観的交換価値といっても、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務においては、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、これに定められた画一的な評価方式によって財産の時価、すなわち客観的交換価値を評価するものとしている。これは、財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどからして、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものであり、したがって、評価基本通達に規定された評価方法が合理的なものである限り、財産の価額は、原則として、右評価方法によって画一的に評価するのが相当である。

 

 しかしながら、評価基本通達に定められた評価方式によるべきであるとする趣旨が右のようなものであることからすれば、評価基本通達に定められた評価方式を画一的に適用すると、かえって、実質的な租税負担の公平を害することが明らかな場合には、別の評価方式によることが許されると解されるべきであり、このことは、評価基本通達六において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかというべきである。

 

 

 

 すなわち、財産の価額の評価に当たっては、特別の定めのある場合を除き、評価基本通達に定める方式によるのが原則であるが、評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合には、他の合理的な時価の評価方式によることが許されるものと解するのが相当である。

 

 

 

3 本件株式のように取引相場のない株式の時価を評価するに当たっては、自由な取引を前提とする客観的価格を直接把握することが困難であるから、当該株式が化体する純資産価額、同種の株式の価額あるいは当該株式を保有することによって得ることができる経済的利益等の価額形成要素を勘案して、当該株式を処分した場合に実現されることが確実と見込まれる金額、すなわち、仮に自由な取引市場があった場合に実現されるであろう価額を合理的方法により算出すべきものと考えられる。

 

 

 この点、そもそも株式は、一般に、会社資産に対する割合的持分としての性質を有し、会社の所有する総資産価値の割合的支配権を表象したものであり、株主は、株式を保有することによって会社財産を間接的に保有するものであり、当該株式の理論的・客観的な価値は、会社の純総資産の価額を発行済株式数で除したものと考えられることに照らせば、純資産価額をもって株式の評価額とする方法は、基本的な合理性を有する評価方法であると認められる。

 

 

 もっとも、零細な株主に代表される「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、株主の持株割合が低下すると会社に対する支配権が希薄になり、会社経営等について同族株主以外の株主の意向はほとんど反映されず、会社の経営内容、業績等の状況が同族株主以外の株主の有する株式の価額に反映されないことからして、配当を受けることが株式の保有により把握する権利の主たる要素となるということができる。したがって、これらの株主が株式を所有する実益は、通常の場合、配当金の取得にあることに着目して、そのような株式の時価を評価するための例外的な評価方式を設定することは合理性を有すると考えられ、株式の価格を配当還元方式によって評価することも、右の特殊性をしん酌した合理的な課税上の措置であると認めることができる。

 

 評価基本通達が、同族株主以外の株主の有する取引相場のない株式の評価に際して、配当還元方式を採用しているのは、右で述べたように、少数株主が株式を保有する経済的実益は、通常の場合は、主として配当金の取得にあることを基礎としたものであると解される。

 

 

4 しかるところ、前記第二の二で認定したところによれば、本件においては、

 

①原告らが本件株式の売却を希望する場合には、日本スリーエス又はセムヤーゼが、時価純資産価額方式により評価された価額で買取ることが保証されており、現に、本件課税時期の後、原告らは、その所有する本件株式のすべてを日本スリーエスに対して右の価額により売却していること、

 

フォーエスキャピタルにおいては、常時、関連会社のヤムナーゼ及びその同族関係者の本件株式の保有割合がフォーエスキャピタルの総発行株式総数の五〇パーセント以上になる状態が維持され、本件株式を取得する第三者は、同族株主以外の株主となることから、その株式について相続、贈与等による本件株式の承継があった場合、評価基本通達をそのまま適用して評価すれば、本件株式は配当還元方式により評価すべきことになり、相続税又は贈与税に係る課税価格の計算上、その価額は時価純資産価額方式により計算した価額より著しく低くなる仕組みになっていたこと、

 

③本件株式に対する配当の額と比較して、本件株式を売却する場合に保証される一株当たりの代金額が著しく高額であったこと、

 

④原告らのみならず、同族株主以外の株主一般について、右のような取扱いがなされていたことなどの事情が認められる。

 

 

 これらの事情からすれば、Dが本件株式を取得したのは、配当金の取得にあるのではなく、本件株式が将来において時価純資産価額方式による評価額相当で売却できるという保証があることに加え、Dに相続が生じ、あるいは同人がその子らに本件株式を生前贈与しても、フォーエスキャピタルの株主構成における右のような仕組みから、相続税又は贈与税に係る課税価格の計算上、その価額は時価純資産価額方式により計算した価額より著しく低くなるという利益を右承継人に享受させることに主眼があったというべきであり、

 

また、前記第二の二に認定したとおり、実際にも、Dは、その保有する本件株式をその子である原告らにすべて贈与しており、原告らは時価純資産価額により計算した価額相当の本件株式の贈与を受けながら、

 

これを現金で贈与を受けた場合には約二億一〇〇〇万円の贈与税額を納付しなければならないにもかかわらず、

 

本件株式を配当還元方式で評価した場合の贈与税額は約五〇万円にしかならないのであって、

 

 

