永住許可申請における社会保険及び雇用保険

 

 

 

 永住不許可処分取消請求控訴事件、東京高等裁判所判決/平成19年(行コ)第25号、判決  平成19年7月17日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 在留3年の定住者資格更新の許可を受けながら日本に居住してきたペルー国籍の女性である控訴人が,永住許可申請をしたところ,法務大臣によりこれを不許可とする処分がされたため,その取消を求めた事案について,本件申請について判断するに当たり,控訴人が社会保険及び雇用保険に加入していないことを消極的要素として考慮し,そのことのみを理由に不許可としたことは裁量権の逸脱・濫用に当たり,本件不許可処分は違法であるとして,これと異なる原判決を取り消し,控訴人の取消請求を認容した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

1 原判決を取り消す。

 

2 法務大臣が平成17年6月17日付けで控訴人に対してした永住許可申請を許可しない旨の処分を取り消す。

 

3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

 

       

 

 

 

 

事実及び理由

 

 

 

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴の趣旨

   主文と同旨

 2 控訴の趣旨に対する答弁

 (1)本件控訴を棄却する。

 (2)控訴費用は控訴人の負担とする。

 

 

 

第2 事案の概要

 

1 本件は,在留3年の定住者資格更新の許可を受けながら日本に居住してきたペルー国籍の女性である控訴人が,永住許可申請をしたところ,法務大臣により,これを不許可とする行政処分がされたため,被控訴人に対し,その取消しを求めた事案である。

   

原判決は,上記永住不許可処分について法務大臣の裁量権の逸脱・濫用は認められず,同処分は適法であるとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これに不服があるとして,本件控訴を申し立てた。

 

2 前提事実(当事者間に争いがない事実以外の事実には証拠の標目を掲記)

 

(1)控訴人は,ペルー国籍の女性であり,▲年▲月▲日,父A,母Bの子として出生した。父A(大正▲年▲月▲日生,本籍・岡山市α××××番地×)は,ペルー国在住のいわゆる日系二世であり,日本国籍を有している(甲6,乙9)。

 

(2)控訴人は,平成6年7月4日,短期滞在の在留資格で,90日の在留を許可され,日本に入国した。その後,平成6年8月17日,平成7年8月15日,平成8年9月30日,平成9年8月13日に定住者の資格で在留期間1年の,平成10年8月26日,平成13年7月30日,平成16年8月12日に定住者の資格で在留期間3年の在留資格の変更及び更新許可を受けた。

 

(3)控訴人は,平成15年12月24日付けで,東京入国管理局長野出張所において,法務大臣に対し,永住許可申請(以下「本件申請」という。)をした。これに対し,法務大臣は,平成17年6月17日付けで,「あなたのこれまでの在留実績からみて,永住を許可するに足りる相当の理由が認められません。」との理由で不許可処分をした(以下「本件不許可処分」という。)。

 

 

 

3 被控訴人の主張

 

(1)国際慣習法上,外国人の入国及び滞在の許否は当該国家が自由に決し得るものであり,条約等の特別の取決めがない限り,国家は外国人の入国又は在留を許可する義務を負わないのであって,憲法22条もその考え方を同じくする。憲法上,外国人は,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでなく,ましてや永住許可を受ける権利を保障されているものでなく,外国人に対して永住権を付与するかは本来的に国家の自由な裁量に委ねられている。法の規定によると,法務大臣は,永住許可申請に対し,その者の永住が日本国の利益に適合すると認めたときに限り許可することができるが,その判断も法務大臣の裁量に委ねられているといえる。

    

永住許可は,他の在留資格を有する外国人に対しても有利かつ安定的な地位,すなわち,在留資格及び在留期間による活動上あるいは手続上の制限のない資格を与えるものであり,また,当該外国人と日本社会との関わりを一層飛躍させて密接かつ強固なものにするから,永住許可をするためには,当該外国人の永住が単に国益に反しないという消極的なものにとどまらず,積極的かつ具体的に国に利益をもたらす必要があるといえる。

