LPSの租税法上の扱い(2)

 

 

 

 所得税更正処分取消等,所得税通知処分取消請求控訴事件・同附帯控訴事件、名古屋高等裁判所判決/平成24年(行コ)第8号、平成24年(行コ)第37号、判決 平成25年1月24日、最高裁判所民事判例集69巻5号1462頁について検討します。

 

 

 

【判示事項】

 

 外国信託銀行を受託者とする信託契約を介して出資したLPS(米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法に準拠して組成されるリミテッド・パートナーシップ)が行った米国所在の中古住宅の貸付に係る所得は不動産所得に該当するもので,当該所得と他の所得との損益通算を認めない各処分は違法であるとした事例

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用は被控訴人Y1の負担とする。

 

       

 

 

事実及び理由

 

 以下,文中に記載するもののほか,原判決別紙2略称一覧表記載のとおり,略称を用いる(ただし,原判決(同一覧表を含む。)に,「原告」とあるのを「被控訴人」と,「被告」とあるのを「控訴人」とそれぞれ読み替える。)。

 

 

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴人

  (控訴の趣旨)

  (1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

  (2) 刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした被控訴人Y1の平成14年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減額された後のもの)のうち総所得金額5245万7039円,還付金の額に相当する税額872万9535円を超える部分の取消を求める訴えを却下する。

  (3) その余の被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

  (4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

  (被控訴人Y1の附帯控訴の趣旨に対する答弁)

  (1) 本件附帯控訴を棄却する。

  (2) 附帯控訴費用は被控訴人Y1の負担とする。

 2 被控訴人ら

  (控訴の趣旨に対する答弁)

  (1) 本件控訴をいずれも棄却する。

  (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。

  (被控訴人Y1の附帯控訴の趣旨)

  (1) 原判決主文第1項を取り消す。

  (2) 原判決主文第2項のうち,原判決別紙1取消処分目録記載2(1)を次のとおり変更する。

   「(1) 刈谷税務署長が平成17年2月25日付けでした被控訴人Y1の平成14年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分」

  (3) 訴訟費用は第1,2審とも控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

 1(1) 被控訴人Y2(以下「被控訴人Y2」という。),被控訴人Y1(以下「被控訴人Y1」という。)及び承継前の原審C事件原告G(以下「亡G」という。)は,外国信託銀行を受託者とする信託契約を介して出資したLPS(米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法に準拠して組成されるリミテッド・パートナーシップ)が行った米国所在の中古住宅の貸付(本件各不動産投資事業)に係る所得が,所得税法26条1項所定の不動産所得に該当するとして,その減価償却等による損金と他の所得との損益通算をして所得税の申告又は更正の請求をした。

  (2) これに対し,当該所得は不動産所得に該当せず,損益通算を行うことはできないとして,

   ア 名古屋中村税務署長は,被控訴人Y2に対し,

    (ア) 平成17年2月15日付けで,被控訴人Y2の平成13年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分,

    (イ) 同日付けで,被控訴人Y2の平成14年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分

    (ウ) 同日付けで,被控訴人Y2の平成15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分

    (エ) 平成18年6月26日付けで,被控訴人Y2の平成16年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

    (オ) 平成19年6月12日付けで,被控訴人Y2の平成17年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

    をした。

   イ 刈谷税務署長は,被控訴人Y1に対し,

    (ア) 平成17年2月25日付けで,被控訴人Y1の平成14年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(被控訴人Y114年分通知処分)

    (イ) 同月28日付けで,被控訴人Y1の平成14年分の所得税の更正処分

    (ウ) 同日付けで,被控訴人Y1の平成15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分

    (エ) 平成18年6月26日付けで,被控訴人Y1の平成16年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

    (オ) 平成19年6月11日付けで,被控訴人Y1の平成17年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

    をした。

   ウ 千種税務署長は,亡Gに対し,

    (ア) 平成17年2月25日付けで,亡Gの平成13年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分

    (イ) 同日付けで,亡Gの平成14年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分

    (ウ) 同日付けで,亡Gの平成15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分

    (エ) 平成19年2月22日付けで,亡Gの平成16年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

    (オ) 同年6月19日付けで,亡Gの平成17年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分

    をした。

  (3) 本件は,

   ア 被控訴人Y2が,控訴人に対し,

    (ア) 上記(2)ア(ア)ないし(ウ)の各更正処分(いずれも平成20年5月14日付け更正処分により減額されたもの)のうち被控訴人Y2が認める総所得金額及び税額を超える部分の取消

    (イ) 上記(2)ア(ア)ないし(ウ)の各過少申告加算税賦課決定処分の取消

    (ウ) 上記(2)ア(エ)及び(オ)の各通知処分の取消

    を求めた事案(A事件,E事件)

   イ 被控訴人Y1が,控訴人に対し,

    (ア) 主位的に上記(2)イ(ア)の通知処分の取消,予備的に上記(2)イ(イ)の更正処分(平成20年5月14日付け更正処分により減額されたもの)のうち被控訴人Y1が認める総所得金額及び税額を超える部分の取消

    (イ) 上記(2)イ(ウ)の更正処分のうち被控訴人Y1が認める総所得金額及び税額を超える部分の取消

    (ウ) 上記(2)イ(ウ)の過少申告加算税賦課決定処分の取消

    (エ) 上記(2)イ(エ)及び(オ)の各通知処分の取消を求めた事案(B事件,D事件)

   ウ 亡Gの相続人でC事件における訴訟承継人である被控訴人H(以下「被控訴人H」という。)が,控訴人に対し,

    (ア) 上記(2)ウ(ア)ないし(ウ)の各更正処分のうち被控訴人Hが認める総所得金額及び税額を超える部分の取消

    (イ) 上記(2)ウ(ア)ないし(ウ)の各過少申告加算税賦課決定処分の取消

    (ウ) 上記(2)ウ(エ)及び(オ)の各通知処分(いずれも平成21年6月23日付け更正処分により減額されたもの)の取消

    を求めた事案(C事件,F事件)

