「留学」の在留資格で在留する外国人の報酬活動等

 

 

 

 

 

 違反認定処分取消等請求事件、 東京地方裁判所判決/平成17年(行ウ)第607号、判決 平成19年1月31日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 スリ・ランカ民主社会主義共和国の国籍を有する者に対してした処分行政庁東京入国管理局入管審査官の出入国管理及び難民認定法24条4号イに該当する旨の認定を取り消した事例

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

1 処分行政庁東京入国管理局入国審査官が原告に対して平成17年7月29日付けでした,出入国管理及び難民認定法24条4号イに該当する旨の認定を取り消す。

 

2 裁決行政庁法務大臣が原告に対して平成17年9月6日付けでした,出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく原告の異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

 

3 処分行政庁東京入国管理局主任審査官が原告に対して平成17年9月6日付けでした退去強制令書発付処分を取り消す。

 

4 訴訟費用は被告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

   主文第1項から第3項までと同旨

 

 

 

第2 事案の概要

 1 本件は,スリ・ランカ民主社会主義共和国(以下「スリランカ」という。)の国籍を有する男性である原告が,処分行政庁東京入国管理局(以下「東京入管」という。)入国審査官(以下「東京入管入国審査官」という。)から平成16年法律第73号による改正後の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号イ(資格外活動)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管特別審理官から上記認定に誤りはない旨の判定を受け,さらに,被告代表者兼裁決行政庁法務大臣(以下「法務大臣」という。)から入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受け,処分行政庁東京入管主任審査官(以下「東京入管主任審査官」という。)から退去強制令書発付処分を受けたため,原告が入管法24条4号イに該当しないのにこれに該当する旨の上記認定は違法であり,したがって,異議の申出には理由がない旨の上記裁決及び上記裁決を前提としてされた上記退去強制令書発付処分も違法であり,仮に,原告が同号イに該当するとしても,原告に在留特別許可を認めなかった上記裁決には,法務大臣が裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した違法があり,上記裁決を前提としてされた上記退去強制令書発付処分も違法である旨主張して,被告に対し,上記認定,上記裁決及び上記退去強制令書発付処分の各取消しを求める事案である。

 

 

 

 2 前提となる事実

   本件の前提となる事実は,次のとおりである。なお,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることのできる事実並びに当裁判所に顕著な事実は,その旨付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない。

 (1)原告の身分事項

    原告は,昭和▲年▲月▲日にスリランカにおいて出生した,スリランカ国籍を有する外国人の男性である。

 (2)原告の入国及び在留の状況

   ア 原告は,平成15年10月15日,新東京国際空港(以下「成田空港」という。)に到着し,東京入管成田空港支局入国審査官から,在留資格を「就学」,在留期間を「1年」とする上陸の許可を受けて,本邦に入国した。

   イ 原告は,平成15年12月17日,許可期限を同16年10月15日とする資格外活動の許可を受けた。

   ウ 原告は,平成16年10月7日,在留期間を「6月」とする在留期間更新許可を受けた。

   エ 原告は,平成16年10月7日,許可期限を同17年4月15日とする資格外活動の許可を受けた。

   オ 原告は,平成17年3月18日,在留資格を「留学」,在留期間を「1年」とする在留資格変更許可を受けた。

   カ 原告は,平成17年4月15日,許可期限を同18年3月18日までとする資格外活動の許可(以下「本件許可」という。)を受けた。本件許可は,1週について28時間以内(3月18日から4月10日まで,7月16日から8月31日まで及び12月20日から1月10日までの間にあっては,1日8時間以内)の収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動(風俗営業若しくは店舗型性風俗営業が営まれている営業所において行われるもの又は無店舗型性風俗特殊営業,映像送信型性風俗特殊営業,店舗型電話異性紹介営業若しくは無店舗型電話異性紹介営業に従事するものを除く。)で専修学校の専門課程又は高等専門学校に在籍している間に行うものを許可するというものであった。(乙3の4)

 

 

 

 (3)原告の退去強制手続

   ア 東京入管入国警備官は,平成17年7月13日,栃木県宇都宮南警察署の警察官と共に,有限会社a(以下「a」という。)を摘発し,原告が金属加工作業員としてaにおいて就労していること,及びその就労時間が本件許可に係る時間を超えていることを確認した。

   イ 東京入管入国警備官は,原告が入管法24条4号イに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,平成17年7月13日,東京入管主任審査官から収容令書の発付を受けるとともに,同日,同令書を執行して,原告を東京入管収容場に収容し,同月14日,原告を同号イ該当容疑者として東京入管入国審査官に引き渡した。

   ウ 東京入管入国審査官は,平成17年7月15日及び同月29日,原告について違反審査を実施し,同日,原告が入管法24条4号イ(資格外活動)に該当する旨の認定(以下「本件認定」という。)を行い,原告にこれを通知した。原告は,同日,東京入管特別審理官による口頭審理を請求した。

   エ 東京入管主任審査官は,平成17年8月10日,前記イの収容令書の収容期間を同月12日から同年9月10日までに延長するとともに,この延長後の収容令書を原告に提示した。

   オ 東京入管特別審理官は,平成17年8月11日,原告について口頭審理を行い,本件認定に誤りがない旨判定し,原告にこれを通知した。原告は,この判定について,同日,法務大臣に異議の申出をした。

   カ 法務大臣は,平成17年9月6日,上記オの異議の申出について理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。同日,本件裁決の通知を受けた東京入管主任審査官は,原告に対し,本件裁決を通知するとともに,退去強制令書(以下「本件令書」という。)を発付した(以下,この処分を「本件退令処分」という。)。

   キ 東京入管入国警備官は,平成17年9月6日,本件令書を執行して,原告を東京入管収容場に収容した。原告は,同年12月15日,入国者収容所東日本入国管理センター(以下「東日本センター」という。)に移収された。

 

 

 

 

 (4)本件訴えの提起等

   ア 原告は,平成17年12月16日,本件認定,本件裁決及び本件退令処分の各取消しを求める本件訴えを提起するとともに,本件退令処分に基づく執行の収容部分及び送還部分を本件訴えの判決の確定まで停止することを求める旨の執行停止の申立てをした。(当裁判所に顕著な事実)

   イ 東京地方裁判所は,平成18年2月8日,本件退令処分に基づく執行の収容部分及び送還部分を本件訴えの第1審判決の言渡しまで停止する旨の決定をした(以下,この決定を「本件執行停止決定」という。)。

 

 

 

 

 

 

(当裁判所の顕著な事実)

   ウ 原告は,本件執行停止決定に基づき,平成18年2月9日,東日本センターにおける収容を解かれた。原告は,現在,収容されていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3 争点

   本件の争点は,次のとおりである。

 (1)本件認定の適法性。具体的には,原告は,入管法24条4号イの退去強制事由に該当するか。

 (2)本件裁決の適法性。具体的には,本件認定が違法であるから,異議の申出に理由がない旨の本件裁決も違法なものか。また,本件認定が違法ではないとしても,原告につき特別に在留を許可すべき事情があるとは認められないとして本件裁決をした法務大臣の判断は,その裁量権を逸脱し,又は濫用してされた違法なものか。

 (3)本件退令処分の適法性。具体的には,本件裁決が違法であるから,これを前提とする本件退令処分も違法であるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 4 争点に関する当事者の主張の要旨

 (1)被告の主張

    別紙1のとおり

 (2)原告の主張

    別紙2のとおり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 争点に対する判断

 

 

 1 認定事実

   前記前提となる事実のほか,証拠によると,以下の事実を認めることができる(認定根拠は,各事実の後に付記することとする。)。甲第5,第27号証,乙第13号証及び原告の本人尋問における供述のうち,以下の認定事実に反する部分は,他の事実若しくは証拠と矛盾し,又は的確な裏付けを欠くので,採用することができない。

 

 

 (1)原告の身分事項

   ア 原告は,昭和▲年▲月▲日にスリランカにおいて出生した,スリランカ国籍を有する外国人の男性である。(前記前提となる事実)

   イ 原告は,1男1女の第1子であり,スリランカで育ち,平成11年に高校を卒業し,同年から同13年まで英語とコンピューターを学ぶ学校に通い,同年から同15年10月までスリランカに在るbで働いていた。(甲13,27,乙11,13[資料3号])

   ウ 原告は,日本でコンピューターの勉強をしたいと考え,取りあえず日本語学校である件外学院に入学することを決めた。件外学院の学費約130万円のほか,原告が日本に入国するために必要な旅券,査証及び航空券等の費用は,すべて原告の父が負担した。(甲27,35,乙4,11,原告本人)

   エ 原告の父母及び妹は,スリランカに住んでおり,原告の父は,船に乗って働いている。(乙11)

 

 

 

 

 (2)原告の入国及び在留の状況

 

