ラーメン店と在留資格「技能」

 

 

 

 

 退去強制令書発付処分取消請求事件、追加的併合申立事件、【事件番号】東京地方裁判所判決/平成21年(行ウ)第622号、平成22年(行ウ)第594号、判決 平成23年2月18日、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。

 

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 本件は,中華人民共和国の国籍を有し,「技能」の在留資格により本邦に在留していた原告が,東京入局管理局(以下,東京入管)入国審査官から出入国管理及び難民認定法(以下,入管法)24条4号イ(資格外活動)に該当する認定を受け,東京入管特別審査官から判定(上記認定に誤りはない旨)を,法務大臣から裁決(入管法49条1項に基づく異議には理由がない旨)を,東京入管主任審査官から退去強制令書の発付処分を,受けたため,上記認定・裁定・発布処分を不服として,これらの取消しを求めた事案である。裁判所は,原告の資格外活動が在留目的を実質的に変更しているとまで評価することは困難であり,また同活動を専ら行っていることが明らかに認められるとはいえない等として,原告の請求をいずれも認容した事例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

 

1 東京入国管理局入国審査官が原告に対して平成21年10月27日付けでした出入国管理及び難民認定法24条4号イに該当する旨の認定を取り消す。

 

2 法務大臣が原告に対して平成21年12月11日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

 

3 東京入国管理局主任審査官が原告に対して平成21年12月11日付けでした退去強制令書発付処分を取り消す。

 

4 訴訟費用は,被告の負担とする。

 

       

 

 

 

 

事実及び理由

 

第1 請求

   主文と同旨

 

 

第2 事案の概要

 1 本件は,中華人民共和国(以下「中国」という。)の国籍を有する外国人の男性で,「技能」の在留資格により本邦に在留していた原告が,

 

東京入国管理局(以下「東京入管」という。)入国審査官から出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号イ(資格外活動)に該当する旨の認定を受け,

 

次いで,東京入管特別審理官から上記認定に誤りはない旨の判定を受け,

 

さらに,法務大臣から入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を受け,

 

東京入管主任審査官から退去強制令書の発付処分を受けたため,

 

 

上記認定,上記裁決及び上記退去強制令書発付処分を不服として,これらの取消しを求める事案である。

 

 

 

 2 前提事実

 

 

 

   本件の前提となる事実は,次のとおりである。証拠により容易に認めることができる事実等は,その旨付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない。

 

 

  (1) 身分事項等

 

    原告は,1966年(昭和41年)6月2日に中国遼寧省遼陽市において出生した中国国籍を有する外国人の男性である。(乙1,2)

 

 

  (2) 入国及び在留の状況

 

   ア 原告は,平成11年11月7日,関西国際空港に到着し,大阪入国管理局関西空港支局入国審査官から,在留資格を「技能」,在留期間を「1年」とする上陸許可を受けた。(乙1)

 

   イ 原告は,平成12年11月6日,同15年11月11日及び同18年10月16日,それぞれ在留期間を「3年」とする在留期間更新許可を受けた。(乙1)

 

   ウ 原告は,平成21年4月30日から,東京都品川区(以下略)所在のラーメン店「A」において,飲食店従業員として報酬を受ける活動を始めた。(乙6)

 

   エ 原告は,平成21年8月19日,東京入国管理局長に対し,在留期間更新許可申請をし,同年9月8日,在留期間を「3年」とする在留期間更新許可を受けた。(乙1,3)

 

 

 

 

 

 

 

  (3) 退去強制手続等

 

 

   ア 東京入管入国警備官は,平成21年10月15日,原告がAにおいて飲食店従業員として報酬を受ける活動に従事していたことを確認したとして,同日,原告に係る入管法24条4号イ(資格外活動)該当容疑事件について違反調査を実施し,原告及びAの経営者であるB(以下「B」という。)から事情を聴取するとともに,原告が従前稼働していた中華料理店「C」(以下「C」という。)を経営する有限会社D(以下「D社」という。)の取締役であるE(以下「E」という。)に対し,電話による事情聴取をした。(乙4から8まで)