   である。

 2 原審は,被控訴人Y1の請求のうち被控訴人Y114年分通知処分の取消を求める訴えについては,訴えの利益がなく不適法であるとして却下すると共に,本件各不動産賃貸事業から生じた損益は被控訴人らの不動産所得に該当するものであるから,当該所得と他の所得との損益通算を認めない本件各処分は違法であるとして,被控訴人Y2及び被控訴人Hの請求並びに被控訴人Y1のその余の請求をいずれも認容した。そこで,これを不服とする控訴人(原審被告)が本件控訴に及び,被控訴人Y1も附帯控訴をした。

 3 本件における関係法令等の定め,前提事実(当事者間に争いのない事実等),税額等に関する当事者の主張,争点及び当事者の主張は,以下のとおり付加訂正し,次項(第4項)に当事者双方の当審における補充主張を,次次項(第5項)に控訴人の当審における新たな主張(新たな争点等)を付加するほかは,原判決「第2 事案の概要」の2ないし6に記載のとおりであるから,これを引用する。

  (1) 原判決8頁4行目から5行目に「241万4900ドル」とあるのを,「241万4900米国ドル(以下,単に「ドル」という。)」と改める。

  (2) 原判決9頁7行目から8行目に「537万米国ドル(以下,単に「ドル」という。)」とあるのを,「537万ドル」と改める。

  (3) 原判決20頁22行目「額等は,」の次に,「下記控訴人の当審における新たな主張(新たな争点等)に係る部分及び」を付加する。

  (4) 原判決20頁24行目「本件の争点」の次に「(当審における新たな主張に係る争点を含む。)」を付加する。

 4 当審における補充主張

   控訴人の当審における補充主張は,別紙2「控訴人の当審における補充主張」記載のとおりであり,被控訴人らの当審における補充主張は,別紙3「被控訴人らの当審における補充主張」のとおりである。

 5 当審における新たな主張(新たな争点等)

   当事者双方の当審における新たな主張は,別紙4「当審における新たな主張」のとおりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

1 本案前の争点(本件予備的追加的変更に係る訴えの適法性・B事件)について

   

 当裁判所も,原判決同様に,同一年分の所得税について更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分と申告納税額を増額する更正処分が併存する場合には,訴訟上通知処分は増額更正処分に吸収されたものとして,増額更正処分のみが訴訟の対象となると解されるから,被控訴人Y1の被控訴人Y114年分通知処分の取消を求める訴え(主位的請求)については,訴えの利益がなく不適法として却下すべきであり,被控訴人Y114年分更正処分につき不服申立てを経ることなく本件予備的追加的変更に係る訴え(被控訴人Y1平成14年分更正処分の取消訴訟)を提起したことについては,通則法115条1項3号の正当な理由があるから適法であり,かつ,出訴期間の遵守に欠けるところもないと判断するが,その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決「第3 当裁判所の判断」の1(原判決29頁17行目から32頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

  

(1) 原判決30頁3行目に「通知処分は増額更正処分に吸収され」とあるのを,「適法に増額更正処分についての取消訴訟が提起された場合には訴訟上通知処分は増額更正処分に吸収されたものとして」と改める。

  

(2) 原判決30頁5行目「所得税についても,」の次に,「下記のとおり適法に被控訴人Y114年分更正処分の取消を求める訴え(本件予備的追加的変更に係る訴え)が提起されているのであるから,」を付加する。

  

(3) 原判決31頁5行目に「当裁判所」とあるのを,「原審裁判所」と改める。

  

(4) 原判決31頁19行目「得ない。」の次に,以下のとおり付加する。

   

「控訴人は,本件では通知処分(平成17年2月25日付け)と増額更正処分(同月28日付け)が3日間の短い間隔で相次いでされており,双方に不服申立てをすることが,一方にのみ不服申立てをすることに比べて特に負担が大きくなるとは思われないと主張する。しかし,被控訴人Y1は,上記(原判決引用)のとおり,当初から一貫して本件不動産賃貸事業(P)から生じる損失は被控訴人Y1の不動産所得に当たらないとの刈谷税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたことが認められるのであるから,両処分が極めて近接した日に相次いでなされたことを考慮すると,1つの判断に基づいた実質的に1つの処分を2つの不服申立てで争わなければならないと判断すること自体納税者には極めて困難であり,2つの不服申立てが必要である旨の適切な教示が行われたとも認められないにもかかわらず,被控訴人Y114年分更正処分につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由でその訴えを不適法なものとすることは,納税者である被控訴人Y1にあまりにも酷に過ぎるものである。」

  

(5) 原判決32頁4行目末尾に,次のとおり付加する。

   

「控訴人は,通知処分と更正処分とは別個独立の処分であり,双方につき適法な不服申立てを経て取消訴訟が提起されるまでは,両処分が併存し,それぞれが不服申立ての対象となるのであるから,上記の出訴期間についても別個に進行すると解すべきであると主張するが,上記(原判決引用)のとおり訴訟上は通知処分が更正処分に吸収されたものとすべき関係にあり,被控訴人Y114年分更正処分につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理由でその訴えを不適法なものとすることは,納税者である被控訴人Y1にあまりにも酷に過ぎるとの理は,行政事件訴訟法上の出訴期間についても同様であり,被控訴人Y114年分更正処分の取消を求める訴えは,被控訴人Y1通知処分の取消を求める訴えが提起された時から既に提起されていたものと同視するのが相当である。」

 

 

 

 

2 本案の争点(本件各処分の適法性=所得税法69条1項に基づく損益通算の可否・全事件)について

   

 当裁判所も,原判決同様に,本件各不動産賃貸事業から生じた損益は被控訴人らの不動産所得に該当するものであるから,当該所得と他の所得との損益通算を認めない本件各処分は違法であると判断するが,その理由は,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決「第3 当裁判所の判断」の2及び3(原判決32頁9行目から61頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

  

(1) 原判決36頁8行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

   