   ア 原告及びそのいとこであるc(昭和▲年▲月▲日生)は,平成15年10月15日,成田空港に到着し,同月20日,いずれも東京都西東京市に在る件外学院の日本語進学1年6か月コースに入学し,同17年3月31日,件外学院を卒業した。原告は,同15年10月20日から同17年2月28日までの間に行われた授業1140時間のうち1081時間に出席しており(出席率は94.8%),遅刻や早退はほとんどなかった。原告の上記期間中の成績評価(AからEまでの5段階評価)は,「読む」が「C」,「聞く」が「B」,「書く」が「C」,「話す」が「B」であって,原告の成績は格別優秀とはいえないものの,成績不良ではなく,勉強熱心であり,件外学院における学生としての原告の評判は良かった。(甲1,4,5,13,乙4,11,13〔資料1号から3号まで,7号〕,16,24の2から4まで)

 

 

   イ 原告は,当初,東京都日野市内のアパートの1室を賃料月額12万円で借り,賃料を1人当たり3万円ずつ負担するとの約束の下,c及びスリランカ人2人と共に4人で住んでいたが,cが件外学院に入学してから半年後に他に転居したため,原告は,件外学院の寮に入寮し,件外学院を卒業するまでその寮に住んでいた。原告は,本邦への入国時に,原告の父からもらった邦貨3万円及び422米ドルを所持していたが,平成15年12月17日に資格外活動の許可を受け,同16年1月ころから,その許可に係る1週当たりの就労時間を超えることなく,弁当屋やレストランで働き,月額5万円から8万円の収入を得ていた。原告の1か月当たりの生活費は,寮費が3万円,食費が1万5000円,携帯電話代が5000円から8000円,雑費が約5000円の,合計5万5000円から5万8000円であったので,件外学院を卒業するまでに約30万円を貯金することができた。(前記前提となる事実,甲5,27,乙4,13〔資料7号〕,原告本人)

 

 

 

   ウ 原告は,コンピューターの勉強をするため,宇都宮市に在る件外学校に入学することを決め,平成17年1月17日,件外学校から入学許可を受けたので,両親に件外学校の学費の送金を依頼した。原告の両親は,同年1,2月ころ,件外学院の職員でスリランカ人のdがスリランカに帰国した際に金員を同人に託するという方法によって,100万円を原告あてに送金し,原告は,件外学校の学費として入学金及び2年分の月謝の合計84万円を支払った。原告は,c及びスリランカにいた時からの知り合いで件外学院でも一緒であったスリランカ人のeも件外学校に入学することになったことから,3人で宇都宮市内で共同生活することを決め,cを借主,原告及びeを同居人,家賃を月額6万7000円,家賃の支払日を毎月26日(翌月分の前払い),家賃の支払方法を賃貸借契約の仲介者である株式会社f(以下「件外会社」という。)名義の銀行口座への振込として,宇都宮市α×番15号β○○○号室(以下「本件居室」という。)を賃借し,同年4月1日,本件居室に転居した。本件居室への転居に要した費用の合計は,本件居室を借りるために要した費用30万4750円を含めると,4,50万円に上った。上記費用は,原告,c及びeの3人で均等に負担するはずであったが,原告が上記2人の負担分の一部を立て替えることとなったため,原告は,貯金のほとんどを使い果たしてしまった。原告は,同月11日,件外学校の情報ビジネス科(2年制)に入学した。情報ビジネス科は,ビジネスとコンピューターを基礎から学習し,企業の各部門でコンピュータとネットワークを活用した業務の提案をすることができるオフィススタッフを養成することを目的としていた。件外学校は,就職を目的とする生徒のためにジャストステップスケジュールを組んでいるが,原告は進学を目的としていたので,原告にはジャストステップスケジュールは組まれていなかった。(甲3,5,6,17,18,20,27,33,乙1,3の3,4,11,13〔資料4号,6号から9号まで〕,16,24の5,原告本人)

 

 

 

   エ 原告は,平成17年4月15日,資格外活動の許可を受け,すぐにアルバイトを始めようとしたが,なかなかアルバイトを見付けることができず,また,c及びeもアルバイトを見付けることができなかった。原告の両親は,スリランカにおいてかなりの金額の預金を有しており,これを原告のために支出することができたが,原告は,既に件外学校の学費として両親から100万円の送金を受けていたので,3か月もたたずに再び両親に送金を頼むのは気が引けたことなどから,両親に送金を頼まなかった。

 

 

 

原告,c及びeは,同年5月12日,件外会社を訪れ,同月分の家賃を支払日から16日遅れて支払い,上記家賃のうち3万7000円を原告が,3万円をc及びeが,それぞれ負担した。

 

 

上記3人は,上記家賃を支払った際に,件外会社から,「家賃の支払は期限に遅れないようにしてほしい。遅れれば1日当たり67円を支払ってもらう。」旨言われた。

 

 

また,本件居室の光熱費等の支払が遅れることもあった。原告及びcは,同月18日,aにおいて時給820円で金属加工作業員として働き始め,eは,同月中旬ころからgにおいて時給780円で働き始めた。

 

 

しかし,上記3人は,同月26日に家賃を支払うことができなかった。

 

 

原告は,同月31日から1週につき28時間を超えて働くようになったが,同年6月10日ころ,件外会社から家賃の支払を督促する電話を受けたことから,1か月分の家賃と光熱費等をまとめて支払うことができるだけの金員をためたいと考え,aの社長に対し,「少しまとめて仕事をしたい。」旨申し入れたところ,同人から,「1人分の仕事ならある。」旨言われたので,原告は,同月13日以降,aにおいて1週につき28時間をはるかに超えてその2倍前後の長時間にわたって働くようになった。

 

 

原告は,このために,後記オのとおり,件外学校の授業に出席することができなくなったが,仕事が終わって帰宅してから,c及びeから授業の内容を聞くなどしていた。

 

(前記前提となる事実,甲3,5,6,10の1及び2,14の1及び2,15の1及び2,16,23から27まで,乙4,7,11,13〔資料6号,7号,10号〕,15から17まで,原告本人)

 

 

 

 

 

   オ 原告は,平成17年4月12日から同年6月10日までの全授業日数38日のうち,4日は授業を休んだが,残りの34日は,遅刻や早退をすることはあったものの,休まず授業を受けていた。

 

 

しかし,原告は,同月13日には1日中授業を欠席し,同月15日から原告が東京入管収容場に収容された同年7月13日までの全授業日数23日については,1日中授業を欠席するか,最初の1限目(9時00分から9時50分まで)ないし2限目(10時00分から10時50分まで)だけ授業を受けて残りの授業を欠席するようになった。

 

 

その結果,原告の出席率は,

 

同年4月が70.8%(65時限中46時限。小数第2位四捨五入。以下同じ。),

 

同年5月が90.6%(85時限中77時限),

 

同年6月が35.2%(aのタイムカード(乙4,7)と

 

件外学校作成に係る原告の出席状況票(甲2,乙13〔資料5号〕)との対比によると,

 

同月2日の4限目

 

(12時40分から13時30分まで)及び5限目(13時40分から14時30分まで)並びに同月6日の3限目(11時00分から11時50分まで)から5限目までには出席していないものと認められるから,105時限中37時限),

 

同年7月が12.5%

 

(上記対比によると,同月11日の2限目及び同月12日の2限目には出席していないものと認められるから,40時限中5時限)となった。

 

原告は,件外学校の入学当初から勉強熱心であり,学生としての原告の評判は良かった。(前記前提となる事実,甲2,3,20,乙4,6,7,11,13〔資料5号,6号〕,15,28)

 

 

 

   カ 原告のaにおける就労時間は,

 

1週目(平成17年5月18日から同月21日まで)及び2週目(同月24日から同月28日まで)がそれぞれ23.5時間であり,

 

3週目(同月31日から同年6月4日まで)が33.5時間であり,

 

4週目(同月6日から同月11日まで)が33.0時間であり,

 

5週目(同月13日から同月18日まで)が49.0時間であり,

 

6週目(同月20日から同月25日まで)が55.0時間であり,

 

7週目(同月27日から同年7月2日まで)が53.5時間であり,

 

8週目(同月4日から同月9日まで)が54.5時間であり,

 

9週目(同月11日から同月12日まで)が17時間であった。

 

 

aでは,従業員の賃金は毎月25日締めの月末払いであり,

 

原告の同年5月分の賃金(1週目及び2週目の途中である同月25日までの合計31.5時間)は,2万5830円(ただし,控除前の金額。以下同じ。)であり,

 

同年6月分の賃金(2週目の途中である同年5月26日から6週目までの合計186時間)は,15万2520円であり,

 

同年7月分の賃金(7週目から9週目までの合計125時間)は,10万2910円であり,その合計は28万1260円である。

 

 

 

 

 

     これに対し,cのaにおける就労時間は,

 

1週目(同年5月18日から同月21日まで)及び2週目(同月24日から同月28日まで)がそれぞれ23.5時間であり,3週目(同月31日から同年6月4日まで)が33.5時間であり,4週目(同月6日から同月11日まで)が23.5時間であり,5週目(同月13日から同月18日まで)が31時間であり,6週目(同月20日から同月25日まで)が47.5時間であり,7週目(同月27日から同年7月2日まで)が23時間であり,8週目(同月4日から同月9日まで)が38.5時間であり,9週目(同月11日から同月12日まで)が12時間である。cが1週目から9週目までの就労によって得た賃金の合計は,時給820円に合計256時間を乗じて得られる20万9920円であった。

