FX投資スクール詐欺

 

 

 

 

 

 所得税法違反,詐欺各被告事件、名古屋地方裁判所判決/平成27年(わ)第2105号、平成27年(わ)第2658号、平成27年(わ)第2870号、平成28年(わ)第248号、平成28年(わ)第483号、平成28年(わ)第621号、平成28年(わ)第665号、平成28年(わ)第721号、平成28年(わ)第1390号、判決 平成29年3月17日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 被告人Aを懲役14年に,被告人Bを懲役12年に処する。

 

 未決勾留日数中,被告人Aに対しては400日を,被告人Bに対しては340日を,それぞれその刑に算入する。

 

 被告人両名から,被告人両名が株式会社C銀行に対して有するD合同会社名義の普通預金債権(本店営業部・口座番号α)のうち200万円に相当する部分(当該金200万円は犯罪被害財産)及びE銀行株式会社に対して有する株式会社F名義の普通預金債権(G支店・口座番号β)のうち866万0746円に相当する部分(当該金866万0746円は犯罪被害財産)をいずれも没収する。

 

 被告人両名から連帯して金14億7735万9212円(当該金14億7735万9212円は犯罪被害財産の価額)を追徴する。

 

       

 

 

理   由

 

 

(罪となるべき事実)

 

第1 被告人Aは,愛知県春日井市に居住し,被告人Bに管理させていた銀行口座に不特定多数の者から投資金として振り込まれた金員を自己の用途に費消して多額の利益(雑所得)を得ていたものであるが,被告人両名は,被告人Aの所得税を免れようと企て,共謀の上,被告人Bが,前記銀行口座に振り込まれた金員を複数の借名口座に振込送金した上,被告人Aにおいて,前妻等の生活費を援助するため前記借名口座から被告人Aの前妻等名義の銀行口座に振込入金し,被告人Bにおいて,被告人Aが購入した船舶の代金を前記借名口座から支払うなどして所得を隠匿した上

 

1 平成23年分の被告人Aの実際総所得金額が1775万7045円であったにもかかわらず,所得税の納期限である平成24年3月15日までに,同県小牧市中央1丁目424番地所在の所轄小牧税務署長に対し,所得税確定申告書を提出しないで同期限を途過させ,もって不正の行為により,平成23年分の所得税額414万7900円を免れた。

 

2 平成24年分の被告人Aの実際総所得金額が5767万9955円であったにもかかわらず,所得税の納期限である平成25年3月15日までに,前記小牧税務署長に対し,所得税確定申告書を提出しないで同期限を途過させ,もって不正の行為により,平成24年分の所得税額2007万7200円を免れた。

 

3 平成25年分の被告人Aの実際総所得金額が1億2653万3771円であったにもかかわらず,所得税及び復興特別所得税の納期限である平成26年3月17日までに,前記小牧税務署長に対し,所得税及び復興特別所得税の確定申告書を提出しないで同期限を途過させ,もって不正の行為により,平成25年分の所得税額及び復興特別所得税額4862万0800円のうち,所得税額4762万0764円を免れた。(平成27年9月18日付け起訴状記載の公訴事実)

 

第2 被告人Aは,株式会社H等の名称で投資スクール会員を募集するネットワークビジネスグループの主宰者として,会員のみが外国為替証拠金取引(以下「FX取引」という。)によって過去に継続して月利3パーセント程度の運用利益を上げている運用会社での投資ができるなどと称して不特定多数の者を会員として募集し,

 

その会員になった者から投資金名下に多額の金員を受け入れていたもの,

 

被告人Bは,前記投資スクールの会員になった者から投資金を受け入れるシステムを考案し,投資金を管理するなどの業務に従事していたものであるが,

 

被告人両名は,FX取引への投資金名目で金員をだまし取ろうと考え,共謀の上,

 

真実は,Iファンドと称する投資ファンドがFX取引によって過去に継続して月利3パーセント程度の運用利益を上げる運用実績を有していた事実はなく,

 

かつ,被告人らが指定する銀行口座に投資家から振り込まれた金員につき,送金代行手数料及び振込手数料を除いた全額をIの海外口座に送金し,

 

Iファンドの運用に充てるつもりもなく,または,前記手数料を除いた全額を被告人Bが海外に設立したJと称する銀行の投資家名義の普通預金口座に送金するつもりも,

 

