専門学校とホステスとの両立

 

 

 

 

 強制退去処分等取消請求事件,在留期間更新不許可決定取消請求事件、広島地方裁判所判決/平成18年(行ウ)第28号、平成19年(行ウ)第13号、判決 平成20年3月28日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

1 退去強制令書発布処分の取消しを求める訴えの係属中にした,在留期間更新許可申請を不許可とする行為は,行政事件訴訟法3条2項の「処分」に当たる。

      

2 外国人が資格外活動である就労活動を専ら行っていると明らかに認められるといえるか否かは,本邦における在留資格に係る活動の状況,当該資格外活動を行うに至った経緯,当該資格外活動の継続性,有償性等の内容,当該資格外活動によって得た収入の使途等を総合考慮し,当該外国人の活動が在留資格に係る活動から実質的に変更されたり,在留資格に係る活動が資格外活動を行う方便となったりしているか否かという観点から判断すべきである。

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

 

1 広島入国管理局入国審査官が平成18年8月17日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法24条4号イに該当すると認定する旨の処分を取り消す。

 

 

2 広島入国管理局長が平成18年9月7日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項の規定による異議申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

 

 

3 広島入国管理局主任審査官が平成18年9月7日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。

 

4 広島入国管理局長が平成19年3月16日付けで原告に対してした在留期間の更新を許可しない旨の処分を取り消す。

 

 

 

 

 

 

 

第2 事案の概要

 

1 本件は,「留学」の在留資格を有する,中華人民共和国国籍の原告が,

 

(1)(平成18年(行ウ)第28号事件・以下「第一事件」という。)

    

広島入国管理局入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号イに該当するとの認定を受けた上,入管法49条1項の規定による異議申出には理由がないとする広島入国管理局長の裁決を経て,広島入国管理局主任審査官から,退去強制令書の発付を受けたため,これらの認定処分,裁決及び退去強制令書発付処分の各取消しを

 

(2)(平成19年(行ウ)第13号事件・以下「第二事件」という。)

    

その後,在留期間更新許可申請をしたが,広島入国管理局長から,在留期間の更新を許可しない旨の処分を受けたため,この不許可処分の取消しを求めている事案である。

 

 

 

 

2 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)

 

(1)当事者等

   

ア 原告は,1977年(昭和52年)10月10日生まれの女性で,中華人民共和国の国籍を有する外国人である(なお,原告の親族については,以下,その旨の記載を省略する。)。

   

イ 被告は,広島入国管理局入国審査官,広島入国管理局長及び広島入国管理局主任審査官(なお,広島入国管理局の各職員については,特に記載のない限り,広島入国管理局の所属であることを省略する。)が属する行政主体である。

 

(2)原告の入国及び在留状況(乙1,2)

    

原告は,平成17年9月1日,入国審査官から,「短期滞在」の在留資格で在留期間90日の上陸許可を受けて本邦に上陸した後,広島入国管理局において,同年12月5日,在留期間90日の在留期間更新許可を受け,さらに,平成18年3月27日,在留資格を「留学」に変更する在留期間1年の在留資格変更許可を受けた。

    

なお,原告は,同年4月10日,入国管理局長から,再入国許可を得た上,同月25日に出国し,同年5月9日,入国審査官から,再上陸許可を受けて本邦に再上陸した。

 

(3)原告の本邦における活動の状況

   

ア 原告の就学状況(甲5,6,乙2,5,8,28の2)

     

原告は,平成18年2月3日,広島市a区b町にあるA専門学校(以下,単に「専門学校」という。)B学科の入学を許可され,同年4月10日から通学していた。

     

原告の同日から同年7月14日までの出席等の状況は,出席が54日294単位,欠席が13日99単位である。欠席のうち8日は,連休を利用して帰国するためであったが,残りの5日(同年5月31日,6月20日及び同月21日,7月13日及び同月14日)は,専門学校の記録上病欠又は無断欠席とされており,原告は,そのいずれ日の夜にも,ホステスとして働いていた。

     

原告の平成18年度1学期の成績は,評価の対象となっている15科目中,5科目が優れている,5科目がやや優れている,4科目が普通ないし良い,1科目がやや劣っているというものであった。

   

イ 原告の資格外活動の状況

   

(ア)原告は,平成17年9月10日ころから平成18年1月初旬までの間,広島市a区cにあるスナックCで,ホステスとして働いていた。その労働条件は,時給が3000円,勤務時間が午後8時から翌日午前1時まで,休日は日曜日というもので,原告は,その報酬として合計約80万円を得ていた。(乙2,4,5,8,10)

   

(イ)原告は,平成18年1月初旬から同年2月23日までの間,山口県宇部市d町にあるパブDでホステスとして働いていた。その労働条件は,日給が1万2000円から1万3000円,勤務時間が午後7時から翌日午前2時まで,休日は第一及び第三日曜日というもので,原告は,その報酬として合計約20万円を得ていた。(乙2,4,5,8)

   

(ウ)原告は,平成18年3月2日ころから同年5月13日までの間,広島市a区e町にあるラウンジEでホステスとして働いていた。その労働条件は,時給が2800円,勤務時間が午後8時から翌日午前1時まで,休日がおおむね日曜日というもので,同伴出勤1人ごとに1000円が支払われていた。原告は,Eに合計43日(内訳:同年3月が20日,同年4月が18日,同年5月が5日)出勤し,その給料等として合計57万2600円(内訳:同年3月分が27万1000円,同年4月分が23万1600円,同年5月分が7万円)を得ていた。(乙2,4,5,8)

   

(エ)原告は,平成18年5月15日から同年7月14日までの間,広島市a区e町にあるラウンジFにおいて,ホステスとして働いていた。その労働条件は,時給が2800円から3000円,勤務時間が午後7時から翌日午前0時30分まで,休日が日曜日というもので,同伴出勤1回ごとに500円が支払われ,1か月ごとの皆勤賞として2万円も支払われていた。原告は,Fに合計53日間(内訳:同年5月が15日,同年6月が26日,同年7月が12日)出勤し,その給料等として合計61万円(内訳:同年5月分が21万5490円,同年6月分が39万4510円,なお同年7月分の17万8800円については,未払である。)を得ていた。(乙2,4,5,8,31)

 

(4)第一事件の訴訟提起に至る経過

   

ア 資格外活動の発覚等(乙3の1ないし3,5,6,41)

     