    (甲5,19,34,乙4,7,11,13〔資料7号〕)

 

 

 

 

   キ eは,平成17年6月23日,件外会社を訪れ,同月分の家賃を支払日から27日遅れて支払ったが,上記家賃のうち,1万7000円を原告が,2万円をcが,3万円をeが,それぞれ負担した。また,cは,同年7月14日,件外会社を訪れ,同月分の家賃を支払日から18日遅れて支払ったが,上記家賃のほか,電気代等を含む合計9万円のうち3万円ずつを上記3人がそれぞれ負担した。(甲5,10の2及び3,乙13〔資料7号,10号〕)

 

 

   ク 原告は,平成17年7月13日,東京入管主任審査官から発付された収容令書の執行により,入管法24条4号イ該当容疑者として東京入管収容場に収容され,同年9月6日,東京入管主任審査官が発付した本件令書の執行により,同号イ該当者として東京入管収容場に収容され,同年12月15日,東日本センターに移収され,本件執行停止決定に基づき,同18年2月9日,東日本センターにおける収容を解かれたが,同17年7月13日から同18年2月9日までの収容中の間,件外学校の勉強を続けていた。しかし,原告の収容が長期間にわたったため,原告は,出席日数の不足を理由に,件外学校の1年生をもう1度やり直さなければならなくなった。(甲20,27)

 

 

   ケ 原告は,退去強制手続における原告の代理人として弁護士を選任したが,平成18年度の学費を払い戻してその費用に充てた。原告は,本件執行停止決定に基づき,収容を解かれた後,両親に対し,平成18年度の学費及び生活費の送金を依頼し,同人らは,平成18年2月に100万円を,同年5月に21万6214円を,それぞれ原告あてに送金し,原告は,平成18年度の学費として24万円を支払い,残金97万6214円を生活費に充て,アルバイトは一切行わないこととした。原告の平成18年度の件外学校における成績は良好である。(甲21,22,27,36)

 

 

 

 2 事実認定の補足説明

 

 (1)原告は,平成17年6月13日以降,件外学校の授業を余り受けずにaで働く時間が長くなった理由について,

 

①入国警備官による違反調査(乙4)において,

 

(i)本件居室には原告を含めて3人で住んでいたが,原告を除く2人にアルバイト先が見付からず,本件居室の家賃をほとんど自分1人で負担しなければならず,そのため1か月当たり6万7000円の家賃2か月分及び光熱費2か月分を滞納してしまった,

 

(ii)件外学校に支払った入学金と2年分の学費をスリランカにいる家族から送金を受けた後は,スリランカにいる家族から送金を受けておらず,スリランカにいる家族から送金を期待することができなかった,

 

(iii)そこで,滞納している家賃や光熱費の支払を工面するために,件外学校の授業を受けずにaで働くようになった旨供述し,

 

 

②入国審査官による違反審査(乙11)の際に,上記①の(ii)の供述について,本国に原告名義の貯金があり,それを送金してもらうのが遅れた旨の供述に改めたものの,上記①の(i)及び(iii)の各供述はそのまま維持し,

 

 

③特別審理官による口頭審理(乙17)の際には,上記①の(ii)の供述について,本邦滞在の経費は本国からの送金で賄っていたが,本国からの送金が遅れていたので,aでの仕事量を増やした旨補足し,上記①の(iii)の供述はそのまま維持した。

 

 

 

    そうすると,原告の上記各供述には,入国警備官による違反調査,入国審査官による違反審理及び特別審理官による口頭審理を通じて若干の変遷があり,上記①の(i)及び(iii)の各供述並びに上記①の(ii)の供述を変更した後の上記②及び③の各供述には一部事実と異なる点があるということができる。

 

 

 

 (2)しかし,原告の上記(1)の各供述に若干の変遷や事実との食い違いがあったとしても,その程度や,入国警備官による違反調査が日本語と英語により行われ,入国審査官による違反審査が日本語により行われたのに対し,特別審理官による口頭審理は原告の母国語であるシンハラ語により行われたことも勘案すると,これらの供述の変遷や事実との食い違いだけを重視するのは適当ではなく,原告の上記供述の変遷等を理由に,原告の各供述全体の信用性を低く見ることはできない。

 

 

 (3)また,前記認定事実のとおり,cも,aで働いていたものの,原告ほどには就労時間は長くなかったわけであるが,原告の方がcよりも年齢が上であり,原告とcがいとこであることも勘案すれば,原告が年長者として生活費の窮迫という状態を率先して解消すべき責任があると考えることは,十分にあり得るものと考えられ,

 

そうであるとすると,原告とcが同様の経済的状況に置かれていたにもかかわらず,原告の就労時間の方がcの就労時間よりも長いことを理由に,原告の前記(1)の各供述全体の信用性を低く見ることはできない。

 

 

 (4)そして,前記認定事実中には,原告の前記(1)の①の(i)及び(iii)の各供述並びに原告の前記(1)の①の(ii)の供述を変更した後の前記(1)の②の供述に一部沿うものもあることに照らすと,原告の前記(1)の各供述には,相応の信用性があるものということができる。

 

 

 

 3 争点(1)(本件認定の適法性)について

 

 (1)入管法24条4号イ(資格外活動)は,「第19条第1項の規定に違反して」報酬活動等「を専ら行つていると明らかに認められる者」に該当することを退去強制の事由としている。すなわち,①本邦に在留する外国人が「入管法19条1項の規定に違反して」報酬活動等を行っていたこと(以下「第1要件」という。),②当該外国人が報酬活動等を「専ら行つている」こと(以下「第2要件」という。),③当該外国人が報酬活動等を専ら行っていると「明らかに認められる」ことの各要件をすべて満たす場合に初めて,当該外国人が入管法24条4号イに該当するということができる。

 

 

 (2)ア 入管法19条1項によると,入管法別表第一の一の表,二の表及び五の表の上欄の在留資格をもって在留する者は,同条2項の許可を受けて行う場合を除き,当該在留資格に応じこれらの表の下欄に掲げる活動に属しない報酬活動等を行うことができず,また,入管法別表第一の三の表及び四の表の上欄の在留資格をもって在留する者は,同項の許可を受けて行う場合を除き,報酬活動等を行うことはできない。そして,第1要件にいう収入活動とは,一定の目的の下での同種行為の反復継続的な活動で,営利目的を有するか否かを問わず,収入を伴う事業を個人又は法人で営むことをいい,第1要件にいう報酬活動とは,一定の役務の提供に対する対価を受ける活動であり,例えば,他人に雇用されて賃金を得て働くことをいうものと解すべきである。

 

 

   イ 前記前提となる事実及び前記認定事実によると,原告は,「留学」の在留資格により本邦に在留するスリランカ国籍の外国人であり,平成17年4月15日,原則として1週につき28時間以内の報酬活動等で専修学校の専門課程又は高等専門学校に在籍している間に行うものを許可する旨の本件許可を受けていたこと,原告は,同年5月18日からaにおいて時給820円で金属加工作業員として働き始め,同年7月13日に摘発されるまで働き続けていたこと,原告のaにおける就労時間は,3週目(同年5月31日から同年6月4日まで)から9週目(同年7月11日から同月12日まで)までがいずれも1週について28時間を超えていたことが認められる。

 

 

     そうすると,本邦に在留する外国人である原告は,同年5月31日以降入管法19条1項の規定に違反して報酬活動を行っていたものであり,第1要件を充足していたものと認められる。

 

 

 

 (3)ア ①(i)入管法が,我が国に在留する外国人の在留資格は,入管法別表第一又は第二の上欄に掲げるとおりとした上,別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者は,当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる活動を行うことができ,別表第二の上欄の在留資格をもって在留する者は,当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる身分又は地位を有する者としての活動を行うことができるとし(2条の2第2項),また,入国審査官が行う上陸のための審査においては,外国人の申請に係る我が国において行おうとする活動が虚偽のものでなく,別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当することを審査すべきものとしている(7条1項2号)ことからすると,

 

入管法は,個々の外国人が我が国において行おうとする活動に着目し,一定の活動を行おうとする者のみに対してその活動内容に応じた在留資格を取得させ,我が国への上陸及び在留を認めることとしているというべきである(最高裁平成11年(行ヒ)第46号同14年10月17日第一小法廷判決・民集56巻8号1823頁参照)こと,

 

 

(ii)入管法20条1項及び2項に規定する在留資格の変更の制度は,我が国に在留する外国人が,当初の在留目的を達成し,入管法別表第一に規定する他の在留資格に該当する活動を行おうとする場合,身分関係の変更その他の理由により入管法別表第二に規定する身分又は地位の類型の在留資格に該当する活動を行おうとする場合,又はその他在留目的の活動を変更しようとする場合に,我が国にいながら新たに別の在留資格を取得することができるようにする制度であることに照らせば,在留資格の決定を受けて本邦に在留する外国人は,その現に有する在留資格に該当する活動をその在留期間中一貫して行って在留すべきであること,

