租税回避と限定解釈(2)

 

 

 

 

 

 法人税更正処分取消請求控訴事件、大阪高等裁判所判決/平成14年(行コ)第10号、判決  平成15年5月14日、税務訴訟資料253号順号9341について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 本件控訴を棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 控訴の趣旨

  1 原判決を取り消す。

  2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

 

 

 

第2 被控訴人の請求(原判決主文第1ないし第3項と同旨)

  1 控訴人が被控訴人に対して、平成7年6月22日付けでなした平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度の法人税の更正のうち、納付すべき税額につき181億3681万6400円を超える部分を取り消す。

  2 控訴人が被控訴人に対して、平成7年9月27日付けでなした平成4年4月1日から平成5年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし、平成8年4月30日付けの更正により減額された後の部分)のうち、納付すべき税額につき98億0905万6100円を超える部分を取り消す。

  3 控訴人が被控訴人に対して、平成7年9月27日付けでなした平成5年4月1日から平成6年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし、平成8年4月30日付けの更正により減額された後の部分)のうち、納付すべき税額につき156億9877万3700円を超える部分を取り消す。

第3 事案の概要及び当事者の主張

  以下のとおり訂正するほかは、原判決の「第2 事案の概要」から「第4 原告の主張」までの記載(2頁「第2」から135頁「第5」の上まで)を引用する。

  1 3頁第2の2本文6行目の「締結した」の次に「(以下、本件ローン契約及び本件預金契約を併せて「本件取引」ともいう。)」を加える。

  2 7頁7行目の「本件更正処分直前」を「本件平成4年3月期更正処分直前」と改める。

  3 8頁末行及び9頁(12)3行目の各「前記第の2の2の1」を「前記第2の2の1」と改める。

  4 10頁(3)本文4、5行目の「本件更正処分直前」を「本件平成5年3月期更正処分直前」と改める。

  5 17頁ア1行目の「BAMK」を「BANK」と、同8行目の「乙7ないし12」を「乙7ないし12の各1・2」と、同ウ1行目の「Clearring」を「Clearing」と改める。

  6 21頁ウ2行目の「第」を削除する。

  7 24頁ウ2行目の「及」を「及び」と改める。

  8 25頁7行目冒頭の「(1)」を削除する。

  9 26頁第3の1本文1行目冒頭に以下のとおり加える。

   「急速な国際化の進展とともに、国際的取引における租税回避行為はますます巧妙化してきている。租税回避行為は、①租税負担の公平の原則に反し、②国家財政に深刻な影響を与え、③適正な国際競争や国際資本の流れをゆがめることになり(国際競争力の阻害)、④特定の企業が国際的租税回避の利益を享受し他の者はこれを享受できないという不公平をもたらすことになる。さらに、国民に対する法律の権威を失墜させ、納税道義あるいは申告水準の低下をもたらすという弊害も生じるのであり、到底放置できない。国際的租税回避行為による課税逃れに対し、各国の裁判所はこれを許さないという姿勢を明確にしてきている。租税回避防止を図るのに事後的に新たな立法を行うことでは限界がある。その理由は、租税法規をどのように精密な形で制定しても、実態と形式の乖離を利用した課税逃れは可能であるし(欠陥のない租税法規は存在しない。)、立法はあくまでも事後的な解決に過ぎず、立法までの間に多額の租税収入が失われ、前記の弊害の大部分が生じてしまうからである。

    したがって、制度を濫用した租税の回避の事案においてこそ、具体的妥当性を確保するための司法の役割が重要であり、このような見地からの事実認定、法的解釈によって、一定の範囲において裁判所による正義が確保されることにこそ司法の存在意義がある。」

