日本語学校の理事長が不法就労をさせた事例

 

 

 

 

 

 出入国管理及び難民認定法違反被告事件、前橋地方裁判所太田支部判決/平成28年(わ)第255号、平成29年(わ)第12号、判決 平成29年3月10日、 LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 被告人株式会社Y1を罰金200万円に処する。

 

 被告人Y2を懲役2年及び罰金200万円に処する。

 

 被告人Y2においてその罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間,同被告人を労役場に留置する。

 

 被告人Y2に対し,この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。

 

       

 

理   由

 

 

 

 

【罪となるべき事実】

 

 

 被告人株式会社Y1(以下「被告会社」という。)は,群馬県館林市(以下略)に本店を置き,労働者派遣事業等を営む事業者であり,被告人Y2(以下,単に「被告人」という。)は,被告会社の代表取締役として,その業務全般を統括するものであるが,被告人は,被告会社の業務に関し,

 

 

1 別表1記載のとおり,平成27年9月6日から同年10月3日までの間又は同年9月6日から同年11月28日までの間,ベトナム社会主義共和国の国籍を有する外国人であり,「留学」の在留資格で本邦に在留するとともに,法務大臣から資格外活動の許可を受けているAほか2名につき,

 

前記許可に係る資格外活動の条件(1週について28時間以内)に違反することを知りながら,

 

被告会社の雇用する労働者として株式会社Bに派遣し,

 

群馬県邑楽郡(以下略)所在の同社倉庫において,同表「1週についての労働時間」欄記載の期間(いずれも前記Aほか2名の在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間に該当しない。)に対応する同欄記載の時間,

 

同社の指揮命令のもと倉庫作業に従事させることにより,前記許可に係る資格外活動の条件に違反して報酬を受ける活動を行わせ,

 

 

2 別表2記載のとおり,平成26年6月29日から同年7月19日までの間及び平成27年1月18日から同年3月14日までの間,ベトナム社会主義共和国の国籍を有する外国人であり,

 

「留学」の在留資格で本邦に在留するとともに,法務大臣から資格外活動の許可を受けているCにつき,

 

前記許可に係る資格外活動の条件(1週について28時間以内)に違反することを知りながら,

 

被告会社の雇用する労働者として株式会社Dに派遣し,

 

群馬県邑楽郡(以下略)所在の同社工場において,同表「1週についての労働時間」欄記載の期間(いずれも前記Cの在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間に該当しない。)に対応する同欄記載の時間,

 

同社の指揮命令のもと工場作業に従事させることにより,前記許可に係る資格外活動の条件に違反して報酬を受ける活動を行わせ,

 

 

もって,それぞれ,事業活動に関し,外国人に不法就労活動をさせたものである。

 

 

 

 

【証拠の標目】

 

 

 括弧内の甲乙を冠した数字は,証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。

 〔判示事実全部について〕

 ・被告人の公判供述

 ・写真撮影報告書(甲1)

 ・履歴事項全部証明書(甲2)

 ・捜査関係事項照会回答書(甲4)

 〔判示1の各事実について〕

 ・Eの検察官調書(甲28)

 ・Fの検察官調書(甲29)

 ・Gの検察官調書抄本(甲31)

 ・捜査報告書謄本(甲8)

 〔判示1別表1番号1の事実について〕

 ・Aの警察官調書(甲19)

 ・捜査報告書(甲9)

 ・捜査関係事項照会回答書(甲14)

 〔判示1別表1番号2の事実について〕

 ・Hの警察官調書(甲22)

 ・捜査報告書(甲10)

 ・捜査関係事項照会回答書(甲15)

 〔判示1別表1番号3の事実について〕

 ・Iの警察官調書(甲25)

 ・捜査報告書(甲11)

 ・捜査関係事項照会回答書(甲16)

 〔判示2別表2の事実について〕

 ・被告人の検察官調書(乙19)

 ・Cの警察官調書(甲57)

 ・Jの検察官調書(甲60)

 ・Fの警察官調書(甲61)

 ・捜査報告書(甲51),写真撮影報告書(甲52)

 ・捜査関係事項照会回答書(甲55)

 

 

 

【法令の適用】

 

 

 被告人の判示各所為は,不法就労外国人ごとに,いずれも出入国管理及び難民認定法73条の2第1項1号に該当するところ,所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については刑法47条本文,10条により犯情の最も重いCに関する罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については刑法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役2年及び罰金200万円に処することとし,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により,金1万円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置することとし,情状により刑法25条1項を適用して,この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予することとする。

 

 被告人の判示各所為は,いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから,被告会社についても,不法就労外国人ごとに,いずれも出入国管理及び難民認定法76条の2,73条の2第1項1号により罰金刑に処せられるべきところ,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で被告会社を罰金200万円に処することとする。

 

 

 

【量刑の理由】

 

 

 被告人は,日本語学校の理事長かつ同校の運営会社の代表者を務める傍ら,人材派遣会社である被告会社を経営していたものであるが,

 

そのような立場を利用し,同日本語学校に在籍する留学生を募って被告会社で雇用した上,

 

派遣先において,資格外活動条件である1週につき28時間を超えて稼働させており,

 

かかる態様のもと行われた本件各不法就労助長は,組織的かつ職業的な犯行といえる。

 

また,被告人は,部下をして留学生の勤務管理表や給与明細一覧表を改ざんさせるなどし,不法就労活動の発覚防止にも意を用いており,狡猾で悪質な犯行ともいい得る。

 

本件で起訴されたものに限っても,判示のとおり,4名もの留学生に関し,4週間から12週間にわたり,前記資格外活動条件を大幅に超える長時間の不法就労活動を助長していることから,

 

我が国の出入国管理秩序及び社会経済秩序を乱すとともに,

 

各留学生の本来の在留目的である教育を受ける活動にも悪影響を及ぼしたものと推察されるところであり,

 

その結果は軽いものではない。

 

そして,被告人は,派遣先の要望に応えることにより,結局のところ,被告会社の信用を確保し,収益増大を図るために本件各不法就労助長に及んだものと認められるのであり,

 

そのような安易で利欲的な動機に酌量の余地は乏しい。

 

一連の犯行により,被告会社ひいてはその経営者である被告人が得た経済的利益も,かなりの額に上るものと認められる。

 

 

 以上によれば,被告会社に対しては,相当額の罰金刑を科すのが相当である。

 

また,被告人については,被告会社の経営者として,一連の犯行を主導したと認められるから,その刑事責任を軽く見ることはできないということになる。

 

 他方,被告人が事実関係を認めて反省の言葉を述べていること,被告人にはこれまで前科がないこと,被告人は,前記日本語学校の経営の譲渡を進めるとともに,被告会社について派遣業の廃業届を提出しているというのであるから,今後,再犯に及ぶ恐れは小さいと認められることなど,酌むべき事情も認められる。

 

これらを考慮すれば,被告人に対しては,主文掲記の懲役刑及び罰金刑を科した上,懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当である。

 

(求刑 被告会社につき罰金200万円,被告人Y2につき懲役2年及び罰金200万円)

 

  平成29年3月10日

    前橋地方裁判所太田支部

           裁判官  森田 淳