    

したがって,法務大臣は,永住許可に関して,当該外国人の現在までの在留状況又は一切の行状,国内の政治,経済,社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲あるいは国内の治安と善良の風俗の維持,保健衛生の確保,労働市場の安定などといった諸般の事情を斟酌したうえで,当該外国人の永住が積極的に国の利益になるか否かを判断せねばならないのであるから,その裁量の範囲は格段に広範であることは明らかであり,永住許可についての法務大臣の判断が違法となるのは,上記のような広範な裁量権を逸脱し又は濫用したと認められるごく例外的な場合に限られるというべきである。

    

「その者の永住が日本国の利益に合すること」の要件に関し,控訴人主張の要素を考慮することは確かであるが,これらは最低限必要な条件にすぎず,判断に際して考慮する事情はこれらに止まらない。

    

控訴人には,これまでの在留状況の中で,本件申請の際,控訴人はCが兄ではないのに兄であると親族関係につき虚偽の資料を提出した疑いがあり,また,控訴人及びその夫のDは,勤務先会社に正社員として勤務しているのに,加入義務のある社会保険に加入せずに国民健康保険に加入し,雇用保険にも加入していない等の事情が存在する。

    

以上のとおり,本件不許可処分について,法務大臣の裁量権の逸脱・濫用はないのであるから,同処分は適法である。

 

(2)控訴人の兄姉らに対して永住許可処分がなされているが,その際の事情は,本件不許可処分時の事情とは大きく異なっている。すなわち,被控訴人が,Cが日系人ではないとの情報を初めて得た時期は平成15年10月22日であり,その後にその情報の真偽を明らかにするため,Cの身分関係について本格的な調査を開始した。これに対し,控訴人の兄姉らが法務大臣によって永住許可された時期は,いずれも平成15年10月22日以前であったため,兄姉らの永住許可申請においては,Cを親族とする資料を提出していても,被控訴人は,その真偽を検討する情報を把握できていなかったのである。したがって,本件申請と控訴人の兄姉らの永住許可申請とを同一に取り扱うことはできない。

 

(3)Cは,本件不許可処分時には,定住者の在留資格を有していたが,その後,在留期間更新許可を受けたものの,在留資格は与えられず,現在に至っては不法残留中である。

 

 

 

 

 

4 控訴人の主張

 

(1)出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)22条2項によると,永住許可の要件は,素行が善良であること,独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること,その者の永住が日本国の利益に合することであるとされている。

    

控訴人は,犯罪歴がなく納税義務を果たしており,日常の生活状況にまったく問題がない。そして,株式会社Eに勤務するなどして,年間約180万円の給与収入を得ていた。控訴人の夫であるDも,同社に勤務するなどして,年間360万円の給与収入を得ていた。

    

平成18年3月31日に法務省入国管理局が明らかにした「永住許可に関するガイドライン」によると,「その者の永住が日本国の利益に合すること」の要件の有無を判断する主要なポイントとして,以下の点が挙げられている。すなわち,10年以上継続して日本に在留していること又は定住許可を受けた後引き続き5年以上日本に在留していること,現に有している在留資格について,出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「施行規則」という。)別表第2に規定されている最長の在留期間をもって在留していることが要件とされている。控訴人は,定住許可を受けた後引き続き5年以上日本に在留しているし,施行規則別表第2では,定住者の在留期間の最長は3年であるところ,控訴人は定住者として3年の在留期間を認められている。さらに,控訴人とその夫Dは,上記のとおりいずれも民間会社で真面目に稼働し,長女F,次女Gはそれぞれ地元の中・小学校に通い,その後長女は言葉のハンディを乗り越え県立高校に進学している。控訴人ら家族は,円満な家庭を築き,勤勉で堅実な生活を送るとともに,地域の行事に参加し,控訴人が団地の組長を務めるなど地域社会にも溶け込み,日本人と変わらない健全な社会生活を送っている。