  10 38頁下から10行目の「税額控除」の前に「「」を、次行の「含めて)」の次に「」」を加える。

  11 55頁2の下から3行目の上に改行して以下のとおり加える。

   「そして、本件ローン契約によって被控訴人がB社から受け取った税引き後の利息のみならず被控訴人が外国税額控除として受ける利益も、直ちにC社に環流することになっているから、被控訴人には所得に対する課税の前提である利得が確保されていない。被控訴人が真実確保した利得は、外国税額控除の余裕枠を提供するという役務提供の対価(本件ローン契約と本件預金契約の結果生ずる収支差益の形式で現れている。)であって、利子所得ではない。」

  12 57頁(2)本文8行目の「外国税額の特典」を「外国税額控除の特典」と改める。

  13 60頁下から7行目の上に改行して以下のとおり加える。

   「本件取引は、故意に我国との関係で二重課税を生じさせて、これによって利益を得ることを意図してなされた取引であった。すなわち、本件取引は、結果として損失が生じたのではなく、初めから損失を予定し、外国税額控除枠が利用できる場合にのみ、わずかな利得が出る仕組みになっており、被控訴人の事業目的は、外国税額控除枠を利用してその対価を得ること以外におよそないか、それ以外の事業目的があっても極めて限局されたものであった。」

  14 60頁下から5、4行目の「認めることなり、」を「認めることとなり、」と改める。

  15 69頁末行の(4)の上に改行して以下のとおり加える。

   「ところで、納税者に、外国税額控除枠を利用してその対価を得ること以外におよそ事業目的がない場合やそれ以外の事業目的が極めて限局されたものである場合は、納税者が制度趣旨に反して法69条を濫用した場合にほかならず、その適用を認めるべきでない。被控訴人の事業目的は、外国税額控除の余裕枠を利用してその対価を得ること以外にないのであるから、まさに法69条を濫用した場合に該当しているものである。」

  16 70頁4行目の冒頭に「(1)」を加え、同頁第3の4の上に改行して以下のとおり加える。

   「(2)平成13年に法人税法が改正され、法69条1項の「納付することとなる場合」につき、かっこ書きで「内国法人が通常行われる取引と認められないものとして政令で定める取引に基因して生じた所得に対する外国法人税を納付することとなる場合を除く。」が加えられ、施行令141条4項で、法69条1項に規定する政令で定める取引は「内国法人が、当該内国法人が借入れをしている者と第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある者に対し、当該借り入れられた金銭の額に相当する金銭を貸し付ける取引(当該貸付けに係る利率その他の条件が、当該借入れに係る利率その他の条件に比し特に有利な条件であると認められる場合に限る。)とする。」と規定された。

    この改正の趣旨は、外国法人税に該当する税の納付がある場合において、税の納付の基因となった所得の発生原因(すなわち、経済的取引)を考察したとき、取引の経済合理性と外国税額控除のもたらす恩典(法人税の節約)を比較考量すると、後者に著しく比重がおかれたものが出現していること、すなわち、本件及びその類似事案を前提にして、このような正常でないと認められる取引を例示し、そのような取引については適用を除外することとしたものであるから、法69条の立法趣旨を著しく逸脱した濫用事案については、限定解釈によって同条の適用はなされないというべきである。

    前記の改正は、より確実に本件及びその類似事案を防止しようとしてなされたものであるが、被控訴人の主張するように、本件取引が不自然なものではなく「通常行われる取引」であると評価できるなら、改正後においても本件取引について外国税額控除を受けられることになり、立法者の意思に明らかに反することになる。

