租税回避と限定解釈(1)

 

 

 

 

 法人税更正処分取消請求事件、大阪地方裁判所判決/平成9年(行ウ)第77号、平成9年(行ウ)第78号、平成9年(行ウ)第79号、判決 平成13年12月14日、最高裁判所民事判例集59巻10号2993頁について検討します。

 

 

 

【判示事項】 銀行の法人税につき,法人税更正処分の取消請求を認めた事例

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

1 被告が原告に対して,平成7年6月22日付けでなした平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度の法人税の更正のうち,納付すべき税額につき181億3681万6400円を超える部分を取り消す。

 

2 被告が原告に対して,平成7年9月27日付けでなした平成4年4月1日から平成5年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし,平成8年4月30日付けの更正により減額された後の部分)のうち,納付すべき税額につき98億0905万6100円を超える部分を取り消す。

 

3 被告が原告に対して,平成7年9月27日付けでなした平成5年4月1日から平成6年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし,平成8年4月30日付けの更正により減額された後の部分)のうち,納付すべき税額につき156億9877万3700円を超える部分を取り消す。

 4 訴訟費用は被告の負担とする。

 

       

 

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

 主文同旨

 

第2 事案の概要

第2の1 課税の経緯(争いのない事実)

1 原告は,銀行業を営む法人であるところ,平成3年4月1日から平成4年3月31日まで,平成4年4月1日から平成5年3月31日まで,平成5年4月1日から平成6年3月31日までの各事業年度(以下,順次「平成4年3月期」,「平成5年3月期」,「平成6年3月期」といい,併せて「本件各事業年度」という)の法人税につき,青色の確定申告書に,別紙1「平成4年3月期の課税状況表」(以下単に「別紙1」という。),別紙2「平成5年3月期の課税状況表」(以下単に「別紙2」という。),別紙3「平成6年3月期の課税状況表」(以下単に「別紙3」という。)の各「(1)確定申告」欄記載のとおり記載して,各法定申告期限までに被告に申告した。

2 これに対し,被告は,平成4年3月期については,平成7年6月22日付けで,別紙1「(4)本件原処分」欄記載のとおり,平成5年3月期については,平成7年9月27日付けで,別紙2「(3)本件原処分」欄記載のとおり,平成6年3月期については,平成7年9月27日付けで,別紙3「(2)本件原処分」欄記載のとおり,同法人税につき各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行った(以下,上記各更正処分をそれぞれ,「本件平成4年3月期更正処分」「本件平成5年3月期更正処分」「本件平成6年3月期更正処分」といい,併せて「本件各更正処分」という。)。

3 原告は,前項の各処分のうち,本件各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分の一部につき取消を求める審査請求を国税不服審判所長に対し行ったが,同所長は平成9年6月18日同審査請求を棄却する旨裁決し,同裁決は同月20日ころに原告に送達された。

4 なお,平成5年3月期,平成6年3月期については,別紙2「(5)更正処分」,「(6)更正処分」欄,別紙3「(4)更正処分」,「(5)更正処分」欄記載のとおり,平成8年3月29日付け,同年4月30日付けで減額更正処分がなされている。

5 そこで,本件において,原告は,前記第1請求記載の範囲での本件各更正処分の取消を求めている。

 

 

 

第2の2 争点

 原告のシンガポール支店は,クック諸島法人First Capital BankLtd.(以下「ファースト社」という。)との間で平成元年3月31日付けの「DEED OF AGREEMENT」(以下「本件ローン契約」という。)を締結し,またクック諸島法人European Pacific Banking Corporation(以下「ユーロピアン社」という。)との間で平成元年3月31日付けの「NONRECOURSE FUNDING AGREEMENT」(以下「本件預金契約」という。)を締結した。そして,原告は,本件ローン契約に基づきファースト社から受領した貸付金利息に対して,クック諸島国により課された租税(以下クック諸島国により貸付金利息に対して課された同租税を一般に「クック諸島源泉税」といい,本件で税額控除の対象とされたクック諸島源泉税を「本件源泉税」という。)が外国法人税額の控除について規定する法人税法(以下「法」という。)69条(平成13年法律第6号による改正前のもの特に断りのない限り以下同じ。)に定める外国法人税であるとして,それぞれ本件源泉税に相当する下記の金額につき同条を適用して申告した。

         記

平成4年3月期  金1億1010万9469円

平成5年3月期    金9584万3322円

平成6年3月期    金4565万0475円

 しかるところ,被告は,これを否認し,以下の内容の本件各更正処分を行った。

 本件における争点は,同否認を前提とする本件各更正処分の違法性である。なお,以下,特に断らない部分は当事者間に争いがない。

 

 

第2の2の1 本件平成4年3月期更正処分について

1 所得金額の計算について

(1)平成6年6月30日付け更正処分による所得金額

             655億4358万0847円

(2)租税公課のうち損金の額に算入されない金額

               1億1010万9469円

 原告は,当期の確定申告において,クック諸島源泉税1億1010万9469円を負担したとして,当期の損金の額に算入している。

 しかしながら,被告は,同クック諸島源泉税が,法69条の外国法人税に該当せず,当期の損金の額に算入できないとして,これを加算した。

(3)損金の額に算入した控除対象外消費税額の減少額

                  958万8248円

(4)繰延消費税額の損金算入限度超過額の増加額

                    7万7878円

 法人税額から控除する外国法人税額の損金不算入額の過大額

               1億1010万9469円

 原告は,前記(2)のとおり,クック諸島源泉税を損金の額に算入し,更に,法69条に基づき,同クック諸島源泉税について外国税額控除を適用し,そのため法41条に基づき,同クック諸島源泉税を損金不算入額として,申告調整により加算していた。

 しかしながら,被告は,前記(2)のとおり,同クック諸島源泉税が,法69条の外国法人税に該当しないとして,これを減算した(別紙1欄外(減算内訳)の「法人税額から控除する外国法人税額の損金不算入額の過大額」)。

(6)受取利息のうち当期利益から減算する金額

                 2367万9458円

 原告は,本件ローン契約及び本件預金契約に基づき,ファースト社から受け取った貸付金利息7億3406万3130円を当期の受取利息として計上するとともに,ユーロピアン社に支払った預金利息7億1038万3672円を当期の支払利息として計上していた。

 しかしながら,被告は,前記各契約が,ユーロピアン社が負担すべきクック諸島源泉税を原告が負担したかのようにするために,仮装して作出されたものであって,同各契約に基づく取引は存在しないものであるとして,前述した貸付金利息を当期利益から減算するとともに,支払利息を損金の額に算入せず,差引2367万9458円を当期利益から減算した(別紙1欄外(減算内訳)の「受取利息のうち当期利益から減算する金額」)。

    (減算額)       (加算額)       (差引減算額)

(算式)734,063,130-710,383,672=23,679,458円

(7)貸倒引当金の戻入益のうち当期利益から減算する金額

                   73万7401円

 被告は,前記(6)の理由により,当該貸付金に係る貸倒引当金の戻入益2070万1345円を当期利益から減算するとともに,繰入損1996万3944円を損金に算入しない結果,差引73万7401円を当期利益から減算した(別紙1欄外(減算内訳)の「貸倒引当金の戻入益のうち当期利益から減算する金額」)。

    (減算額)      (加算額)      (差引減算額)

(算式)20,701,345-19,963,944=737,401円

(8)交際費等の損金不算入額の過大額    7813円

(9)所得金額      655億2882万2301円

 被告は,前記(1)の平成6年6月30日付け更正処分による所得金額655億4358万0847円に,前記(2)ないし(4)の合計額1億1977万5595円を加算し,前記(5)ないし(8)の合計額1億3453万4141円を減算した金額,すなわち,655億2882万2301円を調査後の所得金額とした(別紙1「(4)本件原処分平成7年6月22日」欄の「所得金額」欄)。

2 法人税額について

(1)所得金額に対する法人税額

             245億7330万8250円

 被告は,原告の当期の所得金額が,前記1(9)のとおりであるとして,国税通則法118条《国税の課税標準の端数計算等》1項の規定により1000円未満の端数金額を切り捨てた金額655億2882万2000円に法66条《各事業年度の所得に対する法人税率》1項に規定する税率を乗じて計算し,前記所得金額に対する法人税額を,245億7330万8250円とした(別紙1「④本件原処分平成7年6月22日」欄の「差引法人税額」欄)。

(2)控除税額       63億3765万3099円

 被告は,前記1(5)に記載した理由により,控除対象外国法人税額が1億1010万9469円減少し,また,国外所得の金額の計算にも誤りがあったとして,正当額に基づいて法人税額から控除する外国税額を再計算し,法人税額から控除する外国税額を10億6303万0106円減少したとして,本件更正処分直前の原告の控除税額74億0068万3205円から,法人税額から控除する外国税額の減少額10億6303万0106円を差し引いた63億3765万3099円を,原告の当期の控除税額とした(別紙1「④本件原処分平成7年6月22日」欄の「控除税額」欄)。

(3)差引合計法人税額  182億3565万5100円

 同税額は,前記(1)の所得金額に対する法人税額245億7330万8250円から,前記(2)の控除税額63億3765万3099円を減算した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である(別紙1「④本件原処分平成7年6月22日」欄の「差引合計税額」欄)。

 

 

第2の2の2 本件平成5年3月期更正処分について

1 所得金額の計算について

(1)平成6年6月30日付け更正処分による所得金額

             449億1026万5942円

(2)雑収入の計上漏れ    1億2613万5035円

(3)特定外国子会社等の課税対象留保金額

                 3441万4189円

(4)雑損のうち損金の額に算入されない金額

                 8907万7381円

(5)損金の額に算入した控除対象外消費税額の減少額

                 4036万4949円

(6)交際費等の損金不算入額      6万3210円

(7)租税公課のうち損金の額に算入されない金額

                 9584万3322円

 原告は,当期の確定申告において,クック諸島源泉税9584万3322円を負担したとして,当期の損金の額に算入している。

 しかしながら,被告は,同クック諸島源泉税が,法69条の外国法人税に該当せず,当期の損金の額に算入できないとして,これを加算した(別紙2欄外(加算内訳)の「租税公課のうち損金の額に算入されない金額」)。

(8)貸倒引当金の繰入限度超過額 1742万4958円

 被告は,原告が,法人税確定申告書に添付した貸倒引当金の損金算入に関する明細書の「期末貸金額」から,前記第2の2の1,1(6)の理由によりファースト社に対する期末貸金額5000万USドル(69億0044万8500円)を控除して貸倒引当金の繰入限度額を再計算し,更に1742万4958円が繰入限度超過額となることから,これを加算した(別紙2欄外(加算内訳)の「貸倒引当金の繰入限度超過額」)。

(9)繰延消費税額の損金算入限度超過額の減少額

                   54万2919円

(10)法人税額から控除する外国法人税額の損金不算入額の過大額

                 9584万3322円

 被告は,前記(7)に記載した理由により,控除対象外国法人税を9584万3322円減少させた(別紙2欄外(減算内訳)の「法人税額から控除する外国法人税額の損金不算入額の過大額」)。

(11)受取利息のうち当期利益から減算する金額

                 2061万1468円

 被告は,前記第の2の2の1,1(6)に記載した理由により,当該貸付金に係る受取利息6億3895万5480円を当期利益から減算するとともに,当該定期預金の支払利息6億1834万4012円を損金の額に算入しない結果,差引2061万1468円を当期利益から減算した(別紙2欄外(減算内訳)の「受取利息のうち当期利益から減算する金額」)。

    (減算額)       (加算額)       (差引減算額)

(算式)638,955,480-618,344,012=20,611,468円

(12)貸倒引当金の戻入益のうち当期利益から減算する金額

                 1996万3944円

 被告は,前記第の2の2の1,1(6)に記載した理由により,当該貸付金に係る貸倒引当金の戻入益1996万3944円を当期利益から減算した(別紙2欄外(減算内訳)の「貸倒引当金の戻入益のうち当期利益から減算する金額」)。

(13)所得金額     451億7662万7333円

 被告は,前記(1)の平成6年6月30日付け更正処分による所得金額449億1026万5942円に,前記(2)ないし(8)の合計額4億0332万3044円を加算し,前記(9)ないし(12)の合計額1億3696万1653円を減算した金額,すなわち,451億7662万7333円を調査後の所得金額とした(別紙2「③本件原処分平成7年9月27日」欄の「所得金額」欄)。

2 法人税額について

(1)所得金額に対する法人税額

             169億4123万5125円

 被告は,原告の当期の所得金額が前記1(13)のとおりであるとして,国税通則法118条《国税の課税標準の端数計算等》1項の規定により1000円未満の端数金額を切り捨てた金額451億7662万7000円に法66条《各事業年度の所得に対する法人税率》1項に規定する税率を乗じて計し,同所得金額に対する法人税額を,169億4123万5125円とした(別紙2「(3)本件原処分平成7年9月27日」欄の「差引法人税額」欄)。

(2)課税土地譲渡利益金額に対する税額

                 5936万2900円

(3)控除税額       70億8162万2131円

 被告は,前記1(10)に記載した理由により,控除対象外国法人税額が9584万3322円減少し,また,国外所得の金額の計算にも誤りがあったとして,正当額に基づいて法人税額から控除する外国税額を再計算し,法人税額から控除する外国税額が2823万5417円増加したとして,本件更正処分直前の原告の控除税額70億5338万6714円に法人税額から控除する外国税額の増加額2823万5417円を加算した70億8162万2131円を,原告の当期の控除税額とした(別紙2「③本件原処分平成7年9月27日」欄の「控除税額」)。

(4)差引合計法人税額   99億1897万5800円

 同税額は,前記(1)の所得金額に対する法人税額169億4123万5125円に前記(2)の課税土地譲渡利益金額に対する税額5936万2900円を加算し,前記(3)の控除税額70億8162万2131円を差し引いた金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である(別紙2「③本件原処分平成7年9月27日」欄の「差引合計税額」欄)。

(5)再更正処分

 なお,平成8年3月29日付け更正処分で加算された「特定外国子会社等にかかる課税対象留保金額」3092万2141円,平成8年3月29日付け更正処分で減算された「税額控除の対象とした外国法人税額の損金不算入額」9029万2180円,及び平成8年4月30日「繰延消費税の損金算入限度超過額の過大額」131万7092円については当事者間に争いがない。

 

 

第2の2の3 本件平成6年3月期更正処分について

1 所得金額の計算について

(1)確定申告による所得金

             575億3699万9896円

(2)支払手数料のうち損金の額に算入されない金額

               1億5472万5000円

(3)受取利息の計上漏れ     2673万3042円

(4)雑損のうち損金の額に算入されない金額

                 1911万0932円

(5)広告費のうち損金の額に算入されない金額

                     1285万円

(6)損金の額に算入されない金額     1111万円

(7)損金の額に算入した控除対象外消費税額の減少額

                  412万0479円

(8)交際費等の損金不算入額

                    6万0986円

(9)租税公課のうち損金の額に算入されない金額

                 4565万0475円

 原告は,当期の確定申告において,クック諸島源泉税4565万0475円を負担したとして,当期の損金の額に算入している。

 しかしながら,被告は,同クック諸島源泉税が,法69条の外国法人税に該当せず,当期の損金の額に算入できないとして,これを加算した(別紙3欄外(加算内訳)の「租税公課のうち損金の額に算入されない金額」)。

(10)新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額

                 2260万2285円

(11)繰延消費税額の損金算入限度超過額の減少額

                  146万9756円

(12)法人税額から控除する外国法人税額の損金不算入額の過大額

                 4565万0475円

 被告は,前記(9)に記載した理由により,控除対象外国法人税が4565万0475円減少したとして,これを減算した(別紙3欄外(減算内訳)の「法人税額から控除する外国法人税額の損金不算入額の過大額」)。

(13)受取利息のうち当期利益から減算する金額

                 1823万2141円

 被告は,前記第2の2の1,1(6)に記載した理由により,当該貸付金の受取利息5億6519万6352円を当期利益から減算するとともに,当該定期預金の支払利息5億4696万4211円を損金の額に算入しない結果,差引1823万2141円を当期利益から減算した(別紙3欄外(減算内訳)の「受取利息のうち当期利益から減算する金額」)。

    (減算額)       (加算額)       (差引減算額)

(算式)565,196,352-546,964,211=18,232,141円

(14)貸倒引当金の戻入益のうち当期利益から減算する金額

                 1742万4958円

 被告は,前事業年度更正により,貸倒引当金の限度超過額1742万4958円を所得に加算したことにより,当事業年度の当該貸倒引当金の戻入益1742万4958円を当期利益から減算した(別紙3欄外(減算内訳)の「貸倒引当金の戻入益のうち当期利益から減算する金額」)。

(15)貸倒引当金の繰入限度超過額の減算額

                    8万0199円

(16)税額控除の対象とした外国法人税額の損金不算入額の過大額

                 1385万8568円

(17)事業税の損金算入額    3441万4000円

(18)所得金額     577億0283万2998円

 被告は,前記(1)の確定申告による所得金額575億3699万9896円に,前記(2)ないし(10)の合計額2億9696万3199円を加算し,前記(11)ないし(17)の合計額1億3113万0097円を減算した金額,すなわち,577億0283万2998円を調査後の所得金額とした(別紙3「②本件原処分平成7年9月27日」欄の「所得金額」欄)。

2 法人税額について

(1)所得金額に対する法人税額

             216億3856万2000円

 被告は,原告の当期の所得金額が,前記1(18)のとおりであるとして,国税通則法118条《国税の課税標準の端数計算等》1項の規定により1000円未満の端数金額を切り捨てた金額577億0283万2000円に法66条《各事業年度の所得に対する法人税率》1項に規定する税率を乗じて計算し,同所得金額に対する法人税額を216億3856万2000円とした。

(2)法人税額の特別控除額    1345万5595円

(3)課税土地譲渡利益金額に対する税額

                 3688万4900円

(4)控除税額       59億2097万5806円

 被告は,前記1(12)及び(16)に記載した外国税額の減少額5950万9043円と同(16)に係る納付したとみなされる外国税額785万6603円の合計額である6736万5646円の控除対象外国法人税が減少し,また,国外所得の金額の計算にも誤りがあったとし,正当額に基づいて法人税額から控除する外国税額を再計算し,法人税額から控除する外国税額を3億7209万5607円減少したとして,確定申告の控除税額62億9307万1413円から同法人税額から控除する外国税額の減少額3億7209万5607円を差し引いた59億2097万5806円を,原告の当期の控除税額とした(別紙3「②本件原処分平成7年9月27日」欄の「控除税額」欄)。

(5)差引合計法人税額  157億4101万5400円

 同税額は,前記(1)の所得金額に対する法人税額216億3856万2000円から前記(2)の法人税額の特別控除額1345万5595円を減算し,前記(3)の課税土地譲渡利益金額に対する税額3688万4900円を加算し,前記(4)の控除税額59億2097万5806円を減算した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である(別紙3「②本件原処分平成7年9月27日」欄の「差引合計税額」欄)。

3 再更正処分

 なお,平成8年3月29日付け更正処分で加算された「受取利息の計上漏れ」1389万8276円,「雑損のうち損金の額に算入されない金額」195万3223円,「特定外国子会社等にかかる課税対象留保金額」2982万2123円,「事業税の益金算入額」712万4400円,平成8年3月29日付け更正処分で減算された「税額控除の対象とした外国法人税額の損金不算入額の過大額」9460万2063円,「貸倒引当金の繰入限度額の減算額」4万7554円,平成8年4月30日付け更正処分で減算された「繰延消費税額の損金算入限度超過額の過大額」78万3973円については当事者間に争いがない。

第2の3 取引の外形的事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)

1 Capital Market Ltd.(以下「キャピタルマーケット社」という。)は,1984年にニュー・ジーランドで設立された法人であり,Fay Rlchwhlte&co.(以下「フェイリッチ社」という。)の投資銀行業務の中で,資金調達アレンジャー等の高度金融技術を要する部門を遂行する会社である(乙4)。

2 キャピタルマーケット社は,投資家から集めた資金をクック諸島に持ち込んでNZドル建てユーロ債(譲渡性預金 以下「本件C/D」という。)購入に利用するに当たり,クック諸島の子会社の決算を連結対象から除外し,法人所得税の税率を軽減するために,クック諸島にファースト社を設立し,さらに投資家の投資に対しクック諸島により源泉税が課されないようにするため,クックス・ヘイブン(租税回避地)が作用するクック諸島法人であり,自らがその株式の28パーセントを所有するユーロピアン社を経由して,当該資金をファースト社において運用することとした。

 しかし,ユーロピアン社からファースト社に対して直接に貸し付ける方法をとった場合には,クック諸島の税制により,貸付金に係る利息に対して15パーセントの源泉税が課されるという事情があった。

3 原告は,訴外株式会社第一勧業銀行(以下「第一勧業銀行」という。)から取引総額2億USドルのうち,取引額5000万USドルについて紹介を受けたが,ニュー・ジーランドの有力な金融機関であるフェイリッチ社が考案したものであること,貸付けに係る債権が預金によって保全される預担案件であり,取引に係るリスクがないこと,採算面においても条件が良好であることを考慮して,前記2冒頭記載の取引に参加した(乙5)。

4 まず,原告は,ファースト社との間で,おおむね次の内容の本件ローン契約を締結した。

(1)原告は,ファースト社に対し,契約に規定する期間と条件に基づき5000万USドルの融資枠を供与する。

(2)ファースト社は,一定の書類の交付,資金の引出しに係る事前通知,原告が該当するドル建て資金を第三者から調達したことなど所定の条件を充足したことを前提に,5000万USドルの引出しを原告に要求することができる。

(3)ファースト社は,原告に対し,一定の利において,年利10.85パーセントの利息を支払う。ただし,ファースト社は,当該利息からクック諸島所得税法により課される源泉税15パーセントを控除することができる。

(4)ファースト社は,原告に対して,平成6年3月30日に借入残高全額を返済する。

5 さらに,原告は,ユーロピアン社との間で,おおむね次の内容の本件預金契約を締結した。

(1)ユーロピアン社は,本件ローン契約に基づき原告がファースト社に資金供給する当たり,原告が資金供与義務を履行することが十分可能な時間的余裕をもって,その供与する資金金額に相当する資金を原告に預け入れる。

(2)原告のユーロピアン社に対する預金元本の支払は,原告がファースト社から本件ローン契約にかかる貸付金元本の弁済を受けた範囲においてのみ行う。

(3)原告は,原告がファースト社から本件ローン契約に基づく貸付金利息の支払を受けた場合,当該貸付金利息として支払われた金額(源泉税相当額控除後のもの)に源泉税相当額を加算した金額から一定の利息計算に基づくマージンを控除した金額を預金利息としてユーロピアン社に対して支払う。

(4)原告は,本件ローン契約に基づく譲渡事由が発生した場合は,同契約に基づく一切の権利義務をユーロピアン社に譲渡するものとする。

6 本件ローン契約及び預金契約に基づく元本ないし利息の決済は以下のとおり行われた。同元本及び利息の決済については,次のとおり第1回ないし10回取引により行われた(別紙4キャッシュフロー表参照。)。

(1)第1回取引(貸付元本及び預金元本の決済も含む。)

 第1回取引は,平成元年4月6日から9月15日までを計算期間(162日。ただし,起算日を含み終了日を除く。以下同じ。)として実行された。

ア 原告は,平成元年4月6日ニューヨーク時間午前9時ころ,BAMK OF New Zealand,New York Branch(以下「NZ銀行NY支店」という。)のユーロピアン社の口座から,ユーロピアン社からの預金元本5000万USドル及びファースト社からの貸付金利息の先取り分207万5062.50USドル(ただし,貸付金利息244万1250USドルからクック諸島源泉税36万6187.50USドルを控除した後の金額。)の合計5207万5062.50USドルを,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙7ないし12)。なお,ファースト社が支払うべき貸付金利息は,ファースト社からの支払指図に基づき,ユーロピアン社が同社の口座を通じて原告に対して支払ったものである(第2回取引ないし第10回取引についても同じ。)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座へ,ファースト社に対する貸付元本5000万USドル及びユーロピアン社に対する預金利息の先払い分236万2500USドルの合計5236万2500USドルを送金した(乙7ないし12)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPS(Clearring House Interbank Payment System)により決済された(乙6,8及び10)。

 ところで,CHIPSとは,ニューヨーク手形交換所協会が運営主体となり,国際金融取引の資金決済の円滑化を目的として,1970年(昭和45年)4月に設立された銀行間の電子決済システムであり,その決済方法は,加盟銀行がニューヨーク連邦銀行に有する預金口座において同日決済が行われる方式となっている(乙14)。

 同決済により,原告には,28万7437.50USドルの逆ざやが発生した。

(2)第2回取引

 第2回取引は,平成元年9月15日から平成2年3月15日までを計算期間(181日)として実行された。

ア 原告は,平成元年9月15日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,ファースト社からの貸付金利息の先取り分231万8434.02USドル(ただし,貸付金利息272万7569.44USドルからクック諸島源泉税40万9135.42USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙15ないし17)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分263万9583.33USドルを送金した(乙15ないし17)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙15及び17)。

 同決済により,原告には,32万1149.31USドルの逆ざやが発生した。

(3)第3回取引

 第3回取引は,平成2年3月15日から9月15日までを計算期間(184日)として実行された。

ア 原告は,平成2年3月15日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,ファースト社からの貸付金利息の先取り分235万6861.11USドル(ただし,貸付金利息277万2777.78USドルからクック諸島源泉税41万5916.67USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙18ないし22)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分268万3333.33USドルを送金した(乙18ないし22)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙18及び19)。

 同決済により,原告には,32万6472.22USドルの逆ざやが発生した。

(4)第4回取引

 第4回取引は,平成2年9月15日から平成3年3月15日までを計算期間(181日)として実行された。

ア 原告は,平成2年9月17日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,Citibank N.A.New York(以下「シティーバンクNY支店」という。)経由CHIPS決済で,ファースト社からの貸付金利息の先取り分231万8434,02USドル(ただし,貸付金利息272万7569.44USドルからクック諸島源泉税40万9135.42USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙23ないし26)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,ユーロピアン社を受益者として,シティーバンクNY支店内のNZ銀行NY支店口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分263万9583.33USドルを送金した(乙23ないし26)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙23ないし25)。

 同決済により,原告には,32万1149.31USドルの逆ざやが発生した。

(5)第5回取引

 第5回取引は,平成3年3月15日から9月15日までを計算期間(184日)として実行された。

ア 原告は,平成3年3月15日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,シティーバンクNY支店経由CHIPS決済で,ファースト社からの貸付金利息の先取り分235万6861.11USドル(ただし,貸付金利息277万2777.78USドルがらクック諸島源泉税41万5916.67USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙27ないし30)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,ユーロピアン社を受益者として,シティーバンクNY支店内のNZ銀行NY支店口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分268万33336.33USドルを送金した(乙27ないし30)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙27及び30)。

 同決済により,原告には,32万6472.22USドルの逆ざやが発生した。

(6)第6回取引

 第6回取引は,平成3年9月15日から平成4年3月15日までを計算期間(182日)として実行された。

ア 原告は,平成3年9月16日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,シティーバンクNY支店経由CHIPS決済で,ファースト社からの貸付金利息の先取り分233万1243.06USドル(ただし,貸付金利息274万2638.89USドルからクック諸島源泉税41万1395.83USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙31ないし34)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,ユーロピアン社を受益者として,シティーバンクNY支店内のNZ銀行NY支店口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分265万4166.67USドルを送金した(乙31ないし34)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙31及び第34)。

 同決済により,原告には,32万2923.61USドルの逆ざやが発生した。

(7)第7回取引

 第7回取引は,平成4年3月15日から9月15日までを計算期間(184日)として実行された。

ア 原告は,平成4年3月16日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,シティーバンクNY支店経由CHIPS決済で,ファースト社からの貸付金利息の先取り分235万6861.11USドル(ただし,貸付金利息277万2777.78USドルからクック諸島源泉税41万5916.67USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙35ないし38)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,ユーロピアン社を受益者として,シティーバンクNY支店内のNZ銀行NY支店口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分268万3333.33USドルを送金した(乙35ないし38)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙35及び38)。

 同決済により,原告には,32万6472.22USドルの逆ざやが発生した。

(8)第8回取引

 第8回取引は,平成4年9月15日から平成5年3月15日までを計算期間(181日)として実行された。

ア 原告は,平成4年9月15日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,シティーバンクNY支店経由CHIPS決済で,ファースト社からの貸付金利息の先取り分231万8434.02USドル(ただし,貸付金利息272万7569.44USドルからクック諸島源泉税40万9135.42USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙39ないし42)。

イ 原告は,入金を確認した後、同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,ユーロピアン社を受益者として,シティーバンクNY支店内のNZ銀行NY支店口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分263万9583.33USドルを送金した(乙39ないし42)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙39及び42)。

 同決済により,原告には,32万1149.31USドルの逆ざやが発生した。

(9)第9回取引

 第9回取引は,平成5年3月15日から9月15日までを計算期間(184日)として実行された。

ア 原告は,平成5年3月15日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,シティーバンクNY支店経由CHIPS決済で,ファースト社からの貸付金利息の先取り分235万6861.11USドル(ただし,貸付金利息277万2777.78USドルからクック諸島源泉税41万5916.67USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙43ないし46)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,ユーロピアン社を受益者として,シティーバンクNY支店内のNZ銀行NY支店口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分268万3333.33USドルを送金した(乙43ないし46)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙43及び46)。

 同決済により,原告には,32万6472.22USドルの逆ざやが発生した。

(10)第10回取引

 第10回取引は,平成5年9月15日から平成6年3月30日までを計算期間(196日)として実行された。

ア 原告は,平成5年9月15日ニューヨーク時間午前9時ころ,NZ銀行NY支店のユーロピアン社の口座から,シティーバンクNY支店経由CHIPS決済で,ファースト社からの貸付金利息の先取り分251万0569.44USドル(ただし,貸付金利息295万3611.11USドルからクック諸島源泉税44万3041.67USドルを控除した後の金額。)を,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定により受領した(乙47ないし50)。

イ 原告は,入金を確認した後,同日ニューヨーク時間午前10時30分ころ,原告ニューヨーク支店の原告シンガポール支店勘定から,ユーロピアン社を受益者として,シティーバンクNY支店内のNZ銀行NY支店口座へ,ユーロピアン社に対する預金利息の先払い分285万8333.33USドルを送金した(乙47ないし50)。

ウ 前記アの入金及び前記イの送金は,同日付けで,CHIPSにより決済された(乙47及50)。

 同決済により,原告には,34万7763.89USドルの逆ざやが発生した。

 以上のとおり,ファースト社は,本件ローン契約に基づき,原告に対し,貸付金利息として,平成4年3月期において6億2395万3661円(クック諸島により課された源泉税控除前の額は7億3406万3130円),平成5年3月期において5億4311万2158円(クック諸島により課された源泉税控除前の額は6億3895万5480円),平成6年3月期においては,5億1954万5877円(クック諸島により課された源泉税控除前の額は5億6519万6352円)をそれぞれ支払い,原告は,ユーロピアン社に対し,預金利息として平成4年3月期において,7億1038万3672円,平成5年3月期において,6億1834万4012円,平成6年3月期において,5億4696万4211円をそれぞれ支払った。

 なお,本件ローン契約及び本件預金契約の取扱いは,原告のシンガポール支店を通して行われた。シンガポールにおいては,税制上,預金利息に係る源泉税は課されないため,本件取引においても,原告からユーロピアン社に支払われる預金利息に源泉税は課されていない。

7 本件ローン契約及び本件預金契約は,平成6年3月30日に,次のとおり原告が本件ローン契約に基づく権利をユーロピアン社に譲渡し,その対価としてユーロピアン社の原告に対する預金が充当されたことによって終了している。

(1)原告とファースト社及びユーロピアン社との関係

ア 本件ローン契約に基づく譲渡事由

 原告とファースト社は,本件ローン契約書19条C(Ⅳ)において,本件ローン契約上の権利,利益及び義務の譲渡について合意がある場合で,かつファースト社から同譲渡について30日以上前に書面による事前通知要求があった場合には,同条Dに従い同権利,利益及び義務のすべてを原告とファースト社の承認する譲受人に譲渡する旨合意し,同条Dは,同譲渡は,同条項により譲渡日として特に定める日に発行された譲渡証書により効力が生じる旨規定されている(なお,原告とユーロピアン社は,本件預金契約において,原告は,本件ローン契約に基づく譲渡事由が発生した場合は,同契約に基づく一切の権利義務をユーロピアン社に譲渡するものとする旨の合意をしている。)。

イ 原告とファースト社との契約関係の終了

 ファースト社は,原告に対し,本件ローン契約書19条C(Ⅳ)に基づく平成6年3月1日付け書面により,原告はユーロピアン社に対し,同月30日付けで本件ローン契約上の権利,利益及び義務のすべてを譲渡するよう求める旨の事前通知をした(乙51)。

