租税回避と限定解釈(3)

 

 

 

 法人税更正処分取消請求事件、 最高裁判所第2小法廷判決/平成15年(行ヒ)第215号、判決 平成17年12月19日、最高裁判所民事判例集59巻10号2964頁について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 外国税額控除の余裕枠を利用して利益を得ようとする取引に基づいて生じた所得に対して課された外国法人税を法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの)69条の定める外国税額控除の対象とすることが許されないとされた事例

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。

 2 被上告人の請求をいずれも棄却する。

 3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       

 

 

理   由

 

 

 上告代理人都築弘ほかの上告受理申立て理由について

 1 本件は,銀行業を営む被上告人が,外国税額の控除について定める法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)69条の規定に基づく自己の外国税額控除の余裕枠を第三者に利用させ,その利用の対価を得ること等を目的として,外国において我が国との関係で二重課税を生じさせるような取引を行って外国法人税(外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を納付した上で,国内において納付すべき法人税の額から上記外国法人税の額を控除して申告をしたのに対し,上告人が上記控除は認められないとして法人税の更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたので,被上告人がこれを争っている事案である。

 

 

 2 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 

 (1)ニュージーランドで設立された法人であるA社は,投資家から集めた資金をクック諸島に持ち込んでニュージーランド・ドル建てユーロ債の購入に利用するに当たり,運用益に対して課される法人税を軽減するため,ニュージーランドより法人税率の低いクック諸島において,A社が全株式を保有する子会社であるB社を設立し,さらに,投資家からの投資に対してクック諸島において源泉税が課されることを回避するために,当該源泉税が課されないクック諸島法人で,A社がその株式の28%を保有するC社に当該資金をいったん取得させ,同社を経由して,B社においてこれを運用することとした。

 

 (2)この場合に,C社からB社に対して直接に資金を貸し付ける方法を採ったときは,クック諸島の税制によればB社からC社へ支払われる利息に対して15%の割合の源泉税が課されることになるため,被上告人とC社及びB社の間で,被上告人の外国税額控除の余裕枠を利用して上記源泉税の負担を軽減する目的で,平成元年3月31日付けで,次のような内容の各契約が締結され,これらが実行された(以下,この各契約に基づく取引を「本件取引」という。)。

 

 

 ア 本件ローン契約

 本件ローン契約は,被上告人がB社に対して年利10.85%で5000万米国ドルを貸し付けることを内容とする契約であり,同契約によれば,B社は,被上告人に対し,利息として,当該貸付金利息からクック諸島において課される15%の割合の源泉税額を控除して支払うこととされていた。

 

 

 イ 本件預金契約

 本件預金契約は,被上告人が本件ローン契約に基づきB社に供与する資金全額に相当する金員をC社から預金として預入れを受けること,被上告人のC社に対する預金元本の支払は,被上告人がB社から前記貸付金元本の弁済を受けた範囲においてのみ行うこと,被上告人がB社から前記貸付金利息(源泉税額控除後のもの)を受領した場合には,それに前記源泉税額を加算した金額から被上告人の取得する手数料を控除した金額を預金利息としてC社に支払うことを内容とするものである。

 

 

 (3)本件取引によって,C社はクック諸島における源泉税の支払を免れるという利益を得ることになり,他方,被上告人は,上記手数料を取得する一方,手数料を上回る額のクック諸島における源泉税を負担することとなり,取引自体によっては損失を生ずるが,我が国で外国税額控除を受けることによって最終的には利益を得ることができることになる。しかし,その結果,我が国において本来納付されるべき税額のうち上記外国税額控除の対象となるものは納付されないことになる。

 

 

 (4)被上告人は,本件ローン契約に基づきクック諸島において源泉税を納付したとして,上告人に対し,平成3年4月1日から同4年3月31日まで,同年4月1日から同5年3月31日まで,同年4月1日から同6年3月31日までの3事業年度の各所得に対する法人税の額からそれぞれ外国税額の控除をして申告をした。

 

 

 (5)これに対し,上告人は,上記3事業年度の各法人税につき,上記外国税額の控除は認められないとして,各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)を行った。

 

 

 

 3 原審は,上記事実関係等の下において,本件取引に係る外国法人税について法人税法69条が適用されるべきであると判断し,これに反する本件各処分は違法であるとして,被上告人の取消請求をいずれも認容した第1審判決に対する控訴を棄却した。原判決の理由の要旨は,次のとおりである。

 

 

 

 (1)本件取引の経済的目的は,C社及びB社にとっては,C社からB社へより低いコストで資金を移動させるため,被上告人を介することにより,その外国税額控除の余裕枠を利用してクック諸島における源泉税の負担を軽減することにあり,被上告人にとっては,外国税額控除の余裕枠を提供し,利得を得ることにあるのである。このような経済的目的に基づいて当事者の選択した法律関係が真実の法律関係ではないとして,本件取引を仮装行為であるということはできない。

 

 

 (2)被上告人は,金融機関の業務の一環として,B社への投資の総合的コストを低下させたいというC社の意図を認識した上で,自らの外国税額控除の余裕枠を利用して,よりコストの低い金融を提供し,その対価を得る取引を行ったものと解することができ,これが事業目的のない不自然な取引であると断ずることはできない。したがって,本件取引が外国税額控除の制度を濫用したものであるということはできない。

 

 

 4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 

 

(1)法人税法69条の定める外国税額控除の制度は,内国法人が外国法人税を納付することとなる場合に,一定の限度で,その外国法人税の額を我が国の法人税の額から控除するという制度である。これは,同一の所得に対する国際的二重課税を排斥し,かつ,事業活動に対する税制の中立性を確保しようとする政策目的に基づく制度である。

 

 

(2)ところが,本件取引は,全体としてみれば,本来は外国法人が負担すべき外国法人税について我が国の銀行である被上告人が対価を得て引き受け,その負担を自己の外国税額控除の余裕枠を利用して国内で納付すべき法人税額を減らすことによって免れ,最終的に利益を得ようとするものであるということができる。

 

 

 これは,我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様で利用して納税を免れ,

 

我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上,

 

この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が享受するために,

 

取引自体によっては外国法人税を負担すれば損失が生ずるだけであるという本件取引をあえて行うというものであって,

 

我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものというほかない。

 

そうすると,本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは,外国税額控除制度を濫用するものであり,さらには,税負担の公平を著しく害するものとして許されないというべきである。

 

 

5 以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の請求はいずれも理由がないから,第1審判決を取り消し,被上告人の請求をいずれも棄却することとする。

 

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官・今井 功,裁判官・滝井繁男,裁判官・津野 修,裁判官・中川了滋,裁判官・古田佑紀)