 

 

   イ 東京入管入国警備官は,平成21年10月15日,原告が入管法24条4号イに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,東京入管主任審査官から収容令書の発付を受け,これを執行し,同日,原告を同号該当容疑者として,東京入管入国審査官に引き渡した。(乙9,10)

 

 

   ウ 東京入管入国審査官は,平成21年10月16日及び同月27日,東京入管において,原告に係る違反審査を実施した上で,同日,原告が入管法24条4号イに該当する旨の認定(以下「本件認定」という。)をし,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,東京入管特別審理官による口頭審理を請求した。(甲1,乙11から13まで)

 

 

   エ 東京入管特別審理官は,平成21年11月4日,Eに対し,電話による事情聴取を実施し,さらに東京入管において,同月6日にはBから,同月16日にはEからそれぞれ事情を聴取した上で,同月17日,原告に係る口頭審理を実施し,その結果,本件認定に誤りはない旨判定し,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,法務大臣に対し,異議の申出をした。(甲2,乙14,15,17から20まで)

 

 

   オ 法務大臣は,平成21年12月11日,前記エの異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,法務省入国管理局長は,同日,東京入国管理局長に対し,本件裁決を通知した。(乙21,22)

 

   カ 前記オの通知を受けた東京入管主任審査官は,平成21年12月11日,原告に本件裁決を通知するとともに,退去強制令書(以下「本件令書」という。)の発付処分(以下「本件退令発付処分」という。)をし,東京入管入国警備官は,同日,本件令書を執行し,原告を東京入管収容場に収容した。(甲3,乙23,24)

 

   キ 原告は,平成22年2月18日,東京入管収容場から入国者収容所東日本入国管理センターに移収されたが,同年3月17日,同日付け東京地方裁判所決定(平成21年(行ク)第204号執行停止申立事件)により,同センターを出所した。(乙24)

 

 

  (4) 本件訴えの提起

 

    原告は,平成21年12月21日,本件退令発付処分の取消しを求める訴え(平成21年(行ウ)第622号)を提起し,同22年5月19日,本件裁決の取消しを求める旨の請求を追加した上,同年10月20日,本件認定の取消しを求める訴えの追加的併合の申立て(平成22年(行ウ)第594号)をした。(当裁判所に顕著な事実)

 

 

 3 本件の主な争点は,本件認定の適法性,すなわち,原告につき入管法24条4号イ所定の退去強制事由が認められるか否かであり,これに関する各当事者の主張の要旨は,以下のとおりである。

 

   なお,本件認定の取消しの訴えは,行政事件訴訟法20条により,本件認定を原処分とする裁決(同法3条3項)である本件裁決の取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなされるから,出訴期間内にされた適法な訴えであるということができる。

 

 

 (被告の主張)

 

  (1)ア 「技能」の在留資格で在留する外国人が本邦において行おうとする活動は,「産業上の特殊な分野」であり,かつ,「熟練した技能を要する業務に従事する活動」であることが必要である(入管法別表第一の二の表「技能」の項)。そして,「産業上の特殊な分野」としては,外国に特有の産業分野,外国の技能レベルが我が国よりも高い産業分野,我が国において従事する熟練技能労働者が少数しか存在しない産業分野等が考えられ,「熟練した技能を要する業務に従事する活動」とは,長年の実務経験によって身に付けた熟達した技量を必要とする業務に従事する活動をいうのであって,この点で,一定期間の実務経験がなくても容易に行うことができる機械的な作業に従事する単純労働と区別される。

 

   イ 入管法19条1項1号は,同条2項の許可を受けて行う場合を除き,入管法別表第一の一の表,二の表及び五の表の上欄の在留資格をもって在留する外国人は,その有する在留資格に対応するこれらの表の下欄に掲げる活動(以下「在留資格に対応する活動」という。)に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動(以下,収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を併せて「就労活動等」といい,在留資格に対応する活動に属しない就労活動等を「資格外活動」という。)を行うことができない旨を定め,同条2項は,法務大臣は,当該在留資格に応じ入管法別表第一の下欄に掲げる活動の遂行を阻害しない範囲内で,資格外活動を行うことを希望する旨の申請があった場合において,相当と認めるときにのみ,その許可をすることができるとしている。