 これに対し,原告は,ユーロピアン社に対し,同月8日付け書面により,同月30日付けの同譲渡について異議のない旨通知した(乙52)。

以上より,原告は,平成6年3月30日付けで本件ローン契約上の権利,利益及び義務をユーロピアン社に譲渡したことになり,原告とファースト社との間の契約関係は終了した。

ウ 原告とユーロピアン社との契約関係の終了

 原告は,平成6年3月30日付けで本件ローン契約上の権利,利益及び義務を,ユーロピアン社に譲渡し同譲渡の対価を取得したが,同日付けで,原告とユーロピアン社が同譲渡の対価と本件預金契約に基づく預金を相殺する旨合意したことにより,両者間の契約関係は終了した(乙51,53及び54)。

8 原告は,本件ローン契約に基づき,本件源泉税を納付したとして,平成4年3月期に1億1010万9469円,平成5年3月期に,9584万3322円,平成6年3月期に4565万0475円について,それぞれ外国税額の控除を適用して申告した。

9 本件取引参加料

 原告は,本件取引(取引総額2億USドル)のうち,取引額5000万USドルについて,第一勧業銀行からの紹介を受けて参加したものであるところ,本件ローン契約書21条Aに従い,第1回取引の決済で支払われたフロントエンドフィー(最初に支払がなされる1回限りの幹事手数料)から取引参加料として2万5000USドル(0.05パーセント)を取得した(乙4,1枚目の「幹事料または参加料」欄参照)。

 

 

 

 

 

 

第3 被告の主張

第3の1 租税回避行為の否認(一般論)

 租税負担回避を目的とした行為に対しては,明文の規定がない場合でも,次のような許容される否認類型が存在し,これらは課税庁の恣意が入り込む余地はなく,租税法律主義の見地からも問題がない。

1 私法上の法律構成による否認

(1)私法上の法律構成による否認とは,裁判所が私法上の当事者の真の意思を探求する形で事実認定を行い,その結果として課税が行われるものである。

 課税は,第一義的に私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われるのであるから,私法上の法律構成においても,当事者間の表面的形式的合意にとらわれることなく,経済的実態を考慮して実質的に認定し,当事者が真に意図した私法上の法律構成による私法上の合意内容に基づいて課税を行うことになる。

 例えば,裁判所による事実認定の結果として,納税者側の主張と異なる課税要件該当事実を認定し,課税が行われることは当然のことであるし,また,通謀虚偽表示の場合には,当事者の外形的な表示にとらわれず,民法上認定される当事者の真の意思に基づき課税が行われることもあり,結果として当事者が課税を免れるために外形上作り出された表面的な私法上の法律関係は無視されることになるのである。

 したがって,私法上の法律構成による否認とは,いわば真実の法律関係に基づく課税にすぎない。

(2)なお,私法上の法律構成による否認により租税回避を否認した例としては,カリフォルニア州弁護士Aが行った取引がある。同取引は,クックス・ヘイブン法人間を資金循環(Circular Financlng 実体上金銭貸付けの実質がないのに,外観上資金を循環させてあたかも金銭貸付けがあったかのような形式を創り出し,租税負担の回避を図るテクニックである。)させることにより投資家に多額の費用控除を創り出すという極めて人為的なもので,資金循環の手法を用いて法人間の貸付けを何度も繰り返し,控除されるべく多額の利子費用を計上したものである。連邦巡回控訴裁判所は,同資金循環の手法を用いた取引による利子については,実際は利子支払ではないから,控除は認められないと判示した(裁判例としてUS.v.Schulman,817 F 2d.1355(9th Cir.1987)がある。)。

2 課税減免規定の限定解釈による否認

 課税減免規定とは,課税要件を定める規定のうち,政策的に一定の趣旨及び目的を達成するため課税の減免を内容として制定された規定である。

(1)課税減免規定については,その趣旨及び目的にかなう事業活動が行われ,それにより政策目的が実現されることを前提として制定されたのであるから,当該規定の趣旨及び目的に合致しない行為に対してまで課税の減免を認めなければならない理由はない。そもそも当事者が課税減免規定の適用を受けることのみを目的として行った取引は,事業目的を欠いた不自然な取引として当該課税減免規定の適用の射程外であり,課税減免規定を適用することはできない。

 したがって,課税減免規定の限定解釈による否認は,課税減免規定の目的的解釈及び適用の一場面として租税回避取引の否認と同様の効果を得ることができるのである。

(2)課税減免規定の限定解釈による否認により租税回避を否認したのと同様の効果を認めた例としてアメリカのグレゴリー事件がある。

 同連邦最高裁判所の判決(Gregory v.Helvering,293 U.S.465(1935))は,課税減免規定の趣旨及び目的から事業目的(business purpose)の基準を導き出し,形式上は当該取引が法の規定する要件に該当するように見えたとしても,当該取引が租税回避のみを目的としたもので事業目的がないことを理由に,それは立法者の予定するものではなく課税減免規定の適用を受け得ないとしたものである。すなわち,同判決は,課税減免規定の立法目的に照らして,その適用範囲を限定的にあるいは厳格に解釈することにより同立法目的と無縁な租税回避のみを目的とする行為を同適用範囲から除外するという解釈方法をとったものであって,同解釈方法は,法を拡大解釈するものではなく法の趣旨目的に従って合理的かつ客観的に解釈するものであり,我が国においても十分に採用可能な法解釈の手法である。

3 課税減免規定の限定解釈による否認が租税法律主義の見地から特に問題となることはない。

 すなわち,立法に当たりあらゆる事態を想定しすべての場合について個別的具体的に明文の規定を設けることは不可能であるから,租税法律主義も当然に法令の厳格解釈を要求するものではなく法律上の概念又は用語はそれぞれの法律の規定の趣旨及び目的に沿うよう合目的的に解釈すべきである。

 また,租税法律主義は国民の経済活動に対する法的安定性と予測可能性を担保することを目的とするものであり,本件取引について外国税額控除に関する規定を適用できないと解することが,法的安定性及び予測可能性を害する解釈ということはできない。現に本件ローン契約書(甲1)には,原告が外国税額控除を受けることができないか,又は受けられないおそれのある場合を想定した条項(1条A(Ⅲ),7条C,19条C(Ⅱ))も設けられており,課税減免規定の限定解釈による否認により法69条が本件取引に適用されなかったとしても,原告の経済活動に対する法的安定性及び予測可能性が害されることもない。

第3の2 私法上の法律構成による否認(主位的主張)

1 本件取引における当事者意思の探求

 原告は,平成元年3月31日付けの本件ローン契約書(甲1)によりファースト社に対し5000万USドルを貸し付けるかのような内容の契約を締結するとともに,同日付けの本件預金契約書(甲2)によりユーロピアン社から5000万USドルの預入れを受けたかのような内容の契約を締結したとするが,本件ローン契約を締結するに当たって,当事者双方には5000万USドルを貸し付ける意思も借り受ける意思も有していなかったものと認められるし,また,本件預金契約を締結するに当たって,当事者双方には5000万USドルの預入れを行う意思も同預入れを受ける意思も有していなかったものと認められる。理由は以下のとおりである。

 なお,本件のように租税回避のスキームが問題となった事案において,当事者の意思を探求するにあたっては,契約内容が既に履行された後の状態について検討しても意味はない。すなわち,租税回避のスキームは,租税回避目的の達成のために,取引の形式を考案し,それに応じた法的効果が生じても当事者間に問題が生じないような関係を意図して創出しているのであるから,履行を終えた段階での法的効果を比較すれば,ほとんどの場合取引の形式と法的効果に差異は生じない。したがって,意味のある検討をするためには,当事者が選択した異常で不自然な法律構成と,自然な法律構成を比較し,その間で法的効果に相異が生じる場合に,当事者がいずれの構成に基づく法的効果を意図しているのか,法的効果に差異が生じないように不自然な条項がたくさん盛り込まれているかどうかを判断しなければならない。

(1)本件ローン契約における当事者双方の意思

 貸金契約を締結する当事者双方の目的は,通常,貸主においては,一定の期間にわたり貸付元本を借主に利用させるのと引替えに,同期間に対応する貸付利息を得ることにあり,他方,借主においては,前記貸付利息の支払と引替えに,一定の期間にわたり貸付元本を利用できることにある。

 そこで,本件ローン契約が通常の貸金契約であると解した場合,原告及びファースト社の意思解釈は,同貸金契約における貸主及び借主の意思解釈として合理的であると認められるか否かについて検討する。

ア 資金循環

(1)原告は,本件ローン契約に基づき,ファースト社に対し5000万USドルの貸付けを行ったとしているが,同金銭貸付けは,本件取引における資金循環の一部を構成するものであり私法上真正なものでないことは明らかである。

 本件取引の開始段階における5000万USドルの流れについては,前記第2の3,6(1)記載のとおりであり,さらに,ファースト社とユーロピアン社間における現実の資金移動は両社間で行われることとなっており,その手段は,ファースト社よりユーロピアン社に対する貸付契約をUSドル建てで結び,ユーロピアン社からファースト社へのNZドル建てによる現実の資金移動取引とかかる貸付契約を通貨スワップ契約により一対のものとし,結局,ユーロピアン社が投資家から調達した資金はスワップにより無税でファースト社に送金され,ファースト社はこの資金をもって本来の取引で意図した資金の運用を行い得ることとなる。

 以上のとおり,原告が本件ローン契約に基づいて行う資金の貸付は,ファースト社からユーロピアン社に対する貸付契約から始まり,さらに,ユーロピアン社から原告のシンガポール支店に対する預金として預けられ,かかる預金を担保としたファースト社に対する貸付により同一日付で循環することとなる。すなわち,本件預金契約に基づく預金元本として前記5000万USドルがユーロピアン社から原告シンガポール支店へ送金され,本件ローン契約に基づく貸付元本として同額の金員が原告シンガポール支店からファースト社へ送金されたが,これは,もともとファースト社からユーロピアン社へ送金されたものであり,ユーロピアン社のファースト社に対する5000万USドル相当NZドルと,通貨スワップ契約により一対とされたものであるから,5000万USドルは,同一日付でファースト社から,ユーロピアン社及び原告シンガポール支店を経由し再びファースト社へ戻ることになる。

 かかる5000万USドルの流れをみれば,本件取引に特徴的なことは極めて初歩的,かつ典型的な資金循環の手法が用いられていることである。この資金循環とは,実体上金銭貸付けの実質がないのに,外観上資金を循環させてあたかも金銭貸付けがあったかのような形式を創り出し,租税負担の回避を図るテクニックである。

 また,本件取引が通常の預金担保貸付けであると解した場合には,貸付実行額は,借主の信用状況等が勘案されて査定されるのであり,貸付けの担保となる預金元本と同額の金員が融資されることは,通常考えられないことであるにもかかわらず,本件取引では,預金元本と同額の金員が貸付元本として融資されているのであり,これからみても,本件取引が通常の預金担保貸付けであると解することができないことは当然であり,むしろ資金循環の一部であると解するのが実体に合致している。

 以上より,本件ローン契約に基づく5000万USドルの貸付けが私法上真正なものでないことは明らかであるから,同契約における当事者双方の私法上の意思は,金銭を貸し付けたり,借り受けたりすることにあるのではなく,もっぱら租税に関する利益ないし租税回避の利益を得ることにあったと認められる。

(イ)本件スキームで注目すべきことは,ユーロピアン社からファースト社に対するNZドルの送金を外形的にユーロピアン社からファースト社に対するUSドル資金の送金に置き換えたことである。

 詳説すると,まず本件各取引に当たって,ファースト社が必要とするのはNZドル資金であり,USドル資金は不要である。そこで,本件におけるユーロピアン社からファースト社に対するNZドル資金の送金は,その間に原告を介在させる形でう回融資し,原告の外国税額控除枠を利用してクック諸島源泉税を回避することも可能であった。しかしながら,そのような取引は,原告が主張するように我が国の銀行が一般的に為替リスクのヘッジのためNZドルによる取引を行わなかったことからこれを原告との間で取引可能とするためにはNZドルをUSドルに交換し,外形上,USドル資金の取引とする必要が生じた。そこで,NZドル資金とUSドル資金を交換する本件通貨スワップ取引によりNZドル資金をユーロピアン社からファースト社に送金すると同時に,その交換によってユーロピアン社がUSドル資金を得ることにしたのである。この時点で上記NZドル資金は,本件通貨スワップ取引によりクック諸島源泉税を課せられることなくユーロピアン社からファースト社に送金されることになったものの,外形的に置き換えられたUSドル資金が上記NZドル資金と同一視される以上,そのUSドル資金について更に本件源泉税を回避する形でユーロピアン社からファースト社に送金する必要が生じた。そこで,ユーロピアン社は本件通貨スワップ取引により得たUSドル資金をNZドル資金の送金に重ねる形でファースト社に送金することとし,ユーロピアン社からファースト社に対するNZドルの送金を外形的にユーロピアン社からファースト社に対するUSドル資金の送金に置き換えた上で,ユーロピアン社からファースト社に上記USドル資金を送金するについては,原告を介在させてう回融資の外形を作出した上で,原告に適用される我が国の外国税額控除制度を利用して,上記USドル資金の送金に賦課されるクック諸島源泉税を回避したのである。

 ただし,このUSドルの取引は,あくまでもNZドルをユーロピアン社からファースト社に送金することに伴うクック諸島源泉税を回避する手段として機能すれば十分であったことから,USドル資金そのものを現実に調達することは本件各取引の当事者にとって全く必要のないものである。むしろ,それを調達するとなればキャピタルマーケット社に新たな負担とコストを生じさせるものであった。そこで,このようなUSドル資金についてはそれを取引関係者の間で循環させることにより,その現実の調達を回避することにしたのである。

 本件スキームを理解するに当たっては,ユーロピアン社からファースト社に対するNZドル資金の送金が,通貨スワップ取引を利用することでユーロピアン社からファースト社に対するUSドル資金の送金に置き換えられている上,その通貨スワップ取引を循環取引に組み込むことによって,USドルを調達する新たな負担までも回避するものであったことを十分意識する必要がある。

 そして,本件循環取引の目的は,このように本件のUSドル資金の取引において現実の資金移動を回避すること及び上記NZドル資金の送金におけるクック諸島源泉税を回避させる機能を果たすことだけであるから,現実的な取引を必要とするものではなく机上の観念的な取引で足りる性格のものであった。

(ウ)なお,原告は,被告主張の通貨スワップ契約については,法的にも経済的にも本件取引とは別個のものであり,何ら関知しない取引である旨主張するが,同主張は理由がない。

 通貨スワップ契約の存在及び内容については,原告も自認するとおり,原告シンガポール支店が作成した投融資案件(貸出)内諾申請書及び貸出申請書のうち,本件スキーム図(乙4,5枚目,乙5,6枚目)に記載されており,これらは,原告シンガポール支店が国際貸付けをするに当たって,原告東京国際企画部審査室に対し,内諾申請して認可を得たり,本申請して認可を得るために作成される決裁文書であるから,当該文書の性質上,真実の記載がされることは明らかである。また,同支店担当者は,通常,文書の起案者として,記載内容について熟知しているはずであるし,決裁権者に対し説明しているはずであるから,通貨スワップ契約については何ら関知していないとか知らないという主張自体が理解できない。さらに,前記本件スキーム図の記載からしても,本件スキームにおける通貨スワップ契約の役割が重要であるからこそ,前記各申請書に明確に記載されているのであり,本件ローン及び本件預金各契約とは,法的にも経済的にも別個のものであるという主張自体も同様に理解できない。

(エ)ところで,原告は,ファースト社において資金需要があったと主張するが,ファースト社において資金需要があったのは,NZドルによる本件C/D購入資金であり,USドルによる購入資金ではない。USドルについては,本件取引における各契約当事者において資金を循環させること以外に資金の需要はない。

イ 貸付金金利の非正常性

 原告は,本件ローン契約に基づき,ファースト社から一定の利息計算期間に対応する貸付金利息(年率10.85パーセント)の前払を受けるとされているが,同貸付金利息についても通常の貸金契約における貸付利息と異なり私法上真正なものでないことは,以下のとおり明らかである。

(ア)本件ローン契約に基づく貸付金利息の受領(クック諸島源泉税相当額控除後)

 原告は,本件ローン契約に基づきファースト社から貸付金利息(年率10.85パーセント)の前払を受けられるが,ファースト社において貸付金利息の前払を行う際には,貸付金利息からクック諸島源泉税(貸付金利息の15パーセント)相当額の限度で控除することが許されているため,第1回ないし第10回取引では,それぞれ前記貸付金利息からクック諸島源泉税相当額が控除された後の金額を受領することになる。

(イ)本件預金契約に基づく預金利息の前払

 原告は,本件預金契約に基づき,ファースト社から本件ローン契約に基づく貸付金利息の支払を受けた場合には,同受領日に同受領通貨と同一建ての資金により,ユーロピアン社に対し,預金利息(年率10.50パーセント)の支払をしなければならないのであるから,貸付金利息の前払がされている以上,預金利息もユーロピアン社に対し前払をすることになる(預金利息の前払が金融機関一般の慣行に反する不合理なものであることは,後記のとおりである。)。

 原告は,第1回ないし第10回取引では前記貸付金利息を受領すれば,それぞれ,同受領当日に同受領通貨と同一建ての資金により預金利息の前払を行っていた。

(ウ)貸付金利息と預金利息の決済(逆ざやの発生)

 前記(ア)の貸付金利息と前記(イ)の預金利息は,いずれもCHIPSにより相殺決済された。

 本件取引では,本件ローン契約上の貸付金利息は年率10.85パーセント,本件預金契約上の預金利息は年率10.50パーセントと定められているから,本件取引が通常の預金担保貸付けであると解する場合には,貸付金利息と預金利息の決済により利ざや(マージン,年率0.35パーセント)が生じるはずであるが,本件ではファースト社が本件ローン契約に基づく貸付金利息の前払をする際,前記貸付金利息に係るクック諸島源泉税相当額が控除されているため,前記CHIPS決済により逆ざやが生じることになるのである。そして,原告が,本件取引における利ざやを得るためには,クック諸島源泉税につき我が国の外国税額控除の適用を受けることが必要不可欠となるのである。

 すなわち,原告は,外国税額控除の適用を受けることができなければ,本件取引における利ざやを得ることができないことになるのであり,このことからみても,本件取引が通常の預金担保貸付けと解することができないことは明らかである。

(エ)貸付けに係るリスク負担の有無

 原告は,平成2年ないし平成6年の各3月期の確定申告では,外国税額控除の適用が受けられるのを前提として税務申告を行うことにより,本件取引における利ざやを得たものである。換言すれば,原告は,外国税額控除の適用が受けられない場合には,前記利ざやを得ることができないことになるため,結果として,本件取引で金銭貸付けに関するリスクを負担していることになりそうである。

 そこで,原告は,本件取引で外国税額控除の適用が受けられない場合,金銭貸付けに関するリスクを負担することになるのかについてみる。

 本件ローン契約書によれば,未だ「否認判断」(同契約書1条A(Ⅲ))がされていない段階では,本件ローン契約により受領した貸付金利息に係るクック諸島源泉税の支払が法律により課される場合あるいは同支払に関する責任が原告に対し主張された場合には,原告は,ファースト社に対し,すべての源泉徴収及び税額控除がされることなく,支払責任を補填するのに十分な金額の支払を要求することができる(同契約書7条C本文,以下第3「被告の主張1において「補填義務」という。」。そして,同補填義務は,通常の国際貸付けの契約書に事情変更に関するものとして明記されるものとは異なる。

 原告は,合理的に信頼できる情報又は税務当局による税務調査の結果として①ファースト社が原告に対し貸付金利息の前払をする際に控除したクック諸島源泉税相当額につき我が国における外国税額控除の適用を求めても同適用が受けられないか又は受けられないおそれがあること,②我が国における外国税額控除の適用を求めたクック諸島源泉税相当額がファースト社が既に控除したクック諸島源泉税よりも少ないか又は少なくなるであろうこと,③我が国における外国税額控除の適用を求めても同適用が税務当局により否認されるか又は否認されるおそれがあることをファースト社に対し通知した場合には,未だ前記「否認判断」がされていない段階であれば,原告及びファースト社により随時合意された第三者に対し本件ローン契約に基づく一切の権利,利益,義務を譲渡できる権限を有するし(同契約書19条C(Ⅱ)),これら権利,利益,義務が譲渡された以降においても,前記支払又は支払責任が主張されたことにより被った,負担した,要求された支払,責任,費用,損失及び経費については,同譲渡がなければファースト社に補填を求めることができたものについても,ファースト社に対し補償を要求することができるのである(同契約書19条Ga,以下第3「被告の主張」において「補償義務」という。)。

 ところで,補填義務に関して本件ローン契約書7条Aは,ファースト社が原告に対し,本件ローン契約に基づく貸付金利息の支払をするときは,同貸付金利息からクック諸島源泉税(貸付金利息の15パーセント)を控除する以外は,一切の控除のない状態で行われると規定されており,支払がnet paymentで行われることを定めるが(同クック諸島源泉税も含めて一切控除がない状態で支払われるものが,一般にグロッシング・アップ・クローズ(grossing-up clause)と呼ばれるものである。甲3,33頁),同契約書7条Cは,未だ「否認判断」がされていない段階においては,本件ローン契約により受け取った金額又は受け取ることができる金額に対し課され,又は関連して計算される支払に関する責任が原告に対し主張された場合は,ファースト社は,原告からの要求に応じて,同支払責任について補填すべき義務を負うと規定されており,これは,支払がnet paymentで行われることを定めたのとは別で,ファースト社の補填義務について定めたものである。このことは,本件ローン契約書7条C本文において,税額控除や源泉徴収額を差し引くことなく(同7条Aただし書で控除することが許されている分も含めて)と規定されていることからも明らかなとおり,原告は,本件ローン契約により貸付金利息の85パーセントの支払を受けることができるほか,ファースト社の補填義務が履行された場合には,同支払以上のものを受け取ることができるのである。

 なお,ファースト社の補償義務は,本件ローン契約上の義務とは別個独立したものであり,譲受人たる第三者には譲渡されないものであり,本件ローン契約上の権利,利益,義務とは別個に,原告に対し引き続き負担され続けるものであるが,ファースト社は,同譲渡から24か月を経過した日以降は補償義務を負担しないことになる(同契約書19条G)。

 以上より,本件では,原告は,我が国における外国税額控除の適用を受けられない場合でも,未だ「否認判断」がされていない段階であれば,本件ローン契約に基づきファースト社に対し補填義務ないし補償義務を要求することにより,本件取引における利ざやを得たのと同様の効果を実現することができるのであり,その限りにおいては,何ら金銭貸付けに関するリスクを負担していないことが認められるのである。

 すなわち,原告は,本件取引にあっては,我が国における外国税額控除の適用を受ける場合はもちろん受けられない場合でも,それが「否認判断」を受けた結果によるのでない限り,金銭貸付けに関するリスクを負担することなく利ざやを得たのと同様の効果を実現できるのであり,通常の貸金契約における貸主が,金銭貸付けに関するリスクを負担しながら,貸付元本を借主に利用させ,これと引替えに貸付利息の支払を得るのとは異なる契約意思により本件取引に参加していたことが認められるのである。

(オ)本件スキームにおける関係者の損益勘定

 本件ローン契約における貸付金の受取利息及び本件預金契約における原告とユーロピアン社の損益を検討すると,本件源泉税を両者により分担した関係となっていることが分かる。

 まず,本件各取引における原告とユーロピアン社の損益を見るに

原告のマージン(貸付金利息-預金利息)-原告の逆ざや=本件源泉税

という関係が見られる。

 そして,原告のマージンはユーロピアン社(ファースト社を含む)の損失であり,原告の逆ざやは原告の損失であるものの常にマイナスの値として計算されていることから,上記計算式は

 ユーロピアン社の損失(負担)十原告の損失(負担)=本件源泉税

に置き換えられる。

 本件スキームを考案するに当たって,重要なことは,原告に逆ざやを生じさせることであり,そのために原告のマージン額を本件源泉税の金額内に抑えることである。すなわち,原告に逆ざやを生じさせることによって初めて本件源泉税を原告に分担させることが可能となるものである。

 仮に,原告のマージン額が本件源泉税の金額より多くなって原告に逆ざやが生じないことになれば,原告はその損益勘定において損失を生じることなく利益のみを得るものの,ユーロピアン社にとっては,本件源泉税相当額以上の原告のマージン額を負担しなければならないことになって,本件源泉税以上の損失を負うことになる。

 それゆえ,ユーロピアン社が本件源泉税以上の損失を負うことなく,同社が本件源泉税の負担を減少させるためには,原告のマージン額を本件源泉税の金額内に抑えることが前提であり,また,その分担割合はその逆ざやの程度で調節することができることから,フェイリッチ社は貸付金利息及び預金利息を操作することにより,本件源泉税を原告とユーロピアン社が分担する本件スキームを考案したのである。

 本件では,原告の本件ローン契約の実行に基づく貸付金利息収入の合計額は2741万1319.44USドルであったものの,本件源泉税分合計411万1697.94USドルを減額されたことから実際の収入額は2329万9621.50USドルであり,また,原告の本件預金契約の実行に基づく預金利息の支払の合計額は2652万7083.31USドルであったことから,結果的に本件各取引において322万7461.81USドルの逆ざやを生じさせて,これを負担している。他方,ユーロピアン社は,貸付金利息と預金利息の差額88万4236.13USドルの負担をして,それぞれ本件源泉税合計411万1697.94USドルを分担している。

 本件で原告に逆ざやの結果が生じたことは,偶然の結果ではなく,まさに,フエイリッチ社が考案した,原告に逆ざやを生じさせることにより本件源泉税を原告とユーロピアン社で分担させた本件スキームの結果であることは明白で,このことから本件ローン契約における当事者双方の目的は,金銭を貸し付けたり,借り受けたりすることにあるのではなく,もっぱら原告が実質的にユーロピアン社が本来負担すべき本件源泉税を吸収して肩代わりし,同社の租税回避に協力することにあったと認められるのである。

(カ)前記(ア)ないし(オ)によれば,本件ローン契約に基づきファースト社から原告に対し前払がされる貸付金利息は,通常の貸金契約における貸付利息と異なり,私法上真正なものであると認めることができないのである。

ウ 取引参加料

 原告は,本件ローン契約に基づき,貸付金利息の受領とは別に,本件取引参加料を受領することが定められ,実際上も同取引参加料として,2万5000USドルを取得したものである。

 しかし,同取引参加料とは,本件取引では何に対する対価であるのかが全く不明である。すなわち,本件ローン契約が通常の貸金契約であると解されるならば,通常,貸主としては貸付元本を借主に利用させるのと引替えに,貸付利息を得ることに目的があり,同貸付金利息の受領とは別に本件取引参加料を取得することが定められることは理解できない。

 したがって,原告が本件取引で同取引参加料を受領していること自体が通常の貸金契約における貸主の意思とかけ離れたものであると認められるのである。むしろ,原告が本件ローン契約に基づき本件取引参加料として取得した2万5000USドルは,まさに原告が本件スキームに参加してユーロピアン社のクック諸島源泉税を免れさせたことに協力したことの対価であると理解すべきものである。

 なお,原告は,本件取引参加料は,貸付実行の対価であって,外国税額控除の余裕枠を利用させた対価ではなく,本件の利ざや0.35パーセントは十分経済的合理性がある取引である等と主張する。しかしながら,これらの金員は,全体のスキームからみて,明らかに,ユーロピアン社が負担することとなるクック諸島源泉税を原告の外国税額控除の余裕枠をもって吸収させることの対価としての性質を持つものであり,その一部だけをとって,形式的に銀行の慣行と一致していたとしても,何ら全体的にみてその実質が変更されるものではない。

エ 契約関係終了における現実的資金移動の不存在

 原告は,本件ローン契約に基づき,最終弁済期日である平成6年3月30日にファースト社から貸付元本全額の返済を受ける旨合意されていたが,実際には貸付元本の返済はされることなく,原告,ファースト社及びユーロピアン社の各契約関係は,以下のとおり,現実的な資金移動もなく終了した。

(ア)原告とファースト社との契約関係の終了

 原告は,ファースト社から30日以上前の書面による事前通知により承諾要求がされたときは,原告及びファースト社により随時合意された第三者に対し,本件ローン契約に基づく一切の権利,利益,義務を譲渡すべき義務を負うのであり,同譲渡は,譲渡証書により同証書において特定された発行日をもってその効力を生じる旨合意された。また,前記事前通知により承諾要求されたときは,原告は,文書による通知により,ファースト社からの譲渡要求があった時点で,必ず本件ローン契約に基づく一切の権利,利益,義務を,ユーロピアン社に対し譲渡するものとする旨合意された。

 本件で,原告は,ファースト社からの平成6年3月1日付け書面により,貸付元本の返済期限である同月30日付けで,本件ローン契約に基づく一切の権利,利益,義務を原告からユーロピアン社へ譲渡することを求める旨の事前通知を受けたため,同月8日付け書面により同譲渡につき異議がない旨をユーロピアン社に通知した。

 以上より,原告とファースト社との契約関係は,本件取引の開始段階から,平成6年3月30日付けで原告が本件ローン契約上の権利,利益,義務をユーロピアン社に譲渡することにより,現実的な資金移動もなく終了することが予定されていたのであり,実際にも現実的な資金移動もなく終了した。

原告とユーロピアン社との契約関係の終了

 原告は,平成6年3月30日付けで本件ローン契約上の権利,利益,義務をユーロピアン社に対し譲渡したことにより,同社に対し同譲渡の対価を取得したが,原告とユーロピアン社は,同日付けで同譲渡の対価と本件預金契約に基づく預金元本とを相殺する旨合意した。

 以上より,原告とユーロピアン社との契約関係は,平成6年3月30日付けで現実的な資金移動もなく終了した。

(ウ)ファースト社とユーロピアン社との契約関係の終了

 ファースト社は,本件取引の終了段階において,ユーロピアン社との間の通貨スワップ契約に基づき,同社に対する5000万USドル相当NZドルと,同社からの5000万USドルを交換し,両者間の契約関係を終了させることになるところ,同交換に係る5000万USドルについては,ユーロピアン社は,原告から,平成6年3月30日付けで,本件ローン契約上の権利,利益及び義務を譲り受けたことで,ファースト社に対する5000万USドルを貸し付けた地位を取得しており,新たに同交換のため,同社に5000万USドルを送金する必要はないから,同契約上の地位をもって5000万USドル相当NZドルとの交換に充当すれば足りるのである。すなわち,取引開始段階においては,ユーロピアン社からファースト社への5000万USドル相当NZドルの支払と,原告からファースト社,ユーロピアン社を経由して原告へ戻る循環金融による5000万USドルの各支払がなされ,終了段階において原告からファースト社に対する貸付債権がユーロピアン社に譲渡され,かかる貸付債権の譲渡代金は,ユーロピアン社が原告シンガポール支店に有する預金をもって充当され,又は同預金と相殺されて,その結果,終了段階において,ユーロピアン社のファースト社に対する5000万USドルとファースト社のユーロピアン社に対する5000万USドル相当のNZドルを交換するに当たり,ユーロピアン社が有したファースト社に対する同貸付債権上の地位をもって前記ユーロピアン社のファースト社に対する5000万USドルの支払に充当しスワップを終了させたのであり,そして,スワップの終了においては開始段階におけるユーロピアン社からファースト社へ支払う5000万USドル相当NZドルの取引も同時に終了することになるから,ファースト社からユーロピアン社への5000万USドル相当NZドルの支払が必要となるが,これは被告の主張する「本来の取引」を行ったのと同じ状態になったにすぎないのである。これにより両者間の契約関係は終了したことになるが,同終了段階で,両者間に現実的な資金移動のないことは明らかである。

(エ)前記(ア)ないし(ウ)によれば,原告,ファースト社及びユーロピアン社の各契約関係は,いずれも現実的な資金移動もなく終了したことが認められるのであり,これは,前記のとおり本件取引の開始段階における5000万USドルが本件取引における資金循環の一部を構成するものであり私法上真正なものでなかったことからすればむしろ当然のことであり,このことからも,本件ローン契約における当事者双方の意思は,通常の貸金契約における貸主,借主の意思とは異なるものであると認めることができる。

オ 本件ローン契約及び本件預金契約の契約締結日

 本件ローン契約及び本件預金契約は,契約書上,平成元年3月31日付けで各締結されたとされているが,真実は,平成元年4月5日以降に各締結されたものと認めるのが相当である。理由は以下のとおりである。

(ア)まず,同契約書の各締結日の時点では,原告シンガポール支店は,原告東京国際企画部審査室からの内諾を受けたのみであり,このような段階で,同契約の締結を行うことは通常あり得ない。

(イ)次に,同契約書の各締結日の時点では,未だ契約の相手方は特定されていなかったし,また,本件ローン契約書の貸付利率も同様,同契約書の締結日の時点では確定していなかったのである。