 

(2)法務大臣の裁量権も無制限ではなく,その判断がまったく事実の基礎を欠き又は著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には,裁量権の逸脱・濫用があったものとして違法となる。

    

控訴人は,本件申請の際,Cが真に自分の兄弟であると信じてその旨の資料を提出したものであり,故意に虚偽の資料を提出したものではない。Cは,幼い時から控訴人の両親,兄弟と生活をともにしてきたものであり,控訴人がCを兄と信じたことは当然である。控訴人の父Aは,宣誓口述書の追認書で,Cのことを「私の子供ではありません。このようなものはまったく知りません。」としているが,控訴人の父はCと一緒に生活していたもので,Cをまったく知らないことはあり得ず,控訴人の父の口述内容が事実に反することは明らかである。控訴人の父とCは以前から仲が悪く,控訴人の父はCに対する感情的反発からこのような供述をした可能性が高い。そして,このことは,控訴人から事情を聴取し,必要な資料等の提出を求めれば判明したことである。

    

控訴人は,本件申請にあたり,合理的な根拠に基づき真実と信じたことをそのまま申告したのであり,決して偽装日系人工作に加担したりしたものではない。

    

Cの身分に関し,父親の宣誓宣言書は,平成15年9月25日付けで作成され,同年10月20日付けで翻訳書が作成されているため,そのころ同宣言書が法務大臣に提出されたと考えられ,また,平成17年4月25日付けで姉Hに対し親族関係の照会がなされているから,法務大臣は,遅くともこの時点にはCの身分関係に疑念があることを把握していたことが明らかであるのに,これ以降もCに対し在留資格の更新許可をしているが,このことは,法務大臣自身が,Cの身分関係に関する疑念が,国益に合致するか否かを判断するうえで消極的要素とはなり得ないと考えていることにほかならず,本件申請において,この点を消極的理由として斟酌することは社会通念からみても極めて不合理かつ不平等であり,本件不許可処分については裁量権の逸脱・濫用がある。

 

(3)法律上,従業員の社会保険等の被保険者資格の取得について責任を課されているのは事業主であって従業員ではない。社会保険等については,保険料の事業主負担部分があるため,これを嫌って保険加入の手続をとらない事業所が多いことはつとに知られたことである。したがって,控訴人の永住許可の審査に当たって社会保険等に加入していないことを消極的要素として考慮することは,明らかに合理性を欠いており裁量権を逸脱又は濫用している。また,控訴人の姉のI,H及びJは,いずれも民間企業で勤務しているものの,社会保険等に加入していないにもかかわらず,永住許可がされている。控訴人の姉らの在日歴,来日後の生活状況等に照らし,両者の取扱いに差を認めることが合理的と考えられるような事情はまったく窺えない。同じ事情がありながら,ある者についてのみ,これを不利益な事情として考慮するという恣意的な運用が,平等原則に反し許されないことは明らかであり,この点においても,本件不許可処分には裁量権の逸脱・濫用がある。

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

1 前記前提事実に,証拠(甲9ないし12,14,20ないし25,30,31,33ないし35,37ないし40,41及び42の各1ないし6,44,50,乙3ないし5,12ないし17,20,23ないし25,32,36ないし40,42ないし47,原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨をあわせると,以下の事実が認められる。

 

 

(1)控訴人は,

 

平成3年5月17日,ペルーにおいて夫Dと婚姻し,

 

Dが電気店で働くなどして生活していたが,ペルーでの生活は厳しく,社会も不安定であったたため,

 

平成4年7月,夫とともに来日し,岡山県の自動車工場で働くなどした。

 

一旦帰国した後の

 

平成6年7月,夫ともに再来日し,先に来日していた姉HやJを頼って長野県に移り,在留1年の定住者の資格を取得して,

 

飼料製造工場で働くなどし,

 