 

     このような在留資格制度及び入管法24条4号イ所定の退去強制事由の規定からすれば,「技能」の在留資格を有する者は,たとえ一時的であっても,資格外活動の許可を受けることなく「技能」の活動に属しない就労活動等を行ってはならないことは明らかである。

 

 

  (2)ア 原告が稼働していた

 

 

Aの主力メニューとして提供される

 

 

味噌ラーメン,

 

ちゃんぽん,

 

皿うどんといった料理は,

 

遡ればその起源が中国にあるというだけで,

 

本邦で独自に発展してきた料理であり,既に日本化されたものであって,

 

このような認識は,中華料理の調理に携わる在日中国人や飲食店関係者らの間でも一般的に受け入れられている。

 

 

したがって,上記のような料理の調理は,中国に特有の産業分野であるといえないことはもとより,中国の技能レベルが我が国よりも高い産業分野であるともいえず,「産業上の特殊な分野」に属するとは評価できない。

 

 

 

 

   イ また,

 

 

原告のAでの具体的な調理内容は,

 

ラーメンのスープを仕込む,

 

ラーメンの具を炒める,

 

冷凍の餃子(ぎょうざ)を焼くなどといったごく一般的なラーメン店における調理の範ちゅうに限定されており,

 

中華料理の専門的な技術や知識及び経験が必要不可欠というわけではなく,

 

このような活動が,中華料理に係る「長年の実務経験によって身に付いた熟達した技量を必要とする業務に従事する活動」ということはできない。

 

 

   ウ 以上のことからすれば,原告が,Aにおいて,「産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動」を行っていなかったことは明らかである。

 

 

 

  (3)ア 資格外活動を「専ら行っている」(入管法24条4号イ)とは,資格外活動の専従性,すなわち,資格外活動の継続性及び有償性,本来の在留資格(在留目的)に基づく活動をどの程度行っているか等を総合的に考慮して判断した場合に,在留目的である活動が在留資格に対応した活動から実質的に変更されたと評価できる程度まで資格外活動を行っていることをいうと解するべきであり,その判断は,入国審査官による認定の時点においてされる必要がある。

 

 

   イ 原告は,平成21年4月30日から同年10月15日までの約6か月の間,週1回の休日を除く毎日,1日約14時間,Aで稼働して,月に約23万円から28万円の収入を得ており,他方,この間,原告は,本来の在留資格(在留目的)に基づく活動を何ら行っていない。これらの事情を総合的に考慮すれば,原告は,その在留目的である活動が「技能」の在留資格に対応する活動から実質的に変更されたと評価できる程度まで資格外活動を行っているものということができる。

 

 

   ウ 原告のAにおける稼働期間が,約10年間にわたる本邦での滞在期間のうち約6か月間にすぎないとしても,それによって原告の行った資格外活動が正当化されるものではない。

 

また,原告が,従前稼働していた中華料理店を退職した後,別の中華料理店で職を得たにもかかわらず,短期間のうちに自己都合で退職していることや,

 

Aでの稼働を開始した時期にもなお約200万円の預金を有していたことからすれば,

 

原告が家族を養うためにAでの稼働を開始する差し迫った必要性はなかったというべきである。

 

さらに,原告が摘発された時点において,新たな稼働先となる中華料理店が見つかる具体的な見通しは全く立っておらず,原告の資格外活動が将来的に解消される見込みはなかったというべきである。

 

 

  (4) 以上のとおり,原告は,入管法19条1項の規定に違反して就労活動等を専ら行っていると明らかに認められる者であり,入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当することは明らかであるから,本件認定は適法である。

 