(ウ)そして,本件ローン及び本件預金各契約書の締結日が平成元年3月31日に遡及した理由は,昭和63年12月の法人税法改正と密接な関係がある。

 すなわち,法人税法(昭和63年法律第109号による改正後のもの,以下「法」という。)69条1項,法人税法施行令(昭和63年政令第362号による改正後のもの,以下「令」という。)142条の3第1項,令142条の3第2項によれば,本件各契約の締結日が真実の契約締結日どおり,同月6日以降であるとすれば,原則として,クック諸島源泉税15パーセントのうち10パーセント相当分を超える部分については,所得に対する負担が高率な部分の金額に該当するものとして,控除対象外国税額には含まれなかったものであるが,原告は,平成元年3月31日付けの本件ローン契約書により,同年4月1日以後最初に開始する事業年度の直前の事業年度終了の日において有する貸付金の利子に係る外国源泉税としてクック諸島源泉税15パーセント全額を控除対象外国税額に含めることができるとしたものである。

 上述のとおり,原告は,クック諸島源泉税15パーセント全額につき外国税額控除を受けるために,真実は,平成元年4月6日以降に本件ローン契約及び本件預金契約が各締結されたにもかかわらず,同各契約書の締結日は,契約書上,同年3月31日に遡及されたのである。

カ まとめ

 前記アないしオからすれば,本件ローン契約の原告及びファースト社の意思は,通常の貸金契約における貸主及び借主の意思解釈として不合理であることが明らかなのである。

(2)本件預金契約における当事者双方の意思

 通常の預金契約を締結する当事者双方の目的は,通常,預金者においては,一定の期間,預金元本を預入先に預け入れるのと引替えに,同期間経過後に同預入れに対応する預金利息を得ることにあり,他方,預入先においては,前記預金利息の支払と引替えに,預金元本を運用できることにある。

 そこで,本件預金契約が通常の預金契約であると解した場合,ユーロピアン社及び原告の意思解釈は,通常の預金契約における預金者及び預入先の意思解釈として合理的であると認められるかについてみる。

ア 資金循環

 ユーロピアン社は,本件預金契約に基づき,原告に対し5000万USドルの預入れを行ったとされているが,同金銭の預入れが本件取引における資金循環の一部を構成するものであり私法上真正なものでないことについては,前記(1)アからも明らかである。

 したがって,本件預金契約に基づく5000万USドルの預入れは私法上真正なものではなく,同契約における当事者双方の私法上の意思は,金銭を預け入れたり,受け入れたりすることにあるのではなく,もっぱら租税に関する利益ないし租税回避の利益を得ることにあったことが認められるのである。

イ 預金金利の非正常性(預金金利の前払)

 原告は,本件預金契約に基づき,ユーロピアン社に対し一定の預金利息(年率10.50パーセント)の支払を行うとされているが,同預金利息の支払についても,預金金利が前払されていることから,通常の預金契約における預金利息の支払と異なり私法上真正なものであると認めることはできない。

 すなわち,本件預金契約に基づく預金利息は,前記のとおり本件ローン契約に基づき貸付金利息が前払されていることに対応して原告からユーロピアン社に対し前払がされているのであるが,通常の預金契約では,預金利息の支払は,契約当事者の合理的な意思解釈からみても,後払が原則であるし,本件取引における預金利息の前払は金融機関一般の慣行に照らし不合理な取扱いなのである。

(ア)本件預金契約が通常の預金契約であると解した場合,預金者としては,一定期間預入先に預金元本を預け入れるのと引替えに,向期間経過後に同預入れに対応する預金利息の支払を受けることを目的とするし,また,預入先としても,同期間経過後に預金利息の支払を行うと考えるはずであり預金利息の前払をすることなど考えないはずであるから,本件取引における預金利息の前払は,通常の預金契約における預金者,預入先の合理的意思に反する行為なのである。

(イ)また,大蔵省銀行局長通達(昭和30年6月13日蔵銀第1248号,平成4年4月蔵銀第455号も従来どおりの取扱いとする旨定める。)は,「現行の臨時金利調整法に基づく告示における預金金利体系の建前は,金融機関一般の慣行に従い,利息後払を前提としているものと解すべきである。また,金融機関の経理の建前としても,純然たる前払はもとより,たとえ既経過分であっても,全期間が経過しない前に,全期間中預金されたならば付利されるべき利率で利息を支払うことは,健全とはいえない。したがって,このような利息前払定期預金は,行わせないものとすべきである。」と定めている(乙60の1,2)。

 よって,本件取引における預金利息の前払は,前記通達からみれば,金融機関一般の慣行に反する不合理なものであることが認められるのである。

 なお,本件ローン契約に基づく貸付金利息の前払の合理性についても,我が国における短期貸付けに係る金利は前払とされるのが普通であるが,ユーロ市場を通して行われる国際融資については銀行がユーロ市場に対し利息を支払うのと合わせて後払とされるのが普通である(乙60の3)とされており,貸付金利息の前払であっても国際融資では通常の慣行に反した取扱いである。

(ウ)以上より,本件預金契約に基づく預金利息の支払は,通常の預金契約における預金利息の支払と異なり私法上真正なものであると認めることはできない。

ウ 現実の資金移動の不存在

 本件においては,原告が,ファースト社から本件ローン契約に基づき実行された貸付元本の返済を受けた場合には,同受領当てに同受取額と同額,同一通貨建ての資金を,本件預金契約に基づき,ユーロピアン社に支払わなければならない旨合意されていたが,実際には預金元本の返還はされることなく,前記のとおり,原告は,平成6年3月30日付けで本件ローン契約上の権利,利益,義務をユーロピアン社に対し譲渡した対価と,本件預金契約に基づく預金元本とを相殺する旨合意することにより,両者の契約関係は,現実的な資金移動もなく終了したのである。

 これは,前記のとおり本件取引の開始段階における5000万USドルが本件取引における資金循環の一部を構成するものであり私法上真正なものでなかったことからすればむしろ当然のことであり,このことからも,本件預金契約における当事者双方の意思は,通常の預金契約における預金者,預入先の意思とは異なるものであると認めることができるのである。

 すなわち,本件各取引は,上記のとおり,NZドル資金の送金に伴うクック諸島源泉税を回避するためだけに機能すれば足りるものであり,現実的な資金移動は最初から不要であったものである。

 ただし,そのなかでユーロピアン社が本件源泉税を回避し,それを原告との間で分担することだけは現実的な資金移動を求められたのであり,本件各取引において実取引として機能し存在し得たのが原告とユーロピアン社との間の本件源泉税の分担だけであったこと,そして,そのために,上記のとおり,本件ローン契約及び本件預金契約における金銭の決済がユーロピアン社の口座と原告の口座間でのみなされていたことは,まさに本件各契約の仮装性を裏付けるものである。

エ 契約締結日

 本件預金契約の締結日が平成元年3月31日に遡らせていることは前記(1)オのとおりである。

オ まとめ

 前記アないしエからすれば,本件預金契約におけるユーロピアン社及び原告の意思は,通常の預金契約における預金者及び預入先の意思解釈として不合理であることが明らかなのである。

(3)本件取引の目的(当事者が真に意図した私法上の法律構成)

 本件取引のうち,本件ローン契約及び本件預金契約を通常の貸金契約及び預金契約であると解した場合,契約当事者の意思として不合理であることは前記のとおりであるが,それにもかかわらず,本件で,原告,ファースト社及びユーロピアン社が本件ローン契約及び本件預金契約を締結した真の意思は,後記のとおり,ファースト社及びユーロピアン社においては被告主張の「本来の取引」を行った場合に生じるユーロピアン社の源泉徴収課税の回避を図ることにあり,原告においては同租税負担の回避を図るため,我が国における外国税額控除の余裕枠を提供し,同役務提供に対する対価を取得することにあったと認められるのである。

 以下においては被告主張の「本来の取引」及び同「仮装作出取引」を対比して関係当事者が本件取引に参加した目的を探求することにする。なお,被告の主張する「本来の取引」及び「仮装作出取引」の概要は,別紙5及び同6のとおりである。

ア まず,被告主張の「本来の取引」とは,ユーロピアン社がファースト社に対し,自社が投資家から調達した5000万USドル相当NZドルを貸し付けることを内容とする取引であり,同取引の目的は,ファースト社においては貸付元本をもとにNZドル建て本件C/Dを購入して運用することにあり,ユーロピアン社においては貸付元本の運用により得られる運用利益の取得にあったと認められる。

 ただし,被告主張の「本来の取引」を行った場合,ユーロピアン社は,クック諸島の税制によりファースト社からの貸付金利息に課される源泉税につき外国税額控除を受けることができないために,同源泉徴収課税は,ユーロピアン社にはコストになってしまう。

イ 次に,被告主張の「仮装作出取引」とは,次のような複数の取引により構成される一連の取引である。

(ア)ユーロピアン社及びファースト社は,仮に,被告主張の「本来の取引」を行った場合には,クック諸島の税制によりファースト社からの貸付金利息について源泉税が課せられるため,同源泉徴収課税を免れる目的で,両者の間で通貨スワップ契約を締結し,同契約により想定元本たる5000万USドル相当NZドルに係る金利相当額について同源泉徴収課税を免れることにした。

(イ)ユーロピアン社は,形式的には,原告シンガポール支店に対し5000万USドルの預入れを行ったかのような内容の本件預金契約を締結し,同契約に基づく預金利息を取得しているが,実質的には,同契約により原告シンガポール支店を通じファースト社に対し同5000万USドルを資金循環の方法により送金し,同社において,通貨スワップ契約により同5000万USドルと交換された5000万USドル相当NZドルを運用させていたのであり,同運用利益は,本件預金契約に基づく預金利息という形で回収されていた。

(ウ)ファースト社は,形式的には,原告シンガポール支店から5000万USドルの貸付けを受けたかのような内容の本件ローン契約を締結し,同契約に基づく貸付金利息の支払をしているが(本件ローン契約に基づく貸付金利息に係るクック諸島源泉税については,我が国における原告の外国税額控除の余裕枠を利用することにより吸収される。),実質的には,同貸付元本は,ファースト社からユーロピアン社及び原告シンガポール支店を経由して資金循環の方法により送金された金員であり,通貨スワップ契約によりユーロピアン社からファースト社への5000万USドル相当NZドルに交換され,ファースト社において同金員をもとにNZドル建て本件C/Dが購入され運用されていた。

(エ)原告シンガポール支店は,形式的には,本件預金契約に基づきユーロピアン社から5000万USドルの預入れを受け,かつ本件ローン契約に基づきファースト社に対し同額の金員を貸し付けていることになるが,実質的には,ユーロピアン社に代わり本件ローン契約の貸主として介在することにより,クック諸島源泉税につき我が国における外国税額控除の適用を受ける形で吸収していたのでありこのような外国税額控除の余裕枠を利用させたことの対価として,マージン相当額及び本件取引参加料を取得していた。

ウ 前記ア及びイによれば,原告,ファースト社及びユーロピアン社が本件ローン契約及び本件預金契約を締結した真の意思は,以下のとおりである。

(ア)まず,ファースト社は,本件取引によりユーロピアン社から,同社が投資家から調達した5000万USドル相当NZドルの融資を受けこれを運用する目的で同取引に参加したのであり,被告主張の「本来の取引」を行った場合には,ユーロピアン社に対する貸付金利息に係る源泉徴収課税について同社がクック諸島で外国税額控除を受けることができないため,形式的には原告シンガポール支店から5000万USドルの融資を受けたかのような内容の本件ローン契約を締結し(これにより,同契約に基づく貸付金利息に係るクック諸島源泉税については,前記のとおり,原告の我が国における外国税額控除の余裕枠を利用することにより吸収される。),実質的には,通貨スワップ契約により,関係当事者間を資金循環してきた右5000万USドルがユーロピアン社からファースト社への5000万USドル相当NZドルに交換され,ファースト社において同額の金員を運用していたのである。

 そうすると,ファースト社は,被告主張の「本来の取引」を行った場合であっても,ユーロピアン社からの5000万USドル相当NZドルを運用するとの目的は達成されるのであり,同一の目的を達成するために,原告との間で本件ローン契約を締結することにより5000万USドルを資金循環させる必要はなかったと認められる。

 したがって,ファースト社が本件ローン契約を締結した真の意思は,ユーロピアン社の租税負担の回避を図るためであったと認められる。

(イ)次に,ユーロピアン社は,本件取引により,同社が調達した5000万USドル相当NZドルをファースト社に融資し同融資による運用利益を取得する目的で同取引に参加したのであり,被告主張の「本来の取引」を行った場合にはファースト社からの貸付金利息に係る源泉徴収課税につきクック諸島で外国税額控除を受けることができないため,形式的には原告シンガポール支店に対し5000万USドルの預入れを行ったかのような内容の本件預金契約を締結し同契約に基づき預金利息を取得しているが,実質的には,同契約により原告シンガポール支店を通じてファースト社に同5000万USドルを資金循環の方法により送金し,同社において,通貨スワップ契約により右5000万USドルと交換された5000万USドル相当NZドルを運用させていたのであり,同運用利益は,本件預金契約に基づく預金利息という形で回収されていた。

 そうすると,ユーロピアン社は,被告主張の「本来の取引」を行った場合であっても,ファースト社に対し5000万USドル相当NZドルを融資し同融資による運用利益を取得する目的は達成されるのであり,同一の目的を達成するため,原告との間で本件預金契約を締結することにより5000万USドルを資金循環の方法によりファースト社へ送金する必要はなかった。

 したがって,ユーロピアン社が本件預金契約を締結した真の意思は,同社の租税負担の回避を図るためであったと認められる。

(ウ)さらに,原告は,被告主張の「本来の取引」が行われた場合には,本件取引に参加する必要のない立場にあったが,この場合は,前記のとおり,ユーロピアン社において源泉徴収課税がコストになるため,形式的には,本件預金契約に基づきユーロピアン社から5000万USドルの預入れを受け,かつ本件ローン契約に基づきファースト社に対し同額の金員の貸付けを行ったことになっているが(同金員の流れが資金循環の一部を構成するものであることについては前記のとおりである。),実質的には,ユーロピアン社に代わり本件ローン契約の貸主として本件取引に介在することによりクック諸島源泉税について我が国における外国税額控除の適用を受ける形で吸収したのであり,このような外国税額控除の余裕枠を利用させたことの対価としてマージン相当額及び本件取引参加料を取得していたのである。

 そうすると,原告は,被告主張の「本来の取引」が行われた場合に生じるユーロピアン社の源泉徴収課税を回避する目的をもって本件ローン契約の貸主及び本件預金契約の預入先として介在しているにすぎないのであり,同介在すること自体の意味は,我が国における外国税額控除の余裕枠を利用させるのと引替えに,同利用に対する報酬を得ること以外には何も存在しない。

 したがって,原告が本件ローン契約及び本件預金契約を締結した真の意思は,ユーロピアン社の租税負担の回避を図るため,我が国における外国税額控除の余裕枠を提供するのと引替えに同役務提供に対する対価を得ることであったと認められる。

エ 本件ローン契約及び本件預金契約の効力

 前記アないしウからすれば,本件取引のうち本件ローン契約及び本件預金契約は,ユーロピアン社の租税負担の回避を図ることを目的としてそれぞれ締結されたものであり,外観上貸金契約及び預金契約の形式はあるものの,実体上貸金契約及び預金契約の実質が認められないのであり,契約当事者の真の意思を探求すれば,むしろ原告が我が国における外国税額控除の余裕枠をファースト社及びユーロピアン社に提供し,これに対しファースト社及びユーロピアン社が原告に対し同役務提供に対する対価を支払うことを内容とする合意をしていると認めることが合理的であり,同合意内容からすれば,いわゆる外国税額控除の余裕枠に関する売買契約であると解するのが相当であるから,貸金契約及び預金契約としては,通謀虚偽表示(民法94条1項)によりいずれも無効であると解すべきである。

2 まとめ

 以上によれば,本件ローン契約及び本件預金契約は,貸金契約及び預金契約としては通謀虚偽表示として無効であるから,原告が本件ローン契約に基づく貸付金利息に関して負担したとされるクック諸島源泉税については,法69条1項の定める外国法人税には該当しないと解すべきである。

 あるいは,通謀虚偽表示として無効ではないとしても,契約当事者の真の意思は,①原告が我が国における外国税額控除の余裕枠をファースト社及びユーロピアン社に提供し,これに対しファースト社及びユーロピアン社が原告に対し同役務提供に対する対価を支払うことを内容とする合意(いわゆる外国税額控除の余裕粋に関する売買契約)であると解するか,または,②ファースト社がユーロピアン社に対して負っていた貸付金利息を原告を介してユーロピアン社が取得することを内容とする合意(したがって,ファースト社とユーロピアン社間の取引関係に基づく利息収入はユーロピアン社が得ており,クック諸島源泉税の担税者もユーロピアン社であって原告ではないと認められる。)と解するのが相当であり,かかる当事者の真意に従って課税されるべきである。

 したがって,本件で,原告は,いずれにしても,平成4年ないし平成6年の各3月期における法人税において,クック諸島源泉税につき,いずれも法69条1項が定める外国税額控除の適用を受けることはできない。

第3の3 法69条の限定解釈による否認(予備的主張)

1 外国税額控除制度の特質

(1)外国税額控除の政策性

 外国税額控除制度は,確立された国際ルールを基に我が国企業の海外経済活動の振興を図るという政策的要請の下で整備されたものであり,国際的二重課税を防止して我が国企業の国際的取引に伴う税制上の障害を排除することを目的とする。つまり,外国税額控除制度は,我が国企業の国際的経済活動に対して,税制がそれを阻害することなく,租税以外の考慮のみによって取引やその形態が決定されるべきとする経済的中立性の維持を目的とするのであり,特に国内企業又は居住者がその投資を国内で行うか国外で行うかの選択に影響を与えないという資本輸出中立性(capital export neutrality)を保つ観点から規定するのである。

 そもそも国家の課税に関する立法管轄権には,国際法的な制限が余り存在せず,各国家は比較的自由にそれを行使することができるのであり,居住者の全世界所得に課税することを制約する原則は存在しない。日本を含む多くの国家は,内国法人について,全世界所得に課税する方式を国内法において採用している。これは,日本が居住地管轄に基づいて課税管轄権を行使する場合においては,日本の内国法人が外国で得た利益をも日本国内で得た利益と同じように課税しなければ課税の公平を維持できないという考慮に基づくものである。

 他方で,全世界所得に課税する方式を採用した場合に生ずる国際的な二重課税について,多くの国家は,外国税額控除制度によりこれを排除している。これは,要するに日本の課税権に関する限り国外で得た所得について課税を軽減するものであって,外国政府に支払った税額を自国の税額より控除することを認めるということであるから,我が国の課税権の譲歩にほかならない。国際的に租税法上,国家は,その立法において課税権を広く行使することが認められているにもかかわらず,国際的二重課税を排除するという課税権の調整のため,外国税額控除という国際課税特有の措置を採用したのは,国外投資促進のためのインセンティブや国際競争力の確保といった政策的理由があったのであり,国際的二重課税を排除するか否かは各国家の政策的判断により決定される事項にほかならない。すなわち,ある国家が内国法人の全世界所得に課税する方式を採用する場合であっても,外国税額控除を認めることは当該国家の義務ではなく,国家は,一定の政策的考慮に基づき,外国税額控除を認めることも認めないこともできるし,外国税額控除を認める場合であってもそれに一定の制限を付することか可能である。

(2)外国税額控除の選択適用(損金経理との選択可能性)

 法は,外国税額の損金算入について,「内国法人が第六十九条第一項(外国税額の控除)に規定する控除対象外国法人税の額につき同条(中略)の規定の適用を受ける場合には,当該控除対象外国法人税の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない」と規定し(同法41条),国内法上,外国税額は損金に算入されることが原則で,外国税額控除制度の適用は納税者の選択によるものとしている(同法69条7項参照)。すなわち,外国税は,第一義的に経費として扱われるのであって,外国税額控除は,法69条の趣旨,目的に沿って外国税額の特典を受けることを選択した納税者に恩恵的に与えられるものにほかならない。

 このように,法69条に規定する外国税額控除の適用は納税者の選択によること及び外国法人税を納付した者が外国税額を控除できることからすれば,外国における通常の業務により発生した所得が法的に帰属し,その発生した所得に対する適正な外国税額の法的な意味における納税者が外国税額控除の適用を受け得るのであって,外国税額の形式的帰属によって判断することは認められない。

(3)外国税額控除限度額の意義

 我が国は,外国税額控除の控除限度額に関して一括限度額方式を採用している。このように,外国税額控除の控除限度額制度の存在それ自体が,外国税額控除による政策的恩恵を政策的見地から制限していることを考慮すれば,一定の場合において,課税減免規定の限定解釈による否認を行うことは当然に許される。

 なお,一括限度額方式は,外国から生じた所得に対応するものとして,国別に分けずに国外所得を一括し総額をもって計算する方式であり,計算が比較的簡便である反面,我が国よりも税率の高い国で支払った外国税額の控除限度額超過部分を,我が国よりも税率の低い国における控除限度額の余裕枠でもって吸収するという控除限度額の彼此流用の問題を生じさせた(この点,原告は,昭和63年の法改正の趣旨等からみて,法69条は一定の彼此流用を許容していることからすれば,数値基準のほかに,控除対象外国税であるかどうかの実質的判断を行うことを法は予定しておらず,この点は形式的にのみ判断すべきである旨主張するようである。しかしながら,同改正の過程において,特に取引の目的やその実体を問わず,控除の枠内でさえあればそれでよいといった議論がなされたとは考えられず,立法者の意思として,本件のように,取引の実体がなく,租税回避目的で制度を濫用するものであっても,形式的に外国から課税さえされれば,控除を認めるという割り切りをしたものとは到底解されない。)。

(4)また,同一法人内の彼此流用の場面ではない,内国法人が外国企業にその控除限度枠を提供するという形で,事業活動上の能力・資源として利用する場面まで彼此流用の考え方が妥当するとは考えられない。

 そして,外国税額控除限度枠を自らの事業活動上の能力・資源として利用することまでも許容したと解することは,二重課税の排除という法69条の制度の趣旨そのものをも蹂躙するものである。よって,昭和63年改正において,なお残存することとなった彼此流用の問題とは,一括限度方式という簡便法をとることから生じるものをいうにすぎず,海外の法人に対し積極的に外国税額控除の余裕枠を役務の提供手段として利用させ,手数料を得ることまでも許容するものではない。

2 法69条の限定解釈

(1)法69条の限定解釈可能性

 外国税額控除制度は,前記のとおり,国際的二重課税排除を目的として設けられたものであり,資本輸出中立性の確保等の政策目的実現のために課税を減免する国家による一方的な恩恵的措置であり,いわゆる課税減免規定にほかならない(なお,国税庁発行の「改正税法のすべて」に「いわゆる政策的な優遇措置ではない」と記載しているのは,租税特別措置法に規定するようないわゆる政策的な優遇措置ではないことを表現しているのであって,外国税額控除制度による日本国の課税権の譲歩が納税者の特権であるという意味ではない。)。

 課税減免規定は,一般の課税根拠規定と異なり,特有の趣旨

目的を有するものとして制定されたものであるから,その立法趣旨に従って解釈するのは当然のことであり,当該規定の趣旨目的に反する行為又は当該規定が本来予定していないような当該規定の射程範囲外にある行為についてまで課税の減免を認めなければならない理由はない。また,同解釈は,法律解釈の方法としていわば当然のことであり,かかる解釈を個別的な法律規定が存在しない場合に行うとしても租税法律主義には反しない。

 換言すれば,法69条は,同条が内包する趣旨,目的から,その控除されるべき源泉税が当然に予定されており,同条の趣旨に反する取引には同条の適用は認められず,当該規定の射程範囲の外にある行為についてまで課税の減免を認めなければならない理由はないのである。

(2)法69条の課税減免要件

ア 法69条1項の「納付することとなる場合」の限定解釈

 法69条の限定解釈につき更に具体的にみると,同条が国際的二重課税を排除して,我が国企業の国際取引に伴う課税上の障害を取り除き,事業活動に対する税制の中立性を確保することを目的とすることから,法69条は,内国法人が客観的にみて正当な事業目的を有する通常の経済活動に伴う国際的取引から必然的に外国税を納付することとなる場合に適用され,かかる場合に外国税額控除が認められ,かつその場合に限定されるというべきである。

 そこで,法69条1項の「納付することとなる場合」とは,内国法人が正当な事業目的(business purpose)を有する通常の経済活動に伴う国際的取引から必然的に外国税を納付することとなる場合をいい,同事業目的のない取引から生じた「納付」は,そもそも法69条1項の「納付することとなる場合」には当たらないものと解されるのである。

 例えば,①当該取引から得られる利益が名目的なものにとどまり,外国税額控除を得ることのみを目的とした取引と認められる場合,換言すれば,租税に関する利益ないし租税回避のみを目的としたと認められる場合や,②当該取引から得られる利益と,外国税額控除から得られる利益とを比較した場合に前者が後者に比べて著しく少ない場合には,正当な事業目的を有せず,法69条1項の「納付することとなる場合」には当たらないものと解される。

 これらの取引は,一般的に期待される外国税額控除による課税上の利益と比較してほとんどあるいは全く経済的利益を生み出さないように構築されており,外国税額控除が前提とする事業活動がない取引にほかならない。

 また,前記①及び②の各場合に外国税額控除による利益を与えることは,低税率で課された国外源泉所得に対する我が国の課税を減少させるために開発された濫用的取引から生じる外国税について税額控除を認めることなり,一括限度額方式を採用した我が国の外国税額控除制度の趣旨に明らかに矛盾し,法律の目的が害されることになる。当該取引から得られる外国税額控除の利益は,実質的には,低税率ないし無税の地域で活動し所得を得ている納税者に対する補助金の性質を有することとなり,当該取引を国際金融の手段を通じて他国の法人に供与することは外国税額控除余裕枠の売買であり認められない。

 したがって,法69条の趣旨及び目的から,前記①及び②の要件に該当するような場合には,そもそも同条の与える恩恵は及ばず,当該取引から生じた外国源泉所得税について外国税額控除は認められないと解されるのである。

 また,事業目的の判断に当たっては,その主体に留意するべきである。本件各取引において判断すべき事業目的とは,外国税額控除が認められるかという解釈に際しての「事業目的」の有無についての判断なのであるから,それは当然,同制度を利用する立場にある原告について,その事業目的の内容が検討されなければならない。

 本件において,ファースト社に本件C/D購入の目的があったことは当然であり,これをもって事業目的があるということはできない。

イ 正当な事業目的の有無に関する具体的判断基準

 当該取引が正当な事業目的を有するか否かについて具体的な判断をするに当たっては,後記のような諸事情が考慮されなければならない。

 なお,当該取引が正当な事業目的を有するか否かを判断するに当たっては,当該取引が複数の個々の取引により構成される一連の取引であると認められる場合には,当該一連の取引を全体的に考察して,同取引から得られる利益及び外国税額控除により得られる利益を評価することが同各利益を適正に評価することになるのは当然である。

(ア)取引開始前に検討されるべき事項

① 事業の目的及び取引に至る経緯

 当該取引が正当な事業目的を有するというためには,その取引が,もっぱら租税に関する利益又は租税回避を目的として開始される取引ではないことはもちろん,取引それ自体が企業の通常の事業目的と適合したものであるべきであり,事業利益の創出に役立つものであることが必要である。その判断については,企業が行う事業目的として妥当であるかのみならず,当該取引に至る経緯を通じて合理性が判断される。

② 取引の種類

 「納付」は,企業が通常行う取引から必然的に生じるものであり,故意に「納付」を作出する取引は通常の取引とはいえず,このような取引は正当な事業目的を有するとはいえない。当該取引の通常性は,当該企業の業種及び業態により判断される。

③ 契約内容の妥当性

 正当な事業目的があるというためには,当該取引の締結を示す契約書等における当事者間の合意内容が適正なものでなければならない。特にリスクの分担及び租税負担の配分は経済的に合理的なものでなければならない。

④ 予定される決済の妥当性

 正当な事業目的があるというためには,当該事業目的を達成するために必要かつ合理的な決済方法が予定されるべきであり,合理的な理由もなく決済手段をう回するような取引は,事業目的に背理した取引であると考えられる。

⑤ 期待利益の妥当性

 正当な事業目的があるというためには,当該取引を実行する上で,しかるべき利益が得られるものでなければならない。

 なお,外国税額控除の利益に比べて名目的な利益しか生じない取引及び合理的な理由もなく取引の遂行により損失を生み出す取引は,経済的に合理的な取引とは認められず,事業目的を有するとはいえない。

⑥ 複数の取引相互間の関連性

 正当な事業目的があるというためには,当該取引が,複数の個々の取引により構成される一連の取引の一部であると認められる場合には,個々の取引相互間の関連性と,複数の取引から構成される合理的な理由が存在していなければならない。

⑦ 既存取引参画の合理性

 一定の経済的目的実現のために既に取引が行われ,取引によってその目的が達成し得ると認められる場合に,同取引に参画して新たな取引を行う場合には,同参画によって付加される利益があり,かつ同参画の理由が合理的なものでなければ,当該新たな取引は正当な事業目的を有するものとはいえない。

(イ)取引開始後に検討されるべき事項

① 取引内容の妥当性

 正当な事業目的があるというためには,前記(ア)①の事業目的要件が合理的に遂行されていることが必要である。

② 資金の流れ

 正当な事業目的の有無の判断においては,資金の決済が契約で締結した内容と合致するか及び事業目的遂行の上で,採用された決済方法が妥当かが検討されなければならない。現実に金銭の移動がない取引は一般に資金決済として不適当である。

③ リベート等収入の有無

 取引に係わることに関して実質的にリベートを与え,又は与えられる取引で,リベートなしには取引そのものが行われないようなものは,本来の事業目的とは異なる目的を有するからにほかならず,事業目的を有する取引として不適当である。

(ウ)当該取引が正当な事業目的を有し当該取引から生じる外国税の納付が法69条1項に規定する「納付することとなる場合」に該当するか否かについては,前記(ア)及び(イ)の検討すべき事項を総合的に検討の上,判断されなければならない。

3 本件取引への当てはめ

 以上を前提に,本件取引が正当な事業目的を有する取引であるかについて,以下において検討することにする。

 この点につき,法69条1項の外国税額控除の適否が問題となるのは,本件ローン契約に基づく貸付金利息に関し負担したとされるクック諸島源泉税であるから,当該正当な事業目的の有無を判断すべき取引は,本件ローン契約となるが,本件取引は,本件ローン契約,本件預金契約及び通貨スワップ契約により構成された一連の取引であるため,当該正当な事業目的の有無を判断するに当たっても本件取引全体を考察して判断せざるを得ないため,以下においては,特に本件ローン契約に限定することなく本件取引全体を検討の対象とする。

(1)取引開始前に検討されるべき事項

ア 事業の目的及び取引に至る経緯

 本件取引は,ファースト社及びユーロピアン社においては,被告主張の「本来の取引」を行った場合に生じるユーロピアン社の源泉徴収課税の負担を回避する目的で開始されたものである。

 他方,原告においては,前記目的に適合させるため,本件ローン契約の貸主及び本件預金契約の預入先として介在し,もって我が国における外国税額控除の余裕枠を提供するのと引替えにかかる役務提供に対する対価を得ることを目指して開始された取引である。

 また,原告は,クック諸島源泉税15パーセント全額について外国税額控除の適用を受けるため,真実は平成元年4月6日以降に本件ローン契約及び本件預金契約が各締結されたにもかかわらず,上記各契約書の締結日が,契約書上,同年3月31日に遡及されたのであり,このような本件取引に至る経緯をみても,本件取引は,租税負担の回避を目的として開始された取引であることは明らかである。

 以上より,本件取引は,租税負担の回避を目的として開始された取引であり,取引それ自体が企業の通常の事業目的として適合していないことは明らかである。

イ 取引の種類

 原告は,銀行業を営む法人であるから,本件取引のうち本件ローン契約及び本件預金契約の各締結は,形式的には,銀行が通常行う取引であると認められるけれども,実質的には,通常の貸金契約及び預金契約であると認めることができない。

 また,原告は,本件取引において,形式的には,本件預金契約に基づきユーロピアン社から5000万USドルの預入れを受け,かつ本件ローン契約に基づきファースト社に対し同額の金員の貸付けを行っているようにみえるが,実質的には,本件ローン契約における貸主の立場で本件取引に介在することにより,ユーロピアン社に代わりクック諸島源泉税について我が国における外国税額控除の適用を受ける形で吸収していたにすぎない。

 以上より,本件取引は,銀行が通常行う取引ではなく,当初から原告の外国税額控除の余裕枠を利用させることを目的として本件ローン契約及び本件預金契約の各締結という形式により故意に外国税額の「納付」が作出された取引であると認められるのであり,このような取引は,正当な事業目的を有しているとはいえないのである。