原告は,平成18年7月14日,Fでホステスとして働いていたところを,入国警備官及び広島県警察の警察官により入管法73条違反の嫌疑で摘発され,現行犯逮捕を経て勾留されたが,同年8月4日,不起訴処分(起訴猶予)となり,身柄を釈放された。

     

入国警備官は,釈放された原告から事情を聴取するなどして原告に対する違反の調査を実施し,その同月14日付けの報告に基づき,主任審査官は,同月15日,入管法24条4号イに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,原告に対する収容令書を発付し,同月16日,この収容令書が執行された。

   

イ 本件認定処分等(甲1,乙4,7ないし9)

     

入国警備官は,平成18年8月16日,原告から事情を聴取した後,同月17日,入国審査官に対し,原告を入管法24条4号イに該当する者として引き渡した。

     

入国審査官は,同日,広島入国管理局において,原告について,退去強制対象者に該当するかどうかの審査をした上,原告が入管法24条4号イに該当すると認定し(以下「本件認定処分」という。),原告に対し,認定書に基づき認定の要旨を告げ,認定通知書を交付した。これに対し,原告は,認定に服さない旨申し立て,特別審理官による口頭審理の請求をした。

  

ウ 口頭審理の実施,本件裁決等(甲3,乙6,10ないし14)

     

特別審理官は,平成18年9月4日,同年8月18日に原告が移収された西日本入国管理センターにおいて,原告代理人出席の下,原告の口頭審理を行った上,原告が入管法24条4号イに該当すると判定し,判定書に基づき判定の要旨を告げて,判定通知書を交付した。これに対し,原告は,判定に服さない旨申し立てた上,同年9月4日,法務大臣に対し,入管法49条1項の規定による異議を申し出た。

     

入国管理局長は,同月7日,入管法24条4号イに該当するから,異議の申出には理由がないとの裁決(以下「本件裁決」という。)をするとともに,在留を特別に許可すべき事情は認められないから,入管法50条1項の規定は適用しないとの決定をし(以下,本件裁決及び決定をまとめて「本件裁決等」という。),主任審査官に対し,原告の異議申出に関し,理由がない旨の裁決をした旨を通知した。

   

エ 本件退令処分の発令,その執行等(乙15,16の1)

     

主任審査官は,平成18年9月7日,原告に対し,原告の異議申出に関し,理由がない旨の裁決をした旨の通知を入国管理局長から受けた旨を通知した上,入管法24条4号イに該当することを理由として退去強制令書を発付し(以下「本件退令処分」という。),入国警備官は,同日,これを執行した。

   

オ 第一事件の訴訟提起等(顕著な事実,乙16の2)

     

原告は,平成18年9月27日,広島地方裁判所に対し,本件認定処分,本件裁決及び本件退令処分の取消しを求める訴え(第一事件)を提起するとともに,本件退令処分に基づく執行は第一事件の第一審判決が確定するまで停止することを申し立てた(平成18年(行ク)第13号)。

     

当裁判所は,同年10月27日,本件退令処分に基づく執行は第一事件の第一審判決言渡しの日から起算して30日後まで停止する旨を決定し,原告は,同日,この決定に基づき,釈放された。

 

(5)第二事件の訴訟提起に至る経過

   

ア 本件不許可処分等(甲12,乙50,51の1・2)

     

原告は,平成19年2月27日,入国管理局長に対し,在留期間の更新を申請した。これに対し,入国管理局長は,同年3月16日,原告に対し,本件退令処分は有効であり,原告は本邦から退去すべきものであるから,在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとは認められないとして,原告の上記申請を不許可とする処分をし(以下「本件不許可処分」という。),その旨の通知をするとともに,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)46条1項各号に掲げる事項を書面で教示した。

   

イ 第二事件の訴訟提起等(顕著な事実)

     

原告は,平成19年4月11日,広島地方裁判所に対し,本件不許可処分の取消しを求める訴えを提起した。

 

 

 

 

(6)法令の定め

   

ア 退去強制事由及び在留特別許可について

     

「留学」の在留資格で在留する外国人は,本邦の大学若しくはこれに準ずる機関,専修学校の専門課程,外国において12年の学校教育を修了した者に対して本邦の大学に入学するための教育を行う機関又は高等専門学校において教育を受ける活動を行うことができる(入管法2条の2)一方,入管法19条2項の許可(以下「資格外活動許可」という。)を受けて行う場合を除き,収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動(以下「就労活動」という。)を行ってはならない(入管法19条1項2号)。

     

以上の規定に違反して就労活動を「専ら行つていると明らかに認められる者」は,本邦からの退去を強制することができる(入管法24条4号イ)が,法務大臣又はその権限を委任された地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)は,「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」は,この退去強制の対象となる者の在留を特別に許可することができる(入管法50条1項4号)。

   

 

イ 在留期間の更新について

     

本邦に在留する外国人は,現に有する在留資格を変更することなく,在留期間の更新を受けることができる(入管法21条1項)。

     

この在留期間の更新を受けようとする外国人は,在留期間の満了する日までに在留期間の更新を申請しなければならず(入管法21条2項,同法施行規則21条1項),法務大臣等は,在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当な理由があるときに限り,これを許可することができる(入管法21条3項)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 争点及びこれに対する当事者の主張

 

1 争点

 

(1)原告に入管法24条4号イ所定の退去強制事由が認められるか。

 

(2)入国管理局長が入管法50条1項の規定を適用せず本件裁決等をしたことにつき,裁量権の逸脱ないし濫用があるか。

 

(3)本件不許可処分が取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)に当たるか。

 

(4)本件不許可処分に裁量権の逸脱ないし濫用があるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 争点に対する原告の主張

 

(1)原告に退去強制事由は認められないこと(争点(1))

    

入管法24条4号イ所定の退去強制事由である就労活動を「専ら行つていると明らかに認められる」ためには,当該活動の継続性,有償性,生計の依存度,当該外国人の有する在留資格に係る活動の有無及び程度等を総合的に勘案し,当該外国人の活動が,その在留資格に係るものから別の在留資格に係る活動に変更されたと認められる状態にあることを要する。

    

この点,原告は,平日昼間はほとんど専門学校に通い,慣れない日本語の勉強をしながら服飾のデザインを勉強し,真面目に授業に取り組み,課題もすべて提出して,言葉の壁があっても,難易度の高い科目以外では好成績を収めていた。また,原告の出席状況はおおむね良好で,一時帰国をしていた間を除いては5日の病欠等があるだけでであった。