  (3) 本件取引は、外国税額控除制度の濫用事案であるから、法69条の適用は否定されるべきである。

    被控訴人は、もともとは、B社とC社の取引に関係がなかったが、外国のアレンジャーを通じて、外国税額控除枠を提供してその対価を得るためだけに本件取引に介在することになったものであることから、本件取引は故意に二重課税を生じさせたものであると評価されるべきである。本件取引は、本来は経費の控除が可能であるのに、ことさら多額の外国税の納税をしなければならない形式をとって、外国企業の支払うべき税金を肩代わりしてその対価を得ることが意図されている。すなわち、わざわざ債務者所在地国の国外の支店を利用することによって、収入と経費を分断し、経費の控除ができない取引が仕組まれている。また、本件取引は、全てが同一国内で行われれば、外国税額控除枠の提供はごく少額しか生じなかった。クック諸島の税制上、邦銀クック諸島支店で本件ローン契約と同様の取引をすれば、源泉税は5パーセントしかかからないのに、本件では、わざわざB社(債務者)のあるクック諸島国外にある被控訴人(債権者)の支店を通じて取引を行って、本件ローン契約の利息にかかる源泉税が15パーセントとなるようにして、多額の外国税額を発生させた。そして、同時に、被控訴人(債権者)がC社に支払う預金契約の利子等については源泉税のかからないように、被控訴人シンガポール支店が選択されているのである。

    本件ローン契約においては、被控訴人が税務当局により「否認判断がなされる場合には、債権譲渡を行い、その限度で契約関係からの離脱が可能である」ことを契約条項に盛り込んでいることなどからみても、被控訴人自身は本件取引において法69条の適用が否定される可能性を知りながら敢えて本件取引に参加したものと認められるから、被控訴人において否認されることの予測可能性がないなどとはいえない。したがって、本件取引に法69条の適用を否定したからといって、なんら法的安定性は害されない。」

  17 72頁(5)4行目の「本件処分」を「本件各更正処分」と改める。

  18 81頁2行目の次に改行して以下のとおり加える。

   「B社らは、被控訴人シンガポール支店に預金担保貸付を申し込むことによって、シンガポールオフショア市場の選択(預金利息に源泉税が課されない法制の選択)をなしたが、預金場所の選択は預金者の自由である。被控訴人は、預金担保貸付の採算について、B社から受領する貸付利息に課される源泉税について外国税額控除を受けることを前提に検討した結果、0.35パーセントの利ざやを獲得できると判断して本件取引に参加した。かかる行為は、被控訴人の本来の業務である預金及びローン契約の締結によって利ざやを獲得するものであり、その際に被控訴人が外国税額控除の余裕枠を自らの事業活動上の能力・資源として利用したものにほかならない。仮に被控訴人に外国税額控除の余裕枠がなければ、上記と同じ条件では採算がとれないとして、もっと利ざやの幅を拡大させるか、本件取引に参加しないとの選択をすることになったのであって、このような選択の自由が被控訴人にあることは明らかである。

    前記のような租税負担を意識した行動は、経済的に合理的な行動であって、租税法規の予想していることである。預金契約及びローン契約(預金担保契約)といった取引の法形式の選択は、私的自治ないし契約自由の原則により当然許容される。

    なお、B社やC社は、被控訴人が外国税額控除の適用を受ける場合には、そうでない場合よりもコストの低い金融を受けることが可能となる。このようなコストの低い金融を受けることができる金融機関を取引相手として選択することは、合理的経済人の選択として至極当然である。」

  19 81頁ア本文2、3行目及び13行目の「5000USドル」をいずれも「5000万USドル」と改める。

  20 82頁下から8行目の「価値の移動(USドル)」を「価値(USドル)の移動」と改める。

  21 84頁下から3行目の「5000USドル」を「5000万USドル」と改める。

  22 85頁4行目の「できるところところ」を「できるところ」と、同頁13行目の「目的が」を「目的で」と改める。

  23 92頁下から2行目の「クック源泉税」を「クック諸島源泉税」と改める。

  24 94頁9、10行目の「補償要求」を「補償を要求」と改める。

  25 100頁3行目及び104頁ア1行目の各「原告ら」を「被控訴人」と改める。

  26 110頁1行目の「1行目」を「1行目以下」と改める。

  27 115頁b本文2行目の「10パーセントで」を「10パーセント」と改める。

  28 117頁4の上に改行して以下のとおり加える。

   「本件における真実の法律関係は、被控訴人の本来の業務であるC社からの預金とB社への貸付けであって、この貸付利息に高率の源泉税が課されたために被控訴人はこの源泉税について外国税額控除の適用を受けた。この外国税額控除枠は本件取引を含む被控訴人の国外所得から生じたものであり、被控訴人が本件の源泉税を控除したことにより、まさに彼此流用の問題が生じた。被控訴人の外国税額控除枠をC社に利用させることは、法律上も制度上も不可能であって、本件取引が同一法人内の彼此流用の事案でないということは間違いである。」