    また,在留特別許可は,退去強制事由のある外国人に対して法務大臣が恩恵的に付与するものであり,法務大臣は,その許否の判断につき極めて広範な裁量権を有するところ,原告について,在留を特別に許可しなければ入管法の趣旨に反するような特別な事情があるとは認められないから,原告に在留特別許可を付与しなかった本件裁決に裁量権の逸脱又は濫用は認められず,本件裁決は適法である。

 

    そして,法務大臣から異議の申出には理由がない旨の裁決をしたとの通知を受けた主任審査官は,速やかに退去強制令書を発付しなければならず(入管法49条6項),退去強制令書を発付するにつき裁量の余地は全くないから,本件裁決が適法である以上,本件退令発付処分も当然に適法である。

 

 

 

 

 

 

 

 (原告の主張)

 

  (1)ア Aは,約20年間続いていた中華料理店「A飯店」が,平成17年5月にラーメン専門店として新装開店したものであり,

 

数種類のラーメンのほかに,

 

チャーハンやシュウマイ,

 

ちゃんぽん,

 

皿うどん等の料理も提供している。

 

 

ラーメンは,中国の明の時代に山西省で現れた「拉麺」が日本に取り入れられ,日本化されたものであり,

 

また,ちゃんぽんと皿うどんは,中国人の陳平順が中国福建省の料理をベースに考案した料理であり,中国にも皿うどんに似た野菜麺という料理がある。

 

 

   イ このように,Aは,中華料理であるチャーハン及びシュウマイと,中華料理から変化したラーメン,ちゃんぽん及び皿うどんを提供する店であるところ,原告は,中華料理に関する高い技能を用いて,これらの料理を調理していたもので,その活動は,中華料理の分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動であるということができる。

 

 

  (2) 仮に,原告のAにおける就労が資格外活動に当たるとしても,入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するためには,原告がこれを「専ら行っていると明らかに認められる者」であることが必要であるところ,その判断に当たっては,原告の在留期間のうち在留資格に基づく活動を行っていた期間及びAで稼働していた期間,Aの仕事の内容,原告がAで稼働するに至った目的,経過等が総合的に検討されなければならない。

 

 

    原告は,来日した平成11年11月以降,複数の中華料理店において稼働していたが,同20年9月頃にそれまで勤務していた東京都内の中華料理店「F」が倒産して失業し,求職活動の結果,同21年4月に埼玉県川口市所在の中華料理店であるC西川口店に採用されたものの,通勤が大変だったため,同月中に休職扱いにしてもらい,東京都内の本格的な中華料理店での仕事を探していた。しかし,条件に合う仕事が見つからなかったことから,原告は,家族を養うためにやむを得ず,一時的にAで働くことにしたものであり,この間も,本格的な中華料理店で働くための求職活動を行っており,同年9月頃には,採用には至らなかったものの,東京都品川区(以下略)所在の中華料理店「G」の面接を受けたほか,Cの西川口店又は浅草橋店への復職も何度か申し込んでいた。

 

 

    このように,原告のAでの稼働は,日本に滞在している平成11年11月から同21年10月までの約10年間のうち約6か月間にすぎず,かつ,その目的は,中華料理店での調理の仕事が見つかるまで家族を養うための収入を得ることにあり,実際に求職活動も行っていたもので,しかも,原告は,Aにおいて中華料理の調理の技能と全く関係のない仕事をしていたわけではなく,その技能を用いて働いていたものである。これらの事情を総合すれば,原告が,在留目的である活動が在留資格に対応した活動から実質的に変更されたと評価できる程度まで資格外活動を行っていたと認めることは誤りである。

 

 

  (3) よって,原告は入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当せず,本件認定は違法であり,これを前提とする本件裁決及び本件退令発付処分も違法である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3 当裁判所の判断

 

 1 前記第2の2の前提事実に加えて,証拠(該当箇所に付記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

 

  (1) 原告は,18歳の時に遼陽市第16中学校を卒業して,ホテルで調理人の見習いとして働くようになり,その後,約15年間にわたり同ホテルで中華料理の調理人として稼働していたところ,1999年(平成11年)春頃,日本の中華料理店において働く調理人の募集に応募して採用され,同年11月7日に「技能」の在留資格による上陸許可を受けて本邦に入国した。