    

他方,原告のホステスとしての就労活動は,専門学校へ通学するのに支障がない夜間で,かつ,1日約四,五時間という資格外活動許可を受けて働くことのできる時間(週28時間)よりも短い時間であり,学業に支障を生じさせるようなものではなかった。また,原告は,その収入を専門学校の学費,生活費及び一時帰国の費用として使い,遊興費に使ったり本国へ送金したりしたことはなかった。

    

このような活動状況等に照らすと,原告の活動が,「留学」の在留資格に係る活動から別の在留資格に係る活動に変更されたとまではいえず,原告については,入管法24条4号イ所定の退去強制事由は認められない。

    

被告は,原告に留学中の経費を支弁する能力がない旨主張する(後記3(1))。しかし,父は食料関連の会社の副社長ないしカラオケ店の経営者として相当の収入を得ていたもので,そのカラオケ店の経営権を譲渡して得た一部の約500万円が,平成18年10月末に義兄の母を通じて本邦へ持ち込まれているし,母の名義で銀行に合計約320万円の貯蓄もあるし,被告が主張するように,原告が妻子ある男性と金銭を対価とする情交関係を持ったことはない。なお,原告が専門学校を欠席した日にFに出勤していたことはあるが,それは雇用主に懇願されてやむなく出勤したものにすぎない。

 

 

(2)本件裁決等には裁量権の逸脱ないし濫用があること(争点(2))

    

原告は,現行犯逮捕された当時は適法な在留資格を有し,日常会話程度の日本語を身に付け平穏に本邦で生活を営んでいたもので,前記(1)のとおり,専門学校で優秀な成績も収めていた。他方,原告の資格外就労はさほど悪質ではなく,原告は,刑事手続及び退去強制手続で身柄拘束等を受けたことにより事の重大さを理解し深く反省しているし,自らもホステスを辞め大学院生として勉学に励む原告の姉(以下,単に「姉」という。)による適切な監督も期待できる。加えて,退去強制で学業が中断されることにより原告が多大な不利益を被ること等も勘案すると,原告については,優に在留特別許可を付与すべきものと認められ,入国管理局長が在留特別許可をせず本件裁決等をしたことには裁量権の逸脱ないし濫用がある。

    

被告は,原告が更新の理由を偽り「短期滞在」の在留資格で在留期間更新許可を受け,「留学」の在留資格に変更する際も日本語学習歴を偽っていた旨主張する(後記3(2))。しかし,原告は,昼間は出産後の姉の身の回りを世話したり姪の面倒をみたりしていたし,実際に大連所在の外国語学院で日本語を勉強していたものであるから,そのような偽りをした事実はない。

 

(3)本件不許可処分が「処分」に当たること(争点(3))

    

本件退令処分が判決で取り消されれば,原告は本件不許可処分に係る在留期間の更新を申請した時点で本邦に在留する資格を有していたこととなり,その申請が遡及的に適法となり得る以上,本件不許可処分は,原告の法律上の地位ないし権利関係に重大な影響を及ぼすものといえるから,取消訴訟の対象となる「処分」に当たる。

    

本件不許可処分に際し,原告が在留資格を有しないことを事実上確認するにすぎないのであれば不要であるはずの行訴法46条1項の教示を入国管理局長がしていることは,その証左である。

 

(4)本件不許可処分には裁量権の逸脱ないし濫用があること(争点(4))

    

入国管理局長は,前記(1)及び(2)のとおり本件退令処分の基礎となる本件認定処分及び本件裁決等が違法なものとして取り消されるべきであるのに,本件退令処分が有効であることを前提に本件不許可処分をしているもので,その判断には,裁量権の逸脱ないし濫用がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 被告の主張

 

(1)原告には退去強制事由が認められること(争点(1))

    

入管法は,「留学」の在留資格を取得する前提として,本邦で「留学」の在留資格に係る活動を行うための十分な経費支弁能力を有することを必要としており,「留学」の在留資格と就労活動が許容される在留資格とで性格を異にするものとしているから,「留学」の在留資格で在留する者が在留資格外の就労活動を行い,その程度が本邦在留中の必要経費を賄おうとするまでに至っている場合には,就労活動により学業の遂行自体が阻害されていなくても,「留学」の在留資格に係る活動から変更されたと評価される程度まで在留資格外の就労活動を行っているといえ,入管法24条4号イ所定の退去強制事由である就労活動を「専ら行つていると明らかに認められる」ものに当たると解すべきである。

    

原告の父母は退職者と主婦である上,その申告によると本邦滞在中の所持金も200元(約3000円)しかなく,原告及びその姉がホステスとして得た収入でその滞在費が賄われていたと推認されるもので,原告の父母には留学中の原告の生活費等の経費を支弁する能力はない。また,原告は,妻子ある男性と情交関係を結んで生活費の援助を受けているが,このような社会通念上許されない経費の支弁をもって経費支弁能力があるとはいえない。

    

他方,原告は,平成17年9月1日に「短期滞在」の在留資格で入国した10日後からホステスとして働き続け,その収入で学費,生活費等を賄い,約70万円を蓄財するに至っている上,平成18年5月から同年7月までに8日しかFを休んでいない一方,専門学校を病気又は無断で欠席していた5日すべてにFへ出勤していたし,また,出勤していた日には4ないし6時間も働いていた。加えて,原告は,専門学校で履修すべき1学期の履修単位数の393単位のうち4分の1超の99単位で欠席していた上,遅刻や早退もしており,その就学態度は良好といえない。

    

このように,原告は,十分な経費支弁能力もなく,資格外活動であるホステスを続け,その程度は本邦滞在中の必要経費を賄おうとするまでに至っており,このような就労により学業の遂行が阻害される状態にさえ至っているものであるから,原告について,入管法24条4号イ所定の退去強制事由が認められることは明らかである。

 

(2)本件裁決等に裁量権の逸脱ないし濫用はないこと(争点(2))

    

在留特別許可を付与しない判断が裁量権の逸脱ないし濫用に当たり違法となるのは,法律上当然に退去を強制される外国人について,なお本邦に在留することを認めるべき積極的理由があったのにこれが看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られる。

    

