内妻と共に3人の子を監護養育(1)

 

 

 

 

 

 

 退去強制令書発付処分等取消請求事件、名古屋地方裁判所判決/平成26年(行ウ)第100号、判決 平成27年10月29日、 LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

 

1 名古屋入国管理局長が平成26年3月10日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

 

2 名古屋入国管理局主任審査官が平成26年3月11日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。

 

 

 

第2 事案の概要

 

1 本件は,ブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という。)国籍を有する外国人男性である原告が,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)に該当する等の認定を受けた後,

 

名古屋入管特別審理官から,上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をしたところ,

 

法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長(以下「名古屋入管局長」という。)から,

 

平成26年3月10日付けで原告の異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け,

 

引き続き,名古屋入管主任審査官から,

 

同月11日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

 

2 前提事実(当事者間に争いのない事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実)

 

(1) 原告の身分関係

 原告は,昭和54年(1979年)2月●日にブラジルにおいて出生したブラジル国籍を有する外国人男性である。(乙1,2)

 

 

(2) 原告の入国・在留状況等

 

ア 原告は,平成9年9月4日,東京入国管理局成田空港支局入国審査官から,在留資格を「定住者」,

 

在留期間を「1年」とする上陸許可を受け,本邦に上陸し,その後3回,在留期間更新許可を受けた。

 

そして,原告は,平成15年9月17日,名古屋入管において,在留資格を「定住者」,在留期間を「3年」とする在留特別許可を受け,その後5回,在留期間更新許可を受けた。(乙2)

 

 

 

イ 原告は,在留期間の更新又は変更を受けないで,上記アの最終の在留期限である平成25年10月8日を超えて本邦に不法に残留した。(争いがない。)

 

 

 

ウ 原告は,

 

平成25年10月●日,道路交通法違反,自動車運転過失傷害の被疑事実により通常逮捕され,

 

平成26年1月●日,津地方裁判所において,懲役1年に処し,裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する旨の判決(以下「本件刑事事件判決」という。)の宣告を受け,

 

その後,同判決が確定した。

 

同判決に係る刑事事件は,原告が,

 

平成25年9月12日,

 

①公安委員会の運転免許を受けないで,津市内の道路において,軽自動車検査協会が行う継続検査を受けておらず,有効な自動車検査証の交付を受けているものではなく,

 

かつ,

 

自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済の契約が締結されていない軽自動車を運転し,

 

 

②交通整理が行われていない交差点に進入する際に,同交差点の手前に一時停止の道路標識が設置され,

 

かつ,

 

交差道路の見通しも利かない交差点であったにもかかわらず,

 

交差道路を走行してくる車両はないものと軽信し,

 

同交差点手前で一時停止せず,

 

かつ,左方道路から進行してくる車両の有無及び安全を確認しないで漫然と時速約20ないし30kmの速度で同交差点内に進入した過失により,

 

折から左方道路から進行してきた普通乗用自動車(以下「被害車両」という。)右側面に自車前部を衝突させて,

 

被害車両を同交差点付近の門柱に衝突・横転させ,

 

被害車両を運転していた被害者(当時31歳)に加療約2週間を要する右前額部挫創等の傷害を負わせ,

 

③上記②の事故を起こしたにもかかわらず,直ちに車両の運転を停止して上記被害者を救護する等必要な措置を講じず,

 

かつ,

 

その事故発生の日時及び場所等の事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったというものである(以下「本件刑事事件」という。)。(乙2,3,弁論の全趣旨)

 

 

 

 

 

(3) 本件裁決及び本件処分に至る経緯等

 

ア 名古屋入管入国警備官は,平成26年1月10日,名古屋入管主任審査官から原告に係る収容令書の発付を受け,同月14日,津地方裁判所において,原告に対して同収容令書を執行し,原告を名古屋入管収容場に収容するとともに,同月15日,入管法24条4号ロ該当容疑者として名古屋入管入国審査官に引き渡した。(乙4ないし6)

 

イ 名古屋入管入国審査官は,平成26年2月6日,原告に対する審査を実施した結果,原告が入管法24条4号ロに該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨認定し,これを原告に通知した。これに対し,原告は,同日,口頭審理の請求をした。(乙9,10)

 

ウ 名古屋入管特別審理官は,平成26年2月19日,原告に対する口頭審理を実施した結果,上記イの認定には誤りがない旨判定し,これを原告に通知した。これに対し,原告は,同日,法務大臣に対して異議の申出をした。(乙13ないし15)

 

エ 法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入管局長は,平成26年3月10日付けで,上記ウの異議の申出には理由がない旨の本件裁決をし,名古屋入管主任審査官に対し,その旨を通知した。(乙20,21)