「 控訴人は,上記基準①(当該外国の法令の規定内容から,その準拠法である当該外国の法令によって法人とする旨を規定されていると認められるか否か)について,これを法人該当性の考慮要素の一つとすることはともかく,原則としてこれを満たさなければ我が国の租税法上の法人に該当しないとするのは,我が国の法人概念をゆがめる可能性があり,相当でない旨主張する。

 

すなわち,どのような団体にどのような権利義務を付与するかは,各国の立法政策の問題であり,法人と翻訳される外国の概念が我が国の法人の概念と同一であるとは限らないから,我が国で法人法定主義が定められているからといって,外国の事業体についても,その組成の準拠法である当該外国の法令によって法人とする旨規定されていることを法人該当性を判断するための第一の基準とするのは相当とはいえず,

 

仮にこの基準によると,外国の法令の規定内容いかんによって,我が国の法人と同様の権利能力を有する事業体が法人として扱われず,逆に,我が国の法人の有する権利能力を有さない事業体を法人として扱うことになりかねず,公平の原則に反するし,法人法定主義が採用されていない法制下では,我が国の租税法上の法人として扱われる事業体がまったく存在しないこととなりかねず,極めて不合理な結果を招来するおそれがあるというのである。

     

 

 しかし,租税法上は,法人,人格のない社団及び組合(任意組合)という事業体が規定されているところ,この各々について内国のものと外国のものがパラレルに規定されているという関係にある。

 

 すなわち,法人,人格のない社団及び組合という概念自体は,内国のものであろうと外国のものであろうと,共通かつ同一の概念であるべきであることが法令の規定上明らかであるといえる。

 

 そして,我が国の法人については,人格のない社団及び組合との区別については法人法定主義が採用されており,内国法人であるか否かは形式的判断により判断されるのであるから,外国の法人についても,第一次的には,内国法人と同じく,準拠法上の法人格の有無という形式的判断により判断するのが論理的帰結である。

 

控訴人が主張するように,外国の法制度の多様性を理由に我が国の租税法の構造と異なる法人の解釈を採用することは,かえって我が国の法人の概念をゆがめる可能性があり,相当でない。

 

なお,仮に控訴人が主張するように,法人法定主義が採用されていない法制下の国で,その国の法律を準拠法とする事業体が法人格を準拠法上付与されないため我が国では法人として取り扱われないということがあったとしても,念のため上記基準②(当該外国の法令が規定する内容を踏まえて,当該事業体が我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうか)を用いて当該事業体が実質的にみて我が国の租税法上の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるか否かについて検証する上,さらにその事業体が最高裁昭和39年10月15日判決(民集18巻8号1671頁)が示した権利能力なき社団の4要件を満たす限りは,外国の人格のない社団として取り扱われることになると解されるのであるから,人格のない社団を法人とみなして課税するという我が国の租税法上課税上の不都合が起きることは考えられず,控訴人が主張するような極めて不合理な結果を招来するおそれはない。

     

 

 また,控訴人は,上記基準②について,租税法の規定や課税実務上の取扱い等を根拠として,法人該当性について,損益の帰属主体として設立が認められたものを法人とするといった基準を導き出すことはできないと主張する。すなわち,法人税法は,法人を内国法人と外国法人に区分した上で,

 

「法人税について,納税義務者,課税所得等の範囲,税額の計算の方法,申告,納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるもの」(法人税法1条)であるにすぎず,

 

法人に損益が帰属することを前提として法人税が課されているからといって,上記基準②のように「損益の帰属すべき主体として設立が認められたもの」を法人とするとの趣旨を導くことはできないというのである。

 

つまり,損益は,一般に,私法上の権利義務に基づいて発生するものであるから,それが誰に帰属するかを判断するためには,前提として当該損益を生み出す私法上の権利義務が誰に帰属するかをみる必要があるところ,

 

通常,取引に係る損益を構成する収入や支出は,当該取引に関する債権債務と表裏一体の関係にあるので,ある事業体と構成員との関係において,当該事業体が,その構成員と区別された独自の財産を有し,独立した権利義務の主体となるのであれば,その事業体に属する事業を営むことにより生じる利益や損失は,当然に当該事業体に帰属するから,あえて損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえるかどうかを基準として定立する必要はないし,

 

むしろ,このような基準を定立することは,法人の概念を不当に狭めるものになり相当ではない。

 

また,任意組合が法人税の納税義務者とならないのは,組合財産はその構成員の共有(合有)であって,組合自身が権利義務の帰属主体とならないからであるし,実質所得者課税の原則は,課税物件の帰属について「名義と実体,形式と実質が一致しない場合」に問題になるものであるから,実質所得者課税の原則を定める各規定を根拠に,法人該当性の判断基準として上記基準②を導くことはできないというのである。

     

 しかし,上記基準②は,租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には,租税法律主義(憲法84条)や法的安定性の確保の観点から,本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当であること(いわゆる借用概念)を大前提として,上記基準①をあくまでも基本とすることとした上で,諸外国の法制・法体系が様々であることを考慮して,さらに上記(原判決引用)のような法人,法人格のない社団及び任意組合等に係る課税関係の分析・観察から,租税法律主義の要請に応えるためにより的確に法人の意義を認識できるよう導き出されたものなのであるから,控訴人の上記批判は当たらない。

     

 したがって,原判決は「租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には,租税法律主義や法的安定性の確保の観点から,本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当である」と判示しながら,

 

 そこで示した基準は,私法上の法人の概念である「自然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」という概念から離れて,独自に法人の概念を規定した上で定立しているものであり相当でないとの控訴人の批判も当を得ないものである。」

  

 

 

 

(2) 原判決36頁25行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

   

「 なお,控訴人は,上記控訴人主張に係る基準①ないし③について,

 

「自然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」という私法上の法人の概念の意義から導き出されたもので,租税法上も私法上の概念と同義と解すべきであるという借用概念の考え方と整合する上,

 

ある事業体が上記基準①ないし③を満たし,我が国の法人と同様の権利義務の帰属主体であるということになれば,当該事業体は,通常,損益ないし所得の帰属主体となり,法人税の課税対象となる属性を有するといえるから,判断基準としても必要かつ十分なものであると主張する。