原告は,ホステスとして稼働していたのに,姉の家事とその子どもを世話するという虚偽の理由で「短期滞在」の在留資格による在留期間更新許可を受けた上,「留学」に在留資格を変更した際の在留資格変更許可申請書には虚偽の日本語学習歴を記載するなどしているし,入国警備官の事情聴取の際にも,姉に責任を転嫁したり,専門学校を無断欠席したことはない旨虚偽の事実を述べたりするなど,反省の情も薄い。

    

他方,姉は,自分自身がホステスとして資格外活動を行っていた上,原告がホステスとして資格外活動を行っていたことを知りつつ,原告の在留資格変更許可申請書に資格外活動をしていない旨虚偽の内容を代筆していたもので,原告を適切に監督することが期待できないし,「家族滞在」の在留資格で本邦に在留する姉の夫(以下「義兄」という。)も,姉の監督があってこそ在留ができる者で原告を監督できる立場にない。専門学校の担任等も,原告の課外行動まで監督することは現実にできないし,原告の知人らも,その居住地は原告のそれから遠く,原告を適切に監督することはできない。

    

そうすると,上記特段の事情は認められず,入国管理局長が在留特別許可を付与せず本件裁決等をしたことにつき,裁量権の逸脱ないし濫用はない。

 

(3)本件不許可処分が「処分」に当たらないこと(争点(3))

    

原告は本件不許可処分に係る在留期間の更新を申請した際は既に本件退令処分を受けており,従前の在留資格及びこれに基づく在留期間の効力は失われている。在留期間の更新を申請する者は,その申請時に有効な在留資格を有していることが必要であるから,原告の上記申請は,在留期間更新の申請としては本来不適法で不受理とされるべきもので,仮に誤って受理されたとしても,在留期間の更新を許可することはできない。

    

そうすると,本件不許可処分は,原告が在留資格を有しないことを事実上確認するものにすぎず,原告の法律上の地位ないし権利関係に影響を及ぼすものではないから,取消訴訟の対象となる「処分」に当たらない。入国管理局長は,本件不許可処分の際,行訴法46条1項所定の教示をしているが,それはあくまでも原告が取消訴訟で権利救済を得る機会を十分に確保できるよう慎重を期したものにすぎない。同項は,国民に対して訴え提起に必要な情報を提供する趣旨のものにすぎず,取消訴訟の対象となるか否かの判断が容易でない場合に教示を禁ずるものではないから,この教示のゆえに,本件不許可処分が「処分」として取消訴訟の対象となるものではない。

 

(4)本件不許可処分に裁量権の逸脱ないし濫用はないこと(争点(4))

    

在留期間の更新を不許可とする判断が裁量権の逸脱ないし濫用として違法となるのは,重要な前提事実に誤認等があること等により事実の基礎を欠くか,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られる。

    原告は,在留期間の更新を申請した際,本件退令処分を受け,本邦で在留することを否定されていた以上,本件不許可処分については,事実の基礎を欠いたり社会通念上著しく妥当性を欠いたりしている点はなく,その判断に裁量権の逸脱ないし濫用はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4 当裁判所の判断

 

1 認定事実

   

第2の2(2),(3)及び(4)アの基礎となる事実,証拠(甲7ないし9,18の1・2,19,20,乙1,2,3の1・3,4,5,8,10,12,26,27の1ないし3,28の1・2,30,32の1・3・4,33の1ないし4,34の1・3,35ないし37,40,46,50,54,55,59ないし64の各1,65,66,69,70,原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

 

 

(1)本邦入国前の原告の経歴等(甲18の1・2,19,乙8,10,28の1,33の1ないし4,原告本人)

    

原告は,平成8年7月にG専門学校を卒業後,平成9年9月から平成11年7月までの間,H学院の日本語学部で日本語の勉強をしていた。

    

H学院を辞めた原告は,約3年間,恋人の経営していたサウナ店で経理を手伝っていたが,その後,初めて本邦へ入国するまでの約2年間は実家に戻って家事を手伝っていた。

    

原告は,本国において,G専門学校の授業の一環として,隣町にある歌舞団に所属し,アルバイトとして年二,三回ほど踊ったり,祝日等のイベントで民族舞踊を踊ったりはしていたが,ダンサーの職業に就いたことはなかった。

 

(2)原告の従前の入国等及び従前の在留中の活動状況等

  

ア 初めての入国及びその際の活動状況等(甲19,乙1,2,4,5,32及び33の各1,46,原告本人)

     

原告は,平成15年6月13日,招へい社の従業員を申請代理人として,在留資格「興行」の在留資格認定証明書の交付を申請し,その添付書類として履歴書を提出した。この履歴書の職歴欄には,平成8年10月から申請時までの間に二つの雑技団で団員として勤務していたものと記載され,その家族欄には,父及び母が既に退職している旨が記載されていた。

     

原告は,平成15年8月5日,「興行」の在留資格で在留期間3月の上陸許可を受けて本邦に入国し,同年10月27日,在留期間3月の在留期間更新許可を受けた後,平成16年2月5日,本邦から出国した。

     

原告は,この在留中,大分県日田市にあるキャバレーIにおいて,1回約10分のショータイムに1日3回程度ダンサーとして出演するとともに,入国手続時の書類を読みホステスとして活動してはならないことを知りながら,幕間にホステスとして働いていた。

   

イ 二度目の入国及びその際の活動状況等(甲19,乙1,2,4,5,乙32及び33の各3,原告本人)

     

原告は,平成16年4月5日,招へい社の従業員を申請代理人として,在留資格「興行」の在留資格認定証明書の交付を申請し,その添付書類として初回入国時と同じ内容の職歴及び家族を記載した履歴書を提出した。

     

その後,原告は,平成16年6月6日,「興行」の在留資格で在留期間6月の上陸許可を受けて本邦に入国した後,同年12月4日,出国したが,この在留中も,初回入国時と同様,Iで幕間にホステスとして働いていた。

   

ウ 三度目の入国の試み(乙32及び33の各4,弁論の全趣旨)

     

原告は,平成17年3月7日,招へい社の従業員を申請代理人として,在留資格「興行」の在留資格認定証明書の交付を申請した。この申請書の出演先欄には,宮崎県小林市にあるJで同年5月10日から同年11月10日まで出演する旨が記載され,また,その添付書類である履歴書には,過去2回の入国時とほぼ同内容の職歴及び家族の状況が記載されていた。原告は,この後,「興行」の在留資格で本邦へ入国することはなかった。

 