 

 

 

 

②入管法は,別表第一の活動類型の在留資格を就労資格(別表第一の一及び二の表)と非就労資格(別表第一の三及び四の表)とに区分し,就労資格に係る就労活動以外の就労活動を原則として禁止する(19条1項)とともに,我が国の産業構造,日本人の就職及び労働条件等に影響を及ぼすと考えられる就労資格(別表第一の二の表)については,経済や社会情勢の変化等に即応して上陸を許可する外国人の範囲を調整するため,産業及び国民生活に与える影響等を考慮して実務経験,従事する業務内容,報酬額等の上陸許可基準を定め,これを満たす外国人に限って上陸を許可することとした(7条1項2号)上,資格外活動の許可を受けずにされた報酬活動等については刑罰を科し(73条),これを専ら行っていると明らかに認められる場合には更に重い刑罰を科し(70条1項4号),かつ,退去強制事由としており(24条4号イ),

 

 

そうすると,入管法は,外国人が報酬活動等を行うことに対しては厳格な態度をもって臨んでいるということができること,

 

 

 

 

③そうすると,本来の在留資格に基づく活動との関係で禁止されているなど,本来の在留目的たる活動と両立し得ない報酬活動等については,これを認める必要がない上,仮に,これを認めると,本来の在留資格に基づく活動をいわば隠れみのにして,本来の在留目的たる活動と両立し得ない報酬活動等を行うことが可能となり,入管法が在留資格制度を設けて,個々の外国人が本邦において行おうとする活動に着目し,一定の活動を行おうとする者のみに対してその活動内容に応じた在留資格を取得させ,本邦への上陸及び在留を認めることとしている趣旨が没却される弊害を招く結果となることを総合すると,

 

 

 

第2要件にいう報酬活動等を「専ら行っている」とは,

 

 

報酬活動等を行っている時間,

 

その継続性,

 

収入又は報酬の額,

 

本来の在留資格に基づく活動をどの程度行っているか等を総合的に判断して,

 

当該外国人の在留資格に係る在留目的及びこれによる活動が,全体として見て,収入又は報酬を得る目的で本邦に在留し,

 

そのための就労をするものに,既に変更されてしまっていると認められる程度に,報酬活動等を行っていることをいうものと解するのが相当である。

 

 

 

 

   イ ところで,

 

 

①入管法別表第一の四の表の上欄に規定する「留学」の在留資格を有する外国人が本邦において行うことができる活動は,本邦の大学若しくはこれに準ずる機関,専修学校の専門課程,外国において12年の学校教育を修了した者に対して本邦の大学に入学するための教育を行う機関又は高等専門学校において教育を受ける活動であること(入管法19条1項柱書,同項2号),

 

②「留学」の在留資格を有する外国人は,同号にいう報酬活動等を行ってはならないとされていること,

 

③留学目的で本邦に上陸しようとする外国人は,「留学」の在留資格を申請する際,本邦在留中の一切の経費の支弁能力を証する文書及びその者が支弁するに至った経緯を明らかにする文書を提出しなければならない(入管法7条,入管法規則6条,同別表第三)こと,

 

④在留資格に該当する活動を行おうとする者の上陸許可を得るための基準を定める本件省令の「法別表第一の四の表の留学の項の下欄に掲げる活動」の下欄には,2号本文として,「申請人がその本邦に在留する期間中の生活に要する費用(…(略)…)を支弁する十分な資産,奨学金その他の手段を有すること。」と規定されていることを総合すると,外国人が「留学」の在留資格を取得するためには,本邦への上陸に当たり,本邦において「留学」の在留資格に該当する活動を行うための十分な経費支弁能力を有することが必要とされているものと解するのが相当である。

 

     そうすると,入管法は,「留学」の在留資格で在留する外国人が報酬活動等をし,それにより本邦滞在中の費用を賄うことは,元来予定していないというべきである。

 

 

     しかし,

 

 

①そもそも,「留学」の在留資格で滞在している外国人については,現に,一定時間を限って,報酬活動等を行うことができるとする資格外活動の許可がされることがあり,その場合には,適法に報酬又は収入を得るための就労等がされることとなること,

 

②上記のような資格外活動の許可がされていない場合であっても,本国からの送金が何らかの事情によって一時途切れたり,急な出費があるなどしたために,本邦滞在中の費用を一時本邦において調達しなければならない事態が生ずることもあり得るから,

 

そのようなときは,報酬活動等をしていても,本邦における在留の目的や活動全体の性格は変わっていないと評価することができるときもあると考えられることも勘案すると,

 

「留学」の在留資格で在留する外国人が報酬活動等を行い,その程度が本邦滞在中の費用を賄おうとするまでに至っている状態が,ある時点において認められたとしても,

 

入管法24条4号イの適用の関係では,それのみでは足りず,そのような状態の継続期間や今後の継続の見込み,それまでの学業の状況,現在の学業の進行の阻害程度等の諸般の事情次第では,学業の遂行が就労によって一時阻害されていたとしても,当該外国人の在留目的及び本邦における活動が,全体として見て,「留学」の在留資格に係る在留目的及びそれによる活動類型から既に変更されてしまったと評価される程度にまで至ったとはいえないときがあるというべきであり,

 

 

そのようなときは,報酬活動等を「専ら行つている」ということはできないと解すべきである。

 

 

 

したがって,「専ら行つている」とされるのは,「留学」の在留資格で在留する外国人が,在留資格外の報酬活動等を行い,その程度が本邦滞在中の費用の主要部分を賄おうとするまでに至っており,かつ,そのような状態が相当期間にわたっていて,継続性が見込まれる場合等,前示のとおり在留目的及びそれによる活動全体の性格が既に変わってしまっていると評価し得るときであると解するのが相当である。

 

 

 

   ウ 前記認定事実によると,

 

 

①原告のaにおける就労時間は,

 

1週目(平成17年5月18日から同月21日まで)及び2週目(同月24日から同月28日まで)には1週につき28時間を超えていなかったが,

 

3週目(同月31日から同年6月4日まで)及び4週目(同月6日から同月11日まで)には1週につき28時間を超えるようになり,

 

5週目(同月13日から同月18日まで)から9週目(同年7月11日から同月12日まで)までは1週につき28時間をはるかに超えてその2倍前後の長時間となったこと,

 

 

 

②原告は,同年4月11日,件外学校の情報ビジネス科に入学し,同月12日から同年6月10日(金曜日)までの全授業日数38日のうち,4日は授業を休んだが,残りの34日は,遅刻や早退をすることはあったものの,休まず授業を受けていたこと,

 

 

③ところが,原告は,同年6月13日には1日中授業を欠席し,同月15日から同年7月13日までの全授業日数23日については,1日中授業を欠席するか,最初の1時限ないし2時限だけ授業を受けて残りの授業を欠席するようになり,その結果,原告の出席率は,

 

同年4月が70.8%,

 

同年5月が90.6%,

 

同年6月が35.2%,

 

同年7月が12.5%であったこと,

 

 

 

④原告がaにおいて同年5月18日から同年7月12日まで働いて得た賃金の合計は28万1260円(ただし,控除前の金額)であるところ,

 

原告は,同年5月18日から同月28日までは1週につき28時間を超えることなく働いており,

 

その間に得た賃金の総額は,時給820円に47.0時間を乗じた3万8540円であり,

 

原告の同月18日から同年7月12日までの就労時間がいずれも同年5月18日から同月28日まで(1週目及び2週目まで)の就労時間と同じであったと仮定した場合に原告が同月18日から同年7月12日まで(1週目から9週目まで)に得られたはずの賃金は,

 

 

上記3万8540円に4.25(1週目から8週目÷1週目及び2週目=4。9週目は2日間しか働いていないので,2日÷8日(1週目及び2週目の実働日数は8日)=0.25)を乗じて得られる16万3795円であり,

 

 

上記28万1260円との差額は11万7465円であるが,

 

 

これは,同年5月31日から同年7月12日までの約1.5か月間に1週につき28時間を超えて働いたことによって得られた金額であり,

 

これを1年分に換算すると,上記11万7465円に8(12月÷1.5月)を乗じて得られる93万9720円であり,

 

これは,件外学校の入学金及び2年分の月謝として支払った84万円を上回る金額であること,

 

 

⑤原告がaにおいて1週につき28時間を超えることなく働いて得た賃金は,2週間で3万8540円であるから,これを1年分(1年を52週と仮定)に換算すると,

 

上記3万8540円に26(52週÷2週)を乗じて得られた100万2040円であるが,

 

宇都宮市における原告の生活費が件外学院在籍中の原告の生活費である月額5万円から5万8000円と同程度であるとすると,上記100万2040円は,原告の生活費を賄うのに十分であることが認められる。

 

 

 

     そうすると,「留学」の在留資格で在留する外国人である原告が行っていた報酬活動の程度は,同年5月31日以降においては本邦滞在中の費用の主要部分を賄おうとするまでに至っている状態にあったと認めるのが相当である。