本件において評価基本通達を形式的に適用した場合には、贈与により承継された実質的な経済的利益を基礎として計算される贈与税額に比して著しく低い贈与税額を納付すれば足りる結果となるものである。

 

右のように、Dが本件株式を取得、保有するに至った目的、その後における本件株式の贈与に伴い生ずる経済的利益の承継とこれに対する課税関係は、評価基本通達が同族株主以外の株主の保有する株式の評価について配当還元方式を採用する上で想定した利益状況とは全く異なるというべきであるし、

 

評価基本通達に定める配当還元方式を適用することは、課税上、実質的な公平を著しく損なうものでもなるから、右配当還元方式を本件に適用することは、合理性を欠くといわざるを得ない。

 

 

 以上によれば、本件においては、評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情があるということができるから、

 

本件株式を評価基本通達を適用しないで評価した点において本件各処分に違法はないというべきであり、また、右に述べたところによれば、本件株式の評価は、当事者間での取引における価格の算定において採用された時価純資産額方式による評価をもって、法二二条の「時価」とすることが相当であることは明らかである。

 

 

 

5 なお、原告らは、仮に本件株式を配当還元方式により評価することが適当でないとしても、本件会社は評価基本通達一八九(1)にいう株式保有特定会社に該当することから、評価基本通達一八九の二に定める相続評価純資産価額方式等により評価すべきであると主張する。

 

 そこで検討するに、評価基本通達は、同族株主以外の株主の保有する株式については、その会社の規模、資産の保有状況等にかかわらず、配当還元方式によるものとし(評価基本通達一七八)、

 

相続評価純資産価額方式等によったときの評価額が配当還元方式による評価額より低額になる場合には相続評価純資産価額方式等によるものとしているにすぎず(評価基本通達一八八―二)、

 

株式保有特定会社であり、かつ同族株主のいる会社において、同族株主以外の株主の保有する株式について配当還元方式による評価を行うことが前記のような特別の事情があって不合理とされる場合に、

 

いかなる評価方法を採用すべきかについて、評価基本通達は何ら定めをおいておらず、

 

右の場合に、当然に相続評価純資産価額方式等によるべきものとまでいうことはできない。

 

なお、原告らの主張によっても、相続評価純資産価額方式等によって評価した本件株式の価額は配当還元方式により評価した本件株式の価額より高いというのであるから、本件株式が、評価基本通達一八八の二の定めにより相続評価純資産価額方式等で評価すべき場合には該当しないことは明らかである。

 

 また、仮に、原告らの右主張の趣旨が、評価基本通達が定める株式保有特定会社の株式の評価方法、すなわち相続評価純資産価額方式等によって評価した本件株式の価額をもって時価とすることが相当であるという主張であるとすれば、右の評価方法は通常の取引相場のない株式保有特定会社の株式を控えめに評価する方法として合理性を有するものであるとしても、

 

本件株式は、株主が希望した時に一定の価格で買い取ることが日本スリーエスグループによって保証されており、株主が売却を申し出たときには、当該買取りが保証されている価格が取引価格となることが明らかであるから、本件株式について、右評価方法による評価額をもって時価とみるべきであるとする原告らの主張は失当というべきである。

 

 

 

二 争点2(本件株式を時価評価するに際して評価基本通達六に定める手続を経なかったことが本件各処分違法事由となるか否か)について

 

 原告らは、本件各処分は、財産を評価基本通達の定めによらないで時価で評価するためには国税庁長官の指示を受けるべきことを定める評価基本通達六に違反すると主張する。

 

 しかしながら、評価基本通達六の定めは、その規定の仕方からして、国民と行政機関の関係について行政機関の権限の行使を制限する目的で定められた規定でなく、行政組織内部における機関相互の指示、監督に関して定めた規定であることは明らかであって、評価基本通達六に違反することから直ちに国民の権利、利益に影響が生じるものではないから、原告らの右主張は、自己の利害に直接関係のない主張というべきである。また、評価基本通達六に行政作用の統一、行政作用に関する国民の予測可能性の確保という目的があることを考慮しても、右の理が変わるものではない。

 

 

 

三 本件更正処分等の適法性について

 

1 以上の次第で、本件株式の時価を時価純資産価額方式によって評価した価額とすることは相当というべきところ、本件課税時期における右評価は、右課税時期の前月の末日現在における時価純資産価額方式により計算された本件株式の価額、すなわち別件発行における引受価格と同額の一株当たり一万七一三四円であると認められ(前記第二の二1(四)、本件株式の時価も同額と認めることができる。

 右により計算すると、原告らの課税価格及び納付すべき贈与税額は、前記第二の三1記載のとおりとなり、本件各更正処分に係る課税価格及び納付すべき税額は右の範囲内であるから、適法である。

 

2 原告らは、本件贈与に係る贈与税の申告の際、課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由は認められない。

 したがって、原告らに対しては、通則法六五条により過少申告加算税が賦課されるところ、その税額は、前記第二の三3記載のとおりとなり、本件各賦課決定処分は、これと同額であるから、適法である。

 

 

四 結論

 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

 

 

    東京地方裁判所民事第三部

        裁判長裁判官  青 柳   馨

           裁判官  谷 口   豊

           裁判官  加 藤   聡