(3)原告の今回の入国前の,本邦における姉及びその夫の活動状況等

   

ア 姉の活動状況等(乙2,27の1・3,28の1,69,70)

     

姉は,平成13年に本邦へ入国し,K大学に入学した平成14年4月ころには,「留学」の在留資格で本邦に在留していた。

     

姉は,本邦入国後,日本人の知人から約1年間に二,三百万円の援助を受けたりしていたが,平成14年12月ころからはホステスとして働くようになり,同月から平成16年4月まで働いていた店では約200万円を,同年6月から平成17年2月まで働いていた店では約100万円を,それぞれ稼いでいた。

   

イ 義兄の活動状況等(乙50,62の1,66,70)

     

義兄は,平成14年7月1日,「家族滞在」の在留資格で本邦へ入国した後,同月から,広島市f区にあるL株式会社広島営業所で働いており,1か月平均十四,五万円の収入を得ていたが,資格外活動許可は得ていなかった。

   

ウ 姉らによる,本国への金銭の持ち出し(乙62の1,70)

     

姉は,平成15年12月,義兄と中国へ帰国した際,自身の口座から合計約600万円を,義兄の口座から200万円を,それぞれ引き出した上,これらを中国に持ち出しており,その前後にも複数回,多額の金銭を持ち出していたが,その際,100万円を超える金銭を本邦外へ持ち出すのに必要な届出(外国為替及び外国貿易法19条3項,外国為替令8条の2,外国為替に関する省令10条)を全くしていなかった。

 

(4)原告が今回入国するに至った経緯等(前記第2の2(2),甲19,乙2,4,5,8,26,34の1・3,原告本人)

    

母は,平成17年2,3月ころに本邦で妊娠したことが分かった姉の生活を手伝うため,同年6月4日,「短期滞在」の在留資格で在留期間90日の上陸許可を得て本邦に入国し,同年9月1日には在留期間90日の在留期間更新許可を受けていたが,本邦在留中の同年8月中ごろ,転倒で腰を痛め,通院していた。

    

そこで,原告は,姉に所要の手続をしてもらい,平成17年9月1日,「短期滞在」の在留資格で在留期間90日の上陸許可を受けて本邦に上陸した。原告は,この際,渡航目的は姉の子どもが今月に生まれることを理由とした親族訪問である旨申告していた。

 

(5)資格外活動が発覚するまでの原告の活動状況等

   

ア ホステスとして働き始めた経緯等(前記第2の2(3)イ(ア),甲19,乙2,4,5,8,10,原告本人)

     

母の体調は,原告が本邦へ入国したころには快方に向かっており,特に世話を要する状態になかった。

     

そこで,原告は,「短期滞在」の在留資格でアルバイト等の報酬を得る活動をしてはならないことは知っていたが,在留期間中に本邦で金を稼ぎたいと思い,夜の仕事であれば昼間に世話をするにしても1日数時間は働ける,従前の本邦滞在中に経験したホステスの仕事ならば要領も分かるし時給も良いと考えた。原告は,コンビニエンスストアで買ったアルバイト情報誌でCを見つけ,平成17年9月10日ころから,ホステスとして働くようになった。なお,原告は,姉及び母に対し,夜のアルバイトに出ることを伝えていた。

   

イ 在留期間更新許可の経緯等(前記第2の2(2),乙2,4,5,27の1ないし3,50,原告本人)

     

原告は,平成17年9月21日に姉が姪を出産した後もホステスとして働いていたが,在留期限が同年11月30日に迫る中,本邦に在留し続けたいと思い,同月21日,在留期間の更新を申請した。この際,原告は,姉に法令の遵守等を保証する旨記載した身元保証書を書いてもらった上,更新の理由を姪の世話のためとし,滞在目的を知人・親族訪問とする申請書を姉に代筆してもらったが,ホステスとして働いていたことは,書いてもらわなかった。

     

この申請の結果,原告は,平成17年12月5日,在留期間を90日とする今回限りの在留期間更新許可を受けた。

   

ウ 在留資格変更許可の経緯等

   

(ア)専門学校の受験及びその経緯(乙2,5,30,原告本人)

      

原告は,「短期滞在」の在留資格で在留期間更新許可を受けたころ,姉及び母から,帰国してどうするのか,将来を考えた方がよいなどと言われるとともに,平成17年11月からホステスとして再び働き始めた姉からは,ホステスとして働きながら留学することを勧められたため,姉にインターネットで探してもらった専門学校を受験することとした。原告は,この際,「留学」の在留資格でも,ホステスとして働くことはできないことを聞き知っていた。

   

(イ)広島県外における活動状況等(前記第2の2(3)イ(イ),乙2,8,30,原告本人)

      

原告は,在留資格変更の手続に必要な本邦への渡航歴を確認すべく,過去に所属していた中国のプロダクションに連絡し,その際,山口県に新しく開店する店でホステスとして働くことを頼まれ,平成18年1月初旬から,原告は,Dでホステスとして働くようになった。

      

原告は,Dで働いていた間,同じくホステスをしていた中国人女性五,六人と一緒に宇部市で暮らし,休日に広島に帰る生活を送っていた。

   

(ウ)専門学校の合格及び在留資格変更許可申請(前記第2の2(3)ア,乙2,4,5,8,10,28の1・2,29,30,35,原告本人)

      

原告は,平成18年1月下旬ころ,専門学校の面接試験を受け,同年2月3日,その入学を許可されたため,貯めていたホステスの収入から入学金20万円,授業料45万円及び諸経費7万5000円を支払った上,Mにその保証人となってもらった。

 

このMはIで働いていたときに知り合った妻子ある男性で,平成17年9月から1か月2ないし5万円を原告に援助していたが,原告がホステスをしていることも知っていた。

      

原告は,平成18年2月8日,在留資格を「留学」に変更するため,申請書を姉に代筆してもらい,在留資格の変更を申請した。姉は,原告がホステスをしていることを知っていたが,原告が資格外活動をしていない旨申請書に記入し,そばで様子を見ていた原告もこれを訂正しようとはしなかった。

   

 

エ 在留資格変更許可申請後の原告の活動状況等

   

(ア)帰広後からのホステスの再開(前記第2の2(3)イ(ウ),乙2,4,5,30,55)

      

平成18年2月23日にDを辞め広島に戻った原告は,姉からその勤務先のEでホステスを募集していると誘われ,同年3月2日から,Eでホステスとして働いていた。

   