 

 

 

   エ(ア)しかし,前記認定事実によると,

 

①(i)原告は,日本でコンピューターを勉強するために来日したが,件外学院及び件外学校の学費はすべて原告の父ないし両親が負担し,生活費は主として原告が日本で働いて賄うこととし,

 

(ii)そのために資格外活動の許可を受け,平成15年10月20日から同17年3月31日まで件外学院に在籍していた間はその許可に係る1週当たりの就労時間を超えることなく弁当屋やレストランで働き,

 

同年5月18日から同月28日まではその許可に係る1週につき28時間の就労時間を超えることなくaで働いて,生活費を賄っていたこと、

 

原告が同年6月13日から1週につき28時間をはるかに超えてその2倍前後の長時間にわたり働き始めた理由ないし目的は,宇都宮市への転居に伴って出費がかさんだ上,アルバイトがなかなか見付からずに一時的に生活費の支払に窮して家賃や光熱費等の支払が遅れたことから,今後そのような事態が起きないようにするために1か月分の家賃と光熱費等をまとめて支払うことができるだけの金員をためることにあったことが認められる。そして,既に判示したところによれば,資格外活動の許可を受けて行う限りは,上記①の(i)は,入管法上何ら問題となることはない。

 

 

   (イ)また,①原告が平成17年6月13日以降1週につき28時間をはるかに超えてその2倍前後の長時間にわたり働き始めた理由ないし目的が上記(ア)の②のとおりであるとすれば,

 

原告がそのような就労を長期間にわたって続ける予定であったとは考え難いこと,

 

②前示のとおり,原告がaにおいて同年5月18日から同年7月12日まで働いて得た賃金の合計28万1260円

 

(ただし,控除前の金額)

 

と,原告の同年5月18日から同年7月12日までの就労時間がいずれも同年5月18日から同月28日まで(1週目及び2週目)の就労時間と同じであったと仮定した場合に

 

原告が同月18日から同年7月12日まで(1週目から9週目まで)に得られたはずの賃金16万3795円との差額は,

 

11万7465円であるが,

 

 

前記認定事実によると,これは,1か月分の家賃と光熱費等をまとめて支払うことができるだけの金員に相当するということができること,

 

 

③cは,その陳述書(甲5,乙13[資料7号])において,「hは,6月中旬ころより夏休みが終わるころまでの間,いつもより多く働いて貯金し,今後は賃料の支払が遅れないようにすると言っていました。」旨陳述し,

 

口頭審理における証人尋問(乙16)において,

 

「夏休みが終わった後は学校へ行く予定でした。」旨供述しており,その陳述及び供述の信用性に疑義を差し挟むべき事情は格別見当たらないこと,

 

 

④証拠(甲5,乙13〔資料7号〕)によると,件外学校の夏休み明けの授業は9月1日に始まることが認められることを総合すると,

 

1週につき28時間をはるかに超えてその2倍前後の長時間にわたるという原告の就労は,遅くとも同年8月31日までの予定であったと認めるのが相当である。

 

 

 

 

   (ウ)そして,前記前提となる事実及び前記認定事実によると,

 

 

本件許可は,3月18日から4月10日まで,

 

7月16日から8月31日まで及び12月20日から1月10日までの間にあっては,

 

1日8時間以内の就労を許可しているから,

 

原告が平成17年7月16日以降においても1週につき28時間をはるかに超えてその2倍前後の長時間にわたり働いていたとしても,

 

原告の上記のような就労は本件許可に違反しないか,仮に違反したとしても,その違反の程度は軽微なものであったと考えられ,

 

そうであるとすると,原告が本件許可に違反して就労することとなるのは,同年6月13日から同年7月15日までの1か月余り又は同年6月13日から同年8月31日までの2か月半余り(ただし,同年7月16日から同年8月31日までの1か月半の間については,違反の程度は軽微である。)ということになる。

 

 

   (エ)そうすると,原告が行っていた報酬活動の程度が本邦滞在中の費用の主要部分を賄おうとするまでに至っている状態にあったということができるのは,東京入管入国警備官等によってaが摘発されなければ,せいぜい同年5月31日から同年7月15日までであり,しかも,上記期間に限っての一時的なことであったというべきである。

 

 

   オ また,本件全証拠を精査しても,aが摘発された平成17年7月13日の時点において,原告が同年6月13日以降1日中授業を欠席するか,最初の1ないし2時限だけ授業を受けて残りの授業を欠席するようになったことによって,原告の学業の進行がどの程度阻害されているのか,及び原告のその後の学業の進行がどの程度阻害されることになるのか等については,全く不明である。

 

 

     しかし,前記前提となる事実及び前記認定事実によると,

 

①原告は,同15年10月15日以降「就学」の在留資格で本邦に滞在し,

 

同月20日から同17年3月31日まで件外学院に在籍していたが,

 

その間の出席率は94.8%と高く,遅刻や早退はほとんどなく,成績は格別優秀とはいえないものの,

 

成績不良ではなく,勉強熱心であり,学生としての評判は良く,

 

件外学院を無事卒業したこと,

 

②原告は,同月18日以降「留学」の在留資格で本邦に滞在し,同年4月11日から件外学校に在籍していたが,

 

同月12日から同年6月10日までの全授業日数38日のうち,4日は授業を休んだが,残りの34日は,遅刻や早退をすることはあったものの,休まず授業を受けていたこと,

 

③本件居室において原告と同居していたc及びeも件外学校に通っていたことが認められる。

 

 

 

     そうすると,原告が,本件居室において同居していたc及びeが件外学校に通っていたことから,同月13日以降の件外学校の授業の欠席が短期間であれば,

 

欠席による授業の遅れは,c及びeから授業の内容を聞くなどすることによって補うことができると考えていたことは,十分に考えられることであるところ,

 

前記認定事実のとおり,原告は,c及びeから授業の内容を聞くなどしていたのであり,そうであるとすると,原告の学業の進行は,

 

上記欠席によって一時的に阻害されていたものと考えられるものの,

 

aが摘発された同年7月13日の時点において原告の学業の進行が大きく阻害されており,そのために原告のその後の学業の進行が大きく阻害されることになるという状況にあったということはできない。

 

 

 

   カ 以上によれば,

 

原告は,本邦入国以降の学業の状況は良好であり,平

 

成17年4月から来日の本来の目的であるコンピューターの勉強をするために件外学校の学生として就学を始め,

 

本国からの送金により入学金及び2年分の授業料も支払い,

 

当初の2か月間の出席状況も悪いものではなかったものの,転居に伴って少なからぬ出費をした上,

 

すぐにアルバイト先も見付からず,

 

また,本件居室に同居していた原告以外の2人もアルバイト先がすぐに見付からなかったために,

 

一時的に本件居室の賃料を含む生活費の支払に窮し,

 

そこで,やむなく件外学校の学生としての学業を一時犠牲にして,

 

当面の生活費を工面するためにaでの就労時間が長時間化していたものということができるのであり,

 

そうであるとすると,原告がaで本件許可に反して1週につき28時間をはるかに超えてその2倍前後の長時間にわたり就労する期間は,

 

比較的短期間で済むはずであり,

 

原告の来日目的及び従前の就学状況に照らし,

 

原告は東京入管収容場に収容されなくても,遅くとも同年9月1日以降は,就労時間を短縮して,元の良好な学業の状況に戻ったであろうと推認することができる。

 

 

 

 

     そうすると,「留学」の在留資格で在留する外国人である原告が同年6月13日以降に行っていた報酬活動の程度は,本邦滞在中の費用の主要部分を賄おうとするまでに至っている状態にあったということができるものの,

 

aが摘発された同年7月13日を基準に,それまでに上記の状態が継続していた期間及びその後の継続の見込み,

 

それまでの学業の状況,その後の学業の進行の阻害程度等の諸般の事情を総合すれば,

 

原告の学業の遂行は同年6月13日以降の就労によって一時的に阻害されていたことを勘案しても,

 

原告の在留目的及び本邦における活動が,

 

 

全体として見て,

 

 

 

「留学」の在留資格に係る在留目的及びそれによる活動類型から既に変更されてしまったと評価される程度にまで報酬活動を行ったことにはならないというべきである。

 

 

 

したがって,原告が報酬活動を「専ら行つている」ということはできない(4)以上によれば,

 

原告は第2要件を充足していないものというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告が入管法24条4号イの退去強制事由に該当するということはできない。したがって,本件認定は,取消しを免れないというべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 4 争点(2)(本件裁決の適法性)について

 

   入管法49条1項に規定する異議の申出をした者がそもそも入管法24条所定の退去強制事由に該当しない場合には,これに該当する旨判断した入国審査官の認定及び入国審査官の認定に誤りがない旨判断した特別審理官の判定は,いずれも違法であり,法務大臣は,異議の申出には理由がある旨の裁決をすべきである(入管法49条5項)から,異議の申出に理由がない旨の法務大臣の裁決は,違法である。

 