ウ 契約内容の妥当性

 本件取引は,契約書上,貸付金利息及び預金利息の決済により,原告が利ざやを取得できることが予定されていたのであるが,ファースト社から貸付金利息の前払を受ける際には同社においてクック諸島源泉税相当額の控除をすることが許されているため,前記決済により,原告には逆ざやが生じることになり,我が国における外国税額控除の適用を受けなければ,当初予定された利ざやを取得できない仕組みになっており,これが通常の預金担保貸付けの合意内容として不合理である。

 また,契約書上,貸付金利息の前払が予定されているのに対応して預金利息も前払がされることになるが,預金利息の前払は,通常の預金契約における当事者の合理的な意思解釈からみても,また,金融機関一般の慣行に照らしてみても不合理である(国際融資では,貸付金利息の前払も,通常の慣行に反する不合理なものである。)。

 特に本件ローン契約書には,原告において我が国における外国税額控除の適用を受けられない場合でも,未だ「否認判断」がされていない段階であれば,ファースト社に対し,補填義務ないし補償義務を要求することにより同利ざやを得たのと同様の効果が実現できると定められていることは前記第3の2,1(1)イ(エ)のとおりであり,その限りにおいて何ら金銭貸付けに関するリスクの負担が定められていない点で経済的に不合理である。

エ 予定される決済の妥当性

 本件取引は,本来はユーロピアン社とファースト社との取引であるにもかかわらず,本件ローン契約の貸主及び本件預金契約の預入先として原告シンガポール支店が介在し決済手段をう回させたことにより原告においてクック諸島源泉税を発生させる取引を作出したのである。このような決済は,事業目的に背理した取引である。

オ 期待利益の妥当性

 本件取引は,前記第3の2,1(1)イ(ウ)で述べたとおり,我が国における外国税額控除の適用を受けない限り,原告は,当初契約で予定された利ざやを取得できないのであり,同外国税額控除の適用に依存している点で当該取引自体の実行により期待された利益が取得できる取引ではないというべきである。

 また,原告が本件取引により得ることができる利益は,外国税額控除の余裕枠を提供するのと引替えに得られる対価にすぎず,この対価は,外国税額控除から得られる利益に比べれば著しく少ないものである。

カ 複数の取引相互間の関連性

 本件取引は,原告,ユーロピアン社及びファースト社間の個々の複数の取引により構成されているのであるが,ユーロピアン社とファースト社は,被告主張の「本来の取引」を行った場合でも,5000万USドル相当NZドルを融資する目的は達成されるから,同一の目的を達成するため,別途,原告との間で本件預金契約及び本件ローン契約を締結する必要はない。

 また,原告は,被告主張の「本来の取引」を行った場合に生じるユーロピアン社の源泉徴収課税を回避する目的をもって本件ローン契約の貸主及び本件預金契約の預入先として介在しているにすぎないのであり,当該介在すること自体の意味は,我が国における外国税額控除の余裕枠を提供するのと引替えに同役務提供に対する対価を取得する以外には何も存在しないのである。

 以上より,本件取引は,本来,ユーロピアン社がファースト社に対し,5000万USドル相当NZドルを融資することにより,当事者の目的が実現される取引であり,特に,本件ローン契約の貸主及び本件預金契約の預入先として原告を介在させる必要もないから,個々の複数の取引により構成される合理的な理由は存在しないのである。

キ 既存取引参画の合理性

 本件取引は,前記カで述べたとおり本来ユーロピアン社がファースト社に対し,5000万USドル相当NZドルを融資することにより,当事者の目的が実現される取引であり,特に,本件ローン契約の貸主及び本件預金契約の預入先として原告を介在させる必要もないのであるが,同介在すること自体の意味は,もとより,被告主張の「本来の取引」を行った場合に生じるユーロピアン社の源泉徴収課税を回避する目的をもって,外国税額控除の余裕枠を提供しこれと引替えに当該役務提供に対する対価を取得することであり,もっぱら租税に関する利益ないし租税回避の利益の追求自体が,本件取引に参画する理由である以上,当該参画の理由が合理性を有するとは認められない。

(2)取引開始後に検討されるべき事項

ア 取引内容の妥当性

 本件取引は,被告主張の「本来の取引」を行った場合に生じるユーロピアン社の源泉徴収課税の負担を回避する目的で開始されたものであり,原告においては,前記目的に適合させるため,本件ローン契約の貸主及び本件預金契約の預入先として介在することにより,もって我が国における外国税額控除の余裕枠を提供するのと引替えに同役務提供に対する対価を得ることを目指して開始された取引である。

 このような取引が正当な事業目的のため合理的に遂行された取引であると認められないことは明らかである。

イ 資金の流れ

 本件取引における5000万USドルの流れは,形式的には本件預金契約に基づく預金元本としてユーロピアン社から原告シンガポール支店へ送金され,本件ローン契約に基づく貸付元本として原告シンガポール支店からファースト社へ送金されているが,実質的には,同5000万USドルは,同一日付で関係当事者間を環流しており資金循環の一部を構成しているにすぎないものである。

 また,同5000万USドルが,本件取引の開始段階で資金循環していることに対応し,本件取引の終了段階では,契約書上,貸付元本の返済及び預金元本の返還が約定されているにもかかわらず現実的な資金移動もなく契約関係が終了している。

 以上より,本件取引では極めて初歩的,かつ典型的な資金循環の手法が行われている点で正当な事業目的を認めることができない。

ウ リベート等収入の有無

 本件取引においては,原告は,本件ローン契約に基づき,貸付金利息の受領とは別に本件取引参加料を受領しているのであり,同取引参加料が,通常の貸金契約における貸主が本来受領すべきリベート収入でない。

 また,本件取引の実質を考慮すれば,本件取引参加料は,前記のとおり,外国税額控除の余裕枠を提供したことに対する対価の一部と認められるが,本件ローン契約書において,貸主が借主からリベートの付与を受けることが定められていること自体,本件ローン契約が,本来の事業目的とは異なる,もっぱら租税に関する利益ないし租税負担の回避を目的とする取引であることを示しているのであり,このような意味で,本件ローン契約は,正当な事業目的を有する取引として不適当である。

(3)原告の事業目的

 無償で租税回避行為に加担する者はないから,原告が本件取引で利益を得ようとすることをもって,原告の事業目的とすることは相当ではない。このように解すれば,有償で租税回避行為に加担する行為は常に事業目的があることになってしまうが,そうだとすれば,外形的にも外国税額控除枠の売買契約とか,有償で外国税納付の名義を貸す契約を締結した場合であっても,事業目的があるということになり非常識な結論となる。

 また,外国税額控除余裕枠の提供が自らの事業活動上の能力・資源の活用であるなどとして合法とされるのであれば,外国税額控除余裕枠のある限り,これを提供して手数料を得ることが可能となるのであって,これは,合法的に我が国の租税歳入を取引の手段と化し,租税歳入を侵食して,手数料を得ることを認めるものである。

(4)前記(1)ないし(3)の各事情を総合的に考慮して判断すれば,本件取引が正当な事業目的を有する取引であると認めることができないことは明らかである。

4 まとめ

 以上によれば,本件取引は正当な事業目的を有する取引であると認めることはできないのであるから,本件取引のうち本件ローン契約に基づく貸付金利息に関して負担したとされるクック諸島源泉税については,法69条1項の「納付することとなる場合」には当たらないと解すべきである。加えて,このような外国企業の租税負担の回避のための利益操作にくみするなら,国際的二重課税の排除を目的とした外国税額控除の名の下に,日本国における外国税額控除の余裕枠を外国企業に売り払うことを許容することになり,我が国の税収確保に甚大な損害を与えるばかりか,外国税額控除制度の存在意義そのものが失われることになるといわざるを得ないことから,法69条は,外国税額控除制度の適用を目的とするような不自然かつ不合理な取引を行い,故意に外国法人税を発生させたような場合までをも予定していると解することはできない。

 したがって,本件で,原告は,平成4年ないし平成6年の各3月期における法人税について,いずれも法69条1項が定める外国税額控除の適用を受けることはできないのである。

第3の4 予備的主張の場合の税額(損金処理の可否)

1 損金に該当しないこと等

(1)本件ローン契約は,ファースト社と原告との間で,原告が外国税額控除を受けることを前提として締結されたものであり,原告が外国税額控除を受けられない場合について,契約条項に前記第3の2,1(1)イ(エ)で指摘した19条C(Ⅱ)及び19条Gaの規定がある。

 同契約の規定によれば,原告が外国税額控除の適用が受けられない場合,その部分については,本件ローン契約に係る権利義務をユーロピアン社に譲渡し,ファースト社が原告にこれを補償し,負担することとなっている。

 したがって,原告がクック諸島源泉税相当額を支出したとしても,外国税控除が受けられなければ,その返還を受けることができるのであるから,原告の同支出が直ちに損金になることはなく,これを仮払金として取り扱うべきものというべきである。

(2)なお,同契約条項には,ファースト社の補償義務は,本件ローン契約上の義務とは別個独立したものであり,譲受人たる第三者には譲渡されないものであり,本件ローン契約上の権利,利益,義務とは別個に,原告に対し引き続き負担され続けるものであるが,ファースト社は,同譲渡より24か月を経過した日以降は義務を負担しないこととなる(同契約書19条G)との定めも置かれている。

 同条項によれば,原告は現時点ではファースト社に対する前記条項に基づく権利を行使できないとも考えられるが,そうだとしても,少なくとも本件ローン契約の権利義務を譲渡した後,24か月を経過するまでは,原告はファースト社に対し,補償を求める権利を有したのであるから,それまでは,同金員は損金として確定しなかったものというべきである。

(3)また,仮に,原告が前記条項に基づいて,ファースト社らに対する補償を求め得ないものとすると,本件各契約は,原告において外国税額控除を受けることが当然の前提となっており,その場合の補償規定がないとすれば,契約について,要素の錯誤があるというべきである。したがって,原告はファースト社らに対して,本件ローン契約の錯誤無効等を主張して,原状回復を求めることができると解される。

(4)したがって,外国税額控除が認められない場合に原告が負担すべき額については,原告が当該契約条項に基づき,又は錯誤無効を主張するなどして本件源泉税相当額の返還を求めて,ファースト社との間で協議し,協議が整わなければ,訴訟を提起するなどしてその償還を求めることができるのであって,仮に同債権がその後回収不能になったとしても,そのことを原告が主張立証しない限り,損金に算入できないし,その時期についても,実際に当該源泉税相当額が回収不能となった時点で損金に算入すべきこととなるのである。

 さらに,前記各条項によれば,少なくとも本件ローン契約の権利義務を譲渡した後,24か月を経過するまでは原告の損金としては,確定しなかったものというべきである。

(5)以上によれば,原告が納付したとする本件源泉税相当額は,当該事業年度においては,仮払金として処理すべきものであり,当該仮払金が損金として確定したものとしても,本件ローン契約を譲渡した日から24か月を経過した時期に確定したもので,それまでは損金として確定しないから,本件処分の対象となった最終事業年度の平成6年3月期においては未だ仮払金としての性格を失わず,損金に計上できるのは平成7年3月以降の事業年度になるというべきである。

2 外国税額控除制度の適用と損金経理との選択について

(1)被告の主張

 被告の予備的主張が採用された場合,前記1記載の点をおくとしても,法41条により,外国税額控除制度の適用を受ける事業年度において納付した他の外国法人税とともに,それが外国税額控除の適用がなされるか否かにかかわりなく,一括して外国法人税額の全額が損金に算入できないというべきである。

(2)法41条の趣旨について

 我が国の国内法上,外国税は損金に算入されることが原則であるところ,法41条は,外国税額の損金算入について「内国法人が第六十九条第一項(外国税額の控除)に規定する控除対象外国法人税の額につき同条(中略)の規定の適用を受ける場合には,当該控除対象外国法人税の額は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しない」と規定し,納税者が外国税額控除制度を選択する場合には,外国法人税の全部について損金の額に算入しないとしている。

 すなわち,法41条は,外国法人税額につき損金に算入をし,同時に税額控除をも認めると二重に控除を認めることとなること及び我が国の外国税額控除制度が一括限度額方式を採用し,外国税額控除の適用を受けるかどうかの選択が事業年度を単位として行われ,各事業年度において納付することとなる外国法人税を一括して計算することから,納税者が法69条に定める外国税額控除を選択するときには,税額控除あるいは還付を受けた金額ではなく,控除額計算の基礎となった外国法人税額の全額について損金に算入しないことを明記したのである。

 そのことは,同様に法人税額から控除する所得税額の損金不算入について定めた法40条が「これらの規定による控除又は還付をされる金額に相当する金額は・・・」と規定され,所得税額の損金不算入が控除あるいは還付を受けた金額に相当する金額であるとされるのに比し,法41条が「当該控除対象外国法人税の額は・・・」と異なる文言で規定されていることから,法40条とは違って外国税額の損金不算入が控除あるいは還付を受けた金額ではなく,控除額計算の基礎となった額全額に及ぶと解されるところにある。なお,法68条,70条に規定する税額控除は,日本国内において納められた税について申告の際の税額計算において調整を行うものである。それに対して法69条に規定する外国税額控除制度は外国で納められた税について一定の要件のもとて国際的二重課税を排除するために設けられているものであって,法68条,70条に規定する税額控除と全く同列に解することはできない。すなわち,日本国内で納付された税金についての精算は何ら課税に関する国家主権の問題に抵触することはないが,国家間における税の精算はそれ自体国家主権の問題に抵触するものである。その上で外国税額控除制度は,政策的考慮と日本国の課税権を譲歩して国際的二重課税を排除するという課税権の調整を目的として採用されたものであり,国内で納付された税の控除を認める税額控除のように一律に控除が認められるというものではない。仮に,法69条が日本国内で納付された税に関する規定であれば,特に控除限度額に関する定をおくこともないのであり,外国税額控除が控除限度額を定めたのは日本国と外国とは税率も税の種類も異なることから,控除限度額について所要の定を必要とし,その範囲内で外国税額控除を認めるとしたのである。よって,日本国内での納付税額に関する税額控除を単純に外国税額控除と比較することはできない。

 そして,法41条を受けて,法人税基本通達16-3-1は,「内国法人が,当該事業年度において納付する外国法人税の額(法69条1項【外国税額の控除】に規定する控除対象外国法人税の額に限る。以下,16-3-1において同じ。)の一部につき同条の規定の適用を受ける場合には,法41条【法人税額から控除する外国税額の損金不算入】の規定により当該外国法人税の額の全部が損金の額に算入されないことに留意する。」と定め,外国法人税を納付する内国法人は,各事業年度ごとに,納付することとなった外国法人税の全部について,税額控除の適用を受けるか損金に算入するかを選択することになるのであって,仮に,法人が各事業年度において納付した外国法人税の一部についてだけ,法69条1項に規定する税額控除の適用をし,他の外国法人税について同条の規定を適用しないで損金に算入した場合でもその事業年度において納付する外国法人税をすべて税額控除を選択したものとみなして,その事業年度に納付する外国法人税の全額について,所得金額の計算上,損金の額には算入しないことを明らかにしている。

(3)小括

 このように,外国税額控除制度は,外国法人税の全部について税額控除か損金算入のいずれか一方の方法を選ばなければならず,当該事業年度において納付する外国法人税の一部について,税額控除を選択して法69条の適用を受けてしまうと,同条の適用を受けなかった残りの外国法人税も損金に算入されないことになるのである。

 この結果,本件において,原告が本件源泉税の外に平成4年3月期においては23億3963万8923円,平成5年3月期においては30億5986万9569円の,また,平成6年3月期においては23億0389万0687円の外国税額控除の適用を選択していることから,本件取引で原告が納付したとする外国法人税を,損金の額に算入することは許されない。

3 税額

 次に具体的な税額であるが,①本件源泉税は本件各更正処分の対象となる最終事業年度の平成6年3月期においては仮払金として計上し得るが損金には該当しないとした場合の各事業年度の税額は別紙7ないし9のとおりであり,そうでないとしても,②本件源泉税は,法41条により,外国税額控除制度の適用を受ける事業年度において納付した他の外国法人税と共に,それが外国税額控除の適用がなされるか否かに関わりなく,一括して外国法人税額の全額が損金に算入できないとした場合の各事業年度の税額は別紙10ないし12のとおりである。

 したがって,その範囲内でなされた本件各更正処分は適法である。

 

 

 

 

 

 

第4 原告の主張

第4の1 租税回避の否認と租税法律主義について

1(1)租税回避の定義

 一般的には,①その行われた行為は私法上有効な行為であるが,②異常又は不自然な行為によりもっぱら又は主として租税軽減を目的とする行為である場合に,その行為は租税回避行為である。

 また,租税回避を目的とする行為であっても租税法規が当然に予定している行為または租税法規が許容している行為は「異常または不自然な行為」であるとはいえず,その行為は租税回避行為にはあたらない。

(2)租税回避の効果

 当事者が用いた私法上の法形式を私法上は有効なことを前提としつつも,租税法上はそれを無視し,通常用いられる法形式に対応する課税要件が充足されたものとして課税を行うことを租税回避の否認という。

 我が国には,租税回避の否認を一般的に認めた規定はなく,一方,かなりの数の個別規定が存在する。この個別の否認規定がある場合に,その定める要件に従って否認が認められることは言うまでもないが,否認規定がない場合には,租税法律主義の下では法律の根拠なしに当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引きなおし,それに対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う権限を課税庁に認めることは困難であり,また,否認の要件や基準の設定をめぐって課税庁も裁判所もきわめて複雑な,そして決め手のない負担を背負うことになる。

 したがって,租税法律主義を採用する我が国においては,租税回避行為については立法府が対応することにより問題の解決を図るべきであり,個別規定か一般的規定かはともかく,法律の根拠がない限り,租税回避行為の否認は認められないと解すべきである。

2 本件預金契約及びローン契約と租税回避行為との関係

 まず,本件預金契約及びローン契約は,私法上有効な契約であり,かつ,収益獲得を目的とする銀行の本来業務としてなされており,また,その契約内容から明らかなとおり,通常の契約であり,「異常または不自然な行為」ではなく,そもそも租税回避行為にはあたらない。

3 被告の主張について

 被告は,私法上の法律構成による否認ないし法律解釈として法69条を限定解釈する手法により,本件取引を否認する。

 しかし,本件取引は私法上真正な取引であり,課税庁が私法上の観点を離れ,課税上の必要性からかかる真正な取引の私法上の効力を否定することは,個別規定なくして租税回避の否認を行うのと同義である。

 また,法律解釈として,法69条の限定解釈を行い,私法上有効な(真正な)本件取引を否認する手法も,許容された法解釈を逸脱したものであり,実質的には個別規定なくして租税回避の否認を行うものに他ならない。

 このように,被告が本件において主張する否認類型は,まさしく課税上の必要性から,真実に存在する法律関係を無視するものに他ならない。

第4の2 私法上の法律構成による否認について

1 一般論

 課税要件事実の認定にあたり,真実に存在する法律関係に即して要件事実の認定がなされるべきは当然であるが,これは,真実に存在する法律関係からはなれて,その経済的成果なり目的なりに即して法律要件の存否を判断することを許容するものではない。

 つまり,私法上の行為の事実認定はあくまでも私法上の観点から行われるべきであり,私法上の行為が仮装行為であるかどうかの認定は慎重でなければならない。また,仮装行為であるとの認定は,税法(課税)との関係で相対的に行われるべきではない。

 被告のように本件取引の経済的成果である貸付金利息及び取引参加料の収受を外国税額控除枠の余裕枠提供の対価と評価し,その経済的成果の原因である本件取引を仮装行為と評価し,ローン契約は無効であると主張するのは,まさに上述の真実に存在する法律関係からはなれて「経済的成果なり目的なりに即して法律要件の存否を判断すること」に他ならず,課税庁の恣意により課税を行うことを許容するも同然である。

 これは,まさに課税庁が否認したいと望む取引について,税務的観点から当事者の意思を推測し,真実に存在する私法上の法律関係を無視するものに他ならず,「真実の」法律関係の認定の名の下に,明文の規定なくして租税回避行為の否認を認める結果になる。

2 本件における私法上の当事者の合意について

(1)原告は資金仲介機能を有する銀行であり,預金受入及び貸付は本来業務であること,本件預金契約及びローン契約は通常の契約であること(甲1,2),ローン契約の稟議の内容(金額,利率,期間,相手,担保等金銭消費貸借契約成立に必要な要素についてすべて稟議されている),稟議により会社組織として預金・貸金についての意思決定の過程を経ていること,契約書に忠実に則った手続が履践されていること,本件契約により原告は収益(0.35パーセントの利ざや)を獲得していること,取引参加料は,国際貸付として当然収受すべき手数料であること,原告内部において,経理上も預金・貸金として管理されていること等の事実に鑑みても,実質を伴う経済的取引としての預金契約及びローン契約である。

 また,原告担当者及び原告が,本件取引を預担案件として認識し,預担案件の収益として利ざや及び取引参加料を取得することを意図していたことは,稟議書(乙4)の「参加料も含め平均33B.Pのスブレッドは預担案件としては最良である」との記載から明らかである。

 そして,原告やファースト社及びユーロピアン社が,本件取引に際し,貸付取引及び預金取引の意思を有していなかったとか,外国税額控除の余裕枠に関する売買の合意をしていたとの証拠は全く存しない。

(2)なお,①原告稟議書(乙5)に,「W/Htax(源泉徴収税)吸収するため,介在する」との記載がある事実や,②原告が収益獲得につき外国税額控除の適用を前提としていた事実は認められる。

 しかし,まず,「源泉徴収税(W/Htax)を吸収(absorb)する」とは,「源泉税を負担する」という意味であり,源泉税は銀行負担である旨記載されたものにすぎない。このように,原告は,本件取引開始にあたり,外国税額控除を受けることを前提に本件取引の経済合理性を判断したのは事実であるが,この点は,原告が本件取引を行う誘因にすぎず,本件預金契約及びローン契約の有効性には何らの影響を与えるものではない。

 なお,国際貸付において源泉税を銀行が負担する(これを吸収するという。)場合に,銀行が一定率のフィーを徴求することもある(甲3,34頁)のであり,このことからしても,外国税額控除の適用を前提として国際貸付の取引採算を考えるのはごく当然のことといえるのであり,また,貸付自体の有効性には何らの影響も与えないといえるのである。

 そして,国税不服審判所の裁決(乙57)においても,本件取引が預金担保貸付として有効に存在すると認定されている。

 また,いかなる合理的経済人といえども,経済的意思決定を行うにあたっては,それに伴う税負担を度外視するわけにはいかず,むしろ,租税の問題は,経済的意思決定を行うに当たって考慮しなければならない最も重要なファクターの一つであり,経済取引は租税の存在を前提として行うのが常である。

 したがって,租税を考慮した取引であるからといって仮装行為であるということはできないし,一定の経済効果を達成するために複数の手段が存する場合において,課税上の軽減を受けることを前提にある行為を選択したとしても,直ちにその行為を仮装ということもできない。

 原告も海外貸付を行う際には,外国源泉税の問題については考慮すべきであり,これを前提に契約締結をなしたことをもって,仮装行為である等と非難されるいわれは全くない。

 以上述べたとおり,本件預金契約及びローン契約が通謀虚偽表示で無効であるとの被告主張は全く理由がない。

(3)また,本件各契約を総合的に判断しても,前記(1),(2)記載の事実や,次に述べるアないしエの各事実に鑑みれば,当事者の意思が「外国税額控除の余裕枠を利用させるのと引替えに,同利用に対する対価を得る」ことにあったとはいえない。

 被告の主張は,本件における真の法律関係を述べたものではなく,あくまでも本件取引についての税務的観点からの評価を述べたものにすぎず,私法上の法律構成による否認の手法により本件取引を否認することはできない。

ア まず,外国税額控除の余裕枠は,当然ながら,原告しか利用できないのであり,ファースト社及びユーロピアン社が実際に利用することは不可能である。よって,原告が第三者に余裕枠の提供を行うことは不可能である。

イ 次に,ユーロピアン社及びファースト社が,控除余裕枠利用の対価を原告に支払うことを合意し,原告はこれによりマージン及び取引参加料を取得したと被告は主張する。しかし,被告主張のマージン,すなわち,預担取引の利ざやは,外国税額控除を原告が利用した結果生ずるものである。このように,外国税額控除の利用と利ざや獲得は密接不可分に結びついているのであり,第三者が控除枠の利用をした結果,原告に利ざやが生じることなどあり得ない。

ウ また,取引参加料も,通常の国際貸付においてはごく当然に収受されるものであり,原告の稟議上も参加料として取得することが予定されている(乙4)。

エ さらに,本件取引は,原告の稟議書(乙4)「取上げ理由」の「参加料も含め,平均33B.Pのスブレッドは預担案件としては最良である」との記載からも明らかなように,あくまでも預担案件として取り上げたものである。

オ 以上より,本件取引の真の法律関係は,預金担保貸付に他ならない。

(4)ある取引を行うに当たり複数の選択肢がある場合,契約当事者がどのような選択肢を選ぶかは当事者の自由(契約自由の原則)である。その場合に,契約当事者が課税上最も有利な方法を選択したからといって非難されるいわれはない。

 本件において,ユーロピアン社は,その調達した資金をより効率的に投資・運用する努力をしたにすぎず,原告においても,預金担保貸付から生じる収益を獲得することを目的として本件取引に参加したものにすぎない。

3 被告の主張に対する反論

(1)資金循環の主張について

ア 本件取引は「資金循環」の一部を構成するものか

 本件取引が資金循環の一環をなすものであるとの被告の主張については争う。被告の同主張は乙第4号証の記載(通貨スワップにより5000USドルが循環するかの記載がある)のみを根拠とするが,原告は,実際にユーロピアン社及びファースト社間において通貨スワップ(による資金決済)取引が行われたか否か,あるいは仮に行われたとしてもどのような形態の通貨スワップ取引が行われたかについては知らない。なぜなら,被告の主張するユーロピアン社とファースト社間における通貨スワップ取引は,法的にも経済的にも本件取引と別個のものであり,また,それぞれ独立して存在する取引で,原告が何ら関知しない取引だからである。また,原告は,通貨スワップによる資金決済の存在やその内容を推認させる資料は乙第4号証を除いて有していない。

 仮に被告の主張するように,通貨スワップ(による資金決済)取引が実際に行われ,資金(5000USドル)が循環したとしても,この資金の循環は被告の主張する「実体上金銭貸付の実質がないのに,外観上資金を循環させてあたかも金銭貸付があったかのような形式を作り出し,租税負担の回避を図るテクニック」としての「資金循環」ではない。

イ 被告は,本件取引を資金循環の一部を構成する取引である,具体的には,ファースト社とユーロピアン社間のUSドルとNZドルのスワップ(による資金決済)取引から始まり,同スワップによりファースト社からユーロピアン社に送金されたUSドルが原告に対する預金として預け入れられ,その後,原告からファースト社に対する貸付金としてファースト社に送金され,結果的に同一日付で資金が循環すると主張する。

 しかし,スワップの有無に関しては原告の関知するところではない点については既述のとおりであり,また,被告は同一日付でUSドルが循環すると主張するが,スワップがいつ,どのような形式でなされたかに関する立証はされておらず,少なくとも,スワップが預金担保貸付と同時に行われたとの証拠は全くない。

 よって,同一日付での資金循環の主張は全く被告の憶測に基づくものにすぎない。

 被告が同一日付での資金循環の主張に重点をおく理由は,おそらく,ユーロピアン社からファースト社へ直接5000万USドルに相当するNZドル(現金)を移動させることを重要視する,つまり,かかる取引を「本来取引」と構成するからに他ならない。

 しかし,そもそもキャピタルマーケット社の目的は,投資家から集めた資金(価値)をクック諸島で運用することにあり,その手段として本件取引(預金担保貸付)が選択されたものにすぎない。

 そして,本件取引がUSドル建てでなされた理由は,一般的に邦銀を含む本邦企業は,為替リスクの大きい通貨(NZドル)での取引を避けるからにすぎない。この点,キャピタルマーケット社の意図は,5000万USドル相当NZドルという価値の移動(USドル)に重点があったのであるから,NZドルでの預金担保貸付であろうが,USドル建てであろうがどちらでもよかったのである。

 このように考えれば,ユーロピアン社からファースト社へのNZドル建ての貸付を本来取引と構成する必要性は全くないことは明らかである。よって,USドルの資金が循環したか否かは本件取引において重要ではない。

 なお,仮にユーロピアン社とファースト社間において,スワップ(による資金決済)がなされていたとしても,これは,被告の主張する意味における「資金循環」ではない。

 スワップは,一般的に為替や金利リスクのヘッジのために行われるものである。外貨建金融資産又は外貨建金融負債を保有している銀行業においては,資金調達通貨と異なる通貨で資金運用を行うことが多く,異なる通貨での資金調達・運用を動機として通貨スワップを行うことが通常であり,本件におけるファースト社が,投資元本(NZドル)と借入元本(USドル)の為替リスクのヘッジ,及び原告への利息支払債務(USドル)と投資運用利息(NZドル)の為替・金利リスクをヘッジするために,スワップ取引を行うことはごく通常の取引なのである。そして,この場合のスワップ取引の相手は誰であっても,同様の効果は得られる。もちろん,スワップ取引の相手がユーロピアン社であったとしても,何ら不自然ではない。

 また,既述のとおり,原告との本件取引をNZドル建てで行った場合にも,資金循環は起こらないが,本件取引を行ったのと同様の効果が得られることに十分留意すべきである。

 さらに,被告は,あたかも通貨スワップ取引によりユーロピアン社に送金されたUSドルが原告に預金されたかの主張をするが,原告は,ファースト社への融資に先立ち,ユーロピアン社から預金を受け入れていることは証拠上明らかであり(乙6,7),原告が融資したUSドルが通貨スワップ取引によりファースト社からユーロピアン社に移転し,結果,ユーロピアン社からの預金として原告に還流することなどあり得ない。仮に,被告の主張のとおり,USドル資金が循環したとしても,ユーロピアン社あるいはファースト社において,USドルの現実の調達は必須であることは明らかである。

 以上より,本件取引が循環金融の一部であるとの被告主張は,「循環金融」という言葉自体から推測される悪質性を本件取引に対してイメージさせることを目的とするものに他ならない。

ウ アメリカの取引と本件取引の違い

 本件取引は,「典型的な資金循環の手法」である,被告引用のカリフォルニア州弁護士が行った取引やこれと同様の手法を用いた取引(Circular Financing以下第4「原告の主張」の項では「アメリカの取引」という。)とは事案として全く異なるものである。

 アメリカの取引においては,資金循環(による貸付)を何回も繰り返す(カリフォルニアの例では2日間に91回も繰り返されている)ことにより多額の利子費用を作り出す手法が用いられているところ,同取引はこの利子費用を作り出すための資金循環(による貸付)を人為的に繰り返す点のみに意味がある取引である。つまり,資金循環なしには成り立ち得ない点に仮装性の根拠がある。とするならば,資金が循環する取引が常に「実体上金銭貸付の実質がないのに,外観上資金を循環させてあたかも金銭貸付があったかのような形式を創り出し,租税負担の回避を図るテクニック」を用いているとはいえないのである。

 これに対し,本件取引は,後述のように,資金仲介機能を有する銀行が収益獲得を目的として行った通常の預金担保貸付(私法上有効な取引)である。仮にファースト社及びユーロピアン社の間で通貨スワップ取引が行われ,結果的に資金が循環したとしても,この資金の循環にはアメリカの取引におけるような人為性は認められない(資金の循環自体には意味はない)し,また,通貨スワップ取引(による資金循環)の有無にかかわらず,本件取引は金融機関の資金仲介機能を果たす意味のある独立した取引として成立しているものに他ならない。

 なお,本件における被告主張の「本来の取引」はユーロピアン社からファースト社への5000USドル相当NZドルの貸付であるところ,仮に両社がこれと異なる形態の取引を選択した場合,例えばユーロピアン社が原告に対しNZドルを預金し,原告がファースト社へNZドルを貸し付けた場合においても,ユーロピアン社及びファースト社は,本件取引と同様の効果を得られると考えられるが(この場合は資金の循環は起こらない),被告はおそらくこのNZドルの預金担保貸付をも仮装行為として否認してきたであろうことは容易に予想できるところである。このことからも,本件取引が私法上真正な取引か否かを判断するにあたり,資金の循環が重要な論点でないことは明らかである。なお,本件取引において,NZドルでなくUSドルでの預金担保貸付が相手方から提案されたのは,邦銀においては一般的には為替リスクのヘッジのためNZドルによる取引を行わないからである(本件取引においても原告の受け取る収益についての為替リスクのヘッジの必要がある)。

 以上より,本件取引は,原告が金融機関として収益獲得を目的として行った取引であるという点,及び資金循環なくしてもそれ自体独立した取引として成立する点で,租税回避のみが目的があるアメリカの取引とは本質的に異なり,資金の循環をもって本件取引の私法上の効力を否定することは出来ない。