 

オ 名古屋入管主任審査官は,平成26年3月11日,原告に対し,本件裁決を通知するとともに,同日付けで,ブラジルを送還先とする本件処分をした。(乙22,23)

 

カ 名古屋入管入国警備官は,平成26年3月11日,本件処分に係る退去強制令書を執行して引き続き原告を名古屋入管収容場に収容した。(乙23)

 

(4) 本件訴えの提起等

 

ア 原告は,平成26年9月9日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)

 

イ 原告は,平成27年2月9日,仮放免された。(甲4)

 

 

 

 

 

 

3 争点及び当事者の主張

 

本件の争点は,原告に対して在留特別許可を付与しなかった本件裁決における名古屋入管局長の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか否かであり,これに関する当事者の主張は,以下のとおりである。

 

(原告の主張)

 

(1) 名古屋入管局長が原告に対して在留特別許可を付与することなく本件裁決をしたことは,後記(2)ないし(5)に照らし,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであり,違法である。したがって,本件裁決を前提としてされた本件処分もまた違法である。

 

(2) 法務大臣及びその権限の委任を受けた地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)の在留特別許可に係る裁量権の範囲は,法務省入国管理局の作成に係る「在留特別許可に係るガイドライン」に限定される。また,仮に法務大臣に広範な裁量権があるとしても,地方入国管理局長については法務大臣と同等の広範な裁量権を有する根拠はない。

 

(3) 原告は,

 

平成12年頃から現在までの間,平成16年から平成18年頃までを除いて,フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)国籍を有して「永住者」の在留資格で本邦に在留するA(昭和53年(1978年)11月●日生。以下「A」という。)と同居しており,

 

同人と真摯な内縁関係にあったものである。

 

また,Aは病弱で僅かな収入しか得られない上,

 

原告とAとの間には,

 

長男であるB(平成13年6月●日生。以下「B」という。),

 

二男であるC(平成21年4月●日生。以下「C」という。),

 

三男であるD(平成22年12月●日生。以下,「D」といい,B及びCと併せて「Bら」という。)が,それぞれ出生したところ,

 

Bらは日本語以外を話すことはできず,

 

ブラジルやフィリピンで生活することは困難である。

 

以上の事情によれば,Aとの婚姻関係及び子供を保護するため,原告が本邦に在留する必要がある。

 

 

 

 

(4) 原告は,適法な在留資格に基づいて,長期間本邦において生活を行ってきており,本邦への定着性が認められる。

 

(5) 本件刑事事件は比較的軽微なもので,原告も深く反省しており,原告にはその他の前科前歴はない。

 

 

 

 

(被告の主張)

 

 

(1) 在留特別許可の許否に係る法務大臣等の裁量の範囲は,極めて広範なものであり,在留特別許可をしないという法務大臣等の判断が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとして違法と評価されるのは,在留特別許可の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するような極めて例外的な事情が認められる場合に限られるというべきである。後記(2)ないし(4)に照らすと,本件においては,そのような例外的な事情があるということはできない。したがって,本件裁決は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものではなく,適法である。そして,退去強制令書の発付に当たっては,主任審査官には裁量の余地はないから,本件裁決が適法である以上,本件処分も適法である。

 

(2) 原告は,本件刑事事件を起こしたところ,このことは,在留特別許可の許否の判断において,重大な消極要素として評価される。

 

(3) 原告とAの関係は解消されている上,C及びDについては,法律上及び生物学上の父親が原告であるとは立証されていないので,原告とA及びBらとの関係は,在留特別許可の許否の判断において,上記(2)の消極要素を上回るほどの積極要素とはいえない。

 

(4) 原告は,18歳で本邦に上陸するまで,ブラジルにおいて教育を受け,就労していた者であり,ポルトガル語の会話及び読み書きに問題はなく,原告の母及びきょうだいもブラジルで生活している。したがって,原告をブラジルに送還することに特段の支障はない。

 

 

第3 当裁判所の判断

 

1 原告の退去強制事由該当性等について

 前記前提事実によると,原告は,入管法24条4号ロの退去強制事由に該当し,かつ,出国命令対象者(同法24条の3)に該当しない外国人であることが認められる。

 