   そうすると,本件認定が違法である以上,本件裁決も違法であるというべきであり,本件裁決は,取消しを免れないというべきである。

 

 

 5 争点(3)(本件退令処分の適法性)について

 

   法務大臣は,入管法49条1項による異議の申出を受理したときには,異議の申出が理由があるかどうかを裁決して,その結果を東京入管主任審査官に通知しなければならず(同条3項),東京入管主任審査官が,法務大臣から異議の申出に理由がないと裁決した旨の通知を受けたときには,速やかに当該容疑者に対し,その旨を知らせるとともに,入管法51条の規定する退去強制令書を発付しなければならない(入管法49条6項)。

   そうすると,本件裁決が違法である以上,これに従ってされた本件退令処分も違法であり,取消しを免れないというべきである。

 

 

 

 6 付言

 

   なお,付言するに,本件認定及び本件退令処分を取り消す旨の本判決が確定することによって,原告が入管法24条4号イの退去強制事由に該当するとの理由により本国に送還されることはなくなるが,

 

原告の「留学」の在留資格は,平成18年3月18日に失効しており,

 

また,弁論の全趣旨によれば,原告が上記失効の前後に「留学」の在留資格について在留期間更新の申請をしていないことが認められる上,

 

仮に,原告が上記失効の前後に上記申請をしたとしても,被告が本件認定等の適法性を主張している状況の下では,

 

本判決の確定前には上記申請が許可されることはないものと考えられ,

 

そうすると,原告は,本判決の確定時には適法に本邦に在留するための在留資格を有しない可能性が高い。

 

しかしながら,原告がそのような状況に至るのは,東京入管入国審査官が違法な本件認定をし,法務大臣が違法な本件裁決をしたことに由来するのであるから,被告においては,原告が本判決の確定時に適法に本邦に在留する在留資格を有しないことを理由に,本国に送還されるなどの事態が発生しないよう,適切な措置を執ることが期待されるところである。

 

 

 

 7 結論

 

   よって,原告の請求は,いずれも理由があるからこれらを認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第38部

        裁判長裁判官  杉 原 則 彦

           裁判官  鈴 木 正 紀

           裁判官  松 下 貴 彦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別紙1

1 争点(1)(本件認定の適法性)について

(1)入管法24条4号イの退去強制事由について

   本邦に在留する外国人が入管法24条4号イの退去強制事由に該当しているというためには,①当該外国人が入管法19条1項の規定に違反していること,②当該外国人が行った活動が同項1号にいう「収入を伴う事業を運営する活動」(以下「収益活動」という。)又は「報酬(業として行うものではない講演に対する謝金,日常生活に伴う臨時の報酬その他の法務省令で定めるものを除く。)を受ける活動」(以下,「報酬活動」といい,収益活動と併せて「報酬活動等」という。)であること,③当該外国人が報酬活動等を「専ら行つている」こと,④当該外国人が報酬活動等を専ら行っていると「明らかに認められること」が必要である。

(2)上記(1)の①について

  ア 法務大臣の資格外活動の許可を受けて行う場合を除き,入管法別表の第一の一,二及び五の表の上欄に掲げる在留資格をもって在留する外国人は,その有する在留資格に対応する同表の下欄に掲げる活動に属しない報酬活動等を行うことはできず(入管法19条1項1号),入管法別表第一の三及び四の表の上欄に定める在留資格をもって在留する外国人は,一切の報酬活動等を行うことができない(同項2号)。同項によって報酬活動等が資格外活動とされ,退去強制事由となるのは,外国人が我が国で行う活動のうち,我が国の産業及び国民生活に大きな影響を与えるというべき報酬活動等が,入国管理行政上の適正な管理を受けることなく行われたことによる。

    法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長は,相当と認めるときは,当該在留資格に応じ別表第一の下欄に掲げる活動の遂行を阻害しない範囲内でのみ,資格外活動の許可をすることができる(入管法19条2項,69条の2,出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「入管法規則」という。)61条の2)。この相当性の判断は,当該外国人が行おうとする活動がその有する在留資格から判断して好ましいものであるかどうかという観点から,地方入国管理局長の裁量をもって行われる。

  イ 原告は,「留学」の在留資格をもって在留する者であり,本件許可を受けていたが,aが摘発された際に金属加工作業者として1週当たり28時間を超えて働いていたのであるから,原告の活動は入管法19条1項の規定に違反しているというべきである。

(3)前記(1)の②について

  ア 収入活動とは,一定の目的の下での同種行為の反復継続的な活動で,営利目的を有するか否かを問わず,収入を伴う事業を個人又は法人で営むことをいい,報酬活動とは,一定の役務の提供に対する対価を受ける活動をいう。

  イ 原告とaとの間の雇用関係等は必ずしも明らかではないが,原告及びaを経営していたjの各供述によれば,原告は,入管法19条1項違反の活動により,労務提供の対価として時給820円の収入を得ていたと考えられるから,原告の入管法19条1項違反の活動は報酬活動に該当するというべきである。

(4)前記(1)の③について

  ア ①入管法が採用している在留資格制度は,外国人が本邦で一定の活動を行って在留することができる法的地位としての「在留資格」を定め,外国人が本邦において行う活動が在留資格に対応して定められている活動のいずれか1つに該当しない限り,その入国及び在留を認めないとするものであり(2条の2,7条1項2号),在留資格は,いわば我が国社会にとって好ましいと認める外国人の活動類型を法律で明示したものであり,それに該当する活動に従事する外国人の入国及び在留が認められるという意味において,我が国の外国人受入れ政策を対外的に明らかにしたものということができるところ,そのような在留資格制度の趣旨に照らせば,在留資格の決定を受けて本邦に在留する外国人は,その現に有する在留資格に該当する活動をその在留期間中一貫して行って在留すべきであること,②そうすると,本来の在留資格に基づく活動との関係で禁止されているなど,本来の在留目的たる活動と両立し得ない内容の活動については,これを認める必要がない上,このように解釈しなければ,在留資格に基づく活動をいわば隠れみのにして,これと両立し得ない入管法19条1項に違反する報酬活動等を行うことが可能となり,入管法が在留資格制度を設けて,個々の外国人が本邦において行おうとする活動に着目し,一定の活動を行おうとする者のみに対してその活動内容に応じた在留資格を取得させ,本邦への上陸及び在留を認めることとしている趣旨が没却される弊害を招く結果となることにかんがみれば,同項に違反する報酬活動等を「専ら行つている」とは,在留目的たる活動が,在留資格たる活動から変更されたと評価することができる程度まで在留資格外の活動を行っていることをいうと解するのが相当である。

  イ ①外国人の報酬活動等は,我が国の産業構造,日本人の就職及び労働条件等に重大な影響を及ぼし得るものであるから,外国人が本邦において行う活動が報酬活動等であるか否かという観点から,入管法は,別表第一の活動類型の在留資格を就労資格(別表第一の一及び二の表)と非就労資格(別表第一の三及び四の表)とに区分し,その余の就労活動を原則として禁止する(19条1項)とともに,我が国の産業構造,日本人の就職及び労働条件等に影響を及ぼすと考えられる就労資格(別表第一の二の表)については,経済や社会情勢の変化等に即応して上陸を許可する外国人の範囲を調整するため,産業及び国民生活に与える影響等を考慮して実務経験,従事する業務内容,報酬額等の上陸許可基準を定め,これを満たす外国人に限って上陸を許可することとした(7条1項2号)上,無許可の報酬活動等については刑罰を科し(73条),これを専ら行っていると明らかに認められる場合には更に重い刑罰を科し(70条1項4号),かつ,退去強制事由としており(24条4号イ),そうすると,入管法は外国人の報酬活動等に対しては厳格な態度をもって臨み,無許可の報酬活動等を厳しく禁じていること,②「留学」の在留資格を有する者が本邦において行うことができる活動は,「本邦の大学若しくはこれに準ずる機関,専修学校の専門課程,外国において12年の学校教育を終了した者に対して本邦の大学に入学するための教育を行う機関又は高等専門学校において教育を受ける活動」であり(入管法別表第一の四の表の「留学」の項),報酬活動等を行ってはならないとされている(入管法19条1項2号)こと,③(i)留学目的で本邦に上陸しようとする外国人は,「留学」の在留資格を申請する際,本邦に在留中の一切の経費の支弁能力を証する文書及びその者が支弁するに至った経緯を明らかにする文書を提出しなければならないこと(入管法7条,入管法規則6条,同別表第三),(ii)在留資格に該当する活動を行おうとする者の上陸許可を得るための規準を定める「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の規準を定める省令」(平成2年法務省令第16号。以下「本件省令」という。)の「法別表第一の四の表の留学の項の下欄に掲げる活動」の下欄には,2号本文として,「申請人がその本邦に在留する期間中の生活に要する費用(…(略)…)を支弁する十分な資産,奨学金その他の手段を有すること」と規定していることに照らすと,「留学」の在留資格を取得するには,本邦に滞在するための費用を支弁する十分な資力や支弁のための手段を有することが必要とされていることを総合すれば,我が国は,就労しつつ勉学する活動を行う外国人を受け入れる出入国管理政策を採用せず,入管法は,本邦において,報酬活動をしながら,その報酬によって勉学する活動を維持しようとする者には「留学」の在留資格を付与せず,本邦への上陸及び在留を認めない立場を採っているものと解される。