エ 通貨スワップ取引と本件取引との関係

 仮に被告主張の通貨スワップ取引があったとしても,本件取引が後記(2)から明らかなように実体を伴った預金担保貸付である以上,通貨スワップ取引により資金が循環しても,本件取引が私法上真正に行われたか否かを判定するにあたり,資金の循環自体は重要な論点ではなく,前述のようにそれをもって本件取引が私法上真正でない(仮装取引)と断定するのは誤りである。本件取引に実体上金銭貸付の実質があるか否かが論点である。そして,後述のように本件取引は通常の預金担保貸付の実質を有していることから,資金の循環があろうがなかろうが,本件取引は私法上真正な取引であることに相違ない。

 また,そもそも,金利変動や為替変動のリスクそのものを取引の対象にしたものがスワップであり,そのスワップの有用性や危険性はスワップ契約の当事者に帰属するものである。本件取引とスワップ契約は,法的にも経済的にも別個のものであり,ユーロピアン社及びファースト社がそれぞれの原債務を交換するような約定のスワップを行ったとしても,それはユーロピアン社及びファースト社の経済行為であり,その取引がもつ有用性や危険性は,両社に帰属し原告とは関係ない取引である。被告は法的にも経済的にも原告とは関係のない取引を混同して「資金循環」を主張しているに過ぎない。

オ 本件取引における資金の流れ

(ア)本件取引開始段階において,本件預金契約に基づく預金元本5000万USドルがユーロピアン社から原告(シンガポール支店)に実際に預入され,本件ローン契約に基づく貸付元本5000万USドルが原告(シンガポール支店)からファースト社に貸付された。

(イ)また,本件取引終了段階における資金移動は次のとおりである。

 原告とファースト社間におけるローン取引については,ローン契約書19条Cに基づき,原告からユーロピアン社に対してローン債権を譲渡することにより終了した。原告とユーロピアン社間における預金取引については,前記債権譲渡代金と預金元本とを相殺することにより終了した。被告は本件取引終了段階において現実の資金移動なく終了した点にこだわるようであるが,上記いずれの事情も本件取引が仮装行為であるとの主張の根拠にはならない。すなわち,資金移動には必然的に事務リスクが伴うのであり,それを回避するために,より簡易な決済方法を採用することはむしろ合理的であり,かかる合理的な方法をとったことが本件ローン契約及び本件預金契約の意思を否定する理由とはなり得ない。

 また,被告はファースト社とユーロピアン社間における通貨スワップについても現実の資金移動なく終了したとの主張をするが,仮に通貨スワップがあったとしても,取引終了段階において現実の資金移動なくして終わることは通常あり得ず,被告の主張は誤りである。

 すなわち,取引開始段階においてファースト社とユーロピアン社間においてNZドルとUSドルのスワップが行われたとの被告主張を前提に考えると,取引開始段階においては,原告,ファースト社及びユーロピアン社はそれぞれ相手方に対し債権を有していた。債権譲渡が行われた平成6年3月31日段階においては,原告とユーロピアン社間の預金債権及び債権譲渡代金債権は相殺合意により消滅し,ファースト社のユーロピアン社に対する通貨スワップによるUSドル債権と,ユーロピアン社が原告から債権譲渡により取得したUSドルのローン債権を相殺により消滅させることが可能であった。仮に同相殺がなされたならば,ユーロピアン社からファースト社に対するNZドル債権が残ることになる。したがって,本件一連の取引を終了させるには,ファースト社からユーロピアン社に対してNZドルの資金決済をする必要があり,被告主張のように現実の資金移動なくして本件一連の取引が終了することはありえず,被告の主張は誤りである。

(ウ)さらに,被告は,本件取引における資金の決済がユーロピアン社の口座と原告の口座間でのみなされていたと主張し,本件各契約の仮装性を裏付けると主張するが,本件における預金の預入・貸付金の支払,預貸金の利払は外国送金でなされているところ,ユーロピアン社と原告の口座間で資金決済されているのは,外国送金であるが故なのであり,ファースト社との間で現実の資金移動がなかったことを意味するのではない。

 すなわち,通常,海外貸付における貸付金の支払いは借主が預金口座を有する銀行(被仕向銀行)を経由して借主の預金口座へ入金する方法で行うため,仕向銀行は被仕向銀行に対し,入金処理をする口座を特定すべく受取人についての支払指図を行う。なお,仕向銀行と被仕向銀行との間にコルレス契約がない場合は,中継銀行を経由して送金することとなる。しかるところ,本件で原告は,ファースト社に対して貸付金5000万USドルを支払うためには,ファースト社が預金口座を有する銀行(被仕向銀行)に送金する必要があったのであり,ファースト社が預金口座を有する銀行はユーロピアン社であるが,原告とユーロピアン社間にはコルレス契約がなかったため,中継銀行としてニュー・ジーランド銀行に対し,5000万USドルはファースト社を受取人とする旨の支払指図を行い,この結果,資金はユーロピアン社を経由してファースト社に支払われたのである。

(2)本件取引の「通常」性について

ア 担保預金元本と同額の融資を行っている点について銀行が融資を行う場合,借主の信用状況,担保,資金使途,返済方法等を勘案して決する。担保の種類には,預金,不動産,有価証券等があり,担保の種類に応じてその評価方法(時価に一定の担保掛目を乗じて評価するのが一般である)が異なるところ,預金については一般的に100パーセントで担保評価されている。

 したがって,担保預金元本と同額の融資を行った本件預金担保貸付を「通常」でないとする被告の主張は失当である。

イ 利息の受払いについて

(ア)被告は,大蔵省銀行局長通達(昭和30年6月13日蔵銀第1248号,平成4年4月蔵銀第455号,乙60の1及び2)をあげて,原告のなした預金利息の前払が金融機関一般の慣行に照らし不合理であると主張する。

(イ)しかしながら,臨時金利調整法(以下「臨金法」という。)の告示における預金金利体系の建前に関する同通達は,国内の銀行預金を対象としたものであり,本件取引のようないわゆるオフショア勘定(特別国際金融取引勘定 国内取引に使う勘定と経理上区別される国際金融取引用の特別の勘定 預金金利上限規制,源泉税徴収課税等が適用されない。)の預金には適用されないものである。

 したがって,本件取引における預金利息の前払はその取引の性質上,大蔵省通達の射程外にあるのであるから,この点について何ら論難される筋合いはない。

 乙第60号証の2によれば,預金利息の前払が健全でないとする理由の1つとして,「利息を前払いすると,その日から満期日の前日までの期間について預金者はその利息部分の金額を運用できることになり,その運用益まで加えると,臨金法に基づく告示(およびそれを受けた日銀ガイドライン)における金利の最高限度を実質的にオーバーすることになり,明らかに臨金法の精神に反する」点があげられている。当時,規制金利に服していた国内預金についてはかかる趣旨が妥当するであろうが,本件預金はオフショア勘定の預金であり,金利の最高限度について何らの規制も受けていなかったのであるから,預金利息の前払を行ったとして,上記の意味における金融機関の健全性には何ら反しない。

(ウ)なお,被告は,原告が行った本件ローン契約に基づく貸付金利息の前払について,国際融資では後払とされるのが普通であるから,通常の慣行に反したものであると主張する。

 しかし,後払が普通であるとされているのは,ユーロ市場から資金を調達する国際融資では銀行がユーロ市場に対して利息を後払する便宜上,調達資金と運用資金の利払日をあわせているからに過ぎないのである(乙60の3)。

 したがって,本件ローン契約に関していえば,資金調達である預金契約と資金運用であるローン契約の利払日をあわせたものに過ぎず,その扱いは何ら通常の慣行に反していない。また,調達と運用をマッチングさせることは,原告のコスト増を回避するための健全な手法である。

 被告の主張は,預金利息の前払の不合理性を指摘する際には国内取引を基準とし,貸付金利息の前払の不合理性を指摘する際には国際貸付を基準とする等,論理に一貫性がない。

ウ 金銭貸付に関するリスク負担について

(ア)被告は,原告が本件ローン契約において,外国税額控除の適用を受ける場合はもちろん受けられない場合でも,それが「否認判断」を受けたのでない限り,金銭貸付に関するリスクを負担することはない等と主張するが,ローン契約の解釈を誤っている。

 すなわち,被告の指摘する本件ローン契約における補償条項は,いずれも否認判断による損害担保を目的とする条項でないことは規定上明らかだからである。そして,「否認判断」の前後で分ける前提自体理解不能であるが,そもそも本件ローン契約の補償条項は「否認判断」の場合には適用されない(ローン契約書19条C,G,7条C,8条,14条E)。

 また,本件取引は,稟議書上明らかなように,そもそも預担案件であり(乙4,5),貸倒リスクがない取引である。そして,通常の貸主は,保証人や担保を徴求することにより,貸倒リスクを最小限に抑えるよう努力するのが常である。よって,リスク負担の有無によって,通常の貸主の意思を有していたか否かを判断するのは誤りであり,むしろ,貸倒リスクを極小化している点から言えば,「通常」の貸主の意思を有していたといえるのである。

(イ)本件ローン契約における条項は,国際取引上ごく一般的なローン契約である。

a 支払に関する約定

(a)まず,借入人は融資契約書に定められたところに従って銀行に対して支払をなすことになるが,借入人が支払う金利については,所在国の法律により源泉徴収税を負担させられることが通常であり,このため,源泉徴収税の負担者を契約書において定めるのが通常である。

 また,借入人の行う支払については,その他の公租公課が課せられることが予想され得る。このため,通常の融資契約書の中には,借入人の融資契約に基づく支払は,当初定めた金額でなされ,その他の公租公課,源泉徴収税等による一切の控除のないこと及び反対債権による相殺等のない状態で行われるべきことが規定される。これは支払がnet paymentで行われるべきことを規定したもので,一般にグロッシング・アップ・クローズと呼ばれるものである。

(b)本件ローン契約書7条は,まさに上記の支払に関する約定を示すものである。

 本件ローン契約7条Aは,大まかに言えば,「借入人によるすべての支払は,源泉税を除きその他の控除,差引をすることなく(公租公課等の控除や反対債権による相殺のない状態で)支払うこと,源泉税についても仮に法律に基づき源泉徴収を要求される場合は,借入人の支払は銀行が本来受領するはずの金額(源泉税の控除前の金額)まで増額されること(本文),ただし,借入人は15パーセントを限度としてクック諸島源泉税の控除が認められること(ただし書)」を規定している(甲1の2,4ないし5頁)。よって,仮にクック諸島における源泉税率が20パーセントに増額されたような場合には,借入人は銀行に対して控除可能な15パーセントと20パーセントの差額分(5パーセント相当額の金額)を銀行に支払うことになる。このように,7条Aにおいて借入人はクック諸島源泉税15パーセントの控除は行うが,その他の控除は一切できない旨規定されている。

 そして,ローン契約7条Cは,「副条項Aの規定にかかわらず,銀行が税金(シンガポール,日本,その他の場所での収入,利益によって計算される税金の支払は含まないものとする。)あるいはその他名目のいかんを問わず,その受領金額ないし受け取り可能金額に応じて法律に基づき何らかの支払を命ぜられた場合」のファースト社の補償義務につき定めたものである(甲1の25頁)。そして,上記のファースト社の補償義務が発生する場合とは,具体的には,契約締結後,銀行がその受取利息に対して新たな法律等に基づき税金(収入・利益によって計算される日本の法人税に相当する税は除くことが明記されている。)を課された場合,あるいはその名目のいかんを問わず受取利息額に応じて新たな法律に基づき何らかの支払を命ぜられた場合等である。すなわち,7条Cは,原告が法律に基づき新たな支払を命じられた場合,つまり利息額に対する15パーセントの源泉税の他に何らかの支払が必要となった場合においては,7条Aに関わらず借入人が追加負担をすることにより,どのような状況下においても利息額の85パーセントは必ず支払うべきこと,つまり支払がネット・ペイメントで行われることを定めた条項である。

 なお,ファースト社が補償義務を負う場合の範囲及び方法について,7条Cは,本来借入人は,クック諸島源泉税15パーセントについては7条Aただし書で控除する権利を有しているところ,仮に原告の受取利息に対し新たな税金等の負担が生じた場合は,ファースト社は原告が最低利息額の85パーセントを得ることができるように,7条Aただし書で認められたクック源泉税15パーセントを控除できるにもかかわらず,控除しないで銀行が新たに負担することとなった金額につき,銀行に補償するに足りるだけの金額を支払うことを定めるものである。例えば,利息が100円とすると,ファースト社が原告に払うのはクック諸島源泉税を控除後の85円であるが,日本において,利息収入に対して新たに税の負担が生じ原告に10パーセント(10円)の支払義務が生じた場合,ファースト社は本来7条Aにより85円しか支払義務を負担しないところ,原告に対して10円の補償義務が生じることから,実際には95円の支払義務を負担することになる。しかし,原告のネットの受領金額は85円にすぎない。よって,原告は常にネットで85パーセントの利息の支払をファースト社から受けることができるものである。

 この点につき,被告は原告がファースト社の補償義務の履行により85パーセント以上の利息を受領することができるとの主張をなすが,これは実質をみない主張である。すなわち,補償という言葉が表すように,7条Cはあくまでも利息収入に対して原告にクック諸島源泉税以外の新たな税金等の負担が生じた場合にのみ作用する条項であり,被告の主張はこの点を忘れた主張にすぎない。

 また,同条B,D,Eは,源泉徴収税を原告負担とするについての手続面に関する規定である。

b 事情の変更

 国際貸付においては,具体的に貸付実行時における貸付の条件を決定する基礎となった事実について,貸付実行後において変更が起り,そのために銀行が当初期待した貸付を継続することが困難でありもしくは望ましくないと考えるようなときに,一定の措置を執ることができる旨契約書の中に明記することが行われるのが通常である。事情の変更として契約書に規定されるものは,以下の①ないし③である。

① 銀行の貸付に係るコストの増大をもたらすような法令や銀行実務の改廃による変更(すなわち,増加費用が生じるような変更)に対するもの

 このような場合,銀行は借入人に対し,新たな負担となった金額を支払うこと又は銀行が負担となった金額を填補することを請求することができる旨の規定を契約書の中に挿入することが通常である。

 本件ローン契約書7条C及び8条(増加費用)の規定は,まさにこれを定めたものである。すなわち,同各規定は,7条C,8条Aa,bの事由が生じた場合のコスト(新たに生じた公租公課等)を借入人負担とする趣旨の規定(原告が借入人に対して増加費用の補償要求し得る旨の規定)にすぎない。

 なお,7条C但書及び8条Aただし書には,「否認判断によって銀行が被った支払金利や遅延損害金の負担分については一切適用されない」旨規定されており,否認判断による負担(損害)の担保を予定した規定でないことは明らかである。

 これに対し,被告は,7条C本文を根拠に,未だ「否認判断」がされていない段階においては,本件ローン契約により受け取った金額又は受け取ることができる金額に対し課され,又は関連して計算される支払に関する責任が原告に対して主張された場合は,ファースト社は原告からの要求に応じて,同支払責任について補填すべき義務を負うと規定されていると主張する。しかし,外国税額控除の適用を受けられない場合とはまさしく「否認判断」を受けた結果であるのだから,被告の「外国税額控除の適用を受けられない場合でも「否認判断」されていない段階において…」との前提自体理解不能としか言いようがなく,全く事実に反する主張である。

② 銀行による貸付に対して制約が加えられることとなるような法令の改廃による変更(すなわち,貸付実行・継続等が違法になるような変更)に対するもの

 貸付実行後に上記のような事態が起こった場合には,借入人が次回の利息支払日に元利金を全額支払うべきことを契約書の中に明記するのが通常であるし,貸付の実行以前にかかる変更があった場合には,銀行は貸付の実行をする義務を免れる旨の規定をするのが通常である。

 本件ローン契約書6条Cは,まさにこれを定めたものであり,貸付実行後に上記の事情が起こった場合,原告の請求により借入人は全額弁済義務を負うのである(6条C(Ⅱ))。

③ 銀行の資金調達手段の変更を余儀なくせしめ,貸付の適用金利に影響を与えるべき情勢の変化による変更に対するもの

 このように,資金の調達が困難もしくは不能となった場合には,銀行は借入人に対しその旨通知することにより貸付の実行及び貸付の継続の義務を免れることを契約書に記載するのが通常である。

 本件ローン契約においては,3条B(Ⅳ)により,原告が第三者から資金調達済であることが貸付実行の条件になっているため,上記に対応する条項はない。

c 債権譲渡

(a)国際貸付においても,ローンのごとき一般の債権については,特約でこれを禁じない限り,通常は譲渡可能であるとされる。

 一般的なLoan agreementについてみると,金銭債権である貸付については,当然債権者である銀行により債権譲渡可能であること,及び債務者によるそれが不可能であることが明記されるのが通常である。

 国際貸付で債権譲渡が自由であると規定されるのは,借入人に対して貸付を行う銀行の体力の問題や,借入人に対する与信リスクの分散を図る必要性等から,債権譲渡の必要性が認められるからである。

(b)本件ローン契約でも,19条Cにおいて,一定の事由が発生した場合に債権譲渡できる旨定められている。

 すなわち,大まかに言えば,期限の利益喪失事由が発生した場合(19条C(Ⅰ)),いわゆる「否認判断」がなされたか「否認判断」のおそれが生じた場合(同条C(Ⅱ)aないしc),借入人から法律の改正により源泉徴収の必要性が要求されなくなった旨の通知を受けた場合(同条C(Ⅲ)),債権保全の必要性が生じた場合(同条C(Ⅵ)(Ⅶ))には原告の権限で,借入人の方から要求があった場合(同条C(Ⅳ)(Ⅴ))にはその義務として,その全ての権利・利益・義務を第三者に譲渡することになる(19条C,G)。

 ただし,同債権譲渡は「副条項Gの規定の制約」に服するため(19条C本文),債権譲渡後においても,借入人は原告に対して次の義務は負担し続ける。

 その義務とは,①7条C,8条及び14条Eに規定されているいずれかの事由が発生した結果として,債権譲渡がなされた時点以降に原告が負担し,あるいは支払うことが求められた出費・責任・費用(増加費用含む)を原告に対して補償すべき義務。但し,仮に債権譲渡がなされなければ関連する副条項に基づいて原告が求めることができたものに限る(19条Ga但書)。②債権譲渡に伴い譲受人がその義務を履行しなかった結果として原告が負担することになった出費・責任・費用等を原告に対し補償すべき義務(同条Gb)である。

 なお,借入人は,債権譲渡から24か月経過した日以降は上記(①②の義務を負わない(19条G但書)。

(c)借入人が原告に対して負担する補償義務は,19条Gから明らかなように(上記(b)①記載参照),あくまでも事情変更が起こった結果,原告が負担することとなった費用に関し,契約書上借入人負担(つまり,借入人が補償義務を負う)と規定された範囲で生じるにすぎない。そして,前述のように,これらの費用には,いずれも否認判断による原告の負担は含まれないと明示されている(7条C,8条)。

(d)この点に関し,被告は「否認判断」の前後で場合を分け,「原告は我が国における外国税額控除の適用を受けられない場合でも,未だ「否認判断」がされていない段階であれば,本件ローン契約に基づきファースト社に対し補填義務ないし補償義務を要求することができる」と主張するが,前述のように,「外国税額控除の適用を受けられない場合でも「否認判断」されていない段階」との前提自体理解不能であり,同主張は失当である。

(e)なお,被告は,上記(d)のように主張し,原告が本件貸付に関して外国税額控除を受けられないおそれがある場合のリスクを負担していないとの主張をなしている。しかし,前述のように,19条G(7条C及び8条)の補償条項は原告が外国税額控除を受けられなかった場合の負担を担保するためのものでないことは規定上明らかであり,この主張もまた失当といわざるを得ない。

d 損失補償

(a)通常,貸付を業とする銀行は,その契約書中において,①債務不履行条項により借入人が期限の利益を喪失し,その結果予定された支払期日前に期限が到来したことに起因して発生する銀行の損失,②貸付契約に基づいて支払うべき金額の支払遅延による損失等を借入人に補償させる旨の規定を置くのが通常である。これが国際貸付上のindemnity clauseである。

(b)本件ローン契約書においては,14条(遅延利息並びに補償)に同条項が規定されており,ごく当然の条項である。

(ウ)被告の誤解

a 前記(イ)で述べたように,本件ローン契約書に規定されている補償条項(7条C,8条A,14条D)は,国際貸付においてはごく一般的な規定であり,ほぼ必ず規定される性質の条項である。

b また,7条C,8条Aの補償条項には,「否認判断によって銀行が被った支払金利や遅延損害金の負担分については一切適用されない」旨明示されており,また,14条Dはその性質上否認判断による負担(損害)の担保を予定していないことは明らかである。よって,被告のなした原告の本件取引におけるリスク負担の有無に関する検討は,被告の偏見に満ちた主張を並べたものに過ぎない。本件ローン契約では,外国税額控除に関する限り,我が国で控除が認められなかった場合の手当はされていないのが事実である。

c さらに被告は,本件ローン契約書上「否認判断」された段階(7条C等)と未だされていない段階(19条C(Ⅱ))を区別して規定されていると反論する。しかし,「否認判断」されていない段階でファースト社に対して補填要求できるとの被告主張は理解できない。およそ「否認判断」のおそれがある場合,すなわち被告のいう「否認判断」がされていない段階においては,原告は本件ローン契約19条C(Ⅱ)により本件ローン契約上の一切の地位を譲渡できるのであり,契約終了の自由が原告に与えられている。そして,19条Gaには「借入人は…7条C,8条,14条Eに規定されている事由が発生した結果として…,銀行が負担し,あるいは支払うことが求められたいかなる出費・責任・費用について…仮に譲渡行為がなければ…銀行が借入人に対して補償を求めることが可能であったものである限り,…補償に応ずることについて同意しているものとする。」と規定されている。したがって,「否認判断」されていない段階においては,本件契約上,原告はローン契約上の地位を譲渡することができ(19条C),譲渡後に原告が譲渡前に受け取った利息に対して新たな法律に基づき税金等を課せられた場合(7条Cに規定されている事由が発生した場合)には,ファースト社に対してその負担分の補償を要求できる(19条Ga)のである。「否認判断」されていない段階(およそ否認のおそれがある場合)において,原告がとり得る手段は上記に尽きる。

 被告の主張によれば,ファースト社は否認判断のおそれの段階では原告の補償要求に応じなければならないが,否認判断の結果の場合には補償要求に応じる必要がないということになる。被告の上記解釈は,何ら合理性のない解釈である。

エ 取引参加料の位置づけ

 国内貸付では,顧客から徴求する金員は名目がなんであれ利息とみなされ(利息制限法3条),その結果,制限利率〈臨金法に基づく大蔵省告示〉を超えた融資をする結果になりかねないことから,銀行は利息以外の金員は徴求しない。

 ところが,そもそも本件は国際貸付であり,国際貸付では契約に際し取引参加料等の手数料を徴求するのが一般的である。そして,本件ローン契約は,オフショア勘定(特別国際金融取引勘定)でかつ外国通貨建貸付であることから,国内の金利規制の対象外である。

 したがって,本件において原告がファースト社とのローン契約に際して,取引参加料を受領したとしても,何ら不合理なことはなく,これをもって「通常の貸主の意思とかけ離れたものである」とはいえない。

オ まとめ

(ア)以上より,資金仲介機能を果たす金融機関である原告が収益獲得を目的として行った本件取引には何ら不合理な点はなく,原告らの意思は「通常」の預金担保貸付を行う者の意思ではないとの被告の主張は,明らかに誤りである。

(イ)もっとも,本件取引はファースト社からの貸付利息に対して,原告に15パーセントの源泉税が課されているため,実際のキャッシュベースでは逆ざやになっている。被告は,本件取引がキャッシュベースで逆ざやであることを強調することより,原告の意思が「通常」の貸主の意思でないと主張するが,以下のとおり,本件取引がキャッシュベースで逆ざやとなっていることは何ら異常なことではなく,被告の主張は失当である。

 まず,海外貸付において利ざやを実際のキャッシュベースで判断するのは誤りであり,原告(銀行)の収益獲得という視点から国際貸付としての本件取引を見るべきである。

 すなわち,本件取引に関しては,クック諸島で源泉徴収課税がなされるとともに,全世界所得主義を採用している日本においても法人税の対象となるところ,このような二重課税を排除するための制度として外国税額控除制度がある。原告は二重課税を排除するため,この外国税額控除制度を利用することとし,この制度利用を前提として本件取引の収益性を判断したのである。つまり,本件取引は,表面上は逆ざやのようにみえるが,それはクック諸島での源泉税のみを考慮しての収益性判断をしているからにすぎず,外国税額控除制度の適用を前提とすると十分収益性を有するのである。

 そして,上述の国際貸付であるという特殊性を考慮するならば,海外貸付の利ざやはキャッシュベースで判断するのではなく,外国税額控除の適用を当然の前提として,あくまでも表面利率で判断すべきものである。このことは,源泉税を銀行負担とした場合に一定率のフィーを徴求することがある(甲3,34頁)ことからもごく通常のことであるといえる。

 ところで,原告海外貸付における平均的利ざや(表面利率)は,0.37パーセントないし0.54パーセント程度であるところ(甲8ないし10),本件貸付の利ざやは0.35パーセント(10.85パーセントから10.5パーセントを控除した数値)であり,上記の平均からすれば若干低いものである。

 しかし,国内貸付,国際貸付を問わず,貸付をする場合,まず,銀行は融資先の信用リスク及び資金使途等を考慮して担保条件を決定し,銀行は融資先の信用リスクの程度と担保の確実性の双方を考慮して貸出金利の決定をする。物的担保の中でも,不動産や有価証券と異なりその価値に変動がない預金担保は,もっとも安全確実である。よって,本件のような預金担保貸付の場合,銀行の得る利ざや(本件の場合の利ざやは0.35パーセント)が他の種類の担保付貸付に比して少なくなるのはごく当然のことであり,本件貸付は十分経済合理性がある取引なのである。これは,原告稟議書(乙4)の「取上げ理由」に「参加料も含め,平均33B.Pのスブレッドは預担案件としては最良である」と記載されていることからも明らかである。

 このように,融資先の貸倒れリスクを考慮して貸出金利を定めた結果,上記のように薄い利ざやしか得ることのできない取引は当然あるのであり,このような取引が貸付利息に対して源泉税を課されることのある国際貸付として行われた場合(例えば,貸倒れリスクが非常に低いと考えられる政府系企業に貸付する場合等),本件取引のように実際のキャッシュベースでは逆ざやになることがあるが,それは何ら異常なものではない。

 上記にみたとおり,原告は,金融機関として収益獲得を目的として本件取引を行ったものであり,その取引は,日本の税制上予定された制度利用を前提として収益性を判断した経済合理性を有する取引である。したがって,原告にはまさに預金担保貸付を行う意思はあったし,本件取引はその実質を有するものである。

(3)通謀虚偽表示の主張について

 本件取引は金融機関の行う預金担保貸付として経済合理性を有する取引であり,まさにその実質を有するものである。また,次に述べるように被告の主張する通謀もない。よって,本件取引は通謀虚偽表示ではない。

ア 本件取引の選択

 まず,被告は,本件取引につき勝手に「本来の取引」を想定するが,現代の経済社会においては,企業が経済活動を行うに際して複数の取引方法がある場合にその取引方法の選択を行うことは当然許されてしかるべきであり,その取引方法の選択にあたり,租税を考慮にいれても何らそのこと自体を論難されるいわれはない(前記第4の2,2(2))。

 したがって,ユーロピアン社が,租税を考慮した結果,直接ファースト社に対して貸付する方法ではなく,本件取引方法を選択したことをもって,前記の方法が「本来の取引」で本件取引が「仮装取引」であると断定することはできない。

 なお,ユーロピアン社の意図は節税にあったのかもしれないが,だからといって原告の外国税額控除余裕枠を買うとの意思があったとはいえない。

イ 原告の意思

 前述のように,本件取引における原告の意思は,金融機関として経済合理性を有するとの判断の上に預金担保貸付を行うものに他ならない。被告主張のような,この節税スキームに加わることにより,外国税額控除の余裕枠を提供し,同役務提供に対する対価を取得するとの意思は決してなかった。これは,原告には被告主張のようにユーロピアン社の租税負担の回避を図る必要性は全くなかった上に,次の事情からも明らかである。

(ア)まず,原告の収益(ローンの利払い)に対しては,クック諸島で源泉税が課される一方,日本においては,全世界所得主義が採用されており,全世界で生じた所得に対して課税される。この二重課税の弊害を排除するための手段として,外国税額控除制度があるのである。よって,海外で貸付を行う場合(利息収入に対して源泉税が課される場合)には,外国税額控除の枠の有無を考慮して貸付条件を決定するのは金融機関としてごく当たり前の話であり,反対にいえば,枠があればそれを利用することは,税制上当然予定されているのである。

 原告は金融機関として国際貸付に際し,外国税額控除の枠があればそれを利用することを前提として貸付条件の決定をするというごく当然税制上予定されていた行為をしたまでであり,それを超えて,ユーロピアン社に枠を利用させるとか,同社の負担すべき源泉税を「吸収」する等の認識は全くなかった

(イ)さらに,被告は「原告はユーロピアン社に外国税額控除の余裕枠を利用させた対価としてマージン相当額及び本件取引参加料を取得していた」と主張するが,マージン相当額はあくまでも預金担保貸付の利ざや部分であり,取引参加料は前記のとおり,国際貸付においてはごく当然の手数料として受け取っているものである。そして,そもそも原告がユーロピアン社及びファースト社との間で合意した内容は,単に「ユーロピアン社からの預金を担保としてファースト社に対してその預金と同額を融資すること」であり,原告とユーロピアン社及びファースト社間においてそもそも被告主張のような「外国税額控除の余裕枠を利用させる」等という点における意思の合致はない。

 したがって,上記マージン等は預金担保貸付を行うことにより原告が獲得した収益にすぎず,何ら被告の主張するような対価性を有するものではない。

(ウ)以上により明らかなように,被告主張の本件取引における当事者の真の意思(外国税額控除枠の売買等)なるものは存在せず,この真の意思を秘匿するために本件取引を行うとの通謀もない。よって,本件取引が通謀虚偽表示であるとの主張は被告の独断である。本件取引における当事者の意思は,収益獲得を目的として預金担保貸付をする意思に他ならず,これは純経済人としての金融機関の意思として合理的なものである。

(4)私法上の法律構成による否認について

 また,前記(3)に加え,次に述べる事実からも明らかなように,真の法律関係における原告の意思は預金担保貸付を行うことにあったのであるから,私法上の法律構成による否認の手法を用いたとしても,本件取引を否認することはできない。

ア 原告らは,「原告が外国税額控除の余裕枠をファースト社及びユーロピアン社に提供し,これに対し,ファースト社及びユーロピアン社が原告に対し,同役務提供に対する対価を支払うことを内容とする合意」などしていない。本件取引は,原告の稟議書(乙4)「取上げ理由」の「参加料も含め,平均33B.Pのスブレッドは預担案件としては最良である」との記載からも明らかなように,あくまでも預担案件として取り上げたものである。

イ 被告の主張(余裕枠の提供と役務提供の対価の支払の合意)は,本件取引の法的実質を述べたものではなく,あくまでも,本件取引ではいわゆる控除余裕枠の彼此流用が起こっているとの指摘に止まり,これを税務的観点から外国税額控除余裕枠に関する売買契約と評価しているにすぎない。これは,次の事実から明らかである。

(ア)まず,外国税額控除の余裕枠は,当然ながら,原告しか利用できないのであり,ファースト社及びユーロピアン社が実際に利用することは不可能である。よって,原告が第三者に余裕枠の提供を行うことは不可能である。

(イ)次に,ユーロピアン社及びファースト社が,控除余裕枠利用の対価を原告に支払うことを合意し,原告はこれによりマージン及び取引参加料を取得したと被告は主張する。しかし,被告主張のマージン,すなわち,預担取引の利ざやは,外国税額控除を原告が利用した結果生ずるものである。このように,外国税額控除の利用と利ざや獲得は密接不可分に結びついているのであり,第三者が控除枠の利用をした結果,原告に利ざやが生じることなどあり得ない。

(ウ)また,取引参加料も,通常の国際貸付においてはごく当然に収受されるものであり,原告の稟議上も参加料として取得することが予定されている(乙4)。

(エ)さらに,本件取引は,原告の稟議書(乙4)「取上げ理由」の「参加料も含め,平均33B.Pのスブレッドは預担案件としては最良である」との記載からも明らかなように,あくまでも預担案件として取り上げたものである。

ウ 以上より,当事者間の真の意思は預担取引を行う点にあったのであり,これが本件取引の法的実質である。したがって,私法上の法律構成による否認の手法によっても本件取引を否認することはできない。