  29 126頁6行目の冒頭に(ア)を加え、同頁(5)本文2行目の次に改行して以下のとおり加える。

   「法69条には、以下に述べるとおり限定解釈の余地はない。

    平成13年改正によって法69条1項に適用除外規定が新設された。通常行われる取引とは認められない一定の取引に基因して生じた所得に対する外国法人税を納付することとなる場合には、外国税額控除の対象から除くこととされた(法69条1項、施行令141条4項)。そして、これらの規定は、平成13年4月1日以後に行う取引に基因して外国法人税を納付する場合について適用される(改正法附則6条、8条)こととされた。このように、改正法附則によって、平成13年3月31日以前の取引については、かかる適用除外規定の適用がないことが明文をもって明らかにされていることからすれば、新設された規定は創設的なものであることが明らかである。さらに、平成14年改正においで、施行令141条4項が改正され、法69条1項の適用が除外される取引の範囲が拡大された。そして、この規定も施行日(平成14年4月1日)以後に行う取引に基因して生ずる所得に対する外国法人税を納付することとなる場合について適用すると規定されている(改正令附則8条)。このような法69条及び関連規定の改正の経緯に鑑みれば、法69条の適用の可否の判断は同条の限定解釈によって行うべきではなく、同条の適用を除外すべき場合があれば、これを立法をもって解決すべしとの結論が導かれることは自ずと明らかである。

    したがって、法69条の「納付することとなる場合」について、限定解釈の余地はない。」

  30 126頁第4の4の上に行を改めて以下のとおり加える。

   「(イ) 本件取引は濫用事案であるとの控訴人の主張について

    控訴人は、本件取引が「故意に二重課税を生じさせる取引」であるというが、「故意に二重課税を生じさせる取引」はどのような要件を具備すれば該当するのか不明であるし、「故意」といった当事者の主観を問題とする限り、控訴人の恣意的判断によって法69条の適用の可否が決まることになるから法的安定性及び予測可能性の確保といった租税法律主義の趣旨に反することは明白である。

    C社らは、効率的な資金運用の観点から、租税を考慮して本件取引を選択したのであって、経済的に合理的な当然の行動である。被控訴人は、本件取引が利ざやの獲得といった典型的な事業目的に合致したから、本件取引に参加したのであって、被控訴人にとって、本件ローン契約も本件預金契約も、いずれも通常の取引である。取引の採算はキャッシュベースで判断するものではない。

    C社らがいかにして資金の調達や運用を行うかは同社らの選択の自由であり、資金仲介機能を有する被控訴人は、預金、貸金という典型的な本来業務を顧客の需要に基づいて行ったのであるから、被控訴人が、控訴人から本件取引に参加したことを論難されるいわれはない。

    また、クック諸島には被控訴人の支店はないから、B社が被控訴人のクック諸島支店で貸付けを受けることはもともと不可能であった。

    源泉税は、所得ではなく収入金額を課税標準とするため、経費を控除する余地はない。また、国外の法人に対して融資する場合には、収入と経費が分断されることは必ず起こるのであって、本件に特有の問題ではない。海外業務を行うに際して、どの国の企業と取引するか、どの支店で取り扱うか、いかなる準拠法を選択するか等については、全て当事者の自由な選択に委ねられている。