    したがって,「留学」の在留資格をもって本邦に在留する外国人が,たとえ就労と勉学を両立させ,まじめに大学等に通っていて良好な成績を修めていたとしても,報酬活動等は,「留学」という在留資格によって入管法が保護することを予定している活動には当たらない。

    そうすると,「留学」の在留資格をもって本邦に在留する外国人が入管法19条1項に違反する報酬活動等を行い,その程度が本邦滞在中の必要経費を賄おうとするまでに至っている場合には,学業の遂行自体が就労によって阻害されていないとしても,もはやそれは入管法の予定する「留学」の在留資格たる活動には当たらないことになる。この場合,当該外国人は,在留目的たる活動が「留学」の在留資格たる活動から変更されたと評価される程度まで入管法19条1項に違反する報酬活動等を行ったことになるのであるから,入管法24条4号イにいう報酬活動等を「専ら行つている」として同号の退去強制事由に当たると解するのが相当である。

  ウ(ア)①原告は,平成15年10月15日,在留資格を「就学」,在留期間を「1年」とする上陸許可を受けて本邦に入国した後,東京都西東京市に在るk学院(以下「件外学院」という。)に入学し,同17年3月まで同校に在籍していたが,件外学院の学費について,「スリランカの銀行から,日本の学校に1年半の学費として100万円以上支払いました。」と供述していること,②原告は,同年4月から宇都宮市に在るl学校(以下「件外学校」という。)情報ビジネス科に通っているが,件外学校の学費について,「入学金と学費2年分で84万円になります。このお金は父が支払ってくれました。」と供述していること,③原告は,「入学金等を支払って以来,スリランカから送金を受けておらず」,そのことによって「アパートの家賃,光熱費等を2か月分滞納していた」と供述するように,本邦での住居費や生活費等を賄うため,同年5月18日からaで金属加工作業者として働き始めたが,同月末ころ,入管法19条1項に違反する報酬活動に従事し,同年6月13日ころ以降,aが摘発を受けた同年7月13日までの間,ほとんど件外学校で授業を受けることなく,入管法19条1項に違反する報酬活動に従事しており,jも,原告が同年5月18日からaにおいて金属加工作業者として働いていた旨供述し,原告のタイムカードもあること,④原告は,本邦における原告の資産として約5万円の預金を挙げるのみであること,⑤原告は,在留資格「留学」への在留資格変更許可申請をした際,本邦での滞在費に係る支弁能力があるとして,その方法を「外国からの送金」,月平均支給額を「80000円」,滞在費支弁者との関係を「父」とする申請書を提出し,また,原告と同居していたc及びeも,月額8万円の生活支援費を本国から送金されているはずであるにもかかわらず,原告は,上記2人と共に1室で共同で生活し,原告及び上記2人はいずれもアルバイトをしており,そうすると,生活費が不足していた旨の原告の主張には疑いを差し挟む余地があること,⑥原告は,2年分の学費を既に支払っているのであるから,本件許可の範囲内のアルバイトだけでも,必要経費は賄い得たと考えられ,月額にして13万円(時給820円,1日8時間,月に20日間働いたと仮定した場合の金額)近くも稼がなければならなかった理由は見当たらないこと,⑦原告は,件外学院への入学の際,130万円を支払い,1年半の学費及び6か月分の寮費に充て,所持金として3万円及び422USドルを所持し,パートタイムによって生活費を賄っていた旨供述し,また,件外学校への入学の際,100万円の送金を受け,84万円を2年分の月謝として支払い,残りの所持金が30ないし35万円となり,引っ越しによって生活費の工面に困るようになった旨供述していることを総合すると,原告は,日本語学校や大学の学費については両親からの援助を受けていたことはうかがわれるものの,住居費や生活費等については本邦での就労によって賄うつもりであったと考えられる。

  (イ)原告の件外学校の出席率は,平成17年4月が70.8%(65時限中46時限),同年5月が90.6%(85時限中77時限),同年6月が35.2%(aのタイムカードと件外学校作成に係る原告の出席状況票との対比によると,同月2日の4,5限目及び同月6日の3ないし5限目には出席していないものとして105時限中37時限),同年7月が12.5%(上記対比によると,同月11日の3限目及び同月12日の3限目には出席していないものとして40時限中5時限)である。そもそも件外学校情報ビジネス科では,「入学すると同時に学生一人ひとりに対し,各自にあったジャストステップスケジュールを作成。これからの2年間,就職の成功をめざし,このスケジュールに沿って個別指導をおこなっていきます。」とされていることからすると,原告についてもスキルアップを目指したスケジュールが組まれているものと考えられる。また,件外学校ビジネス科の授業内容からすれば,独学には限界があるというべきである。そうすると,前述のとおり,在留資格の決定を受けて本邦に在留する外国人は,その現に有する在留資格に該当する活動をその在留期間中一貫して行って在留すべきであるところ,前述した原告の出席率によれば,原告の学業阻害状況は著しいというべきである。

  (ウ)cは,その陳述書において,「hは,9月1日からは,学校を休まず出席すると言っていました。」と述べ,原告も,訴状において,「夏休みを含めて2ヶ月ほどは,一生懸命働き」と主張していることからすると,原告は,aが摘発されなければ,少なくとも件外学校の夏期休業期間が終了するまでは,専ら報酬活動を継続して行っていたものと考えられる。

  (エ)以上によれば,原告は,「留学」の在留資格で在留していたものの,本件許可により許可された活動の内容を超えて専ら報酬活動を行い,その程度が本邦滞在中の必要経費を賄おうとするまでに至っていたというべきであるから,学業の遂行自体が就労によって阻害されていたか否かにかかわりなく,原告の在留目的たる活動は,入管法が予定する「留学」の在留資格たる活動には当たらないものに至っていたというほかない。そうすると,原告は,在留目的たる活動が「留学」の在留資格たる活動から変更されたと評価される程度にまで,入管法19条1項に違反する報酬活動を行っていたことになるから,原告が入管法19条1項に違反する報酬活動を専ら行っていたことは,明らかである。

(5)前記(1)の④について

  ア 「明らかに認められる」とは,証拠資料,本人の供述,関係者の証言等から,入管法19条1項に違反する報酬活動を専らおこなっていたことが明らかに認められることをいう。

  イ 原告の供述のほか,上記(4)ウに挙げた事実を裏付ける証拠によれば,原告が入管法19条1項に違反する報酬活動を専ら行っていたことは,明らかに認められる。

2 争点(2)(本件裁決の適法性)について

(1)そもそも,国家は,外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく,特別の条約又は取決めがない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができる。

   また,憲法上も,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利又は引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない。我が国に適法に在留し,期間更新について申請権も付与されている在留期間更新の許否についてさえ,我が国への入国と在留が憲法上当然に保障されたものではなく,国家の自由な裁量に任されていることに基づき,それを前提として入管法が立法されているものと考えられ,更新事由の有無の判断は法務大臣等の裁量に任されているのである。これに対し,入管法24条各号の退去強制事由に該当する外国人は,類型的にみて,我が国社会に滞在させることが好ましくない外国人であるところ,在留特別許可は,入管法上,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人に恩恵的に与え得るものにすぎず,当該外国人に申請権すら認められていないものである。そして,在留特別許可の許否を的確に判断するには,外国人に対する出入国の管理及び在留の規制目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健衛生の確保,労働事情の安定など国益の保持の見地に立って,当該外国人の在留中の一切の行状等の個人的な事情のみならず,国内の政治,経済,社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情が総合的に考慮されなければならないのであり,このような見地から,入管法は,在留特別許可の付与を国内及び国外の情勢について通暁する法務大臣等の裁量にゆだねたものであり,この点からも,その裁量の範囲は極めて広範なものであることが明らかである。

   以上のとおり,在留特別許可は,在留期間更新許可における法務大臣等の裁量の範囲よりも質的に格段に広範なものであるから,これを付与しないことが違法となる事態は容易には考え難く,極めて例外的にその判断が違法となり得る場合があるとしても,それは,在留特別許可の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するなど極めて特別な事情が認められる場合に限られる。

(2)原告は,入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するから,法律上当然に退去強制されるべき外国人に当たることは明らかであるところ,原告は,違法性を十分に認識した上で,入管法19条1項に違反する報酬活動を行っていたのであり,その在留状況は悪質というべきであり,原告に在留特別許可を付与すべき積極的な理由は見当たらないから,本件裁決には上記(1)にいう特別な事情が存すると評価すべき事情はない。

3 争点(3)(本件退令処分の適法性)について

  退去強制手続において,法務大臣から「異議の申出が理由がない」との裁決をした旨の通知を受けた場合,入管法49条6項によると,東京入管主任審査官には,退去強制令書を発付するにつき全く裁量の余地はない。したがって,上記通知があった以上,本件退令処分も適法である。