 

    原告は,平成11年11月から同17年10月までの間は神奈川県足柄下郡(以下略)所在の中華料理店「H」において,同月から同18年11月までの間は東京都品川区(以下略)所在の中華料理店「I」において,同月から同20年9月までの間は東京都内の中華料理店「F」において,それぞれ中華料理の調理を職務内容として稼働した。また,原告は,同18年3月,妻,長女(1991年(平成3年)○月○日生まれ)及び長男(2002年(平成14年)○月○○日生まれ)を中国から呼び寄せ,以後日本において家族と同居している。(甲5,乙2,3,5,12,18,原告本人)

 

  (2) 原告は,平成20年9月に「F」を経営する会社が倒産したことから職を失い,同年11月頃から,知人が営む東京都内の中華料理店「J」中延店において稼働するようになったが,同店の売上げが思わしくなかったことなどから,同21年2月頃には同店を辞めた。

 

 

また,原告は,同年4月上旬から,埼玉県川口市所在の中華料理店であるC西川口店において,中華料理の調理を職務内容として稼働することになったが,同店が自宅から遠く通勤が大変だったことや,給料が安かったことなどから,同月中には出勤しなくなり,Eに頼んで休職扱いにしてもらった。

 

 

そして,原告は,同月下旬ころ,中国系の新聞であるK新聞に勤務する者から,ラーメン店であるAの紹介を受け,経営者であるBとの面接等を経て雇用契約を締結し,同月30日から,Aが摘発を受けた同年10月15日まで,週1回の休日を除く毎日,1日約14時間,Aにおいて調理人として稼働し,月に23万円から28万円程度の給料の支払を受けていた。(甲5,乙5から7まで,11,12,15から18まで,36,45,原告本人)

 

 

  (3)ア Aの経営者であるBは,中国で中華料理の修業をした経験を有し,20年以上前に四川料理店「A飯店」を開いたが,平成17年5月,A飯店の業態を変え,ラーメン店であるAとして新装開店した。

 

 

 

     Aでは,

 

数種類のラーメン,

 

ちゃんぽん,

 

皿うどん,

 

チャーハン,

 

シュウマイ,

 

餃子等の料理が提供されており,

 

 

売上全体の3分の2は味噌ラーメン系のメニューが占め,

 

ちゃんぽんや皿うどんがこれに続く。

 

Aで提供される餃子は,他から仕入れた冷凍のものであるが,

 

シュウマイは,Aにおいて具を作り皮で包んだ自家製のものである。

 

また,ちゃんぽんは,Bが以前勤務していた四川料理店で提供されていたものを基にしている。

 

Aにおいては,つけ麺以外のメニューは全て中華鍋である四川鍋又は北京鍋を使って調理をしている。(乙6,15,25から27まで)

 

 

   イ Bは,原告を雇うに当たり,

 

3日間の試用期間の後にチャーハンを作らせてその技量を確認し,正式に採用した。

 

原告のAにおける仕事内容は,調理全般,店舗の清掃及び料理の仕込みであり,

 

具体的には,

 

ラーメンのスープを仕込む,

 

中華鍋を使ってラーメンの具を炒める,

 

ちゃんぽんや皿うどんを調理する,

 

シュウマイの具を作り皮で包むなどの調理作業であった。

 

 

Bは,原告が,中華鍋を振り切ることができることや,Aで提供しているちゃんぽんや皿うどんの味と同じ味を出すことができること,作るのが難しい大きなシュウマイを作ることができることなどから,その技能を高く評価しており,Aにおける調理全般を原告に任せていた。(乙5,6,15,25)

 

 

   ウ 原告は,Bに対し,本格的な中華料理店で稼働したいとの希望を伝えていたところ,Bは,その1階部分をAの店舗として賃借している建物の2階部分も併せて買い取り,

 

1階をラーメン店,2階を中華料理店とする意向を有している旨を原告に話していたが,その話に具体的な進展はなかった。

 