(5)本件ローン契約及び本件預金契約の締結日

ア 本件貸付けの手順

(ア)本件は,原告内部では,申請に関しては,平成元年3月23日付で内諾申請がなされ,同年3月29日付で認可されている(乙4)。

 なお,内諾申請の段階で,融資契約書の主たる内容中,借入人名称及び担保差入人名称のみが未定であった。

 その後,4月5日付で本申請がなされ,4月14日付で認可されている(乙5)。

(イ)融資実行は,4月6日付で行われている。

(ウ)被告は,契約書上の締結日である3月31日の時点では,内諾の段階のため,契約の締結をすることはあり得ないと主張する。

 しかしながら,次のとおり,契約内容を見る限り,内諾申請の条件に比し,不利になっている点はないのであるから,原告シンガポール支店としては本申請は認可されるはずであるとの判断の下,前述の認可前実行として,平成元年3月31日に契約締結をしただけのことである。

 すなわち,契約内容を見る限り,内諾申請と本申請の相違点は,まず,①借入人について,内諾の際の借入人名称が未定であったところ,本申請では決定しているが,内諾の段階においても借入人はCOOK ISLANDにてオンショア企業として設立されるCAPITAL MARKETS LTDの100パーセント子会社であること,及びファースト社(仮称)となっており,借入人自体が変更した訳ではない。また,②金利については,全期間を通じて,預金金利+0.35パーセントに変更されているが,内諾の段階よりも有利になっていること,担保差入名義人がユーロピアン社に決定しているが,担保差入金額自体に変化はない。

 このように,内諾の段階において,すでに条件面は整っていたといえるし,契約段階において融資案件で重視される条件面が不利に変更している点はないのである。したがって,原告シンガポール支店としては,本申請は認可されるとの判断の下,本件契約を認可前実行したのである。

 よって,被告の前記主張は失当である。

イ 本件ローン契約及び本件預金契約は,間違いなく平成元年3月31日までに成立したものである。

(ア)a まず,ファースト社は,平成元年4月4日に貸付けを申し入れる通知書(甲6)を送付しており,同通知書は,本件ローン契約書3条B(Ⅰ)に定めるもので,本件ローン契約を前提とするものである。海外貸付では,国内貸付と異なり,諾成的消費貸借が一般的であり,金銭消費貸借契約を締結することにより契約が成立する。したがって,契約締結は融資実行以上に重要であり,銀行として,契約の相手方すら定まっていない契約書を締結するはずがない。平成元年4月4日以前に本件ローン契約が締結されていたことに間違いない。

 また,本件ローン契約に基づく融資実行は,平成元年4月6日付でなされているところ(乙6ないし12の2),金融機関たる原告として,ローン契約の締結前に融資実行することは決してありえない。なぜなら,前述のように,法域の異なる者同士が当事者となる国際貸付においては,契約書のみが当事者を結ぶ唯一の接点となり,もし仮に紛争が起ったならば,その唯一の拠り所となるのが融資契約書であるところ,その最も重要な融資契約書の締結前に融資実行することはあり得ないからである。よって,本件ローン契約の締結は,融資実行日である平成元年4月6日以前に締結されたといえる。

b 次に,本件ローン契約書に署名している原告シンガポール支店支店長であるBは,平成元年4月1日から4月12日まで日本に出張していた。よって,B氏が契約書に署名し得るのは,物理的に,Bがシンガポールに滞在していた4月1日以前か,4月12日以降ということになる。なお,署名の権限は次長にも与えられており,支店長がわざわざシンガポール以外の地で署名することなどあり得ない。

 融資実行が,4月6日である以上,4月12日以降に契約締結ということはありえないため,B氏が契約書に署名したのは4月1日以前といえる。また,原告として,契約書に署名する以上は,契約書の相手方(つまり,借入人たるファースト社)が未定であるはずはない。

c 上記a,bの事実及び,原告として相手方すら特定していない契約書に署名することはあり得ないこと等をあわせ考えると,本件ローン契約及び預金契約は,平成元年3月31日までに作成され,調印まで終っていたと断言できるのである。

(イ)なお,本件ローン契約の相手方については,前述のように,シンガポール支店長のBが平成元年3月31日までに契約書に調印していることが認められる以上,遅くとも同日には特定していたのである。

 ところで,乙第58号証は,第一勧業銀行シンガポール支店から原告担当者へファースト社の住所地等を知らせる内容のファックス(平成元年4月5日付)である。同ファックスの意味合いについて鑑みるに,実際の融資実行にあたり,原告としては相手方の連絡先(必ずしも住所地とは一致しない)を知る必要があり,ローン契約書18条B(通知方法の定め)にも指定した住所地宛に連絡をする旨定められている。そこで,本件融資案件の幹事行である第一勧業銀行に対し,ファースト社の融資実行の際の連絡先を確認したところ,住所地と同じ回答が帰ってきたものに過ぎない。

(ウ)また,ローン契約書の貸付利率については,当初,乙第4号証の利率欄には,融資期間が1年目から3年目迄は0.3パーセント+預金金利とされており,4年目以降5年目迄の場合には,0.35パーセント+預金金利と定められている。内諾の段階において,このように金利が段階的に変動するはずであったものが,契約段階において,単に一律+0.35パーセントとなったに過ぎない。

 つまり,内諾申請より,条件が原告に有利になったのであるから,前述のように,本申請は当然認可されるはずであり,原告シンガポール支店は,かかる判断の下,認可前実行として,契約締結に至っただけである。

ウ なお,被告は,通常の貸主の意思を否定するために,本件ローン契約及び預金契約の締結日に関し,平成元年4月5日以降に各締結されたと主張しているが,契約締結日の問題は,通常の貸主の意思を否定する根拠にはなり得ないことは明らかである。

第4の3 法69条の限定解釈による否認に対する反論

1 総論

 被告の外国税額控除が国家からの恩恵的措置であるとの主張,外国税額控除が課税減免規定であるとの主張についてはいずれも被告独自の見解であり,争う。また,課税減免規定は一般の課税根拠規定と異なり,特有の趣旨目的を有するものとして制定されたものであるから,その立法趣旨に従って広く限定解釈するのは当然であるとの主張も,被告独自の見解にすぎない。

 以下,まず,被告が法69条を国家からの恩恵的措置であるとの根拠とする損金経理との選択適用の問題,次に法69条の改正の趣旨を追いながら,控除限度額制度の趣旨について論じたうえで,被告主張の限定解釈について反論する。

2損金経理との選択適用の問題について

(1)被告は,国内法上,外国税額は損金に算入されることが原則で,外国税額控除制度の適用は納税者の選択によるものとされている点から,外国税は,第一義的に経費として扱われるのであって,外国税額控除は,法69条の趣旨,目的に沿って外国税額の特典を受けることを選択した納税者に恩恵的に与えられるものに他ならないと主張する。しかし,納税者がその選択により外国税額控除制度の適用を受けうる点から何故法69条を恩恵的措置と位置付けることとなるのか,不明であり,論理が飛躍しているといわざるを得ない。

 また,国税庁発行の改正税法のすべて(乙1,381頁1行目)に,外国税額控除制度は,二重課税排除の方式として国際的にも確立された制度であり,いわゆる政策的な優遇措置ではないと明記されている点に鑑みても,法69条を政策的恩恵的措置であるとの被告主張が独断と偏見に基づくものであることが明らかである。

(2)さらに,そもそも,外国税額控除制度は,外国の法令により前払した法人税額の清算の規定であり,言うならば納税者の権利ともいうべきものである。また,外国税額控除制度を利用するにあたり,法は納税者に何らの資格要件を設けておらず,むしろ利用するか否かについては納税者の自由な選択に委ねている。このような点を考慮しても,外国税額控除制度が国家からの一方的な恩恵的措置,もしくは特典であるとは到底いえないのである。

(3)また,損金経理との選択適用の問題と,法69条の要件該当性の問題は全く別個の問題である。

3 法69条の趣旨(昭和63年改正の背景について)

(1)余裕枠の彼此流用問題について

ア 控除対象外国税の意義

 外国税額控除の対象とされる外国税(法上「外国法人税」という。)は,政令(施行令141条)によって限定されており,すなわち,法69条の対象とされる外国法人税は,典型的には我が国の法人税に該当する税の他,法人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で,法人の特定の所得につき,徴税上の便宜のため,所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの(代表的な例は利子,配当等について収入金額を課税標準として課される源泉徴収税)等である。

イ 控除対象外国法人税の額

 外国税額控除の対象となる外国法人税は上述のとおりであるが,我が国の外国税額控除制度が一括限度額方式を採用していることから,我が国の実効税率を超える高率で課された外国税が他の軽課税ないし非課税とされた国外所得より生じる控除枠を利用して控除されてしまうという問題(彼此流用)が生じる。このため,控除対象とされる外国法人税の額から,その所得に対する負担が高率な部分を除くとしたのが昭和63年改正である(乙1,393頁)。

ウ 控除限度額

 外国法人税の法人税額からの控除は,各外国における租税負担に差異があるため,無条件でこれを許容することは適当ではない。すなわち,外国における税負担が我が国の税負担より高いときは,外国税額を控除すると我が国に納付すべき税額をその額だけ減額させる結果となる。したがって,外国法人税の税額控除は,原則として,①外国において納付の確定した税額と,②外国において生じた所得金額に我が国における法人税の税率を乗じて計算した一定の金額とのうち,いずれか少ない方の金額を限度として法人税額から控除することとしている。なお,(2)において計算した金額を国税の控除限度額という。

 控除限度額は,「所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を限度」と規定され,我が国では,国外所得を一括して限度額を算定するいわゆる一括限度額方式を採用している。

 二重課税の排除という制度の趣旨からは,個々の国外所得ごとに自国で課される税額を限度として外国税額を控除すれば足りるのであるが,我が国の外国税額控除制度は,控除限度額計算の簡便さという観点から,国外所得を一括して控除限度額を算定するいわゆる一括限度額方式を採用したのである。

 このため,外国で非課税とされ,又は軽課税される所得から生じる控除限度額を利用して,高率で課された外国税額が控除されてしまうという,いわゆる控除余裕枠の彼此流用の問題があった。

エ かかる控除余裕枠の彼此流用の弊害を立法的に解決するため,昭和63年改正が行われた。

 昭和63年改正の基礎にあるのは,国際的二重課税の排除は,本来は個々の所得ごとに考えるべきものであるという考え方,すなわち所得項目別限度額方式である(乙1,388頁)。

 しかし,所得項目別限度額方式を採用する場合には,それぞれの外国源泉所得からこれに対応する費用を控除してネットの所得を計算し,その所得に対して課されるわが国の税額を求める必要があり,執行・納税上の負担が重大であることから,昭和63年改正では限度管理の簡便さという一括限度額方式の利点に配慮し,この方式を基本的に維持しつつ,必要な修正を加えたものである。

 つまり,昭和63年改正では,後述のように,一括限度額方式は維持しつつ,高率外国税そのものを入口で制限し(前記ア,イの控除対象外国税か否かの判断に際し,高率部分を除外する。),さらに控除限度額の算定方法(前記ウの枠の問題)に変更を加えたのである。

 このように,昭和63年改正は,彼此流用問題に一定の立法的解決を図ったのであるが,控除対象外国税の判断基準として,彼此流用に該当するか否かの実質的な判断が入る余地がないのは明らかである。

(2)改正の趣旨について

 彼此流用による課税上の弊害阻止のために必要な修正点,すなわち外国税額控除制度の主な改正点とは,次の3点である。

①外国税額控除の限度額について非課税所得の2分の1を除外したこと②高率外国税額の高率負担部分を外国税額控除の対象から除外したこと③控除余裕額及び控除限度超過額の繰越期間を昭和63年改正前の5年から3年に短縮したこと。

 以下,本件の論点である②の高率負担部分の除外について重点的に昭和63年改正の趣旨を追っていくことにより,外国源泉税は,恒常的に外国税額控除の控除余裕枠の彼此流用が起こり得る性質・構造を持っていることが明らかにされる。

 また,外国源泉税の控除余裕枠の彼此流用は法が予定していたことであり,この点においては,昭和63年改正以前も以後も同様であり,かつ昭和63年改正で,彼此流用による課税上の弊害阻止のため,その流用の許容の程度が明確にされたという経緯が明らかになる。

ア 昭和63年改正における高率負担部分の除外について

 昭和63年改正における高率負担部分の除外については,税の性質の違いから,①ネットの所得を課税標準とする法人税と②グロスの収入を課税標準とする源泉税につき,別々の基準による制限を設けている。

① 50パーセントを超える高率で課される外国税のうち,50パーセントを超える部分に対応する部分を外国税額控除の対象から除外

② 利子にかかる外国の源泉税については,法人の所得率に応じて,10パーセント超あるいは15パーセント超で課される源泉税の当該超過部分を外国税額控除の対象から除外

 以下,上記①,②につき改正の趣旨を順番に迫っていく。

(ア)ネットの所得を課税標準とする法人税について(①)

昭和63年改正においては,外国税額控除の対象とされる外国法人税の額から,その所得に対する負担が高率な部分,つまり外国法人税の課税標準とされる金額の50パーセントを超える部分の金額は控除対象外国法人税の額から除外するものとされた。

 この考え方の基本は,当時のわが国の法人税の実効税率は概ね50パーセントであったことから,一定の割り切りとして50パーセントを超える高率で課される外国法人税を除外することにより,外国税額控除の限度管理につき一括限度額方式を維持しつつ,控除余裕枠の彼此流用による高率外国税の控除をできるだけ,排除しようとしたものである。

(イ)グロスの収入を課税標準とする源泉税(②)

 利子にかかる外国の源泉税については,法人の所得率に応じて,10パーセント超あるいは15パーセント超で課される源泉税の当該超過部分を外国税額控除の対象から除外することとした。

a 基本的考え方

 基本的な考え方は,上記の所得に対して課される税と同じであり,ネットの所得に対して課されるわが国の税額(実効税率50パーセントを前提)に比して高率である外国税を外国税額控除の対象にしないということである。

 利子に係る源泉税は,所得を課税標準とする法人税の場合と異なり,グロスの収入を課税標準とするため,表面税率はそれほど高率でなくともわが国の法人税の課税所得(当該貸付に係る資金調達のための支払利子,人件費等を控除した後のネット所得)に対する税負担は,わが国の実効税率をはるかに超える極めて高率な水準となる場合が多い。

 国際的二重課税の排除という外国税額控除本来の趣旨(所得項目別限度額方式が最も理想的であること。)からすれば,当該貸付から生じる所得に係るわが国の法人税を限度として外国税額控除を認めれば十分であるにもかかわらず,63年改正前の一括限度額方式の下では,このような高率の外国源泉税も,他の軽課税又は非課税とされた国外所得から生じる控除余裕枠を使って,わが国の法人税から控除されてしまう,すなわち控除余裕枠の彼此流用の問題が発生する。

 よって,この弊害に対処すべくそれぞれの高率負担部分を外国税額控除の入口で排除することとした。

 すなわち,グロスの利子収入に対する源泉税負担の割合(表面税率)が高いかどうかではなく,各企業の所得率(収入に対する課税所得の比率)を用いて高率負担部分を割り出しそれを除外することにしたのである。

 理論的には個々の貸付・債券投資ごとの所得率を用いる必要があるが,これは,適正な費用配賦の困難性,膨大な事務負担等実務上の重大な障害があることから個々の利子収入についての所得率にかえて,企業全体の所得率を用いることにしたものである。

b アローアンスの設定

 昭和63年改正においては,例えば当該法人の所得率が10パーセントの場合,個々の利子収入に係る所得率も平均10パーセントで程度であるとし,当該利子収入にかかるわが国の法人税はその約50パーセント,すなわち利子収入に対して5パーセント程度とみなし,それに5パーセントのアローアンスを上乗せした10パーセントを超える率で課される外国法人税を高率源泉税と判断している。これは,所得率について予想外の変動要因の影響を軽減するため納税者に有利に調整するべく,高率負担部分の判断に当たって,一定のアローアンスを置くことによって,納税者に有利な方向で一定の割切りをしているのである。(乙1,395頁)

イ まとめ

 上記改正の趣旨から分かるように,この規定は理論と実務簡便性の接点を見極めながら妥当なラインを引いた規定であるといえる。

 要するに,所得項目別限度額方式を採用しない限り,控除余裕枠の彼此流用を完全に防止することは不可能であり,しかし,他方で,納税の便宜や執行の簡潔性の観点も重要であることから,ここで一定の割り切りを行った。つまり,一括限度額方式では,構造的に控除余裕枠の彼此流用が生じることは明らかであるが,法が一定の彼此流用を課税上割り切って制限したのが,昭和63年改正なのである(甲10,14頁)。

 このように,昭和63年改正をもってしても依然として控除余裕枠の彼此流用が起こり得ることは改正法制定時においても予定していたといえ,このような彼此流用を課税上の弊害がないと認められる程度に制限することにより,一定の解決を図っているのである。

(3)昭和63年改正(控除限度額制度)の趣旨のまとめ

ア 以上述べたように,法69条自体,控除余裕枠の彼此流用を一定の限度で許容していると言わざるを得ない。

 外国源泉税が控除対象外国法人税であるか否かについては,一定の割切りをもって,各企業の所得率により画一的に判断することとしたのである。

 したがって,被告主張のように,ネットの利益と表面税率の比較により,控除対象外国税か否かの実質的判断を法は予定していない(乙1,394頁)。前述のように,控除対象外国税か否かは,政令により,便宜上一定の形式基準で判断すると定められており,この形式基準から離れて実質判断するのは被告独自の見解にすぎないのである。

イ この点,C教授の報告書(乙55の2,21頁)においても,「本件で真に問題なのは,控除限度額が寛大である点である」ことを認めており,本来,控除対象外国税額に該当するか否かについて,実質的判断は該当せず,数値(形式)基準により判断されるべきことを自認するものに他ならない。

 なお,これに続いて,C教授は,「外国税額控除の控除限度額制度の存在それ自体が,外国税額控除という政策的恩恵が政策的見地から制限を受けているという点を明確に示しているという点を考慮すると」一定の場合においては,限定解釈可能との意見を述べている(22頁)。

 しかし,上記のC教授の見解は,法が,彼此流用問題に対応するために,一定の数値基準(①外国税額控除の限度額について非課税所得の2分の1を除外,②高率外国税額の高率負担部分を外国税額控除の対象から除外)でもって,(彼此流用問題について)一定の割り切り(アローアンスの設定)をしたにもかかわらず,その割り切りを無に帰するものに他ならず(要するに,数値基準のうえにさらなる実質基準を持ち込むのであれば,控除限度額の存在及び高率部分の排除自体,無意味である),立法者の意図から早離しているのみならず,法的安定性.予測可能性を軽視する見解に他ならない。

4 被告の主張する限定解釈について

(1)法69条は,課税減免規定であるとの主張について

 被告は,法69条が課税減免規定であることを主張の前提とするが,法69条は税額控除の規定である。「税額控除」は,法上,第1に法人が各事業年度において支払を受ける利子・配当等について源泉徴収された所得税の控除(法68条),第2に法人が各事業年度において外国政府に納付する法人税の控除(法69条),第3に仮装経理に基づく過大申告の更正に伴う法人税額の控除(法70条)が規定されている。このように,税額控除は納付済の税又は納め過ぎの税を申告の際の税額計算において調整する役割を果たす規定なのである。原告は,本件ローン契約に基づく利子収入についてクック諸島において納税しており,これを納付済の税額として控除したものにすぎず,かかる点を考慮すれば課税の減免にはなっていないことは明らかである。

(2)限定解釈可能性について

ア 被告の主張する課税減免規定の定義は曖昧であり,法69条について如何なる根拠に基づき課税減免規定と主張されるのか不明である。被告主張のように,法69条を「政策目的実現のために課税を減免する国家による一方的な恩恵的措置」と位置付ける思想は,国民主権を理念とする我が国の憲法の精神に反するものに他ならず,時代錯誤も甚だしい。

 また,被告は,法69条は国家からの恩恵的措置であるが故に趣旨目的に沿った解釈をなすことにより,あたかも国家は自由に制限することができるかのごとき主張をなす。しかし,かかる思想は前近代的かつ専制君主の君臨する国家のものであり,法治国家の行政組織の姿勢として問題があるというべきである。

イ ところで,被告は法69条について,課税減免規定であるため,一般の課税根拠規定と異なり,特有の趣旨目的を有するのであって,したがって,立法趣旨に従って解釈するのは当然であり,当該規定の趣旨目的に反する行為又は当該規定が本来予定していないような当該規定の射程範囲外にある行為についてまで課税の減免を認めなければならない理由はないと主張する。

 しかし,課税根拠規定であっても,一定の政策目的実現のために制定されることがあるのであり,課税減免規定において課税根拠規定に比して,その立法趣旨・目的に従った広範囲な解釈の余地があると認める根拠は存在しない。

 そして,租税法は侵害規範であり,法的安定性の要請が強く働くから,その解釈は文理解釈によるべきであり,みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない。文理解釈によって,規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に,規定の趣旨目的に照らしてその意味内容を明らかにしなければならないが,法律の趣旨や立法目的に従って解釈するといっても,自ずから限界があるというべきである。かかる解釈の手法は,租税法規は複雑になり課税規定と課税減免規定が一体となって国民の権利に対する侵害規範になっている今日においては,課税根拠規定のみならず課税減免規定においても同様であるべきである。

 課税根拠規定と異なり課税減免規定については広く限定解釈が許されるという被告の論理は法的安定性を害する点において,課税規定を拡大解釈したのと同様の結果をもたらし,租税法律主義からは許されない。

 この点,被告は,本件ローン契約書に原告が外国税額控除を受けることができないか,受けられないおそれのある場合を想定した条項が設けられていることから,限定解釈による否認により法69条が本件取引に適用されなかったとしても,原告の経済活動に対する法的安定性及び予測可能性が害されることもないとの主張をなす。

 しかし,租税法律主義の求める法的安定性及び予測可能性の担保は,租税法規一般の解釈に要求されるものであり,個別の事案において個々に判断すべき問題ではない。被告の同主張は,本末転倒である。

(3)被告主張の限定解釈に対する反論

ア 被告は,法69条の「納付することとなる場合」の要件を限定解釈し,同要件は,内国法人が正当な事業目的を有する通常の経済活動に伴う国際的取引から必然的に外国税を納付することとなる場合をいうと主張する。

 しかし,上記に述べたように,租税法は原則として文理解釈によるべきであり,文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に,規定の趣旨目的に照らしてその意味内容を明らかにすべきであるところ,法69条の「納付」とは文言として一義的であり,ここに「正当な事業目的を有する…外国税を納付することとなる場合」との趣旨を読み込む余地はない。

 また,当該外国税を負担する原因となった私法行為が仮装行為等である場合ならばともかく,私法上有効な法律行為に基づき,外国で納税するに至った場合であるにもかかわらず,「正当な事業目的」を有する取引であったか否かによって,「外国税を納付したか否か」の解釈が異なるのは,法的安定性・予測可能性の観点から許されないというべきである。

 さらに,本件取引が「正当な事業目的を有するか否か」で法69条の適用の有無を決しようとする被告主張は,外国税額控除余裕枠の彼此流用が問題となるにすぎない本件取引について,ことさら悪質であるかの如き主張をすることにより,法69条の適用を否認規定なくして,個別に排除するものに他ならない。

 そして,外国税額控除余裕枠の彼此流用については,法が一括限度額方式を採用した時点で不可避なものとなっており,一定の割り切りのもと立法的解決が図られてきたことは既述のとおりである。被告の「正当な事業目的」で法69条の適用の可否を決するとの解釈は,法が外国税額控除余裕枠の彼此流用について一定限度で許容している趣旨に反するものである。

イ 被告は,法69条は国際的二重課税を排除して我が国企業の国際取引に伴う課税上の弊害を取り除き,事業活動に対する税制の中立性を確保することを目的とするものであるから,同条の「納付することとなる場合」は限定解釈が可能であり,「正当な事業目的を有せず「外国税を納付することとなる場合」にあたらない例」として,①当該取引から得られる利益が名目的なものにとどまり,外国税額控除を得ることのみを目的とした取引と認められる場合,換言すれば,租税に関する利益ないし租税回避のみを目的としたと認められる場合や,②当該取引から得られる利益と外国税額控除から得られる利益を比較した場合に前者が後者に比べて著しく少ない場合をあげ,これらの場合には,一括限度額方式を採用した我が国の外国税額控除制度の趣旨に明らかに矛盾するため,かかる取引から生じる外国税について税額控除を認めれば法律の目的が害されると主張する。

 しかし,上記①の「租税に関する利益ないし租税回避のみを目的とした取引」は,法69条の適用範囲外であるとの解釈は,まさしく,租税回避の否認を法律の個別規定なくして認める見解に他ならない。しかし,かかる見解は,租税法律主義の見地から許されない。

 なお,本件取引では,利ざやの確保と外国税額控除の適用は一体のものであり,外国税額控除を得ることのみを目的とした取引ではない。また,本件の利ざやは0.35パーセントであるところ,これが海外貸付においてはごく普通の利ざやである。

 よって,かかる例が「正当な事業目的を有しない」と判断される例でないことは明らかである。また,上記②の場合は,高率の外国税を他の軽課税もしくは非課税とされた国外所得より生じる控除枠を利用して控除する,いわゆる控除枠の彼此流用の典型例である。このように,被告は,控除枠の彼此流用がされた取引については法69条の適用外であるとの主張をなすものであるが,前述のように,法69条は,彼此流用を一定の限度で許容しているのである。

 この点については,昭和63年改正の趣旨からも明らかなように,法は形式的基準(要するに高率であるか否かの判断は,法人の所得率により画一的に行う。)により高率部分の排除を行うことにより彼此流用問題に一定の解決を与えており,「正当な事業目的を有する取引から生じた外国税」であるか否かの判断基準を設けなかった点に留意すべきである。

 つまり,「高率部分」を形式的基準で排除することにより彼此流用問題に関し一定の立法的解決を図った点に鑑みれば,法69条の「外国税を納付することとなる場合」の解釈に際し,「正当な事業目的を有する取引から生じた外国税」か否かの実質的判断をすることを法は予定していないといえるのである。

 また,被告は,単純に取引から得られる利益である利ざやの0.35パーセント(ネットの利益)と15パーセントの源泉税(表面税率,控除対象外国税額)とを比較し,表面税率が高率であることを主張することにより「正当な事業目的を有する取引」でないと主張していると思われる。

 しかし,高率外国源泉税か否かの判断はネットの利益と表面税率の比較においてなされるものではない。一括限度額方式を採用した場合には必然的に彼此流用が起こり得るのであるが,外国源泉税の高率部分の判定が困難であることから,控除対象外国税か否か(高率部分か否か)の判断は便宜上一定の基準(各企業の所得率により画一的に判断)で判断すると法令で定めたのである。この形式基準から離れて被告のように外国税額控除額(表面税率)と取引から得られる利益(ネットの利益)を単純に比較することを法は予定しておらず,表面税率とネットの利益にのみ着目し「正当な事業目的を有する取引」か否かの判断をする被告の主張は失当である。

ウ このように,控除枠の彼此流用については,かねてから,一定の割り切りのもと立法的解決が図られてきているのである(平成4年にも国外所得から除外する非課税所得を3分の2に制限する改正を行い現在に至っている。)。したがって,控除枠の彼此流用の起こっている本件取引が法69条の趣旨目的に反するとは到底いえない。

 被告の主張する限定解釈は許容される法解釈の範囲を逸脱した立法論にすぎない。

(4)正当な事業目的の有無に関する具体的基準について

ア 被告は,正当な事業目的がない例として,①当該取引から得られる利益が名目的なものにとどまり,外国税額控除を得ることのみを目的とした取引と認められる場合,②当該取引から得られる利益と外国税額控除から得られる利益とを比較した場合に前者が後者に比べて著しく少ない場合をあげ,さらに,正当な事業目的の有無に関する具体的判断基準として諸事情をあげる。

 しかし,被告の主張に従えば,納税者は,取引に際し,被告主張の各事情を考慮して外国税額控除適用の可否を事前に予測しなければならなくなるが,それはほとんど不可能を強いるものであり,納税者に多大な負担とリスクを課すものである。

イ 被告が主張する具体的基準は,被告独自の判断基準にすぎないが,以下必要な範囲で反論する。なお,被告は,これらの事情を「正当な事業目的」の有無を判断するための一般的な基準であるかのように主張するが,実際には,本件取引の仮装性に関連して主張した事実を再述しているにすぎず,事案が異なれば別の基準が設定されることは容易に推測でき,課税庁の恣意を許すことになる。

(ア)事業の目的及び取引に至る経緯

 被告は,本件取引が租税負担の回避を目的として開始された取引であるため,取引それ自体が企業の通常の事業目的として適合していないと主張する。

 しかし,原告自身,本件取引をなすことにより何らの租税負担の回避も行っていない。外国税額控除の適用を前提として,0.35パーセントの利ざやを獲得するために本件取引を行ったのである。ここに,ユーロピアン社やファースト社に対して外国税額控除の余裕枠を提供する等の意思などあるはずもない。

 また,既述のとおり,契約締結日を遡及させたとの被告主張は推測にすぎない。

(イ)取引の種類

 本件取引は預金及び貸金であるため,被告は,本件取引について形式的には銀行が通常行う取引であると認められるが,実質的には通常の契約ではないと主張する。

 しかし,契約書上預金及び貸金であることは争いようもなく,また,契約内容についてもごく通常の契約であり,これをもって通常でないとの被告の主張が原告には理解できない。また,被告は,原告はユーロピアン社に代わりクック諸島源泉税をわが国における外国税額控除の適用を受ける形で吸収していたと主張するが,外国税額控除の適用により,原告は0.35パーセントの利ざやを得たにすぎず,これを源泉税の吸収と評価するか否かはともかく,ユーロピアン社の代わりに吸収することなどありえない。

 また,被告は,「本件取引は故意に外国税額の「納付」が作出された取引であり,「正当な事業目的」を有しない取引である」と断定するが,原告は,あくまでも独自の判断で収益獲得を目的として本件取引に参加したものにほかならない。

 なお,本件取引を選択した場合には,結果的にユーロピアン社自らがファースト社に貸し付けた場合より,ユーロピアン社にとって租税負担が軽減されたとしても,原告にしてみれば,本件取引に参加することにより,通常の預金担保貸付で得られる利ざや(及び取引参加料)が獲得できるのみであり,「故意」に外国税額の「納付」を作出する意味は全くない。

 よって,原告は,ユーロピアン社の代わりに源泉税を吸収するため(すなわち,外国税額控除の適用を受けるため)に本件取引に参加したとの主張は,被告の独断である。

(ウ)契約内容の妥当性

 前記第4の2,3のとおり。

(エ)予定される決済の妥当性

 本来取引は被告独自の主張であり,原告には全く関係ない。つまり,被告主張の本来取引をユーロピアン社及びファースト社が選択した場合は,原告は無関係であり,原告にしてみれば,本件取引を行うにあたり,独自に経済合理性を判断した。本件取引は,原告としては,取引に入るか入らないかの選択しかない。

 また,何故,かかる取引が事業目的に背理するのか理解しかねる

(オ)期待利益の妥当性

 被告は,原告の収益獲得が外国税額控除の適用に依存している点を非難するようであるが,いかなる合理的経済人といえども,経済的意思決定を行うにあたってはそれに伴う税負担を度外視する訳にはいかず,むしろ,租税の問題は経済的意思決定を行うにあたって考慮しなければならない最も重要なファクターの1つであり(乙56,2頁),外国税額控除の適用を前提として経済合理性を判断したとて何ら論難されるいわれはない。

 また,前述のように,0.35パーセントの利ざやを単純に15パーセントの源泉税と比較するのは失当である。

(カ)複数の取引相互間の関連性

 ユーロピアン社及びファースト社の取引の選択可能性の問題を,被告は独自に本来取引を設定して論難するにすぎない。

(キ)既存取引参画の合理性

 被告は,原告がユーロピアン社の租税負担を回避する目的をもって,余裕枠を提供し,これと引き換えに対価を取得したとの主張をなすが,原告とユーロピアン社とは本件取引以外には何らの取引関係になく,原告には他人の租税負担の回避を手伝う理由など存在しない。また,被告は,取引参加料を対価として位置付けているが,既述のとおり失当である。

(ク)取引内容の妥当性

 本件預金契約及びローン契約は,契約書上明らかなように,ごく通常の契約である。

(ケ)資金の流れ

 被告は資金循環を主張するが,これは資金循環=租税回避のテクニックであるとの被告の独断に基づくものにすぎない。また,取引終了段階において,貸金及び預金については資金移動なくして契約が終了している点を問題とするようであるが,簡易な決済手段をとることは自由であり,論難されるいわれはない。