2 在留特別許可に関する法務大臣等の裁量について

 国家は,国際慣習法上,外国人を受け入れる義務を負うものではなく,外国人を自国内に受け入れるか否か,また,受け入れる場合にいかなる条件を付すかについての判断は,国家固有の権能に属し,特別の条約等がない限り,当該国家が自由に決定し得るものと考えられている。我が国の憲法も,外国人の本邦への入国や在留については何ら規定していないのであって,このことは,上記国際慣習法とその考えを同じくするものと解される。このように,国家は,外国人の入国及び在留の許否に関する裁量権を有するところ,入管法上,法務大臣の在留特別許可の許否の判断をき束する判断基準を定めた規定は存在しない。そして,上記判断の対象となる外国人は,既に退去強制事由に該当し,本来,我が国からの退去を強制されるべき地位にあるものであることに加え,外国人の出入国管理が,国内の治安と善良な風俗の維持,保健及び衛生の確保,労働市場の安定等の我が国の国益と密接に関わっており,これら国益の保持の見地に立って,当該外国人の入国・在留に係る諸状況,国内の政治・経済・社会等の諸情勢,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情を総合的に分析,検討した上で,在留の許否を決する必要があること等も勘案すると,在留特別許可を付与するか否かの判断は,法務大臣の広範な裁量に委ねられていると解すべきである。

 

 したがって,上記の裁量権の行使の結果として行われた在留特別許可をしないとの法務大臣の判断が,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と評価されるのは,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,その判断が重要な事実の基礎を欠く場合,又は,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限られるというべきである。そして,このことは,法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長が在留特別許可の許否の判断をする場合についても,何ら変わるところはない。

 

3 本件裁決の適法性について

 

 

(1) そこで,以上の見地から,原告に対して在留特別許可を付与しなかった本件裁決における名古屋入管局長の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるかどうかについて検討する。

 

 前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。

 

ア 原告の本国における生活状況等

 

(ア) 原告は,昭和54年(1979年)2月●日,ブラジルのサンパウロにおいて,ブラジル人の母と日系2世であるブラジル人の父との間に,4人きょうだいの第1子として出生した。原告は,ブラジルで成育し,17歳で高校を卒業した後,市場における両親の衣料品販売の仕事を手伝うなどしていた。(甲1,乙1,5,9)

 

(イ) 原告は,ブラジル国内で育ったため,母国語であるポルトガル語での会話や読み書きを自由にすることができる。また,日本語についても,日常会話はでき,片仮名の読み書きもできるが,平仮名や漢字の読み書きはできない。(乙5,9,13)

 

イ 原告の在留状況等

 

(ア) 原告は,平成9年9月4日に本邦に上陸した後,愛知県,三重県及び岐阜県において,自動車部品や携帯電話部品の製造,解体作業の仕事等に従事し,平成25年3月頃以降は,シジミを採って売る仕事をしながら生活してきた。(甲1,乙5,9)

 

(イ) 原告は,平成11年頃,Aと知り合い,その半年後から同居を始め,平成13年6月●日,長男でフィリピン国籍を有するBが出生した。

 原告とAは,平成16年頃から別居し,Aは,平成17年5月●日,本邦に在留していたフィリピン国籍を有するE(以下「E」という。)と婚姻したが,同人との婚姻関係が1年程度で破綻するなどしたため,原告とAは,平成18年頃から再び同居を始め,原告が本件刑事事件で逮捕されるまで基本的に同居していた。(甲1,3,乙28,原告本人)

 

(ウ) Aの二男でフィリピン国籍を有するCは,平成21年4月●日に出生した。

 なお,Cの出生届の父親欄には,Eの氏名が記載されている。(乙26)

 

(エ) Aは,平成21年12月4日頃,Eが永住許可申請をした際,Eの配偶者として身元保証書を提出した。(乙29,34)

 

(オ) Aの三男でフィリピン国籍を有するDは,平成22年12月●日に出生した。なお,Dの出生届の父親欄にも,Eの氏名が記載されている。(乙27)

 

(カ) 原告とEは,平成23年頃,離婚した。(甲3)

 

(キ) Aは,平成26年3月5日,名古屋入管審判部門入国審査官と電話で話をした際,原告とは別れており,やり直す気もない旨述べた。(乙19)

 

ウ 原告の家族の状況等

 原告の本国であるブラジルには,原告の母,妹二人及び弟が在住している。原告は,本邦入国後も,これらの親族と,1週間に二,三回程度,電話で連絡を取り合うほか,これらの親族に対し,不定期に5万円ないし10万円を送金するなどしてきた。(乙9)

 

(2) 前記(1)で認定した事実によると,次の諸点を指摘することができる。

 

ア 原告は本件刑事事件を起こしたものであり,これにより,懲役1年に処し,裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する旨の本件刑事事件判決が確定している。

 

本件刑事事件は,原告が,無免許で無車検・無保険車を運転した上,見通しが悪い交差点に進入する際,一時停止の標識があったにもかかわらず,一時停止をせずにその安全を確認しなかった結果,自車を被害車両に衝突させ,その運転者に加療約2週間を要する傷害を負わせたのみならず,