(イ)専門学校に対する就労事実の不申告(前記第2の2(3)ア,乙30)

      

原告は,平成18年4月10日,専門学校に入学した後,アルバイトの事実又は予定があれば勤務先等を記載して提出する用紙を手渡されたが,これを提出せず,校長との面接でアルバイトについて問われたときも,ホステスをしていたことを隠していた。

   

(ウ)Fにおける勤務状況等(前記第2の2(3)イ(エ),乙2,3の1・3,4,36,40,54,原告本人)

      

原告及び姉は,集客のため電話を強要したりするEの経営者に対して悪感情を抱き,Eを辞めたいと思うようになり,そのころ,Cに客として来店していた姉の知人の紹介でFの面接を受け,原告は平成18年5月15日から,姉は同月18日から,各々Fでホステスとして働いていた。

      

原告は,平成18年5月31日,同年6月20日及び同月21日には病欠と届出をし,同年7月13日及び同月14日には届出をせずに,専門学校を欠席していたが,Fにはこれらすべての日に出勤していた。

   

オ 資格外活動の摘発等(前記前記第2の2(4)ア,乙37,原告本人)

     

原告は,平成18年7月14日,専門学校を無断欠席し,昼過ぎから,姉と一緒に広島市内をドライブしたり,繁華街で買物したりした後,同日午後8時ころ,Fに同伴出勤したが,同日午後9時34分,ホステスとして働いていたところを摘発された。

 

(6)資格外活動摘発後の動き等

   

ア 収容令書執行後の状況(甲7ないし9,乙3の1,10,37)

     

広島入国管理局に対しては,原告に対する収容令書執行後,平成18年8月23日,専門学校の学校長等から,面談等により監督するので原告を学業に専念させ卒業させてあげたいとする嘆願書が提出された。その前後には,原告の保証人であるM及び原告がホステスとして働いていた際の客からも,嘆願書が提出されたが,この両名はそれぞれ大分県日田市及び山口県山口市の在住であった。

     

なお,姉夫婦と同居していた原告は,ホステスで得た収入を専門学校に支払う入学金,授業料,雑費等に充てていた一方,残りについては,生活費等だけでなく,広島市内にあるエステ店に通うために充てており,収容令書が執行されるまでに,残りの約70万円を貯蓄していた。

   

イ 本件退令処分が執行停止された後の原告の活動状況等(甲20,乙59ないし64の各1・2,65,原告本人,弁論の全趣旨)

     

原告は,本件退令処分の執行が停止された後,姉夫婦と市営住宅に同居して専門学校に通っており,姉夫婦が貯めてきた収入,原告がホステスで得た収入の貯蓄,Mからの援助等で,学費,生活費等を賄っている。

     

原告の平成19年4月から同年11月30日までの出席状況は,出席が694単位,欠席が20単位であり,この期間の原告の成績は,13科目中,11科目が優れている,2科目がやや優れているというもので,パターンメーキング技術検定3級の資格を取得するなどしており,平成20年3月19日に卒業できる見込みであるが,原告は,専門学校の3年次コースに進学したいとの意向も持っている。

   

以上の事実が認められる。

   

 

これに対し,原告は,退去強制手続中,在留資格変更許可の申請書に資格外活動なしとされているのは姉が勝手に書いたためで,「留学」の在留資格で働くために資格外活動許可が必要であることは知らなかったし,「短期滞在」ないし「留学」の在留資格があってもホステスの仕事はできないことも知らなかったなどと述べている。

 

 

しかし,本邦在留中の就労活動の許否及びその条件等についてはその入国手続時及び申請時の書類に記載されているはずであり,原告も,過去に入国した際にホステスの仕事が許されないとする書類を読んでいるし(前記(2)ア),また,原告は,アルバイトの有無等を専門学校から確認された際,ホステスとして働いていたことを隠していたものであるから(前記(5)エ(イ)),その述べるところは採用できない。

   

 

また,原告は,その父母に十分な経費支弁能力がある旨主張し,原告の父が経営していたカラオケ店を売って得た金が義兄の母によって持ち込まれていることや,母名義で約320万円の貯蓄があること(甲15,16)が裏付けであるとする(前記第3の2(1))。

 

 

しかし,原告が従前に入国した際の申告によれば,原告の父母は既に退職していたもので(前記(2)ア及びイ),

 

その後にカラオケ店を経営していたことを裏付ける客観的証拠はなく,

 

義兄の母が金を持ち込んだとされるころには,本邦で稼働し蓄財していた義兄の銀行口座から大金が出金され,姉,義兄及び原告の各口座間で多額の金銭が移動しているし

 

(乙60の2,62の1・2,63の1,64,65),

 

本邦で稼働し蓄財していた姉及び義兄は,法令に基づく届出をせずに多額の金銭を持ち出していたものである(前記(3)ウ)。

 

加えて,中国人の平均的な年収(乙68の1)等を考え合わせると,義兄の母が金を持ち込んだり母が貯蓄をしていたとしても,そのほとんどは姉及び義兄が本邦で稼いだものを移動させたものと認めるのが相当である。

 

 

 

 

 

2 本件不許可処分が取消訴訟の対象となる「処分」に当たるか(争点(3))について

   

被告は,有効な在留資格を有しない外国人がした在留期間更新の申請は本来不適法なものとして受理されないものであり,誤って受理されたとしても在留期間更新を許可できないことを前提として,原告には,本件退令処分の公定力により,本件不許可処分に係る在留期間更新許可申請をした時点で有効な在留資格がなかった以上,本件不許可処分は,その法律上の地位ないし権利関係に何ら影響を及ぼすものではないという(前記第3の3(3))。

   

しかし,退去強制令書の発布処分の効力を争っている間に従前の在留資格に係る在留期間が経過する場合でも,在留期間の更新を申請しておかなければ,その許可を受ける可能性がなくなるものである(前記第2の2(6)イ)。

 

そうであるのに,退去強制令書の発布処分の効力が争われている間にした在留期間の更新の申請を認めないとする判断を取消訴訟で争う余地がないとすることは,この申請自体がこれを認めない旨の判断がなされることで消滅すると解すべき以上,退去強制令書の発布処分を受けた外国人には在留期間更新許可を受ける余地がないとするに等しく,相当な解釈とはいい難い。

   

 

そもそも在留期間更新許可は,外国人に対してさらに本邦に在留することができる法律上の地位を付与するものであって,

 