 また,かかる簡易な決済手段をとり得ることは契約書上明記されている(本件ローン契約書19条C(Ⅳ))。

(コ)リベート等収入の有無

 被告は取引参加料の受領について,通常の貸金契約における貸主が本来受領すべき収入でないと主張するが,既述のとおり失当である。

(5)まとめ

 以上述べたように,法69条が課税減免規定であるから限定解釈が可能であるとの被告主張は失当である。

 また,仮に,限定解釈が可能であるとしても,本件の預金取引及び貸金取引は原告の事業目的に沿った取引であり,かつ通常の経済合理性ある取引である。また,彼此流用が起こっている点をとらえても,前述のように法69条は一定の限度で彼此流用を許容しており,本件取引は決して法69条の趣旨に反する取引ではない。よって,本件取引を限定解釈によって否認することはできない。

 本件取引は私法上真正な取引(預金契約及びローン契約)であり,法69条の要件に該当することは疑いようもない。にもかかわらず,これを否認する被告の主張は,本件取引を租税回避と位置付け,個別規定なくして否認するものに他ならない。

第4の4 被告の予備的主張が認められた場合の損金処理

 原告は,法69条の限定解釈は租税法律主義に反し許されないと考えるが,念のため,予備的に法69条の限定解釈により本件外国税額控除の適用が否認された場合について論ずる。

1 本件取引により発生した外国源泉税(以下,「本件源泉税」という。)が,法69条の限定解釈により同条の外国法人税に該当しないと判断された場合,本件源泉税は,損金算入の対象となるか。

(1)法69条適用の要件は,本件源泉税が①法人税法施行令141条に該当する(収入金額を課税標準として課された税金)外国法人税であること,②法人税法施行令142条の3に非該当である(高率負担部分に該当しない)こと(法69条において「控除対象外国法人税」と再定義),さらに,控除対象外国法人税が控除限度額を超える場合には③控除限度額を超えない金額であることである。

 本件源泉税は,言うまでもなく,上記①ないし③の要件を充たしており,法69条の外国法人税・控除対象外国法人税に該当することは明らかである。にもかかわらず,仮に,法69条の限定解釈により,そもそも法69条の適用の前提を欠くとして,上記要件該当性を判断することなく,同条の外国法人税には該当しないとして同条の適用を排除される場合であっても,本件源泉税がクック諸島での利子収入にかかる税であること自体には変わりない。

 よって,限定解釈により法69条の要件該当性を判断することなく,同条の適用の前提を欠くとして税額控除の適用を排除されたとしても,本件源泉税の費用性まで否定されるいわれはなく,当然,損金算入されるのである。

(2)ア なお,この点,被告は,本件源泉税が税としての性格すら否定されるかの主張をなすが,本件取引が仮装取引であると認定された場合ならともかく,本件取引が有効である場合の限定解釈を前提とする以上,本件源泉税の費用性(税金)を否定されることはない。よって,かかる被告の主張は,失当である。

 また,被告は「かかる経費の内容は,…原告に生じた損失の補填ないし補償に関する原告とユーロピアン社及びファースト社との協議によって確定する」等と主張する。

 しかし,まず,後述のように,本件源泉税は利払時に費用として確定しており,被告主張の確定の問題は生じない。

イ そして,被告主張の補償請求権については,ローン契約書7条Cの解釈にかかわる問題であるが,この点については,既に主張のとおり,同条項は否認判断を想定した規定ではなく,また,否認判断に適用のないことは契約書上明らかである。よって,補償請求権が存在するとの被告主張は誤りである。

 また,被告は,補償請求権があることを前提に「損失の補償については,原告とユーロピアン社及びファースト社との協議によって確定する」と主張するが,契約書上も「協議によって補償の内容が確定する」等の記載は一切ない。

 さらに,被告は,「原告がファースト社に対する補償を求め得ないものとすると,本件各契約は,原告において外国税額控除を受けることが当然の前提となっており,その場合の補償規程がないとすれば,契約について要素の錯誤がある。よって,原告はファースト社に対して本件ローン契約の錯誤無効を主張して原状回復を求めることができる。」と主張する。

 しかし,本件のように否認された場合に源泉税について補償請求権が発生しないことは,当事者の意思(合意)として,契約上明らかである。よって錯誤は問題とならない。そして,否認された場合に原告が取り得る手段は,本件各契約を終了させることにより,取引関係から離脱することのみであることは既述のとおりである

 また,原告が外国税額控除の提供を受けることが前提の契約であるからといっても,否認された場合の補償請求権が存在することは論理必然ではなく,契約について要素の錯誤があるとはいえない。にもかかわらず,錯誤主張をなし得るとの被告主張は,本件ローン契約の締結が外国税額控除の適用を受けることを目的としたものであるとの偏見から生まれるものに他ならない。

 よって,錯誤は問題とならず,当然のことながら,原告はファースト社に対して否認されたことを理由に,契約の錯誤無効を理由に原状回復を求め,源泉税相当額についての償還等を受けることはできない。

 以上より,本件ローン契約の権利義務を譲渡後24か月を経過するまでは原告の損金として確定しなかったとの被告主張は失当である。

(3)本件源泉税が損金算入される場合の時期の問題について

ア 本件源泉税は,クック諸島の法令により課された税金である。

 租税公課は,基本的には公正妥当な会計基準に従い,一般管理費その他費用(損金)となる(法22条)。そして,償却費以外の費用は,債務の確定をまって初めて損金に計上することができるとされている(法22条3項2号括弧内)。

 この点,本件源泉税は,源泉徴収の対象となった利子の支払日に租税債務として確定しており,その債務確定の日(利払日)をもって損金計上を行うものであり,当然,平成4年ないし6年度の損金の額に算入されるのである。

イ なお,この点につき,被告は,原告がファースト社に対して補償請求権を取得するため,平成4年ないし平成6年の各事業年度においては,損失の額が確定しておらず,仮払金となり,各事業年度において損金算入はできないとの主張をなすが,かかる被告の主張は,本件源泉税の税としての性格を否定するものであり,失当である。また,前述のように,ローン契約上,原告が外国税額控除の否認による損失をファースト社に対して補償請求することはできないことは明白である。

 したがって,平成4年ないし6年の各事業年度において損失の額が確定しないとの被告主張は失当である。

ウ 仮に,被告主張のとおり,ファースト社に対する補償請求権を原告が取得していたとしても,本件源泉税の損金算入の問題とは別問題である。

 つまり,前記アで主張したように,本件源泉税は源泉徴収の対象となった利子の支払日に費用として確定していることから,各事業年度において損金算入される一方,原告が取得し得る補償請求権については,収益に計上されるべきものであり,ただ,その時期が問題となるにすぎない。

 この点,法人税基本通達2-1-37において,損害賠償請求権については,原則としてその支払を受けることが確定した時の収益とする(すなわち,潜在的な損害賠償請求権の収益計上は要求しない)が,法人がこれについて実際に支払を受けた時点で収益計上することとしているときは,税務上もこれを認めることとしている。

 これは,損害賠償請求の相手方に賠償責任があるのかどうか当事者間に争いがあることが少なくないし,仮に相手方に賠償責任があることが明確であるとしても,具体的にいかなる金額の損害賠償を受け得るのかについては,当事者間の合意又は裁判の結果等を待たなければ確定しないのが普通であり,さらに形式的には損害賠償金の額が確定したとしても,具体的な給付を受けるまでは,なお確定的な収益といえるかどうかが疑問なしとしない面が多々あること等の事情を考慮したことによるものである。

 したがって,仮に原告が補償請求権を有するとしても,被告の主張する補償請求権の額は平成4年ないし6年の各事業年度において確定しておらず,また現実に支払を受けてもいないことから,平成4年ないし6年の各事業年度において益金に算入する金額は存在しない。

 そして,同通達の(注)書において,損害賠償の起因となった損害にかかる損失については,その発生した時点で損金算入することができることとし,損害賠償金収入との対応関係を切断して処理してよい旨を明確にしている。

 よって,本件源泉税を平成4年ないし6年の各事業年度の損金の額に算入し,一方で,補償請求権を益金算入する必要がないことは明白である。

エ 以上より,被告予備的主張における仮払金の計上及び仮払金に対する貸倒引当金の計算は不適である。

2 本件源泉税が法69条の控除対象外国法人税に該当するにもかかわらず,税額控除の適用は排除されると判断された場合に本件源泉税は損金算入の対象となるか。

(1)仮に,本件源泉税が法69条の控除対象外国法人税に該当するにもかかわらず,限定解釈により同条の適用を排除される場合であっても,法41条の適用は問題とならず,当然損金算入される。以下,理由を述べる。

(2)ア まず,法69条適用の要件は,前記1(1)のとおりであるが,法41条では,法69条で定義された控除対象外国法人税につき,税額控除の適用を受ける場合はその額は損金に算入しないと規定している。

 このように,法69条と41条は,法人税法施行令141条及び142条の3により定義された控除対象外国法人税について税額控除か損金算入かのどちらかを選択させるいわば表裏一体の規定といえる。

 よって,法69条(税額控除)適用の対象となった控除対象外国法人税のみが法41条適用の対象となるのである。すなわち,41条で損金不算入とされるのは,具体的には,法69条の外国税額控除が認められた控除対象外国法人税,控除対象外国法人税のうち控除限度額を超過した分,法69条の適用が可能にもかかわらず控除を選択しなかった控除対象外国法人税である。

 本件のように,控除限度額超過分でない控除対象外国法人税であるにもかかわらず,法69条の適用を排除される場合は,そもそも法41条の損金不算入の対象ではない。

イ また,法41条に関する法人税基本通達16-3-1には,「69条の外国法人税の額(控除対象外国法人税の額に限る)の一部につき,同条の規定の適用を受ける場合には,第41条の規定により当該外国法人税の額の全部が損金の額に算入されないことに留意する。」と定められている。

 このように,控除対象外国法人税の全額について,外国税額控除制度か損金算入かいずれか一方を選択させる法41条の趣旨は,税額控除が認められた外国法人税について損金算入を認めると法人が二重に利得することになるから,これを防止する必要がある点にあり,また,控除限度額超過分の控除対象外国法人税については当該事業年度において損金算入を認めなくとも,一定限度において繰越控除(法69条2項,3項)が認められるため,その必要がないと考えられた点にある。

ウ この点,本件のように,法令で定める控除対象外国法人税の要件に該当するにもかかわらず,限定解釈という法が予定しない手法により法69条の適用を排除される場合には,損金算入したとて法人が二重に利得するわけでもなく,また本件源泉税につき繰越控除も認められるわけではないので,上記の法41条の趣旨からいっても,損金不算入とする理由はなく,そもそも法41条適用の場面には該当しない。

 よって,本件のように法69条の控除対象外国法人税に該当するが,税額控除の適用を排除される場合には,そもそも法41条適用の要件をも欠くのである。仮に,本件源泉税につき税額控除のみならず損金算入すら否定するのであれば,本件源泉税の費用性(税としての性格)そのものを否定するのと同義であり,本件ローン契約の有効性そのものに疑問が生じる結果となるが,仮装行為と認定されるのであればともかく,本件ローン契約が有効である以上,本件源泉税の費用性を否定することはできないのである。また,本件源泉税の税額控除,損金算入のいずれをも否定することは,控除対象外国法人税につき税額控除か損金算入かのどちらかを選択させる法の趣旨に反することは明らかである。

 以上より,法69条の適用が排除された控除対象外国法人税については法41条の適用もないと言わざるを得す,当然に損金算入されるのである。

(3)この点,被告は,「外国税額控除制度は,控除対象外国法人税の全部について税額控除もしくは損金算入のいずれか一方の方法を選択しなければならず,原告が外国税額控除の方法を選択している以上,外国法人税の全額は損金算入することはできず…」と主張する。

 しかし,かかる被告の主張は,法41条の趣旨を理解していないとしか言いようがない。

 確かに,形式的に法69条と41条の条文を読むならば,本件源泉税が形式的には控除対象外国法人税に該当すると判断された場合,法41条の控除対象外国法人税に該当するともいえよう。

 しかし,前述のように法41条は,控除対象外国法人税の全額について税額控除か損金算入かのいずれかを選択させる規定であり,その趣旨は,税額控除と損金算入の両方を認めるならば法人が二重に利得することからこれを防止する必要がある点にある。

 よって,本件のように,控除対象外国法人税の要件に該当するにもかかわらず,税額控除の適用が排除されるような場合は,そもそも法41条の射程範囲外であるといわねばならず,本件源泉税は当然,損金算入されるのである。

 また,被告は,税額控除の適用の有無に関し,控除対象外国法人税該当性の判断について,法69条1項自体が法人税法施行令(142条の3)に定められた基準しか予定していないにもかかわらず,それ以外の実質的基準を持ち込んで,実質的に控除対象外国法人税該当性を判断したうえで税額控除の適用を否定する反面,法41条の適用の場面においては,同施行令に定められた基準のみで控除対象外国法人税該当性を判断している。

 このように,法69条適用の場面においては実質判断を行う反面,法41条適用の場面においては,形式面のみ強調する被告の思考の根底には,本件取引が仮装であるとか,原告が源泉税の納付の主体ではないとの考えがあるからに他ならない。かかる被告の論理が破綻しているのは明らかである。

 前述の控除対象外国法人税の全額について税額控除もしくは損金算入のいずれか一方の方法を選択させる法の趣旨からしても,被告の主張は失当である。

 よって,本件源泉税は当然損金に算入されるのである。

(4)また,仮に本件源泉税が法69条の外国法人税に該当するにもかかわらず,限定解釈により税額控除の適用を排除されるのであれば,これは,要するに本件取引における控除枠の彼此流用を「控除枠をユーロピアン社ないしファースト社に利用させるとの役務提供である」と評価した結果,控除対象外国法人税該当性を否定されたものに他ならない。

 控除枠の彼此流用の問題については,高率負担部分の排除等という形で法人税法の改正をすることにより,一定の割り切りのもとで一定の立法的解決がなされたのである。にもかかわらず,本件源泉税につき法69条の適用を排除することは,課税要件明確主義,租税法律主義に反することは明らかである。

 そして,昭和63年改正の結果,法69条1項では,外国法人税から高率負担部分を排除したものが控除対象外国法人税と再定義されていることからしても(要するに,外国法人税のうち高率負担部分しか排除が予定されていない),本件源泉税を69条の適用上控除対象外国法人税から排除するのであれば,排除された本件源泉税は高率負担部分と同様,当然法41条の適用外となってしかるべきである。

 よって,実質的に考えても,本件源泉税は高率負担部分と同様,法41条の控除対象外国法人税には該当せず,損金不算入の問題は生じない。

 以上より,本件源泉税は当然に損金算入されるのである。

(5)損金算入の時期

ア 前述のように,本件源泉税は租税であり,源泉徴収の対象となった利子の支払日に租税債務として確定しており,その債務確定の日(利払日)をもって損金計上を行うものである。よって,当然,平成4年ないし6年度の損金の額に算入されるのである。

 また,前述のように,原告が補償請求権を有していないことは契約書上明白である。

イ なお,仮に補償請求権が存在したとしても,これは,本件源泉税の損金算入の問題とは,別に益金算入が問題となるにすぎず,本件では益金算入すべき金額が存在しないことは前述のとおりである。

 よって,本件源泉税を平成4年ないし6年の各事業年度の損金の額に算入し,一方で補償請求権を益金算入する必要がないことは明白である。

ウ 以上より,被告予備的主張における仮払金の計上及び仮払金に対する貸倒引当金の計算は不適である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5 当裁判所の判断

 本件の争点は,本件源泉税を法69条に基づき税額控除することの可否であるが,被告は,本件源泉税の発生の前提となる本件取引を,主位的には,私法上の法律構成による否認によって,予備的には,法69条の限定解釈による否認によって否認し得ると主張するので,以下,被告の各主張につき判断する。

 

 

 

第5の1 私法上の法律構成による否認について

 

 

 

第5の1の1 総論

1 本件における規範構造及び準拠法

(1)法69条1項は,「外国法人税(外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。)を納付することとなる場合」に外国税額控除を認めるが,同条の委任を受けた施行令141条1項は,「外国法人税」を「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税」と定義づけている。そして,施行令141条2項3号は,同条1項の外国法人税に含まれるものとして「法人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で,法人の特定の所得につき,徴税上の便宜のため,所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの」をあげる。

 本件では,本件源泉税に法69条1項の適用があるか否かが争点となっているが,本件源泉税が,「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により」法人である原告がファースト社から得たとされる利息額を「課税標準として課される税」であり,形式的には施行令141条2項3号,同条1項により前記外国法人税に該当することは当事者間に争いがないのであるから,結局,本件においては,原告がファースト社から得たとされる利息が真実原告の利子による「所得」等の利得に当たるか否かが問題となる。

(2)ところで,「所得」は通常ある特定の私法上の権利又は法律関係を前提としているのであるから,所得の有無を判断するには,当該法律関係の効力が問題となる余地がある。そして,租税法の適用上,本件取引の私法上の効力が問題となる場合には,本件取引,すなわち本件ローン契約及び本件預金契約は,当事者の合意によって英国法が準拠法として指定されているのであるから(甲1,2),所得の有無を判断する上での前提として,本件取引の私法上の効力の有無については英国法を準拠法とすべきとの考え方もあり得るところである。

 しかし,後記第5の2の1,2のとおり,外国税額控除の制度は国際的二重課税を排除することを目的とするものであるから,施行令141条1項にいう「所得」は我が国の法人税法においても課税標準とされるものであると解するのが相当であるが,かかる「所得」は我が国租税法固有の概念であり,その「所得」に該当するか否かを判断するために準拠すべき法は我が国租税法であることは疑いがない。そして,所得に対する課税は,所得自体に担税力を認めて課税するものであるから,その原因行為の私法上の効力は原則として問題となる余地がなく,「所得」とみられる利得が,利得者が私法上有効に保有し得る場合のみでなく,私法上無効であっても,それが現実に利得者の管理支配のもとに入っている場合には,課税の対象となると解すべきである(最高裁昭和38年10月29日第三小法廷判決・集民68号529頁,最高裁昭和46年11月9日第三小法廷判決・民集25巻8号1120頁)。

 そして,施行令141条2項3号の「収入金額」も上記「所得」と同様,担税力の観点からすれば,利得者が私法上有効に保有し得る場合のみでなく,私法上無効であっても,それが現実に利得者の管理支配のもとに入っている場合をいうと解するべきである。

 したがって,本件における私法上の法律構成による否認においては,本件各契約の私法上の有効無効を判断すること,その前提として,契約の有効無効を判断するための準拠法を探求すること自体は無意味であり,真実利得が確保されているのか否か,それが当事者の真意として利子による利得に該当するのか否かが判断されなければならず,かかる判断は,結局のところ事実認定の問題に帰着し,事実認定の問題は法廷地法によるべきであり,本件においては,準拠法を問題とする余地はない。

2 私法上の法律構成による否認の可能性

(1)所得に対する課税は,私法上の行為によって現実に発生している経済効果に則して行われるものであるから,第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われる。

 しかしながら,その経済取引の意義内容を当事者の合意の単なる表面的,形式的な意味によって判断するのは相当ではなく,裁判所は,私法上の真実の法律関係に立ち入って判断すべきであって,このような裁判所による事実認定の結果として,納税者側の主張と異なる課税要件該当事実を認定し,課税が行われることは私法上の真実の法律関係に即した課税であり,当然のことであるといえる。そして,かかる事実認定を行い得る場合としては,(1)当該取引が実体のない仮装取引である場合と(2)表面的,形式的に存在する法律関係とは別に真実の法律関係が存する場合が考えられる。

(2)仮装取引の場合

 まず,当事者が外形上取引を仮装し,同外形に応じた経済的効果が発生していない場合には,これをもって課税要件を充足したものと解することができないのは明らかである(なお,通謀虚偽表示の結果,当該契約が無効とされ,結果として課税要件を充たさない場合があり得るが,これは,前記1(2)のとおり,通謀虚偽表示により契約が無効となるか否かが問題となるのではなく,その結果として,当事者間で利得の保有が確保されなくなる場合に問題になるにすぎない。したがって,私法上の契約の効力自体が直接問題となるものではない。)。

(3)真実の法律関係が存する場合

 また,当事者間の契約等において,当事者の選択した法形式と当事者間における合意の実質が異なる場合には,取引の経済実体を考慮した実質的な合意内容に従って解釈し,その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成をして課税要件への当てはめを行うべきである。

 

 ただし,上記の解釈は,要件事実の認定に必要な法律関係については,表面的に存在するように見える法律関係に則してではなく,真実に存在する法律関係に則して要件事実の認定がなされるべきことを意味するに止まり,真実に存在する法律関係から離れて,その経済的成果や目的に則して法律要件の存否を判断することを許容するものではない。

 

 この限度で,かかる解釈も,租税法律主義が要請する法的安定性,予測可能性を充足するものである。

 

(4)なお,上記(2)あるいは(3)の判断にあたっては,複数の当事者間で行われた個々の契約が存在するとしても,全体があらかじめ計画された一連のスキームであるならば,全体を一体のものとして判断すべきであり,そのような一連の取引は,個々の契約がそのとおり実行されていたとしても,そのことゆえに各契約が各契約所定の内容のものとして当然有効となるものではない。

 

 

 

 

 

第5の1の2 本件取引について

1 本件取引については,次の各点を指摘することができる。

(1)当事者の経済的目的とその認識

 前記第2の3,2の事実によれば,キャピタルマーケット社は,ユーロピアン社からファースト社へ資金を移動させて,ファースト社において本件C/D購入資金に充てるに際し,ユーロピアン社からファースト社へNZドルを直接貸し付けた場合にその利子に課されるクック諸島源泉税を軽減化する目的で本件取引に原告を介在させ,原告に,外国税額控除を利用してクック諸島源泉税分の税額控除を受けさせることによりこれを吸収(負担)させたものと解される。

 そして,原告内部で作成された内諾申請書(乙4)及び本申請書(乙5)の本件スキームについての説明中には,原告の役割として,投資家から集められた資金をクック諸島へ移動させる際に課せられる源泉税を吸収するために介在する旨明記されており,原告もこれを認識していたことが明らかである。

(2)原告内部文書の記載

 一方,前記各申請書はいずれも貸出についての申請書が用いられており,前記内諾申請書(乙4)には,取り上げ理由として,「スキーム上の問題なく,預担案件であり,ドキュメンテーションを法律事務所を通じて行い,相殺条項に万全を期するものでありリスクはない。」,「参加料も含め平均33B.Pのスブレッドは預担案件としては最良である」との記載があり,また,本申請書(乙5)にも取り上げ理由として同趣旨の記載があり,さらに,担保として「バミューダに設立されたFCB(ファースト社)のサブシダリー(担保差入人・名称未確定)からの預金USD建5000万を担保とする」との記載がある上,乙第4号証の内諾申請書の決裁附記欄には「預担相殺条項に万全を期すこと(為念)」との記載があり,原告においては,本件取引における利益を預金担保貸付取引のカテゴリーのなかで十分に比較検討し判断していることが認められる。

(3)資金の流れ

ア 通貨スワップの存在

 原告内部の前記各申請書(乙4,5)には,本件取引においては,ユーロピアン社とファースト社との間で,NZドルとUSドルの通貨スワップが行われる旨の記載があり,かかる通貨スワップが行われた事実が容易に推認でき,原告もかかる通貨スワップの存在を認識していたものと認められる。その結果,ユーロピアン社,原告,ファースト社間で5000万USドルの循環が生じている(乙4,5頁,乙5,6頁のチャート参照)。

イ 具体的な資金の移動

(ア)本件取引に関しては,本件ローン契約書く甲1)及び本件預金契約書(甲2)の合意に従って資金移動が前記第2の3,6の事実のとおり行われた。

 上記事実によれば,原告とファースト社との取引について,資金の決済は,ファースト社の指示に基づき全てユーロピアン社の口座を通じて行われており,原告とファースト社間での直接の資金移動はみられない。

(イ)また,契約の終了段階をみると,前記第2の3,7の事実のとおり,原告のファースト社に対する本件ローン契約上の権利,利益及び義務の全てはユーロピアン社に譲渡され,同譲渡の対価は本件預金契約に基づく預金と相殺され現実の資金移動は認められない。

(4)契約締結日

 本件取引の各契約書はいずれも平成元年3月31日付けで作成されているところ,原告内部では,平成元年3月23日付で内諾申請がなされ,同年3月29日付で認可されている(乙4)。また,内諾申請には契約締結の予定日として,同年3月31日が記載されている。ただし,内諾申請の段階で,借入人はキャピタルマーケット社の100パーセント子会社である「First Capital Bank LTD」が予定名として記載されており,未だ確定していなかった事情がうかがえ,また,担保差入人については,名称は未確定とされていた。

 そして,原告内部においては,その後,同年4月5日付で本申請がなされ,同年4月14日付で認可されている(乙5,59の1及び2)。内諾申請と比較すると,内諾申請においては5年の期間のうち1ないし3年目の貸付金利が預金金利に0.30パーセントを加えたもの,4年目及び5年目が同じく0.35パーセントを加えたものであったのが,本申請においては1ないし5年目を通じて預金金利に0.35パーセントを加えたものとされている。また,借入人はファースト社,預金者はユーロピアン社に確定している。

 上記各申請書の記載を比較するならば,原告において本件取引に参加する旨の意思が確定したのは,平成元年4月14日の段階であると解される。

 しかしながら,ファースト社は,平成元年4月4日に,本件ローン契約に基づき,原告シンガポール支店に対し元本5000万USドルの送金の指示をしており(甲6),また,本件ローン契約に基づく融資実行,預金の預入及び金利の送金は,いずれも平成元年4月6日付で本件各契約に従ってなされていることが認められる(前記第2の36(1),乙6,7ないし12の各1及び2)。

 かかる事実に徴する限り,金融機関たる原告として,ローン契約の締結前に融資実行することは通常考えにくいから,本件ローン契約は外部的には,平成元年4月4日以前に締結されていたことが推認される。そして,内諾申請段階でも,借入人はクック諸島においてオンショア企業(クック諸島ではオンショア法人として設立された子会社の決算を親会社に連結納税する必要がなく,しかも,クック諸島の法人所得税の税率がニュー・ジーランドより低い)として設立されるキャピタルマーケット社の100パーセント子会社であり,名称も仮称ではあるが「ファースト社」となっており,借入人の同一性を欠くものとはいえず,また,金利も原告に有利になっているのであるから,原告シンガポール支店としては本申請は認可されるはずであるとの判断の下に,認可前実行として,平成元年3月31日に契約締結をしたとの原告の主張も十分に合理性が認められる。

(5)貸付けに係るリスク負担の有無

ア 本件ローン契約は,ユーロピアン社の預金を担保としたものであり,原告に生じるリスクは最小限に抑えられているといえる。

イ さらに,本件ローン契約においては,原告のリスクに対処するいくつかの規定が置かれている。

 まず,本件ローン契約書7条Aは,「借入人による全ての支払は,法律で要求された限度までの税額控除ないし源泉徴収を行う場合を除いて,その他の控除,差し引きをすることなく行われるものとする。」「仮に,借入人が,法律に基づき支払い総額から税額控除や源泉徴収を要求される場合には,借入人が必要な支払金額は,税額控除や源泉徴収された後の残額において,銀行において税額控除や源泉徴収がなかったとしたら本来受取ることになったはずの金額を受領できるような限度まで(税額控除と源泉徴収に関連したいかなる責任を負担することもなく)増額されるものとする。」(本文),「但し,借入人がクックアイランド法に基づき条項5に従って支払われる利息額に対して税額控除や源泉徴収を要求される場合には,借入人は税額の割合が利息額に対して15パーセントという限度に達するまでは,そのような差し引いた源泉徴収相当額を上乗せして増加した金額分を支払うといった義務は負わないものとする。」(ただし書)と規定し,ファースト社がクック諸島源泉税15パーセントの控除以外一切の控除を行い得ない旨規定する。

 そして,7条Cは「副条項Aの規定にかかわらず,銀行が税金(シンガポール,日本,その他の場所での収入,利益によって計算される税金の支払は含まないものとする。)あるいはその他名目のいかんを問わず,その受領金額ないし受け取り可能金額に応じて,法律に基づき何らかの支払いを命ぜられた場合」にファースト社の補償義務を定めている。同条項は,そのただし書で,「本副条項は,否認判断,あるいは,そのような否認判断によって被った支払金利や遅延損害金の負担分については,一切適用されないものとする。」と規定し,上記補償義務が否認判断の場合に適用がないことが明らかにされている。

 次に,19条は,原告は,合理的に信頼できる情報又は税務当局による税務調査の結果として①ファースト社が原告に対し貸付金利息の前払をする際に控除したクック諸島源泉税相当額につき我が国における外国税額控除の適用を求めても同適用が受けられないか又は受けられないおそれがあること,②我が国における外国税額控除の適用を求めたクック諸島源泉税相当額がファースト社が既に控除したクック諸島源泉税よりも少ないか又は少なくなるであろうこと,③我が国における外国税額控除の適用を求めても同適用が税務当局により否認されるか又は否認されるおそれがあることをファースト社に対し通知した場合には,原告及びファースト社により随時合意された第三者に対し本件ローン契約に基づく一切の権利,利益,義務を譲渡できる権限を有する(同契約書19条C(Ⅱ))。

 さらに,19条Gaは,7条C,8条,14条Eに基づき譲渡行為がなされた時点以降に銀行が負担し,あるいは,支払うことが求められた出費,責任,費用についてファースト社の補償義務を定めるが,同副条項本文は,かかる補償義務は,本件ローン契約上の義務とは別個独立したものであり,譲受人たる第三者には譲渡されないものであり,本件ローン契約上の権利,利益,義務とは別個に,原告に対し引き続き負担され続けるものであって,ファースト社は,同譲渡から24か月を経過した日以降は補償義務を負担しないことになると規定する。

 そして,上記補償義務の対象は,7条C,8条,14条Eの結果として債権譲渡が行われた場合,仮に当該債権譲渡が行われなかった場合に,関連する条項(すなわち,7条C,8条,14条E)によって補償を求めることができる場合には,補償を求めることができるとする規定であり,その対象は,7条C及び8条で補償の対象となるものであり(14条Eは,8条に関する未払金を貸付金とみる規定であり,その対象は8条に規定されたものであると解される。),これらの規定は,否認判断の場合には適用されないことが明示されている。

 上記条項によれば,原告は,否認判断の結果によるのでない限り補償を受けることができる。また,否認判断がなされた場合の補償についての規定は設けられていないものの,否認判断がなされる場合には,債権譲渡を行い,その限度で契約関係からの離脱が可能である。

2 検討

(1)上記の点からすると,原告は,ユーロピアン社がクック諸島源泉税を軽減する目的で原告の外国税額控除の余裕枠を利用するために本件ローン契約・本件預金契約を締結したことを理解し,そのための対価を得ることを目的として,本件ローン契約・本件預金契約を締結したものと認められる。

 そこで,かかる目的を持つ本件取引が,私法上の法律構成により否認することが可能か否か検討する。

(2)仮装取引か否かについて

ア まず,仮装取引とは,意図的に真の事実や法律関係を隠ぺいないし秘匿して,みせかけの事実や法律関係を仮装することであって,ある法的効果を生み出す法律関係が実体として存しない場合をいうと解すべきであり,本件においては,原告がファースト社に貸し付けた金員に対する利子を得たことが実体を有するものであるか否かが問題となる。

 この点,本件取引の当事者らは,本件取引により,所期の目的を達成するために,本件取引の形式を選択し,それに応じた法的効果を意図して本件ローン契約・本件預金契約を締結したのであって,当該法的形式と法的効果は一致しており,これをもって,仮装行為であると解することは困難である。

イ ところで,本件取引においては,CHIPSにより決済をしていることから現実の資金移動はないが,これをもって法的にも資金移動が存在しなかったということはできず,また,原告とファースト社間の資金の移動はすべてユーロピアン社の口座を通じて行われているが,これも,ファースト社の指示に基づくものであり,法的な意味で原告とファースト社間での資金の移動が存在しなかったと断ずることはできない。

ウ 被告は,原告が本件契約日を遡らせたことをもって,本件各取引の仮装性を主張するが,原告が契約の締結日を平成元年3月31日とした事情として,契約締結日が同年4月1日以降であると,昭和63年改正により,原告においては本件源泉税のうち10パーセントを超える部分を税額控除の対象となし得なくなる事情があったことはこれを推認するに難くない(後記のとおり,昭和63年改正により原告のように金融業を主として営む内国法人が納付することとなる所得税法23条1項(利子所得)に規定する利子等の収入金額を課税標準として源泉徴収の方法に類する方法により課される外国法人税については,所得率が10パーセント以下の場合は利子等の収入金額の10パーセントを超える部分,所得率が10パーセントを超え20パーセント以下の場合は利子等の収入金額の15パーセントを超える部分を控除対象外国法人税の額から除外することとされた(施行令142条の3第2項1号)が,昭和63年政令第362号附則20条により,施行令142条の3第2項の規定は,昭和64年4月1日以後最初に開始する事業年度の直前の事業年度終了の日において有する預貯金,貸付金その他これらに準ずる債権(同日以前に締結した契約に基づき同日後に行った金銭の貸付けに係る債権を含む。)の利子について適用される旨の経過規定が設けられた。)。しかしながら,前記1(4)で述べたとおり,平成元年3月31日に本件契約を締結した旨の原告の主張にも合理性が認められ,かかる契約締結日が仮装のものであると断ずることはできない。