 

その後も救護義務,報告義務を果たさず,そのまま逃走したものである。

 

原告の過失は,危険で重大であって,原告の一連の行為は交通法規,ひいては被害者の生命等を軽視する身勝手なものといわざるを得ず,原告に対する在留特別許可の許否の判断において,看過し難い重大な消極要素になるものといわなければならない。

 

 

 なお,原告は,本件刑事事件は比較的軽微なもので,原告も深く反省しているなどと主張するが,本件刑事事件は,その過失の内容に照らして比較的軽微なものということはできない上,犯罪を行った者がその行為を反省することは当然のことである。原告が本件刑事事件を起こしたことは看過し難い事実であって,このことが在留特別許可の許否の判断に当たって厳しい評価を受けることはやむを得ない。

 

 

イ 他方で,原告は,平成9年9月4日に本邦に上陸した後,約10年間にわたり本邦で生活してきたものであり,かかる事情は,原告に対する在留特別許可の許否の判断に当たり,積極要素となり得るものであるけれども,前記アのとおり,原告に重大な消極要素があることに照らせば,上記積極要素が消極要素を上回るものであるということはできない。

 

 

ウ そして,原告は,ブラジルで生まれ育ち,母国語であるポルトガル語の読み書き会話に支障がなく,通常の稼働能力を有する成人であって,18歳で初めて来日するまで我が国とは具体的な関わりがなかった者である。また,原告は,高校を卒業してから来日するまでの間,ブラジルにおいて両親の衣料品販売の仕事を手伝うなどして生活をしていたものであり,ブラジルには原告の母及びきょうだいも在住し,1週間に二,三回程度,電話で連絡を取り合うなどしており,これらの事実に照らせば,原告がブラジルにおいて自活することができないものとは到底認められない。

 

 

(3) 以上を総合すると,名古屋入管局長が原告に在留特別許可を付与することなく本件裁決をしたことについて,その判断が重要な事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるということはできない。したがって,本件裁決は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものではなく,適法というべきである。

 

(4) これに対し,原告は,Aとの婚姻関係及びBらとの親子関係を保護するため,原告が本邦に在留する必要がある旨主張する。

 

 

 しかしながら,

 

①Aは,平成16年頃から18年頃まで原告と別居し,平成17年5月●日にはEと婚姻しており,同人と法的に離婚したのは平成23年頃であること,

 

②Aは,平成26年3月5日,原告とは別れており,やり直す気もない旨述べていたこと,

 

③原告とAはいまだに法的に婚姻していないことなどによれば,

 

本件裁決時において,原告とAが安定かつ成熟した関係を形成していたということはできず,両者の関係は,原告に対する在留特別許可の許否の判断に当たり,特に積極的に考慮すべき事情には当たらない。

 

また,仮に本件裁決時の原告とAの関係が安定していたとしても,Aは永住者であって,

 

永住者と本邦とのつながりは,日本人の場合ほどには強いものでないから,永住者と婚姻した場合を日本人との婚姻の場合と同様に扱うことはできず,

 

前記(2)アのとおり原告に重大な消極要素があることに照らせば,

 

上記積極要素が消極要素を上回るものであるということはできない。

 

さらに,仮に原告が主張するとおりC及びDが原告の子であったとしても,原告の退去強制後においては,母であるAによる監護養育が期待できる上,

 

通信・交通手段の発達した現在においては,電話やインターネット等を通じて意思の疎通を図ったり,

 

生活費を送金したりするなどして,相互に援助し合うことや,AやBらが定期的にブラジルを訪問して原告と会うことにより婚姻関係や親子関係を維持することは一般に可能というべきであるから,原告の退去強制によって,原告とAやBらとの関係が破壊されることになるということはできない。

 

 

 なお,原告は,Aは病弱で僅かな収入しか得られない旨主張するが,証拠(甲3,乙31)によれば,Aは,自動車の部品工場でパートをするなどして収入を得ているほか,

 

過去には必要に応じて生活保護を受給していたことが認められ,

 

AによるBらの監護養育等を期待できないとはいえない上,前記(2)アのとおり原告に重大な消極要素があることに照らせば,上記(3)の判断を左右するものではない。

 

 

4 本件処分の適法性について

 

 本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるところ,上記3で説示したとおり,本件裁決は適法であるから,これを前提としてされた本件処分も適法というべきである。

 

 

第4 結論

 

 よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

 

    名古屋地方裁判所民事第9部

        裁判長裁判官  市原義孝

           裁判官  平田晃史

           裁判官  西脇真由子