同口座から投資家が指定した金額を支出しIファンドを購入して運用に充てるつもりもないのに,

 

これらがあるように装い,別紙一覧表1ないし8記載のとおり,

 

平成22年6月頃から平成27年7月中旬頃までの間,複数回にわたり,

 

愛知県一宮市ab丁目c番d号ef号K等において,Lほか161名に対し,

 

前記投資スクールの会員Mらの説明を介して,前記投資スクールの会員になれば前記のような運用実績を有するIファンドを購入でき,

 

被告人らが指定する銀行口座に会員らから振り込まれた金員は前記手数料を除いた全額がIの海外口座に送金されてIファンドの運用に充てられる旨,

 

または,Jの各会員名義の普通預金口座に送金された上,

 

同口座から会員らが指定した金額が支出されてIファンドが購入され運用に充てられる旨うそを言うなどし,

 

前記Lらをその旨誤信させ,

 

よって,平成22年7月20日から平成27年8月28日までの間,

 

愛知県刈谷市gh丁目i番地N信用金庫O支店等において,前記投資スクールの会員になった同人らに,被告人らが管理する株式会社F名義の銀行預金口座等に合計19億3773万2539円を振り込み入金させ,もって人を欺いて財物を交付させた。

 

 

 

(事実認定に対する補足説明)

 

1 被告人Aの詐欺の故意及び被告人Bとの詐欺の共謀について

 

(1) 被告人Aの弁護人は,判示第2について,被告人Aには,FX取引への投資金名目で投資スクール会員から金員をだまし取る意思がなかったから,詐欺の故意がなく,投資金の管理を任せていた被告人Bがその運用や管理を適切に行わなかっただけであるなどとして,無罪を主張する。そこで,この点について以下検討する。

 

(2) 関係各証拠によれば,次の事実関係が認められる。

  

ア 被告人Aは,平成21年頃,主宰するネットワークビジネスの商材として投資スクールを採用した上,

 

当該投資スクールの会員のみが,トレーダーの24時間監視下で自動取引ソフトウェアによるFX取引を行い,複利で月利3パーセント程度の運用益が生じる実績があるファンドに投資できるというスキームを作り,

 

同ネットワークビジネスグループにおいて会員勧誘のリーダーとして活動していたPやQら(以下「Pら」という。)にその旨説明し,

 

Pらが下位の既会員や新規の入会希望者等に対し同様の説明をすることにより,投資スクールの会員を増加させるとともに,

 

当該ファンドへの投資を増加させた。

 

被告人Bは,同ネットワークビジネスグループには直接関わらないものの,被告人Aの指示により,当該ファンドを運用する証券会社との交渉,会員による投資金の出金等の業務を担うなどした。

 

当該ファンドに投資した会員は,会員専用ホームページ上で自己が投資した資金の運用実績を確認することができ,

 

同ホームページ上では複利で月利3パーセント程度の運用益が生じていたが,平成22年初め頃,当該ファンドからの出金が不可能になり,会員による投資金のうち数億円を回収することができなかった。

  

イ 被告人Aは,上記ネットワークビジネスを破綻させないため,会員に上記損失等について説明せず,

 

同年4月又は5月頃,Pらに対する説明会を開いた上,

 

被告人Bに,同被告人が設立した投資金運用会社が運用するIファンドは,

 

上記ファンドと同様に,自動売買ソフトウェアと人の組み合わせでFX取引を行って複利で月利3パーセント程度の運用益が生じること,

 

投資スクールの会員のみが,送金代行会社に投資金を入金することで,送金代行手数料及び振込手数料を除いた全額をIファンドに投資することができることなどを説明させ,

 

既会員や新規の入会希望者等に対しても同様の説明をするように指示した。

 

被告人Bは,Iファンドに投資した会員が会員専用ホームページ上で自己の投資金の運用状況等を確認できるシステムを作り,会員からの送金額や運用額,入出金額の指示に沿った内容のデータを入力した上,

 

複利で月利3パーセント程度の運用益が生じていることを示す運用実績を入力するとともに,

 

会員から出金要請があった場合はその運用実績に沿う出金に応じることとしていた。

 