平成11年11月から平成17年9月末まで株式会社Eに勤務し,年間200万円余の給与収入を得,

 

その後,有限会社Kの勤務を経て,Lという会社の派遣社員として稼働し,月額15万円の収入を得ている。

 

控訴人の在留資格,在留期間,その変更・更新等の経過は,前記前提事実(2)のとおりである。

 

 

 

 

(2)控訴人の夫Dは,来日後,飼料製造工場や建設会社で働くなどした後,

 

平成12年3月から平成17年9月まで株式会社Eに勤務し,年間約360万円の給与収入を得,

 

その後,有限会社Mにて派遣社員として稼働し,月額約35万円の収入を得ている。

 

 

(3)控訴人ら夫婦は,来日後ペルーから長女Fを呼び寄せ,日本において次女Gをもうけたが,2子とも,それぞれ地元の小・中学校に通学し,長女は平成18年4月には県立商業高校に進学している。

    

 

控訴人ら家族は,約10年にわたり,肩書住所地の県営住宅に居住しているが,家賃も滞りなく支払っており,夫婦の収入により家族の生活を維持している。

 

 

 

(4)控訴人は,来日以来,犯罪歴はなく,これまで国や地方公共団体に対する納税義務を果たしており,控訴人の夫も,同様である。

    

 

控訴人ら夫婦は,飼料製造工場等勤務時を除いて,勤務先の社会保険等に加入したことはない。

 

控訴人ら夫婦は,平成12年3月21日以後,家族全員について国民健康保険に加入している。

 

 

(5)控訴人は,平成15年12月24日付け本件申請の際に,法務省が用意した同申請書の親族一覧表の「申請者の親族」欄に父母のほかに姉I,姉N,兄C,姉H,兄O,姉Jの年齢,在留資格,職業,住所を記載した。

 

 

 

(6)控訴人の姉I,姉H,兄O及び姉Jは,相当以前から我が国に在留しており,

 

いずれも永住許可を得,

 

現在,愛知県に居住している。

 

 

その永住許可年月日は以下のとおりである。

 

姉Hは平成13年7月25日,

 

兄Oは平成15年6月26日,

 

姉J及び同人の子Pは同年7月15日,

 

姉Iは同年10月6日である。

 

 

なお,姉Hは,平成3年4月ころ,来日し,短期滞在90日の資格で在留した後,定住者1年の在留資格を取得・更新を受け,平成10年8月26日定住者3年の在留資格を取得した後,平成13年7月25日永住許可を得ており,

 

また,姉Jは,平成6年3月27日に短期滞在90日の資格で在留した後,同年から平成13年までは定住者1年の在留資格の取得・更新を受け,平成14年6月6日定住者3年の在留資格を得た後,平成15年7月15日永住許可を得た。

 

現在,Iはパチンコ店で働き,H及びJはいずれも弁当店で働いている。姉Nは,長野県に居住している。

    

 

なお,平成17年9月7日には,Hの子Qに対しても永住許可がなされた。

 

Qは,永住許可申請に際し,祖父母,母,本人のみの家族関係表を提出したのみであり,叔父にCがいるとの家族関係を述べる書面は提出しなかった。

    

 

上記姉らは,永住許可を受ける前から日本において働いていたが,勤務先会社の社会保険等に加入していた形跡はない。Iは,平成13年10月3日,国民健康保険に加入した。Jも,現在,国民健康保険に加入している。

 

 

(7)Cは,平成15年4月30日,定住者(1年)として上陸許可を受け,

 

平成16年5月12日,日本人の配偶者等(1年)による在留資格変更許可を得,

 

平成17年5月24日,日本人の配偶者等(1年)による在留資格更新の許可を受け,

 

平成18年4月26日,在留資格更新許可の申請をしたが,名古屋入国管理局長から,同許可はできないので,出国準備のための在留許可申請に変更するようにとの指導を受けて,その旨の申請をし,平成18年10月30日,出国までの準備活動に限る趣旨の「特定活動」の在留資格許可を受け,