 

しかし,法人に該当しないことが明らかな任意組合又は人格のない社団(権利能力なき社団)についても上記基準①ないし③を満たすことからすると,上記基準①ないし③は,法人と法人ではない団体(事業体)とを区別する基準としては機能し得ないものである。

 

すなわち,例えば任意組合についてみると,民法668条,676条,677条等の趣旨によれば,組合財産は,特定の目的(組合の事業経営)のために各組合員個人の他の財産(私有財産)と離れて別に一団を成して存する特別財産(目的財産)であり,その結果,この目的の範囲においては,ある程度の独立性を有し,組合員の私有財産と混同されることはないと解される(大審院昭和11年2月25日判決(昭和9年(オ)第3066号・民集15巻4号281頁)等)し,

 

任意組合に権利義務を生じさせる法律行為の名義として任意組合自体や任意組合代表者名義を用いることが許容されており(厳格な要式性が求められている手形行為につき大審院大正14年5月12日判決(大正13年(オ)第1109号・民集4巻256頁)等),

 

任意組合であっても民事訴訟法29条により訴訟上の当事者能力を認めることができると解されている(最高裁第三小法廷昭和37年12月18日判決(昭和34年(オ)第130号・民集16巻12号2422頁)等)のである。

     

 

 また,我が国の私法上の法人であれば,我が国の租税法上損益の帰属主体となることが予定されているといえるが,権利義務の主体として取引行為を行い,財産及び債権債務の帰属主体となる存在であるからといって,必ずしも損益の帰属主体となるとは限らないことについては,匿名組合(商法535条ないし542条)や問屋(同法551条ないし558条)等の例を見ても明らかであるから,

 

外国の法令に準拠して組成された事業体が,その外国法制の下で,上記要件を備えているとしても,当然に損益主体となるとは限らないのであり,仮に当該事業体が上記基準①ないし③を満たしたとしても我が国の法人と同様の事業体ということはできず,上記基準①ないし③は判断基準として相当ではない。」

  

 

 

(3) 原判決45頁17行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

   

「 控訴人は,日米租税条約3条1項(f)は,「法人」(company)とは,「法人格を有する団体」(any body corporate)又は「租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体」(any entity that is treated as a body corporated for tax purposes)をいうと規定するところ,この規定については,「あるエンティティが両締結国で同様に『課税上法人格を有する団体として取り扱われるエンティティ』である場合には,条約の特典を享受する資格について差異が生じないので相互主義の精神からみても問題はないが,一方の締結国はこのエンティティを『課税上法人格を有する団体』として取り扱い,他方の締結国はこのエンティティを『課税上法人格を有する団体』として取り扱わない場合には,条約上の法人になるのかどうかという問題を残し,相互主義の観点から条約の特典を享受する資格が両締結国間で異なるという実質的に不平等な取決めになるおそれがある。これは,法人について国際的に共通の概念が確立されず,条約上の定義が一種の不確定概念とされたまま国内法への委任が行われていることから生ずる問題である」が,このように「法人」の意義については,国際的に共通の概念が確立されていないのであるから,日米租税条約中の「company」が「法人」,「partnership」が「組合」と翻訳され,同条約においては「法人以外の団体」に「partnership」を含むとされているとしても,そのことと米国の「partnership」の中に我が国の法人に該当するものがあると解することとは,矛盾するものではない旨主張する。

     

 

 しかし,上記(原判決引用)のとおり,一般に,租税条約は,各締結国の租税法規やその前提となる私法上の法制度が異なることを考慮した上で,各締結国の公用語によりそれぞれ正文が作成されるものであり,租税条約の正文で同一概念を指すものとして用いられた各締結国の公用語による概念は,特段の事情がない限り,同義であると解するのが相当であり,日米租税条約において米国の「partnership」という概念が我が国における租税法上の「法人」には含まれないことはその文言の対応関係から明らかなのであって,上記特段の事情の存在もうかがわれないのであるから,控訴人の上記主張は当たらない。

     

 

また,控訴人は,民法36条1項(現民法35条1項)は,「外国法人は,国,国の行政区画及び商事会社を除き,その成立を認許しない。ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない。」と規定しているところ,同項による「認許」とは,「外国法人が我が国において活動する場合,その活動より生じる権利義務に関して,その外国法人に権利義務の主体たること,すなわち,法人格を認めることであると解され」ており,日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約(昭和28年条約第27号)22条3項は,「この条約において「会社」(英文では「companies」)とは,有限責任のものであるかどうかを問わず,また,金銭的利益を目的とするものであるかどうかを問わず,社団法人(「corporations」),組合(「partnerships」),会社(「companies」)その他の団体(「other associations」)をいう。いずれかの一方の締約国の領域内で関係法令に基づいて成立した会社(「companies」)は,当該締約国の会社(「companies」)と認められ,且つ,その法律上の地位を他方の締約国の領域内で認められる。」と規定しており,「partnerships」も「companies」に含まれるものとされている旨主張する。

     

 

 しかし,民法36条の「認許」は,外国法人が,その設立準拠法上法人格を有することを前提に,係る外国法人の法人格を我が国で承認することを意味するものであるから,「条約による認許」が,設立準拠法上法人格を認められていない事業体を外国法人として認許するものではない。

 

また,上記友好通商航海条約は,「相互に有利な通商関係を助長し,相互に有益な投資を促進」する目的で,最恵国待遇,内国民待遇の原則を基礎として締結されたものであって(同条約前文),

 

そのため同条約上の「会社」(companies)は「国民」(nationals)と一対となる概念として位置付けられ,法人格の有無を問わずに自然人以外の事業体一般を広く包摂しているものと解されるから,

 

同条約22条3項後段の規定は,「社団法人」(「corporations」)は社団法人として,「組合」(「partnerships」)は組合として認められ,その法律上の地位を認められることを述べているに過ぎず,設立準拠法上法人格を認められていない「組合」(「partnerships」)が同項の規定によって外国法人として認許されるとするものではないから,控訴人の上記主張は当たらない。