    被控訴人が、法69条の適用を否定される可能性があることを知りつつ敢えて本件取引を実行したとしても、そのことによって、租税法律主義における予測可能性について配慮しなくてよいことにはならない。予測可能性の確保は、個別的具体的事案における当事者の予測を基準に判断するものではなく、一般的に要求されるものであるからである。そもそも、本件取引における被控訴人の利ざやの獲得には、外国税額控除が適用されることが不可欠であるから、その適用がされない場合には取引を解消できるとの約定をすることはなんら不合理ではないし、これをもって、法69条の適用がないことを予測していたとはいえない。」

  31 128頁9行目の「補償規程」を「補償規定」と、同頁下から11行目の「提供」を「適用」と、同頁下から8行目の「錯誤主張」を「錯誤無効の主張」と改める。

  32 135頁2行目の「問題とは、別に」を「間題とは別に、」と改める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 当裁判所の判断

  以下のとおり訂正するほかは、原判決の「第5 当裁判所の判断」の記載を引用する。

  1 137頁(1)8行目の「即した」を「則した」と改める。

  2 139頁(2)本文7行目の冒頭に「前記内諾申請書(乙4)」には、」を加える。

  3 141頁下から9行目の「微する」を「徴する」と改める。

  4 143頁下から10行目末尾の「。」の前に「と規定する」を加える。

  5 148頁下から12行目の「しかしながら、」の次に以下のとおり加える。

   「上記①あるいは②の内容の合意だけを現実に行ったとしても、B社やC社は外国法人であるから、外国税額控除の利益を直接受けることはできないのであって、なんらかの法律関係を選択しなければ、合意の内容どおりの法的効果を実現することはそもそも不可能である。」

  6 149頁11行目(第5の2の1 総論)を削除する。

  7 151頁11行目の「行われきた」を「行われてきた」と改める。

  8 155頁3の上に改行して以下のとおり加える。

   「この規定は、平成13年4月1日以後に行う取引に基因して生ずる所得に対する外国法人税を納付することとなる場合について適用される(法附則6条。以下「第1経過規定」という。)。

   (4) 平成14年改正

     平成14年政令第104号による改正により施行令141条4項が改正され、法69条1項に規定する政令で定める取引(同条項の規定の適用が除外される取引)は、「次に掲げる取引」と改められ、その取引として、

   「一 内国法人が、当該内国法人が金銭の借入れをしている者又は預入を受けている者と特殊の関係のある者に対し、その借り入れられ、又は預入を受けた金銭の額に相当する額の金銭の貸付けをする取引(当該貸付けに係る利率その他の条件が、その借入れ又は預入に係る利率その他の条件に比し、特に有利な条件であると認められる場合に限る。)

    二 貸付債権その他これに類する債権を譲り受けた内国法人が、当該債権に係る債務者(当該内国法人に対し当該債権を譲渡した者(以下この号において「譲渡者」という。)と特殊の関係のある者に限る。)から当該債権に係る利子の支払を受ける取引(当該内国法人が、譲渡者に対し、当該債権から生ずる利子の額のうち譲渡者が当該債権を所有していた期間に対応する部分の金額を支払う場合において、その支払う金額が、次に掲げる額の合計額に相当する額であるときに限る。)(後略)」

     が加えられ、さらに、同条5項が新設され、前項に規定する「特殊の関係のある者」とは、「次に掲げる者」をいうとし、その者として、

   「一 第4条(同族関係者の範囲)に規定する個人又は法人」のほかに

   「二 次に掲げる事実その他これに類する事実が存在することにより二の者のいずれか一方の者が他方の者の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係のある者

     イ (省略)

     ロ 当該他方の者がその事業活動の相当部分を当該一方の者との取引に依存して行っていること。

     ハ 当該他方の者がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該一方の者からの借入れにより、又は当該一方の者の保証を受けて調達していること。