エ 次に,資金循環,通貨スワップの存在であるが,5000万USドルの移動のみをみると,通貨スワップにより,5000万USドルは,ユーロピアン社,原告,ファースト社の間を循環していることになり,本件ローン契約の経済的実質が伴わないとの評価もなし得ないではないが,本件スキームにおいては,当事者の経済的なねらいは,前述のとおり,ユーロピアン社からファースト社へ5000万USドル相当NZドルという価値を移転し,ユーロピアン社はその対価を,クック諸島源泉税の負担を軽減して受け取るというところにあったのであり,ユーロピアン社及びファースト社は,通貨スワップにより,結局,かかる価値の移転を実現したものであり,ファースト社において通貨スワップを可能とする5000万USドルのファースト社への移転自体は,本件ローン契約により実現されたといえるのであるから,かかる5000万USドルの資金楯環を仮装のものであると評価することはできない。

 なお,本件取引の最終段階のファースト社とユーロピアン社間の資金移動を検討すると,ファースト社のユーロピアン社に対する通貨スワップによるUSドル債権と,ユーロピアン社が原告から債権譲渡により取得したUSドルのローン債権を相殺により消滅させることが可能であったと解されるが,かかる相殺が行われたとしても,ユーロピアン社からファースト社に対するNZドル債権は残り,その決済が必要となることは明らかである。

オ さらに,被告は,本件ローン契約書の条項をとらえて,原告は,本件取引にあっては,我が国における外国税額控除の適用を受ける場合はもちろん受けられない場合でも,それが「否認判断」を受けた結果によるのでない限り,金銭貸付けに関するリスクを負担することなく利ざやを得たのと同様の効果を実現できるのであり,原告が金銭貸し付けに関するリスクを負担していないと主張する。

 そして,本件ローン契約における条項は前記1(5)イのとおりであり,原告は,否認判断による場合以外の増加費用等については補償されることとなり,リスクの負担は相当程度軽減されているといえる。

 しかしながら,かかるリスクの負担の軽減をもってさらに当該取引が仮装であることを裏付けるものとは断じ得ない。

 ところで,否認判断により税額控除を受けられなくなる場合に原告は補償を求めることはできず,債権譲渡により契約関係から離脱し得るのみであるが,かかる債権譲渡の規定の存在は,本件取引が,原告が本件源泉税につき税額控除を受けることが重要な要素となっていたことをうかがわせるものである。しかしながら,かかる目的のみで本件取引が仮装であるということはできない。

カ 加えて,被告は,預金金利の前払や取引参加料の存在をもって,本件取引の仮装性を主張するが,被告の主張する点が本件取引において特段不合理なものとは認められない。

 

 

(3)当事者の真実の意思

 次に,真実の法律関係について検討するが,ここでの真実の法律関係は,原告との関係で問題となるのであるから,原告を含めた当事者間で,その経済的目的を実現するための真実の法律関係を探求すべきである。

  そして,当事者が求めた経済的目的は,ユーロピアン社及びファースト社にとっては,ユーロピアン社からファースト社へより低いコストで資金を移動させるため,原告を介して,その外国税額控除の余裕枠を利用してクック諸島源泉税を軽減することであり,原告にとっては,外国税額控除の余裕枠を提供し,利得を得ることにあるのである。このように,当事者の経済的目的を法律関係として端的に構成すると,原告からユーロピアン社への役務の提供契約ということができそうであるが,この場合の「役務」は単なる事実行為ではなく,必然的に何らかの法律関係を介在して行う役務である。

 この点,被告は,当事者の真実の意思として,①原告が我が国における外国税額控除の余裕枠をファースト社及びユーロピアン社に提供し,これに対しファースト社及びユーロピアン社が原告に対し同役務提供に対する対価を支払うことを内容とする合意(いわゆる外国税額控除の余裕枠に関する売買契約)であると解するか,または,②ファースト社がユーロピアン社に対して負っていた貸付金利息を原告を介してユーロピアン社が取得することを内容とする合意(したがって,ファースト社とユーロピアン社間の取引関係に基づく利息収入はユーロピアン社が得ており,クック諸島源泉税の担税者もユーロピアン社であって原告ではないと認められる。)と解するべきであると主張する。

 しかしながら,原告,ユーロピアン社及びファースト社は,この役務を実現するための法律関係として,本件取引及びその結果として生ずる原告による本件源泉税の納付を選択したものであり,この法律関係が,被告主張のように,単なる外国税額控除の余裕枠の売買,あるいは,ファースト社がユーロピアン社に対して負っていた貸付金利息を原告を介してユーロピアン社が取得することとみなすことは,経済的な実態については的を射たものといえても,法律関係の解釈としては擬制にすぎ,前述のとおり,本件でいう「役務」が必然的に本件契約という法律関係を介在させてはじめて提供し得る性質のものであることにかんがみると,原告,ユーロピアン社及びファースト社の選択した法律関係が当事者の真実の法律関係ではないとするのは,余りに本件の経済的成果や目的にのみとらわれた解釈であって相当ではない。

 そして,如何なる法律関係を用いるかは,第一次的には,当事者の選択にゆだねられているというべきであり,まして,原告は資金仲介機能を有する銀行であり,預金受入及び貸付は本来業務であること,前記1(2)で認定のとおり,本件ローン契約による収益を原告においては預金担保案件のカテゴリーに含めて審査検討していたことからすると,当事者の真意としても本件預金契約・本件ローン契約として本件取引を選択していたものと解するのが合理的である。

 

 

3 小括

 以上のとおり,被告の私法上の法律構成による否認の主張は採用することができない。

 

 

 

 

第5の2 法69条の限定解釈について

 

 

第5の2の1 総論

1 課税減免規定の限定解釈の許容性

 前記第5の1の2の判断のとおり,本件取引から利子による利得を得て,本件源泉税を納付したのは法律的には真実原告であるといわざるを得ないが,以下法69条1項を限定解釈し,原告が同条項にいう本件源泉税を納付したものではないとの認定判断が可能か否か検討する。

 ところで,租税法律主義の見地からすると,租税法規は,納税者の有利・不利にかかわらず,みだりに拡張解釈したり縮小解釈することは許されないと解される。しかし,税額控除の規定を含む減免規定は,通常,政策的判断から設けられた規定であり,その趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈をとる余地もあり,また,これらの規定については,租税負担公平の原則から不公平の拡大を防止するため,解釈の狭義性が要請されるものということができる。

 したがって,租税法律主義によっても,かかる場合に課税減免規定を限定解釈することが全く禁止されるものではないと解するのが相当である。

 

 ところで,具体的にどのような限定解釈が可能であるかは,各課税減免規定を通じて一般化することはできず,各法規の文言,関連規定の定め方,制度の趣旨等から,当該課税減免規定から要請される解釈を探るべきである。

 

2 法69条(外国税額控除制度)

 そこで,上記観点に立ち,法69条(外国税額控除制度)の趣旨を検討する。

(1)外国税額控除制度の創設の趣旨,改正経緯

 我が国の法人税法は,法人の国内所得と国外所得を含めた所得全体(全世界所得)を課税対象としており,海外支店の事業所得,本店が海外に投資を行うことから生じる利子,配当,使用料等の法人が国外で得た所得(国外所得)についても,国内で得た所得と同様に課税されることとなる。

 しかし,国外所得に関しては,各国が独自に発達させてきた租税制度の下に固有の課税権を排他的,普遍的に行使しており,日本国が行使する課税権の範囲が,他国の行使する課税権の範囲と重複,競合する場合が生じ得る。そして,所得の源泉地である外国が課税権を行使することは,国際的に認められていることから,同一の所得(課税物件)に対して,我が国と外国の双方の課税権が重複,競合する問題が生じるところとなる。

 外国税額控除制度は,このような国際間の二重課税を排除するため昭和28年に創設されたものであり,我が国法人の海外支店等の所得に対し,外国で我が国の法人税に相当する課税を受けた場合には,当該外国で課された所得に対して我が国で法人税を課する際に,その国外所得に対する我が国の法人税額の限度内で,外国で課税された税額を控除できることとなった。

 ところで,国際二重課税を排除する方法としては,外国税額控除のほかに,国外所得免除方式があるが,我が国が外国税額控除制度を採用したのは,内外投資の中立性,すなわち,国内企業が国外進出を選択することが,国内活動をするより不利に扱われないということを重視したものである。これは,企業の海外進出に伴う経済のグローバル化と国際的な資本移動の自由化が進むなかで,我が国企業の海外活動を容易にし,活発な資本交流を維持,促進し,世界的な経済資源の効率的配分に資するとともに,我が国経済の長期的発展を支えるという政策を重視していたからに他ならない。なお,国外所得免除方式は,企業の居住地国において,国外所得に対する課税権を放棄するというものであり,この方式の下では,外国での課税額が少なければ少ない分だけ,企業の税負担は小さくなり,その意味で内外投資への中立性は確保されない。

 そして,この外国税額控除制度は,昭和30年代後半には,我が国企業の海外事業活動の活発化に即応し,昭和37年及び同38年の改正を通じて,従前の控除すべき限度額の計算を所得の生じた当該外国ごとに行う国別限度額方式から,国外所得全体として一括して限度額の計算をする一括限度額方式を採用する等大幅な拡充整備が行われきた。

 しかし,この一括限度額方式は,控除限度額の計算が比較的簡明であるといった利点がある反面,軽課税国又は非課税国の国外所得から創出される控除限度額を利用して,我が国の実効税率を超える高率で課された外国税についてまで我が国で控除され得るため,結果として国際二重課税の排除という制度本来の趣旨を超えた控除が行われることとなるほか,高税率で課された外国の租税を控除できるようにするため,高率課税国に進出している企業が,控除枠をつくるためだけのために軽課税又は非課税国に投資を行うなど,企業が控除枠の創出を目的とした投資行動をとる誘因となるといった制度の趣旨に反する問題が生じた(「昭和63年改正税法のすべて」(乙1)383頁以下,昭和61年10月税制調査会答申(乙61)及び昭和63年4月税制調査会中間答申(乙2)参照)。

 このような制度の趣旨に反する問題をできる限り除去し,制度の本来の趣旨に沿って所要の措置を講じたのが,昭和63年12月の改正である。同改正では,①控除限度額計算上の国外所得から当該非課税国外源泉所得に係る所得の2分の1に相当する金額を控除することとされ,また,②外国において50パーセントを超える税率で課される外国法人税のうち50パーセントを超える部分を控除対象外国法人税額から除くこととし(施行令142条の3),さらに,金融業等利子収入割合の高い法人の所得率が10パーセント以下の場合は利子等の収入金額の10パーセントを超える部分,所得率が10パーセントを超え20パーセント以下の場合は利子等の収入金額の15パーセントを超える部分を控除対象外国法人税の額から除外することとし(同条2項),③これまで5年間の控除繰越しが認められていた控除余裕枠及び控除限度超過外国税額について,その繰越期間をいずれも3年に短縮した。

(2)外国税額控除制度の内容について

ア 控除限度額

 外国税額控除の制度については,法69条1項において「内国法人が各事業年度において外国法人税(外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。)を納付することとなる場合には,当該事業年度の所得の金額につき66条1項から3項まで(各事業年度の所得に対する法人税の税率)の規定を適用して計算した金額のうち,当該事業年度の所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を限度として,その外国法人税の額(その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める金額を除く。)を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する」旨規定している。

 このように,外国税額控除は,外国に租税を納付したからといって,無制限にその納付した金額について税額控除を認められるのではなく,次の①の額又は計算式②で算出される額のうち,いずれか少ない金額を限度として控除を認められている(法69条1項,法施行令142条1項,なお,計算式②の括弧書きの割合は,平成4年3月期は,2分の1(平成4年3月31日政令第85号による改正前のものが適用される。),平成5年3月期は,12分の7(平成4年改正法施行令(平成4年3月31日政令第)附則5条)となっている)。

(計算式)

①各事業年度において納付することとなる外国法人税の額

②各事業年度の全世界所得に対する日本の法人税の額

 ×{当該事業年度の全世界所得}分の{当該事業年度の国外所得金額(外国で非課税とされる所得の3分の2を除く)}

イ 控除余裕枠及び控除限度超過外国税額についての繰越期間

 法69条2項及び3項においては,外国税額控除の限度額が当該事業年度に課された外国税額よりも大きく,限度額に余裕が生じた場合には,その余裕の範囲内で当該事業年度前3年以内の事業年度中に課された外国税額で,それらの年度の限度額を超えるため控除しきれなかった部分の外国税額を当期に繰り越して控除できること,反対に,当該事業年度に課された外国税額がその控除の限度額を超え十分控除しきれないときは,当該事業年度前3年以内の事業年度における控除限度額に余裕がある場合に,当該事業年度の限度額に上述した余裕額を加えた範囲内で,その当期の外国税額を控除することができることを規定している。

 これは,我が国における所得計算が,発生主義を基調として行われており,外国における課税は必ずしもその課税原因となった国外源泉所得の発生に対応する我が国の課税年度中に行われるわけではなく,また,現行の外国税額控除制度が個々の国外源泉所得とそれに対応する外国法人税額を個別的に対応させて控除するのではなく,当期において納付することとなった外国法人税額を控除限度額の範囲内で控除することとなっているために,前後3年間の期間を通じて対応させ,国外源泉所得の発生時期と外国法人税額とのずれを調整するものである。

 なお,余裕枠の繰越しについては,経過規定により平成元年4月1日から平成6年3月31日までの間に開始する事業年度については,従前の前5年の事業年度からの繰越限度額及び繰越外国法人税額の適用を認めている(昭和63年改正法(昭和63年12月30日法第109号)附則18条1項)。

ウ 控除対象外国法人税

 法69条1項(外国税額の控除)に規定する外国の法令により課される法人税に相当する税とは,外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税(以下「外国法人税」という。)であることが要件とされており(施行令141条1項),また,法人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で,法人の特定の所得につき,徴税上の便宜のため,所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの等が外国法人税に含まれることとされている(施行令141条2項3号)。

 さらに,法69条1項は,その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める金額を除くとしているが,具体的には,負担が高率な部分として,外国において50パーセントを超える税率で課される外国法人税のうち50パーセントを超える部分(法施行令142条の3第1項)がこれに当たるとされ,さらに,原告のように金融業を主として営む内国法人が納付することとなる所得税法23条1項(利子所得)に規定する利子等の収入金額を課税標準として源泉徴収の方法に類する方法により課される外国法人税については,所得率が10パーセント以下の場合は利子等の収入金額の10パーセントを超える部分,所得率が10パーセントを超え20パーセント以下の場合は利子等の収入金額の15パーセントを超える部分を控除対象外国法人税の額から除外することとされている(施行令142条の3第2項1号)。

(3)平成13年改正

 なお,平成13年法律第6号による改正により法69条1項が改正され,外国税額控除の適用がある内国法人が各事業年度において外国法人税を納付することとなる場合から,内国法人が通常行われる取引と認められないものとして政令で定める取引に起因して生じた所得に対する外国法人税を納付することとなる場合が除かれた。

 そして,平成13年政令第135号により新設された施行令141条4項は,改正後の法69条1項に規定する政令で定める取引として,内国法人が当該内国法人が借入れをしている者と第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある者に対し,当該借入れられた金銭の額に相当する金銭を貸し付ける取引(当該貸付けに係る利率その他の条件が,当該借入れに係る利率その他の条件に比し特に有利な条件であると認められる場合に限る。)を通常行われる取引と認められないものとして規定した。

 

3 限定解釈の可能性

 被告は,法69条1項の「納付することとなる場合」を限定解釈し,本件各取引における原告の外国源泉税の納付がこれに当たらないと主張するので,以下,前記1,2を前提に同文言の限定解釈の可能性を検討する。

(1)まず,同条の文言は,「納付することとなる場合」と一義的な規定をしており,「納付」自体は,租税債務の弁済であり,「納付」は我が国租税法上の固有概念であるところ,我が国の租税法上は,第三者の納付も許容されており(国税通則法41条),その文言自体から,例えば,真実経済的に外国法人税を負担する者による納付に限定することはできず,解釈の幅は極めて狭いといえる。

(2)つぎに,制度趣旨の点から検討するに,前記2の事実から明らかなように,外国税額控除制度は,結局のところ,同一の所得に対する国際二重課税を排斥し,かつ,資本輸出中立性を担保しようとする極めて合理的な政策目的に基づく制度である。

 ところで,昭和63年の抜本的な改正時には立法者によって,外国税額控除枠のいわゆる彼此流用の問題(一括限度額方式の下で,我が国の実効税率を超える高率で課された外国税が,他の軽課税ないし非課税とされた国外所得から生じる控除枠を利用して控除されてしまうという問題)は認識されていた。かかる彼此流用の結果,国際二重課税の制度趣旨を超えて内国法人に税額控除の利益を与えることもあり,控除枠を創出するために,軽課税国ないし非課税国へ投資するという傾向が強まるという資本移動のゆがみが生ずることも認識されていた。

 ところが,昭和63年12月の法改正は,これを一般的に禁止することはせず,控除限度額の枠の管理を強化したり,高率部分を控除対象外国法人税に含めないとすることによって対応することを明らかにしたものであると解され,彼此流用については,その限度で許容するという割り切った立法政策を採ったものと解される。

 したがって,内国法人が控除限度枠を自らの事業活動上の能力,資源として利用することを一般的に禁ずることはできないといわなければならない。

(3)しかしながら,本件各取引の問題は,同一法人内の彼此流用の問題ではなく,当事者の経済的な目的として,外国法人に控除枠を利用させて,その対価を得る取引が問題となっているのであるから,別途の考察が必要である。

 そこで検討するに,上記(1)のとおり,文言上は限定解釈の余地は極めて狭く,また,上記(2)のとおり,外国税額控除の制度趣旨である,国際二重課税の排斥及び資本輸出中立性の確保も一定後退せざるを得ない事情がうかがわれる。しかし,その根底には,あくまでも内国法人の海外における事業活動を阻害しないという政策があるのであるから,およそ正当な事業目的がなく,税額控除の利用のみを目的とするような取引により外国法人税を納付することとなるような場合には,納付自体が真正なものであったとしても,法69条が適用されないとの解釈が許容される余地がある。

 

4 具体的な判断基準

 そこで,法69条の「納付することとなる場合」に該当しないとする具体的な判断基準について,検討する。

 この点について,被告は,法69条1項の「納付することとなる場合」とは,内国法人が正当な事業目的を有する通常の経済活動に伴う国際取引から必然的に外国税を納付することとなる場合をいうと主張し,当該取引が正当な事業目的を有し,当該取引から生じる外国税の納付が法69条1項の「納付することとなる場合」に該当するか否かについては以下の具体的判断基準,すなわち,取引開始前に検討されるべき事項として,①事業の目的及び取引に至る経緯,②取引の種類,③契約内容の妥当性,④予定される決済の妥当性,⑤期待利益の妥当性,⑥複数の取引相互間の関連性,⑦既存取引参画の合理性,取引開始後に検討されるべき事項として,⑧取引内容の妥当性,⑨資金の流れ,⑩リベート等収入の有無を総合的に検討の上,判断されなければならないとしている。しかしながら,被告の主張する上記判断基準は,以下に述べる理由により,採用することはできない。

 すなわち,被告の主張する判断基準は,アメリカ合衆国におけるグレゴリー事件の判決において示された,当時の歳入法の組織変更規定の趣旨・目的(立法意図)から事業目的の基準を導き出し,当該取引は,形の上では組織変更の定義に該当するとしても,租税回避のみを目的とするもので,事業目的を持っていないことを理由に,それは立法者の予定している組織変更には当らず,したがって,非課税規定の適用を受け得ない,と解することによって,租税回避行為の否認を認めたのと同じ結果に到達した解釈技術,すなわち,非課税規定の立法目的に照らして,その適用範囲を限定的にあるいは厳格に解釈し,その立法目的と無縁な租税回避のみを目的とする行為をその適用範囲から除外するという解釈技術を本件事案に導入したものと考えられる。しかしながら,前述のとおり,法69条1項の「納付することとなる場合」という文言は,その「納付」という概念自体及び我が国租税法上第三者の納付も許容されていることにかんがみ,限定解釈する余地が極めて狭い上,上記グレゴリー事件判決において確立されたといわれる「事業目的の原理」と同趣旨の概念である「正当な事業目的」を用いて「納付」の意味・内容を限定することには無理があり,困難であるといわざるを得ない。しかも,「正当な事業目的」か否かを判断するために総合考慮されるべき要素の大半は「妥当性」という判断と結びつけられていて,結局,被告のいう「正当な事業目的」か否かは,事業を全体としてみて妥当なものか否かという判断に帰着することとなるのは明らかであって,かかる判断自体客観性に問題があり,国民の経済活動の予測可能性を害する危険をはらんでいると評価せざるを得ない。のみならず,正当な事業目的を認定するには,事業目的の多様性,私的自治の原則,経済的合理人として租税の軽減を図ることは一般的に許容されていること,営利法人にとって最大の関心事は,税引き後利益であり,税を企業経営若しくは投資その他の利潤追求行動上のコストの一つとして認識することは当然であること,さらに,前記のとおり,税額控除の枠を自らの事業活動上の能力,資源として利用することを法が一般に禁じているとは解されないことなどに留意する必要があり,かつ,租税法律主義から要請される基準の明確性からもきわめて問題があるといわなければならない。

 これらの点に鑑みるならば,取引各当事者に,税額控除の枠を利用すること以外におよそ事業目的がない場合や,それ以外の事業目的が極めて限局されたものである場合には,「納付することとなる場合」には当たらないが,それ以外の場合には「納付することとなる場合」に該当するという基準が採用されるべきである。

 かかる観点から法69条1項の「納付することとなる場合」に該当しないとされる取引としては,具体的には,内国法人が預金利息に源泉税が課されない国の支店を通じて,利息等の収入金額に比較的低率の源泉税を課す国の外国法人に融資を行うと同時に,当該外国法人から同額の預金を受け入れることにより,外国税額控除の余裕枠を創出するといった事案が考えられよう。すなわち,上記事案においては,相手の外国法人においては経済的な目的は特に認められず,一方,内国法人には,外国税額控除の余裕枠を創出するという目的(税額控除の枠を利用する一形態と見うる。)のみが見られるのである。

 

5 本件各取引へのあてはめ

 これを本件についてみると,本件においては,ユーロピアン社には投資家から集めたNZドル資金をファースト社を通じて本件C/D購入資金に充てるという事業目的があり,原告の有する控除枠を利用するのは,あくまでも,ファースト社への投資の総合的コストを低下させるための手段と位置づけることが可能である。

 原告は、金融機関として,ユーロピアン社の意図を認識した上で,自らの外国税額控除枠を利用して,よりコストの低い金融を提供し,その対価として,0.35パーセントの利ざやを得る取引を行ったと解することができる。

 原告は,自らの金融機関としての業務の一環として,自らの外国税額控除枠を利用してコストを引き下げた融資を行ったのであり,これらの行為が事業目的のない不自然な取引であると断ずることはできない。

 ところで,前記のとおり,本件取引においては,5000万USドルについては,原告,ユーロピアン社及びファースト社の間で循環している事情がうかがわれる。そして,かかる関係のみに着目すると前記の法69条1項の「納付することとなる場合」に該当しないとされる取引の具体例としてあげた前記事例に状況が類似するとの指摘を受けよう。

 しかし,前述のとおり,本件取引においては,5000万USドルの循環は,5000万USドル相当のNZドルがユーロピアン社からファースト社へ通貨スワップを介して移転しており,かかる一体の取引としてみた場合には,ユーロピアン社及びファースト社には事業目的を認めることが可能となるのである。そして,かかるユーロピアン社及びファースト社の事業目的のために,原告は,金融機関としての金融サービスを提供してその対価を得たというべきであり,原告についてもまた税額控除を利用する以外の事業目的を認めることが可能となるのである。

 そして,原告の国際業務部門の平均利ざやは,平成3年度が0.37パーセント,平成4年度が0.48パーセント,平成5年度が0.59パーセントであり(甲8,9),本件貸付の利ざやは0.35パーセント(10.85パーセントから10.5パーセントを控除した数値)であり,上記の平均からすれば若干低いものであるが,本件ローン契約が担保としては極めて安定した預金を担保とした取引であることを考慮するならば相当な範囲の利ざやと評価でき,極めて限局された事業目的であるとも断ずることはできない。

 ところで,被告は,租税回避行為に加担した場合の報酬の取得をもって事業目的とすることはできないと主張するが,本件において,原告が取得した利ざやは,貸付利息と預金利息の差額であり,租税回避行為に加担したことに対する報酬であるのか,許容される事業による利益であるのか,これを峻別することは困難というべきであり,いまだ,事業目的がないと断定することはできない。

 

 

6 小括

 以上のとおり,被告の法69条の限定解釈による否認の主張も採用することはできない。

 

第5の3 まとめ,税額

 以上のとおり,本件源泉税については法69条が適用されるべきであり,これに反する被告の本件各更正処分は違法であり,取消しを免れない。

 そこで,以下正当な税額を検討する。

 

第5の3の1 平成4年3月期

1 所得金額の計算について

(1)平成6年6月30日付け更正処分による所得金額

             655億4358万0847円

(2)損金の額に算入した控除対象外消費税額の減少額

                  958万8248円

(3)繰延消費税額の損金算入限度超過額の増加額

                    7万7878円

(4)交際費等の損金不算入額の過大額    7813円

(5)所得金額      656億5323万9160円

前記(1)の平成6年6月30日付け更正処分による所得金額655億4358万0847円に,前記(2)及び(3)の合計額966万6126円を加算し,前記(4)の7813円を減算した金額,すなわち,655億5323万9160円が所得金額となる。

2 法人税額について

(1)所得金額に対する法人税額

             245億8246万4625円

 原告の当期の所得金額は,前記1(5)のとおりであり,国税通則法118条《国税の課税標準の端数計算等》1項の規定により1000円未満の端数金額を切り捨てた金額655億5323万9000円に法66条《各事業年度の所得に対する法人税率》1項に規定する税率100分の37.5を乗じて計算した245億8246万4625円を前記所得金額に対する法人税額となる。

(2)控除税額       64億4564万8164円

 争いのない控除所得金額39億9801万4176円に,違法に否認された1億1010万9469円を控除対象外国法人税に加えて正当額に基づいて計算した24億4763万3988円(弁論の全趣旨)を加えた64億4564万8164円。

(3)差引合計法人税額  181億3681万6400円

 争いのない同税額は,前記(1)の所得金額に対する法人税額245億8246万4625円から,前記(2)の控除税額64億4564万8164円を減算した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である。

第5の3の2 平成5年3月期

1 所得金額の計算について

(1)平成6年6月30日付け更正処分による所得金額

             449億1026万5942円

(2)雑収入の計上漏れ    1億2613万5035円

(3)特定外国子会社等の課税対象留保金額

                 3441万4189円

(4)雑損のうち損金の額に算入されない金額

                 8907万7381円

(5)損金の額に算入した控除対象外消費税額の減少額

                 4036万4949円

(6)交際費等の損金不算入額      6万3210円

(7)特定外国子会社等にかかる課税対象留保金額(平成8年3月29日付)

                 3092万2141円

(8)繰延消費税額の損金算入限度超過額の減少額

                   54万2919円

(9)税額控除の対象とした外国法人税額の損金不算入額(平成8年3月29日)付

                 9029万2180円

(10)繰延消費税の損金算入限度超過額の過大額(平成8年4月30日付)

                  131万7092円

(11)所得金額     451億3909万0656円

 前記(1)の平成6年6月30日付け更正処分による所得金額449億1026万5942円に,前記(2)ないし(7)の合計額3億2097万6905円を加算し,前記(8)ないし(10)の合計額9215万2191円を減算した金額,すなわち,451億3909万0656円が所得金額となる。

2 法人税額について

(1)所得金額に対する法人税額

             169億2715万8750円

 被告は,原告の当期の所得金額が前記1(11)のとおりであるとして,国税通則法118条《国税の課税標準の端数計算等》1項の規定により1000円未満の端数金額を切り捨てた金額451億3909万0000円に法66条《各事業年度の所得に対する法人税率》1項に規定する税率100分の37.5を乗じて計算した,同所得金額に対する法人税額を,169億2715万8750円とした。

(2)課税土地譲渡利益金額に対する税額

                 5936万2900円

(3)控除税額       71億7746万5453円

 争いのない控除所得金額40億2175万2562円に,違法に否認された9584万3322円を控除対象外国法人税に加えて正当額に基づいて計算した31億5571万2891円(弁論の全趣旨)を加えた71億7746万5453円。

(4)差引合計法人税額   98億0905万6100円

 同税額は,前記(1)の所得金額に対する法人税額169億2715万8750円に前記(2)の課税土地譲渡利益金額に対する税額5936万2900円を加算し,前記(3)の控除税額71億7746万5453円を差し引いた金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である。

第5の3の3 本件平成6年3月期更正処分について

1 所得金額の計算について

(1)確定申告による所得金額

             575億3699万9896円

(2)支払手数料のうち損金の額に算入されない金額

               1億5472万5000円

(3)受取利息の計上漏れ     2673万3042円

(4)雑損のうち損金の額に算入されない金額

                 1911万0932円

(5)広告費のうち損金の額に算入されない金額

                     1285万円

(6)雑種費のうち損金の額に算入されない金額

                     1111万円

(7)損金の額に算入した控除対象外消費税額の減少額

                  412万0479円

(8)交際費等の損金不算入額      6万0986円

(9)新規取得土地等に係る負債の利子の損金不算入額

                 2260万2285円

(10)受取利息の計上漏れ(平成8年3月29日付)

                 1389万8276円

(11)雑損のうち損金の額に算入されない金額(平成8年3月29日付)

                  195万3223円

(12)特定外国子会社等にかかる課税対象留保金額(平成8年3月29日付)

                 2982万2123円

(13)事業税の益金算入額(平成8年3月29日付)

                  712万4400円

(14)繰延消費税額の損金算入限度超過額の減少額

                  146万9756円

(15)貸倒引当金の繰入限度超過額の減算額

                    8万0199円

(16)税額控除の対象とした外国法人税額の損金不算入額の過大額

                 1385万8568円

(17)事業税の損金算入額    3441万4000円

(18)税額控除の対象とした外国法人税額の損金不算入額の過大額(平成8年3月29日付)

                 9460万2063円

(19)貸倒引当金の繰入限度額の減算額(平成8年3月29日付)

                    4万7554円

(20)更正処分で減算された「繰延消費税額の損金算入限度超過額の過大額(平成8年4月30日付)

                   78万3973円

(21)所得金額     576億9585万4529円

 前記(1)の確定申告による所得金額575億3699万9896円に前記(2)ないし(13)の合計額3億0411万0746円を加算し,前記(14)ないし(20)の合計額1億4525万6113円を減額した金額,すなわち,576億9585万4529円を所得金額とした。

2 法人税額について

(1)所得金額に対する法人税額

             216億3594万5250円

 被告は,原告の当期の所得金額が,前記1(21)のとおりであるとして,国税通則法118条《国税の課税標準の端数計算等》1項の規定により1000円未満の端数金額を切り捨てた金額576億9585万4000円に法66条《各事業年度の所得に対する法人税率》1項に規定する税率100分の37.5を乗じて計算した216億3594万5250円をもって,同所得金額に対する法人税額とした。

(2)法人税額の特別控除額    1345万5595円

(3)課税土地譲渡利益金額に対する税額

                  688万4900円

(4)控除税額 59億6060万0774円

 争いのない控除所得金額36億1413万7686円に,違法に否認された4565万0475円を控除対象外国法人税に加えて正当額に基づいて計算した23億4646万3088円(弁論の全趣旨)を加えた59億6060万0774円。

(5)差引合計法人税額  156億9877万3700円

 同税額は,前記(1)の所得金額に対する法人税額216億3594万5250円から前記(2)の法人税額の特別控除額1345万5595円を減算し,前記(3)の課税土地譲渡利益金額に対する税額3688万4900円を加算し,前記(4)の控除税額59億6060万0774円を減算した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てたもの)である。

第6 結論

 以上のとおり,原告の請求はいずれも理由があるから認容することとし,主文のとおり,判決する。

    大阪地方裁判所第二民事部

        裁判長裁判官  三 浦   潤

           裁判官  林   俊 之

 裁判官 中島崇は,差し支えにつき署名・押印すること能わず。

        裁判長裁判官  三 浦   潤