当該外国人が有効な在留資格を有することは在留期間更新許可の実体的要件である。

 

そして,原告がした在留期間更新の申請に対しては,本件退令処分を取り消す旨の判決が確定すれば,原告が在留資格を有することを前提として,在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当な理由があるか否かの判断を経て,許可され得るものであるから,

 

本件不許可処分は,このような判断を受けることができるという,原告の法律上の地位に影響を及ぼすものとして,取消訴訟の対象となる「処分」に当たるものというべきである。

 

 

 

 

3 原告に入管法24条4号イ所定の退去強制事由が認められるか(争点(1))について

 

(1)「留学」の在留資格をもって在留する者は,原則として,就労活動を行ってはならず(入管法19条1項),これに違反して就労活動を行った者は,一定の刑事罰に処せられる(入管法73条1項)。

    

しかし,「留学」の在留資格をもって在留する者であっても,資格外活動許可を受けていれば就労活動を行うことができる(入管法19条2項)上,資格外活動許可を受けないで就労活動を行っていた者でも,就労活動を専ら行っていると明らかに認められる者に該当しない限りは,本邦からの退去を強制することはできない(入管法24条4号イ,なお,同号リ参照)。

    

このように,入管法は,在留資格制度の下で外国人の資格外活動としての就労活動を規制した上,我が国の社会秩序維持の見地から,許可を得ないで資格外活動を行った者を罰則の対象としてはいるが,その違法性の程度には幅がある上,外国人の本邦への在留は当該外国人が有する在留資格に基づき正当化されるものであるから,本邦からの退去を強制できるか否かについては,許可を得ないで資格外活動を行ったことだけをとらえて判断することとせず,更に個別の事情を踏まえて判断することを要求していると解される。このことは,「専ら行つていると明らかに認められる」という入管法24条4号イの厳格な文言からも読みとれるところである。

    

そうすると,

 

 

当該外国人が資格外活動である就労活動を専ら行っていると明らかに認められるといえるか否かは,

 

本邦における在留資格に係る活動の状況,当該資格外活動を行うに至った経緯,

 

当該資格外活動の継続性,

 

有償性等の内容,

 

当該資格外活動によって得た収入の使途等を総合考慮し,

 

当該外国人の活動が在留資格に係る活動から実質的に変更されたり,

 

在留資格に係る活動が資格外活動を行う方便となったりしているか否かという観点から判断すべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

なお,被告は,「留学」の在留資格で外国人が就労活動をし,その程度が本邦滞在中の必要経費を賄おうとするまでに至っていれば,

 

その学業の遂行自体が阻害されていないとしても,当該在留資格が実質的に変更されたことになり,

 

資格外活動である就労活動を専ら行っていると明らかに認められることになると主張する。

 

しかし,上述した関係各規定の体裁及び趣旨並びに日本での生活費は本国のそれと比較して一般的に高額であるのが実態であること(顕著な事実)に照らすと,

 

就労活動による収入で必要経費を賄おうとしていたことだけをとらえて,上述のような実質的変更があったと判断することは妥当でない。

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)これを本件についてみるに,確かに,原告は,平成18年4月から資格外活動で摘発された同年7月14日までの間,専門学校に通学し,3分の2の科目で優れているないしやや優れているという成績を収めていた上,連休を利用し帰国していた間を除き,出席すべき67日のうち5日程度を欠席してはいたが比較的真面目に出席していたもので(前記第2の2(3)ア),原告が留学先を選んだ動機として述べている,ファッションに興味があったという点も全くの虚偽とはいい難い。

    

しかし,原告は,その供述するように届出を怠った事実があったか否かはさておくとしても,

 

専門学校を欠席しておきながら,そのすべての日にホステスとして働いていた上,

 

ホステスとして働いた翌日に欠席したり欠席した日の昼間に遊びに出たりしているものである(前記1(5)エ(ウ),オ)。

 

 

また,原告は,本邦ではホステスとして働くことができないと知りながら,

 

虚偽の職歴を書いた履歴書で在留資格認定証明書の交付を申請し,

 

「興行」の在留資格で過去に2度入国して幕間にホステスとして働いていた上,

 

今回の入国前にも同様の入国を試みていたもので

 

(前記1(1),(2)),原告よりも先に本邦へ入国していた姉が,ホステスとして働くことにより,本国では大金となる収入を得ており,

 

義兄の収入と併せて本国へ複数回持ち帰っていたこと(前記1(3))の影響を受け,

 

自らもホステスとして働く希望を持っていたことが推認されるものである。

 

 

 

原告は,「短期滞在」の在留資格で入国した今回に至っては,姉の子どもが生まれることによる親族訪問をその渡航目的として申告しながら,本邦へ入国するや否やホステスとして働く先を探し,

 

入国のわずか10日後からホステスとして働き始めた

 

(前記1(4),(5)ア)上,姉の出産後もホステスとして働き続け,在留期限が迫るや,その事実を殊更に秘し,姪の世話を理由として在留期間更新許可を受け(前記1(5)イ),

 

 

その後,姪の世話などおよそできない広島県外に住み込みでホステスとして働いていたというのである(前記1(5)ウ(イ))。

 

 

このような中で,原告は,ホステスとして働いていた姉の勧めを受け,姉に探してもらった専門学校を受験し,合格したため,ホステスとして得た収入を元手に留学を始めたものであり(前記1(5)ウ(ア),(ウ)),

 

 

以上に述べてきた従前の入国状況及び本邦在留中の活動状況に加え,原告が「留学」の在留資格でもホステスの仕事はできないと聞き知っていたこと(前記1(5)ウ(ア)),

 

在留資格の変更を申請するに当たっても,専門学校からの確認に対しても,ホステスとして働いていた事実を隠蔽していたこと(前記1(5)ウ(ウ),エ(イ))等の事情に照らすと,原告が留学を始めた動機がホステスとして働き続けるためであることが強く推認されるものである。

 

    

 

そうすると,原告が「留学」の在留資格を取得し,専門学校へ通っていたのは,外国人が本邦でホステスとして働くことが許されていないことを知りながら,ホステスとして働き続けるための手段にすぎず,

 

 

原告については,資格外活動である就労活動を専ら行っていると明らかに認められるとして,入管法24条4号イ所定の退去強制事由があったものというべきである。

 

 

 