    三(省略)」

     が加えられて、その範囲が拡大された。

      この規定についても、施行日(平成14年4月1日)以後に行う取引に基因して生ずる所得に対する外国法人税を納付することとなる場合について適用し、それ以前の取引に基因する場合は従前の例によるものとされた(施行令附則8条。以下「第2経過規定」という。)。」

  9 156頁(3)2行目の「当事者の」から3行目末尾までを以下のとおり改める。

   「当事者の経済的目的は、被控訴人が有している外国税額控除枠利用の利益を外国法人に得させることにあり、結果としてもその目的を達成しているのであるから、別途の考察が必要である。」

  10 156頁下から3行目の「一定後退」を「一定程度後退」と改める。

  11 159頁1行目から8行目まで及び同頁下から4行目の「そして」から同頁下から2行目末尾までを削除する。

  12 159頁5本文8行目の次に改行して以下のとおり加える。

   「控訴人は、限定解釈の判断基準である「事業目的」については、被控訴人に関して検討すべきであって、C社やB社の事業目的は関係がないと主張する。しかしながら、顧客に利益のある金融を提供することなく自己一人の租税回避のために顧客を利用するだけであれば、金融機関として正当な事業目的があるとはいえないが、顧客にその要望に応じた金融を提供して利ざやも獲得できるのであれば、金融機関としての事業目的に沿うともいえるのであるから、顧客の取引についての目的や利益を検討することなく、金融機関の目的の有無を判断することはできない。

    また、控訴人は、本件取引の目的ではなくて、本件取引参加の目的が正当であるかが問題であると主張するが、そのような区別をすることは困難である。」

 

 

 

 

 

  13 160頁6の上6行目の「ところで」から同6の上の行までを以下のとおり改める。

 

 

   「もっとも、本件において、貸付利息と預金利息だけを比較するのではなく、貸付利息の収入に課税される源泉税額をも考慮して預金利息と比較すると、逆ざやとなるが、これだけから本件取引が採算のとれない不自然な取引であるとみることは相当でない(仮に前記のような逆ざやを解消しようとすると、預金利率10.5パーセントの場合、最低でも12.7パーセント強の貸付利率で貸付けを行う必要がある。この場合、利ざやは2.2パーセント強となり被控訴人の国際業務部門における平均的利ざや〈0.37ないし0.59パーセント程度〉を大きく上回ってしまうところ、このような利ざやを確保した預金担保貸付は皆無である。以上の点は弁論の全趣旨によって認められる。)。本件取引の採算があるかどうか、被控訴人に事業目的があるかどうかは、前記の点のみでなく、外国税額控除枠の利用、C社らへの金融サービスの提供及び取引参加料の点等をも併せて検討すべきである。

 

 

前記認定の本件事実によれば、本件取引は、資金仲介機能を有する被控訴人が、顧客に対し金融サービスを提供すべく融資のための資金調達と調達した資金の運用をして自らも利ざやを確保するために外国税額控除枠の利用をも踏まえて検討のうえ実施したものであり、

 

金融機関として採算のとれるものであって、被控訴人に事業目的が認められるものである。本件において、外国税額控除枠を利用する以外におよそ事業目的がないとか、それ以外の事業目的が極めて限局されたものであるということはできない。

 

    ところで、控訴人は、租税回避行為に加担した場合の報酬の取得をもって事業目的とすることはできないと主張するが、前記事実関係に照らせば、被控訴人が本件取引により取得する利ざやは、貸付利息と預金利息の差額であるとみることができるのであって、租税回避行為に加担したことによる報酬であると決めつけることはできない。

 

 

    また、控訴人は、本件取引は、被控訴人が故意に二重課税を生じさせたものであり、法69条の適用が否定される可能性も被控訴人は知っていたものであって、外国税額控除制度の濫用事案であるから、同条の適用は否定されるべきである旨の主張をする。

 

 