そのため,原告は,平成21年8月上旬頃,Cの取締役であるEに対し,複数回にわたり復職を申し入れ,考えてみるとの趣旨の回答を受けていたが,Eの夫でありCの代表取締役であるLやC西川口店で料理長をしていたMが反対したため,原告は復職することができなかった。

 

 

このとき,原告は,Eに対し,在留期間更新許可申請をするために必要な在職証明書の交付を依頼し,Eは,原告が形式上はD社に在籍していることを理由に,これに応じた。原告は,同月19日に在留期間更新許可申請をするに当たり,上記在職証明書を提出した。(甲5,乙3,14から18まで,37,原告本人)

 

 

   エ Bは,それまで病気のため夕方以降しかAで勤務していなかったBの息子を本格的に復帰させることとし,原告をAにおいて雇う必要がなくなったことから,知人であるNに対し,原告を雇い入れてくれる中華料理店を紹介してくれるよう依頼し,原告は,平成21年9月下旬又は10月上旬頃,上記Nと共に,東京都品川区(以下略)所在の中華料理店「G」を経営する会社の担当者による面接を受けたが,採用には至らなかった。そして,同月15日,Aが摘発された。(甲5,乙5,6,15,18,38,原告本人)

 

 

 

 2 本件認定の適法性について

 

  (1) 入管法19条1項1号は,入管法別表第一の一の表,二の表及び五の表の上欄の在留資格をもって在留する者は,同条2項の許可を受けて行う場合を除き,当該在留資格に応じこれらの表の下欄に掲げる活動に属しない就労活動等を行ってはならないとし,また,入管法24条4号イは,「第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を専ら行っていると明らかに認められる者」に該当することを退去強制事由としている。すなわち,入管法別表第一の一の表,二の表及び五の表の上欄の在留資格をもって在留する外国人が,入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するというためには,①当該外国人がその在留資格に対応する活動に属しない就労活動等(資格外活動)を行っており,かつ,②当該資格外活動が「専ら」行われており,しかも,③これらのことが「明らかに認められる」ことが必要である。

 

 

 

   ア そこで,まず,原告のAにおける就労が資格外活動に当たるか否かについて検討する。

 

 

(ア) 原告は,中華料理の調理人として,「技能」の在留資格をもって本邦に在留するものであるところ,「技能」の在留資格は,

 

日本経済の国際化の進展に対応し,熟練技能労働者を外国から受け入れるために設けられたものであり,

 

この在留資格に対応する活動は,産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を必要とする業務に従事する活動である(入管法別表第一の二の表「技能」の項の下欄)。

 

ここにいう「産業上の特殊な分野」としては,

 

外国に特有の産業分野,外国の技能レベルが我が国よりも高い産業分野,我が国において従事する熟練技能労働者が少数しか存在しない産業分野等が考えられ,

 

また,「熟練した技能を要する業務に従事する活動」とは,長年の修練と実務経験により身に付けた熟達した技量を必要とする業務に従事する活動をいうものと解される。

 

 

 

 

    (イ) 原告は,平成21年4月30日から同年10月15日までの間,ラーメン店であるAにおいて稼働し,報酬を受けていたものであるところ,

 

Aで提供されるメニューのうち,味噌ラーメン,ちゃんぽん,皿うどん等については,遡ればその起源が中国にあり,又は中国人が考案したものであるものの,その後高度に日本化されたものであり(乙29から32まで,39),その調理が「産業上の特殊な分野」である中華料理の調理に当たるということは困難である。

 

 

    (ウ) もっとも,チャーハンやシュウマイは,中華料理に含まれるということができるのであり,これらのメニューがAの売上げに占める割合は必ずしも大きくないとしても,

 

原告がAにおいて中華料理の調理と全く無関係の活動をしていたということはできない。

 

 

 

 

また,前記1の認定事実のとおり,

 

 

 

Aの経営者であるBは中国で中華料理の修業をした経験を有する者であり,

 

 

 

Aの前身は四川料理店であったことや,

 

 

 