(3)これに対し,原告は,ホステスとしての就労は,資格外活動許可を受けた場合に働くことのできる時間より短く,学業に支障を生じさせるようなものではなかったし,収入についても,遊興費に使ったり本国へ送金したりしていないなどとして,入管法24条4号イ所定の退去強制事由が認められないと主張する(前記第3の2(1))。

    

 

しかし,「留学」の在留資格で在留する外国人に対する資格外活動許可については,

 

 

 

原則として,1週間28時間以内で就労活動を包括的に許可する運用が採られているものの,

 

 

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項の風俗営業等については,

 

国家の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の見地からみた我が国の産業及び国民生活に与える影響にかんがみ,

 

 

また,学業の遂行を阻害するものとして,不許可とする運用が採られているものである

 

 

(乙5,21ないし23)。

 

 

 

 

また,原告は,その収入の一部をおよそ必要費とはいい難いエステ代にも費やしている(前記1(6)ア)し,

 

 

資格外就労の摘発を受けていなければ,原告がそのままホステスとして働き続け,さらに蓄財等をしていたことは容易に察しのつくところである。

 

そして,過去に姉及び義兄が法令上の届出をせず大金を複数回持ち出していたこと(前記1(3)),

 

原告の資格外就労が摘発された後も,姉及び義兄の口座から引き出された大金を義兄の母が法令上の届出をせずに持ち出していること(甲15,乙56の1・2,59の2,63の2,65,弁論の全趣旨)等にかんがみると,

 

 

原告が本国へ送金ないし金を持ち出さなかったのは,専門学校の学費等を支出してからさほど間もないころに摘発されたという偶然の結果にすぎない。

 

 

そうすると,原告の主張しているような事情を最大限に考慮しても,前記(2)のとおり,入管法24条4号イ所定の退去強制事由があったとの判断が妨げられるものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4 入国管理局長が入管法50条1項の規定を適用せず本件裁決等をしたことにつき,裁量権の逸脱ないし濫用があるか(争点(2))について

 

(1)そもそも国家は,国際慣習法上,外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるか否か,これを受け入れる場合にどのような条件を付するかは,専らその国家の立法政策にゆだねられ,当該国家が自由に決定することができるものである。我が国の憲法も,外国人に対し,我が国に入国する自由又は在留する権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障するものではない。(最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁,最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)

    

他方,入管法50条1項4号は,同法24条各号に定める退去強制事由のある外国人でも,「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」は,その者の在留を特別に許可することができる旨を定めているが,この判断に当たっての考慮事項は全く挙げられていない。その法意は,在留特別許可の対象者が本来的に我が国から退去を強制されるべき地位にあることに加え,外国人に対する出入国管理が国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定といった国益の保持を目的としていることから,当該外国人の在留中の一切の行状,特別に在留を求める理由の当否のみならず,政治・経済・社会等の国内事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲等の諸般の事情をしんしゃくし,時宜に応じて的確な判断をしなければならず,高度な政治的判断が必要な場合もあり得るところにある。

    

そうすると,在留特別許可を付与するか否かの判断については,法務大臣等の極めて広範な裁量にゆだねられているものというべく,在留特別許可を付与するか否かに係る法務大臣等の判断が違法となるのは,その判断が全く事実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,法務大臣等に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はそれを濫用した場合に限られるものと解すべきである。

 

 

 

(2)これを本件についてみるに,原告は,一応真面目に専門学校へ通学して,一定の成績を収めていた(前記第2の2(3)ア)上,本件退令処分が執行停止された後,平成19年11月までは,さらに真面目に通学して良好な成績を収め,現在は強い進学の意欲を示すようになっており(前記1(6)イ),このような原告を監督していくとして,専門学校の学校長等,原告の保証人等が嘆願書を提出しているところである(前記1(6)ア)。

    

しかし,原告の監督を約する旨の嘆願書を提出している者のうち1名は,原告がホステスとして働いていた際の客で,およそ適切な監督を期待し難いし,原告の保証人として嘆願書を提出したMにしても,原告がホステスをしていたときの客で,保証人でありながら半ば原告の資格外就労を黙認しており,広島から遠く離れたところに住んでいるというのであるから,やはり適切な監督を期待し難い(前記1(6)ア)。また,原告が同居している姉夫婦(前記1(6)ア)は,いずれも長期間にわたり資格外就労を続けては,複数回本国に法令上の届出をせず大金を持ち出し(前記1(3)),姉に至っては,在留資格をないがしろにするかのように,原告がホステスとして働くことを勧めていたのである(前記1(5)ウ(ア))から,姉夫婦による適切な監督なるものも到底期待できない。

    

また,原告は,前記3(2)のとおり,本邦ではホステスとして働くことが許されていないと知りながら,手練手管により本邦に入国してはホステスとして働き続けていたもので,このような資格外就労の態様自体,当初は在留資格に係る活動をしていたところが諸事情によりホステスとして働かざるを得なくなった場合と比べるまでもなく,相当悪質なものというべきである。

    

そして,原告は本来的には平成20年3月に専門学校の2年次課程を終え卒業する予定であること(前記1(6)イ)も考え合わせると,原告が刑事手続及び退去強制手続で身柄拘束等を受けたことにより,ことの重大さを理解し深く反省しているとしても,入国管理局長がした,入管法50条1項の規定は適用しないとの判断については,全く事実の基礎を欠いたり社会通念上著しく妥当性を欠いたりしているとはいえないから,入国管理局長が本件裁決等をしたことにつき,裁量権の逸脱ないし濫用があったとは認められない。

 

 

 

 

5 本件不許可処分に裁量権の逸脱ないし濫用があるか(争点(4))について

   

原告については,入管法24条4号イ所定の退去強制事由が認められる上,同法50条1項の在留特別許可を付与しなかったことに裁量の逸脱ないし濫用がない以上,本件認定処分,本件裁決等及び本件退令処分はいずれも適法かつ有効なものである。

   

そうすると,本件退令処分が有効であり,原告が本邦から退去すべきものであることを根拠に,在留期間の更新を適当と認めるに足りる特段の理由がないとした本件不許可処分は至極正当なもので,入国管理局長に裁量権の逸脱ないし濫用があったとは認められない。

 

 

6 結論

   

よって,本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

 

 

 

    広島地方裁判所民事第1部

        裁判長裁判官  野々上 友之

           裁判官  大森 直哉

           裁判官  安木 進