Pらは,既会員や新規の入会希望者等に対し,同ホームページを見せるなどしながら,被告人Bから受けた上記説明と同様の説明を行い,投資スクールへの入会及びIファンドへの投資を勧誘した。

    

 

平成23年9月頃,Iファンドに投資する方法が,送金代行会社を経由して被告人Bが設立した海外の銀行の会員名義口座に送金された投資金から会員自身がIファンドを購入するという方法に変更された際も,

 

被告人Aは,Pらに対する説明会を開いた上,被告人Bにその旨説明させ,Pらが既会員や新規の入会希望者等に対し同様の説明を行うことで,同様に投資スクールへの入会及びIファンドへの投資の勧誘が続けられた。

    

その前後において,被告人Aは,被告人Bに新たな会社を設立させるなどして投資スクールやその運営会社を変更するなどしたが,上記の投資スキームや勧誘内容に大きな変更はなかった。

  

 

ウ 判示第2の各別紙一覧表記載の被害者らは,Pら及びその下位の会員から,上記ホームページを見せられたり,出金の実績を聞かされたりして説明を受けた結果,被告人Aの主宰する投資スクールの会員になり,指定された送金代行会社の口座等に投資金を入金するなどすれば,手数料を除くその全額が,複利で月利3パーセント程度の運用益が生じるIファンドの運用に充てられることなどを信じて,同口座等に現金を振り込んだ。

    

しかしながら,実際には,IファンドにはFX取引によって複利で月利3パーセント程度の運用益が生じる実績がなかったばかりか,

 

IファンドにおいてFX取引を行っている事実すらなく,会員から振り込まれた投資金から手数料を除いた全額がIファンドの運用に充てられるため送金されることなどもなく,

 

これらの投資金は,送金代行会社の口座等を管理していた被告人Bにより,会員からの出金要請に応じるため,あるいは,借名口座経由での被告人両名の個人的使途に用いられるため,費消されるなどした。

 

 

(3) 上記のとおり,被告人Aは,IファンドがFX取引を行っておらず,それによって複利で月利3パーセント程度の運用益を上げる実績を有していたことがないことや,

 

会員の投資金のうち手数料を除いた全額がIファンドの運用に充てられることがないことなどを知りながら,ネットワークビジネスグループを利用して会員にこれらがあるかのような説明をしていた。

 

会員が投資をするか否かを決める上で投資先の運用実績や現に投資金が当該投資先で運用されているのかは極めて重要な事実であり,

 

これらの点について虚偽の事実を告げることが欺罔行為にあたることは明らかであって,

 

これらの事実をいずれも認識していた被告人Aにおいて,

 

本件詐欺の故意が認められることもまた明らかである。

 

被告人Aは,会員の投資金について,被告人Bから運用方法等を具体的に聞いておらず,被告人A自身が平成25年頃まで行っていたFX取引,被告人Bが行っていたラオスでの貸金事業及び被告人Aが行っていたインドネシアでの不動産投資事業等で運用され,

 

これらによって損失を取り返せると思っていた旨供述しているところ,いずれの事業等も会員に投資金全額を返済できるだけの具体的な実現可能性があったものとは認められないから,

 

被告人Aの上記供述は信用できないが,

 

上記のとおり,被告人Aは,虚偽の事実を告げて投資金を振り込ませている認識があったのであるから,それのみでも詐欺の故意に欠けるところはなく,別の方法で返済しようと思っていたことがこれに影響を与えるものでもない。

   

 

なお,被告人Aは,従前の投資先であったファンドの実質的破綻により,

 

それと同様の条件で会員の投資を勧誘するため,被告人BにIファンドを用いた虚偽の投資スキームを構築させて,

 

Pらに対する説明も被告人Bにさせるなどしたのであるから,遅くともIが設立された平成22年3月頃からPらに対する説明会が行われた同年4月又は5月頃までの間に,被告人両名の本件詐欺の共謀が成立したと認められる。

 

 

2 被告人Aの所得税法違反の故意について

  

 被告人Aの弁護人は,被告人Aが,自己に対する報酬について積極的に仮想隠蔽を行う意図はなかった旨主張しており,これは,真実の所得を隠蔽し,それが課税対象となることを回避するために,偽りその他不正の行為(以下「不正行為」という。)を行っていたという認識がなかったとの主張であると解されるので,以下検討する。