     

 

 さらに,控訴人は,本件各LPS同様デラウェア州法を準拠法として組成されたリミテッド・パートナーシップであるブルームバーグ・エル・ピーは,外国法人(外国会社)として登記されている(乙A全103の1,2)が,

 

これは,無限責任社員と有限責任社員とで構成され,かつ,その営む事業の種類が限定されない州LPS法に基づき設立されたリミテッド・パートナーシップは,旧商法上の合資会社に最も類似すると認められることから,会社法の外国会社に該当し得るものであるとして,我が国において認許される外国法人に含まれるからであると主張する。

 

しかし,会社法上の「外国会社」については,設立準拠法上法人格が認められない団体をも含む点で民法上の「外国会社」よりも広い概念であると解されるから,上記主張は失当であり,結局,上記認定が左右されるものではない。」

  

 

 

(4) 原判決52頁4行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

   

 

「 控訴人は,「いかなる持分も所有しない」(州LPS法701条)との文言を上記(原判決引用)のように限定して解釈することには無理があり,本件各LPSは,現にその名義で売買契約を締結して本件各建物を取得し,本件各建物の所有者として登録されているのであるから,財産の所有に関して,本件各LPSが任意組合の持ち得ない権利能力を有していることは明らかである旨,また,モリス回答書は,州LPS法701条は強行規定であって,個別のLPS契約により同条を修正することはできないという見解を示した上で,パートナー間の対内的関係に限ってパートナーがLPS財産に固有の権利を有することに意味がある場合といった極めて限定的な条件の下では,パートナー間の合意が有効とされる可能性もあるだろうという推測を述べつつ,現実にはそのような取扱いをすることに意味はないとしているもので,特定のLPS財産に対してパートナーに特定の持分を認める余地があると述べたものではない旨主張する。

     

 しかし,控訴人は,本件各LPSが独立した所有権の帰属主体となることを強調するが,本件各LPSの準拠法である州LPS法は,イギリス法を継承し受容した結果,コモン・ロー上の権原(legal title)とエクイティ上の権原(equitable title)の2つの概念を有し,州LPS法において両者が併存しているとされているところ,控訴人の上記主張はこのことを無視している点で失当であるといわざるを得ない(甲A全101,126)。コモン・ロー上の権原を州LPS法の701条に従ってLPSに帰属させることと,本件LPS契約の4.5条によりパートナー間でエクイティ上の権原を持分割合に応じて認識することとは,何ら矛盾するものではない(アレン教授第2意見書(甲A全124),ラムザイヤー教授第2意見書(甲A全151)参照)。本件各LPSは,州LPS法の701条に従い,第三者との関係において,コモン・ロー上の権原がLPSに帰属するとされている一方で,本件LPS契約の4.5条により,パートナー相互間では,エクイティ上の権原が合有的に共同所有されていると解されるのである。したがって,本件各LPSは,対外的には一定の範囲内で構成員とは別個に権利を取得したり義務を負担したりするような法的取扱いが認められるが,他方,特定のLPS財産について,パートナーが合法的な共同所有者になる余地を残している点で,我が国の私法(租税法)上の法人とは異なる法律効果が許容されており,我が国の私法(租税法)上の「法人」と同義であるということはできない。

     

 また,控訴人は,州LPS法201条(a)は,リミテッド・パートナーシップを設立するためにはリミテッド・パートナーシップ証明書に所定の事項を記載して州務長官登録局に登録するものとすると定め,同条(b)は,「リミテッド・パートナーシップは,リミテッド・パートナーシップ証明書が最初に州務長官登録局に登録された時点,あるいはリミテッド・パートナーシップ証明書に記載された(当該登録後の)日付にて設立されるものとし,いずれの場合においても,本項の要件を完全に満たすものでなければならない。本章に基づき組織されたリミテッド・パートナーシップは,独立した法的主体となり,その独立した法的主体としての地位はリミテッド・パートナーシップ証明書のリミテッド・パートナーシップによる解除まで継続する。」と規定しており(乙A全25),州LPS法201条に規定するリミテッド・パートナーシップ証明書を州務長官登録局に登録することは,我が国で会社の設立登記が成立要件とされ(会社法49条,579条),その他の法人においても一般に設立登記が成立要件とされているのと同様に,パートナーシップがリミテッド・パートナーシップとして認められるための要件,すなわち成立要件と解される。そして,本件各LPSが契約のみによって成立するものではなく,州LPS法の規定に従って公的機関に登録することによって初めて成立するものであることは,州LPS法によって構成員と別個の独立した法的地位,すなわち我が国でいう法人格を付与する旨が規定されていることを支える根拠の一つである旨主張する。

     

 しかし,LPS証明書が提出されたのみでリミテッド・パートナーシップ契約が締結されていないときには,リミテッド・パートナーシップは組成されないとされる(甲A全23,乙A全75)一方,リミテッド・パートナーシップ契約が締結されていれば,LPS証明書が提出されていなくても,契約当事者間はもとより,対第三者との関係においても,リミテッドパートナーシップの存在は認められると解されている(甲A全23,130)。LPS証明書の提出がリミテッド・パートナーシップの組成に必須の要件ではないことは明らかというべきであるから,控訴人の上記主張は当たらない。」

  

(5) 原判決56頁13行目末尾に,次のとおり付加する。

   

「控訴人は,ラムザイヤー意見書(甲A全123)のパートナーシップ内の損益配分がパートナーシップ契約に従って自動的に行われるという部分は,損益の配分方法を述べているにすぎないとみるべきであって,損益が事業体に一旦帰属した上で構成員に割り当てられることと何ら矛盾するものではないし,チェック・ザ・ボックス制度において選択がない場合は構成員課税とするという意味で構成員課税の方が原則的形態とされているとしても,このことをもって,損益が構成員に直接帰属することが私法上の原則であると認める根拠とするのは論理に飛躍がある旨主張する。しかし,米国において,法人と類似性を有する事業体は「団体」として事業体課税に服するといういわゆる「法人類似性基準」から法人類似性を判断する基準であるキントナー規則(1960年)を経て1997年にチェック・ザ・ボックス制度ができるまで,私法上,パートナーシップの事業により生じた損益が各パートナーに直接帰属するという原則自体が変更されたことは一度もなく,損益が構成員に直接帰属することは私法上の原則であると解されているのであるから,控訴人の上記主張は当たらない(ラムザイヤー教授第2意見書(甲A全151)参照。)」