 

同年12月18日,再度の「特定活動」の在留資格許可を受け,

 

平成19年1月27日,帰国のため航空券購入の所持金がないとして短期滞在の在留資格変更許可申請をしたが,

 

名古屋入国管理局への出頭を求められたのに出頭せず,同年4月6日に上記在留資格変更不許可の処分を受け,以後,不法残留となり,所在不明となっている。

 

 

(8)東京入国管理局は,

 

平成15年10月22日,Cに関し,控訴人の父Aの関係者から情報提供を受け,Cの身分関係について疑いが生じたとして,

 

同年9月25日にAがペルー国ピウラ市の公証人役場において宣誓のうえ「Cは実子ではない」と供述した宣誓宣言書を入手し,

 

その後,上記関係者も,上記Aの供述内容と同一の認識を有していることを確認し,

 

平成18年2月23日にはAが作成した平成17年8月4日付け宣誓口述書の追認書を入手した。

 

そして,Cの在留期間更新許可申請の審査において,Cの家族関係について,上記関係者の情報提供内容及びAの宣誓供述内容を裏付ける具体的かつ詳細な情報を入手したとしている。

 

 

 

(9)控訴人の父のAは,

 

平成15年9月25日付け宣誓宣言書においては,

 

自分にはI,N,H,O,J,R(控訴人)の6人の子がいるが,

 

全員,名古屋市と長野県で就労中である旨供述し,

 

平成17年8月4日付け宣誓口述書の追認書においては,

 

上記宣誓宣言書の供述内容を追認し,

 

Cは,出生証明書を所有しているが,自分の子ではなく,10年前に他界した妻との間にもうけた子は前記の6人であり,Cという人物はまったく知らない旨供述している。

 

 

 

(10)控訴人は,本件訴訟において,両親の下で,他の兄姉と同様,Cを自分の兄と認識し,Cらと一緒に養育されてきたものであり,

 

Cが兄であることは間違いなく,

 

父Aが宣誓口述書の追認書等でCは自分の子ではないと供述したのは,Cが反抗的で仲が悪かったため,

 

Cに対する感情的反発からなされたものと考えられる旨の陳述書を提出し,

 

原審における本人尋問においても同旨の供述をし,

 

Cが生育する過程で家族らと一緒に撮影されているアルバム写真(甲31号証)を提出している。

 

また,控訴人が平成6,7年ころに在留資格を得る際に提出した資料である,

 

控訴人の父Aの弟S(岡山県在住)作成の証明書(甲35号証)には,控訴人はAの7人目の子であることを証明すると記載されている。

    

 

控訴人の姉Hは,平成17年4月25日,名古屋入国管理局係官の電話による照会に対し,自分の兄弟姉妹にCがいる旨答えており,

 

また,Cが兄であることに間違いない旨の陳述書を提出し,

 

自らの永住許可申請の際にも家族の中にCがいる旨述べている。

 

そして,姉Jも,Cが自分の兄である旨の陳述書を提出している。

 

 

 

(11)控訴人の夫D,長女及び次女は,控訴人と同様,

 

平成15年12月24日,永住許可の申請をしたが,

 

法務大臣は,平成17年6月17日,いずれについても不許可とする処分をした。

 

同人らは,控訴人と同様,定住者(3年)の在留資格更新を受けているものと思われる。

 

 

 

 

(12)永住許可を受けた外国人の数は,

 

平成12年は3万0745人(うちペルー人2323人。以下の年度数についても内数を示す。)であったが,

 

新規入国外国人の増加と在留の長期化・定着化,永住許可の取扱いの見直し等により,

 

平成13年4万1889人(うちペルー人3893人),

 

平成14年4万2085人(うちペルー人2980人),

 

平成15年4万6171人(うちペルー人3381人)と年々着実に増加しており,

 

平成16年には過去最高の4万8263人(うちペルー人3275人)に上っている。

 