 

  関係各証拠によれば,被告人Bは,会員から送金代行会社の口座等に振り込まれた投資金を複数の借名口座等に送金した上,

 

被告人Aの指示を受けて,これらの借名口座から,被告人Aの前妻の生活費を援助するため同人名義の口座等に送金し,

 

また,被告人Aが購入した船舶の代金を支払うなどしていたことが認められる。どの口座から送金させるかについてまで,被告人Aが被告人Bに指示していたとは認められないものの,

 

被告人A名義の口座を被告人Bに管理させていた事実がないことに加え,被告人Bが管理していた借名口座の名義人は被告人Aと関係の深い者ばかりであり,

 

その存在を被告人Aが知らないとは考えられないこと,

 

被告人A自身も自身が管理する借名口座に被告人Bから送金を受けたことがあることなどからすると,

 

被告人Aは,被告人Bに指示して送金させる際に,借名口座が用いられることがあると当然認識していたはずである。

 

確かに,これらの複数の借名口座を用いる理由については,金融機関により口座が凍結される危険を分散する目的なども考えられ,被告人Aの納税義務を免れることが主目的であったと認めるに足りる証拠はないものの,

 

結果として被告人Aの所得の隠蔽を可能とするものであり,被告人Aは,そのような事実関係を認識していたと推認される。

 

  そうすると,被告人Aについて,不正行為を行う認識があったと認められる。

 

 

(法令の適用)

 

罰条(被告人両名について)

 

判示第1の各行為    刑法60条,平成26年法律第10号附則164条及び平成28年法律第15号附則168条により平成26年法律第10号及び平成28年法律第15号による改正前の所得税法238条1項

 

判示第2の各行為    各別紙一覧表の被害者ごとに刑法60条,246条1項(詐取日が複数のときは包括して)

 

刑種の選択

 

判示第1の各罪     いずれも懲役刑を選択

 

併合罪の処理       刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第2の別紙一覧表5-23の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入    刑法21条

 

没収           組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律13条1項1号,3項1号,14条

 

追徴           組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律16条2項,1項,13条3項1号,1項1号(判示第2に係る犯罪収益(犯罪被害財産)は,前記没収に係る部分を除き,混和するなどして没収することができないから,犯罪収益の価額のうち,

 

①前記没収に係る価額(1066万0746円),

 

②各被害者への出金額及び被害回復分配金(合計3億7357万6452円),

 

③被告人B弁護人が現に確保し,今後,追徴を経由せずに被害回復に当てられることが見込まれる被害弁償原資(合計7613万6129円)を控除した価額を追徴する。)

 

訴訟費用の不負担     刑事訴訟法181条1項ただし書

 

 

(量刑の理由)

1 本件は,投資スクールを商材とし,実在しない優良な運用実績のあるファンドへの投資を勧誘するというネットワークビジネスを主宰していた被告人Aと,そのための投資スキームを構築し,投資金の管理等を行っていた被告人Bが,共謀の上,5年以上の間にわたって,多数人から投資金名目で多額の金員を詐取した詐欺(判示第2)と,その投資金の管理をしていた被告人Bが,複数の借名口座を用いて送金するなどして被告人Aの所得を秘匿し,同被告人の3年分の所得税を免れた所得税法違反(判示第1)の事案である。

 

 

2 まず,量刑の中心となる判示第2の詐欺についてみると,約5年間にわたって同種行為を繰り返した結果,被害者は162名,被害総額は約19億3773万円(被害者1人当たりの被害金額は13万円から1億0800万円)に上っている。途中で出金を受けた被害者も少なくなく,被害回復分配金も含めると既に合計約3億7358万円が返金されているとはいえ,被害結果はこの種事案の中でも甚大である。

  

 また,その犯行態様は,投資スクール運営会社や送金代行会社等を適宜設立するなどして投資スキームを構築した上,会員個々人の既存の人的関係等に基づき会員が増加し続けるネットワークビジネスの特性を利用し,被告人らを信じ投資スキームが真実のものであると信じる既会員を通じ,既会員自身利益を上げていること等の虚偽の事実を新規の入会希望者等に示させて,優良な運用実績を有するファンドであると誤信させるというものである。