  

(6) 原判決57頁1行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

   

「 控訴人は,そもそも,私法上,取引から生ずる損益は,基本的に当該取引の当事者,すなわち当該取引に係る権利義務の主体となる者に帰属するのであって,本件各LPS契約の条項,すなわち各パートナーの合意によっても,権利義務の主体である本件各LPSに損益が法的に一旦帰属しなかったことにすることはできず,パートナーは,本件各LPSに一旦帰属した損益を契約に基づく割合と方法により分配を受けるにすぎないというべきであり,本件各LPS契約における損益の割当てに関する条項は,この本件各LPSに帰属した損益の割当て(配分)を定めたものと解するほかないのであって,配分方法が各パートナーの合意(契約)により定められている以上,個別の具体的な配分時に機関決定がないとしても何ら不合理なものではないし,その意味で損益の配分が「自動的」に行われるとしても,それは上記の合意に基づくものであり,当該損益が本件各LPSに一旦帰属することを否定する根拠にはならない旨主張する。

     

 しかし,我が国の有限責任事業組合においても,当事者間の損益分配を合意により自由に定められるものとされており(有限責任事業組合契約に関する法律33条,同法施行規則36条),権利義務主体である組合の構成員について損益分配の割合をゼロとすれば,その損益帰属主体性を否定する取扱いも可能であるとされているように,権利義務の帰属と損益の帰属とは論理的には別の概念であって,両者の帰属主体にずれが生じることは当然あり得ることであるから,控訴人の上記主張は当を得ないものである。控訴人がその主張を裏付けるものとして提出するゲーゲン教授の鑑定意見書(乙A全109の2)の「リミテッド・パートナーシップが得た所得は,その出資者に分配されるまではリミテッド・パートナーシップに帰属する。リミテッド・パートナーシップに拠出された資産及びリミテッド・パートナーシップが購入した資産は,その出資者に分配されるまではリミテッド・パートナーシップに帰属する。」という記述にいう「所得」については,「現金を持っていること」の意に解するのが相当であり,上記認定判断を左右するものではない(ラムザイヤー教授第2意見書(甲A全151参照))。

     

 結局,米国の私法上,パートナーシップは,権利義務能力や訴訟当事者能力の存在が認められた以後においても,構成員間の契約に基づいて組成される「集合体」としての本質が損なわれることはなく,その損益が直接構成員に帰属するとの扱いも一貫して維持されているのであるから,パートナーシップである本件各LPSにおいても,州LPS法及び本件LPS契約に照らし,損益がLPSに一旦帰属すると考えるべき理由はなく,上記認定判断(原判決引用)は何ら左右されない。」

  

(7) 原判決60頁8行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

   

「 なお,控訴人は,昭和39年最判及びその後の判例等を検討すると,上記(原判決引用)の4要件は,すべて独立して厳格に満たされることが要求されるものではなく,むしろ社団性認定のための指標であり,各要件相互の関係で柔軟に解釈され得るものと解されるところ,上記(原判決引用)の諸要素を総合すると,本件各LPSは構成員と独立した団体としての実質を有しており,人格のない社団の4要件を満たすと認めるに十分である旨主張するが,本件各LPSについては上記(原判決引用)のとおり,人格のない社団として認めるにつき重要な要素を複数欠いており,人格のない社団として認められるものではないから,控訴人の上記主張は当たらない。」

  

(8) 原判決61頁4行目冒頭から末尾までを,次のとおり改める。

   

「 控訴人は,本件各LPSは,仮に構成員課税の対象となる事業体であるとしても,その財産が構成員の共有

とならず,当該財産に係る権利義務が構成員に帰属しない点で,民法上の任意組合を原型とする事業体とは異なるから,その事業から生じる所得について直ちに任意組合と同様の取扱いをすることは許されず,その所得の性質は,構成員ごとに個別具体的な事実関係に照らして判断されるべきものである。そして,被控訴人ら投資家は,本件各建物について貸主となり得る権利・権原を有しておらず,本件各建物を貸し付けているという実態は認められないことからすると,本件各LPSから被控訴人ら投資家に割り当てられる損益は,出資ないし投資の対価の性質を有するものとして雑所得に該当するものであるから,本件各損失は,被控訴人ら投資家の不動産所得の計算上生じた損失に該当せず,他の所得と通算することはできないものである旨主張する。

     

 しかし,構成員課税とは,我が国の法人税法上納税義務のない事業体における損益が直接構成員に帰属することの帰結としての課税であるから,法令に別段の定めがない限り,事業体の事業活動から生じる損益に係る所得の認識時期,所得区分,所得金額の計算等については,その所得の起因となる損益(構成員に直接帰属している損益)を生じさせた当該事業体の事業活動の内容及び性質に基づいて決定されるべきである。

     

 なぜなら,平成17年度税制改正で創設された措置法41条の4の2の規定は,任意組合及び投資事業有限責任組合,並びに外国におけるこれらに類する事業体(同条2項1号),すなわち構成員課税が行われる場合の規律として,特定組合員のうち重要業務の執行の決定に関与等しない者や特定受益者が事業体が営む事業から生じる不動産所得を有する場合において,一定の不動産所得の損失の金額については,これを生じなかったものとみなす規定であるところ,

 

この規定は,かかる規定が存在しないとした場合には,構成員について

 

「事業体が営む事業から生じる不動産所得を有する」こととされるのが所得税法上の取扱いであることを前提として立法されたものであることが明らかであるからである。

 