Aにおける調理のほとんどは中華鍋である四川鍋又は北京鍋を使用して行われていることなどからすれば,

 

 

 

Aが単なるラーメン店であって,Aにおけるラーメンやちゃんぽん等の調理が,中華料理の調理という範ちゅうから外れており,

 

 

 

また,一定期間の修練や実務経験がなくても容易に行うことのできる単純労働にすぎないと断じることも,適切ではないというべきである。

 

 

 

      そして,Bは,原告を採用するに当たり,チャーハンを作らせてその技量を確認したものであり,

 

また,原告の技能を高く評価して,Aにおける調理全般を原告に任せていたのであって,

 

Aにおいて,原告の中華料理の調理人としての技能が少なからず生かされていたことは,否定できないものというべきである。

 

 

 

 

    (エ) そうすると,原告のAにおける調理等の活動が,「技能」の在留資格に対応する活動,すなわち,産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を必要とする業務に従事する活動に属しないものであるということには,相当の疑問があるものといわざるを得ない。

 

 

 

 

   イ この点はひとまずおき,次に,原告が資格外活動を「専ら」行っているといえるかについて検討する。

 

 

 

 

    (ア) 入管法は,本邦に在留する外国人の在留資格は,

 

別表第一又は第二の上欄に掲げるとおりとした上,

 

別表第一の上欄に掲げる在留資格をもって在留する者は,

 

当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる活動を行うことができ,

 

別表第二の上欄に掲げる在留資格をもって在留する者は,

 

当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる身分又は地位を有する者としての活動を行うことができるとし(2条の2第2項),

 

また,入国審査官が行う上陸のための審査においては,外国人の申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく,

 

別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当することを審査すべきものとしている(7条1項2号)。

 

これらによれば,入管法は,個々の外国人が本邦において行おうとする活動に着目し,一定の活動を行おうとする者のみに対してその活動内容に応じた在留資格を取得させ,

 

本邦への上陸及び在留を認めることとしているものと解される(最高裁平成11年(行ヒ)第46号同14年10月17日第一小法廷判決・民集56巻8号1823頁参照)。

 

 

 

 

      そして,入管法が,

 

 

①資格外活動が許可される要件として,それが在留資格に対応する活動の遂行を阻害しない範囲内であることを求めていること(19条2項),

 

 

②在留資格を有する外国人が,在留目的である活動を変更しようとする場合に,新たに他の在留資格を取得することができるように,在留資格の変更の制度を設けていること(20条),

 

 

③別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者が,当該在留資格に対応する活動を継続して3か月以上行わないで在留していることが判明した場合には,法務大臣は,当該外国人が現に有する在留資格を取り消すことができるとしていること(22条の4第1項5号)等からすると,

 

 

入管法は,別表第一の上欄の在留資格をもって在留する外国人は,本来その本邦において行おうとする一定の活動についての在留資格該当性が認められ,

 

 

その認められた一定の活動を行うべき者として上陸が許可されたものであるから,その現に有する在留資格に対応する活動をその在留期間中一貫して行って在留することを基本としているものと解される。

 

 

 

      他方で,入管法は,単に19条1項の規定に違反して就労活動等を行ったことのみをもって直ちに退去強制事由とはしておらず(24条4号イ),

 

 

退去強制事由に当たるかどうかについては,更に個別の事情を検討し,

 

 

19条1項の規定に違反して就労活動等を専ら行っていると明らかに認められる者に該当するかどうかの判断をすることを要求しているものということができる。

 

 

 

 

      このような入管法の趣旨にかんがみれば,

 

 

入管法別表第一の一の表,二の表及び五の表の上欄の在留資格を有する外国人が,

 

資格外活動を「専ら」行っていると認められ,

 

入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するというためには,

 

当該外国人の在留資格に対応する活動と現に行っている就労活動等との関連性,

 

当該外国人が当該就労活動等をするに至った経緯,

 

当該就労活動等の状況,態様,継続性や固定性等を総合的に考慮して,

 

当該外国人の在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にその就労活動等が行われていることを要するものと解するのが相当である。