このうち,社会保険等に加入している者の割合は明らかではない。

 

 

 

 

2 法22条2項によると,

 

法務大臣は,永住許可申請について,その者が①素行善良であり,

 

②独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有し,

 

③その者の永住が日本国の利益に合すると認められるときに限り,これを許可することができると定められているところ,

 

永住許可をするかどうか,

 

特に③の要件の認定,①ないし③の要件がある場合に永住許可をするかどうかについては,法務大臣に裁量権が認められている。

 

そして,

 

③の要件については,法務省入国管理局が平成18年3月31日に明らかにした永住許可に関するガイドラインによると,

 

 

「ア 原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。

 

ただし,この期間のうち,就労資格又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。

 

イ 罰金刑や懲役刑などを受けていないこと。納税義務等公的義務を履行していること。

 

ウ 現に有している在留資格について,施行規則別表第2に規定されている最長の在留期間をもって在留していること。

 

エ 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと。」を要するされ,

 

原則10年在留に関する特例として,定住者の在留資格で5年以上継続して本法に在留していることで足りるとされている(甲32)。

   

 

 

これを本件についてみると,

 

控訴人は,本件申請時,在留歴は10年前後であり,

 

定住者の資格で許可されて以後,5年以上を経過し,

 

平成10年8月26日以降は3年ごとに期間3年の在留資格を得ていたものであるうえ,

 

夫Dとともに来日以後,継続して民間企業で共働きをし,相応の収入(最近の夫婦の月収合計額は約50万円である。)を得,

 

国及び地方公共団体に対する税金を納め,

 

平成12年3月21日には国民健康保険に加入し,

 

その間,日本で次女をもうけ,長女及び次女とも日本の小・中学校に通学して,現在長女は県立高校に進学しており,

 

控訴人ら家族に犯罪歴,非行歴はまったく窺えず,地域社会に溶け込み通常の社会生活を送っているものであるから,

 

控訴人は,永住許可のための前記3要件を充足しているものと認めるのが相当である。

 

 

 

 

 

3 ところで,被控訴人は,本件不許可処分をした理由の一つは,控訴人が,本件申請に際して,Cは控訴人の兄ではないのに兄であるとの虚偽の資料を提出した疑いがあることであると主張し,

 

その根拠としては控訴人の父Aの宣誓宣言書及び宣誓口述書の追認書を挙げる。

 

この宣誓宣言書等において,AはAと妻との間には控訴人ら6人の子がいるのみであり,Cという人物はまったく知らない旨述べていることは前示のとおりである。

   

 

なるほど,控訴人は,本件申請に際して,Cが自分の兄である旨記載した資料を提出している。

 

そして,本件訴訟においても,Cが自分の兄であることに間違いない旨の陳述書を提出し,

 

原審における本人尋問においても,同旨の供述をしている。

 

しかしながら,控訴人は,同時に,Cが他の兄弟姉妹らとともに撮影されている子どもの時期のアルバムの写真や,控訴人がAの7番目の子であることを証明する旨の控訴人の叔父作成の書面を提出しており,

 

控訴人の姉Hも,名古屋入国管理局係官に対して,Cは自分の兄弟である旨回答している。

 

これらのアルバム写真や叔父の証明書及び姉Hの回答等をあわせると,

 

控訴人は,Cが兄であると信じていたものと認めるのが相当であり,仮にCが真実は控訴人の兄でなかったとしても,控訴人の前記資料の提出や控訴人の原審における供述等が,虚偽の記載と知りつつ提出したり,偽証したりしたものとはとうてい認め難いといわざるを得ない

 

 

(なお,被控訴人は,上記アルバム写真等の信用性を弾劾する立証活動は格別していないのであって,控訴人の父Aの上記宣誓宣言書等を考慮しても,控訴人の原審供述の信用性を直ちに否定することは困難である。)。

   

 

 

また,東京入国管理局は,

 

平成15年10月末ころには,Cの身分関係について,情報提供を受け,

 