そこで、検討するのに、被控訴人が自らの金融機関としての業務の一環として自らの外国税額控除枠を利用してコストを下げた融資を行ったこと、本件取引は事業目的のない不自然な取引ではなく銀行として事業目的のある取引であることは前記のとおりである。

 

 

しかるところ、前記認定の本件事実関係のもとにおいては、被控訴人が二重課税を生じさせたとの面はあるものの本件取引が外国税額控除の制度を濫用したとまでいうことはできない。

 

そして、本件取引は外国税額控除枠の利用を前提として採算が検討された取引である以上、外国税額控除枠の利用ができなくなった場合に被控訴人において取引を中止することができる権利を留保することは合理的なものということができるから、この点をとらえて、本件取引が外国税額控除のみを目的とした取引であると断定することはできない。

 

したがって、本件取引が外国税額控除制度の濫用であるから法69条の適用を否定すべしとする控訴人の主張は、採用することができない。

 

 

 

  14 160頁第5の3の上に改行して以下のとおり加える。

 

 

   「7 平成13年及び同14年の法69条及び関連法規の改正との関係について

    前記のとおりの改正に伴う第1、第2の経過規定は、施行令141条4項に掲げられた取引に該当する取引について、改正後は法69条が適用されないことを明文をもって明らかにしたものということができる。

 

 

したがって、平成13年の改正法及び改正施行令で適用を否定された取引は、改正後に法69条の適用がはじめて除外されることになったというべきである。

 

 

「このような取引は、改正以前からも限定解釈によって適用を否定することができたが、改正でこのような限定解釈を確認的に明らかにしたにすぎない」と解することは、新規定の適用される取引を平成13年4月1日以後のものとした第1経過規定の明文に反する解釈といわざるを得ない。

 

 

また、法69条の適用が否定される取引が追加された平成14年改正においても、新規定の適用される取引を施行日以後のものとした第2経過規定がおかれたことからみて、

 

平成13年改正で規定され平成14年改正でさらに追加して掲げられた取引は、

 

法69条にいう「通常行われる取引と認められないもの」の単なる例示であると解することは相当でない。

 

そうとすれば、明文で掲げられた取引以外にも「通常行われる取引と認められないもの」があるとしても、これについて、適用を除外することができると解することは、前記の税額控除枠の利用以外におよそ事業目的がないような場合等を除き困難といわざるを得ない。

 

 

 

    本件取引は、平成14年改正後の施行令141条4項の「次に掲げる取引」のうち

 

 

「一 内国法人が、当該内国法人が金銭の借入れをしている者又は預入を受けている者と特殊の関係のある者に対し、その借り入れられ、又は預入を受けた金銭の額に相当する額の金銭の貸付けをする取引

 

(当該貸付けに係る利率その他の条件が、その借入れ又は預入に係る利率その他の条件に比し、特に有利な条件であると認められる場合に限る。)」に、

 

まさに該当するものといえる

 

(平成13年改正のもとでは、B社とC社との関係が、施行令141条4項に規定する「特殊の関係のある者」といえるか必ずしも明らかとはいえないので、適用を除外される取引であるとは断定し難いが、

 

平成14年改正において「特殊の関係のある者」について範囲が広げられたので、本件におけるB社とC社との関係がこれに該当するということができる。)。

 

 

    以上によれば、前記のとおりの経過規定からみても、平成13年3月31日以前の取引であることが明白な本件取引は、改正前の法69条の適用が除外されるものではなく、本件源泉税については同条1項が適用されるべきである。」

 

 

  15 161頁(5)1行目の「656億」を「655億」と改める。

  16 164頁第5の3の3の1行目の「更正処分について」を削除する。

 

 

第5 結論

 

  以上の次第で、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。

  よって、本件控訴を棄卸することとし、主文のとおり判決する。

 

 

    大阪高等裁判所第7民事部

        裁判長裁判官  中田昭孝

           裁判官  竹中邦夫

           裁判官  稻葉重子