 

 

 

    (イ) これを本件について見るに,

 

 

原告のAにおける調理等の活動が,中華料理の調理という範ちゅうから外れており,

 

又は,一定期間の修練や実務経験がなくても容易に行うことのできる単純労働にすぎないとは言い難い上,

 

Aにおいて,原告の中華料理の調理人としての技能が少なからず生かされていたというべきであることは,

 

前記アで説示したとおりであって,原告のAにおける活動は,その在留資格に対応する活動と少なからず関連性を有するものであったということができる。

 

 

 

 

 

      また,前記1の認定事実のとおり,

 

 

原告は,平成11年11月に本邦に入国してから,継続して本邦の複数の中華料理店で調理人として稼働していたところ,

 

同20年9月に勤務先の中華料理店を経営する会社の倒産という,

 

原告の意思によらない理由により失職するに至ったものである。

 

その後,原告は,J及びCでの職を得ながらいずれも短期間のうちに辞めているが,

 

これについても,店の売上げが思わしくなかったことや,

 

通勤が大変だったことなどを理由とするものであり,

 

原告の自己都合であるとも断じ難い。

 

 

 

 

そして,乙44によれば,当時,本格的な中華料理店における調理人の求人は非常に少なかったことが認められ,

 

原告の預金口座にはなお200万円を超える残高があった(乙43)とはいえ,

 

家族3人を養っているにもかかわらず,半年以上にわたり安定した職と収入を得られない状態にあった原告にとって,Aで稼働することは,やむを得ない選択であったというべきである。

 

 

 

 

      さらに,前記1の認定事実のとおり,原告は,

 

Cを完全に退職することはなく,休職扱いとしてもらっていたもので,

 

Bに対しても,本格的な中華料理店で稼働したいとの希望を伝えており,

 

また,Bから聞かされていた中華料理店の出店の話に進展がないと見るや,Cに繰り返し復職の申入れをし,

 

それも断られた後には,Bを通じて中華料理店であるGを紹介してもらい,

 

面接を受けていたのであって,原告は,Aで稼働している間も,一貫して本格的な中華料理店で稼働することを希望し,

 

実際にそのための求職活動等をしていたということができる。

 

そうすると,Aでの稼働は,少なくとも原告の主観においては,

 

飽くまでも新たな稼働先となる中華料理店が見つかるまでの暫定的なものであったと認めるのが相当であり,

 

摘発を受けた時点までの稼働期間がいまだ6か月程度にとどまっていたことにも照らせば,原告のAでの稼働が固定化していたということもできない。

 

 

 

    (ウ) 上記のような事情を総合的に考慮すれば,原告について,その在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にAにおける就労を行っていると評価することは困難である。

 

 

   ウ そして,前記ア及び同イで説示したところに照らせば,原告が資格外活動を専ら行っていることが「明らかに認められる」ということは到底できない。

 

 

   エ 以上によれば,原告が入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するということはできないから,本件認定には誤りがあるものというほかなく,違法な認定として,取消しを免れないというべきである。

 

 

 

 3(1) 本件認定が誤ったものである以上,原告の入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がないとした本件裁決も,取り消されるべきである。

 

なお,主任審査官は,法務大臣から異議の申出には理由がないとの裁決の通知を受けたときは,速やかに退去強制令書を発付しなければならないものとされ(入管法49条6項),

 

そうすると,本件認定が違法として取り消されても,本件裁決が取り消されない限り,本件退令発付処分の効力を否定することはできないものと解されるから,

 

本件認定の取消請求が認容されることによって,本件裁決の取消しを求める訴えの利益が失われることはないというべきである。

 

  (2) そして,本件裁決が取り消される結果,本件退令発付処分もその前提を欠き,違法なものとなるから,取消しを免れない。

 

 

 4 よって,原告の請求はいずれも理由があるから,これらをいずれも認容し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

 

 

    東京地方裁判所民事第38部

        裁判長裁判官  杉原則彦

           裁判官  波多江真史

           裁判官  財賀理行