CはAの子ではない旨のAの宣誓宣言書等を入手しながら,

 

法務大臣は,Cに対し,その後の平成16年5月12日に日本人の配偶者等による在留資格変更許可をし,

 

平成17年5月24日には同資格による在留資格更新の許可をしているが,

 

このことは,法務大臣自身が,日本人の配偶者によるものとはいえ,Cの身分に関する疑念を留保するか又はその疑念がないとして,Cの在留を認めたものと推認するのが合理的である。

 

 

   

以上によると,控訴人は,本件申請に際してCを兄弟の一人とする資料を提出したが,

 

同人はCを兄と信じて資料を作成提出したものであって,

 

偽装日本人工作に加担したものでないことは明らかである。

 

 

 

そして,控訴人が法22条2項の永住許可の一般的要件を満たしていることは前示2のとおりであるから,

 

結局,本件では,法務大臣は,本件申請に際して,控訴人が,Cは控訴人の兄であるとの虚偽の資料を提出したものではないのに,虚偽の資料を提出した,

 

あるいはその疑いがあるとの事実の誤認に基づき本件不許可処分をしたものといわざるを得ない。

 

 

 

 

 

前示のとおり,控訴人の兄弟姉妹は,いずれも永住許可を得ているところ,

 

その永住許可申請に際してもCを兄弟とする資料が提出されたものと推認されるところ,

 

被控訴人は,本件申請の時点では,法務大臣は,Cが控訴人らの兄弟でない(日系人でない)との情報を得ていたのであるから,

 

他の兄弟姉妹に対する永住許可時点とは検討事情が異なる旨主張するが,

 

控訴人らがCを兄弟姉妹の関係にあると信じていたことにおいて何らの事情の変更はない。

 

したがって,本件不許可処分は,基礎とすべき事実に誤認があり,ひいては平等原則に反してなされたものというべきである。

 

 

 

 

4 また,被控訴人は,本件不許可処分をした理由の他の一つは,控訴人及び夫のDは,勤務先会社に正社員として勤務しているのに,加入義務のある社会保険等に加入していないことである旨主張する。

   

 

控訴人及び夫のDは,来日以後,民間企業において働いてきたが,一時期を除き,社会保険及び雇用保険には加入したことがなく,

 

控訴人は,平成12年3月21日に国民健康保険に加入したすぎない。

 

そして,外国人が社会保険等に加入していないことについて,社会全体の負担になり得るものとして「日本国の利益に合する」との要件の消極的要素に当たると考える余地はあり得る。

   

 

 

しかしながら,社会保険,厚生年金及び雇用保険は,雇用主に届出義務及び保険料納付義務が課せられているのであるから,

 

従業員がこれに加入していないからといって,

 

このことを過大に考慮するのは相当ではない。

 

 

 

加えて,控訴人の姉I,H及びJは,来日後,民間企業において働いているが,

 

社会保険等に加入していた形跡はないのに,いずれも永住許可を得ているところである。

 

 

また,現在,多くの外国人が永住許可を受けているが,本件全証拠によっても,社会保険等に加入している者の割合等は定かではなく,未加入者も一定数含まれているものと推認せざるを得ない。

   

 

そうすると,本件申請について判断するに当たり,控訴人が社会保険等に加入していないことを消極的要素として考慮して,

 

そのことのみを理由に不許可とすることは,

 

少なくとも控訴人の姉らに対する永住許可と異なる取扱いをすることになるのであり,裁量権の逸脱・濫用に当たるものといわざるを得ない。

 

 

 

 

5 以上によると,本件不許可処分は,法務大臣の裁量権の逸脱・濫用によるものであって違法というべきであり,その取消しを免れない。

   

よって,これと異なる原判決を取り消したうえ,控訴人の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。

    

東京高等裁判所第16民事部

        裁判長裁判官  宗 宮 英 俊

           裁判官  坂 井   満

           裁判官  原     優