つまり,同条は,不動産事業を含む,事業体の事業活動に係る損益により生じた所得が,その内容に対応した所得分類のまま構成員に直接帰属することを前提として,事業への関与に乏しい構成員について不動産所得の金額の計算上生じた損失を他の所得の金額と通算すること(所得税法69条1項)を否定する別段の定めなのであり,

 

このような規定の存在は,所得税法自体が,事業体(任意組合に限定されない,法人課税をなし得ない事業体一般を指す。)による事業から生じた所得について構成員課税を行う場合には,所得区分等について完全なパススルー課税がなされるべきこと(つまり,構成員に不動産所得の金額の計算上損失が生じること)を示しているのである。

 

     

 この理を明確化して納税者の予測可能性を高めるために,法人にも人格のない社団にも該当しない事業体の典型例である任意組合に関しては,本件組合通達が定められている(甲A全144)。

 

本件組合通達の36・37共-19は,

 

「任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(括弧内略)に係る利益の額又は損失の額は,当該任意組合等の利益の額又は損失のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。」などと規定しているが,

 

これは上記の論理的な帰結を定めたものであると解することができる。

 

また,本件組合通達の36・37共-20は,課税上の便宜のために,所得の認識時期,所得の金額計算について簡易な計算方法を認めるものであるが,ここでも,所得の種類については,簡易な計算方法の場合であっても任意組合自身の事業活動の性質に従うという考え方が維持されている。

 

これら本件組合通達の内容は,構成員課税が,事業体に損益が帰属するのではなく構成員に直接損益が帰属する場合の取扱いであることを前提とした解釈を示しているということができる。(中里教授第2意見書(甲A全153)参照)

     

 

以上からすれば,外国の事業体が法人又は人格のない社団に該当しない場合,法令に別段の定めがない限り,事業体を構成する個々の構成員に完全なパススルー課税がされるのが原則であることは,我が国租税法の明文上明らかというべきである。

     

 

なお,控訴人は,本件各LPSにおいて,リミテッド・パートナーは本件各LPSの特有財産である本件各建物に持分を有していない上,本件各不動産賃貸事業における一切の権原は本件各GPのみが有しており,リミテッド・パートナーは,不動産賃貸事業の経営に何ら参画しておらず,本件各GPとともに不動産賃貸事業を営んでいるという実態はないのであるから,リミテッド・パートナーが本件各LPSから割り当てられる利益又は損失は,匿名組合契約に基づいて匿名組合員に分配される損益と同様に,出資・投資の対価の性質を有するというべきであり,この点からも,被控訴人ら投資家が本件各LPSから割り当てられる損益に係る所得は不動産所得に該当せず,雑所得に該当するというべきである旨主張する。

     

しかし,匿名組合は,「組合」の名称こそあるが,あくまで匿名組合員と営業者との間の内部的な関係であって,匿名組合員と営業者とが,それぞれから独立した存在である新たな事業体を組成してその事業を行うものではない。本件各LPSは匿名組合であるとは認められないから,本件匿名組合通達(所得税基本通達36・37共-21)は上記法令の別段の定めには当たらず,控訴人の上記主張は失当である。

     

また,控訴人は,本件LPS(C)に投資していた者のうちの相当数が,本件各LPS契約の契約期間中に投資対象建物のキャピタルゲインを事実上放棄する契約を締結していることも,被控訴人ら投資家に所有者として本件各建物を第三者に貸し付けているという実体がなかったことを示している旨主張するが,本件不動産投資事業(C)が,キャピタルゲインの獲得を目的とするものであり,被控訴人らが同事業に参加した時点において通常の不動産投資事業であったことは,その契約内容からみて明らかであり,このことは,後に本件オプション契約が締結されたことによって変容するものではないから,上記認定判断は何ら左右されない。

  

(9) 原判決61頁6行目末尾に,行を改め,次のとおり付加する。

   

「(5) 計算上の損失金額が出資額を超えている場合に,その損失全額について必要経費に該当するとして損益通算することができるか否か(新たな争点)

     

ア 不動産所得の金額は,総収入金額から必要経費を控除して計算される(所得税法26条2項)ところ,同法37条1項は,「その年分の不動産所得の金額,事業所得の金額又は雑所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」と規定している。また,同法69条1項は,「総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,政令で定める順序により,これを他の各種所得の金額から控除する。」と規定している。

       

控訴人は,所得税法は,純資産増加説を採用しており,すべての個人の純資産の増加をもたらすものはその担税力を増加させるものとして包括的に所得概念を捉えているから,純資産の減少により担税力の減殺要因となる所得を生ずるのに直接かつ通常必要とされる経費(確定的金銭の支出もしくは物の給付)を必要経費として課税所得の計算上控除することとしたものといえるとして,無限責任を負う構成員と有限責任を負う構成員が存在する事業体の場合,有限責任の構成員について無制限に必要経費を計上することは認められず,当該構成員に割り当てられた損失のうち,当該構成員の投下資本(出資額)を超える部分については,当該構成員の各種所得の金額の計算上収入から控除される必要経費に該当しない旨主張する。

       

しかし,上記所得税法の規定によれば,不動産所得の必要経費については,「別段の定め」がない限り,減価償却費も支払利子も必要な費用としてその全額が必要経費となるものとされていること,また,不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額が,給与所得や事業所得の金額と通算可能であることは,条文上明らかである。

 

租税法律主義,課税要件明確主義が妥当する租税法においては,所得計算の原則と例外は明確に定められなければならず,特に,法令が明文で「別段の定め」を要求している場合,あるいは,法令が個別に除外規定を置いて例外を設けている場合には,その反対解釈として,解釈によってこれらが規定されたのと同じ結論を導くことはできないと解すべきである。上記所得税法37条1項の「別段の定め」あるいは同法69条1項に対する除外規定なくして,控訴人が主張するように有限責任であることを根拠として,所得税法の明文に反して出資額を限度とする取扱いをすることはできないから,控訴人の上記主張は理由がない。

     