 

 

その過程で,会員ごとの架空の運用実績をホームページ上に掲載したり,会員からの依頼どおりの出金に応じたりし,それにより現実に投資金がFX取引に運用され順調に高い運用益を上げているとの誤信をさらに強め,投資額を増大させていったのであるが,FX投資等に関する専門的知識のない被害者らにおいてこれが詐欺であるとの疑念を抱くことは容易ではなかった。そうすると,職業的かつ常習的に行われた被告人両名による詐欺は,その組織性,計画性,勧誘方法の巧妙さのいずれの点でも高度なものであって,同種事案の中でもその悪質さは際立っているといわざるを得ない。

 

  そして,被告人両名には,被告人両名の個人的利益を得る目的のほか,ネットワークビジネスを継続させるために会員からの出金依頼に応じる必要もあったと考えられるが,返済できる見込みもないまま同種犯行を繰り返していたのであり,犯行の動機・経緯に酌量の余地はない。

 

  さらに,被告人両名の果たした役割等についてみると,被告人Aは,詐欺の被害が拡大することとなった要因であるネットワークビジネスを主宰し,被告人Bに対し,投資スキームの骨格を示してこれを構築させた上,投資スキームを変更する場合には被告人Bから相談や報告を受けるなどして,継続的に詐欺を行う仕組みを確立し,

 

被告人Bに指示して会員からの投資金を自らの財産であるかのように自由に用い,現に数億円を個人的用途のため費消していたものであって,最も主導的役割を果たしていることが明らかといえる。

 

他方,被告人Bは,投資スキームを具体的に構築した上,会員から入金された投資金を集金口座から複数の借名口座に移動させてその管理を行い,架空の運用実績を入力してホームページ上に掲載するなど,継続的に詐欺を行う仕組みを現に運営していたものである。

 

被告人Bは,被告人Aの指示に従っていた面があるとはいえ,自主的に投資スキームを構築・運営し,会員らに自ら説明した上,被告人Aの了解を得て数千万円を個人的用途に費消するなどしていたものであり,その犯行への積極性や果たした役割の重要性等に鑑みれば,被告人Bが被告人Aの従属者にすぎないなどの評価は適切でない。

 

  以上の事情からすると,被告人両名の刑事責任はいずれも非常に重く,特に主導的役割を果たした被告人Aの責任は重いが,被告人Bについても,被告人Aとその責任の評価を大きく違えるのが相当とはいえない。

 

もっとも,もともと会員の投資金の一部ではあるものの,被告人Bが,同人名義又は同人が代表を務める法人名義の銀行預金口座からの送金作業を行い,被害弁償原資を集める作業をしていること,その他被告人両名が管理していた現金や銀行預金口座の残高等によれば,起訴された被害金額に限ってみれば,相当程度の被害回復が見込まれることが認められ,これらの事情は被告人両名のために一定程度有利に斟酌すべきである。

 

3 次に,判示第1の所得税法違反についてみると,ほ脱税額は合計約7184万円と多額であるし,被告人Aの雑所得を秘匿するに当たっては,被告人Bが複数の借名口座や送金代行会社を利用して送金を行うなど,脱税が露見しにくい悪質かつ巧妙な態様であったといえ,犯情はよくない。

 

4 以上に加えて,被告人Aについては,被害者らに対する謝罪と弁償の意を述べるものの,所得税法違反について不正行為の認識を,詐欺について故意をいずれも否認し,反省がみられないが,相当以前の罰金前科があるに過ぎず,姉及び知人が出廷して社会復帰を支援する旨述べたこと,被告人Bについては,本件各犯行を認めて反省の言葉を述べていること,相当以前の前科(交通関係)があるに過ぎないこと,知人が出廷して社会復帰を支援する旨述べたこと等,被告人らそれぞれの関係で考慮すべき事情も踏まえ,主文掲記の刑を定めた。

 

(求刑 被告人両名について各懲役15年,主文掲記の没収及び15億5349万5341円の追徴)

 

  平成29年3月22日

 

    名古屋地方裁判所刑事第5部

        裁判長裁判官  奥山 豪

           裁判官  西山志帆

           裁判官  渡邊直樹

 

※別紙一覧表1ないし8は省略