                        以 上

 

別紙2

1 争点(1)(本件認定の適法性)について

  原告は,入管法19条1項に違反する報酬活動を行っていた。しかし,次のとおり,原告が入管法19条1項に違反する報酬活動を「専ら行つている」ということはできないから,原告が入管法24条4号イの退去強制事由に該当するということはできない。

(1)「留学」の在留資格に要求されている経費支弁能力とは,滞在の費用の主要な部分を国内における就労以外の方法で獲得する能力をいうから,①滞在の費用の主要な部分を国内における就労以外の方法で獲得する場合,②滞在の費用の主要な部分を法務大臣の許可を得て我が国内での就労により獲得する場合,並びに③上記①及び②以外の場合で格別の事情がある場合には,「留学」の在留資格により本邦に在留する外国人が入管法19条1項に違反して就労したとしても,当該外国人の在留目的たる活動が「留学」から変更されたと判断することはできない(東京高裁平成15年11月4日決定・訟務月報50巻5号1647頁参照)。

(2)ア 留学とは,外国に在留して勉強することであるから,留学のための滞在の費用の主要な部分とは,勉強のための学費をいう。

  イ 原告は,件外学院及び件外学校の入学金及び授業料については,すべて両親からの送金によって賄っているから,前記(1)の①に該当する。

(3)ア 資格外活動の許可がされていない場合であっても,本国からの送金が何らかの事情によって一時途切れたり,急な出費があるなどしたために,本邦滞在中の費用を一時的に本邦において調達しなければならない事態が生ずることもあり得るから,そのようなときは,報酬活動等をしていても,本邦における在留の目的や活動全体の性格は変わっていないと評価することのできるときもあるはずである。したがって,前記(1)の③にいう「格別の事情」とは,従前の学業の状況(成績,出席率,就学態度等),本邦滞在中の費用を賄おうとするまでに至っている状態の継続期間,その継続の見込み,違反の動機,現在の学業の進行の阻害程度,得た報酬の額,その後の経費支弁能力の回復の有無等の諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきものである。

  イ 件外学院において,原告の出席率は94.8%であり,遅刻や早退もほとんどなく,原告の成績は,5段階評価のCが2つ,Bが2つであり,原告の就学態度に対する評価も高い。また,件外学校において,原告の出席率は,平成17年4月が71%,同年5月が91%であり,原告の就学態度に対する評価も高い。

  ウ 原告が本件許可に違反して報酬活動を行ったのは,平成17年5月31日から同年7月9日までのわずか1か月余りにすぎない。

  エ 原告は,夏休みまでアルバイトを続けるつもりであったが,夏休みである平成17年7月16日から同年8月31日までは,1日当たり8時間,週56時間までのアルバイトが認められているところ,原告は,同年5月31日から同年7月12日までの間に週56時間を超えてアルバイトをしたことがないから,たとえ原告が夏休みまでアルバイトを継続していたとしても,本件許可の範囲内でアルバイトを継続することができた可能性が高い。そうすると,本件許可に違反して報酬活動を行ったのは,同月13日から同月15日までのわずか3日間にすぎないことになる。

    そして,①後述のとおり,原告が本件許可に違反して報酬活動を行った動機は家賃の滞納を回避するためであったこと,②原告は,aから同年7月分の賃金が支払われたことによって現金6万円,預金5万円,合計11万円を持っていたから同年7月分の光熱費及び食費,同年8月分の家賃の原告負担分を支払わなければならないことを勘案しても,夏休みが終わるまで働けば,家賃を滞納しない程度の金員を蓄えることができたものと考えられることに照らせば,原告が夏休みまでで本件許可に違反する報酬活動を終えていたことは,明らかである。

  オ ①原告は,平成17年3月から同年4月にかけて,東京都内から宇都宮市内に引っ越したが,アパートの賃借に要した費用30万4750円を含めると,その費用の合計は47万4866円に上ったこと,②上記費用は,原告,c及びeの3人で1人当たり15万8288円ずつ負担すべきであったが,c及びeは,経済面において余り計画的でなかったため,原告がcの分として2288円,eの分として9万9867円をそれぞれ立て替えざるを得ず,その結果,原告が支払った金額は26万0443円に上ったこと,③原告は,本国にいる両親から本邦における生活費の送金を受けていたものの,それは,毎月定額の送金を受けるというものではなく,10か月分や1年分といったまとまった金額を1度に送金を受けるというものであったこと,④そのため原告は,上記②の支払によってそれまでの貯金等がなくなり,一時的に生活費に余裕がなくなってしまい,家賃を滞納することとなったこと,⑤原告及びcは同年5月18日から,eは同月中旬ころから,それぞれアルバイトを始めたものの,すぐに賃金が支払われるわけではなく,原告が同月末に手にした同月分の賃金は2万5830円にすぎなかったこと,⑥原告は,3,4か月前に両親から件外学校の学費の送金を受けたので,本国に生活費の無心をすることに一種の後ろめたさを覚えるとともに,インドネシア沖地震の影響もあって送金が容易ではなかったことを総合すれば,原告が本件許可に違反して報酬活動を行った動機は家賃の滞納を回避するためであることは,明らかである。

  カ ①原告は,アルバイトのために件外学校を欠席するようになった後も,常に授業の進行を気にして毎日同居していたcにその日の授業の内容を確認した上で,毎日2時間以上の自習をし,収容後も熱心に自習を続けていたこと,②そのため復学後も目立った授業の遅れはなく,補修等の特段のフォローも不要であり,1か月もたたないうちに同じクラスの他の生徒と何ら変わらずに授業に付いていくことができる状態を回復していたこと,③原告の日本語能力は留学生の中では優れていたことを総合すれば,原告が本件許可に違反して報酬活動を行ったことによる学業の阻害はほとんどなかったということができる。

    なお,件外学校において組まれるジャストステップスケジュールとは,就職を目的とした生徒のために組まれるものであり,原告のように当初から進学を目的とする生徒には組まれない。

    また,件外学校における原告の平成17年6月及び同年7月の出席率は,被告の主張のとおりであるが,それにもかかわらず,上述のとおり,学業の阻害はほとんどなかったのである。

  キ 原告が本件許可に違反して平成17年5月31日から同年7月9日まで行った報酬活動によって得た報酬の総額は,22万8780円であり,決して多額ではない。また,仮に,原告が本件許可に違反せずに上記期間中に報酬活動を行った場合に得られる報酬の総額は,13万7760円(1週28時間×6週間×時給820円として計算して得られた金額)であり,上記22万8780円との差額はわずか9万1020円にすぎない。

  ク ①原告は,本件執行停止に基づき収容を解かれた後,本件が決着するまではアルバイトをせずに両親からの送金だけで生活していくことを決め,両親に協力を求め,原告の母は,平成18年3月1日,100万円を原告に送金し,原告の父は,同年5月9日,21万6214円を原告に送金した(甲21,22)こと,②原告の母は,3つの口座の残高が185万スリランカルピー(邦貨約201万3000円)であり,必要があればいつでも送金する旨を原告に伝えてきたこと,③原告の親類は,原告の父が家族のために親類に預託している貯金として175万スリランカルピー(邦貨約190万3297円)あり,必要があればいつでも送金する旨を原告に伝えてくるとともに,原告の親類も220万スリランカルピー(邦貨約239万2716円)までであれば原告を支援することが可能である旨伝えてきたことを総合すると,原告は,今後も留学を継続するのに十分な経費支弁能力を回復しているというべきである。

(4)以上によれば,原告が本件許可に違反して報酬活動を行ったのは,一時的に本邦での滞在費用を調達しなければならなくなるという事態が発生したことによるにすぎないのであり,原告の在留目的や活動自体の性格は依然として変わっていないものと評価することができる「格別の事情」があるというべきである。したがって,原告が入管19条1項に違反する報酬活動を「専ら行つている」ということはできない。

2 争点(2)(本件裁決の適法性)について

(1)前述のとおり,本件認定は違法であるから,本件認定に誤りがない旨の東京入管特別審理官の判定に対する異議の申出に理由がない旨の本件裁決も違法である。

(2)仮に,本件認定が違法ではないとしても,①原告が本件許可に違反して報酬活動を行った期間,目的等に照らせば,本件許可に違反した程度は非常に軽微であるというべきであること,②原告は,まじめな留学生であり,コンピューター技能の修得という入国及び留学の目的を達成する機会を与える必要性が大きいこと,③いったん退去強制されると,再び来日して勉学を継続することは事実上著しく困難であり,そうなると,これまでの原告の日本での生活及び留学の成果が無駄になってしまうことを勘案すれば,原告につき特別に在留を許可すべき事情があるとは認められないとした法務大臣の判断は,社会通念上著しく妥当性を欠き,法務大臣の有する裁量権を濫用した違法なものであるというべきである。

3 争点(3)(本件退令処分の適法性)について

  前述のとおり,本件裁決は違法であるから,それに基づく本件退令処分も違法である。

                        以 上