イ 控訴人は,有限責任の構成員について無制限に必要経費を計上することは認められないという考え方は,国税庁長官が発出した平成10年10月21日付け課審4-20ほかによる「中小企業等投資事業有限責任組合契約に係る税務上の取扱いについて」と題する通達(平成10年通達。乙A全105)において,中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号)に基づく組合が,基本的には民法上の任意組合と法的性質を同じくしつつも,無限責任組合員からなる民法上の任意組合とは異なり,無限責任組合員と有限責任組合員からなる組合であることを考慮して,「当該組合の収入金額,支出金額,資産,負債等をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法」の場合(グロスで分配される場合),有限責任組合員については,「負債については分配割合に応じた額から有限責任組合員が負担しない部分(出資の額を超えた損失分)を控除した額を計上する」とされており,有限責任組合員については出資の額を限度として負債(及びこれに対応する損失)額の計上が認められ,無制限に必要経費を計上することはできないこととされていることに明らかにされている旨主張する。

       

 しかし,租税法律主義,課税要件明確主義からすれば,通達をもって上記「別段の定め」に当たると解することはできないのであり,上記通達は,未公開企業への株式投資等限られた投資活動しかできなかった中小企業等投資事業有限責任組合が,平成16年の法改正によって初めて金銭債権の保有や金銭の貸付が可能になり,これに付随して不動産の売買,賃貸借又はその媒介等が可能になったことから,中小企業庁からの照会に応えた個別通達であるところ,仮に同通達が違法なものではないとみるとしても,中小企業等投資事業有限責任組合の有限責任組合員についての極めて限定されたものであると解するのが相当である。同通達をもって上記控訴人が主張するような考え方が明らかにされたものとみることはできない。(中里教授第2意見書(甲A全153)参照)

     

 

ウ なお,平成17年度税制改正において,所得税法37条1項に対する「別段の定め」である有限責任事業組合の事業に係る組合員の事業所得等の所得計算の特例(措置法27条の2),及び,同法69条1項の除外規定である特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特例(措置法41条の4の2)の2つの規定(本件各損失利用制限規定)が創設されたこと(甲A全16,146,147)は,上記アを裏付けるものであるし,同改正の立案担当者による解説(甲A全147)に平成10年通達についての言及が全くないことは上記イを裏付けるものであるということができる。(中里教授第2意見書(甲A全153)参照)

       

 

控訴人は,措置法41条の4の2は,専ら組合員の組合事業への関与の度合いに着目し,不動産所得を生ずべき任意組合等の事業に係る個人の組合員の組合損失を対象として,組合事業への関与の度合いが低い組合員については,出資の額を超える部分の損失のみならず,その出資の範囲内において負担する損失も含めて,これをないものとみなす措置を定めたものであり,有限責任の構成員についてその負担する責任(出資)の範囲を超えた部分を必要経費へ算入することは認められないという,所得税法の解釈から当然に認められる取扱いを前提としてもなお,当時顕在化していた「いわゆる航空機リースに関する任意組合の事業をはじめ,組合の事業から生ずる損失を利用して節税を図る動き」を防止するためには,無限責任を負う任意組合の組合員も含め,組合事業への関与の度合いが低い組合員については,当該特定組合員の出資の額を含めて損失をないものとみなす必要があるという政策的判断がされたことから設けられた規定であり,また,措置法27条の2は,それまで我が国には存在しなかった「組合員全員に有限責任制を付与し,経営(業務執行)への全員参加による共同事業性を確保するとともに,柔軟な損益分配を認める等の措置を講じる有限責任事業組合(いわゆる日本版LLP)制度」が創設されたことから,これに伴う「税制面の対応として」,平成17年度税制改正において,「適正な課税関係の構築の観点から新たに設けられた規定であり,いわゆる構成員課税とされる事業体において,有限責任の構成員と無限責任の構成員がいる場合には,有限責任の構成員が負担する責任(出資)の範囲を超えた損失は,無限責任の構成員が負担することとなるので,所得税法の解釈として,組合事業上の損失のうち出資の額を超えない部分のみが,当該有限責任組合員の所得の計算上,必要経費として認められることになるが,有限責任事業組合の場合は,構成員課税を適用しつつ,組合員の全員が有限責任とされていることから,組合員全員の出資を超えた損失が生じた場合における各組合員の必要経費への算入額や必要経費に算入されなかった組合損失額の翌年度以降の繰越し計算(調整出資金額の計算)などを具体的に明らかにする必要があったためこれらの点を措置したものであるから,上記アの控訴人の主張と何ら齟齬しない旨主張する。

     

 

しかし,上記所得税法37条1項の「別段の定め」あるいは同法69条1項に対する除外規定なくして,控訴人が主張するように有限責任であることを根拠として所得税法の明文に反する取扱いをすることはできないことは,上記アに述べたとおりであるから,控訴人の上記主張は当を得ないものである。

     

控訴人が引用する最高裁判所第二小法廷平成24年1月13日判決は,本件とは事案を異にするものであって,控訴人の主張は採用できない。

     

エ 以上のとおりであるから,結局,無限責任を負う構成員と有限責任を負う構成員が存在する事業体の場合,有限責任の構成員について無制限に必要経費を計上することは認められず,当該構成員に割り当てられた損失のうち,当該構成員の投下資本(出資額)を超える部分については,当該構成員の各種所得の金額の計算上収入から控除される必要経費に該当しない旨の控訴人の主張は理由がなく,被控訴人らについて有限責任であることを理由に必要経費に算入すべき金額が制限される理由はない。

       

したがって,本件各建物に係る収入金額及び必要経費として計上することのできる数額は,被控訴人らそれぞれが確定申告,修正申告又は更正の請求をした額である(上記「税額等に関する当事者の主張」(原判決引用))。」

 

3 以上によれば,AないしF各事件に対する原判決の判断は相当であり,本件控訴及び附帯控訴は理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

    名古屋高等裁判所民事第4部

        裁判長裁判官  渡辺修明

           裁判官  榊原信次

           裁判官  末吉幹和